説明

穀物粉体及び応用食品

【課題】穀物の可食部の天然組成をできる限り維持し、含有する健康機能成分を保持し、かつ低コストで製造可能な穀物粉体とそれを使用した外観と呈味性の優れた応用食品を提供する。
【解決手段】
大麦及びオーツ麦から成る群から選ばれる少なくとも1種の穀物の穀粒の粉砕品からなる粉体。平均粒子径が40〜100μmの範囲であり、粒子径20μm未満の粒子の含有量が20質量%以下であり、粒子径20〜100μmの範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲であり、粒子径100μm超〜500μmの範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲であり、かつ、粒子径500μm超の粒子の含有量が5%以下である。この穀物粉体を少なくとも5%以上配合した原料から製造された食品。穀粒を粗粉に粉砕する工程と、得られた粗粉を微粉砕する工程を含み、前記微粉砕は気流式微粉砕によって品温を50℃以下で粉砕することで行われる、上記穀物粉体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物粉体及びこの穀物粉体を原料として用いた食品に関する。本発明の穀物粉体は、水溶性食物繊維の一種であるβ−グルカンの含有量が高い大麦またはオーツ麦の粉砕品である。
【背景技術】
【0002】
大麦は、麦飯等の形で古くからわが国の食事に親しまれてきた穀物である。しかし、精白米の普及と食の洋風化と共にその消費量は減少し、近年では穀物消費量のごく一部を占めるにすぎず、国民1人・年消費量は精米約60kg、小麦の33kgに対して、0.3kgである(非特許文献1)。一方、大麦やオーツ麦等の穀物には、水溶性食物繊維であるβ−グルカンが比較的多く含まれており、その生理機能が大きな注目を浴びている。β−グルカンは、グルコースが1−3結合と1−4結合で結合してできた多糖((1−3),(1−4)−β−D−グルカン)であり,大麦の胚乳細胞壁の主成分として、その約7割を占める。β−グルカンの健康機能性については多くの報告があるが、例えば、米国食品医薬品局(FDA)は、大麦β−グルカンに血清コレステロール値を低下させる効果があり、冠状心疾患の危険を減らす健康強調表示を認可している(例えば、非特許文献2)。
【0003】
わが国でも、食事として大麦やオーツ麦を摂取することにより、血中コレステロールが低下すること(例えば、非特許文献3、4)、食後血糖値の上昇が抑制されること(例えば、非特許文献5)や、食物繊維とがんの予防についても各種の研究が報告されている(例えば、非特許文献6)。
【0004】
前述のように、大麦やオーツ麦は、β−グルカンが比較的多く含まれる穀物として知られており、その含有量は、通常は3〜6質量%程度と言われる(例えば、非特許文献7)。そこで、これまでに多数のβ−グルカン抽出法が考案されてきた。例えば、大麦を原料とし、水抽出により製造する方法(例えば、特許文献1)、あるいは、大麦、オーツ麦を原料として、アルカリ抽出、中和、アルコール沈殿により、β−グルカンを得る方法(例えば、特許文献2)、80〜90℃の熱水にてβ−グルカンを抽出する方法(例えば、特許文献3)等がある。また、抽出法ではなく、穀物を粉砕篩することにより、穀物中のβ−グルカンの含量を高める方法も考案されている。(例えば、特許文献4)。
【0005】
しかし、これらの方法は基本的に大麦等穀物からβ−グルカンを分別濃縮する方法である。大麦等穀物中のβ−グルカン量は、前述のように、3〜6質量%程度であり、澱粉質やタンパク質等他の成分に比べると含有量が著しく低い。したがって、抽出後の残渣は、製品であるβ−グルカンに比べて著しく多く、飼料等付加価値の低い製品への利用、または廃棄物にせざるを得ない。そのため、製品単価が高くならざるを得ず、一部のサプリメントや一般食品用に使用されるにすぎず、広く普及するには課題があった。
【0006】
このように、これまで提案されている方法は、天然素材の健康機能性成分を、抽出や分別によって濃縮し、サプリメントや一般食品に提供するものが大部分である。抽出や分別によって、天然素材の成分を人為的に部分的に利用することは、医療などへの利用や、他の天然成分の摂取を控えなければならないような場合には有効であるが、通常、一般食品として摂取する場合には、必ずしも適切でない場合が多い。例えば、天然成分の優れた組成バランスを崩してしまったり、有害な物質を意図せずして濃縮蓄積してしまったり、未利用の廃棄物を大量に副生してしまったりする。その上、一般に生産コストが高くなる欠点が生じやすい。
【0007】
一方、大麦をそのまま食品素材として活用した大麦食品の普及への努力も進められている(例えば、非特許文献7)。しかしながら、麦飯での摂取には限りがあり、各種の応用食品の開発が望まれている。応用食品とする場合には、精麦粒だけではなく、製粉し、各種食品素材と配合して利用することが必要である。
【0008】
元より、穀物を粉砕して食品に利用することは、古くから一般に実用されていることであり、食物繊維、中でもβ−グルカンを含む穀物粉体も市販されている。しかし、これまでのβ−グルカン含有穀物粉体は、粒子が粗いものが多く、かつ、白度が低く灰褐色のものが大部分で、呈味性に優れ、かつ、外観にも優れた食品を提供することに限界があった。
【0009】
このような背景の中で、大麦粉体を微粒子化する方法も種々検討されてきた。例えば、加工適性の優れた裸麦粉の開発を目的に、性状に及ぼす異なった粉砕方法の影響が検討されている。(例えば、非特許文献8、9、10)。
【0010】
一方、大麦の品種改良によって、食物繊維、特にβ−グルカンが7〜10%以上の高含量の大麦品種の開発が進められてきた(例えば、非特許文献13)。これらのβ−グルカン高含量大麦品種を利用することにより、β−グルカンを分別濃縮することなく、健康に適当な量のβ-グルカンを摂取することができる可能性が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平4−11197号公報
【特許文献2】特公平6−83652号公報
【特許文献3】特開平11−225706号公報
【特許文献4】特開2007-204699号公報
【特許文献5】特開2006−247526号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】農林水産統計、「食料需給表」「大麦需給に関する見通し」(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001064939)
【非特許文献2】FDA「Food and Drug Administration 21 CFR Part 101」(http://www.fda.gov/ohrms/dockets/98FR/04p-0512-nfr0001.pdf)
【非特許文献3】Plant Foods for Human Nutrition, 49, 317-328(1996)
【非特許文献4】J. Nutr. Sci. Vitanimol. 39, 73-79(1993)
【非特許文献5】総合保健体育科学、13巻、75-78(1990)
【非特許文献6】日本食物繊維学会誌、9巻、1-11(2005)
【非特許文献7】大麦PEDIA(http://www.oh-mugi.com/)
【非特許文献8】愛媛県工業系試験研究機関研究報告 42巻16-20頁(2004年)
【非特許文献9】愛媛県工業系試験研究機関研究報告 43巻34-38頁(2005年)
【非特許文献10】愛媛県工業系試験研究機関研究報告 43巻39-44頁(2005年)
【非特許文献11】愛媛県工業技術センター技術情報161巻14頁(2003年)
【非特許文献12】愛媛県科学技術振興会議議事録(平成15年3月18日)
【非特許文献13】独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所、プレスリリース[従来品種の2〜3倍の食物繊維を含む‘高β−グルカン含量大麦’新品種「ビューファイバー」](http://nics.naro.affrc.go.jp/press/press-48.html)
【非特許文献14】9th International Barley Genetics Symposium Proceedings:595-600 (2004)
【非特許文献15】CIE Publication No.15,2: Colorimetry second edition (1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記の大麦粉体を微粒子化する方法に関する非特許文献8、9、10では、 衝撃粉砕機(名農式衝撃粉砕機)および微粉砕機(ブレードミル、日清エンジニアリング(株)製)によって得られた粒度分布の違う粉体を用い、各種の食品を試作評価している。その結果、衝撃粉砕機による粉体はクッキーに、微粉砕機によるものはスポンジケーキ、醤油餅、うどん・中華麺・食パンへの利用に適していると述べられている。これらの文献において開示された大麦裸麦粉は、衝撃粉砕機で得られた平均粒子径は36μmで、微粉砕機で得られたものは更に細かくなり平均粒子径は16μmの微粒子であった。また、ここでは粗粉と微粉の間で成分の違いはなく、外観上の色差や、小麦などと配合した場合の着色の違いについては言及されていない(非特許文献11)。更に、裸麦のでんぷん粒の大きさは15μm程度であり、このでんぷん粒を破壊しない方が食品適性として優れるかもしれない、従って、微粉砕すればよいかというと必ずしもそうではないかもしれないということが議論されている(非特許文献12)。このように、適切な粒子径と食品加工適正、呈味性、色差や外観等に関しては未解決の課題があった。
【0014】
一方、一般に、β−グルカン高含量大麦品種を利用する場合、β−グルカン等の水溶性食物繊維は、大麦種子の胚乳細胞壁成分として存在しており、β−グルカン高含量大麦は、胚乳の硬質化と精麦工程での搗精時間が増加するという問題があった(例えば、非特許文献14)。さらに、胚乳細胞壁が硬く微粉化が困難であるという問題もあった。従って、β−グルカン高含量大麦は、これまでの粉砕方法では、微粉化が困難であり、これまでの大麦の粗粉は、通常の小麦粉(平均粒子径50〜100μm)と混合しても均一に混ざることが難しかった。さらに、例え均一に分散できても、食品にした場合には、植物繊維が多く粒子径の大きい粉体は、一般に褐色を呈し、異物混入と見間違いやすく、口の中でざらざら感を呈し、商品価値を低下させる原因となるという問題もあった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、β−グルカンの含有量が高い大麦及びオーツ麦(以下大麦等または単に、穀物ということがある)を原料として、大麦等の可食部の天然組成をできる限り維持し、大麦等が含有する健康機能成分を、粉砕の過程で変性させることなしに保持し、小麦粉と類似した高い白度の色相を有し、小麦粉と均一混合しやすい粒子径を有する、穀物粉体を提供することにある。ここで、大麦等の可食部としては、一般に、外皮を除去した搗精粒を用いることができるが、外皮の全部または一部を残した全粒を用いてもよい。さらに本発明の目的は、前記穀物粉体を比較的安い低コストで、したがって、比較的簡易な方法で製造できる方法を提供することにある。加えて、本発明の目的は、上記本発明の穀物粉体を使用した外観と呈味性の優れた食品を提供することにある。
【0016】
本発明者らは、複数の渦気流により微粉砕を行う気流式粉砕機を用い、大麦等の穀粒の粗粉を微粉砕することで、上記課題を解決した適度な粒子径と粒度分布を有する微粉末を得ることができることを見出して本発明に至った。
【0017】
即ち、本発明者らは、食物繊維等の健康機能性成分を豊富に含む穀物を原料とし、原料穀物の天然成分組成をできる限り保持した状態で、複数の渦気流により微粉砕を行う気流式粉砕機によって、適当な粒子径分布を有する粉体に微粒子化することによって、他の食品素材と混合しやすく、応用食品とした場合に、外観上の異物感がなく呈味性に優れた食品を得ることができることを見出し、本発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
大麦及びオーツ麦から成る群から選ばれる少なくとも1種の穀物の穀粒の粉砕品からなる粉体であって、
平均粒子径が40〜100μmの範囲であり、
粒子径20μm未満の粒子の含有量が20質量%以下であり、
粒子径20〜100μmの範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲であり、
粒子径100μm超〜500μmの範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲であり、かつ、
粒子径500μm超の粒子の含有量が5%以下である
ことを特徴とする穀物粉体。
[2]
前記穀物粉体は、β−グルカンの含有量が、粉砕前の穀粒におけるβ−グルカンの含有量の60%〜100%の範囲である[1]記載の穀物粉体。
[3]
前記粉砕は、穀粒を粗粉に粉砕する工程と、得られた粗粉を微粉砕する工程により実施され、前記微粉砕は気流式微粉砕によって品温を50℃以下で粉砕することで行われる、[1]または[2]記載の穀物粉体。
[4]
β-グルカンの含有量が4〜12%の範囲である、[1]〜[3]のいずれかに記載の穀物粉体。
[5]
白色からの色差dE(CIE:国際照明委員会CIEが規定するCIE Lab 表色法)が15以下である、[1]〜[4]のいずれかに記載の穀物粉体。
[6]
穀粒を粗粉に粉砕する工程と、得られた粗粉を微粉砕する工程を含み、前記微粉砕は気流式微粉砕によって品温を50℃以下で粉砕することで行われる、[1]〜[5]のいずれかに記載の穀物粉体の製造方法。
[7]
前記気流式微粉砕は、複数の渦気流による微粉砕である[6]に記載の製造方法。
[8]
[1]〜[5]のいずれかに記載の穀物粉体を少なくとも5%以上配合した原料から製造された食品。
[9]
[1]〜[5]のいずれかに記載の穀物粉体と小麦粉とを含む原料から製造された麺類であって、白色であり、かつ表面に異物感がない麺類。
[10]
[1]〜[5]のいずれかに記載の穀物粉体と小麦粉とを含む原料から製造されたパン類であって、小麦色であり、かつ表面に異物感がないパン類。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、天然素材の健康機能性成分を、抽出や分別によって濃縮したりして、天然成分の優れた組成バランスを崩してしまったり、有害な物質を意図せずして濃縮蓄積してしまったり、未利用の廃棄物を大量に副生したりせずに、天然素材の成分をできる限り維持しながら、通常の食品素材と均一に混合し、分散安定性に優れた穀物粉体を得ることによって、一般食品として外観の異物感がなく、美味しい食品を提供することができる。
【0020】
本発明によれば、食物繊維等の健康機能性成分を豊富に含む大麦等を原料とし、原料穀物の可食部の天然成分組成をできる限り保持した状態で微粒子化することができ、そのため得られた粉体は、小麦粉等の他の食品素材と混合しやすく、食品原料とした場合に、外観上の異物感がなく呈味性に優れた食品を得ることができる。本発明の穀物粉体は、穀物の持つ健康機能性成分である食物繊維、中でも、β−グルカンを多く含む穀物粉体であり、この穀物粉体を原料として用いることで、外観と呈味性の優れた食品を提供できる。さらに、本発明の穀物粉体は、天然穀物の可食部組成をほぼ保持していることから、美味しさと栄養面で優れている。本発明の穀物粉体は、健康食品としてサプリメントなどで使用できることはもちろんであるが、一般食品としてパン、麺、和洋菓子、飲料などの原料として幅広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】粗粉Aの粒度分布
【図2】粉体Bの粒度分布
【図3】微粉C(本発明)の粒度分布
【図4】小麦粉(中力粉)の粒度分布
【図5】粗粉A、B、及び微粉C(本発明)、小麦粉(中力粉)の顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0022】
[穀物粉体]
本発明の穀物粉体は、
大麦及びオーツ麦から成る群から選ばれる少なくとも1種の穀物の穀粒の粉砕品からなる粉体であって、
平均粒子径が40〜100μmの範囲であり、
粒子径20μm以下の粒子の含有量が20質量%以下であり、
粒子径20〜100μm の範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲であり、
粒子径100μm超〜500μmの範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲であり、かつ、
粒子径500μm超の粒子の含有量が5%以下である
ことを特徴とする。
【0023】
本発明の穀物粉体は、大麦及びオーツ麦から成る群から選ばれる少なくとも1種の穀物の穀粒の粉砕品からなる粉体であるので、原料である穀物の成分の実質的に全量が粉体に含まれる。そのため、大麦等が本来有する栄養分をそのまま利用でき、かつ廃棄物を副生することもない。
【0024】
本発明の穀物粉体の原料となる穀物としては、健康機能性植物繊維、中でも、β−グルカンを含む大麦及びオーツ麦を用いる。大麦及びオーツ麦の中でも、食物繊維とβ−グルカン含量が高いものほど得られる穀物粉体中の食物繊維とβ−グルカン含量が高く、商品価値が高くなる。β−グルカンは精麦工程並びに製粉工程で、穀物自体が有する酵素(β−グルカナーゼ)の作用により、一部低分子化されることがあるが、本発明では、人為的に低分子化する酵素を添加したり、低分子化工程を意図的に組み込むことはしない。その理由は、天然の大麦やオーツ麦に含まれるβ-グルカンは分子量105以上であり、古くから食生活に取り入れられているものであるのに対して、人為的に低分子化されたものは新規に研究開発されたものであり、天然素材そのものを食品として摂取するという目的とは異なった目的のためである。
【0025】
穀物としては、大麦及びオーツ麦の各品種を用いることが可能で、特に品種に限定はない。また、一般に、穀粒は搗精して外皮を除いて用いるが、搗精の度合いにより外皮の全部又は一部が残存していてもよい。又、裸麦の様に搗精しないで用いることもできる。又、押麦や白麦、米粒麦など種々の精麦品を用いてもよい。これらの穀粒を本発明の製造方法に適用することができる。
【0026】
本発明の穀物粉体は、平均粒子径が40〜100μmの範囲である。この範囲の平均粒子径であれば、小麦粉の平均粒子径に近く、小麦粉との混合が容易である。平均粒子径は、好ましくは50〜90μmの範囲である。
【0027】
本発明の穀物粉体は、粒子径20μm未満の粒子の含有量が20質量%以下である。粒子径20μm以下の粒子は、穀粒を構成する澱粉の粒子が粉砕の過程で壊れて形成される粒子を含むものであり、その量が多くなると澱粉損傷度が高くなる。澱粉損傷度が高くなると、パンに使用した場合に膨張性が悪くなるといった問題が生じる。粒子径20μm以下の粒子の含有量は、好ましくは18質量%以下である。
【0028】
本発明の穀物粉体は、粒子径20〜100μmの粒子の含有量が20〜60質量%の範囲である。粒子径20〜100μmは、小麦粉の粒子径と近く、その量が多い程、小麦粉との混合が容易である。そのため、20質量%以上の含有量であることが適当である。但し、大麦等はβ−グルカンの含有量が高く、そのため粉砕され難く、強粉砕すると成分が過度に変質する恐れがある。そのため、60質量%を上限とする。粒子径20〜100μmの粒子の含有量は、好ましくは25〜60質量%の範囲、より好ましくは30〜60質量%の範囲である。
【0029】
本発明の穀物粉体は、粒子径100μm超〜500μmの範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲である。粒子径100μm超〜500μmの範囲の粒子の含有量が上記の範囲であることで、小麦粉の粒度分布からやや外れるが、この範囲の粒子が比較的少ないことで、粉体の着色が抑えられ、小麦粉との混合が容易になり、食品にしたときのざらつきが解消される。粒子径100μm超〜500μmの範囲の粒子の含有量は、好ましくは30〜55質量%の範囲である。
【0030】
本発明の穀物粉体は、粒子径500μm超の粒子の含有量が5%以下である。粒子径500μm超の粒子の含有量が5%以下であることで、小麦粉とほぼ同様の粒度分布が実現でき、この範囲の粒子の含有が抑制されることで、食品にしたときのざらつきが解消される。粒子径500μm超の粒子の含有量は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。
【0031】
本発明の穀物粉体は、β−グルカン[(1−3),(1−4)−β−D−グルカン]の含有量が、粉砕前の穀粒におけるβ−グルカンの含有量の60%〜100%の範囲であることが好ましい。本発明の穀物粉体は、β−グルカンの含有量が高いものであることが好ましく、粉砕の過程で、β−グルカンが変質して失われていない物であることが好ましい。上記範囲は、好ましくは80〜100%の範囲である。
【0032】
本発明の穀物粉体を製造するための粉砕は、穀粒を粗粉に粉砕する工程と、得られた粗粉を微粉砕する工程により実施され、前記微粉砕は気流式微粉砕によって品温を50℃以下で粉砕することで行われることが好ましい。上述のように、本発明の穀物粉体は、β−グルカンの含有量が高いものであることが好ましく、粉砕の過程で、β−グルカンが変質して失われていない物であることが好ましいからである。粉砕方法や条件の詳細については後述する。
【0033】
本発明の穀物粉体は、β−グルカンの含有量が4〜12%の範囲であることができる。原料である穀粒としてβ−グルカン含有量が高いものを用いれば、それに比例してβ−グルカン含有量の高い穀物粉体を得ることができる。本発明の穀物粉体は、好ましくは、β−グルカンの含有量が6〜12%の範囲である。β−グルカンの含有量が12%を超える大麦を除外するものではない。
【0034】
本発明の穀物粉体は、白色からの色差dE(CIE:国際照明委員会CIEが規定するCIE Lab 表色法)が15以下であることが好ましい。白色からの色差dEが15以下であれば、小麦粉等の白色の食品原料粉体の色とほぼ同じであり、本発明の穀物粉体を原料として用いた食品が着色して商品価値が低くなることを回避できる。白色からの色差dEは、好ましくは11以下である。尚、小麦粉の白色からの色差dEは、8以下、好ましくは5以下である。本発明の穀物粉体の原料に用いられる大麦粗粉は、白色からの色差dEが約19である。
【0035】
ここで、色差はCIE(国際照明委員会)Lab (L(明度)、a(赤−緑)、b(黄−青))表色系において下記の通り定義される(例えば、非特許文献15参照)。

【0036】
上記定義によれば、dEが1.5〜3.0は色差が「かなり感じられる」、3.0〜6.0は、「目立って感じられる」と表現されている。しかし、小麦の淡黄色に比して、大麦微粉は黄色味が少なく白色が強いためであり、混合粉体とした場合に色差はほとんど感じられない。それに対して、微粉砕前の粗粉体では色差10になり、明らかに外観上の色差が感じられる。また、小麦粉と配合して加水し練ってドウ(練り生地、dough)を作った場合、微粉砕前の粗粉体では、ドウにしたとき、褐色の斑点が観察され、異物混入と見間違いやすいが、本発明の粉体では異物感は認められなかった。
【0037】
本発明の穀物粉体は、白度が高いことが特徴であるが、焙煎して利用することも可能である。焙煎した本発明の穀物粉体は、コーヒー、ココア、チョコレートやカレー粉、ケチャップ等と混合して利用することも可能である。このような利用においても、白度が高いために、もともと褐色や灰色ついている粉体よりも、目的とする配合品やそれを使用した食品の色がきれいに表現できる特徴があり、高い商品価値を実現できる。このような用途には、あらかじめ焙煎した原料や着色した原料と配合したものを微粉砕して用いることも可能である。
【0038】
尚、本発明による穀物粉体が、粗粉に比して、著しく白色で、小麦と配合した場合に色差が感じられないほどに色差が少なくなった理由については、不明である。微粉砕によって、着色物質の凝集体が微細化され、光の散乱係数が大きくなり肉眼で観察されにくくなったことや、微粉砕された着色物質が粉砕工程で一部除去された可能性もある。また、本発明で用いた微粉砕機の粉砕機構が影響している可能性も考えられる。いずれにしても、本発明は、着色成分の内容と生成機構あるいは脱色機構を解明する事とは無関係に、食品応用に好ましい微粉末からなる穀物粉体とそれを応用した食品の開発を提供するものである。
【0039】
[穀物粉体の製造方法]
本発明の穀物粉体の製造方法は、穀粒を粗粉に粉砕する工程と、得られた粗粉を微粉砕する工程を含み、前記微粉砕は気流式微粉砕によって品温を50℃以下で粉砕することで行われる。この製造方法により、上記本発明の穀物粉体を製造することができる。前記気流式微粉砕は、品温を50℃以下で粉砕するという観点から、複数の渦気流による微粉砕であることが好ましい。
【0040】
大麦から大麦粉体を製造する場合を例に説明する。
大麦は通常の品種でもかまわないが、食物繊維、中でもβ−グルカン高含量の品種が各種開発されており、それを原料に使用することが好ましい。大麦粒子は通常の精麦工程で外皮を除去し大麦粒に精麦される。更に、通常の製粉工程で大麦粉に粉砕される。ここで得られた大麦粉体は、通常、平均粒子径は150μm前後であり、通常の小麦粉体の平均粒子径約50μmよりも大きい。粗粉を作る製粉工程は、製品品質の大幅な劣化などが生じない製粉法であれば、一般的な製粉工程を適用することが可能であり、特に限定されない。
【0041】
この大麦粗粉を更に微粉砕化することによって、平均粒子径100μ以下の微粉体を得る。一般に、粉砕方法には、機械式粉砕として、ロールミル、ハンマーミル、ピンミル等の回転衝撃式、ボールミル、振動ミル等のタンブラー式等がある。気流式の粉砕装置は、高圧高容量の圧縮空気を粉砕室に噴射し、音速域の高速気流によって原料同士又は原料と装置内壁等とを衝突させて粉砕する方式であり、粉砕による発熱の影響などが殆どなく微粉砕できる利点がある。これらの粉砕方法においては、粉砕機の構造と運転条件によって粉砕状態が異なり、粉砕物の物性、性状に大きな相違が生じることが通常である。穀物の粉砕では、成分の劣化変質を抑えることが肝要であり、機械式粉砕機だけでは困難であり、気流式粉砕機で微粉砕化することによって本発明の穀物粉体を得られる。
【0042】
実施例で使用した気流式粉砕機は、(有)バーリー・ジャパン製(微粉砕機STAY)であり、特殊機構により発生させた幾つもの渦気流によって原料素材のせん断を行い、ミクロン単位に微粉砕する粉砕機である(特許文献5参照)。ローターとブレードによる旋回流と逆気流との組み合わせにより発生させた幾つもの渦気流にカッターの役目を起こさせ、気流の流れ方によってせん断する方式であり、低速領域によるこの粉砕方法は、粉砕時に発生する熱を抑え、製品の熱劣化を防止することができる。β−グルカン含有量の高い大麦でも、この気流式粉砕機であれば、良好に微粉砕して本発明の穀物粉体を調製できる。
【0043】
大麦原料からの精麦、製粉加工操作では、最初に外皮を除去する搗精工程以外には、穀物成分の濃縮分別工程は特になく、製粉工程においては基本的に物理的に微粉砕化されている。また、微粉砕工程においては、気流式粉砕法を採用することによって、粉体品温を50℃以下に保っている。機械的接触によって微粉末まで磨砕する方法では、品温を50℃以下に保つことは困難で、50℃以上の品温では、穀物粉体の着色が認められ好ましくない。
【0044】
[食品]
本発明は、上記本発明の穀物粉体を少なくとも5%以上配合した原料から製造された食品を包含する。さらに本発明は、上記本発明の穀物粉体と小麦粉とを含む原料から製造された麺類であって、白色であり、かつ表面に異物感がない麺類を包含する。また、本発明は、上記本発明の穀物粉体と小麦粉とを含む原料から製造されたパン類であって、小麦色であり、かつ表面に異物感がないパン類を包含する。
【0045】
本発明の穀物粉体を用いて、外観に優れ、呈味性の優れた各種食品を作ることができる。例えば、小麦粉に大麦微粉体15%を配合して麺を作ると、外観は小麦100%の麺と殆ど同じで、滑らかでのど越しがよく、コシがあって美味しい麺ができる。大麦微粉体を30%配合しても遜色のない麺ができる。50%配合するとやや透明感のある極淡い桃色を呈するが、従来の大麦粉を使用した麺よりも着色は大幅に少なく、着色はほぼ均一で異物感はなく、新しい麺としての商品価値が訴求できる。
【0046】
本発明の穀物粉体を原料として用いた食品としては、パンや麺等の小麦粉製品、炊飯加工品や米菓、ビーフン等の米加工品、コーンスナック等のトーモロコシ加工品、豆腐等の大豆製品、加工油脂製品、畜肉加工品、かまぼこ、はんぺん等の練り製品や水産加工品、チーズ等の乳製品、ヨーグルトなどの乳酸発酵製品、菓子やまんじゅう、どら焼き、ケーキ、チョコレート等の和洋菓子類、ポン菓子のような膨化食品、ゼリーやプリンなどのデザート類、アイスクリーム等の冷菓、豆乳、牛乳、果汁、お茶等の飲料、飲むゼリーの様なゼリー状食品、プリンの素やゼリーの素等のプレミックス品及びその製品、カレーやスープ類、コーヒーなどの嗜好品、ハンバーグ、しゅうまい、餃子、肉団子などの調理食品、カップ麺、レトルト食品、インスタント食品、健康食品、低カロリー食品、アレルギー患者用食品、乳児用食品、老人用食品、美容食品、薬用食品、冷凍食品、缶詰等、マーガリンやショートニング、ドレッシング、ホイップクリーム、ソース等の油脂加工品や調味料類等への応用等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明の穀物粉体を用いた食品は、着色していない白度が高いものに特徴が発揮されるが、焙煎した穀物粉体や、コーヒー、ココア、チョコレート、カレー粉やケチャップ等と混合して、着色のある食品に利用することも可能である。このような利用においても、本発明の微粉体は粒子径が適度の大きさで、白度が高いために、もともと褐色や灰色ついている粉体よりも、目的とする配合品やそれを使用した食品の色がきれいに表現できる特徴があり、高い商品価値を実現できる。
【0048】
本発明の穀物粉体は、5%以上配合することが好ましく、10%以上配合することがより好ましく、15%以上配合することがより好ましく、上限は特になく、100%使用してもよい。5%以上配合することで、食品の呈味性が明らかに認識できる他、栄養機能性も期待できる。一方、5%未満では、本発明の穀物粉体の呈味性や栄養特性の効果が十分に発揮されない場合がある。
【0049】
本発明の穀物粉体と混合して利用できる食品素材としては、例えば、米、小麦、トーモロコシ等の穀物素材、ゴマ、小豆等、大豆等の蛋白素材、牛乳等の乳製品、ヨーグルト等の乳酸発酵食品、マーガリン、ショートニング等の油脂加工品、味噌、しょうゆ、ケチャップ等の調味料、砂糖等の甘味料、カレー粉やタバスコ等の香辛料、水産加工品や畜肉加工品、コーヒー、紅茶、緑茶等があげられる。また、β−グルカン以外の生理機能が期待できる天然素材や添加物を配合してもよい。該添加物としては、例えば、きのこ成分や酵母発酵成分、海藻成分、カルシウム剤、ビタミン強化用の食品添加剤等が挙げられる。本発明の穀物粉体は、食品以外に、医薬品、化粧品にも広く使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0051】
[一般組成分析法]
(財)日本食品分析センターに依頼して実施した。
【0052】
[食物繊維の測定法]
大麦ならびに小麦粉末試料にアルカリ液を加え加熱処理し、細胞壁多糖を可溶化した。その後、酢酸を加えて中和し、α−アミラーゼによる酵素処理を行い、溶液に含まれているデンプンを消化した。遠心分離によって沈殿物を除いた上清を細胞壁多糖(ヘミセルロース画分)として回収した。得られたヘミセルロース画分を希硫酸により加水分解し、高速液体クロマトグラフィー(ダイオネクス社HPAEC-PAD)により構成糖を分析した。ヘミセルロース画分の全糖量は、フェノール硫酸法(Dubois et al., 1956, Colorimetric method for determination of sugars and related substances. Anal. Chem., 28, 350-356)に従って定量した。また、α−アミラーゼによる酵素処理の後にリケナーゼによる酵素処理を行い、同様に構成糖を分析することで、構成糖のグルコース含量の差から(1−3)(1−4)−β−D−グルカン含量を求めた。オオムギならびに小麦粉末試料のアラビノキシラン含量は上記と同様な処理で得られた構成糖分析結果の、L-アラビノースとキシロース含量の和から求めた。
【0053】
[実施例1]
〔大麦粗粉Aの微粉砕による本発明の微粉Cの製造〕
二条大麦精麦を粗挽き粉砕後、高速粉砕機で粉砕(用いたスクリーン網目は0.2mmで、60meshのシフタ網目で篩かけ)した大麦粗粉(以下、粗粉Aとする。粉体の平均粒子径は150μm、粒子径110μm以下の粉体は36%、粒子径57μm以下の粉体は26%で、かつ、粒子径516μm以上の粉体を19%含有)を、気流式粉砕機((有)バーリー・ジャパン製、STAY-S、ブロワー10m3/分、処理時間10kg/hr)で微粉砕し微粉Cを得た。粉砕工程での製品品温は35℃(室温29℃、湿度74%、排気温度39℃)であった。微粉Cの一般組成分析結果は、原料大麦精麦及び粗粉Aと、大きな差はなく、可食部(精麦)の成分が基本的に維持されていた(表1)。
【0054】
【表1】

【0055】
粗粉A、B(市販品)、及び微粉C(本発明)、小麦粉(中力粉)の平均粒子径は表2に示す。粒度分布は図1〜4に示す。色調及び色差は表3に示す。微粉C(本発明)は、粗粉より微粉砕されており、粗粉A、Bよりも小麦に近い粒子径になっており、色差測定からも、粗粉よりも小麦に近く、白度も高かった。顕微鏡写真(図5)では、粗粉A,Bに比して、微粉Cは、小麦粉Dに近い粒子径と凝集状態が観察された。(図2)。色差は、測色色差計ZE2000(日本電色(株))で、測定した。以下の実施例では、微粉C(本発明)を用い、さらに比較として粗粉Aを用いた。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
[実施例2]
小麦粉100%、小麦粉と大麦微粉C 50%づつ混合、小麦粉と大麦粗粉A 50%づつ混合の3種の粉を用い、粉の50%の水を加え、よく捏ねてドウとした。このドウを、測色色差計ZE2000(日本電色(株))で、測定した。
大麦粗粉Aを用いたドウでは、褐色の斑点あり、異物感が感じられた。大麦微粉Cを用いたドウでは、均一で異物感はなかった。ドウの色調、白色からの色差は、ドウを作ってから1日目、2日目に測定した。大麦微粉Cを用いたドウは小麦の色に近く、大麦粗粉Aを用いたドウはそれよりも褐色が強く、特に、時間の経過とともに褐色が濃くなった。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
[実施例3]
大麦の粉体を使用し麺を製作した。小麦粉(中力粉)、小麦粉(中力粉)100%、小麦粉の15%を大麦微粉Cで置換、小麦粉の30%を大麦微粉Cで置換、小麦粉の50%を大麦微粉Cで置換、大麦微粉C100%、小麦粉の15%を大麦粗粉Aで置換の6種の穀粉(配合比を表5に示す)を用いて、製麺した。このうち、大麦微粉C100%を除いては、0.8%塩水を加水し、よくこねてから、ねかす常法で製麺した。大麦微粉100%では、粉の一部を熱水にて糊化させ、これを用いて残りの粉をまとめる、糊化法を用いて製麺した。これらの麺をゆでた後、冷水にとって冷却したものを官能評価に供試した。
【0061】
【表5】

【0062】
官能評価パネルは、訓練された専門パネル6名で構成した。ゆで麺試料は室温で供試した。パネルは、供試された試料について、外観(色、異物感)、におい、味、食感(コシの強さ、のど越し)および総合評価(おいしさ)について、<とても良い5−良い4−普通3−悪い2−とても悪い1>の5段階尺度を用いて、絶対評価を行ない、また、気付いた特徴等を自由記述した。
【0063】
【表6】

【0064】
b(小麦粉85%・大麦微粉C15%)は、a(小麦粉100%)より白く感じられ、ゆであがり外観は、a(小麦粉100%)のものよりずっと滑らかであり、透明感があると評価された。試食すると、つるつるとしており、a(小麦粉のみ)のうどんより、舌触りが良かった。味が良く、においもとても良いと評価された。aからfまでのうどんのうち、最もおいしいとする評価が得られた。
【0065】
c(小麦粉70%・大麦微粉C30%)は、幾分か色にくすみがあった。またコシの強さに関して、b(大麦微粉C15%のもの)と比べると劣っていたが、a(小麦粉100%のもの)よりは、コシがあった。
【0066】
d(小麦粉50%・大麦微粉C50%)のものは、ゆであがりの色は、多少褐色がかっていた。もちもちとした食感が強かったが、コシはbやcより多少弱いと評価された。
e(大麦微粉C100%)は、柔らかく、うどんというよりはごく柔らかい白玉的な食感であった。これには黒蜜をつけると合うのではないか、との意見があった。そばがきのような、独特の風味があった。
【0067】
f(小麦粉85%・大麦粗粉A15%)は、色が褐色がかっており、褐色の粒子状のものが認められた。
【0068】
[実施例4]
ホームベーカリー SD-BH103(パナソニック(株))を用い、下記の配合で、混合、醗酵、焼成を、食パンコースで、パンを作製した。所用約4時間であった。用いた小麦粉(強力粉)のCIE Lab表色系で、L(明度)90.39、a(赤-緑)0.26、b(黄-青)9.62で、中力粉より、明度が低く、黄色みが多少強い色相であった。大麦微粉Cは強力粉より明度が高く、両者を混合した時に色の違いは殆ど感じられなかった。
【0069】
【表7】

【0070】
【表8】

【0071】
大麦微粉は吸水性が良いため、大麦粉入りのものは小麦粉のものより加水量を増加して、焼成した。でき上った大麦微粉C配合パンは、配合1、2共に、明るい小麦色に近く、小麦だけのパンの色に近かった。加水量少量増加の配合1では、他のものに比べ膨らみが悪かったが、テクスチャーは柔らかった。加水量を多くした配合2では、小麦粉だけのパンと同じ大きさに膨らんだ。テクスチャーとしては、どれも柔らかく、ふっくらと出来上がっており、また、パンとしての良好な弾性を持っていた。加水量少量増加の1では、イースト臭が他のものより多少多かった。膨らみが悪いことが影響していると考えられる。小麦粉パンは、ふわふわ感があるが、大麦微粉C入りパンは1も2も、もちもち感があり、大麦微粉C入りパンの方が小麦粉パンより圧倒的においしいと評価され、好まれた。
【0072】
[実施例5]
本発明の大麦微粉Cを用いて、市販の(イチゴ)ヨーグルト、牛乳、野菜ジュース、ウーロン茶に、大麦微粉Cを配合して、良くかきまぜて作製した。配合及び評価結果を表9に示す。表中の評点は、表6と同様の評点基準である。
【0073】
【表9】

【0074】
[実施例6]
市販のゼリーの素、プリンの素に、大麦粉を15%配合して、ゼリー、プリンを作った。粗粉Aでは、色がくすみ、異物感も生じたが、微粉Cでは、異物感がなく美味しいゼリー、プリンができた。
豆乳に15%の大麦粉を配合して、飲料を作った。粗粉Aでは、色がくすみ、ざらつきが感じられたが、微粉Cでは、ざらつき感がなく美味しい豆乳になった。
牛乳に大麦粉を15%配合して、通常の処方でアイスクリームを作った。粗粉Aでは、色がくすみ、異物感が生じたが、微粉Cでは、異物感がなく美味しいアイスクリームになった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は食品分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦及びオーツ麦から成る群から選ばれる少なくとも1種の穀物の穀粒の粉砕品からなる粉体であって、
平均粒子径が40〜100μmの範囲であり、
粒子径20μm未満の粒子の含有量が20質量%以下であり、
粒子径20〜100μmの範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲であり、
粒子径100μm超〜500μmの範囲の粒子の含有量が20〜60質量%の範囲であり、かつ、
粒子径500μm超の粒子の含有量が5%以下である
ことを特徴とする穀物粉体。
【請求項2】
前記穀物粉体は、β−グルカンの含有量が、粉砕前の穀粒におけるβ−グルカンの含有量の60%〜100%の範囲である請求項1記載の穀物粉体。
【請求項3】
前記粉砕は、穀粒を粗粉に粉砕する工程と、得られた粗粉を微粉砕する工程により実施され、前記微粉砕は気流式微粉砕によって品温を50℃以下で粉砕することで行われる、請求項1または2記載の穀物粉体。
【請求項4】
β−グルカンの含有量が4〜12%の範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載の穀物粉体。
【請求項5】
白色からの色差dE(CIE:国際照明委員会CIEが規定するCIE Lab 表色法)が15以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の穀物粉体。
【請求項6】
穀粒を粗粉に粉砕する工程と、得られた粗粉を微粉砕する工程を含み、前記微粉砕は気流式微粉砕によって品温を50℃以下で粉砕することで行われる、請求項1〜5のいずれかに記載の穀物粉体の製造方法。
【請求項7】
前記気流式微粉砕は、複数の渦気流による微粉砕である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の穀物粉体を少なくとも5%以上配合した原料から製造された食品。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の穀物粉体と小麦粉とを含む原料から製造された麺類であって、白色であり、かつ表面に異物感がない麺類。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の穀物粉体と小麦粉とを含む原料から製造されたパン類であって、小麦色であり、かつ表面に異物感がないパン類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−90581(P2012−90581A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241161(P2010−241161)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】