説明

積層シート及び積層シートの製造方法

【課題】超低温下にあっても十分な剥離強度を確保することのできる積層シート及び積層シートの製造方法を提供する。
【解決手段】金属箔2の両面にフェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物を付着させると共にウレタン樹脂3を積層させ、それぞれのウレタン樹脂3の外面にガラス繊維織物4を積層させることによって積層シート1を製造する。フェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物を金属箔2の両面に付着させることで、金属箔2とウレタン樹脂3との接着力を著しく向上させ、これによって、超低温下にあっても十分な剥離強度を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超低温タンクの断熱補強材として用いられる積層シート及び積層シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の積層シートとして、金属箔シートにシランカップリング剤による前処理を施し、当該金属箔シートの両面にポリウレタン樹脂製の接着剤シートを介在させてガラス繊維織物で挟み込み、加圧ローラで加圧した後、熱処理することによって形成されるものが知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開昭60−176757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、上記積層シートにあっては、金属箔シートとポリウレタン樹脂との接着力が十分でなく、特に、液化天然ガス用のタンクの断熱補強材として用いた場合は積層シートが超低温になるので、各部材間の熱収縮差などが原因となり、十分な剥離強度を得られないという問題があった。しかも、剥離強度を向上させるために、単に加圧後の熱処理の温度を高くしてもフクレが発生してしまい、所望の剥離強度を得ることは困難であった。
【0004】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、超低温下にあっても十分な剥離強度を確保することのできる積層シート及び積層シートの製造方法を提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る積層シートは、金属箔の両面にウレタン樹脂を積層させると共に、それぞれのウレタン樹脂の外面にガラス繊維織物を積層させることによって形成される積層シートであって、金属箔の両面には、フェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物が付着していることを特徴とする。
【0006】
この積層シートでは、フェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物を金属箔の両面に付着させることで、金属箔とウレタン樹脂との接着力を著しく向上させることができ、これによって、超低温下にあっても十分な剥離強度を確保することができる。これは、金属箔とウレタン樹脂の界面のフェノキシ樹脂及びシラン化合物からなる樹脂組成物層により、加圧後の熱処理の温度が然程高温でなくとも十分な剥離強度を得ることができ、熱処理によるフクレの発生を抑制することができるようになり、更に、この樹脂組成物層によって各部材間の熱収縮差が緩和され、超低温下であっても剥離強度の低下を抑制することができるためであると考えられる。
【0007】
本発明に係る積層シートにおいて、ガラス繊維織物は、合成樹脂系サイズ剤を付着させたガラス繊維束を経糸及び緯糸として製織されていることが好ましい。一般的に、ガラス繊維織物を製織する際にガラス繊維束に付着させるサイズ剤としては、デンプン系サイズ剤が用いられるが、当該デンプン系サイズ剤を適用した場合は、ガラス繊維織物とウレタン樹脂との接着力を確保するために加熱による脱油処理を行う必要が生じる。しかし、このように加熱による脱油処理を行った場合は、ガラス繊維が熱劣化してしまい、ガラス繊維織物の引張強度が低下してしまうという問題がある。一方、本発明のように、ガラス繊維束に付着させるサイズ剤として合成樹脂系サイズ剤を用いた場合は、加熱による脱油処理を行わなくてもガラス繊維織物とウレタン樹脂との接着力を確保することができ、これによって、ガラス繊維織物の引張強度の低下を防止することができる。
【0008】
本発明に係る積層シートにおいて、ガラス繊維織物の経糸及び緯糸の少なくともいずれかのガラス繊維束が、ガラス繊維合撚糸であることが好ましい。このようにすれば、ガラス含有量の高いガラス繊維合撚糸を経糸及び緯糸のいずれかのガラス繊維束に用いることによって、ガラス繊維織物の引張強度を向上させることができる。また、通常のガラス繊維束に比して毛羽立ちの生じ難いガラス繊維合撚糸を用いることで、毛羽立ち防止のための2次サイズ剤を用いることを不要とし、これによって、サイズ剤によるガラス繊維織物とウレタン樹脂との接着力の低下を抑制でき、積層シートの剥離強度を向上させることができる。
【0009】
本発明に係る積層シートの製造方法は、フェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物を金属箔の両面に付着させる樹脂組成物付着工程と、金属箔の両面にウレタン樹脂を積層させると共に、それぞれのウレタン樹脂の外面に、合成樹脂系サイズ剤を付着させたガラス繊維合撚糸で製織されたガラス繊維織物を積層させ、積層物を加圧してシート化するシート化工程と、シート化した積層物を60〜120℃の雰囲気下で加熱するアフターキュア工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この製造方法では、フェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物を金属箔の両面に付着させることで、金属箔とウレタン樹脂との接着力を著しく向上させることができると共に、毛羽立ちの少ないガラス繊維合撚糸でガラス繊維織物を製織することによって、毛羽立ち防止のための2次サイズ剤を用いることを不要とし、これによって、サイズ剤によるガラス繊維織物とウレタン樹脂との接着力の低下を抑制できる。以上によって、超低温下にあっても十分な積層シートの剥離強度を確保することができる。また、サイズ剤として合成樹脂系サイズ剤を用いることで、熱劣化の原因となる加熱による脱油処理を不要とすると共に、ガラス繊維合撚糸を用いてガラス含有量を高めることによって、ガラス繊維織物の引張強度を向上させることができる。更に、アフターキュア工程における温度を、従来より低温である60〜120℃の温度とすることにより、金属箔、ウレタン樹脂及びガラス繊維織物の熱膨張率の差による皺の発生を防止することができ、剥離強度の低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超低温下にあっても十分な剥離強度を確保することのできる積層シート及び積層シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係る積層シート及びその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
[積層シート]
図1には、一部が切り出された積層シートが拡大して示されている。図1に示すように、積層シート1は、金属箔2の両面にウレタン樹脂3を積層させると共に、それぞれのウレタン樹脂3の外面にガラス繊維織物4を積層させることによって形成される。このように形成された積層シート1は、超低温タンクの断熱補強材として用いられ、断熱材としての発泡ウレタン5を介してステンレス製のタンク壁面6に貼り付けられる。なお、積層シート1は、接着剤によって発泡ウレタン5に接着している。以下、積層シート1の各構成要素について詳しく説明する。
【0014】
(a)金属箔
金属箔2は、積層シート1の中間層となる薄膜フィルムであり、その材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、銅、アンバー合金などを用いることができ、特にアルミニウムが最適である。また、その厚さは、薄すぎる場合は衝撃に対する強度の問題があり、厚すぎる場合は柔軟性が損なわれるという問題があるため、50〜250μmとすることが好適であり、60〜100μmとすることが更に好適である。
【0015】
金属箔2の両面には、フェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物が付着しており、これによって、ウレタン樹脂3との接着力を著しく向上させることができ、超低温下にあっても十分な剥離強度を確保することができる。フェノキシ樹脂は、ビスフェノールとエピクロルヒドリンから製造され、分子量10000以上で、100000以下であることが好ましい。シラン化合物としては、公知のものを用いることができるが、例えば、グリシドキシプロピルトリメトキシシランやアミノプロピルトリメトキシシランを用いることが特に好ましい。樹脂組成物中のフェノキシ樹脂とシラン化合物の質量比(フェノキシ樹脂質量/シラン化合物質量)は1/2〜2/1であることが好ましい。また、樹脂組成物の金属箔への付着量は、0.5〜15.0g/mとすることが好適である。
【0016】
(b)ウレタン樹脂
ウレタン樹脂3は、上述のフェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物によって金属箔2の両面に強固に接着された樹脂層を形成している。その材質としては、公知の溶融熱可塑性ウレタンを用いることができ、特にポリエステル系ウレタンやポリエーテル系ウレタンを用いることが好ましい。これらの材質の溶融温度は160〜230℃である。また、積層シート1中のウレタン樹脂3の量は50〜400g/mとすることが好ましい。
【0017】
(c)ガラス繊維織物
ガラス繊維織物4は、複数のガラス繊維からなるガラス繊維束を経糸及び緯糸として製織された織物である。織り組織は特に限定されないが、特に平織りが好ましい。ガラス繊維織物4の単位質量は150〜500g/mとすることが好ましく、300〜400g/mとすることが特に好ましい。また、糸番手は40〜300tex、密度は20〜40本/25mmとすることが好ましい。
【0018】
ガラス繊維織物4の通気度(ガラス繊維織物の目抜き度合い)は極力低くすることが好ましく、具体的には20cm/cm/sec以下とすることが望ましい。なお、ガラス繊維織物4の通気度は「JIS R3420 ガラス繊維一般試験方法 7.14クロスの通気性」により測定することができる。このように、ガラス繊維織物4の通気度を低くすることによって、ガラス繊維織物4からウレタン樹脂3を染み出させることなく、ガラス繊維織物4、ウレタン樹脂3及び金属箔2同士を加圧ローラで加圧する際の圧力を上げ、各々の部材同士の接着力を向上させることができる。これによって、ガラス繊維織物4からのウレタン樹脂3の染み出しを防止しつつ、超低温下にあっても十分な剥離強度を確保することができる。なお、通気度を下げる方法としては、例えば、製織時の打ち込み本数を多くする方法、撚り数の少ないガラス繊維束で製織する方法、及び製織後に開繊処理をする方法が挙げられる。
【0019】
開繊処理の方法として、高圧噴射水による開繊処理、バイブロウォッシャーによる噴流水による開繊処理、水中での超音波振動による開繊処理などを挙げることができる。このような開繊処理を施すと、ガラス繊維織物4の通気度を下げると同時にガラス繊維に付着しているサイズ剤も洗い流され、サイズ剤の付着量を低下させることができ、ガラス繊維織物4とウレタン樹脂3との接着力を確保することができる。そのため、本発明においては、開繊処理を施し通気度を下げることが好ましい。
【0020】
ガラス繊維織物4は、ガラス繊維合撚糸を経糸及び緯糸として製織されている。図2は、ガラス繊維合撚糸の拡大図であり、図2に示すように、ガラス繊維束22同士を撚り合わせることによって毛羽立ちが少なくガラス含有量の高いガラス繊維合撚糸21を形成することができる。
【0021】
ガラス繊維織物4の経糸及び緯糸には、紡糸時に1次サイズ剤が付着される。さらに、ガラス繊維織物4の経糸及び緯糸のガラス繊維束として、通常のガラス繊維単糸を用いた場合は、整経時経糸に2次サイズ剤が付着される。ここで、ガラス繊維束として、ガラス繊維合撚糸と用いることで、ガラス含有量を高くすることができ、ガラス繊維織物の引張強度を向上させることができる。また、通常のガラス繊維束に比して毛羽立ちの生じ難いガラス繊維合撚糸を用いることで、製織時の毛羽立ち防止のための2次サイズ剤を用いることを不要とし、これによって、サイズ剤によるガラス繊維織物とウレタン樹脂との接着力の低下を抑制でき、積層シートの剥離強度を向上させることができる。なお、経糸及び緯糸のいずれか一方にのみガラス繊維合撚糸を用いてもよいが、少なくとも経糸をガラス繊維合撚糸とすることが好ましい。更に、経糸と緯糸の両方をガラス繊維合撚糸とすることがより好ましい。
【0022】
なお、ガラス繊維束にデンプン系サイズ剤を適用した場合は、ガラス繊維織物4とウレタン樹脂3との接着力が低下してしまうので、加熱による脱油処理によりサイズ剤を除去する必要が生じる。そのため、ガラス繊維が熱劣化してしまい、ガラス繊維織物4の引張強度が低下してしまうという問題がある。一方、サイズ剤として合成樹脂系サイズ剤を用いた場合は、接着力の低下はデンプン系サイズ剤よりも小さいので、加熱による脱油処理を行わなくてもガラス繊維織物4とウレタン樹脂3との接着力を確保することができ、これによって、ガラス繊維織物4の引張強度の低下を防止することができる。
【0023】
1次サイズ剤及び2次サイズ剤としてのサイズ剤における被膜形成剤としての合成樹脂は、例えば、水溶性エポキシ樹脂系、アクリル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、サイズ剤にはシラン化合物が含まれていることが望ましい。なお、このシラン化合物としては、例えば、グリシドキシプロピルトリメトキシシランやアミノプロピルトリメトキシシランが適している。合成樹脂系サイズ剤は、ガラス繊維重量に対し0.05〜3.0重量%付着させるが、ガラス繊維織物4とウレタン樹脂3との剥離強度の低下を抑制すべく、0.4重量%以下とすることが特に好ましい。更に、サイズ剤の付着量は、ガラス繊維重量に対し0.2%以下であることが好ましい。付着量を0.2%以下にするには、上述の開繊処理を施すことにより達成することができる。
【0024】
[積層シートの製造方法]
次に、図3を参照して、上述の積層シート1を製造するための製造方法について説明する。図3には、上述の積層シート1を製造するための製造装置10が概略的に示されている。
【0025】
製造装置10は、所定の薄膜フィルムのフィルムロールを回転させることで当該薄膜フィルムを加圧ローラ14へ供給するフィルム供給部11と、フィルム供給部11に配設されると共に薄膜状のウレタン樹脂3を押出成型する成型機13と、成型機13に配設されると共にガラス繊維織物4の織物ロールを回転させることでガラス繊維織物4を加圧ローラ14へ供給する織物供給部12と、供給された所定の薄膜フィルム、ウレタン樹脂3及びガラス繊維織物4同士を加圧する加圧ローラ14と、加圧ローラ14で加圧された積層物を巻き取って回収する回収部16とを備えて構成される。
【0026】
まず、帯状の金属箔2の両面に予めフェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物を付着させ(樹脂組成物付着工程)、所定の温度で乾燥させた後、巻き取ってフィルム供給部11へ配置する。なお、金属箔2がフィルム供給部11から加圧ローラ14へ供給されるまでの間で、金属箔2に樹脂組成物を付着させてもよい。
【0027】
次に、フィルム供給部11、成型機13及び織物供給部12から、加圧ローラ14へ向かってそれぞれ金属箔2、ウレタン樹脂3及びガラス繊維織物4を供給する。なお、成型機13内では、ウレタン樹脂3は160〜230℃程度の高温に加熱されているため、成型機13から供給された薄膜状のウレタン樹脂3も高温である。
【0028】
次に、加圧ローラ14で、金属箔2、ウレタン樹脂3及びガラス繊維織物4同士を加圧する。このとき、ウレタン樹脂3がガラス繊維織物4から染み出してしまうことを防止するため、加圧ローラ14の加圧面を100℃以下に温度制御しておくことが好ましく、更に60℃以下にしておくことが好ましい。
【0029】
加圧ローラ14で加圧した積層物を回収部16で巻き取ってロール状にして回収する。このとき、回収の前段階で所定の冷却手段(図示せず)で積層物を冷却してもよい。
【0030】
回収した積層物ロールをフィルム供給部11に配置し、積層物の金属箔2側の面に、更にウレタン樹脂3及びガラス繊維織物4を積層させ、当該積層物を加圧ローラ14で加圧してシート化し(シート化工程)、冷却後回収部16で回収する。
【0031】
シート化された積層物の回収ロールを炉に入れて、60〜120℃の雰囲気下で12〜120時間加熱する(アフターキュア工程)。このように、アフターキュア工程における温度を60〜120℃の比較的低温とすることにより、金属箔2、ウレタン樹脂3及びガラス繊維織物4の熱膨張率の差による皺の発生を防止することができ、剥離強度を向上させることができる。アフターキュア工程が終了した後、炉から出して冷却することによって、積層シートの製造工程が終了する。
【0032】
なお、上述の製造装置に更にフィルム供給部及び成型機を追加して、金属箔2と一対のウレタン樹脂3及び一対のガラス繊維織物4同士を一度に加圧することによって積層シート1を製造してもよい。
【実施例】
【0033】
(積層シートの作製)
[実施例1]
(1)金属箔
フェノキシ樹脂としてビスフェノールAとエピクロルヒドリンより合成されたポリビスフェノールA−ヒドロキシプロピルエーテル(東都化成株式会社製フェノトートYP−50S、重量平均分子量50000〜70000)10質量部、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン10質量部、メチルエチルケトン60質量部、2−メトキシエタノール20質量部をヘンシェルミキサーにて撹拌することによって、フェノキシ樹脂とγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランが混合した樹脂組成物を得て、この樹脂組成物に厚さ70μm、幅1070mmの1N−30軟質アルミ箔をディッピングし、150℃にて乾燥して、樹脂組成物が5.0g/m付着した金属箔を得た。
【0034】
(2)ガラス繊維織物
ガラス繊維織物の経糸及び緯糸のガラス繊維束として、ガラス繊維重量100重量部に対し、0.3重量部の水溶性エポキシ樹脂系の1次サイズ剤が付着しているガラス繊維合撚糸(ECG75 1/2 3.3S)を用いて、経糸29本/25mm、緯糸32本/25mmの平織り組織に製織し、次いでバイブロウォッシャーによる開繊処理を施し、ガラス繊維織物(質量345g/m、厚さ0.25mm、通気度15cm/cm/sec)を得た。なお、開繊処理前のガラス繊維織物の通気度は40cm/cm/secであった。
【0035】
(3)ウレタン樹脂
ポリエーテルウレタン樹脂(BASFジャパン株式会社製ET880)のペレットをエクストルーダ機(成型機)に投入し、T−ダイノズルの出口から約200℃で溶融された状態で供給した。
【0036】
(4)積層シートの作製
上述の金属箔及びガラス繊維織物を連続的に供給しながらその間に上述のウレタン樹脂を供給し、加圧ローラで加圧してその後冷却硬化させることによって、金属箔の片側の表面のみにウレタン樹脂及びガラス繊維織物が積層された積層物を得た。次いで、上述と同様の方法で金属箔のもう一方の表面にもウレタン樹脂及びガラス繊維織物を積層させた。この際、加圧ローラの加圧面が30〜40℃になるように温度制御した。このようにして得られた積層物を115℃雰囲気下で48時間アフターキュアを行った後、常温に放置して積層シートA1を得た。
【0037】
[実施例2]
ガラス繊維織物の緯糸のガラス繊維束として、水溶性エポキシ樹脂系の1次サイズ剤がガラス繊維重量100重量部に対し、0.3重量部付着しているガラス繊維単糸(ECG37 1/0 1.0Z)を用い、経糸のガラス繊維束として、この1次サイズ剤を施したガラス繊維単糸にさらに、水溶性エポキシ樹脂系の2次サイズ剤をガラス繊維重量100重量部に対し、1.0重量部付着させる処理を施したガラス繊維単糸を用いた。それ以外は実施例1の積層シートA1の作製に準じて実施し、積層シートA2を得た。なお、実施例2における開繊処理後のガラス繊維織物の通気度は、10cm/cm/secであった。
【0038】
[実施例3]
ガラス繊維織物の経糸及び緯糸のガラス繊維束として、デンプン系の1次サイズ剤が付着しているガラス繊維合撚糸(ECG75 1/2 3.3S)を用いて、経糸29本/25mm、緯糸32本/25mmの平織り組織に製織し、製織した後、加熱による熱脱油処理、シランカップリング剤処理、開繊処理を施し、ガラス繊維織物(質量345g/m、厚さ0.25mm、通気度は、10cm/cm/sec)を得た。それ以外は実施例1の積層シートA1の作製に準じて実施し、積層シートA3を得た。なお、熱脱油前の1次サイズ剤の付着量はガラス繊維重量に対し、0.3重量%であり、熱脱油により1次サイズ剤の付着量は0.05重量%以下になっていた。
【0039】
[比較例1]
金属箔をフェノキシ樹脂とγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランの樹脂組成物にディッピングさせていないこと以外は積層シートA1の作製に準じて実施し、積層シートB1を得た。
【0040】
[比較例2]
樹脂組成物にフェノキシ樹脂が含まれていないこと、及び160℃雰囲気下で5分間アフターキュアを行ったこと以外は積層シートA1の作製に準じて実施し、積層シートB2を得た。
【0041】
(積層シートの評価)
上記実施例1〜3、比較例1及び比較例2の積層シートについてそれぞれ外観評価、引張強度評価及び剥離強度評価を行った。
【0042】
[外観評価]
積層シート100mにおいて、金属箔とガラス繊維織物との間の直径10mm以上の膨れ部分を剥離不良箇所として数えた。得られた結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、アフターキュアを低温で行った実施例1〜3及び比較例1の積層シートについては剥離不良箇所が存在しないことが判明した。これに対し、比較例2の積層シートについては剥離不良箇所が存在することが確認された。これによって、アフターキュアを低温で行えば、積層シートの皺の発生を防止できることが確認された。
【0045】
[引張強度]
それぞれの積層シートを縦方向及び横方向について幅50mm×長さ400mmで5片ずつ切り出し、それぞれの試験片の両面の長さ方向の端部に接着剤を塗布して合板を貼り、常温雰囲気下(23℃)及び低温雰囲気下(−196℃)で引張試験機により5mm/minで引張試験を行った。各5片について得られた結果の平均値を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より、常温雰囲気下及び低温雰囲気下のいずれにおいても、また、縦方向及び横方向のいずれにおいても、実施例1の積層シートの方が実施例2の積層シートよりも引張強度が高いことが確認された。このことから、ガラス繊維合撚糸を用いた方が引張強度を高くできることが確認された。また、実施例3は熱脱油脂したガラス繊維織物を使用しているため、実施例1の積層シートよりも引張強度が低下していた。このことから、デンプン系のサイズ剤を用いた場合よりも、合成樹脂系のサイズ剤を用いた方が引張強度を高くできることが確認された。
【0048】
[剥離強度]
それぞれの積層シートを縦方向及び横方向について幅25mm×長さ300mmで5片ずつ切り出し、それぞれの試験片の片面に全面に渡り接着剤を塗布して鉄治具を貼り、常温雰囲気下(23℃)及び低温雰囲気下(−196℃)、並びに海水に浸して6週間経過した後に濡れた状態のまま常温雰囲気下で、ISO4578に従い引張試験機により100mm/minで引き剥がし試験を行った。各5片について得られた結果の平均値を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3より、常温雰囲気下及び低温雰囲気下のいずれにおいても、また、縦方向及び横方向のいずれにおいても、実施例1〜3の積層シートの方が比較例1,2の積層シートよりも剥離強度が高いことが確認された。特に、比較例1,2の積層シートについては、超低温下にあっては剥離強度が著しく低下するが、実施例1〜3の積層シートについては、超低温下にあっても剥離強度は半分程度までしか低下しないことが確認された。また、比較例1,2の積層シートは、海水に浸漬させることによって、剥離強度が著しく低下するが、実施例1〜3の積層シートについては、剥離強度はほとんど低下しないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る積層シートの、一部を切り出した拡大図である。
【図2】ガラス繊維合撚糸の拡大図である。
【図3】図1に示す積層シートを製造するための製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1…積層シート、2…金属箔、3…ウレタン樹脂、4…ガラス繊維織物、21ガラス繊維合撚糸、22…ガラス繊維束。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の両面にウレタン樹脂を積層させると共に、それぞれの前記ウレタン樹脂の外面にガラス繊維織物を積層させることによって形成される積層シートであって、
前記金属箔の前記両面には、フェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物が付着していることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
前記ガラス繊維織物は、合成樹脂系サイズ剤を付着させたガラス繊維束を経糸及び緯糸として製織されていることを特徴とする請求項1記載の積層シート。
【請求項3】
前記ガラス繊維織物の経糸及び緯糸の少なくともいずれかのガラス繊維束が、ガラス繊維合撚糸であることを特徴とする請求項1又は2記載の積層シート。
【請求項4】
フェノキシ樹脂及びシラン化合物を含有する樹脂組成物を金属箔の両面に付着させる樹脂組成物付着工程と、
前記金属箔の両面にウレタン樹脂を積層させると共に、それぞれの前記ウレタン樹脂の外面に、合成樹脂系サイズ剤を付着させたガラス繊維合撚糸で製織されたガラス繊維織物を積層させ、積層物を加圧してシート化するシート化工程と、
前記シート化した積層物を60〜120℃の雰囲気下で加熱するアフターキュア工程と、
を備えることを特徴とする積層シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−241474(P2009−241474A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92164(P2008−92164)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】