説明

積層シート用接着剤組成物

【課題】種々のシート状部材間で高い接着力を示し、高温高湿度環境下に曝されても高い接着力を維持できる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る積層シート用接着剤組成物は、アクリルポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)とを含有してなる積層シート用接着剤組成物であって、アクリルポリオール(A)の数平均分子量を10,000〜100,000とし、かつ、水酸基価を1〜100mgKOH/gとし、さらに、ガラス転移温度(Tg)を−25℃超え、10℃以下とする。また、アクリルポリオール(A)に由来する水酸基と、ポリイソシアネート(B)に由来するイソシアネート基との当量比NCO/OHを0.1〜3とする(但し、太陽電池用裏面保護シートの製造に用いられ、シート状部材同士を接合するための接着剤層の少なくとも一部を形成する用途に用いられるものを除く)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート用接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋外産業用途向け、例えば、防壁材、屋根材、太陽電池パネル材、窓材、屋外フローリング材、照明保護材、自動車部材、看板、ステッカーなどに用いられる多層(複合)フィルム等をはじめとする多層(複合)積層体が実用化されている。多層積層体は、金属系素材やプラスチック系素材等を積層(ラミネート)することにより得られる。金属系素材としては、アルミニウムや銅、鋼板などの金属箔、金属板、金属蒸着フィルム等が挙げられる。プラスチック系素材としては、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、フッ素樹脂、アクリル樹脂などのプラスチックフィルム、プラスチックシート、プラスチック板、シリカ蒸着フィルム等の無機酸化物層を表面に形成したプラスチックフィルム等が挙げられる。金属系素材やプラスチック系素材の接合に用いる接着剤としては、従来より、ポリエポキシ系接着剤、及びポリウレタン系接着剤が知られている。
【0003】
特許文献1には、少なくとも2層以上の基材をポリウレタン系接着剤にて貼り合わせた積層体を具備する太陽電池裏面封止用シートが記載されている。より詳細には、条件1:加圧蒸気による促進評価装置であるHASTチャンバ一に105°C、1.05atm、168時間保存した後のラミネート強度が少なくとも1N/I5mm以上である、条件2:加圧蒸気による促進評価装置であるHASTチャンバ一に105°C、1.05atm、168時間保存した後、ディラミネーシヨンに伴う基材間の浮きが発生しないという条件を満たす耐加水分解性を有する接着剤を含有するポリウレタン系接着剤が記載されている。具体的には、ポリオールA〜ポリオールFの6つのタイプのポリオールそれぞれに対し、架橋剤を組み合わせた複数のポリウレタン系接着剤が提案されている(特許文献1の請求項2〜11参照)。
【0004】
特許文献2には、少なくとも2つの基材をアクリル系接着剤で貼り合わせた積層体を具備する太陽電池モジュール用バックシートが記載されている。より詳細には、耐加水分解性、耐絶縁性、及び水分バリア性を有するアクリル系接着剤として、一般式(I)で表わされるモノマーを含有するモノマー成分を重合させてなるアクリル系ポリマーを含有するアクリル系接着剤が提案されている(特許文献2の請求項2参照)。
CH=C(R)−CO−OZ (I)
式中、Rは水素原子、またはメチル基、Zは炭素数4〜25の炭化水素基を表す。
【0005】
なお、優先権の基礎となる先の出願後に公開された特許文献であるが、特許文献3、4には、プラスチックフィルム未処理面と、他の基材とを接着したシートに用いる用途に好適な接着剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2007−148754号
【特許文献2】特開2009−246360号公報
【特許文献3】特開2011−105819号公報
【特許文献4】特開2011−111519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
屋外の過酷な条件下で長期間に亘って安定に接着剤を維持するためには、接着強度が経時的にも安定であることが重要である。昨今においては、特許文献3や4のように、表面処理を行わないポリエステルフィルム等のプラスチック未処理面と、他の基材とを良好に接着可能な接着剤の開発が盛んに行われている。表面処理を行わないことで、製造工程の短縮化を実現できるので、コストダウンが可能となるためである。しかしながら、その一方で、従来から活用されてきた表面処理技術も活用し、接着剤組成物の本来の性能をより高め、相乗的により優れた接着特性を有する接着剤組成物に対するニーズも高いものとなっている。
【0008】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、種々のシート状部材間、特にプラスチックフィルムの表面処理層を含む層間で高い接着力を示し、高温高湿度環境下に曝されても高い接着力を維持でき、太陽電池用裏面保護シートの製造に好適な積層シート用接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す積層シート用接着剤組成物により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明に係る積層シート用接着剤組成物は、アクリルポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)とを含有してなる積層シート用接着剤組成物であって、前記アクリルポリオール(A)の数平均分子量が10,000〜100,000であり、かつ、水酸基価が1〜100mgKOH/gであり、さらに、ガラス転移温度(Tg)が−25℃を越え、10℃以下であり、前記アクリルポリオール(A)に由来する水酸基と、前記ポリイソシアネート(B)に由来するイソシアネート基との当量比NCO/OHが、0.1〜3であるものである(但し、2層以上のシート状部材を具備した太陽電池用裏面保護シートの製造に用いられ、前記シート状部材同士を接合するための接着剤層の少なくとも一部を形成する用途に用いられるものを除く)。
前記ポリイソシアネート(B)の好ましい例として、脂環式ジイソシアネート又は脂肪族ジイソシアネートから誘導されるポリイソシアネートを含むものが挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、種々のシート状部材間、特にプラスチックフィルムの表面処理層を含む層間で高い接着力を示し、高温高湿度環境下に曝されても高い接着力を維持でき、太陽電池用裏面保護シートの製造に好適な積層シート用接着剤組成物を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、詳細に説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得る。また、本明細書において「任意の数A〜任意の数B」なる記載は、数A及び数Aより大きい範囲であって、数B及び数Bより小さい範囲を意味する。また、本明細書及び請求の範囲において記載する「(メタ)アクリロ」という表記は、「アクリロ」に読み替えた化合物、及び「メタクリロ」に読み替えた化合物の何れも含むものとする。また、「(メタ)アクリル」、及び「(メタ)アクリレート」においても同様に定義する。
【0012】
<アクリルポリオール(A)>
アクリルポリオール(A)は、水酸基含有モノ(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基を含有しないモノ(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体が好ましく用いられる。水酸基含有モノ(メタ)アクリレートモノマーは、1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を含有するモノマーである。好ましい例として、2価アルコールと(メタ)アクリル酸との反応により得られるモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ε−カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。
アクリルポリオール(A)の数平均分子量が同程度であれば、接着力向上の点から、モノ(メタ)アクリレートモノマーの共重合には関与しない部分、即ち、(メタ)アクリル酸部分にエステル結合を介して結合する部分(アルキル基やアルケニル基等の部分。以下「側鎖部分」という)の炭素の数としては、1〜17であることが好ましく、1〜9であることがより好ましく、1〜3であることが更に好ましい。前記側鎖部分は、共重合後、アクリルポリオール(A)の側鎖を形成することとなる。モノ(メタ)アクリレートモノマーの前記側鎖部分の炭素数は1〜30程度であることが一般的であるが、アクリルポリオール(A)の数平均分子量が同程度であれば、前記側鎖部分が短い程、アクリルポリオール(A)の主鎖が相対的に長くなる。その結果、硬化後の接着層の機械的性質(具体的には伸び率)が向上し、接着力が向上するものと考察される。
【0013】
2価アルコールから得られるモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0014】
さらには、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルなどのような、3価以上のアルコールから得られるモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーも、水酸基含有モノ(メタ)アクリレートモノマーとして利用可能である。
【0015】
水酸基を含有しないモノ(メタ)アクリレートモノマーは、従来から公知のラジカル重合性モノマーを適宜選択して使用することができる。好適な例として、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートモノマーに代表される長鎖(メタ)アクリルモノマー、及びアクリロニトリル等が挙げられる。
さらに、上述の水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基を含有しないモノ(メタ)アクリレートモノマーに加えて、その他のモノマー、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマーやその無水物、あるいはスチレン等のビニルモノマー等を共重合させることができる。なお、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー、水酸基を含有しないモノ(メタ)アクリレートモノマーは、それぞれ独立に、1種類の化合物を用いても、2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。その他のモノマーを用いる場合についても同様である。
【0016】
本発明において、アクリルポリオール(A)の数平均分子量は、10,000〜100,000であることが必要である。さらに10,000〜70,000であることが好ましく、25,000〜50,000であることがより好ましい。
【0017】
本発明の積層シート用接着剤組成物(以下、「接着剤組成物」ともいう)を用いて2つ以上のシート状部材を積層してなる積層シート、例えば太陽電池用裏面保護シートは、例えば、以下の工程を経て得られる。一方のシート状部材の接合面に接着剤組成物を塗工・乾燥する。次いで、他のシート状部材を接着剤層に重ね合わせ、40℃〜60℃の環境下で2日〜1週間程度の保存を行う「エージング」と称する工程にて、接着剤層の硬化を進行させて積層シートを得る。
アクリルポリオールの数平均分子量が10,000未満の場合、エージング工程前の接着剤層の凝集力が不足する傾向にあり、エージング工程前の接着力が小さくなる恐れがある。工業的生産の場合、ロール状に巻き取った状態の積層体は、通常、巻き芯を天地方向にしてエージングされる。エージング工程前の接着力が小さいと、エージングの最中に巻きが崩れ易く、工業的生産には不適である。また、10,000未満では、エージング工程後の凝集力が不足する傾向にあり、これに伴って耐湿熱性が低くなり、デラミネーション等を生じる恐れがある。
また、アクリルポリオールの数平均分子量が100,000を超えると、接着剤の粘度が高くなり、塗工性に問題が生じたり、シート状部材への濡れ性が低下する傾向にあり、その結果エージング工程前の接着力が小さくなる恐れがある。エージングによって初期接着力は、エージング前に比して大きくなるとはいうものの、その後の耐湿熱性試験により徐々に低下し、3000時間経過後は使用下限を下回る恐れがある。
【0018】
なお、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求め、ポリスチレン換算した値である。より具体的には、本発明における数平均分子量は、後述する実施例に記載の測定方法により求めた値を示している。また、ガラス転移温度、NCO/OH当量比についても同様に、後述する実施例に記載の方法により求めた値を示している。
【0019】
アクリルポリオール(A)の水酸基価は、水酸基含有モノ(メタ)アクリレートモノマーの含有量によって決定されるが、本発明において水酸基価は、1〜100mgKOH/gであり、1〜50mgKOH/gが好ましく、1〜15mgKOH/gがより好ましい。1mgKOH/g未満では、イソシアネート硬化剤との架橋が低下する傾向にあり、耐湿熱性が低下する恐れがある。また、100mgKOH/gを超えると、エージング前の接着力は発現できるものの、エージング後は架橋密度が高くなる傾向にあり、十分な接着力を発現できず、その後の耐湿熱性試験にてさらに接着力が低下する恐れがある。
【0020】
また、本発明において、アクリルポリオール(A)のガラス転移点(Tg)は、後述する理由により−40℃を越え、10℃以下であり、−25℃を越え、10℃以下がより好ましい。
【0021】
<ポリイソシアネート(B)>
ポリイソシアネート(B)は、例えば、周知のジイソシアネートから誘導された化合物であり、公知の化合物を制限なく利用することができる。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(別名:2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(別名:2,6−TDI)、キシリレンジイソシアネート(別名:XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(別名:MDI)、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(別名:HDI)、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、若しくは水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートから誘導された化合物、即ち、前記ジイソシアネートのヌレート体、トリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット型、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、イソシアネート残基を有するウレトジオン体、アロファネート体、若しくはこれらの複合体、及びブロックイソシアネートが挙げられる。ポリイソシアネート(B)は、単一の化合物を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
ポリイソシアネート(B)は、架橋後の硬化塗膜の粘弾性の観点から、脂環式ジイソシアネート、若しくは脂肪族ジイソシアネートから誘導されるポリイソシアネートを使用することが好ましい。より詳細には、脂環族ジイソアネートとしてはイソホロンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネートなどが挙げられる。また、脂肪族ジイソシアネートとしてはヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。また、前述の脂環式ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートの化合物の誘導体であるジイソシアネートのヌレート体、トリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット型、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、イソシアネート残基を有するウレトジオン体、アロファネート体、若しくはこれらの複合体などが挙げられる。
また、硬化速度の速さを重要視する場合には、キシリレンジイソシアネート(別名:XDI)のような、芳香環を有するが、NCOと芳香環の間にアルキレン基があるイソシアネートを使用することが好ましい。硬化速度が速いとエージング時間を短縮できるという点で好ましい。
【0023】
また、ポリイソシアネート(B)中のイソシアネート基濃度が、5〜30重量%であることが好ましい。ポリイソシアネート(B)中のイソシアネート基濃度が5重量%〜30重量%の範囲とする。尚、ポリイソシアネート(B)中のイソシアネート基濃度は、滴定法により求めることができる。滴定は、n−ブチルアミン・塩酸滴定法により評価した。具体的には、試料を乾燥トルエンに溶解後、過剰のn−ジブチルアミン溶液を加えて反応させ、残ったn−ジブチルアミンを塩酸で逆滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とし、終点までの滴定量から、イソシアネート基含有率を算出した。
【0024】
ポリイソシアネート(B)の使用量は、アクリルポリオール(A)に由来する水酸基と、ポリイソシアネート(B)に由来するイソシアネート基とのNCO/OH当量比によって決定されるが、NCO/OH当量比を0.1〜3とする。より好ましくは、NCO/OH当量比が1〜3であり、1.5〜3であることがさらに好ましい。NCO/OH当量比は、以下の数式(1)を用いて行った。
NCO/OH比=ポリイソシネート必要量(重量部)×(561/OH価)×(NCO%/(42×100))×(100/ポリオール量(固形分重量)) 数式(1)
【0025】
本発明者らは、以下の条件を全て満たすことによって、驚くべきことに優れた特性の積層シート用接着剤組成物が得られることを突き止めた。即ち、上述した(i)特定の範囲の数平均分子量と、(ii)特定の範囲の水酸基価と、(iii)特定範囲のガラス転移温度(Tg)を有するアクリルポリオール(A)を用い、さらに、(iv)アクリルポリオール(A)に由来する水酸基とポリイソシアネート(B)に由来するイソシアネート基との当量比NCO/OHを、前述の特定の範囲とするという条件を全て満たすことによって、種々のシート状部材間、特にプラスチックフィルムの表面処理層を含む層間で高い接着力を示し、高温高湿度環境下に曝されても高い接着力を維持でき、太陽電池用裏面保護シートの製造に好適な接着剤組成物を提供できることを突き止めた。以下、その理由について説明する。
【0026】
表面が未処理のプラスチックフィルムを積層する場合に比して、コロナ放電等で表面が処理されたプラスチックフィルムを積層する場合、製造工程が増える分の付加価値が要求される。接着力においては、表面が未処理のプラスチックフィルムを積層する場合よりも高い接着力が要求される。
アクリルポリオールのTgが低すぎると、エージング前の接着剤層はまだ硬化が不十分なので、接着剤組成物から形成した接着剤層は柔らかい。そして、その柔らかさによってシート状部材間において、ある程度の接着力は発現できる。しかし、エージング後に接着剤層が十分硬化しても、原料のアクリルポリオールのTgの低さ故に接着剤層の凝集力不足が顕在化し、大きな接着力を確保することが難しくなる傾向にある。さらに、積層体を長時間、高温高湿度下に置くと接着剤層の凝集力不足が原因で接着力が徐々に低下する傾向にある。
一方、アクリルポリオールのTgが高すぎると、基材への濡れ性が不足する傾向にある。エージング前に比してエージング後の接着力が多少大きくはなるものの、架橋後の硬化接着剤層が硬くなりすぎてしまうので、エージング工程後の接着力が悪化する傾向にある。
本発明において、上述した優れた効果が得られた理由は、アクリルポリオールのTgが低すぎず、かつ、高すぎない温度範囲(具体的には、−40℃越え、10℃以下)とし、その上でさらに、特定の水酸基価、特定のNCO/OH当量比、及び特定の数平均分子量の範囲とすることによって相乗的に分子運動レベルでのアクリルポリオールの運動の活発さを活かし、接着対象への濡れ性と投錨性を向上することができたことによるものと考察している。特に、NCO/OH当量比を0.1〜3の範囲、特に1〜3の範囲で制御することによって、適度な架橋度のバランスを実現しエージング工程後に高い接着力を示すことができたと考察している。しかも、驚くべきことに、エージング前においても高い接着力を発現できることを見出した。さらには、エージング工程後、高温高湿度下に置いた後も高い接着力を維持できることを見出した。
【0027】
本発明の積層シート用接着剤組成物は、金属箔、金属板、又は金属蒸着フィルム等を基材として使用する場合、接着強度を向上させる観点から、シランカップリング剤を含有させることが好ましい。
【0028】
シランカップリング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及びγ−(メタ)アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン等の(メタ)アクリロキシシラン類;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン類;N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類;並びに、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及びγ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のチオシラン類等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、又は2種以上を任意に組み合わせて使用できる。
【0029】
シランカップリング剤の添加量は、アクリルポリオール(A)100重量部に対して、0.1〜5重量部であることが好ましく、1〜3重量部であることがより好ましい。0.1重量部未満では、シランカップリング剤を添加することによる金属箔に対する接着強度向上効果に乏しく、5重量部を超えて添加しても、それ以上の性能の向上は認められない場合がある。
【0030】
本発明の積層シート用接着剤組成物は、主剤と硬化剤とを使用時に混合する、いわゆる2液混合タイプの接着剤であってもよいし、主剤と硬化剤とが予め混合された1液タイプの接着剤であってもよい。また、アクリルポリオール(A)やポリイソシアネート(B)を、それぞれ独立に複数種類で用いてもよい。さらに、前記以外の他の主剤や硬化剤を、それぞれ独立に単数あるいは複数種類で用いてもよい。通常、主剤は、アクリルポリオール(A)、シランカップリング剤、有機溶剤、その他の添加剤を含み、硬化剤は、ポリイソシアネート(B)、有機溶剤、その他の添加剤を含む。
【0031】
その他の添加剤としては、本発明の積層シート用接着剤には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、粘着付与剤、反応促進剤、レベリング剤、リン系やフェノール系の酸化防止剤、紫外線安定剤、金属不活性化剤、難燃剤、可塑剤、有機・無機顔料など種々の添加剤を配合することができる。
【0032】
シート状部材として金属層(金属箔、金属板等)を用いる場合、本発明の積層シート用接着剤組成物の金属密着性を向上させるために、リン酸系化合物、例えば、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸や、それらのエステル等を添加することができる。
【0033】
また、本発明の接着剤組成物は、太陽電池用裏面保護シート製造用の接着剤として好ましく用いられる他、太陽電池積層シート用アンカーコート剤としても用いることができる。その場合、アンチブロッキング剤を入れることが好ましい。
【0034】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、接着剤用として公知の添加剤を制限なく配合することができる。例えば、反応促進剤を使用することができる。具体的には、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジマレート等金属系触媒;1 ,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の3級アミン;トリエタノールアミンのような反応性3級アミン等が挙げられる。反応促進剤は、1種又は2種以上を併用して使用できる。
【0035】
さらに、ラミネート外観を向上させる目的で、公知のレベリング剤又は消泡剤を主剤に配合することもできる。
【0036】
レベリング剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、アクリル系共重合物、メタクリル系共重合物、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アクリル酸アルキルエステル共重合物、メタクリル酸アルキルエステル共重合物、レシチン、又はそれらの混合物等公知のものが挙げられる。
【0037】
消泡剤としては、シリコーン樹脂、シリコーン溶液、アルキルビニルエーテルとアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとの共重合物、又はそれらの混合物等の公知のものが挙げられる。レべリング剤、消泡剤を添加する場合、それぞれ独立に、1種類の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0038】
また、本発明で使用される公知の添加剤として、太陽などの紫外線による接着剤の経時での黄変、太陽熱などの熱による接着剤の経時での黄変をさらに抑制する目的で、公知のリン系やフェノール系の酸化防止剤、紫外線安定剤、金属不活性化剤を、主剤に配合することができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。本発明で使用されるリン系やフェノール系の酸化防止剤、紫外線安定剤、金属不活性化剤は、アクリルポリオール(A)の固形分100重量部に対し0.05〜5重量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。添加量が0.05重量未満であると、十分な黄変抑制効果が得られない恐れがあり、5重量部よりも多いと、接着剤の接着力を大きく悪化させてしまう恐れがある。
【0039】
硬化剤としては、上記ポリイソシアネート(B)の他に、本発明の効果を阻害しない範囲内で、任意に、周知のオキサゾリン化合物、例えば、2,5−ジメチル−2−オキサゾリン、若しくは2,2−(1,4−ブチレン)−ビス(2−オキサゾリン)、又は、ヒドラジド化合物、例えば、イソフタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、若しくはアジピン酸ジヒドラジド等を含むことができる。
【0040】
本発明で使用される溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;メチレンクロリド、エチレンクロリドなどのハロゲン化炭化水素類;ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホアミドなどが挙げられる。用いる溶剤は、1種類の溶剤を使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0041】
本発明の接着剤の不揮発分(固形分)は、10〜50重量%の範囲が好ましい。本接着剤は上記に例示したような溶剤を用いて固形分の調整を行うことができる。
【0042】
次に、本発明の積層シート用接着剤組成物を用いてなる太陽電池用裏面保護シートを製造する方法、及び太陽電池用裏面保護シートの一例について説明する。なお、太陽電池用裏面保護シートの製造方法や構成は、以下の例に限定されるものではなく、目的やニーズに応じて、様々な製造方法や構成を採用できる。
【0043】
太陽電池モジュールは、単純なものは、太陽電池素子である太陽電池セルの両面に充填剤、及びガラス板を順に積層した構成形態を有している。ガラス板は、透明性、耐候性、耐擦傷性に優れることから、太陽の受光面側の封止シートとして、現在も一般的に用いられている。しかし、透明性を必要としない非受光面側においては、コストや安全性、加工性の面から、ガラス板以外の太陽電池用裏面保護シート(以下裏面保護シート)が各社により開発され、これらがガラス板に置き換わりつつある。
【0044】
太陽電池用裏面保護シートとしては、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム、ポリエステルフィルム等に金属酸化物や非金属酸化物の蒸着層を設けた金属層付きプラスチックフィルム、アルミニウム箔などの金属箔、窒化珪素層付きプラスチックフィルム等を積層したものがある。積層する各シート状部材間は、本発明の積層シート用接着剤組成物を用いて接合することができる。多層構成の太陽電池用裏面保護シートは、その多層構造により、様々な性能を付与することができる。例えば、ポリエステルフィルムを用いることで絶縁性を、フッ素系フィルムを用いることで耐候性を、アルミニウム箔を用いることで水蒸気バリア性を付与することができる。どのような太陽電池用裏面保護シートを用いるかは、太陽電池モジュールが用いられる製品・用途によって、適宜選択され得る。
【0045】
プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリスルホン系樹脂フィルム、ポリ(メタ)アクリル系樹脂フィルム、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレンテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系樹脂フィルム等が挙げられる。
これらのプラスチックフィルムを支持体とし、アクリル系、フッ素系塗料がコーティングされてなるフィルムや、ポリフッ化ビニリデンやアクリル樹脂などが共押出しにより積層されてなる多層フィルムなどを使用することができる。さらに、ウレタン系接着剤層などを介して上記のプラスチックフィルムが複数積層されたシート状部材を用いてもよい。
上記のプラスチックフィルムは、表面がコロナ放電、プラズマ処理、フレーム処理等の物理的処理や、フィルム表面を酸やアルカリなどで改質する化学的処理、フィルム表面に微細な凹凸をつけ、いわゆるシボ状態にするマット加工等などによって、易接着面とされているものを好適に用いることができる。無論、本発明の積層シート用接着剤組成物を、表面未処理素材に適用してもよいことは言うまでもない。
【0046】
金属箔としては、アルミニウム箔や銅箔が挙げられる。蒸着される金属酸化物、若しくは非金属無機酸化物としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウムなどの酸化物が使用できる
【0047】
これらの中でも、太陽電池モジュールとして使用する際の耐候性、水蒸気透過性、電気絶縁性、機械特性、実装作業性などの性能を満たす為に、温度に対する耐性を有する、ポリエチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルムと、太陽電池セルの水の影響による出力低下を防止する為に水蒸気バリア性を有する金属酸化物、若しくは非金属無機酸化物が蒸着されたプラスチックフィルムまたはアルミニウム箔などの金属箔と、光劣化による外観不良発生を防止する為に耐候性の良好なフッ素系樹脂フィルムが積層されてなる太陽電池用裏面保護シートが好ましい。
【0048】
また、太陽電池用裏面保護シートには、太陽電池モジュールを電圧印加による破損から保護する為に、太陽電池セルの発電容量に併せ、部分放電電圧700V、若しくは1000Vの耐性が要求され電気絶縁性や発泡層を含むことで部分放電電圧を向上させる構成が多く採用されている。部分放電電圧を向上させる方法としての電気絶縁性はフィルムや発泡層の厚みに依存する為に、フィルムや発泡層は圧膜となる傾向がある。最近では100μmから300μm程度のものを用いる構成が多く採用されている。
【0049】
接着剤層の形成は、例えば、一方のプラスチックフィルム等のシート状部材の片面に、コンマコーターやドライラミネーターによって接着剤組成物を塗布し、溶剤を揮散させた後、他方のラミネート基材と貼り合わせ、常温、若しくは加温下で硬化させることによって得られる。あるいは、任意の一のシート状部材に接着剤組成物を塗工して加熱硬化し、接着剤層を形成し、接着剤層を形成した後、他のシート状部材形成用塗液を塗工し、熱もしくは活性エネルギー線により他のシート状部材を形成したりすることによって製造することができる。接着剤組成物をシート状部材に塗工する装置としては、コンマコーター、ドライラミネーター、ロールナイフコーター、ダイコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター等が挙げられる。ラミネート基材表面に塗布される接着剤量はドライ換算で、0.1〜50g/m2程度であることが好ましい。より好ましくは、1〜50g/m程度である。ラミネート基材としては、用途に応じて、任意の基材を、任意の数で選択することができ、3層以上の多層構成とする際には、各層の貼り合わせの全て、又は一部に本発明に係る接着剤組成物を使用できる。
【0050】
シート状部材形成用塗液としては、プラスチックフィルムの形成に使用され得る、ポリエステル系樹脂溶液、ポリエチレン系樹脂溶液、ポリプロピレン系樹脂溶液、ポリ塩化ビニル系樹脂溶液、ポリカーボネート系樹脂溶液、ポリスルホン系樹脂溶液、ポリ(メタ)アクリル系樹脂溶液、フッ素系樹脂溶液等が好ましい例として挙げられる。
太陽電池用裏面保護シートとして要求される性能、価格、生産性等を勘案して、種々の製造方法を選択したり、さらに組み合わせたりすることができる。
【0051】
≪実施例≫
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。なお、実施例中、部は重量部、%は重量%、水酸基価はmgKOH/gをそれぞれ示す。数平均分子量、ガラス転移温度、水酸基価は以下のようにして求めた。
【0052】
<数平均分子量>
数平均分子量の測定は、東ソー社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC−8020」を用い、カラムはSHODEX KF−806L 2本、KF−804L 1本、KF−802 1本を用い、溶媒はテトラヒドロフランを用いた。数平均分子量は標準ポリスチレン換算で行った。
【0053】
<ガラス転移温度(Tg)>
ガラス転移温度(Tg)の測定は、セイコーインスツルメンツ社製DSC「RDC220」を用いて行った。下記手法で合成したポリカーボネートウレタンポリオールA−1〜A−21溶液を乾燥した試料、約10mgをアルミニウムパンに量り採り、DSC装置にセットして液体窒素で−100℃まで冷却した後、10℃/minで昇温して得られたDSCチャートからガラス転移温度を求めた。
【0054】
<水酸基価>
水酸基価は、試料約2gをピリジン約10mlに溶解した後、予め調整した無水酢酸/ピリジンの体積比が15/85である混合溶液5mlを加え、20時間放置した。その後、水1mlとエタノール10mlを加え、0.1Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0055】
<アクリルポリオール(A)の製造>
(合成例1) コンデンサー、窒素導入管、滴下ロート、及び温度計を備えた4口フラスコに、酢酸エチル100重量部を仕込み、80℃に昇温した。次いで、ブチルアクリレート47.2重量部、エチルメタアクリレート51.0重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1.8重量部、及びアゾビスイソブチルニトリル2.0重量部を予め混合したモノマー液を、滴下ロートより2時間かけて滴下した。その後、1時間反応させ、次いでアゾビスイソブチルニトリル0.2重量部を加えて1時間反応させる工程を、モノマーの転化率が98%以上になるまで行ってから冷却した。そして、酢酸エチルを加えて固形分50%の溶液を得た。
(合成例2〜21) 重合開始剤アゾビスイソブチルニトリルの添加量により分子量を調節した以外は、合成例1と同様にして、表1に示す合成例2〜21のアクリルポリオールを得た。なお、合成例17については、特許文献2にて合成例1として示される組成のアクリルポリオールである。なお、表1中の略語は、下記の通りである。
BA:ブチルアクリレート、EMA:エチルメタアクリレート、EA:エチルアクリレート、St:スチレン、CHMA:シクロヘキシルメタクリレート、2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート、HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート、4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート、HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
【0056】
【表1】

【0057】
<接着剤組成物の配合例>
(実施例1〜5、7〜17、参考例1、比較例1〜6) 固形分換算で100重量部の主剤であるアクリルポリオール(A)に対し、硬化剤であるポリイソシアネート(B)を表2に示す配合比にて配合すると共に、添加剤としてグリシジル基含有シランカップリング剤(「KBM−403」信越化学社製)を3.0重量部、及びジラウリン酸ジオクチル錫(「ネオスタン U−810」、日東化成社製)を0.01重量部配合し、さらに酢酸エチルで固形分が30%になるように調整した。
【0058】
【表2】

【0059】
<積層フィルム1の作製例>
実施例1〜5、7〜17、参考例1、及び比較例1〜6の各接着剤組成物を用い、ポリエステルフィルム[東レ社製、ルミラーX−10S、厚み50μm]のコロナ処理面に、接着剤組成物を乾燥塗布量:4〜5g/mとなる量でドライラミネーターによって塗布した。そして、溶剤を揮散させた後、もう1枚のポリエステルフィルム[東レ社製、ルミラーX−10S、厚み50μm]のコロナ処理面にラミネートした。その後、40℃で3日間の硬化処理(エージング)を行うことにより接着剤を硬化させて、積層フィルム1を作製した。
【0060】
<積層フィルム2の作製例>
実施例1〜4、及び比較例1〜3の接着剤組成物を用い、前述の積層フィルム1の作製法に準じ、[コロナ処理ポリエステルフィルム/接着剤層/アルミホイル]なる構成の積層フィルム2を作製した。
【0061】
<積層フィルム3の作製例>
実施例1〜4、及び比較例1〜3の接着剤組成物を用い、前述の積層フィルム1の作製法に準じ、シリカ蒸着ポリエステルフィルムの蒸着層が接着剤層に接するようにして、[コロナ処理ポリエステルフィルム/接着剤層/シリカ蒸着ポリエステルフィルム]なる構成の積層フィルム3を作製した。
【0062】
表2、表3に、実施例1〜5、7〜17、参考例1、比較例1〜6における主剤と硬化剤との組合せ、及び積層フィルム1の初期接着力と85℃、湿度85%雰囲気下において1000時間、2000時間、及び3000時間暴露後の接着力を示す。
また、表4、表5に、実施例1〜4、比較例1〜3を用いた積層フィルム2、3の初期接着力と85℃、湿度85%雰囲気下において1000時間、2000時間、及び3000時間暴露後の接着力を示す。以下に具体的な評価方法を説明する。
【0063】
<エージング前・後の接着力試験>
エージング前、及びエージング後の前記積層フィルム1、2、3をそれぞれ200mm×15mmの大きさに切断し、25℃、湿度65%の環境下で6時間静置後、ASTM−D1876−61の試験法に準じ、引張り試験機を用いて、25℃、湿度65%の環境下で、荷重速度300mm/分でT型剥離試験をおこなった。PETフィルム/PETフィルム間、PETフィルム/アルミホイル間、PETフィルム/シリカ蒸着ポリエステルフィルム間の剥離強度(N/15mm巾)を5個の試験片の平均値で示す。
<耐湿熱性試験後の接着力試験>
エージング後の前記積層体をそれぞれ200mm×15mmの大きさに切断し、85℃、湿度85%の環境下で1000時間、2000時間、3000時間静置した。その後、25℃、湿度65%の環境下で6時間静置後、ASTM−D1876−61の試験法に準じ、引張り試験機を用いて、25℃、湿度65%の環境下で、荷重速度300mm/分でT型剥離試験をおこなった。PETフィルム/PETフィルム間、PETフィルム/アルミホイル間、PETフィルム/シリカ蒸着ポリエステルフィルム間の剥離強度(N/15mm巾)を5個の試験片の平均値で示す。
【0064】
<評価基準>
[エージング前の接着力試験]
◎ 実用上優れる:3N/15mm以上
○ 実用域:2〜3N/15mm
△ 実用下限:1〜2N/15mm
× 実用不可:1N/15mm未満
[エージング後の試験、耐湿熱性試験後の接着力試験]
◎ 実用上優れる:5N/15mm以上
○ 実用域:4〜5N/15mm
△ 実用下限:2〜4N/15mm
× 実用不可:2N/15mm未満
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
表3に示されるように、実施例の接着剤組成物は、エージング前・後の接着力、及び耐湿熱性試験後の接着力に優れ、長期にわたり接着強度を維持することができることがわかった。従って、これらの実施例の接着剤組成物は、屋外用途向けの長期耐湿熱性に優れていると考えられる。
【0069】
また、JIS C 8917(結晶系太陽電池モジュールの環境試験方法及び耐久試験方法)には、85℃、湿度85%下で1000時間に耐久すること、という耐湿性試験B−2が定められており、特に過酷な試験方法として知られている。本実施例においては、1000時間を超え、3000時間の長期にわたって、接着強度を維持できることが示され、本発明の接着剤組成物は、十分な長期耐湿熱性を有していると言える。
【0070】
太陽電池用裏面保護シートがこのような長期耐湿熱試験において、十分な層間接着強度(ラミネート強度)を保持し、シート層間にデラミネーションを発生させないことにより、太陽電池素子の保護、発電効率の維持、更に太陽電池の寿命延長に寄与することができる。太陽電池の寿命延長は、太陽電池システムの普及につながり、化石燃料以外でのエネルギー確保の観点から、環境保全に寄与することにもなる。
【0071】
本発明に係る接着剤組成物は、建造物など屋外産業用途向け多層積層材(防壁材、外壁材、屋根材、太陽電池パネル材(太陽電池用裏面保護シート、太陽電池表面保護シート)、窓材、屋外フローリング材、証明保護材、自動車部材等)用の接着剤として強い接着強度を提供することができる。しかも、屋外暴露時に加水分解等による経時的な接着強度の低下を抑え、長期間にわたって強い接着強度を維持できる。
【0072】
比較例1は、アクリルポリオール(A)のガラス転移温度が55℃であり、50℃より高い例である。評価の結果、基材への濡れ性がほとんどなく、初期の接着力が小さく、耐湿熱性試験で接着力が低下するという結果を得た。
【0073】
比較例2は、アクリルポリオール(A)の数平均分子量が6,000であり、10,000未満の例である。評価の結果、エージング工程前の接着剤の凝集力が不足し、エージング工程前の接着力が小さいことがわかった。工業的生産の場合、ロール状の巻き取った状態の積層体は、巻き芯を天地方向にしてエージングされる。エージング工程前の接着力が小さいと、エージングの際中に巻きが崩れ易く、工業的生産には不適である。
【0074】
比較例3は、アクリルポリオール(A)の数平均分子量が150,000であり、100,000より大きい例である。評価の結果、PETフィルムへの濡れ性が不足し、エージング前に十分な接着力を得ることができないことがわかった。比較例2と同様、エージングの最中に巻きが崩れ易く、工業的生産には不適である。また、耐湿熱性試験により接着力が徐々に低下し、元々の接着力が低いため、3000時間後には実用下限を下回るという結果が得られた。
【0075】
比較例4は、アクリルポリオール(A)のガラス転移温度が−50℃であり、−40℃より低い例である。評価の結果、表面処理ポリエステルフィルムの場合であっても3(N/15mm)程度の接着力すら発現できないことがわかった。
【0076】
比較例5は、アクリルポリオール(A)のOH価が110であり、100より大きい例である。評価の結果、架橋が過剰になり非常に硬い硬化塗膜となり接着性に劣るという結果を得た。
【0077】
比較例6は、ポリイソシアネート(B)の配合量がNCO/OH=12の例である。評価の結果、塗工する前にアクリルポリオール(A)との反応が進み、ゲル物が発生したため塗工することができないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る積層シート用接着剤組成物は、同一または異なる素材の被着体を接合するために用いるものであり、例えば、プラスチック系素材と金属系素材との多層積層体の接合に好適に用いられる。勿論、プラスチック系素材同士、金属系素材同士の接合にも好適である。本発明に係る積層シート用接着剤組成物は、高温高湿度環境下に曝されても高い接着力を維持できる。従って、建造物など屋外産業用途向け多層積層材(防壁材、外壁材、屋根材、太陽電池パネル材(太陽電池用裏面保護シート、太陽電池表面保護シート)、窓材、屋外フローリング材、照明保護材、自動車部材等)用の接着剤として好適である。長期間にわたって経時的な接着強度を維持できるので、環境耐性が強く求められてきた用途、例えば、太陽電池用裏面保護シートの形成に特に好適である。また、太陽電池用表面保護シートの形成にも好適である。また、本発明に係る積層シート用接着剤組成物は、特にプラスチックフィルムの表面処理層を含む層間で高い接着力を示すものであるが、表面未処理素材(表面未処理プラスチックフィルムも含む)にも好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)とを含有してなる積層シート用接着剤組成物であって、
前記アクリルポリオール(A)の数平均分子量が10,000〜100,000であり、かつ、水酸基価が1〜100mgKOH/gであり、さらに、ガラス転移温度(Tg)が−25℃を越え、10℃以下であり、
前記アクリルポリオール(A)に由来する水酸基と、前記ポリイソシアネート(B)に由来するイソシアネート基との当量比NCO/OHが、0.1〜3である
(但し、2層以上のシート状部材を具備した太陽電池用裏面保護シートの製造に用いられ、前記シート状部材同士を接合するための接着剤層の少なくとも一部を形成する用途に用いられるものを除く)積層シート用接着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート(B)が、脂環式ジイソシアネート又は脂肪族ジイソシアネートから誘導されるポリイソシアネートを含むことを特徴とする請求項1に記載の積層シート用接着剤組成物。

【公開番号】特開2012−214805(P2012−214805A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114065(P2012−114065)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【分割の表示】特願2012−27452(P2012−27452)の分割
【原出願日】平成24年2月10日(2012.2.10)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】