穴明け工具
【課題】環境性及びコスト性に秀れた極めて実用的な穴明け工具の提供。
【解決手段】工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝が一若しくは複数形成された刃部2を有するボデー部1と、基端側に前記刃部2より径大なシャンク本体15を有するシャンク部3とから成り、前記刃部2は炭化タングステン及びコバルトを主成分とする超硬合金部材、一方、前記シャンク部3はステンレス鋼部材で形成されており、また、この超硬合金部材及びステンレス鋼部材は溶接接合され、前記刃部2と前記シャンク本体15との間には、その途中部の外径が前記刃部2より大きく且つ前記シャンク本体15より小さいステップ部4が設けられた穴明け工具であって、前記ステップ部4の外径は基端側ほど段階的若しくは連続的に径大となるように設定する。
【解決手段】工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝が一若しくは複数形成された刃部2を有するボデー部1と、基端側に前記刃部2より径大なシャンク本体15を有するシャンク部3とから成り、前記刃部2は炭化タングステン及びコバルトを主成分とする超硬合金部材、一方、前記シャンク部3はステンレス鋼部材で形成されており、また、この超硬合金部材及びステンレス鋼部材は溶接接合され、前記刃部2と前記シャンク本体15との間には、その途中部の外径が前記刃部2より大きく且つ前記シャンク本体15より小さいステップ部4が設けられた穴明け工具であって、前記ステップ部4の外径は基端側ほど段階的若しくは連続的に径大となるように設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴明け工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の著しい進化に伴い、プリント配線板への高密度実装の要求が高まっている。そのため、例えば特許文献1に開示されるようなプリント配線板(PCB)加工用の穴明け工具も年々小径化が進んでおり、現在では刃部の直径が0.4mm未満の小径穴明け工具の量産化が進んでいる。
【0003】
ところで、このような穴明け工具において十分な周速での加工が行われない場合には、工具折損等の不具合が生じることが知られている。特に、極小径穴明け工具の場合には、より高回転で回転させることにより十分な周速を得る必要があるが、当該穴明け工具を高回転で回転させると、その遠心力で工具が撓んで振れ回る所謂動的振れが生じる。
【0004】
また、超硬合金製の刃部を有するボデー部とステンレス鋼製等のシャンク部とを溶接接合(例えばろう接)して成る複合材接合タイプは、シャンク部の素材の縦弾性係数が超硬合金よりも小さいことから、1つの超硬合金材に刃部(ボデー部)とシャンク部とが一体に形成されるソリッドタイプに比し、動的振れが大きくなる傾向がある。
【0005】
即ち、図1(1)に示すように、一般に複合材接合タイプにおいてステンレス鋼などの鋼材をシャンク部に使用した場合、縦弾性係数が超硬合金材よりも小さいことが原因で工具の動的振れが大きくなる傾向が確認されている。動的振れが大きい場合、穴明け工具先端の振れ回りが位置決め精度を悪化させ、結果として穴位置精度を低下させる。
【0006】
図1(1)の(a),(b)は穴位置精度を表す図を例示したものであって、設定された穴明け位置に対する実際に加工された穴の位置のずれ量をグラフ上にプロットしたものであり((a),(b)夫々、6,000ヒット分のデータがプロットされている。)、縦軸(Y軸)と横軸(X軸)の交点(グラフ中心)がずれ量0μmを示すものである。グラフ中心にプロットが集まるほど穴位置精度が良いことになり、一般に、通常の回転領域での穴明け加工ではソリッドタイプ、複合材接合タイプのいずれの場合でも(a)に図示したように比較的グラフ中心にプロットが集まったものとなる。一方、動的振れが大きい場合には、(b)に図示したようにプロットが中心に集まらずに極端に穴位置精度が悪い場合は略ドーナツ状のグラフとなる。また、図1(1)(c)に図示したように、動的振れが大きいほど、工具が折損するまでの寿命(ヒット数(加工穴数))が短くなることが知られている。
【0007】
穴明け加工時において動的振れがある場合には、穴明け設定位置からずれた位置で工具の刃先が被削材に食い付き、穴明けが進行するほど刃部が撓み、設定した深さまで穴明け加工が終了すると工具が被削材から引き抜かれるため、穴明けと引き抜きが行われるたびに刃部根元に繰り返し応力が付加されることになり、よって疲労破壊を招く。動的振れが大きい場合には位置ずれが大きいために刃部の撓みが大きく、よって上記の応力が増大することにより折損寿命が短くなる。
【0008】
従って、高回転領域で使用される穴明け工具は現状では動的振れが小さいソリッドタイプが主流である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−88088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ソリッドタイプはレアメタルであるタングステンの使用量が多く、環境面、コスト面においては複合材接合タイプの使用が望ましい。
【0011】
また、PCB加工用等の小径穴明け工具においては、上述の遠心力による撓みだけでなく、加工時に生じる横方向(工具軸直角方向)の負荷による撓みも穴位置精度に影響を与えるため、できるだけ剛性を高めた形状を採用するのが一般的である。
【0012】
具体的には、加工自体は工具軸方向で行われるため、横方向の負荷はエンドミル等と比べると小さく、工具先端に横方向からの荷重を加えた場合においても、径が比較的小さい刃部の根元に応力集中が起こることから、穴位置精度を向上させるためには、一般的には刃部の心厚を大きくする等の設計が行われている。
【0013】
しかし、心厚を大きくした場合、穴位置精度は向上する傾向にあるが、溝体積が小さくなることから、切り屑詰まりや加工穴内壁粗さの悪化を引き起こし、工具折損や十分な穴品質が得られないという問題が発生する。溝体積を保ちつつ十分な剛性を保つ為には工具径自体を大きくする手段があるが、加工される穴径も大きくなることから本来の目的である高密度実装を達成できなくなる。高回転加工が求められる極小径工具において、工具径を変えずに遠心力による撓み、加工負荷による撓みを同時に抑制する為には、刃部のみに着目した設計では、工具全体の剛性と動的振れのバランスを取ることが難しく、従来の複合材接合タイプでは、工具先端の動的振れを改善することは困難であった。
【0014】
尚、図2は従来のPCB加工用のドリルの外形を図示したものである。図中符号1’はボデー部、2’は刃部、3’はシャンク部、4’はステップ部、5’はボデーテーパ部、6’はシャンクテーパ部、15’はシャンク本体であり、図2(a)は外径が一定のステップ部4’を設けたタイプ、図2(b)はステップ部4’を設けないタイプ(所謂ルーマタイプ)である。
【0015】
図2(a)は具体的には、刃部2’の基端部に基端側ほど径大となるテーパ状のボデーテーパ部5’が設けられ、このボデーテーパ部5’の基端に外径が一定のステップ部4’が連設されてボデー部1’が構成され、前記ステップ部4’の基端にシャンク部3’が連設されている。シャンク部3’にはシャンク本体15’の先端に先端側ほど径小となるテーパ状のシャンクテーパ部6’が設けられており、このシャンクテーパ部6’が前記ステップ部4’に連設されている。
【0016】
図2(b)はステップ部4’を設けないタイプで具体的には、略同一径の刃部2’の基端にシャンク部3’が連設されている。シャンク部3’にはシャンク本体15’の先端に先端側ほど径小となるシャンクテーパ部6’が設けられており、このシャンクテーパ部6’が前記刃部2’に連設されている。つまり図2(b)はステップ部4’だけでなくボデーテーパ部5’も存在しない形状である。
【0017】
従来の複合材接合タイプは一般に、接合境界がシャンクテーパ部6’の領域内に位置するように設計されており、また、ボデーテーパ部5’のボデーテーパ角α’は15°以上、シャンクテーパ部6’のシャンクテーパ角β’は20°以上に設定されるのが一般的である。特に、ボデーテーパ角α’とシャンクテーパ角β’は共に30°〜90°に設定されるのが一般的である。これらの角度は後述する本発明についての技術的思想に基づく設定値ではなく、例えば当該穴明け工具が取り付けられる穴明け加工機のスピンドルチャック(コレットチャック)径に適用できるように穴明け工具のシャンク径を設定し、そのシャンク径から、穴明け加工機側のその他の仕様や規格に応じて、シャンク径より小径の刃部の直径まで縮径させて連設させるためだけに設定された角度にすぎない。
【0018】
本発明は、上述のような現状に鑑み、刃部とシャンク部との間のステップ部に着目し、ステップ部の形状等を工夫することで複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制することが可能となることを見出し完成したもので、環境性及びコスト性に秀れた極めて実用的な穴明け工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0020】
工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝が一若しくは複数形成された刃部2を有するボデー部1と、基端側に前記刃部2より径大なシャンク本体15を有するシャンク部3とから成り、前記刃部2は炭化タングステン及びコバルトを主成分とする超硬合金部材、一方、前記シャンク部3はステンレス鋼部材で形成されており、また、この超硬合金部材及びステンレス鋼部材は溶接接合され、前記刃部2と前記シャンク本体15との間には、その途中部の外径が前記刃部2より大きく且つ前記シャンク本体15より小さいステップ部4が設けられた穴明け工具であって、前記ステップ部4の外径は基端側ほど段階的若しくは連続的に径大となるように設定されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0021】
また、請求項1記載の穴明け工具において、前記ステップ部4は前記ボデー部1に設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0022】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4には該ステップ部4の先端側の径小部と該ステップ部の基端側の径大部とを連設する段差部7が設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0023】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4には先端側から基端側に向かって外径が漸増するフロントテーパ部8,25,26が設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0024】
また、請求項4記載の穴明け工具において、前記フロントテーパ部8,25,26のテーパ角は前記シャンク部先端に設けられるシャンクテーパ部6のテーパ角より小さい値に設定されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0025】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4の先端側所定位置の直径D1と基端側所定位置の直径D2の差を当該2点間の距離Lcで除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、工具先端から9mm未満の場合は下記式(5)、9mm以上12mm以下の場合は下記式(6)で表されることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
記
0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.26 (5)
0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.15 (6)
【0026】
また、請求項6記載の穴明け工具において、工具先端から4mmの位置での直径が1.5mm以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0027】
また、請求項6,7いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4の重心位置が工具基端から工具全長の92.0%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置が工具基端から工具全長の42.5%以下の位置となるように構成されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0028】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4の先端側所定位置の直径D1と基端側所定位置の直径D2の差を当該2点間の距離Lcで除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、工具先端から9mm未満の場合は下記式(7)、9mm以上12mm以下の場合は下記式(8)で表されることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
記
0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.15 (7)
0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.1 (8)
【0029】
また、請求項9記載の穴明け工具において、工具先端から4mmの位置での直径が0.8mm以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0030】
また、請求項9,10いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4の重心位置が工具基端から工具全長の82.5%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置が工具基端から工具全長の37.5%以下の位置となるように構成されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0031】
また、請求項1〜11いずれか1項に記載の穴明け工具において、この穴明け工具は、プリント配線板加工用のドリルであることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明は上述のように構成したから、複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制することが可能で、環境性及びコスト性に秀れた極めて実用的な穴明け工具となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】穴明け工具の動的振れに関する概略説明図である。
【図2】従来形状を説明する概略説明側面図である。
【図3】段差部を設けた穴明け工具の概略説明側面図である。
【図4】フロントテーパ部を設けた穴明け工具の概略説明側面図である。
【図5】フロントテーパ部を設けた穴明け工具の概略説明側面図である。
【図6】穴明け工具の動的振れと縦弾性係数との関係に関する概略説明図である。
【図7】穴明け工具の動的振れと質量、重心位置との関係に関する概略説明図である。
【図8】穴明け工具の動的振れと剛性との関係に関する概略説明図である。
【図9】穴明け工具の動的振れに関する概略説明図である。
【図10】シャンク径が2mmの穴明け工具の実験条件及び実験結果を示す概略説明図である。
【図11】シャンク径が3.175mmの穴明け工具の実験条件及び実験結果を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0035】
穴明け工具を穴明け加工機のスピンドルチャック(コレットチャック)に把持せしめ、当該穴明け工具により回転切削加工を行う。この際、ステップ部4の外径を基端側ほど段階的若しくは連続的に径大とすることで、穴明け工具にしてコレットチャックから突き出す突出し部の質量を小さくしつつ、剛性を高めることができ、遠心力及び横方向の負荷による撓みを軽減できる。しかも、先端側ほど質量が小さくなることで重心位置がコレットチャック側に寄ることになり、遠心力による撓みを十分に軽減できることになる。よって、横方向の負荷及び遠心力による撓み双方を軽減でき、複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制可能となる。
【実施例】
【0036】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0037】
本実施例は、工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝が一若しくは複数形成された刃部2を有するボデー部1と、基端側に前記刃部2より径大なシャンク本体15を有するシャンク部3とから成り、前記刃部2は炭化タングステン及びコバルトを主成分とする超硬合金部材、一方、前記シャンク部3はステンレス鋼部材で形成されており、また、この超硬合金部材及びステンレス鋼部材は溶接接合され、前記刃部2と前記シャンク本体15との間には、その途中部の外径が前記刃部2より大きく且つ前記シャンク本体15より小さいステップ部4が設けられた穴明け工具であって、前記ステップ部4の外径は基端側ほど段階的若しくは連続的に径大となるように設定されているものである。
【0038】
具体的には本実施例は、先端に被削物に穴明け加工を施す切れ刃が形成された刃部2を有するボデー部1と穴明け加工機のコレットチャックに把持されるシャンク部3とを備えた刃部2の直径が0.4mm未満のPCB加工用のドリルである。
【0039】
各部を具体的に説明する。
【0040】
ステップ部4は、ボデー部1の刃部2とシャンク部3のシャンク本体15との間に設けられるものであり、刃部2及びシャンク部3とは別体で、これらに夫々溶接接合(例えばろう接)される構成としても良い。つまり前述したように、従来の複合材接合タイプは一般に、接合境界がシャンクテーパ部6’の領域内に位置するように設計されているが、本実施例では、接合境界は、従来と同様にシャンクテーパ部6’の領域内に位置しても良いし、その他の部位に位置しても良く、特に限定されるものではない。
【0041】
具体的には、ボデー部1には、刃部2の基端部に基端側ほど径大となるテーパ状のボデーテーパ部5が設けられ該ボデーテーパ部5の基端にステップ部4が連設され、シャンク部3には、シャンク本体15の先端に先端側ほど径小となるテーパ状のシャンクテーパ部6が設けられており、このシャンクテーパ部6の先端が前記ステップ部4の基端に連設されている構成としても良いし、ボデーテーパ部5若しくはシャンクテーパ部6またはその両者を設けずに刃部2とシャンク本体15との間にステップ部4を設ける構成としても良い。
【0042】
また、(シャンクテーパ部6で超硬合金製部分とステンレス鋼製部分とを溶接接合することで)ステップ部4はボデー部1と同様の超硬合金製としても良いし、(ボデーテーパ部5で超硬合金製部分とステンレス鋼製部分とを溶接接合することで)シャンク部3と同様のステンレス鋼製としても良く、また、ステップ部4の先端側を超硬合金製とし基端側をステンレス鋼製としても良い。また、超硬合金製部分、ステンレス鋼製部分とを夫々形成し、両者を溶接接合する構成としても良い。
【0043】
具体的には、ステップ部4は、工具全長が36〜40mmで、シャンク本体15の径(シャンク径)が2.6〜3.6mm(更に具体的には3.175mm)である場合には、先端側所定位置の直径D1と基端側所定位置の直径D2の差を当該2点間の距離Lcで除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、刃部2の先端から9mm未満(超硬合金部材で形成される部分の工具先端からの長さLbが9mm未満)の場合は次式0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.26で表され、Lbが9mm以上12mm以下の場合は次式0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.15で表されるように設定される。
【0044】
また、シャンク径が2.6〜3.6mmである場合、工具先端から4mmの位置での直径は1.5mm以下となるように設定される。
【0045】
また、シャンク径が2.6〜3.6mmである場合、ステップ部4の重心位置は工具基端から工具全長の92.0%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置は工具基端から工具全長の42.5%以下の位置となるように構成される。
【0046】
一方、ステップ部4は、工具全長が22〜34mmで、シャンク径が1.3〜2.5mm(更に具体的には2mm)である場合には、先端側所定位置の直径D1と基端側所定位置の直径D2の差を当該2点間の距離Lcで除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、刃部2の先端から9mm未満(超硬合金部材で形成される部分の工具先端からの長さLbが9mm未満)の場合は次式0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.15で表され、Lbが9mm以上12mm以下の場合は次式0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.1で表されるように設定される。
【0047】
また、シャンク径が1.3〜2.5mmである場合、工具先端から4mmの位置での(ステップ部4の)直径は0.8mm以下に設定される。
【0048】
また、シャンク径が1.3〜2.5mmである場合、ステップ部4の重心位置は工具基端から工具全長の82.5%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置は工具基端から工具全長の37.5%以下の位置となるように構成される。
【0049】
尚、PCB加工用のドリルのコレットチャックからの突出し長は、通常15〜24mm程度であり、超硬合金材が使用される工具先端からの長さは通常12mm以下である。
【0050】
ステップ部4の外径を基端側ほど段階的若しくは連続的に径大とする形状は、上記の要件を満たすものであればどのような形状でも良く、例えば、図3に図示したようなステップ部4の先端側の径小部と該ステップ部4の基端側の径大部とを連設する段差部7を設ける構成や、図4,5に図示したような先端側から基端側に向かって外径が漸増するフロントテーパ部8を設ける構成や、図示しないが、先端側から基端側に向かって曲線状に拡径する拡径部を設ける構成、その他、これらを組み合わせた構成により達成できる。
【0051】
図3は図2(a)に図示した従来形状と同様にボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6を設け、また、上記段差部7を設けるタイプを図示したものである。図3(a)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、第一のストレート部9と該第一のストレート部9より径大な第二のストレート部10と、この両者の間に先端側ほど径小となるテーパ状の段差部7とを設けた構成である。また、図3(b)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に設けられる、第一のストレート部9と第二のストレート部10と第三のストレート部11との間に夫々段差部7を設けた構成のステップ部4を有するものである。尚、本実施例においてストレート部とは、径が一定の円筒状部分をいう。
【0052】
また、図3において、上記先端側所定位置の直径D1はステップ部4の先端位置における径であり、上記基端側所定位置の直径D2はステップ部4の基端位置における径である。尚、ステップ部4の基端位置はボデー部1の基端位置と同じ位置である。具体的には、図3(a)において、上記先端側所定位置の直径D1は、ボデーテーパ部5の基端と第一のストレート部9の先端との連設部における径、上記基端側所定位置の直径D2は、第二のストレート部10の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径であり、図3(b)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端と第一のストレート部9の先端との連設部における径、上記直径D2は、第三のストレート部11の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径である。但し、上記直径D2については、当該ステップ部4の基端位置(ボデー部1の基端位置)Laが工具先端から8mm以上の位置にある場合には、工具先端から8mmの位置の径である。
【0053】
図4は図2(a)に図示した従来形状と同様にボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6を設け、また、上記フロントテーパ部8を設けるタイプを図示したものである。
【0054】
図4(a)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、フロントテーパ部8を設けた構成である。また、図4(b)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、先端側ストレート部12と該先端側ストレート部12の基端側に段差部7を介してフロントテーパ部8とを設けた構成であり、図4(c)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、フロントテーパ部8と該フロントテーパ部8の基端側に基端側ストレート部13とを設けた構成であり、図4(d)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、先端側ストレート部12と該先端側ストレート部12の基端側に段差部7を介してフロントテーパ部8を設け、このフロントテーパ部8の基端側に基端側ストレート部13を設けた構成である。尚、図4においては、フロントテーパ部8のテーパ角はシャンクテーパ部6のテーパ角より小さい値に設定される。
【0055】
また、図4においては図3と同様に、上記先端側所定位置の直径D1はステップ部4の先端位置における径であり、上記基端側所定位置の直径D2はステップ部4の基端位置における径である。尚、ステップ部4の基端位置はボデー部1の基端位置と同じ位置である。具体的には、図4(a)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端とフロントテーパ部8の先端との連設部における径、上記直径D2は、フロントテーパ部8の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径であり、図4(b)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端と先端側ストレート部12の先端との連設部における径、上記直径D2は、フロントテーパ部8の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径であり、図4(c)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端とフロントテーパ部8の先端との連設部における径、上記直径D2は、基端側ストレート部13の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径であり、図4(d)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端と先端側ストレート部12の先端との連設部における径、上記直径D2は、基端側ストレート部13の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径である。但し、上記直径D2については、当該ステップ部4の基端位置(ボデー部1の基端位置)Laが工具先端から8mm以上の位置にある場合には、工具先端から8mmの位置の径である。
【0056】
尚、図3,4において、上記直径D1およびD2の位置は、工具加工時に例えば加工工具である研削砥石の形状ダレなどによる加工誤差のため、厳密にその位置が特定できない場合がある。この場合は上記直径D1は所定位置(ステップ部4の先端位置)よりやや基端側の位置とし、上記直径D2は所定位置(ステップ部4の基端位置)よりやや先端側の位置として加工誤差領域を避けた位置としても良い。
【0057】
また、本発明者等は、後述する見解に基づく種々の実験を行うことで、図3、図4に図示した従来形状にも設けられるような、比較的テーパ角が大きいボデーテーパ部5を設けず、(図5(a)、(b)、(d)に夫々図示したように)刃部2の基端に基端側ほど径大となるテーパ角が15°未満の(刃部連設)フロントテーパ部25を連設したり、直線的なテーパ状とせずに刃部2の基端に基端側ほど径大となる外形が工具軸側(工具中心側)に凸となる曲線状の(刃部連設)曲面部を設けることでステップ部4を構成する部位として本発明の効果が得られることを見出した。また同様に、比較的テーパ角が大きいシャンクテーパ部6を設けず、(図5(b)、(c)、(d)に夫々図示したように)シャンク本体15の先端に先端側ほど径小となるテーパ角が20°未満の(シャンク連設)フロントテーパ部26を連設したり、直線的なテーパ状とせずにシャンク本体15の先端に先端側ほど径小となる外形が工具軸側に凸となる曲線状の(シャンク連設)曲面部を設けることでステップ部4を構成する部位として本発明の効果が得られることを見出した。
【0058】
図5に基づいて具体的に説明する。
【0059】
図5(a)は、刃部2とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、(刃部連設)フロントテーパ部25を設けた構成である。また、図5(b)は、刃部2とシャンク本体15との間に、ステップ部4として、刃部2の基端に連設させた(刃部連設)フロントテーパ部25と該(刃部連設)フロントテーパ部25の基端に連設させたストレート部14と、このストレート部14の基端に、シャンク本体15の先端に連設させた(シャンク連設)フロントテーパ部26の先端を連設した構成である。また、図5(c)は、(刃部2の基端部に設けられた)ボデーテーパ部5とシャンク本体15との間に、ステップ部4として、(シャンク連設)フロントテーパ部26を設けた構成である。また、図5(d)は、刃部2とシャンク本体15との間に、ステップ部4として、(刃部連設)フロントテーパ部25と(シャンク連設)フロントテーパ部26とを直接連設した構成である。よって、図5(a)は刃部2とシャンクテーパ部6との間に形成された部位Ldがステップ部4となり、図5(b)〜(d)は刃部2とシャンク本体15との間に形成された部位Ldがステップ部4となる。
【0060】
また、図5においては図3,4と同様に、上記先端側所定位置の直径D1はステップ部4の先端位置における径であり、上記基端側所定位置の直径D2はステップ部4の基端位置における径である。但し、前記(刃部連設)フロントテーパ部25(テーパ角が15°未満)や前記(刃部連設)曲面部(工具軸側に凸となる曲線状)を設けた工具においては、前述の加工誤差が存在する可能性が高いなどの形状的な理由で上記直径D1の所定位置(ステップ部4の先端位置=刃部2の基端位置)の特定が困難であるため、上記直径D1は、工具先端から刃部2の呼び長さ+1mmの位置における径とする。尚、ステップ部4の基端位置はボデー部1の基端位置と同じ位置である。
【0061】
具体的には、図5(a)において、上記直径D1は、工具先端から刃部2の呼び長さ+1mmの位置における径、上記直径D2は、(刃部連設)フロントテーパ部25の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径である。また、図5(b)において、上記直径D1は、工具先端から刃部2の呼び長さ+1mmの位置における径、上記直径D2は、工具先端から8mmの位置の径である(この理由は後述する。)。また、図5(c)において、上記直径D1は、(刃部2の基端部に設けられた)ボデーテーパ部5の基端と(シャンク連設)フロントテーパ部26の先端との連設部における径、上記直径D2は、工具先端から8mmの位置の径である(この理由は後述する。)。また、図5(d)において、上記直径D1は、工具先端から刃部2の呼び長さ+1mmの位置における径、上記直径D2は、工具先端から8mmの位置の径である(この理由は後述する。)。但し、上記直径D2については、当該ステップ部4の基端位置(ボデー部1の基端位置)Laが工具先端から8mm以上の位置にある場合には、工具先端から8mmの位置の径である。このため、図5(b)〜(d)において、上記直径D2の位置が工具先端から8mmの位置の径であるとしたのであって、シャンク本体15の先端に連設させて(シャンク連設)フロントテーパ部26を設けた構成として上記の本発明の要件を満足する形状とさせた場合、当該ステップ部4の基端位置Laは通常8mm以上の位置となるためである。
【0062】
尚、図5において、ボデーテーパ部5またはシャンクテーパ部6を有する場合は、図3,4の場合と同様に、上記直径D1およびD2の位置は、前述の加工誤差のため、厳密にその位置が特定できない場合がある。この場合は上記直径D1は所定位置(ステップ部4の先端位置)よりやや基端側の位置とし、上記直径D2は所定位置(ステップ部4の基端位置)よりやや先端側の位置として加工誤差領域を避けた位置としても良い。
【0063】
以上の条件は、図6〜9に示す見解を基に図10,11に示すような実験を行い、その結果をまとめることで得られたものである。
【0064】
ドリル回転時の動的振れの要因(影響を与える因子)としては、素材の縦弾性係数、質量、重心位置、剛性が挙げられる。
【0065】
先ず、図6に基づいて縦弾性係数について説明する。使用される超硬合金の縦弾性係数は一般的に600GPa程度であり、ステンレス鋼の縦弾性係数は200GPa程度であることから、両者には3倍程度の差がある。ドリルの動的振れは遠心力による撓み易さ(縦弾性係数)に影響を受ける。ドリルが回転した際に生じる遠心力により、コレットチャックから突き出す突出し部全体の根元(コレットチャックによる把持部分の先端境界部分)に最大の応力がかかる。同じ形状であれば、質量の軽いコンポジットタイプ(複合材接合タイプ)の方が遠心力が小さく、根元にかかる応力は小さくなるものの、突出し部根元を構成するステンレス鋼の縦弾性係数がそれ以上に劣るため撓み易い。
【0066】
図6(1)は全体が超硬合金製のソリッドタイプ、(2)は先端からシャンクテーパ部の先端側の一部までが超硬合金製でシャンク部がステンレス鋼製であるコンポジットタイプ、(3)は先端からステップ部の先端側の一部までが超硬合金製で残余がステンレス鋼製であるコンポジットタイプであるが、これらの縦弾性係数に基づく撓み易さをステップ部と突出し部全体とで分けて比較すると、図6(1)はステップ部及び突出し部が共に撓み難く、(2)は超硬合金製であるステップ部のみは撓み難く、(3)はいずれも撓み易いことになる。図6の上部の比較写真は、図6(1)と(3)との比較であり、左側が(1)、右側が(3)であり、右側の工具は突出し部の根元部、ステップ部いずれでも撓みが大きいことが分かる。尚、図6(1)〜(3)の外形状は図2(a)と同様の従来形状である。
【0067】
図7に基づいて質量、重心位置について説明する。使用される超硬合金の密度は一般的に15×103kg/m3程度であり、ステンレス鋼の密度は7.7×103kg/m3程度であることから、両者には2倍程度の差がある。ドリルが回転時に受ける遠心力は質量に影響を受ける。また、所定の遠心力に対しては、重心位置と応力集中部位との距離(両者が近いほど撓み難い)に影響を受ける。
【0068】
尚、図6と同様、図7(1)は全体が超硬合金製のソリッドタイプ、(2)は先端からシャンクテーパ部の先端側の一部までが超硬合金製でシャンク部がステンレス鋼製であるコンポジットタイプ、(3)は先端からステップ部の先端側の一部までが超硬合金製で残余がステンレス鋼製であるコンポジットタイプである。
【0069】
これらの質量に基づく撓み易さをステップ部と突出し部全体とで分けて比較すると、図7(1)はステップ部及び突出し部が共に撓み易く、(2)はシャンク部がステンレス鋼製であることから突出し部全体としては撓み難く、(3)はいずれも撓み難いことになる。
【0070】
また、重心位置による撓み易さをステップ部と突出し部全体とで分けて比較すると、図7(1)はステップ部及び突出し部共に重心位置は基端側寄りであり共に撓み難く、(2)は超硬合金製であるステップ部のみが撓み難く、(3)はステップ部は撓み易く、突出し部全体としてはやや撓み難いことになる。
【0071】
具体的には、工具全長を変えずにステップ部を長くした場合、ステップ部の質量が重くなり、ステップ部に発生する遠心力は大きくなる。また、突出し部の質量が軽くなり、突出し部全体に発生する遠心力は小さくなる。一方、ステップ部を短くすると、ステップ部の質量が軽くなり、ステップ部に発生する遠心力は小さくなる。また、突出し部の質量が重くなり、突出し部全体に発生する遠心力は大きくなる。図7(1)〜(3)では工具の形状や突出し部の長さを同じくして比較しているため、質量と重心位置は工具に使用する材質、使用する部位、及びその量に依存する。
【0072】
また、コンポジットタイプにおいては、先端側の超硬合金材使用量(工具先端からの使用長さ)が大きいほど、突出し部の重心位置は先端側になり、所定の遠心力に対する撓みは大きくなる。また、ステップ部の重心位置に関しては、ステップ部の途中部で刃部側の超硬合金部材とシャンク部側のステンレス鋼部材とが接合された場合、先端側の超硬合金材使用量が大きいほど重心位置が先端側となり、所定の遠心力に対する撓みは大きくなる。
【0073】
即ち、コンポジットタイプでは、重心位置が変わることと質量が変わることとは同義であるため、実際には質量と重心位置とが同時に撓みに影響を与えることとなる。
【0074】
図8に基づいて剛性について説明する。剛性は、シャンク部の径の影響が大きい。PCB加工用のドリルにおいてはシャンク径は限定されており、材質の縦弾性係数がほぼその剛性に反映される。ステップ部についてはその形状、材質の構成により剛性が変化する。
【0075】
図8(1)〜(3)は、図6、図7の(1)〜(3)と同様である。図8(4)は先端からステップ部の先端側の一部までが超硬合金製で残余がステンレス鋼製であるコンポジットタイプの(3)においてステップ部の長さを長くしたタイプ、図8(5)は先端からステップ部の先端側の一部までが超硬合金製で残余がステンレス鋼製であるコンポジットタイプの(3)においてステップ部の径を細くしたタイプである。
【0076】
これらの剛性に基づく撓み易さをステップ部と突出し部全体とで分けて比較すると、図8(1)はステップ部及び突出し部が共に撓み難く、(2)〜(4)はシャンク部がステンレス鋼製であることから突出し部全体としてはいずれも撓み易く、また、(2)はステップ部全体が超硬合金製であることからステップ部は撓み難く、(3)はステップ部が(4),(5)に比し太くまたは短いことからやや撓み難く、(4)はステップ部が長く、(5)はステップ部が細いことから、撓み易いことになる。
【0077】
以上、図9にまとめたように、コンポジットタイプのPCB加工用のドリルにおいては刃部だけでなく、突出し部全体と、ステップ部の双方において撓みが生じるため、全体の質量、重心位置のバランスと、ステップ部の質量、重心位置、剛性(形状)のバランスを取らなければ撓みを抑制することはできない。
【0078】
そこで、本実施例においては、ステップ部及び突出し部について以下のように考え、従来例(1)及び従来例(3)に対して実施例(2)及び実施例(4)の構成に至った。図9中下部のグラフは、これらの動的振れを超硬合金製のソリッドタイプ(形状は従来例(1),(3)と同じ)と比較したものである。実施例(2),(4)共にソリッドタイプに近い特性が得られることが分かる。
【0079】
即ち、ステップ部については、質量を軽くすることで発生する遠心力を小さくして動的振れを抑制することは出来るが、剛性が弱いと撓み易いので、剛性を持たせるために、外径を基端側ほど段階的若しくは連続的に径大とする形状とし、同時にステップ部の重心位置を基端側とした。また、先端側で使用される縦弾性係数の高い超硬合金部材は細く設計し、縦弾性係数の低いステンレスを太く設計することで、剛性を保ちつつ質量を軽くした。これは、前述した、工具先端から4mmの位置での直径を所定の値(1.5mm以下または0.8mm以下)に設定したことに関連する。
【0080】
また、突出し部については、ステップ部を長めにし、ステップ径を細くする等、突出し部全体を軽量化することで発生する遠心力を小さくし且つ重心位置を基端側に設定することを可能とした。ステップ部の重心位置が基端側に設定されているほど動的振れを抑制するには有利となる。これは、前述した、ステップ部4の基端位置(ボデー部1の基端位置)Laが工具先端から8mm以上の位置にある場合には、上記直径D2を工具先端から8mmの位置の径としたことに関連し、また、ステップ部4の重心位置と工具全体の重心位置とを工具基端から工具全長に対する比で表した所定の位置に設定したことに関連する。
【0081】
図10はシャンク径が2mmの場合の実験条件及び実験結果を示すものであり、図11はシャンク径が3.175mmの場合の実験条件及び実験結果を示すものである。
【0082】
工具先端のシャンク部とは色が異なる部位が超硬合金製部分であり、当該超硬合金製部分は一体的に形成されている。この超硬合金製部分の基端とステンレス鋼製部分の先端とが溶接接合されている。
【0083】
工具の形状や超硬合金材使用量等は様々であるが、上述した条件を満たす例はいずれも上記条件を満たさない従来例に比し動的振れが抑制されることが確認できた。
【0084】
また、図10の実施例No.10,11については、ステップ部が基端側ほど径大となっていないが、重心位置を本実施例に係る条件を満たすようにステップ部の形状を設定することで、比較的動的振れを抑制できることが確認できた。即ち、重心位置を上記条件に設定することで動的振れを大きく改善することが可能であることが確認できた。
【0085】
尚、動的振れについては、図1(2)に図示したように、穴明け工具を300krpmで回転させた場合の動的振れを測定し比較することで評価を行った。この図1(2)においては、図10の従来例No.2に相当する従来形状の複合材接合タイプ(b)は、従来形状のソリッドタイプ(a)の5倍程度の動的振れを示すが、図10の実施例No.1に相当する本実施例の複合材接合品(c)によれば、従来形状の複合材接合タイプ(b)に比し大幅に動的振れが抑制されることが確認できた。これは図1(2)右側のグラフに示す通り、重心位置がコレットチャック側(工具基端側)に寄ることによる効果が大きいものと考えられる。
【0086】
本実施例は上述のように構成したから、穴明け工具を穴明け加工機のスピンドルチャック(コレットチャック)に把持せしめ、当該穴明け工具により回転切削加工を行う際、穴明け工具にしてコレットチャックから突き出す突出し部の質量を小さくしつつ、剛性を高めることができ、遠心力及び横方向の負荷による撓みを軽減できる。しかも、先端側ほど質量が小さくなることで重心位置がコレットチャック側に寄ることになり、遠心力による撓みを十分に軽減できることになる。よって、横方向の負荷及び遠心力による撓み双方を軽減でき、複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制可能となる。
【0087】
よって、本実施例は、複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制することが可能で、環境性及びコスト性に秀れた極めて実用的なものとなる。
【符号の説明】
【0088】
1 ボデー部
2 刃部
3 シャンク部
4 ステップ部
6 シャンクテーパ部
7 段差部
8・25・26 フロントテーパ部
15 シャンク本体
D1 先端側所定位置の直径
D2 基端側所定位置の直径
Lc 2点間の距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴明け工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の著しい進化に伴い、プリント配線板への高密度実装の要求が高まっている。そのため、例えば特許文献1に開示されるようなプリント配線板(PCB)加工用の穴明け工具も年々小径化が進んでおり、現在では刃部の直径が0.4mm未満の小径穴明け工具の量産化が進んでいる。
【0003】
ところで、このような穴明け工具において十分な周速での加工が行われない場合には、工具折損等の不具合が生じることが知られている。特に、極小径穴明け工具の場合には、より高回転で回転させることにより十分な周速を得る必要があるが、当該穴明け工具を高回転で回転させると、その遠心力で工具が撓んで振れ回る所謂動的振れが生じる。
【0004】
また、超硬合金製の刃部を有するボデー部とステンレス鋼製等のシャンク部とを溶接接合(例えばろう接)して成る複合材接合タイプは、シャンク部の素材の縦弾性係数が超硬合金よりも小さいことから、1つの超硬合金材に刃部(ボデー部)とシャンク部とが一体に形成されるソリッドタイプに比し、動的振れが大きくなる傾向がある。
【0005】
即ち、図1(1)に示すように、一般に複合材接合タイプにおいてステンレス鋼などの鋼材をシャンク部に使用した場合、縦弾性係数が超硬合金材よりも小さいことが原因で工具の動的振れが大きくなる傾向が確認されている。動的振れが大きい場合、穴明け工具先端の振れ回りが位置決め精度を悪化させ、結果として穴位置精度を低下させる。
【0006】
図1(1)の(a),(b)は穴位置精度を表す図を例示したものであって、設定された穴明け位置に対する実際に加工された穴の位置のずれ量をグラフ上にプロットしたものであり((a),(b)夫々、6,000ヒット分のデータがプロットされている。)、縦軸(Y軸)と横軸(X軸)の交点(グラフ中心)がずれ量0μmを示すものである。グラフ中心にプロットが集まるほど穴位置精度が良いことになり、一般に、通常の回転領域での穴明け加工ではソリッドタイプ、複合材接合タイプのいずれの場合でも(a)に図示したように比較的グラフ中心にプロットが集まったものとなる。一方、動的振れが大きい場合には、(b)に図示したようにプロットが中心に集まらずに極端に穴位置精度が悪い場合は略ドーナツ状のグラフとなる。また、図1(1)(c)に図示したように、動的振れが大きいほど、工具が折損するまでの寿命(ヒット数(加工穴数))が短くなることが知られている。
【0007】
穴明け加工時において動的振れがある場合には、穴明け設定位置からずれた位置で工具の刃先が被削材に食い付き、穴明けが進行するほど刃部が撓み、設定した深さまで穴明け加工が終了すると工具が被削材から引き抜かれるため、穴明けと引き抜きが行われるたびに刃部根元に繰り返し応力が付加されることになり、よって疲労破壊を招く。動的振れが大きい場合には位置ずれが大きいために刃部の撓みが大きく、よって上記の応力が増大することにより折損寿命が短くなる。
【0008】
従って、高回転領域で使用される穴明け工具は現状では動的振れが小さいソリッドタイプが主流である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−88088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ソリッドタイプはレアメタルであるタングステンの使用量が多く、環境面、コスト面においては複合材接合タイプの使用が望ましい。
【0011】
また、PCB加工用等の小径穴明け工具においては、上述の遠心力による撓みだけでなく、加工時に生じる横方向(工具軸直角方向)の負荷による撓みも穴位置精度に影響を与えるため、できるだけ剛性を高めた形状を採用するのが一般的である。
【0012】
具体的には、加工自体は工具軸方向で行われるため、横方向の負荷はエンドミル等と比べると小さく、工具先端に横方向からの荷重を加えた場合においても、径が比較的小さい刃部の根元に応力集中が起こることから、穴位置精度を向上させるためには、一般的には刃部の心厚を大きくする等の設計が行われている。
【0013】
しかし、心厚を大きくした場合、穴位置精度は向上する傾向にあるが、溝体積が小さくなることから、切り屑詰まりや加工穴内壁粗さの悪化を引き起こし、工具折損や十分な穴品質が得られないという問題が発生する。溝体積を保ちつつ十分な剛性を保つ為には工具径自体を大きくする手段があるが、加工される穴径も大きくなることから本来の目的である高密度実装を達成できなくなる。高回転加工が求められる極小径工具において、工具径を変えずに遠心力による撓み、加工負荷による撓みを同時に抑制する為には、刃部のみに着目した設計では、工具全体の剛性と動的振れのバランスを取ることが難しく、従来の複合材接合タイプでは、工具先端の動的振れを改善することは困難であった。
【0014】
尚、図2は従来のPCB加工用のドリルの外形を図示したものである。図中符号1’はボデー部、2’は刃部、3’はシャンク部、4’はステップ部、5’はボデーテーパ部、6’はシャンクテーパ部、15’はシャンク本体であり、図2(a)は外径が一定のステップ部4’を設けたタイプ、図2(b)はステップ部4’を設けないタイプ(所謂ルーマタイプ)である。
【0015】
図2(a)は具体的には、刃部2’の基端部に基端側ほど径大となるテーパ状のボデーテーパ部5’が設けられ、このボデーテーパ部5’の基端に外径が一定のステップ部4’が連設されてボデー部1’が構成され、前記ステップ部4’の基端にシャンク部3’が連設されている。シャンク部3’にはシャンク本体15’の先端に先端側ほど径小となるテーパ状のシャンクテーパ部6’が設けられており、このシャンクテーパ部6’が前記ステップ部4’に連設されている。
【0016】
図2(b)はステップ部4’を設けないタイプで具体的には、略同一径の刃部2’の基端にシャンク部3’が連設されている。シャンク部3’にはシャンク本体15’の先端に先端側ほど径小となるシャンクテーパ部6’が設けられており、このシャンクテーパ部6’が前記刃部2’に連設されている。つまり図2(b)はステップ部4’だけでなくボデーテーパ部5’も存在しない形状である。
【0017】
従来の複合材接合タイプは一般に、接合境界がシャンクテーパ部6’の領域内に位置するように設計されており、また、ボデーテーパ部5’のボデーテーパ角α’は15°以上、シャンクテーパ部6’のシャンクテーパ角β’は20°以上に設定されるのが一般的である。特に、ボデーテーパ角α’とシャンクテーパ角β’は共に30°〜90°に設定されるのが一般的である。これらの角度は後述する本発明についての技術的思想に基づく設定値ではなく、例えば当該穴明け工具が取り付けられる穴明け加工機のスピンドルチャック(コレットチャック)径に適用できるように穴明け工具のシャンク径を設定し、そのシャンク径から、穴明け加工機側のその他の仕様や規格に応じて、シャンク径より小径の刃部の直径まで縮径させて連設させるためだけに設定された角度にすぎない。
【0018】
本発明は、上述のような現状に鑑み、刃部とシャンク部との間のステップ部に着目し、ステップ部の形状等を工夫することで複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制することが可能となることを見出し完成したもので、環境性及びコスト性に秀れた極めて実用的な穴明け工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0020】
工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝が一若しくは複数形成された刃部2を有するボデー部1と、基端側に前記刃部2より径大なシャンク本体15を有するシャンク部3とから成り、前記刃部2は炭化タングステン及びコバルトを主成分とする超硬合金部材、一方、前記シャンク部3はステンレス鋼部材で形成されており、また、この超硬合金部材及びステンレス鋼部材は溶接接合され、前記刃部2と前記シャンク本体15との間には、その途中部の外径が前記刃部2より大きく且つ前記シャンク本体15より小さいステップ部4が設けられた穴明け工具であって、前記ステップ部4の外径は基端側ほど段階的若しくは連続的に径大となるように設定されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0021】
また、請求項1記載の穴明け工具において、前記ステップ部4は前記ボデー部1に設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0022】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4には該ステップ部4の先端側の径小部と該ステップ部の基端側の径大部とを連設する段差部7が設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0023】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4には先端側から基端側に向かって外径が漸増するフロントテーパ部8,25,26が設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0024】
また、請求項4記載の穴明け工具において、前記フロントテーパ部8,25,26のテーパ角は前記シャンク部先端に設けられるシャンクテーパ部6のテーパ角より小さい値に設定されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0025】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4の先端側所定位置の直径D1と基端側所定位置の直径D2の差を当該2点間の距離Lcで除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、工具先端から9mm未満の場合は下記式(5)、9mm以上12mm以下の場合は下記式(6)で表されることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
記
0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.26 (5)
0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.15 (6)
【0026】
また、請求項6記載の穴明け工具において、工具先端から4mmの位置での直径が1.5mm以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0027】
また、請求項6,7いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4の重心位置が工具基端から工具全長の92.0%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置が工具基端から工具全長の42.5%以下の位置となるように構成されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0028】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4の先端側所定位置の直径D1と基端側所定位置の直径D2の差を当該2点間の距離Lcで除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、工具先端から9mm未満の場合は下記式(7)、9mm以上12mm以下の場合は下記式(8)で表されることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
記
0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.15 (7)
0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.1 (8)
【0029】
また、請求項9記載の穴明け工具において、工具先端から4mmの位置での直径が0.8mm以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0030】
また、請求項9,10いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部4の重心位置が工具基端から工具全長の82.5%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置が工具基端から工具全長の37.5%以下の位置となるように構成されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0031】
また、請求項1〜11いずれか1項に記載の穴明け工具において、この穴明け工具は、プリント配線板加工用のドリルであることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明は上述のように構成したから、複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制することが可能で、環境性及びコスト性に秀れた極めて実用的な穴明け工具となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】穴明け工具の動的振れに関する概略説明図である。
【図2】従来形状を説明する概略説明側面図である。
【図3】段差部を設けた穴明け工具の概略説明側面図である。
【図4】フロントテーパ部を設けた穴明け工具の概略説明側面図である。
【図5】フロントテーパ部を設けた穴明け工具の概略説明側面図である。
【図6】穴明け工具の動的振れと縦弾性係数との関係に関する概略説明図である。
【図7】穴明け工具の動的振れと質量、重心位置との関係に関する概略説明図である。
【図8】穴明け工具の動的振れと剛性との関係に関する概略説明図である。
【図9】穴明け工具の動的振れに関する概略説明図である。
【図10】シャンク径が2mmの穴明け工具の実験条件及び実験結果を示す概略説明図である。
【図11】シャンク径が3.175mmの穴明け工具の実験条件及び実験結果を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0035】
穴明け工具を穴明け加工機のスピンドルチャック(コレットチャック)に把持せしめ、当該穴明け工具により回転切削加工を行う。この際、ステップ部4の外径を基端側ほど段階的若しくは連続的に径大とすることで、穴明け工具にしてコレットチャックから突き出す突出し部の質量を小さくしつつ、剛性を高めることができ、遠心力及び横方向の負荷による撓みを軽減できる。しかも、先端側ほど質量が小さくなることで重心位置がコレットチャック側に寄ることになり、遠心力による撓みを十分に軽減できることになる。よって、横方向の負荷及び遠心力による撓み双方を軽減でき、複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制可能となる。
【実施例】
【0036】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0037】
本実施例は、工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝が一若しくは複数形成された刃部2を有するボデー部1と、基端側に前記刃部2より径大なシャンク本体15を有するシャンク部3とから成り、前記刃部2は炭化タングステン及びコバルトを主成分とする超硬合金部材、一方、前記シャンク部3はステンレス鋼部材で形成されており、また、この超硬合金部材及びステンレス鋼部材は溶接接合され、前記刃部2と前記シャンク本体15との間には、その途中部の外径が前記刃部2より大きく且つ前記シャンク本体15より小さいステップ部4が設けられた穴明け工具であって、前記ステップ部4の外径は基端側ほど段階的若しくは連続的に径大となるように設定されているものである。
【0038】
具体的には本実施例は、先端に被削物に穴明け加工を施す切れ刃が形成された刃部2を有するボデー部1と穴明け加工機のコレットチャックに把持されるシャンク部3とを備えた刃部2の直径が0.4mm未満のPCB加工用のドリルである。
【0039】
各部を具体的に説明する。
【0040】
ステップ部4は、ボデー部1の刃部2とシャンク部3のシャンク本体15との間に設けられるものであり、刃部2及びシャンク部3とは別体で、これらに夫々溶接接合(例えばろう接)される構成としても良い。つまり前述したように、従来の複合材接合タイプは一般に、接合境界がシャンクテーパ部6’の領域内に位置するように設計されているが、本実施例では、接合境界は、従来と同様にシャンクテーパ部6’の領域内に位置しても良いし、その他の部位に位置しても良く、特に限定されるものではない。
【0041】
具体的には、ボデー部1には、刃部2の基端部に基端側ほど径大となるテーパ状のボデーテーパ部5が設けられ該ボデーテーパ部5の基端にステップ部4が連設され、シャンク部3には、シャンク本体15の先端に先端側ほど径小となるテーパ状のシャンクテーパ部6が設けられており、このシャンクテーパ部6の先端が前記ステップ部4の基端に連設されている構成としても良いし、ボデーテーパ部5若しくはシャンクテーパ部6またはその両者を設けずに刃部2とシャンク本体15との間にステップ部4を設ける構成としても良い。
【0042】
また、(シャンクテーパ部6で超硬合金製部分とステンレス鋼製部分とを溶接接合することで)ステップ部4はボデー部1と同様の超硬合金製としても良いし、(ボデーテーパ部5で超硬合金製部分とステンレス鋼製部分とを溶接接合することで)シャンク部3と同様のステンレス鋼製としても良く、また、ステップ部4の先端側を超硬合金製とし基端側をステンレス鋼製としても良い。また、超硬合金製部分、ステンレス鋼製部分とを夫々形成し、両者を溶接接合する構成としても良い。
【0043】
具体的には、ステップ部4は、工具全長が36〜40mmで、シャンク本体15の径(シャンク径)が2.6〜3.6mm(更に具体的には3.175mm)である場合には、先端側所定位置の直径D1と基端側所定位置の直径D2の差を当該2点間の距離Lcで除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、刃部2の先端から9mm未満(超硬合金部材で形成される部分の工具先端からの長さLbが9mm未満)の場合は次式0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.26で表され、Lbが9mm以上12mm以下の場合は次式0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.15で表されるように設定される。
【0044】
また、シャンク径が2.6〜3.6mmである場合、工具先端から4mmの位置での直径は1.5mm以下となるように設定される。
【0045】
また、シャンク径が2.6〜3.6mmである場合、ステップ部4の重心位置は工具基端から工具全長の92.0%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置は工具基端から工具全長の42.5%以下の位置となるように構成される。
【0046】
一方、ステップ部4は、工具全長が22〜34mmで、シャンク径が1.3〜2.5mm(更に具体的には2mm)である場合には、先端側所定位置の直径D1と基端側所定位置の直径D2の差を当該2点間の距離Lcで除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、刃部2の先端から9mm未満(超硬合金部材で形成される部分の工具先端からの長さLbが9mm未満)の場合は次式0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.15で表され、Lbが9mm以上12mm以下の場合は次式0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.1で表されるように設定される。
【0047】
また、シャンク径が1.3〜2.5mmである場合、工具先端から4mmの位置での(ステップ部4の)直径は0.8mm以下に設定される。
【0048】
また、シャンク径が1.3〜2.5mmである場合、ステップ部4の重心位置は工具基端から工具全長の82.5%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置は工具基端から工具全長の37.5%以下の位置となるように構成される。
【0049】
尚、PCB加工用のドリルのコレットチャックからの突出し長は、通常15〜24mm程度であり、超硬合金材が使用される工具先端からの長さは通常12mm以下である。
【0050】
ステップ部4の外径を基端側ほど段階的若しくは連続的に径大とする形状は、上記の要件を満たすものであればどのような形状でも良く、例えば、図3に図示したようなステップ部4の先端側の径小部と該ステップ部4の基端側の径大部とを連設する段差部7を設ける構成や、図4,5に図示したような先端側から基端側に向かって外径が漸増するフロントテーパ部8を設ける構成や、図示しないが、先端側から基端側に向かって曲線状に拡径する拡径部を設ける構成、その他、これらを組み合わせた構成により達成できる。
【0051】
図3は図2(a)に図示した従来形状と同様にボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6を設け、また、上記段差部7を設けるタイプを図示したものである。図3(a)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、第一のストレート部9と該第一のストレート部9より径大な第二のストレート部10と、この両者の間に先端側ほど径小となるテーパ状の段差部7とを設けた構成である。また、図3(b)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に設けられる、第一のストレート部9と第二のストレート部10と第三のストレート部11との間に夫々段差部7を設けた構成のステップ部4を有するものである。尚、本実施例においてストレート部とは、径が一定の円筒状部分をいう。
【0052】
また、図3において、上記先端側所定位置の直径D1はステップ部4の先端位置における径であり、上記基端側所定位置の直径D2はステップ部4の基端位置における径である。尚、ステップ部4の基端位置はボデー部1の基端位置と同じ位置である。具体的には、図3(a)において、上記先端側所定位置の直径D1は、ボデーテーパ部5の基端と第一のストレート部9の先端との連設部における径、上記基端側所定位置の直径D2は、第二のストレート部10の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径であり、図3(b)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端と第一のストレート部9の先端との連設部における径、上記直径D2は、第三のストレート部11の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径である。但し、上記直径D2については、当該ステップ部4の基端位置(ボデー部1の基端位置)Laが工具先端から8mm以上の位置にある場合には、工具先端から8mmの位置の径である。
【0053】
図4は図2(a)に図示した従来形状と同様にボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6を設け、また、上記フロントテーパ部8を設けるタイプを図示したものである。
【0054】
図4(a)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、フロントテーパ部8を設けた構成である。また、図4(b)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、先端側ストレート部12と該先端側ストレート部12の基端側に段差部7を介してフロントテーパ部8とを設けた構成であり、図4(c)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、フロントテーパ部8と該フロントテーパ部8の基端側に基端側ストレート部13とを設けた構成であり、図4(d)は、ボデーテーパ部5とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、先端側ストレート部12と該先端側ストレート部12の基端側に段差部7を介してフロントテーパ部8を設け、このフロントテーパ部8の基端側に基端側ストレート部13を設けた構成である。尚、図4においては、フロントテーパ部8のテーパ角はシャンクテーパ部6のテーパ角より小さい値に設定される。
【0055】
また、図4においては図3と同様に、上記先端側所定位置の直径D1はステップ部4の先端位置における径であり、上記基端側所定位置の直径D2はステップ部4の基端位置における径である。尚、ステップ部4の基端位置はボデー部1の基端位置と同じ位置である。具体的には、図4(a)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端とフロントテーパ部8の先端との連設部における径、上記直径D2は、フロントテーパ部8の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径であり、図4(b)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端と先端側ストレート部12の先端との連設部における径、上記直径D2は、フロントテーパ部8の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径であり、図4(c)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端とフロントテーパ部8の先端との連設部における径、上記直径D2は、基端側ストレート部13の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径であり、図4(d)において、上記直径D1は、ボデーテーパ部5の基端と先端側ストレート部12の先端との連設部における径、上記直径D2は、基端側ストレート部13の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径である。但し、上記直径D2については、当該ステップ部4の基端位置(ボデー部1の基端位置)Laが工具先端から8mm以上の位置にある場合には、工具先端から8mmの位置の径である。
【0056】
尚、図3,4において、上記直径D1およびD2の位置は、工具加工時に例えば加工工具である研削砥石の形状ダレなどによる加工誤差のため、厳密にその位置が特定できない場合がある。この場合は上記直径D1は所定位置(ステップ部4の先端位置)よりやや基端側の位置とし、上記直径D2は所定位置(ステップ部4の基端位置)よりやや先端側の位置として加工誤差領域を避けた位置としても良い。
【0057】
また、本発明者等は、後述する見解に基づく種々の実験を行うことで、図3、図4に図示した従来形状にも設けられるような、比較的テーパ角が大きいボデーテーパ部5を設けず、(図5(a)、(b)、(d)に夫々図示したように)刃部2の基端に基端側ほど径大となるテーパ角が15°未満の(刃部連設)フロントテーパ部25を連設したり、直線的なテーパ状とせずに刃部2の基端に基端側ほど径大となる外形が工具軸側(工具中心側)に凸となる曲線状の(刃部連設)曲面部を設けることでステップ部4を構成する部位として本発明の効果が得られることを見出した。また同様に、比較的テーパ角が大きいシャンクテーパ部6を設けず、(図5(b)、(c)、(d)に夫々図示したように)シャンク本体15の先端に先端側ほど径小となるテーパ角が20°未満の(シャンク連設)フロントテーパ部26を連設したり、直線的なテーパ状とせずにシャンク本体15の先端に先端側ほど径小となる外形が工具軸側に凸となる曲線状の(シャンク連設)曲面部を設けることでステップ部4を構成する部位として本発明の効果が得られることを見出した。
【0058】
図5に基づいて具体的に説明する。
【0059】
図5(a)は、刃部2とシャンクテーパ部6との間に、ステップ部4として、(刃部連設)フロントテーパ部25を設けた構成である。また、図5(b)は、刃部2とシャンク本体15との間に、ステップ部4として、刃部2の基端に連設させた(刃部連設)フロントテーパ部25と該(刃部連設)フロントテーパ部25の基端に連設させたストレート部14と、このストレート部14の基端に、シャンク本体15の先端に連設させた(シャンク連設)フロントテーパ部26の先端を連設した構成である。また、図5(c)は、(刃部2の基端部に設けられた)ボデーテーパ部5とシャンク本体15との間に、ステップ部4として、(シャンク連設)フロントテーパ部26を設けた構成である。また、図5(d)は、刃部2とシャンク本体15との間に、ステップ部4として、(刃部連設)フロントテーパ部25と(シャンク連設)フロントテーパ部26とを直接連設した構成である。よって、図5(a)は刃部2とシャンクテーパ部6との間に形成された部位Ldがステップ部4となり、図5(b)〜(d)は刃部2とシャンク本体15との間に形成された部位Ldがステップ部4となる。
【0060】
また、図5においては図3,4と同様に、上記先端側所定位置の直径D1はステップ部4の先端位置における径であり、上記基端側所定位置の直径D2はステップ部4の基端位置における径である。但し、前記(刃部連設)フロントテーパ部25(テーパ角が15°未満)や前記(刃部連設)曲面部(工具軸側に凸となる曲線状)を設けた工具においては、前述の加工誤差が存在する可能性が高いなどの形状的な理由で上記直径D1の所定位置(ステップ部4の先端位置=刃部2の基端位置)の特定が困難であるため、上記直径D1は、工具先端から刃部2の呼び長さ+1mmの位置における径とする。尚、ステップ部4の基端位置はボデー部1の基端位置と同じ位置である。
【0061】
具体的には、図5(a)において、上記直径D1は、工具先端から刃部2の呼び長さ+1mmの位置における径、上記直径D2は、(刃部連設)フロントテーパ部25の基端とシャンクテーパ部6の先端との連設部における径である。また、図5(b)において、上記直径D1は、工具先端から刃部2の呼び長さ+1mmの位置における径、上記直径D2は、工具先端から8mmの位置の径である(この理由は後述する。)。また、図5(c)において、上記直径D1は、(刃部2の基端部に設けられた)ボデーテーパ部5の基端と(シャンク連設)フロントテーパ部26の先端との連設部における径、上記直径D2は、工具先端から8mmの位置の径である(この理由は後述する。)。また、図5(d)において、上記直径D1は、工具先端から刃部2の呼び長さ+1mmの位置における径、上記直径D2は、工具先端から8mmの位置の径である(この理由は後述する。)。但し、上記直径D2については、当該ステップ部4の基端位置(ボデー部1の基端位置)Laが工具先端から8mm以上の位置にある場合には、工具先端から8mmの位置の径である。このため、図5(b)〜(d)において、上記直径D2の位置が工具先端から8mmの位置の径であるとしたのであって、シャンク本体15の先端に連設させて(シャンク連設)フロントテーパ部26を設けた構成として上記の本発明の要件を満足する形状とさせた場合、当該ステップ部4の基端位置Laは通常8mm以上の位置となるためである。
【0062】
尚、図5において、ボデーテーパ部5またはシャンクテーパ部6を有する場合は、図3,4の場合と同様に、上記直径D1およびD2の位置は、前述の加工誤差のため、厳密にその位置が特定できない場合がある。この場合は上記直径D1は所定位置(ステップ部4の先端位置)よりやや基端側の位置とし、上記直径D2は所定位置(ステップ部4の基端位置)よりやや先端側の位置として加工誤差領域を避けた位置としても良い。
【0063】
以上の条件は、図6〜9に示す見解を基に図10,11に示すような実験を行い、その結果をまとめることで得られたものである。
【0064】
ドリル回転時の動的振れの要因(影響を与える因子)としては、素材の縦弾性係数、質量、重心位置、剛性が挙げられる。
【0065】
先ず、図6に基づいて縦弾性係数について説明する。使用される超硬合金の縦弾性係数は一般的に600GPa程度であり、ステンレス鋼の縦弾性係数は200GPa程度であることから、両者には3倍程度の差がある。ドリルの動的振れは遠心力による撓み易さ(縦弾性係数)に影響を受ける。ドリルが回転した際に生じる遠心力により、コレットチャックから突き出す突出し部全体の根元(コレットチャックによる把持部分の先端境界部分)に最大の応力がかかる。同じ形状であれば、質量の軽いコンポジットタイプ(複合材接合タイプ)の方が遠心力が小さく、根元にかかる応力は小さくなるものの、突出し部根元を構成するステンレス鋼の縦弾性係数がそれ以上に劣るため撓み易い。
【0066】
図6(1)は全体が超硬合金製のソリッドタイプ、(2)は先端からシャンクテーパ部の先端側の一部までが超硬合金製でシャンク部がステンレス鋼製であるコンポジットタイプ、(3)は先端からステップ部の先端側の一部までが超硬合金製で残余がステンレス鋼製であるコンポジットタイプであるが、これらの縦弾性係数に基づく撓み易さをステップ部と突出し部全体とで分けて比較すると、図6(1)はステップ部及び突出し部が共に撓み難く、(2)は超硬合金製であるステップ部のみは撓み難く、(3)はいずれも撓み易いことになる。図6の上部の比較写真は、図6(1)と(3)との比較であり、左側が(1)、右側が(3)であり、右側の工具は突出し部の根元部、ステップ部いずれでも撓みが大きいことが分かる。尚、図6(1)〜(3)の外形状は図2(a)と同様の従来形状である。
【0067】
図7に基づいて質量、重心位置について説明する。使用される超硬合金の密度は一般的に15×103kg/m3程度であり、ステンレス鋼の密度は7.7×103kg/m3程度であることから、両者には2倍程度の差がある。ドリルが回転時に受ける遠心力は質量に影響を受ける。また、所定の遠心力に対しては、重心位置と応力集中部位との距離(両者が近いほど撓み難い)に影響を受ける。
【0068】
尚、図6と同様、図7(1)は全体が超硬合金製のソリッドタイプ、(2)は先端からシャンクテーパ部の先端側の一部までが超硬合金製でシャンク部がステンレス鋼製であるコンポジットタイプ、(3)は先端からステップ部の先端側の一部までが超硬合金製で残余がステンレス鋼製であるコンポジットタイプである。
【0069】
これらの質量に基づく撓み易さをステップ部と突出し部全体とで分けて比較すると、図7(1)はステップ部及び突出し部が共に撓み易く、(2)はシャンク部がステンレス鋼製であることから突出し部全体としては撓み難く、(3)はいずれも撓み難いことになる。
【0070】
また、重心位置による撓み易さをステップ部と突出し部全体とで分けて比較すると、図7(1)はステップ部及び突出し部共に重心位置は基端側寄りであり共に撓み難く、(2)は超硬合金製であるステップ部のみが撓み難く、(3)はステップ部は撓み易く、突出し部全体としてはやや撓み難いことになる。
【0071】
具体的には、工具全長を変えずにステップ部を長くした場合、ステップ部の質量が重くなり、ステップ部に発生する遠心力は大きくなる。また、突出し部の質量が軽くなり、突出し部全体に発生する遠心力は小さくなる。一方、ステップ部を短くすると、ステップ部の質量が軽くなり、ステップ部に発生する遠心力は小さくなる。また、突出し部の質量が重くなり、突出し部全体に発生する遠心力は大きくなる。図7(1)〜(3)では工具の形状や突出し部の長さを同じくして比較しているため、質量と重心位置は工具に使用する材質、使用する部位、及びその量に依存する。
【0072】
また、コンポジットタイプにおいては、先端側の超硬合金材使用量(工具先端からの使用長さ)が大きいほど、突出し部の重心位置は先端側になり、所定の遠心力に対する撓みは大きくなる。また、ステップ部の重心位置に関しては、ステップ部の途中部で刃部側の超硬合金部材とシャンク部側のステンレス鋼部材とが接合された場合、先端側の超硬合金材使用量が大きいほど重心位置が先端側となり、所定の遠心力に対する撓みは大きくなる。
【0073】
即ち、コンポジットタイプでは、重心位置が変わることと質量が変わることとは同義であるため、実際には質量と重心位置とが同時に撓みに影響を与えることとなる。
【0074】
図8に基づいて剛性について説明する。剛性は、シャンク部の径の影響が大きい。PCB加工用のドリルにおいてはシャンク径は限定されており、材質の縦弾性係数がほぼその剛性に反映される。ステップ部についてはその形状、材質の構成により剛性が変化する。
【0075】
図8(1)〜(3)は、図6、図7の(1)〜(3)と同様である。図8(4)は先端からステップ部の先端側の一部までが超硬合金製で残余がステンレス鋼製であるコンポジットタイプの(3)においてステップ部の長さを長くしたタイプ、図8(5)は先端からステップ部の先端側の一部までが超硬合金製で残余がステンレス鋼製であるコンポジットタイプの(3)においてステップ部の径を細くしたタイプである。
【0076】
これらの剛性に基づく撓み易さをステップ部と突出し部全体とで分けて比較すると、図8(1)はステップ部及び突出し部が共に撓み難く、(2)〜(4)はシャンク部がステンレス鋼製であることから突出し部全体としてはいずれも撓み易く、また、(2)はステップ部全体が超硬合金製であることからステップ部は撓み難く、(3)はステップ部が(4),(5)に比し太くまたは短いことからやや撓み難く、(4)はステップ部が長く、(5)はステップ部が細いことから、撓み易いことになる。
【0077】
以上、図9にまとめたように、コンポジットタイプのPCB加工用のドリルにおいては刃部だけでなく、突出し部全体と、ステップ部の双方において撓みが生じるため、全体の質量、重心位置のバランスと、ステップ部の質量、重心位置、剛性(形状)のバランスを取らなければ撓みを抑制することはできない。
【0078】
そこで、本実施例においては、ステップ部及び突出し部について以下のように考え、従来例(1)及び従来例(3)に対して実施例(2)及び実施例(4)の構成に至った。図9中下部のグラフは、これらの動的振れを超硬合金製のソリッドタイプ(形状は従来例(1),(3)と同じ)と比較したものである。実施例(2),(4)共にソリッドタイプに近い特性が得られることが分かる。
【0079】
即ち、ステップ部については、質量を軽くすることで発生する遠心力を小さくして動的振れを抑制することは出来るが、剛性が弱いと撓み易いので、剛性を持たせるために、外径を基端側ほど段階的若しくは連続的に径大とする形状とし、同時にステップ部の重心位置を基端側とした。また、先端側で使用される縦弾性係数の高い超硬合金部材は細く設計し、縦弾性係数の低いステンレスを太く設計することで、剛性を保ちつつ質量を軽くした。これは、前述した、工具先端から4mmの位置での直径を所定の値(1.5mm以下または0.8mm以下)に設定したことに関連する。
【0080】
また、突出し部については、ステップ部を長めにし、ステップ径を細くする等、突出し部全体を軽量化することで発生する遠心力を小さくし且つ重心位置を基端側に設定することを可能とした。ステップ部の重心位置が基端側に設定されているほど動的振れを抑制するには有利となる。これは、前述した、ステップ部4の基端位置(ボデー部1の基端位置)Laが工具先端から8mm以上の位置にある場合には、上記直径D2を工具先端から8mmの位置の径としたことに関連し、また、ステップ部4の重心位置と工具全体の重心位置とを工具基端から工具全長に対する比で表した所定の位置に設定したことに関連する。
【0081】
図10はシャンク径が2mmの場合の実験条件及び実験結果を示すものであり、図11はシャンク径が3.175mmの場合の実験条件及び実験結果を示すものである。
【0082】
工具先端のシャンク部とは色が異なる部位が超硬合金製部分であり、当該超硬合金製部分は一体的に形成されている。この超硬合金製部分の基端とステンレス鋼製部分の先端とが溶接接合されている。
【0083】
工具の形状や超硬合金材使用量等は様々であるが、上述した条件を満たす例はいずれも上記条件を満たさない従来例に比し動的振れが抑制されることが確認できた。
【0084】
また、図10の実施例No.10,11については、ステップ部が基端側ほど径大となっていないが、重心位置を本実施例に係る条件を満たすようにステップ部の形状を設定することで、比較的動的振れを抑制できることが確認できた。即ち、重心位置を上記条件に設定することで動的振れを大きく改善することが可能であることが確認できた。
【0085】
尚、動的振れについては、図1(2)に図示したように、穴明け工具を300krpmで回転させた場合の動的振れを測定し比較することで評価を行った。この図1(2)においては、図10の従来例No.2に相当する従来形状の複合材接合タイプ(b)は、従来形状のソリッドタイプ(a)の5倍程度の動的振れを示すが、図10の実施例No.1に相当する本実施例の複合材接合品(c)によれば、従来形状の複合材接合タイプ(b)に比し大幅に動的振れが抑制されることが確認できた。これは図1(2)右側のグラフに示す通り、重心位置がコレットチャック側(工具基端側)に寄ることによる効果が大きいものと考えられる。
【0086】
本実施例は上述のように構成したから、穴明け工具を穴明け加工機のスピンドルチャック(コレットチャック)に把持せしめ、当該穴明け工具により回転切削加工を行う際、穴明け工具にしてコレットチャックから突き出す突出し部の質量を小さくしつつ、剛性を高めることができ、遠心力及び横方向の負荷による撓みを軽減できる。しかも、先端側ほど質量が小さくなることで重心位置がコレットチャック側に寄ることになり、遠心力による撓みを十分に軽減できることになる。よって、横方向の負荷及び遠心力による撓み双方を軽減でき、複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制可能となる。
【0087】
よって、本実施例は、複合材接合タイプであっても高回転時の動的振れを可及的に抑制することが可能で、環境性及びコスト性に秀れた極めて実用的なものとなる。
【符号の説明】
【0088】
1 ボデー部
2 刃部
3 シャンク部
4 ステップ部
6 シャンクテーパ部
7 段差部
8・25・26 フロントテーパ部
15 シャンク本体
D1 先端側所定位置の直径
D2 基端側所定位置の直径
Lc 2点間の距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝が一若しくは複数形成された刃部を有するボデー部と、基端側に前記刃部より径大なシャンク本体を有するシャンク部とから成り、前記刃部は炭化タングステン及びコバルトを主成分とする超硬合金部材、一方、前記シャンク部はステンレス鋼部材で形成されており、また、この超硬合金部材及びステンレス鋼部材は溶接接合され、前記刃部と前記シャンク本体との間には、その途中部の外径が前記刃部より大きく且つ前記シャンク本体より小さいステップ部が設けられた穴明け工具であって、前記ステップ部の外径は基端側ほど段階的若しくは連続的に径大となるように設定されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項2】
請求項1記載の穴明け工具において、前記ステップ部は前記ボデー部に設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部には該ステップ部の先端側の径小部と該ステップ部の基端側の径大部とを連設する段差部が設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項4】
請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部には先端側から基端側に向かって外径が漸増するフロントテーパ部が設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項5】
請求項4記載の穴明け工具において、前記フロントテーパ部のテーパ角は前記シャンク部先端に設けられるシャンクテーパ部のテーパ角より小さい値に設定されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部の先端側所定位置の直径と基端側所定位置の直径の差を当該2点間の距離で除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、工具先端から9mm未満の場合は下記式(1)、9mm以上12mm以下の場合は下記式(2)で表されることを特徴とする穴明け工具。
記
0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.26 (1)
0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.15 (2)
【請求項7】
請求項6記載の穴明け工具において、工具先端から4mmの位置での直径が1.5mm以下であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項8】
請求項6,7いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部の重心位置が工具基端から工具全長の92.0%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置が工具基端から工具全長の42.5%以下の位置となるように構成されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項9】
請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部の先端側所定位置の直径と基端側所定位置の直径の差を当該2点間の距離で除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、工具先端から9mm未満の場合は下記式(3)、9mm以上12mm以下の場合は下記式(4)で表されることを特徴とする穴明け工具。
記
0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.15 (3)
0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.1 (4)
【請求項10】
請求項9記載の穴明け工具において、工具先端から4mmの位置での直径が0.8mm以下であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項11】
請求項9,10いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部の重心位置が工具基端から工具全長の82.5%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置が工具基端から工具全長の37.5%以下の位置となるように構成されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項12】
請求項1〜11いずれか1項に記載の穴明け工具において、この穴明け工具は、プリント配線板加工用のドリルであることを特徴とする穴明け工具。
【請求項1】
工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝が一若しくは複数形成された刃部を有するボデー部と、基端側に前記刃部より径大なシャンク本体を有するシャンク部とから成り、前記刃部は炭化タングステン及びコバルトを主成分とする超硬合金部材、一方、前記シャンク部はステンレス鋼部材で形成されており、また、この超硬合金部材及びステンレス鋼部材は溶接接合され、前記刃部と前記シャンク本体との間には、その途中部の外径が前記刃部より大きく且つ前記シャンク本体より小さいステップ部が設けられた穴明け工具であって、前記ステップ部の外径は基端側ほど段階的若しくは連続的に径大となるように設定されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項2】
請求項1記載の穴明け工具において、前記ステップ部は前記ボデー部に設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部には該ステップ部の先端側の径小部と該ステップ部の基端側の径大部とを連設する段差部が設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項4】
請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部には先端側から基端側に向かって外径が漸増するフロントテーパ部が設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項5】
請求項4記載の穴明け工具において、前記フロントテーパ部のテーパ角は前記シャンク部先端に設けられるシャンクテーパ部のテーパ角より小さい値に設定されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部の先端側所定位置の直径と基端側所定位置の直径の差を当該2点間の距離で除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、工具先端から9mm未満の場合は下記式(1)、9mm以上12mm以下の場合は下記式(2)で表されることを特徴とする穴明け工具。
記
0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.26 (1)
0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.15 (2)
【請求項7】
請求項6記載の穴明け工具において、工具先端から4mmの位置での直径が1.5mm以下であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項8】
請求項6,7いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部の重心位置が工具基端から工具全長の92.0%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置が工具基端から工具全長の42.5%以下の位置となるように構成されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項9】
請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部の先端側所定位置の直径と基端側所定位置の直径の差を当該2点間の距離で除した値が、超硬合金部材で形成される部分が、工具先端から9mm未満の場合は下記式(3)、9mm以上12mm以下の場合は下記式(4)で表されることを特徴とする穴明け工具。
記
0.03≦(D2−D1)/Lc≦0.15 (3)
0.01≦(D2−D1)/Lc≦0.1 (4)
【請求項10】
請求項9記載の穴明け工具において、工具先端から4mmの位置での直径が0.8mm以下であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項11】
請求項9,10いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記ステップ部の重心位置が工具基端から工具全長の82.5%以下の位置で、且つ、工具全体の重心位置が工具基端から工具全長の37.5%以下の位置となるように構成されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項12】
請求項1〜11いずれか1項に記載の穴明け工具において、この穴明け工具は、プリント配線板加工用のドリルであることを特徴とする穴明け工具。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図1】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図1】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−200963(P2011−200963A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69816(P2010−69816)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000115120)ユニオンツール株式会社 (44)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000115120)ユニオンツール株式会社 (44)
【Fターム(参考)】
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