穴明け工具
【課題】切り屑の巻き付きを防止でき、小径ドリルであっても、折損寿命が長く穴位置精度が良好で安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れる穴明け工具の提供。
【解決手段】工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝2,3が設けられ、この複数の切り屑排出溝2,3は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝2の途中部に前記副溝3が連設される穴明け工具であって、前記主溝2及び前記副溝3のねじれ角を該主溝2と該副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定し、前記副溝3の溝長は前記主溝2の溝長の50〜95%に設定し、前記副溝3が前記連設部4から前記主溝2の終端より手前の所定位置まで前記主溝2と並走するように設ける。
【解決手段】工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝2,3が設けられ、この複数の切り屑排出溝2,3は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝2の途中部に前記副溝3が連設される穴明け工具であって、前記主溝2及び前記副溝3のねじれ角を該主溝2と該副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定し、前記副溝3の溝長は前記主溝2の溝長の50〜95%に設定し、前記副溝3が前記連設部4から前記主溝2の終端より手前の所定位置まで前記主溝2と並走するように設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴明け工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板(PCB)の穴明け加工には、図1に図示したような刃部Cを有するボデー部Aとシャンク部Bとで構成されるドリルが使用される。サイズは用途によって様々であるが、一般に直径が0.7mm以下のドリルが多く使用されている。
【0003】
具体的には、刃部Cには、図2に図示したように本体20の外周にドリル先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝22が形成され、この切り屑排出溝22のすくい面と先端に設けられた第一の逃げ面24との交差稜線部には切れ刃21が形成されている(例えば特許文献1,2参照)。尚、図中、符号25は第一の逃げ面24の工具回転方向後方側に連設される第二の逃げ面、d’は工具直径、l’は切り屑排出溝の溝長、α’はねじれ角である。
【0004】
また、アルミ合金、チタン、マグネシウム、銅などの非鉄系被削材向けの耐摩耗性と耐溶着性を有する皮膜として非晶質炭素皮膜が実用化され、ドリルやエンドミル、刃先交換型切削チップなどの切削工具に被覆されて用いられている(例えば特許文献3参照)。
【0005】
ところで、PCBは銅と絶縁層としてのガラスクロスに樹脂を含浸させたものとを張り合わせて構成されるものであり、近年のPCBは、更なる信頼性向上のため、耐熱性の向上、曲げ強度の強化及び低熱膨張化が求められており、PCBを構成するガラスクロスや樹脂の機械的強度を高めることで、高信頼を確保しているものが多くなっている。
【0006】
しかしながら、穴明け加工を行う被削材として考慮した場合、上記構成のPCBは機械的強度が高められた分だけドリルの摩耗を促進し易く、穴明け加工中のドリル折損や過度の摩耗に伴う穴位置精度等の穴品質の悪化を引き起こし易い。
【0007】
一方、PCBの高密度化に伴い、要求される穴径(ドリルの直径)は年々径小化しており、直径が0.4mm以下の穴明け加工が多くなってきている。
【0008】
また、穴明け加工工程においては、加工効率を考慮し、同仕様のPCBを複数枚重ねて穴明け加工をするのが一般的である。具体的には、複数枚重ねたPCBの上面にドリルの求心性を高める目的の当て板としてアルミ板または表面に樹脂が被覆された樹脂付きアルミ板を載置して穴明け加工をするのが一般的である。樹脂付きアルミ板はアルミ板よりも求心性を高める効果が高く、またドリルの折損の改善にも寄与するため、特に直径が0.4mm以下の小径ドリルの穴明け加工に用いられることが多い。
【0009】
近年では、上記したような比較的加工性の悪いPCBの加工に用いるPCB用小径ドリルに対しても、加工コスト削減を目的としたPCBの重ね枚数の増加や、ドリルが折損せずに穴明け加工できる穴明け寿命の延長が要求されている。
【0010】
しかしながら、当て板として樹脂付きアルミ板を用いて穴明け加工した場合は、アルミ板を用いて穴明け加工した場合よりも、ドリルの刃部Cの基端部近傍に切り屑の巻き付き残りが顕著に発生し、樹脂の粘性が高い程、また被覆された樹脂が厚い程、前述の切り屑の巻き付き残りが発生する傾向が高く、上記要求の実現は困難である。
【0011】
これは、通常は穴明け加工時に発生する切り屑は穴明け機に付属される切り屑吸引機能によって吸引されて所定のダストボックスに搬出されるが、樹脂付きアルミ板を用いた場合、穴明け加工時の切削熱によって軟化した樹脂が切り屑と共に切り屑排出溝にガイドされて排出され、刃部Cの基端部近傍でドリルと切り屑を粘着するように作用するためと考えられ、引き続き穴明け加工を繰り返すことで切り屑の巻き付き残り量が増加するものと考えられる。
【0012】
切り屑の巻き付き残り量は、穴明け加工時のドリルの回転数や送り速度の加工条件やPCBの材質によっても変化するが、図3(a)に図示したように顕著な切り屑の巻き付き残りが発生し、この切り屑の巻き付き残りが続く穴明け加工中にその切り屑(切り屑塊)が何かしらの振動等をきっかけとしてドリルから離れ、前記吸引機能をもってしても吸引されずに当て板上に落下し、その後、穴明け加工しようとするドリルが落下した切り屑塊に干渉することで穴位置精度の悪化やドリルの折損が引き起こされると考えられる。尚、図3(b)に当て板上に落下した切り屑塊を例示する。
【0013】
また、例えば、特許文献4には、2つの切れ刃と2つの切り屑排出溝を有するPCBドリルにおいて、各切り屑排出溝を先端から所定量後退した位置で合流させ、合流点よりも後方で1つの溝とすることで、剛性を向上させる技術が開示されているが、切り屑の巻き付きについては言及がなく、上記要求を満たすことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭56−39807号公報
【特許文献2】特開2006−55915号公報
【特許文献3】特開2001−341021号公報
【特許文献4】特開2007−307642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く穴位置精度が良好で安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れる穴明け工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0017】
工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝2,3が設けられ、この複数の切り屑排出溝2,3は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝2の途中部に前記副溝3が連設される穴明け工具であって、前記主溝2及び前記副溝3のねじれ角は該主溝2と該副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝3の溝長は前記主溝2の溝長の50〜95%に設定され、前記副溝3が前記連設部4から前記主溝2の終端より手前の所定位置まで前記主溝2と並走するように設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0018】
また、工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝2,3が設けられ、この複数の切り屑排出溝2,3は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝2の途中部に前記副溝3が連設される穴明け工具であって、前記主溝2及び前記副溝3のねじれ角は該主溝2と該副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝3の溝長は前記主溝2の溝長の70〜95%に設定され、前記副溝3が前記連設部4から前記主溝2の終端より手前の所定位置まで前記主溝2と並走するように設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0019】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部4における前記主溝2と前記副溝3との連設溝幅は、連設前の前記主溝2の溝幅の1.1〜1.9倍であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0020】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部4における前記主溝2と前記副溝3との連設溝幅は、連設前の前記主溝2の溝幅の1.3〜1.8倍であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0021】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部4の始端は工具先端から工具直径の2倍以上の位置で且つ前記主溝2の溝長の50%以下の位置に設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0022】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記主溝2及び副溝3の終端の切れ上がり端点5,6を含む夫々の工具軸直角断面における、前記主溝2の切れ上がり端点5と工具の回転軸心Oとを結ぶ第一の線及び前記副溝3の切れ上がり端点6と工具の回転軸心Oとを結ぶ第二の線を、工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影した際、この投影面において前記第一の線と前記第二の線とがなす狭角のうち、少なくとも1つの狭角γが90°より大きく180°以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0023】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記切り屑排出溝2,3として前記主溝2と前記副溝3とが1つずつ設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0024】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の穴明け工具において、潤滑性皮膜として非晶質炭素皮膜が被覆されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0025】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具直径が0.4mm以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上述のように構成したから、切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く穴位置精度が良好で安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れる穴明け工具となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】PCB用ドリルの概略説明側面図である。
【図2】従来例の拡大概略説明図である。
【図3】(a)ドリルの刃部Cの基端部近傍における切り屑の巻き付き残りを例示する写真と、(b)当て板上に落下した切り屑塊を例示する写真である。
【図4】本実施例の刃部の概略説明図である。
【図5】本実施例の切れ上がり狭角の概略説明図である。
【図6】主溝と副溝のねじれ角の概要を示す概略展開図である。
【図7】主溝と副溝のねじれ角の概要を示す概略展開図である。
【図8】主溝と副溝のねじれ角の概要を示す概略展開図である。
【図9】主溝と副溝のねじれ角の概要を示す概略展開図である。
【図10】実験条件及び実験結果を示す表である。
【図11】実験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0029】
穴明け加工時に工具先端部で生じた切り屑が切り屑排出溝2,3に沿って排出される際、主溝2と副溝3との連設部4において切り屑同士が衝突することで、切り屑が(工具径方向に)強制的に飛散せしめられ、工具基端部まで到達し難くなるため、工具基端部における切り屑の巻き付きが防止される。
【0030】
また、連設部4以降、主溝2と副溝3とを並走させることで、複数の切り屑排出溝を連設させずに夫々独立して設けた場合に比し、溝容積を小さくして剛性を確保することが可能となり、それだけ穴位置精度を改善することができる。
【0031】
更に、主溝2と副溝3の溝長を異ならせることで、複数の切り屑排出溝の溝長を同じ長さにした場合に比し、折損の起点となり易い工具基端側(根元部)で剛性を確保することが可能となり、耐折損性を改善することができる。
【実施例】
【0032】
本発明の具体的な実施例について図4〜図11に基づいて説明する。
【0033】
本実施例は、工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝2,3が設けられ、この複数の切り屑排出溝2,3は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝2の途中部に前記副溝3が連設される穴明け工具であって、前記主溝2及び前記副溝3のねじれ角は該主溝2と該副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝3の溝長は前記主溝2の溝長の50〜95%に設定され、前記副溝3が前記連設部4から前記主溝2の終端より手前の所定位置まで前記主溝2と並走するように設けられているものである。
【0034】
尚、本実施例においては、主溝2とは最長溝長となる溝をいい、副溝3とは主溝2より短い溝長を持つ溝をいう。
【0035】
具体的には、本実施例は、工具直径が0.1mmで、主溝2と該主溝2に連設する副溝3とが1条ずつ設けられ、この主溝2及び副溝3のすくい面と工具本体の先端逃げ面(第一の逃げ面)との交差稜線部には夫々工具本体1と一体に切れ刃が設けられたドリルであり、PCBの穴明け加工に使用されるものである。
【0036】
このPCBの穴明け加工は、例えば、後述する実験例のように、難削材である半導体パッケージ用のPCB(基板:厚さ0.15mm/表裏両面Cu層)を4枚重ねて、その上面に当て板として厚さ0.11mmの樹脂付きアルミ板を載置し、貫通穴加工ができるように前記PCBの下面には捨て板として一般に使用されている厚さ1.5mmの紙フェノール材を配置した状態で行われる。当て板の厚さは0.04〜1.0mmの範囲で適宜設定する。また、厚さ0.1mm程度のPCBのCu層の厚さは通常2〜80μm程度である。
【0037】
尚、本実施例においては2つの切れ刃と2つの切り屑排出溝(1つの主溝と1つの副溝)を有するドリル(2枚刃ドリル)について説明するが、主溝側にのみ切れ刃を設けた1枚刃ドリルや、3枚刃以上のドリル(例えば1つの主溝と2つの副溝を有するもの)の場合も同様である。この際、1枚刃ドリルとした場合にはより高い求心効果を得ることができ、3枚刃ドリルとした場合にはより良好な切削性を得ることができる。
【0038】
具体的には、本実施例においては、主溝2及び副溝3のねじれ角が、主溝2と副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定され、且つ、副溝3の溝長l2が主溝の溝長l1の50〜95%に設定されている。50%未満の場合、基板外に切り屑を排出するために重要となる溝中間部から基端にかけての溝容積が小さくなるため、切り屑詰まりにより折損の可能性が高まり、95%より長い場合、主溝2の溝長l1との差が小さくなり、根元部において剛性が確保しにくくなる。尚、副溝3の溝長l2を主溝2の溝長l1の70%以上に設定した場合、より安定した切り屑排出が行われるためか、より長寿命で安定した穴加工を実現できることが、本発明者等により確認された。よって、副溝3の溝長l2は、主溝2の溝長l1の70〜95%に設定するのがより好ましい。
【0039】
これにより、副溝3の終端(切れ上がり端点6)は主溝2の終端(切れ上がり端点5)より工具先端側となり、副溝3は主溝2と副溝3との連設部4(の終端)から主溝2の終端より手前の所定位置まで(図4の区間Qの間)主溝と並走することになる。
【0040】
具体的には、連設部4において主溝2と副溝3とが連設して両者の一部が重なり、夫々の溝の最下点が所定距離離れた状態で、二つの溝が並走することになる。即ち、主溝2と副溝3とは連設部4以降で一部が重なりつつ連設前の溝形状の一部を残した状態で並走するように設けられる(図4参照。尚、図4(a)〜(d)は夫々異なる回転位相で側面から刃部を見たものである。)。
【0041】
本実施例においては、連設部4における主溝2と副溝3との連設溝幅W2(連設部終端における主溝2と副溝3とが一部重なった状態での合計溝幅W2)が、連設前の主溝2の溝幅W1の1.1〜1.9倍となるように連設される。1.1倍未満の場合、溝容積が小さ過ぎてスムーズな切り屑排出性を得にくくなり、1.9倍より大きい場合、溝容積が大きいためにドリルの剛性が確保しにくくなる。尚、連設溝幅W2は、切り屑排出性と剛性との相反する性質のバランスを考慮した場合、連設前の主溝2の溝幅W1の1.3〜1.8倍に設定するのがより好ましいということが、本発明者等が鋭意研究した結果、知見として得られた。また、本実施例においては副溝3の溝幅は主溝2の溝幅W1と同一に設定している。即ち、連設溝幅W2が連設前の主溝2(副溝3)の溝幅W1の2倍に近づくほど、両者の重なり度合いが小さいことになる。
【0042】
また、本実施例においては、主溝2と副溝3との連設部4における連設開始点は、工具先端から工具直径の2倍以上の位置で且つ主溝2の溝長l1の50%以下の位置に設けられている。本実施例においては、主溝2と副溝3との連設部4は、図4中の工具先端から距離P離れた連設開始点から工具先端から距離M2離れた副溝3の第二のねじれ角変化点(並走開始点)までの範囲を示している。連設開始点(連設部4の始端)を工具先端から工具直径の2倍未満の位置に設けると、再研磨時に連設部まで研磨される可能性が高く、適した刃形状を得にくくなり、工具先端から主溝の溝長の50%より基端側の位置に設けると、剛性が劣化し、穴位置精度が悪化する。
【0043】
また、本実施例において、副溝3を主溝2の途中部に連設する際には、副溝3若しくは主溝2のねじれ角を途中で変化させることで行う。例えば、主溝2は始端から終端まで一定のねじれ角として、副溝3のねじれ角を途中で変化させることで副溝3を主溝2の途中に連設しても良いし、双方のねじれ角を途中で変化させて連設しても良い。具体的には、例えば図6〜9に図示したような態様が考えられる。
【0044】
図6及び7は、主溝2のねじれ角αを一定として、副溝3のねじれ角を小(β1)→大(β2)→小(β3)と変化させることで両者を連設するものである。具体的には、副溝3の初期ねじれ角β1を、工具先端から距離M1離れた第一のねじれ角変化点でより大きいβ2に変化させることで主溝2に接近させ、副溝3が主溝2に連設した直後(図6)若しくは主溝2と交差した後(図7)、工具先端から距離M2離れた第二のねじれ角変化点で主溝2のねじれ角αと同角度のβ3に変化させて並走させるものである。この場合、主溝のねじれ角αが一定であるため、剛性を確保し易い利点がある。尚、図6,7においては、α、β1及びβ3は45°に設定し、β2は55°に設定している。また、本実施例においては図6の態様を採用している。
【0045】
図8及び9は、主溝2及び副溝3のねじれ角を夫々小(45°)→大(55°)と変化させるもので、両者のねじれ角の変化点の調整により両者を連設するものである。具体的には、副溝3のねじれ角を途中で大きくすることで、主溝2に接近させ、副溝3が主溝2に連設した直後(図8)若しくは主溝と交差した後(図9)、主溝2のねじれ角を副溝3のねじれ角と同角度に変化させるものである。この場合、両者のねじれ角を途中で変化させるため、それだけ切り屑が巻き付きにくくなり、また、工具基端側で大きいねじれ角となるため、それだけ良好なポンプ作用により工具先端で生じた切り屑をスムーズに排出できる利点がある。尚、図6〜9において、主溝2と副溝3が逆になっても良い。即ち、図6及び7においては、副溝3のねじれ角を一定として、主溝2のねじれ角を小→大→小と変化させることで両者を連設しても良いし、図8及び9においては、主溝2のねじれ角を途中で大きくすることで、副溝3に接近させ、主溝2が副溝3に連設した直後(図8)若しくは副溝と交差した後(図9)、副溝3のねじれ角を主溝2のねじれ角と同角度に変化させても良い。
【0046】
また、本実施例は、前記主溝2及び副溝3の終端の切れ上がり端点5,6を含む夫々の工具軸直角断面における、前記主溝2の切れ上がり端点5と工具の回転軸心Oとを結ぶ第一の線及び前記副溝3の切れ上がり端点6と工具の回転軸心Oとを結ぶ第二の線を、工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影した際、この投影面において前記第一の線と前記第二の線とがなす狭角のうち、少なくとも1つの狭角γが90°より大きく180°以下となるように構成されている。言い換えると、前記主溝2及び副溝3の終端の切れ上がり端点5,6を含む夫々の工具軸直角断面において、前記夫々の切れ上がり端点5,6と工具の回転軸心Oとを結ぶ夫々の線を工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影した投影線にして、前記主溝2の切れ上がり端点5を含む投影線と前記夫々の副溝3の切れ上がり端点6を含む投影線とがなす狭角のうち、少なくとも1つの狭角γが90°より大きく180°以下となるように構成されている。
【0047】
具体的には、本実施例においては、主溝2及び副溝3が1つずつ設けられており、主溝2の切れ上がり端点5を含む工具軸直角断面において該切れ上がり端点5と工具の回転軸心Oとを結ぶ第一の線(図5(b)参照)と、副溝3の切れ上がり端点6を含む工具軸直角断面において該切れ上がり端点6と工具の回転軸心Oとを結ぶ第二の線(図5(a)参照)を工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影し、前記軸直角投影面上で前記の夫々の線(投影線)がなす狭角γ(以下、切れ上がり狭角と言う。図5(c)参照)が90°より大きく180°以下となるように構成されている。
【0048】
即ち、切れ上がり狭角γが90°より大きく180°以下となるように主溝2及び副溝3の溝長l1,l2を設定している。これは後述する実験結果から導かれるもので、切れ上がり狭角γが上記範囲内であると、穴位置精度が極めて良好となる。一方切れ上がり狭角の全てが90°以下であると、切り屑の排出方向が偏るため、工具基端側でアンバランスな排出となり、突発的な穴曲がりが引き起こされる可能性がある。3枚刃以上のドリル(例えば1つの主溝と2つの副溝を有するもの)の場合の軸直角投影面の一例を図5(d)に図示した。3溝の場合、主溝2の切れ上がり端点5を含む投影線(第一の線)と一方の副溝3の切れ上がり端点6を含む投影線(第二の線)とがなす切れ上がり狭角γが90°より大きく180°以下であれば、切り屑の排出方向の偏りを回避することができるため、バランスのよい排出が得られる。即ち、副溝が2つ以上存在する場合には、前記第二の線が2つ以上存在することになるが、前記第一の線と前記複数の第二の線とがなす切れ上がり狭角γのうち、1つでも90°より大きく180°以下であれば、切り屑の排出方向の偏りを回避することができるため、バランスのよい排出が得られることになる。
【0049】
尚、切れ上がり狭角γは、主溝2の切れ上がり端点5と副溝3の切れ上がり端点6の回転位相差(角度差)により表される。
【0050】
また、工具本体1には潤滑性皮膜として非晶質炭素皮膜が被覆されている。即ち、本実施例は、従来の2枚刃ドリルの形状に比べ、工具基端側で溝容積が小さくなるため(ウェブ、ウェブテーパ値を同じにした場合)、基板の種類、厚さ、重ね枚数によってはスムーズな切り屑排出性能を得られにくく、内壁粗さの悪化や折損を引き起こす可能性がある。しかし、非晶質炭素皮膜を被覆することで、切り屑排出性を改善し、剛性形状であることを活かした高精度な穴明け加工が可能となる。
【0051】
各部を具体的に説明する。
【0052】
本実施例は、基材としては、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材から成る超硬合金製であり、この超硬合金のWC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmでありCo含有量が重量%で5〜15%であるものが採用されており、少なくとも工具本体1の切り屑排出溝に非晶質炭素皮膜が被覆されている。非晶質炭素皮膜は硬質であるため工具の摩耗を抑制し、また高い潤滑性を有することから切り屑が切り屑排出溝に沿って工具本体1の基端部へ排出され易くなって切り屑詰まりを防止して折損し難くなる。
【0053】
また、本実施例においては、潤滑性皮膜として、炭素原子を主体として構成されビッカース硬さが3000以上である高硬度の非晶質炭素(DLC)から成る非晶質炭素皮膜を採用しているが、ビッカース硬さが2000以上であれば、比較的低硬度の非晶質炭素(DLC)若しくはDLCと他の物質(例えば金属)との混合物から成る皮膜を採用しても良いし、クロム窒化物等、他の潤滑性皮膜を採用しても良い。
【0054】
尚、本実施例においては、非晶質炭素皮膜は基材直上に形成しているが、例えば、基材直上に、周期律表の4a、5a、6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素からなる金属若しくは半金属から成り、膜厚が200nm以下1nm以上である下層皮膜層(下地膜)を形成し、この下層皮膜層の上に前記非晶質炭素皮膜を形成する構成としても良い。また、下層皮膜層としては、上記構成に限らず、周期律表の4a、5a、6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素と窒素及び炭素から選択される1種以上の元素との化合物から成るものを採用しても良い。
【0055】
また、本実施例では非晶質炭素皮膜や下地膜の成膜の際、アークイオンプレーティング方式の成膜装置を用いたが、スパッタリング方式やレーザーアブレーション方式などのPVD成膜装置を使っても良い。
【0056】
本発明はPCBなどの非鉄系被削材の穴明け加工等に使用する非晶質炭素皮膜等の潤滑性皮膜が被覆されたドリルとして発明されたものであるが、その基材としては、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材からなる超硬合金が、硬度と靭性のバランスが取れた材料であることから望ましい。
【0057】
WC粒子の平均粒径を小さくしすぎると、結合材中にWC粒子を均一に分散させることが難しくなり、超硬合金の抗折力低下を引き起こしやすい。一方、WC粒子を大きくしすぎると超硬合金の硬度が低下する。また、Co含有量を少なくしすぎると超硬合金の抗折力が低下し、逆にCo含有量を多くしすぎると超硬合金の硬度が低下する。そのため、WC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmであり、Co含有量が重量%で5〜15%の超硬合金を基材とすることが望ましい。
【0058】
また、PCBなどの難削材に対して皮膜剥離のない安定した穴明け加工を行うためには、基材と非晶質炭素皮膜との密着性をより高くすることが望ましい。Ti,Cr,Taなどの周期律表の4a,5a,6a族元素及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素から成る金属または半金属を基材直上に下地膜として成膜し、その上に非晶質炭素皮膜を成膜することで、基材と非晶質炭素皮膜の密着性をより高めることができる。また、周期律表の4a,5a,6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素と窒素及び炭素から選択される1種以上の元素との化合物を基材直上に下地膜として成膜しても良い。
【0059】
下地膜は基材と非晶質炭素皮膜との密着性を向上させる目的で成膜されるので、あまり厚すぎても意味がなく、200nm以下1nm以上の膜厚にすることが望ましい。
【0060】
本実施例は上述のように構成したから、穴明け加工時に工具先端部で生じた切り屑が切り屑排出溝2,3に沿って排出される際、主溝2と副溝3との連設部4において切り屑同士が衝突することで、切り屑が(工具径方向に)強制的に飛散せしめられ、工具基端部まで到達し難くなるため、工具基端部における切り屑の巻き付きが防止されることになる。
【0061】
また、連設部4以降、主溝2と副溝3とを並走させることで、複数の切り屑排出溝を連設させずに夫々独立して設けた場合に比し、溝容積を小さくして剛性を確保することが可能となり、それだけ穴位置精度を改善することができる。
【0062】
更に、主溝2と副溝3の溝長を異ならせることで、複数の切り屑排出溝の溝長を同じ長さにした場合に比し、折損の起点となり易い工具基端側(根元部)で剛性を確保することが可能となり、耐折損性を改善することができる。
【0063】
よって、本実施例は、樹脂付きアルミ板を当て板として用いた場合でも、折損し難く且つ切り屑排出性も飛躍的に良好となって切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く穴位置精度が良好で安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れた穴明け工具となる。
【0064】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0065】
図10は、副溝長を変化させて(それに伴い切れ上がり狭角も変化させて)穴位置精度及び巻き付き残りを評価した実験条件及び実験結果を示す表である。この実験で使用したドリルは、工具直径を0.1mm、主溝2の溝長を1.8mmとし、従来例を従来の2枚刃2溝形状のドリル(2つの切り屑排出溝のねじれ角はいずれも45°一定)とし、実験例1〜10は、図6に図示した態様で主溝と副溝とを連設し、実験例11は図8に図示した態様で主溝と副溝とを連設し、その他、心厚、先端角など、他の仕様を同じ値としている。また、各ドリルには非晶質炭素皮膜(DLC)を被覆している。
【0066】
この実験では、難削材である半導体パッケージ用のPCB(基板:厚さ0.15mm/表裏両面Cu層)を4枚重ねてその上面に当て板として厚さ0.11mmの樹脂付きアルミ板を載置し、貫通穴加工ができるように前記PCBの下面には捨て板として一般に使用されている厚さ1.5mmの紙フェノール材を配置した。またドリル(スピンドル)の回転数を200krpm、送り速度を1.8m/min、上昇速度を25.4m/minとし、設定ヒット数を3,000ヒットとした。
【0067】
図10より、実験例1〜8,11は、従来例に比しいずれも巻き付き残りが少ないことが確認できた。特に、図11に示すように、実験例11は巻き付き残りがほとんどなく最も良好であることが確認できた。これは両者のねじれ角を途中で変化させることで、切り屑飛散効果がより高まったためと考えられる。
【0068】
また、実験例1〜8,11は、従来例に比しいずれも穴位置精度が良好であることが確認できた。また、副溝長が主溝長の56〜89%の場合で且つ切れ上がり狭角が106〜180°の範囲の実験例2,4,6,7,11は、穴位置精度が特に良好となることが確認できた。尚、副溝長が主溝長の56〜89%の範囲内である実験例3,5,8においては、穴位置精度は従来例に比し良好となっているが、切れ上がり狭角が小さいために、突発的な穴曲がりを引き起こし、Max値が大きくなってしまい(図10においてはMax飛びと表現)、安定した穴加工が得られない可能性がある。また、実験例1においては、穴位置精度は従来例に比し良好となっているが、主溝2の溝長と副溝3の溝長が同じであり、且つ切れ上がり狭角が小さいという両者の要因により、同様にMax飛びが発生し、安定した穴加工が得られない可能性がある。
【0069】
尚、副溝長が極端に短い実験例9,10ではドリルが折損した。これは切り屑排出性が悪化したためと考えられる。
【0070】
以上から、切り屑の巻き付き残りは切れ上がり狭角には依存せず、穴位置精度にのみ影響を与えることが確認でき、副溝長と切れ上がり狭角とが共に上記の範囲内に含まれる実験例2,4,6,7,11は、巻き付き残りが少なく且つ穴位置精度も良好な穴明け工具となることが確認できた。
【符号の説明】
【0071】
1 工具本体
2 切り屑排出溝
3 切り屑排出溝
4 連設部
5 切れ上がり端点
6 切れ上がり端点
O 工具軸心
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴明け工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板(PCB)の穴明け加工には、図1に図示したような刃部Cを有するボデー部Aとシャンク部Bとで構成されるドリルが使用される。サイズは用途によって様々であるが、一般に直径が0.7mm以下のドリルが多く使用されている。
【0003】
具体的には、刃部Cには、図2に図示したように本体20の外周にドリル先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝22が形成され、この切り屑排出溝22のすくい面と先端に設けられた第一の逃げ面24との交差稜線部には切れ刃21が形成されている(例えば特許文献1,2参照)。尚、図中、符号25は第一の逃げ面24の工具回転方向後方側に連設される第二の逃げ面、d’は工具直径、l’は切り屑排出溝の溝長、α’はねじれ角である。
【0004】
また、アルミ合金、チタン、マグネシウム、銅などの非鉄系被削材向けの耐摩耗性と耐溶着性を有する皮膜として非晶質炭素皮膜が実用化され、ドリルやエンドミル、刃先交換型切削チップなどの切削工具に被覆されて用いられている(例えば特許文献3参照)。
【0005】
ところで、PCBは銅と絶縁層としてのガラスクロスに樹脂を含浸させたものとを張り合わせて構成されるものであり、近年のPCBは、更なる信頼性向上のため、耐熱性の向上、曲げ強度の強化及び低熱膨張化が求められており、PCBを構成するガラスクロスや樹脂の機械的強度を高めることで、高信頼を確保しているものが多くなっている。
【0006】
しかしながら、穴明け加工を行う被削材として考慮した場合、上記構成のPCBは機械的強度が高められた分だけドリルの摩耗を促進し易く、穴明け加工中のドリル折損や過度の摩耗に伴う穴位置精度等の穴品質の悪化を引き起こし易い。
【0007】
一方、PCBの高密度化に伴い、要求される穴径(ドリルの直径)は年々径小化しており、直径が0.4mm以下の穴明け加工が多くなってきている。
【0008】
また、穴明け加工工程においては、加工効率を考慮し、同仕様のPCBを複数枚重ねて穴明け加工をするのが一般的である。具体的には、複数枚重ねたPCBの上面にドリルの求心性を高める目的の当て板としてアルミ板または表面に樹脂が被覆された樹脂付きアルミ板を載置して穴明け加工をするのが一般的である。樹脂付きアルミ板はアルミ板よりも求心性を高める効果が高く、またドリルの折損の改善にも寄与するため、特に直径が0.4mm以下の小径ドリルの穴明け加工に用いられることが多い。
【0009】
近年では、上記したような比較的加工性の悪いPCBの加工に用いるPCB用小径ドリルに対しても、加工コスト削減を目的としたPCBの重ね枚数の増加や、ドリルが折損せずに穴明け加工できる穴明け寿命の延長が要求されている。
【0010】
しかしながら、当て板として樹脂付きアルミ板を用いて穴明け加工した場合は、アルミ板を用いて穴明け加工した場合よりも、ドリルの刃部Cの基端部近傍に切り屑の巻き付き残りが顕著に発生し、樹脂の粘性が高い程、また被覆された樹脂が厚い程、前述の切り屑の巻き付き残りが発生する傾向が高く、上記要求の実現は困難である。
【0011】
これは、通常は穴明け加工時に発生する切り屑は穴明け機に付属される切り屑吸引機能によって吸引されて所定のダストボックスに搬出されるが、樹脂付きアルミ板を用いた場合、穴明け加工時の切削熱によって軟化した樹脂が切り屑と共に切り屑排出溝にガイドされて排出され、刃部Cの基端部近傍でドリルと切り屑を粘着するように作用するためと考えられ、引き続き穴明け加工を繰り返すことで切り屑の巻き付き残り量が増加するものと考えられる。
【0012】
切り屑の巻き付き残り量は、穴明け加工時のドリルの回転数や送り速度の加工条件やPCBの材質によっても変化するが、図3(a)に図示したように顕著な切り屑の巻き付き残りが発生し、この切り屑の巻き付き残りが続く穴明け加工中にその切り屑(切り屑塊)が何かしらの振動等をきっかけとしてドリルから離れ、前記吸引機能をもってしても吸引されずに当て板上に落下し、その後、穴明け加工しようとするドリルが落下した切り屑塊に干渉することで穴位置精度の悪化やドリルの折損が引き起こされると考えられる。尚、図3(b)に当て板上に落下した切り屑塊を例示する。
【0013】
また、例えば、特許文献4には、2つの切れ刃と2つの切り屑排出溝を有するPCBドリルにおいて、各切り屑排出溝を先端から所定量後退した位置で合流させ、合流点よりも後方で1つの溝とすることで、剛性を向上させる技術が開示されているが、切り屑の巻き付きについては言及がなく、上記要求を満たすことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭56−39807号公報
【特許文献2】特開2006−55915号公報
【特許文献3】特開2001−341021号公報
【特許文献4】特開2007−307642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く穴位置精度が良好で安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れる穴明け工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0017】
工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝2,3が設けられ、この複数の切り屑排出溝2,3は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝2の途中部に前記副溝3が連設される穴明け工具であって、前記主溝2及び前記副溝3のねじれ角は該主溝2と該副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝3の溝長は前記主溝2の溝長の50〜95%に設定され、前記副溝3が前記連設部4から前記主溝2の終端より手前の所定位置まで前記主溝2と並走するように設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0018】
また、工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝2,3が設けられ、この複数の切り屑排出溝2,3は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝2の途中部に前記副溝3が連設される穴明け工具であって、前記主溝2及び前記副溝3のねじれ角は該主溝2と該副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝3の溝長は前記主溝2の溝長の70〜95%に設定され、前記副溝3が前記連設部4から前記主溝2の終端より手前の所定位置まで前記主溝2と並走するように設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0019】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部4における前記主溝2と前記副溝3との連設溝幅は、連設前の前記主溝2の溝幅の1.1〜1.9倍であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0020】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部4における前記主溝2と前記副溝3との連設溝幅は、連設前の前記主溝2の溝幅の1.3〜1.8倍であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0021】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部4の始端は工具先端から工具直径の2倍以上の位置で且つ前記主溝2の溝長の50%以下の位置に設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0022】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記主溝2及び副溝3の終端の切れ上がり端点5,6を含む夫々の工具軸直角断面における、前記主溝2の切れ上がり端点5と工具の回転軸心Oとを結ぶ第一の線及び前記副溝3の切れ上がり端点6と工具の回転軸心Oとを結ぶ第二の線を、工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影した際、この投影面において前記第一の線と前記第二の線とがなす狭角のうち、少なくとも1つの狭角γが90°より大きく180°以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0023】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記切り屑排出溝2,3として前記主溝2と前記副溝3とが1つずつ設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0024】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の穴明け工具において、潤滑性皮膜として非晶質炭素皮膜が被覆されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【0025】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具直径が0.4mm以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上述のように構成したから、切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く穴位置精度が良好で安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れる穴明け工具となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】PCB用ドリルの概略説明側面図である。
【図2】従来例の拡大概略説明図である。
【図3】(a)ドリルの刃部Cの基端部近傍における切り屑の巻き付き残りを例示する写真と、(b)当て板上に落下した切り屑塊を例示する写真である。
【図4】本実施例の刃部の概略説明図である。
【図5】本実施例の切れ上がり狭角の概略説明図である。
【図6】主溝と副溝のねじれ角の概要を示す概略展開図である。
【図7】主溝と副溝のねじれ角の概要を示す概略展開図である。
【図8】主溝と副溝のねじれ角の概要を示す概略展開図である。
【図9】主溝と副溝のねじれ角の概要を示す概略展開図である。
【図10】実験条件及び実験結果を示す表である。
【図11】実験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0029】
穴明け加工時に工具先端部で生じた切り屑が切り屑排出溝2,3に沿って排出される際、主溝2と副溝3との連設部4において切り屑同士が衝突することで、切り屑が(工具径方向に)強制的に飛散せしめられ、工具基端部まで到達し難くなるため、工具基端部における切り屑の巻き付きが防止される。
【0030】
また、連設部4以降、主溝2と副溝3とを並走させることで、複数の切り屑排出溝を連設させずに夫々独立して設けた場合に比し、溝容積を小さくして剛性を確保することが可能となり、それだけ穴位置精度を改善することができる。
【0031】
更に、主溝2と副溝3の溝長を異ならせることで、複数の切り屑排出溝の溝長を同じ長さにした場合に比し、折損の起点となり易い工具基端側(根元部)で剛性を確保することが可能となり、耐折損性を改善することができる。
【実施例】
【0032】
本発明の具体的な実施例について図4〜図11に基づいて説明する。
【0033】
本実施例は、工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝2,3が設けられ、この複数の切り屑排出溝2,3は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝2の途中部に前記副溝3が連設される穴明け工具であって、前記主溝2及び前記副溝3のねじれ角は該主溝2と該副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝3の溝長は前記主溝2の溝長の50〜95%に設定され、前記副溝3が前記連設部4から前記主溝2の終端より手前の所定位置まで前記主溝2と並走するように設けられているものである。
【0034】
尚、本実施例においては、主溝2とは最長溝長となる溝をいい、副溝3とは主溝2より短い溝長を持つ溝をいう。
【0035】
具体的には、本実施例は、工具直径が0.1mmで、主溝2と該主溝2に連設する副溝3とが1条ずつ設けられ、この主溝2及び副溝3のすくい面と工具本体の先端逃げ面(第一の逃げ面)との交差稜線部には夫々工具本体1と一体に切れ刃が設けられたドリルであり、PCBの穴明け加工に使用されるものである。
【0036】
このPCBの穴明け加工は、例えば、後述する実験例のように、難削材である半導体パッケージ用のPCB(基板:厚さ0.15mm/表裏両面Cu層)を4枚重ねて、その上面に当て板として厚さ0.11mmの樹脂付きアルミ板を載置し、貫通穴加工ができるように前記PCBの下面には捨て板として一般に使用されている厚さ1.5mmの紙フェノール材を配置した状態で行われる。当て板の厚さは0.04〜1.0mmの範囲で適宜設定する。また、厚さ0.1mm程度のPCBのCu層の厚さは通常2〜80μm程度である。
【0037】
尚、本実施例においては2つの切れ刃と2つの切り屑排出溝(1つの主溝と1つの副溝)を有するドリル(2枚刃ドリル)について説明するが、主溝側にのみ切れ刃を設けた1枚刃ドリルや、3枚刃以上のドリル(例えば1つの主溝と2つの副溝を有するもの)の場合も同様である。この際、1枚刃ドリルとした場合にはより高い求心効果を得ることができ、3枚刃ドリルとした場合にはより良好な切削性を得ることができる。
【0038】
具体的には、本実施例においては、主溝2及び副溝3のねじれ角が、主溝2と副溝3との連設部4から工具基端側において略等しい角度に設定され、且つ、副溝3の溝長l2が主溝の溝長l1の50〜95%に設定されている。50%未満の場合、基板外に切り屑を排出するために重要となる溝中間部から基端にかけての溝容積が小さくなるため、切り屑詰まりにより折損の可能性が高まり、95%より長い場合、主溝2の溝長l1との差が小さくなり、根元部において剛性が確保しにくくなる。尚、副溝3の溝長l2を主溝2の溝長l1の70%以上に設定した場合、より安定した切り屑排出が行われるためか、より長寿命で安定した穴加工を実現できることが、本発明者等により確認された。よって、副溝3の溝長l2は、主溝2の溝長l1の70〜95%に設定するのがより好ましい。
【0039】
これにより、副溝3の終端(切れ上がり端点6)は主溝2の終端(切れ上がり端点5)より工具先端側となり、副溝3は主溝2と副溝3との連設部4(の終端)から主溝2の終端より手前の所定位置まで(図4の区間Qの間)主溝と並走することになる。
【0040】
具体的には、連設部4において主溝2と副溝3とが連設して両者の一部が重なり、夫々の溝の最下点が所定距離離れた状態で、二つの溝が並走することになる。即ち、主溝2と副溝3とは連設部4以降で一部が重なりつつ連設前の溝形状の一部を残した状態で並走するように設けられる(図4参照。尚、図4(a)〜(d)は夫々異なる回転位相で側面から刃部を見たものである。)。
【0041】
本実施例においては、連設部4における主溝2と副溝3との連設溝幅W2(連設部終端における主溝2と副溝3とが一部重なった状態での合計溝幅W2)が、連設前の主溝2の溝幅W1の1.1〜1.9倍となるように連設される。1.1倍未満の場合、溝容積が小さ過ぎてスムーズな切り屑排出性を得にくくなり、1.9倍より大きい場合、溝容積が大きいためにドリルの剛性が確保しにくくなる。尚、連設溝幅W2は、切り屑排出性と剛性との相反する性質のバランスを考慮した場合、連設前の主溝2の溝幅W1の1.3〜1.8倍に設定するのがより好ましいということが、本発明者等が鋭意研究した結果、知見として得られた。また、本実施例においては副溝3の溝幅は主溝2の溝幅W1と同一に設定している。即ち、連設溝幅W2が連設前の主溝2(副溝3)の溝幅W1の2倍に近づくほど、両者の重なり度合いが小さいことになる。
【0042】
また、本実施例においては、主溝2と副溝3との連設部4における連設開始点は、工具先端から工具直径の2倍以上の位置で且つ主溝2の溝長l1の50%以下の位置に設けられている。本実施例においては、主溝2と副溝3との連設部4は、図4中の工具先端から距離P離れた連設開始点から工具先端から距離M2離れた副溝3の第二のねじれ角変化点(並走開始点)までの範囲を示している。連設開始点(連設部4の始端)を工具先端から工具直径の2倍未満の位置に設けると、再研磨時に連設部まで研磨される可能性が高く、適した刃形状を得にくくなり、工具先端から主溝の溝長の50%より基端側の位置に設けると、剛性が劣化し、穴位置精度が悪化する。
【0043】
また、本実施例において、副溝3を主溝2の途中部に連設する際には、副溝3若しくは主溝2のねじれ角を途中で変化させることで行う。例えば、主溝2は始端から終端まで一定のねじれ角として、副溝3のねじれ角を途中で変化させることで副溝3を主溝2の途中に連設しても良いし、双方のねじれ角を途中で変化させて連設しても良い。具体的には、例えば図6〜9に図示したような態様が考えられる。
【0044】
図6及び7は、主溝2のねじれ角αを一定として、副溝3のねじれ角を小(β1)→大(β2)→小(β3)と変化させることで両者を連設するものである。具体的には、副溝3の初期ねじれ角β1を、工具先端から距離M1離れた第一のねじれ角変化点でより大きいβ2に変化させることで主溝2に接近させ、副溝3が主溝2に連設した直後(図6)若しくは主溝2と交差した後(図7)、工具先端から距離M2離れた第二のねじれ角変化点で主溝2のねじれ角αと同角度のβ3に変化させて並走させるものである。この場合、主溝のねじれ角αが一定であるため、剛性を確保し易い利点がある。尚、図6,7においては、α、β1及びβ3は45°に設定し、β2は55°に設定している。また、本実施例においては図6の態様を採用している。
【0045】
図8及び9は、主溝2及び副溝3のねじれ角を夫々小(45°)→大(55°)と変化させるもので、両者のねじれ角の変化点の調整により両者を連設するものである。具体的には、副溝3のねじれ角を途中で大きくすることで、主溝2に接近させ、副溝3が主溝2に連設した直後(図8)若しくは主溝と交差した後(図9)、主溝2のねじれ角を副溝3のねじれ角と同角度に変化させるものである。この場合、両者のねじれ角を途中で変化させるため、それだけ切り屑が巻き付きにくくなり、また、工具基端側で大きいねじれ角となるため、それだけ良好なポンプ作用により工具先端で生じた切り屑をスムーズに排出できる利点がある。尚、図6〜9において、主溝2と副溝3が逆になっても良い。即ち、図6及び7においては、副溝3のねじれ角を一定として、主溝2のねじれ角を小→大→小と変化させることで両者を連設しても良いし、図8及び9においては、主溝2のねじれ角を途中で大きくすることで、副溝3に接近させ、主溝2が副溝3に連設した直後(図8)若しくは副溝と交差した後(図9)、副溝3のねじれ角を主溝2のねじれ角と同角度に変化させても良い。
【0046】
また、本実施例は、前記主溝2及び副溝3の終端の切れ上がり端点5,6を含む夫々の工具軸直角断面における、前記主溝2の切れ上がり端点5と工具の回転軸心Oとを結ぶ第一の線及び前記副溝3の切れ上がり端点6と工具の回転軸心Oとを結ぶ第二の線を、工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影した際、この投影面において前記第一の線と前記第二の線とがなす狭角のうち、少なくとも1つの狭角γが90°より大きく180°以下となるように構成されている。言い換えると、前記主溝2及び副溝3の終端の切れ上がり端点5,6を含む夫々の工具軸直角断面において、前記夫々の切れ上がり端点5,6と工具の回転軸心Oとを結ぶ夫々の線を工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影した投影線にして、前記主溝2の切れ上がり端点5を含む投影線と前記夫々の副溝3の切れ上がり端点6を含む投影線とがなす狭角のうち、少なくとも1つの狭角γが90°より大きく180°以下となるように構成されている。
【0047】
具体的には、本実施例においては、主溝2及び副溝3が1つずつ設けられており、主溝2の切れ上がり端点5を含む工具軸直角断面において該切れ上がり端点5と工具の回転軸心Oとを結ぶ第一の線(図5(b)参照)と、副溝3の切れ上がり端点6を含む工具軸直角断面において該切れ上がり端点6と工具の回転軸心Oとを結ぶ第二の線(図5(a)参照)を工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影し、前記軸直角投影面上で前記の夫々の線(投影線)がなす狭角γ(以下、切れ上がり狭角と言う。図5(c)参照)が90°より大きく180°以下となるように構成されている。
【0048】
即ち、切れ上がり狭角γが90°より大きく180°以下となるように主溝2及び副溝3の溝長l1,l2を設定している。これは後述する実験結果から導かれるもので、切れ上がり狭角γが上記範囲内であると、穴位置精度が極めて良好となる。一方切れ上がり狭角の全てが90°以下であると、切り屑の排出方向が偏るため、工具基端側でアンバランスな排出となり、突発的な穴曲がりが引き起こされる可能性がある。3枚刃以上のドリル(例えば1つの主溝と2つの副溝を有するもの)の場合の軸直角投影面の一例を図5(d)に図示した。3溝の場合、主溝2の切れ上がり端点5を含む投影線(第一の線)と一方の副溝3の切れ上がり端点6を含む投影線(第二の線)とがなす切れ上がり狭角γが90°より大きく180°以下であれば、切り屑の排出方向の偏りを回避することができるため、バランスのよい排出が得られる。即ち、副溝が2つ以上存在する場合には、前記第二の線が2つ以上存在することになるが、前記第一の線と前記複数の第二の線とがなす切れ上がり狭角γのうち、1つでも90°より大きく180°以下であれば、切り屑の排出方向の偏りを回避することができるため、バランスのよい排出が得られることになる。
【0049】
尚、切れ上がり狭角γは、主溝2の切れ上がり端点5と副溝3の切れ上がり端点6の回転位相差(角度差)により表される。
【0050】
また、工具本体1には潤滑性皮膜として非晶質炭素皮膜が被覆されている。即ち、本実施例は、従来の2枚刃ドリルの形状に比べ、工具基端側で溝容積が小さくなるため(ウェブ、ウェブテーパ値を同じにした場合)、基板の種類、厚さ、重ね枚数によってはスムーズな切り屑排出性能を得られにくく、内壁粗さの悪化や折損を引き起こす可能性がある。しかし、非晶質炭素皮膜を被覆することで、切り屑排出性を改善し、剛性形状であることを活かした高精度な穴明け加工が可能となる。
【0051】
各部を具体的に説明する。
【0052】
本実施例は、基材としては、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材から成る超硬合金製であり、この超硬合金のWC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmでありCo含有量が重量%で5〜15%であるものが採用されており、少なくとも工具本体1の切り屑排出溝に非晶質炭素皮膜が被覆されている。非晶質炭素皮膜は硬質であるため工具の摩耗を抑制し、また高い潤滑性を有することから切り屑が切り屑排出溝に沿って工具本体1の基端部へ排出され易くなって切り屑詰まりを防止して折損し難くなる。
【0053】
また、本実施例においては、潤滑性皮膜として、炭素原子を主体として構成されビッカース硬さが3000以上である高硬度の非晶質炭素(DLC)から成る非晶質炭素皮膜を採用しているが、ビッカース硬さが2000以上であれば、比較的低硬度の非晶質炭素(DLC)若しくはDLCと他の物質(例えば金属)との混合物から成る皮膜を採用しても良いし、クロム窒化物等、他の潤滑性皮膜を採用しても良い。
【0054】
尚、本実施例においては、非晶質炭素皮膜は基材直上に形成しているが、例えば、基材直上に、周期律表の4a、5a、6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素からなる金属若しくは半金属から成り、膜厚が200nm以下1nm以上である下層皮膜層(下地膜)を形成し、この下層皮膜層の上に前記非晶質炭素皮膜を形成する構成としても良い。また、下層皮膜層としては、上記構成に限らず、周期律表の4a、5a、6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素と窒素及び炭素から選択される1種以上の元素との化合物から成るものを採用しても良い。
【0055】
また、本実施例では非晶質炭素皮膜や下地膜の成膜の際、アークイオンプレーティング方式の成膜装置を用いたが、スパッタリング方式やレーザーアブレーション方式などのPVD成膜装置を使っても良い。
【0056】
本発明はPCBなどの非鉄系被削材の穴明け加工等に使用する非晶質炭素皮膜等の潤滑性皮膜が被覆されたドリルとして発明されたものであるが、その基材としては、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材からなる超硬合金が、硬度と靭性のバランスが取れた材料であることから望ましい。
【0057】
WC粒子の平均粒径を小さくしすぎると、結合材中にWC粒子を均一に分散させることが難しくなり、超硬合金の抗折力低下を引き起こしやすい。一方、WC粒子を大きくしすぎると超硬合金の硬度が低下する。また、Co含有量を少なくしすぎると超硬合金の抗折力が低下し、逆にCo含有量を多くしすぎると超硬合金の硬度が低下する。そのため、WC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmであり、Co含有量が重量%で5〜15%の超硬合金を基材とすることが望ましい。
【0058】
また、PCBなどの難削材に対して皮膜剥離のない安定した穴明け加工を行うためには、基材と非晶質炭素皮膜との密着性をより高くすることが望ましい。Ti,Cr,Taなどの周期律表の4a,5a,6a族元素及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素から成る金属または半金属を基材直上に下地膜として成膜し、その上に非晶質炭素皮膜を成膜することで、基材と非晶質炭素皮膜の密着性をより高めることができる。また、周期律表の4a,5a,6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素と窒素及び炭素から選択される1種以上の元素との化合物を基材直上に下地膜として成膜しても良い。
【0059】
下地膜は基材と非晶質炭素皮膜との密着性を向上させる目的で成膜されるので、あまり厚すぎても意味がなく、200nm以下1nm以上の膜厚にすることが望ましい。
【0060】
本実施例は上述のように構成したから、穴明け加工時に工具先端部で生じた切り屑が切り屑排出溝2,3に沿って排出される際、主溝2と副溝3との連設部4において切り屑同士が衝突することで、切り屑が(工具径方向に)強制的に飛散せしめられ、工具基端部まで到達し難くなるため、工具基端部における切り屑の巻き付きが防止されることになる。
【0061】
また、連設部4以降、主溝2と副溝3とを並走させることで、複数の切り屑排出溝を連設させずに夫々独立して設けた場合に比し、溝容積を小さくして剛性を確保することが可能となり、それだけ穴位置精度を改善することができる。
【0062】
更に、主溝2と副溝3の溝長を異ならせることで、複数の切り屑排出溝の溝長を同じ長さにした場合に比し、折損の起点となり易い工具基端側(根元部)で剛性を確保することが可能となり、耐折損性を改善することができる。
【0063】
よって、本実施例は、樹脂付きアルミ板を当て板として用いた場合でも、折損し難く且つ切り屑排出性も飛躍的に良好となって切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く穴位置精度が良好で安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れた穴明け工具となる。
【0064】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0065】
図10は、副溝長を変化させて(それに伴い切れ上がり狭角も変化させて)穴位置精度及び巻き付き残りを評価した実験条件及び実験結果を示す表である。この実験で使用したドリルは、工具直径を0.1mm、主溝2の溝長を1.8mmとし、従来例を従来の2枚刃2溝形状のドリル(2つの切り屑排出溝のねじれ角はいずれも45°一定)とし、実験例1〜10は、図6に図示した態様で主溝と副溝とを連設し、実験例11は図8に図示した態様で主溝と副溝とを連設し、その他、心厚、先端角など、他の仕様を同じ値としている。また、各ドリルには非晶質炭素皮膜(DLC)を被覆している。
【0066】
この実験では、難削材である半導体パッケージ用のPCB(基板:厚さ0.15mm/表裏両面Cu層)を4枚重ねてその上面に当て板として厚さ0.11mmの樹脂付きアルミ板を載置し、貫通穴加工ができるように前記PCBの下面には捨て板として一般に使用されている厚さ1.5mmの紙フェノール材を配置した。またドリル(スピンドル)の回転数を200krpm、送り速度を1.8m/min、上昇速度を25.4m/minとし、設定ヒット数を3,000ヒットとした。
【0067】
図10より、実験例1〜8,11は、従来例に比しいずれも巻き付き残りが少ないことが確認できた。特に、図11に示すように、実験例11は巻き付き残りがほとんどなく最も良好であることが確認できた。これは両者のねじれ角を途中で変化させることで、切り屑飛散効果がより高まったためと考えられる。
【0068】
また、実験例1〜8,11は、従来例に比しいずれも穴位置精度が良好であることが確認できた。また、副溝長が主溝長の56〜89%の場合で且つ切れ上がり狭角が106〜180°の範囲の実験例2,4,6,7,11は、穴位置精度が特に良好となることが確認できた。尚、副溝長が主溝長の56〜89%の範囲内である実験例3,5,8においては、穴位置精度は従来例に比し良好となっているが、切れ上がり狭角が小さいために、突発的な穴曲がりを引き起こし、Max値が大きくなってしまい(図10においてはMax飛びと表現)、安定した穴加工が得られない可能性がある。また、実験例1においては、穴位置精度は従来例に比し良好となっているが、主溝2の溝長と副溝3の溝長が同じであり、且つ切れ上がり狭角が小さいという両者の要因により、同様にMax飛びが発生し、安定した穴加工が得られない可能性がある。
【0069】
尚、副溝長が極端に短い実験例9,10ではドリルが折損した。これは切り屑排出性が悪化したためと考えられる。
【0070】
以上から、切り屑の巻き付き残りは切れ上がり狭角には依存せず、穴位置精度にのみ影響を与えることが確認でき、副溝長と切れ上がり狭角とが共に上記の範囲内に含まれる実験例2,4,6,7,11は、巻き付き残りが少なく且つ穴位置精度も良好な穴明け工具となることが確認できた。
【符号の説明】
【0071】
1 工具本体
2 切り屑排出溝
3 切り屑排出溝
4 連設部
5 切れ上がり端点
6 切れ上がり端点
O 工具軸心
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝が設けられ、この複数の切り屑排出溝は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝の途中部に前記副溝が連設される穴明け工具であって、前記主溝及び前記副溝のねじれ角は該主溝と該副溝との連設部から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝の溝長は前記主溝の溝長の50〜95%に設定され、前記副溝が前記連設部から前記主溝の終端より手前の所定位置まで前記主溝と並走するように設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項2】
工具本体の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝が設けられ、この複数の切り屑排出溝は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝の途中部に前記副溝が連設される穴明け工具であって、前記主溝及び前記副溝のねじれ角は該主溝と該副溝との連設部から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝の溝長は前記主溝の溝長の70〜95%に設定され、前記副溝が前記連設部から前記主溝の終端より手前の所定位置まで前記主溝と並走するように設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部における前記主溝と前記副溝との連設溝幅は、連設前の前記主溝の溝幅の1.1〜1.9倍であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項4】
請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部における前記主溝と前記副溝との連設溝幅は、連設前の前記主溝の溝幅の1.3〜1.8倍であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部の始端は工具先端から工具直径の2倍以上の位置で且つ前記主溝の溝長の50%以下の位置に設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記主溝及び副溝の終端の切れ上がり端点を含む夫々の工具軸直角断面における、前記主溝の切れ上がり端点と工具の回転軸心とを結ぶ第一の線及び前記副溝の切れ上がり端点と工具の回転軸心とを結ぶ第二の線を、工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影した際、この投影面において前記第一の線と前記第二の線とがなす狭角のうち、少なくとも1つの狭角が90°より大きく180°以下であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記切り屑排出溝として前記主溝と前記副溝とが1つずつ設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の穴明け工具において、潤滑性皮膜として非晶質炭素皮膜が被覆されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具直径が0.4mm以下であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項1】
工具本体の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝が設けられ、この複数の切り屑排出溝は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝の途中部に前記副溝が連設される穴明け工具であって、前記主溝及び前記副溝のねじれ角は該主溝と該副溝との連設部から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝の溝長は前記主溝の溝長の50〜95%に設定され、前記副溝が前記連設部から前記主溝の終端より手前の所定位置まで前記主溝と並走するように設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項2】
工具本体の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝が設けられ、この複数の切り屑排出溝は1つの主溝と1つ以上の副溝とを含み、前記主溝の途中部に前記副溝が連設される穴明け工具であって、前記主溝及び前記副溝のねじれ角は該主溝と該副溝との連設部から工具基端側において略等しい角度に設定され、前記副溝の溝長は前記主溝の溝長の70〜95%に設定され、前記副溝が前記連設部から前記主溝の終端より手前の所定位置まで前記主溝と並走するように設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部における前記主溝と前記副溝との連設溝幅は、連設前の前記主溝の溝幅の1.1〜1.9倍であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項4】
請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部における前記主溝と前記副溝との連設溝幅は、連設前の前記主溝の溝幅の1.3〜1.8倍であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記連設部の始端は工具先端から工具直径の2倍以上の位置で且つ前記主溝の溝長の50%以下の位置に設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記主溝及び副溝の終端の切れ上がり端点を含む夫々の工具軸直角断面における、前記主溝の切れ上がり端点と工具の回転軸心とを結ぶ第一の線及び前記副溝の切れ上がり端点と工具の回転軸心とを結ぶ第二の線を、工具の軸方向視における同一の軸直角投影面に投影した際、この投影面において前記第一の線と前記第二の線とがなす狭角のうち、少なくとも1つの狭角が90°より大きく180°以下であることを特徴とする穴明け工具。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記切り屑排出溝として前記主溝と前記副溝とが1つずつ設けられていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の穴明け工具において、潤滑性皮膜として非晶質炭素皮膜が被覆されていることを特徴とする穴明け工具。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具直径が0.4mm以下であることを特徴とする穴明け工具。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図11】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図11】
【公開番号】特開2012−110984(P2012−110984A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260090(P2010−260090)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000115120)ユニオンツール株式会社 (44)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000115120)ユニオンツール株式会社 (44)
【Fターム(参考)】
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