説明

空圧式起伏ゲート

【課題】扉体が所定の姿勢まで起立したときには、この上側引留棒と調節引留棒と下側引留棒が直線状となって発生する張力が扉体を停止させ、鋼板製扉体が倒伏するときには、上側引留棒も下側引留棒も空気袋から離れる方向に回転運動させる空圧式起伏ゲートの提供。
【解決手段】扉体22が所定の姿勢まで起立した時、上側引留棒36と調節引留棒32、並びに下側引留棒31が直線状となって鋼板製の扉体22がそれ以上起立せず、鋼板製の扉体22が倒伏運動を開始して、上側引留棒36、調節引留棒32並びに下側引留棒31に作用する引張力が消滅した時には、上側引留棒36はスプリング39の引張力によって反時計周りに回転し調節引留棒32を空気袋4から離す方向に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水路の底部に設けた回転中心によって扉体が起立または倒伏を行なうことにより、水路の流水を堰上げまたは放流する目的で使用される起伏ゲートの一種で、鋼板製の扉体の下流側根元部に位置する平らな長方形に製作した3辺が閉じ1辺が開いたゴム引布製の空気袋に陸上の空気操作装置から空気管を接続して圧縮空気を送入すれば、空気袋が膨張して扉体を起立させ、逆に空気袋から圧力を有する空気を排出すれば、空気袋が平らに収縮して扉体が倒伏するようにした空圧式起伏ゲートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空圧式起伏ゲートの扉体の起立と倒伏を駆動する空気袋は、3辺が閉じ1辺が開いた平らな長方形に製作され、開いた辺をアンカーボルトと主押え板とで水路底に押し付けることにより、開いた辺を密閉しつつ、水路底に固定したものであるから、空気袋に圧縮空気を送入すれば、空気袋は扉体を押し起しつつ膨張するのであるが、無制限にこれを継続すれば、空気袋の断面は円形に近くなり、扉体は上流側に転倒してしまうことになる。
【0003】
したがって、空圧式起伏ゲートにおいては、扉体の下流側の面で空気袋が接触する位置より上方に一端を固定したゴム引布製の引留帯の他端を、空気袋より下流側の基礎コンクリートに固定して扉体が所定の姿勢まで起立した時には、これに作用する張力によって扉体を停止させる。
この扉体の所定の起立姿勢は、水平に対する起立角を60°程度とするのが通常である。
【特許文献1】特にありません。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この引留帯はゴム引布製であるために精度上と強度上の問題点がある。
精度上の問題点は、引留帯によって扉体の起立高を制限した時に起立高の設定精度を良くするのに困難があることで、その原因は
(1) ゴム引布製の引留帯が張力が作用すると伸びること、
(2) 引留帯の製作時の精度は加硫時の熱による収縮量が変動するので良くないこと、並びに
(3) 引留帯を折返して押え板とボルトによって扉体の下流面に固定する時、据付精度をよくすることは非常に困難であること、
等である。
また強度上の問題点は、引留帯は押え板によって固定されつつ張力を受けて折れ曲るのであるが、折曲り部の曲げ半径を決定する押え板の縁の半径を充分大きな値とすることは引留帯の設置スペースに限界があって不可能である。そのため、引留帯が押え板の縁の付近で外層ゴムの破断、補強繊維層のはみ出し等の局部的損傷を生ずることが多いことである。
【0005】
そこで、扉体が所定の起立姿勢となった時に扉体を停止させる部材として、ゴム引布ではなく充分な強度を有する鋼棒を使用し、鋼棒を扉体や基礎コンクリートに取り付ける部分は、扉体の回転中心と同方向のピンを使用し、加えて鋼棒の長さの中間に、同方向のピンによる折曲り部を設けることにしたのであるが、空圧式起伏ゲートでは扉体の回転中心が起伏運動の途中で移動する特性があり、この引留用の鋼棒に計算を超える荷重が作用して破損する事故が発生する。
なかでも扉体をゴム引布製の扉体繋留板によって水路の底に起伏自在に取付ける形式においては、起伏運動時の扉体の回転中心の移動量が大きいためこの影響が深刻であり、解決を求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、この発明の空圧式起伏ゲートにおいては、扉体に取付けた引留棒と基礎コンクリートに取付けた引留棒を直接連結せず、その間に調節引留棒を介在させることにより、起伏操作中に扉体の回転中心が移動することが原因で引留棒やピンに過大な荷重が作用するのを回避するようにした。
すなわち、扉体の下流面の空気袋が接触するより上側の適当な位置に突起させた引留棒の固定板に、鋼板製扉体の回転中心と同方向のピンによって一端を回転自由に取付けた適当な長さと充分な引張強さを有する平鋼製の上側引留棒の他端と空気袋より下流の適当な位置の水路底に設置したアンカー金物に、鋼板製扉体の回転中心と同方向のピンによって一端を回転自由に取付けた適当な長さと充分な引張強さを有する平鋼製の下側引留棒の他端とを、適当な長さと充分な引張強さを有する鋼製の調節引留棒を鋼板製扉体の回転中心と同方向の2本のピンによって回転自由に連結することにより、扉体が所定の姿勢まで起立したときには、この上側引留棒と調節引留棒と下側引留棒が直線状となって発生する張力が扉体を停止させるようにした。
【0007】
この時、扉体、上側引留棒、調節引留棒、下側引留棒並びに水路底に設置したアンカー金物を連結する4本のピンは全て鋼板製扉体の回転中心に平行であり、1本の直線上にある。
そして、鋼板製扉体が倒伏するときには、調節引留棒が鋼板製扉体の回転中心から離れる方向に移動するようスプリングを設けて誘導することにより、3本の引留棒が適正な方向に折曲って倒伏運動に支承がないようにする。すなわち上側引留棒は鋼板製扉体に対し、また下側引留棒は水路底に対し各々回転運動して調節引留棒が鋼板製扉体の回転中心から離れる方向に移動するよう誘導するスプリングを取付けるのである。
【0008】
このようにすれば、鋼板製扉体が倒伏するときには、上側引留棒も下側引留棒も空気袋から離れる方向に回転運動して、上側引留棒、調節引留棒そして下側引留棒の3者が鋼板製扉体の先端付近と水路底が構成する格納空間に納まることができる。
さらに、この倒伏運動に際してゴム引布製の扉体繋留板の変形により鋼板製扉体の回転中心が移動することにより、鋼板製扉体と上側引留棒を連結するピンと下側引留棒とアンカー金物を連結するピンとの相対的位置の関係に狂いが生じても、上側引留棒と下側引留棒の中間にある調節引留棒が若干揺動することにより処理されるので、3種の引留棒やピンに過大な荷重が作用することはない。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、鋼製の各引留棒の形状寸法は精度良く製作され、組立精度もピンとピン穴との組立であるから高品質であり、空圧式起伏ゲートの起立高の施工精度を著しく改善することができる。
またピンと引留棒のピン穴との引張力の伝達は安定しており、部品の一部が破損する心配もない。
加えて、上側引留棒と下側引留棒とは平鋼を使用しているので、充分な引張強さは保有しても、圧縮力を受ける時には容易に座屈する部品である。したがって鋼材を使用した引留棒であっても万一折曲げ、格納に不具合が発生した場合には、この平鋼の部分が座屈して破壊されるので倒伏の障害となることがなくて安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の空圧式起伏ゲートの実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1、図2、図3、図4、図5ならびに図6はこの空圧式起伏ゲートの1実施例を示すものであり、図1は空圧式起伏ゲートの正面図、図2は背面図、図3は断面図でともに起立状態を示し、図4は断面図で倒伏状態を示し、図5は扉体の説明図であり、図6は上側引留棒、調節引留棒、下側引留棒を組立てた状態の説明図である。
【0011】
図1、図2、図3および図4において、断面が長方形の水路の底のコンクリートの上面1に、水路を横断して並べて設置したアンカーボルト2が主押え板3によって、3辺が閉じ1辺が開いた平らな長方形に製作したゴム引布製の空気袋4の開いた辺の縁5,6ならびにゴム引布製の繋留板7の上流の縁8の3枚を一緒に、水路底のコンクリートの上面1に押し付けることによって、空気袋4の開いた辺を密閉すると同時に、空気袋4と繋留板7を水路底に固定する。
【0012】
この空気袋4の開いた辺の下方のゴム引布9の縁5の端には、樹脂製のロッド10によって補強繊維の折曲半径が過小とならないように保護した縁端の折返し定着部11があり、水路底のコンクリートの上面1の上流側にある溝状部分の下流側の角12に掛かって、ゴム引布9が作用する張力によって所定の位置から引抜かれないようにする。
【0013】
また繋留板7の上流の縁8の端には、樹脂製のロッド13によって補強繊維の折曲半径が過小とならないように保護した縁端の折返し定着部14があり、主押え板3の上流側の下隅の凹部15によって上にも横にも移動しないよう確保されるので、繋留板7が作用する張力によって所定の位置から引抜かれないようになる。
【0014】
同時に、空気袋4の開いた辺の上方のゴム引布16の縁6の端には、樹脂製のロッド17によって補強繊維の折曲半径が過小とならないように保護した縁端の折返し定着部18があり、繋留板7の上流側の縁8の端にある折返し定着部14の上流側19に掛かって、ゴム引布16が作用する張力によって所定の位置から引抜かれないようにする。
すなわち、繋留板7と空気袋4の上方のゴム引布16も、主押え板3とアンカーボルト2によって所定の位置から引抜かれないようになる。
【0015】
このように構成した上で、アンカーボルト2にねじ込むナット20によって主押え板3を繋留板7、空気袋4の開いた辺のゴム引布9ならびに16の3枚のゴム引布を水路底のコンクリートの上面1に対して強く押し付けることにより、空気袋4の開いた辺を密閉しつつ、空気袋4と繋留板7を水路底に固定する。
【0016】
次に、繋留板7の下流側の縁21を鋼板製の扉体22の上流面の下端23に添う位置に押え板24とボルト25によって固定し、鋼板製の扉体22を繋留板7によって水路底のコンクリートの上面1に起伏自在に繋留する。
この場合も繋留板7の下流の縁21の縁端には、樹脂製のロッド26によって補強繊維の折曲半径が過小とならないように保護した縁端の折返し定着部27があり、繋留板7が作用する張力によって所定の位置から引抜かれないようにする。
【0017】
このように構成すれば、鋼板製の扉体22の下端23は主押え板3の下流側の縁に添う位置において空気袋4の上に載った状態となるので、空気袋4が膨張すれば鋼板製の扉体22が起立し、逆に空気袋4が平らに収縮すれば鋼板製の扉体22が倒伏することになる。
【0018】
さらに、水路の底の空気袋4より下流側の適当な位置のコンクリートの上面28に設置した適当な厚さの鋼板で製作したアンカー金物29の厚さの両側に、適当な長さと充分な引張強さを有する平鋼製の下側引留棒31を1本ずつ配置して計2本として、その一端を、鋼板製の扉体22の回転中心と同方向のピン30によってアンカー金物29に回転自由に取付け、下側引留棒31の他端では、アンカー金物29と同じ厚さで適当な長さと充分な引張強さを有する鋼製の調節引留棒32の一端を、下側引留棒31の2本の平鋼の間に挟みかつ回転自由であるようにピン30と平行なピン33によって連結する。
【0019】
また鋼板製の扉体22の下流面の空気袋4が接触するより上側の適当な位置に突起させた、アンカー金物29と同じ厚さの固定板34の厚さの両側に、適当な長さと充分な引張強さを有する平鋼製の上側引留棒36を1本ずつ配置して計2本として、その一端を、鋼板製扉体22の回転中心と同方向のピン35によって回転自由に取付け、上側引留棒36の他端は、一端を下側引留棒31の2本の平鋼の間に挟まれてかつ回転自由にピン33によって下側引留棒31と連結された調節引留棒32の他端と、2本の平鋼の間に挟みながら回転自由であるようにピン35と平行なピン55によって連結される。
その結果、扉体22が所定の姿勢まで起立した時には、この上側引留棒36と調節引留棒32、並びに下側引留棒31が直線状となって引張力が発生し、鋼板製の扉体22がそれ以上起立しないよう引留めることができる。この状態の断面図が図3である。
図3においては、さらに、鋼板製の扉体22の固定板34より上方の適当位置において、固定板37とピン38によって一端を取り付けられたスプリング39が、ピン40によって上側引留棒36の2本の平鋼の間において、上側引留棒36のピン35より適当長さピン55に寄った位置に取り付けられて引張力を上側引留棒36に加えている。
したがって、鋼板製の扉体22が倒伏運動を開始して、上側引留棒36、調節引留棒32並びに下側引留棒31に作用する引張力が消滅した時には、上側引留棒36はスプリング39の引張力によって反時計周りに回転し調節引留棒32を空気袋4から離す方向に移動させる。
【0020】
この上側引留棒36と調節引留棒32の動きは、下側引留棒31を時計回りに回転させるから調節引留棒32は益々空気袋4から離れる方向に移動することになる。
このようにして、鋼板製の扉体22が完全に倒伏した状態の断面図が図4に示されている。鋼板製の扉体22の頭部の曲げ加工部41が支持台42に支持されて、コンクリートの上面1、コンクリートの上面28、並びに鋼板製の扉体22の下流面によって必要な空間が確保され、空気袋4や下側引留棒31、調節引留棒32、上側引留棒36は、鋼板製の扉体22によって押し潰されることがない。すなわち、調節引留棒32は最も下流側に位置し、固定板37、ピン38、スプリング39は上側引留棒36の2本の平鋼の間に納まっている。
【0021】
図5に示すように、鋼板製の扉体22は、堰幅より少し小さい幅方向の寸法と、起立時に必要な起立高を確保するために必要な長さを有するものであって、頭部には曲げ加工部41を設けてある。
この曲げ加工部41は起立時には越流する水や流木が、空気袋4や下側引留棒31等を直接打たないように保護し、また倒伏時には支持台42に支持されて鋼板製の扉体22と水路底のコンクリートの間の空間を確保する。
また鋼板製の扉体22の下端23は起立、倒伏の運動に際して空気袋4の上を滑らかに移動するよう半円形に加工し、下端23に添って繋留板7の下流の縁21を固定するボルト25をねじ込む雌ねじ43が1列に並んでいる。
さらに鋼板製の扉体22の上流面には、斜長方向の曲げ強度を強化するために、上流面に直角の姿勢で水の流れに平行な方向に、適当な幅と板厚の細長い鋼板を適当な間隔で溶接取付けして縦リブ44とし、その下端は繋留板7の取付位置より上で縦リブ44を止めるため横リブ45を設けて補強する。
また縦リブ44はこの実施例では7本を配置したのであるが、その内2本はその中心を上側引留棒36からの引張力を受ける固定板34の中心と一致させて引張力が縦リブ44の剛性によって広く拡散し易いようにしてある。
【0022】
図6には上側引留棒36と調節引留棒32、並びに下側引留棒31の組立状態を示した。上側引留棒36と下側引留棒31は各々2本の平鋼によって構成され、2本の平鋼が調節引留棒32を両側から挟む状態でピンによって組み立てられている。すなわち上側引留棒36と調節引留棒32はピン55によって連結され、下側引留棒31と調節引留棒32はピン33によって連結され、両連結位置は相互に回転自由である。
また調節引留棒32の厚さはアンカー金物29や固定板34と同一であり、その厚さは上側引留棒36の2本の平鋼の間に固定板37、ピン38並びにスプリング39を余裕をもって納め得る値である。
またピン30,33,35,55,38,40は組み立てた後は所定位置から脱落しないよう割ピン46で止めている。この引留棒に関係するピン30,33,35,55,38,40は皆平行であり、鋼板製の扉体22の回転中心と同方向である。
【0023】
このように構成した上で、空気袋4の下方のゴム引布9の適当位置に接続した口金47に接続した空気管48を水路のコンクリートに埋設するなどして陸上に導き、空気操作装置の排気用開閉弁49、排気用流量調節弁50、排気放出部51、給気用開閉弁52、給気用流量調節弁53、空気圧縮機54に、図1、図2、図3および図4のように接続する。
【0024】
その上で空気圧縮機54から給気用流量調節弁53、給気用開閉弁52、空気管48、口金47を経由して空気袋4の内部に空気を圧入した結果、鋼板製の扉体22が起立した状態の断面図が図3であり、扉体22の頭部の曲げ加工部41が、越流する水を下流に導いて、空気袋4や下側引留棒31を直接打たないよう保護している。
この状態を上流側から見たのが図1であり、扉体22の上流面に7本の縦リブ44が取り付けられており、その内2本の中心位置には扉体22の下流面の固定板34の中心位置と同一として、固定板34に作用する上側引留棒36から伝達される引張力を縦リブ44の剛性によって扉体22に拡散させるようにしてある。
また、この状態を下流から見たのが図2であり、空気袋4が扉体22の下流側根元部にあって、ほぼ全堰幅において枕状に扉体22を支持している。
【0025】
他方、空気圧縮機54を停止し、給気用開閉弁52を閉じ、排気用開閉弁49を開いて、空気袋4の内部の圧力を有する空気を、排気用流量調節弁50によって制御しつつ、排気放出部51から大気中へ放出した結果、扉体22が完全に倒伏した状態の断面図が図4である。
扉体22の先端の曲げ加工部41が支持台42に支持されて完全に倒伏し、下に空気袋4、下側引留棒31、調節引留棒32、上側引留棒36等を保護している。
【0026】
図7、図8ならびに図9は、この発明の空圧式起伏ゲートの他の実施例を示すものであり、図7は断面図で起立状態を示し、図8は断面図で倒伏状態を示し、図9は上側引留棒、調節引留子の群とスプリング、ならびに下側引留棒を組立てた状態の説明図である。
図7、図8ならびに図9に示す通り、この実施例では調節引留棒の代りに2個の調節引留子と1本のピン、ならびに1個のスプリングを使用する。
すなわち、上側引留棒36の2枚の平鋼の下端で挟まれる状態で回転自由にピン55によって連結された、1枚の鋼板による上調節引留子61の下部に、両側から挟む状態の2枚の鋼板による下調節引留子62をピン63によって回転自由に連結し、これをさらにその両側から挟む平鋼製の下側引留棒31とピン33によって回転自由に連結する。
したがって、鋼板製の扉体22が起立した時には、ピン35、上側引留棒36、ピン55、上調節引留子61、ピン63、下調節引留子62、ピン33、下側引留棒31、ならびにピン30が直線状となり、引張力が発生して扉体22を停止させる。この状態の断面図が図7である。
【0027】
逆に、扉体22が倒伏するときには、スプリング64をピン65によって下調節引留子62に取り付け、同時に、ピン66によって下側引留棒31に取り付けて、下調節引留子62がピン33の回りに反時計回りに回転するよう誘導する。
他方、スプリング39が上側引留棒36をピン35の回りに反時計回りに回転するよう誘導するから、上調節引留子61、下調節引留子62ならびにピン63は空気袋4から離れる方向に移動して、倒伏完了時にはピン63を空気袋4に近くしつつ上調節引留子61と下調節引留子62がくの字形に折曲がった状態となって、上側引留棒36、下側引留棒31、空気袋4とともに扉体22と水路底との間に確保された格納空間に納まっている。この状態の断面図が図8である。
【0028】
図9は調節引留棒32の代りの、上調節引留子61、下調節引留子62、ピン63、スプリング64、ピン65ならびにピン66が上側引留棒36、ピン55、下側引留棒31、ならびにピン33と組立てられる状況の説明図である。
スプリング64の適当な配置により、扉体22が起立したときに直線状となった引留棒関係の部品群がスプリングの誘導により、扉体22の倒伏にしたがって折曲り縮小して安全、確実に扉体22の下側の格納空間に納まることができる。
この実施例では、図1、図2、図3、図4、図5、ならびに図6の実施例と比較して必要部品の数が増加しているが、倒伏したときに必要とする格納空間の縮小に成功しているので、大形の空圧式起伏ゲートに応用して有効である。
【0029】
図10、図11ならびに図12は、この発明の空圧式起伏ゲートの次の実施例を示すものであり、図10は断面図で起立状態を示し、図11は断面図で倒伏状態を示し、図12はスライド機構とスプリングを付加された下側引留棒と調節引留棒、ならびに上側引留棒を組立てた状態の説明図である。
図10、図11ならびに図12に示す通り、この実施例では下側引留棒にスライド機構とスプリングを付加して、扉体が起立した時にはピン30とピン33の間隔が最も長い状態に引き伸ばされており、扉体が倒伏した時には、スプリングによってピン30とピン33の間隔が最も短い状態となっている。
【0030】
水路底のコンクリートの上面28に固定したアンカー金物29にピン30によって回転自由に連結された、2枚の平鋼による下側引留棒73の上方には、スライドのために必要な長さの長辺を有する長孔74にスライドのために必要な長さの長辺を有する長孔74にスライド自由に組み付けられたスライドピン72と一体でさらに上方に伸びるスライダ71があり、スライダ71の先端はピン33によって調節引留棒32に連結されている。
一方、ピン30に近い位置のピン76に一端を取り付けたスプリング75の他端がピン72に取り付けてあるから、スライダ71とスライドピン72はスプリング75によって、常にピン30の方向に引かれる状態となる。
ところが、起立操作する時には、鋼板製の扉体22がピン35によって上側引留棒36を引くので、スプリング75が伸びてスライドピン72は長孔74の内をピン35の方向へ引寄せられる。
そして、扉体22が完全に起立した時には、スライドピン72は長孔74の最も上方に位置し、それ以上のスライドが抑止されているから、アンカー金物29、ピン30、下側引留棒73、長孔74の上端、スライドピン72、スライダ71、ピン33、調節引留棒32、ピン55、上側引留棒76、ピン35が直線状となり、引張力が作用して扉体22を停止させる。
【0031】
逆に、扉体22が倒伏するときには、ピン30からピン35にかけて作用していた引張力が緩んだ分だけスプリング75の伸びが戻るから、ピン30とピン35の間隔が縮小する。
やがて、スライドピン72が長孔74の下端に到りそれ以上の縮小が進行しなくなれば、スプリング39が上側引留棒36をピン35の回りに反時計回りに回転するよう誘導するから、上側引留棒36、調節引留棒32ならびにスライダ71、スライドピン72、スプリング75を付加された下側調節棒73は、ピン35、ピン55を空気袋4から離れた位置とするように折曲って、扉体22と水路底との間に確保された空間に格納される。この状態の断面図が図11である。
【0032】
図12はスライド機構とスプリングを付加された下側引留棒73が上側引留棒36、ピン55、調節引留棒32、ならびにピン35と組立てられる状況と、下側引留棒73とスライドピン72、スライダ71、スプリング75との組立状況の説明図である。
図12においては、スライドピン72がスプリング75によって長孔74の最もピン30に近い位置に引寄せられてピン30とピン33の間隔が最小に短くなった状態を示す。
スライダ71、スライドピン72、長孔74によるスライド機構とスプリング75の付加により、扉体22が起立したときには、ピン30とピン33の間隔が最大に長くなり、扉体22が倒伏したときには、ピン30とピン33の間隔が最小に短くなるようにしたので、扉体22が倒伏した時に必要な格納空間が小さくなって、引留棒の群による、扉体22の起立超過防止機構の安全性と確実性を向上することができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
従来起伏ゲートは、水路底に設けた回転中心によって鋼板製扉体が自在に起立または倒伏を行なうことにより、流水を堰上げまたは放流する管理の容易なゲートとして多くの形式が開発され、使用されてきた。
特に鋼板製の扉体を下流側根元部に設置した空気袋の膨張によって起立し、収縮によって倒伏する空圧式起伏ゲートは、荷重をゲート幅全域に分散して支持する構造であるため、経済性に優れており、最近注目されている。
その内において、精度上と強度上の弱点として改良を求められているゴム引布製の引留帯を鋼製の引留棒に切換えることを可能にしたこの発明による空圧式起伏ゲートは、利用数を飛躍的に増加させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の空圧式起伏ゲートの一実施例を示し、起伏ゲートが起立した状態の正面図(視点上流側)である。
【図2】空圧式起伏ゲートが起立した状態の背面図(視点下流側)である。
【図3】空圧式起伏ゲートが起立した状態の断面図である。
【図4】空圧式起伏ゲートが倒伏した状態の断面図である。
【図5】空圧式起伏ゲートの扉体の説明図である。
【図6】空圧式起伏ゲートの上側引留棒、調節引留棒、下側引留棒を組立てた状態の説明図である。
【図7】この発明の空圧式起伏ゲートの他の実施例を示し、起立状態を示す断面図である。
【図8】空圧式起伏ゲートが倒伏した状態の断面図である。
【図9】上側引留棒、調節引留子の群とスプリング、ならびに下側引留棒を組立てた状態の説明図である。
【図10】この発明の空圧式起伏ゲートの次の実施例を示し、起立状態を示す断面図である。
【図11】空圧式起伏ゲートが倒伏した状態の断面図である。
【図12】スライド機構とスプリングを付加された下側引留棒と調節引留棒、ならびに上側引留棒を組立てた状態の説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 コンクリートの上面
2 アンカーボルト
3 主押え板
4 空気袋
5 縁
6 縁
7 繋留板
8 上流の縁
9 ゴム引布
10 ロッド
11 折返し定着部
12 角
13 ロッド
14 折返し定着部
15 凹部
16 ゴム引布
17 ロッド
18 折返し定着部
19 上流側
20 ナット
21 下流の縁
22 鋼板製の扉体
23 下端
24 押え板
25 ボルト
26 ロッド
27 折返し定着部
28 コンクリートの上面
29 アンカー金物
30 ピン
31 下側引留棒
32 調節引留棒
33 ピン
34 固定板
35 ピン
36 上側引留棒
37 固定板
38 ピン
39 スプリング
40 ピン
41 曲げ加工部
42 支持台
43 雌ねじ
44 縦リブ
45 横リブ
46 割ピン
47 口金
48 空気管
49 排気用開閉弁
50 排気用流量調節弁
51 排気放出部
52 給気用開閉弁
53 給気用流量調節弁
54 空気圧縮機
55 ピン
61 上調節引留子
62 下調節引留子
63 ピン
64 スプリング
65 ピン
66 ピン
71 スライダ
72 スライドピン
73 下側引留棒
74 長孔
75 スプリング
76 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が長方形の水路の底を横断して並べて設置したアンカーボルトと主押え板とが、3辺が閉じ1辺が開いた平らな長方形に製作したゴム引布製の空気袋の開いた辺を、ゴム引布製の扉体繋留板の上流側の縁を介して、水路の底に押し付けることによって、開いた辺を密閉しつつ、水路の底に空気袋と扉体繋留板を固定し、
加えて扉体繋留板の下流側の縁に、鋼板製扉体の上流面の下端部をボルトと押え板により取り付けることによって鋼板製扉体が水路の底に起伏自在に取り付けられると同時に、空気袋が鋼板製扉体の下流側の根元部分に位置し枕状に支持するようにする。
このようにした上で陸上の空気操作装置から空気袋に空気管を接続し、空気袋の内部に空気操作装置から圧縮空気を送入すれば空気袋が膨張して扉体を起立させ、逆に空気袋から圧力を有する空気を排出すれば、空気袋が平らに収縮して扉体が倒伏するようにした空圧式起伏ゲートにおいて、
空気袋より下流の適当な位置の水路底に設置したアンカー金物に鋼板製扉体の回転中心と同方向のピンによって一端を回転自由に取り付けた適当な長さと充分な引張強さを有する平鋼製の下側引留棒の他端と、扉体の下流面の空気袋が接触するより上側の適当な位置に突起させた固定板に、鋼板製扉体の回転中心と同方向のピンによって一端を回転自由に取付けた適当な長さと充分な引張強さを有する平鋼製の上側引留棒の他端とを、適当な長さと充分な引っ張り強さを有する鋼製の調節引留棒と鋼板製扉体の回転中心と同方向の2本のピンによって各々回転自由に連結することにより、扉体が所定の姿勢まで起立したときには、この下側引留棒と調節引留棒と上側引留棒が直線状となって発生する引張力によって扉体が停止するようにする。この状態から鋼板製扉体が倒伏するときには、調節引留棒が空気袋から離れる方向に移動するよう上側引留棒が鋼板製扉体に対して回転し、同時に下側引留棒が水路底に対して回転するようにスプリングを設けて誘導することにより、鋼板製扉体が倒伏した時には、上側引留棒は扉体の下流面に添う姿勢となり、下側引留棒は水路底に添う姿勢となって、最も下流側に位置する調節引留棒とともに鋼板製扉体の下の格納空間に納まると同時に、ゴム引布製の扉体繋留板の変形等による扉体位置の水路底に対する移動があった場合には調節引留棒が若干揺動して、3種の引留棒やピン等に過大な2次応力が発生しないよう保護したことを特徴とする空圧式起伏ゲート。
【請求項2】
請求項1の空圧式起伏ゲートにおいて、
水路の底を横断して並べて設置したアンカーボルトの代りの、水路の底を横断して設置したアンカー金物に並べて設けた雌ねじにねじ込むボルトと主押え板とが3辺が閉じ1辺が開いた平らな長方形に製作したゴム引布製の空気袋の開いた辺を、ゴム引布製の扉体繋留板の上流側の縁を介して、水路の底に押し付けることによって、開いた辺を密閉しつつ、水路の底に空気袋と扉体繋留板を固定したことを特徴とする空圧式起伏ゲート。
【請求項3】
請求項1または2の空圧式起伏ゲートにおいて、
鋼板製扉体の下流面の空気袋が接触するより上側の適当な位置に突起させた固定板の位置に合致した鋼板製扉体の上流面に、適当な幅と板厚の細長い鋼板を、鋼板製扉体の上流面に直角の姿勢で水の流れに平行な方向に溶接した縦リブを設けることにより、引留棒から固定板に伝達される引張力を、扉体の広い範囲に拡散させるようにしたことを特徴とする空圧式起伏ゲート。
【請求項4】
請求項1、2または3の空圧式起伏ゲートにおいて、
扉体を水路の底に起伏自在に取り付けるゴム引布製の扉体繋留板の代りに、主押え板の下流の縁から突出した軸受と扉体下端部の軸受とを回転軸で起伏自在に結合したことを特徴とする空圧式起伏ゲート。
【請求項5】
請求項1、2、3または4の空圧式起伏ゲートにおいて、
調節引留棒の代りに、複数の調節引留子を必要数の鋼板製扉体の起伏運動の回転中心と同方向のピンによって各々回転自由に連結したものを使用し、扉体が所定の姿勢まで起立した時には、下側引留棒、上側引留棒とともに直線状となって発生する引張力によって扉体が停止するよう構成すると同時に、適宜スプリングを設けて、鋼板製扉体が倒伏するときには、調節引留子の群を空気袋に近付ける方向に誘導することにより、引留棒と引留子の群の格納に必要な空間の縮小に効果あるようにしたことを特徴とする空圧式起伏ゲート。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5の空圧式起伏ゲートの下側引留棒あるいは上側引留棒において、
スライド機構とスプリングを付加することにより、作用する引張力の変化によって、両端の連結用ピン孔の間隔が、上限値と下限値の間において自在に伸縮可能であるようにしたことを特徴とする空圧式起伏ゲート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−233518(P2006−233518A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47850(P2005−47850)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(501337580)飯田鉄工株式会社 (8)
【Fターム(参考)】