説明

空気入りタイヤの製造方法及び空気入りタイヤ

【課題】導電性能を適切に維持できるとともに、シリカ高配合としたトレッドゴムを使用することによる改善効果を十分に発揮することができる空気入りタイヤの製造方法と、その空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド形成工程が、第1ポジション21と第2ポジション22とを交互に通るように、タイヤ幅方向位置を変えながらタイヤ周方向に沿って延在する導電層20をトレッド表面に設ける工程を備え、サイドウォール形成工程が、ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線上又は仮想延長線よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にサイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端14aを配置する工程を備えた空気入りタイヤの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非導電性のトレッドゴムに導電層を形成し、さらに導電性のサイドウォールゴムを形成することで電気抵抗対策を施した空気入りタイヤの製造方法と、その空気入りタイヤとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の低燃費化と関係が深い転動抵抗の低減や、濡れた路面での制動性能(WET制動性能)の向上を目的として、トレッドゴムをシリカ高配合とした空気入りタイヤが知られている。ところが、かかるトレッドゴムは、カーボンブラック高配合としたものに比べて電気抵抗が高く、車体やタイヤで発生した静電気の路面への放出を阻害するため、ラジオノイズ等の不具合を生じ易いという問題があった。そこで、シリカ等を配合した非導電性のトレッドゴムに、カーボンブラック等を配合した導電層を設けることで電気抵抗対策を施した空気入りタイヤが開発されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1〜4に記載の空気入りタイヤでは、非導電性のトレッドゴムの端部外周面を導電層で被覆しつつ、ウイングゴム又はサイドウォールゴムとトレッドゴムとの界面に該導電層を配設しており、その導電層の端部をリム又はリムから導電可能な導電性ゴム部(例えばウイングゴムやサイドウォールゴム)に接触させることで、車体やタイヤで発生した静電気を路面に放出するようにしている。
【0004】
しかしながら、これらのタイヤでは、トレッドゴムの端部外周面にて導電層が広く露出することから、トレッドゴムがある程度摩耗すると導電性能が発揮され難くなり、導電性能が適切に維持されないという問題がある。しかも、導電層がシート状をなして設けられることから、導電層のボリュームが必要以上に多くなるとともに、トレッド表面に導電層が連続して露出するため、非導電性のトレッドゴムを使用することによる改善効果、すなわちトレッドゴムをシリカ高配合とした場合には燃費性能やWET性能の向上効果が十分に発揮されないという問題がある。
【0005】
下記特許文献5には、カーカス層に沿って設けられた導電層の一端がトレッドゴムの内部を通ってトレッド表面に露出し、その他端がリムに接触する空気入りタイヤが記載されているが、この導電層はタイヤ周方向に連続するシート状をなすことから、上記のように導電層のボリュームが必要以上に多くなり、トレッド表面に導電層が連続して露出するため、非導電性のトレッドゴムを使用することによる改善効果が十分に発揮されない傾向にある。また、下記特許文献6には、リムストリップゴム(クリンチゴム)からトレッド表面に向かって導電層が渦巻き状に延在する空気入りタイヤが記載されているが、かかる場合には導電経路が必要以上に長くなってしまう。
【0006】
また、下記特許文献7〜8には、非導電性のトレッドゴムと、ショルダー部表面を覆い、端部がこのトレッドゴムの接地端領域まで延びる、延長サイドウォールゴム又はサイドウォールゴムに接合されたショルダーゴムを備え、かかるサイドウォールゴム及びショルダーゴムが導電性ゴムからなり、さらにサイドウォールゴムの端部がリムに接触する空気入りタイヤが記載されている。
【0007】
しかしながら、一般にサイドウォールゴムは耐摩耗性に乏しいため、摩耗初期段階において路面と接地させることは好ましくない。加えて、これらのタイヤでは、トレッドゴムの端部外周面にてカーボンブラック高配合としたサイドウォールゴムが広く露出することから、シリカ高配合としたトレッドゴムを使用することによる効果、すなわち燃費性能やWET性能の向上効果が充分に発揮されない場合がある。
【特許文献1】米国特許第5518055号明細書
【特許文献2】特開平10−81110号公報
【特許文献3】特開平10−203114号公報
【特許文献4】特開2007−8269号公報
【特許文献5】米国特許第2339546号明細書
【特許文献6】特開2007−176437号公報
【特許文献7】特開平11−217011号公報
【特許文献8】特開平11−78417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電性能を適切に維持できるとともに、シリカ高配合としたトレッドゴムを使用することによる改善効果を十分に発揮することができる空気入りタイヤの製造方法と、その空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、非導電性のトレッドゴムを形成するトレッド形成工程及び導電性のサイドウォールゴムを形成するサイドウォール形成工程を含む空気入りタイヤの製造方法において、前記トレッド形成工程が、トレッドのタイヤ外周側部分を構成する非導電性のトレッドゴムを形成する第1工程と、接地端よりタイヤ幅方向内側のトレッド表面上に位置する第1ポジションと、接地端よりもタイヤ幅方向外側に位置し、サイドウォールゴムに接触する第2ポジションと、を交互に通りながら、タイヤ周方向に沿って延在する導電層をトレッド表面に設ける第2工程とを備えるものであり、前記サイドウォール形成工程が、ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線上又は前記仮想延長線よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にサイドウォールゴムのタイヤ径方向外側端を配置する工程を備えるものである。
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法では、トレッド形成工程において、まずトレッドのタイヤ外周側部分を構成する非導電性のトレッドゴムを形成する。この非導電性のトレッドゴムは、少なくともタイヤ外周側部分が非導電性ゴムにより形成されていればよい。したがって、トレッドゴムがキャップ/ベースの二層構造を有する場合であれば、ベースゴムの外周に積層されるキャップゴムが非導電性ゴムにより形成されたものとなる。
【0011】
次に、第1ポジションと第2ポジションとを交互に通るように、タイヤ幅方向位置を変えながらタイヤ周方向に沿って延在する導電層をトレッド表面に設ける。第1ポジションは、接地端よりタイヤ幅方向内側のトレッド表面上に位置するものであり、第2ポジションは、接地端よりもタイヤ幅方向外側に位置し、サイドウォールゴムに接触可能な位置である。ここで、第1ポジションのタイヤ幅方向における最内側位置は特に限定されるものではないが、タイヤの加硫成形後においてトレッド部に設けられた、タイヤ幅方向最外側の主溝より外側であると、該溝により導電経路が分断されることがないので好ましい。
【0012】
なお、上記「接地端」とは、加硫成形後の新品タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの平路面に接地するタイヤ幅方向の最外側位置を意味する。なお、正規荷重及び正規内圧とは、JISD4202(自動車タイヤの諸元)等に規定されている最大荷重(乗用車用タイヤの場合は設計常用荷重)及びこれに見合った空気圧とし、正規リムとは、原則としてJISD4202等に定められている標準リムとする。
【0013】
導電層を設けた後には、ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線上又は該仮想延長線よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にサイドウォールゴムのタイヤ径方向外側端を配置する。あるいは、ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線上又は該仮想延長線よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にサイドウォールゴムのタイヤ径方向外側端を配置した後、かかるサイドウォールゴムの端部外周面上に導電層のタイヤ幅方向外側端部が積層するように配置してもよい。
【0014】
ここで、「ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置」とは、加硫成形後の新品タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平面に垂直に置き、トレッド表面からタイヤ幅方向最外側の主溝内に形成されたスリップサイン位置を示すインジゲータ上面位置までの深さの15%深さ位置を意味する。
【0015】
本発明においては、トレッド表面に線状の導電経路が形成されるため、導電性能を維持しながらも導電層のボリュームを大幅に低減できる。その結果、非導電性のトレッドゴムを使用することによる改善効果、すなわちトレッドゴムをシリカ高配合とした場合における燃費性能やWET性能の向上効果を十分に発揮することができる。
【0016】
また、トレッド表面に形成された線状の導電経路が消滅する程度にトレッドゴムが摩耗した段階、つまり摩耗限度深さの15%深さまでショルダー部が摩耗した段階では、サイドウォールゴムのタイヤ径方向外側端が路面に接地する。これにより、トレッドゴムが摩耗限度深さの15%深さまでショルダー部が摩耗しても、導電性のサイドウォールゴムを介してその端部より路面に放電できる。その結果、摩耗初期段階では導電層を介して、摩耗末期段階ではサイドウォールゴムを介して、トレッドゴムの導電性能を確保することができる。
【0017】
なお、トレッドゴムをシリカ高配合とした場合における燃費性能やWET性能の向上効果を十分に発揮するためには、トレッド表面に延在する導電層はタイヤ片側のみに設けることが好ましい。
【0018】
本発明では、ゴム糊やゴムセメント等の導電性液状物により導電層を形成しても構わないが、前記第2工程にて、導電性の糸状ゴムを巻き付けることにより前記導電層を設けることが好ましい。かかる場合、導電性液状物よりなる導電層に比べて導電層の厚みが確保されるため、導電層の消滅を抑制して導電性能をより適切に維持することができる。これにより、トレッドゴムをシリカ高配合とした場合における燃費性能やWET性能の向上効果をより効果的に発揮しつつ、トレッドゴムの摩耗初期から摩耗末期まで導電性能を確保することができる。なお、上記糸状ゴム断面における厚み及び幅の最小値が1.2〜1.7mmであると、トレッドゴムの摩耗が進行し、糸状ゴムからなる導電経路が消滅する前にサイドウォールゴムのタイヤ径方向外側端が路面により確実に接地可能となるため好ましい。
【0019】
また、本発明に係る空気入りタイヤは、トレッドのタイヤ外周側部分を構成する非導電性のトレッドゴムと、接地端よりタイヤ幅方向内側のトレッド表面上に位置する第1ポジションと、接地端よりもタイヤ幅方向外側に位置し、サイドウォールゴムに接触する第2ポジションと、を交互に通りながら、タイヤ周方向に沿って延在する導電層と、ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線上又は前記仮想延長線よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にタイヤ径方向外側端を配置されたサイドウォールゴムと、を備えるものである。
【0020】
本発明に係る空気入りタイヤには、上記の如き導電層及びサイドウォールゴムによって、ショルダー部のトレッド表面からリムに達する導電経路が形成される。これにより、車体やタイヤに発生した静電気を路面に放出して、ラジオノイズ等の不具合の発生を防止することができる。
【0021】
また、ショルダー部のトレッド表面からサイドウォールゴムに繋がる線状の導電経路が形成されるため、導電性能を維持しながらも導電層のボリュームを大幅に低減できるとともに、導電層がトレッド表面に連続して露出することがない。その結果、非導電性のトレッドゴムを使用することによる改善効果、すなわちトレッドゴムをシリカ高配合とした場合における燃費性能やWET性能の向上効果を十分に発揮することができる。
【0022】
さらに、摩耗限度深さの15%深さまでショルダー部が摩耗した段階では、サイドウォールゴムのタイヤ径方向外側端が路面に接地する。これにより、ショルダー部が摩耗限度深さの15%深さまで摩耗しても、導電性のサイドウォールゴムを介してその端部より路面に放電できる。このため、トレッドゴムの摩耗初期から摩耗末期まで導電性能を確保することができる。
【0023】
上記の空気入りタイヤにおいて、前記導電層が導電性の糸状ゴムよりなるものであると、導電性液状物よりなる導電層に比べて導電層の厚みが確保されるため、導電層の消滅を抑制して導電性能をより適切に維持することができる。これにより、トレッドゴムをシリカ高配合とした場合における燃費性能やWET性能の向上効果をより効果的に発揮しつつ、トレッドゴムの摩耗初期から摩耗末期まで導電性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る空気入りタイヤの一例を示す斜視断面図である。
【0025】
空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、ビード部1から各々タイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端にショルダー部(トレッドショルダー)4を介して連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビード1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配設されている。
【0026】
カーカス層7は、少なくとも1枚(本実施形態では2枚)のカーカスプライからなり、ビード部1の間に架け渡されるようにして配されている。カーカスプライは、タイヤ赤道Cに対して略90°の角度で延びるコードをゴム被覆して形成され、その端部がビード1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカス層7の内周には、空気圧保持のためのインナーライナーゴム5が配されている。
【0027】
カーカス層7のトレッド部3外周には、2枚のベルトプライからなるベルト層6が配され、たが効果による補強を行っている。各ベルトプライは、タイヤ赤道Cに対して25°前後の角度で傾斜して延びるスチールコードにより構成され、該スチールコードがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。また、ベルト層6の外周にはベルト補強層8が配設されている。
【0028】
カーカス層7のビード部1外周には、リム30に接するリムストリップゴム9が配されている。また、カーカス層7のサイドウォール部2外周には、サイドウォールゴム14が配されている。本実施形態では、カーカスプライ、リムストリップゴム9及びサイドウォールゴム14が、原料ゴムに補強剤としてカーボンブラックが高比率で配合された導電性ゴムにより形成されている。
【0029】
カーカス層7のトレッド部3外周では、ベルト層6及びベルト補強層8のタイヤ径方向外側に非導電性のトレッドゴム10が配されている。本実施形態のトレッドゴム10は、ベースゴム11と、ベースゴム11の外周に積層されてトレッド部3のタイヤ外周側部分を構成するキャップゴム12との二層構造を有する。また、トレッドゴム10の端部外周面上にサイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端を積層した、いわゆるサイドオントレッド構造を採用している。
【0030】
キャップゴム12は、原料ゴムに補強剤としてシリカが高比率で配合された非導電性ゴムにより形成されており、それによって優れた燃費性能とWET制動性能を発揮することができる。ベースゴム11は、導電性ゴムにより形成しても構わないが、本発明では非導電性ゴムにより形成することも可能である。したがって、ベースゴム11及びキャップゴム12の両者をシリカ高配合とすることもでき、かかる場合にはタイヤの転動抵抗を効果的に低減して燃費性能を良好に高めることができる。
【0031】
ここで、導電性ゴムとしては、体積抵抗率が10Ω・cm未満を示すものが例示され、カーボンブラック以外にも、カーボンファイバーや、グラファイト等のカーボン系、及び金属粉、金属酸化物、金属フレーク、金属繊維等の金属系の公知の導電性付与材を所定量配合することによって得ることができる。また、非導電性ゴムとしては、体積抵抗率が10Ω・cm以上を示すものが例示される。
【0032】
導電性ゴム及び非導電性ゴムの原料ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用される。かかる原料ゴムには、加硫剤や加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤等も適宜に配合される。
【0033】
トレッド表面には、溝部と陸部とからなる種々のトレッドパターンが形成されるが、図1ではタイヤ周方向に延びる主溝15のみを示している。溝部としては、主溝15の他にも、主溝15に交差して延びる横溝や傾斜溝、主溝15よりも浅い副溝等を適宜に設けることができる。なお、符号14aは、サイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端であり、符号14bは、サイドウォールゴム14のタイヤ径方向内側端である。
【0034】
図2は、空気入りタイヤTのビード部1からショルダー部4に至る範囲のタイヤ外表面を示す展開図である。図3は、図2のA−A矢視断面に相当する。
【0035】
この空気入りタイヤTは、図1〜3に示すように、接地端よりタイヤ幅方向内側のトレッド表面上に位置する第1ポジション21と、接地端よりもタイヤ幅方向外側に位置し、サイドウォールゴム14に接触する第2ポジション22と、を交互に通りながら、タイヤ周方向に沿って延在する導電層20を備える。導電層20は、タイヤ幅方向位置を変えながら蛇行しており、第1ポジション21からトレッドゴム10表面を通って第2ポジション22に到達している。
【0036】
この導電層20によって、ショルダー部4のトレッド表面からサイドウォールゴム14に達する導電経路が形成される。車体に発生した静電気は、リム30からリムストリップゴム9、サイドウォールゴム14及び導電層20を通って路面に放出され、これによりラジオノイズ等の不具合の発生を防止することができる。
【0037】
しかも、導電層20が線状に形成されるため、導電性能を維持しながらも導電層20のボリュームを大幅に低減できる。その結果、非導電性のトレッドゴム10を使用することによる改善効果、すなわちトレッドゴム10をシリカ高配合とした場合における燃費性能やWET性能の向上効果を十分に発揮することができる。
【0038】
本実施形態の導電層20は、導電性ゴムを押出機等で糸状に成形した導電性の糸状ゴム25により形成されている。そのため、ゴム糊やゴムセメントよりなる薄膜状の導電層に比べて導電層20の厚みが確保され、断裂や分断を抑制して導電性能をより適切に維持することができる。
【0039】
トレッドゴム10をシリカ高配合とした場合における燃費性能やWET性能の向上効果を十分に発揮するためには、トレッド表面に延在する導電層20はタイヤ片側のみに設けることが好ましい。また、導電層20は、全体としてタイヤ周方向に沿った環状をなしていることが好ましく、これにより導電層20と路面との接触頻度を高めて導電性能を十分に確保することができる。
【0040】
導電層20の1周期の長さL(第1ポジション21間のタイヤ周方向の長さ)は、要求される導電性能が適切に発揮されるものであれば特に制限されないが、L/2がショルダー部4における接地長と同等以下であることが好ましい。これにより、接地面内の少なくとも1箇所にて導電層20が路面と接地することになるため、導電層20と路面との接触頻度を確保して導電性能を十分に発揮することができる。
【0041】
また、空気入りタイヤTは、図3に示すように、ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線H15上又は前記仮想延長線H15よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にタイヤ径方向外側端14aを配置されたサイドウォールゴム14を備える。本実施形態では、該仮想延長線H15上であって、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置に、サイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端14aが配置されている。ここで、「ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置」とは、トレッド表面からタイヤ幅方向最外側の主溝15内に形成されたスリップサイン位置を示すインジゲータIG上面位置までの深さHの15%深さ位置を意味する。
【0042】
サイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端14aが、かかる位置に配置されることにより、トレッドゴム10の未摩耗段階においてはサイドウォールゴム14が路面に接地しないが、トレッドゴム10が摩耗限度深さの15%深さまでショルダー部が摩耗した段階では、サイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端14aが路面に接地する。その結果、トレッドゴムの摩耗初期から摩耗末期まで導電性能を確保することができる。
【0043】
本発明の空気入りタイヤは、上記の如き非導電性のトレッドゴムと導電層とを備えること以外は、通常の空気入りタイヤと同等であり、従来公知の材料、形状、構造等が何れも本発明に採用することができる。
【0044】
次に、この空気入りタイヤTを製造する方法について、図4〜7を参照しながら説明する。なお、本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、非導電性のトレッドゴム10を形成するトレッド形成工程及び導電性のサイドウォールゴム14を形成するサイドウォール形成工程が下記の如き構成である他は、通常のタイヤ製造と同様にして行うことができる。
【0045】
本実施形態では、部分タイヤPT上に、トレッドゴム10、サイドウォールゴム14及びリムストリップゴム9を形成することで、未加硫のグリーンタイヤを成形する例を示す。部分タイヤPTは、一対のビード部1と、そのビード部1の間に配されるカーカス層7とを備え、カーカス層7の内周にインナーライナーゴム5が配されている。部分タイヤPTは、成形ドラムや剛性コア等の回転支持体によって、タイヤ周方向に回転自在に支持されている(図5参照)。
【0046】
トレッド形成工程は、トレッドのタイヤ外周側部分を構成する非導電性のトレッドゴム10を形成する第1工程と、タイヤ周方向に沿って導電層20を設ける第2工程とを備える。以下、これらの工程について詳しく説明する。
【0047】
まず、第1工程では、図4に示すように、ベルト層6及びベルト補強層8を形成した部分タイヤPT上において、トレッドゴム10を形成する。図4では、リムストリップゴム9及びサイドウォールゴム14の仕上げ断面形状の輪郭を破線で示している。
【0048】
トレッドゴム10の形成は、図5に示すように、ゴムリボン供給装置16から供給されるゴムリボン17を部分タイヤPT上に巻き付けることによって行うことができ、これによりトレッドゴム10の断面形状を精度良く形成することができる。トレッドゴム10の少なくともキャップゴム12の形成では、ゴムリボン17として非導電性のゴムリボンが用いられる。
【0049】
次に、第2工程では、図6に示すように、接地端よりタイヤ幅方向内側のトレッド表面上に位置する第1ポジション21と、接地端よりもタイヤ幅方向外側に位置し、サイドウォールゴム14に接触する第2ポジション22とを交互に通りながら、タイヤ周方向に沿って蛇行しながら延在する導電層20を設ける。第2ポジション22はベースゴム11の端部外周面上に位置しており、これによって、その上に設けられるサイドウォールゴム14に導電層20が接触することになる。
【0050】
本実施形態では、導電層20が導電性の糸状ゴム25により形成される。すなわち、糸状ゴム25は、接地端よりタイヤ幅方向内側のトレッド表面上に位置する第1ポジション21と、接地端よりもタイヤ幅方向外側に位置し、サイドウォールゴム14に接触する第2ポジション22とを交互に通るようにして、タイヤ周方向に沿って蛇行しながら巻き付けられる。このような巻き付けは、部分タイヤPTを回転させながら糸状ゴム25の巻き付け位置をタイヤ幅方向に変化させることで簡易に行うことができる。
【0051】
糸状ゴム25のサイズは、要求される導電性能が適切に発揮されるものであれば特に制限されない。糸状ゴム25の断面形状も特に制限されず、円形の他、楕円形や長方形、三角形、半円形であってもよい。また、糸状ゴム25断面での幅と厚みの最小値が1.2〜1.7mmであると、トレッドゴム10の摩耗が進行し、糸状ゴム25からなる導電経路が消滅する前にサイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端14aが路面により確実に接地可能となるため好ましい。
【0052】
また、サイドウォール形成工程は、図7に示すように、ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線上又は前記仮想延長線よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にサイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端14aを配置する工程を備える。
【0053】
その後、リムストリップゴム9の仕上げ断面形状を形成し、加硫処理を施すことで、図1で示したような空気入りタイヤが成形される。リムストリップゴム9及びサイドウォールゴム14は、所定の断面形状を有する環状のゴム押出品を貼り付けることにより、若しくは、図5に示すような装置を用いて導電性のゴムリボンを巻き付けることにより形成できる。
【0054】
トレッドゴム10、リムストリップゴム9及びサイドウォールゴム14の仕上げ断面形状は、第1工程と同様にゴムリボンを巻き付けることによって精度良く形成することができる。なお、トレッドゴム10等の仕上げ断面形状は、加硫前のグリーンタイヤの成形に要求される断面形状であり、図1で示した断面形状と一致していなくても構わない。
【0055】
[別実施形態]
(1)前述の実施形態では、トレッドゴムがキャップ/ベースの二層構造を有する例を示したが、本発明はこれに限られず、トレッドゴムが非導電性ゴムにより1層形成されたものでもよい。また、トレッドゴムは、ゴムリボンを巻き付けて形成したものに限られず、ゴム押出し品を環状に連ねて形成したものでもよい。
【0056】
(2)前述の実施形態では、導電層を設けた後にサイドウォールゴムを配置する例を示したが、図8に示すように、ショルダー部1における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線H15上又は該仮想延長線H15よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にサイドウォールゴム14のタイヤ径方向外側端14aを配置した後、かかるサイドウォールゴム14の端部外周面上に導電層20のタイヤ幅方向外側端部を積層してもよい。かかる場合は、導電層20の第2ポジション22はサイドウォールゴム14の表面上に位置する。
【0057】
(3)前述の実施形態では、図9(a)のように導電層20が蛇行して延在する例を示したが、本発明はこれに限られず、図9(b)〜(e)のように延在するものでも構わない。(b)は、導電層20がタイヤ周方向(図9では上下方向)に沿ってジグザグに延在する例であり、(c)は、それを2周させた例である。(d)は、導電層20が矩形波状に延在する例であり、(e)は、導電層20が螺旋状に延在する例である。このような導電層20は、糸状ゴムを巻き付ける際に、その糸状ゴムのタイヤ幅方向位置と、部分タイヤPTの回転量や回転方向とを適宜に調整することによって設けることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。なお、タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0059】
(1)導電性能
内圧を200kPaとし、ETRTO/JATMA/TRAで指定されたメジャーリングリム幅で準備したタイヤに、上記規格に従った最大荷重×0.88×0.8の荷重を負荷し、リムを支持する軸からタイヤが接地する金属板に印加電圧(500V)をかけて電気抵抗値を測定した。かかる測定は、未摩耗の新品時と、主溝深さの15%まで摩耗した15%摩耗時との二段階で行った。
【0060】
(2)WET性能
タイヤを実車に装着し、WET路面上において走行速度100km/hから車両停止に至るまでの制動距離を測定した。比較例1を100として指数評価し、指数が大きいほど制動距離が短く、WET性能に優れていることを示す。
【0061】
(3)燃費性能(転動抵抗)
内圧を200kPaとし、ETRTO/JATMA/TRAで指定されたメジャーリングリム幅で準備したタイヤを用いて試験を行い、走行速度80km/hにおける転動抵抗を測定した。比較例1を100として指数評価し、指数が大きいほど転動抵抗が小さく低燃費であることを示す。
【0062】
比較例1
トレッドゴムを構成するキャップゴムが非導電性ゴムにより形成され、該トレッドゴムに導電層が設けられていない空気入りタイヤ(タイヤサイズ:225/55R17 101W)を比較例1とした。上記非導電性ゴムには、補強剤としてシリカを重量比で30%、カーボンブラックを重量比で7%含有させたものを使用した(他例についても同じ。)。
【0063】
比較例2
ショルダー部を覆い、タイヤ径方向外側端がトレッドの接地端領域まで延びる導電性のサイドウォールゴムを設けたこと以外は、比較例1と同じ空気入りタイヤを比較例2とした。上記導電性ゴムには、補強剤としてシリカを重量比で0%、カーボンブラックを重量比で31%含有させたものを使用した(他例についても同じ。)。
【0064】
実施例1〜10
前述の実施形態で示したような導電層及び導電性サイドウォールゴムをトレッドゴムに設けたこと以外は、比較例1と同じ空気入りタイヤを実施例とした。なお、導電層は、上記の導電性ゴムよりなる糸状ゴムで形成し、その糸状ゴムの断面形状、幅寸法、厚み寸法、タイヤ周方向におけるサイドウォールゴムとの接触数、及び、巻き付け形態(図9参照)は表1に示すものとした。各例の評価結果を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1に示すように、比較例1では導電効果が奏されていない。かかる場合には、車体に電気が蓄積されてラジオノイズ等の不具合を生じるおそれがある。これに対して、実施例1〜10では、新品時だけでなく15%摩耗時においても導電性能を維持できている。また、導電層のボリュームを大幅に低減しつつ、導電層がトレッド表面に連続して露出することがないため、WET性能と燃費性能とを良好に確保できている。一方、比較例2では、新品時から導電効果が奏されているものの、新品時のWET性能と燃費性能が実施例1〜10に比べて劣る傾向にある。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示す斜視断面図
【図2】ビード部からショルダー部に至る範囲のタイヤ外表面を示す展開図
【図3】図2のA−A矢視断面を示す図
【図4】本発明の空気入りタイヤの製造方法を説明するための断面図
【図5】部分タイヤ上にゴムリボンを巻き付ける様子を概略的に示す説明図
【図6】本発明の空気入りタイヤの製造方法を説明するための斜視断面図
【図7】本発明の空気入りタイヤの製造方法を説明するための斜視断面図
【図8】本発明の別実施形態に係る空気入りタイヤの一例を示す斜視断面図
【図9】糸状ゴムの巻き付けパターンの例を示す概略図
【符号の説明】
【0069】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 ショルダー部
7 カーカス層
9 リムストリップゴム
10 トレッドゴム
11 ベースゴム
12 キャップゴム
14 サイドウォールゴム
20 導電層
21 第1ポジション
22 第2ポジション
25 糸状ゴム
30 リム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性のトレッドゴムを形成するトレッド形成工程及び導電性のサイドウォールゴムを形成するサイドウォール形成工程を含む空気入りタイヤの製造方法において、
前記トレッド形成工程が、
トレッドのタイヤ外周側部分を構成する非導電性のトレッドゴムを形成する第1工程と、
接地端よりタイヤ幅方向内側のトレッド表面上に位置する第1ポジションと、接地端よりもタイヤ幅方向外側に位置し、サイドウォールゴムに接触する第2ポジションと、を交互に通りながら、タイヤ周方向に沿って延在する導電層をトレッド表面に設ける第2工程とを備えるものであり、
前記サイドウォール形成工程が、ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線上又は前記仮想延長線よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にサイドウォールゴムのタイヤ径方向外側端を配置する工程を備えるものであることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程にて、導電性の糸状ゴムを巻き付けることにより前記導電層を設ける請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
トレッドのタイヤ外周側部分を構成する非導電性のトレッドゴムと、
接地端よりタイヤ幅方向内側のトレッド表面上に位置する第1ポジションと、接地端よりもタイヤ幅方向外側に位置し、サイドウォールゴムに接触する第2ポジションと、を交互に通りながら、タイヤ周方向に沿って延在する導電層と、
ショルダー部における摩耗限度深さの15%深さ位置から、トレッド表面に沿ってタイヤ幅方向外側に延ばした仮想延長線上又は前記仮想延長線よりもタイヤ径方向外側で、かつ接地端よりもタイヤ幅方向外側となる位置にタイヤ径方向外側端を配置されたサイドウォールゴムと、を備える空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記導電層が導電性の糸状ゴムよりなる請求項3に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−126088(P2009−126088A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304537(P2007−304537)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】