説明

空気入りタイヤ

【課題】氷雪路面や泥濘地や砂地などの悪路において優れた走行性能を発揮することができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】一対のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、路面と接するトレッド部3と、トレッド部3とサイドウォール部2との間に設けられるバットレス部9と、バットレス部9にタイヤ周方向Rに沿って配置された複数の突起5とを備えた、回転方向が指定された空気入りタイヤTにおいて、突起5が、タイヤ回転方向前方R1の面にタイヤ回転方向後方R2へ陥没しタイヤ径方向に沿って延びる凹部22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部とサイドウォール部との間に設けられるバットレス部にタイヤ周方向に沿って複数の突起が設けられた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路走行や悪路走行を目的とした空気入りタイヤでは、制動性、旋回性などの走行性能を向上させるため、トレッド部とサイドウォール部との間に設けられるバットレス部に、タイヤ周方向に沿って複数の突起を設け、該突起の剪断力によりトラクションを発生することで走行性能を向上させたタイヤが知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
近年、タイヤの走行性能の向上に対する要請が強く、そのため、バットレス部に設けた突起による剪断力をより一層高めることが求められている。
【0004】
しかしながら、バットレス部に突起を設ける構成では、氷雪路面や泥濘地や砂地などの悪路走行時に、バットレス部と突起との間に氷雪や泥などが詰まりやすく、氷雪や泥などが詰まると突起による剪断力が低減して走行性能を向上させることができない。
【0005】
また、バットレス部に設けた突起を高くすることで剪断力を高めることも考えられるが、突起の剛性が低下して充分な剪断力が得られず、満足な走行性能を得ることができないおそれがある。
【0006】
なお、下記特許文献2〜4にはサイドウォール部にタイヤ周方向に沿って複数の突起を設けた空気入りタイヤが開示されているが、下記特許文献2における突起は、タイヤ回転方向とは逆の方向にサイドウォール部が変形しないようにその剛性を高めるためのものであり、下記特許文献3における突起は、空気と熱交換を行いタイヤの温度上昇を抑制するためのものであり、下記特許文献4における突起は、タイヤ空気圧の低下を可視化するためのものであって、これらの特許文献2〜4における突起は、いずれも、剪断力によるトラクションを発生させて走行性能の向上を目的とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−47251号公報
【特許文献2】特開2008−279900号公報
【特許文献3】特開2010−6141号公報
【特許文献4】特開2010−76474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点を考慮してなされたものであり、氷雪路面や泥濘地や砂地などの悪路において優れた走行性能を発揮することができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤは、一対のビード部と、前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、路面と接するトレッド部と、前記トレッド部と前記サイドウォール部との間に設けられるバットレス部と、前記バットレス部にタイヤ周方向に沿って配置された複数の突起とを備えた、回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記突起が、タイヤ回転方向前方側の面にタイヤ回転方向後方へ陥没しタイヤ径方向に沿って延びる凹部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バットレス部に設けた突起がタイヤ回転方向前方側の面にタイヤ回転方向後方へ陥没しタイヤ径方向に沿って延びる凹部を備えることにより、突起の剪断力を高めて走行性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一例を示す要部斜視図である。
【図2】図1に示す空気入りタイヤの子午線断面図である。
【図3】図1に示す空気入りタイヤの側面図である。
【図4】図1の要部拡大図である。
【図5】(a)が図2のA−A断面図、(b)が図2のB−B断面図、(c)がC−C断面図である。
【図6】本発明の変更例に係る空気入りタイヤの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る空気入りタイヤの一例を示す要部斜視図であってタイヤ子午線断面を含んでいる。図2は同空気入りタイヤのタイヤ子午線断面図、図3は同空気入りタイヤの側面図である。以後の説明では、タイヤ周方向(タイヤ回転方向)Rのうちタイヤ回転方向前方をR1とし、タイヤ回転方向後方をR2とする。
【0013】
空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、路面と接するトレッド部3と、トレッド部3とサイドウォール部2との間に設けられるバットレス部9とを備え、装着時の回転方向が定められたラジアルタイヤである。一対のビード部1の間には、トロイダル形状のカーカス4が配設されている。ビード部1では、環状のビードコア1aを介してカーカス4の端部が巻き上げられている。
【0014】
トレッド部3のカーカス4の外周には、内外に積層された2枚のプライからなるベルト層6と、そのベルト層6の外周に積層されたベルト補強層7とが配設され、最外周にトレッドゴム8が設けられている。トレッドゴム8には、タイヤ周方向Rに連続して延びる主溝10や、主溝10に交差して延びる横溝11が設けられ、それらにより複数のブロック12が区画形成されている。なお、本発明のタイヤでは、トレッドパターンは特に限定されるものではない。
【0015】
バットレス部9は、タイヤ最大幅位置14を含むサイドウォール部2からタイヤ径方向外側へ延びてトレッドゴム8の接地端13に繋がる部分であり、平坦な舗装路での通常走行時には接地しない。ただし、氷雪路面や泥濘地や砂地などの悪路では、車両の重みによりタイヤTが容易に沈降し、氷雪や泥や砂に埋没した状態でバットレス部9が接地することになる。
【0016】
このタイヤTのタイヤ幅方向両側のバットレス部9には、図3に示すように、タイヤ周方向Rに沿って配置された複数の突起5からなる突起群が設けられている。
【0017】
突起群はタイヤ周方向Rに沿って環状に設けられ、各突起5は互いに間隔を設けながら連続的に配置されている。本実施形態では、一例として、トレッドゴム8に形成されたトレッドパターンの繰り返しピッチ数Lとすると、突起5の数がL/4以上であってL/2以下に設けられており、トレッドパターンの2ピッチから4ピッチ毎に1個の突起5が配置されている。そのように配置する事で、トレッドが接地した際に、少なくとも1個以上の突起5が配置されることになり、後述のように悪路走行時におけるトラクションを効率的に発揮できる。
【0018】
突起5は、接地端13とタイヤ最大幅位置14との間に位置するバットレス部9に配置されるが、好ましくは接地端13からのタイヤ径方向の距離hがタイヤ断面高さHの0%〜35%以内の範囲内に配置される。このような範囲に突起5を配置することで、悪路走行時に突起5が路面に接地する頻度が高くなり、後述のように悪路走行時におけるトラクションを効率的に発揮できる。また、接地端13からのタイヤ径方向の距離がタイヤ断面高さHの35%より大きくなる位置では、タイヤ端面形状が屈曲しているため突起5に割れが発生しやすくなる。
【0019】
突起5の高さ、つまり、突起5のタイヤ径方向の長さは、タイヤ断面高さHの10〜35%以内の大きさに設定することが好ましい。突起5の高さがタイヤ断面高さHの10%未満であると、悪路走行時におけるトラクションを充分に得られなくなり、また、突起5の高さがタイヤ断面高さHの35%より大きくなると、突起5の端部でクラックなどの不具合が発生しやすくなる。
【0020】
また、突起5の幅、つまり、突起5のタイヤ周方向の長さは、突起5の高さの1/3〜1/2であることが好ましい。突起5の幅が突起5の高さの1/3未満であると、突起5自体の剛性が低下して突起5の耐久性が悪化し、突起5の幅が突起5の高さの1/2より大きいと、タイヤの重量が大きくなり発熱量が増加してセパレーションを引き起こしやすくなる。
【0021】
図4は突起5の1つを拡大した図1の要部拡大図、図5は突起5の断面図である。
【0022】
突起5は、タイヤ軸方向に沿って見たときにタイヤ径方向に延びる略矩形をなしており、スリット20によってタイヤ径方向に並ぶ複数個の突起片5aに分割されている。本実施形態では、突起5が2つのスリット20−1、20−2によってタイヤ径方向に3個の突起片5aに分割されている。
【0023】
スリット20は、図3に示すように、タイヤ回転方向Rに対して傾斜しており、例えば、タイヤ回転方向Rに対する傾斜角度θが20°〜45°の範囲内に設定されている。
【0024】
そのようにスリット20を傾斜させ複数個に分割する事で、突起片に負荷がかかったとしても、例えば、突起5a−2が突起5a−1及び突起5a−3を支えるため、周方向への過度な動き、すなわち周方向のズレを抑制できる。
【0025】
また、トレッド部3側の突起片5a−1と中央の突起片5a−2とを分断するスリット20−1が、タイヤ回転方向後方R2へ行くほどトレッド部3側へ近づくように傾斜し、中央の突起片5a−2とサイドウォール部2側の突起片5a−3とを分断するスリット20−2が、タイヤ回転方向後方R2へ行くほどサイドウォール部2側へ近づくように傾斜している。これにより、図3に示すように突起5をタイヤ軸方向に沿って見たときに、トレッド部3側の突起片5a−1及びサイドウォール部2側の突起片5a−3とが、回転方向後方R2に行くほど細くなり、中央の突起片5a−2が回転方向前方R1に行くほど細くなる形状をなしている。
【0026】
突起5に設けられたスリット20の幅(つまり、隣り合う突起片5a同士の間隔)は、タイヤTが接地した状態にあると、バットレス部9がタイヤ径方向に圧縮変形することに伴って、スリット20を挟んで隣り合う突起片5a同士が当接してスリット20を閉じることができる大きさに設けられており、一例を挙げると、スリット20の幅は突起5のタイヤ径方向に沿った長さの5%〜10%の範囲内に設定することができる。
【0027】
つまり、突起5は、タイヤTが非接地状態にあるとスリット20によって間隔をあけて複数の突起片5aに分断され、タイヤTが接地状態にあるとスリット20を閉じて複数の突起片5aが連なる。
【0028】
また、突起5は、タイヤ回転方向前方R1側の側面にタイヤ回転方向後方R2へえぐれるように陥没しタイヤ径方向に沿って延びる凹部22が形成されている。
【0029】
図4及び図5に示すように、突起5は、凹部22の底部における厚み(タイヤ回転方向Rの長さ)がサイドウォール部2側からトレッド部3側へ行くほど小さく設けられると共に、突起5の突出方向先端部は、サイドウォール部2側よりトレッド部3側の方がタイヤ回転方向Rに長く設けられている。これにより、突起5に設けられた凹部22は、サイドウォール部2側からトレッド部3側へ行くほどタイヤ回転方向後方R2側へ深く陥没している。
【0030】
本実施形態では、凹部22の底部における厚みが最も薄いトレッド部3側端部における肉厚Fが、突起5のバットレス部9側端部におけるタイヤ回転方向Rの長さXの1/10〜1/2の範囲内に設けられている。
【0031】
以上のような構成のタイヤTは、突起5に設けた凹部22が回転方向前方R1に向くように装着される。そして、氷雪路面や泥濘地や砂地などの悪路において氷雪などに沈み込んだ状態でタイヤTを回転させると、突起5が氷雪などの内部を進行し氷雪などを掻くことができる。特に、本実施形態のタイヤTであると、突起5における回転方向前方R1の側面に凹部22が設けられているため、凹部22を先頭にして突起5が氷雪などの内部を進行することになり、突起5の突出量をそれ程大きくすることなく氷雪などを的確に掻きだすことができる。その結果、突起5による剪断力を確保することができ、トラクションを効果的に発生させることができる。かかるトラクションは両側のバットレス部9の各々にて得られ、悪路において優れた走行性能を発揮することができる。
【0032】
また、本実施形態のタイヤTでは、突起5に設けられたスリット20が、タイヤTの接地時に閉じて複数の突起片5aを繋げ、タイヤTの非接地時に複数の突起片5a同士をスリット20の幅に相当する間隔だけ離間させため、突起5が掻きだした氷雪などが凹部22に詰まったとしても、タイヤTが更に回転することで突起片5aの間にスリット20の幅に相当する間隔の隙間が形成される。そのため、凹部22と氷雪などとの間にスリット20から空気が導入されて凹部22に詰まった氷雪などが脱落しやすくなり、突起5による剪断力が低下しにくく走行性能が低下しにくい。
【0033】
しかも、本実施形態のタイヤTでは、非接地状態において突起片5aの間に隙間が形成され熱交換を促進することができるため、タイヤ表面の温度上昇を抑制することができ、発熱によるセパレーションを抑制してタイヤ耐久性が向上する。
【0034】
更にまた、本実施形態のタイヤTでは、氷雪などを掻きだす際に回転方向後方R2への応力が突起5に作用するが、突起5に設けられたスリット20がタイヤ回転方向Rに対して傾斜しているため、各突起片5aがずれにくく的確に氷雪などを掻くことができる。
【0035】
しかも、本実施形態のタイヤTでは、トレッド部3側の突起片5a−1と中央の突起片5a−2とを分断するスリット20−1が、タイヤ回転方向後方R2へ行くほどトレッド部3側へ近づくように傾斜し、トレッド部3側の突起片5a−1が、タイヤ回転方向後方R2に行くほど細くなる形状をなしている。そのため、トレッド部3側の突起片5a−1は、他の突起片5a−2,5a−3に比べて周速度が大きいことから氷雪などを掻きだす際に大きな力でタイヤ回転方向後方R2へ押されるが、中央の突起片5a−2に当接して支持されており屈曲しにくいため、氷雪などを的確に掻くことができ、トラクションを効果的に発生させることができる。
【0036】
なお、上記した実施形態では、タイヤ周方向Rに対して平行になるように突起5を設けたが、図6に示すように、タイヤ径方向の内側から外側に延びるにつれてタイヤ回転方向前方R1側に傾斜するように設けてもよく、このように突起5を傾斜させることで氷雪などを掻きだす力が増してトラクションを効果的に発生させることができる。なお、タイヤ径方向に対する傾斜角度は、0°〜30°の範囲内に設定することが好ましい。傾斜角度が0°より小さいと突起5が氷雪などを掻きだしにくくなりトラクション効果が低下する。また、傾斜角度が30°を超えると突起5に設けられたスリット20がタイヤ接地時に閉じにくくなるため、スリット20に氷雪などが目詰まりして凹部22に詰まった氷雪などが脱落しにくくなる。
【0037】
また、上記した実施形態では、突起5に設けたスリット20を、タイヤ軸方向に沿って見たときに直線状になるように設けたが、例えば、ジグザグ状あるいは凹凸状に設けて
隣り合う突起片5aが噛み合うようしてもよい。この場合、突起5で氷雪など掻きだす際に突起片5aがより一層ずれにくくなり、トラクションを効果的に発生させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1…ビード部
1a…ビードコア
2…サイドウォール部
3…トレッド部
4…カーカス
5…突起
5a…突起片
6…ベルト層
7…ベルト補強層
8…トレッドゴム
9…バットレス部
10…主溝
11…横溝
12…ブロック
13…接地端
14…タイヤ最大幅位置
20…スリット
22…凹部
H…タイヤ断面高さ
L…ピッチ数
T…タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、路面と接するトレッド部と、前記トレッド部と前記サイドウォール部との間に設けられるバットレス部と、前記バットレス部にタイヤ周方向に沿って配置された複数の突起とを備えた、回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記突起が、タイヤ回転方向前方側の面にタイヤ回転方向後方へ陥没しタイヤ径方向に沿って延びる凹部を備えることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記突起をタイヤ径方向に分割して複数の突出片を形成するスリットを備え、
接地時に前記スリットを挟む前記突起片が当接して、前記スリットを閉じることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記スリットは、タイヤ回転方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記凹部は、前記サイドウォール部側から前記トレッド部側へ行くほどタイヤ回転方向後方側へ深く陥没することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−82262(P2013−82262A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222152(P2011−222152)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)