説明

空気入りタイヤ

【課題】乾燥路面での制動性能を損なうことなく、気柱管共鳴音を低減する。
【解決手段】トレッド部10の陸部(リブ)14に、一端が周方向溝12に開口し他端がリブ14内で閉鎖したサイプ20を設けた上で、該サイプ20には、閉鎖端26からサイプ長さ方向Gに間隔p1をおいた位置でトレッド表面11からサイプ深さ方向Hに延びサイプ下端28に至る途中で終端する第1幅広部22と、サイプ下端28及びトレッド表面11からサイプ深さ方向Hにそれぞれ間隔h1,h2をおいた位置で第1幅広部22からサイプ長さ方向Gに延びてサイプ開口端30で周方向溝12に開口する第2幅広部24を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッド部には、タイヤ周方向に延びる周方向溝が設けられ、また、タイヤ幅方向に延びる幅方向溝が設けられることが一般的である。このような溝を設定したタイヤにおいては、走行中にタイヤと路面との間からパターンノイズが発生し、特に、周方向溝に起因する気柱管共鳴音(800Hz〜1250Hz程度)が大きな原因となっている。
【0003】
気柱管共鳴音の発生原理は次の通りである。すなわち、タイヤが接地する際に周方向溝が変形することでその容積が変化し、周方向溝内に閉じ込められた空気が圧縮・膨張を繰り返すことにより、接地された周方向溝の空間よりポンピング音、つまり気柱管共鳴音を発生する。その際、周方向溝内の空気のポンピング圧力が高くなると気柱管共鳴音は大きくなる。
【0004】
かかる気柱管共鳴音を低減するには、周方向溝の断面積を小さくすればよいが、周方向溝の断面積を小さくすると、湿潤路面での排水性(WET排水性)が低下してしまう。
【0005】
下記特許文献1には、周方向溝に起因する気柱管共鳴音を低減するために、ヘルムホルツ共鳴器をトレッド部に設けることが提案されている。ヘルムホルツ共鳴器は、トレッド部の陸部表面に開口する気室と、該気室を周方向溝に連通させる狭窄ネックとより形成されており、気室の容積を比較的大きく設定することが条件となっている。しかしながら、気室の容積を大きくするためには陸部表面への開口面積を大きく設定する必要があり、そうすると非接地部の面積が大きくなって(即ち、接地面積が減少して)、乾燥路面での制動性能が低下するという問題がある。また、陸部に開口面積の大きな気室を設けることにより、この部分の剛性が低下して接地性が悪化し、共鳴器としての役目を十分に果たせないおそれがある。
【0006】
一方、空気入りタイヤのトレッド部に設けられたブロックやリブ等の陸部には、サイプと呼ばれる溝幅の狭い切込みが設けられることがあり、従来、サイプによるエッジ効果や除水効果によって氷雪路面等での走行性能・制動性能を高めるために、種々の構造が提案されている。例えば、下記特許文献2には、トレッド部のブロックに一端が周方向溝に開口し他端が閉鎖したサイプを設定した上で、サイプによるエッジ効果を高めるために、サイプの閉鎖端にトレッド表面からサイプ下端に至る丸孔状の第1孔部を設けるとともに、そこから開口端に向けてサイプ下端にサイプ長さ方向に延びる丸孔状の第2孔部を設けた構造が開示されている。
【0007】
サイプは、一般に、溝幅が1.5mm以下と狭いため、前後力が負荷されると閉じやすい。すなわち、図18(a)に示すようなサイプ深さ方向で溝幅が一定のサイプ100では、接地時に前後力が負荷されると、図18(b)に示すように、サイプ100が閉じるように変形する。このようにサイプが閉じると、周方向溝からサイプ内に空気を逃がし難く、そのため、周方向溝の空気圧力を低下させることはできず、気柱管共鳴音の低減効果は得られない。上記特許文献2に記載の構造では、サイプに幅広部となる第1及び第2孔部が設けられているが、図20(a)に示すように、サイプ長さ方向に延びる第2孔部104がサイプ102の溝底(即ち、下端)に設けられている。そのため、前後力が負荷されたときに、サイプ深さ方向への撓みが小さく、サイプ幅方向への撓みが大きくなるので、図20(b)に示すようにサイプ102が閉じやすい。また、特許文献2では、サイプ102の閉鎖端に第1孔部106が設けられているので(図19参照)、当該閉鎖端での剛性低下が大きく、サイプの開きを確保しにくいという問題がある。このようなことから、特許文献2に記載の構造では、サイプに幅広部を設けているものの、気柱管共鳴音の低減効果は十分に得られない。いずれにしても、従来、サイプを利用して気柱管共鳴音を低減することは行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−213596号公報
【特許文献2】特開昭62−241707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、乾燥路面での制動性能を損なうことなく、気柱管共鳴音を低減することができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部の陸部に、一端が周方向溝に開口し他端が前記陸部内で閉鎖したサイプを備える空気入りタイヤにおいて、前記サイプが、当該サイプの閉鎖端からサイプ長さ方向に間隔をおいた位置でトレッド表面からサイプ深さ方向に延び前記サイプの下端に至る途中で終端する第1幅広部と、前記サイプの下端及びトレッド表面からサイプ深さ方向にそれぞれ間隔をおいた位置で前記第1幅広部からサイプ長さ方向に延びて前記サイプの開口端で前記周方向溝に開口する第2幅広部とを備えたものである。
【0011】
より好ましい態様として、前記第1幅広部が前記第2幅広部よりも幅広に形成されてもよい。また、前記第1幅広部及び第2幅広部は、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた凹部により形成されてもよい。その場合、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた前記第1幅広部の凹部が、サイプ長さ方向にずれた位置に配置されてもよい。また、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた前記第2幅広部の凹部が、サイプ深さ方向にずれた位置に配置されてもよい。他の態様として、前記第1幅広部が、サイプ長さ方向において複数設けられてもよい。これらの各態様は適宜に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一端が周方向溝に開口した片側オープンサイプを設けた上で、周方向溝に開口してサイプ長さ方向に延びる第2幅広部と、該第2幅広部をトレッド表面に繋げる第1幅広部を、該サイプに設けたので、サイプ表面部が幅狭部において閉じたとしても、周方向溝内の空気をこれら第1及び第2幅広部に取り入れることができる。そのため、周方向溝の空気圧力を低減することができるので、気柱管共鳴音を低減することができる。
【0013】
また、第2幅広部がサイプ下端ではなく深さ方向の途中に設けられているので、サイプ深さ方向での撓みが大きく、サイプ幅方向への撓みが抑えられるので、サイプが閉じにくくなり、第1及び第2幅広部による空気流路を確保しやすい。また、第1幅広部よりも閉鎖端側に溝幅の狭い部分が確保されているので、サイプの閉鎖端での剛性低下が小さくなり、サイプの開きを確保しやすい。よって、気柱管共鳴音の低減効果に優れる。
【0014】
また、本発明によれば、サイプを利用して、その一部を幅広にすることで気柱管共鳴音を低減することができるので、陸部の剛性低下を少なくすることができ、乾燥路面での制動性能の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【図2】第1実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図3】第1実施形態に係るリブの要部拡大斜視図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図2のV−V線断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図6】第2実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【図8】第3実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】図8のX−X線断面図である。
【図11】第4実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図12】図11のXII−XII線断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図13】第5実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図14】図13のXIV−XIV線断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図15】(a)は第6実施形態に係るリブの平面図であり、(b)はその要部拡大図である。
【図16】(a)は第7実施形態に係るリブの平面図であり、(b)はその要部拡大図である。
【図17】比較例1に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【図18】比較例1に係るサイプの断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図19】比較例2に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【図20】比較例2に係るサイプの断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図21】比較例3に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
(第1実施形態)
実施形態に係る空気入りタイヤは、図示を省略したが、左右一対のビード部及びサイドウォール部と、左右のサイドウォール部の径方向外方端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部10とを備えて構成されており、一対のビード部間にまたがって延びるカーカスを備える。カーカスは、トレッド部10からサイドウォール部をへて、ビード部に埋設された環状のビードコアにて両端部が係止された少なくとも1枚のカーカスプライからなり、上記各部を補強する。トレッド部10におけるカーカスの外周側には、2層以上のゴム被覆スチールコード層からなるベルトが設けられており、カーカスの外周でトレッド部10を補強する。
【0018】
トレッド部10の表面には、図1に示すように、タイヤ周方向Aにストレート状に延びる複数の周方向溝(主溝)12が設けられている。この例では、周方向溝12がタイヤ幅方向Bに3本設けられ、これにより、タイヤ幅方向Bに4本のリブ14,14,16,16が設けられている。このうち、ショルダー部に設けられたリブ16,16には、接地端からタイヤ幅方向Bに延びリブ16内で終端する複数の幅方向溝(横溝)18がタイヤ周方向Aに所定間隔をおいて設けられている。
【0019】
リブ14,16は、タイヤ周方向Aに連続して延びる陸部であり、このうち、中央部の2本のリブ14,14には、タイヤ周方向Aに交差する方向に延びるサイプ20が設けられている。サイプ20は、その長さ方向における一端が周方向溝12に開口し、他端がリブ14内で閉鎖(即ち、終端)した切込み(片側オープンサイプ)であり、タイヤ周方向Aに所定の間隔をおいて並設されている。サイプ20は、この例では、タイヤ幅方向Bに対してやや傾斜した方向に延びる直線状のサイプであるが、タイヤ幅方向Bに平行に延びるものでもよい。サイブ20は、3本の周方向溝12のうち、外側の2本の周方向溝12に対して開口させて設けられている。
【0020】
図2〜5に基づき、サイプ20の構成を詳細に説明する。
【0021】
サイプ20は、トレッド表面11からサイプ深さ方向Hに延びる第1幅広部22と、該第1幅広部22からサイプ長さ方向Gに延びる第2幅広部24とを備えてなる。第1幅広部22と第2幅広部24は、サイプ20の幅方向Wに対向する両側の壁面のうち、一方の壁面に凹部23,25を設けることにより形成されている。すなわち、第1幅広部22と第2幅広部24は、凹部23,25を設けることで溝幅が拡張された部分であり、このような凹部が設けられていないサイプの一般部に対して溝幅が広く形成されている。従って、幅広部22,24が設けられていないサイプ部分は、幅広部22,24よりも溝幅の狭い幅狭部21となっている。
【0022】
凹部23により形成された第1幅広部22は、サイプ20の閉鎖端26からサイプ長さ方向Gに所定の間隔p1をおいた位置で、トレッド表面11に開口しており、そこからサイプ深さ方向Hに延びて、サイプ20の下端(即ち、底)28に至る途中で終端している。すなわち、第1幅広部22は、下端28までは達しておらず、下端28から所定の間隔h1をおいた位置で終端している。このように第1幅広部22を、閉鎖端26から間隔p1をおいてサイプ深さ方向Hに延びるように形成したので、第1幅広部22の閉鎖端26側には、サイプ20の一般部である幅狭部21が存在している。
【0023】
凹部25により形成された第2幅広部24は、サイプ20の下端28及びトレッド表面11からサイプ深さ方向Hにそれぞれ所定の間隔h1,h2をおいた位置で、第1幅広部22からサイプ長さ方向Gに延びており、サイプ20の開口端30で周方向溝12に開口している。この例では、第2幅広部24は、サイプ深さ方向Hにおける中央部をサイプ長さ方向Gに延びて形成されており、その長さ方向の一端がサイプ深さ方向Hの中央部で周方向溝12に開口し、他端が第1幅広部22の下端部に連結されている。このように第2幅広部24を、サイプ下端28から間隔h1をおいてサイプ長さ方向Gに延びるように形成したので、第2幅広部24の上下両側には、サイプ20の一般部である幅狭部21が存在している。
【0024】
以上の第1幅広部22及び第2幅広部24を設けたことにより、サイプ20には、その深さ方向Hの途中において周方向溝12に開口するとともに、当該開口部からサイプ20内を延びてトレッド表面11に繋がる空気流路が形成される。そのため、仮にサイプ20の一般部である幅狭部21が閉じたとしても、該空気流路を介して周方向溝12内の空気をサイプ20内に取り入れることができる。このような空気流路として考えた場合、開口側に位置する第2幅広部24での流路断面積(空気の流れ方向に垂直な面で切断した断面積(図5(a)に示す断面での面積))よりも、その下流側に位置する第1幅広部22での流路断面積(空気の流れ方向に垂直な面(即ち、水平面)で切断した断面積)の方が大きいことが好ましい。このように空気流路の途中で断面積を大きくすることにより、空気の圧力を更に低減することができる。この例では、第1幅広部22と第2幅広部24は、一般部である幅狭部21に対して拡幅した幅は同じであるが、第1幅広部22の長さp2を、第2幅広部24の高さh3よりも大きく設定することで、第1幅広部22の方が断面積が大きく設定されている。
【0025】
第1幅広部22及び第2幅広部24の各寸法については、特に限定するものではないが、次のように設定することができる。すなわち、幅狭部21の溝幅w0としては、通常のサイプ幅とすることができ、例えば0.3〜1.0mm程度が好ましい。第1幅広部22及び第2幅広部24の溝幅w1,w2は、幅狭部21の溝幅w0よりも大きく、0.8〜3.0mm程度が好ましい。サイプ20の閉鎖端26から第1幅広部22までの間隔p1は3mm以上であることが好ましい。第1幅広部22の長さp2は5〜20mm程度であることが好ましい。サイプ下端28から第2幅広部24までの間隔h1は、サイプ深さh0の1/6〜1/2であることが好ましく、トレッド表面11から第2幅広部24までの間隔h2は、サイプ深さh0の1/6〜1/2であることが好ましく、第2幅広部24の高さh3は、サイプ深さh0の1/6〜1/2であることが好ましい。
【0026】
以上よりなるサイプ20を設けた本実施形態に係る空気入りタイヤであると、トレッド部10の接地時に前後力が負荷されたとき、図5(b)に示すように、サイプ10が閉じる方向に変形するが、第1及び第2幅広部22,24が設けられているので、周方向溝12内の空気が第2幅広部24から第1幅広部22に取り入れられる。そのため、周方向溝12の空気圧力を低減(減圧、乱れさす)することができるので、気柱管共鳴音を低減することができる。
【0027】
また、第2幅広部24がサイプ下端28ではなく深さ方向Hの途中に設けられているので、サイプ深さ方向Hでの撓みが大きく、サイプ幅方向Wへの撓みが抑えられる。すなわち、第2幅広部24をサイプ下端28ではなく、サイプ深さ方向Hの中央部に設けていると、トレッドゴムの変形を第2幅広部24で吸収することができ、サイプ深さ方向Hでの撓みが大きくなる。そのため、その分、サイプ幅方向Wへの撓みが抑えられるので、サイプ20が閉じにくくなる。よって、図20に示す幅広部104がサイプ102の底部に設けられた場合に比べて、サイプ20が閉じにくく、第1及び第2幅広部22,24による空気流路を確保しやすい。また、第1幅広部22よりも閉鎖端26側に幅狭部21が確保されているので、第1幅広部22を閉鎖端26に設ける場合に比べて、サイプ20の閉鎖端26での剛性低下が小さく、そのためサイプ20の開きを確保しやすい。よって、気柱管共鳴音の低減効果を更に向上することができる。
【0028】
また、本実施形態によれば、サイプ20を一部幅広にすることで気柱管共鳴音を低減することができ、図21に示すような過大な気室112をトレッド部に設けるものではないので、リブ14の剛性低下を少なくすることができ、乾燥路面での制動性能の低下を抑えることができる。特に、本実施形態であると、上記構成の第1幅広部22と第2幅広部24を設けて、サイプ20を閉じにくくしたので、サイプ20近傍の接地圧の均一化が図られ、よって、乾燥路面での制動性能を向上することも可能となる。
【0029】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るサイプ20Aは、図6,7に示すように、第1幅広部22をサイプ長さ方向Gにおいて複数設けた点が、第1実施形態に係るサイプ20とは異なる。この例では、第1幅広部22は、サイプ長さ方向Gに離間して2つ設けられている。
【0030】
詳細には、第2幅広部24の先端に第1実施形態と同様の第1幅広部22Aがトレッド表面11に向けて連設されるとともに、該第1幅広部22Aよりも開口端30側において、第2幅広部24からトレッド表面11に延びる第1幅広部22Bが形成されている。これら2つの第1幅広部22A,22Bは、第1実施形態と同様、サイプ20の幅方向Wに対向する両側の壁面のうち、一方の壁面に凹部23,23を設けることにより、溝幅が広く形成されている。なお、2つの第1幅広部22A,22Bは、長さp2,p3が同一に設定されているが、異なる寸法に設定することもできる。
【0031】
このようにトレッド表面11に延びる第1幅広部22A,22Bを複数に分けて設けることにより、1つの第1幅広部22を設ける場合に比べて、幅広部による剛性低下をできるだけ抑えながら、空気圧力を低減させる空気流路の断面積をより大きく確保することができる。そのため、第1実施形態に比べて、乾燥路面での制動性能の低下をできるだけ抑えながら、気柱管共鳴音の低減効果を更に向上することができる。第2実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0032】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るサイプ20Bは、図8〜10に示すように、第1幅広部22が第2幅広部24よりも幅広に形成された点が、第1実施形態に係るサイプ20とは異なる。すなわち、図8,10に示すように、第1幅広部22を形成する凹部23の深さが、第2幅広部24を形成する凹部25の深さよりも大きく設定されており、これにより、第1幅広部22の溝幅w1が、第2幅広部24の溝幅w2よりも大きく設定されている。これらの溝幅w1,w2は、幅狭部21の溝幅w0よりも大きいので、結局、w1>w2>w0に設定されている。特に、限定するものではないが、第2幅広部24の溝幅w2は、0.8〜1.5mm程度が好ましく、第1幅広部22の溝幅w1は、1.1〜3.0mm程度が好ましい。
【0033】
このように下流側に位置する第1幅広部22を、上流側の第2幅広部24よりも広幅に形成することにより、空気流路の途中で断面積をより効果的に大きくすることができ、空気の圧力を更に低減することができる。そのため、第1実施形態に比べて、気柱管共鳴音の低減効果を更に高めることができる。第3実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0034】
(第4実施形態)
第4実施形態に係るサイプ20Cは、図11,12に示すように、第1幅広部22及び第2幅広部24を、サイプ20Cの幅方向両側の壁面に設けた凹部23,25により形成した点が、サイプ20の幅方向Wにおける一方の壁面のみに設けた凹部23,25により第1幅広部22及び第2幅広部24を形成した第1実施形態とは異なる。
【0035】
すなわち、この例では、図11に示すように、第1幅広部22は、サイプ20Cの対向する壁面に、互いに対向する一対の凹部23,23を設けることで形成されている。そのため、この部分でサイプ20Cは、幅狭部21に対してサイプ幅方向Wの両側において溝幅を拡張した形状をなしている。一対の凹部23,23は、サイプ長さ方向Gにおいて一致した位置に配置されている。
【0036】
また、図12に示すように、第2幅広部24は、サイプ20Cの対向する壁面に、互いに対向する一対の凹部25,25を設けることで形成されている。そのため、この部分でサイプ20Cは、幅狭部21に対してサイプ幅方向Wの両側において溝幅を拡張した形状をなしている。一対の凹部25,25は、サイプ深さ方向Hにおいて一致した位置に配置されている。
【0037】
このように第1幅広部22と第2幅広部24を形成する凹部23,25をサイプ20Cの幅方向両側に設けたことにより、次の作用効果が奏される。すなわち、トレッド部10の接地時に前後力が負荷されたときに、サイプ20Cの幅方向Wの両側で、トレッドゴムの変形を第2幅広部24の凹部25で吸収することができるので、サイプ深さ方向Hでより一層撓みやすくすることができ、そのため、図12(b)に示すように、第1実施形態に比べて、サイプ20Cをより一層閉じにくくすることができる。また、第1幅広部22の凹部23についてもサイプ幅方向両側に設けたことによって、より閉じにくくすることができる。よって、第1及び第2幅広部22,24による空気流路を確保しやすいので、気柱管共鳴音の低減効果を更に向上することができる。第4実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0038】
(第5実施形態)
第5実施形態に係るサイプ20Dは、図13,14に示すように、サイプ20Dの幅方向両側に設けた第1幅広部22の凹部23,23をサイプ長さ方向Gにずれた位置に配置し、サイプ20Dの幅方向両側に設けた第2幅広部24の凹部25,25をサイプ深さ方向Hにずれた位置に配置した点が、第4実施形態とは異なる。
【0039】
詳細には、図13に示すように、第1幅広部22を形成するサイプ幅方向Wの両側に設けられた一対の凹部23,23は、サイプ長さ方向Gにおいて一致しておらず、ずらして設けられている。このように第1幅広部22の凹部23,23をずらして設けたことにより、空気流路を確保しつつ、この部分での剛性低下を抑えることができる。なお、この例では、一対の凹部23,23は、サイプ長さ方向Gにおいて一部重なるように配置されているが、長さ方向Gにおいて重なり部を持たないようにずらして配置してもよい。但し、重なり部を持つ方が空気流路を確保する上では好ましい。
【0040】
また、図14に示すように、第2幅広部24を形成するサイプ幅方向Wの両側に設けられた一対の凹部25,25は、サイプ深さ方向Hにおいて一致しておらず、ずらして設けられている。このように第2幅広部24の凹部25,25をずらして設けたことにより、図14(b)に示すように第1実施形態に比べてサイプ20Dをより一層閉じにくくしながら、サイプ20Dを成形するための金型のブレードの抜け性を良好にすることができる。なお、この例では、一対の凹部25,25は、サイプ深さ方向Hにおいて一部重なるように配置されているが、深さ方向Hにおいて重なり部を持たないようにずらして配置してもよい。但し、重なり部を持つ方が空気流路を確保する上では好ましい。
【0041】
第5実施形態について、その他の構成及び作用効果は第4実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0042】
(第6,7実施形態)
第6実施形態は、図15に示すように、サイプ20Eが屈曲部34を有する点で第1実施形態とは異なる。すなわち、サイプ20Eは、タイヤ周方向Aに交差する方向に延びる横サイプ部分32と、その先端から屈曲部34を介してタイヤ周方向Aに沿う方向に延長された縦サイプ部分36とを備え、縦サイプ部分36の先端を閉鎖端26として終端している。第1幅広部22及び第2幅広部24は、屈曲部34よりも開口端30側の横サイプ部分32に設けられており、屈曲部34よりも閉鎖端26側の縦サイプ部分36には設けられていない。
【0043】
一方、第7実施形態に係るサイプ20Fは、図16に示すように、第2幅広部24が屈曲部34を越えて縦サイプ部分36まで延びており、第1幅広部22が縦サイプ部分36に形成された点で、第6実施形態に係るサイプ20Eとは異なる。
【0044】
このように縦サイプ部分36まで第2幅広部24を延ばし、当該縦サイプ部分36でトレッド表面に繋がるように第1幅広部22を設けたことにより、空気流路を長く設定することができ、低減しようとする気柱管共鳴音の周波数調整を行うことができる。第6及び第7実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0045】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、陸部としてタイヤ周方向Aに連続して延びるリブ14の場合について説明したが、上記各実施形態のサイプはブロックに形成してもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、3本の周方向溝12のうち、外側の2本の周方向溝12について、これに開口するサイプ20,20A〜Fを設けた構造について説明したが、中央の周方向溝12についても、これに開口するサイプ20,20A〜Fを設けてもよい。気柱管共鳴音の低減には、全ての周方向溝12に対してそれぞれ開口するサイプ20,20A〜Fを設けることが好ましい。
【0047】
また、上記第3実施形態に係るw1>w2>w0なる構成を、第2及び4〜7実施形態に適用してもよく、それにより空気圧力を低減する効果をより高めることができる。また、第2実施形態に係る複数の第1幅広部を設ける構成を、第3〜7実施形態に適用してもよく、特に、サイプ長さが長い第6及び第7実施形態に組み合わせることが効果的である。また、第4及び第5実施形態に係るサイプの幅方向両側の壁面に第1及び第2幅広部の凹部を設ける構成を、第6及び第7実施形態等の他の実施形態に適用してもよい。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0048】
実施例1として図1〜5に示す第1実施形態のトレッドパターンと、実施例2としてそのサイプ20を図6,7に示す第2実施形態のサイプ20Aにしたものと、実施例3としてそのサイプ20を図8〜10に示す第3実施形態のサイプ20Bにしたものとについて、それぞれ空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ=195/65R15)を試作した。
【0049】
実施例1では、リブ14の幅L=52mmに対し、サイプ20の長さp0=38mm、閉鎖端26から第1幅広部22までの間隔p1=6mm、第1幅広部22の長さp2=10mm、サイプ深さh0=7mm、サイプ下端28から第2幅広部24までの間隔h1=2mm、第2幅広部24の高さh3=2mm、幅狭部21の溝幅w0=0.6mm、第1幅広部22での溝幅w1=1.3mm、第2幅広部24での溝幅w2=1.3mmとした。実施例2では、第1幅広部22Aの長さp2=7mm、第1幅広部22Bの長さp3=7mmとし、その他は実施例1と同じにした。実施例3では、幅狭部21の溝幅w0=0.6mm、第1幅広部22での溝幅w1=1.3mm、第2幅広部24での溝幅w2=0.9mmとし、その他は実施例1と同じにした。
【0050】
また、比較例1として、図17,18に示すトレッドパターンを持つものと、比較例2として、図19,20に示すトレッドパターンを持つものと、比較例3として、図21に示すトレッドパターンを持つものとついて、それぞれ空気入りラジアルタイヤを試作した。これら比較例は、実施例に対してリブ14内に設けたサイプ100,102又はヘルムホルツ共鳴器110のみ異なるものである。比較例1は、サイプ100が長さ方向及び深さ方向に一定の溝幅を持ち、両側の周方向溝12に開口したオープンサイプの例であって、溝幅=1.0mmとした。比較例2は、上記特許文献2に対応する例であって、サイプ102の閉塞端に第1孔部106,下端に第2孔部104を設けた例であり、溝幅=1mm、第1及び第2孔部106,104の直径=2mmとした。比較例3は、上記第1特許文献に対応する例であって、トレッド表面に対向する気室112と、該気室112を周方向溝12に連通させる狭窄ネック114とからなるヘルムホルツ共鳴器110を、リブ14に設けた例である。L1=18mm、L2=6mm、気室112の深さ7mm、狭窄ネック114の長さ6mm・幅1mm・深さ2mmとした。
【0051】
各空気入りラジアルタイヤをリム(サイズ:15×6)に装着し、空気圧を210kPaとして、ノイズ性能とドライ制動性を評価した。評価方法は以下の通りである。
【0052】
・ノイズ性能:ノイズレベルは、JASO―C606に準拠した台上試験(速度:80km/h)で、1/3オクターブバンドの1kHzの気柱管共鳴音レベルを測定したものであり、比較例1に対するデシベル値の差(dB)で表示した。
【0053】
・ドライ制動性:1.8LのFF車に4輪装着し、ドライ路面上で走行速度100km/hからフル制動した場合の制動開始から完全停止までの移動距離を測定し、移動距離の逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、移動距離(制動距離)が短く、ドライ制動性に優れることを示す。
【0054】
結果は、表1に示す通りであり、比較例2では、気柱管共鳴音の低減効果が小さかった。比較例3でも、気柱管共鳴音の低減効果は不十分であり、また、接地性の低下によりドライ制動性が低下していた。これに対し、実施例1〜3では、ドライ制動性を低下させることなく、むしろ向上させながら、気柱管共鳴音を低減させることができた。より詳細には、実施例1では、比較例1に対し、サイプ部分の接地圧の均一化によりドライ制動性に優れ、また気柱管共鳴音も低減していた。実施例2では、ドライ制動性は実施例1よりも僅かに劣るものの、気柱管共鳴音が更に低減していた。実施例3では、実施例1に対して、ドライ制動性が同等でありながら、気柱管共鳴音の更なる改善効果が認められた。
【0055】
【表1】

【符号の説明】
【0056】
10…トレッド部 11…トレッド表面 12…周方向溝
14…リブ 20,20A〜F…サイプ 22,22A,22B…第1幅広部
23…第1幅広部の凹部 24…第2幅広部 25…第2幅広部の凹部
26…閉鎖端 28…サイプ下端 30…開口端
G…サイプ長さ方向 H…サイプ深さ方向 W…サイプ幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部の陸部に、一端が周方向溝に開口し他端が前記陸部内で閉鎖したサイプを備える空気入りタイヤにおいて、
前記サイプは、当該サイプの閉鎖端からサイプ長さ方向に間隔をおいた位置でトレッド表面からサイプ深さ方向に延び前記サイプの下端に至る途中で終端する第1幅広部と、前記サイプの下端及びトレッド表面からサイプ深さ方向にそれぞれ間隔をおいた位置で前記第1幅広部からサイプ長さ方向に延びて前記サイプの開口端で前記周方向溝に開口する第2幅広部とを備えた
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1幅広部が前記第2幅広部よりも幅広に形成されたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1幅広部及び第2幅広部は、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた凹部により形成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた前記第1幅広部の凹部が、サイプ長さ方向にずれた位置に配置されたことを特徴とする請求項3記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた前記第2幅広部の凹部が、サイプ深さ方向にずれた位置に配置されたことを特徴とする請求項3又は4記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第1幅広部が、サイプ長さ方向において複数設けられたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−86683(P2013−86683A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229965(P2011−229965)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)