説明

窒化アルミニウム単結晶およびその製造方法

【課題】波長240〜300nmの領域における紫外光の透過性に優れた窒化アルミニウム単結晶、該単結晶からなる層を有する積層体、該積層体を製造する方法、および該積層体から紫外光の透過性に優れる窒化アルミニウム単結晶を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
酸素原子、及び炭素原子を含む窒化アルミニウム単結晶であって、酸素原子の濃度を[O]cm−3、炭素原子の濃度を[C]cm−3としたときに、下記式(1)の条件を満足することを特徴とする窒化アルミニウム単結晶。
[O]−[C] > 0 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化アルミニウム単結晶、およびその製造方法に関するものである。より具体的には、波長265nmにおける吸収係数の低い、紫外光透過性が良好な新規な窒化アルミニウム単結晶、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物単結晶のうち窒化アルミニウム単結晶は、約6eVのバンドギャップ(禁制帯幅)エネルギーを有する直接遷移型の材料である。また、窒化アルミニウムは、同族の窒化ガリウムや窒化インジウムより大きなバンドギャップエネルギーを持つため、それらと混晶とすることによりバンドギャップエネルギーを制御することが可能である。そのため、窒化アルミニウム単結晶を用いることにより、紫外線領域の短波長発光が可能となり、白色光源用の紫外発光ダイオード、殺菌用の紫外発光ダイオード、高密度光ディスクメモリの読み書きに利用できるレーザー、通信用レーザーなどの発光光源として利用することが期待されている。
【0003】
近年、アルミニウム系III族窒化物単結晶の波長300nm以下、特に波長240〜300nmの範囲の殺菌用紫外発光ダイオードへの応用が盛んに研究されている。現状では前記波長領域の光源としては水銀ランプが使用されているが、アルミニウム系III族窒化物単結晶を用いた紫外発光ダイオードが実現できれば、省エネルギー、長寿命、小型化、水銀フリーといった利点が期待される。
【0004】
アルミニウム系III族窒化物単結晶を使用した紫外発光ダイオードの基板としては、供給安定性、コスト、紫外光透過性の観点からサファイア基板が多用されている。しかし、サファイア基板を用いる場合、アルミニウム系III族窒化物単結晶からなる紫外発光ダイオードの素子層とサファイア基板間に格子定数差があることに起因し、基板と素子層との界面において多量の転位が発生し、この転位が発光ダイオードの発光効率を低下させることが問題となっている。
【0005】
したがって、アルミニウム系III族窒化物単結晶を使用した紫外発光ダイオードの基板としては、素子層との格子定数差を最小にすることが可能になる窒化アルミニウムの単結晶を使用することが望ましい。また、窒化アルミニウムはバンドギャップエネルギーが約6eVであるので、波長210nmから長波長側の紫外領域の光透過性があり、基板側から光を取り出す形状の紫外発光ダイオード用の基板として十分使用可能である。さらに、窒化アルミニウムは熱伝導率が良好であるために、発光層に電流注入したときに発生するジュール熱を放熱するにも好ましく、この放熱効果によって素子寿命が延びることも期待できる。
【0006】
このような用途に使用される光透過率のよい窒化アルミニウム単結晶に関しては、不純物が少ない方が良好とされている。窒化アルミニウム単結晶に混入する不純物としては、酸素や炭素、シリコンが挙げられる。これら不純物は、使用する装置の材質、原料純度等に由来し、単結晶の成長過程において、窒化アルミニウム単結晶中に取り込まれるものと考えられる。これら不純物の少ない窒化アルミニウム単結晶としては、以下の例が知られている。例えば、本発明者等が目的としている波長300nm以下の領域については触れてはいないが、波長350〜750nmの範囲における吸収係数が50cm−1以下である光透過性の良好な窒化物半導体単結晶基板を製造するためには、全不純物の総量を1×1017cm−3以下(酸素濃度は5×1016cm−3以下)とすることが望ましいことが知られている(特許文献1参照)。
【0007】
窒化アルミニウム単結晶において、不純物と光透過性の関連については、一般的には以下のように考えられる。不純物が窒化アルミニウム単結晶に混入すると、結晶内部の点欠陥が誘起され、この点欠陥が光吸収を起こすものと考えられる。したがって、光透過性を向上させるために不純物量を極力減らすことが好ましいことは、当然のことであった。
【0008】
しかしながら、不純物を極力低減するためには、単結晶成長時に高度な制御が必要となり、また、高純度の原料、特別な装置を使用しなければならず、窒化アルミニウム単結晶を製造する点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−78971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、窒化アルミニウム単結晶が不純物を含む場合でも、紫外光透過性が良好な窒化アルミニウム単結晶を提供することにある。さらに前記の紫外光透過性が良好な窒化アルミニウム単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意検討を行った。そして、不純物と紫外光透過性の関係について様々な調査を行った。すると、全不純物量が3×1019cm−3と多量に含まれている場合であっても、紫外光透過性を有する窒化アルミニウム単結晶が得られることが分かった。その一方で、全不純物量が前記の濃度よりも少ない1×1019cm−3であっても紫外光透過性が得られない場合があることが分かった。つまり、本発明者等の検討によると、不純物量と紫外領域の光透過性に関しては、単に窒化アルミニウム単結晶に含まれる不純物の総量だけが問題ではないことが明らかとなった。
【0012】
さらに検討を進めたところ、窒化アルミニウム単結晶に含まれている不純物は、主にドナー不純物である酸素原子とアクセプタ不純物である炭素原子であることが分かった。そして、窒化アルミニウム単結晶に含まれるこの酸素原子と炭素原子との量割合を調整する、具体的には、酸素原子の濃度を炭素原子の濃度よりも高くすることにより、紫外光透過性が良好である窒化アルミニウム単結晶が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、第一の本発明は、酸素原子、及び炭素原子を含む窒化アルミニウム単結晶であって、酸素原子の濃度を[O]cm−3、炭素原子の濃度を[C]cm−3としたときに、下記式(1)の条件を満足することを特徴とする窒化アルミニウム単結晶である。
【0014】
[O]−[C] > 0 (1)
上記窒化アルミニウム単結晶においては、酸素原子の濃度が1×1017cm−3を超え、5×1019cm−3以下であって、炭素原子の濃度が4×1017cm−3以上、4×1019cm−3以下であることが好ましい。
【0015】
また、上記窒化アルミニウム単結晶は、波長265nmにおける吸収係数が80cm−1以下となることが好ましい。
【0016】
第二の本発明は、表面に第一の窒化アルミニウム単結晶層を有する種結晶基板の第一の窒化アルミニウム単結晶層上に、前記窒化アルミニウム単結晶よりなる層を積層した積層体である。
【0017】
第三の本発明は、酸素源、及び炭素源の存在下、前記種結晶基板の第一の窒化アルミニウム単結晶層上に、前記窒化アルミニウム単結晶を成長させることを特徴とする前記積層体の製造方法である。
【0018】
第四の本発明は、前記積層体から前記種結晶基板を除去することを特徴とする前記窒化アルミニウム単結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の窒化アルミニウム単結晶は、紫外光透過性の優れたものとなる。さらに、比較的不純物濃度が高くても、紫外光透過性の優れたものとなる。そのため、窒化アルミニウム単結晶の結晶成長装置に対して複雑な不純物対策を行わなくても、紫外発光ダイオード等に使用可能な窒化アルミニウム単結晶を得ることができる。その結果、窒化アルミニウム単結晶自体のコストダウンにもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】窒化アルミニウム単結晶に含まれる酸素不純物濃度と炭素不純物濃度および紫外光透過性が良好な範囲を示す相関図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(窒化アルミニウム単結晶)
本発明は、酸素原子、及び炭素原子を含む窒化アルミニウム単結晶であって、酸素原子の濃度を[O]cm−3、炭素原子の濃度を[C]cm−3としたときに、下記式(1)の条件を満足することを特徴とする窒化アルミニウム単結晶である。
【0022】
[O]−[C] > 0 (1) 。
【0023】
本発明の窒化アルミニウム単結晶は、不純物である酸素原子の濃度が、不純物である炭素原子の濃度よりも高いことを特徴とするものである。なお、本発明において、酸素原子の濃度と炭素原子の濃度は、下記の実施例で詳細に説明する方法で測定した値である。
【0024】
従来から言われるように、窒化アルミニウム単結晶に含まれる不純物を減らすことによって、光透過性に優れた窒化アルミニウム単結晶とすることは可能であるが、本発明は、不純物を極力減らさずとも、透過性に優れた窒化アルミニウム単結晶の成長を可能とする。この理由は、詳細には明らかとなっていないが、窒化アルミニウム単結晶に不純物が混入したときに発生する結晶中の電荷バランスの変化と、それに起因して発生する点欠陥が酸素原子の濃度と炭素原子の濃度の相関関係によって制御できるためであると本発明者等は考えている。以下に現時点で考えられるメカニズムを記述する。
【0025】
酸素原子が不純物として窒化アルミニウム単結晶に混入した場合、酸素原子は、窒化アルミニウムの窒素格子サイトに導入されるものと考えられる。酸素原子は、窒素原子よりも最外殻電子を1個余分に持っているため、窒化アルミニウムの窒素格子サイトを置換した酸素原子は負電荷が過剰となる。このような電子が過剰になる不純物種を一般的にはドナー不純物と呼んでいる。このようなドナー不純物が含まれる場合、結晶中の電荷バランスは全体的に負に帯電することになり、電気的には不安定な状態になるので、この負電荷を打ち消しあうために正電荷を持った別の欠陥種が発生する。窒化アルミニウム単結晶において、起こり得る可能性のある欠陥種として考えられるものは、アルミニウムサイトの空孔(Al空孔)である。Al空孔は、元々は窒化アルミニウムのアルミニウム格子サイトにあったアルミニウム原子が欠落したものであるため、正電荷をもつことになる。このようにして、酸素原子の不純物が混入した場合には、Al空孔を生成することにより電荷を補償し合って窒化アルミニウム単結晶中の電気的中性状態が保たれることになるものと考えられる。
【0026】
一方、炭素原子が不純物として窒化アルミニウム単結晶に混入した場合においても、炭素原子が窒化アルミニウムの窒素サイトに導入されるものと考えられる。炭素原子は、窒素原子よりも最外殻電子が1個少ないため、窒化アルミニウムの窒素格子サイトを置換した炭素は正電荷が過剰になる。正電荷に関しては半導体分野ではホールとして取り扱われるが、このような電子の不足をもたらす不純物種を一般的にはアクセプタ不純物と呼んでいる。このようなアクセプタ不純物が含まれる場合、結晶中の電荷バランスは全体的に正に帯電することになり、電気的には不安定な状態になるので、この正電荷を打ち消すために負電荷を持った別の欠陥種が発生する。窒化アルミニウム単結晶において、起こり得る可能性のある欠陥種として考えられるものは、窒素の空孔(N空孔)である。N空孔は、元々は窒化アルミニウムの窒素格子サイトにあった窒素原子が欠落したものであるため、負電荷を持つことになる。このようにして、炭素原子が不純物として混入した場合には、N空孔を生成することにより電荷を補償し合って窒化アルミニウム単結晶中の電気的中性状態が保たれることになるものと考えられる。
【0027】
前記の通り窒化アルミニウム単結晶中に含まれる不純物の違いによって、発生する点欠陥種に違いが生じるものと考えられるが、それらの欠陥種の差異が紫外光透過特性の差異をもたらすものと考えられる。本発明者等の検討によれば、炭素不純物が酸素不純物よりも多く含まれる場合に前記波長領域の紫外光透過特性が悪化することが明らかとなった。したがって、本発明者等は、炭素不純物が窒化アルミニウム単結晶に混入したときに生成するN空孔が紫外光透過特性を悪化させていると推定している。
【0028】
一方で、炭素不純物の存在量が1×1019cm−3台と多い場合においても、紫外光透過性が良好な場合があることが判明した。炭素不純物量が多くても紫外光透過特性が良好な場合には、酸素不純物量も多く含まれており、酸素不純物が炭素不純物よりも多く含まれる場合に、紫外光透過特性が良好であることが明らかとなった。
【0029】
以上のことから、炭素不純物の混入により発生するN空孔を、酸素不純物の取り込みにより発生するAl空孔が補償する場合においては、炭素不純物量が多くても、紫外光透過特性を悪化させると考えられる孤立N空孔の存在量が少なくなり、本発明の窒化アルミニウム単結晶は、紫外光透過特性が良好なものになると本発明者等は推定している。
【0030】
したがって、本発明の窒化アルミニウム単結晶は、上記式(1)を満足するものでなくてはならない。中でも、窒化アルミニウム単結晶の生産性、優れた光透過性を示すためには、酸素原子の濃度と炭素原子の濃度との差([O]−[C])が1×1016cm−3以上となることが好ましく、さらに1×1017cm−3以上となることが好ましい。なお、酸素原子の濃度と炭素原子の濃度との差([O]−[C])の上限値は、特に制限されるものではないが、通常の生産、光透過性を考慮すると、5×1019cm−3である。
【0031】
本発明においては、不純物である酸素原子、および炭素原子の濃度は、上記式(1)の関係を満足するものであれば特に制限されるものではない。ただし、本発明の効果がより発揮されるためには、酸素原子の濃度([O])が、1×1017cm−3を超え、5×1019cm−3以下であって、炭素原子の濃度([C])が4×1017cm−3以上4×1019cm−3以下であることが好ましい。中でも、本発明の効果が顕著に発揮されるのは、酸素原子の濃度([O])が、3×1017cm−3以上2×1019cm−3以下であって、炭素原子の濃度([C])が4×1017cm−3以上1×1019cm−3以下であることが好ましく、さらに、酸素原子の濃度([O])が、5×1017cm−3以上5×1018cm−3以下であって、炭素原子の濃度([C])が4×1017cm−3以上4×1018cm−3以下であることが好ましい。
【0032】
全不純物量が前記下限値より少ない場合には、従来から言われているように透過性に優れた窒化アルミニウム単結晶が得られる。そのため、本発明においては、酸素原子、および炭素原子の濃度が上記範囲を満足する場合に優れた効果を発揮する。ただし、酸素原子の濃度([O])が5×1019cm−3を超え、炭素原子の濃度([C])が4×1019cm−3を超える場合には、窒化アルミニウムとしての性質よりも窒化アルミニウムと酸素原子と炭素原子との固溶体としての性質に近づく傾向にある。例えば、特開2008−56553号公報に記載されている通り、窒化アルミニウム(AlN)に、0.09wt%以上、すなわち1.1×1020cm−3以上に相当する酸素原子や、0.12wt%以上、すなわち2.0×1020cm−3以上に相当する炭素原子が含まれる場合には、格子定数が本来の窒化アルミニウムの値よりも大きく変わってくることが記載されている。このように格子定数が異なってくると、窒化アルミニウム単結晶基板上に発光ダイオードを形成する際に、格子定数のミスマッチに起因する転位の発生や応力の発生等の悪影響が生じるおそれがある。
【0033】
また、特開2009−518263号公報に記載された通り、炭素原子の濃度が高く、炭素原子の濃度を酸素原子の濃度よりも多く共存させることにより、p型導電性を発現させることが知られている。したがって、濃度が高い場合には窒化アルミニウムに導電性が現れる可能性がある。
【0034】
さらに、酸素原子の濃度([O])が5×1019cm−3を超え、炭素原子の濃度([C])が4×1019cm−3を超える場合には、AlOC、AlCN、Al等の化合物との固溶体になる場合や、部分的に前記化合物が偏析することも想定される。これらの化合物は、有色物質、すなわち光吸収を有する物質であるため、紫外光透過性が悪化する傾向にある。
【0035】
以上のことから、本発明の窒化アルミニウム単結晶は、酸素原子の濃度([O])が、1×1017cm−3を超え、5×1019cm−3以下であって、炭素原子の濃度([C])が4×1017cm−3以上4×1019cm−3以下であることが好ましい。
【0036】
以上のような不純物濃度の酸素原子と炭素原子を有する窒化アルミニウム単結晶とすることで、紫外光透過性の指標となる波長265nmにおける吸収係数が80cm−1以下、さらには60cm−1以下、製造条件の最適化を図れば45cm−1以下のものが得られる。光透過性の良し悪しの指標としては吸収係数(単位:cm−1)が用いられる。吸収係数が小さいほど、光透過性が良好であることを示す。ただし、本発明における吸収係数は直線光透過測定から求められるものであり、表面反射による透過損失を含んでいる吸収係数である。吸収係数は波長に依存して値が異なるものであるが、紫外発光ダイオードとして用いるためには、波長265nmにおける吸収係数が、80cm−1以下、さらには60cm−1以下、さらに好ましくは45cm−1以下である。また、吸収係数は、小さいほど光透過性が良好であるため、その下限値は、小さい方がよく、特に制限されるものではない。ただし、工業的な生産を考慮すると、波長265nmにおける吸収係数の下限値は、1cm−1である。なお、本発明においては、紫外光透過性の指標を波長265nmにおける吸収係数で示したが、波長265nmで吸収係数が上記範囲を満足するような低い値であれば、波長240〜300nmにおける吸収係数は当然低く、この領域での光透過性は良好なものとなる。
【0037】
本発明においては、酸素原子と炭素原子以外に、紫外光透過性に悪影響を及ぼさない範囲で他の不純物を含むこともできる。このような不純物としては、シリコン、塩素、水素、ホウ素、ガリウム、タンタル、モリブデン、タングステン等が挙げられる。これらは結晶成長装置の部材や窒化アルミニウム単結晶の成長のための原料から混入するものである。これらの不純物は、本発明の窒化アルミニウム単結晶における最大濃度の不純物にはならない濃度で含まれることもできるが、通常は、水素、シリコン、ホウ素、ガリウムに関しては最大でも1018cm−3台の濃度であり、好ましくは1×1018cm−3以下、さらには好ましくは1×1017cm−3以下の濃度である。塩素、タンタル、モリブデン、タングステンでは、最大でも1017cm−3台の濃度であり、好ましくは1×1016cm−3以下の濃度である。
【0038】
次に、本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法について説明する。通常、本発明の窒化アルミニウム単結晶は、以下の方法により得ることができる。具体的には、先ず、表面に第一の窒化アルミニウム単結晶層を有する種結晶基板を準備する。次に、該種結晶基板の第一の窒化アルミニウム単結晶層上に、気相成長法により上記式(1)を満足する窒化アルミニウム単結晶よりなる層(以下、「第二の窒化アルミニウム単結晶層」とする場合もある)を積層した積層体を製造する。次いで、該積層体から第二の窒化アルミニウム単結晶層を分離する(前記種結晶基板を除去する)ことにより、窒化アルミニウム単結晶(第二の窒化アルミニウム単結晶層)を得ることができる。この気相成長法と積層体について説明する。
【0039】
(窒化アルミニウム単結晶の製造方法)
本発明の積層体は、表面に第一の窒化アルミニウム単結晶層を有する種結晶基板の第一の窒化アルミニウム単結晶層上に、酸素原子、及び炭素原子を不純物として含み、上記式(1)を満足する窒化アルミニウム単結晶よりなる層、すなわち、第二の窒化アルミニウム単結晶層が積層された積層体である。
【0040】
(種結晶基板)
表面に第一の窒化アルミニウム単結晶層を有する種結晶基板としては、特に限定はなく、公知の方法で製造することができる。具体的には、該種結晶基板は、表面の第一の窒化アルミニウム単結晶層が気相成長法により作製される基板であればよい。気相成長法としては、昇華法、HVPE法、MOCVD法等の公知の方法を採用することができる。また、該種結晶基板は、気相成長法により作製された窒化アルミニウム単結晶基板の単層からなるものであってもよいし、シリコン、炭化ケイ素、サファイア、窒化ガリウム等の単結晶基板上に窒化アルミニウム単結晶が積層されたテンプレートタイプの種結晶基板でもよい。
【0041】
本発明の一実施形態として、気相成長法により作製され、表面に第一の窒化アルミニウム単結晶層を有する窒化アルミニウム種結晶基板について、以下に説明する。
【0042】
気相成長法により作製され、最表面が窒化アルミニウム単結晶面の窒化アルミニウム種結晶基板としては、たとえば、特開2010−89971に提案されるような窒化アルミニウム単結晶基板を用いてもよい。また、WO2009/090821、特開2010−10613に提案されるような窒化アルミニウム非単結晶層を含む窒化アルミニウム複合種結晶基板を用いてもよい。
【0043】
このような気相成長法で作製される種結晶基板の中でも、種結晶基板自体の生産性を考慮すると窒化アルミニウム非単結晶層を含む窒化アルミニウム複合種結晶を用いることが好ましい。具体的には、多結晶、非晶質、又はこれらの混合からなる窒化アルミニウム非単結晶層上に、最表面を形成する窒化アルミニウム単結晶薄膜層(第一の窒化アルミニウム単結晶層)が積層された種結晶基板である。該窒化アルミニウム複合種結晶に関しては、生産性、最表面の結晶性の観点から、最表面を形成する窒化アルミニウム単結晶薄膜層(第一の窒化アルミニウム単結晶層)の厚みが10nm以上1.5μm以下であって、該窒化アルミニウム非単結晶層の厚みが該窒化アルミニウム単結晶薄膜層の100倍以上であるものが好適に用いられる。
【0044】
なお、種結晶基板の表面に存在する窒化アルミニウム単結晶薄膜層(第一の窒化アルミニウム単結晶層)は、単結晶であればよく、特に制限されるものではない。第一の窒化アルミニウム単結晶は、第二の窒化アルミニウム単結晶層と同じ製造方法で製造し、該第二の窒化アルミニウム単結晶層と同等の酸素原子、および炭素原子の不純物を含む層であってもよいし、従来の公知の方法で製造されるものであってもよい。
【0045】
このような窒化アルミニウム複合種結晶は、非単結晶層を有するため、紫外線透過率が低く、発光ダイオードの構成部材としては不適当であるが、該窒化アルミニウム複合種結晶上に積層した窒化アルミニウム単結晶層(第二の窒化アルミニウム単結晶層)の紫外光透過性が良好になる。このため、積層体のうち種結晶部分を除去すれば、発光ダイオードにおいては特に問題とはならない。
【0046】
次に、以上のような種結晶基板の第一の窒化アルミニウム単結晶層上に、第二の窒化アルミニウム単結晶層を積層した積層体を製造する。この積層体の製造方法について説明する。
【0047】
(積層体)
前記第一の窒化アルミニウム単結晶層上に積層する第二の窒化アルミニウム単結晶層は、酸素原子、および炭素原子を不純物として含み、上記式(1)を満足する(酸素原子の濃度[O]の方が炭素原子の濃度[C]よりも高くなる)ものである。
【0048】
この第二の窒化アルミニウム単結晶層は、酸素源、および炭素源の存在下、前記種結晶基板の第一の窒化アルミニウム単結晶層上に気相成長法により形成する。気相成長法としては、昇華法、HVPE法、MOCVD法等の公知の方法を採用することができる。これらの方法は、原料ガスであるアルミニウム源および窒素源を一旦、気相中にて第一の窒化アルミニウム単結晶層上に輸送し、該第一の窒化アルミニウム単結晶上にて両原料を反応させて第二の窒化アルミニウム単結晶層とするものである。これらの原料ガスは通常、水素ガス、窒素ガス、希ガスなどのキャリアガスと共に第一の窒化アルミニウム単結晶上に供給される。
【0049】
アルミニウム源および窒素源としては、公知の原料ガスが特に制限なく使用できる。具体的には、アルミニウム源としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機金属アルミニウム化合物や、塩化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウム、アルミニウム蒸気、もしくは窒化アルミニウム粉末が上げられる。また、窒素源ガスとしては前記有機金属アルミニウム化合物やハロゲン化アルミニウムに対してはアンモニアガスが好適に使用でき、前記アルミニウム蒸気や窒化アルミニウム粉末に対しては窒素ガスも使用することが可能である。
【0050】
中でも、生産性がよく、結晶性のよりよい窒化アルミニウム単結晶(第二の窒化アルミニウム単結晶)を得るためには、窒素源にアンモニアガスを使用し、アルミニウム源としてハロゲン化アルミニウムガスを使用することが好ましい。また、第二の窒化アルミニウム単結晶を成長させる際の種結晶基板の温度は、1100℃以上1800℃以下とすることが好ましく、さらに、1250℃以上1600℃以下とすることが好ましい。さらに、アンモニアガスとハロゲン化アルミニウムガスとの供給比は、結晶成長装置の構造にも依存するが、一般的には、窒素原子とアルミニウム原子との比(窒素原子のモル数/アルミニウム原子のモル数)が0.5〜100なるようにすることが好ましく、さらに、2〜20となるようにすることが好ましい。
【0051】
本発明において、「酸素源、および炭素源の存在下にする」とは、種結晶基板上で第二の窒化アルミニウム単結晶が成長する際、該結晶に酸素原子、および炭素原子が含まれるような雰囲気下にすることである。そうするためには、該単結晶の成長時に、酸素原子、および炭素原子を存在させればよく、その方法は、特に制限されるものではない。例えば、単結晶成長時に、分解等により酸素原子、および炭素原子を発生させるものを種結晶基板の近傍に配置してもよい。中でも好適な方法として用いられるのは、原料ガスを輸送するためのキャリアガスに、酸素源および炭素源を共存させる方法である。具体的には、酸素源の存在下とするためには、酸素ガスや、水、二酸化炭素、一酸化炭素、アルコール類等の酸素原子を含むガスを前記キャリアガスに混合すればよい。第二の窒化アルミニウム単結晶を形成する際に供給する酸素源は、酸素原子を含むガスであり、気体として供給可能なガスであれば特に制限なく使用することができる。炭素源の存在下とするためには、メタン、エタン等の炭化水素系ガス、二酸化炭素、一酸化炭素やアルコール類等の炭素原子を含むガスを前記キャリアガスに混合すればよい。第二の窒化アルミニウム単結晶を形成する際に供給する炭素源についても、炭素原子を含むガスであり、気体として供給可能なガスであれば特に制限なく使用することができる。
【0052】
第二の窒化アルミニウム単結晶(層)において、酸素原子の濃度([O])を炭素原子の濃度([C])よりも高くするためには、前記の酸素源および炭素源のガス供給量を調整すればよい。酸素源および炭素源のガス供給量に関しては、第二の窒化アルミニウム単結晶(層)を製造するための原料ガスの種類、キャリアガス流量、温度、圧力、第二の窒化アルミニウム単結晶層の成長速度、装置形状に依存するため一概に決めることはできない。当然ながら、酸素源および炭素源のガスの種類にも依存する。前記の製造条件や装置形状を決めた上で、本発明の酸素原子の濃度および炭素原子の濃度が第二の窒化アルミニウム単結晶(層)に含まれるように酸素源および炭素源のガス供給量を決めるのがよい。しかし、原料供給量の目安としてはアルミニウム源の供給量(物質量)に対して、0.00001〜5mol%、より好ましくは0.0001〜1mol%の範囲で供給することが好ましい。
【0053】
第二の窒化アルミニウム単結晶(層)における酸素原子の濃度および炭素原子の濃度を精密に制御するためには、酸素源および炭素源のガスをキャリアガスで予め希釈したガスを使用することが好ましい。 酸素源および炭素源ガスの希釈方法は、特に制限されるものではなく、あらかじめガスボンベ内で希釈する方法、装置内でマスフローコントローラー等の精密な流量調整機器を使用してキャリアガスと混合する方法を採用することができる。
【0054】
第二の窒化アルミニウム単結晶(層)を成長するにあたっては,該第二の窒化アルミニウム単結晶(層)の結晶成長装置の構成部材や窒化アルミニウム単結晶の成長のための原料、種結晶基板から酸素不純物や炭素不純物が飛来し、該第二の窒化アルミニウム単結晶に取り込まれる場合も考えられる。第二の窒化アルミニウム単結晶の結晶成長装置は窒化アルミニウム単結晶への不純物の取り込みを少なくするように装置構成部材が選定される。しかし、フローチャネルや基板支持台等の装置構成部材の材質をグラファイトや石英ガラス、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム焼結体、炭化珪素、窒化ケイ素、炭化タンタル、タングステン、モリブデン等とすることによって、該装置構成部材に含まれる炭素や酸素を酸素源もしくは炭素源とすることもできる。
【0055】
この場合、前記の酸素源および炭素源のガス供給量に関しては、第二の窒化アルミニウム単結晶(層)を製造するための原料ガスと装置構成部材との反応のしやすさ、キャリアガスの種類、キャリアガス流量、温度、圧力、第二の窒化アルミニウム単結晶層の成長速度、装置構成部材の形状や設置箇所に依存するため一概に決めることはできない。しかし、装置構成部材の設置箇所が種結晶基板に近い場合や温度が高い場合、またキャリアガスが水素のような活性を有する場合には酸素源もしくは炭素源の供給量が高まる。装置構成部材の温度としては1000℃以上において供給量が高くなり、上限温度は構成部材の材質にもよるが高くとも2300℃である。このような場合においても、取り込まれる炭素不純物の濃度よりも多くなるように、前記の原料供給量を目安として酸素源もしくは炭素源を供給することにより、本発明における好適な酸素不純物と炭素不純物の濃度関係を満足させることも可能である。
【0056】
第二の窒化アルミニウム単結晶(層)は、上記条件を採用することにより、酸素源、および炭素源存在下で成長させることができる。なお、第二の窒化アルミニウム単結晶層の厚みは、特に制限されるものではなく、使用する用途に応じて適宜決定すればよい。通常は、50μm以上2000μm以下である。
【0057】
上記方法により製造された積層体から、この第二の窒化アルミニウム単結晶層を分離することにより、酸素原子濃度が炭素原子濃度よりも高い、本発明の窒化アルミニウム単結晶を得ることができる。第二の窒化アルミニウム単結晶層を分離する方法は、公知の方法を採用することができる。具体的には、機械的に切断を行ったり、研磨を行うことにより、積層体から種結晶基板を除去し、第二の窒化アルミニウム単結晶層(本発明の窒化アルミニウム単結晶)を得ることができる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の具体的な実施例、比較例について図を参照しながら説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1
(第一の窒化アルミニウム単結晶の準備)
本発明においては、第一の窒化アルミニウム単結晶としてWO2009/090821に記載の方法により作製した。この第一の窒化アルミニウム単結晶は、窒化アルミニウム単結晶面を構成する窒化アルミニウム単結晶薄膜層の厚みが230nmであって、その下の窒化アルミニウム非単結晶層(窒化アルミニウム多結晶層)の厚みが350μmである積層体を種結晶として用いた。
【0060】
第一の窒化アルミニウム単結晶は、アセトン中において周波数100kHzの超音波にて3分間の洗浄を行い、さらに2−プロパノール中において周波数100kHzの超音波にて3分間の洗浄を行った後、超純水にてリンスしたのち、乾燥窒素により基板をブローして超純水を除去した。
【0061】
(第二の窒化アルミニウム単結晶の作製)
前記第一の窒化アルミニウム単結晶を窒化アルミニウム単結晶面が最表面になるようにHVPE装置内のタングステン製サセプタ上に設置した後、圧力を150Torrとし、水素ガス(7000sccm)と窒素ガス(3000sccm)の混合キャリアガスで流通しながら、該第一の窒化アルミニウム単結晶を1490℃に加熱し、10分間保持することにより表面クリーニングを行った。このとき、全キャリアガス流量(10000sccm)に対して0.5体積%になるようにアンモニアガスを供給した。次いで、420℃に加熱した金属アルミニウムと塩化水素ガスを反応させることによって得られる塩化アルミニウムガスを全キャリアガス流量に対して0.05体積%になるように供給した。このとき、塩化アルミニウムガスの供給量に対して0.1mol%になるように、窒素ガスをベースガスとした1体積%酸素ガスをアンモニアガスの供給ラインを通して供給し、さらに、塩化アルミニウムガスの供給量に対して0.1mol%になるように、メタンガスをキャリアガスとともに供給し、第一の窒化アルミニウム単結晶上に、第二の窒化アルミニウム単結晶層を310μm成長した。
【0062】
第二の窒化アルミニウム単結晶層が前記膜厚になった後、塩化アルミニウムガスおよび酸素ガス、メタンガスの供給を停止し、さらにキャリアガスの種類を窒素ガスに切り替えて室温まで冷却した。アンモニアガスは基板温度が800℃に下がるまで供給し続けた。
【0063】
(第二の窒化アルミニウム単結晶層の研磨および評価)
本実施例で用いた第一の窒化アルミニウム単結晶は厚さ350μmの窒化アルミニウム多結晶層に支持されているが、該窒化アルミニウム多結晶層は多くの粒子界面を有するため、光の散乱が起こり紫外光透過性が得られない。そこで、第二の窒化アルミニウム単結晶層の吸収係数を評価するために、該窒化アルミニウム多結晶層を研磨により除去し、さらに第二の窒化アルミニウム単結晶層の表面を研磨することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみからなる厚さ200μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を作製した。自立基板の表面はRMS値が5nm程度の両面鏡面研磨状態に仕上げた。
【0064】
紫外可視分光光度計(日本分光製V−7300)により、該窒化アルミニウム単結晶自立基板の波長265nmの吸収係数α(単位:cm−1)を評価したところ、46cm−1であった。さらに、加速電圧15kVのセシウムイオンを1次イオンに用いた2次イオン質量分析法(CAMECA製IMS−f6)により酸素原子の濃度、および炭素原子の濃度の定量分析を行った。窒化アルミニウム単結晶自立基板の酸素原子の濃度、および炭素原子の濃度は、該窒化アルミニウム単結晶自立基板の表面側から深さ5μm位置の2次イオン強度を測定し、窒化アルミニウム標準試料を用いた検量線に基づき定量した。その結果、窒化アルミニウム単結晶自立基板の酸素原子の濃度は5×1018cm−3、炭素原子の濃度は5×1017cm−3であった。
【0065】
実施例2
第二の窒化アルミニウム単結晶層の成長時に供給する酸素および炭素の供給量を塩化アルミニウムガスの供給量に対してそれぞれ0.1mol%、0.2mol%とし、第二の窒化アルミニウム層の厚さを300μmとした以外は実施例1と同様の手順で第二の窒化アルミニウム単結晶層を成長した。
【0066】
両面を鏡面研磨することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみからなる厚さ180μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を作製し、波長265nmにおける吸収係数、酸素原子の濃度、および炭素原子の濃度を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、吸収係数は41cm−1、酸素原子の濃度は5×1018cm−3、炭素原子の濃度は3×1018cm−3であった。
【0067】
実施例3
第一の窒化アルミニウム単結晶としてWO2009/090923に記載の方法によるサファイア基板上に窒化アルミニウム単結晶層が形成された積層体を使用し、該積層体上に第二の窒化アルミニウム単結晶層を形成した実施例である。
【0068】
この第一の窒化アルミニウム単結晶は、厚さ430μmのサファイア基板上に厚みが200nmの窒化アルミニウム単結晶薄膜層が形成されているものである。さらに該第一の窒化アルミニウム単結晶層とサファイア基板との界面には高さが100nm程度の空隙が多数形成されている。WO2009/090923には第一の窒化アルミニウム単結晶層とサファイア基板とが非接触となった部分の総面積の、第一の窒化アルミニウム単結晶層の面積に対する割合を空隙率と定義していることが記載されているが、この空隙率の算出方法によれば本実施例における空隙率は42%であった。
【0069】
前記第一の窒化アルミニウム単結晶を窒化アルミニウム単結晶面が最表面になるようにHVPE装置内のグラファイト製サセプタ上に設置した後、圧力は大気圧状態で保持し、水素ガス(7000sccm)と窒素ガス(3000sccm)の混合キャリアガスで流通しながら、該第一の窒化アルミニウム単結晶を1450℃に加熱し、5分間保持することにより表面クリーニングを行った。このとき、全キャリアガス流量(10000sccm)に対して0.5体積%になるようにアンモニアガスを供給した。次いで、500℃に加熱した金属アルミニウムと塩化水素ガスを反応することによって得られる塩化アルミニウムガスを全キャリアガス流量に対して0.05体積%になるように供給した。このとき、塩化アルミニウムガスの供給量に対して1.0mol%になるように、窒素ガスをベースガスとした1体積%二酸化炭素ガスをアンモニアガスの供給ラインを通して供給し、第一の窒化アルミニウム単結晶上に、第二の窒化アルミニウム単結晶層を150μm成長した。
【0070】
第二の窒化アルミニウム単結晶層が前記膜厚になった後、塩化アルミニウムガスおよび二酸化炭素ガスの供給を停止し、キャリアガスの種類を全窒素ガスに切り替えて,室温まで冷却した。アンモニアガスは基板温度が800℃に下がるまで供給した。本実施例に用いた第一の窒化アルミニウム単結晶とサファイア基板の界面には空隙が存在する。このため、第一および第二の窒化アルミニウム単結晶層とサファイア基板の界面には冷却中に熱膨張係数差に起因した応力が発生し、前記空隙に応力が集中することになり、第一および第二の窒化アルミニウム単結晶層と、サファイア基板とに分離された。
【0071】
サファイア基板から分離された第一および第二の窒化アルミニウム単結晶層から、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみの吸収係数を評価するために、第一の窒化アルミニウム単結晶を研磨により除去した。さらに第二の窒化アルミニウム単結晶層の表面を研磨することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみからなる厚さ79μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を作製した。自立基板の表面はRMS値が5nm程度の両面鏡面研磨状態に仕上げた。波長265nmにおける吸収係数、酸素原子の濃度、および炭素原子の濃度を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、吸収係数は69cm−1、酸素原子の濃度は2×1019cm−3、炭素原子の濃度は1×1019cm−3であった。
【0072】
比較例1
第一の窒化アルミニウム単結晶をグラファイト製サセプタの上に設置し、第二の窒化アルミニウム単結晶層の成長時に供給する酸素および炭素の供給量を塩化アルミニウムガスの供給量に対してそれぞれ0.03mol%、2.0mol%とし、第二の窒化アルミニウム層の厚さを280μmとした以外は実施例1と同様の手順で第二の窒化アルミニウム単結晶層を成長した。
【0073】
両面を鏡面研磨することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみからなる厚さ160μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を作製し、波長265nmにおける吸収係数酸素原子の濃度、および炭素原子の濃度を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、吸収係数は645cm−1、酸素原子の濃度は5×1017cm−3、炭素原子の濃度は1×1019cm−3であった。
【0074】
比較例2
第二の窒化アルミニウム単結晶層の成長時に供給する酸素および炭素の供給量を塩化アルミニウムガスの供給量に対してそれぞれ0.5mol%、2.0mol%とし、第二の窒化アルミニウム層の厚さを280μmとした以外は実施例1と同様の手順で第二の窒化アルミニウム単結晶層を成長した。
【0075】
両面を鏡面研磨することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみからなる厚さ160μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を作製し、波長265nmにおける吸収係数酸素原子の濃度、炭素原子の濃度を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、吸収係数は484cm−1、酸素原子の濃度は5×1018cm−3、炭素原子の濃度は1×1019cm−3であった。
【0076】
比較例3
第二の窒化アルミニウム単結晶層の成長時に供給する酸素および炭素の供給量を塩化アルミニウムガスの供給量に対してそれぞれ1.0mol%、4.0mol%とし、第二の窒化アルミニウム層の厚さを440μmとした以外は実施例1と同様の手順で第二の窒化アルミニウム単結晶層を成長した。
【0077】
両面を鏡面研磨することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみからなる厚さ300μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を作製し、波長265nmにおける吸収係数酸素原子の濃度、および炭素原子の濃度を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、吸収係数は737cm−1、酸素原子の濃度は1×1019cm−3、炭素原子の濃度は2×1019cm−3であった。
【0078】
比較例4
第二の窒化アルミニウム単結晶層の成長時に供給する酸素および炭素の供給量を塩化アルミニウムガスの供給量に対してそれぞれ0.8mol%、2.0mol%とし、第二の窒化アルミニウム層の厚さを450μmとした以外は実施例1と同様の手順で第二の窒化アルミニウム単結晶層を成長した。
【0079】
両面を鏡面研磨することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみからなる厚さ300μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を作製し、波長265nmにおける吸収係数、酸素原子の濃度、炭素原子の濃度を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、吸収係数は300cm−1、酸素原子の濃度は8×1018cm−3、炭素原子の濃度は9×1018cm−3であった。
【0080】
比較例5
第二の窒化アルミニウム単結晶層の成長時に供給する酸素および炭素の供給量を塩化アルミニウムガスの供給量に対してそれぞれ0.2mol%、0.6mol%とし、第二の窒化アルミニウム層の厚さを320μmとした以外は実施例1と同様の手順で第二の窒化アルミニウム単結晶層を成長した。
【0081】
両面を鏡面研磨することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層のみからなる厚さ200μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を作製し、波長265nmにおける吸収係数、酸素原子の濃度、炭素原子の濃度を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、吸収係数は115cm−1、酸素原子の濃度は2×1018cm−3、炭素原子の濃度は3×1018cm−3であった。
【0082】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子、及び炭素原子を含む窒化アルミニウム単結晶であって、酸素原子の濃度を[O]cm−3、炭素原子の濃度を[C]cm−3としたときに、下記式(1)の条件を満足することを特徴とする窒化アルミニウム単結晶。
[O]−[C] > 0 (1)
【請求項2】
酸素原子の濃度が1×1017cm−3を超え、5×1019cm−3以下であって、炭素原子の濃度が4×1017cm−3以上、4×1019cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム単結晶。
【請求項3】
波長265nmにおける吸収係数が80cm−1以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム単結晶。
【請求項4】
表面に第一の窒化アルミニウム単結晶層を有する種結晶基板の第一の窒化アルミニウム単結晶層上に、請求項1に記載の窒化アルミニウム単結晶よりなる層を積層した積層体。
【請求項5】
酸素源、及び炭素源の存在下、種結晶基板の第一の窒化アルミニウム単結晶層上に、気相成長法により請求項1に記載の窒化アルミニウム単結晶を成長させることを特徴とする請求項4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
ハロゲン化アルミニウムを原料とした気相成長法により窒化アルミニウム単結晶を成長させることを特徴とする請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法により積層体を製造した後、該積層体から種結晶基板を除去することを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−188344(P2012−188344A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−25292(P2012−25292)
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】