説明

窒化ガリウム結晶積層基板及びその製造方法

【課題】貫通転位密度が低く高い結晶性を有するGaNのa面:<11−20>面やm面:<1−100>面を主面とする基板、或いは<11−22>面を主面とする基板など、多様な面方位の面がサファイア下地基板上に積層されたGaN積層基板、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】サファイア下地基板10と、該基板上に結晶成長せしめて形成された窒化ガリウム結晶層とを含み、該窒化ガリウム結晶層は、サファイア下地基板10の主面に複数本形成された溝部の各側壁21から横方向結晶成長して該主面と平行に表面が形成された、a面やm面などの無極性面、<11−22>面等の半極性面からなり、且つ、該窒化ガリウム結晶の暗点密度が2×10個/cm未満、好ましくは1.85×10個/cm以下、特に好ましくは1.4×10個/cm以下である窒化ガリウム結晶積層基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム結晶積層基板、詳しくは、サファイア下地基板上に、貫通転位密度が小さな窒化ガリウム結晶(GaN)層を積層した積層基板、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)や半導体レーザ(LD)などの半導体発光素子として、サファイア基板上に、n型GaN層、InGaN層からなる量子井戸層とGaN層からなる障壁層とが交互積層された多重量子井戸層(MuItiQuantumWeIIs:MQWs)、及びp型GaN層が順に積層形成された構造を有するものが量産化されている。このような量産化されている半導体発光素子では、いずれのGaN層も。軸方向にGaNが結晶成長し、表面が、c面<(0001)面>となっている。
ところで、表面がc面であるGaN層では、Ga原子のみを含むGa原子面が僅かにプラスに帯電する一方、N原子のみを含むN原子面が僅かにマイナスに帯電し、結果としてc軸方向(層厚さ方向)に自発分極が発生する。また、GaN層上に異種半導体層をヘテロエピタキシャル成長させた場合、両者の格子定数の違いによって、GaN結晶に圧縮歪や引っ張り歪が生じ、GaN結晶内でc軸方向に圧電分極(ピエゾ分極)が発生する(特許文献1及び2参照)。
この結果、前記構成の半導体発光素子では、多重量子井戸層において、InGaN量子井戸層に固定電荷に起因する自発分極に加えて、InGaN量子井戸層に加わる圧縮歪により生じたピエゾ分極が重畳され、そのためc軸方向に大きな内部分極電場が発生することとなる。この内部分極電場の影響を受けて、量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum−Confined Stark Effect:QCSE)により、発光効率の低下や必要な注入電流の増大に伴う発光のピーク波長シフトなどの問題が生じると考えられている。
【0003】
上記問題を解決するために、GaNの無極性面である、a面:<11−20>面やm面:<1−100>面を用いて、その上にInGaN層を形成し、自発分極とピエゾ分極の重畳された内部電界の影響を回避することが検討されている(特許文献1〜3参照)。
更に、c面が、a軸あるいはm軸方向に約60度傾斜した半極性面といわれている面、例えば、半極性の<11−22>面上にInGaN量子井戸層を形成し、それによって内部電極の影響を回避することも検討されている(非特許文献1、非特許文献2)。
しかしながら、現在入手可能な上記GaNのa面やm面を主面とする基板、或いは<11−22>面を主面とする基板は、貫通転位密度が2〜3×10個/cm程度と言われており、より貫通転位密度が低い高い結晶品質の結晶基板が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−53593号公報
【特許文献2】特開2008−53594号公報
【特許文献3】特開2007−243006号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics Vol.45,2006,L659.
【非特許文献2】Applied Physics Letters Vol.90,2007,261912.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GaNの、貫通転位密度が低く高い結晶品質のa面やm面を主面とする基板、或いは(11−22)面を主面とする基板など、無極性面や半極性面を主面としたGaN層がサファイア下地基板上に積層されたGaN積層基板、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、複数本の凹状の溝部を有するサファイア下地基板を用いて、該下地基板の溝部の側壁面を起点として所望の結晶面を有するGaNの結晶成長を検討する過程で、溝部側壁面の結晶成長領域の大きさが結晶品質(貫通転位密度)に大きく影響する一方、成長した結晶の表面平坦性やX線回折測定により評価した結晶性にはほとんど影響を及ぼさないことを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、サファイア下地基板と、該下地基板上に結晶成長せしめて形成された窒化ガリウム結晶層とを含み、該窒化ガリウム結晶層は、サファイア下地基板の主面に複数本形成された溝部の各側壁から横方向結晶成長して該主面と平行に表面が形成されたものであり、且つ、該窒化ガリウム結晶の暗点密度が2×10個/cm未満であることを特徴とする窒化ガリウム結晶積層基板である。
上記窒化ガリウム結晶積層基板において、
1)窒化ガリウム結晶の暗点密度が1.4×10個/cm以下である、
2)窒化ガリウム結晶層が、無極性または半極性の面方位を有する表面からなる窒化ガリウム結晶層である
ことが好ましい。
【0009】
他の発明は、サファイア下地基板上に、該下地基板の主面より傾斜した側壁を有する複数本の溝部を形成し、該溝部の各側壁より選択的に窒化ガリウム結晶を横方向成長させる窒化ガリウム結晶積層基板の製造方法において、
上記各側壁における窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)を10〜750nmに設定することを特徴とする窒化ガリウム結晶積層基板の製造方法である。
上記窒化ガリウム結晶積層基板の製造方法において、窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)が100〜200nmであることが好ましい。
【0010】
更に他の発明は、サファイア下地基板上に、該下地基板の主面より傾斜した側壁を有する溝部を複数本有し、該溝部の各側壁において選択的に窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)が10〜750nmに設定されていることを特徴とする結晶積層基板製造用サファイア下地基板である。
上記結晶積層基板製造用サファイア下地基板において、窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)が100〜200nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の窒化ガリウム結晶積層基板は、窒化ガリウム結晶の暗点密度が2×10個/cm未満、好ましくは1.85×10個/cm以下、特に好ましくは1.4×10個/cm以下であって結晶品質が高いので、該積層基板を用いて作製されるLEDやLDなどの半導体発光素子は、その発光効率が向上する。
また、サファイア下地基板に上に形成した溝部の側壁より選択的に窒化ガリウム結晶を成長させることにより、窒化ガリウム層表面の面方位は無極性面または半極性面であるため、従来のc面を主面とする窒化ガリウム結晶層基板に比べて、量子閉じ込めシュタルク効果による発光効率の低下の影響が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のサファイア下地基板の断面図である。
【図2】本発明のサファイア下地基板の一例を示す図である。
【図3】サファイア下地基板の溝部の拡大断面図である。
【図4】マスキング部を有するサファイア下地基板の溝部の拡大斜視図である。
【図5】下地基板上にGaN結晶が成長する過程を示す模式図である。
【図6】サファイア下地基板、および得られたGaN結晶層の状態を示す模式図である。
【図7】側壁の幅(d)と暗点密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の窒化ガリウム結晶積層基板は、下地基板の主面より傾斜した側壁を有する溝部を複数本有し、該溝部の各側壁に窒化ガリウム結晶を成長させるための、幅(d)10〜750nmの成長領域が設けられたサファイア下地基板を下層として、その上に、各側壁から横方向結晶成長して上記主面と平行に表面が形成された、暗点密度が2×10個/cm未満の窒化ガリウム結晶層が積層された基本構造を有する。
暗転密度とは、結晶の転位欠陥である貫通転位の密度を示すための指標となる物性値であり、走査型電子顕微鏡/カソードルミネッセンス(SEM・CL)装置を用いて測定される。測定試料はアンドープGaN結晶層の上にn型GaN結晶層を積層した試料を用い、n型GaN層表面において測定を行う。測定時の加速電圧は5kVとし、観察範囲は20μm×20μmとする。このとき、観察範囲内に観察された暗点の総数より暗点密度を算出する。
【0014】
本発明の結晶積層基板製造用のサファイア下地基板は、サファイア基板上に、該基板の主面より傾斜した側壁を有する溝部を複数本有し、該溝部の各側壁において選択的に窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)が、10〜750nmに設定されている。
上記下地基板としては、主面が特定の面方位であるサファイア基板を使用する。しかしながら、後述する所望のGaN結晶を得るために、結晶軸に対して所定の角度傾斜したミスカット面であるものでもよい。該下地基板は、通常、厚みが0.3〜3.0mm、直径が50〜300mmの円盤状のものが使用される。
【0015】
サファイア下地基板の主面は、目的とするGaNの結晶面に合わせて任意の面方位が選択される。例えば、<11−22>面を表面に有するGaNを成長させたい場合は、サファイア下地基板の主面は<10−12>とし、<10−1)>面を表面に有するGaNを成長させたい場合は、サファイア下地基板の主面は<11−23>とする。その他、<10−10>面、<11−20>面、<20−21>面等を主面することができる。
また、例えば、<10−12>面を主面とするサファイア基板を用いた場合、溝部の側壁にはサファイアc面が得られ、サファイア基板主面となす角度は57.6度である。しかし、目的とするGaNの<11−22>面とGaNのc面とのなす角は58.4度であるため、<10−12>面を主面とするサファイア基板上には、サファイア主面に対して0.8度傾斜して<11−22>面GaN層が成長する。この角度を相殺するために、<10−12>面にオフ角をつけた面であるミスカット基板を用い、GaN層表面である<11−22>面がサファイア基板主面に対して平行となるように成長させることができる。このように目的とするGaNの面方位と、用いるサファイア下地基板との面方位によって、GaN結晶層表面がサファイア下地基板主面と平行になるように設計された、種々のミスカット基板を用いることができる。
【0016】
該サファイア下地基板の主面には、複数本の溝部が並行に設けられる。溝部の開口部幅は特に制限されず、通常0.5〜10μmの範囲から設定される。溝部の間隔、即ち、相互に隣接する溝部と溝部の下地基板主面線上の間隔は、1〜100μmである。溝部底面の横方向の幅、即ち溝部の延びる方向に垂直な方向の距離(w)も特に限定されず、1〜100000μmが一般的である。
主面上の溝部の数は、形成されるGaN結晶の所望する面積に応じて任意に設けることができるが、上記開口幅、溝部の間隔、底面の幅を勘案して、通常、1mm当り、10〜500本程度設ければ良い。
【0017】
上記溝部は、下地基板主面に対して所定の角度で傾斜した側壁を有しており、図3に示すように、その断面形状は、溝開口部から溝底部に向かって溝幅を狭めるように外向きに傾斜したテ―パー状になっている。
該傾斜角度とは、図3に示すように、下地基板主面と溝部側壁の延長面とがなす角度(Θ)を意味する。該角度は、下地基板主面の面方位に合わせて形成させたいGaN結晶の面方位を勘案して決定される。
【0018】
例えば、サファイア下地基板主面の面方位が<10−12>であり、所望するGaN結晶の面方位が<11−22>面である場合は、この角度を58.4度として、この側壁から、GaNを、サファイア下地基板のc軸にGaN結晶のc軸が同一の方向となるように成長させて所望の結晶を得る。このときの角度58.4度は、所望するGaN結晶の主面である<11−22>面と、成長方向であるGaN結晶のc軸に対して垂直となるGaN結晶のc面とがなす角度が、58.4度であることから決定される。しかし、用いるサファイア下地基板の主面である<10−12>面と、溝部の側壁に現れるサファイアc面とがなす角度は57.6度であるため、下地基板主面と溝部側壁とがなす角度(Θ)は57.6度となり、その上に成長したGaN層の表面は、サファイア下地基板の主面に対し、約0.8度傾斜する。そこで、この角度を相殺するように、基板主面部分がサファイア<10−12>面にオフ角をつけた面であるミスカット基板を用いることにより、GaN層表面である<11−22>面がサファイア下地基板主面に対して平行となるように成長したGaN層を得ることができる。
【0019】
サファイア下地基板主面の面方位が<11−23>であり、所望するGaN結晶の面方位が<10−11>面である場合は、この角度を62.0度として、この側壁から、GaNを、サファイア下地基板のc軸にGaN結晶のc軸が同一の方向となるように成長させて所望の結晶を得る。このときの角度62.0度は、所望するGaN結晶の主面である<10−11>面と、成長方向であるGaN結晶のc軸に対して垂直となるGaN結晶のc面とがなす角度が、62.0度であることから決定される。しかし、用いるサファイア下地基板の主面である<11−23>面と、溝部の側壁に現れるサファイアc面とがなす角度は61.2度であるため、下地基板主面と溝部側壁とがなす角度(Θ)は61.2度となり、その上に成長したGaN層の表面は、サファイア下地基板の主面に対し、約0.8度傾斜する。そこで、この角度を相殺するように、基板主面部分がサファイア<11−23>面にオフ角をつけた面であるミスカット基板を用いることにより、GaN層表面である<10−11>面がサファイア下地基板主面に対して平行となるように成長したGaN層を得ることができる。
【0020】
サファイア下地基板主面の面方位が<11−20>であり、所望するGaN結晶の面方位が<10−10>面である場合は、この角度を90度として、この側壁から、GaNを、サファイア下地基板のc軸にGaN結晶のc軸が同一の方向となるように成長させて所望の結晶を得る。このときの角度90度は、所望するGaN結晶の主面である<11−20>面と、成長方向であるGaN結晶のc軸に対して垂直となるGaN結晶のc面とがなす角度が、90度であることから決定される。しかし、サファイア基板に溝部を形成するエッチング工程において、サファイア基板主面に対して垂直方向のみならず、平行方向を含んだ垂直以外の方向にもエッチングが進行するため、下地基板主面と溝部側壁とがなす角度(Θ)が90度、すなわち、溝部側壁がサファイア基板主面に対して真に垂直な溝部を形成することは技術上困難である。しかしながら、下地基板主面と溝部側壁とがなす角度(Θ)が90度に近い溝部を有するサファイア基板を用いることにより、<11−20>面を主面とするサファイア下地基板上に<10−10>面がサファイア下地基板主面に対して平行となるように成長したGaN層を得ることができる。
【0021】
サファイア下地基板主面の面方位が<10−10>であり、所望するGaN結晶の面方位が<11−20>面である場合は、この角度を90度として、この側壁から、GaNを、サファイア下地基板のc軸にGaN結晶のc軸が同一の方向となるように成長させて所望の結晶を得る。このときの角度90度は、所望するGaN結晶の主面である<10−10>面と、成長方向であるGaN結晶のc軸に対して垂直となるGaN結晶のc面とがなす角度が、90度であることから決定される。しかし、前記のように下地基板主面と溝部側壁とがなす角度(Θ)が90度となる溝部を形成することは技術上困難である。しかしながら、下地基板主面と溝部側壁とがなす角度(Θ)が90度に近い溝部を有するサファイア基板を用いることにより、<10−10>面を主面とするサファイア下地基板上に<11−20>面がサファイア下地基板主面に対して平行となるように成長したGaN層を得ることができる。
【0022】
本願発明においては、上記溝部の側壁における、GaN結晶成長させる領域(以下、結晶成長領域という)の幅(d)の設定が、貫通転位密度の低減のために極めて重要である。
結晶成長領域の幅(d)とは、図3に示す如く、側壁全てが結晶成長領域である場合は、下地基板主面と側壁が交わる辺と、側壁と溝部底面が交わる辺との間の、側壁上の最短距離(間隔)を云う。図4に示す如く、側壁の一部がマスキングされ結晶成長領域が制限されている場合は、上記最短距離(間隔)から、マスキング部分の幅を除いた距離(d)を云う。
本発明においては、当該幅(d)を、暗点密度を2×10個/cm未満にするために、10〜750nmに設定する必要がある。特に、暗点密度を1.4×10個/cm未満にするためには幅(d)を100〜200nmにすることが必要である。幅(d)の下限は特に制限はなく小さいほど良いが、下記に述べる溝部作製の際の技術上の制約から決定される。
【0023】
上記所定の傾斜角度の側壁を有する溝部は、溝部形成予定部分だけが開ロ部となるフォトレジストのパターニングを形成し、フォトレジストをエッチングレジストとし、サファイア下地基板を反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)等のドライエッチング或いはウエットエッチングをすることにより形成することができる。
更に、側壁の幅、溝部開口部幅、溝部間隔、底面幅などの制御手段としては、フォトレジストのパターニングを形成する段階において、フォトレジストの塗布量、ベーク温度、ベーク時間、UV照射量、UV照射する際のフォトマスクの形状などが挙げられる。また、エッチングの段階において、エッチングガス種、エッチングガス濃度、エッチングガス混合比、アンテナパワー、バイアスパワー、エッチング時間などによっても制御できる。
これら種々の条件を組み合わせることにより、所定の形状である溝部を有したサファイア下地基板を得ることができる。特に本発明において重要である側壁の幅は、単位時間あたりにサファイアがエッチングされる速度であるエッチングレートを求め、エッチング時間を変更することで制御が可能である。
【0024】
上記方法において、サファイア下地基板主面の選定、並びに溝部の延びる方向の設定により、種々の面方位を有する側壁を有する下地基板を作成することができる。
具体的には、下地基板主面が<10−12>面、溝部の延びる方向が<11−20>面の面方位、即ち、a軸方向である場合は、結晶成長面である側壁にはc面が露出する。或いは、下地基板主面が<11−23>面、溝部の延びる方向が<10−10>面の面方位、即ち、m軸方向である場合は、結晶成長面である側面にはc面が露出する。
上記の通り、サファイア下地基板は、その主面の面方位並びに結晶成長の面となる側壁の面方位を任意に設計することができる。
また、側壁の一部をマスキングする手段としては、真空蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の方法により、結晶成長領域以外の領域に、SiO膜、SiN、膜、TiO膜、ZrO膜等を形成してマスキングする方法が挙げられる。該マスキング層の厚さは、通常O.01〜3μm程度である。
【0025】
GaN結晶層は、上記側壁を起点として、ELO(EpitaxialLateral Overgrowth)により横方向に結晶成長して、サファイア下地基板上に下地基板主面と平行にその表面が形成される。形成されるGaN結晶層の厚み(サファイア下地基板主面からの高さ)は、特に限定されないが、通常、2〜20μmである。
GaN結晶層の結晶表面の面方位は、上記の通りサファイア下地基板主面に対応し、<11−22>面、<10−11>面、<20−21>面などからなる。
【0026】
GaN結晶の成長方法は、特に限定されず、有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)が採用され、これらのうち有機金属気相成長法が最も一般的である。以下では、有機金属気相成長法を利用した成長方法について説明する。また、本願発明の発明者等によって提案されたWO2010/023846号公報に記載の技術を何ら制限なく準用できる。
【0027】
結晶成長に用いられるMOVPE装置は、大きくは基板搬送系、基板加熱系、ガス供給系、及びガス排気系から構成され、全て電子制御される。基板加熱系は、熱電対及び抵抗加熱ヒータ、並びにその上に設けられた炭素製或いはSiC製のサセプタで構成され、そして、そのサセプタの上に本発明のサファイア下地基板をセットした石英トレイが搬送され、半導体層のエピタキシャル成長が行われる。この基板加熱系は、水冷機構を備えた石英製の二重管内或いはステンレス製の反応容器内に設置され、その二重管或いは反応容器内にキャリアガス及び各種原料ガスが供給される。特にステンレス反応容器を使う場合は、基板上に層流のガスの流れを実現するために、石英製のフローチャネルを用いる。
キャリアガスとしては、例えば、H、Nが挙げられる。窒素元素供給源としては、例えば、NHが挙げられる。Ga元素供給源としては、例えば、トリメチルガリウム(TMG)が挙げられる。
【0028】
以下具体的に、GaN結晶層の形成について説明する。まず、サファイア下地基板を基板主面が上向きになるように石英トレイ上にセットした後、サファイア下地基板を1050〜1150度に加熱すると共に反応容器内の圧力を10〜100kPaとし、また、反応容器内に設置したフローチャネル内にキャリアガスとしてHを流通させ、その状態を数分間保持することによりサファイア下地基板をサーマルクリーニングする。
次いで、サファイア下地基板の温度を1050〜1150度とすると共に反応容器内の圧力を10〜100kPaとし、また、反応容器内にキャリアガスHを10L/minの流量で流通させながら、そこにNH、及びTMGを、それぞれの供給量がO.1〜5L/min、及び10〜150μmol/minとなるように流す。このとき、図5に示すように、サファイア下地基板の溝部の側壁から、その上にアンドープのGaNがヘテロエピタキシャル成長する。そして、その結晶成長により基板主面の法線方向にGaNの層の成長が進展し、図6に示すように、サファイア下地基板上にGaN結晶層が形成されて積層基板が得られる。GaN層結晶の層厚さは約2〜20μmである。GaN結晶層を形成させる前に、側壁の結晶成長領域面上に厚さ20〜30nm程度の低温バッファ層を形成することが好ましい。
GaN層は、溝部の各側壁の成長領域から結晶成長した複数の帯状のGaN結晶の集合体によって、或いは、帯状のGaN結晶が会合して連なった一体物によって構成される。
【0029】
得られるGaN結晶層の表面の面方位は、サファイア下地基板の構成によって、種々異なることとなる。例えば、サファイア下地基板の主面が<10−12>面であって、側壁がc面である場合は、側壁面上には、サファイアのa軸とGaNのm軸が平行であり、サファイアのm軸とGaNのa軸が平行な結晶方位関係のGaNが結晶成長する。したがってサファイア下地基板上には、サファイア下地基板の主面に対して表面が平行な<11−22>面GaN結晶層が形成される。
或いは、サファイア下地基板の主面が<11−23>面であって、側壁がc面である場合は、側壁面上には、サファイアのm軸とGaNのa軸が平行であり、サファイアのa軸とGaNのm軸が平行な結晶方位関係のGaNが結晶成長する。したがってサファイア下地基板上には、サファイア下地基板の主面に対して表面が平行な<10−11>面GaN結晶層が形成される。
上記各種の成長法によって得られた窒化ガリウム結晶積層基板は、このまま各種半導体発光素子の基板として使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0031】
実施例1
〔サファイア下地基板の作製〕
<10−12>面サファイア下地基板上にストライプ上にレジストをパターニングし、次いで反応性イオンエッチング(RIE)によりドライエッチングすることで、サファイア下地基板上に複数本の溝部を形成した。溝部は、溝開口幅が3μm、溝の深さが100nm、及び隣接する溝部までの基板主面部分の幅が3μmとなるように形成した。側壁の傾斜角度は約60度であり、溝深さ及び側壁の傾斜角度より算出した側壁の幅(d)は115nmである。
ドライエッチングの後、レジストを洗浄除去することでサファイア下地基板を得た。このサファイア下地基板は、基板主面、複数本形成された溝部の側壁から構成される表面露出した結晶成長領域、及び溝部底面を有する。
【0032】
〔アンドープGaN結晶層の形成〕
作製したサファイア下地基板を、MOVPE装置内に、基板表面が上向きになるように石英トレイ上にセットした後、基板を1150℃に加熱すると共に反応容器内の圧力を100kPaとし、また、反応容器内にキャリアガスとしてHを10L/minで流通させ、その状態を10分間保持することにより基板をサーマルクリーニングした。
次いで、基板の温度を460℃とすると共に反応容器内の圧力を100kPaとし、また、反応容器内を流通させるキャリアガスをH5L/minの流量で流しながら、そこにV族元素供給源(NH)、及びIII族元素供給源(TMG)を、それぞれの供給量が5L/min及び5.5μmol/minで基板上にアモルファス状のGaNを約25nm堆積させた。続いて基板の温度を1075℃とすると共に反応容器内の圧力を20kPaとし、また、反応容器内を流通させるキャリアガスをHとして、それを5L/minの流量で流通させることで、基板上に堆積したGaNを再結晶化し、溝部側壁の結晶成長領域に選択的にGaN結晶核を形成した。
【0033】
続いて、基板の温度を1075℃とすると共に反応容器内の圧力を20kPaとし、また、反応容器内を流通させるキャリアガスをHとして、それを5L/minの流量で流通させながら、そこにV族元素供給源(NH)、及びIII族元素供給源(TMG)を、それぞれの供給量が2L/min及び30μmol/minとなるように30分間流し、GaN結晶核の上にGaN(アンドープGaN)を結晶成長させることにより、基板の主面に複数本形成された溝部の核側壁から横方向結晶成長するように基板上にGaN層を形成した。
続いて、基板の温度を1025℃とすると共に反応容器内の圧力を20kPaとし、また、反応容器内を流通させるキャリアガスをHとして、それを5L/minの流量で流通させながら、そこにV族元素供給源(NH)、及びIII族元素供給源(TMG)を、それぞれの供給量が2L/min及び30μmol/minとなるように300分間流し、GaNを成長させることにより、基板の主面に複数本形成された溝部の核側壁から成長したGaN結晶同士を会合し、基板主面に対して平行に表面が形成されるように<11−22>面GaN結晶層を形成した。
【0034】
〔n型GaN結晶層の形成〕
次いで、基板の温度を1025℃とすると共に反応容器内の圧力を20kPaとし、また、反応容器内を流通させるキャリアガスをHとして、それを5L/minの流量で流通させながら、そこにV族元素供給源(NH)、III族元素供給源(TMG)、及びn型ドーピング元素供給源(SiH)を、それぞれの供給量が2L/min、30μmol/min、及び5.8×10−3μmol/minとなるように60分間流し、アンドープGaN層の上部に、アンドープGaN層と同一面方位にエピタキシャル成長したn型GaN結晶層を形成した。
【0035】
実施例2
サファイア下地基板に形成した溝部の溝深さを200nmとし、側壁の幅(d)を231nmに調整したことを除いては実施例1と同様にして、サファイア下地基板上にGaN結晶層を形成した。
実施例3
サファイア下地基板に形成した溝部の溝深さを500nmとし、側壁の幅(d)を587nmに調整したことを除いては実施例1と同様にして、サファイア下地基板上にGaN結晶層を形成した。
比較例1
サファイア下地基板に形成した溝部の溝深さを1μmとし、側壁の幅(d)を1155nmに調整したことを除いては実施例1と同様にして、サファイア下地基板上にGaN結晶層を形成した。
【0036】
〔暗点密度評価〕
実施例1〜3、及び比較例1のそれぞれで得られたGaN結晶層について、走査型電子顕微鏡/カソードルミネッセンス(SEM・CL)装置を用いて、n型GaN層表面の観察を行った。このときの加速電圧は5kV、観察範囲は20μm×20μmとし、観察範囲内に観察された暗点の総数から暗点密度を算出したところ、表1に示す結果が得られた。
【0037】
【表1】

【0038】
上記実施例1〜3および比較例1のデータから、側壁の幅(d)と暗点密度との関係を図7に示した(X軸は対数表示)。この図から、下地基板の側壁の幅(d)を、750nm以下にすることにより、暗点密度が2×10個/cm未満の<11−22>面方位のGaN結晶層が、特に、幅(d)を、200nm以下にすることにより、暗点密度が1.85×10個/cm以下の高結晶品質のGaN結晶層が得られることが認識でき、結晶成長領域である側壁の幅(d)が結晶品質に大きく寄与することが確認できる。
【符号の説明】
【0039】
10 サファイア下地基板
11 下地基板主面
20 下地基板溝部
21 溝部側壁
22 溝部底面
23 側壁結晶成長領域
30 GaN結晶層
31 GaN結晶層表面
40 マスキング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア下地基板と、該基板上に結晶成長せしめて形成された窒化ガリウム結晶層とを含み、該窒化ガリウム結晶層は、サファイア下地基板の主面に複数本形成された溝部の各側壁から横方向結晶成長して該主面と平行に表面が形成されたものであり、且つ、該窒化ガリウム結晶の暗点密度が2×10個/cm未満であることを特徴とする窒化ガリウム結晶積層基板。
【請求項2】
窒化ガリウム結晶の暗点密度が1.4×10個/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム結晶積層基板。
【請求項3】
窒化ガリウム結晶層が、無極性または半極性の面方位を有する表面からなる窒化ガリウム結晶層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化ガリウム結晶積層基板。
【請求項4】
サファイア下地基板上に、該下地基板の主面より傾斜した側壁を有する複数本の溝部を形成し、該溝部の各側壁より選択的に窒化ガリウム結晶を横方向成長させる窒化ガリウム結晶積層基板の製造方法において、
上記各側壁における窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)を10〜750nmに設定することを特徴とする窒化ガリウム結晶積層基板の製造方法。
【請求項5】
窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)が100〜200nmであることを特徴とする請求項4に記載の窒化ガリウム結晶積層基板の製造方法。
【請求項6】
サファイア下地基板上に、該下地基板の主面より傾斜した側壁を有する溝部を複数本有し、該溝部の各側壁において選択的に窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)が10〜750nmに設定されていることを特徴とする結晶積層基板製造用サファイア下地基板。
【請求項7】
窒化ガリウム結晶を成長させる領域の幅(d)が100〜200nmであることを特徴とする請求項6に記載の結晶積層基板製造用サファイア下地基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−184144(P2012−184144A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49487(P2011−49487)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】