説明

窒化珪素粉末の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高温用構造材料の原料として賞用される窒化珪素粉末の流動層を用いた製造方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、省エネルギー、高エネルギー効率の観点から、ターボロータ、バルブ、スワールチャンバーなど自動車のエンジン部品や、各種産業用機械部品に窒化珪素が検討されている。これらは過酷な条件下での使用であるため、原料粉に求められる条件も以下のように厳しいものとなっている。
【0003】
1)α相が主体であること。
2)サブミクロンの微粒子からなること。
3)粒度分布がシャープであること。
4)粒子形状が等軸晶的であること。
5)高純度であること。
6)安価であること。
【0004】窒化珪素の製造方法としては、大別して、以下の4法がある。
a)金属シリコンを窒素やアンモニア等の反応ガスを用いて窒化する直接窒化法。
b)シリカを炭素等の還元剤と反応ガスを用いて窒化する還元窒化法。
c)四塩化珪素から生成するシリコンジイミドを熱分解して窒化珪素を製造するイミド熱分解法。
d)レーザーやプラズマ等の加熱によりモノシランや四塩化珪素ガス等の原料とアンモニア等のガスを反応させて窒化珪素を製造する気相法。
【0005】これらの内、直接窒化法と還元窒化法はコスト的に有利であり、イミド熱分解法と気相法は生成粉末の物性が優れているといわれてきた。すなわち、直接窒化法では、インゴットの粉砕によって粉末を得るため、上記条件の内、3)、4)の達成が比較的困難であり、高純度品を得るためには、通常、精製工程を必要とすることから収率があまり良くない。また、還元窒化法では、原料のシリカに含まれる内部酸素の完全除去が難しく、他の製造法に比べて焼結性の良くない粉末が生成し易いという欠点がある。
【0006】一方、イミド熱分解法や気相法では、通常、原料に高価な四塩化珪素やモノシランを使用するため、前二者に比べてコスト的に不利である。さらに、イミド熱分解法では、原料の四塩化珪素に含まれる塩素が残留し易く、気相法では、工業的に使用できるほど大型のレーザーやプラズマ装置が非常に高価であり、しかも調達しにくい点も問題である。
【0007】流動層は、下から流体を送り、分散板上の固体粒子を浮遊懸濁させ流体に似たような状態で、吸収、乾燥、吸着などの単位操作や反応を行わせるものである。しかしながら、従来、流動化の対称となったものは、Geldart の粉体分類によるA、B、Dグループに属し、流動化の良好な数十μm以上の粒径を持つ粉体であった。
【0008】窒化珪素粉末は、前記分類ではCグループに属し、通常の流動化方法では流動化が非常に困難であるが、これまでにいくつかの提案がある。原料粉末の造粒(例えば、特開昭61-97110号公報や特開昭63-40710号公報等)、反応温度の制御(特開昭61-97110号公報等)、多段の窒化(特開平3-60410 号公報等)あるいは流動化装置の改良(特公平4-25202号公報等)などである。
【0009】そして、上記流動化は、直接窒化法と還元窒化法において試みられてきたが、いずれも満足な結果とは言えず、実際の工業化には至っていない。すなわち、従来の流動層を用いる窒化珪素粉末の製造法は、上記1)〜6)の条件を満足したものではなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、以上のような問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、原料として比較的安価な金属シリコン粉末を用い、それを流動層で反応させる際に振動を与えることによって、上記1)〜6)の条件を満足させた窒化珪素粉末を製造できることを見いだし、本発明を完成させたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、流動層で金属シリコン粉末を窒化反応させて窒化珪素粉末を製造する方法において、流動層に振幅0.5〜10mm、振動数8〜100Hzの振動を与えること特徴とする窒化珪素粉末の製造方法である。
【0012】以下、さらに詳しく本発明について説明する。
【0013】本発明における流動層とは、原料金属シリコン粉末及び生成物である窒化珪素粉末を浮遊懸濁させるものであれば特にこれを制限するものではない。流動層に十分な振動と反応温度が与えられ、反応ガスを供給できる一般の装置を採用することができる。例えば、化学工学論文集15, [5] PP.992-997(1989)などに記載されたものが使用できる。
【0014】流動層の容器、ガスの供給方法や供給口の形状などについても、多くの提案があるが、本発明においては、特にこれを制限するものではない。但し、供給ガスと反応したり、あるいは揮発成分や酸素を放出し易い材質の容器は、生成物の不純物の増加につながるので好ましくない。好ましい材質を例示すれば、アルミナ、マグネシア、ムライト、窒化珪素、炭化珪素、窒化硼素、黒鉛等である。
【0015】本発明で使用される金属シリコン粉末については、通常の直接窒化法で用いられているもので十分であり、特別なものである必要はない。金属シリコンの不純物濃度は、生成物の純度に影響するので、高純度品を要求する場合には、高純度なシリコンを用いるのがよい。特に酸素量が0.3重量%以下であるものが望ましい。
【0016】金属シリコン粉末の粒度については、余り小さすぎると、窒化反応が過大となって暴走反応を生じ易くなる上に生成物中に原料が飛び込み易くなり、逆に、余り大きすぎると、流動化開始ガス流速が大きくなり、多量のガスが必要となって、コスト的に不利となる。好ましい金属シリコン粉末の比表面積は、0.1〜7m2/g特に0.2〜5m2/gである。なお、暴走反応をおさえるには、反応ガスをAr、He等の不活性ガスで希釈したり、窒化反応に不活性な粉末を反応系内に加えて原料を希釈することは有効な手段である。
【0017】本発明では、流動層全体で比較的均一に反応が進行するので、生成する窒化珪素粉末は、固定層における数〜数十μmの不定形塊状もしくは柱状と異なり、平均粒径が1μm以下の微粒子で、等軸晶的形状となる。また、窒化速度も固定層の数〜数十倍に速くすることができる。
【0018】本発明の最大の特徴は、流動層を形成する際に振動を与えることである。原料の金属シリコンに比べて生成物の窒化珪素は、流動化が非常に困難であるので、通常の流動層で金属シリコンを流動化しながら窒化すると、窒化珪素の生成にともなって流動化状態が悪くなり、ついには固定層に変わってしまう。しかしながら、本発明のように、振動を付与すると、金属シリコン、窒化珪素、及び両者の混合物は、ほぼ同じ流動化条件で流動化できるため、流動化しながら金属シリコンを窒化することができ、固定層に変わることはない。
【0019】振動の条件は、振動数、振幅、振動方向によって決定される。振動数と振幅については、あまり小さいと振動の効果がみられなくなり、あまり大きいと振動の発生装置に制約があるため、振動数は8〜100Hz好ましくは12〜60Hzであり、振幅は0.5〜10mm好ましくは1〜6mmである。
【0020】振動方向については、水平方向又は垂直方向のみの場合は、振動層と側壁の間からガスが優先的に通り抜けてしまう、いわゆる吹き抜けが生じ易くなるので、両者を加えた斜め方向が好ましく、特に水平方向とのなす角度が20〜70度が好ましい。
【0021】本発明で使用されるガスは、流動化ガスと反応ガスの二種類である。前者は流動化状態を保つために必要なガスであり、総量よりも流速が重要である。流動化ガスの流速は、金属シリコンの粒度、表面状態、振動の状態によって異なるが、0.4〜10m/s特に0.5〜5m/sが好ましい。ガスの成分としては、特に限定するものではないが、金属シリコンと反応して窒化珪素以外のものを生成する成分は好ましくなく、特に酸素は500ppm以下特に300ppm以下であることが好ましい。流動化ガスを例示すれば、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスや、窒素、水素、アンモニア等の非酸化性ガスである。
【0022】後者の反応ガスは、窒化反応に必要なものであるので、窒素を含むアンモニアや窒素ガス、あるいは窒素と水素の混合ガスなどを用いることができ、さらには反応の促進や生成粒子の凝集を防ぐために、ハロゲンやハロゲン化水素などを加えても良い。この場合は、流速よりも供給総量が重要であり、少なくとも反応に必要な理論量、すなわちモル数でシリコンの4/3倍は必要であるが、通常は数倍から数十倍程度供給する。反応ガスの供給によって流動化を賄えることもできる。
【0023】反応を制御するためには、Ar、He等の不活性ガスと反応ガスの混合ガスを用いるが、どちらの場合も、反応で消費された後のガス、すなわち流動層を通過した後のガスが上記した流動化ガス流速を保っていることが必要である。
【0024】本発明においては、原料の金属シリコン粉末に不活性な粉末を加えることができる。その目的は以下のとおである。
【0025】その1は、流動化を助ける流動化材としての効果である。窒化反応が進行すると、金属シリコンは、表面で生成したり付着したりした窒化珪素の微粒子で覆われてくるため、表面性状としては窒化珪素の微粒子の性質が強くなり、粒子としては殆ど未反応であっても粒子同士が凝集し易くなって、流動化を困難としてしまう。このような凝集性のある粒子の中に、凝集しにくい粒子を加えると流動化が容易になる。
【0026】その2は、窒化の暴走反応を抑制する制御材としての効果である。窒化反応は、反応温度や反応ガス組成、ガス量によって決定されるが、反応に不活性な粒子を加えることによって、原料粒子の密度が薄められ、流動層内の反応がより均一に進むようになる。
【0027】その3は、金属シリコンの表面から、窒化珪素微粒子の分離を促進する解砕材としての効果である。流動層内で混合される粒子が、互いに衝突する際に、表面に付着した微粒子は解砕・分離されるが、上記したように、表面が窒化珪素で覆われたシリコンは、凝集性があるため、その効果が小さく、解砕が十分に行われなくなってしまう。凝集性の小さい粒子を加えることによって、その効果を高め、生成物の取り出しが容易となる。
【0028】本発明において、不活性な粉末とは、反応温度において、反応ガスと反応が殆ど生じることなく、流動化状態を保つ粉末のことである。好ましい具体例をあげれば、窒化珪素、アルミナ、シリカ、マグネシア、カルシア、炭化珪素等である。これらの粒子は僅かながら生成物に混入する可能性もある点を考慮すれば、特に窒化珪素、シリカ及び炭化珪素が好ましい。
【0029】不活性な粉末の形状としては、繊維状又は板状粒子は流動化しにくいので好ましくなく、球状あるいは破砕形状が好ましい。また、表面硬度の低い粒子や解砕しやすい粒子の凝集体も好ましくなく、窒化珪素の二次凝集粉体等を用いる場合には、予め、不活性または窒素雰囲気下の高温で焼成するなどして、強く凝集した粒子にしておくことが好ましい。
【0030】本発明においては、原料の投入や生成物の補集方法については、特に制限はないが、連続あるいはそれを間欠的に操作して半連続的に、原料を流動層に投入でき、流動層から浮上してきた粒子を連続的に補修できれば良い。但し、水中補集はろ過、乾燥、解砕等の後工程が必要になるのであまり好ましくない。補集装置としてはバグフィルターやサイクロンなどがある。
【0031】
【実施例】以下、本発明を実施例と比較例をあげてさらに具体的に説明する。
【0032】実施例1〜8 比較例1〜3市販の高純度シリコン粉末(200〜2000μm)をセラミックス製ロールクラッシャーを用いて粗砕し、さらに窒化珪素製ボールミルで粉砕して比表面積0.2〜8m2/gに調整して原料金属シリコン粉末とした。
【0033】実施例8においては、不活性な粉末として、窒化珪素粉末(電気化学社製商品名「SN-9FW」)を窒素雰囲気中、1800℃で12時間焼成し88μmフルイ下にして用いた。
【0034】反応槽は、黒鉛製の反応管(50mmφ)にアルミナ製の分散板を用い、反応ガスとしては、表1に示す各組成の混合ガスを用いた。
【0035】反応管をカーボン製ヒーターで外部加熱し、表1に示した所定の各反応温度まで昇温後、金属シリコン粉末を入れた。表1に示す所定時間を反応させた後、室温まで降温して試料を取り出した。
【0036】得られた生成物は、LECO社製の酸素窒素同時分析装置で測定した含有窒素量から窒化率を測定し、粉末X線回折を行なってα相とβ相の回折線強度比から、生成された窒化珪素中のα化率を決定した。また、粒度分布は堀場製作所社製の超遠心式自動分布測定装置(CAPA)で測定し、生成物の粒子形状は走査型電子顕微鏡を用いて観察した。さらに、比表面積は湯浅アイオニクス社製のカウンタソーブによった。これらの結果を表2に示す。
【0037】
【表1】


【0038】
【表2】


【0039】表1と表2から明らかなように、本発明の実施例では、窒化反応中に流動化の停止は起こらず、流動化(バブリングベッド)状態を保ったまま反応が終了して、ほぼ完全に窒化することができた。得られた生成物は、解砕等の後処理の必要ない、ほぼα相の窒化珪素微粒子であった。また、生成物の形状は等軸晶的であった。
【0040】これに対して、流動層に与える振動数が本発明の範囲にない比較例1では、窒化反応中に流動化が停止してしまい、比較例2では最初から流動化せず、生成した窒化珪素はα化率の低い不定形塊状粒子からなり、反応率も低かった。また、振幅が本発明の範囲にない比較例3においても反応途中の流動化停止により、針状の一次粒子の強固な凝集体が得られた。比較例1〜3で得られた窒化珪素粉末はいずれも比表面積も小さく、焼結用原料として使用するためには、非常に長時間の、あるいは特殊な粉砕が必要である。
【0041】
【発明の効果】本発明によれば、気相法におけるモノシランや四塩化珪素のような高価な原料を用いることなく、また、湿式の精製処理のような手間のかかる後処理も必要としないで窒化珪素粉末を安価に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 流動層で金属シリコン粉末を窒化反応させて窒化珪素粉末を製造する方法において、流動層に振幅0.5〜10mm、振動数8〜100Hzの振動を与えること特徴とする窒化珪素粉末の製造方法。

【特許番号】特許第3246951号(P3246951)
【登録日】平成13年11月2日(2001.11.2)
【発行日】平成14年1月15日(2002.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−219644
【出願日】平成4年7月28日(1992.7.28)
【公開番号】特開平6−48709
【公開日】平成6年2月22日(1994.2.22)
【審査請求日】平成10年11月2日(1998.11.2)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【参考文献】
【文献】特開 昭54−141400(JP,A)
【文献】特開 平3−94829(JP,A)
【文献】特開 昭61−266305(JP,A)