説明

窒素酸化物の接触還元除去方法

【目的】 酸素が過剰に存在する全体として酸化性雰囲気において、ガソリン機関は勿論のこと、ディ−ゼル機関の排ガスをはじめ、種々の設備から発生する排ガス中の窒素酸化物を、少量添加した炭化水素類、あるいは排ガス中に含まれる炭化水素類の存在下で、特定の触媒と接触させて、該排ガス中の窒素酸化物を還元除去する方法を提供する。
【構成】 過剰の酸素が存在する酸化性雰囲気中、炭化水素類の存在下において、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属をシリカに担持させた触媒と窒素酸化物を含む排ガスを接触させる。この触媒は、さらに、触媒基準、酸化物換算で0.01〜10重量%のコバルトを含有するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、酸素が過剰に存在する全体として酸化性雰囲気において、排ガス中の窒素酸化物を、少量添加した炭化水素類、あるいは排ガス中に含まれる炭化水素類の存在下で、特定の触媒と接触させて、該排ガス中の窒素酸化物を還元除去する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】種々の内燃機関や燃焼器より排出される窒素酸化物(以下、「NOx」と記すこともある)は、人体に悪影響を及ぼすのみならず、光化学スモッグや酸性雨の発生原因ともなり得るため、環境対策上その低減が急務となっている。
【0003】従来、このNOxを除去する方法として、触媒を用いて排ガス中のNOxを低減する方法が既に幾つか実用化されている。例えば、(イ)ガソリン自動車における三元触媒法や、(ロ)ボイラ−等の大型設備排出源からの排ガスについて、アンモニアを用いる選択的接触還元法が挙げられる。また、最近提案されている方法としては、(ハ)炭化水素を用いる排ガス中のNOx除去方法として、銅等の金属を担持させたアルミナ等の金属酸化物、若しくは種々の金属を担持したゼオライトを触媒として炭化水素の存在下でNOxを含むガスと接触させる方法等がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記(イ)の方法は、自動車の燃焼排ガス中に含まれる炭化水素成分と一酸化炭素を白金族を含有する触媒によって水と二酸化炭素とし、同時にNOxを還元して窒素とするものである。この方法では、NOxに含まれる酸素量を含め、炭化水素成分および一酸化炭素が酸化されるのに必要とする酸素量とが化学量論的に等しくなるように酸素濃度を調整する必要があり、ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンのように排ガス中に多量の酸素を含む雰囲気では、原理的に適用不可能である等の問題がある。最近になって、特定の炭化水素類(例えば、オレフィン類)の存在下での上記触媒のNOx低減効果が報告されるようになったが、その浄化率は未だ低く、還元生成物に関しても課題解決には至っていない。
【0005】また、(ロ)の方法では、非常に有毒であり、かつ多くの場合高圧ガスとして取り扱わなければならないアンモニアを用いるため、取扱いが容易ではなく、しかも設備が巨大化し、小型の排ガス発生源、特に移動性発生源に適用することは技術的に極めて困難である上、経済性も良くない。
【0006】一方、(ハ)の方法は、排ガス中の酸素量が少ない通常のガソリン自動車を主な対象としたものであって、排ガス中に過剰の酸素が存在するディ−ゼル機関やリーンバーンエンジンの排ガスに適用することは困難であると共に、触媒の耐久性も不十分である。
【0007】すなわち、アルミナ若しくはゼオライトに銅等の金属を担持した触媒では、ディ−ゼル機関から排出される硫黄酸化物により被毒されるばかりでなく、添加した金属の凝集等による触媒の活性低下も起こるため、ディ−ゼル機関やリーンバーンエンジンからの排ガスに含まれるNOxを除去するには適さない。特に、ゼオライト系触媒は、比較的高い初期活性を有するものの、NOxの除去を行うべき対象となる排ガス中に水蒸気が含まれている場合、その水蒸気が触媒の活性点を被覆し、その結果、NOx除去性能の低下をもたらす。さらに、燃焼機関からの排ガスのような水熱条件下での使用は、ゼオライト骨格からの脱アルミを促進し、致命的な触媒劣化を引き起こす。
【0008】そこで、酸素過剰下にある処理するべき排ガス中に、水蒸気や硫黄酸化物が含有されている場合にも、高い還元性能と一層優れた耐久性を有するNOx還元除去触媒の開発が望まれている。
【0009】本発明は、以上の(イ)〜(ハ)に存在する各種の問題を解決するために、酸素過剰下の酸化性雰囲気においても、ガソリン機関は勿論のこと、ディ−ゼル機関の排ガスをはじめ、種々の設備から発生する排ガス中の窒素酸化物を効率良く還元除去することのできる触媒を開発し、この触媒によってこの窒素酸化物を還元除去する方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明のNOxの除去方法は、過剰の酸素が存在する酸化性雰囲気中、炭化水素類の存在下において、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属をシリカに担持させた触媒と窒素酸化物を含む排ガスとを接触させることを特徴とする。上記触媒はさらに、触媒基準、酸化物換算で0.01〜10wt%のコバルトを含有するものであってもよい。
【0011】本発明における触媒は、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の活性金属種をシリカに担持したものであり、その担持量は、触媒基準、酸化物換算で1〜50wt%、好ましくは3〜10wt%とすることが望ましい。担持量が0.01wt%未満では、期待する効果が得られず、50wt%を超えると、担持金属の凝集が著しく促進されてしまう可能性があり、結果的に該金属の担持効果が発揮されない場合が生じるからである。
【0012】上記の活性金属種をシリカに担持させる方法は、従来公知の含浸法、共沈法、混練法、イオン交換法、その他各種の方法が採用できる。ただし、所望する担持量を比較的容易に得られる点から、含浸法や共沈法が好ましい。
【0013】含浸法では、シリカに、上記の活性金属種を成分として含有する化合物の水溶液を含浸させた後、乾燥、空気焼成することによって所望の触媒を得る。このとき、担体として使用するシリカは、従来公知の方法により調製されたもので十分であり、特に限定されない。一例を示すと、水ガラス溶液と酸または塩との反応や、ケイ酸塩の分解によるシリカゲルの製法等により調製されたシリカがある。また、上記の化合物としては、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンの硝酸塩、塩化物、硫酸塩等を挙げることができ、通常、空気焼成において比較的低温で分解することから、硝酸塩が好適に用いられる。
【0014】空気焼成の温度は、約300〜800℃、好ましくは約400〜600℃であり、焼成時間は約1〜10時間、好ましくは約2〜4時間である。焼成温度が低すぎたり、焼成時間が短かすぎると、活性金属種化合物の分解が十分に進行せず、活性金属の担持が不十分となる。逆に、焼成が高温度、長時間に及ぶと、担持金属の凝集やシンタリングが起き、触媒の活性が低下してしまう。
【0015】共沈法では、活性金属種を成分として含有する化合物の水溶液と、ケイ酸塩あるいはシリカゾルとの混合水溶液に、適当な沈殿剤を添加してこれらの混合物の沈殿を調製し、濾過、水洗、乾燥、焼成して所望の触媒を得る。
【0016】これら含浸法や共沈法は、含有させる化合物の量が多いときに好適な場合が多いが、本発明では、これらいずれの方法によるかは特に問わない。
【0017】さらに本発明における触媒は、上記の成分からなる触媒に、さらにコバルトを含有させたものであってもよく、コバルトの含有量は、触媒基準、酸化物換算で0.01〜10wt%、好ましくは0.1〜1wt%である。含有量が0.01wt%未満では、期待する効果が得られず、10wt%を超えると、含有させたコバルトの凝集が著しく促進されてしまう可能性があり、コバルトの含有効果が発揮されない場合があるからである。
【0018】また、上記触媒へのコバルトの含有方法は、特に制限はないが、含浸法で上記触媒に担持させる方法が好適である。すなわち、コバルト化合物の水溶液を上記触媒に含浸させた後、乾燥、空気焼成を施すことにより、所望の触媒を得ることができる。
【0019】このときのコバルト化合物としては、酢酸塩、硝酸塩、塩化物、硫酸塩等が用いられるが、通常、空気焼成において比較的低温で分解することから、酢酸塩や硝酸塩が好適である。
【0020】また、このときの空気焼成の温度は、約300〜800℃、好ましくは約400〜600℃であり、焼成時間は、約1〜10時間、好ましくは約2〜4時間である。焼成温度が低すぎたり、焼成時間が短かすぎると、コバルト化合物の分解が十分に進行せず、コバルトの担持が不十分となる。逆に、焼成が高温度、長時間に及ぶと、コバルトの凝集やシンタリングが起き、触媒の活性が低下してしまう。
【0021】以上の触媒(コバルトを含有する触媒、含有しない触媒)は、本発明の方法において、その形状や構造は、何ら制限されるものではなく、粉末状、顆粒状、ペレット状、ハニカム構造物等、任意の形状と構造を有するものを用いることができる。例えば、ハニカム構造物に成形し、成形触媒とするときは、その成形に際しては、通常、酸化チタンのような無機酸化物の成形に用いられる粘結剤乃至バインダー、例えばシリカゾルやポリビニルアルコ−ル等を用いることができ、また必要に応じて、潤滑剤として、黒鉛、ワックス、脂肪酸塩、カ−ボンワックス等を用いることができる。
【0022】また、コバルトを含有させるに当たり、先にシリカにコバルトを所望量担持しておき、その後にイットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンから選ばれる金属種を担持したり、さらには、該金属種とコバルトとを同時に担持したり、該金属種とコバルトとを予め混合させておき、この混合物を担持しても良い。
【0023】本発明における触媒の担体であるシリカは、単体では、NOxの還元除去に対して殆ど活性を示さない。活性金属種であるイットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンの酸化物も、単体では、低いNOx還元除去活性しか有していない。これらの単体では活性が無いか低い担体と活性金属種を組み合わせる、すなわち、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンの活性金属種をシリカに担持することにより、NOx還元除去活性が飛躍的に向上する。
【0024】このような現象について詳細は明らかとはなっていないが、現在のところ、高表面積を有するシリカに担持することにより、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンの酸化物が、シリカの表面に高分散すること、あるいはシリカと複合化することにより、新たな活性点が生成していること等が考えられる。
【0025】高表面積を有する担体としては、シリカ以外にも、シリカ・アルミナ、チタニア、ジルコニア等があるが、上記のような作用をなす本発明における触媒担体としては、後述の実施例から明らかなようにシリカが最も好適である。
【0026】本発明の基本的な反応は、NOxとして一酸化窒素(NO)、炭化水素類としてプロピレンをそれぞれ例に採れば、例えば化1に示す反応式によるものと推測される。
【0027】
【化1】12NO+3O+2C→6N+6CO+6H
【0028】すなわち、NOをNにまで還元させるには、CがCO(場合によってはCO)とHOにまで酸化されることが必要であり、Cの酸化が進行しなければ、NOのNへの還元も進行しない。
【0029】本発明における触媒へのコバルトの含有効果は、Cの酸化を促進するものであると推察している。ただし、コバルトの含有量が多すぎると、気相中に多量に存在する酸素によるCの酸化が進みすぎ、Cが化1の反応に関与しなくなり、この結果としてNOのNへの還元率も低下する。したがって、NOxを高い割合で還元するには、NOxの還元剤であるC等の炭化水素類(以下、「還元剤」ということもある)がNOxにより選択的に酸化されることが必要となる。
【0030】本発明の方法において、処理対象となるNOx含有ガスとしては、ディーゼル自動車や定置式ディーゼル機関等のディーゼル排ガス、ガソリン自動車等のガソリン機関排ガスをはじめ、硝酸製造設備、各種燃焼設備等の排ガスを挙げることができる。
【0031】これら排ガス中のNOxの除去は、上記した本発明における触媒に、酸化性雰囲気中、炭化水素類の存在下で、排ガスを接触させることにより行う。
【0032】ここで、酸化性雰囲気とは、排ガス中に含まれる一酸化炭素、水素および炭化水素類と、本発明の方法において必要に応じて添加される炭化水素類とからなる還元剤を、完全に酸化して二酸化炭素と水に変換するのに必要な酸素量よりも過剰な酸素が含まれている雰囲気を言う。したがって、例えば、自動車等の内燃機関から排出される排ガスの場合には、空燃比が大きい状態(リーン領域)の雰囲気である。
【0033】そこで、本発明において、酸素が過剰に存在する酸化性雰囲気とは、過剰酸素率にて、好ましくは10〜300%程度、より好ましくは20〜200%程度の範囲である。この過剰酸素率は、数1の式で定義され、排ガスの成分組成と、これに加える還元剤の量とから、数1の式にて容易に求めることができる。
【0034】
【数1】〔(雰囲気中の酸素量−理論酸素量)/理論酸素量〕×100(%)
【0035】このような酸化性雰囲気においては、本発明で用いる前述した触媒は、炭化水素類と酸素との反応よりも、炭化水素類とNOxとの反応を優先的に促進させて、NOxを還元分解する。
【0036】なお、本発明の方法における上記した触媒は、酸化性雰囲気で良好に作用するが、還元性雰囲気ではNOxに対する還元除去活性が低下するので、酸化性雰囲気中にて反応を行わせるのが好ましい。
【0037】存在させる炭化水素類、すなわちNOxを還元除去する還元剤としては、排ガス中に残存する炭化水素や燃料等の不完全燃焼生成物であるパティキュレート等でもよいが、これらが上記反応を促進させるのに必要な量よりも不足している場合には、外部より炭化水素類を添加する必要がある。
【0038】存在させる炭化水素類の量は、特に制限されず、例えば、要求されるNOx除去率が低い場合には、NOxの還元除去に必要な理論量より少なくてよい場合がある。ただし、必要な理論量より過剰な方が還元反応がより良好に進むので、一般的には過剰に添加するのが好ましい。通常は、炭化水素類の量は、NOxの還元除去に必要な理論量の約20〜2000%過剰、好ましくは約30〜1500%過剰に存在させることが望ましい。
【0039】ここで、必要な炭化水素類の理論量とは、反応系内に酸素が存在するので、本発明においては、二酸化窒素(NO)を還元除去するのに必要な炭化水素類と定義するものであり、例えば、炭化水素としてプロピレンを用い、1000ppmの一酸化窒素(NO)を酸素存在下で還元分解する際のプロピレンの理論量は220ppmである。一般的には、排ガスのNOx量にもよるが、存在させる炭化水素類の量は、メタン換算で約50〜10000ppm程度である。
【0040】ここで、メタン換算とは、炭素数2以上の炭化水素について、その量(ppm)にその炭素数を乗じた値を言う。したがって、プロピレン250ppmは、メタン換算にて750ppmである。
【0041】本発明における上記の触媒によってNOxを還元させる還元剤としては、可燃性の有機化合物等の含炭素物質であればいかなる物質も有効であるが、実用性から、窒素、硫黄、ハロゲン等の化合物は、価格、二次的な有害物質の発生、あるいは触媒毒となり得る点等の問題が多く、また、カーボンブラック、石炭等の固体物質は、触媒層への供給、触媒との接触等の点から一般に好ましくなく、炭化水素類が好ましい。そして、触媒層への供給の点からは気体状または液体状のものが、また、反応の点からは反応温度で気化するものが好ましい。
【0042】本発明における炭化水素類の具体例としては、常温、常圧で気体状のものとしてメタン、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン等の炭化水素ガスが、液体状のものとしてペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、オクテン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の単一炭化水素や、ガソリン、灯油、軽油、重油等の鉱油系炭化水素が例示される。これらの炭化水素類は、一種のみを使用してもよいが、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】なお、排ガス中に存在する燃料等の未燃焼ないし不完全燃焼生成物、すなわち炭化水素類やパティキュレ−ト類等も還元剤として有効であり、これらも本発明方法における炭化水素類に含まれる。このことから、本発明方法における触媒は、排ガス中の炭化水素類やパティキュレ−ト等の減少・除去触媒としての機能をも有しているということができる。
【0044】本発明の方法における反応は、上記の触媒を配置した反応器内に、酸化性雰囲気中で、炭化水素類を存在させて、NOx含有排ガスを通過させることにより行う。このときの反応温度は、触媒および炭化水素類の種類により異なるが、排ガスの温度に近い温度が、排ガスの加熱設備等を必要としないので好ましく、一般には、約100〜800℃、好ましくは約300〜600℃の範囲が適している。
【0045】反応圧力は、特に制限されず、加圧下でも減圧下でも反応は進むが、通常の排気圧で排ガスを触媒層へ導入して、反応を進行させるのが便利である。空間速度は、触媒の種類、他の反応条件、必要なNOx除去率等で決まり、特に制限はないが、概して、約500〜200000hr−1、好ましくは約1000〜100000hr−1の範囲が適している。
【0046】なお、本発明の方法において、内燃機関からの排ガスを処理する場合は、上記触媒は、排気マニホ−ルドの下流に配置するのが好ましい。
【0047】また、本発明の方法で排ガスを処理した場合、処理条件によっては、未燃焼の炭化水素類や一酸化炭素のような公害の原因となる不完全燃焼生成物が処理ガス中に排出される場合がある。このような場合の対策として、上記の触媒(以下、「還元触媒」と記す)で処理したガスを酸化触媒に接触させる方法を採用することができる。
【0048】使用することができる酸化触媒としては、一般に上記の不完全燃焼生成物を完全燃焼させる触媒であればどのような触媒でもよいが、活性アルミナ、シリカ、ジルコニア等の担体に、白金、パラジウム、ルテニウム等の貴金属、ランタン、セリウム、銅、鉄、モリブデン等の卑金属酸化物、あるいは三酸化コバルトランタン、三酸化鉄ランタン、三酸化コバルトストロンチウム等のペロブスカイト型結晶構造物等の触媒成分を、単独または2種以上を組み合わせて担持させたものが挙げられる。これらの触媒成分の担持量は、貴金属では担体に対して約0.01〜5wt%程度であり、卑金属酸化物では約5〜70wt%程度である。勿論、特に卑金属酸化物等では、担体に担持しないで使用することもできる。
【0049】酸化触媒の形状、成形等の目的で添加する添加物については、還元触媒の場合のそれと同様であり、種々のものを使用することができる。
【0050】上記の還元触媒と酸化触媒の使用比率や、酸化触媒に担持させる触媒成分量等は、要求性能に応じて適宜選択可能である。また、特に酸化除去する物質が一酸化炭素のような炭化水素の中間生成物である場合には、還元触媒と酸化触媒とを混合して使用することも可能であるが、一般には、還元触媒を排気上流側に、酸化触媒を排気下流側に配置する。
【0051】上記の一般的な使用方法をより具体的に説明するならば、還元触媒を配置した反応器を排ガス導入部(前段)に、酸化触媒を配置した反応器を排ガス排出部(後段)に配置する方法や、一つの反応器に夫々の触媒を要求性能に応じた比率で配置する方法等がある。また、還元触媒(A)と酸化触媒(B)の比率は、一般には、(A)/(B)で表して約0.5〜9.5/9.5〜0.5の範囲で用いられる。
【0052】酸化触媒の使用温度は、還元触媒の使用温度と同じでなくてもよいが、一般には、前述の還元触媒の使用温度の範囲内で使用できるものを選択するのが、加熱冷却設備を特に必要とせず好ましい。
【0053】
【実施例】
実施例1〔触媒の調製〕:硝酸イットリウム(Y(NO・6HO)1.02gを蒸留水4.32gに溶解し、この水溶液にシリカ(富士シリシア化学社製商品名“キャリアクト10”)2.7gを浸漬させ2時間放置し、100℃で2時間乾燥後、空気中で530℃で3時間焼成して、イットリウム担持シリカ触媒を得た。このとき、触媒に対するイットリウムの担持量は、イットリウム酸化物(Y)換算で10wt%であった。
【0054】〔NOxの還元除去反応〕:上記により得られた本発明における触媒0.5gを、常圧流通式反応装置に充填し、約1000ppmの一酸化窒素(以下、「NO」と記す)、約10%の酸素および約1000ppmのプロピレンを含むヘリウムガスを毎分66ミリリットルの流速で流して反応を行った。
【0055】生成ガスの分析はガスクロマトグラフを用いて行い、NOの還元除去率は生成した窒素の収率から求め、結果を表1に示した。
【0056】実施例2硝酸イットリウムの代わりに硝酸マグネシウム(Mg(NO・6HO)を1.91g用いた以外は実施例1と同様にして、マグネシウム担持シリカ触媒を得た。このとき、触媒に対するマグネシウムの担持量は、マグネシウム酸化物(MgO)換算で10wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表1に示した。
【0057】実施例3硝酸イットリウムの代わりに硝酸亜鉛(Zn(NO・6HO)を1.10g用いた以外は実施例1と同様にして、亜鉛担持シリカ触媒を得た。このとき、触媒に対する亜鉛の担持量は、亜鉛酸化物(ZnO)換算で10wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表1に示した。
【0058】実施例4硝酸イットリウムの代わりに硝酸ランタン(La(NO・6HO)を0.80g用いた以外は実施例1と同様にして、ランタン担持シリカ触媒を得た。このとき、触媒に対するランタンの担持量は、ランタン酸化物(La)換算で10wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表1に示した。
【0059】比較例1添川理化学社製の酸化イットリウム(Y)を空気中で600℃で3時間焼成して、触媒を得た。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表2に示した。
【0060】比較例2半井化学薬品社製の酸化マグネシウム(MgO)を空気中で600℃で3時間焼成して、触媒を得た。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表2に示した。
【0061】比較例3添川理化学社製の酸化亜鉛(ZnO)を空気中で600℃で3時間焼成して、触媒を得た。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表2に示した。
【0062】比較例4添川理化学社製の酸化ランタン(La)を空気中で600℃で3時間焼成して、触媒を得た。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表2に示した。
【0063】比較例5実施例1で用いた富士シリシア化学社製のシリカ(SiO)を空気中で600℃で3時間焼成して、触媒を得た。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表2に示した。
【0064】実施例5実施例1と同じ硝酸イットリウム0.10gを蒸留水4.75gに溶解し、この水溶液に実施例1と同じシリカ2.97gを浸漬させた以外は実施例1と同様にして触媒を得た。このとき、触媒に対するイットリウムの担持量は、実施例1と同じイットリウム酸化物換算で1wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表3に示した。
【0065】実施例6実施例1と同じ硝酸イットリウム0.31gを蒸留水4.66gに溶解し、この水溶液に実施例1と同じシリカ2.91gを浸漬させた以外は実施例1と同様にして触媒を得た。このとき、触媒に対するイットリウムの担持量は、実施例1と同じイットリウム酸化物換算で3wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表3に示した。
【0066】実施例7実施例1と同じ硝酸イットリウム0.51gを蒸留水4.56gに溶解し、この水溶液に実施例1と同じシリカ2.85gを浸漬させた以外は実施例1と同様にして触媒を得た。このとき、触媒に対するイットリウムの担持量は、実施例1と同じイットリウム酸化物換算で5wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表3に示した。
【0067】実施例8実施例1と同じ硝酸イットリウム2.04gを蒸留水3.84gに溶解し、この水溶液に実施例1と同じシリカ2.40gを浸漬させた以外は実施例1と同様にして触媒を得た。このとき、触媒に対するイットリウムの担持量は、実施例1と同じイットリウム酸化物換算で20wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表3に示した。
【0068】実施例9実施例1と同じ硝酸イットリウム5.09gを蒸留水2.40gに溶解し、この水溶液に実施例1と同じシリカ1.50gを浸漬させた以外は実施例1と同様にして触媒を得た。このとき、触媒に対するイットリウムの担持量は、実施例1と同じイットリウム酸化物換算で50wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表3に示した。
【0069】比較例6実施例1と同じ硝酸イットリウム0.31gを蒸留水4.66gに溶解し、この水溶液に触媒化成社製のシリカ・アルミナ2.7gを浸漬させ2時間放置し、100℃で2時間乾燥後、空気中で530℃で3時間焼成して、イットリウム担持シリカ・アルミナ触媒を得た。このとき、触媒に対するイットリウムの担持量は、実施例1と同じイットリウム酸化物換算で3wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表4に示した。
【0070】実施例10酢酸コバルト((CHCOO)Co・4HO)0.001gを蒸留水4.79gに溶解し、この水溶液に実施例7で得られた触媒2.99gを浸漬させ2時間放置し、100℃で2時間乾燥後、空気中で530℃で3時間焼成して、コバルト添加イットリウム担持シリカ触媒を得た。このとき、イットリウム担持シリカ触媒に対するコバルトの担持量は、コバルト酸化物(CoO)換算で0.01wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表5に示した。
【0071】実施例11実施例10と同じ酢酸コバルト0.01gを蒸留水4.79gに溶解し、この水溶液に実施例7で得られた触媒2.99gを浸漬させた以外は実施例10と同様にして触媒を得た。このとき、イットリウム担持シリカ触媒に対するコバルトの担持量は、実施例10と同じコバルト酸化物換算で0.1wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表5に示した。
【0072】実施例12実施例10と同じ酢酸コバルト0.02gを蒸留水4.79gに溶解し、この水溶液に実施例7で得られた触媒2.99gを浸漬させた以外は実施例10と同様にして触媒を得た。このとき、イットリウム担持シリカ触媒に対するコバルトの担持量は、実施例10と同じコバルト酸化物換算で0.2wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表5に示した。
【0073】実施例13実施例10と同じ酢酸コバルト0.05gを蒸留水4.78gに溶解し、この水溶液に実施例7で得られた触媒2.99gを浸漬させた以外は実施例10と同様にして触媒を得た。このとき、イットリウム担持シリカ触媒に対するコバルトの担持量は、実施例10と同じコバルト酸化物換算で0.5wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表5に示した。
【0074】実施例14実施例10と同じ酢酸コバルト0.10gを蒸留水4.75gに溶解し、この水溶液に実施例7で得られた触媒2.97gを浸漬させた以外は実施例10と同様にして触媒を得た。このとき、イットリウム担持シリカ触媒に対するコバルトの担持量は、実施例10と同じコバルト酸化物換算で1.0wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表5に示した。
【0075】実施例15実施例10と同じ酢酸コバルト1gを蒸留水4.32gに溶解し、この水溶液に実施例7で得られた触媒2.7gを浸漬させた以外は実施例10と同様にして触媒を得た。このとき、イットリウム担持シリカ触媒に対するコバルトの担持量は、実施例10と同じコバルト酸化物換算で10wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表5に示した。
【0076】比較例7実施例10と同じ酢酸コバルト0.50gを蒸留水4.56gに溶解し、この水溶液に実施例1と同じシリカ2.85gを浸漬させた以外は実施例1と同様にしてコバルト担持シリカ触媒を得た。このとき、触媒に対するコバルトの担持量は、実施例10と同じコバルト酸化物換算で5wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表6に示した。
【0077】比較例8実施例10と同じ酢酸コバルト0.03gを蒸留水3.72gに溶解し、この水溶液に比較例1で得られた触媒1.99gを浸漬させた以外は実施例1と同様にしてコバルト担持酸化イットリウム触媒を得た。このとき、触媒に対するコバルトの担持量は、実施例10と同じコバルト酸化物換算で0.5wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表6に示した。
【0078】実施例16実施例4で得られた触媒を用いる以外は実施例10と同様にしてコバルト添加ランタン担持シリカ触媒を得た。このとき、ランタン担持シリカ触媒に対するコバルトの担持量は、実施例10と同じコバルト酸化物換算で0.2wt%であった。この触媒を用いる以外は実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、結果を表7に示した。
【0079】
【表1】


【0080】
【表2】


【0081】表2から明らかなように、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンの酸化物を単独で使用する場合、およびシリカ(担体)を単独で使用する場合は、炭化水素によるNO還元反応に対して低活性か、無活性であるが、表1から明らかなように、これら低活性の金属を無活性のシリカに担持した本発明における触媒では、NO還元反応に対する活性が大幅に向上することが分る。
【0082】
【表3】


【0083】
【表4】


【0084】シリカへのイットリウムの担持量を検討している表3から明らかなように、担持量が酸化物換算で1〜50wt%において、良好な触媒活性が得られることが分かる。また、表4から明らかなように、担体にシリカ・アルミナを用いた場合には、活性が低下してしまい、本発明における触媒は、担体にシリカを用いることで良好な活性を示すことが分る。
【0085】
【表5】


【0086】
【表6】


【0087】
【表7】


【0088】表5〜表7から明らかなように、コバルトをさらに担持した本発明における触媒は、より低温で高いNOx還元除去活性を示すことが分り、かつ、このような効果は、シリカ、担持活性金属、コバルトの3種が一緒になって現れる特異的なものであることが分る。
【0089】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、酸素が過剰に存在する酸化性雰囲気において、効率的に排ガス中の窒素酸化物を除去することができる。また、本発明によれば、コバルトの添加で、より低い温度でのNOx還元除去活性を向上させることができる。このように、本発明は、ディーゼル機関やリーンバーンガソリンエンジンをはじめ、種々の内燃機関や燃焼器より排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物を効率よく除去することができ、工業的価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 過剰の酸素が存在する酸化性雰囲気中、炭化水素類の存在下において、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、ランタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属をシリカに担持させた触媒と窒素酸化物を含む排ガスを接触させることを特徴とする窒素酸化物の接触還元除去方法。
【請求項2】 触媒がさらに、触媒基準、酸化物換算で0.01〜10重量%のコバルトを含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の窒素酸化物の接触還元除去方法。

【公開番号】特開平8−243355
【公開日】平成8年(1996)9月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−79571
【出願日】平成7年(1995)3月10日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 千賀志 (外2名)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 千賀志 (外1名)