説明

筆記具

【課題】 筆記部材保持部材と先部材とを一体に成形した従来技術にあっては、筆記部材保持部材内包部とチャック体摺動部の内周面が共に、凹凸のない円筒部により形成されており、筆記部材保持部材よりも肉厚部となっている。このため、成形の際に樹脂の流れが不安定になり、一体構造で成形する筆記部材保持部材にヒケが出来てしまい、不良が発生してしまう恐れがあった。そして、その結果、筆記部材保持部材が芯(筆記部材)を保持できず、機能しなくなってしまう恐れがあった。
【解決手段】 前方に先部材を有する軸筒の内部に、筆記部材が配置されている筆記具であって、前記先部材には、筆記部材保持部材が一体成形されてなると共に、その筆記部材保持部材を内包する複数の縦リブ部が形成されてなることを特徴とする筆記具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープペンシルやボールペンなどの、前方に先部材を有する軸筒の内部に筆記部材が配置されている筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前方に先部材を有する軸筒の内部に、芯の把持・開放を行うチャック体を含む芯繰り出し手段が配置され、前記軸筒の前方内部で芯を保持する筆記部材保持部材(芯保持部)と前記先部材とが一体に形成されているシャープペンシルが知られている。その構造の一例が、実開昭63−124184号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
前記特許文献1の図1や図3に記載の先部材(口金)においては、プラスチック製の先部材が開示されており、筆記部材保持部材(保持チャック)が先部材と一体の構造になっている。そして、前記筆記部材保持部材の周囲に形成された先部材の内孔部(筆記部材保持部材内包部)、及び、チャック体(芯把持チャック)が摺動する先部材の内孔部(チャック体摺動部)は、それぞれ、その内周面が凹凸のない円筒部により形成されており、筆記部材保持部材内包部及びチャック体摺動部共に、軸筒の軸線方向に沿ったストレート部になっている。また、前記先部材は、その外形形状が、先部材の先端から後端にかけて外径が大きくなるストレートのテーパーになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−124184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の従来技術にあっては、筆記部材保持部材と先部材とを一体に成形する必要がある。この筆記部材保持部材は、シャープペンシルの芯(筆記部材)を確実に保持させる為、設計の狙い通りに成形する必要があり、樹脂の流れが欠けてしまう、いわゆるヒケなどの不良が発生しては絶対にならない。一般的に、樹脂は、ゲート部からキャビティに流れ込むとスペースの広い部分つまり肉厚部に流れ込み、その後、スペースの狭い部分つまり肉薄部へと流れ込んでいく。その際、肉薄部は必然的に樹脂が最後に流れ込んでくるため、ヒケなどの不良が発生しやすい。
前記特許文献1に記載のシャープペンシルの先部材にあっては、前述したように、筆記部材保持部材の内包部とチャック体摺動部の内周面が共に、凹凸のない円筒部により形成されており、筆記部材保持部材よりも肉厚部となっている。このため、成形の際に樹脂の流れが不安定になり、一体構造で成形する筆記部材保持部材にヒケが出来てしまい、不良が発生してしまう恐れがあった。そして、その結果、筆記部材保持部材が芯(筆記部材)を保持できず、機能しなくなってしまう恐れがあった。
尚、先部材を、肉厚部と肉薄部の差を極力無くす形状とし、肉厚を略均一に構成する事が出来れば、ヒケなどの不良はそもそも発生する事はない。しかし、前記先部材の肉厚部は、例えばシャープペンシルにおいては、芯の繰り出し操作時にチャック体が前後動する位置と対応する先部材3の内周面部(チャック体摺動領域)に形成されている。このため、前記先部材の肉厚部は、芯の把持・開放を行うチャック体が摺動する時においてチャック体が拡開しすぎてしまい、チャック体の寿命を著しく損なわないようにするために構造上必要となる。また、例えばリフィルを内部に有するボールペンにおいては先部材内部にリフィルを軸筒の後方に付勢するスプリング(弾撥部材)を配置する事が多く、その際のスプリング支持部として構造上必要となる。以上の事から先部材から肉厚部を完全に無くすことは出来ない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、前方に先部材を有する軸筒の内部に、筆記部材が配置されている筆記具であって、前記先部材には、筆記部材保持部材が一体成形されてなると共に、その筆記部材保持部材を内包する複数の縦リブ部が形成されてなることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、前方に先部材を有する軸筒の内部に、筆記部材が配置されている筆記具であって、前記先部材には、筆記部材保持部材が一体成形されてなると共に、その筆記部材保持部材を内包する複数の縦リブ部が形成されてなるので、筆記部材保持部材が筆記部材を確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の製品全体の外観図である。
【図2】実施例1の製品全体の分解斜視図である。
【図3】図1の縦断面図である。
【図4】図3の先部材3付近の拡大図である。
【図5】先部材3の縦断面斜視図である。
【図6】図6の芯保持部材2付近の縦断面拡大図である。
【図7】図5と切断面を90度変えた先部材3の縦断面斜視図である。
【図8】図6の芯保持部材2付近の縦断面拡大図である。
【図9】チャック体11の最前進時における実施例1の製品全体の縦切断断面図である。
【図10】図9の先部材3付近の拡大図である。
【図11】図9のA−A線断面図である。
【図12】図9のB−B線断面図である。
【図13】縦リブ部38とチャック体11の頭部45との当接の仕方を変えた図11の変形例である。
【図14】縦リブ部38とチャック体11の頭部45との当接の仕方を変えた図12の変形例である。
【図15】芯保持部材2の芯保持部の第1変形例である。
【図16】芯保持部材2の芯保持部の第2変形例である。
【図17】芯保持部材2の芯保持部の第3変形例である。
【図18】芯保持部材2の芯保持部の第4変形例である。
【図19】芯保持部材2の芯保持部の第5変形例である。
【図20】芯保持部材2の芯保持部の第6変形例である。
【図21】先部材3の縦リブ部38の第1変形例に関する製品全体の縦断面図である。
【図22】図21のC−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
作用について説明する。前方に先部材を有する軸筒の内部に、筆記部材が配置されている筆記具であって、前記先部材には、筆記部材保持部材が一体成形されてなると共に、その筆記部材保持部材を内包する複数の縦リブ部が形成されてなることによって、肉厚部と肉薄部の差を極力抑えられ、肉薄部(筆記部材保持部材)への樹脂の流れが略均一になり、肉薄部への樹脂流れ不良(ヒケ)等を抑える事が出来る。そして、結果として、筆記部材保持部材が筆記部材を確実に保持することが出来る。
【0010】
本発明の実施例1を図1〜図10に示し、説明する。尚、以下では、後述の先部材3側を前方と言い、押圧部材22側を後方という。本実施例は、本発明をシャープペンシルに展開した例である。
尚、以下ではシャープペンシルについて説明するが、本発明はシャープペンシルだけでなく、ボールペンや芯ホルダータイプの筆記具などの、前方に先部材を有する軸筒内に筆記部材が配置されている種々の筆記具に適用することが出来る。ボールペンの場合には、筆記部材が、前方に筆記部(チップ)を有するリフィルに相当する。
【0011】
軸筒1は、内部に芯保持部材(筆記部材保持部材)2が一体に形成されている先部材3と、その先部材3の後端に着脱自在に螺着された前軸(第1の軸筒)4と、その前軸4の後端に螺着された後軸(第2の軸筒)5とから構成されており、それらによって構成される軸筒1の内部には芯繰り出し手段6が配置されている。尚、本実施例では、先部材及び前軸、後軸を別体としたが、それらを一体で形成しても良い。
前記前軸4は、前方に縮径部7が形成されており、この縮径部7の外周には、熱可塑性エラストマーやシリコーンゴムなどからなるグリップ8が配置されている。本実施例においては、グリップ8は、前軸4の前方に挿着されており、そのグリップ8の前方は、その一部が前記先部材3の後部を被覆する構成となっている。一方、前記後軸5は、その後方外周面にクリップ9が一体に設けられている。このクリップ9は、その全体が湾曲した形状となっており、その前方(軸筒1の前方)側には、玉部10が形成されている。
【0012】
次に、前記芯繰り出し手段6について詳述する。本実施例の芯繰り出し手段6においては、芯Lを把持、開放するためのチャック体11が軸筒1の前方に配置されており、そのチャック体11にはチャック体11の開閉を行うチャックリング12が囲繞した状態で挿着されている。そして、チャック体11の後方には芯Lを収容する芯タンク13が圧入固定されている。その芯タンク13の圧入固定部、すなわち、芯タンク13の前方は、縮径部14となっており、この縮径部14により、芯タンク13の外周面には段部15が形成されている。一方、前軸4の前方内周面にも、段部16が形成されている。前記芯タンク13の段部15と前記前軸4の段部16の間には、芯繰り出し手段6を軸筒1の後方へ付勢する弾撥部材(コイルスプリング)17が張設されている。
【0013】
続いて、シャープペンシルの後方部について詳述する。前記芯タンク13の後方内周面には、段部18が形成されている。この芯タンク13の後方には、消しゴム19が挿入されているが、この消しゴム19は、前記芯タンク13の段部18によって位置決めされ、没入が規制されている。
また、前記芯タンク13の後方外周面には、鍔部20と凹部21が形成されている。その凹部21は、鍔部20より後方に位置している。そして、前記芯タンク13の後方には、消しゴム18を覆うように、押圧部材22が嵌合されている。この押圧部材22の内周面には、前記芯タンク13の凹部21と係合する凸部23が形成されており、これにより、芯タンク13と押圧部材22が嵌合出来るようになっている。さらに、押圧部材22の後方には、熱可塑性エラストマーやシリコーンゴムなどからなる押圧部材カバー24が配置されており、また、押圧部材22の天面には、貫通孔25が形成されている。
【0014】
更に、前記芯保持部材2、及び、先部材3について詳述する。本実施例においては、先部材3をポリカーボネート(PC)樹脂で形成している。
前記先部材3の内部には、芯保持部材2が一体成形されており、その芯保持部材2は、対向する一対の弾性片26、27によって構成されている。この芯保持部材2は、相対向する一対の弾性片ではなく、複数の弾性片から構成してもよいが、射出成型時における金型構造の簡便性、成型後における弾性片の強度などを考慮すると、相対向する一対の弾性片とするのが好ましい。
図8に示すように、前記芯保持部材2の内側上方には、芯Lを中心に向かって導くための第1の円錐部(円錐孔)28が形成されている。円錐孔とはいっても、芯保持部材2は、相対向する一対の弾性片から構成されているため、各々の横断面形状は半円弧状になっている。また、前記第1の円錐部28の下方には、内部が使用する芯の直径よりも若干大径となっている第1のストレート部29が形成されており、その第1のストレート部29の下方には、連続して第2の円錐部30が形成されている。そして、その第2の円錐部30の下方には、芯Lの直径よりも若干小径で前記チャック体11の後退によっては後退しない保持力を有する第1の芯保持部31が形成されており、その芯保持部31の下方には、芯Lを確実に保持するため、前記第1の芯保持部31よりも小径の第2の芯保持部32が形成されている。尚、それら第1の芯保持部31と第2の芯保持部32とは、第3の円錐部33によって連続形成されている。前記第2の芯保持部32の下方には、前記第1の円錐部28とは逆に下方に向かい拡開する第4の円錐部34が形成されており、その第4の円錐部34の下方には、連続して第2のストレート部35が前記先部材3の下端部まで形成されている。以上の第1の円錐部28から第2のストレート部35の内孔部は、芯挿通孔36である。
尚、第1〜第4の円錐部は、いずれもその縦断面形状が、軸線に対して傾斜している直線状のテーパー部となっている。
【0015】
先部材3の内部に形成された段部について詳述する。図4は、図3における先部材3付近の縦断面拡大図である。
先部材3の内周面には、段部37が形成されている。この段部37は、先部材3の内周面に設けられ軸筒の軸線方向に長さを有する縦リブ部38の後端により形成されており、この縦リブ部38はその先部材3の周方向に等間隔に複数設けられている(図11、図12)。そして、この縦リブ部38の後端により形成される段部37に、前記チャックリング12の鍔部39が当接する。
尚、前記チャックリング12の鍔部39の、先部材3の段部37に対する当接割合は、任意に設定することが出来る。この当接割合は、チャックリング12を先部材3の段部37に対して確実に当接させることが出来ると共に、チャック体11の拡開を確実に行うことが出来るようになっていれば良い。
【0016】
前記先部材3の縦リブ部38と前記芯保持部材2の配置について、詳述する。
前記先部材3の縦リブ部38は、芯の繰り出し操作時にチャック体11が前後動する位置と対応する先部材3の内周面部(チャック体摺動領域40)に形成されている。そして、その縦リブ部38の長さは、少なくとも、押圧部材22が完全に押圧された際の最前進したチャック体11の先端の位置よりも前方から、押圧部材22に対する押圧が解除された際のチャック体11が最後退した位置と同等か更に後方までとなっている。即ち、本実施例においては、芯保持部材2と先部材3とが一体に形成されており、その先部材3の内部に形成された前記縦リブ部38は、前記芯保持部材2を内包する位置から、チャック体摺動領域40に至るまで形成されている。
このように、芯保持部材2を一体成形した先部材3の内部に、前記芯保持部材2を内包するように縦リブ部38が配置されているため、縦リブ部38と芯保持部材2との肉厚差が極力抑えられる。そして、先部材3の成形時における芯保持部材2への樹脂の流れが略均一になり、芯保持部材2への樹脂流れ不良(ヒケ)等が抑えられ、芯保持部材2の形状が確実に形成される。よって、芯保持部材(芯保持部)2が芯(筆記部材)Lを確実に保持することが出来る。
【0017】
前記縦リブ部38とチャック体11との関係について詳述する。
前記縦リブ部38の内接円径は、チャック体11が拡開した際の最大外径(負荷がかかっていない場合におけるチャック体11の拡開時最大外径)よりも小さく形成されている。また、この縦リブ部38の内面形状は、前記チャック体摺動領域40において、後方から前方に向かって前記縦リブ部38の内接円径が縮径する緩やかなテーパー部41となっている。
このような構成とすることにより、押圧部材22を押圧し、チャック体11が拡開し、芯Lを開放している状態において、前記チャック体11が前記縦リブ部38の内周面に接触し、チャック体11が軸芯に導かれながら前方へ摺動し、その後、後退する(図3、図4、図9〜図12)。
これにより、前記縦リブ部38とチャック体11の少ない接触面積でチャック体11の摺動を行う事ができ、チャック体11が、例えば凹凸がない曲面状の内径円筒部と全周で接触する構造よりも余分な摺動抵抗を抑える事が出来る。そして、その結果、芯の繰り出し荷重が軽くなり、芯の繰り出しを良好に行うことが出来る。また、同時に、本実施例では、後に詳述するように、チャック体11の頭部45の中央部から後方部における前記隙間Sを、使用する芯の直径(芯径)R以下となるように構成しているため、チャック体11の必要以上の拡開が規制され、芯Lが軸芯からずれてしまい、適切な位置でチャック体11が芯Lを把持出来なくなってしまうことによる、芯Lの繰り出し不良を防ぐことが出来る。更には、チャック体11の動きにより、芯Lが軸芯に導かれながら前進するため、確実に芯保持部材2の芯挿通孔36へと芯Lを導くことが出来る。
仮に、チャック体11が摺動する部分に対応する先部材3の内周面が、凹凸がない曲面状の内径円筒部であったとすると、その内径円筒部においては、肉厚(部品の樹脂厚)が厚くなるため、成形時に樹脂の流れが滞り、ヒケといった現象を引き起こす場合がある。先部材3の外径は、その前方部が後方部に比して縮径している形状であるため、その先部材3の肉厚は、後方に行くほど厚くなってしまい、そのために、先部材3の成形時に肉厚部にヒケが起きやすくなってしまう。そのヒケ部分をチャック体11が摺動する事で摺動時に引っかかりなどを引き起こし、芯の繰り出しが重くなることや、芯が出ないなどの不具合を起こす可能性がある。しかし、本実施例のように、チャック体11の摺動領域に対応する先部材3の内周面を縦リブ部38にする事で、ヒケの発生を抑え、チャック体11の摺動の際の不具合を抑える事が出来る。
尚、前記適切な位置とは、チャック体11の芯把持部42に芯Lが位置することである。そのチャック体11は、複数のチャック片43、44(本実施例においては、2つのチャック片)を有しており、チャック体11が拡開すると、チャック片43と別のチャック片44との間に隙間Sが形成される。この隙間Sは、チャック体11の頭部(前方部)45の前方ほど大きく、後方に行くに従って小さくなる。本実施例においては、チャック体11の頭部45の中央部から後方部における前記隙間Sを、使用する芯の直径(芯径)R以下とすることによって、チャック体11が前記芯把持部42において芯Lを把持出来るようにしている(図12)。
この他、チャック体11が最前進した位置から、芯保持部材2の後端までの距離は極力短い方が良く、望ましくは、チャック体11の最先端から芯保持部材2の最後端までの距離が2mm以下である方が良い。これは、チャック体11から出る芯Lが軸芯からずれて、芯保持部材2の軸芯とズレ、芯Lが出にくくなってしまうという事を確実に防ぐためであるが、デザイン上の問題などにより、その長さは適宜定めることが出来る。
【0018】
ここで、本実施例においては、前記先部材3の縦リブ部38を、その先部材3の周方向に等間隔に6本形成している。
前記縦リブ部38は、その本数に関係なく、周方向に等間隔に形成することにより、先部材3を前軸4に螺合した際のその螺合完了位置によらず、チャック体11は常に一定の拡開量を得る事が出来る。
また、前記縦リブ部38の本数は、偶数本としても、奇数本としても良いが、本実施例のような2つのチャック片44、45からなる二つ割りチャック体の場合、前記先部材3の縦リブ部38の本数を偶数本とすると、前記縦リブ部38によって規制された際のチャック体11の2つのチャック片44、45の拡開量が、どちらも同じになる。即ち、チャック体11の拡開時には、チャック体11の最大外径部(2つのチャック片44、45の前方部)が、前記縦リブ部38に当接するか、若しくは、前記縦リブ部38の間に入る構成となる。このため、チャック体11を構成する2つのチャック片44、45の閉鎖時からの拡開量がそれぞれ同じ量となる。そして、チャック体11は片開きする事がなく、片開きが頻繁に発生すると起こり得る芯噛み部の芯ズレによる芯出ず不良などの不具合を未然に防ぐ事が出来る。ここで、図11、図12は、前記チャック体11の最大外径部が、前記縦リブ部38に当接する場合の横断面図であり、図13、図14は、前記チャック体11の最大外径部が、前記縦リブ部38の間に入る場合の横断面図である。本実施例の場合は図11、図12の構成となっているが、これに限らず、図13、図14のように構成されていても良い。
尚、前記縦リブ部38は、任意の本数を設けることが出来るが、4本以上が望ましい。縦リブ部38の本数が少ないほど、チャック体11の拡開量は大きくなっていく。これは、チャック体11の最大外径部が縦リブ部38間に入り込む際の入り込み量が、縦リブ部38の本数が少ないほど大きくなっていくためである。4本以上が好ましいとする理由は、4本以上の場合には、チャック体11の拡開時に、チャック片44、45が確実に縦リブ部38に当接することとなり、結果、チャック体11の拡開量が安定するためである。
【0019】
先部材3の外形形状について詳述する。
本実施例においては、先部材3の外形形状が、その前方から後方にかけて外方に凸の湾曲した形状となっている(図3、図4など)。一般に、このような場合、先部材の外形形状が、その前方から後方にかけてストレートな場合と比較して、樹脂の厚みが増してしまい、樹脂の流れが均一になりにくい。しかしながら、前述のように、本実施例においては前記縦リブ部38を設けているため、湾曲した外形(湾曲部46)を有する先部材3であっても、芯保持部材2との肉厚差を抑えてヒケの発生を抑えることが出来る。そして、確実に芯保持部材2の形状を形成することができ、芯保持部材(芯保持部)2が芯Lを確実に保持することが出来る。
更に、本実施例においては、先部材3を透明材料から成しているが、このように先部材3を透明材料や半透明材料から形成する際に、先部材3の外形形状を湾曲にしていることで、芯カスなどの先部材3内部の汚れが目立ちにくくなる効果も有する。芯保持部材が一体に成形されているシャープペンシルの先部材の場合、芯保持部が先部材と同じ樹脂製であるため、シリコーンゴムなどのやわらかい素材の場合と比較して、芯の挿通により芯が削られ、芯カスが溜まってしまいやすい。ここで、仮に、先部材を透明又は半透明材料から形成すると共に、その外形形状を前方から後方にかけて大径となるストレートのテーパーから形成した場合、先部材に当たった光が先部材を直線的に映し出す為、汚れが見えやすく見栄えが悪い。しかしながら、本実施例のように、先部材3を透明材料や半透明材料から形成すると共に、その外形形状を湾曲にすることで、光が曲がって先部材3に入り、先部材3内が直線的に見える事はなく、芯カスなどの汚れが目立ちにくくなる効果がある。
【0020】
ここで、前記後軸5について詳述する。
前記後軸5には、前記前軸4の雌螺子部47と螺合する雄螺子部48が形成されているが、その雄螺子部48の前方から後方にかけて窓孔部49が形成されている。この窓孔部49があることにより、前記後軸5は、ボールペンの後軸と共通化することができる。ボールペンの場合には、前記窓孔部49に、押圧部材22の前方に形成された突起が嵌まり込む構成となっており、それによって、前記押圧部材22の抜け止めを行っているのである。
本実施例のシャープペンシルの場合には、この窓孔部49を利用してはいないが、窓孔部49があっても支障はなく、勿論、この窓孔部49がない後軸5を使用することも出来る。その場合には、万が一にも後軸5の雄螺子部48が撓んでしまうことがなく、また、後軸5と前軸4との螺着後に、後軸5が空転する恐れがなく、より確実に後軸5を前軸4に螺着することが出来る。
この他にも、前記窓孔部49を貫通孔ではなく、凹部としても良い。凹部とする場合には、前記窓孔部47の軸筒内方側全体に、薄膜を設けるようにして形成することが考えられる。このように凹部としても、窓孔部49がない後軸の場合と同様に、後軸5を前記前軸4に螺合した際、後軸5の前方部が内方に撓んでしまうことが万が一にもないため、より確実に後軸5を前軸4に螺着することが出来る。
【0021】
シャープペンシルを使用する際の動作について説明する。
前記押圧部材22を軸筒1の前方に向けて押圧すると、芯タンク13、その芯タンク13に圧入固定されているチャック体11が前方に押圧され、弾撥部材17の弾撥力に抗して前進する。このとき、チャック体11は、チャックリング12によって閉鎖せしめられているので、芯Lも前進させ、やがては、その芯の前端が前記第1の芯保持部32を弾性拡開させ、その第1の芯保持部32に保持される(図5参照)。そして、この時、チャックリング12が、先部材3の内周面に設けられた前記段部37に当接し、押し戻され、チャック体11が拡開するとともに、芯Lの把持が解除される。そして、チャック体11の拡開後も、その拡開が前記縦リブ部38に規制されながら、チャック体11の前進動作が行われる。
ここで押圧部材22の押圧操作を解除すると、チャック体11は、その拡開が前記縦リブ部38に規制されながら、前記弾撥部材17の弾撥力によって後退する。この後退動作の過程で、チャック体11はチャックリング12によって再び閉鎖せしめられるとともに、芯Lを再び把持し、その把持状態を保ちながら僅かに後退する。しかし、この芯Lを把持しながらの後退動作においては、芯Lが前記第1の芯保持部32に仮に保持されているので、芯Lがチャック体11の芯把持部42を滑り、芯Lそのものの後退が阻止される。
次いで、再び前記押圧部材22を押圧すると、前記チャック体11は再び芯Lを前進せしめ、第1の芯保持部32から第2の芯保持部33へと芯Lを移動させる。この時、芯Lは、第2の芯保持部33の直前まで到達しているので、強い把持状態において芯Lが前進せしめられるため、第2の芯保持部33へと移動させられる。
【0022】
尚、本実施例のシャープペンシルにおいては、前記先部材3の内部やチャック体11に芯Lが詰まってしまった場合には、前記先部材3を前軸4から取り外すことにより、芯Lを取り除くことができる。
ここで、チャック体11に芯Lが詰まった場合には、前軸4から後軸5を取り外し、チャック体11を含む芯繰り出し手段6を前軸1の後方から取り出すことによって、芯Lを取り除くことも考えられる。しかしながら、本実施例のシャープペンシルにおいては、それができないようになっている。チャック体11を囲繞するチャックリング12の外径が、前軸4の内部にある前方縮径部50の内径よりも大きく構成されているためである。このため、芯繰り出し手段6を前軸4の後方から取り出そうとしても、チャック体11及びチャックリング12の後方への移動が前軸4によって規制され、芯繰り出し手段6を取り出すことができない。芯繰り出し手段を軸筒から取り出すことが可能な構成のシャープペンシルでは、芯繰り出し手段を構成する各部材を固定し、ユニット化することにより、部材の紛失の危険性を減らしたり、再度の組立性をよくしたりしなければならないが、その場合には、部品点数が増加してしまう。しかしながら、本実施例のような構成とすることにより、部品点数を少なくすることが出来ると共に、芯繰り出し手段6が分解し、部材を紛失してしまうといった危険性を無くすことが出来る。
このように部材の紛失を防げるという良さがあるため、芯繰り出し手段6は前軸4から取り出せない構成としている。しかしながら、使用者がそれに気がつかず、万が一、芯繰り出し手段6を前軸4の後方から取り出そうと無理な力をかけてしまうと、芯の繰り出しに重要な部分である、チャック体11やチャックリング12などが損傷してしまう恐れがある。これを防ぐことができるように、後軸5を前軸4からも取り外せない構成としている。前述した芯タンク13の鍔部20の外径よりも、後軸5の一部の内径の小さくし、段部51を形成することにより、前軸4と後軸5の螺合を解除しても、後軸5の段部51が前記芯タンク13の鍔部20に当接し、引っかかることで、後軸2の後方への移動が規制され、取り外せないようになっているのである。この際、前軸4と後軸5の螺合が解除された後に、前記芯タンク13の鍔部20と後軸5の段部51とが当接するため、前軸4と後軸5のそれぞれの螺子部には負荷がかかることがない。よって、それら螺子部へのダメージを防ぐことができる。
この他、前軸4と後軸5を一体化することもできるが、その場合においても、また、本実施例のように構成した場合においても、ペアデザインのボールペンと後軸を共通化できるなどの良さがある。
【0023】
本実施例は以上のように構成したが、芯保持部材2の芯保持部の形状は、図8に記載の形状だけでなく、種々の構成とすることができる。その変形例を以下に示すが、何れの場合にも、芯保持部材の周囲に縦リブ部を配置する事で、成形時のヒケを抑える事が出来、芯保持部材が確実に筆記部材を保持することが出来る。
【0024】
図15は、芯保持部材2の芯保持部の形状の第1変形例である。本変形例では、芯保持部を1箇所形成している。実施例1と同様に、芯保持部材2の内側上方から、芯Lを中心に向かって導くための第1の円錐部(円錐孔)52を形成し、その第1の円錐部の下方には第1のストレート部53を形成している。そして、その第1のストレート部53の下方には、芯保持部54が形成されており、この第1のストレート部53と芯保持部54とは軸筒外側に凸の曲面により接続されている(曲面部55)。さらに、その芯保持部54の下方には、第2のストレート部56が形成されており、この芯保持部54と第2のストレート部56の間は、前記第1の円錐部52とは逆に下方に向かい拡開する第2の円錐部57が形成されている。そして、その第2の円錐部57の下方には、連続して第2のストレート部56が前記先部材3の下端部まで形成されている。本変形例の芯保持部材2の場合には、芯保持部54に芯Lが挿入される際、前記曲面部55により芯Lが徐々に芯保持部55へと導かれる為、芯Lの出易さがよりスムーズとなる。
【0025】
図16は、芯保持部材2の芯保持部の形状の第2変形例である。実施例1で示した芯保持部材2の第2の円錐部30と第3の円錐部33を軸芯側に凸の曲面により形成している。図16における第2の円錐部58と、第3の円錐部59である。このように構成することにより、第1の芯保持部31及び第2の芯保持部32に芯Lが挿入される際、直線状のテーパー部で第2の円錐部及び第3の円錐部を形成するよりも、芯Lとの芯保持部材2との接触抵抗を抑える事が出来る。また、同時に、先部材3を成形する際のアンダーカットの抜けを良くする事が出来る。
【0026】
図17は、芯保持部材2の芯保持部の形状の第3変形例である。実施例1と同様に、第1の円錐部60と、その第1の円錐部60の下方に形成された第1のストレート部61、また、その第1のストレート部61の下方に形成された第2の円錐部62が形成されている。そして、その第2の円錐部62の下方には、弾性片からなる芯保持部63が形成されており、この芯保持部(弾性片)63の外包部から下方は、第2のストレート部64が形成されている。このように芯保持部63を弾性片によって構成することにより、芯Lが挿入される際に前記芯保持部(弾性片)63が軸筒1の外方側に開くため、芯Lがスムーズに挿入されると共に、芯Lを保持する時はその芯保持部(弾性片)63の弾性力で芯Lを確実に保持する事が出来る。
【0027】
図18は、芯保持部材2の芯保持部の形状の第4変形例である。実施例1で示した芯保持部材2の第2の芯保持部32の変形例であり、本変形例では、第2の芯保持部65の内表面に、より正確には、前記第2の芯保持部65をまたぐように第3の円錐部66から第4の円錐部67にかけて、軸線方向に長さを有する溝部68を一定間隔で複数形成している。これにより、第2の芯保持部65に芯Lを通す際、前記溝部68が導線となってよりスムーズに芯Lを導く事が出来ると共に、筆記時に芯Lが回転しようとする動きに対して、チャック体11による固定のみならず、第2の芯保持部65でも回転防止効果が得られる。
【0028】
図19は、筆記部材保持部材2の芯保持部の形状の第5変形例である。前記第4変形例で示した溝部68の変形例であり、本変形例では、第2の芯保持部65の内表面に、より正確には、前記第2の芯保持部65をまたぐように第3の円錐部66から第4の円錐部67かけて、軸筒1の径方向に長さを有する溝部69を一定間隔で複数形成している。芯保持部の保持力は芯保持部材全体の弾性力で決まるが、本変形例では、前記溝部69によって芯Lの引き抜きに対する抵抗力をさらに大きくする事ができる。このため、より確実に芯保持部材2が芯Lを保持することが出来る。
【0029】
図20は、筆記部材保持部材2の芯保持部の形状の第6変形例である。本変形例も、前記第4変形例で示した溝部68の変形例であり、本変形例では、第2の芯保持部65の内表面に、より正確には、前記第2の芯保持部65をまたぐように第3の円錐部66から第4の円錐部67かけて、アヤメ状の溝部70を一定間隔で複数形成している。これにより、第2の芯保持部65による芯Lへの喰いつき力が向上し、芯Lの保持力をさらに高めることが出来、より確実に芯Lを保持することが出来る。
【0030】
以上の他、実施例1で示した縦リブ部38も種々の形状から形成することができる。この縦リブ部38の変形例を示す。その変形例を以下に示すが、何れの場合にも、芯保持部材の周囲に縦リブ部を配置する事で、成形時のヒケを抑える事が出来、芯保持部材が確実に筆記部材を保持することが出来る。
縦リブ部38の第1変形例としては、前記先部材3の縦リブ部38の表面を荒らしたものがある。チャック体11が接触する縦リブ部38の表面を粗くすることで、チャック体11との接触面積を少なくすることができる。この粗さは、微細なものや梨地程度のものが望ましい。このように縦リブ部38の表面を粗くした場合には、チャック体11と先部材3の摺動抵抗を抑えることができ、結果、芯の繰り出し荷重が軽くなり、芯の繰り出しを良好に行うことが出来る。
また、縦リブ部の第2変形例としては、前記先部材3の縦リブ部38の表面に、軸線方向に長さを有する溝部71を形成したものがある(図21、図22)。前記先部材3の縦リブ部38の表面に、チャック体11の摺動方向と平行に長手方向に長い溝部71を形成することで、チャック体11が摺動し易い様に導く事が出来、チャック体11の摺動抵抗を抑える事が出来る。そして、その結果、芯の繰り出し荷重が軽くなり、芯の繰り出しを良好に行うことが出来る。
【符号の説明】
【0031】
1 軸筒
2 芯保持部材(筆記部材保持部材)
3 先部材
4 前軸(第1の軸筒)
5 後軸(第2の軸筒)
6 芯繰り出し手段
7 縮径部
8 グリップ
9 クリップ
10 玉部
11 チャック体
12 チャックリング
13 芯タンク
14 縮径部
15 段部
16 段部
17 弾撥部材(コイルスプリング)
18 段部
19 消しゴム
20 鍔部
21 凹部
22 押圧部材
23 凸部
24 押圧部材カバー
25 貫通孔
26 弾性片
27 弾性片
28 第1の円錐部(円錐孔)
29 第1のストレート部
30 第2の円錐部
31 第1の芯保持部
32 第2の芯保持部
33 第3の円錐部
34 第4の円錐部
35 第2のストレート部
36 芯挿通孔
37 段部
38 縦リブ部
39 鍔部
40 チャック体摺動領域
41 テーパー部
42 芯把持部
43 チャック片
44 チャック片
45 頭部
46 湾曲部
47 雌螺子部
48 雄螺子部
49 窓孔部
50 前方縮径部
51 段部
52 第1の円錐部
53 第1のストレート部
54 芯保持部
55 曲面部
56 第2のストレート部
57 第2の円錐部
58 第2の円錐部
59 第3の円錐部
60 第1の円錐部
61 第1のストレート部
62 第2の円錐部
63 芯保持部(弾性片)
64 第2のストレート部
65 第2の芯保持部
66 第3の円錐部
67 第4の円錐部
68 溝部
69 溝部
70 溝部
71 溝部
L 芯
S 隙間
R 芯径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方に先部材を有する軸筒の内部に、筆記部材が配置されている筆記具であって、前記先部材には、筆記部材保持部材が一体成形されてなると共に、その筆記部材保持部材を内包する複数の縦リブ部が形成されてなることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記筆記部材がシャープペンシルの芯であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記縦リブ部は、その後方から前方にかけて、前方が縮径するテーパー部を有することを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記先部材を、透明材料又は半透明材料から形成すると共に、軸筒の外径方向に凸の湾曲部を有する外形形状としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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