説明

筋変性疾患の病態モデル動物およびその製法

【課題】筋変性疾患、特に筋ジストロフィーの病態モデル動物およびその製法、ならびに当該病態モデル動物を用いた筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】ジストロフィン遺伝子がノックダウンまたはノックアウトされており、造血器型プロスタグランジンD合成酵素(H−PGDS)が高発現している、筋変性疾患の病態モデル動物の製造方法。該筋変性疾患の病態モデル動物を用いた、筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋変性疾患、特に筋ジストロフィーの病態モデル動物およびその製法、ならびに当該病態モデル動物を用いた筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋障害あるいは筋壊死を伴う疾患群はミオパチーと呼ばれ、代表的な疾患として、筋ジストロフィー症、筋萎縮症等がある。筋ジストロフィーのうち最も患者数の多いデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、点突然変異により1つのコドンがタンパク質の合成終了を意味するストップコドンに変化し、ジストロフィンタンパク質が合成されない病気である。性染色体劣性遺伝で男子だけに発症する疾患であり、人口10万人あたり3〜5人、出生男児2000〜3000人あたり1人といわれている。通常、筋ジストロフィー患者は、3〜5歳頃に運動障害、すなわち、走れない、転びやすいなど歩行および起立に関する異常が発現し、10歳前後に歩行不能となる。その後、脊柱の変形または関節拘縮が急速に進行し、多くの患者で呼吸不全、時に心不全または肺炎が起きる。筋ジストロフィー症に対する良好な治療手段は未だなく、治療法の開発が望まれている。
【0003】
治療薬を開発する上では、ヒト病態を反映した筋ジストロフィーモデルが不可欠であり、ジストロフィン遺伝子を欠損したmdxマウスや薬剤誘発筋壊死モデル動物(ラット、マウス)を用いて薬剤の治療効果が調べられている。
【0004】
しかし、mdxマウスは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーと同様の遺伝子異常によって筋壊死病態を示すが、ヒト病態と異なり、筋肉の萎縮、呼吸不全および心不全といった重篤な症状を呈さない。さらに、健常成熟マウスの局所骨格筋でジストロフィン遺伝子をノックダウンして、ジストロフィンタンパク質の合成を阻害しても、顕著な筋壊死が誘導されないことが報告されている(非特許文献1)。また、薬剤誘発筋壊死モデル動物の筋壊死は一過性であり、長期の効果を評価することはできない。そのため、ヒトの病態を反映した齧歯類の筋ジストロフィーモデル動物の開発が望まれている。
【0005】
また、造血器型プロスタグランジンD合成酵素(以下、H−PGDSという)は、中枢ではマイクログリア、末梢では肥満細胞、Th2リンパ球、および皮膚のランゲルハンス細胞等で発現している。また、H−PGDSは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の壊死筋に発現すること、局所でPGDを産生し、筋ジストロフィー病態の調節に強くかかわっていることが報告されている(非特許文献2)。さらに、H−PGDSに特異的な阻害薬は、筋ジストロフィー病態の進行を著しく抑制することも報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hum Mol Genet. 17(17), 2622-32 (2008)
【非特許文献2】Acta Neuropathol. 104(4), 377-84 (2002)
【非特許文献3】Am J Pathol. 174(5), 1735-44 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑みて、ヒトの病態を反映した齧歯類の筋ジストロフィーモデル動物を開発するべく、鋭意研究を行ってきた。そして、骨格筋におけるジストロフィン遺伝子欠損(ノックダウンまたはノックアウト)によるジストロフィン蛋白質の合成阻害とH−PGDS遺伝子導入によるH−PGDSタンパク質の高発現の組み合わせによって筋壊死病態が著しく亢進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、下記に関するものである:
(1)ジストロフィン遺伝子がノックダウンまたはノックアウトされており、造血器型プロスタグランジンD合成酵素(H−PGDS)が高発現している筋変性疾患の病態モデル動物の製造方法であって、下記工程:
(a)ジストロフィン遺伝子をノックダウンまたはノックアウトする工程;および/または
(b)H−PGDSを高発現させる工程
を含む製造方法;
(2)(1)記載の方法により得られる筋変性疾患の病態モデル動物;
(3)下記工程:
(a)(2)記載の動物に試験薬剤を投与する工程;
(b)(a)で試験薬剤を投与した請求項2記載の動物における筋変性と、該薬剤を投与しなかった(2)記載の動物における筋変性とを比較する工程;および
(c)試験薬剤を投与した(2)記載の動物における筋変性が該薬剤を投与しなかった請求項2記載の動物における筋変性よりも抑制されている場合に、該試験薬剤を筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤として同定する工程
を含む、筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤のスクリーニング方法;
(4)筋変性疾患が筋ジストロフィーである(1)記載の方法、(2)記載の動物、または(3)記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の病態モデル動物と比べて、より詳細に筋ジストロフィーに対する治療薬または予防薬の効果を判定することができる。さらに、本発明によって、筋変性疾患における病態発症と病態進展に係る分子を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、AAV-shDmd4およびAAV-hHPGDSコンストラクトを筋肉内注射した9週間後の腓腹筋におけるGFPの発現を示す。
【図2】図2は、AAV-shDmd4 virus / salineコンストラクトを筋肉内注射した9週間後の腓腹筋におけるGFP の発現
【図3】図3は、AAV-shCTRL virus / AAV-hHPGDSコンストラクトを筋肉内注射した9週間後の腓腹筋におけるGFPの発現を示す。
【図4】図4は、AAV-shCTRLコンストラクトを筋肉内注射した9週間後の腓腹筋におけるGFPの発現を示す。
【図5】図5は、GFP遺伝子発現量の比較(8週間後)を示す。
【図6】図6は、ヒトH−PGDS遺伝子発現量の比較(8週間後)を示す。
【図7】図7は、ジストロフィン遺伝子発現量の比較(4週間後)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
すなわち、本発明は、第1の態様において、ジストロフィン遺伝子がノックダウンまたはノックアウトされており、H−PGDSが高発現している筋変性疾患の病態モデル動物の製造方法に関する。本発明の動物は、齧歯類であってもよく、例えば、マウス、ラット、モルモット、フェレット、ハムスター、ウサギなどを用いて製造すればよい。また、上記筋変性疾患としては、例えば、筋ジストロフィーが挙げられ、筋ジストロフィーには、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、または眼筋型筋ジストロフィーなどが含まれる。
【0012】
本発明において、ジストロフィン遺伝子の発現は、ノックダウンおよびノックアウトのいずれによって変更されてもよい。また、ジストロフィン遺伝子をノックダウンする場合、当該方法によって得ることができる動物において筋疾患変性疾患の病態が示されていればよく、ジストロフィン遺伝子の発現は、野生型の同種動物の発現レベルと比べて適宜低下していればよい。また、ジストロフィン遺伝子のノックダウンは、本発明の動物の全身、または骨格筋などの局所にて達成されていればよい。また、ジストロフィン遺伝子をノックダウンまたはノックアウトするためには、公知の方法を使用すればよく、例えば、遺伝子の効率的な送達が可能なアデノ随伴ウイルス(AAV)を使用してもよい。
【0013】
また、本発明において、H−PGDSの高発現は公知の方法によって達成されてもよく、例えば、導入する動物にて使用し得る高発現用プロモーターに作動可能に連結したH−PGDS遺伝子を、公知の方法で細胞に導入することによって達成される。H−PGDSの高発現は、当該方法によって得ることができる動物において筋疾患変性疾患の病態が示されていればよく、H−PGDSの発現は、野生型の同種動物の発現レベルと比べて適宜上昇していればよい。H−PGDSの高発現は、本発明の動物の全身、または骨格筋などの局所にて達成されていればよい。また、H−PGDS遺伝子の導入は、公知の方法、例えば、遺伝子の効率的な送達が可能なAAVを使用する導入系を使用すればよい。
【0014】
本発明の動物におけるジストロフィン遺伝子のノックダウンまたはノックアウト、およびH−PGDS遺伝子の高発現は、いずれか一方のみであってもよく、両方達成されていてもよい。さらに、本発明の動物において、ジストロフィンおよびH−PGDS以外にも特定の遺伝子の発現が、本発明の動物の全身または局所にて上昇または低下されていてもよい。
【0015】
なお、上記筋疾患変性疾患の病態としては、例えば、骨格筋における細胞の再生速度低下が挙げられ、細胞の再生速度低下は筋壊死の亢進に起因してもよい。本発明において、筋疾患変性疾患の病態の有無および重症度は、動物の外観から判定してもよいが、分子生物学的、組織学的または病理学的手段など当業者に公知の方法によって判定してもよい。
【0016】
また、本発明は、第2の態様において、第1の態様において製造された筋変性疾患の病態モデル動物に関する。
【0017】
さらに、本発明は、第3の態様において、上記筋変性疾患の病態モデル動物を用いた、筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤のスクリーニング方法に関する。本発明のスクリーニング方法は、例えば、(a)第1の態様において製造された動物に試験薬剤を投与する工程;(b)(a)で試験薬剤を投与した動物における筋変性と、第1の態様において製造され、該薬剤を投与しなかった動物における筋変性とを比較する工程;および(c)試験薬剤を投与した動物における筋変性が該薬剤を投与しなかった動物における筋変性よりも抑制されている場合に、該試験薬剤を筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤として同定する工程を含んでもよい。
【0018】
上記薬剤は、動物の状態、薬剤の種類、投与方法に応じて適宜投与されればよい。上記薬剤の投与経路は、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経鼻投与、経口投与などのいずれであってもよい。本発明において、試験薬剤の効果の確認は、動物の外観から判定してもよいが、分子生物学的、組織学的または病理学的手段など当業者に公知の方法によって判定してもよい。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、上記スクリーニング方法により得ることのできる、筋変性疾患を治療または予防する物質に関するものである。また、このような物質を、任意の担体または賦形剤と組み合わせて、筋変性疾患を治療または予防する目的で使用してもよい。
【0020】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、実施例はあくまで例示説明であって、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
AAV8−shCTRL−hrGFP、AAV8−shDmd−hrGFPおよびAAV8−HPGDSコンストラクトの構築および精製
pUCベースのプラスミドであるpAAV−hrGFP(ストラタジーン社製)のCMV(サイトメガロウイルス)プロモーターの上流にH1プロモーターを配置し、その転写制御下に、ジストロフィンのノックダウンを目的としたショートヘアピン配列であるshDmd、または陰性対照としてshCTRLをそれぞれ配置し、pAAV−shDmd−hrGFPおよびpAAV−shCTRL−hrGFPを構築した。また、pUCベースのプラスミドであるpAAV−MCS(ストラタジーン製)のCMVプロモーター制御下にヒトHPGDS遺伝子を配置することにより、pAAV−HPGDSを構築した。
【0022】
組換えAAVビリオンを、以下のように、AAV293細胞(ストラタジーン社製)にて産生した。このAAV293細胞を、完全DMEM(ナカライテスク社製)(4.5g/L グルコース、10% 非動化ウシ胎仔血清(FCS;GIBCO社製)、および2mM グルタミンを含む)中で培養した。サブコンフルエントなAAV293細胞を、リン酸カルシウム沈殿(例えば、J. Sambrook ET AL.,“Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition”, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと)により、AAVの発現カセットを有するpAAV−shCTRL−hrGFP、pAAV−shDmd−hrGFPまたはpAAV−H−PGDS、pAAV−2/8(AAV rep遺伝子およびcap遺伝子を含む)ならびにpHelper(E2a、E4、およびVA遺伝子を含む;ストラタジーン社製)の3種類のプラスミドを同時に形質移入した。6時間後、完全DMEM培地に交換し、さらに37℃、5% COにて72時間培養した。培養細胞を回収し、遠心分離した後で、ペレット化した細胞をTris緩衝液(50mM Tris/150mM NaCl、pH8.5)中で凍結/融解を4回繰り返した。そして、夾雑するゲノムDNAを分解するために、Benzonase(登録商標)を最終濃度50U/mlで添加し、37℃にて1時間反応させた。この溶解液を7,000gで20分間遠心分離して、上清を回収した。
【0023】
それぞれの上清を、Iodixanol(シグマアルドリッチ社製)を用いた密度勾配遠心分離に供し、40% Iodixanol画分を回収した。溶媒をIodixanolからPBSに交換するために、限外濾過膜(セントリコン100K、ミリポア社製)を用いて、複数回の遠心分離を実施した。得られたウイルス溶液はそれぞれAAV8−shCTRL−hrGFP、AAV8−shDmd−hrGFPおよびAAV8−H−PGDSコンストラクトを含む(表1を参照のこと)。
【0024】
【表1】

これらのウイルス溶液をProteinaseK処理し、定量リアルタイムPCR法に供し、ベクター力価を決定した。
【実施例2】
【0025】
各ベクターのインビボ投与による局所遺伝子ノックダウンおよび局所高発現
ウイルスベクターの効率的な送達により、ラット骨格筋に対するジストロフィン遺伝子のノックダウンおよびH−PGDS過剰発現の影響を調べた。
【0026】
Wistar系雄性ラット(4週齢、日本エスエルシーより入手した)について、吸入麻酔(イソフルラン(1.5%)の存在下で、実施例1にて調製した各AAVコンストラクトをラットの後肢腓腹筋肉内に注射した。検討したコンストラクトの組み合わせを以下に示す。
【0027】
【表2】

ジストロフィン遺伝子のノックダウンあるいはヒトH−PGDS過剰発現による表現型を調べるために、各コンストラクトをラットの腓腹筋に注射の2週間、4週間、6週間および8週間後にサンプリングを行った。サンプリング方法は、以下の通りである。
【0028】
ラットに過剰量のペントバルビタールを腹腔内投与(用量100 mg/kg)して安楽死させ、PBSで全身を灌流し、腓腹筋を摘出した。摘出組織を、直ちに−70℃程度まで冷却したイソペンタン中で凍結させた。凍結させた組織は、RNA抽出、ウエスタンブロッティング、および免疫組織化学染色の検討まで−80℃で凍結保存した。あるいは、過剰量のペントバルビタールを腹腔内投与(用量100 mg/kg)して安楽死させ、PBSで全身を灌流し、続いて中性緩衝化10%ホルマリン溶液(シグマアルドリッチ社製)で灌流固定後に組織を摘出し、20%スクロースで平衡化し、これを4℃で保存した。
【0029】
無固定凍結試料あるいはホルマリン固定後のサンプルを低温槽に配置し、5〜10ミクロン(μm)の切片を収集した。サンプルの一部に対して、ヘマトキシリン・エオジン染色、免疫組織化学染色、または緑色蛍光タンパク質(GFP)を指標とした蛍光染色を行った。
【0030】
PCRによる分析
生理食塩水を筋肉内注射したラットの組織を陰性対照として、腓腹筋組織中の遺伝子発現変動を定量PCR法で調べた結果、ジストロフィン遺伝子について、AAV投与(感染)の4週間後から有意な発現低下が検出された。一方で、ヒトH−PGD合成酵素遺伝子の発現は、AAV投与(感染)の2週間後から検出され、8週間後まで持続した。
【0031】
緑色蛍光タンパク質(GFP)を指標とした蛍光染色による分析
AAV感染の指標としたGFP遺伝子は、AAV投与(感染)の2週間後から検出され、8週間後まで持続した。
【0032】
免疫組織化学染色法による分析
5〜10μmの薄切片をPBSで洗浄し、0.3%Hで30分間処理して内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックした。PBSで再び洗浄し、続いてブロッキング溶液(PBS中10%ヤギ血清および0.01%Triton−X100)中、室温で1時間インキュベートした。次にサンプルを、抗ジストロフィン−マウスモノクローナル抗体(ノボカストラ社製)(1:100)、または抗ヒトH−PGDS−マウスモノクローナル抗体(1:50000)と4℃で1晩インキュベートした。PBS中で3回洗浄し、ビオチン化ヤギ抗マウスIgG(Vector)(1:200)と室温で1時間インキュベートし、再度PBSで洗浄した。抗体結合を、ストレプトアビジンホースラディッシュペルオキシダーゼ(1:300)を用いて可視化した。
【0033】
各コンストラクトを骨格筋に注射し、4週間後に免疫組織化学染色法により分析を行ったところ、グループ1、2および5では、腓腹筋細胞(筋繊維)でジストロフィンタンパク質が検出されなかったかあるいは減少していた。一方で、グループ3および4では、AAV処理を行わなかった未処置群(グループ6)と同様に、腓腹筋細胞(筋繊維)でジストロフィンタンパク質が検出された。また、グループ1、3および4で、腓腹筋細胞(筋繊維)でヒトH−PGDSタンパク質が検出された。しかし、グループ3および4では、AAV処理を行わなかった未処置群(グループ6)と同様に、腓腹筋細胞(筋繊維)でヒトH−PGDSタンパク質が検出されなかった。
【0034】
以上の結果から、AAVコンストラクトを注射(感染させた)後、遅くとも4週間後には、ジストロフィン遺伝子のノックダウンおよびヒト−H−PGDS遺伝子の過剰発現が達成され、その効果は8週間以上持続することを確認した。
【0035】
さらに、AAVコンストラクトを注射(感染させた)した9週間後の遺伝子発現をGFPタンパク質の蛍光強度を指標として組織学的に調べたところ、ジストロフィン遺伝子ノックダウンおよびヒト−H−PGDS遺伝子高発現を目的としたコンストラクトを注射したグループ(グループ1)のみが、GFPタンパク質の発現が強かった。一方、他のグループでは、GFPタンパク質の発現が低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、従来の病態モデル動物と比べて、より詳細に筋ジストロフィーなどの筋変性疾患に対する治療薬または予防薬の効果を判定することができ、より効率的な治療薬および予防薬の開発が可能になる。さらに、本発明によって、筋変性疾患における病態発症と病態進展に係る分子を判別することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0037】
SEQ ID NO:1;short hairpin sequence for dystrophin gene knockout

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジストロフィン遺伝子がノックダウンまたはノックアウトされており、造血器型プロスタグランジンD合成酵素(H−PGDS)が高発現している筋変性疾患の病態モデル動物の製造方法であって、下記工程:
(a)ジストロフィン遺伝子をノックダウンまたはノックアウトする工程;および/または
(b)H−PGDSを高発現させる工程
を含む製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により得られる筋変性疾患の病態モデル動物。
【請求項3】
下記工程:
(a)請求項2記載の動物に試験薬剤を投与する工程;
(b)(a)で試験薬剤を投与した請求項2記載の動物における筋変性と、該薬剤を投与しなかった請求項2記載の動物における筋変性とを比較する工程;および
(c)試験薬剤を投与した請求項2記載の動物における筋変性が該薬剤を投与しなかった請求項2記載の動物における筋変性よりも抑制されている場合に、該試験薬剤を筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤として同定する工程
を含む、筋変性疾患の治療剤およびまたは予防剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
筋変性疾患が筋ジストロフィーである請求項1記載の方法、請求項2記載の動物、または請求項3記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−19446(P2011−19446A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166960(P2009−166960)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(390000745)財団法人大阪バイオサイエンス研究所 (32)
【Fターム(参考)】