説明

籠漁業用餌料の製造方法

【課題】水産加工残渣に含まれるすべての非可食部位を有効利用することができるとともに、安定的に低コストで供給できる籠漁業用餌料の製造方法を提供する。
【解決手段】水産加工残渣は殻及び内臓を含む2種以上の非可食部位から構成される。これら2種以上の非可食部位の混合と乾燥と粉砕とを順不同で行うことにより残渣乾燥物を製造する。この残渣乾燥物を造粒可能な水分量に調整して成形することにより籠漁業用餌料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、籠漁業用餌料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
兵庫県の但馬地域では古くからカニ、イカ等の水産物が漁獲され、これらから剥き身、一夜干し等の多くの水産加工品が生産されている。それに伴い、水産加工工場等からは大量の水産加工残渣が排出されている。水産加工残渣には、種々の水産物の非可食部位である殻、内臓、鱗等が含まれているが、カニやエビの殻のように養殖用の餌料又は肥料の原料として利用されている非可食部位はわずかであり、イカの内臓等のように腐敗し易く、また成分的に養殖用の餌料として使用できない大部分の非可食部位は、処理業者に有償で引き取ってもらう必要があった。このようなことから、以前より水産加工業者から水産加工残渣のすべてを有効利用することができる処理方法開発の要望が高まっていた。
【0003】
一方、当該地域ではベニズワイガニ籠漁が盛んに行われており、その餌料として従来から冷凍のサバが使用されてきた。しかし、近年、サバの漁獲量が減少してきたため、サバの安定供給が難しくなっているとともにコストが上昇していることから、漁業者からサバに代わる餌料の開発が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、水産加工残渣に含まれるすべての非可食部位を有効利用することができるとともに、安定的に低コストで供給できる籠漁業用餌料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の籠漁業用餌料の製造方法は、殻及び内臓を含む2種以上の非可食部位から構成される水産加工残渣から籠漁業用餌料を製造する方法であって、
前記2種以上の非可食部位の混合と乾燥と粉砕とを順不同で行うことにより残渣乾燥物を製造し、この残渣乾燥物を造粒可能な水分量に調整して成形することにより前記籠漁業用餌料を得ることを特徴としている。
このような籠漁業用餌料の製造方法によれば、水産加工残渣のうち、腐敗し易く、また成分的に養殖用の餌料として今まで使用できなかった内臓等の非可食部位を籠漁業用餌料にすることができる。このため、水産加工残渣に含まれるすべての非可食部位を有効利用することができる。また、この方法で製造される餌料は、長期間保存することが可能であるため、一年中安定的に供給することが可能となる。さらに、廃棄されていた水産加工残渣を用いて製造されるので、コストを低く抑えることができる。
【0006】
上記製造方法において、前記残渣乾燥物の製造は、前記2種以上の非可食部位の混合を最初に行うことが好ましい。このようにすれば、非可食部位ごとに乾燥又は粉砕したものを混合するよりも手間がかからず、簡単に残渣乾燥物を製造することができる。
【0007】
上記製造方法において、前記殻と内臓とを重量比で1:5〜1:1の割合で混合することが好ましい。このような割合で混合することにより、残渣乾燥物を粉末状にすることができる。
【0008】
上記製造方法において、前記残渣乾燥物の含水率が5〜10重量%であることが好ましい。残渣乾燥物の含水率をこの範囲にすれば、常温で残渣乾燥物にカビが生じず腐敗することもないため、前記水産加工残渣を減容及び減量した状態で常温で長期間保存することができる。
【0009】
また、上記製造方法において、前記残渣乾燥物に、前記内臓を未処理の状態で加えることによってその水分量を調整することが好ましい。これによれば、再利用が難しかった非可食部位をさらに使用することができるとともに、誘引効果の強い餌料を製造することができる。
【0010】
さらに、前記残渣乾燥物の水分量を、含水率が17〜33重量%になるように調整することが好ましい。残渣乾燥物をこのような水分量に調整すれば、適当な大きさに造粒することが可能であり、また成形後の餌料を常温で長期間保存することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の籠漁業用餌料の製造方法によれば、水産加工残渣に含まれるすべての非可食部位を有効利用することができるとともに、籠漁業用餌料を安定的に低コストで供給できることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る籠漁業用餌料の製造方法の一実施形態について説明する。
この籠漁業用餌料の製造方法は、殻及び内臓を含む2種以上の非可食部位から構成される水産加工残渣から籠漁業用餌料を製造する方法であって、前記2種以上の非可食部位の混合と乾燥と粉砕とを順不同で行うことにより残渣乾燥物を製造し、この残渣乾燥物の水分量を調整して成形することにより前記籠漁業用餌料を得るものである。
まず、殻及び内臓を含む2種以上の非可食部位の混合と乾燥と粉砕とを順不同で行うことにより残渣乾燥物を製造する(第一工程)。残渣乾燥物を製造することにより、水産加工残渣に含まれる水分を除去して減容及び減量することができ、この状態で常温で保存することが可能になる。
【0013】
水産加工残渣は、水産物を加工して水産加工品を製造する段階で排出される水産物の非可食部位のことである。例えば、兵庫県但馬地域で排出される水産加工残渣としては、カニの茹で製品及び剥き身を製造するときに排出されるカニの甲殻及び歩脚、エビの剥き身を製造するときに排出されるエビの甲殻及び内臓等、イカの一夜干し及び茹で製品を製造するときに排出されるイカの内臓及び鰓、ソウハチの一夜干しを製造するときに排出されるソウハチの内臓、鱗及び鰓、ヒレグロの一夜干しを製造するときに排出されるヒレグロの内臓、鱗及び鰓、ハタハタの一夜干しを製造するときに排出されるハタハタの内臓及び鰓が挙げられるが、生物種及び部位はこれらに限定されるものではない。
本発明の製造方法で使用される水産加工残渣は、殻及び内臓を含む2種以上の非可食部位から構成される。殻としては、エビ、カニ等の甲殻類の甲殻、歩脚等が用いられ、内臓としては、スルメイカ、カレイ、ハタハタ等の内臓が用いられる。殻及び内臓以外の非可食部位として、魚の皮、骨等を含むことができる。
【0014】
第一工程では、2種以上の非可食部位の混合と乾燥と粉砕とは、どの順番で行ってもよいが、混合を最初に行うことが好ましい。この方が手間がかからず、簡単に残渣乾燥物を製造することができるからである。以下、先に混合を行い、後で乾燥及び粉砕を同時に行うやり方を説明する。
【0015】
ここでは、殻と内臓とを重量比で1:5〜1:1の割合で混合する。殻及び内臓は、それぞれ1種類の水産物のものを使用してもよいし、2種以上の水産物のものを混合してもよい。また、季節によって漁獲される水産物の種類が変わるのであれば、混合比を季節ごとに変更することも可能である。含水率、含油率及び含窒素率等が低い殻と含水率、含油率及び含窒素率等が高い内臓とを上記のような割合で混合することにより、乾燥及び粉砕後の残渣乾燥物を粉末状にすることができる。内臓の混合割合が多すぎると、乾燥及び粉砕後の残渣乾燥物が粉末状にならず、籠漁業用餌料として成形し難くなる。一方、内臓の混合割合が少なすぎると、粘りがなくなり、籠漁業用餌料として成形し難くなる。
【0016】
そして、殻と内臓とを上記割合で混合したものを、100℃以上に加熱した状態で約2〜3時間攪拌し、その後攪拌しながら放冷することで粉砕及び乾燥され、結果として粉末状の残渣乾燥物が得られる。この残渣乾燥物は、含水率が5〜10重量%である。含水率5〜10重量%であるので、常温で残渣乾燥物にカビが生じず腐敗することもないため、水分が多く腐敗し易かった水産加工残渣を減容及び減量した状態で常温で長期間保存することができる。残渣乾燥物の含水率が10重量%を超えると、常温でカビが生じ、保存するために冷蔵する必要がある。この場合、当該残渣乾燥物を保存するための費用が増すことになるとともに、保存スペースに限りのある冷蔵庫に保存しなければならないため、大量に残渣乾燥物を保存することが困難になる。また、当該残渣乾燥物の含水率が5重量%未満であると、乾燥させるために必要以上の多大な熱量を要するため、当該残渣乾燥物を製造するための費用が増すことになる。
【0017】
次に、第一工程で得られた残渣乾燥物を造粒可能な水分量に調整して成形する(第二工程)。この工程により、籠漁業用餌料が得られる。この第二工程は、第一工程の後すぐに行ってもよいし、保存していた残渣乾燥物を用いて行ってもよい。
残渣乾燥物の水分量の調整は、前記内臓を未処理の状態で加えることによって行う。内臓を生のまま加えることで、再利用が難しかった非可食部位(内臓)をさらに使用することができるとともに、誘引効果の強い餌料を製造することができ、この内臓の臭いにより籠漁の際にカニ等を効果的に誘引することができる。
【0018】
前記残渣乾燥物の水分量は、含水率が通常17〜33重量%になるように、好ましくは17〜23重量%になるように調整される。残渣乾燥物をこのような水分量に調整すれば、適当な大きさに造粒することが可能であり、また成形後の餌料を常温で長期間保存することができる。なお、当該残渣乾燥物の含水率が33重量%を超えると、軟らかすぎて造粒することができない。また、常温でカビが生じるため、保存するために冷蔵しなければならなくなる。一方、当該残渣乾燥物の含水率が17重量%未満であると、硬すぎて成形機に目詰まりが生じるため、成形することが困難になる。
【0019】
また、成形された籠漁業用餌料は、直径約2〜2.5cmの球状物であり、含水率が17〜33重量%となるように水分量が調整されているので、常温でカビが生じず、餌料の状態で長期間保存することができる。このため、従来の籠漁業用餌料であるサバの保存に要していた冷凍費用を削減できるとともに、保存スペースに限りのある冷凍庫を使用する必要がないため、常温で大量の籠漁業用餌料を保管することができる。また、上記籠漁業用餌料の製造方法によれば、廃棄されていた水産加工残渣を用いて餌料が製造されるので、従来の餌料であるサバの調達に要する費用に比べて籠漁業用餌料の調達費をより削減することができる。
【0020】
上記籠漁業用餌料の製造方法によれば、恒常的に大量に排出される水産加工残渣から製造されるため、安定に供給されない従来の餌料であるサバに比べ、籠漁業用餌料を漁業関係者に安定に供給することができる。上記製造方法で得られた餌料は、籠を海に沈めてカニ、エビ等を捕獲する籠漁業に用いられるが、好ましくはベニズワイガニ籠漁業の餌料として用いられる。
【0021】
なお、本発明の上記籠漁業用餌料の製造方法は、上記形態に限られず、この発明の範囲内において適宜変更可能である。上記実施形態においては、殻及び内臓の2種類の非可食部位が含まれる場合について説明したが、水産加工残渣には殻及び内臓以外の非可食部位が含まれていてもよい。殻及び内臓以外の非可食部位を含む場合、水分量等により、殻又は内臓のいずれかに振り分けて混合することができる。
第一工程において、非可食部位の混合を行った後に乾燥及び粉砕を同時に行った場合について説明したが、乾燥と粉砕とは同時に行う必要はなく、別々に行うこともできる。この場合、どちらを先に行ってもよい。また、先に非可食部位を部位ごとに乾燥及び粉砕し、その後に上記割合で混合しても残渣乾燥物を製造することができる。この場合も、乾燥と粉砕とを同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。別々に行う場合、どちらを先に行っても構わない。
また、第二工程における残渣乾燥物の水分量の調整は、水によって行ってもよい。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
ホッコクアカエビの剥き身殻と、スルメイカ、カレイ及びハタハタの内臓を重量比で1:2の割合で混合し、この混合物60kgを加熱攪拌乾燥機(株式会社オカドラ、タテ型蒸気乾燥機SD−500)を用いて100〜110℃で約2時間攪拌して乾燥及び粉砕を行った後、これらの含水率が約20重量%になるように、スルメイカ、カレイ及びハタハタの内臓を加えることで調整した後、(株)ニチモウ製の養魚用餌料成形機で成形したところ、直径2〜2.5cmのベニズワイガニ籠漁業用餌料が17kg製造された。
なお、当該ベニズワイガニ籠漁業用餌料の含水率は17.3重量%でであった。また、このとき当該ベニズワイガニ籠漁業用餌料に要した費用は、従来の籠漁業用餌料であるサバの調達費の1/2以下であった。
その後、当該ベニズワイガニ籠漁業用餌料をベニズワイガニ籠業に供した。この籠業は、鉄製のフレームで形成された円錐台形の籠内に餌料を吊るし、その餌料の誘引効果によりベニズワイガニを籠内に誘い入れ捕獲する方法をとる。そして、当該ベニズワイガニ籠漁業用餌料の誘引効果を検証するため、兵庫県香住町漁協の漁船を用いたベニズワイガニ籠漁で本発明の籠漁業用餌料の漁獲試験を行った。
なお、本発明の籠漁業用餌料は、直径2〜2.5cmの球状物であり、これを2cm未満の網目を有する網袋に入れて籠内に設置した。ベニズワイガニ籠業は通常、餌料を設置した3〜4日後に籠の引き上げを行うため、設置している3〜4日間は餌料の形態を保持することができるとともに、設置3〜4日後の籠の引き上げ時には、海中に崩れて形態が無くなるように考慮し、この直径の大きさにしている。なお、従来の籠漁業用餌料であるサバは、籠に設置した1〜2日後には、ベニズワイガニに捕食され、その形態を失っていることから、本発明の籠漁業用餌料は、従来の餌料に比べ長期間誘引効果を示すことがわかった。
この漁獲試験の結果、従来の籠漁業用餌料であるサバと同等量のベニズワイガニを捕獲することができた。よって、本発明に係る籠漁業用餌料の製造方法により製造された籠漁業用餌料は、従来の餌料であるサバと同等以上の誘引効果があることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殻及び内臓を含む2種以上の非可食部位から構成される水産加工残渣から籠漁業用餌料を製造する方法であって、
前記2種以上の非可食部位の混合と乾燥と粉砕とを順不同で行うことにより残渣乾燥物を製造し、この残渣乾燥物を造粒可能な水分量に調整して成形することにより前記籠漁業用餌料を得ることを特徴とする籠漁業用餌料の製造方法。
【請求項2】
前記残渣乾燥物の製造において、前記2種以上の非可食部位の混合を最初に行う請求項1に記載の籠漁業用餌料の製造方法。
【請求項3】
前記殻と内臓とを重量比で1:5〜1:1の割合で混合する請求項1又は2に記載の籠漁業用餌料の製造方法。
【請求項4】
前記残渣乾燥物の含水率が5〜10重量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の籠漁業用餌料の製造方法。
【請求項5】
前記残渣乾燥物に、前記内臓を未処理の状態で加えることによってその水分量を調整する請求項1〜4のいずれか一項に記載の籠漁業用餌料の製造方法。
【請求項6】
前記残渣乾燥物の水分量を、含水率が17〜33重量%になるように調整する請求項1〜5のいずれか一項に記載の籠漁業用餌料の製造方法。

【公開番号】特開2007−306843(P2007−306843A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138564(P2006−138564)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】