説明

粒子状物質捕集方法及びその装置

【課題】粒子状物質捕集部材の再生時における粒子状物質の大気放出をなくする粒子状物質捕集方法及びその装置を提供する。
【解決手段】エンジンから大気までの排気ガス配管2中に粒子状物質捕集部材(DPF3)を配置して排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集する方法において、DPF3を加熱して再生する際に、DPF3の下流から排気ガスを取り出してDPF3より上流に循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質捕集部材の再生時における粒子状物質の大気放出をなくする粒子状物質捕集方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関では、排気ガスに含まれる排出物が問題となる。排出物の中でも、粒子状物質(Particurate Matter,パティキュレート;以下、PMという)は、人体の呼吸器などに悪影響を及ぼすほか、発ガン性の可能性も指摘されている。PMは、粒径が10μm以下であることから、ナノ粒子とも呼ばれる。PMは、未燃燃料として大気に放出される。
【0003】
近年、環境問題が注目される中、PMの排出規制が行われようとしている。
【0004】
PM排出を抑制する技術として、従来より、ディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter;以下、DPFという)の技術が知られている。DPFは、主としてセラミックからなるハニカム細孔状のフィルタにPMを一時的に捕集する部材である。エンジンから大気までの排気ガス配管中に配置することで、排気ガス中のPMを捕集することができる。
【0005】
DPFに捕集したPMを、適時、燃料噴射などによって高温燃焼させて分解する。この動作をDPFの再生(又は強制再生)という。
【0006】
【特許文献1】特開2006−152841号公報
【特許文献2】特開平10−266826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、DPFの再生時に、PMが瞬間的に多量にDPFの下流に放出されることがある。これは、DPFの再生時にDPFが高温となり、この高温によって既に捕集されているPMがガス状になり、その未燃燃料ガスがハニカム細孔状のフィルタを容易に通過し、その下流で未燃燃料ガスが冷却されて再びPMとなるからである。
【0008】
このように、従来の粒子状物質捕集方法及びその装置には、DPFの再生時にPMが放出されてしまうという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、粒子状物質捕集部材の再生時における粒子状物質の大気放出をなくする粒子状物質捕集方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の粒子状物質捕集方法は、エンジンから大気までの排気ガス配管中に粒子状物質捕集部材を配置して排気ガス中の粒子状物質を捕集する方法において、上記粒子状物質捕集部材を加熱して再生する際に、上記粒子状物質捕集部材の下流から排気ガスを取り出して上記粒子状物質捕集部材より上流に循環させるものである。
【0011】
上記粒子状物質捕集部材の下流から取り出した排気ガスをブローバイガス配管に循環させてもよい。
【0012】
上記粒子状物質捕集部材の下流から取り出した排気ガスを上記粒子状物質捕集部材の上流に循環させてもよい。
【0013】
上記目的を達成するために本発明の粒子状物質捕集装置は、エンジンから大気までの排気ガス配管中に粒子状物質捕集部材を配置して排気ガス中の粒子状物質を捕集する装置において、上記粒子状物質捕集部材を加熱して再生する際に上記粒子状物質捕集部材よりも下流で上記排気ガス配管を閉じる排気弁と、該排気弁と上記粒子状物質捕集部材との間から排気ガスを取り出して上記粒子状物質捕集部材より上流に循環させる戻り配管とを備えたものである。
【0014】
上記戻り配管がブローバイガス配管に接続されてもよい。
【0015】
上記戻り配管が上記粒子状物質捕集部材よりも上流で上記排気ガス配管に接続されてもよい。
【0016】
上記粒子状物質捕集部材の再生がエンジンアイドル時に行われ、該再生開始時に排気ブレーキが起動され、該排気ブレーキの起動に同期して上記排気弁が閉じられることにより、上記粒子状物質捕集部材を通過した排気ガスが上記戻り配管に取り出されてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0018】
(1)粒子状物質捕集部材の再生時における粒子状物質の大気放出をなくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1に示されるように、本発明に係る粒子状物質捕集装置1は、エンジン(図示せず)から大気(図示しない排出口)までに至る排気ガス配管2中に粒子状物質捕集部材(本実施形態ではDPFを用いる)3を配置して排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集するものである。粒子状物質捕集装置1は、DPF再生時にDPF3よりも下流で排気ガス配管2を閉じる排気弁4と、排気弁4とDPF3との間から排気ガスを取り出してDPF3より上流に循環させる戻り配管5とを備える。
【0021】
本実施形態では、排気ガス配管2には、上流から順に、ディーゼル酸化触媒部材(Diesel Oxidation Catalyst;以下、DOCという)6、選択的触媒還元部材(Selective Catalytic Reduction;以下、SCRという)7、DPF3が配置される。
【0022】
排気弁4は、エンジンアイドル時のDPF再生時に、排気ブレーキの起動に同期して閉鎖され、排気ブレーキの停止に同期して開放されるようになっている。
【0023】
戻り配管5は、その一端が排気弁4とDPF3との間の排気ガス配管2に、循環弁8を介して接続される。戻り配管5の反対端はブローバイガス配管9に接続される。ブローバイガス配管9は、燃焼室から漏れた燃料ガスを吸気系に戻すものである。すなわち、本発明の粒子状物質捕集装置1では、排気弁4が閉じられ、循環弁8が開かれているとき、排気弁4とDPF3との間から排気ガスを取り出して戻り配管5、ブローバイガス配管9を介して吸気系に循環させることができる。
【0024】
戻り配管5とブローバイガス配管9の接続部には、戻り配管5からブローバイガス配管9への排気ガスの流れを遮断・開放する第一戻り弁10が配置される。DPF3の上流、本実施形態ではDOC6の上流において、排気ガス配管2に戻り配管5が第二戻り弁11を介して接続される。すなわち、本発明の粒子状物質捕集装置1では、第一戻り弁10と第二戻り弁11の遮断・開放により、ブローバイガス配管9とDOC6の上流に選択的に排気ガスを循環させることができる。
【0025】
粒子状物質捕集装置1の動作を説明する。
【0026】
まず、排気弁4が開放され、循環弁8が遮断され、第二戻り弁11が遮断された状態とする。エンジンから排気ガス配管2に排出された排気ガスは、DOC6、SCR7、DPF3、排気弁4を通過して大気へ排出される。
【0027】
本発明では、DPF再生がエンジンアイドル時に行われる。DPF再生において、エンジンへの燃料噴射、電気的な加熱などによってDPF3が昇温され、DPF3に捕集されているPMが高温燃焼により分解される。本発明では、そのDPF再生開始時に排気ブレーキが起動される。排気ブレーキの起動に伴い、排気弁4が遮断される。同時に、循環弁8が開放され、第二戻り弁11は遮断されたままであるが、第一戻り弁10が開放される。これにより、DPF3を通過した排気ガスが循環弁8を介して戻り配管5に取り出され、さらに第一戻り弁10を介してブローバイガス配管9に循環される。すなわち、戻り配管5には、ガス状、固形状を問わず、未燃の(又は未分解の)炭化水素(以下、未分解HCという)と黒煙分(又は微小スート;以下、Sootという)が流入することになる。DPF3に捕集されているPMがガス状になった未燃料ガス及び未燃燃料ガスが再凝固したPMは、これら未分解HC、Sootに含まれる。
【0028】
この結果、DPF3を通過した排気ガスは、DPF3より上流である吸気系に循環されるので、PMの大気放出をなくすることができる。
【0029】
排気ガスが循環弁8を介して戻り配管5に取り出されたことで、戻り配管5の内圧が上昇し、DOC6の上流における排気ガス配管2の内圧が上昇する。
【0030】
次に、DPF再生終了時に排気ブレーキが停止される。排気ブレーキの停止に伴い、排気弁4が開放される。これにより、DOC6の上流における排気ガス配管2の内圧が低下する。DOC6の上流における排気ガス配管2の内圧が低下するのに同期して、循環弁8と第一戻り弁10が遮断され、第二戻り弁11が開放される。なお、循環弁8と第一戻り弁10の遮断及び第二戻り弁11の開放は、DOC6の上流における排気ガス配管2の内圧の低下を圧力センサで検出するか又は排気ブレーキの停止と同時あるいは適宜な時間遅延を経て行うとよい。これにより、DPF3を通過した排気ガスは、排気弁4を通過して大気へ排出されるようになる。一方、戻り配管5内に溜まった排気ガスは、第二戻り弁11を介してDOC6の上流の排気ガス配管2へ排出される。
【0031】
この結果、戻り配管5に溜まった排気ガスは、DPF3より上流であるDOC6の上流の排気ガス配管2に循環されるので、PMの大気放出をなくすることができる。
【0032】
その後、適宜な時間に、第二戻り弁11が遮断されることにより、粒子状物質捕集装置1は最初に述べた状態に戻る。
【0033】
本発明の粒子状物質捕集装置1の効果を確かめるために、従来の粒子状物質捕集装置との性能比較を行った。その結果を図2により説明する。
【0034】
図2(a)に示されるように、従来の粒子状物質捕集装置では、排気ガスは、エンジン(ENG)から、DOC、DPFを経由して大気(OUT)に排出される。なお、ここではSCRは省略してある。このとき、DPF出口における未分解HCの濃度は50ppmであり、Sootの密度は1×106個/cm3であった。排気ガス配管の出口における未分解HCの濃度は50ppmであり、Sootの密度は1×106個/cm3であった。
【0035】
図2(b)に示されるように、本発明の粒子状物質捕集装置では、排気ガスは、ENGから、DOC、DPF、DOC、DPFを循環されて、最終的にOUTに排出される。なお、この図では、ブローバイガス配管への循環を省略してある。このとき、DPF再生開始時のDPF出口における未分解HCの濃度は50ppmであり、Sootの密度は1×106個/cm3であった。DPFから排出された排気ガスがDOCに循環されることにより、DOCにおいて未分解HCが分解され、DPFではPMが捕集されると共に燃焼された。DPFから取り出した排気ガス中のPMのうち、戻り配管に50%が残留したが、その後、排気ガスの循環が継続された。最終的に、排気ガス配管の出口における未分解HCの濃度は20.5ppmであり、Sootの密度は4.75×105個/cm3であった。
【0036】
この試験結果をさらに分析すると、まず、DPF3から排出される排気ガスの未分解HC濃度が50ppm、Soot密度が1×106個/cm3であるとする。従来はこの排気ガスが大気に排出される。本発明では、この排気ガスの5%がブローバイガス配管9へ循環され、95%が戻り配管5に残留するものとする。つまり、ブローバイガス配管9へ循環される排気ガスと戻り配管5に残留する排気ガスの体積比は、5:95である。未分解HC及びSootも同じ比率で循環・残留する。
【0037】
ブローバイガス配管9へ循環される未分解HC及びSootは、全てエンジンにおいて燃焼するものとする。戻り配管5に残留した未分解HCの濃度は47.5ppm、Sootの濃度は9.5×105個/cm3である。戻り配管5に残留した排気ガスの50%がDOC6に循環されるものとする。よって、DOC6に循環される未分解HCの濃度は23.8ppm、Sootの濃度は4.75×105個/cm3となる。
【0038】
DOC6においてHCが再分解され、これによってDOC6に戻ったFree−HCの10%が酸化されるものとする。よって、DOC6から排出された排気ガスでは、未分解HCの濃度は20.5ppm、Sootの濃度は4.75×105個/cm3となる。
【0039】
DOC6から排出された排気ガスがDPF3をそのまま通過したとしても、大気に排出される排気ガスは、未分解HCの濃度が20.5ppm、Sootの濃度が4.75×105個/cm3となる。
【0040】
よって、未分解HCの濃度に対する低減効果は、
(1−20.5/50)×100=50%
であり、Sootの濃度に対する低減効果は、
(1−475000/1000000)×100=52.5%
である。
【0041】
本発明の効果は、以下のようになる。
【0042】
1)アイドル再生時(エンジンアイドル時に行われるDPF再生のとき)に、一時的に排出過多となるEmission(Soot、HCなど;PMを含む)を低減させることができる。
【0043】
2)DPF再生時における分解、排出されたSoot、未分解HCが循環される。このとき、循環されたSoot、未分解HCがエンジンから出るSootに吸着されることにより、粒成長が促進され、粒径が大きくなることにより、DPF3における捕集効率が高まる。
【0044】
3)未分解HCをDOC6で再分解させることができる。
【0045】
4)戻り配管5にSootが堆積し、そのSootが粒成長の核となる。
【0046】
以上説明したように、本発明の粒子状物質捕集方法では、DPF3の下流から排気ガスを取り出してDPF3より上流に循環させるようにしたので、DPF再生時におけるPMの大気放出をなくすることができる。
【0047】
DPF3の下流から戻り配管5に排気ガスを回収する際に、ブローバイガス配管9の吸引力を利用することができる。また、このとき一部のSoot、未分解HCはブローバイガスと共にエンジンに戻され再燃焼される。
【0048】
本発明の粒子状物質捕集装置1は、DPF再生時にSoot排出量が多いエンジン・排気システムに適用すると効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態を示す粒子状物質捕集装置の構成図である。
【図2】(a)は従来の粒子状物質捕集装置における排気ガスの流れ図、(b)は本発明の粒子状物質捕集装置における排気ガスの流れ図である。
【符号の説明】
【0050】
1 粒子状物質捕集装置
2 排気ガス配管
3 粒子状物質捕集部材(DPF)
4 排気弁
5 戻り配管
6 ディーゼル酸化触媒部材(DOC)
7 選択的触媒還元部材(SCR)
8 循環弁
9 ブローバイガス配管
10 第一戻り弁
11 第二戻り弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから大気までの排気ガス配管中に粒子状物質捕集部材を配置して排気ガス中の粒子状物質を捕集する方法において、上記粒子状物質捕集部材を加熱して再生する際に、上記粒子状物質捕集部材の下流から排気ガスを取り出して上記粒子状物質捕集部材より上流に循環させることを特徴とする粒子状物質捕集方法。
【請求項2】
上記粒子状物質捕集部材の下流から取り出した排気ガスをブローバイガス配管に循環させることを特徴とする請求項1記載の粒子状物質捕集方法。
【請求項3】
上記粒子状物質捕集部材の下流から取り出した排気ガスを上記粒子状物質捕集部材の上流に循環させることを特徴とする請求項1又は2記載の粒子状物質捕集方法。
【請求項4】
エンジンから大気までの排気ガス配管中に粒子状物質捕集部材を配置して排気ガス中の粒子状物質を捕集する装置において、上記粒子状物質捕集部材を加熱して再生する際に上記粒子状物質捕集部材よりも下流で上記排気ガス配管を閉じる排気弁と、該排気弁と上記粒子状物質捕集部材との間から排気ガスを取り出して上記粒子状物質捕集部材より上流に循環させる戻り配管とを備えたことを特徴とする粒子状物質捕集装置。
【請求項5】
上記戻り配管がブローバイガス配管に接続されることを特徴とする請求項4記載の粒子状物質捕集装置。
【請求項6】
上記戻り配管が上記粒子状物質捕集部材よりも上流で上記排気ガス配管に接続されることを特徴とする請求項4又は5記載の粒子状物質捕集装置。
【請求項7】
上記粒子状物質捕集部材の再生がエンジンアイドル時に行われ、該再生開始時に排気ブレーキが起動され、該排気ブレーキの起動に同期して上記排気弁が閉じられることにより、上記粒子状物質捕集部材を通過した排気ガスが上記戻り配管に取り出されることを特徴とする請求項4〜6いずれか記載の粒子状物質捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−144575(P2010−144575A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321159(P2008−321159)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】