説明

粘着剤組成物、粘着シート及びプラズマディスプレイ

【課題】近赤外線遮蔽性が高く、ガラス等の部材に対して良好な接着性を示すだけでなく、耐久性に優れ、高温や高温高湿の環境下で長時間使用しても、凝集破壊や界面破壊することなく、被着体から容易に剥離することが可能な近赤外線吸収性粘着剤組成物及び近赤外線吸収性粘着シートを提供する。
【解決手段】本発明の粘着剤組成物は、樹脂と、エポキシ系架橋剤と、ジインモニウム塩系化合物とを含有し、エポキシ系架橋剤の含有量のジインモニウム塩系化合物の含有量に対する質量比が0.009を超え、0.061未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線を吸収する粘着剤組成物に関するものであり、詳細には、耐熱性及び耐湿熱性に優れた近赤外線吸収性粘着剤組成物、及び該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する近赤外線吸収性粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型テレビ等の種々の電子機器の表示パネルとして、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略記する場合がある。)の需要が増大している。PDPは、2枚のガラス板の間に封入したキセノンとネオンとを含む混合ガスに、高電圧がかけられることで紫外線が発生し、この紫外線がガラス板に塗布された蛍光体に当たることで発光する。しかしながら、この紫外線と同時に発生する波長800〜1000nmの領域を含む近赤外線は、マイクやリモコン等の赤外線を利用したワイヤレス機器の誤作動を引き起こす原因となる。そこで、PDPの前面に、近赤外線吸収シートを設けることで、近赤外線の透過率を低減させることが行われている。
【0003】
近赤外線吸収シートとしては、近赤外線吸収色素が練り込まれた樹脂シートや、透明基材シート上に近赤外線吸収色素を含有するバインダー樹脂が塗工されたシートが一般的に用いられている。しかしながら、これらの近赤外線吸収シートでは、PDPのガラス面等に貼付させるために粘着剤層を別途、形成する必要があり、生産効率を考慮すると好ましいとはいえない。このような生産効率の問題を解消する試みとして、近赤外線吸収色素を粘着剤層に含有させたものが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、例えば、代表的な近赤外線吸収色素であるジインモニウムを粘着剤層に含有させた近赤外線吸収シートは、長時間湿熱環境下にさらされると、近赤外線遮蔽機能が低下したり、ヘイズが上昇したりし、耐久性の点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−207142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、近赤外線遮蔽性が高く、色度、明度、ヘイズ等の光学特性に優れ、被着体であるガラス等の部材に対して良好な接着性を示すだけでなく、耐久性に優れる近赤外線吸収性粘着剤組成物及び近赤外線吸収性粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、樹脂と、エポキシ系架橋剤と、近赤外線吸収色素であるジインモニウム塩系化合物とを組み合わせ、エポキシ系架橋剤の割合を一定の範囲内にすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0007】
(1)本発明は、樹脂と、エポキシ系架橋剤と、ジインモニウム塩系化合物とを含有し、前記エポキシ系架橋剤の含有量の前記ジインモニウム塩系化合物の含有量に対する質量比が0.009を超え、0.061未満である粘着剤組成物である。
【0008】
(2)また、本発明は、前記質量比が0.04未満である、(1)に記載の粘着剤組成物である。
【0009】
(3)また、本発明は、(1)又は(2)に記載の粘着剤組成物からなる粘着剤層を少なくとも有する粘着シートである。
【0010】
(4)また、本発明は、(3)に記載の粘着シートがプラズマディスプレイパネルの画像表示ガラス板前面に配置されているプラズマディスプレイである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粘着剤組成物によれば、赤外線遮蔽性が高く、色度、明度、ヘイズ等の光学特性に優れ、被着体であるガラス等の部材に対して良好な接着性を示すだけでなく、耐久性に優れる粘着シートを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例及び比較例に係る粘着シートの300〜900nmにおける光透過率の測定結果である。
【図2】実施例1及び比較例1に係る粘着シートについて、高温多湿下に置く前と後とでの光透過率の測定結果を示す図である。
【図3】実施例1及び比較例1に係る粘着シートについて、高温多湿下に置く前と後とでの光透過率の差スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
[粘着剤組成物]
本発明の粘着剤組成物は、樹脂と、エポキシ系架橋剤と、近赤外線吸収色素であるジインモニウム塩系化合物とを含有し、上記エポキシ系架橋剤の含有量の上記ジインモニウム塩系化合物の含有量に対する比が0.009を超え、0.061未満であることを特徴とする。以下、これらの構成要素について、樹脂、ジインモニウム塩系化合物、エポキシ系架橋剤の順で説明する。
【0015】
<樹脂>
本発明の粘着剤組成物において、バインダーとなる樹脂は、透明性を有していれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース系樹脂、イミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、樹脂のガラス転移温度(Tg)が−60〜15℃の範囲内である、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂がより好ましい。これらの樹脂は、透明性、耐久性等に優れ、光学部材用途として好ましい特性を有するだけでなく、接着性(粘着性)が良好であり好ましい。ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0016】
バインダー樹脂としてアクリル系樹脂を含有する場合、アクリル系樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステルと他の単量体とを共重合させたアクリル酸エステル共重合体を好適に用いることができる。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル(BA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸2−ヒドロキシルエチル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、アクリル酸グリシジル等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本発明では、上記アクリル酸エステルの中でも、特に、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸2−ヒドロキシルエチルが透明性、耐久性、塗工適性の点から好ましい。
【0017】
他の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸ヒドロキシルエチル、メタクリル酸ヒドロキシルエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−tert−ブチルアミノエチル、メタクリル酸n−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本発明では、上記他の単量体の中でも、粘着剤に対し、酸価を好適に付与できる点で、アクリル酸が好ましい。
【0018】
アクリル酸エステルと他の単量体との共重合比(質量比)は、特に限定されないが、接着性の観点から、95/5〜5/95の範囲内であることが好ましい。なお、上記共重合比は、核磁気共鳴装置(NMR)により測定することができる。
【0019】
アクリル系樹脂がアクリル酸エステル共重合体の場合、該アクリル酸エステル共重合体の質量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、耐久性と接着性とを勘案し、適宜選択するとよい。一般に、耐久性を求める場合には、質量平均分子量の高い樹脂を選択し、接着性を求める場合には、質量平均分子量の低い樹脂を選択する。本発明の粘着剤組成物では、10万〜180万の範囲内であることが好ましく、20万〜150万の範囲内であることがより好ましい。なお、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際の、ポリスチレン換算の値である。
【0020】
<ジインモニウム塩系化合物(近赤外線吸収色素)>
ジインモニウム塩系化合物は、近赤外線吸収色素として用いられる。近赤外線吸収色素は、ジインモニウム塩系化合物に限らず、ポリメチン系化合物、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物等も挙げられるが、可視域の光透過率が高く、且つ、近赤外線の遮蔽域が広い点でジインモニウム塩系化合物が広く用いられている。
【0021】
本発明の粘着剤組成物では、ジインモニウム塩系化合物の中でも、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド−N,N,N’,N’,−テトラキス−{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジインモニウム等のビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド酸イオン(TFSI)を対イオンとする芳香族ジインモニウム塩化合物が好ましい。
【0022】
本発明の粘着剤組成物では、ジインモニウム塩系化合物の含有量は、後述する架橋剤との質量比が所定範囲内であれば、樹脂100質量部に対して、0.1〜20.0質量部であることが好ましく、0.1〜10.0質量部であることがより好ましい。上記範囲内であれば、十分な近赤外線吸収能を発揮することができ、また、十分な量の可視光を透過させることもできる。
【0023】
<エポキシ系架橋剤>
本発明の粘着剤組成物では、架橋剤としてエポキシ系架橋剤が用いられる。
【0024】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、多官能エポキシ系化合物を用いることができる。上記多官能エポキシ系化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0025】
本発明の粘着剤組成物では、エポキシ系架橋剤の含有量のジインモニウム塩系化合物の含有量に対する比が0.009を超え、0.061未満であることが好ましく、0.009を超え、0.04未満であることがより好ましい。0.009以下であると、樹脂の架橋が不十分であり、耐久性が低下する可能性がある点で好ましくない。一方、0.061を超えると、ジインモニウム塩系化合物とエポキシ系架橋剤とが反応してジインモニウム塩系化合物が別の化合物に変化することにより、十分な近赤外線吸収能が発揮されない可能性がある点で好ましくない。
【0026】
<その他の成分>
本発明の粘着剤組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、樹脂や近赤外線吸収色素を良好に溶解又は分散させるための各種分散剤を配合してもよい。また、粘着剤層を形成した場合に、該粘着剤層の経時劣化を防止するための安定剤や紫外線吸収剤を配合してもよい。また、ジイモニウム塩の耐久性付与のために合成スメクタイトやイオン液体、酸化防止剤、HALSを配合してもよい。更に、色補正色素、ネオン光吸収色素等を配合してもよく、これらの機能を有する物質を粘着剤組成物に配合することは、複数の機能層を別途、設ける必要がなくなり、シートの総厚み、製造工程数、原価を低減することができるので好ましい。
【0027】
[近赤外線吸収性粘着シート]
本発明の近赤外線吸収性粘着シート(以下、粘着シートとする。)は、上記した本発明の近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を少なくとも有することを特徴とする。本発明の粘着シートによれば、近赤外線吸収能を有する色素を粘着剤層中に配合しているので、従来の近赤外線吸収層を備える近赤外線吸収シートに比べて積層数が少なくなるため、生産効率が良好である。本発明の粘着シートは、例えば、基材/粘着剤層/剥離フィルムのように基材上に粘着剤層が形成されている構成であってもよいし、剥離フィルム/粘着剤層/剥離フィルムのように基材レス型の両面粘着テープの構成であってもよい。以下、基材、剥離フィルム、及び粘着シートについて順に説明する。
【0028】
<基材>
本発明の粘着シートが基材を備える場合には、該基材は、透明であることを要する。ここで、透明とは、必ずしも無色透明である必要はなく、着色された透明であってもよいが、光透過性は高いほどよい。好ましくは、全光線透過率が80%以上であり、より好ましくは、85%以上である。なお、光透過率は、市販の分光光度計、例えば、島津製作所社製のUV−3100PCを用いて測定することができる。
【0029】
基材は、上記のような光透過性、必要な強度、及び柔軟性を有していれば、特に限定されず、適宜選択することができる。一般的には、合成樹脂フィルムが用いられる。合成樹脂フィルムの材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、単層であってもよいし、2層以上の積層体であってもよい。機械的強度の観点から、1軸延伸や2軸延伸した延伸フィルムが好ましい。なお、本発明では、上記合成樹脂の中でも、透明性、耐熱性、耐湿熱性、寸法安定性、剛性、柔軟性、積層適性、価格等の観点から、ポリエステル系樹脂を用いることが特に好ましい。
【0030】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等が挙げられるが、この中でも、取り扱いが容易で、低価格であるという観点から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0031】
基材の厚みは、特に限定されず、用途に応じて、適宜選択することができる。通常、12〜250μm程度であるが、好ましくは25〜250μmである。上記範囲であれば、機械的強度が十分であり、反り、弛み、破断等を生じ難く、且つ、作業性が良好である。また、連続帯状で供給して加工することも可能である。なお、上記の厚さを超えると、過剰性能でコスト高になる場合がある。
【0032】
基材の形成方法は、特に限定されず、例えば、溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法等の従来公知の製膜方法を用いることができる。また、上記方法によりあらかじめフィルム状に製膜された市販の基材を使用してもよい。
【0033】
なお、基材には、粘着剤との濡れ性を向上させるために、その片面又は両面に、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、予熱処理、除塵埃処理、蒸着処理、アルカリ処理等の公知の易接着処理を施してもよい。
【0034】
<剥離フィルム>
本発明の粘着シートでは、上記近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層の一方又は両方の面に剥離フィルムを備えていてもよい。本発明の粘着シートでは、剥離フィルムは、剥離性を有する剥離部材からなり、粘着剤層の表面を保護する機能を有し、使用に際して剥離除去されるものである。剥離部材は、必要な強度や柔軟性を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルム又はそれらの発泡フィルムに、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを挙げることができる。なお、剥離フィルムの厚みは、特に限定されないが、好ましくは25〜100μmである。
【0035】
[粘着シートの製造方法]
上記した本発明の近赤外線吸収性粘着剤組成物を使用した粘着シートの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。ここでは、上記基材上に、上記近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層が形成されている構成の粘着シートである場合について説明する。まず、上記樹脂と、上記近赤外線吸収色素と、上記架橋剤と、必要に応じて各種添加剤とを混合し、必要に応じて有機溶剤で希釈することにより、粘着剤層形成用塗工液を調製する。そして、上記基材上に、上記塗工液をアプリケータ等により全面塗工し、粘着剤層を形成する。その後、乾燥し、溶媒を揮発させて、上記剥離フィルムをラミネートすることにより、本発明の粘着シートを形成することができる。
【0036】
希釈に使用する有機溶剤としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロパノール、メチルセロソロブ、テトラヒドロフラン等が挙げられる。上記基材上に、上記粘着剤層形成用塗工液を塗工する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。印刷による形成方法としては、例えば、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法等が挙げられる。コーティングによる方法としては、例えば、ロールコート、リバースコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコート等が挙げられる。
【0037】
粘着剤層の厚みは、特に限定されず、通常、5〜150μmであり、好ましくは10〜100μmである。上記範囲であれば、ガラス面に対して高い密着性を示す粘着シートを形成することができる。
【0038】
本発明の近赤外線吸収性粘着シートの厚みは、特に限定されるものではないが、42〜500μmであることが好ましく、55〜450μmであることがより好ましい。上記範囲であれば、適度な柔軟性を有するので、取り扱いが容易となる。
【0039】
本発明の近赤外線吸収性粘着シートは、例えば、光学用、農業用、建築用、車両用、画像記録用等のシートや窓材等として用いることができるが、特に、PDP用光学シートとして好適に用いることができる。一般に、光学シートとして用いるためには、耐熱性、耐湿熱性が高いことが好ましい。本発明の近赤外線吸収性粘着シートは、上記したように高温や高温高湿の環境下に長時間設置した場合であっても、十分な近赤外線吸収能が発揮されるため、光学シートとして好適である。また、本発明の近赤外線吸収性粘着シートは、PDPのガラス面に、粘着剤に起因する糊残りを生じさせることなく、容易に剥離することができるので、剥離後のPDP等の部材を廃棄することなく再利用が可能となる。そして、貼付対象を最終的に廃棄する場合には、近赤外線吸収性粘着シートを剥離することで、分別処理することも可能となる。
【0040】
本発明のプラズマディスプレイは、上記近赤外線吸収性粘着シートがPDPの画像表示ガラス板前面に配置されていることを特徴とする。上記近赤外線吸収性粘着シートをPDPの画像表示ガラス板前面に配置することで、ディスプレイから放射される近赤外線が遮蔽されるので、近赤外線を利用したリモコンやマイク等のワイヤレス機器の誤作動を防止することができる。そして、上記近赤外線吸収性粘着シートは、優れた耐熱性及び耐湿熱性を有するので、長期間配置してもディスプレイから発せられる色調や近赤外線遮蔽効果の低下が少ない。上記近赤外線吸収性粘着シートをPDPの画像表示ガラス板前面に配置する方法としては、特に限定されるものではなく、通常、圧着方式により貼付する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【表1】

【0042】
<アクリルポリマー樹脂(A)の調製>
n−ブチルアクリレート(n−B・A)70質量部と、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2−EHA)30質量部と、アクリル酸5質量部と、酢酸エチル100質量部と、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部とを反応容器に入れ、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した。
窒素ガス雰囲気下に攪拌しながら反応容器内の反応液を60℃に昇温し、この温度で6時間反応させた。
6時間経過後、反応液に酢酸エチル110質量部及びメチルエチルケトン(MEK)110質量部を加えて希釈し、アクリルポリマー樹脂(A)溶液を調製した。このアクリルポリマー樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は61.3万、固形分は25.2%であった(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した値)。
【0043】
<実施例1>
上記表1の配合に従い、上記アクリルポリマー樹脂(A)100質量部と、エポキシ系架橋剤(B)(商品名「TETRAD−C」,三菱ガス化学社製)0.0075質量部と、ジインモニウム塩系化合物(C)(商品名「CIR 1085F」,ジインモニウム塩系化合物からなる近赤外線吸収剤,日本カーリット社製)0.651質量部と、ネオンカット色素(商品名:PD320,固形分:100%,山本化成社製)0.053質量部と、紫外線吸収剤(商品名:TINUVIN 477,固形分:80%,BASF社製)2.07質量部と、樹脂着色用染料A(商品名:Kayaset Green A−B,固形分:100%,日本化薬社製)0.037質量部と、樹脂着色用染料B(商品名:Kayaset Red 130,固形分:100%,日本化薬社製)0.0078質量部と、50質量部の酢酸エチルとを加え、十分に混合して、実施例1の粘着剤組成物を得た。
【0044】
そして、この粘着剤組成物を、剥離フィルム(商品名:セラピール BX9(RX),膜厚:38μm、東レフィルム加工社製)の面上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケータを用いて全面塗工し、粘着剤層を形成した。オーブンにて100℃、3分の乾燥条件で希釈溶剤を揮発させた後、塗工面に剥離フィルム(商品名:セラピール MFA(RX),膜厚:38μm,東レフィルム加工社製)をラミネートした。次いで、40℃のオーブンにて3日間エージング処理し、実施例1の粘着シートを得た。
【0045】
<実施例2>
上記エポキシ系架橋剤の量を0.009質量部にしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例2の粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0046】
<実施例3>
上記エポキシ系架橋剤の量を0.01質量部にしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例3の粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0047】
<実施例4>
上記エポキシ系架橋剤の量を0.02質量部にしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例4の粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0048】
<比較例1>
上記エポキシ系架橋剤の量を0.0075質量部にしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例1の粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0049】
<比較例2>
上記エポキシ系架橋剤の量を0.08質量部にしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例2の粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0050】
<近赤外線遮蔽性の評価>
上記粘着シートの剥離フィルム(商品名:セラピール MFA(RX),膜厚:38μm,東レフィルム加工社製)を剥がし、基材(PETフィルム,商品名:コスモシャインA4100,膜厚:100μm,全光線透過率:92%,東洋紡社製)に貼り合わせた後、25mm×70mmに切断し、試験片とした。次いで、この試験片の剥離フィルム(商品名:セラピール BX9(RX),膜厚:38μm、東レフィルム加工社製)を剥がし、ガラス板(商品名:PD−200,厚さ:2.8mm,旭硝子社製)に2kgのローラーを用いて貼合し、300〜900nmにおける光透過率を測定した。測定は、分光光度計(製品名:UV−3100PC,島津製作所社製)を用い、JIS Z8701に準拠した方法にて行った。結果を図1に示す。
【0051】
図1に示すように、エポキシ系架橋剤の含有量のジインモニウム塩系化合物の含有量に対する比が0.061以下であれば、波長850nm〜1100nmの近赤外線の領域における光透過率が15%未満であり、十分な近赤外線吸収能が発揮されているのに対し(実施例1〜4)、0.061を超えると、波長850nm〜1100nmの近赤外線の領域における光透過率が25%以上であり、十分な近赤外線吸収能が発揮されないことが判明した(比較例2)。
【0052】
この原因を考察すると、エポキシ系架橋剤の含有量のジインモニウム塩系化合物の含有量に対する比が0.061以下であれば、ジインモニウム塩系化合物の吸収領域ではない波長400〜500nmの領域では55%以上の光透過率を有する一方(実施例1〜4)、0.061を超えると、ジインモニウム塩系化合物の吸収領域ではない波長400〜500nmの領域における光透過率は、50%未満である(比較例2)。このことから、エポキシ系架橋剤の含有量のジインモニウム塩系化合物の含有量に対する比が0.061を超えると、ジインモニウム塩系化合物とエポキシ系架橋剤とが反応してジインモニウム塩系化合物が別の化合物に変化していると考えられる。この結果、近赤外線領域においては十分な近赤外線吸収能が発揮されないと考えられる。
【0053】
なお、本実施例では、300〜900nmにおける光透過率しか測定していないが、一般に、近赤外線の領域において、波長1150nmまでは光透過率が安定し、波長1150nmから光透過率が上昇することは広く知られている。そのため、本実施例の結果だけでも波長850nm〜1100nmの近赤外線の領域における光透過率の結果に一般化できる。
【0054】
<耐久性の評価>
実施例1及び比較例1に係る粘着シートの剥離フィルム(商品名:セラピール MFA(RX),膜厚:38μm,東レフィルム加工社製)を剥がし、基材(PETフィルム,商品名:コスモシャインA4100,膜厚:100μm,全光線透過率:92%,東洋紡社製)に貼り合わせた後、25mm×70mmに切断し、試験片とした。次いで、この試験片の剥離フィルム(商品名:セラピール BX9(RX),膜厚:38μm、東レフィルム加工社製)を剥がし、ガラス板(商品名:PD−200,厚さ:2.8mm,旭硝子社製)に2kgのローラーを用いて貼合し、温度80℃、湿度90%の雰囲気下にて72時間放置した。
【0055】
そして、高温多湿下に置く前の粘着シート及び高温多湿下に置いた後の粘着シートの各々について、上記と同じ方法にて光透過率を測定した。結果を図2及び図3に示す。図2は、波長を横軸とし、光透過率を縦軸としたときの結果を示す図である。図3は、波長を横軸とし、高温多湿下に置く前後での光透過率の差を縦軸としたときの差スペクトルを示す図である。
【0056】
特に図3に示すように、エポキシ系架橋剤の含有量のジインモニウム塩系化合物の含有量に対する比が0.009を超えていると、高温多湿下に置く前後での光透過率の差は、4%未満であることが分かった(実施例1)。一方、エポキシ系架橋剤の含有量のジインモニウム塩系化合物の含有量に対する比が0.009以下であると、高温多湿下に置く前後での光透過率の差が概ね10%を超えてしまい、耐久性に乏しいことが確認された(比較例1)。これは、樹脂の架橋不足により、耐久性が低下することに起因する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、エポキシ系架橋剤と、ジインモニウム塩系化合物とを含有し、
前記エポキシ系架橋剤の含有量の前記ジインモニウム塩系化合物の含有量に対する質量比が0.009を超え、0.061未満である粘着剤組成物。
【請求項2】
前記質量比は、0.04未満である、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粘着剤組成物からなる粘着剤層を少なくとも有する粘着シート。
【請求項4】
請求項3に記載の粘着シートがプラズマディスプレイパネルの画像表示ガラス板前面に配置されているプラズマディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−67672(P2013−67672A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204977(P2011−204977)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】