糖尿病の治療剤
【課題】糖尿病治療に有用な新規治療的耐糖能増強療法を開発する手段を提供する。
【解決手段】本発明では次の手段を提供する:セマフォリン3Eの特異的受容体であるプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチド、該アミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、および前記いずれかのポリペプチドを含むポリペプチドから選ばれるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する作用を有するポリヌクレオチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤;前記いずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤;前記ポリペプチドまたは前記ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法、並びに耐糖能の増強方法;およびセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法。
【解決手段】本発明では次の手段を提供する:セマフォリン3Eの特異的受容体であるプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチド、該アミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、および前記いずれかのポリペプチドを含むポリペプチドから選ばれるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する作用を有するポリヌクレオチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤;前記いずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤;前記ポリペプチドまたは前記ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法、並びに耐糖能の増強方法;およびセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害することを特徴とする、糖尿病を治療する薬剤および方法、並びに耐糖能の増強剤および増強方法に関する。より具体的には本発明は、セマフォリン3Eの特異的受容体であるプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチド、該アミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、および前記いずれかのポリペプチドを含むポリペプチドから選ばれるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する作用を有するポリペプチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤に関する。また本発明は、前記いずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤に関する。また本発明は、前記ポリペプチドまたは前記ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法、並びに耐糖能の増強方法に関する。さらに本発明は、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セマフォリン(smaphorin)は胚発生過程で神経の進むべき方向性を決定する軸策ガイダンス(Axon guidance)因子として同定されてきた分子群である。軸策ガイダンスとは神経細胞から伸びた軸索を、神経結合を成立させる標的細胞付近まで適切に誘導することを意味する。セマフォリンは、神経軸索の伸張を抑制する反発因子として作用し、末梢神経系における正確な軸索ガイダンスに関与する。
【0003】
セマフォリン分子は、アミノ末端に約420アミノ酸残基からなるsemaドメインを保存領域として持つことを特徴とし、現在までに20種類以上が同定され、巨大なファミリーを作っている。分泌型、細胞膜貫通型、細胞膜結合型などがあり、構造類似性により8種類に分類されている。クラス3-7は脊椎動物で発見され、クラス3は分泌型、クラス7はGPI(Glycosylphosphatidylinositol)結合型であり、クラス4-6は膜貫通型のタンパク質である。
【0004】
セマフォリンの受容体としてニューロピリンとプレキシンの二種類が知られている。ニューロピリンおよびプレキシンもそれぞれ遺伝子ファミリーを形成する。ニューロピリンは、クラス3のセマフォリンに特異的に結合する。また、プレキシンはsemaドメインを持ち、膜貫通セマフォリンの機能的なレセプターとして、また、ニューロピリンと複合体を形成することによりクラス3セマフォリンのシグナルパートナーとして機能する。
【0005】
セマフォリン分子群およびそれらの受容体であるプレキシン分子群はまた、胚発生過程で血管の形態を調節し、そして血管の網状組織の発達に重要な役割を果たすことが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。しかしながら、これら分子が生体における糖代謝に関与するかは明らかにされていない。
【0006】
また、プレキシンD1によりコードされるタンパク質の膜外領域とイムノグロブリンG1(以下、「IgG1」と略称することがある)のFc部分との融合ポリペプチドが、新生仔マウス網膜血管発生を阻害することが報告されている(特許文献1)。
【0007】
セマフォリン3E(以下、「sema3E」と略称することがある)はクラス3セマフォリンの1つであるが、その特異的受容体はプレキシンD1であり、ニューロピリンとは結合せず、また、ニューロピリンを補助受容体として必要としないことが知られている(非特許文献3)。セマフォリン3Eは、直接プレキシンD1と相互作用して胚発生時の脈管発達のパターンの調節に重要な役割を示すことが報告されている(非特許文献4、非特許文献5)。しかしながら、生体における糖代謝へのセマフォリン3EやプレキシンD1の関与は明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/056791号パンフレット。
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Carmeliet,P. & Tessier-Lavigne, M. Common mechanisms of nerve and blood vesselwiring. Nature 436, 193-200 (2005).
【非特許文献2】Dickson,B.J. Molecular mechanisms of axon guidance. Science 298, 1959-64 (2002).
【非特許文献3】Gu, C. etal. Semaphorin 3E and plexin-D1 control vascular pattern independently ofneuropilins. Science 307, 265-8 (2005).
【非特許文献4】Gitler,A.D., Lu, M.M. & Epstein, J.A. PlexinD1 and semaphorin signaling arerequired in endothelial cells for cardiovascular development. Dev Cell 7,107-16 (2004).
【非特許文献5】Torres-Vazquez,J. et al. Semaphorin-plexin signaling guides patterning of the developingvasculature. Dev Cell 7, 117-23 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、糖尿病治療に有用な新規治療的耐糖能増強療法を開発する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行い、クラス3セマフォリンの1つであるsema3Eの発現が、高脂肪高ショ糖食負荷のインスリン抵抗性肥満マウスモデル(2型糖尿病モデルマウス)の骨格筋および脂肪組織において上昇していること、および、このsema3Eの発現の上昇が耐糖能障害に寄与していることを見出した。
【0012】
さらに本発明者らは、上昇したSema3Eの発現を、例えばplexinD1-Fc(プレキシンD1とイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチド)によって抑制することで、内臓脂肪の蓄積が減少し、インスリン抵抗性が改善することによって血糖値の上昇が抑制される、つまり耐糖能が改善することを突き止めた。これにより、Sema3Eが糖尿病の病態生理に関わっていること、およびそれを抑制することが新たな糖尿病治療の標的となり得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドを含む、糖尿病の治療剤に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0014】
また本発明は、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、糖尿病の治療剤に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0015】
さらに本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む、糖尿病の治療剤に関する。
【0016】
さらにまた本発明は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを含む、糖尿病の治療剤に関する。
【0017】
さらに本発明は、糖尿病が2型糖尿病である前記いずれかの治療剤に関する。
【0018】
さらにまた本発明は、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドを含む、耐糖能増強剤に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0019】
また本発明は、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、耐糖能増強剤に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0020】
さらに本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む、耐糖能増強剤に関する。
【0021】
さらにまた本発明は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを含む、耐糖能増強剤に関する。
【0022】
また本発明は、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0023】
さらに本発明は、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0024】
さらにまた本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法に関する。
【0025】
また本発明は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法に関する。
【0026】
さらにまた本発明は、糖尿病が2型糖尿病である前記いずれかの治療方法に関する。
【0027】
また本発明は、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0028】
さらに本発明は、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0029】
さらにまた本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法に関する。
【0030】
また本発明は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法に関する。
【0031】
さらに本発明は、糖尿病の治療剤または血管新生促進剤の製造における、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドの使用に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0032】
さらにまた本発明は、糖尿病の治療剤または耐糖能増強剤の製造における、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドの使用に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0033】
また本発明は、糖尿病の治療剤または耐糖能増強剤の製造における、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドの使用に関する。
【0034】
さらに本発明は、糖尿病の治療剤または血管新生促進剤の製造における、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドの使用に関する。
【0035】
さらにまた本発明は、下記(1)〜(3)の工程を含む、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法に関する:
(1)被検化合物をsema3Eおよび/またはプレキシンD1と接触させる工程、
(2)sema3EとプレキシンD1の結合を測定する工程、
(3)sema3EとプレキシンD1の結合を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【0036】
また本発明は、プレキシンD1が培養細胞に発現されているプレキシンD1である前記同定方法に関する。
【0037】
さらにまた本発明は、下記(1)〜(3)の工程を含む、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法に関する:
(1)被検化合物をsema3Eおよび/またはプレキシンD1を発現する細胞と接触させる工程、
(2)sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定する工程、
(3)sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害することを特徴とする、糖尿病を治療する薬剤および方法、並びに耐糖能の増強剤および増強方法を提供できる。具体的には、本発明により、sema3Eの特異的受容体であるプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチド、該アミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、および前記いずれかのポリペプチドを含むポリペプチドから選ばれるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する作用を有するポリペプチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤を提供できる。また本発明により、前記いずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤を提供できる。また本発明により、前記ポリペプチドまたは前記ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法、並びに耐糖能の増強方法を提供できる。
【0039】
本発明に係る糖尿病の治療剤および治療方法は、例えば2型糖尿病の治療に有用である。
【0040】
さらに本発明によれば、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法を提供することができる。
【0041】
本発明は、このように、医薬分野において優れた効果を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1A】実施例において、2型糖尿病モデルマウスであるAyマウスについて、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織でのSema3Eの発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた結果を示すグラフである。
【図1B】実施例において、高脂肪高ショ糖食を8週間与えた高脂肪高ショ糖食マウス(HFHSDマウス)について、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織でのSema3Eの発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた結果を示すグラフである。
【図2A】実施例において、2型糖尿病モデルマウスであるAyマウスについて、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織でのPlexinD1の発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた結果を示すグラフである。
【図2B】実施例において、高脂肪高ショ糖食を8週間与えた高脂肪高ショ糖食マウス(HFHSDマウス)について、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織でのPlexinD1の発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた結果を示すグラフである。
【図3】実施例において、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。
【図4A】実施例において、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して、HFHSD負荷前に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである(つまり、図3に示すのと同様の結果である)。
【図4B】実施例において、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して、HFHSD負荷4週後に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。
【図4C】実施例において、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して、HFHSD負荷8週後に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。
【図5A】実施例において、HFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、体重を比較した結果を示すグラフである。
【図5B】実施例において、HFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、内臓脂肪の量を比較した結果を示すグラフである。
【図5C】実施例において、HFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、血清インスリン値(IRI)を比較した結果を示すグラフである。
【図5D】実施例において、HFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、インスリン負荷による血糖値の低下を指標として、インスリン抵抗性を比較した結果を示すグラフである。
【図6】実施例において行った、野生型マウス(WT)にSema3Eを抑制するplexinD1-Fcの発現ベクタープラスミドを週1回、100μgを計8回(8週間)筋注し、その間に高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えて、糖負荷試験によって耐糖能をコントロールとの間で比較する実験の実験プロトコールである。
【図7A】図6に示す実験プロトコールに基づき行った糖負荷試験の、HFHSD投与前における結果を示すグラフである。
【図7B】図6に示す実験プロトコールに基づき行った糖負荷試験の、HFHSD投与4週後における結果を示すグラフである。
【図7C】図6に示す実験プロトコールに基づき行った糖負荷試験の、HFHSD投与8週後における結果を示すグラフである。
【図8A】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各マウス群の間で、体重を比較した結果を示すグラフである。
【図8B】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各マウス群の間で、血清plexinD1-Fc抗体価を比較した結果を示すグラフである。
【図8C】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各マウス群の間で、血清インスリン値(IRI)を比較した結果を示すグラフである。
【図8D】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各マウス群の間で、インスリン負荷による血糖値の低下を指標として、インスリン抵抗性を比較した結果を示すグラフである。
【図9A】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各群のマウスについて、腹部CT画像を撮影して得られた腹部CT画像を示す写真である。
【図9B】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各群のマウスについて、内臓脂肪の量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、クラス3セマフォリンの1つであるsema3Eの発現が、高脂肪高ショ糖食負荷のインスリン抵抗性肥満マウスモデル(2型糖尿病モデルマウス)の骨格筋および脂肪組織において上昇していること、および、このsema3Eの発現の上昇が耐糖能障害に寄与していることが見出され、さらに、上昇したSema3Eの発現を、plexinD1-Fc(プレキシンD1とイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチド)によって抑制することで、内臓脂肪の蓄積が減少し、インスリン抵抗性が改善することによって血糖値の上昇が抑制される、つまり耐糖能が改善することが見出されたことにより、達成されたものである。
【0044】
本発明において明らかにした上記知見によれば、sema3Eの耐糖能障害作用(糖代謝抑制作用)を阻害することにより、耐糖能を増強でき、ひいては糖尿病(例えば、2型糖尿病)の治療を可能にする。
【0045】
すなわち、本発明は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害することを特徴とする、糖尿病を治療する薬剤および方法に関する。
【0046】
また、本発明は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害することを特徴とする、耐糖能の増強剤および増強方法に関する。
【0047】
「耐糖能」は、血糖値を一定の幅の中にコントロールする、本来的にヒトなどの哺乳動物等の生体に備わっている能力をいう。
【0048】
「耐糖能障害作用」とは、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝を抑制する作用をいう。
【0049】
「耐糖能障害作用の阻害」とは、耐糖能障害作用を妨げることをいい、その結果、耐糖能を改善し、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝を改善(増強)することをいう。
【0050】
「sema3Eの耐糖能障害作用」とは、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝を抑制するsema3Eの作用をいう。
【0051】
「sema3Eの耐糖能障害作用の阻害」とは、sema3Eの耐糖能障害作用を妨げることをいい、その結果、耐糖能を改善(増強)することをいう。
【0052】
「耐糖能の増強」とは、耐糖能を増強させる前の状態と比較して、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝が改善(増強)されることをいう。耐糖能の増強は、例えば、インスリン負荷による血糖値の低下を指標としたインスリン抵抗性を評価することにより判定できる。本発明において耐糖能の増強とは、好ましくはsema3Eの耐糖能障害作用を妨げて、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝を改善(増強)させることをいう。
【0053】
sema3Eの耐糖能障害作用の阻害は、sema3Eとその受容体であるプレキシンD1の結合を阻害すること、sema3Eおよび/またはその受容体であるプレキシンD1の発現を阻害すること、または、sema3E若しくはプレキシンD1の機能を阻害することにより実施できる。言い換えれば、sema3Eの耐糖能障害作用の阻害は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物、例えば、sema3Eとその受容体であるプレキシンD1の結合を阻害する化合物、sema3Eおよび/またはその受容体であるプレキシンD1の発現を阻害する化合物、または、sema3E若しくはプレキシンD1の機能を阻害する化合物を用いて実施できる。
【0054】
すなわち、本発明に係る糖尿病の治療剤は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物のうちの少なくとも1を有効成分としてその有効量含むことを特徴とする。また、本発明に係る糖尿病の治療方法は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物のうちの少なくとも1を対象に投与することを特徴とする。
【0055】
「対象」とは、耐糖能を増強させることが好ましい生体を意味する。そのような生体として、糖尿病の患者を挙げることができる。
【0056】
本発明の薬剤および治療方法が対象とする「糖尿病」は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、肥満型糖尿病などの、本技術分野において糖尿病として認識されているすべての疾患・症状を包含するものである。また、本発明の薬剤は、別の観点から言えば、後述する耐糖能増強剤のほか、インスリン抵抗性改善剤、インスリン感受性増強剤、耐糖能不全[IGT(Impaired Glucose Tolerance)]の予防・治療剤、および耐糖能不全から糖尿病への移行抑制剤などとしても用いることができる。
【0057】
糖尿病の判定基準については、日本糖尿病学会から新たな判定基準が報告されている。この報告によれば、糖尿病とは、空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が126mg/dl以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)2時間値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が200mg/dl以上、随時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が200mg/dl以上のいずれかを示す状態である。また、上記糖尿病に該当せず、かつ、「空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が110mg/dl未満または75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)2時間値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が140mg/dl未満を示す状態」(正常型)でない状態を、「境界型」と呼ぶ。
【0058】
また、糖尿病の判定基準については、ADA(米国糖尿病学会)およびWHOから、新たな判定基準が報告されている。これらの報告によれば、糖尿病とは、空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が126mg/dl以上、あるいは、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が200mg/dl以上を示す状態である。また、ADAおよびWHOの上記報告によれば、耐糖能不全とは、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が140mg/dl以上200mg/dl未満を示す状態である。さらに、ADAの報告によれば、空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が100mg/dl以上126mg/dl未満の状態をIFG(Impaired Fasting Glucose)と呼ぶ。一方、WHOは、該IFG(Impaired Fasting Glucose)を空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が110mg/dl以上126mg/dl未満の状態とし、IFG(Impaired Fasting Glycaemia)と呼ぶ。
【0059】
本発明の薬剤および治療方法は、上記した新たな判定基準により決定される糖尿病、境界型、耐糖能不全、IFG(Impaired Fasting Glucose)およびIFG(Impaired Fasting Glycaemia)の予防・治療剤としても用いられる。さらに、本発明の薬剤および治療方法は、境界型、耐糖能不全、IFG(Impaired Fasting Glucose)またはIFG(Impaired Fasting Glycaemia)から糖尿病への進展を防止することもできる。
【0060】
本発明の薬剤および治療方法は、例えば、糖尿病性合併症[例、神経障害、腎症、網膜症、白内障、大血管障害、骨減少症、糖尿病性高浸透圧昏睡、感染症(例、呼吸器感染症、尿路感染症、消化器感染症、皮膚軟部組織感染症、下肢感染症)、糖尿病性壊疽、口腔乾燥症、聴覚の低下、脳血管障害、末梢血行障害]、肥満、骨粗鬆症、悪液質(例、癌性悪液質、結核性悪液質、糖尿病性悪液質、血液疾患性悪液質、内分泌疾患性悪液質、感染症性悪液質または後天性免疫不全症候群による悪液質)、脂肪肝、高血圧、多嚢胞性卵巣症候群、腎臓疾患(例、糖尿病性ネフロパシー、糸球体腎炎、糸球体硬化症、ネフローゼ症候群、高血圧性腎硬化症、末期腎臓疾患)、筋ジストロフィー、心筋梗塞、狭心症、脳血管障害(例、脳梗塞、脳卒中)、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、メタボリックシンドローム(高トリグリセライド(TG)血症、低HDLコレステロール(HDL-C)血症、高血圧、腹部肥満および耐糖能不全から選ばれる3つ以上を保有する病態)、高インスリン血症、高インスリン血症における知覚障害、腫瘍(例、白血病、乳癌、前立腺癌、皮膚癌)、過敏性腸症候群、急性または慢性下痢、炎症性疾患(例、動脈硬化症(例、アテローム性動脈硬化症)、慢性関節リウマチ、変形性脊椎炎、変形性関節炎、腰痛、痛風、手術外傷後の炎症、腫脹、神経痛、咽喉頭炎、膀胱炎、肝炎(非アルコール性脂肪性肝炎を含む)、肺炎、膵炎、炎症性大腸疾患、潰瘍性大腸炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD))、内臓肥満症候群、足潰瘍、セプシス、乾癬等の予防・治療剤としても用いることができる。
【0061】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、sema3Eの特異的受容体プレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドを例示できる。このようなポリペプチドは、sema3Eと結合して、sema3EとプレキシンD1との結合を阻害し、その結果、sema3Eの機能を阻害する。本発明において、単離された若しくは合成の蛋白質;単離された若しくは合成のポリペプチド;または単離された若しくは合成のオリゴペプチドを意味する総称的用語として「ポリペプチド」という用語を使用し、ここでポリペプチド若しくはオリゴペプチドは最小サイズが2アミノ酸である。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
【0062】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを例示できる。本ポリペプチドはマウスプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドである。後述する実施例に記載の結果に鑑みれば、本ポリペプチドとイムノグロブリンG1(IgG1)のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチド(以下、「プレキシンD1-Fc」と略称することがある)は、Sema3Eの耐糖能障害作用を抑制することにより、生体の組織におけるインスリン抵抗性を改善して、耐糖能異常を改善させることができるものと考えられる。なお、プレキシンD1-Fc融合ポリペプチドにおいてsema3Eと結合する部分はプレキシンD1の膜外領域であるため、プレキシンD1-Fc融合ポリペプチドのsema3E機能阻害作用はプレキシンD1膜外領域からなるポリペプチドの部分に担われていると考えることができる。したがって、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドは、それ自体、ヒトにおける耐糖能の改善にも効果を示すと考えることができる。
【0063】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドの他、該ポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドを例示できる。また、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、前記ポリペプチドを含むポリペプチドを例示できる。
【0064】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドとして、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。ヒトプレキシンD1は、マウスプレキシンD1と約90%以上の高い配列相同性を有する(特許文献1)。また、ヒトプレキシンD1はsema3Eと結合することが知られている。したがって、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、sema3Eと結合して、sema3EとヒトプレキシンD1との結合を阻害し、その結果、sema3Eの機能を阻害すると考えることができる。
【0065】
また、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドとして、該アミノ酸配列の一部分のアミノ配列からなるポリペプチドであって、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドを例示できる。かかるポリペプチドは、そのアミノ酸配列中にsema3Eとの結合ドメインを有していることが好ましい。かかるポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列に基づいて適宜設計して作成し、作成されたポリペプチドが、例えばインスリン負荷による血糖値の低下に対するsema3Eの抑制作用(インスリン抵抗性の向上作用)を阻害するか否かを測定し、該抑制作用を阻害するものを選択することにより取得することができる。
【0066】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、または該ポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチド含むポリペプチドとして、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、または該ポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドと、別のポリペプチド、例えばIgGのFc部分、好ましくはIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドなどとの融合ポリペプチドを例示できる。好ましくは、IgGのFc部分、より好ましくはIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドとの融合ポリペプチドを例示できる。より具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドとIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドとの融合ポリペプチドを例示できる。
【0067】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、また、sema3Eの特異的受容体プレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを例示できる。本ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド自体、またはベクターに組み込んで、対象の所望の組織で発現させることにより、sema3Eと結合して、sema3EとプレキシンD1との結合を阻害し、sema3Eの機能を阻害する。本発明において、単離された完全長DNAおよび/またはRNA;合成完全長DNAおよび/またはRNA;単離されたDNAオリゴヌクレオチド類および/またはRNAオリゴヌクレオチド類;あるいは合成DNAオリゴヌクレオチド類および/またはRNAオリゴヌクレオチド類を意味する総称的用語として「ポリヌクレオチド」という用語を使用し、ここでそのようなDNAおよび/またはRNAは最小サイズが2ヌクレオチドである。
【0068】
sema3Eの特異的受容体プレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを例示できる。該ポリヌクレオチドとして好ましくは配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを例示できる。本ポリヌクレオチドとIgG1のFc部分をコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドは、Sema3Eの耐糖能障害作用を抑制することにより、生体の組織におけるインスリン抵抗性を改善して、耐糖能異常を改善させた。前記融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドにおいて、sema3Eと結合する部分はプレキシンD1の膜外領域であるため、該ポリペプチドのsema3E機能阻害作用はプレキシンD1膜外領域からなるポリペプチドの部分に担われていると考えることができる。したがって、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをIgG1のFc部分をコードするポリヌクレオチドと融合させずに発現させることによっても、sema3Eによる耐糖能障害作用を阻害することができる。
【0069】
sema3Eの血管新生抑制作用を阻害する化合物として、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの他、該ポリヌクレオチドと相同性を有し、かつ、該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを例示できる。また、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、前記ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを例示できる。
【0070】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。ヒトプレキシンD1は、マウスプレキシンD1と約90%以上の高い配列相同性を有する。したがって、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒトプレキシンD1と結合して、sema3EとヒトプレキシンD1との結合を阻害し、その結果、sema3Eの機能を阻害すると考えることができる。すなわち、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド自体、またはベクターに組み込んで、対象の所望の組織で発現させることにより、sema3Eと結合して、sema3EとヒトプレキシンD1との結合を阻害し、sema3Eの機能を阻害すると考えることができる。
【0071】
また、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、該アミノ酸配列の一部分のアミノ配列からなるポリペプチドであって、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを例示できる。例えば、配列表の配列番号2に記載の塩基配列の一部分の塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。かかるポリヌクレオチドは、その塩基配列中にsema3EとプレキシンD1の結合ドメインをコードする塩基配列を有していることが好ましい。かかるポリヌクレオチドは、配列番号2に記載の塩基配列に基づいて適宜設計して作成し、該作成されたポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが、例えばインスリン負荷による血糖値の低下に対するsema3Eの抑制作用(インスリン抵抗性の向上作用)を阻害するか否かを測定し、該抑制作用を阻害するものを選択することにより取得することができる
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドとして、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリヌクレオチドと、別のポリヌクレオチド、例えばIgGのFc部分、好ましくはIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドなどとの融合ポリヌクレオチドを例示できる。好ましくは、IgGのFc部分、より好ましくはIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリペプチドを例示できる。より具体的には、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリペプチとの融合ポリヌクレオチドを例示できる。
【0072】
「配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能」とは、該ポリペプチドの細胞、組織、または生体に対する作用や効果と同じ作用や効果を奏することを意味し、その程度が該ポリペプチドの機能と比較して強くても弱くてもよい。
【0073】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能として、sema3Eと結合する機能、好ましくはsema3Eと結合してその作用を阻害する機能を挙げることができる。
【0074】
「配列相同性」とは、通常、塩基配列またはアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0075】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと配列相同性を有するポリペプチドとして、例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらにより好ましくは1個〜10個、またさらに好ましくは1個〜5個、またさらに好ましくは1個のアミノ酸の変異、例えば欠失、置換、付加または挿入といった変異を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドが例示できる。アミノ酸の変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するポリペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと実質的に同質の機能を有するものである限り特に制限されない。
【0076】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと配列相同性を有するポリヌクレオチドには、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの塩基配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、さらにより好ましくは1個〜5個、またさらに好ましくは1個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるポリヌクレオチドが含まれる。好ましくは、このようなポリヌクレオチドであって、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの生物学的機能と実質的に同質の機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが望ましい。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するポリヌクレオチドが配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと同様の構造的特徴を有し、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされるポリヌクレオチドと実質的に同質の生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。
【0077】
変異を有するポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」と略称する)などを単独でまたは適宜組合せて使用できる。例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(Ulmer, K.M. Science 219, 666-71 (1983))を利用することもできる。ポリペプチドの場合、変異の導入において、当該ポリペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0078】
ポリペプチドの製造は、遺伝子工学的手法、化学合成、および無細胞タンパク質合成により実施できる。ポリペプチドは、製造された後に、さらに精製して用いることができる。
【0079】
ポリペプチドの製造は、該ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列情報に基づいて一般的な遺伝子工学的手法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;Ulmer, K.M. Science 219, 666-71 (1983);エールリッヒ(Ehrlich, H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス)により実施できる。例えば、該ポリペプチドの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞から常法に従ってcDNAライブラリーをまず調製する。次いで、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイゼーションするプライマーを使用して、該cDNAライブラリーから所望のcDNAを取得することができる。得られたcDNAの発現誘導を公知の遺伝子工学的手法を利用して行うことにより、該ポリペプチドを取得できる。ポリペプチドの取得は、具体的には例えば、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを適当な宿主にトランスフェクションして取得した形質転換体を培養し、次いで得られた培養物から該蛋白質を回収することにより実施できる。形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で実施できる。培養は、形質転換体中または形質転換体外に産生されたポリペプチド自体あるいはその機能を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。ポリペプチドが形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して該蛋白質を抽出する。また、ポリペプチドが形質転換体外に分泌される場合には、培養液自体、または遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液が使用される。
【0080】
配列表の配列番号1に記載のポリペプチド、および該ポリペプチドとIgG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドの製造は、具体的には、特許文献1に記載の方法に準じて実施することができる。
【0081】
ポリペプチドの製造はまた、一般的な化学合成法により製造できる。ポリペプチドの化学合成方法として、例えば、固相合成方法や液相合成方法等が知られているがいずれも利用できる。かかる蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含する。上記蛋白質合成法において利用される縮合法も常法に従って実施できる。縮合法として、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、およびウッドワード法等を例示できる。
【0082】
ポリペプチドの精製および/または分離は、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により実施できる。分離操作方法として、硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーおよび透析法等の公知の方法を例示できる。これら方法は単独でまたは適宜組合せて使用できる。好ましくは、ポリペプチドのアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作製し、該抗体により特異的に吸着する方法、例えば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティークロマトグラフィーが推奨される。
【0083】
ポリヌクレオチドの取得は、ポリヌクレオチドの配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;Ulmer, K.M. Science 219, 666-71 (1983);エールリッヒ(Ehrlich, H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス)により容易に実施できる。
【0084】
ポリヌクレオチドの取得は、具体的には、ポリヌクレオチドの発現が確認されている適当な起源から、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該cDNAライブラリーから所望のクローンを選択することにより実施できる。cDNAの起源として、所望のポリヌクレオチドの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞を例示できる。これら起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施できる。cDNAライブラリーから所望のクローンを選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を利用できる。例えば、所望のポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイゼーションするプローブやプライマー等を使用して所望のクローンを選択できる。具体的には、所望のポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイゼーションするプローブを使用するプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等やこれらを組合せた方法等を例示できる。所望のポリヌクレオチドの取得には、PCRによるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35-)、特に5'−RACE法(Frohman, M.A. et al. Proceedings of The National Academy of Sciences of The United Statesof America 85, 23, 8998-9002 (1988))等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、ポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により得ることができる。増幅させたDNA/RNAの単離精製は、常法、例えばゲル電気泳動法等により実施できる。ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。代表的なベクターDNAとして、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを例示できる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド等を例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージを例示できる。ウイルス由来のベクターDNAとして、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを例示できる。ベクターDNAには、所望の遺伝子の機能が発揮されるように該遺伝子を組込むことが必要であり、少なくとも所望の遺伝子とプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列を組合せて自体公知の方法によりベクターDNAに組込むことができる。かかる遺伝子配列として、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー(ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等)等を例示できる。これらから選択した1種類または複数種類の遺伝子配列をベクターDNAに組込むことができる。ベクターDNAに所望の遺伝子を組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、所望の遺伝子を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼにより再結合する方法が利用できる。あるいは、所望の遺伝子に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組換えベクターが取得できる。宿主として、適当な原核生物および真核生物をいずれも使用できる。適当な原核生物として、大腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobiummeliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を例示できる。適当な真核生物として、酵母、昆虫細胞および哺乳動物細胞等の動物細胞を例示できる。酵母は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)を例示できる。昆虫細胞は、Sf9細胞やSf21細胞を例示できる。哺乳動物細胞は、サル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞等)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH2細胞、ヒトHeLa細胞、ヒトFL細胞およびヒト293細胞を例示できる。好ましくは哺乳動物細胞が使用される。より好ましくはヒト由来細胞が使用される。ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用され、例えば成書に記載されている標準的な方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)により実施できる。より好ましい方法として、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法を例示できるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballisticintroduction)および感染等の方法を例示できる。
【0085】
本発明に係る薬剤は、必要に応じて、耐糖能増強作用を有する化合物、例えばポリペプチドおよび/または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む医薬組成物として製造することができる。また、本治療方法は、耐糖能増強作用を有するポリペプチドおよび/または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに投与することを含むことができる。
【0086】
本発明に係る薬剤は、必要に応じて、医薬用に許容される担体(医薬用担体)を含む医薬組成物として製造できる。
【0087】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースを例示できる。これらは、本薬剤の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組み合わせて使用される。その他、安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤等を適宜使用することもできる。安定化剤は、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等およびそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。緩衝剤は、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを例示できる。キレート剤は、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸を例示できる。
【0088】
本発明に係る薬剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0089】
本発明に係る薬剤の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg乃至100mg程度、好ましくは約0.1μg乃至1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1回乃至数回に分けて投与することができる。あるいは、血糖値の上昇時に投与するといった投与形態をとることも可能である。
【0090】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。本発明に係る薬剤は、経口経路および非経口経路のいずれによっても投与できる。非経口経路としては、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内等への投与を挙げることができる。さらに、経粘膜投与または経皮投与を実施することができる。
【0091】
剤形は、特に限定されず、種々の剤形とすることができる。例えば、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。また本発明に係る薬剤は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0092】
具体的には、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができる。非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤等の注射剤;経皮投与または貼付剤、軟膏またはローション;口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤;ならびに経鼻投与のためのエアゾール剤;坐剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0093】
経口用固形製剤を調製する場合は、上記有効成分に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等を、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等を、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等を、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等を例示できる。
【0094】
経口用液体製剤を調製する場合は、上記化合物に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等を挙げることができる。
【0095】
注射剤を調製する場合は、上記化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等を挙げることができる。安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸等を挙げることができる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等を挙げることができる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が例示できる。
【0096】
本発明において、ポリヌクレオチドを有効成分として使用する場合は、ポリヌクレオチド自体の代わりに、該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターまたは該組換えベクターでトランスフェクションされてなる形質転換体を使用することもできる。
【0097】
本発明において、ポリヌクレオチドを用いるときは、遺伝子治療を利用して、当該ポリヌクレオチドを対象中の細胞内で生成させてもよい。また、遺伝子治療の対象から細胞を採取し、in vitroで当該ポリヌクレオチドを細胞内で生成させた後、当該細胞を対象に投与することもできる。遺伝子治療は公知の方法が利用でき、例えば、ポリヌクレオチドを注射により直接投与する非ウイルス性のトランスフェクション法、あるいはウイルスベクターを利用したトランスフェクション法のいずれも適用することができる。非ウイルス性のトランスフェクション法においては、ポリヌクレオチドを注射により直接投与する方法のほか、ポリヌクレオチドをリポソーム等のリン脂質小胞に封入し、そのリポソームを投与する方法が推奨される。リポソームとしては、カチオン性リポソームの使用がより好ましい。また、非ウイルス性のトランスフェクション法として、非ウイルス性遺伝子発現ベクターに当該ポリヌクレオチドを組み込み、注射により直接投与する方法のほか、該ベクターをリポソーム等のリン脂質小胞に封入して投与する方法を用いることができる。ウイルスベクターを使用するトランスフェクション法において、ポリヌクレオチドを組込んでトランスフェクションに使用するウイルスベクターとして、好ましくはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター等のDNAウイルスベクター、あるいはRNAウイルスベクターが挙げられる。これらウイルスベクターを用いることにより、所望のポリヌクレオチドの効率良い発現が可能である。さらに、ウイルスベクターを用いるトランスフェクション法においても、該ベクターをリポソームに封入して、そのリポソームを投与する方法が推奨される。
【0098】
本発明の治療剤を遺伝子治療剤として用いる場合は、一般的には、注射剤、点滴剤、あるいはリポソーム製剤として調製することが好ましい。遺伝子治療剤が、遺伝子が導入された細胞を含む形態に調製される場合は、該細胞をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態等に調製することもできる。また、プロタミン等の遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調整することもできる。遺伝子治療剤として用いる場合、本医薬組成物は、1日に1回または数回に分けて投与することができ、1日から数週間の間隔で間歇的に投与することもできる。投与の方法は、一般的な遺伝子治療法で用いられている方法に従うことができる。
【0099】
本発明はまた、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法に関する。sema3Eの機能には、sema3Eとその特異的受容体プレキシンD1との結合が関与する。すなわち、sema3Eの機能の阻害は、sema3EとプレキシンD1との結合の阻害、またはsema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現の阻害によっても実施できる。したがって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法は、sema3Eとその特異的受容体プレキシンD1との結合を阻害する化合物、またはsema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を阻害する化合物を指標にして実施することもできる。
【0100】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定は、具体的には例えば、sema3EとプレキシンD1との結合を測定することのできる実験系を用いて実施できる。実験系はin vitroおよびin vivoのいずれの実験系でもよいが、in vitroの実験系が簡便であり好ましく使用できる。
【0101】
sema3EとプレキシンD1との結合を測定することのできる実験系において、sema3EとプレキシンD1の結合を可能にする条件下で、sema3Eおよび/またはプレキシンD1と被検化合物を接触させ、ついで、sema3EとプレキシンD1の結合を測定する。被検化合物の存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合を被検化合物非存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合と比較することにより、被検化合物によるsema3EとプレキシンD1の結合の変化、例えば低減または消失を検出することができる。被検化合物の存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合が、被検化合物非存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合と比較して低減または消失した場合、該被検化合物にはsema3EとプレキシンD1の結合を阻害する作用があると判定できる。すなわち、sema3EとプレキシンD1の結合を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択することにより、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物を同定できる。
【0102】
sema3EとプレキシンD1との結合を測定することのできる実験系おいて、sema3Eとして、可溶性タンパク質を用いることができ、また、sema3Eをコードするポリヌクレオチドを含む細胞、好ましくは培養細胞の細胞膜に発現したタンパク質を用いることができる。該細胞は、sema3Eをコードするポリヌクレオチド含むベクターを適当な培養細胞にトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。このような形質転換体の作成は、sema3Eをコードするポリヌクレオチドを用いて一般的遺伝子工学的手法により実施できる。
【0103】
sema3EとプレキシンD1との結合の測定は、一般的な医薬品スクリーニングシステムで用いられている様々な結合解析方法を利用して実施できる。例えば、sema3EとプレキシンD1との結合反応を行い、sema3EとプレキシンD1との結合により形成される複合体と、結合していない遊離のsema3EおよびプレキシンD1を分離し、該複合体をイムノブロッティング等の公知の方法によって検出することにより実施できる。また、例えば、固相化したプレキシンD1とsema3Eとの結合反応を行い、その後、プレキシンD1に結合したsema3Eを、抗sema3E抗体を用いて検出することにより、sema3EとプレキシンD1の結合を測定できる。sema3Eに結合した抗sema3Eは、標識物質で標識した二次抗体を用いて検出できる。あらかじめ標識物質で標識化した抗sema3E抗体を用いて、プレキシンD1に結合したsema3Eを検出することもできる。あるいは、あらかじめ所望の標識物質で標識化したsema3Eを用いてプレキシンD1との結合反応を行い、該標識物質を検出することにより、sema3EをとリガンドプレキシンD1の結合を測定できる。標識物質として、一般的な結合解析方法で用いられている物質がいずれも利用でき、例えば、His-tag、Myc-tag、HA-tag、FLAG-tagまたはXpress-tag等のタグペプチド類、蛍光色素類、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)、ビオチン、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、放射性同位体元素等が例示できる。あるいは、sema3EとプレキシンD1との結合を阻害する化合物の同定は、ビアコアシステム(BIACORE system)等の表面プラズモン共鳴センサー、シンチレーションプロキシミティアッセイ法(Scintillation proximity assay;SPA)、または蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence resonance energy transfer;FRET)を応用した方法を用いて実施できる。
【0104】
より具体的には、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定として、下記工程を含む方法を例示できる:
(1)被検化合物をsema3Eおよび/またはプレキシンD1と接触させる工程、
(2)sema3EとプレキシンD1の結合を測定する工程、
(3)sema3EとプレキシンD1の結合を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【0105】
この方法は、工程(2)と工程(3)の間に、被検化合物の存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合を被検化合物非存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合と比較する工程をさらに含むことができる。
【0106】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定はまた、例えば、sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定することのできる実験系を用いて実施できる。実験系はin vitroおよびin vivoのいずれの実験系でもよいが、in vitroの実験系が簡便であり好ましく使用できる。
【0107】
sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定することのできる実験系においてsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドと被検化合物を接触させ、ついで、sema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を測定する。被検化合物の存在下におけるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を被検化合物非存在下におけるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現と比較することにより、被検化合物によるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現の変化、例えば低減または消失を検出することができる。被検化合物の存在下におけるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現が、被検化合物非存在下におけるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現と比較して低減または消失した場合、該被検化合物にはsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する作用があると判定できる。すなわち、sema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択することにより、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物を同定できる。
【0108】
sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定することのできる実験系では、好ましくはsema3Eおよび/またはプレキシンD1を発現する細胞、好ましくは培養細胞を用いる。該細胞は、sema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチド含むベクターを適当な培養細胞にトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。このような形質転換体の作成は、sema3Eをコードするポリヌクレオチドを用いて一般的遺伝子工学的手法により実施できる。
【0109】
発現の測定は、ポリヌクレオチドよりコードされるポリペプチドを、公知のタンパク質検出法、例えばウエスタンブロッティング等により直接的に検出することにより実施できる。または、発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより実施できる。シグナルとして、His-tag、Myc-tag、HA-tag、FLAG-tagまたはXpress-tag等のタグペプチド類、蛍光色素類、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)等を使用できる。
【0110】
sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定することのできる実験系にまた、sema3Eをコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、sema3Eをコードするポリヌクレオチドの代わりにレポーター遺伝子を連結したベクター、および/または、プレキシンD1をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、プレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを適当な培養細胞にトランスフェクションして得られた形質転換体を用いることができる。このような形質転換体と被検化合物とを接触させ、レポーター遺伝子の発現の有無および変化を測定することにより、sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を検出できる。被検化合物の存在下におけるポリヌクレオチドの発現が、被検化合物非存在下におけるポリヌクレオチドの発現と比較して低減または消失した場合、該被検化合物にはsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する作用があると判定できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用でき、例えば、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素活性を有する遺伝子を例示できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
【0111】
より具体的には、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定として、下記工程を含む方法を例示できる:
(1)被検化合物をsema3Eおよび/またはプレキシンD1を発現する細胞と接触させる工程、
(2)sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定する工程、
(3)sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【0112】
この方法は、工程(2)と工程(3)の間に、被検化合物の存在下におけるsema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を被検化合物非存在下におけるsema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現と比較する工程をさらに含むことができる。
【0113】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定はまた、例えば、sema3Eの耐糖能障害作用を測定することのできる実験系を用いて実施できる。実験系はinvitroおよびin vivoのいずれの実験系でもよいが、invitroの実験系が簡便であり好ましく使用できる。
【0114】
sema3Eの耐糖能障害作用を測定することのできる実験系では、sema3Eの受容体プレキシンD1および耐糖能増強作用を有するポリペプチドの受容体を発現している細胞、好ましくは培養細胞が用いられる。該細胞は、sema3Eの受容体であるプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドおよび/または耐糖能増強作用を有するポリペプチドの受容体をコードするポリヌクレオチドを適当な培養細胞にトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。このような形質転換体の作成は、sema3Eの特異的受容体であるプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドおよび/または耐糖能増強作用を有するポリペプチドの受容体をコードするポリヌクレオチドを用いて一般的遺伝子工学的手法により実施できる。耐糖能増強作用を有するポリペプチドの受容体を発現している細胞に、該受容体のリガンドである耐糖能増強作用を有するポリペプチドを接触させ、その結果生じる該細胞の増殖等を測定することにより、該ポリペプチドの耐糖能増強作用を検出できる。また、耐糖能増強作用を有するポリペプチドと共に、sema3Eを該細胞に作用させることにより、該ポリペプチドによる耐糖能の増強に対するsema3Eの抑制作用を検出することができる。
【0115】
被検化合物は、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、あるいはsema3またはプレキシンD1の一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等を用いることができる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
まず、本実施例で使用した材料および方法について説明する。
【0118】
≪I.RNA分析≫
総RNA30μgはGTC(guanidium thiocyanate-phenol chloroform)法によりRNAzol B(Tel Test社製)を用いて、製造業者の使用説明書に従って細胞から抽出した。相補的DNAはSuperScript First-Strand SynthesisSystem(Invitrogen社製)を用いてRT-PCR用に作製した。定量的リアルタイムPCR(Quantitative real Time PCR)は、LightCycler(Roche社製)とTaqman Universal ProbeLibraryおよびLightCyclerMaster(Roche社製)を用いて、製造業者の使用説明書に従って実施した。
【0119】
≪II.実験動物≫
動物実験は千葉大学実験動物倫理審査委員会の許諾の下に実施した。マウスとしては、SLC Japanより購入したC57BL/6マウスを用いた。また、C57BL/6を背景とするsema3Eノックアウトマウスの作製方法および遺伝子型は、既報に記載されている(Gu, C. etal. Semaphorin 3E and plexin-D1 control vascular pattern independently ofneuropilins. Science 307, 265-8 (2005).)。
【0120】
≪III.統計解析≫
データは平均値±標準誤差で表示した。多群比較は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)に続くボンフェローニ法により平均値を比較して実施した。2群間の比較は、対応のないスチューデントt検定(unpaired Student's t-test)により分析した。p<0.05の値は、統計的に有意と考えられる。
【0121】
以下、具体的な実施例およびその結果について説明する。
【0122】
≪1.2型糖尿病モデルマウス(Ayマウス)および高脂肪高ショ糖食マウス(HFHSDマウス)の組織におけるSema3Eの発現≫
2型糖尿病モデルマウスであるAyマウス、および高脂肪高ショ糖食を8週間与えた高脂肪高ショ糖食マウス(HFHSD(High-Fat and High-Sucrose Diet)mice;このマウスもインスリン抵抗性、および耐糖能異常を示す)について、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織を採取し、Sema3Eの発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた。
【0123】
Ayマウスについての結果を図1Aに示し、HFHSDマウスについての結果を図1Bに示す。図1Aおよび図1Bに示すように、Ayマウスの骨格筋およびHFHSDマウスの骨格筋の双方において、野生型マウスと比較して有意にSema3Eの発現が上昇していた(Ayマウス:p=0.01; HFHSDマウス:p<0.01)。また、図1Bに示すように、HFHSDマウスでは脂肪組織においても、Sema3Eの発現が上昇している傾向にあった(p=0.09)。
【0124】
≪2.AyマウスおよびHFHSDマウスの組織におけるPlexinD1の発現≫
上記1.でSema3Eの発現を調べたAyマウス、およびHFHSDマウスの骨格筋、および脂肪組織におけるPlexinD1(Sema3Eの受容体)の発現を、上記1.と同様に、定量的リアルタイムPCR法にて調べた。
【0125】
Ayマウスについての結果を図2Aに示し、HFHSDマウスについての結果を図2Bに示す。図2Aおよび図2Bに示すように、Ayマウスの骨格筋およびHFHSDマウスの骨格筋の双方において、野生型マウスと比較してPlexinD1の発現が上昇している傾向にあった(Ayマウス:p=0.28; HFHSDマウス:p=0.13)。
【0126】
≪3.Sema3Eが糖代謝に及ぼす影響(糖負荷試験(普通食))≫
上記1.の結果において、AyマウスおよびHFHSDマウスの双方の骨格筋でSema3Eの発現の上昇がみられたことを受けて、かようなSema3Eの発現の上昇が生体での代謝に何らかの影響を及ぼしていないかを調べる目的で、糖負荷試験(GTT;Glucose Tolerance Test)を行った。具体的には、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して糖負荷試験を行った。なお、糖負荷試験を行う際には、各マウスに対して普通食を給餌した。
【0127】
結果を図3に示す。図3に示すように、Sema3Eヘテロ欠失マウスにおいては、野生型マウスと比較して、糖負荷後の血糖値の上昇が有意に抑制されていた。このことから、Sema3Eがマウスでの糖代謝に影響を及ぼしていることが示唆された。
【0128】
≪4.Sema3Eが糖代謝に及ぼす影響(糖負荷試験(高脂肪高ショ糖食))≫
上記3.の結果を受けて、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えることによりインスリン抵抗性を生じさせ、その後に糖負荷試験を行った。
【0129】
結果を図4A〜図4Cに示す。図4Aは、HFHSD負荷前に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである(つまり、図3に示すのと同様の結果である)。図4Bは、HFHSD負荷4週後に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。図4Cは、HFHSD負荷8週後に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。HFHSD負荷によりインスリン抵抗性が生じることから、これによって糖負荷後の血糖値の上昇がみられる。しかし、Sema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)においては、野生型マウス(WT)と比較して、図4A〜図4Cに示すいずれの時点においても血糖値の上昇が抑制されていた。このことから、Sema3Eは高脂肪高ショ糖によるインスリン抵抗性やこれによる糖尿病の発症に対して正に寄与していることが示唆された。
【0130】
≪5.Sema3EがHFHSD負荷による体重、内臓脂肪、血清インスリン値、およびインスリン抵抗性の変動に及ぼす影響≫
上記4.においてHFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、体重、内臓脂肪、血清インスリン値(IRI;ImmunoReactive Insulin)を比較した。その結果を図5A(体重)、図5B(内臓脂肪)、および図5C(血清インスリン値(IRI))にそれぞれ示す。図5A〜図5Cに示すように、これらのパラメータではSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で有意な差は確認されなかった。むしろ、内臓脂肪(図5B)についてはSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)で多い傾向にあった。なお、図5Bの縦軸は、マウスの体重に占める内臓脂肪の重量割合(%)を示す。
【0131】
同様に、上記4.においてHFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、インスリン負荷による血糖値の低下を指標として、インスリン抵抗性を比較した。結果を図5Dに示す。図5Dに示すように、インスリン負荷による血糖値の低下はSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)で有意に大きく、インスリン抵抗性はSema3E欠失マウス(Sema3E +/-)で有意に改善していることがわかった。
【0132】
≪6.小括≫
以上の結果から、糖尿病ではSema3E、およびPlexinD1の発現が上昇し、そのことが糖代謝異常(耐糖能障害)を引き起こしている可能性が示唆された。このような結果を受けて、Sema3Eを抑制すると糖代謝異常(耐糖能障害)が改善するのではないかという仮説を設定し、当該仮説を検証することを目的として、以下の実験を行った。
【0133】
≪7.plexinD1-Fc投与が糖代謝(耐糖能)に及ぼす影響≫
図6に示す実験プロトコールに基づき、野生型マウス(WT)にSema3Eを抑制するplexinD1-Fcの発現ベクタープラスミドを週1回、100μgを計8回(8週間)筋注し、その間に高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えて、糖負荷試験によって耐糖能をコントロールとの間で比較する実験を行った。なお、当該実験のための予備実験として、筋注の実験系において有意に、マウス血中のplexinD1-Fcの抗体価が上昇することをELISA法により確認した。
【0134】
図6に示す実験プロトコールをより詳細に説明すると、具体的には、4週齢の野生型マウス(WT)に8週間、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えて4週おきに糖負荷試験を行い、血糖値の上昇を評価した。その結果を図7A(HFHSD投与前)、図7B(HFHSD投与4週後)、および図7C(HFHSD投与8週後)にそれぞれ示す。図7Aと図7Bおよび図7Cとの比較から、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えたマウスでは、普通食のマウスに比べて有意に、糖負荷後の血糖値の上昇がみられた(Normal chow対plexinD1Fcおよびcontrol)。その一方で、plexinD1-Fcを筋注してSema3Eを抑制した群(plexinD1Fc)では、コントロール(control)に比べて8週後の血糖値が有意に抑制されていた。この結果は、Sema3Eを抑制することが耐糖能異常を改善させることを示唆するものであると考えられた。
【0135】
≪8.plexinD1-Fc投与がHFHSD負荷による体重、血清インスリン値、およびインスリン抵抗性の変動に及ぼす影響≫
上記7.におけるそれぞれの群のマウスについて、上記5.と同様の手法により、体重、血清plexinD1-Fc抗体価、血清インスリン値(IRI)、およびインスリン抵抗性を比較した。その結果を図8A(体重)、図8B(血清plexinD1-Fc抗体価)、図8C(血清インスリン値(IRI))、および図8D(インスリン抵抗性)にそれぞれ示す。まず、図8Bに示すように、血清plexinD1-Fc抗体は、plexinD1-Fcの発現ベクタープラスミドを筋注した群(plexinD1Fc)においてのみ検出された。また、図8Aに示すように、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えると普通食の場合と比較して体重の増加が顕著にみられるが、plexinD1Fc群ではコントロールと比較して、体重の増加が穏やかであった。さらに、図8Cに示すように血清インスリン値に有意な差は認められなかったが、インスリン抵抗性はplexinD1Fc群で有意に改善が認められた(図8Dの「Fc」)。
【0136】
≪9.plexinD1-Fc投与がHFHSD負荷による内臓脂肪量の変動に及ぼす影響≫
上記7.におけるそれぞれの群のマウスについて、腹部の断面CT画像を撮影し、内臓脂肪の量を評価した。結果を図9Aおよび図9Bに示す。図9Aは、各群のマウスについて撮影された腹部CT画像である。ここで、図9Aでは画像が縦2列に表示されているが、これらはそれぞれ、各群における異なる2つのマウス個体について、同様の撮像を行った結果を示すものである。さらに、図9Aに示すCT画像において、白色の領域は骨を示し、黒色の領域は脂肪組織(内臓脂肪)を示し、灰白色の領域は筋肉その他の組織を示す。また、図9Bは、各群のマウスにおける内臓脂肪の量を比較したグラフである。なお、図9Bの縦軸は、マウスの体重に占める内臓脂肪の重量割合(%)を示す。そしてこの割合は、CT撮影により得られた各断面のそれぞれにおいて算出される内臓脂肪の領域の面積を、撮像の掃引方向に積分して得られる脂肪量の、体重に占める割合として算出されたものである。図9Aおよび図9Bに示すように、普通食(NC)に比して高脂肪高ショ糖食負荷マウス(control)では有意に内臓脂肪の増量がみられたが、plexinD1-Fcを筋注した高脂肪高ショ糖負荷マウス(plexin Fc)では内臓脂肪の蓄積がcontrolよりも有意に減少していた。
【0137】
≪10.総括≫
上述した結果から、高脂肪高ショ糖食負荷のインスリン抵抗性肥満マウスモデル(2型糖尿病モデルマウス)においては、Sema3Eの発現が骨格筋、および脂肪組織で上昇しており、それが耐糖能障害に寄与していることが示唆された。
【0138】
そして、上昇したSema3EをplexinD1-Fcによって抑制することにより、内臓脂肪の蓄積が減少し、インスリン抵抗性が改善することによって血糖値の上昇が抑制される、つまり耐糖能が改善することがわかった。これにより、Sema3Eが糖尿病の病態生理に関わっていること、およびそれを抑制することが新たな糖尿病治療の標的となり得ることが示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0139】
〔配列番号:1〕
マウスプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列である。
〔配列番号:2〕
配列番号:1に記載のマウスプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害することを特徴とする、糖尿病を治療する薬剤および方法、並びに耐糖能の増強剤および増強方法に関する。より具体的には本発明は、セマフォリン3Eの特異的受容体であるプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチド、該アミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、および前記いずれかのポリペプチドを含むポリペプチドから選ばれるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する作用を有するポリペプチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤に関する。また本発明は、前記いずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤に関する。また本発明は、前記ポリペプチドまたは前記ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法、並びに耐糖能の増強方法に関する。さらに本発明は、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セマフォリン(smaphorin)は胚発生過程で神経の進むべき方向性を決定する軸策ガイダンス(Axon guidance)因子として同定されてきた分子群である。軸策ガイダンスとは神経細胞から伸びた軸索を、神経結合を成立させる標的細胞付近まで適切に誘導することを意味する。セマフォリンは、神経軸索の伸張を抑制する反発因子として作用し、末梢神経系における正確な軸索ガイダンスに関与する。
【0003】
セマフォリン分子は、アミノ末端に約420アミノ酸残基からなるsemaドメインを保存領域として持つことを特徴とし、現在までに20種類以上が同定され、巨大なファミリーを作っている。分泌型、細胞膜貫通型、細胞膜結合型などがあり、構造類似性により8種類に分類されている。クラス3-7は脊椎動物で発見され、クラス3は分泌型、クラス7はGPI(Glycosylphosphatidylinositol)結合型であり、クラス4-6は膜貫通型のタンパク質である。
【0004】
セマフォリンの受容体としてニューロピリンとプレキシンの二種類が知られている。ニューロピリンおよびプレキシンもそれぞれ遺伝子ファミリーを形成する。ニューロピリンは、クラス3のセマフォリンに特異的に結合する。また、プレキシンはsemaドメインを持ち、膜貫通セマフォリンの機能的なレセプターとして、また、ニューロピリンと複合体を形成することによりクラス3セマフォリンのシグナルパートナーとして機能する。
【0005】
セマフォリン分子群およびそれらの受容体であるプレキシン分子群はまた、胚発生過程で血管の形態を調節し、そして血管の網状組織の発達に重要な役割を果たすことが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。しかしながら、これら分子が生体における糖代謝に関与するかは明らかにされていない。
【0006】
また、プレキシンD1によりコードされるタンパク質の膜外領域とイムノグロブリンG1(以下、「IgG1」と略称することがある)のFc部分との融合ポリペプチドが、新生仔マウス網膜血管発生を阻害することが報告されている(特許文献1)。
【0007】
セマフォリン3E(以下、「sema3E」と略称することがある)はクラス3セマフォリンの1つであるが、その特異的受容体はプレキシンD1であり、ニューロピリンとは結合せず、また、ニューロピリンを補助受容体として必要としないことが知られている(非特許文献3)。セマフォリン3Eは、直接プレキシンD1と相互作用して胚発生時の脈管発達のパターンの調節に重要な役割を示すことが報告されている(非特許文献4、非特許文献5)。しかしながら、生体における糖代謝へのセマフォリン3EやプレキシンD1の関与は明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/056791号パンフレット。
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Carmeliet,P. & Tessier-Lavigne, M. Common mechanisms of nerve and blood vesselwiring. Nature 436, 193-200 (2005).
【非特許文献2】Dickson,B.J. Molecular mechanisms of axon guidance. Science 298, 1959-64 (2002).
【非特許文献3】Gu, C. etal. Semaphorin 3E and plexin-D1 control vascular pattern independently ofneuropilins. Science 307, 265-8 (2005).
【非特許文献4】Gitler,A.D., Lu, M.M. & Epstein, J.A. PlexinD1 and semaphorin signaling arerequired in endothelial cells for cardiovascular development. Dev Cell 7,107-16 (2004).
【非特許文献5】Torres-Vazquez,J. et al. Semaphorin-plexin signaling guides patterning of the developingvasculature. Dev Cell 7, 117-23 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、糖尿病治療に有用な新規治療的耐糖能増強療法を開発する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行い、クラス3セマフォリンの1つであるsema3Eの発現が、高脂肪高ショ糖食負荷のインスリン抵抗性肥満マウスモデル(2型糖尿病モデルマウス)の骨格筋および脂肪組織において上昇していること、および、このsema3Eの発現の上昇が耐糖能障害に寄与していることを見出した。
【0012】
さらに本発明者らは、上昇したSema3Eの発現を、例えばplexinD1-Fc(プレキシンD1とイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチド)によって抑制することで、内臓脂肪の蓄積が減少し、インスリン抵抗性が改善することによって血糖値の上昇が抑制される、つまり耐糖能が改善することを突き止めた。これにより、Sema3Eが糖尿病の病態生理に関わっていること、およびそれを抑制することが新たな糖尿病治療の標的となり得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドを含む、糖尿病の治療剤に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0014】
また本発明は、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、糖尿病の治療剤に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0015】
さらに本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む、糖尿病の治療剤に関する。
【0016】
さらにまた本発明は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを含む、糖尿病の治療剤に関する。
【0017】
さらに本発明は、糖尿病が2型糖尿病である前記いずれかの治療剤に関する。
【0018】
さらにまた本発明は、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドを含む、耐糖能増強剤に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0019】
また本発明は、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、耐糖能増強剤に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0020】
さらに本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む、耐糖能増強剤に関する。
【0021】
さらにまた本発明は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを含む、耐糖能増強剤に関する。
【0022】
また本発明は、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0023】
さらに本発明は、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0024】
さらにまた本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法に関する。
【0025】
また本発明は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法に関する。
【0026】
さらにまた本発明は、糖尿病が2型糖尿病である前記いずれかの治療方法に関する。
【0027】
また本発明は、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0028】
さらに本発明は、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0029】
さらにまた本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法に関する。
【0030】
また本発明は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法に関する。
【0031】
さらに本発明は、糖尿病の治療剤または血管新生促進剤の製造における、下記(i)〜(v)からなる群から選ばれるポリペプチドの使用に関する:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【0032】
さらにまた本発明は、糖尿病の治療剤または耐糖能増強剤の製造における、下記(vi)〜(xi)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドの使用に関する:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつsema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0033】
また本発明は、糖尿病の治療剤または耐糖能増強剤の製造における、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドの使用に関する。
【0034】
さらに本発明は、糖尿病の治療剤または血管新生促進剤の製造における、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドの使用に関する。
【0035】
さらにまた本発明は、下記(1)〜(3)の工程を含む、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法に関する:
(1)被検化合物をsema3Eおよび/またはプレキシンD1と接触させる工程、
(2)sema3EとプレキシンD1の結合を測定する工程、
(3)sema3EとプレキシンD1の結合を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【0036】
また本発明は、プレキシンD1が培養細胞に発現されているプレキシンD1である前記同定方法に関する。
【0037】
さらにまた本発明は、下記(1)〜(3)の工程を含む、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法に関する:
(1)被検化合物をsema3Eおよび/またはプレキシンD1を発現する細胞と接触させる工程、
(2)sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定する工程、
(3)sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害することを特徴とする、糖尿病を治療する薬剤および方法、並びに耐糖能の増強剤および増強方法を提供できる。具体的には、本発明により、sema3Eの特異的受容体であるプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチド、該アミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、および前記いずれかのポリペプチドを含むポリペプチドから選ばれるポリペプチドであって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する作用を有するポリペプチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤を提供できる。また本発明により、前記いずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む糖尿病の治療剤、並びに耐糖能増強剤を提供できる。また本発明により、前記ポリペプチドまたは前記ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法、並びに耐糖能の増強方法を提供できる。
【0039】
本発明に係る糖尿病の治療剤および治療方法は、例えば2型糖尿病の治療に有用である。
【0040】
さらに本発明によれば、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法を提供することができる。
【0041】
本発明は、このように、医薬分野において優れた効果を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1A】実施例において、2型糖尿病モデルマウスであるAyマウスについて、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織でのSema3Eの発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた結果を示すグラフである。
【図1B】実施例において、高脂肪高ショ糖食を8週間与えた高脂肪高ショ糖食マウス(HFHSDマウス)について、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織でのSema3Eの発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた結果を示すグラフである。
【図2A】実施例において、2型糖尿病モデルマウスであるAyマウスについて、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織でのPlexinD1の発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた結果を示すグラフである。
【図2B】実施例において、高脂肪高ショ糖食を8週間与えた高脂肪高ショ糖食マウス(HFHSDマウス)について、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織でのPlexinD1の発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた結果を示すグラフである。
【図3】実施例において、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。
【図4A】実施例において、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して、HFHSD負荷前に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである(つまり、図3に示すのと同様の結果である)。
【図4B】実施例において、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して、HFHSD負荷4週後に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。
【図4C】実施例において、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して、HFHSD負荷8週後に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。
【図5A】実施例において、HFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、体重を比較した結果を示すグラフである。
【図5B】実施例において、HFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、内臓脂肪の量を比較した結果を示すグラフである。
【図5C】実施例において、HFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、血清インスリン値(IRI)を比較した結果を示すグラフである。
【図5D】実施例において、HFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、インスリン負荷による血糖値の低下を指標として、インスリン抵抗性を比較した結果を示すグラフである。
【図6】実施例において行った、野生型マウス(WT)にSema3Eを抑制するplexinD1-Fcの発現ベクタープラスミドを週1回、100μgを計8回(8週間)筋注し、その間に高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えて、糖負荷試験によって耐糖能をコントロールとの間で比較する実験の実験プロトコールである。
【図7A】図6に示す実験プロトコールに基づき行った糖負荷試験の、HFHSD投与前における結果を示すグラフである。
【図7B】図6に示す実験プロトコールに基づき行った糖負荷試験の、HFHSD投与4週後における結果を示すグラフである。
【図7C】図6に示す実験プロトコールに基づき行った糖負荷試験の、HFHSD投与8週後における結果を示すグラフである。
【図8A】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各マウス群の間で、体重を比較した結果を示すグラフである。
【図8B】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各マウス群の間で、血清plexinD1-Fc抗体価を比較した結果を示すグラフである。
【図8C】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各マウス群の間で、血清インスリン値(IRI)を比較した結果を示すグラフである。
【図8D】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各マウス群の間で、インスリン負荷による血糖値の低下を指標として、インスリン抵抗性を比較した結果を示すグラフである。
【図9A】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各群のマウスについて、腹部CT画像を撮影して得られた腹部CT画像を示す写真である。
【図9B】実施例において、図6に示す実験プロトコールに基づき糖負荷試験を行った各群のマウスについて、内臓脂肪の量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、クラス3セマフォリンの1つであるsema3Eの発現が、高脂肪高ショ糖食負荷のインスリン抵抗性肥満マウスモデル(2型糖尿病モデルマウス)の骨格筋および脂肪組織において上昇していること、および、このsema3Eの発現の上昇が耐糖能障害に寄与していることが見出され、さらに、上昇したSema3Eの発現を、plexinD1-Fc(プレキシンD1とイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチド)によって抑制することで、内臓脂肪の蓄積が減少し、インスリン抵抗性が改善することによって血糖値の上昇が抑制される、つまり耐糖能が改善することが見出されたことにより、達成されたものである。
【0044】
本発明において明らかにした上記知見によれば、sema3Eの耐糖能障害作用(糖代謝抑制作用)を阻害することにより、耐糖能を増強でき、ひいては糖尿病(例えば、2型糖尿病)の治療を可能にする。
【0045】
すなわち、本発明は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害することを特徴とする、糖尿病を治療する薬剤および方法に関する。
【0046】
また、本発明は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害することを特徴とする、耐糖能の増強剤および増強方法に関する。
【0047】
「耐糖能」は、血糖値を一定の幅の中にコントロールする、本来的にヒトなどの哺乳動物等の生体に備わっている能力をいう。
【0048】
「耐糖能障害作用」とは、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝を抑制する作用をいう。
【0049】
「耐糖能障害作用の阻害」とは、耐糖能障害作用を妨げることをいい、その結果、耐糖能を改善し、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝を改善(増強)することをいう。
【0050】
「sema3Eの耐糖能障害作用」とは、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝を抑制するsema3Eの作用をいう。
【0051】
「sema3Eの耐糖能障害作用の阻害」とは、sema3Eの耐糖能障害作用を妨げることをいい、その結果、耐糖能を改善(増強)することをいう。
【0052】
「耐糖能の増強」とは、耐糖能を増強させる前の状態と比較して、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝が改善(増強)されることをいう。耐糖能の増強は、例えば、インスリン負荷による血糖値の低下を指標としたインスリン抵抗性を評価することにより判定できる。本発明において耐糖能の増強とは、好ましくはsema3Eの耐糖能障害作用を妨げて、生体の組織や細胞によるブドウ糖(グルコース)の代謝を改善(増強)させることをいう。
【0053】
sema3Eの耐糖能障害作用の阻害は、sema3Eとその受容体であるプレキシンD1の結合を阻害すること、sema3Eおよび/またはその受容体であるプレキシンD1の発現を阻害すること、または、sema3E若しくはプレキシンD1の機能を阻害することにより実施できる。言い換えれば、sema3Eの耐糖能障害作用の阻害は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物、例えば、sema3Eとその受容体であるプレキシンD1の結合を阻害する化合物、sema3Eおよび/またはその受容体であるプレキシンD1の発現を阻害する化合物、または、sema3E若しくはプレキシンD1の機能を阻害する化合物を用いて実施できる。
【0054】
すなわち、本発明に係る糖尿病の治療剤は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物のうちの少なくとも1を有効成分としてその有効量含むことを特徴とする。また、本発明に係る糖尿病の治療方法は、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物のうちの少なくとも1を対象に投与することを特徴とする。
【0055】
「対象」とは、耐糖能を増強させることが好ましい生体を意味する。そのような生体として、糖尿病の患者を挙げることができる。
【0056】
本発明の薬剤および治療方法が対象とする「糖尿病」は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、肥満型糖尿病などの、本技術分野において糖尿病として認識されているすべての疾患・症状を包含するものである。また、本発明の薬剤は、別の観点から言えば、後述する耐糖能増強剤のほか、インスリン抵抗性改善剤、インスリン感受性増強剤、耐糖能不全[IGT(Impaired Glucose Tolerance)]の予防・治療剤、および耐糖能不全から糖尿病への移行抑制剤などとしても用いることができる。
【0057】
糖尿病の判定基準については、日本糖尿病学会から新たな判定基準が報告されている。この報告によれば、糖尿病とは、空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が126mg/dl以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)2時間値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が200mg/dl以上、随時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が200mg/dl以上のいずれかを示す状態である。また、上記糖尿病に該当せず、かつ、「空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が110mg/dl未満または75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)2時間値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が140mg/dl未満を示す状態」(正常型)でない状態を、「境界型」と呼ぶ。
【0058】
また、糖尿病の判定基準については、ADA(米国糖尿病学会)およびWHOから、新たな判定基準が報告されている。これらの報告によれば、糖尿病とは、空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が126mg/dl以上、あるいは、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が200mg/dl以上を示す状態である。また、ADAおよびWHOの上記報告によれば、耐糖能不全とは、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が140mg/dl以上200mg/dl未満を示す状態である。さらに、ADAの報告によれば、空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が100mg/dl以上126mg/dl未満の状態をIFG(Impaired Fasting Glucose)と呼ぶ。一方、WHOは、該IFG(Impaired Fasting Glucose)を空腹時血糖値(静脈血漿におけるグルコース濃度)が110mg/dl以上126mg/dl未満の状態とし、IFG(Impaired Fasting Glycaemia)と呼ぶ。
【0059】
本発明の薬剤および治療方法は、上記した新たな判定基準により決定される糖尿病、境界型、耐糖能不全、IFG(Impaired Fasting Glucose)およびIFG(Impaired Fasting Glycaemia)の予防・治療剤としても用いられる。さらに、本発明の薬剤および治療方法は、境界型、耐糖能不全、IFG(Impaired Fasting Glucose)またはIFG(Impaired Fasting Glycaemia)から糖尿病への進展を防止することもできる。
【0060】
本発明の薬剤および治療方法は、例えば、糖尿病性合併症[例、神経障害、腎症、網膜症、白内障、大血管障害、骨減少症、糖尿病性高浸透圧昏睡、感染症(例、呼吸器感染症、尿路感染症、消化器感染症、皮膚軟部組織感染症、下肢感染症)、糖尿病性壊疽、口腔乾燥症、聴覚の低下、脳血管障害、末梢血行障害]、肥満、骨粗鬆症、悪液質(例、癌性悪液質、結核性悪液質、糖尿病性悪液質、血液疾患性悪液質、内分泌疾患性悪液質、感染症性悪液質または後天性免疫不全症候群による悪液質)、脂肪肝、高血圧、多嚢胞性卵巣症候群、腎臓疾患(例、糖尿病性ネフロパシー、糸球体腎炎、糸球体硬化症、ネフローゼ症候群、高血圧性腎硬化症、末期腎臓疾患)、筋ジストロフィー、心筋梗塞、狭心症、脳血管障害(例、脳梗塞、脳卒中)、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、メタボリックシンドローム(高トリグリセライド(TG)血症、低HDLコレステロール(HDL-C)血症、高血圧、腹部肥満および耐糖能不全から選ばれる3つ以上を保有する病態)、高インスリン血症、高インスリン血症における知覚障害、腫瘍(例、白血病、乳癌、前立腺癌、皮膚癌)、過敏性腸症候群、急性または慢性下痢、炎症性疾患(例、動脈硬化症(例、アテローム性動脈硬化症)、慢性関節リウマチ、変形性脊椎炎、変形性関節炎、腰痛、痛風、手術外傷後の炎症、腫脹、神経痛、咽喉頭炎、膀胱炎、肝炎(非アルコール性脂肪性肝炎を含む)、肺炎、膵炎、炎症性大腸疾患、潰瘍性大腸炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD))、内臓肥満症候群、足潰瘍、セプシス、乾癬等の予防・治療剤としても用いることができる。
【0061】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、sema3Eの特異的受容体プレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドを例示できる。このようなポリペプチドは、sema3Eと結合して、sema3EとプレキシンD1との結合を阻害し、その結果、sema3Eの機能を阻害する。本発明において、単離された若しくは合成の蛋白質;単離された若しくは合成のポリペプチド;または単離された若しくは合成のオリゴペプチドを意味する総称的用語として「ポリペプチド」という用語を使用し、ここでポリペプチド若しくはオリゴペプチドは最小サイズが2アミノ酸である。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
【0062】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを例示できる。本ポリペプチドはマウスプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドである。後述する実施例に記載の結果に鑑みれば、本ポリペプチドとイムノグロブリンG1(IgG1)のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチド(以下、「プレキシンD1-Fc」と略称することがある)は、Sema3Eの耐糖能障害作用を抑制することにより、生体の組織におけるインスリン抵抗性を改善して、耐糖能異常を改善させることができるものと考えられる。なお、プレキシンD1-Fc融合ポリペプチドにおいてsema3Eと結合する部分はプレキシンD1の膜外領域であるため、プレキシンD1-Fc融合ポリペプチドのsema3E機能阻害作用はプレキシンD1膜外領域からなるポリペプチドの部分に担われていると考えることができる。したがって、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドは、それ自体、ヒトにおける耐糖能の改善にも効果を示すと考えることができる。
【0063】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドの他、該ポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドを例示できる。また、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、前記ポリペプチドを含むポリペプチドを例示できる。
【0064】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドとして、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。ヒトプレキシンD1は、マウスプレキシンD1と約90%以上の高い配列相同性を有する(特許文献1)。また、ヒトプレキシンD1はsema3Eと結合することが知られている。したがって、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、sema3Eと結合して、sema3EとヒトプレキシンD1との結合を阻害し、その結果、sema3Eの機能を阻害すると考えることができる。
【0065】
また、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドとして、該アミノ酸配列の一部分のアミノ配列からなるポリペプチドであって、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドを例示できる。かかるポリペプチドは、そのアミノ酸配列中にsema3Eとの結合ドメインを有していることが好ましい。かかるポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列に基づいて適宜設計して作成し、作成されたポリペプチドが、例えばインスリン負荷による血糖値の低下に対するsema3Eの抑制作用(インスリン抵抗性の向上作用)を阻害するか否かを測定し、該抑制作用を阻害するものを選択することにより取得することができる。
【0066】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、または該ポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチド含むポリペプチドとして、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、または該ポリペプチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドと、別のポリペプチド、例えばIgGのFc部分、好ましくはIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドなどとの融合ポリペプチドを例示できる。好ましくは、IgGのFc部分、より好ましくはIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドとの融合ポリペプチドを例示できる。より具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドとIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドとの融合ポリペプチドを例示できる。
【0067】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、また、sema3Eの特異的受容体プレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを例示できる。本ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド自体、またはベクターに組み込んで、対象の所望の組織で発現させることにより、sema3Eと結合して、sema3EとプレキシンD1との結合を阻害し、sema3Eの機能を阻害する。本発明において、単離された完全長DNAおよび/またはRNA;合成完全長DNAおよび/またはRNA;単離されたDNAオリゴヌクレオチド類および/またはRNAオリゴヌクレオチド類;あるいは合成DNAオリゴヌクレオチド類および/またはRNAオリゴヌクレオチド類を意味する総称的用語として「ポリヌクレオチド」という用語を使用し、ここでそのようなDNAおよび/またはRNAは最小サイズが2ヌクレオチドである。
【0068】
sema3Eの特異的受容体プレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを例示できる。該ポリヌクレオチドとして好ましくは配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを例示できる。本ポリヌクレオチドとIgG1のFc部分をコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドは、Sema3Eの耐糖能障害作用を抑制することにより、生体の組織におけるインスリン抵抗性を改善して、耐糖能異常を改善させた。前記融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドにおいて、sema3Eと結合する部分はプレキシンD1の膜外領域であるため、該ポリペプチドのsema3E機能阻害作用はプレキシンD1膜外領域からなるポリペプチドの部分に担われていると考えることができる。したがって、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをIgG1のFc部分をコードするポリヌクレオチドと融合させずに発現させることによっても、sema3Eによる耐糖能障害作用を阻害することができる。
【0069】
sema3Eの血管新生抑制作用を阻害する化合物として、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの他、該ポリヌクレオチドと相同性を有し、かつ、該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを例示できる。また、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する化合物として、前記ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを例示できる。
【0070】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。ヒトプレキシンD1は、マウスプレキシンD1と約90%以上の高い配列相同性を有する。したがって、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒトプレキシンD1と結合して、sema3EとヒトプレキシンD1との結合を阻害し、その結果、sema3Eの機能を阻害すると考えることができる。すなわち、ヒトプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド自体、またはベクターに組み込んで、対象の所望の組織で発現させることにより、sema3Eと結合して、sema3EとヒトプレキシンD1との結合を阻害し、sema3Eの機能を阻害すると考えることができる。
【0071】
また、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、該アミノ酸配列の一部分のアミノ配列からなるポリペプチドであって、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを例示できる。例えば、配列表の配列番号2に記載の塩基配列の一部分の塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。かかるポリヌクレオチドは、その塩基配列中にsema3EとプレキシンD1の結合ドメインをコードする塩基配列を有していることが好ましい。かかるポリヌクレオチドは、配列番号2に記載の塩基配列に基づいて適宜設計して作成し、該作成されたポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが、例えばインスリン負荷による血糖値の低下に対するsema3Eの抑制作用(インスリン抵抗性の向上作用)を阻害するか否かを測定し、該抑制作用を阻害するものを選択することにより取得することができる
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドとして、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ、該ポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能を有するポリヌクレオチドと、別のポリヌクレオチド、例えばIgGのFc部分、好ましくはIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドなどとの融合ポリヌクレオチドを例示できる。好ましくは、IgGのFc部分、より好ましくはIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリペプチドを例示できる。より具体的には、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとIgG1のFc部分のアミノ酸配列で表わされるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリペプチとの融合ポリヌクレオチドを例示できる。
【0072】
「配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能」とは、該ポリペプチドの細胞、組織、または生体に対する作用や効果と同じ作用や効果を奏することを意味し、その程度が該ポリペプチドの機能と比較して強くても弱くてもよい。
【0073】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと実質的に同質の生物学的機能として、sema3Eと結合する機能、好ましくはsema3Eと結合してその作用を阻害する機能を挙げることができる。
【0074】
「配列相同性」とは、通常、塩基配列またはアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0075】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと配列相同性を有するポリペプチドとして、例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらにより好ましくは1個〜10個、またさらに好ましくは1個〜5個、またさらに好ましくは1個のアミノ酸の変異、例えば欠失、置換、付加または挿入といった変異を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドが例示できる。アミノ酸の変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するポリペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと実質的に同質の機能を有するものである限り特に制限されない。
【0076】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと配列相同性を有するポリヌクレオチドには、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの塩基配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、さらにより好ましくは1個〜5個、またさらに好ましくは1個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるポリヌクレオチドが含まれる。好ましくは、このようなポリヌクレオチドであって、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの生物学的機能と実質的に同質の機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが望ましい。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するポリヌクレオチドが配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと同様の構造的特徴を有し、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされるポリヌクレオチドと実質的に同質の生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。
【0077】
変異を有するポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」と略称する)などを単独でまたは適宜組合せて使用できる。例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(Ulmer, K.M. Science 219, 666-71 (1983))を利用することもできる。ポリペプチドの場合、変異の導入において、当該ポリペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0078】
ポリペプチドの製造は、遺伝子工学的手法、化学合成、および無細胞タンパク質合成により実施できる。ポリペプチドは、製造された後に、さらに精製して用いることができる。
【0079】
ポリペプチドの製造は、該ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列情報に基づいて一般的な遺伝子工学的手法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;Ulmer, K.M. Science 219, 666-71 (1983);エールリッヒ(Ehrlich, H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス)により実施できる。例えば、該ポリペプチドの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞から常法に従ってcDNAライブラリーをまず調製する。次いで、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイゼーションするプライマーを使用して、該cDNAライブラリーから所望のcDNAを取得することができる。得られたcDNAの発現誘導を公知の遺伝子工学的手法を利用して行うことにより、該ポリペプチドを取得できる。ポリペプチドの取得は、具体的には例えば、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを適当な宿主にトランスフェクションして取得した形質転換体を培養し、次いで得られた培養物から該蛋白質を回収することにより実施できる。形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で実施できる。培養は、形質転換体中または形質転換体外に産生されたポリペプチド自体あるいはその機能を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。ポリペプチドが形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して該蛋白質を抽出する。また、ポリペプチドが形質転換体外に分泌される場合には、培養液自体、または遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液が使用される。
【0080】
配列表の配列番号1に記載のポリペプチド、および該ポリペプチドとIgG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドの製造は、具体的には、特許文献1に記載の方法に準じて実施することができる。
【0081】
ポリペプチドの製造はまた、一般的な化学合成法により製造できる。ポリペプチドの化学合成方法として、例えば、固相合成方法や液相合成方法等が知られているがいずれも利用できる。かかる蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含する。上記蛋白質合成法において利用される縮合法も常法に従って実施できる。縮合法として、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、およびウッドワード法等を例示できる。
【0082】
ポリペプチドの精製および/または分離は、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により実施できる。分離操作方法として、硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーおよび透析法等の公知の方法を例示できる。これら方法は単独でまたは適宜組合せて使用できる。好ましくは、ポリペプチドのアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作製し、該抗体により特異的に吸着する方法、例えば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティークロマトグラフィーが推奨される。
【0083】
ポリヌクレオチドの取得は、ポリヌクレオチドの配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;Ulmer, K.M. Science 219, 666-71 (1983);エールリッヒ(Ehrlich, H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス)により容易に実施できる。
【0084】
ポリヌクレオチドの取得は、具体的には、ポリヌクレオチドの発現が確認されている適当な起源から、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該cDNAライブラリーから所望のクローンを選択することにより実施できる。cDNAの起源として、所望のポリヌクレオチドの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞を例示できる。これら起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施できる。cDNAライブラリーから所望のクローンを選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を利用できる。例えば、所望のポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイゼーションするプローブやプライマー等を使用して所望のクローンを選択できる。具体的には、所望のポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイゼーションするプローブを使用するプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等やこれらを組合せた方法等を例示できる。所望のポリヌクレオチドの取得には、PCRによるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35-)、特に5'−RACE法(Frohman, M.A. et al. Proceedings of The National Academy of Sciences of The United Statesof America 85, 23, 8998-9002 (1988))等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、ポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により得ることができる。増幅させたDNA/RNAの単離精製は、常法、例えばゲル電気泳動法等により実施できる。ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。代表的なベクターDNAとして、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを例示できる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド等を例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージを例示できる。ウイルス由来のベクターDNAとして、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを例示できる。ベクターDNAには、所望の遺伝子の機能が発揮されるように該遺伝子を組込むことが必要であり、少なくとも所望の遺伝子とプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列を組合せて自体公知の方法によりベクターDNAに組込むことができる。かかる遺伝子配列として、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー(ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等)等を例示できる。これらから選択した1種類または複数種類の遺伝子配列をベクターDNAに組込むことができる。ベクターDNAに所望の遺伝子を組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、所望の遺伝子を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼにより再結合する方法が利用できる。あるいは、所望の遺伝子に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組換えベクターが取得できる。宿主として、適当な原核生物および真核生物をいずれも使用できる。適当な原核生物として、大腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobiummeliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を例示できる。適当な真核生物として、酵母、昆虫細胞および哺乳動物細胞等の動物細胞を例示できる。酵母は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)を例示できる。昆虫細胞は、Sf9細胞やSf21細胞を例示できる。哺乳動物細胞は、サル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞等)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH2細胞、ヒトHeLa細胞、ヒトFL細胞およびヒト293細胞を例示できる。好ましくは哺乳動物細胞が使用される。より好ましくはヒト由来細胞が使用される。ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用され、例えば成書に記載されている標準的な方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)により実施できる。より好ましい方法として、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法を例示できるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballisticintroduction)および感染等の方法を例示できる。
【0085】
本発明に係る薬剤は、必要に応じて、耐糖能増強作用を有する化合物、例えばポリペプチドおよび/または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む医薬組成物として製造することができる。また、本治療方法は、耐糖能増強作用を有するポリペプチドおよび/または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに投与することを含むことができる。
【0086】
本発明に係る薬剤は、必要に応じて、医薬用に許容される担体(医薬用担体)を含む医薬組成物として製造できる。
【0087】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースを例示できる。これらは、本薬剤の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組み合わせて使用される。その他、安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤等を適宜使用することもできる。安定化剤は、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等およびそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。緩衝剤は、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを例示できる。キレート剤は、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸を例示できる。
【0088】
本発明に係る薬剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0089】
本発明に係る薬剤の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg乃至100mg程度、好ましくは約0.1μg乃至1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1回乃至数回に分けて投与することができる。あるいは、血糖値の上昇時に投与するといった投与形態をとることも可能である。
【0090】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。本発明に係る薬剤は、経口経路および非経口経路のいずれによっても投与できる。非経口経路としては、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内等への投与を挙げることができる。さらに、経粘膜投与または経皮投与を実施することができる。
【0091】
剤形は、特に限定されず、種々の剤形とすることができる。例えば、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。また本発明に係る薬剤は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0092】
具体的には、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができる。非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤等の注射剤;経皮投与または貼付剤、軟膏またはローション;口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤;ならびに経鼻投与のためのエアゾール剤;坐剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0093】
経口用固形製剤を調製する場合は、上記有効成分に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等を、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等を、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等を、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等を例示できる。
【0094】
経口用液体製剤を調製する場合は、上記化合物に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等を挙げることができる。
【0095】
注射剤を調製する場合は、上記化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等を挙げることができる。安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸等を挙げることができる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等を挙げることができる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が例示できる。
【0096】
本発明において、ポリヌクレオチドを有効成分として使用する場合は、ポリヌクレオチド自体の代わりに、該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターまたは該組換えベクターでトランスフェクションされてなる形質転換体を使用することもできる。
【0097】
本発明において、ポリヌクレオチドを用いるときは、遺伝子治療を利用して、当該ポリヌクレオチドを対象中の細胞内で生成させてもよい。また、遺伝子治療の対象から細胞を採取し、in vitroで当該ポリヌクレオチドを細胞内で生成させた後、当該細胞を対象に投与することもできる。遺伝子治療は公知の方法が利用でき、例えば、ポリヌクレオチドを注射により直接投与する非ウイルス性のトランスフェクション法、あるいはウイルスベクターを利用したトランスフェクション法のいずれも適用することができる。非ウイルス性のトランスフェクション法においては、ポリヌクレオチドを注射により直接投与する方法のほか、ポリヌクレオチドをリポソーム等のリン脂質小胞に封入し、そのリポソームを投与する方法が推奨される。リポソームとしては、カチオン性リポソームの使用がより好ましい。また、非ウイルス性のトランスフェクション法として、非ウイルス性遺伝子発現ベクターに当該ポリヌクレオチドを組み込み、注射により直接投与する方法のほか、該ベクターをリポソーム等のリン脂質小胞に封入して投与する方法を用いることができる。ウイルスベクターを使用するトランスフェクション法において、ポリヌクレオチドを組込んでトランスフェクションに使用するウイルスベクターとして、好ましくはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター等のDNAウイルスベクター、あるいはRNAウイルスベクターが挙げられる。これらウイルスベクターを用いることにより、所望のポリヌクレオチドの効率良い発現が可能である。さらに、ウイルスベクターを用いるトランスフェクション法においても、該ベクターをリポソームに封入して、そのリポソームを投与する方法が推奨される。
【0098】
本発明の治療剤を遺伝子治療剤として用いる場合は、一般的には、注射剤、点滴剤、あるいはリポソーム製剤として調製することが好ましい。遺伝子治療剤が、遺伝子が導入された細胞を含む形態に調製される場合は、該細胞をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態等に調製することもできる。また、プロタミン等の遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調整することもできる。遺伝子治療剤として用いる場合、本医薬組成物は、1日に1回または数回に分けて投与することができ、1日から数週間の間隔で間歇的に投与することもできる。投与の方法は、一般的な遺伝子治療法で用いられている方法に従うことができる。
【0099】
本発明はまた、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法に関する。sema3Eの機能には、sema3Eとその特異的受容体プレキシンD1との結合が関与する。すなわち、sema3Eの機能の阻害は、sema3EとプレキシンD1との結合の阻害、またはsema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現の阻害によっても実施できる。したがって、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法は、sema3Eとその特異的受容体プレキシンD1との結合を阻害する化合物、またはsema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を阻害する化合物を指標にして実施することもできる。
【0100】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定は、具体的には例えば、sema3EとプレキシンD1との結合を測定することのできる実験系を用いて実施できる。実験系はin vitroおよびin vivoのいずれの実験系でもよいが、in vitroの実験系が簡便であり好ましく使用できる。
【0101】
sema3EとプレキシンD1との結合を測定することのできる実験系において、sema3EとプレキシンD1の結合を可能にする条件下で、sema3Eおよび/またはプレキシンD1と被検化合物を接触させ、ついで、sema3EとプレキシンD1の結合を測定する。被検化合物の存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合を被検化合物非存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合と比較することにより、被検化合物によるsema3EとプレキシンD1の結合の変化、例えば低減または消失を検出することができる。被検化合物の存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合が、被検化合物非存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合と比較して低減または消失した場合、該被検化合物にはsema3EとプレキシンD1の結合を阻害する作用があると判定できる。すなわち、sema3EとプレキシンD1の結合を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択することにより、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物を同定できる。
【0102】
sema3EとプレキシンD1との結合を測定することのできる実験系おいて、sema3Eとして、可溶性タンパク質を用いることができ、また、sema3Eをコードするポリヌクレオチドを含む細胞、好ましくは培養細胞の細胞膜に発現したタンパク質を用いることができる。該細胞は、sema3Eをコードするポリヌクレオチド含むベクターを適当な培養細胞にトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。このような形質転換体の作成は、sema3Eをコードするポリヌクレオチドを用いて一般的遺伝子工学的手法により実施できる。
【0103】
sema3EとプレキシンD1との結合の測定は、一般的な医薬品スクリーニングシステムで用いられている様々な結合解析方法を利用して実施できる。例えば、sema3EとプレキシンD1との結合反応を行い、sema3EとプレキシンD1との結合により形成される複合体と、結合していない遊離のsema3EおよびプレキシンD1を分離し、該複合体をイムノブロッティング等の公知の方法によって検出することにより実施できる。また、例えば、固相化したプレキシンD1とsema3Eとの結合反応を行い、その後、プレキシンD1に結合したsema3Eを、抗sema3E抗体を用いて検出することにより、sema3EとプレキシンD1の結合を測定できる。sema3Eに結合した抗sema3Eは、標識物質で標識した二次抗体を用いて検出できる。あらかじめ標識物質で標識化した抗sema3E抗体を用いて、プレキシンD1に結合したsema3Eを検出することもできる。あるいは、あらかじめ所望の標識物質で標識化したsema3Eを用いてプレキシンD1との結合反応を行い、該標識物質を検出することにより、sema3EをとリガンドプレキシンD1の結合を測定できる。標識物質として、一般的な結合解析方法で用いられている物質がいずれも利用でき、例えば、His-tag、Myc-tag、HA-tag、FLAG-tagまたはXpress-tag等のタグペプチド類、蛍光色素類、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)、ビオチン、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、放射性同位体元素等が例示できる。あるいは、sema3EとプレキシンD1との結合を阻害する化合物の同定は、ビアコアシステム(BIACORE system)等の表面プラズモン共鳴センサー、シンチレーションプロキシミティアッセイ法(Scintillation proximity assay;SPA)、または蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence resonance energy transfer;FRET)を応用した方法を用いて実施できる。
【0104】
より具体的には、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定として、下記工程を含む方法を例示できる:
(1)被検化合物をsema3Eおよび/またはプレキシンD1と接触させる工程、
(2)sema3EとプレキシンD1の結合を測定する工程、
(3)sema3EとプレキシンD1の結合を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【0105】
この方法は、工程(2)と工程(3)の間に、被検化合物の存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合を被検化合物非存在下におけるsema3EとプレキシンD1の結合と比較する工程をさらに含むことができる。
【0106】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定はまた、例えば、sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定することのできる実験系を用いて実施できる。実験系はin vitroおよびin vivoのいずれの実験系でもよいが、in vitroの実験系が簡便であり好ましく使用できる。
【0107】
sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定することのできる実験系においてsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドと被検化合物を接触させ、ついで、sema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を測定する。被検化合物の存在下におけるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を被検化合物非存在下におけるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現と比較することにより、被検化合物によるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現の変化、例えば低減または消失を検出することができる。被検化合物の存在下におけるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現が、被検化合物非存在下におけるsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現と比較して低減または消失した場合、該被検化合物にはsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する作用があると判定できる。すなわち、sema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択することにより、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物を同定できる。
【0108】
sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定することのできる実験系では、好ましくはsema3Eおよび/またはプレキシンD1を発現する細胞、好ましくは培養細胞を用いる。該細胞は、sema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチド含むベクターを適当な培養細胞にトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。このような形質転換体の作成は、sema3Eをコードするポリヌクレオチドを用いて一般的遺伝子工学的手法により実施できる。
【0109】
発現の測定は、ポリヌクレオチドよりコードされるポリペプチドを、公知のタンパク質検出法、例えばウエスタンブロッティング等により直接的に検出することにより実施できる。または、発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより実施できる。シグナルとして、His-tag、Myc-tag、HA-tag、FLAG-tagまたはXpress-tag等のタグペプチド類、蛍光色素類、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)等を使用できる。
【0110】
sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定することのできる実験系にまた、sema3Eをコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、sema3Eをコードするポリヌクレオチドの代わりにレポーター遺伝子を連結したベクター、および/または、プレキシンD1をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、プレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを適当な培養細胞にトランスフェクションして得られた形質転換体を用いることができる。このような形質転換体と被検化合物とを接触させ、レポーター遺伝子の発現の有無および変化を測定することにより、sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を検出できる。被検化合物の存在下におけるポリヌクレオチドの発現が、被検化合物非存在下におけるポリヌクレオチドの発現と比較して低減または消失した場合、該被検化合物にはsema3Eをコードするポリヌクレオチドおよび/またはプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する作用があると判定できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用でき、例えば、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素活性を有する遺伝子を例示できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
【0111】
より具体的には、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定として、下記工程を含む方法を例示できる:
(1)被検化合物をsema3Eおよび/またはプレキシンD1を発現する細胞と接触させる工程、
(2)sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定する工程、
(3)sema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を阻害する被検化合物を、sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【0112】
この方法は、工程(2)と工程(3)の間に、被検化合物の存在下におけるsema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を被検化合物非存在下におけるsema3Eおよび/またはプレキシンD1の発現と比較する工程をさらに含むことができる。
【0113】
sema3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定はまた、例えば、sema3Eの耐糖能障害作用を測定することのできる実験系を用いて実施できる。実験系はinvitroおよびin vivoのいずれの実験系でもよいが、invitroの実験系が簡便であり好ましく使用できる。
【0114】
sema3Eの耐糖能障害作用を測定することのできる実験系では、sema3Eの受容体プレキシンD1および耐糖能増強作用を有するポリペプチドの受容体を発現している細胞、好ましくは培養細胞が用いられる。該細胞は、sema3Eの受容体であるプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドおよび/または耐糖能増強作用を有するポリペプチドの受容体をコードするポリヌクレオチドを適当な培養細胞にトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。このような形質転換体の作成は、sema3Eの特異的受容体であるプレキシンD1をコードするポリヌクレオチドおよび/または耐糖能増強作用を有するポリペプチドの受容体をコードするポリヌクレオチドを用いて一般的遺伝子工学的手法により実施できる。耐糖能増強作用を有するポリペプチドの受容体を発現している細胞に、該受容体のリガンドである耐糖能増強作用を有するポリペプチドを接触させ、その結果生じる該細胞の増殖等を測定することにより、該ポリペプチドの耐糖能増強作用を検出できる。また、耐糖能増強作用を有するポリペプチドと共に、sema3Eを該細胞に作用させることにより、該ポリペプチドによる耐糖能の増強に対するsema3Eの抑制作用を検出することができる。
【0115】
被検化合物は、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、あるいはsema3またはプレキシンD1の一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等を用いることができる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
まず、本実施例で使用した材料および方法について説明する。
【0118】
≪I.RNA分析≫
総RNA30μgはGTC(guanidium thiocyanate-phenol chloroform)法によりRNAzol B(Tel Test社製)を用いて、製造業者の使用説明書に従って細胞から抽出した。相補的DNAはSuperScript First-Strand SynthesisSystem(Invitrogen社製)を用いてRT-PCR用に作製した。定量的リアルタイムPCR(Quantitative real Time PCR)は、LightCycler(Roche社製)とTaqman Universal ProbeLibraryおよびLightCyclerMaster(Roche社製)を用いて、製造業者の使用説明書に従って実施した。
【0119】
≪II.実験動物≫
動物実験は千葉大学実験動物倫理審査委員会の許諾の下に実施した。マウスとしては、SLC Japanより購入したC57BL/6マウスを用いた。また、C57BL/6を背景とするsema3Eノックアウトマウスの作製方法および遺伝子型は、既報に記載されている(Gu, C. etal. Semaphorin 3E and plexin-D1 control vascular pattern independently ofneuropilins. Science 307, 265-8 (2005).)。
【0120】
≪III.統計解析≫
データは平均値±標準誤差で表示した。多群比較は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)に続くボンフェローニ法により平均値を比較して実施した。2群間の比較は、対応のないスチューデントt検定(unpaired Student's t-test)により分析した。p<0.05の値は、統計的に有意と考えられる。
【0121】
以下、具体的な実施例およびその結果について説明する。
【0122】
≪1.2型糖尿病モデルマウス(Ayマウス)および高脂肪高ショ糖食マウス(HFHSDマウス)の組織におけるSema3Eの発現≫
2型糖尿病モデルマウスであるAyマウス、および高脂肪高ショ糖食を8週間与えた高脂肪高ショ糖食マウス(HFHSD(High-Fat and High-Sucrose Diet)mice;このマウスもインスリン抵抗性、および耐糖能異常を示す)について、それらの骨格筋、および内臓脂肪組織を採取し、Sema3Eの発現を定量的リアルタイムPCR法にて調べた。
【0123】
Ayマウスについての結果を図1Aに示し、HFHSDマウスについての結果を図1Bに示す。図1Aおよび図1Bに示すように、Ayマウスの骨格筋およびHFHSDマウスの骨格筋の双方において、野生型マウスと比較して有意にSema3Eの発現が上昇していた(Ayマウス:p=0.01; HFHSDマウス:p<0.01)。また、図1Bに示すように、HFHSDマウスでは脂肪組織においても、Sema3Eの発現が上昇している傾向にあった(p=0.09)。
【0124】
≪2.AyマウスおよびHFHSDマウスの組織におけるPlexinD1の発現≫
上記1.でSema3Eの発現を調べたAyマウス、およびHFHSDマウスの骨格筋、および脂肪組織におけるPlexinD1(Sema3Eの受容体)の発現を、上記1.と同様に、定量的リアルタイムPCR法にて調べた。
【0125】
Ayマウスについての結果を図2Aに示し、HFHSDマウスについての結果を図2Bに示す。図2Aおよび図2Bに示すように、Ayマウスの骨格筋およびHFHSDマウスの骨格筋の双方において、野生型マウスと比較してPlexinD1の発現が上昇している傾向にあった(Ayマウス:p=0.28; HFHSDマウス:p=0.13)。
【0126】
≪3.Sema3Eが糖代謝に及ぼす影響(糖負荷試験(普通食))≫
上記1.の結果において、AyマウスおよびHFHSDマウスの双方の骨格筋でSema3Eの発現の上昇がみられたことを受けて、かようなSema3Eの発現の上昇が生体での代謝に何らかの影響を及ぼしていないかを調べる目的で、糖負荷試験(GTT;Glucose Tolerance Test)を行った。具体的には、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して糖負荷試験を行った。なお、糖負荷試験を行う際には、各マウスに対して普通食を給餌した。
【0127】
結果を図3に示す。図3に示すように、Sema3Eヘテロ欠失マウスにおいては、野生型マウスと比較して、糖負荷後の血糖値の上昇が有意に抑制されていた。このことから、Sema3Eがマウスでの糖代謝に影響を及ぼしていることが示唆された。
【0128】
≪4.Sema3Eが糖代謝に及ぼす影響(糖負荷試験(高脂肪高ショ糖食))≫
上記3.の結果を受けて、Sema3Eのヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)、および野生型マウス(WT)に対して、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えることによりインスリン抵抗性を生じさせ、その後に糖負荷試験を行った。
【0129】
結果を図4A〜図4Cに示す。図4Aは、HFHSD負荷前に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである(つまり、図3に示すのと同様の結果である)。図4Bは、HFHSD負荷4週後に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。図4Cは、HFHSD負荷8週後に糖負荷試験を行った結果を示すグラフである。HFHSD負荷によりインスリン抵抗性が生じることから、これによって糖負荷後の血糖値の上昇がみられる。しかし、Sema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)においては、野生型マウス(WT)と比較して、図4A〜図4Cに示すいずれの時点においても血糖値の上昇が抑制されていた。このことから、Sema3Eは高脂肪高ショ糖によるインスリン抵抗性やこれによる糖尿病の発症に対して正に寄与していることが示唆された。
【0130】
≪5.Sema3EがHFHSD負荷による体重、内臓脂肪、血清インスリン値、およびインスリン抵抗性の変動に及ぼす影響≫
上記4.においてHFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、体重、内臓脂肪、血清インスリン値(IRI;ImmunoReactive Insulin)を比較した。その結果を図5A(体重)、図5B(内臓脂肪)、および図5C(血清インスリン値(IRI))にそれぞれ示す。図5A〜図5Cに示すように、これらのパラメータではSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で有意な差は確認されなかった。むしろ、内臓脂肪(図5B)についてはSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)で多い傾向にあった。なお、図5Bの縦軸は、マウスの体重に占める内臓脂肪の重量割合(%)を示す。
【0131】
同様に、上記4.においてHFHSD負荷を行ったSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)と野生型マウス(WT)との間で、インスリン負荷による血糖値の低下を指標として、インスリン抵抗性を比較した。結果を図5Dに示す。図5Dに示すように、インスリン負荷による血糖値の低下はSema3Eヘテロ欠失マウス(Sema3E +/-)で有意に大きく、インスリン抵抗性はSema3E欠失マウス(Sema3E +/-)で有意に改善していることがわかった。
【0132】
≪6.小括≫
以上の結果から、糖尿病ではSema3E、およびPlexinD1の発現が上昇し、そのことが糖代謝異常(耐糖能障害)を引き起こしている可能性が示唆された。このような結果を受けて、Sema3Eを抑制すると糖代謝異常(耐糖能障害)が改善するのではないかという仮説を設定し、当該仮説を検証することを目的として、以下の実験を行った。
【0133】
≪7.plexinD1-Fc投与が糖代謝(耐糖能)に及ぼす影響≫
図6に示す実験プロトコールに基づき、野生型マウス(WT)にSema3Eを抑制するplexinD1-Fcの発現ベクタープラスミドを週1回、100μgを計8回(8週間)筋注し、その間に高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えて、糖負荷試験によって耐糖能をコントロールとの間で比較する実験を行った。なお、当該実験のための予備実験として、筋注の実験系において有意に、マウス血中のplexinD1-Fcの抗体価が上昇することをELISA法により確認した。
【0134】
図6に示す実験プロトコールをより詳細に説明すると、具体的には、4週齢の野生型マウス(WT)に8週間、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えて4週おきに糖負荷試験を行い、血糖値の上昇を評価した。その結果を図7A(HFHSD投与前)、図7B(HFHSD投与4週後)、および図7C(HFHSD投与8週後)にそれぞれ示す。図7Aと図7Bおよび図7Cとの比較から、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えたマウスでは、普通食のマウスに比べて有意に、糖負荷後の血糖値の上昇がみられた(Normal chow対plexinD1Fcおよびcontrol)。その一方で、plexinD1-Fcを筋注してSema3Eを抑制した群(plexinD1Fc)では、コントロール(control)に比べて8週後の血糖値が有意に抑制されていた。この結果は、Sema3Eを抑制することが耐糖能異常を改善させることを示唆するものであると考えられた。
【0135】
≪8.plexinD1-Fc投与がHFHSD負荷による体重、血清インスリン値、およびインスリン抵抗性の変動に及ぼす影響≫
上記7.におけるそれぞれの群のマウスについて、上記5.と同様の手法により、体重、血清plexinD1-Fc抗体価、血清インスリン値(IRI)、およびインスリン抵抗性を比較した。その結果を図8A(体重)、図8B(血清plexinD1-Fc抗体価)、図8C(血清インスリン値(IRI))、および図8D(インスリン抵抗性)にそれぞれ示す。まず、図8Bに示すように、血清plexinD1-Fc抗体は、plexinD1-Fcの発現ベクタープラスミドを筋注した群(plexinD1Fc)においてのみ検出された。また、図8Aに示すように、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を与えると普通食の場合と比較して体重の増加が顕著にみられるが、plexinD1Fc群ではコントロールと比較して、体重の増加が穏やかであった。さらに、図8Cに示すように血清インスリン値に有意な差は認められなかったが、インスリン抵抗性はplexinD1Fc群で有意に改善が認められた(図8Dの「Fc」)。
【0136】
≪9.plexinD1-Fc投与がHFHSD負荷による内臓脂肪量の変動に及ぼす影響≫
上記7.におけるそれぞれの群のマウスについて、腹部の断面CT画像を撮影し、内臓脂肪の量を評価した。結果を図9Aおよび図9Bに示す。図9Aは、各群のマウスについて撮影された腹部CT画像である。ここで、図9Aでは画像が縦2列に表示されているが、これらはそれぞれ、各群における異なる2つのマウス個体について、同様の撮像を行った結果を示すものである。さらに、図9Aに示すCT画像において、白色の領域は骨を示し、黒色の領域は脂肪組織(内臓脂肪)を示し、灰白色の領域は筋肉その他の組織を示す。また、図9Bは、各群のマウスにおける内臓脂肪の量を比較したグラフである。なお、図9Bの縦軸は、マウスの体重に占める内臓脂肪の重量割合(%)を示す。そしてこの割合は、CT撮影により得られた各断面のそれぞれにおいて算出される内臓脂肪の領域の面積を、撮像の掃引方向に積分して得られる脂肪量の、体重に占める割合として算出されたものである。図9Aおよび図9Bに示すように、普通食(NC)に比して高脂肪高ショ糖食負荷マウス(control)では有意に内臓脂肪の増量がみられたが、plexinD1-Fcを筋注した高脂肪高ショ糖負荷マウス(plexin Fc)では内臓脂肪の蓄積がcontrolよりも有意に減少していた。
【0137】
≪10.総括≫
上述した結果から、高脂肪高ショ糖食負荷のインスリン抵抗性肥満マウスモデル(2型糖尿病モデルマウス)においては、Sema3Eの発現が骨格筋、および脂肪組織で上昇しており、それが耐糖能障害に寄与していることが示唆された。
【0138】
そして、上昇したSema3EをplexinD1-Fcによって抑制することにより、内臓脂肪の蓄積が減少し、インスリン抵抗性が改善することによって血糖値の上昇が抑制される、つまり耐糖能が改善することがわかった。これにより、Sema3Eが糖尿病の病態生理に関わっていること、およびそれを抑制することが新たな糖尿病治療の標的となり得ることが示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0139】
〔配列番号:1〕
マウスプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列である。
〔配列番号:2〕
配列番号:1に記載のマウスプレキシンD1の膜外領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の群から選ばれるポリペプチドを含む、糖尿病の治療剤:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項2】
下記の群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、糖尿病の治療剤:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む、糖尿病の治療剤。
【請求項4】
配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを含む、糖尿病の治療剤。
【請求項5】
前記糖尿病が、2型糖尿病である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項6】
下記の群から選ばれるポリペプチドを含む、耐糖能増強剤:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項7】
下記の群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、耐糖能増強剤:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む、耐糖能増強剤。
【請求項9】
配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを含む、耐糖能増強剤。
【請求項10】
下記の群から選ばれるポリペプチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項11】
下記の群から選ばれるポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法。
【請求項13】
配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法。
【請求項14】
前記糖尿病が、2型糖尿病である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項15】
下記の群から選ばれるポリペプチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項16】
下記の群から選ばれるポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項17】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法。
【請求項18】
配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法。
【請求項19】
糖尿病の治療剤の製造における、下記の群から選ばれるポリペプチドの使用:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項20】
糖尿病の治療剤の製造における、下記の群から選ばれるポリヌクレオチドの使用:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項21】
糖尿病の治療剤の製造における、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドの使用。
【請求項22】
糖尿病の治療剤の製造における、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドの使用。
【請求項23】
下記の工程を含む、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法:
(1)被検化合物をセマフォリン3Eおよび/またはプレキシンD1と接触させる工程、
(2)セマフォリン3EとプレキシンD1の結合を測定する工程、
(3)セマフォリン3EとプレキシンD1の結合を阻害する被検化合物を、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【請求項24】
プレキシンD1が培養細胞に発現されているプレキシンD1である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
下記の工程を含む、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法:
(1)被検化合物をセマフォリン3Eおよび/またはプレキシンD1を発現する細胞と接触させる工程、
(2)セマフォリン3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定する工程、
(3)セマフォリン3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を阻害する被検化合物を、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【請求項1】
下記の群から選ばれるポリペプチドを含む、糖尿病の治療剤:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項2】
下記の群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、糖尿病の治療剤:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む、糖尿病の治療剤。
【請求項4】
配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを含む、糖尿病の治療剤。
【請求項5】
前記糖尿病が、2型糖尿病である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項6】
下記の群から選ばれるポリペプチドを含む、耐糖能増強剤:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項7】
下記の群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、耐糖能増強剤:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む、耐糖能増強剤。
【請求項9】
配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを含む、耐糖能増強剤。
【請求項10】
下記の群から選ばれるポリペプチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項11】
下記の群から選ばれるポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法。
【請求項13】
配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、糖尿病の治療方法。
【請求項14】
前記糖尿病が、2型糖尿病である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項15】
下記の群から選ばれるポリペプチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項16】
下記の群から選ばれるポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項17】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法。
【請求項18】
配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、耐糖能の増強方法。
【請求項19】
糖尿病の治療剤の製造における、下記の群から選ばれるポリペプチドの使用:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸の変異を有するポリペプチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドを含むポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド、および
(v)前記(i)から(iii)のいずれかのポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチド。
【請求項20】
糖尿病の治療剤の製造における、下記の群から選ばれるポリヌクレオチドの使用:
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列で表される前記(vi)のポリヌクレオチド、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(ix)配列番号2に記載の塩基配列において、1乃至30個のヌクレオチドの変異を有するポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(x)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであって、かつセマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(xi)前記(vi)から(ix)のいずれかのポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドであって、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項21】
糖尿病の治療剤の製造における、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドとの融合ポリペプチドの使用。
【請求項22】
糖尿病の治療剤の製造における、配列番号2に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとイムノグロブリンG1のFc部分のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの融合ポリヌクレオチドの使用。
【請求項23】
下記の工程を含む、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法:
(1)被検化合物をセマフォリン3Eおよび/またはプレキシンD1と接触させる工程、
(2)セマフォリン3EとプレキシンD1の結合を測定する工程、
(3)セマフォリン3EとプレキシンD1の結合を阻害する被検化合物を、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【請求項24】
プレキシンD1が培養細胞に発現されているプレキシンD1である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
下記の工程を含む、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物の同定方法:
(1)被検化合物をセマフォリン3Eおよび/またはプレキシンD1を発現する細胞と接触させる工程、
(2)セマフォリン3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を測定する工程、
(3)セマフォリン3Eおよび/またはプレキシンD1の発現を阻害する被検化合物を、セマフォリン3Eの耐糖能障害作用を阻害する効果を有する化合物として選択する工程。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9A】
【図9B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9A】
【図9B】
【公開番号】特開2012−87066(P2012−87066A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232400(P2010−232400)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
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