糖新生関連遺伝子の転写因子のリン酸化阻害方法およびリン酸化阻害剤。
【課題】糖新生関連遺伝子の転写因子のリン酸化阻害方法およびリン酸化阻害剤を提供する。
【解決手段】転写因子であるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)がRSKBによりリン酸化され、糖新生関連遺伝子のプロモーター領域への結合を促進させることを見出し、RSKBによるHNF−4αのリン酸化方法;リン酸化阻害方法;リン酸化阻害剤;HNF−4αが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害剤および産生阻害方法;RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患の防止剤および/または治療剤並びに防止方法および/または治療方法;RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物の同定方法;該同定方法で得られた化合物;さらに、RSKB、HNF−4α、HNF−4αをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターを含んでなる試薬キットを提供した。
【解決手段】転写因子であるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)がRSKBによりリン酸化され、糖新生関連遺伝子のプロモーター領域への結合を促進させることを見出し、RSKBによるHNF−4αのリン酸化方法;リン酸化阻害方法;リン酸化阻害剤;HNF−4αが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害剤および産生阻害方法;RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患の防止剤および/または治療剤並びに防止方法および/または治療方法;RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物の同定方法;該同定方法で得られた化合物;さらに、RSKB、HNF−4α、HNF−4αをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターを含んでなる試薬キットを提供した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(hepatocyte nuclear factor 4α、以下HNF−4αと略称する。)のリン酸化方法、リン酸化剤、リン酸化阻害方法およびリン酸化阻害剤に関する。より具体的にはリボソームS6キナーゼB(ribosomal S6 kinase B、以下RSKBと略称する。)を用いることを特徴とするHNF−4αのリン酸化方法およびリン酸化剤に関する。また、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法およびリン酸化阻害剤に関する。さらに、HNF−4αが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生阻害方法および産生阻害剤に関する。また、HNF−4αのリン酸化に起因する疾患、例えば糖尿病の防止方法および/または治療方法並びに防止剤および/または治療剤に関する。さらに、HNF−4αのRSKBによるリン酸化を阻害する化合物の同定方法および該同定方法により同定された化合物に関する。また、RSKB、HNF−4αをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターを含んでなる試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓はグルコースの恒常性維持にとって重要な臓器であり、グルコースを産生する糖新生(gluconeogenesis)とグルコースからグリコーゲンを生成するグリコーゲン合成(glycogenesis)によって生体内のグルコース量のバランスを保っている。糖尿病患者では、肝臓での過剰なグルコース産生が起こっており、それが高血糖症の原因の一つとされている(非特許文献1)。
【0003】
糖新生はピルビン酸からグルコースを合成する経路であり、そのほとんどが肝臓で行われる。糖新生を進める一連の酵素群の中で、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(phosphoenol pyruvate carboxy kinase、以下PEPCKと略称する)は糖新生の律速酵素と考えられている(非特許文献2〜7)。肝臓中のPEPCKの活性はPEPCK遺伝子からの転写量によって制御されている。この転写はホルモンで調節されており、グルココルチコイドはPEPCKの転写を促進し(非特許文献8)、インスリンは抑制する(非特許文献4、6、8)。さらにPEPCK遺伝子のmRNAの半減期は40分と短く、その転写量は数時間単位で劇的に増減する(非特許文献3)。これによりPEPCKの酵素活性、糖新生、さらには血糖値が調節される(非特許文献3)。糖尿病病態時の肝臓では、グルココルチコイドによりPEPCK遺伝子の発現が増加しており、糖新生が亢進している(非特許文献8および9)。
【0004】
糖尿病は1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病、IDDM)と2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病、NIDDM)に分類される。2型糖尿病はさらにインスリン分泌低下が主体の糖尿病、インスリンは分泌されているが標的細胞でのグルコースに対するインスリン感受性の低下が主体の糖尿病に分けられ、後者は特にインスリン抵抗性と言われている。インスリンの標的組織は肝臓、脂肪、筋肉であり、肝臓の糖新生と糖放出の抑制により血糖値が下がる。高血糖の持続により肝臓のインスリン感受性が低下し、インスリン依存性の糖新生抑制作用が期待できなくなる。しかしながら、高血糖持続による肝臓のインスリン感受性低下メカニズムは未だ明らかにされておらず、インスリンレセプターのダウンレギュレーションなどが想定されている。
【0005】
HNF−4αは核内レセプターの一つであり、肝臓、膵臓のβ細胞、腎臓および小腸で発現し、コレステロール、脂肪酸およびグルコースなどの代謝や肝臓の発生および分化に関与する蛋白質をコードする種々の遺伝子の転写因子であることが知られている。糖新生関連では、HNF−4αはPEPCK遺伝子のプロモーターに存在するAF−1領域に結合し、PEPCK遺伝子の発現に関与している(非特許文献16)。転写因子はリン酸化によりDNA結合能が変化することが分かっている(非特許文献17)が、HNF−4αは、PKA(cAMP依存性プロテインキナーゼ、cAMP−dependent protein kinase)によりリン酸化され、L型ピルビン酸キナーゼのプロモーターに対する結合能が低下するとの報告がある(非特許文献10)。
【0006】
RSKBは、ストレス応答型MAPK(マイトージェン活性化キナーゼ、mytogen activated kinase)であるp38キナーゼファミリーにより活性化されるキナーゼで、核に分布する(非特許文献11)。p38キナーゼは色々な病態において活性化される(非特許文献12)。糖尿病病態下、持続的に高血糖に曝されている細胞では、活性酸素による酸化ストレスからp38キナーゼが活性化される(非特許文献13および14)。例えば、高血糖下(16.5mM)で培養された血管平滑筋細胞(非特許文献15)や糖尿病モデル動物のob/obマウスの肝臓でp38キナーゼの活性化が報告されている(非特許文献29)。
【非特許文献1】「Nature」2001年,第 413巻,第13号,p.131−138。
【非特許文献2】「日本臨床」2002年、第60巻、増刊7号、p. 121−128。
【非特許文献3】「J.Biol.Chem.」1982年,第257巻,第13号,p.7629−7636。
【非特許文献4】「Nature」1983年,第305巻,第5934号,p.549−551。
【非特許文献5】「Biochem. J.」1974年,第138巻,p.387−394。
【非特許文献6】「Mol. Endocrinol.」1993年,第7巻,第11号,p.1456−1462。
【非特許文献7】「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」1994年,第91巻,p.9151−9154。
【非特許文献8】「J.Biol.Chem.」1993年,第268巻,第17号,p.12952−12957。
【非特許文献9】「Lab.Anim.Sci.」1993年,第42巻,p.473−477。
【非特許文献10】「Mol Cell Biol.」1997年,第17巻,第8号,p.4208−4219。
【非特許文献11】「J.Biol.Chem.」1998年,第273巻,第45号,p.29661−29671。
【非特許文献12】「Crit Care Med」2000年,第28巻,N67−77。
【非特許文献13】「日本臨床」2002年、第60巻、増刊号7、p.395−398。
【非特許文献14】「Endocr Rev」2002年、第23巻、第5号、p.599−622。
【非特許文献15】「J. Clin. Invest.」1999年,第103巻,p.185−195。
【非特許文献16】「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」1995年,第92巻,p.412− 416。
【非特許文献17】「Cell」1992年,第70巻,第3号,p.375−387。
【非特許文献18】「Mol.Cell.Biol.」1988年,第8巻,p.3467−3475。
【非特許文献19】「J.Biol.Chem.」1995年,第270巻,p.8225−8232。
【非特許文献20】「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」1994年, 第91巻,p.5647−5651。
【非特許文献21】「Science」1995年,第269巻,p.1108−1112。
【非特許文献22】「J.Biol.Chem.」1997年,第272巻,p.26306−26312。
【非特許文献23】「J.Biol.Chem.」2000年,第275巻,p.5804−5809。
【非特許文献24】「Mol Endocrinol.」1999年,第13巻,p.604−618。
【非特許文献25】「J.Biol.Chem.」1999年,第274巻,第9号,p.5880−5887。
【非特許文献26】「Diabetes」1989年,第38巻,p.550−557。
【非特許文献27】「Annu Rev Biochem.」1997年,第66巻,p.581−611。
【非特許文献28】「J.Biol.Chem.」2002年,第277巻,第35号,p.32234−32242。
【非特許文献29】「Mol Endocrinol.」2003年,第17巻,第6号,p.1131−1143。
【非特許文献30】「J.Biol.Chem.」2004年,[Epub ahead of pront]。
【非特許文献31】Ulmer,K.M.「Science」1983年,第219巻,p.666−671
【非特許文献32】「ペプチド合成」(日本国)、丸善株式会社、1975年。
【非特許文献33】「ペプチド合成(Peptide Synthesis)」(米国)、インターサイエンス、1996年。
【非特許文献34】「J.Biol.Chem.」2000年,第275巻,第31号,p.23549−23558。
【非特許文献35】「Mol. Endocrinol.」1999年,第13巻,p.604−618。
【非特許文献36】「DNA」1989年,第8巻,p.127−133。
【非特許文献37】「Mol. Endocrinol.」1990年,第4巻,第9号,p1302−1310。
【非特許文献38】「Diabetes」2001年,第50巻,p.131−138。
【非特許文献39】「Arch Biochem Biophys.」1995年,第323巻,第2号,p477−483。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PEPCK遺伝子の転写を調節するHNF−4αをリン酸化することにより、PEPCKプロモーター領域への結合能を促進させる物質を見出し、PEPCK遺伝子の転写量増加により引起こされる疾患、例えば、糖尿病の防止手段および/または治療手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意努力し、RSKBによってHNF−4αがリン酸化されることを見出した。さらに、HNF−4αはRSKBによりリン酸化されることでPEPCKプロモーター領域のAF1部位への結合能が促進され、かかる促進によりPEPCK遺伝子の転写活性が亢進することを実証し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1.リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を相互作用を可能にする条件下で共存させることを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化方法、
2.リボソームS6キナーゼB(RSKB)の活性を阻害することを特徴とする、RKSBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害方法、
3.リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)との相互作用を阻害することを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法、
4.少なくともリボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)とを発現している細胞を、RSKB活性の阻害剤で処理することを特徴とするRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法、
5.リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤が、RSKBを認識する抗体、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を認識する抗体から選ばれる1つまたは2つ以上の抗体である前項4に記載のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法、
6.リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤を有効量含むことを特徴とするRSKBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害剤、
7.リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)との相互作用を阻害することを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤、
8.リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性を阻害することを特徴とする、RSKBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害剤、
9.リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤が、RSKBを認識する抗体、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を認識する抗体から選ばれる1つまたは2つ以上の抗体である前項8に記載のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤、
10.ヘパトサイトヌクレアーファクター4αをリボソームS6キナーゼBを用いてリン酸化することを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法、
11.糖新生関連遺伝子がホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子である前項10に記載の糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法、
12.リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化を阻害することを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
13.リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化を阻害することを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
14.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
15.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4αが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
16.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
17.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化に起因する疾患の防止方法および/または治療方法、
18.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止方法および/または治療方法、
19.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止方法および/または治療方法、
20.前項2から5のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法、
21.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法、
22.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の産生阻害剤、
23.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる医薬組成物、
24.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止剤および/または治療剤、
25.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、糖尿病の防止剤および/または治療剤、
26.リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)の相互作用を阻害する化合物の同定方法であって、RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件下、RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBとHNF−4αの相互作用を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在および/または変化を検出することにより、被検化合物がRSKBとHNF−4αの相互作用を阻害するか否かを決定する同定方法、
27.リボソームS6キナーゼB(RSKB)によるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化を阻害する化合物の同定方法であって、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を可能にする条件下、RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在および/または変化を検出することにより、被検化合物がRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害するか否かを決定する同定方法、
28.リボソームS6キナーゼB(RSKB)、RSKBをコードするポリヌクレオチドおよびRSKBをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうち少なくともいずれか1つと、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)、HNF−4αをコードするポリヌクレオチドおよび該HNF−4αをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つを含んでなるキット、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明において、RSKBによりリン酸化されたHNF−4αがPEPCK遺伝子のプロモーター領域のAF1に結合することを見出した。これよりRSKBによるHNF−4αのリン酸化方法、リン酸化阻害方法およびリン酸化阻害剤が提供される。糖尿病病態時では、RSKBにより活性化されたHNF−4αはPEPCK遺伝子の転写活性を促進することで、糖新生を亢進させ、高血糖を悪化させると考えている。したがって、本発明が提供するRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤および/またはリン酸化阻害方法により、HNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の産生阻害、例えばPEPCK遺伝子の遺伝子産物の産生阻害が可能となる。また、HNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止および/または治療が可能となる。具体的には、PEPCK遺伝子産物の増加に起因する疾患、より具体的には糖尿病などの防止および/または治療が可能である。このように本発明は、糖新生関連遺伝子発現に関与するHNF−4αの過剰なリン酸化に起因する疾患の防止および/または治療のために非常に有用である。
【0011】
さらに、本発明によるRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤および/またはリン酸化阻害方法により、インスリンの効果が期待できない2型糖尿病のインスリン抵抗性患者の肝臓における糖新生を抑制でき、高血糖を抑制させる作用を有すると考えている。近年、糖尿病治療薬としてインスリン抵抗性改善薬が開発されおり、その代表例として、チアゾリジンジオン誘導体が臨床の場で用いられている。チアゾリジンジオン誘導体は、脂肪組織におけるインスリン感受性の低い大型脂肪細胞をインスリン感受性の高い小型脂肪細胞に変化させる作用を有する。しかしながら、本発明のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤とチアゾリジンジオン誘導体とは、標的臓器が異なっている。また、膵臓のβ細胞が崩壊し、血中インスリン量が低下している糖尿病の末期患者においては、インスリンによるPEPCK遺伝子の抑制効果は減少していると考えられる。したがって、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害し、PEPCK遺伝子の遺伝子産物の産生を抑制することは、インスリン非依存的に血糖降下作用を奏する可能性があり非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書中で使用されている技術的および科学的用語は、別途定義されていない限り、当業者により普通に理解されている意味を持つ。本明細書中では当業者に既知の種々の方法が参照されている。以下、本発明について、発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。以下の詳細な説明は例示であり、説明のためのものに過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【0013】
本明細書においては、アミノ酸を1文字表記または3文字表記することがある。また、ペプチドとは、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合により互いに結合している2個またはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドを意味する。さらにペプチドは、オリゴマーと称する単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドなどの短鎖ペプチド、並びに単離された若しくは合成の完全長ポリペプチドや単離された若しくは合成の完全長蛋白質などの長鎖ペプチドをも意味する。
【0014】
本発明では、RSKBと相互作用する蛋白質を国際公開第WO01/67299号公報に記載の方法に従って予測し、その結果、RSKBがHNF−4αと相互作用することを見出した。また、RSKBがHNF−4αをリン酸化すること、RSKBによりリン酸化されたHNF−4αはPEPCK遺伝子プロモーター領域のAF1へのその結合が促進する結果、PEPCK遺伝子の転写が上昇することを初めて明らかにした。
【0015】
PEPCKプロモーターにはGRU(グルココルチコイド応答ユニット、glucocorticoid response unit)と呼ばれる領域が存在し、AF1(アクセサリー因子結合部位1、accessory factor binding site1)、GR1,2(グルココルチコイドレセプター結合部位、glucocorticoid receptor binding site)、AF2(アクセサリー因子結合部位2、accessory factor binding site 2)およびCRE(サイクリックAMP応答配列、cAMP responive element)が存在する。PEPCK遺伝子を効率よく発現させるために、これらの領域が必要と考えられている。
【0016】
RSKBによりリン酸化されPEPCKプロモーターに結合する転写因子としては、CREB(サイクリックAMP応答配列結合蛋白質、cAMP responsive element binding protein)がある。CREBはPEPCKプロモーターのCREに結合する転写因子である(非特許文献19)。CREはPEPCKプロモーターに存在し、PEPCK遺伝子発現を正に調節している領域である(非特許文献18)。CREに結合してPEPCK遺伝子を正に調節する遺伝子としては、CREBとC/EBP(CCAAT/エンハンサー結合蛋白質、CCAAT/enhancer binding protein)が報告されている(非特許文献19)。
【0017】
RSKBはCREBをリン酸化し、リン酸化されたCREBはCREを有するプロモーターの転写活性を亢進する(非特許文献11)。したがって、RSKBが活性化された場合、HNF−4αを介することなくCREBがリン酸化され、PEPCKプロモーターのCREにCREBが結合し、PEPCK遺伝子の発現が促進される可能性がある。しかしながら、生体内で実際にPEPCKプロモーターのCREを調節しているのはCREBではなくC/EBPであり(非特許文献20〜23)、C/EBPがRSKBによりリン酸化されるという報告はない。
【0018】
また、PEPCKプロモーター領域において、AF1の置換欠失によりPEPCKプロモーターの転写活性はコントロール(野生型PEPCKプロモーター)の約4分の1以下に低下する(非特許文献24)。これに対し、CREの置換欠失によっては、PEPCKプロモーターの転写活性はコントロールの2分の1程度にまでしか低下しない(非特許文献25)。このことから、HNF−4αが結合するAF1はPEPCK遺伝子の発現により影響を与える配列であり、他のPEPCKプロモーター領域の配列であるCRE1よりもより影響を与える遺伝子発現調節の重要な因子であると考えた。さらに、本明細書の実施例の図11で示されるように、HNF−4αによる転写活性が影響しないPEPCKΔAF1プロモーターを用いて細胞内RSKBを活性化させたが(MAPK11とRSKBの共発現)、PEPCK遺伝子の転写活性はほとんど促進されなかった。したがって、生体内においては、RSKBによるPEPCK遺伝子の発現調節はHNF−4αを介していると考えている。
【0019】
インスリン非依存性糖尿病患者のPEPCKによる糖新生能は、正常人より約3倍亢進しており、この糖新生能は患者の空腹時血漿中グルコース濃度と相関していることが報告されている(非特許文献26)。PEPCK遺伝子の転写はホルモンによって制御されており、グルココルチコイド(glucocolticoid)により亢進され、インスリン(insulin)により抑制される(非特許文献8および27)。インスリンはPEPCKプロモーターにおいて転写調節因子であるLIP(肝特異的転写抑制蛋白質、liver enriched transcriptional inhibitory protein)を介してPEPCK遺伝子の転写を抑制することで肝臓での糖新生をコントロールしている(非特許文献28)。また、インスリン刺激がPEPCKプロモーターに直接作用して転写活性を抑制するという報告もある(非特許文献6および37)。したがって、正常の肝臓ではPEPCK遺伝子の発現はインスリンによって抑制的に支配されているが、何らかの理由でPEPCK遺伝子の過剰発現が持続すると、肝臓での糖新生が亢進し高血糖となり、インスリン耐性になると糖尿病となると考えられる。
【0020】
RSKBは上流のキナーゼであるp38により活性化される。また、RSKBはCREB(cAMP responive element binding protein)をリン酸化する。従って、RSKBの活性化はp38の活性化およびCREBのリン酸化を指標にすることができる。糖尿病モデル動物の肝臓では、p38のリン酸化型(活性型p38)は正常個体のそれに比べ約2.5〜3倍増加しており、CREBのリン酸化型も約2倍増加するとの報告がある(非特許文献29および30)。これらのことから、発明者は糖尿病病態下の肝臓では、酸化ストレス等によりp38キナーゼが活性化し、続いてRSKBが活性化すると考えた。
【0021】
PEPCKの活性制御はmRNAレベルで調節されている。肝細胞を用いた実験から、PEPCK遺伝子のmRNA量が2倍増加すると酵素活性は2.8倍増加し、さらに糖新生能は2.1倍亢進することが報告されている(非特許文献6)。マウスでは肝臓での糖新生能が約2.5倍亢進すると、血糖値は2倍上昇し(非特許文献7)、ヒトでは血糖値が2.5倍高い糖尿病患者ではPEPCKによる糖新生能が正常人より3倍亢進している(非特許文献26)。すなわち、PEPCKのmRNA量、酵素活性、糖新生能および血糖値上昇はそれぞれ良好な相関を示している。
【0022】
発明者は、RSKBの活性化による血糖値上昇の程度を次のように考えた。RSKBによるHNF−4αのリン酸化がCREBと同程度であると仮定すると、糖尿病病態時のRSKBによる肝臓中HNF−4αのリン酸化は正常時よりも2倍程度亢進していると推定された。実施例の結果を示す図9、10、12から、HNF−4αのPEPCK遺伝子プロモーター転写活性化能はRSKBによりリン酸化されることで約2〜3倍亢進する。PEPCK遺伝子のプロモーター活性をmRNA量に置き換えると、糖尿病病態時ではRSKBの活性化によりPEPCK遺伝子のmRNA量は約2〜3倍増加していると考えた。PEPCK遺伝子のmRNA量の増加は上記で述べたようにそのまま酵素活性に反映され、糖新生能亢進、血糖値の上昇を招く。このことにより、糖尿病病態時において、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害すれば、肝臓中のPEPCK遺伝子のmRNA量は2分の1〜3分の1程度に抑制されると考えた。これによりPEPCKの酵素活性は3分の1程度、糖新生能は2分の1程度に減少すると推定され、その結果、血糖値は病態時の半分程度に減少することとなる。従って糖尿病病態時においてRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害し、PEPCK遺伝子の遺伝子産物の産生を調節することにより、糖尿病の治療が可能となると考えた。
【0023】
これら知見により達成した本発明の一態様は、RSKBを用いることを特徴とするHNF−4αのリン酸化方法に関する。RSKBによるリン酸化の検出は、RSKBとHNF−4αを接触させた後にウェスタンブロッティング法などの公知方法により実施可能である。
【0024】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化方法は、RSKBとHNF−4αを共存させることを特徴とする。また、RSKBとHNF−4αとを共存させることを特徴とするRSKBによるHNF−4αのリン酸化系の構築およびその利用もできる。
【0025】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化方法およびリン酸化系は、インビトロであってよく、インビボの系であってもよい。具体的には、RSKBとHNF−4αを、例えば試験管やマルチウエルプレート内で共存させてリン酸化させるリン酸化方法およびリン酸化系が例示できる。あるいは、RSKBとHNF−4αを共発現させた細胞を用いたリン酸化方法およびリン酸化系を例示できる。
【0026】
発現に用いる細胞は蛋白質発現に使用されている細胞が使用可能である。具体例として、HeLa細胞、HepG2細胞等が例示できる。これら蛋白質の発現は、公知の遺伝子工学的手法を用いて実施することができる。
【0027】
本発明で使用するRKSBおよびHNF−4αは、これら1つまたは2つ以上を遺伝子工学的手法で発現させた細胞、無細胞系合成産物、化学合成産物、または該細胞や生体試料から調製したものであってよく、これらからさらに精製されたものであってもよい。また、これら蛋白質は、それらのN末端側やC末端側に別の蛋白質やペプチドなどを、直接的にまたはリンカーペプチドなどを介して間接的に、遺伝子工学的手法などを用いて付加することにより標識化したものであってもよい。標識化は、RSKBとHNF−4αとの相互作用およびこれら蛋白質の機能、例えばRSKBとHNF−4αの接触、RSKBの酵素活性およびHNF−4αの機能などが阻害されない方法が望ましい。
【0028】
標識物質としては、例えば酵素類(グルタチオン S−トランスフェラーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたはβガラクトシダーゼなど)、タグペプチド類(His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tagなど)、蛍光蛋白質類〔グリーン蛍光蛋白質、フルオレセインイソチオシアネート(fluoresceinisothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)など〕、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片、またはビオチンなどが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは放射性同位元素による標識も可能である。標識化するとき、1種類の標識物質を付加してもよいし複数を組み合わせて付加することもできる。これら標識物質自体またはその機能を測定することにより、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出することが可能である。
【0029】
遺伝子導入に用いるRSKBおよびHNF−4αをコードする遺伝子はヒトcDNAライブラリーから自体公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。これら遺伝子を適当な発現ベクターDNA、例えば細菌プラスミド由来のベクターなどに自体公知の遺伝子工学的手法で導入し、上記遺伝子を含有するベクターを得て、遺伝子の導入に利用することができる。遺伝子導入は、自体公知の遺伝子工学的手法を用いて実施可能である。
【0030】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化剤、リン酸化方法、およびリン酸化系は、HNF−4αの機能解明やHNF−4αが関与する転写因子ネットワークについての研究、およびHNF−4αのリン酸化に起因する疾患、例えば糖尿病におけるHNF−4αやRSKBの関与についての分子レベルでの研究などに有用である。また、当該リン酸化方法およびリン酸化系を用いて、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物の同定方法を構築することも可能である。
【0031】
本発明の別の一態様は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤および阻害方法に関する。当該阻害剤および阻害方法は、RSKB活性を阻害すること、またはRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害すること、あるいは、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害することを特徴とする。
【0032】
RSKB活性の阻害またはRSKBによるHNF−4αのリン酸化の阻害は例えばRSKBの酵素活性を阻害することにより実施できる。本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤は、一態様においてRSKB活性を阻害する効果を有する化合物(RSKB活性阻害剤)の少なくとも1つを合成することを特徴とする。本発明にかかる阻害剤および阻害方法を適用する対象物としては、少なくともRSKBとHNF−4αとを含む対象物、例えば少なくともこれらを含む生体外試料が挙げられる。また、少なくともRSKBとHNF−4αを発現している細胞、例えば肝臓細胞、並びにかかる細胞を担持している非ヒト哺乳動物なども当該対象物に含まれる。
【0033】
RSKB活性の阻害剤としては、拮抗阻害効果を有するペプチド類、抗体、および低分子化合物などが例示できる。抗体としては、RSKBまたはHNF−4αを認識して結合する抗体であって、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する抗体が挙げられる。抗体はRSKBまたはHNF−4α自体、これら由来の部分ペプチド、あるいはこれらが相互作用する部位のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として自体公知の抗体作成法により得ることができる。低分子化合物としては、RSKBの酵素活性を阻害する化合物、好ましくは該酵素活性を特異的に阻害する化合物が挙げられる。かかる化合物は、例えば、本発明に係るリン酸化方法またはリン酸化系を利用して、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害するか否かを同定することにより得ることができる。RSKBの酵素活性を特異的に阻害するとは、RSKBの酵素活性を強く阻害するが、他の酵素の活性は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。
【0034】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化の阻害はまた、RSKBとHNF−4αとの相互作用を阻害することによっても実施できる。RSKBによりHNF−4αがリン酸化されるのは、RSKBとHNF−4αが相互作用している一態様と考えられる理由による。相互作用とは、蛋白質間の非共有結合力による相互作用をいい、一時的な結合、可逆的結合、不可逆的結合などが挙げられる。
【0035】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤は、一態様において、RSKBとHNF−4αとの相互作用を阻害する化合物の少なくとも1つを活性成分として有効量含んでなる。
【0036】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化の阻害方法は、一態様において、RSKBとHNF−4αとの相互作用を阻害する化合物の少なくとも1つを用いることを特徴とする。
【0037】
RSKBとHNF−4αとの相互作用の阻害は、例えば両蛋白質が相互作用する部位のアミノ酸配列からなるペプチドを用いて実施可能である。かかるペプチドとして、HNF−4αのアミノ酸配列においてRSKBによりリン酸化される部位のアミノ酸配列を含むペプチドが例示できる。かかるペプチドは、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を競合的に阻害すると考えられる。RSKBとHNF−4αとの相互作用の阻害はまた、RSKBとHNF−4αの相互作用部位のアミノ酸配列からなるペプチドを用いて実施可能である。
【0038】
上記ペプチドは、RSKBまたはHNF−4αのアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成方法により合成したものから、RSKBによるHNF−4αのリン酸化および/またはRSKBと該転写因子の相互作用を阻害するものを選択することにより得ることができる。
【0039】
このように特定されたペプチドに1個乃至数個のアミノ酸の欠失、置換、付加、または挿入などの変異を導入したものも、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害する限りにおいて、本発明の範囲に包含される。このような変異を導入したペプチドは、さらにはRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害するものが好ましい。
【0040】
変異を有するペプチドは天然に存在するものであってよく、また変異を導入したものであってもよい。欠失、置換、付加または挿入などの変異を導入する手段は自体公知であり、例えばウルマーの技術(非特許文献31)を利用できる。このような変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能または免疫学的活性など)を変化させないという観点から、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸など)の間での相互置換は容易に想定される。
【0041】
RSKBとHNF−4αとの相互作用を阻害し得るペプチドは、その構成アミノ基またはカルボキシル基などを、例えばアミド化修飾するなど、機能の著しい変更を伴わない程度に改変が可能である。特に、ペプチドと他の蛋白質との相互作用を安定化し、ペプチドを解離し難くするために通常よく使用される修飾、例えばC末端のアルデヒド化またはN末端のアセチル化などの修飾は、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害するペプチドの有効性を高めるために有用である。
【0042】
上記ペプチドは、ペプチド化学において知られる一般的な方法で製造できる。例えば、公知文献に記載の方法(非特許文献32および33)が例示されるが、これらに限らず公知の方法が広く利用可能である。
【0043】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤は、その一態様において、HNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、HNF−4αのRSKBによるリン酸化阻害剤、およびRSKB活性の阻害剤の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなる。このとき、HNF−4αのリン酸化の阻害剤は、HNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、HNF−4αのRSKBによるリン酸化阻害剤、およびRSKBの活性阻害剤の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなる阻害剤であることができる。また、HNF−4αに対するかかる阻害物質を複数組合せて含有する阻害剤であることもできる。より具体的には、例えばHNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、HNF−4αのRSKBによるリン酸化阻害剤、RSKBの活性阻害剤の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなることが好ましい。
【0044】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法は、その一態様において、HNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、HNF−4αのRSKBによるリン酸化阻害剤、およびRSKBの活性阻害剤の少なくとも1つを用いることを特徴とする。このとき、RSKBによるHNF−4αのリン酸化の阻害方法においては、HNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤、およびRSKB活性阻害剤の少なくとも1つを用いることができ、また、各転写因子に対するかかる阻害化合物を複数組合せて用いることもできる。より具体的には、例えばHNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤、RSKBの活性阻害剤の少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0045】
HNF−4αはその機能の一つにおいて、肝臓における転写因子として糖新生関連遺伝子発現に関与していることが知られている。糖新生関連遺伝子とは、生体において糖新生を調節している物質をコードする遺伝子のことであり、例えばPEPCK遺伝子が挙げられる。糖尿病病態時におけるHNF−4αの活性化は糖新生をさらに亢進し、高血糖を悪化させる原因になると考えられる。
【0046】
本発明のまた別の一態様は、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の産生調節方法に関する。本発明に係る糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の産生調節方法は、それらをコードする遺伝子の発現に係るHNF−4αのRSKBによるリン酸化を調節して、該遺伝子の遺伝子産物の産生を調節することを特徴とする。
【0047】
糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生調節方法の一態様は、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の産生阻害方法であり、該遺伝子発現に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害することを特徴とする。当該産生阻害方法は具体的には、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤またはRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法を使用することにより達成できる。上記リン酸化阻害剤を含んでなる、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進剤も本発明の範囲に包含される。
【0048】
糖新生関連遺伝子発現に係るHNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、HNF−4αの結合部位をプロモーターまたはエンハンサー内に有する遺伝子の遺伝子産物が挙げられる。具体的には、HNF−4αが作用する遺伝子として、RSKBによりリン酸化されたHNF−4αの結合部位であるAF1をプロモーターまたはエンハンサー内に有する遺伝子、例えばPEPCK遺伝子が挙げられる。
【0049】
本発明のさらに別の一態様は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患の防止剤および/または治療剤、並びに当該疾患の防止方法および/または治療方法に関する。当該疾患の防止剤および/または治療剤は、上記リン酸化阻害剤を含んでいる。当該疾患の防止方法および/または治療方法は、上記リン酸化阻害剤または上記リン酸化阻害方法を使用することにより達成できる。
【0050】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患としては、例えばHNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患が挙げられる。例えばRSKBによりリン酸化されたHNF−4αはPEPCK遺伝子上流の転写部位への結合を促進させ、該遺伝子の遺伝子産物産生に寄与している。
【0051】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患として具体的には、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患、例えばPEPCK遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患などが例示できる。より具体的には、糖新生異常による疾患、例えば糖尿病などが挙げられる。
【0052】
本発明のまた別の一態様は、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害する化合物の同定方法に関する。該同定方法は、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して構築可能である。また、本発明に係るリン酸化系またはリン酸化方法を利用して、該同定方法が実施可能である。
【0053】
本発明の被検化合物としては、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、またはRSKBおよびHNF−4αの一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物などが挙げられる。あるいは、HNF−4αとRSKBの相互作用部位および/またはRSKBによるHNF−4αのリン酸化部位のペプチドの構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物なども被検化合物として好適である。
【0054】
具体的には、RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件を選択し、当該条件下でRSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBとHNF−4αの相互作用を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害する化合物を同定できる。RSKBとHNF−4αの相互作用の検出は、自体公知の検出方法、例えばウェスタンブロッティング法などを用いて実施できる。
【0055】
RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件は、インビトロの系であってよく、インビボの系であってもよい。例えば、RSKBと当該転写因子を共発現させた細胞を用いることもできる。RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物の接触は、RSKBとHNF−4αの相互作用反応の前に行なってもよいし、相互作用反応に共存させることにより行なってもよい。
【0056】
本発明においてシグナルとは、そのもの自体がその物理的または化学的性質により直接検出され得るものを指し、マーカーとはそのものの物理的または生物学的性質を指標として間接的に検出され得るものを指す。
【0057】
シグナルとしてはルシフェラーゼ、グリーン蛍光蛋白質、および放射性同位体など、マーカーとしては、レポーター遺伝子、例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子など、または検出用のエピトープタグ、例えば6×His−tagなど、一般的に化合物の同定方法に用いられている標識物質であれば、いずれも用いることができる。これらシグナルまたはマーカーは、単独で使用してもよく、2つ以上を組合せて用いてもよい。これらシグナルまたはマーカーの検出方法は当業者に周知のものである。
【0058】
本発明の別の一態様は、RSKBによる糖新生関連遺伝子発現に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物の同定方法に関する。該同定方法は、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して構築可能である。また、本発明に係るリン酸化系またはリン酸化方法を利用して、該同定方法が実施可能である。
【0059】
具体的には、RSKBによる糖新生関連遺伝子発現に係るHNF−4αのリン酸化を可能にする条件を選択し、当該条件下でRSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物を同定できる。
【0060】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化を可能にする条件は、インビトロであってよく、インビボの系であってもよい。例えば、RSKBと当該転写因子を共発現させた細胞を用いることもできる。RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物の接触は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化反応の前に行なってもよいし、リン酸化反応に共存させることにより行なってもよい。RSKBによるHNF−4αのリン酸化は、簡便にはリン酸化型HNF−4α量の存在若しくは不存在および/または変化の測定により検出できる。
【0061】
リン酸化型HNF−4α量の定量は、自体公知の蛋白質またはペプチドの検出方法、例えばウェスタンブロッティング法などを用いて実施できる。あるいは、RSKBによるHNF−4αのリン酸化の検出は、HNF−4α活性の存在若しくは不存在および/または変化の測定により行なうことができる。具体的には、例えば、HNF−4αがPEPCK遺伝子に作用するときには、HNF−4αとRSKBとを発現している細胞に、PEPCK遺伝子のプロモーター領域をその上流に組み込んだレポーター遺伝子を含むプラスミドをトランスフェクションし、被検化合物とこの細胞を接触させた場合のレポーター遺伝子の発現量を、当該被検化合物と接触させなかった場合のレポーター遺伝子の発現量と比較することにより、所望の化合物の同定を行なうことができる。
【0062】
その他、RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件を選択し、当該条件下でRSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBとHNF−4αの相互作用を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物を同定できる。RSKBとHNF−4αの相互作用の検出は、自体公知の検出方法、例えばウェスタンブロッティング法などを用いて実施できる。
【0063】
かかる同定方法で得られた化合物は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤あるいはHNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害剤として利用可能である。RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤またはHNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害剤は、生物学的有用性と毒性のバランスを考慮して選別することにより、医薬組成物として調製可能である。医薬組成物の調製において、これら阻害剤は、単独で使用することもできるし、複数を組合せて使用することも可能である。
【0064】
本発明に係る医薬組成物は、通常は1種または2種以上の医薬用担体を用いて製造することが好ましい。医薬用担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤などの希釈剤や賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択使用される。例えば水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。これらは、本発明に係る剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合せて使用される。所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜使用して調製することもできる。
【0065】
本発明に係る医薬組成物は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患の防止剤および/または治療剤として使用することができる。また、当該疾患の防止方法および/または治療方法に使用することができる。具体例としては、糖尿病の防止方法および/または治療方法に使用することができ、より好ましくはインスリン非依存性糖尿病の防止方法および/または治療方法に使用することができる。
【0066】
医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断などに応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg乃至100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いて用量を変更することができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0067】
本発明に係る医薬組成物を投与するときには、該医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
【0068】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状などに応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与のほか、皮下、皮内、筋肉内などへの投与を挙げることができる。あるいは経口による投与も可能である。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。
【0069】
投与形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリンなどの包接体、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態が含まれる。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
【0070】
散剤、丸剤、カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトールなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いて製造できる。錠剤やカプセルを製造するには、固体の製薬担体が用いられる。
【0071】
懸濁剤は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトースなどの糖類、種々の分子量のポリエチレングリコール(PEG)などのグリコール類、油類を使用して製造できる。
【0072】
注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液、または塩水とグルコース溶液の混合物からなる担体を用いて調製可能である。
【0073】
リポソーム化は、例えばリン脂質を有機溶媒(クロロホルムなど)に溶解した溶液に、当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液を加えた後、溶媒を留去し、これにリン酸緩衝液を加え、振とう、超音波処理および遠心処理した後、上清をろ過処理して回収することにより行い得る。
【0074】
脂肪乳剤化は、例えば当該物質、油成分(大豆油、ゴマ油、オリーブ油などの植物油、MCTなど)、乳化剤(リン脂質など)などを混合、加熱して溶液とした後に、必要量の水を加え、乳化機(ホモジナイザー、例えば高圧噴射型や超音波型など)を用いて、乳化・均質化処理して行い得る。また、これを凍結乾燥化することも可能である。なお、脂肪乳剤化するとき、乳化助剤を添加してもよく、乳化助剤としては、例えばグリセリンや糖類(例えばブドウ糖、ソルビトール、果糖など)が例示される。
【0075】
シクロデキストリン包接化は、例えば当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液に、シクロデキストリンを水などに加温溶解した溶液を加えた後、冷却して析出した沈殿をろ過し、滅菌乾燥することにより行い得る。このとき、使用されるシクロデキストリンは、当該物質の大きさに応じて、空隙直径の異なるシクロデキストリン(α、β、γ型)を適宜選択すればよい。
【0076】
本発明のさらに別の一態様は、RSKB、RSKBをコードするポリヌクレオチド、RSKBをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つと、HNF−4α、HNF−4αをコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つとを含んでなる試薬キットに関する。当該試薬キットは、例えば本発明に係る同定方法に使用可能である。
【0077】
また、上記ペプチドおよび上記同定方法で得られた化合物からなる試薬およびこれらを含む試薬キットも本発明の範囲に包含される。試薬キットは、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出するためのシグナルおよび/またはマーカー、これらの検出剤、反応希釈液、緩衝液、洗浄剤および反応停止液など、測定の実施に必要とされる物質を含むことができる。さらに、安定化剤および/または防腐剤などの物質を含んでいてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質それぞれに応じた製剤化手段を導入すればよい。これら試薬および試薬キットは、例えばRSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患、例えば糖尿病におけるHNF−4αやRSKBの関与についての分子レベルでの研究などに有用である。
【0078】
HNF−4αのリン酸化を阻害することによる糖尿病の予防および/または治療を行えることを確認するためには、以下のような実験を行えばよい。糖尿病モデル動物のZDFラットは、肝臓中のPEPCKの発現量が正常に比べ2.4倍増加していることが知られている(非特許文献38)。このモデル動物のRSKB活性化によるHNF−4αのリン酸化を、1)肝臓中HNF−4αのリン酸化量と2)肝臓中RSKBの活性化量をまず調べ、RSKB活性化を阻害するリン酸化阻害剤であるH−89(N−[2−((p−ブロモシンナミル)アミノ)エチル]−5−イソキノリンスルホナマイド;N−[2−((p−Bromocinnamyl)amino)ethyl]−5−isoquinolinesulfonamide)(非特許文献34)を用い、モデル動物個体群の血中グルコース濃度を判定すればよい。血中グルコース濃度は前述したように約半分に減少する。
【0079】
上記、肝臓中の1)HNF−4αのリン酸化量は、HNF−4αを免疫沈降して抗リン酸化抗体を用いてリン酸化の程度を検出すればよく、2)RSKBの活性化量は、抗活性化型RSKB抗体を作成し免疫沈降するか、抗RSKB抗体で免疫沈降し、インビトロのキナーゼ活性測定をすればよい。
【実施例】
【0080】
実施例1
(RSKBと相互作用する蛋白質のインシリコでの探索)
RSKBと相互作用する蛋白質を、国際公開第W001/67299号公報に記載の予測方法に従ってインシリコ(in silico)で予測した。すなわち、RKSBのアミノ酸配列をある長さのオリゴペプチドに分解し、各オリゴペプチドのアミノ酸配列あるいはそのアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を持った蛋白質をデータベース中で検索し、得られた蛋白質とRSKBとの間でローカルアライメントを行い、ローカルアライメントのスコアの高いものをRSKBと相互作用すると予測した。ここではローカルアライメントのスコアを国際公開第W001/67299号公報に記載の方法と同様に、25.0以上とした。
この結果、RSKB由来のアミノ酸残基からなるオリゴペプチド[CRRCRQ(配列番号10)、VSRRILK(配列番号13)]と相同性のあるオリゴペプチド[CRYCRL(配列番号11)、CRFSRQ(配列番号12)、VSIRILD(配列番号14)]がHNF−4αのアミノ酸配列中に存在することがわかった。図1に、RSKB(図中、上の配列)とHNF−4α(図中、下の配列)とのローカルアライメントの結果を示した。
【0081】
実施例2
(RSKBによるHNF−4αのリン酸化)
ヒトHNF−4αがRSKBによってリン酸化されるかを、哺乳類培養細胞にて一過性発現させたHNF−4αおよびRSKB蛋白質を用いたインビトロのリン酸化試験で検討した。なお、RSKBの活性はサイクリックAMP応答配列結合蛋白質1[cAMP responsive element binding protein1(CREB1)]にて確認し、HNF−4αをリン酸化することが知られているサイクリックAMP応答配列依存性プロテインキナーゼ[cAMP−dependent protein kinase(PKA)]をリン酸化酵素の陽性対照とした。
【0082】
<材料>
RSKB発現プラスミド(RSKB/pCMV−Tag2)を以下のように構築した。Human RSKB cDNAをHeLa細胞由来cDNA(Human HeLa Quick−clone cDNA、クローンテック社)よりPCRにより獲得し、シーケンスにより配列を確認した。その後、N末端にFLAGタグを付加させる動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag2(ストラタジーン社)に組込み、RSKB発現プラスミド(RSKB/pCMV−Tag2)を構築した。なお、クローニングしたRSKB cDNAのアミノ酸配列はNCBI proteinデータベースのアクセション番号NP_003933(登録遺伝子名はRPS6KA4)と同一である。
【0083】
HNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pcDNA 3.1/His)を以下のように構築した。ヒトHNF−4α cDNAを、ヒト脳poly A+ RNAからのRT−PCRにより獲得した。その後N末端に(6×His)−Xpressタグを付加させる動物細胞用発現プラスミド、pcDNA3.1/His(インビトロジェン社)に組み込みHNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pcDNA 3.1/His)を構築した。なお、クローニングしたHNF−4αcDNAのアミノ酸翻訳配列は、Swiss−Protデータベースのアクセッション番号P41235(登録遺伝子名はHNF4A)と同一である。
【0084】
ヒトCREB1[Human cAMP−responsive element binding protein(CREB1)]発現プラスミドを以下のように構築した。ヒトCREB1 cDNAをHeLa細胞由来cDNA(Human HeLa Quick−clone cDNA、クローンテック社)よりPCRにより獲得し、シーケンスにより配列を確認した。その後、N末端に(6×His)−Xpressタグを付加させる動物細胞用発現プラスミドpcDNA3.1/His(インビトロジェン社)に組み込み、CREB1発現プラスミド(CREB1/pcDNA3.1/His)を構築した。なお、クローニングしたCREB1 cDNAのアミノ酸配列はNCBI proteinデータベースのアクセション番号NP_004370(登録遺伝子名はCREB1)と同一である。
【0085】
RSKBの活性化と精製は以下のように行った。細胞数1.2×106のHEK293T細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(直径100mmシャーレ、4枚)、10μg/シャーレのRSKB発現プラスミド(RSKB/pCMV−Tag2)をFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。2日間培養した後、終濃度50mMとなるようにメタ亜ヒ酸ナトリウム(sodium arsenite)を培地中に添加し、37℃で30分処理して細胞を回収した。細胞を冷却したリン酸緩衝生理食塩水(−)〔以下、PBS(−)と称する。〕で洗浄後、BufferA(50mM Tris−HCl(pH7.5)/1mM EDTA/1mM EGTA/10% グリセロール/500μM DTT/ 5mM NaPPi/1mM Na3VO4/50mM NaF/1% Triton− X100)を4ml加えてよくピペッティングし、4℃で30分攪拌した。その後、終濃度150mMとなるようNaClを加え、10000g×10分(4℃)で遠心した。上清を回収し、BufferB(50mM Tris−HCl(pH7.5)/1mM EDTA/1mM EGTA/10% グリセロール/500μM DTT/5mM NaPPi/1mM Na3VO4/50mM NaF/150mM NaCl)で洗浄したFLAG M2アフィニティーゲル(シグマ社)を100μl加え、4℃で1時間転倒混和した。混和後、10倍容量のBufferBでゲルを2回洗浄し、10倍容量のBufferC(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/10% グリセロール/0.5μM DTT/150mM NaCl)で1回洗浄した。その後ゲルを400μlのBufferD(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/10% グリセロール/0.5μM DTT/150mM NaCl/0.1% NP−40/300μg/ml FLAGペプチド)で3回溶出した。溶出した各画分はCBB染色を実施し、精製度を確認するとともにBufferCによる透析をおこない、活性体RSKBとして使用まで−80℃にて保存した。図1に活性型RSKB蛋白質をCBB染色した結果を示す。
【0086】
cAMP依存性プロテインキナーゼ(cAMP−dependent protein kinase)(PKA)酵素はウシPKA(cAMP依存性プロテインキナーゼ、触媒サブユニット、プロメガ社)を使用した。
【0087】
<方法>
免疫沈降リン酸化試験は以下のように行った。細胞数7×105のHEK293T細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(直径60mmシャーレ)、5μgのHNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pcDNA3.1/His)またはCREB1発現プラスミド(CREB1/pcDNA3.1/His)をFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。2日間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、RIPA(50mM Tris−HCl(pH8.0)/150mM NaCl/1% NP−40/0.5% デオキシコール酸ナトリウム塩(deoxycholate sodium salt)/0.1% SDS)にプロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ社)を添加したものを500μl加え、ピペッティングにて細胞を懸濁し、氷上で20分間静置して細胞を溶解させた。その後、軽くボルテックスをして14,000rpm×10分間(4℃)で遠心し、上清を採取した。上清480μlにマウスIgGアガロース(シグマ社)を20μl加え、4℃で1時間転倒混和した(pre−clean)。その後、14,000rpm×1分間(4℃)で遠心を行ない、採取した上清450μlに抗Xpress抗体(インビトロジェン社)1μlを加え、4℃で1時間転倒混和した後、0.1%BSA/TBS(pH8.0)でブロッキングしたProtein G Sepharose 4 Fast Flow(アマシャム・ファルマシア・バイオテック社)を10μl加え、さらに4℃で1時間転倒混和を行なった。その後、Protein G SepharoseをRIPAで3回、kinase Buffer(セル・シグナリング社)で2回洗浄した。10μlの洗浄したProtein G Sepharoseに5μlの活性型RSKB蛋白質、3μlの10×kinase buffer(200mM HEPES(pH8.0)/12mM EDTA/600mM KCl/10mM DTT/50mM MgCl2)、2μlの100μM ATP 、0.5μlのγ32P−ATP (5μCi)、8.5μlの蒸留水を加え合計29μlとし、30℃で30分間反応させた。PKAを用いた試験では、上記と同様に調整した10μlのHNF−4α/protein G−sepharoseに、1.5μlのPKA、3μlの10×Kinase Buffer、2μlの100μM ATP、0.5μlのγ32P−ATP(5μCi)、3.5μlの10×kinase buffer、8.5μlの蒸留水を加え合計29μlとし、30℃で30分反応させた。反応は20μlの2×SDSサンプルバッファーを加え停止させ、100℃で5分加熱しSDS−PAGE試料とした。10%ゲルにて蛋白を分離し、ハイブリパックに挟み、BAS2000(富士フィルム社)の画像処理により、リン酸化の有無を確認した。
【0088】
<結果>
図3に示したように、精製されたRSKBによるCREB1蛋白のリン酸化が認められ、使用したRSKB蛋白が活性を有することが確認された。この活性型RSKB蛋白を用いてHNF−4αに対するリン酸化反応を検討した結果、RSKB依存的なリン酸化が認められ、HNF−4αはRSKBの基質であることが明らかとなった。
【0089】
実施例3
(HNF−4αのAF1配列に対するEMSA)
HNF−4αのAF1配列に対するDNA結合能に対するリン酸化の影響をelectrophoretic mobility shift assay(EMSA)により検討した。また、RSKBの特異性を検討するため、HNF−4αをリン酸化することが知られているPKAについても同様にEMSAを実施した。
【0090】
<材料>
図4に示したように、AF1プローブの合成は、ヒトPEPCK遺伝子のプロモーター領域(NCBIアクセッション番号U31519)よりHNF−4αの結合サイトであるAF1相当配列から、AF1/S/HNF4(5´−GTGACCTTTGACTA−3´)(配列番号7)及びAF1/AS/HNF4(5´−ATAGTCAAAGGTCA−3´)(配列番号8)の二本のプローブを合成した(シグマジェノシスジャパン社)。
【0091】
HNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pCMV−Tag2)は、先に構築したHNF−4α発現プラスミドHNF−4α/pcDNA 3.1/HisからEcoRIサイトで、HNF−4αのcDNA配列をN末端FLAGタグの付いた動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag2(ストラタジーン社)に組換えをおこない、発現プラスミドHNF−4α/pCMV−Tag2を構築した。
【0092】
HNF−4α蛋白の精製は以下のように行った。細胞数1.2×106のHEK293T細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(直径100mmシャーレ、4枚)、10μg/シャーレのHNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pCMV−Tag2)をFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。2日間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、4mlのBufferA(50mM Tris−HCl(pH7.5)/ 1mM EDTA/1mM EGTA/10% グリセロール/500μM DTT/5mM NaPPi/1mM Na3VO4/50mM NaF/1% Triton−X100)を加えてよくピペッティングし、4℃で30分攪拌した。その後、終濃度150mMとなるようNaClを加え、10,000g×10分(4℃)で遠心した。上清を回収し、BufferB(50mM Tris−HCl(pH7.5)/1mM EDTA/1mM EGTA/10% グリセロール/500μM DTT/5mM NaPPi/1mM Na3VO4/50mM NaF/150mM NaCl)で洗浄した100μlのFLAG M2 Affinity Gel(シグマ社)を加え、4℃で1時間転倒混和した。混和後、10倍容量のBufferBでゲルを2回、BufferC(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/10% グリセロール/0.5μM DTT/150mM NaCl)で1回洗浄した。その後ゲルを400μlのBufferD(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/10% glycerol/0.5μM DTT/150mM NaCl/0.1% NP−40/300μg/ml FLAGペプチド)で2回溶出した。溶出した各画分はそれぞれSDS−PAGEをおこない、BufferCにて透析後、CBB染色を行って精製度を確認した。図5にFLAG−HNF−4α蛋白質をCBB染色した結果を示す。
【0093】
<方法>
プローブの放射性標識化および精製は以下のようにおこなった。合成したプローブを各々100pmol/μlになるように蒸留水に溶解し、100℃で2分、38℃で1時間加熱後、自然冷却してDNAをアニールさせた。これを10倍希釈して0.5μlを分取し、1μlのT4ポリヌクレオチドキナーゼ(TOYOBO社)、6μlのγ32P−ATP(60μCi)、2μlの10×Protruding End Kinase Buffer(500mM Tris−HCl(pH8.0)/100mM MgCl2/100mM 2−メルカプトエタノール)、10.5μlの蒸留水を加え37℃で1時間インキュベートした。Protruding Endとは「突出末端」を意味し、Protruding End Kinase Bufferは、T4ポリヌクレオチドキナーゼが2本鎖DNAの突出末端の5´−末端にγATPのγ位のリン酸基を付加する際に用いるバッファーである。その後、5μlの0.25M EDTA、5μlの20mg/mlイーストRNAを加え、蒸留水で100μlとし、フェノール・クロロホルム処理、エタノール沈殿を行い、50μlのSTE(100mM NaCl/10mM Tris−HCl(pH8.0)/1mM EDTA(pH8.0))に溶解した。その後、CENTRI・SPIN 20(プリンストン・セパレーションズ社)でゲルろ過をおこない、放射性標識AF1プローブとした。
【0094】
RSKBPおよびPKAによるリン酸化処理とEMSAは以下のように行った。6.25μlのFLAG−HNF−4α蛋白質に、5μlの段階的(1×、1/2、1/4)に希釈した活性型RSKB蛋白質、2μlの10×kinase buffer(200mM HEPES(pH8.0)/12mM EDTA/600mM KCl/10mM DTT/50mM MgCl2)、4μlの1mM ATPと2.75μlの蒸留水を加え計20μlとし、30℃で30分反応させた。PKAによるリン酸化ではRSKB蛋白質の代わりに1.5μlのPKAを使用した。反応後、4μlの反応液を分取し、2μlの10×binding buffer(100mM Tris−HCl(pH7.5)/1mM EDTA/500mM NaCl/1mM DTT/50% グリセロール)、1μlの1mg/mlポリdIdC、11μlの蒸留水を混合し計18μlとし、氷上で10分反応させた。この時、一部のサンプルには抗HNF−4α抗体(C−19、SantaCruz社)1μlを添加した。その後、放射性標識AF1プローブを2μl加え、室温で20分反応させた。6%アクリルアミドゲルを0.25×TBE[0.25×EDTA含有トリスホウ酸バッファー(12.5mM Tris−HCl/12.1mM ホウ酸)]で1時間、4℃でプレラン後、各試料を15μlずつアプライして1時間50分、4℃で泳動した。その後65℃、1時間でゲルを乾燥させ、BAS2000(富士フィルム社)での画像処理により、プローブへのHNF−4αの結合の有無を確認した。
【0095】
<結果>
図6および7に示したように、RSKBにてリン酸化処理されたHNF−4αは、非処理試料に比べAF1配列に対するDNA結合能が亢進しており、またRSKBの用量依存性も確認された。一方、PKAにてリン酸化処理された試料では非処理試料と同程度の結合しかみられなかったことから、RSKB処理によるHNF−4αのDNA結合能の亢進作用は、特異的なものであることが示された。
【0096】
実施例4
(PEPCKプロモーターを用いたレポーターアッセイ)
PEPCKプロモーターにおけるHNF−4αの転写活性能におよぼすRSKBの影響をルシフェラーゼレポーターアッセイにより、HeLa細胞とHepG2細胞にて検討した。
【0097】
<材料>
RSKB発現プラスミドは、先に実施した「RSKBによるHNF−4αのリン酸化」のRSKB/pCMV−Tag2を使用した。
【0098】
ドミナントネガティブRSKB(S343A)発現プラスミド(RSKB(S343A)/pCMV−Tag2)は、343番目のセリンをアラニンに置換するとRSKBのキナーゼ活性が消失することから(非特許文献34)、RSKB/pCMV−Tag2を鋳型としてQuikChange Site−Directed Mutagenesis kit(ストラタジーン社)を用いて343番目のアミノ酸置換を実施して構築した。
【0099】
HNF−4α発現プラスミドは、先に実施した「HNF−4αのAF1配列に対するEMSA」のHNF−4α/pCMV−Tag2を使用した。
【0100】
MAPK11発現プラスミド(MAPK11/pCMV−Tag4)の構築は以下のように行った。ヒトMAPK11(p38−beta2)cDNAはヒト脳由来cDNA(Human brain whole Quick−clone cDNA、クローンテック社)よりPCRにより獲得し、シーケンスにて配列を確認した。その後、C末端にFLAGタグを付加させる動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag4(ストラタジーン社)に組み込み、MAPK11発現プラスミド(p38−beta2/pCMV−Tag4)を構築した。なお、クローニングしたMAPK11 cDNAのアミノ酸配列はSwiss−Protデータベースのアクセション番号Q15759(登録遺伝子名はMAPK11/SAPK2B)と同一である。
【0101】
PEPCK AF1プロモーター依存性ルシフェラーゼレポータープラスミド(PEPCK AF1プロモーター/pGL3)の構築は以下のように行った。ヒトPEPCK(PCK1)プロモーター領域のうちHNF−4αのシスエレメントであるAF1を含む領域(NCBIデータベースのアクセッション番号U31519の塩基配列882〜1406番目)をヒトゲノムDNA(クローンテック社)よりPCRにより獲得し、シーケンスにて配列を確認した。この領域はPEPCK遺伝子のエキソン1の1番目の塩基位置を+1とすると−469〜+63に相当する(非特許文献35)。その後、この領域をレポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼを発現させるレポータープラスミドpGL3−Basic(プロメガ社)に挿入し、PEPCK AF1プロモーター/pGL3を構築した。
【0102】
PEPCK ΔAF1プロモーター依存性ルシフェラーゼレポータープラスミド(PEPCK ΔAF1プロモーター/pGL3)は、先にクローニングしたヒトPEPCKプロモーター領域から、AF1を含まない部分(U31519の塩基配列934〜1406番目)をPCRにより獲得した。シーケンスにて配列を確認後、pGL3−Basic(プロメガ社)に挿入して構築した。
【0103】
グルココルチコイドレセプター(Glucocorticoid receptor)発現プラスミドには、ラットグルココルチコイドを発現させるpMMGRを使用した(非特許文献36)。
【0104】
遺伝子導入効率補正プラスミド(インターナルコントロール)には、レポーター遺伝子としてウミシイタケルシフェラーゼを発現させるphRL−nullプラスミドまたはpRL−SV40プラスミド(プロメガ社)を使用した。
【0105】
MAPK11阻害剤には、SB203580をプロメガ社より購入して用いた。
【0106】
<方法>
HeLa細胞におけるレポーターアッセイは以下のように行った。細胞数6×104/ウェルのHeLa細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(24ウェルプレート(2.0cm2/ウェル))、0.25μgのPEPCK AF1プロモーター/pGL3、0.05〜0.2μgのHNF−4α/pCMV−Tag2、0.25μgのRSKB/pCMV−Tag2、0.05μgのMAPK11/pCMV−Tag4および0.025μgのインタナールコントロールphRL−nullを予め設定した組み合わせでFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。総DNA量は各実験群で一定量となるように、空ベクターpCMV−Tag2(ストラタジーン社)にて補正した。2日間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、Dual−Lusiferase Reporter Assay kit(プロメガ社)にて細胞溶解液中のホタルルシフェラーゼ活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。転写活性はホタルルシフェラーゼ活性値をウミシイタケルシフェラーゼ活性値で除した後、コントロール群(PEPCK AF1プロモーター/pGL3のみ)に対する倍数で表示した。
【0107】
HepG2細胞におけるレポーターアッセイは以下のように行った。細胞数1×104/ウェルのHepG2細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(24ウェルプレート(2.0cm2/ウェル)、0.5μgのPEPCK AF1プロモーター/pGL3、0.5μgのHNF−4α/pCMV−Tag2、0.25μgおよび0.5μgのRSKB/pCMV−Tag2、0.5μgのMAPK11/pCMV−Tag4、0.5μgのpMMGRおよび0.05μgのインターナルコントロールpRL−SV40を予め設定した組み合わせでFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。総DNA量は各実験群で一定量となるように、空ベクターpCMV−Tag2(ストラタジーン社)にて補正した。MAPK11阻害剤SB203580を添加した群は、FuGENE6によるトランスフェクション直前に終濃度10μMとなるようにSB203580を培地に添加した。トランスフェクション後20時間にデキサメサゾンを終濃度1μMとなるように培地に添加し、さらに24時間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、Dual−Lusiferase Reporter Assay kit(プロメガ社)にて細胞溶解液中のホタルルシフェラーゼ活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。転写活性はホタルルシフェラーゼ活性値をウミシイタケルシフェラーゼ活性値で除した後、RSKB非発現群(HNF−4α0.5)に対する倍数で表示した。
【0108】
統計解析はバートレット検定によって分散を、多重比較検定によって平均値をそれぞれ検定した。
【0109】
<結果>
図8に示したようにHeLa細胞において、PEPCK AF1プロモーターに対してHNF−4αを発現させると用量依存的に転写活性の増加が認められ、HNF−4αはPEPCK遺伝子の転写活性を正に制御することが確認された。次にRSKBをHNF−4αと共発現させHNF−4αの転写活性に対する影響を検討したが、図8に示したようにRSKB非発現群と明瞭な差は認められなかった。これはRSKB自身のキナーゼ活性が不十分であると考えられたことから、RSKBを活性化させるために上流キナーゼであるMAPK11(p38−beta2)をRSKBと共発現させ、転写活性への影響を検討した。その結果、図9に示したように、HNF−4α発現群(HNF−4α0.05)に比べ、活性化RSKB発現群(HNF−4α0.05+RSKB 0.25+MAPK11 0.05)では転写活性が3倍以上増加した。一方、RSKBを除いたMAPK11発現群(HNF−4α0.05+MAPK11 0.05)ではHNF−4αの転写活性の促進は認められなかった。さらに、図10に示したように、キナーゼ活性を持たないドミナントネガティブRSKB(S343A)では、MAPK11と共発現させてもHNF−4αの転写活性の促進が見られなかった(図10、HNF−4α0.05+RSKB(S343A) 0.25+MAPK11 0.05)。また、図11に示したように、AF1を除いたPEPCKΔAF1プロモーターではHNF−4αの転写活性が認められず、今回のHNF−4αの転写活性はAF1領域への結合を介して行われていることが確認された。以上の結果から、RSKBによってリン酸化されたHNF−4αはPEPCKプロモーターのAF1への結合を介して転写活性を促進することが実証された。
【0110】
図12に示したように、肝細胞由来のHepG2細胞において、MAPK11をRSKBと共発現させると(HNF−4α 0.5+RSKB 0.5+MAPK11 0.5)、HNF−4αのPEPCK AF1プロモーターに対する転写活性はRSKB非発現群(HNF−4α0.5)よりも3倍以上増加した。さらにMAPK11阻害剤SB203580を添加し、MAPK11によるRSKBの活性化を阻害するとHNF−4αの転写活性の増加が消失した(HNF−4α0.5+RSKB 0.5+MAPK11 0.5+SB203580)。以上の結果より、HepG2細胞においてもRSKBによってリン酸化されたHNF−4αはAF1を含むPEPCKプロモーターの転写活性を促進することが実証された。
【0111】
実施例5
実験例1.糖尿病モデル動物での肝臓中HNF−4αのリン酸化の検出
糖尿病を発症するZDF−fa/fa雄性ラットおよび正常動物のZDF−lean雄性ラットを日本チャールズリバー社より5週齢で購入し、飼育維持する。6、8、19週齢に採血した後、ペントバルビタール麻酔下で屠殺し、肝臓を採取する(各週齢n=6)。採取した血液は血中グルコース濃度とインスリン濃度をそれぞれ測定し、ZDF−fa/faで糖尿病が発症していることを確認する。肝臓は氷冷下でセルリシスバッファー[cell lysis buffer(cell signaling社)(20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl/1mM Na2EDTA/1mM EGTA/1% Triton/2.5mM Sodium pyrophosphate/1mM β−glycerophosphate/1mM Na3VO4)]中でホモジナイズし、氷冷下で30分静置後、15000rpm×10分遠心した上清を細胞ライセートとする。作製した細胞ライセートに抗HNF−4α抗体(Santa Cruz社)を添加し4℃で1時間転倒混和した後、0.1%牛血清アルブミン(BSA)/Tris緩衝生理食塩水[Tris−Buffered Saline(TBS)(50mM Tris−HCl/150mM NaCl)](pH8.0)でブロッキングしたprotein G sepharose 4 Fast Flow(Amersham Pharmacia Biotech社)を加え、さらに4℃で1時間転倒混和する。その後、protein G sepharoseをセルリシスバッファーで2回洗浄し、2×SDSサンプルバッファーを添加し、100℃で5分間加熱したものをSDS−PAGE試料とする。5−20%ゲルで蛋白質を分解し、抗リン酸化セリン抗体(Transduction Laboratories社)および抗リン酸化スレオニン抗体(Zymed社)を用いたウェスタンブロット法により、リン酸化HNF−4αを検出する。糖尿病発症動物(ZDF−fa/fa)が正常動物(ZDF−lean)よりHNF−4αのセリン・スレオニン残基のリン酸化が増加することにより、HNF−4αのリン酸化が糖尿病病態下で亢進することが証明できる。
【0112】
実験例2.糖尿病モデル動物での肝臓中RSKBの活性化の検出
糖尿病発症動物(ZDF−fa/fa)および正常動物(ZDF−lean)から上記実験例と同様に肝臓細胞ライセートを作製する。これに抗RSKB抗体とprotein G sepharoseを添加し、上記実験例と同様の免疫沈降法によりRSKBを回収する。回収したRSKB蛋白のキナーゼ活性は、合成基質クレビタイド[CREBtide(Santa Cruz社)](配列番号9)を用いたin vitro kinase assayにより検出する(非特許文献34)。すなわち、RSKB結合レジンをキナーゼバッファー[Kinase buffer(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/140mM KCl/5mM NaPPi/10mM MgCl2)]中でCREBtide(33μM)およびγ−32P−ATPと混和し、22℃、30分インキュベートする。その後、反応液をchromatography filter paper P81(Whatman社)に吸着させ、洗浄後、液体シンチレーションカウンターにて放射能を検出する。糖尿病発症動物(ZDF−fa/fa)が正常動物(ZDF−lean)よりRSKBキナーゼ活性が増加することにより、肝臓中RSKB活性が糖尿病病態下で亢進することが証明できる。
【0113】
実験例3.糖尿病モデル動物におけるRSKB阻害剤の抗糖尿病効果
糖尿病を発症するZDF−fa/fa雄性ラットを日本チャールズリバー社より5週齢で購入し、飼育維持する。動物を2群に分け(各群n=5)、6週齢からRSKB阻害剤のH89(N−[2−((p−ブロモシンナミル)アミノ)エチル]−5−イソキノリンスルホナマイド;N−[2−((p−Bromocinnamyl)amino)ethyl]−5−isoquinolinesulfonamide)(非特許文献34)を5mg/kg/日で14日間連続皮下投与する。14日間投与終了後に動物をペントバルビタール麻酔下で屠殺し、肝臓を採取する。また、H−89投与開始前と投与終了後に血液を採取し、血中グルコース濃度とインスリン濃度(レビスインスリンキット、シバヤギ社)を測定する。採取した肝臓を用いてHNF−4αのリン酸化およびRSKB活性を上記実験例1、2と同様に測定するとともに、PEPCK蛋白質発現量をウェスタンブロット法により検出する。上記実験例1と同様に作製した肝臓細胞ライセートに2×SDSサンプルバッファーを等容量添加し100℃で5分間加熱したものをSDS−PAGEの試料とする。5−20%ゲルで蛋白質を分離し、抗PEPCK抗体を用いたウェスタンブロット法によりPEPCKを検出する。H−89投与によりRSKB活性、HNF−4αのリン酸化およびPEPCK蛋白質発現のいずれも低下し、糖新生が抑制されることにより血中グルコース濃度の低下が起こる。
【0114】
上記実験例1、2により、糖尿病モデル動物の肝臓ではRSKBの活性化とそれに伴うHNF−4αのリン酸化が亢進していることが示される。実験例3により、RSKBを阻害することでPEPCKの発現が低下し、肝臓の糖新生が抑制されることが証明できる。なお、H−89はRSKB以外にPKA(cAMP依存性プロテインキナーゼ、cAMP−dependent protein kinase)を阻害する作用がある。PKAはCREBをリン酸化し、リン酸化されたCREBはCREを有するプロモーターの転写活性を亢進する(非特許文献11)。従って、PKAの抑制はCREBを介するPEPCK遺伝子発現を低下させる可能性がある。しかし、糖尿病モデル動物の肝臓ではCREBのリン酸化が増加するどころか逆に低下しており、PKAも活性化されておらず、PKAシグナルは糖尿病病態下の肝臓でのPEPCK発現増加に関与していないことが示されている(非特許文献39)。また、PKAはHNF−4αをリン酸化するが、このリン酸化によってHNF−4αのPEPCKプロモーターへの結合能が亢進することはない(実施例2、図5)。従ってH−89がPEPCK発現を抑制した場合、それはPKAではなくRSKB阻害に起因すると考えることができる。上記の実験例により、生体内においてRSKBを阻害すれば肝臓でのHNF−4αのリン酸化が抑制され、PEPCKを介する糖新生能が低下し、抗糖尿病効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
上記のように、本発明において提供するRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤および/またはリン酸化阻害方法により、HNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の産生阻害、例えばPEPCK遺伝子の遺伝子産物の産生阻害が可能になる。また、HNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止および/または治療が可能になる。具体的には、例えばPEPCK遺伝子産物の増加に起因する疾患、より具体的には糖尿病などの防止および/または治療が可能である。このように本発明は、糖新生関連遺伝子発現に関与するHNF−4αの過剰なリン酸化に起因する疾患の防止および/または治療のために非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】RSKBとHNF−4αの相互作用をインシリコで予測した結果を示す。RSKBとHNF−4αのローカルアライメントを行い、高いスコアを示した領域を表示した。上の配列および下の配列はそれぞれ、RKSBに存在する配列およびHNF−4αに存在する配列である。
【図2】N末端FLAGタグ動物細胞用発現プラスミドにてHEK293T細胞に一過性発現させ、FLAG M2アフィニティーゲルを用いて精製した活性型FLAG−RSKB蛋白質のCBB染色像を示す。1、2はそれぞれFLAGによる溶出画分1、溶出画分2を示す。実験には溶出画分1を使用した。矢頭は精製FLAG−RSKB蛋白質を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカー(M)の分子量である。
【図3】HNF−4αのインビトロ免疫沈降リン酸化試験の結果、HNF−4αがRSKBによりリン酸化されることを示す。Aは陽性対照のPKAによるリン酸化試験、BはRSKBによるリン酸化試験の結果を示す。CREB1のRSKBによるリン酸化は、精製されたRSKB蛋白質が活性を有することを示す。図中の+および−はそれぞれの蛋白質の有無を示している。矢頭はHNF−4αを、スターマーク(*)はCREB1のリン酸化体を示す。図の左列に記載した数値は、分子量マーカーの分子量である。
【図4】ヒトホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子のプロモーター領域の塩基配列(NCBIアクセッション番号U31519)を示す。ゲルシフトアッセイで用いたAF1配列を太字枠内に示す。PEPCK AF1プロモーター/pGL3は図の矢印1,3で区切られた882〜1406番目の塩基配列(ボールド表示)を、PEPCK ΔAF1プロモーター/pGL3は矢印2,3で区切られた934〜1406番目の塩基配列をそれぞれ使用した。左列の数字はU31519の塩基配列番号を示す。
【図5】N末端FLAGタグ動物細胞用発現プラスミドにてHEK293T細胞に一過性発現させ、FLAG M2アフィニティーゲルを用いて精製したFLAG−HNF−4α蛋白質のCBB染色像を示す。1、2はそれぞれFLAGによる溶出画分1、溶出画分2を示す。実験には溶出画分1を使用した。矢頭は精製FLAG−HNF−4α蛋白質を示す。図の右列に記載した数値は分子量マーカー(M)の分子量である。
【図6】HNF−4αのPEPCKプロモーターのAF1配列に対するEMSAの結果を示す。Aは、HNF−4αがAF1配列に結合することを示す図である。抗HNF−4α抗体の添加により、HNF−4α・DNA複合体の移動度が小さくなるスーパーシフトが見られる。Bは、AF1配列のDNA結合活性に対するRSKBによるリン酸化の影響を示す図面である。RSKBによるリン酸化処理により、HNF−4αのAF1配列に対する結合活性は亢進したが、PKAではその作用は見られない。BにおけるHNF−4αの使用量はAの約10分の1である。図中の+および−は抗HNF−4α抗体の添加の有無を示している。
【図7】RSKBによるHNF−4αのリン酸化が、AF1配列への結合を亢進させる作用の用量依存性を示す。HNF−4αのリン酸化処理に使うRSKB量を減少させるにつれ、HNF−4αのAF1結合活性が低下する。一方、PKA処理(PKA)では、HNF−4αのAF1結合の亢進は見られない。1×、1/2、1/4はそれぞれ原液、2倍および4倍希釈したRSKBによるリン酸化資料のEMSAを示す。スターマーク(*)は、抗HNF−4α抗体の添加を示す。
【図8】HeLa細胞におけるPEPCK AF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αの導入量に依存して転写活性が亢進し、HNF−4αがPEPCK遺伝子を正に制御することを示す図面である。また、RSKBを発現させてもHNF−4αの転写活性には影響がないことも示している。縦軸はコントロール群(PEPCKAF1プロモーター/pGL3のみ導入)の転写活性を1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.05は、0.05μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:コントロールに対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.05に対して有意差あり(p<0.05)、$:HNF−4α0.1に対して有意差あり(p<0.05)、+:HNF−4α0.2に対して有意差あり(p<0.05)、¥:RSKB0.25に対して有意差あり(p<0.05)。
【図9】HeLa細胞におけるPEPCK AF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αによる転写活性がMAPK11によって活性化されたRSKBによって促進されることを示す図面である。RSKBを除いてMAPK11だけを発現させてもHNF−4αの転写活性に影響がないことから、この作用はRSKBによるものと判断できる。縦軸はコントロール群(PEPCKAF1プロモーター/pGL3のみ導入)の転写活性を1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.05は、0.05μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:コントロールに対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.05に対して有意差あり(p<0.05)、$:RSKB 0.25+MAPK11 0.05に対して有意差あり(p<0.05)、+:HNF−4α 0.05+RSKB 0.25+MAPK11 0.05に対して有意差あり(p<0.05)。
【図10】HeLa細胞におけるPEPCK AF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αによる転写活性がRSKBによって促進されることを示す図である。ドミナントネガティブRSKB(S343A)ではMAPK11を共発現させてもHNF−4αの転写活性は促進されない。縦軸はコントロール群(PEPCKAF1プロモーター/pGL3のみ導入)の転写活性1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.05は、0.05μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:コントロールに対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.05に対して有意差あり(p<0.05)、$:HNF−4α0.05+RSKB0.25+MAPK110.05に対して有意差あり(p<0.05)。
【図11】HeLa細胞におけるPEPCK ΔAF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αによる転写活性はPEPCKプロモーター領域のAF1に依存することを示す図である。AF1がないためにHNF−4αを共発現させても、転写活性の促進はみられない。縦軸はコントロール群(PEPCKΔAF1プロモーター/pGL3のみ導入)の転写活性を1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.05は、0.05μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:コントロールに対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.05に対して有意差あり(p<0.05)、$:HNF−4α0.2に対して有意差あり(p<0.05)。
【図12】HepG2細胞におけるPEPCK AF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αによる転写活性がMAPK11で活性化されたRSKBによって促進することを示す図面である。MAPK11阻害剤SB203580を添加すると、MAPK11とRSKBを共発現させてもHNF−4αの転写活性の促進はみられないことから、RSKBの活性化が重要であることが示された。縦軸はHNF−4α0.5処理群の転写活性を1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.5は、0.5μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:HNF−4α0.5に対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.5+RSKB0.25に対して有意差あり(p<0.05)、$:HNF−4α0.5+RSKB0.5に対して有意差あり(p<0.05)、+:RSKB0.5に対して有意差あり(p<0.05)、¥:HNF−4α0.5+RSKB0.5+MAPK110.5に対して有意差あり(p<0.05)、++:HNF−4α0.5+RSKB0.5+MAPK110.5+SB203580に対して有意差あり(p<0.05)。
【配列表フリーテキスト】
【0117】
配列番号1:RSKB cDNAの塩基配列。
配列番号2:RSKB蛋白質のアミノ酸配列。
配列番号3:HNF−4α cDNAの塩基配列。
配列番号4:HNF−4α蛋白質のアミノ酸配列。
配列番号5:CREB1 cDNAのアミノ酸配列。
配列番号6:CREB1蛋白質のアミノ酸配列。
配列番号7:AF1プローブ作成用オリゴヌクレオチドの塩基配列。
配列番号8:AF1プローブ作成用オリゴヌクレオチドの塩基配列。
配列番号9:CREBtideのアミノ酸配列。
配列番号10:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したRSKBの部分オリゴペプチド。
配列番号11:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したHNF−4αの部分オリゴペプチド。
配列番号12:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したHNF−4αの部分オリゴペプチド。
配列番号13:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したRSKBの部分オリゴペプチド。
配列番号14:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したHNF−4αの部分オリゴペプチド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(hepatocyte nuclear factor 4α、以下HNF−4αと略称する。)のリン酸化方法、リン酸化剤、リン酸化阻害方法およびリン酸化阻害剤に関する。より具体的にはリボソームS6キナーゼB(ribosomal S6 kinase B、以下RSKBと略称する。)を用いることを特徴とするHNF−4αのリン酸化方法およびリン酸化剤に関する。また、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法およびリン酸化阻害剤に関する。さらに、HNF−4αが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生阻害方法および産生阻害剤に関する。また、HNF−4αのリン酸化に起因する疾患、例えば糖尿病の防止方法および/または治療方法並びに防止剤および/または治療剤に関する。さらに、HNF−4αのRSKBによるリン酸化を阻害する化合物の同定方法および該同定方法により同定された化合物に関する。また、RSKB、HNF−4αをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターを含んでなる試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓はグルコースの恒常性維持にとって重要な臓器であり、グルコースを産生する糖新生(gluconeogenesis)とグルコースからグリコーゲンを生成するグリコーゲン合成(glycogenesis)によって生体内のグルコース量のバランスを保っている。糖尿病患者では、肝臓での過剰なグルコース産生が起こっており、それが高血糖症の原因の一つとされている(非特許文献1)。
【0003】
糖新生はピルビン酸からグルコースを合成する経路であり、そのほとんどが肝臓で行われる。糖新生を進める一連の酵素群の中で、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(phosphoenol pyruvate carboxy kinase、以下PEPCKと略称する)は糖新生の律速酵素と考えられている(非特許文献2〜7)。肝臓中のPEPCKの活性はPEPCK遺伝子からの転写量によって制御されている。この転写はホルモンで調節されており、グルココルチコイドはPEPCKの転写を促進し(非特許文献8)、インスリンは抑制する(非特許文献4、6、8)。さらにPEPCK遺伝子のmRNAの半減期は40分と短く、その転写量は数時間単位で劇的に増減する(非特許文献3)。これによりPEPCKの酵素活性、糖新生、さらには血糖値が調節される(非特許文献3)。糖尿病病態時の肝臓では、グルココルチコイドによりPEPCK遺伝子の発現が増加しており、糖新生が亢進している(非特許文献8および9)。
【0004】
糖尿病は1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病、IDDM)と2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病、NIDDM)に分類される。2型糖尿病はさらにインスリン分泌低下が主体の糖尿病、インスリンは分泌されているが標的細胞でのグルコースに対するインスリン感受性の低下が主体の糖尿病に分けられ、後者は特にインスリン抵抗性と言われている。インスリンの標的組織は肝臓、脂肪、筋肉であり、肝臓の糖新生と糖放出の抑制により血糖値が下がる。高血糖の持続により肝臓のインスリン感受性が低下し、インスリン依存性の糖新生抑制作用が期待できなくなる。しかしながら、高血糖持続による肝臓のインスリン感受性低下メカニズムは未だ明らかにされておらず、インスリンレセプターのダウンレギュレーションなどが想定されている。
【0005】
HNF−4αは核内レセプターの一つであり、肝臓、膵臓のβ細胞、腎臓および小腸で発現し、コレステロール、脂肪酸およびグルコースなどの代謝や肝臓の発生および分化に関与する蛋白質をコードする種々の遺伝子の転写因子であることが知られている。糖新生関連では、HNF−4αはPEPCK遺伝子のプロモーターに存在するAF−1領域に結合し、PEPCK遺伝子の発現に関与している(非特許文献16)。転写因子はリン酸化によりDNA結合能が変化することが分かっている(非特許文献17)が、HNF−4αは、PKA(cAMP依存性プロテインキナーゼ、cAMP−dependent protein kinase)によりリン酸化され、L型ピルビン酸キナーゼのプロモーターに対する結合能が低下するとの報告がある(非特許文献10)。
【0006】
RSKBは、ストレス応答型MAPK(マイトージェン活性化キナーゼ、mytogen activated kinase)であるp38キナーゼファミリーにより活性化されるキナーゼで、核に分布する(非特許文献11)。p38キナーゼは色々な病態において活性化される(非特許文献12)。糖尿病病態下、持続的に高血糖に曝されている細胞では、活性酸素による酸化ストレスからp38キナーゼが活性化される(非特許文献13および14)。例えば、高血糖下(16.5mM)で培養された血管平滑筋細胞(非特許文献15)や糖尿病モデル動物のob/obマウスの肝臓でp38キナーゼの活性化が報告されている(非特許文献29)。
【非特許文献1】「Nature」2001年,第 413巻,第13号,p.131−138。
【非特許文献2】「日本臨床」2002年、第60巻、増刊7号、p. 121−128。
【非特許文献3】「J.Biol.Chem.」1982年,第257巻,第13号,p.7629−7636。
【非特許文献4】「Nature」1983年,第305巻,第5934号,p.549−551。
【非特許文献5】「Biochem. J.」1974年,第138巻,p.387−394。
【非特許文献6】「Mol. Endocrinol.」1993年,第7巻,第11号,p.1456−1462。
【非特許文献7】「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」1994年,第91巻,p.9151−9154。
【非特許文献8】「J.Biol.Chem.」1993年,第268巻,第17号,p.12952−12957。
【非特許文献9】「Lab.Anim.Sci.」1993年,第42巻,p.473−477。
【非特許文献10】「Mol Cell Biol.」1997年,第17巻,第8号,p.4208−4219。
【非特許文献11】「J.Biol.Chem.」1998年,第273巻,第45号,p.29661−29671。
【非特許文献12】「Crit Care Med」2000年,第28巻,N67−77。
【非特許文献13】「日本臨床」2002年、第60巻、増刊号7、p.395−398。
【非特許文献14】「Endocr Rev」2002年、第23巻、第5号、p.599−622。
【非特許文献15】「J. Clin. Invest.」1999年,第103巻,p.185−195。
【非特許文献16】「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」1995年,第92巻,p.412− 416。
【非特許文献17】「Cell」1992年,第70巻,第3号,p.375−387。
【非特許文献18】「Mol.Cell.Biol.」1988年,第8巻,p.3467−3475。
【非特許文献19】「J.Biol.Chem.」1995年,第270巻,p.8225−8232。
【非特許文献20】「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」1994年, 第91巻,p.5647−5651。
【非特許文献21】「Science」1995年,第269巻,p.1108−1112。
【非特許文献22】「J.Biol.Chem.」1997年,第272巻,p.26306−26312。
【非特許文献23】「J.Biol.Chem.」2000年,第275巻,p.5804−5809。
【非特許文献24】「Mol Endocrinol.」1999年,第13巻,p.604−618。
【非特許文献25】「J.Biol.Chem.」1999年,第274巻,第9号,p.5880−5887。
【非特許文献26】「Diabetes」1989年,第38巻,p.550−557。
【非特許文献27】「Annu Rev Biochem.」1997年,第66巻,p.581−611。
【非特許文献28】「J.Biol.Chem.」2002年,第277巻,第35号,p.32234−32242。
【非特許文献29】「Mol Endocrinol.」2003年,第17巻,第6号,p.1131−1143。
【非特許文献30】「J.Biol.Chem.」2004年,[Epub ahead of pront]。
【非特許文献31】Ulmer,K.M.「Science」1983年,第219巻,p.666−671
【非特許文献32】「ペプチド合成」(日本国)、丸善株式会社、1975年。
【非特許文献33】「ペプチド合成(Peptide Synthesis)」(米国)、インターサイエンス、1996年。
【非特許文献34】「J.Biol.Chem.」2000年,第275巻,第31号,p.23549−23558。
【非特許文献35】「Mol. Endocrinol.」1999年,第13巻,p.604−618。
【非特許文献36】「DNA」1989年,第8巻,p.127−133。
【非特許文献37】「Mol. Endocrinol.」1990年,第4巻,第9号,p1302−1310。
【非特許文献38】「Diabetes」2001年,第50巻,p.131−138。
【非特許文献39】「Arch Biochem Biophys.」1995年,第323巻,第2号,p477−483。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PEPCK遺伝子の転写を調節するHNF−4αをリン酸化することにより、PEPCKプロモーター領域への結合能を促進させる物質を見出し、PEPCK遺伝子の転写量増加により引起こされる疾患、例えば、糖尿病の防止手段および/または治療手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意努力し、RSKBによってHNF−4αがリン酸化されることを見出した。さらに、HNF−4αはRSKBによりリン酸化されることでPEPCKプロモーター領域のAF1部位への結合能が促進され、かかる促進によりPEPCK遺伝子の転写活性が亢進することを実証し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1.リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を相互作用を可能にする条件下で共存させることを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化方法、
2.リボソームS6キナーゼB(RSKB)の活性を阻害することを特徴とする、RKSBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害方法、
3.リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)との相互作用を阻害することを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法、
4.少なくともリボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)とを発現している細胞を、RSKB活性の阻害剤で処理することを特徴とするRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法、
5.リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤が、RSKBを認識する抗体、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を認識する抗体から選ばれる1つまたは2つ以上の抗体である前項4に記載のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法、
6.リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤を有効量含むことを特徴とするRSKBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害剤、
7.リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)との相互作用を阻害することを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤、
8.リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性を阻害することを特徴とする、RSKBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害剤、
9.リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤が、RSKBを認識する抗体、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を認識する抗体から選ばれる1つまたは2つ以上の抗体である前項8に記載のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤、
10.ヘパトサイトヌクレアーファクター4αをリボソームS6キナーゼBを用いてリン酸化することを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法、
11.糖新生関連遺伝子がホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子である前項10に記載の糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法、
12.リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化を阻害することを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
13.リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化を阻害することを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
14.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
15.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4αが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
16.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法、
17.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化に起因する疾患の防止方法および/または治療方法、
18.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止方法および/または治療方法、
19.前項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止方法および/または治療方法、
20.前項2から5のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法、
21.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法、
22.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の産生阻害剤、
23.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる医薬組成物、
24.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止剤および/または治療剤、
25.前項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、糖尿病の防止剤および/または治療剤、
26.リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)の相互作用を阻害する化合物の同定方法であって、RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件下、RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBとHNF−4αの相互作用を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在および/または変化を検出することにより、被検化合物がRSKBとHNF−4αの相互作用を阻害するか否かを決定する同定方法、
27.リボソームS6キナーゼB(RSKB)によるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化を阻害する化合物の同定方法であって、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を可能にする条件下、RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在および/または変化を検出することにより、被検化合物がRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害するか否かを決定する同定方法、
28.リボソームS6キナーゼB(RSKB)、RSKBをコードするポリヌクレオチドおよびRSKBをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうち少なくともいずれか1つと、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)、HNF−4αをコードするポリヌクレオチドおよび該HNF−4αをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つを含んでなるキット、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明において、RSKBによりリン酸化されたHNF−4αがPEPCK遺伝子のプロモーター領域のAF1に結合することを見出した。これよりRSKBによるHNF−4αのリン酸化方法、リン酸化阻害方法およびリン酸化阻害剤が提供される。糖尿病病態時では、RSKBにより活性化されたHNF−4αはPEPCK遺伝子の転写活性を促進することで、糖新生を亢進させ、高血糖を悪化させると考えている。したがって、本発明が提供するRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤および/またはリン酸化阻害方法により、HNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の産生阻害、例えばPEPCK遺伝子の遺伝子産物の産生阻害が可能となる。また、HNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止および/または治療が可能となる。具体的には、PEPCK遺伝子産物の増加に起因する疾患、より具体的には糖尿病などの防止および/または治療が可能である。このように本発明は、糖新生関連遺伝子発現に関与するHNF−4αの過剰なリン酸化に起因する疾患の防止および/または治療のために非常に有用である。
【0011】
さらに、本発明によるRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤および/またはリン酸化阻害方法により、インスリンの効果が期待できない2型糖尿病のインスリン抵抗性患者の肝臓における糖新生を抑制でき、高血糖を抑制させる作用を有すると考えている。近年、糖尿病治療薬としてインスリン抵抗性改善薬が開発されおり、その代表例として、チアゾリジンジオン誘導体が臨床の場で用いられている。チアゾリジンジオン誘導体は、脂肪組織におけるインスリン感受性の低い大型脂肪細胞をインスリン感受性の高い小型脂肪細胞に変化させる作用を有する。しかしながら、本発明のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤とチアゾリジンジオン誘導体とは、標的臓器が異なっている。また、膵臓のβ細胞が崩壊し、血中インスリン量が低下している糖尿病の末期患者においては、インスリンによるPEPCK遺伝子の抑制効果は減少していると考えられる。したがって、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害し、PEPCK遺伝子の遺伝子産物の産生を抑制することは、インスリン非依存的に血糖降下作用を奏する可能性があり非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書中で使用されている技術的および科学的用語は、別途定義されていない限り、当業者により普通に理解されている意味を持つ。本明細書中では当業者に既知の種々の方法が参照されている。以下、本発明について、発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。以下の詳細な説明は例示であり、説明のためのものに過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【0013】
本明細書においては、アミノ酸を1文字表記または3文字表記することがある。また、ペプチドとは、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合により互いに結合している2個またはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドを意味する。さらにペプチドは、オリゴマーと称する単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドなどの短鎖ペプチド、並びに単離された若しくは合成の完全長ポリペプチドや単離された若しくは合成の完全長蛋白質などの長鎖ペプチドをも意味する。
【0014】
本発明では、RSKBと相互作用する蛋白質を国際公開第WO01/67299号公報に記載の方法に従って予測し、その結果、RSKBがHNF−4αと相互作用することを見出した。また、RSKBがHNF−4αをリン酸化すること、RSKBによりリン酸化されたHNF−4αはPEPCK遺伝子プロモーター領域のAF1へのその結合が促進する結果、PEPCK遺伝子の転写が上昇することを初めて明らかにした。
【0015】
PEPCKプロモーターにはGRU(グルココルチコイド応答ユニット、glucocorticoid response unit)と呼ばれる領域が存在し、AF1(アクセサリー因子結合部位1、accessory factor binding site1)、GR1,2(グルココルチコイドレセプター結合部位、glucocorticoid receptor binding site)、AF2(アクセサリー因子結合部位2、accessory factor binding site 2)およびCRE(サイクリックAMP応答配列、cAMP responive element)が存在する。PEPCK遺伝子を効率よく発現させるために、これらの領域が必要と考えられている。
【0016】
RSKBによりリン酸化されPEPCKプロモーターに結合する転写因子としては、CREB(サイクリックAMP応答配列結合蛋白質、cAMP responsive element binding protein)がある。CREBはPEPCKプロモーターのCREに結合する転写因子である(非特許文献19)。CREはPEPCKプロモーターに存在し、PEPCK遺伝子発現を正に調節している領域である(非特許文献18)。CREに結合してPEPCK遺伝子を正に調節する遺伝子としては、CREBとC/EBP(CCAAT/エンハンサー結合蛋白質、CCAAT/enhancer binding protein)が報告されている(非特許文献19)。
【0017】
RSKBはCREBをリン酸化し、リン酸化されたCREBはCREを有するプロモーターの転写活性を亢進する(非特許文献11)。したがって、RSKBが活性化された場合、HNF−4αを介することなくCREBがリン酸化され、PEPCKプロモーターのCREにCREBが結合し、PEPCK遺伝子の発現が促進される可能性がある。しかしながら、生体内で実際にPEPCKプロモーターのCREを調節しているのはCREBではなくC/EBPであり(非特許文献20〜23)、C/EBPがRSKBによりリン酸化されるという報告はない。
【0018】
また、PEPCKプロモーター領域において、AF1の置換欠失によりPEPCKプロモーターの転写活性はコントロール(野生型PEPCKプロモーター)の約4分の1以下に低下する(非特許文献24)。これに対し、CREの置換欠失によっては、PEPCKプロモーターの転写活性はコントロールの2分の1程度にまでしか低下しない(非特許文献25)。このことから、HNF−4αが結合するAF1はPEPCK遺伝子の発現により影響を与える配列であり、他のPEPCKプロモーター領域の配列であるCRE1よりもより影響を与える遺伝子発現調節の重要な因子であると考えた。さらに、本明細書の実施例の図11で示されるように、HNF−4αによる転写活性が影響しないPEPCKΔAF1プロモーターを用いて細胞内RSKBを活性化させたが(MAPK11とRSKBの共発現)、PEPCK遺伝子の転写活性はほとんど促進されなかった。したがって、生体内においては、RSKBによるPEPCK遺伝子の発現調節はHNF−4αを介していると考えている。
【0019】
インスリン非依存性糖尿病患者のPEPCKによる糖新生能は、正常人より約3倍亢進しており、この糖新生能は患者の空腹時血漿中グルコース濃度と相関していることが報告されている(非特許文献26)。PEPCK遺伝子の転写はホルモンによって制御されており、グルココルチコイド(glucocolticoid)により亢進され、インスリン(insulin)により抑制される(非特許文献8および27)。インスリンはPEPCKプロモーターにおいて転写調節因子であるLIP(肝特異的転写抑制蛋白質、liver enriched transcriptional inhibitory protein)を介してPEPCK遺伝子の転写を抑制することで肝臓での糖新生をコントロールしている(非特許文献28)。また、インスリン刺激がPEPCKプロモーターに直接作用して転写活性を抑制するという報告もある(非特許文献6および37)。したがって、正常の肝臓ではPEPCK遺伝子の発現はインスリンによって抑制的に支配されているが、何らかの理由でPEPCK遺伝子の過剰発現が持続すると、肝臓での糖新生が亢進し高血糖となり、インスリン耐性になると糖尿病となると考えられる。
【0020】
RSKBは上流のキナーゼであるp38により活性化される。また、RSKBはCREB(cAMP responive element binding protein)をリン酸化する。従って、RSKBの活性化はp38の活性化およびCREBのリン酸化を指標にすることができる。糖尿病モデル動物の肝臓では、p38のリン酸化型(活性型p38)は正常個体のそれに比べ約2.5〜3倍増加しており、CREBのリン酸化型も約2倍増加するとの報告がある(非特許文献29および30)。これらのことから、発明者は糖尿病病態下の肝臓では、酸化ストレス等によりp38キナーゼが活性化し、続いてRSKBが活性化すると考えた。
【0021】
PEPCKの活性制御はmRNAレベルで調節されている。肝細胞を用いた実験から、PEPCK遺伝子のmRNA量が2倍増加すると酵素活性は2.8倍増加し、さらに糖新生能は2.1倍亢進することが報告されている(非特許文献6)。マウスでは肝臓での糖新生能が約2.5倍亢進すると、血糖値は2倍上昇し(非特許文献7)、ヒトでは血糖値が2.5倍高い糖尿病患者ではPEPCKによる糖新生能が正常人より3倍亢進している(非特許文献26)。すなわち、PEPCKのmRNA量、酵素活性、糖新生能および血糖値上昇はそれぞれ良好な相関を示している。
【0022】
発明者は、RSKBの活性化による血糖値上昇の程度を次のように考えた。RSKBによるHNF−4αのリン酸化がCREBと同程度であると仮定すると、糖尿病病態時のRSKBによる肝臓中HNF−4αのリン酸化は正常時よりも2倍程度亢進していると推定された。実施例の結果を示す図9、10、12から、HNF−4αのPEPCK遺伝子プロモーター転写活性化能はRSKBによりリン酸化されることで約2〜3倍亢進する。PEPCK遺伝子のプロモーター活性をmRNA量に置き換えると、糖尿病病態時ではRSKBの活性化によりPEPCK遺伝子のmRNA量は約2〜3倍増加していると考えた。PEPCK遺伝子のmRNA量の増加は上記で述べたようにそのまま酵素活性に反映され、糖新生能亢進、血糖値の上昇を招く。このことにより、糖尿病病態時において、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害すれば、肝臓中のPEPCK遺伝子のmRNA量は2分の1〜3分の1程度に抑制されると考えた。これによりPEPCKの酵素活性は3分の1程度、糖新生能は2分の1程度に減少すると推定され、その結果、血糖値は病態時の半分程度に減少することとなる。従って糖尿病病態時においてRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害し、PEPCK遺伝子の遺伝子産物の産生を調節することにより、糖尿病の治療が可能となると考えた。
【0023】
これら知見により達成した本発明の一態様は、RSKBを用いることを特徴とするHNF−4αのリン酸化方法に関する。RSKBによるリン酸化の検出は、RSKBとHNF−4αを接触させた後にウェスタンブロッティング法などの公知方法により実施可能である。
【0024】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化方法は、RSKBとHNF−4αを共存させることを特徴とする。また、RSKBとHNF−4αとを共存させることを特徴とするRSKBによるHNF−4αのリン酸化系の構築およびその利用もできる。
【0025】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化方法およびリン酸化系は、インビトロであってよく、インビボの系であってもよい。具体的には、RSKBとHNF−4αを、例えば試験管やマルチウエルプレート内で共存させてリン酸化させるリン酸化方法およびリン酸化系が例示できる。あるいは、RSKBとHNF−4αを共発現させた細胞を用いたリン酸化方法およびリン酸化系を例示できる。
【0026】
発現に用いる細胞は蛋白質発現に使用されている細胞が使用可能である。具体例として、HeLa細胞、HepG2細胞等が例示できる。これら蛋白質の発現は、公知の遺伝子工学的手法を用いて実施することができる。
【0027】
本発明で使用するRKSBおよびHNF−4αは、これら1つまたは2つ以上を遺伝子工学的手法で発現させた細胞、無細胞系合成産物、化学合成産物、または該細胞や生体試料から調製したものであってよく、これらからさらに精製されたものであってもよい。また、これら蛋白質は、それらのN末端側やC末端側に別の蛋白質やペプチドなどを、直接的にまたはリンカーペプチドなどを介して間接的に、遺伝子工学的手法などを用いて付加することにより標識化したものであってもよい。標識化は、RSKBとHNF−4αとの相互作用およびこれら蛋白質の機能、例えばRSKBとHNF−4αの接触、RSKBの酵素活性およびHNF−4αの機能などが阻害されない方法が望ましい。
【0028】
標識物質としては、例えば酵素類(グルタチオン S−トランスフェラーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたはβガラクトシダーゼなど)、タグペプチド類(His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tagなど)、蛍光蛋白質類〔グリーン蛍光蛋白質、フルオレセインイソチオシアネート(fluoresceinisothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)など〕、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片、またはビオチンなどが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは放射性同位元素による標識も可能である。標識化するとき、1種類の標識物質を付加してもよいし複数を組み合わせて付加することもできる。これら標識物質自体またはその機能を測定することにより、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出することが可能である。
【0029】
遺伝子導入に用いるRSKBおよびHNF−4αをコードする遺伝子はヒトcDNAライブラリーから自体公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。これら遺伝子を適当な発現ベクターDNA、例えば細菌プラスミド由来のベクターなどに自体公知の遺伝子工学的手法で導入し、上記遺伝子を含有するベクターを得て、遺伝子の導入に利用することができる。遺伝子導入は、自体公知の遺伝子工学的手法を用いて実施可能である。
【0030】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化剤、リン酸化方法、およびリン酸化系は、HNF−4αの機能解明やHNF−4αが関与する転写因子ネットワークについての研究、およびHNF−4αのリン酸化に起因する疾患、例えば糖尿病におけるHNF−4αやRSKBの関与についての分子レベルでの研究などに有用である。また、当該リン酸化方法およびリン酸化系を用いて、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物の同定方法を構築することも可能である。
【0031】
本発明の別の一態様は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤および阻害方法に関する。当該阻害剤および阻害方法は、RSKB活性を阻害すること、またはRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害すること、あるいは、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害することを特徴とする。
【0032】
RSKB活性の阻害またはRSKBによるHNF−4αのリン酸化の阻害は例えばRSKBの酵素活性を阻害することにより実施できる。本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤は、一態様においてRSKB活性を阻害する効果を有する化合物(RSKB活性阻害剤)の少なくとも1つを合成することを特徴とする。本発明にかかる阻害剤および阻害方法を適用する対象物としては、少なくともRSKBとHNF−4αとを含む対象物、例えば少なくともこれらを含む生体外試料が挙げられる。また、少なくともRSKBとHNF−4αを発現している細胞、例えば肝臓細胞、並びにかかる細胞を担持している非ヒト哺乳動物なども当該対象物に含まれる。
【0033】
RSKB活性の阻害剤としては、拮抗阻害効果を有するペプチド類、抗体、および低分子化合物などが例示できる。抗体としては、RSKBまたはHNF−4αを認識して結合する抗体であって、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する抗体が挙げられる。抗体はRSKBまたはHNF−4α自体、これら由来の部分ペプチド、あるいはこれらが相互作用する部位のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として自体公知の抗体作成法により得ることができる。低分子化合物としては、RSKBの酵素活性を阻害する化合物、好ましくは該酵素活性を特異的に阻害する化合物が挙げられる。かかる化合物は、例えば、本発明に係るリン酸化方法またはリン酸化系を利用して、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害するか否かを同定することにより得ることができる。RSKBの酵素活性を特異的に阻害するとは、RSKBの酵素活性を強く阻害するが、他の酵素の活性は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。
【0034】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化の阻害はまた、RSKBとHNF−4αとの相互作用を阻害することによっても実施できる。RSKBによりHNF−4αがリン酸化されるのは、RSKBとHNF−4αが相互作用している一態様と考えられる理由による。相互作用とは、蛋白質間の非共有結合力による相互作用をいい、一時的な結合、可逆的結合、不可逆的結合などが挙げられる。
【0035】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤は、一態様において、RSKBとHNF−4αとの相互作用を阻害する化合物の少なくとも1つを活性成分として有効量含んでなる。
【0036】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化の阻害方法は、一態様において、RSKBとHNF−4αとの相互作用を阻害する化合物の少なくとも1つを用いることを特徴とする。
【0037】
RSKBとHNF−4αとの相互作用の阻害は、例えば両蛋白質が相互作用する部位のアミノ酸配列からなるペプチドを用いて実施可能である。かかるペプチドとして、HNF−4αのアミノ酸配列においてRSKBによりリン酸化される部位のアミノ酸配列を含むペプチドが例示できる。かかるペプチドは、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を競合的に阻害すると考えられる。RSKBとHNF−4αとの相互作用の阻害はまた、RSKBとHNF−4αの相互作用部位のアミノ酸配列からなるペプチドを用いて実施可能である。
【0038】
上記ペプチドは、RSKBまたはHNF−4αのアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成方法により合成したものから、RSKBによるHNF−4αのリン酸化および/またはRSKBと該転写因子の相互作用を阻害するものを選択することにより得ることができる。
【0039】
このように特定されたペプチドに1個乃至数個のアミノ酸の欠失、置換、付加、または挿入などの変異を導入したものも、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害する限りにおいて、本発明の範囲に包含される。このような変異を導入したペプチドは、さらにはRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害するものが好ましい。
【0040】
変異を有するペプチドは天然に存在するものであってよく、また変異を導入したものであってもよい。欠失、置換、付加または挿入などの変異を導入する手段は自体公知であり、例えばウルマーの技術(非特許文献31)を利用できる。このような変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能または免疫学的活性など)を変化させないという観点から、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸など)の間での相互置換は容易に想定される。
【0041】
RSKBとHNF−4αとの相互作用を阻害し得るペプチドは、その構成アミノ基またはカルボキシル基などを、例えばアミド化修飾するなど、機能の著しい変更を伴わない程度に改変が可能である。特に、ペプチドと他の蛋白質との相互作用を安定化し、ペプチドを解離し難くするために通常よく使用される修飾、例えばC末端のアルデヒド化またはN末端のアセチル化などの修飾は、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害するペプチドの有効性を高めるために有用である。
【0042】
上記ペプチドは、ペプチド化学において知られる一般的な方法で製造できる。例えば、公知文献に記載の方法(非特許文献32および33)が例示されるが、これらに限らず公知の方法が広く利用可能である。
【0043】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤は、その一態様において、HNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、HNF−4αのRSKBによるリン酸化阻害剤、およびRSKB活性の阻害剤の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなる。このとき、HNF−4αのリン酸化の阻害剤は、HNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、HNF−4αのRSKBによるリン酸化阻害剤、およびRSKBの活性阻害剤の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなる阻害剤であることができる。また、HNF−4αに対するかかる阻害物質を複数組合せて含有する阻害剤であることもできる。より具体的には、例えばHNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、HNF−4αのRSKBによるリン酸化阻害剤、RSKBの活性阻害剤の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなることが好ましい。
【0044】
本発明に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法は、その一態様において、HNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、HNF−4αのRSKBによるリン酸化阻害剤、およびRSKBの活性阻害剤の少なくとも1つを用いることを特徴とする。このとき、RSKBによるHNF−4αのリン酸化の阻害方法においては、HNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤、およびRSKB活性阻害剤の少なくとも1つを用いることができ、また、各転写因子に対するかかる阻害化合物を複数組合せて用いることもできる。より具体的には、例えばHNF−4αとRSKBとの相互作用阻害化合物、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤、RSKBの活性阻害剤の少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0045】
HNF−4αはその機能の一つにおいて、肝臓における転写因子として糖新生関連遺伝子発現に関与していることが知られている。糖新生関連遺伝子とは、生体において糖新生を調節している物質をコードする遺伝子のことであり、例えばPEPCK遺伝子が挙げられる。糖尿病病態時におけるHNF−4αの活性化は糖新生をさらに亢進し、高血糖を悪化させる原因になると考えられる。
【0046】
本発明のまた別の一態様は、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の産生調節方法に関する。本発明に係る糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の産生調節方法は、それらをコードする遺伝子の発現に係るHNF−4αのRSKBによるリン酸化を調節して、該遺伝子の遺伝子産物の産生を調節することを特徴とする。
【0047】
糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生調節方法の一態様は、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の産生阻害方法であり、該遺伝子発現に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害することを特徴とする。当該産生阻害方法は具体的には、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤またはRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法を使用することにより達成できる。上記リン酸化阻害剤を含んでなる、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進剤も本発明の範囲に包含される。
【0048】
糖新生関連遺伝子発現に係るHNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、HNF−4αの結合部位をプロモーターまたはエンハンサー内に有する遺伝子の遺伝子産物が挙げられる。具体的には、HNF−4αが作用する遺伝子として、RSKBによりリン酸化されたHNF−4αの結合部位であるAF1をプロモーターまたはエンハンサー内に有する遺伝子、例えばPEPCK遺伝子が挙げられる。
【0049】
本発明のさらに別の一態様は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患の防止剤および/または治療剤、並びに当該疾患の防止方法および/または治療方法に関する。当該疾患の防止剤および/または治療剤は、上記リン酸化阻害剤を含んでいる。当該疾患の防止方法および/または治療方法は、上記リン酸化阻害剤または上記リン酸化阻害方法を使用することにより達成できる。
【0050】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患としては、例えばHNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患が挙げられる。例えばRSKBによりリン酸化されたHNF−4αはPEPCK遺伝子上流の転写部位への結合を促進させ、該遺伝子の遺伝子産物産生に寄与している。
【0051】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患として具体的には、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患、例えばPEPCK遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患などが例示できる。より具体的には、糖新生異常による疾患、例えば糖尿病などが挙げられる。
【0052】
本発明のまた別の一態様は、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害する化合物の同定方法に関する。該同定方法は、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して構築可能である。また、本発明に係るリン酸化系またはリン酸化方法を利用して、該同定方法が実施可能である。
【0053】
本発明の被検化合物としては、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、またはRSKBおよびHNF−4αの一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物などが挙げられる。あるいは、HNF−4αとRSKBの相互作用部位および/またはRSKBによるHNF−4αのリン酸化部位のペプチドの構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物なども被検化合物として好適である。
【0054】
具体的には、RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件を選択し、当該条件下でRSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBとHNF−4αの相互作用を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、RSKBとHNF−4αの相互作用を阻害する化合物を同定できる。RSKBとHNF−4αの相互作用の検出は、自体公知の検出方法、例えばウェスタンブロッティング法などを用いて実施できる。
【0055】
RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件は、インビトロの系であってよく、インビボの系であってもよい。例えば、RSKBと当該転写因子を共発現させた細胞を用いることもできる。RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物の接触は、RSKBとHNF−4αの相互作用反応の前に行なってもよいし、相互作用反応に共存させることにより行なってもよい。
【0056】
本発明においてシグナルとは、そのもの自体がその物理的または化学的性質により直接検出され得るものを指し、マーカーとはそのものの物理的または生物学的性質を指標として間接的に検出され得るものを指す。
【0057】
シグナルとしてはルシフェラーゼ、グリーン蛍光蛋白質、および放射性同位体など、マーカーとしては、レポーター遺伝子、例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子など、または検出用のエピトープタグ、例えば6×His−tagなど、一般的に化合物の同定方法に用いられている標識物質であれば、いずれも用いることができる。これらシグナルまたはマーカーは、単独で使用してもよく、2つ以上を組合せて用いてもよい。これらシグナルまたはマーカーの検出方法は当業者に周知のものである。
【0058】
本発明の別の一態様は、RSKBによる糖新生関連遺伝子発現に係るRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物の同定方法に関する。該同定方法は、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して構築可能である。また、本発明に係るリン酸化系またはリン酸化方法を利用して、該同定方法が実施可能である。
【0059】
具体的には、RSKBによる糖新生関連遺伝子発現に係るHNF−4αのリン酸化を可能にする条件を選択し、当該条件下でRSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物を同定できる。
【0060】
RSKBによるHNF−4αのリン酸化を可能にする条件は、インビトロであってよく、インビボの系であってもよい。例えば、RSKBと当該転写因子を共発現させた細胞を用いることもできる。RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物の接触は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化反応の前に行なってもよいし、リン酸化反応に共存させることにより行なってもよい。RSKBによるHNF−4αのリン酸化は、簡便にはリン酸化型HNF−4α量の存在若しくは不存在および/または変化の測定により検出できる。
【0061】
リン酸化型HNF−4α量の定量は、自体公知の蛋白質またはペプチドの検出方法、例えばウェスタンブロッティング法などを用いて実施できる。あるいは、RSKBによるHNF−4αのリン酸化の検出は、HNF−4α活性の存在若しくは不存在および/または変化の測定により行なうことができる。具体的には、例えば、HNF−4αがPEPCK遺伝子に作用するときには、HNF−4αとRSKBとを発現している細胞に、PEPCK遺伝子のプロモーター領域をその上流に組み込んだレポーター遺伝子を含むプラスミドをトランスフェクションし、被検化合物とこの細胞を接触させた場合のレポーター遺伝子の発現量を、当該被検化合物と接触させなかった場合のレポーター遺伝子の発現量と比較することにより、所望の化合物の同定を行なうことができる。
【0062】
その他、RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件を選択し、当該条件下でRSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBとHNF−4αの相互作用を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害する化合物を同定できる。RSKBとHNF−4αの相互作用の検出は、自体公知の検出方法、例えばウェスタンブロッティング法などを用いて実施できる。
【0063】
かかる同定方法で得られた化合物は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤あるいはHNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害剤として利用可能である。RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤またはHNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害剤は、生物学的有用性と毒性のバランスを考慮して選別することにより、医薬組成物として調製可能である。医薬組成物の調製において、これら阻害剤は、単独で使用することもできるし、複数を組合せて使用することも可能である。
【0064】
本発明に係る医薬組成物は、通常は1種または2種以上の医薬用担体を用いて製造することが好ましい。医薬用担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤などの希釈剤や賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択使用される。例えば水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。これらは、本発明に係る剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合せて使用される。所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜使用して調製することもできる。
【0065】
本発明に係る医薬組成物は、RSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患の防止剤および/または治療剤として使用することができる。また、当該疾患の防止方法および/または治療方法に使用することができる。具体例としては、糖尿病の防止方法および/または治療方法に使用することができ、より好ましくはインスリン非依存性糖尿病の防止方法および/または治療方法に使用することができる。
【0066】
医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断などに応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg乃至100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いて用量を変更することができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0067】
本発明に係る医薬組成物を投与するときには、該医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
【0068】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状などに応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与のほか、皮下、皮内、筋肉内などへの投与を挙げることができる。あるいは経口による投与も可能である。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。
【0069】
投与形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリンなどの包接体、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態が含まれる。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
【0070】
散剤、丸剤、カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトールなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いて製造できる。錠剤やカプセルを製造するには、固体の製薬担体が用いられる。
【0071】
懸濁剤は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトースなどの糖類、種々の分子量のポリエチレングリコール(PEG)などのグリコール類、油類を使用して製造できる。
【0072】
注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液、または塩水とグルコース溶液の混合物からなる担体を用いて調製可能である。
【0073】
リポソーム化は、例えばリン脂質を有機溶媒(クロロホルムなど)に溶解した溶液に、当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液を加えた後、溶媒を留去し、これにリン酸緩衝液を加え、振とう、超音波処理および遠心処理した後、上清をろ過処理して回収することにより行い得る。
【0074】
脂肪乳剤化は、例えば当該物質、油成分(大豆油、ゴマ油、オリーブ油などの植物油、MCTなど)、乳化剤(リン脂質など)などを混合、加熱して溶液とした後に、必要量の水を加え、乳化機(ホモジナイザー、例えば高圧噴射型や超音波型など)を用いて、乳化・均質化処理して行い得る。また、これを凍結乾燥化することも可能である。なお、脂肪乳剤化するとき、乳化助剤を添加してもよく、乳化助剤としては、例えばグリセリンや糖類(例えばブドウ糖、ソルビトール、果糖など)が例示される。
【0075】
シクロデキストリン包接化は、例えば当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液に、シクロデキストリンを水などに加温溶解した溶液を加えた後、冷却して析出した沈殿をろ過し、滅菌乾燥することにより行い得る。このとき、使用されるシクロデキストリンは、当該物質の大きさに応じて、空隙直径の異なるシクロデキストリン(α、β、γ型)を適宜選択すればよい。
【0076】
本発明のさらに別の一態様は、RSKB、RSKBをコードするポリヌクレオチド、RSKBをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つと、HNF−4α、HNF−4αをコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つとを含んでなる試薬キットに関する。当該試薬キットは、例えば本発明に係る同定方法に使用可能である。
【0077】
また、上記ペプチドおよび上記同定方法で得られた化合物からなる試薬およびこれらを含む試薬キットも本発明の範囲に包含される。試薬キットは、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出するためのシグナルおよび/またはマーカー、これらの検出剤、反応希釈液、緩衝液、洗浄剤および反応停止液など、測定の実施に必要とされる物質を含むことができる。さらに、安定化剤および/または防腐剤などの物質を含んでいてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質それぞれに応じた製剤化手段を導入すればよい。これら試薬および試薬キットは、例えばRSKBによるHNF−4αのリン酸化に起因する疾患、例えば糖尿病におけるHNF−4αやRSKBの関与についての分子レベルでの研究などに有用である。
【0078】
HNF−4αのリン酸化を阻害することによる糖尿病の予防および/または治療を行えることを確認するためには、以下のような実験を行えばよい。糖尿病モデル動物のZDFラットは、肝臓中のPEPCKの発現量が正常に比べ2.4倍増加していることが知られている(非特許文献38)。このモデル動物のRSKB活性化によるHNF−4αのリン酸化を、1)肝臓中HNF−4αのリン酸化量と2)肝臓中RSKBの活性化量をまず調べ、RSKB活性化を阻害するリン酸化阻害剤であるH−89(N−[2−((p−ブロモシンナミル)アミノ)エチル]−5−イソキノリンスルホナマイド;N−[2−((p−Bromocinnamyl)amino)ethyl]−5−isoquinolinesulfonamide)(非特許文献34)を用い、モデル動物個体群の血中グルコース濃度を判定すればよい。血中グルコース濃度は前述したように約半分に減少する。
【0079】
上記、肝臓中の1)HNF−4αのリン酸化量は、HNF−4αを免疫沈降して抗リン酸化抗体を用いてリン酸化の程度を検出すればよく、2)RSKBの活性化量は、抗活性化型RSKB抗体を作成し免疫沈降するか、抗RSKB抗体で免疫沈降し、インビトロのキナーゼ活性測定をすればよい。
【実施例】
【0080】
実施例1
(RSKBと相互作用する蛋白質のインシリコでの探索)
RSKBと相互作用する蛋白質を、国際公開第W001/67299号公報に記載の予測方法に従ってインシリコ(in silico)で予測した。すなわち、RKSBのアミノ酸配列をある長さのオリゴペプチドに分解し、各オリゴペプチドのアミノ酸配列あるいはそのアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を持った蛋白質をデータベース中で検索し、得られた蛋白質とRSKBとの間でローカルアライメントを行い、ローカルアライメントのスコアの高いものをRSKBと相互作用すると予測した。ここではローカルアライメントのスコアを国際公開第W001/67299号公報に記載の方法と同様に、25.0以上とした。
この結果、RSKB由来のアミノ酸残基からなるオリゴペプチド[CRRCRQ(配列番号10)、VSRRILK(配列番号13)]と相同性のあるオリゴペプチド[CRYCRL(配列番号11)、CRFSRQ(配列番号12)、VSIRILD(配列番号14)]がHNF−4αのアミノ酸配列中に存在することがわかった。図1に、RSKB(図中、上の配列)とHNF−4α(図中、下の配列)とのローカルアライメントの結果を示した。
【0081】
実施例2
(RSKBによるHNF−4αのリン酸化)
ヒトHNF−4αがRSKBによってリン酸化されるかを、哺乳類培養細胞にて一過性発現させたHNF−4αおよびRSKB蛋白質を用いたインビトロのリン酸化試験で検討した。なお、RSKBの活性はサイクリックAMP応答配列結合蛋白質1[cAMP responsive element binding protein1(CREB1)]にて確認し、HNF−4αをリン酸化することが知られているサイクリックAMP応答配列依存性プロテインキナーゼ[cAMP−dependent protein kinase(PKA)]をリン酸化酵素の陽性対照とした。
【0082】
<材料>
RSKB発現プラスミド(RSKB/pCMV−Tag2)を以下のように構築した。Human RSKB cDNAをHeLa細胞由来cDNA(Human HeLa Quick−clone cDNA、クローンテック社)よりPCRにより獲得し、シーケンスにより配列を確認した。その後、N末端にFLAGタグを付加させる動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag2(ストラタジーン社)に組込み、RSKB発現プラスミド(RSKB/pCMV−Tag2)を構築した。なお、クローニングしたRSKB cDNAのアミノ酸配列はNCBI proteinデータベースのアクセション番号NP_003933(登録遺伝子名はRPS6KA4)と同一である。
【0083】
HNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pcDNA 3.1/His)を以下のように構築した。ヒトHNF−4α cDNAを、ヒト脳poly A+ RNAからのRT−PCRにより獲得した。その後N末端に(6×His)−Xpressタグを付加させる動物細胞用発現プラスミド、pcDNA3.1/His(インビトロジェン社)に組み込みHNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pcDNA 3.1/His)を構築した。なお、クローニングしたHNF−4αcDNAのアミノ酸翻訳配列は、Swiss−Protデータベースのアクセッション番号P41235(登録遺伝子名はHNF4A)と同一である。
【0084】
ヒトCREB1[Human cAMP−responsive element binding protein(CREB1)]発現プラスミドを以下のように構築した。ヒトCREB1 cDNAをHeLa細胞由来cDNA(Human HeLa Quick−clone cDNA、クローンテック社)よりPCRにより獲得し、シーケンスにより配列を確認した。その後、N末端に(6×His)−Xpressタグを付加させる動物細胞用発現プラスミドpcDNA3.1/His(インビトロジェン社)に組み込み、CREB1発現プラスミド(CREB1/pcDNA3.1/His)を構築した。なお、クローニングしたCREB1 cDNAのアミノ酸配列はNCBI proteinデータベースのアクセション番号NP_004370(登録遺伝子名はCREB1)と同一である。
【0085】
RSKBの活性化と精製は以下のように行った。細胞数1.2×106のHEK293T細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(直径100mmシャーレ、4枚)、10μg/シャーレのRSKB発現プラスミド(RSKB/pCMV−Tag2)をFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。2日間培養した後、終濃度50mMとなるようにメタ亜ヒ酸ナトリウム(sodium arsenite)を培地中に添加し、37℃で30分処理して細胞を回収した。細胞を冷却したリン酸緩衝生理食塩水(−)〔以下、PBS(−)と称する。〕で洗浄後、BufferA(50mM Tris−HCl(pH7.5)/1mM EDTA/1mM EGTA/10% グリセロール/500μM DTT/ 5mM NaPPi/1mM Na3VO4/50mM NaF/1% Triton− X100)を4ml加えてよくピペッティングし、4℃で30分攪拌した。その後、終濃度150mMとなるようNaClを加え、10000g×10分(4℃)で遠心した。上清を回収し、BufferB(50mM Tris−HCl(pH7.5)/1mM EDTA/1mM EGTA/10% グリセロール/500μM DTT/5mM NaPPi/1mM Na3VO4/50mM NaF/150mM NaCl)で洗浄したFLAG M2アフィニティーゲル(シグマ社)を100μl加え、4℃で1時間転倒混和した。混和後、10倍容量のBufferBでゲルを2回洗浄し、10倍容量のBufferC(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/10% グリセロール/0.5μM DTT/150mM NaCl)で1回洗浄した。その後ゲルを400μlのBufferD(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/10% グリセロール/0.5μM DTT/150mM NaCl/0.1% NP−40/300μg/ml FLAGペプチド)で3回溶出した。溶出した各画分はCBB染色を実施し、精製度を確認するとともにBufferCによる透析をおこない、活性体RSKBとして使用まで−80℃にて保存した。図1に活性型RSKB蛋白質をCBB染色した結果を示す。
【0086】
cAMP依存性プロテインキナーゼ(cAMP−dependent protein kinase)(PKA)酵素はウシPKA(cAMP依存性プロテインキナーゼ、触媒サブユニット、プロメガ社)を使用した。
【0087】
<方法>
免疫沈降リン酸化試験は以下のように行った。細胞数7×105のHEK293T細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(直径60mmシャーレ)、5μgのHNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pcDNA3.1/His)またはCREB1発現プラスミド(CREB1/pcDNA3.1/His)をFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。2日間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、RIPA(50mM Tris−HCl(pH8.0)/150mM NaCl/1% NP−40/0.5% デオキシコール酸ナトリウム塩(deoxycholate sodium salt)/0.1% SDS)にプロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ社)を添加したものを500μl加え、ピペッティングにて細胞を懸濁し、氷上で20分間静置して細胞を溶解させた。その後、軽くボルテックスをして14,000rpm×10分間(4℃)で遠心し、上清を採取した。上清480μlにマウスIgGアガロース(シグマ社)を20μl加え、4℃で1時間転倒混和した(pre−clean)。その後、14,000rpm×1分間(4℃)で遠心を行ない、採取した上清450μlに抗Xpress抗体(インビトロジェン社)1μlを加え、4℃で1時間転倒混和した後、0.1%BSA/TBS(pH8.0)でブロッキングしたProtein G Sepharose 4 Fast Flow(アマシャム・ファルマシア・バイオテック社)を10μl加え、さらに4℃で1時間転倒混和を行なった。その後、Protein G SepharoseをRIPAで3回、kinase Buffer(セル・シグナリング社)で2回洗浄した。10μlの洗浄したProtein G Sepharoseに5μlの活性型RSKB蛋白質、3μlの10×kinase buffer(200mM HEPES(pH8.0)/12mM EDTA/600mM KCl/10mM DTT/50mM MgCl2)、2μlの100μM ATP 、0.5μlのγ32P−ATP (5μCi)、8.5μlの蒸留水を加え合計29μlとし、30℃で30分間反応させた。PKAを用いた試験では、上記と同様に調整した10μlのHNF−4α/protein G−sepharoseに、1.5μlのPKA、3μlの10×Kinase Buffer、2μlの100μM ATP、0.5μlのγ32P−ATP(5μCi)、3.5μlの10×kinase buffer、8.5μlの蒸留水を加え合計29μlとし、30℃で30分反応させた。反応は20μlの2×SDSサンプルバッファーを加え停止させ、100℃で5分加熱しSDS−PAGE試料とした。10%ゲルにて蛋白を分離し、ハイブリパックに挟み、BAS2000(富士フィルム社)の画像処理により、リン酸化の有無を確認した。
【0088】
<結果>
図3に示したように、精製されたRSKBによるCREB1蛋白のリン酸化が認められ、使用したRSKB蛋白が活性を有することが確認された。この活性型RSKB蛋白を用いてHNF−4αに対するリン酸化反応を検討した結果、RSKB依存的なリン酸化が認められ、HNF−4αはRSKBの基質であることが明らかとなった。
【0089】
実施例3
(HNF−4αのAF1配列に対するEMSA)
HNF−4αのAF1配列に対するDNA結合能に対するリン酸化の影響をelectrophoretic mobility shift assay(EMSA)により検討した。また、RSKBの特異性を検討するため、HNF−4αをリン酸化することが知られているPKAについても同様にEMSAを実施した。
【0090】
<材料>
図4に示したように、AF1プローブの合成は、ヒトPEPCK遺伝子のプロモーター領域(NCBIアクセッション番号U31519)よりHNF−4αの結合サイトであるAF1相当配列から、AF1/S/HNF4(5´−GTGACCTTTGACTA−3´)(配列番号7)及びAF1/AS/HNF4(5´−ATAGTCAAAGGTCA−3´)(配列番号8)の二本のプローブを合成した(シグマジェノシスジャパン社)。
【0091】
HNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pCMV−Tag2)は、先に構築したHNF−4α発現プラスミドHNF−4α/pcDNA 3.1/HisからEcoRIサイトで、HNF−4αのcDNA配列をN末端FLAGタグの付いた動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag2(ストラタジーン社)に組換えをおこない、発現プラスミドHNF−4α/pCMV−Tag2を構築した。
【0092】
HNF−4α蛋白の精製は以下のように行った。細胞数1.2×106のHEK293T細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(直径100mmシャーレ、4枚)、10μg/シャーレのHNF−4α発現プラスミド(HNF−4α/pCMV−Tag2)をFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。2日間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、4mlのBufferA(50mM Tris−HCl(pH7.5)/ 1mM EDTA/1mM EGTA/10% グリセロール/500μM DTT/5mM NaPPi/1mM Na3VO4/50mM NaF/1% Triton−X100)を加えてよくピペッティングし、4℃で30分攪拌した。その後、終濃度150mMとなるようNaClを加え、10,000g×10分(4℃)で遠心した。上清を回収し、BufferB(50mM Tris−HCl(pH7.5)/1mM EDTA/1mM EGTA/10% グリセロール/500μM DTT/5mM NaPPi/1mM Na3VO4/50mM NaF/150mM NaCl)で洗浄した100μlのFLAG M2 Affinity Gel(シグマ社)を加え、4℃で1時間転倒混和した。混和後、10倍容量のBufferBでゲルを2回、BufferC(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/10% グリセロール/0.5μM DTT/150mM NaCl)で1回洗浄した。その後ゲルを400μlのBufferD(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/10% glycerol/0.5μM DTT/150mM NaCl/0.1% NP−40/300μg/ml FLAGペプチド)で2回溶出した。溶出した各画分はそれぞれSDS−PAGEをおこない、BufferCにて透析後、CBB染色を行って精製度を確認した。図5にFLAG−HNF−4α蛋白質をCBB染色した結果を示す。
【0093】
<方法>
プローブの放射性標識化および精製は以下のようにおこなった。合成したプローブを各々100pmol/μlになるように蒸留水に溶解し、100℃で2分、38℃で1時間加熱後、自然冷却してDNAをアニールさせた。これを10倍希釈して0.5μlを分取し、1μlのT4ポリヌクレオチドキナーゼ(TOYOBO社)、6μlのγ32P−ATP(60μCi)、2μlの10×Protruding End Kinase Buffer(500mM Tris−HCl(pH8.0)/100mM MgCl2/100mM 2−メルカプトエタノール)、10.5μlの蒸留水を加え37℃で1時間インキュベートした。Protruding Endとは「突出末端」を意味し、Protruding End Kinase Bufferは、T4ポリヌクレオチドキナーゼが2本鎖DNAの突出末端の5´−末端にγATPのγ位のリン酸基を付加する際に用いるバッファーである。その後、5μlの0.25M EDTA、5μlの20mg/mlイーストRNAを加え、蒸留水で100μlとし、フェノール・クロロホルム処理、エタノール沈殿を行い、50μlのSTE(100mM NaCl/10mM Tris−HCl(pH8.0)/1mM EDTA(pH8.0))に溶解した。その後、CENTRI・SPIN 20(プリンストン・セパレーションズ社)でゲルろ過をおこない、放射性標識AF1プローブとした。
【0094】
RSKBPおよびPKAによるリン酸化処理とEMSAは以下のように行った。6.25μlのFLAG−HNF−4α蛋白質に、5μlの段階的(1×、1/2、1/4)に希釈した活性型RSKB蛋白質、2μlの10×kinase buffer(200mM HEPES(pH8.0)/12mM EDTA/600mM KCl/10mM DTT/50mM MgCl2)、4μlの1mM ATPと2.75μlの蒸留水を加え計20μlとし、30℃で30分反応させた。PKAによるリン酸化ではRSKB蛋白質の代わりに1.5μlのPKAを使用した。反応後、4μlの反応液を分取し、2μlの10×binding buffer(100mM Tris−HCl(pH7.5)/1mM EDTA/500mM NaCl/1mM DTT/50% グリセロール)、1μlの1mg/mlポリdIdC、11μlの蒸留水を混合し計18μlとし、氷上で10分反応させた。この時、一部のサンプルには抗HNF−4α抗体(C−19、SantaCruz社)1μlを添加した。その後、放射性標識AF1プローブを2μl加え、室温で20分反応させた。6%アクリルアミドゲルを0.25×TBE[0.25×EDTA含有トリスホウ酸バッファー(12.5mM Tris−HCl/12.1mM ホウ酸)]で1時間、4℃でプレラン後、各試料を15μlずつアプライして1時間50分、4℃で泳動した。その後65℃、1時間でゲルを乾燥させ、BAS2000(富士フィルム社)での画像処理により、プローブへのHNF−4αの結合の有無を確認した。
【0095】
<結果>
図6および7に示したように、RSKBにてリン酸化処理されたHNF−4αは、非処理試料に比べAF1配列に対するDNA結合能が亢進しており、またRSKBの用量依存性も確認された。一方、PKAにてリン酸化処理された試料では非処理試料と同程度の結合しかみられなかったことから、RSKB処理によるHNF−4αのDNA結合能の亢進作用は、特異的なものであることが示された。
【0096】
実施例4
(PEPCKプロモーターを用いたレポーターアッセイ)
PEPCKプロモーターにおけるHNF−4αの転写活性能におよぼすRSKBの影響をルシフェラーゼレポーターアッセイにより、HeLa細胞とHepG2細胞にて検討した。
【0097】
<材料>
RSKB発現プラスミドは、先に実施した「RSKBによるHNF−4αのリン酸化」のRSKB/pCMV−Tag2を使用した。
【0098】
ドミナントネガティブRSKB(S343A)発現プラスミド(RSKB(S343A)/pCMV−Tag2)は、343番目のセリンをアラニンに置換するとRSKBのキナーゼ活性が消失することから(非特許文献34)、RSKB/pCMV−Tag2を鋳型としてQuikChange Site−Directed Mutagenesis kit(ストラタジーン社)を用いて343番目のアミノ酸置換を実施して構築した。
【0099】
HNF−4α発現プラスミドは、先に実施した「HNF−4αのAF1配列に対するEMSA」のHNF−4α/pCMV−Tag2を使用した。
【0100】
MAPK11発現プラスミド(MAPK11/pCMV−Tag4)の構築は以下のように行った。ヒトMAPK11(p38−beta2)cDNAはヒト脳由来cDNA(Human brain whole Quick−clone cDNA、クローンテック社)よりPCRにより獲得し、シーケンスにて配列を確認した。その後、C末端にFLAGタグを付加させる動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag4(ストラタジーン社)に組み込み、MAPK11発現プラスミド(p38−beta2/pCMV−Tag4)を構築した。なお、クローニングしたMAPK11 cDNAのアミノ酸配列はSwiss−Protデータベースのアクセション番号Q15759(登録遺伝子名はMAPK11/SAPK2B)と同一である。
【0101】
PEPCK AF1プロモーター依存性ルシフェラーゼレポータープラスミド(PEPCK AF1プロモーター/pGL3)の構築は以下のように行った。ヒトPEPCK(PCK1)プロモーター領域のうちHNF−4αのシスエレメントであるAF1を含む領域(NCBIデータベースのアクセッション番号U31519の塩基配列882〜1406番目)をヒトゲノムDNA(クローンテック社)よりPCRにより獲得し、シーケンスにて配列を確認した。この領域はPEPCK遺伝子のエキソン1の1番目の塩基位置を+1とすると−469〜+63に相当する(非特許文献35)。その後、この領域をレポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼを発現させるレポータープラスミドpGL3−Basic(プロメガ社)に挿入し、PEPCK AF1プロモーター/pGL3を構築した。
【0102】
PEPCK ΔAF1プロモーター依存性ルシフェラーゼレポータープラスミド(PEPCK ΔAF1プロモーター/pGL3)は、先にクローニングしたヒトPEPCKプロモーター領域から、AF1を含まない部分(U31519の塩基配列934〜1406番目)をPCRにより獲得した。シーケンスにて配列を確認後、pGL3−Basic(プロメガ社)に挿入して構築した。
【0103】
グルココルチコイドレセプター(Glucocorticoid receptor)発現プラスミドには、ラットグルココルチコイドを発現させるpMMGRを使用した(非特許文献36)。
【0104】
遺伝子導入効率補正プラスミド(インターナルコントロール)には、レポーター遺伝子としてウミシイタケルシフェラーゼを発現させるphRL−nullプラスミドまたはpRL−SV40プラスミド(プロメガ社)を使用した。
【0105】
MAPK11阻害剤には、SB203580をプロメガ社より購入して用いた。
【0106】
<方法>
HeLa細胞におけるレポーターアッセイは以下のように行った。細胞数6×104/ウェルのHeLa細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(24ウェルプレート(2.0cm2/ウェル))、0.25μgのPEPCK AF1プロモーター/pGL3、0.05〜0.2μgのHNF−4α/pCMV−Tag2、0.25μgのRSKB/pCMV−Tag2、0.05μgのMAPK11/pCMV−Tag4および0.025μgのインタナールコントロールphRL−nullを予め設定した組み合わせでFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。総DNA量は各実験群で一定量となるように、空ベクターpCMV−Tag2(ストラタジーン社)にて補正した。2日間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、Dual−Lusiferase Reporter Assay kit(プロメガ社)にて細胞溶解液中のホタルルシフェラーゼ活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。転写活性はホタルルシフェラーゼ活性値をウミシイタケルシフェラーゼ活性値で除した後、コントロール群(PEPCK AF1プロモーター/pGL3のみ)に対する倍数で表示した。
【0107】
HepG2細胞におけるレポーターアッセイは以下のように行った。細胞数1×104/ウェルのHepG2細胞を37℃にて5%CO2の存在下で一晩培養した後(24ウェルプレート(2.0cm2/ウェル)、0.5μgのPEPCK AF1プロモーター/pGL3、0.5μgのHNF−4α/pCMV−Tag2、0.25μgおよび0.5μgのRSKB/pCMV−Tag2、0.5μgのMAPK11/pCMV−Tag4、0.5μgのpMMGRおよび0.05μgのインターナルコントロールpRL−SV40を予め設定した組み合わせでFuGENE6(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて細胞にトランスフェクションした。総DNA量は各実験群で一定量となるように、空ベクターpCMV−Tag2(ストラタジーン社)にて補正した。MAPK11阻害剤SB203580を添加した群は、FuGENE6によるトランスフェクション直前に終濃度10μMとなるようにSB203580を培地に添加した。トランスフェクション後20時間にデキサメサゾンを終濃度1μMとなるように培地に添加し、さらに24時間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、Dual−Lusiferase Reporter Assay kit(プロメガ社)にて細胞溶解液中のホタルルシフェラーゼ活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。転写活性はホタルルシフェラーゼ活性値をウミシイタケルシフェラーゼ活性値で除した後、RSKB非発現群(HNF−4α0.5)に対する倍数で表示した。
【0108】
統計解析はバートレット検定によって分散を、多重比較検定によって平均値をそれぞれ検定した。
【0109】
<結果>
図8に示したようにHeLa細胞において、PEPCK AF1プロモーターに対してHNF−4αを発現させると用量依存的に転写活性の増加が認められ、HNF−4αはPEPCK遺伝子の転写活性を正に制御することが確認された。次にRSKBをHNF−4αと共発現させHNF−4αの転写活性に対する影響を検討したが、図8に示したようにRSKB非発現群と明瞭な差は認められなかった。これはRSKB自身のキナーゼ活性が不十分であると考えられたことから、RSKBを活性化させるために上流キナーゼであるMAPK11(p38−beta2)をRSKBと共発現させ、転写活性への影響を検討した。その結果、図9に示したように、HNF−4α発現群(HNF−4α0.05)に比べ、活性化RSKB発現群(HNF−4α0.05+RSKB 0.25+MAPK11 0.05)では転写活性が3倍以上増加した。一方、RSKBを除いたMAPK11発現群(HNF−4α0.05+MAPK11 0.05)ではHNF−4αの転写活性の促進は認められなかった。さらに、図10に示したように、キナーゼ活性を持たないドミナントネガティブRSKB(S343A)では、MAPK11と共発現させてもHNF−4αの転写活性の促進が見られなかった(図10、HNF−4α0.05+RSKB(S343A) 0.25+MAPK11 0.05)。また、図11に示したように、AF1を除いたPEPCKΔAF1プロモーターではHNF−4αの転写活性が認められず、今回のHNF−4αの転写活性はAF1領域への結合を介して行われていることが確認された。以上の結果から、RSKBによってリン酸化されたHNF−4αはPEPCKプロモーターのAF1への結合を介して転写活性を促進することが実証された。
【0110】
図12に示したように、肝細胞由来のHepG2細胞において、MAPK11をRSKBと共発現させると(HNF−4α 0.5+RSKB 0.5+MAPK11 0.5)、HNF−4αのPEPCK AF1プロモーターに対する転写活性はRSKB非発現群(HNF−4α0.5)よりも3倍以上増加した。さらにMAPK11阻害剤SB203580を添加し、MAPK11によるRSKBの活性化を阻害するとHNF−4αの転写活性の増加が消失した(HNF−4α0.5+RSKB 0.5+MAPK11 0.5+SB203580)。以上の結果より、HepG2細胞においてもRSKBによってリン酸化されたHNF−4αはAF1を含むPEPCKプロモーターの転写活性を促進することが実証された。
【0111】
実施例5
実験例1.糖尿病モデル動物での肝臓中HNF−4αのリン酸化の検出
糖尿病を発症するZDF−fa/fa雄性ラットおよび正常動物のZDF−lean雄性ラットを日本チャールズリバー社より5週齢で購入し、飼育維持する。6、8、19週齢に採血した後、ペントバルビタール麻酔下で屠殺し、肝臓を採取する(各週齢n=6)。採取した血液は血中グルコース濃度とインスリン濃度をそれぞれ測定し、ZDF−fa/faで糖尿病が発症していることを確認する。肝臓は氷冷下でセルリシスバッファー[cell lysis buffer(cell signaling社)(20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl/1mM Na2EDTA/1mM EGTA/1% Triton/2.5mM Sodium pyrophosphate/1mM β−glycerophosphate/1mM Na3VO4)]中でホモジナイズし、氷冷下で30分静置後、15000rpm×10分遠心した上清を細胞ライセートとする。作製した細胞ライセートに抗HNF−4α抗体(Santa Cruz社)を添加し4℃で1時間転倒混和した後、0.1%牛血清アルブミン(BSA)/Tris緩衝生理食塩水[Tris−Buffered Saline(TBS)(50mM Tris−HCl/150mM NaCl)](pH8.0)でブロッキングしたprotein G sepharose 4 Fast Flow(Amersham Pharmacia Biotech社)を加え、さらに4℃で1時間転倒混和する。その後、protein G sepharoseをセルリシスバッファーで2回洗浄し、2×SDSサンプルバッファーを添加し、100℃で5分間加熱したものをSDS−PAGE試料とする。5−20%ゲルで蛋白質を分解し、抗リン酸化セリン抗体(Transduction Laboratories社)および抗リン酸化スレオニン抗体(Zymed社)を用いたウェスタンブロット法により、リン酸化HNF−4αを検出する。糖尿病発症動物(ZDF−fa/fa)が正常動物(ZDF−lean)よりHNF−4αのセリン・スレオニン残基のリン酸化が増加することにより、HNF−4αのリン酸化が糖尿病病態下で亢進することが証明できる。
【0112】
実験例2.糖尿病モデル動物での肝臓中RSKBの活性化の検出
糖尿病発症動物(ZDF−fa/fa)および正常動物(ZDF−lean)から上記実験例と同様に肝臓細胞ライセートを作製する。これに抗RSKB抗体とprotein G sepharoseを添加し、上記実験例と同様の免疫沈降法によりRSKBを回収する。回収したRSKB蛋白のキナーゼ活性は、合成基質クレビタイド[CREBtide(Santa Cruz社)](配列番号9)を用いたin vitro kinase assayにより検出する(非特許文献34)。すなわち、RSKB結合レジンをキナーゼバッファー[Kinase buffer(50mM Tris−HCl(pH7.5)/0.1mM EGTA/140mM KCl/5mM NaPPi/10mM MgCl2)]中でCREBtide(33μM)およびγ−32P−ATPと混和し、22℃、30分インキュベートする。その後、反応液をchromatography filter paper P81(Whatman社)に吸着させ、洗浄後、液体シンチレーションカウンターにて放射能を検出する。糖尿病発症動物(ZDF−fa/fa)が正常動物(ZDF−lean)よりRSKBキナーゼ活性が増加することにより、肝臓中RSKB活性が糖尿病病態下で亢進することが証明できる。
【0113】
実験例3.糖尿病モデル動物におけるRSKB阻害剤の抗糖尿病効果
糖尿病を発症するZDF−fa/fa雄性ラットを日本チャールズリバー社より5週齢で購入し、飼育維持する。動物を2群に分け(各群n=5)、6週齢からRSKB阻害剤のH89(N−[2−((p−ブロモシンナミル)アミノ)エチル]−5−イソキノリンスルホナマイド;N−[2−((p−Bromocinnamyl)amino)ethyl]−5−isoquinolinesulfonamide)(非特許文献34)を5mg/kg/日で14日間連続皮下投与する。14日間投与終了後に動物をペントバルビタール麻酔下で屠殺し、肝臓を採取する。また、H−89投与開始前と投与終了後に血液を採取し、血中グルコース濃度とインスリン濃度(レビスインスリンキット、シバヤギ社)を測定する。採取した肝臓を用いてHNF−4αのリン酸化およびRSKB活性を上記実験例1、2と同様に測定するとともに、PEPCK蛋白質発現量をウェスタンブロット法により検出する。上記実験例1と同様に作製した肝臓細胞ライセートに2×SDSサンプルバッファーを等容量添加し100℃で5分間加熱したものをSDS−PAGEの試料とする。5−20%ゲルで蛋白質を分離し、抗PEPCK抗体を用いたウェスタンブロット法によりPEPCKを検出する。H−89投与によりRSKB活性、HNF−4αのリン酸化およびPEPCK蛋白質発現のいずれも低下し、糖新生が抑制されることにより血中グルコース濃度の低下が起こる。
【0114】
上記実験例1、2により、糖尿病モデル動物の肝臓ではRSKBの活性化とそれに伴うHNF−4αのリン酸化が亢進していることが示される。実験例3により、RSKBを阻害することでPEPCKの発現が低下し、肝臓の糖新生が抑制されることが証明できる。なお、H−89はRSKB以外にPKA(cAMP依存性プロテインキナーゼ、cAMP−dependent protein kinase)を阻害する作用がある。PKAはCREBをリン酸化し、リン酸化されたCREBはCREを有するプロモーターの転写活性を亢進する(非特許文献11)。従って、PKAの抑制はCREBを介するPEPCK遺伝子発現を低下させる可能性がある。しかし、糖尿病モデル動物の肝臓ではCREBのリン酸化が増加するどころか逆に低下しており、PKAも活性化されておらず、PKAシグナルは糖尿病病態下の肝臓でのPEPCK発現増加に関与していないことが示されている(非特許文献39)。また、PKAはHNF−4αをリン酸化するが、このリン酸化によってHNF−4αのPEPCKプロモーターへの結合能が亢進することはない(実施例2、図5)。従ってH−89がPEPCK発現を抑制した場合、それはPKAではなくRSKB阻害に起因すると考えることができる。上記の実験例により、生体内においてRSKBを阻害すれば肝臓でのHNF−4αのリン酸化が抑制され、PEPCKを介する糖新生能が低下し、抗糖尿病効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
上記のように、本発明において提供するRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤および/またはリン酸化阻害方法により、HNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の産生阻害、例えばPEPCK遺伝子の遺伝子産物の産生阻害が可能になる。また、HNF−4αが作用する遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止および/または治療が可能になる。具体的には、例えばPEPCK遺伝子産物の増加に起因する疾患、より具体的には糖尿病などの防止および/または治療が可能である。このように本発明は、糖新生関連遺伝子発現に関与するHNF−4αの過剰なリン酸化に起因する疾患の防止および/または治療のために非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】RSKBとHNF−4αの相互作用をインシリコで予測した結果を示す。RSKBとHNF−4αのローカルアライメントを行い、高いスコアを示した領域を表示した。上の配列および下の配列はそれぞれ、RKSBに存在する配列およびHNF−4αに存在する配列である。
【図2】N末端FLAGタグ動物細胞用発現プラスミドにてHEK293T細胞に一過性発現させ、FLAG M2アフィニティーゲルを用いて精製した活性型FLAG−RSKB蛋白質のCBB染色像を示す。1、2はそれぞれFLAGによる溶出画分1、溶出画分2を示す。実験には溶出画分1を使用した。矢頭は精製FLAG−RSKB蛋白質を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカー(M)の分子量である。
【図3】HNF−4αのインビトロ免疫沈降リン酸化試験の結果、HNF−4αがRSKBによりリン酸化されることを示す。Aは陽性対照のPKAによるリン酸化試験、BはRSKBによるリン酸化試験の結果を示す。CREB1のRSKBによるリン酸化は、精製されたRSKB蛋白質が活性を有することを示す。図中の+および−はそれぞれの蛋白質の有無を示している。矢頭はHNF−4αを、スターマーク(*)はCREB1のリン酸化体を示す。図の左列に記載した数値は、分子量マーカーの分子量である。
【図4】ヒトホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子のプロモーター領域の塩基配列(NCBIアクセッション番号U31519)を示す。ゲルシフトアッセイで用いたAF1配列を太字枠内に示す。PEPCK AF1プロモーター/pGL3は図の矢印1,3で区切られた882〜1406番目の塩基配列(ボールド表示)を、PEPCK ΔAF1プロモーター/pGL3は矢印2,3で区切られた934〜1406番目の塩基配列をそれぞれ使用した。左列の数字はU31519の塩基配列番号を示す。
【図5】N末端FLAGタグ動物細胞用発現プラスミドにてHEK293T細胞に一過性発現させ、FLAG M2アフィニティーゲルを用いて精製したFLAG−HNF−4α蛋白質のCBB染色像を示す。1、2はそれぞれFLAGによる溶出画分1、溶出画分2を示す。実験には溶出画分1を使用した。矢頭は精製FLAG−HNF−4α蛋白質を示す。図の右列に記載した数値は分子量マーカー(M)の分子量である。
【図6】HNF−4αのPEPCKプロモーターのAF1配列に対するEMSAの結果を示す。Aは、HNF−4αがAF1配列に結合することを示す図である。抗HNF−4α抗体の添加により、HNF−4α・DNA複合体の移動度が小さくなるスーパーシフトが見られる。Bは、AF1配列のDNA結合活性に対するRSKBによるリン酸化の影響を示す図面である。RSKBによるリン酸化処理により、HNF−4αのAF1配列に対する結合活性は亢進したが、PKAではその作用は見られない。BにおけるHNF−4αの使用量はAの約10分の1である。図中の+および−は抗HNF−4α抗体の添加の有無を示している。
【図7】RSKBによるHNF−4αのリン酸化が、AF1配列への結合を亢進させる作用の用量依存性を示す。HNF−4αのリン酸化処理に使うRSKB量を減少させるにつれ、HNF−4αのAF1結合活性が低下する。一方、PKA処理(PKA)では、HNF−4αのAF1結合の亢進は見られない。1×、1/2、1/4はそれぞれ原液、2倍および4倍希釈したRSKBによるリン酸化資料のEMSAを示す。スターマーク(*)は、抗HNF−4α抗体の添加を示す。
【図8】HeLa細胞におけるPEPCK AF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αの導入量に依存して転写活性が亢進し、HNF−4αがPEPCK遺伝子を正に制御することを示す図面である。また、RSKBを発現させてもHNF−4αの転写活性には影響がないことも示している。縦軸はコントロール群(PEPCKAF1プロモーター/pGL3のみ導入)の転写活性を1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.05は、0.05μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:コントロールに対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.05に対して有意差あり(p<0.05)、$:HNF−4α0.1に対して有意差あり(p<0.05)、+:HNF−4α0.2に対して有意差あり(p<0.05)、¥:RSKB0.25に対して有意差あり(p<0.05)。
【図9】HeLa細胞におけるPEPCK AF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αによる転写活性がMAPK11によって活性化されたRSKBによって促進されることを示す図面である。RSKBを除いてMAPK11だけを発現させてもHNF−4αの転写活性に影響がないことから、この作用はRSKBによるものと判断できる。縦軸はコントロール群(PEPCKAF1プロモーター/pGL3のみ導入)の転写活性を1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.05は、0.05μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:コントロールに対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.05に対して有意差あり(p<0.05)、$:RSKB 0.25+MAPK11 0.05に対して有意差あり(p<0.05)、+:HNF−4α 0.05+RSKB 0.25+MAPK11 0.05に対して有意差あり(p<0.05)。
【図10】HeLa細胞におけるPEPCK AF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αによる転写活性がRSKBによって促進されることを示す図である。ドミナントネガティブRSKB(S343A)ではMAPK11を共発現させてもHNF−4αの転写活性は促進されない。縦軸はコントロール群(PEPCKAF1プロモーター/pGL3のみ導入)の転写活性1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.05は、0.05μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:コントロールに対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.05に対して有意差あり(p<0.05)、$:HNF−4α0.05+RSKB0.25+MAPK110.05に対して有意差あり(p<0.05)。
【図11】HeLa細胞におけるPEPCK ΔAF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αによる転写活性はPEPCKプロモーター領域のAF1に依存することを示す図である。AF1がないためにHNF−4αを共発現させても、転写活性の促進はみられない。縦軸はコントロール群(PEPCKΔAF1プロモーター/pGL3のみ導入)の転写活性を1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.05は、0.05μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:コントロールに対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.05に対して有意差あり(p<0.05)、$:HNF−4α0.2に対して有意差あり(p<0.05)。
【図12】HepG2細胞におけるPEPCK AF1プロモーターを用いたレポーターアッセイの結果を示す。HNF−4αによる転写活性がMAPK11で活性化されたRSKBによって促進することを示す図面である。MAPK11阻害剤SB203580を添加すると、MAPK11とRSKBを共発現させてもHNF−4αの転写活性の促進はみられないことから、RSKBの活性化が重要であることが示された。縦軸はHNF−4α0.5処理群の転写活性を1.00とした時の倍数である。グラフの高さおよびグラフ上段の値は各群のn=3の平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。各群の蛋白質の横の数字は導入DNA量である(例:HNF−4α0.5は、0.5μgのHNF−4α発現プラスミドを導入した)。*:HNF−4α0.5に対して有意差あり(p<0.05)、#:HNF−4α0.5+RSKB0.25に対して有意差あり(p<0.05)、$:HNF−4α0.5+RSKB0.5に対して有意差あり(p<0.05)、+:RSKB0.5に対して有意差あり(p<0.05)、¥:HNF−4α0.5+RSKB0.5+MAPK110.5に対して有意差あり(p<0.05)、++:HNF−4α0.5+RSKB0.5+MAPK110.5+SB203580に対して有意差あり(p<0.05)。
【配列表フリーテキスト】
【0117】
配列番号1:RSKB cDNAの塩基配列。
配列番号2:RSKB蛋白質のアミノ酸配列。
配列番号3:HNF−4α cDNAの塩基配列。
配列番号4:HNF−4α蛋白質のアミノ酸配列。
配列番号5:CREB1 cDNAのアミノ酸配列。
配列番号6:CREB1蛋白質のアミノ酸配列。
配列番号7:AF1プローブ作成用オリゴヌクレオチドの塩基配列。
配列番号8:AF1プローブ作成用オリゴヌクレオチドの塩基配列。
配列番号9:CREBtideのアミノ酸配列。
配列番号10:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したRSKBの部分オリゴペプチド。
配列番号11:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したHNF−4αの部分オリゴペプチド。
配列番号12:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したHNF−4αの部分オリゴペプチド。
配列番号13:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したRSKBの部分オリゴペプチド。
配列番号14:RSKBとHNF−4αとのローカルアライメントにおいて高いスコアを示したHNF−4αの部分オリゴペプチド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を相互作用を可能にする条件下で共存させることを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化方法。
【請求項2】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)の活性を阻害することを特徴とする、RKSBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害方法。
【請求項3】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)との相互作用を阻害することを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法。
【請求項4】
少なくともリボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)とを発現している細胞を、RSKB活性の阻害剤で処理することを特徴とするRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法。
【請求項5】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤が、RSKBを認識する抗体、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を認識する抗体から選ばれる1つまたは2つ以上の抗体である請求項4に記載のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法。
【請求項6】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤を有効量含むことを特徴とするRSKBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害剤。
【請求項7】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)との相互作用を阻害することを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤。
【請求項8】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性を阻害することを特徴とする、RSKBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害剤。
【請求項9】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤が、RSKBを認識する抗体、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を認識する抗体から選ばれる1つまたは2つ以上の抗体である請求項8に記載のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤。
【請求項10】
ヘパトサイトヌクレアーファクター4αをリボソームS6キナーゼBを用いてリン酸化することを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項11】
糖新生関連遺伝子がホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子である請求項10に記載の糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項12】
リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化を阻害することを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項13】
リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化を阻害することを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項14】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項15】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4αが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項16】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項17】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項18】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項19】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項20】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法。
【請求項21】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法。
【請求項22】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の産生阻害剤。
【請求項23】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる医薬組成物。
【請求項24】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項25】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、糖尿病の防止剤および/または治療剤。
【請求項26】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)の相互作用を阻害する化合物の同定方法であって、RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件下、RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBとHNF−4αの相互作用を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在および/または変化を検出することにより、被検化合物がRSKBとHNF−4αの相互作用を阻害するか否かを決定する同定方法。
【請求項27】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)によるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化を阻害する化合物の同定方法であって、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を可能にする条件下、RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在および/または変化を検出することにより、被検化合物がRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害するか否かを決定する同定方法。
【請求項28】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)、RSKBをコードするポリヌクレオチドおよびRSKBをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうち少なくともいずれか1つと、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)、HNF−4αをコードするポリヌクレオチドおよび該HNF−4αをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つを含んでなるキット。
【請求項1】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を相互作用を可能にする条件下で共存させることを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化方法。
【請求項2】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)の活性を阻害することを特徴とする、RKSBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害方法。
【請求項3】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)との相互作用を阻害することを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法。
【請求項4】
少なくともリボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)とを発現している細胞を、RSKB活性の阻害剤で処理することを特徴とするRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法。
【請求項5】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤が、RSKBを認識する抗体、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を認識する抗体から選ばれる1つまたは2つ以上の抗体である請求項4に記載のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害方法。
【請求項6】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤を有効量含むことを特徴とするRSKBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害剤。
【請求項7】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)との相互作用を阻害することを特徴とする、RSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤。
【請求項8】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性を阻害することを特徴とする、RSKBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化阻害剤。
【請求項9】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)活性の阻害剤が、RSKBを認識する抗体、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を認識する抗体から選ばれる1つまたは2つ以上の抗体である請求項8に記載のRSKBによるHNF−4αのリン酸化阻害剤。
【請求項10】
ヘパトサイトヌクレアーファクター4αをリボソームS6キナーゼBを用いてリン酸化することを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項11】
糖新生関連遺伝子がホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子である請求項10に記載の糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項12】
リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化を阻害することを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項13】
リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化を阻害することを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項14】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項15】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4αが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項16】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項17】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、リボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項18】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖新生関連遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項19】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項20】
請求項2から5のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害方法を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法。
【請求項21】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法。
【請求項22】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の産生阻害剤。
【請求項23】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる医薬組成物。
【請求項24】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の遺伝子産物の増加に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項25】
請求項6から9のいずれか1項に記載のリボソームS6キナーゼBによるヘパトサイトヌクレアーファクター4αのリン酸化阻害剤および/またはRSKB活性の阻害剤を有効量含んでなる、糖尿病の防止剤および/または治療剤。
【請求項26】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)とヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)の相互作用を阻害する化合物の同定方法であって、RSKBとHNF−4αの相互作用を可能にする条件下、RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBとHNF−4αの相互作用を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在および/または変化を検出することにより、被検化合物がRSKBとHNF−4αの相互作用を阻害するか否かを決定する同定方法。
【請求項27】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)によるヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)のリン酸化を阻害する化合物の同定方法であって、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を可能にする条件下、RSKBおよび/またはHNF−4αと被検化合物を接触させ、RSKBによるHNF−4αのリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在および/または変化を検出することにより、被検化合物がRSKBによるHNF−4αのリン酸化を阻害するか否かを決定する同定方法。
【請求項28】
リボソームS6キナーゼB(RSKB)、RSKBをコードするポリヌクレオチドおよびRSKBをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうち少なくともいずれか1つと、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)、HNF−4αをコードするポリヌクレオチドおよび該HNF−4αをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つを含んでなるキット。
【図1】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2008−17701(P2008−17701A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308602(P2004−308602)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】
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