説明

糖鎖量測定方法

【課題】本発明は、固定化された糖鎖の量を精度よく測定可能な方法を提供する。
【解決手段】基材上に固定化された糖鎖の糖鎖量を測定する方法であって、前記糖鎖を酸化してアルデヒド基を形成すること、前記アルデヒド基に第1級アミノ基含有標識化合物を接触させて結合させること、及び、前記標識を検出することを含み、前記第1級アミノ基が、ヒドラジド基、オキシルアミノ基、又はアミノ基であり、前記第1級アミノ基含有標識化合物が、標識基と、第1級アミノ基と、前記標識基と前記第1級アミノ基とを接続する炭素原子を含むリンカー部とを有する化合物である糖鎖量測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖量測定方法、並びに基材及び試薬キットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分野において、近年、核酸、タンパク質に続く第三の鎖として糖鎖分子が注目されている。特に細胞の分化や癌化、免疫反応や受精などのかかわりが研究され、新たな医薬や医療材料を創製しようとする試みが続けられている。また、糖鎖は多くの毒素、ウィルス及びバクテリアなどの病原性外来因子受容体であり、また、癌のマーカーとしても注目されており、こちらの分野においても、同様に新たな医薬や医療材料を創製しようとする試みが続けられている。
【0003】
糖鎖は、それ単独で機能を発揮するというより、細胞レセプターに対するリガンドとして機能する場合も多く確認されている。それゆえ、糖鎖に対するレセプターの解析に供するために、種々の糖鎖を固定化するための基材が開発されている(例えば、特許文献1〜3)。しかしながら、固定化された糖鎖を定量する方法について言及している文献はほとんどない。糖鎖固定化基材の性能評価や品質管理を行う上では固定化された糖鎖をいかに定量するかが鍵となる。固定化された糖鎖を直接標識する場合、固相反応となるため反応効率が低く、糖の種類や固定化量によっては検出できない場合もありうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−527539号公報
【特許文献2】特開2008−231013号公報
【特許文献3】特開2008−530538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、固定化された糖鎖の量を精度よく測定可能な方法、並びに基材及び試薬キットの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一態様として、基材上に固定化された糖鎖の糖鎖量を測定する方法であって、前記糖鎖を酸化してアルデヒド基を形成すること、前記アルデヒド基に第1級アミノ基含有標識化合物を接触させて結合させること、及び、前記標識を検出することを含み、前記第1級アミノ基が、ヒドラジド基、オキシルアミノ基、又はアミノ基であり、前記第1級アミノ基含有標識化合物が、標識基と、第1級アミノ基と、前記標識基と前記第1級アミノ基とを接続する炭素原子を含むリンカー部とを有する化合物である糖鎖量測定方法(以下、「本発明の糖鎖量測定方法」ともいう)に関する。
【0007】
本発明は、その他の態様として、糖鎖が固定化された基材の製造方法であって、本発明の糖鎖量測定方法によって固定化された前記糖鎖量を測定する工程を含む基材の製造方法(以下、「本発明の基材の製造方法」ともいう)に関する。
【0008】
本発明は、さらにその他の態様として、糖鎖固定化基材を含む試薬キットの製造方法であって、本発明の糖鎖量測定方法によって固定化された前記糖鎖量を測定することを含む製造方法により前記糖鎖固定化基材を製造する工程を含む試薬キットの製造方法(以下、「本発明の試薬キットの製造方法」ともいう)に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固定化された糖鎖の量を精度よく測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
基材上に固定化された糖鎖を酸化してアルデヒド基を形成し、形成させた糖鎖のアルデヒド基を所定のリンカー部を有する標識化合物と反応させることによって、標識化合物による標識を効率よく行うことができ、また基材上に固定化された糖鎖を精度よく測定できる、という知見に基づく。
【0011】
基材上に固定化された糖鎖を酸化してアルデヒド基を形成し、形成させた糖鎖のアルデヒド基に所定のリンカー部を有する標識化合物と反応させることによって、標識化合物による標識を効率よく行うことができ、また基材上に固定化された糖鎖を精度よく測定できるメカニズムの詳細は不明であるが、以下のように推定できる。すなわち、リンカー部を有する標識化合物を用いることで、標識化合物の標識基と糖鎖の間に距離ができ、立体障害による標識効率の低下を防ぐことが可能であるため、と考えられる。但し、本発明はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0012】
本発明は、以下の態様、すなわち、
〔1〕基材上に固定化された糖鎖の糖鎖量を測定する方法であって、前記糖鎖を酸化してアルデヒド基を形成すること、前記アルデヒド基に第1級アミノ基含有標識化合物を接触させて結合させること、及び、前記標識を検出することを含み、前記第1級アミノ基が、ヒドラジド基、オキシルアミノ基、又はアミノ基であり、前記第1級アミノ基含有標識化合物が、標識基と、第1級アミノ基と、前記標識基と前記第1級アミノ基とを接続する炭素原子を含むリンカー部とを有する化合物である糖鎖量測定方法;
〔2〕前記第1級アミノ基含有標識化合物の標識基が、ビオチン、酵素、蛍光物質及び紫外線吸収物質からなる群から選択される物質である〔1〕記載の糖鎖量測定方法;
〔3〕前記第1級アミノ基含有標識化合物のリンカー部が、ヘキサノイルアミノ基0〜2残基からなる群から選択される基である〔1〕又は〔2〕記載の糖鎖量測定方法;
〔4〕前記アルデヒド基と前記第1級アミノ基含有標識化合物との結合反応が、25〜60℃、15分〜24時間である〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の糖鎖量測定方法;
〔5〕前記糖鎖が、単糖、2糖以上の糖鎖、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、及びそれらの誘導体からなる群から選択される糖鎖である〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の糖鎖量測定方法;
〔6〕前記基材が、プレート、チップ、チューブ、膜、又はビーズである〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の糖鎖量測定方法;
〔7〕前記基材の糖鎖が固定化される表面の材料が、樹脂、ガラス、又はシリコンである〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の糖鎖量測定方法;
〔8〕前記樹脂が、環状ポリオレフィン、スチレン、ABS、PTFE、又はPETである〔7〕記載の糖鎖量測定方法;
〔9〕糖鎖が固定化された基材の製造方法であって、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の糖鎖量測定方法によって固定化された前記糖鎖量を測定する工程を含む、基材の製造方法;
〔10〕糖鎖固定化基材を含む試薬キットの製造方法であって、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の糖鎖量測定方法によって固定化された前記糖鎖量を測定することを含む製造方法により前記糖鎖固定化基材を製造する工程を含む、試薬キットの製造方法;
に関する。
【0013】
[糖鎖]
本明細書において「糖鎖」とは、1以上の単糖及び又は単糖の誘導体が鎖状にグリコシド結合により結合した分子のことをいう。糖鎖としては、例えば、単糖、2糖以上の糖鎖、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、それらの誘導体、それらを含む生体由来物質等が挙げられる。誘導体としては、例えば、前記糖鎖物質を模倣した化合物や、必要に応じて蛍光物質などの標識分子を導入した化合物等が挙げられる。生体由来物質としては、例えば、血液、体液又は組織からの抽出物等が挙げられる。糖鎖は、化学合成により生成された糖鎖化合物であってもよい。
【0014】
[基材]
本明細書において「基材」とは、糖鎖を固定化するためのものであって、その形状は特に制限されず、例えば、プレート、チップ、チューブ、膜、又はビーズ等が挙げられ、中でもプレートが好ましい。プレートとしては、一般にマルチウェルプレートと呼ばれ、細胞培養、組織培養、細菌培養、蛋白質やDNA、RNA等の固定による免疫分析等の分野で汎用されているものが使用できる。マルチウェルプレートは1枚のプレートで多数の検体を同時に扱えるため多量の検体を扱う必要のある創薬スクリーニング、HTS等で多量に使用される。マルチウェルプレートとしては、プレート当たりのウェルの数が6、12、24、48、96、384であるものが一般的である。基材の材質は特に制限されるものではないが、糖鎖が固定化される基材表面が糖鎖を固定化可能な官能基を有することが好ましい。また、基材の糖鎖が固定化される表面の材料は、樹脂、ガラス、又はシリコンであることが好ましい。樹脂としては、例えば、状ポリオレフィン、スチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、又はPET(ポリエチレンテレフタレート)等が挙げられる。
【0015】
本明細書において「基材上に固定化された糖鎖」とは、基材表面に糖鎖が固定化されていることであって、例えば、糖鎖は、基材表面に捕捉されていてもよいし、基材表面の官能基と結合していてもよい。基材表面の官能基との結合としては、例えば、ヒドラゾン結合、オキシム結合又はアミノ結合等が挙げられる。官能基としては、例えば、第1級アミノ基、第2級アミノ基等が挙げられる。反応のしやすさを考えると第1級アミノ基の使用が好ましい。第1級アミノ基としては、例えば、ヒドラジド基、オキシルアミノ基、又はアミノ基等が挙げられる。
【0016】
[第1級アミノ基含有標識化合物]
本明細書において「第1級アミノ基含有標識化合物」とは、標識基と、第1級アミノ基と、前記標識基と前記第1級アミノ基とを接続する炭素原子を含むリンカー部とを有する化合物であって、第1級アミノ基が、ヒドラジド基、オキシルアミノ基、又はアミノ基である。
【0017】
標識基としては、例えば、ビオチン、酵素、蛍光物質及び紫外線吸収物質等が挙げられる。
【0018】
リンカー部は、炭素原子を含むものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、アルカノイルアミノ基、アルカノイル基、アルキルアミノ基、及びアルキル基等が挙げられる。リンカー部の炭素数は、特に限定されるものではないが、例えば、1〜20である。アルカノイルアミノ基としては、例えば、炭素数が3〜10のアルカノイルアミノ基が挙げられ、具体例としては、ブタノイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、及びオクタノイルアミノ基等が挙げられる。アルカノイル基としては、例えば、炭素数が3〜10のアルカノイル基が挙げられ、具体例としては、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、及びオクタノイル基等が挙げられる。中でも、リンカー部は、ヘキサノイルアミノ基0〜2残基が好ましく、より好ましくはヘキサノイルアミノ基1又は2残基である。
【0019】
第1級アミノ基含有標識化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式で表されるアミノオキシビオチン、6−(ビオチニルアミノ)ヘキサノイルヒドラジン、6−[6−(ビオチニルアミノ)ヘキサノイルアミノ]ヘキサノイルヒドラジンが挙げられ、入手のし易さの点から、6−(ビオチニルアミノ)ヘキサノイルヒドラジンが好ましい。
【化1】

【0020】
[糖鎖量測定方法]
本発明は、一態様として、基材上に固定化された糖鎖の糖鎖量を測定する方法であって、前記糖鎖を酸化してアルデヒド基を形成すること、前記アルデヒド基に第1級アミノ基含有標識化合物を接触させて結合させること、及び、前記標識を検出することを含み、前記第1級アミノ基が、ヒドラジド基、オキシルアミノ基、又はアミノ基であり、前記第1級アミノ基含有標識化合物が、標識基と、第1級アミノ基と、前記標識基と前記第1級アミノ基とを接続する炭素原子を含むリンカー部とを有する化合物である糖鎖量測定方法に関する。本発明の糖鎖量測定方法によれば、基材上に固定化された糖鎖を基材上に固定化させた状態で直接測定するため、測定結果のばらつきが低減され、かつ高感度で精度よく固定化された糖鎖の量を測定することができる。
【0021】
本発明の糖鎖量測定方法において、まず、基材上に固定化された糖鎖を酸化してアルデヒド基を形成することを含む。糖鎖の酸化は、公知の方法により行うことができ、例えば、過ヨウ素酸や四酢酸鉛を用いた酸化等が挙げられ、好ましくは過ヨウ素酸を用いた酸化である。過ヨウ素酸による酸化は、糖鎖の酸化によく用いられ、実験指導書にも記載が存在する。
【0022】
酸化を行う条件は、特に制限されず公知の方法に応じて行うことができる。反応温度は、例えば、25〜60℃であり、好ましくは25〜37℃である。反応時間は、例えば、15分以上であり、好ましくは15〜30分である。
【0023】
糖鎖の酸化を過ヨウ素酸を用いて行う場合、反応溶液中の過ヨウ素酸の終濃度は特に制限されるものではないが、例えば、1mg/mL以上であることが好ましく、より好ましくは1〜10mg/mLである。
【0024】
次に、前記糖鎖に第1級アミノ基含有標識化合物を接触させて前記糖鎖のアルデヒド基に前記標識化合物を結合させる。糖鎖のアルデヒド基に第1級アミノ基含有標識化合物との接触は、アルデヒド基が形成された糖鎖が固定された基材に第1級アミノ基含有標識化合物を接触させ、インキュベートすることにより行うことができる。
【0025】
インキュベート条件は、糖鎖及び/又は第1級アミン基含有標識化合物の種類等に応じて適宜決定できる。インキュベート温度としては、例えば、25〜60℃であり、好ましくは25〜37℃である。インキュベート時間としては、例えば、15分以上、好ましくは15分〜24時間、より好ましくは2〜24時間、より好ましくは12〜24時間である。
【0026】
反応溶液中の第1級アミノ基含有標識化合物の終濃度は、第1級アミノ基含有標識化合物等に応じて適宜決定でき特に限定されるものではないが、例えば、5μM以上であり、好ましくは5〜50μMである。
【0027】
そして、前記標識を検出し、基材に固定化した糖鎖の定量等を行う。標識の検出は、例えば、マイクロプレートリーダー、高速液体クロマトグラフィー等により行うことができる。
【0028】
本発明の糖鎖測定方法は、さらに、糖鎖を基材上に固定化することを含んでいてもよい。基材上への糖鎖の固定化方法は、特に制限されるものではないが、例えば、糖鎖を含む溶液を基材に滴下し、加熱して乾固することにより行うことができる。基材表面が第1級アミノ基を有する場合、例えば、糖鎖のアルデヒド末端と第1級アミン基とを共有結合させることによって、糖鎖を基材上に結合させ固定化することができる。
【0029】
基材表面は、糖鎖を固定化可能な官能基を有することが好ましい。上記官能基は、例えば、第1級アミノ基等の官能基を有する高分子化合物を基材表面にコーティングすることによって基材表面に付与することができる。第1級アミノ基を有する高分子化合物としては、例えば、ポリアリルアミンやポリエチレンイミン等の第1級アミンを主鎖中に有する高分子化合物や、側鎖にアミノ基を有するポリリジン又はポリオルニチン等のポリアミン等が挙げられ、中でも、糖を基材に固定化するための第1級アミノ基と夾雑物の非特異的吸着防止のための親水性基を有しており、より確実に糖のみを固定化させる点から、側鎖に第1級アミノ基を有するモノマー、側鎖に親水性基を有するモノマー、基材と固相化するための疎水基を有するモノマーを共重合させた高分子化合物が好ましい。第1級アミノ基を有する高分子化合物としては、具体的には、下記一般式(1)で表される高分子化合物を好適に用いることができる。
【0030】
【化2】

【0031】
式(1)中、R1、R2及びR3は同一又は異なり水素原子またはメチル基を示す。R4は疎水性基を示し、好ましくはアルキル基であり、より好ましくは炭素数が2〜10のアルキル基である。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサを示す。Zは酸素原子又はNHを示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、好ましくはエチレンオキシ基である。pは、アルキレンオキシ基の繰り返し数を示し、例えば、1〜20の整数である。繰り返し数であるpが2以上20以下の場合は、繰り返されるアルキレンオキシ基Xの炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。l、m及びnはモノマーユニット数を示す自然数であり、各構成成分の組成割合として表記される場合がある。
【0032】
一般式(1)で表される高分子化合物は、(メタ)アクリル残基とホスホリルコリン基が炭素数1〜10のアルキレンオキシ基Xの連鎖を介して結合した構造であることが好ましい。ホスホリルコリン基を有するモノマーの組成割合は(l,m,nの和に対するlの比率)は、非特異的吸着を低減し、かつ高分子化合物の溶出を抑制する点から、高分子の全モノマーに対して、5〜98mol%が好ましく、より好ましくは10〜80mol%、さらに好ましくは10〜80mol%である。一般式(1)で表される高分子化合物は、中でも、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−N−[2−[2−[2−(t−ブトキシカルボニルアミノオキシ−アセチルアミノ)エトキシ]エトキシ]エチル]−メタクリルアミド共重合体が好ましい。
【0033】
[基材の製造方法]
本発明は、その他の態様として、糖鎖が固定化された基材の製造方法であって、本発明の糖鎖量測定方法によって固定化された前記糖鎖量を測定する工程を含む基材の製造方法に関する。本発明の基材の製造方法によれば、固定化された糖鎖の量が精度良く管理された糖鎖固定化基材を提供することができる。
【0034】
定量は、例えば、マイクロプレートリーダー、及び高速液体クロマトグラフィー等によって行うことができる。
【0035】
[試薬キットの製造方法]
本発明は、さらにその他の態様として、糖鎖固定化基材を含む試薬キットの製造方法であって、本発明の糖鎖量測定方法によって固定化された前記糖鎖量を測定することを含む製造方法により前記糖鎖固定化基材を製造する工程を含む試薬キットの製造方法に関する。本発明の試薬キットの製造方法によれば、固定化された糖鎖の量が精度良く管理された糖鎖固定化基材を含む試薬キットを提供することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
[実施例1] プレート上に固定された糖鎖の定量
(糖鎖固定化基材の作製)
糖鎖を固定化させる基材としては、下記のようにして各ウェルの表面を下記高分子化合物でコーティングした96ウェルプレートを使用した。なお、該96ウェルプレートは住友ベークライトにおいて環状ポリオレフィン樹脂で成形したものを使用した。
【0038】
高分子化合物としては2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−N-[2−[2−[2−(t−ブトキシカルボニル(以下、「Boc」と称す)アミノオキシ−アセチルアミノ)エトキシ]エトキシ]エチル]−メタクリルアミド共重合体を用いた。該高分子化合物の1.0重量%エタノール溶液150μLを96ウェルプレートの各ウェルに分注し、30分静置した後に溶液を抜き取り乾燥させて基材表面に塗布した。乾燥後、2M塩酸100μLを分注し、37℃で2時間反応させてBoc基を脱保護し、高分子化合物でウェル表面がコーティングされた96ウェルプレートを作製した。
【0039】
(糖鎖の固定化)
ウェル内を純水で洗浄した後に、ラクトース(Sigma、61339−25G)、コンドロイチン硫酸A(生化学バイオビジネス、400650)、コンドロイチン硫酸B(生化学バイオビジネス、400660)、コンドロイチン硫酸C(生化学バイオビジネス、400670)、コンドロイチン硫酸D(生化学バイオビジネス、400676)、ヘパラン硫酸(生化学バイオビジネス、400700)およびヒアルロン酸(生化学バイオビジネス、400720)を、2%酢酸含有アセトニトリル:水=3:1の溶液でラクトースは100μM、それ以外は5μg/mLにそれぞれ調製し、各ウェルに100μL分注して80℃で1時間反応させてウェル内に糖鎖を固定化した。反応後ウェル内を純水で洗浄し、10mg/mLの無水コハク酸水溶液を100μL分注し、1時間反応させてウェル表面をコーティングした高分子化合物の未反応の官能基を不活性化した。反応後、ウェル内を純水で洗浄した。
【0040】
(固定化糖鎖の検出)
過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬、197−02402)水溶液を10mg/mLに調製し、各ウェルに100μL分注して25℃で30分反応させて固定化糖鎖を酸化した。ウェル内を純水で洗浄後、6−(ビオチニルアミノ)ヘキサノイルヒドラジン(同仁化学製、製品コード:B302)を300mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で50μMに調製し、各ウェルに100μL分注して37℃で12時間反応させて糖鎖をビオチン化した。ウェル内を純水で洗浄後、Streptavidin−HRP(MP Biomedicals、191370)を1%BSA/PBSバッファーで0.5μg/mLに調製し、各ウェルに100μL分注して25℃で1時間反応させて糖鎖をHRP標識した。ウェル内を0.05%Tween20/PBSバッファーで洗浄後、固相化されたHRP量を測定するために、TMB(Bio−Rad、172−1067)で15分発色し、マイクロプレートリーダー(TECAN社製Infinit200)で測定波長450nmの吸光度を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0041】
[比較例1] プレート上に固定された糖鎖の定量
糖鎖のビオチン化で6−(ビオチニルアミノ)ヘキサノイルヒドラジン(同仁化学製、製品コード:B302)の代わりにビオチンヒドラジド(SIGMA、製品コード:B7639)を用いた点を除き、実施例1と同様の実験を行った。その結果を下記表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
リンカー部としてヘキサノイルアミノ基を1残基有する標識化合物を用いた実施例1によれば、該リンカー部を有さない標識化合物を用いた比較例1と比較して固定化された糖鎖の量を高感度で精度よく測定することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、医療分野、生化学、生物学等の学術分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に固定化された糖鎖の糖鎖量を測定する方法であって、
前記糖鎖を酸化してアルデヒド基を形成すること、
前記アルデヒド基に第1級アミノ基含有標識化合物を接触させて結合させること、及び、
前記標識を検出することを含み、
前記第1級アミノ基が、ヒドラジド基、オキシルアミノ基、又はアミノ基であり、
前記第1級アミノ基含有標識化合物が、標識基と、第1級アミノ基と、前記標識基と前記第1級アミノ基とを接続する炭素原子を含むリンカー部とを有する化合物である、糖鎖量測定方法。
【請求項2】
前記第1級アミノ基含有標識化合物の標識基が、ビオチン、酵素、蛍光物質及び紫外線吸収物質からなる群から選択される物質である、請求項1記載の糖鎖量測定方法。
【請求項3】
前記第1級アミノ基含有標識化合物のリンカー部が、ヘキサノイルアミノ基0〜2残基からなる群から選択される基である、請求項1又は2記載の糖鎖量測定方法。
【請求項4】
前記アルデヒド基と前記第1級アミノ基含有標識化合物との結合反応が、25〜60℃、15分〜24時間である、請求項1から3のいずれかに記載の糖鎖量測定方法。
【請求項5】
前記糖鎖が、単糖、2糖以上の糖鎖、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、及びそれらの誘導体からなる群から選択される糖鎖である、請求項1から4のいずれかに記載の糖鎖量測定方法。
【請求項6】
前記基材が、プレート、チップ、チューブ、膜、又はビーズである、請求項1から5のいずれかに記載の糖鎖量測定方法。
【請求項7】
前記基材の糖鎖が固定化される表面の材料が、樹脂、ガラス、又はシリコンである、請求項1から6のいずれかに記載の糖鎖量測定方法。
【請求項8】
前記樹脂が、環状ポリオレフィン、スチレン、ABS、PTFE、又はPETである請求項7記載の糖鎖量測定方法。
【請求項9】
糖鎖が固定化された基材の製造方法であって、請求項1から8のいずれかに記載の糖鎖量測定方法によって固定化された前記糖鎖量を測定する工程を含む、基材の製造方法。
【請求項10】
糖鎖固定化基材を含む試薬キットの製造方法であって、請求項1から8のいずれかに記載の糖鎖量測定方法によって固定化された前記糖鎖量を測定することを含む製造方法により前記糖鎖固定化基材を製造する工程を含む、試薬キットの製造方法。