説明

糖類修飾金属あるいは半導体微粒子

【課題】 糖鎖結合タンパク質および細胞等の糖類結合成分の検出を極めて高感度に行い得るとともに上記成分の濃度測定を正確に行い得る、糖類結合成分の検出・測定系を新たに提供する。
【解決手段】 金属あるいは半導体の微粒子の表面に単糖類若しくは2糖類以上の糖類が固定されている糖類固定微粒子であり、金属が、金、白金、銀及び銅から選ばれたものであり、半導体が硫化カドミウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデンである。該微粒子に試料溶液中の糖類結合成分が結合する際の光学的性質の変化をみることにより、糖類結合成分の検出、濃度を測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類を表面に固定した金属または半導体微粒子、該微粒子を使用した糖鎖結合タンパク質等の糖類結合物質の捕捉、検出および濃度測定方法、並びに該微粒子の製造に用いる。糖類誘導体化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質・ウィルス・細胞などを瞬時に感度よく検出する手法の開発が望まれている。インフルエンザなどのウィルスの検出、がん細胞などの検出、抗原抗体反応を用いる特定抗原検出などに於いては、蛍光で標識した色素や蛍光標識タンパク質、蛍光標識抗原を用いる手法を中心に行われている。蛍光標識を用いる手法では、目的分子との間の結合が起こると起こらずとに関わらず、蛍光を発するため検出の精度に問題が残る。近年、ウィルスや細胞の表面に特異的に存在する糖鎖で識別する方法が注目されてきており、レクチンを固定化した高分子微粒子を用いて、エイズウィルスを捕捉する方法については既報がある(特許文献1参照)。また、糖鎖を固定した高分子微粒子を用いたタンパク質の捕捉についても方法が提案されている(特許文献2参照)。これら高分子微粒子を使う手法は、タンパク質(レクチン)との結合による微粒子分散溶液の濁度の変化量(吸光度の変化量)をもって、当該タンパク質の濃度を求めるものであり、検出感度に問題がある。また、最近では、金微粒子を基板上に特定の間隔で配置し、表面プラズモン共鳴の変化を利用した抗原抗体反応の検出についての例がある(特許文献3参照)。
蛍光色素等の色素で標識することなく、誰にでも簡単に操作ができ、瞬時に目的タンパク質を検出できる手段の開発が極めて重要である。
【0003】
【特許文献1】特開平10-045601号公報
【特許文献2】特開平2002-145896号公報
【特許文献3】特開2003-14765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、このような事情のもとで、誰にでも容易に調整が可能であり、かつ、非常に高感度なタンパク質および細胞等の検出が行える系の開発を行うことにあり、特に、高分子微粒子を用いた系では為しえなかった高感度な測定を行うため、金属や半導体の微粒子を使用する糖鎖結合タンパク質等の糖類結合成分の検出・測定系を新たに構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、糖類結合成分の検出・測定系に、金属や半導体の微粒子の表面を糖類で修飾した糖類固定微粒子を用いる手法について種々の検討および研究を行った。その結果、糖類を有する有機硫黄化合物を設計してこれを合成し、該化合物で金属あるいは半導体微粒子を修飾した場合、修飾微粒子の分散液中に糖鎖結合タンパク質等の糖類結合成分を注入した際、糖類と糖類結合成分間の相互作用により微粒子が凝集し、光学的性質が変化することを見いだした。これにより、試料中の糖類結合物質の有無を感度良く検出できること、また、凝集反応を利用して試料中の糖類結合成分の濃度を測定できることも同時に見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0006】
1) 金属または半導体微粒子表面に単糖類若しくは2糖以上の糖類が固定されていることを特徴とする糖鎖固定微粒子。
2) 金属が、金、白金、銀及び銅から選ばれたものであり、半導体が硫化カドミウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデンである、1)に記載の糖類固定微粒子。
3) 金属または半導体微粒子の直径が2nm〜100 nm である、1)または2)の糖類固定微粒子。
4) 単糖類若しくは2糖以上の糖類部分を含み、かつ含硫黄官能基を有する糖類誘導体化合物を金属または半導体微粒子表面に結合させたことを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の糖鎖固定微粒子。
5)含硫黄官能基がチオール基、ジスルフィド基またはスルフィド基である請求項5)の糖鎖固定微粒子
6) 糖類誘導体化合物が飽和または不飽和炭化水素鎖を介して含硫黄官能基を有することを特徴とする、4)に記載の糖鎖固定微粒子。
7) 糖類誘導体化合物が含硫黄官能基を2以上有することを特徴とする、6)に記載の糖鎖固定微粒子。
【0007】
8) 糖類誘導体化合物が以下の一般式Iで表される化合物であることを特徴とする、4)に記載の糖類固定微粒子。
【化8】

・・・I


〔 但し、式中〔G〕は、単糖類若しくは2等以上の糖類を表し、Oは糖類の炭素原子に結合する酸素原子、Aは飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素鎖、Rは−SH基、−S−R基、−S−R基(RおよびRは、それぞれ置換若しくは非置換のアルキル基を表す。)を表し、mは1以上の整数を表す。また、mが2以上の整数を表すとき、少なくとも2つの−O−A−R基は、一緒になって、−O−A−S−A−O−、あるいは−O−A−S−A−O−基を形成していてもよい。〕

9) 糖類誘導体化合物が以下の一般式IA’で表される化合物であることを特徴とする、4)に記載の糖類固定微粒子。
【化9】

・・・IA’

〔但し、式中、〔G〕、Oは、一般式Iの定義と同様、nは1以上の整数を表す。)
【0008】
10) 糖類誘導体化合物が以下の一般式IBで表される化合物であることを特徴とする、4)に記載の糖鎖固定微粒子。
【化10】



・・・IB



〔但し、式中、〔G〕、O、nは一般式IA’の定義と同様。〕

【0009】
11) 糖類誘導体化合物が以下の一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする、9)に記載の糖類固定微粒子。
【化11】



・・・(1)



(但し、式中nは1以上の整数を表す。)

【0010】
12)1)〜11)のいずれか記載の糖類固定微粒子を試料溶液と接触させ、糖類固定微粒子と糖類結合成分を結合させることにより、該成分を捕捉することを特徴とする糖類結合成分の捕捉方法。

13) 糖類結合成分が、糖鎖結合タンパク質である12)に記載の方法

14) 糖類結合成分が、酵素、血液凝集活性タンパク質、菌体、細胞、細胞膜、ウイルス、がん細胞の各種細胞組織であることを特徴とする、12)に記載の方法。

15)1)〜11)のいずれかに記載の糖類固定微粒子の分散溶液中に試料溶液を注入し、該微粒子表面に固定された糖類に特異的な結合をする糖類結合成分が試料溶液中に存在する場合において変化する糖類固定微粒子の光学的性質を指標にして、糖類結合成分の有無の検出、および/またはその濃度を測定することを特徴とする、糖類結合物質の分析方法。

16)1)〜11)のいずれかに記載の糖類固定微粒子の分散溶液中に試料溶液を注入し、該微粒子表面に固定された糖類に特異的な結合をする糖類結合成分が試料溶液中に存在する場合において沈殿する、糖類固定微粒子の溶液分散状態を指標にして、糖類結合成分の有無,および/またはその濃度を測定することを特徴とする、糖類結合成分の分析方法。

【0011】
17) 以下の一般式(1)で表される化合物。
【化13】


・・・・(1)



(但し、式中nは1以上の整数を表す。)

18)
以下の一般式(2)で表される化合物。
【化14】


・・・・(2)




(但し、式中、Xはハロゲン原子、nは1以上の整数を表す。)

19)
以下の一般式(3)で表される化合物。
【化15】


・・・・(3)



(但し、式中、Acはアセチル基、nは1以上の整数を表す。)

【発明の効果】
【0012】
本発明は、試料中の特定の糖鎖結合タンパク質あるいは細胞等の糖類結合成分を予め含硫黄糖類誘導体化合物で修飾した金属微粒子と反応させることにより、糖類結合成分と固定された糖類の間に特異的な相互作用があった場合にのみ凝集反応が生じ、糖類結合成分の有無を容易にかつ瞬時に鋭敏に検出可能である。例えば、特定の糖鎖結合タンパク質と糖鎖修飾金属微粒子間で凝集が起きた場合、凝集前に呈していた色調も凝集・沈降反応により無色化するので、簡単な吸光度計あるいは目視によっても検出可能である。また、目的タンパク質濃度と吸光度の関係について検量線を作製することで、試料中の当該タンパク質の濃度の測定も可能となる。
したがって、本法を適用すれば、例えば、上述した各種ウィルスの検出が容易に行えるので、迅速な判断が必要である臨床検査にも極めて有用である。インフルエンザ、アデノウィルスなど、季節により大流行が危惧されるようなウィルスの検出も診察のその場で検出(リアルタイムでの検出)が可能となり、迅速診断、治療方針の決定に非常に有効である。また、ガン細胞のような特定糖鎖をもつ細胞の検出も行えるので、ガンのみならず成人病等の病気の早期発見、病後の薬剤の投与計画、病状管理にも極めて有用である。


【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において利用される金属微粒子は、2nm〜100nm、好ましくは5〜20nmのものが適し、微粒子を形成できるものであれば、金、白金、銀、銅のほかの金属微粒子、半導体微粒子が好都合に利用される。これら金属や半導体は硫黄を含む有機化合物が自己組織的に硫黄を介して結合し、安定に修飾膜を形成することが知られているものである。

また、ガラス等の基板上に金などの金属微粒子をナノドット状に配した基板やシリコン表面状に金-シリコンの積層した突起状の金属半導体複合ナノドット表面なども好都合に利用できる。またインジウムチンオキサイド(ITO)などの透明導電性電極状に構築した微粒子表面にも適用できる。
例えば、金属微粒子を得るには、K. C. Grabarら(Langmuir, 12, 2353-2361 (1996))または、J. Turkevichら(Discuss. FaradaySoc., 11, 55-75 (1951))の方法で調整し、溶液中に分散させた溶液を作製する。具体的には直径2.6 nmの金微粒子の場合、1%の塩化金酸1mlを100mlの水に溶解させ、激しく撹拌の後、1%のクエン酸ナトリウムを加え、混合物に1mlの0.075%の水素化ホウ素ナトリウム/1%クエン酸ナトリウムを加えて5分撹拌し4℃に保存することで調整する。市販のものを使用してもよい。白金、銀、銅等の他の金属微粒子も、基本的には金微粒子の場合と同様にコロイド法で調製したものを使用するか、レーザーアブレーション法で水溶液中に分散、調製したものを使用する。これらも市販品を利用してもよい。半導体微粒子についても金微粒子同様、コロイド法、レーザーアブレーション法等で調製したものを使用するほか、市販品を利用してもよい。
【0014】
本発明においては、この微粒子表面を糖類誘導体化合物で修飾する。糖類誘導体化合物は、金属表面と強固な化学結合を造り得る基、例えばチオール基、ジスルフィド基(−S基)あるいはスルフィド基(−SR基)等の含硫黄官能基を有するものが好ましい。上記R、Rとしては、アルキル基、あるいは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基等の親水性基で置換されたアルキル基が挙げられるが、親水性基で置換されたアルキル基が好ましい。
また、これら含硫黄官能基は、飽和または不飽和炭化水素鎖を介して糖鎖と結合していることが好ましく、糖類誘導体化合物が含硫黄官能基を2以上有していても良い。
【0015】
本発明において使用する糖類誘導体化合物の構造は以下の一般式Iに示されるとおりである。
【化16】

・・・I


〔 但し、式中〔G〕は、単糖類若しくは2等以上の糖類を表し、Oは糖類の炭素原子に結合する酸素原子、Aは飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素鎖、Rは−SH基、−S−R基、−S−R基(Rは・・・、Rは・・・を表す。)を表し、mは1以上の整数を表す。また、mが2以上の整数を表すとき、少なくとも2つの−O−A−R基は、一緒になって、−O−A−S−A−O−、あるいは−O−A−S−A−O−基を形成していてもよい。〕
【0016】
本発明の糖類誘導体化合物における〔G〕としては、例えば、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、マルトース、ラクトース、マルトトリオース等が挙げられる。

さらに、本明細書において、糖類の「水酸基」とは、糖類がヘミアセタール構造を形成することに伴い生成するOH基を含む。
【0017】
本発明の糖類誘導体化合物を得るには、例えば、糖類における目的とする置換位置以外の水酸基をアセチル基等の保護基で保護した後、以下の式(4)で表される化合物を反応させ、糖類の所望の位置に−O−A−X基(但し、Oは糖類の水酸基由来の酸素原子を表す。)を導入する。

HO−A−X ・・・(4)
(式中、Xはハロゲン原子、アルキルスルホニルオキシ基またはアリールスルホニルオキシ基、Aは飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0018】
次いで、生じた反応生成物に、例えば、チオ酢酸等のカルボチオ酸を反応させ、糖類に導入された−O−A−X基を−O−A−S−COR(但し、CORはカルボチオ酸由来のアシル基を表す。)に変換し、さらに、上記糖鎖の保護基及びカルボチオ酸由来のアシル基をアルコラートを用いて脱離させる。

本発明における一般式1で表される糖類誘導体化合物の製法について、飽和炭化水素鎖を有する化合物を例にとりさらに具体的に説明する。
【0019】
〔工程1〕
第1工程として、単糖類若しくは2糖以上の糖類の水酸基の保護を行い、下記一般式IIの化合物を調製する。
【化17】

・・・II


(式中、[G]、O、mは一般式Iと同様であり、Rは保護基を表す。)
の具体例としてはアセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、アルキル基、あるいはベンジル基等が挙げられる。このうちアセチル基保護は最も容易に導入でき、また脱保護も容易である。アセチル基保護は通常のアセチル化法、すなわち、ピリジンのような塩基存在下、糖類に無水酢酸を作用させることにより容易に導入できる。また、単糖類及び二糖類のアセチル化体は市販品を用いることもできる。
【0020】
〔工程2〕
次に、式IIの化合物から以下の一般式IIIの化合物を調製する。
【化18】

・・・III

(式中の[G]、O、およびmは上記一般式Iと同様であり、nは1以上の整数を表し、Xはハロゲン原子またはアルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基を表す。)

すなわち 一般式IIIの化合物は、上記一般式IIで表される糖供与体と一般式V:

HO-(CH2)n-X ・・・IV

(式中のX、nは前記式IIIの定義と同様。)で表されるω−ハロゲン化またはω−スルホニルオキシ化1-アルカノールとの縮合反応(グリコシル化)により得られる。
また、ω−スルホニルオキシ化1-アルカノールは1,ω−アルカンジオールのモノスルホニル化により容易に調製される。スルホニル化剤としては塩化p−トルエンスルホニル、塩化メタンスルホニル等が用いられる。
アルコール類のグリコシル化に関しては多様な方法が提案され、実施されている(Chem. Rev., 1993, vol.93, p.1503-1531、第4版実験化学講座26・有機合成VIII, p.267-354, 日本化学会編, 丸善1992)。
【0021】
一方、糖類のアノマー位(C1位)に、−O−(CH2)n-X基を導入しようとする場合、式IIの化合物において反応性の高い官能基(脱離基)を導入しておくことが好ましい。このような脱離基を有する化合物としては、以下の一般式Vの化合物を挙げることができる。
【化19】

・・・・V


(式中、Rは、少なくとも糖類のアノマー位を置換する置換基であって、アシルオキシ
基、ハロゲン原子、アルキルチオ基、アリールチオ基、N−置換カルバモイル基を表す。)

上記一般式Vの化合物を例示すると、糖類のアノマー位(C1位)が、−OCOCH3基等により置換されたO-アシル体(−OCOCH3基等)、ハロゲン化体 Br, Cl等のハロゲン原子により置換されたハロゲン化体、−SMe基, −SEt基, −SPh基等により置換されたアルキルまたはアリールチオ体、あるいは−OC(=NH)CCl3基等により置換されたイミデート体(−OC(=NH)CCl3等)などが用いられる。これらのうち、アセチル化体は無保護の糖類を全アセチル化することにより1工程で調製できるので最も簡便である。ハロゲン化体、チオ体、イミデート体は一般にアセチル化体から文献記載の方法によりそれぞれ調製する。
【0022】
グリコシル化反応を促進するためには触媒が必要であり、通常1当量以上使用する。反応促進剤としてアシル化体およびイミデート体にはルイス酸が、ハロゲン化体には銀塩または水銀塩が、チオ体にはハロゲン化剤またはアルキル化剤等が主に用いられる。反応はできるだけ無水条件下で行うことが望ましいので、モレキュラーシーブス等を必要に応じて使用する。
糖類のアノマー位(C1位)は一般にグリコシル化により不斉炭素になり、2つの立体異性体(α-及びβ−アノマー)が生成し得る。隣接するC2位の水酸基をアセチル基のようなアシル基で保護するとC1位と2位がtrans配置の異性体が主に生成する。すなわち、例えば、グルコース及びガラクトースにおいてはβ-アノマーが、マンノースにおいてはα−アノマーが優先する。
【0023】
調製が容易で比較的安定な全アセチル化体(一般式IIにおいてR = Ac)を直接の糖供与体に用いて、反応促進剤として四塩化スズ、三フッ化ホウ素エーテル錯体、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル等のルイス酸を1.0〜1.5当量程度用いると収率20〜50%で目的の一般式IIIの化合物が得られる。この場合アルコール類(一般式化合物
IV)のアセチル化体が相当量副成した。溶媒としては塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素が好適である。反応は-30〜+50℃が好ましいが、室温以上で反応させるとアノマー位が異性化し、末端がグルコース及びガラクトースの場合はα-グリコシドの割合が増加する傾向が見られた。単糖類のグルコース場合はα-アノマーとβ-アノマーを分離できるが、二糖以上の場合、分離は困難なので、β-アノマーを選択的に得るためには反応を5℃以下で行うことが望ましい。四塩化スズを用いると糖のC1位塩化物(一般式化合物VにおいてR = Cl)が相当量生成し、低温では蓄積する傾向がみられた。このような場合は反応液中に銀塩を加えれば塩化物とアルコール類との反応が進行する。銀塩としてはトリフルオロメタンスルホン酸銀、過塩素酸銀、炭酸銀が好適で、0.2〜1.0当量程度で十分である。
【0024】
一方、1位ハロゲン化体、特にブロム体(一般式化合物VにおいてR = Br)を調製して同様のグリコシル化を検討した。反応促進剤としてトリフルオロメタンスルホン酸銀を用いてテトラメチル尿素等の酸捕捉剤とモレキュラーシーブスの存在下、-50℃〜室温において反応を行うと目的の化合物IIIが収率50〜70%で得られた。高価な銀塩や毒性の高い水銀塩が必要な点に難点はあるが、1位アセチル体を用いる場合よりも一般に収率は高い。
【0025】
〔 工程3〕
次に、式IIIの化合物から以下の一般式VI:
【化20】

・・・・VI


(式中の[G]、O、n、mは一般式IIIの定義と同様であり、Rはアルキル基を表す。)で表されるチオアセチル体へ変換する。反応は溶媒中、化合物IIIに対し1〜10当量のチオ酢酸等のカルボチオ酸アルカリ金属塩を作用させて行う。化合物III中のXが塩素原子で反応の進行が遅い場合は触媒量のヨウ化または臭化4級アンモニウム塩を加えてもよい。Xが臭素原子の場合、例えば、チオ酢酸カリウムまたはナトリウムの使用量は1.5〜3当量が好適である。溶媒は試薬を溶かすことのできる非プロトン性極性溶媒が好ましく、特に好ましいのはジメチルホルムアミドである。反応温度は-20〜+100℃、好ましくは室温〜50℃で、数分間から数時間で行うことができる。
【0026】
〔工程4〕
最後の工程として、化合物VI中の全ての保護基を除去する。保護基がアセチル基のようなアシル基の場合、反応は通常の脱アシル化法、すなわち、低級アルコール中、アルカリ金属アルコキシドを作用させることにより行う。化合物IVのアルキル鎖が長く低級アルコールに溶けにくい場合は、塩化メチレン、テトラヒドロフラン等の金属アルコキシドと反応しない有機溶剤を加える。アルカリ金属アルコキシドの使用量は化合物IVに対し0.1〜5.0当量、特に1〜2当量が好適である。反応は-20〜+50℃、好ましくは0℃〜室温で、数十分間から十数時間で行うことができる。反応後は酢酸等の酸を加えて中和し、反応液を濃縮後、シリカゲルクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、純粋な一般式IAの化合物を得ることができる。
【化21】

・・・・IA


〔式中〔G〕、O、n、mは、一般式IIIの定義と同様。)
上記一般式IAの化合物は、空気中で徐々に酸化され、−O−(CH)nSH基は、一緒になって、分子内で−O−(CH)n−S−(CH)−O−結合を形成し、あるいは、さらに、他の糖類誘導体化合物分子の間でジスルフィド結合を生じ、例えば、以下の一般式1A’の化合物の場合、
【化22】

・・・・1A’


〔式中〕〔G〕、O、n、は一般式1Aと同様。)
下記一般式IBで表されるジスルフィドを生じる。
【化23】



・・・IB



(式中の〔G〕、O、nは前記式IA’の定義と同様。)
これらのジスルフィド類もチオール類と同様に金属表面と強固な化学結合を形成し得るので、一般式化合物Iの糖類誘導体化合物と同様に利用することができる。
なお、本発明の糖類誘導体化合物のうち、上記一般式(1)、(2)および(3)の化合物はいずれも文献未記載の新規化合物である。
【0027】
本発明の上記糖類誘導体は、最終濃度が1マイクロM〜0.1mM程度の水溶液またはエタノール溶液を調製し、これを金属微粒子、あるいは半導体微粒子分散溶液に添加し、
微粒子表面に結合させ、糖類固定金属あるいは半導体微粒子とする。
本発明の糖類固定微粒子は、糖鎖結合タンパク質等の糖類結合成分の捕捉、回収に使用できる。この場合においては捕捉対象の糖類結合成分のターゲットとなる糖類を微粒子に固定する。これにより試料溶液中の特定の糖類結合成分を捕捉できる。 例えば、特定の糖鎖結合タンパク質を捕捉するためには、該タンパク質が認識する糖鎖を合成する等して該微粒子に結合させればよい。これは、以下に説明する、本発明の糖類結合成分の検出法、濃度測定法においても同様である。また、本発明において捕捉、検出及び濃度測定対象となる糖対結合成分としては、例えば、酵素、血液凝集性タンパク質、菌体、ウイルス、リンパ球あるいは赤血球等の各種細胞膜、あるいはガン細胞等の各種細胞組織等であるが、特にこれらに限定されるものではない。
糖類結合成分を捕捉した糖類固定微粒子から糖類結合成分を回収するには、例えば、1)塩強度の高い溶液を用いて、結合成分をはずすかあるいは2)電気化学的に還元して、微粒子結合成分を遊離させることにより行う。
【0028】
本発明の糖鎖固定微粒子を用いて、糖類結合物質を検出及びその濃度を測定するには、
例えば、糖類固定金属微粒子を溶液に分散させ、ここに試料溶液を添加する。金属微粒子には予め目的とする糖類結合成分を認識する糖類を固定してあるので、糖類を認識する糖鎖結合タンパク質あるいはこれを有する細胞等が特異的に凝集する。凝集反応が起きた場合、分散金属微粒子は沈殿し、溶液の色が次第に無色化し、目的タンパク質を検出できる。また、この沈殿反応に伴い、変化する吸光度は、試料溶液中の糖類結合成分の濃度と一定の関係にあり、予め目的とする糖類結合成分の濃度と吸光度の関係を表す検量線を作成しておけば、試料溶液中の糖類固定微粒子の濃度を簡単に測定することができる。特に本発明の糖類固定微粒子を用いる吸光度の測定においては、糖類結合成分の濃度が低い場合には、ほぼ該濃度に比例して吸光度が減少するので、その濃度測定は極めて簡便、正確に行い得る。さらに、この糖類固定微粒子と糖類結合成分との反応は、例えば微粒子を金または銀等の金属基板上に分散させておき、表面プラズモン共鳴センサー(SPRセンサー)にて表面の屈折率の変化を追跡する方法でも検出可能であり、この方法によっても、試料溶液中の目的とする糖類固定成分の有無を検出可能である。 上記基板としては、金属の他にガラス基板、あるいは光ファイバー等の断面も使用しうる。

次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。

【実施例】
【0029】
〔実施例1〕
(12-メルカプトドデシル β-D-マルトシド(化合物Ia)の合成)
合成スキーム(3工程)
【0030】
【化24】

【0031】
(1) 12-ブロモドデシル ヘプタ-O-アセチル- β-D-マルトシド(化合物IIIa)の合成(第1工程:グリコシル化)
アルゴン雰囲気下、β-D-マルトース・オクタアセテート(IIa)410 mg (0.60 mmol)を塩化メチレン5 mlに溶解させ、四塩化スズの1.0 M ヘプタン溶液0.6 ml(0.60 mmol)を5分間かけて滴下した。15分後に反応容器を-10℃に冷却し、12-ブロモ-1-ドデカノール 175 mg(0.66 mmol)(化合物Va)の塩化メチレン溶液1 mlを5分間かけて加え、-10℃から+5℃で1時間攪拌後、室温下1時間攪拌した。反応液を再び約5℃に冷却後、トリフルオロメタンスルホン酸銀 80 mg(0.30 mmol)を加え1時間攪拌した。反応液を酢酸エチル20 mlで希釈し、炭酸水素ナトリウム水溶液10 mlを加えてしばらく攪拌した後、層を分離した。有機層を飽和食塩水で洗浄した後、水層をまとめて酢酸エチルで2回抽出した。有機層をまとめて無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、濾過・濃縮乾固を行うと淡黄色オイルが約700 mg残った。これをシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=2:1→1.5:1)で精製することにより化合物IIIaを無色固体として175 mg (収率33%)得た。
【0032】
融点 82〜85℃、[a]D +37.5°(c 1.56, CHCl3).
H-NMR(270 MHz, CDCl3):δ (ppm) 1.26 (14H, s), 1.41 (2H, m), 1.55 (2H, m), 1.85 (2H, quint, J = 7.0Hz), 2.00 (6H, s), 2.01 (3H, s), 2.03 (3H, s), 2.05 (3H, s), 2.10 (3H, s), 2.14 (3H, s), 3.41 (2H, t, J = 6.8 Hz), 3.47 (1H, dt, J = 9.5, 6.6 Hz), 3.67 (1H, m), 3.84 (1H, dt, J = 9.8, 6.3 Hz), 3.98 (1H, m), 4.00 (1H, t, J = 9.2 Hz), 4.03 (1H, dd, J = 2.0, 12.2 Hz), 4.23 (1H, dd, J = 5.6, 12.2 Hz), 4.26 (1H, dd, J = 5.4, 12.2 Hz), 4.47 (1H, dd, J = 2.7, 12.2 Hz), 4.51 (1H, d, J = 8.1 Hz), 4.81 (1H, dd, J = 7.8, 9.5 Hz), 4.86 (1H, dd, J = 4.1, 10.5 Hz), 5.05 (1H, t, J = 9.9 Hz), 5.25 (1H, t, J = 9.2 Hz), 5.36 (1H, dd, J = 9.8, 10.5 Hz), 5.42 (1H, d, J = 3.9 Hz).
13C-NMR (CDCl3) 20.51, 20.54, 20.56, 20.61, 20.8, 20.9, 25.7, 28.1, 28.7, 29.2, 29.30, 29.34, 29.42, 29.45, 29.48, 32.8, 34.0, 61.5, 62.8, 68.0, 68.4, 69.9, 70.1, 72.0, 72.2, 72.7, 75.4, 95.4, 100.2, 169.3, 169.5, 169.9, 170.2, 170.4, 170.5.
【0033】
(2) 12-アセチルチオドデシル ヘプタ-O-アセチル- β-D-マルトシド(化合物VIa)の合成(第2工程:チオアセチル化)
窒素雰囲気下、化合物IIIa180 mg (0.2 mmol)とチオ酢酸カリウム70 mg(0.6 mmol)をジメチルホルムアミド1.5 mlに溶かし、室温下2時間攪拌した。反応液を酢酸エチル10 mlで希釈し、水10 mlを加えてしばらく攪拌した後、層を分離した。有機層を飽和食塩水で洗浄した後、水層をまとめて酢酸エチルで2回抽出した。有機層をまとめて無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、濾過・濃縮乾固を行うと黄色オイルが残った。これをシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3:2)で精製することにより化合物VIaを無色固体として170 mg (収率95%)得た。
【0034】
融点 84〜85℃、[a]D +38.5°(c 1.4, CHCl3).
H-NMR(270 MHz, CDCl3):δ (ppm) 1.25 (16H, s), 1.55 (4H, m), 2.01 (6H, s), 2.02 (3H, s), 2.03 (3H, s), 2.05 (3H, s), 2.11 (3H, s), 2.15 (3H, s), 2.32 (3H, s), 2.86 (2H, t, J = 7.2 Hz), 3.47 (1H, dt, J = 9.5, 6.7 Hz), 3.68 (1H, m), 3.85 (1H, dt, J = 9.5, 6.2 Hz), 3.98 (1H, m), 4.00 (1H, t, J = 9.2 Hz), 4.03 (1H, m), 4.23 (2H, m), 4.47 (1H, dd, J = 2.7, 12.2 Hz), 4.51 (1H, d, J = 8.1 Hz), 4.81 (1H, dd, J = 8.1, 9.3 Hz), 4.86 (1H, dd, J = 3.9, 10.5 Hz), 5.05 (1H, t, J = 9.8 Hz), 5.25 (1H, t, J = 9.2 Hz), 5.36 (1H, t, J = 10.0 Hz), 5.42 (1H, d, J = 3.9 Hz).
13C-NMR (CDCl3) 20.52, 20.55, 20.57, 20.63, 20.8, 20.9, 25.7, 28.7, 29.0, 29.1, 29.2, 29.3, 29.38, 29.43, 29.48, 30.6, 61.4, 62.8, 68.0, 68.4, 69.3, 69.9, 70.2, 72.0, 72.2, 72.7, 75.4, 95.4, 100.2, 169.4, 169.5, 169.9, 170.2, 170.4, 170.5, 196.0.
元素分析値(C40H62O19Sとして)
実測値(%):C 54.73; H 7.00; S 3.56
計算値(%):C 54.66; H 7.11; S 3.65
【0035】
(3) 12-メルカプトドデシル β-D-マルトシド(目的化合物Ia)の合成(第3工程:全アセチル基の除去)
化合物VIa 142 mg(0.16 mmol)をメタノール2ml及び塩化メチレン2mlに溶かして冷却し、ナトリウムメトキシドの3%メタノール溶液0.5 ml(0.25 mmol)を加え、5〜10℃で3時間攪拌した。この溶液に酢酸50 mgを加えて中和後、濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(塩化メチレン/メタノール=5:1→4:1)で精製することにより化合物Iaを無色固体として73 mg (収率84%)得た。
【0036】

H-NMR(270 MHz, CDCl3-CD3OD):δ (ppm) 1.27 (14H, s), 1.37 (2H, m), 1.58 (4H, m), 2.52 (2H, t, J = 7.2 Hz), 3.34 (4H, m), 3.50 (2H, m), 3.65 (4H, m), 3.85 (4H, m), 4.28 (1H, d, J = 7.8 Hz), 5.14 (1H, d, J = 3.2 Hz).
13C-NMR (CDCl3-CD3OD) 24.6, 26.0, 28.5, 29.2, 29.6, 29.7, 34.1, 61.0, 61.7, 70.1, 70.5, 72.6, 73.2, 73.3, 73.8, 75.1, 76.2, 80.1, 101.5, 102.7.
m/z (CI): C24H46O11S M+としての計算値:542.2761, 実測値:542.2774
[a]D +44.2°(c 1.3, CHCl3-CH3OH)
【0037】
〔実施例2〕
8-メルカプトオクチル β-D-マルトシド(化合物Ib)の合成
合成スキーム
【0038】
【化25】

【0039】
(1) 8-ブロモオクチル ヘプタ-O-アセチル- β-D-マルトシド(化合物IIIb)の合成
アルコールとして8-ブロモ-1-オクタノール(化合物Vb)を用いて実施例1の(1)とほぼ同様に合成したが、反応温度は0〜5℃において行った。無色油状物。収率28%。
【0040】
[a]D +51.7°(c 1.20, CHCl3).
H-NMR(270 MHz, CDCl3):δ(ppm) 1.30 (6H, s-like), 1.42 (2H, m), 1.55 (2H, m), 1.84 (2H, quint, J = 7.0Hz), 2.00 (6H, s), 2.02 (3H, s), 2.03 (3H, s), 2.04 (3H, s), 2.10 (3H, s), 2.14 (3H, s), 3.40 (2H, t, J = 6.7 Hz), 3.47 (1H, dt, J = 9.5, 6.6 Hz), 3.67 (1H, m), 3.84 (1H, dt, J = 9.8, 6.3 Hz), 3.98 (1H, m), 4.00 (1H, t, J = 9.2 Hz), 4.04 (1H, dd, J = 2.0, 12.5 Hz), 4.23 (1H, dd, J = 4.9, 11.7 Hz), 4.26 (1H, dd, J = 4.7, 12.2 Hz), 4.47 (1H, dd, J = 2.2, 12.2 Hz), 4.51 (1H, d, J = 8.1 Hz), 4.81 (1H, dd, J = 8.1, 9.3 Hz), 4.86 (1H, dd, J = 3.9, 10.5 Hz), 5.05 (1H, t, J = 9.9 Hz), 5.25 (1H, t, J = 9.0 Hz), 5.36 (1H, t, J = 10.3 Hz), 5.41 (1H, d, J = 3.9 Hz).
13C-NMR (CDCl3) 20.51, 20.55, 20.58, 20.62, 20.8, 20.9, 25.6, 28.0, 28.6, 29.0, 29.3, 32.7, 33.9, 61.5, 62.8, 68.0, 68.4, 69.3, 69.9, 70.1, 72.0, 72.2, 72.7, 75.4, 95.5, 100.2, 169.4, 169.5, 169.9, 170.2, 170.4, 170.5
【0041】
(2) 8-アセチルチオオクチル ヘプタ-O-アセチル- β-D-マルトシド(化合物VIb)の合成
化合物IIIbから実施例1の(2)と同様に合成した。
無色油状物。収率96%
[a]D +51.4°(c 2.0, CHCl3)
【0042】
H-NMR(270 MHz, CDCl3):δ(ppm) 1.30 (8H, m), 1.55 (4H, m), 2.00 (6H, s), 2.01 (3H, s), 2.03 (3H, s), 2.04 (3H, s), 2.10 (3H, s), 2.14 (3H, s), 2.32 (3H, s), 2.85 (2H, t, J = 7.2 Hz), 3.46 (1H, dt, J = 9.5, 6.7 Hz), 3.68 (1H, m), 3.84 (1H, dt, J = 9.5, 6.3 Hz), 3.98 (1H, m), 4.00 (1H, t, J = 9.0 Hz), 4.04 (1H, dd, J = 2.4, 12.7 Hz), 4.24 (2H, m), 4.47 (1H, dd, J = 2.7, 12.2 Hz), 4.51 (1H, d, J = 7.8 Hz), 4.81 (1H, dd, J = 8.3, 9.5 Hz), 4.86 (1H, dd, J = 3.9, 10.5 Hz), 5.05 (1H, t, J = 9.8 Hz), 5.25 (1H, t, J = 9.2 Hz), 5.36 (1H, t, J = 10.0 Hz), 5.41 (1H, d, J = 3.9 Hz).
13C-NMR (CDCl3) 20.52, 20.55, 20.58, 20.63, 20.8, 20.9, 25.7, 28.6, 28.96, 29.04, 29.3, 29.4, 30.6, 61.4, 62.8, 68.0, 68.4, 69.3, 69.9, 70.1, 72.0, 72.2, 72.7, 75.4, 95.5, 100.2, 169.4, 169.5, 169.9, 170.2, 170.4, 170.5, 196.0.
【0043】
(3) 8-メルカプトオクチル β-D-マルトシド(目的化合物Ib)の合成
化合物VIbから実施例1の(3)と同様に合成した。
無色固体。収率82%
[a]D +60.8°(c 0.72, CHCl3-CH3OH)
【0044】
H-NMR(270 MHz, CDCl3-CD3OD):δ(ppm) 1.32 (8H, m), 1.60 (4H, m), 2.51 (2H, t, J = 7.1 Hz), 3.25-3.95 (14H, m), 4.29 (1H, d, J = 7.3 Hz), 5.20 (1H, d, J = 3.2 Hz).
13C-NMR (CDCl3-CD3OD) 24.3, 24.4, 25.7, 28.1, 28.9, 29.2, 29.4, 33.8, 60.8, 61.0, 69.4, 70.2, 72.2, 72.9, 73.0, 73.4, 74.7, 76.0, 79.3, 101.3, 102.6.

【0045】
〔実施例3〕
(糖鎖固定金微粒子によるレクチンの検出1)
1%の塩化金酸0.5 mlを100mlの水に溶解させ、激しく撹拌の後、1%のクエン酸ナトリウム0.275 mlを加え、混合物に0.75 mlの0.075%の水素化ホウ素ナトリウム/1%クエン酸ナトリウムを加えて5分撹拌し4度に保存し、直径約4nmの金微粒子分散溶液を調整した。金微粒子分散溶液(約0.25 nM)に、実施例1で得られた12-メルカプトドデシル-β-マルトシド溶液(終濃度約10μM)を加え微粒子表面に糖鎖部位を固定した。図1に糖鎖で修飾した金微粒子の透過電子顕微鏡(TEM)像を示す。また、図2(a)は表面未修飾金微粒子、(b)は糖鎖修飾金微粒子の吸光スペクトルである。表面を修飾することにより光学的性質が変化し、吸収ピークが20nm程度高波長側にシフトした。
【0046】
この溶液に対し、Concanavalin A (以下Con A, レクチン)を(終濃度0.52μM)注入したところ、直ちに凝集が起こった。図2(c)には糖鎖修飾金微粒子溶液にCon Aを添加した場合の吸光スペクトルを示した。Con A添加前(b)と比較すると30nmほど今度は低波長側にシフトしていることがわかる。未修飾金微粒子溶液に対してCon A溶液を添加した場合、ならびに、Con A以外のレクチン(マルトシドに対して親和性の無いレクチン)を添加した場合はこのような吸収ピークのシフトは全く観察されず、金微粒子表面に固定した糖鎖と特異的に結合するレクチンが存在するときのみ、糖-タンパク質の結合により微粒子の光学定数が変化し、吸収ピークが変化することを確認した。
【0047】
〔実施例4〕
(糖鎖固定金微粒子によるレクチンの検出2)
実施例1で示したものと同様の糖鎖修飾金微粒子に対し、Con Aを(終濃度0.6 μM)注入したところ、直ちに凝集が起こった。沈殿が完全に生成した後(2時間後)、吸光度を測定した。図3は糖鎖修飾金微粒子(●)および糖鎖修飾金微粒子溶液にCon Aを添加したもの(◇)それぞれの吸光スペクトルである。糖鎖修飾金微粒子溶液にCon Aを添加した場合、Con A添加と同時に凝集が起こり、次第に沈殿し、最終的(本例では2時間後)には完全に530 nm付近の吸光度が消失していることが確認できる。これらは当然ながら目視でも確認できる。
未修飾金微粒子溶液に対してCon A溶液を添加した場合や、Con A以外のレクチン(マルトシドに対して親和性の無いレクチン)を添加した場合はこのような無色化現象は全く観察されなかった。
【0048】
〔実施例5〕
(糖鎖固定金微粒子によるレクチン検出3)
図4は、実施例1と同様の内容で調整した糖鎖修飾金微粒子溶液に対し、最終濃度1.3μM となるようにCon A溶液を添加し、添加と同時に波長536nmでの吸光度を測定した結果である。Con A溶液の添加と同時に微粒子は凝集し、懸濁が起こった。536nmでの吸光度はCon A溶液添加後、約20分後に減少しはじめた。

〔実施例6〕
【0049】
(糖鎖固定金微粒子によるレクチン検出4)
図5は、実施例1と同様の内容で調整した糖鎖修飾金微粒子溶液に対し、各種濃度のCon A溶液を添加し、添加直後に懸濁状態で波長536 nmでの吸光度を測定し、Con A濃度(添加後最終濃度)に対してプロットした図である。挿入図は低濃度領域の結果である。低濃度領域(1.5μM)ではCon Aの濃度と吸光度の間に直線関係が成り立っている。この手法によるCon Aの定量限界は7.8 nM、検出飽和濃度は5 μMである。

〔実施例7〕
【0050】
(表面プラズモン共鳴センサー(SPRセンサー)によるレクチンの検出)
清浄化した金基板(金微粒子で修飾したガラス基板)表面に、12-メルカプトドデシル-β-マルトシド溶液20 μl(添加後の最終濃度40 μM、10 mMリン酸緩衝液(pH 7.65)80μl)を加えてSPR角の変化を追跡したところ、図6破線に示すようにSPR角が変化し、金表面に糖鎖誘導体が吸着していることが確認できた。この表面をリン酸緩衝液で十分に洗浄したが、SPR角の変化がみられず、糖鎖誘導体が金表面に安定に吸着されていることが確認できた。さらにこの表面に Con A 溶液を注入したところ(最終濃度20μM)、図6点線に示すように非常に大きな角度変化が確認できた。本結果は、SPRセンサーにより特定レクチンの検出が可能であることを示している。

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】糖鎖チオール分子(12-メルカプトドデシル-β-マルトシド)で修飾した金微粒子(粒径20 nm)の透過型電子顕微鏡写真を参考として示した図である。
【図2】金微粒子溶液の吸光度と吸収波長の図である。(a)未修飾金微粒子分散溶液、(b)糖鎖チオール分子修飾金微粒子分散溶液、(c) Con A添加後の糖鎖修飾金微粒子分散溶液における、それぞれの吸光度と吸収波長の関係を示す。
【図3】糖鎖チオール分子修飾金微粒子、及び、Con A(終濃度0.6 μM)チオール分子修飾金(2時間後)の吸光スペクトルである。図中、●:糖鎖チオール分子修飾金微粒子、◇:Con Aを添加後の糖鎖修飾金微粒子溶液を示す。
【図4】糖鎖修飾金微粒子溶液にCon Aを添加したときの吸光度(波長536nm)の時間変化図である。
【図5】糖鎖チオール分子修飾金微粒子溶液の波長(Con A添加直後の懸濁状態で波長536 nm)を添加したCon Aの濃度(添加後最終濃度)に対してプロットした図である。この手法によるCon Aの定量限界は7.8 nM、検出飽和濃度は5 μMである。
【図6】SPRセンサーによる金微粒子基板表面角度変化と反射率の関係を示す測定グラフである。実線:未修飾金微粒子基板表面、破線:糖鎖チオール分子添加後、点線:Con A溶液(最終濃度20μM)添加後。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または半導体微粒子表面に単糖類若しくは2糖以上の糖類が固定されていることを特徴とする糖鎖固定微粒子。
【請求項2】
金属が、金、白金、銀及び銅から選ばれたものであり、半導体が硫化カドミウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデンである、請求項1に記載の糖類固定微粒子。
【請求項3】
金属または半導体微粒子の直径が2nm〜100 nm である、請求項1または2の糖類固定微粒子。
【請求項4】
単糖類若しくは2糖以上の糖類部分を含み、かつ含硫黄官能基を有する糖類誘導体化合物を金属または半導体微粒子表面に結合させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の糖鎖固定微粒子。
【請求項5】
含硫黄官能基がチオール基、ジスルフィド基またはスルフィド基である請求項4の糖鎖固定微粒子
【請求項6】
糖類誘導体化合物が飽和または不飽和炭化水素鎖を介して含硫黄官能基を有することを特徴とする、請求項4に記載の糖鎖固定微粒子。
【請求項7】
糖類誘導体化合物が含硫黄官能基を2以上有することを特徴とする、請求項6に記載の糖鎖固定微粒子。
【請求項8】
糖類誘導体化合物が以下の一般式Iで表される化合物であることを特徴とする、請求項4に記載の糖類固定微粒子。
【化1】

・・・I


〔 但し、式中〔G〕は、単糖類若しくは2等以上の糖類を表し、Oは糖類の炭素原子に結合する酸素原子、Aは飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素鎖、Rは−SH基、−S−R基、−S−R基(RおよびRは、それぞれ置換若しくは非置換のアルキル基を表す。)を表し、mは1以上の整数を表す。また、mが2以上の整数を表すとき、少なくとも2つの−O−A−R基は、一緒になって、−O−A−S−A−O−、あるいは−O−A−S−A−O−基を形成していてもよい。〕

【請求項9】
糖類誘導体化合物が以下の一般式IA’で表される化合物であることを特徴とする、請求項4に記載の糖類固定微粒子。
【化2】

・・・IA’

〔但し式中、〔G〕、Oは、一般式Iの定義と同様、nは1以上の整数を表す。)
【請求項10】
糖類誘導体化合物が以下の一般式IBで表される化合物であることを特徴とする、請求項4に記載の糖鎖固定微粒子。
【化3】



・・・IB



〔但し式中、〔G〕、O、nは一般式IA’の定義と同様。〕


【請求項11】
糖類誘導体化合物が以下の一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする、請求項9に記載の糖類固定微粒子。
【化4】



・・・(1)



(但し、式中nは1以上の整数を表す。)

【請求項12】
請求項1〜11のいずれか記載の糖類固定微粒子を試料溶液と接触させ、糖類固定微粒子と糖類結合成分を結合させることにより、該成分を捕捉することを特徴とする糖類結合成分の捕捉方法。

【請求項13】
糖類結合成分が、糖鎖結合タンパク質である請求項12に記載の方法

【請求項14】
糖類結合成分が、酵素、血液凝集活性タンパク質、菌体、細胞、細胞膜、ウイルス、がん細胞の各種細胞組織であることを特徴とする請求項12に記載の方法。

【請求項15】
請求項1〜11のいずれかに記載の糖類固定微粒子の分散液中に試料溶液を注入し、該微粒子表面に固定された糖類に特異的な結合をする糖類結合成分が試料溶液中に存在する場合において変化する糖類固定微粒子の光学的性質を指標にして、糖類結合成分の有無の検出、および/またはその濃度を測定することを特徴とする、糖類結合物質の分析方法。

【請求項16】
請求項1〜11のいずれかに記載の糖類固定微粒子の分散液中に試料溶液を注入し、該微粒子表面に固定された糖類に特異的な結合をする糖類結合成分が試料溶液中に存在する場合において沈殿する、糖類固定微粒子の溶液分散状態を指標にして、糖類結合成分の有無,および/またはその濃度を測定することを特徴とする、糖類結合成分の分析方法。


【請求項17】
以下の一般式(1)で表される化合物。
【化5】



・・・・(1)



(但し、式中nは1以上の整数を表す。)

【請求項18】
以下の一般式(2)で表される化合物。
【化6】



・・・・(2)




(但し、式中、Xはハロゲン原子、nは1以上の整数を表す。)

【請求項19】
以下の一般式(3)で表される化合物。
【化7】



・・・・(3)


(但し、式中、Acはアセチル基、nは1以上の整数を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−112980(P2006−112980A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302258(P2004−302258)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】