説明

純水または超純水の製造方法および装置

【課題】被処理水を、活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターに通水して脱塩素処理した後、RO膜分離処理して純水ないし超純水を製造するに当たり、活性炭繊維内蔵フィルター内での微生物の繁殖を抑制し、長期にわたり安定運転を行う。
【解決手段】被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加した後、活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターに導入し、その後RO膜分離装置で処理する。ACFフィルターの通水SVは好ましくは100hr−1以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は純水ないし超純水を製造する方法および装置に係り、詳しくは、被処理水を、活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターに通水して脱塩素処理した後、逆浸透膜分離処理して純水ないし超純水を製造するに当たり、活性炭繊維内蔵フィルター内での微生物の繁殖を抑制し、長期に亘り安定運転を行う純水または超純水の製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体洗浄用水として用いられている超純水は、前処理システム、一次純水システム、およびサブシステムから構成される超純水製造装置で、原水(工業用水、市水、井水等)を処理することにより製造されている。一般に、前処理システムは、濾過装置、活性炭塔などよりなり、また、一次純水システムは、逆浸透膜分離装置(RO膜分離装置)、イオン交換塔、および脱気装置から構成され、サブシステムは、紫外線酸化装置、イオン交換装置、および限外濾過膜装置から構成される(例えば特許文献1)。
【0003】
一次純水システムとして使用されるRO膜分離装置の逆浸透膜(RO膜)あるいはイオン交換塔のイオン交換樹脂の原水は、滅菌の目的から塩素等の酸化剤により処理されることが多い。しかし、RO膜分離装置やイオン交換塔の流入原水中に活性塩素が残留している場合、RO膜あるいはイオン交換樹脂は一般的に酸化剤に弱いために、残留塩素により劣化して、分離性能、除去性能が低下する。このため、一次純水システムの主たる装置であるRO膜分離装置あるいはイオン交換塔に通水する際は、あらかじめ原水中の残留塩素を除去する必要がある。
【0004】
従来、この残留塩素除去手段としては、活性炭を充填した固定床式活性炭塔による酸化剤の還元、あるいは亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤添加によるものが用いられてきた。
【0005】
しかしながら、上記手段のうち、粒状活性炭による方法では、酸化剤を確実に除去することができるものの、微粉炭の発生および流出や塔内でのスライム発生が生じ、後段の保安フィルターおよびRO膜の目詰まりを引き起こすことが多い。一方、還元剤添加による方法では、このような問題は生じないが、還元剤注入ポンプのトラブルなど、酸化剤を除去し得ない状態が生じる可能性がある。かかる問題から、近年、活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターをRO膜分離装置の前段に設ける方法が提案されている(例えば特許文献2)。活性炭繊維は繊維状であることから、粒状活性炭のように微粉炭が発生して流出するおそれが少なく、またスライムも発生し難い。
【特許文献1】特開2003−190979号公報
【特許文献2】特開平4−354581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターを用いる方法であっても、フィルター内に発生する微生物の増殖を抑制するには十分ではなく、仮にフィルター内に微生物が発生して差圧上昇を引き起こした際には、粒状活性炭とは異なり逆洗による付着菌体の剥離が困難であるという新たな問題がある。
【0007】
また、活性炭繊維内蔵フィルター内で微生物が繁殖した場合、生菌や生物膜がリークすることにより、後段のRO膜分離装置においても膜の目詰まりで差圧の上昇を引き起こす。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、被処理水を、活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターに通水して脱塩素処理した後、RO膜分離処理して純水ないし超純水を製造するに当たり、活性炭繊維内蔵フィルター内での微生物の繁殖を抑制し、長期にわたり安定運転を行う純水または超純水の製造方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(請求項1)の純水または超純水の製造方法は、被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加する抗菌処理工程と、該抗菌処理工程からの処理水を活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターに通水する脱塩素処理工程と、該脱塩素処理工程で得られた処理水を逆浸透膜分離処理する膜分離処理工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
請求項2の純水または超純水の製造方法は、請求項1において、前記カートリッジフィルターにおける通水SVが100hr−1以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明(請求項3)の純水または超純水の製造装置は、被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加する抗菌処理手段と、該抗菌処理手段からの処理水が導入される活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターと、該カートリッジフィルターからの処理水が導入される逆浸透膜分離装置とを備えてなることを特徴とする。
【0012】
請求項4の純水または超純水の製造装置は、請求項3において、前記カートリッジフィルターの通水SVが100hr−1以上となるように流量を調整する流量調整手段を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
活性炭繊維内蔵フィルター(以下「ACFフィルター」と称す場合がある。)に導入される被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加することにより、ACFフィルター内での微生物の繁殖を抑制して、長期にわたり安定運転を行うことができる。
【0014】
特に、このACFフィルターへの通水をSV100hr−1以上の高速通水とすることにより、被処理水中の有機系スライムコントロール剤をACFフィルターの内部まで十分に浸透させ、更には、後段のRO膜分離装置まで有機系スライムコントロール剤を導入して、RO膜分離装置での微生物の繁殖を防止することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の純水または超純水の製造方法および装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明においては、被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加した後、ACFフィルターに通水する。
【0017】
本発明における被処理水とは、ACFフィルターでの脱塩素処理が必要とされる水、即ち、酸化剤として添加された塩素が残存する水であり、通常、残留塩素濃度(遊離塩素濃度)0.1〜1mg/L程度の水である。
【0018】
このような被処理水に添加する有機系スライムコントロール剤としては、特に制限はないが、例えば2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ベンゾイソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾリン系スライムコントロール剤などが挙げられる。これらの有機系スライムコントロール剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
これらの有機系スライムコントロール剤の添加濃度は、低過ぎると十分な添加効果は得られず、高過ぎても、添加濃度に見合う効果の向上は得られず、徒に薬剤コストが高騰し、また、後段装置におけるTOC濃度が過度に上昇すると後段装置のTOC負荷が高くなる点で不利であるので、0.5〜10mg/Lであることが好ましく、2〜5mg/Lであることがより好ましい。
【0020】
有機系スライムコントロール剤が添加された被処理水が通水されるACFフィルターとしては、0.5〜20μmの公称孔径を有し、10〜70%の活性炭繊維を含有するカートリッジ型のフィルターが好ましく、また、このカートリッジフィルターには銀(Ag)が担持されていても良い。
【0021】
また、ACFフィルターに内蔵される活性炭繊維としては、例えば、平均繊維径10〜15μmで、その繊維表面に平均直径10〜40Å程度の細孔が形成されたものが好ましい。このような活性炭繊維は、例えば、ポリアクリロニトリル系、又はポリビニルアルコール系等の有機繊維を水等の液体中にて攪拌して相互にからみ合わせて得られた繊維塊を、脱液後、不活性ガス中で加熱して炭化するなどの方法により容易に製造することができる。
【0022】
本発明においては、このようなACFフィルターへの通水SVは通常50〜200hr−1の範囲とされるが、特に100hr−1以上の高速通水とすることが好ましい。このような高速通水とすることにより、被処理水の脱塩素処理は行われる一方で、被処理水に添加された有機系スライムコントロール剤がフィルター内で吸着除去されることなく、リークするため、フィルター内における微生物の増殖を効果的に抑制すると共に、後段のRO膜分離装置における微生物の繁殖防止効果も得ることができる。このACFフィルターへの通水SVは、過度に高いと塩素がリークしやすくなることから、通常100〜150hr−1である。
【0023】
ACFフィルターの処理水は、次いでRO膜分離装置に導入され、脱塩(脱イオン)処理と有機物の除去が行われる。このRO膜分離装置の型式としては特に制限はなく、スパイラル型や中空糸型を用いることができる。
【0024】
このような本発明の処理方法は、特に超純水製造装置の一次純水システム、サブシステム等において有効であり、ACFフィルターおよびRO膜分離装置による処理を長期に亘り安定して継続することができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例により限定されるものではない。
【0026】
なお、以下の実施例および比較例において、ACFフィルターとしては、平均繊維径15μmである活性炭繊維が内蔵されたものであり、0.5μmの公称孔径を有するものを用いた。
【0027】
またRO膜分離装置としてはスパイラル型を用い、給水pH6、回収率75%の条件で運転した。
【0028】
実施例1
遊離塩素濃度1mg/Lの市水に生物易分解性物質として酢酸を1mg/L添加した後、イソチアゾリン系スライムコントロール剤(栗田工業(株)製「クリバータEC−503」)を3mg/L添加し、次いで、ACFフィルターに通水SV100hr−1の条件で通水し、このACFフィルターからの処理水をRO膜分離装置に通水してRO膜分離処理した。
【0029】
比較例1
被処理水へのスライムコントロール剤の添加を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、ACFフィルターおよびRO膜分離装置の順で通水した。
【0030】
実施例2〜4
実施例1おいて、ACFフィルターへの通水SVを、20hr−1(実施例2)、50hr−1(実施例3)又は80hr−1(実施例4)としたこと以外は同様にして処理を行った。
【0031】
上記実施例1〜4および比較例1において、ACFフィルターの差圧の経時変化とRO膜分離装置の差圧の経時変化を調べ、結果を表1,2および図1,2に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1,2および図1,2より明らかなように、被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加しなかった比較例1では、通水開始から3日で差圧の上昇が観測されたのに対し、有機系スライムコントロール剤を添加した実施例1〜4では、差圧上昇に至る期間が延長され、特にACFフィルターへの通水SVが高くなる程閉塞に至る通水期間が長くなり、通水SV100hr−1の実施例1では、試験期間中、閉塞は観測されなかった。なお、閉塞されたACFフィルターの内部を調べたところ、微生物の付着が観測された。RO膜分離装置においても同様の傾向が観測された。
【0035】
これらの結果より、ACFフィルターの被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加することにより、ACFフィルターにおける微生物の繁殖に起因するフィルターの差圧の上昇を防止すると共に、RO膜分離装置における差圧の上昇を防止することができることが分かる。特に、ACFフィルターの通水SVを100hr−1以上の高速通水とすることにより、上記効果をより一層有効に得ることができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1〜4および比較例1におけるACFフィルターの差圧の経時変化を示すグラフである。
【図2】実施例1〜4および比較例1におけるRO膜分離装置の差圧の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加する抗菌処理工程と、該抗菌処理工程からの処理水を活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターに通水する脱塩素処理工程と、該脱塩素処理工程で得られた処理水を逆浸透膜分離処理する膜分離処理工程とを含むことを特徴とする純水または超純水の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記カートリッジフィルターにおける通水SVが100hr−1以上であることを特徴とする純水または超純水の製造方法。
【請求項3】
被処理水に有機系スライムコントロール剤を添加する抗菌処理手段と、該抗菌処理手段からの処理水が導入される活性炭繊維を内蔵したカートリッジフィルターと、該カートリッジフィルターからの処理水が導入される逆浸透膜分離装置とを備えてなることを特徴とする純水または超純水の製造装置。
【請求項4】
請求項3において、前記カートリッジフィルターの通水SVが100hr−1以上となるように流量を調整する流量調整手段を備えてなることを特徴とする純水または超純水の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−326029(P2007−326029A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158762(P2006−158762)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】