説明

紙・繊維製品のコーティング用組成物、コーティング皮膜および紙・繊維製品

【課題】皮膜の耐ブロッキング性および耐湿摩擦性に優れ、かつ常温での成膜性に優れたアクリル系エマルジョンからなる紙・繊維製品のコーティング用組成物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる、ガラス転移温度が−70℃以上0℃以下の範囲にある重合体(A1)、ガラス転移温度が50℃以上100℃以下の範囲にある重合体(A2)およびセラックを含有するアクリル系エマルジョンからなる紙・繊維製品のコーティング用組成物であって、前記重合体(A1)および重合体(A2)の合計の平均ガラス転移温度が20℃以下である紙・繊維製品のコーティング用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製品や不織布等の繊維製品のコーティング用組成物、コーティング皮膜ならびに該コーティング用組成物で処理された紙・繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙袋、バッグ、表紙、化粧箱、壁紙等の紙製品や不織布等の繊維製品においては、表面にコーティング剤を塗布し、紙・繊維製品自体及び紙・繊維製品の表面に施された印刷等を保護することが行われている。
【0003】
このようなコーティング剤には、一般に耐水性、耐摩擦性、耐ブロッキング性等の諸性能が求められるために、紙や繊維との密着性や塗工性に優れているアクリル系エマルジョンを用いたコーティング剤が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、分子内にカルボキシル基を含有するエチレン性重合モノマー、エポキシシランカップリング剤およびその他のエチレン性重合モノマーを乳化重合して得られた水性樹脂エマルジョンと、フッ素系撥水撥油剤からなるフッ素樹脂含有水性樹脂エマルジョンが提案されている。しかし、特許文献1では、重合系内でカルボキシル基含有モノマーとエポキシシランカップリング剤を反応させるため、耐水性、耐摩擦性は得られるものの、未だ十分な耐湿摩擦性を得ることができないという問題があった。
【0005】
また、特許文献2では、カルボニル基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを10〜20重量%含有し、ガラス転移温度が60℃以上のアクリル樹脂粒子100重量部に対して、分子量174〜316のヒドラジン−アジピン酸縮合物5〜20重量部を含む水性オーバープリントワニス組成物が提案されている。これは、カルボニル基とヒドラジン−アジピン酸縮合物との反応によって、堅牢かつ光沢に優れた塗膜を形成するものであるが、実際には40℃で6時間程度の乾燥時間(反応時間)が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−179473号公報
【特許文献2】特開平6−212094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コーティング皮膜に耐湿摩擦性を付与するためには、皮膜物性を比較的柔らかくすればよく、そのためにはガラス転移温度が低いアクリル系エマルジョン用いればよい。しかし、ガラス転移温度が低いアクリル系エマルジョンから得られる皮膜は、常温で粘着性を発現するので、耐ブロッキング性が低下するという問題点がある。
【0008】
一方、耐ブロッキング性を得るために、比較的高いガラス転移温度を有するアクリル系エマルジョンを用いた場合には、皮膜の耐湿摩擦性が低下すると共に常温での成膜性も低下するという問題が発生する。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、皮膜の耐ブロッキング性および耐湿摩擦性に優れ、かつ常温での成膜性に優れたアクリル系エマルジョンからなる紙・繊維製品のコーティング用組成物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、上記の紙・繊維製品のコーティング用組成物からなるコーティング皮膜ならびに該コーティング用組成物で処理された紙・繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、アクリル系エマルジョン中に異なるガラス転移温度を有する重合体からなる粒子を混在させ、かつセラックを配合することによって、皮膜の耐ブロッキング性および耐湿摩擦性に優れ、かつ常温での成膜性に優れるコーティング用組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の重合体(A1)、重合体(A2)およびセラックを含有するアクリル系エマルジョンからなる紙・繊維製品のコーティング用組成物であって、前記重合体(A1)および重合体(A2)の合計の平均ガラス転移温度が20℃以下であることを特徴とする紙・繊維製品のコーティング用組成物である。
【0013】
重合体(A1):(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる、ガラス転移温度が−70℃以上0℃以下の範囲にある重合体。
【0014】
重合体(A2):(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる、ガラス転移温度が50℃以上100℃以下の範囲にある重合体。
【0015】
また、本発明は、上記の紙・繊維製品のコーティング用組成物から得られるコーティング皮膜であって、示差走査熱量測定によって測定されるガラス転移温度が、50℃以上100℃以下及び−70℃以上0℃以下の各領域にそれぞれ1つ以上あることを特徴とするコーティング皮膜である。
【0016】
さらに、本発明は、上記の紙・繊維製品のコーティング用組成物によって表面処理されていることを特徴とする紙・繊維製品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の紙・繊維製品のコーティング用組成物は、皮膜の耐ブロッキング性および耐湿摩擦性に優れ、かつ常温での成膜性に優れるという効果を奏する。
また、本発明のコーティング用組成物から得られるコーティング皮膜又は該コーティング用組成物によって表面処理された紙・繊維製品は、耐湿摩擦性及び耐ブロッキング性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0019】
本発明に係る紙・繊維製品のコーティング用組成物は、下記の重合体(A1)、重合体(A2)およびセラックを含有するアクリル系エマルジョンからなる紙・繊維製品のコーティング用組成物であって、前記重合体(A1)および重合体(A2)の合計の平均ガラス転移温度が20℃以下であることを特徴とする。
【0020】
重合体(A1):(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる、ガラス転移温度が−70℃以上0℃以下の範囲にある重合体。
【0021】
重合体(A2):(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる、ガラス転移温度が50℃以上100℃以下の範囲にある重合体。
【0022】
本発明においては、アクリル系エマルジョン中に異なるガラス転移温度を有する重合体(A1)および重合体(A2)からなる粒子を混在させ、なおかつセラックを配合することによって、耐湿摩擦性、常温での成膜性と、紙・繊維製品の耐ブロッキング性という互いに相反する性能を発現させることができる。なお、本願においては、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとをあわせて「(メタ)アクリル酸エステル」と表記する。
【0023】
本発明のコーティング用組成物は、前記セラックを含有する分散剤中で、(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる重合体(A1)および重合体(A2)を含有することが好ましい。セラックを含有する分散在中で、重合体(A1)および重合体(A2)の重合を行うことによって、さらに効果的に皮膜の耐湿摩擦性、常温での成膜性と、紙・繊維製品の耐ブロッキング性という互いに相反する性能を発現させることができる。
【0024】
また、本発明のコーティング用組成物は、前記重合体(A1)、重合体(A2)およびセラックを混合して得られる紙・繊維製品のコーティング用組成物が好ましい。
【0025】
[アクリル系エマルジョンについて]
本発明におけるアクリル系エマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる重合体(A1)と重合体(A2)、およびセラックを含有し、前記重合体(A1)および重合体(A2)の合計の平均ガラス転移温度が20℃以下であることを特徴とする。
【0026】
重合体(A1)はガラス転移温度が−70℃以上0℃以下の範囲にあるポリマー粒子(A1)であり、より好ましくは−50℃以上−20℃以下の範囲である。重合体(A2)はガラス転移温度が50℃以上100℃以下の範囲にあるポリマー粒子(A2)であり、より好ましくは70℃以上90℃以下である。
【0027】
本発明においては、エマルジョン中にガラス転移温度が異なる粒子(A1)、(A2)が混在して存在することが必要である。その理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推察している。このようなガラス転移温度が異なる粒子が混在するエマルジョンが成膜すると、その皮膜はミクロ的に高ガラス転移温度のポリマーがリッチな領域と、低ガラス転移温度のポリマーがリッチな領域とが混在する不均一構造となるものと考えられる。皮膜がミクロ的にこのような不均一構造をとることによって、耐湿摩擦性、常温での成膜性と、紙・繊維製品の耐ブロッキング性という互いに相反する性能を発現させることができるものと考える。
【0028】
したがって、アクリル系エマルジョンを得るための方法としては、このような異なるガラス転移温度を有する粒子が混在する状態を生じさせる方法であれば特に制限されない。
例えば、ガラス転移温度の異なる2種の重合体(A1)および重合体(A2)を含有するエマルジョンを混合する方法が挙げられる。
【0029】
また、同一の重合装置で連続的に異なるモノマー組成からなる重合体(A1)および重合体(A2)を含有するエマルジョンを重合する方法でもよい。このような重合方法は一般的には多段重合法と呼ばれるが、多段重合を行う場合には前段の反応を完了させた後、後段の重合を行うことによって異なるガラス転移温度を有する粒子を混在させることが可能となる。混合方法と比較すると、同一の重合装置で製造できることから工程上のメリットが大きいため多段重合法がより好ましい。
【0030】
[(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーについて]
本発明においては、重合体(A1)および重合体(A2)を得るために、メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを用いることができる。
【0031】
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル;アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物など従来公知の化合物が挙げられる。これらの中では、得られた皮膜の親水度が低くなる結果として耐湿摩擦性により優れるため、疎水モノマーが特に好ましい。
【0032】
また、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとスチレンモノマーとを共重合させてもよい。スチレンモノマーの使用量は,平均ガラス転移温度の範囲内であれば、特に限定されない。
【0033】
また、本発明においては、重合体(A1)および重合体(A2)が、(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーに、さらに本発明の効果を損なわない範囲で、それらのモノマーと共重合可能な他のビニル系重合性単量体を重合して得られる重合体であってもよい。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレンモノマーと共重合可能な他のビニル系重合性単量体としては、エチレン性不飽和単量体、ジエン系単量体等の単量体が挙げられる。これらの単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン;塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリドなどのハロゲン化オレフィン;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル;さらには、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩などのアクリルアミド系単量体;α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびナトリウム、カリウム塩などの他のスチレン系単量体;その他N−ビニルピロリドンなど、また、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体が挙げられる。これらの化合物は1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0035】
[ガラス転移温度について]
本発明におけるアクリル系エマルジョンに含有されている重合体(A1)および重合体(A2)のガラス転移温度は、重合体(A1)および重合体(A2)を得るために用いられる、それぞれの(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレンモノマー、他のビニル系重合性単量体のホモポリマーのガラス転移温度から、以下のFOX(Gordon−Taylor)の式を用いて求められる。
【0036】
FOXの式: 1/Tg=(a/Tg)+・・・+(a/Tg
上記のFOXの式において、
Tg:ガラス転移温度(単位:K)、
Tg:第n番目の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレンモノマーまたは他のビニル系重合性単量体のホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)、
:第n番目の((メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレンモノマーまたは他のビニル系重合性単量体の重量分率
n:モノマーの数
を表わす。
【0037】
また、ホモポリマーのガラス転移温度は、文献「T.G.Fox,Bulletin Am.Physics Sci.,1(3),123(1956).」に記載されている値から求められる。例えば、メタクリル酸メチルのホモポリマーガラス転移温度は105℃、メタクリル酸2−エチルヘキシルのホモポリマーのガラス転移温度は−70℃である。((株)高分子刊行会発行「合成ラテックスの応用」1993年7月10日第一版158ページ参照)。
【0038】
そして、重合体(A1)においては、FOXの式により算出されるガラス転移温度が−70℃以上0℃以下の範囲にある。重合体(A2)においては、FOXの式により算出されるガラス転移温度が50℃以上100℃以下の範囲にある。
【0039】
また、アクリル系エマルジョン全体として、重合体(A1)および重合体(A2)の合計の平均ガラス転移温度が20℃以下である。即ち。FOXの式により算出される、使用されるモノマー総体の平均ガラス転移温度が20℃以下である。
【0040】
本発明のアクリル系エマルジョンに含有される重合体(A1)および重合体(A2)の含有量は、重合体(A1)および重合体(A2)の合計の平均ガラス転移温度の範囲内であれば特に限定されない。
【0041】
[セラックについて]
本発明におけるセラックは、南洋植物に寄生するラック貝殻虫の分泌する樹脂状物質を精製したものである。セラックは、例えばアレウリチン酸とジャラール酸又はラクシジャラール酸とがエステル結合した軟化樹脂やその軟化樹脂が数個結合したもの等、多数の樹脂酸の混合物を含有している。
【0042】
このようなセラックは市販されており、例えば岐阜セラック(株)製の「N811」、日本シェラック(株)製の「NSC」等として商業的に入手することができる。
本発明においては市販のセラックを、水に溶解させるためにアルカリで中和したアルカリ塩として使用することが好ましい。セラックをアルカリで中和して使用する場合、セラックの中和度はセラックの全酸価に対し80%以上が好ましい。中和度が80%を下回ると水溶化しにくくなる。また、中和に用いるアルカリ物質は特に限定されるものではないが、アンモニア、トリエタノールアミン、モルホリン等の揮発性物質を用いることが好ましい。
【0043】
本発明において、セラックはエマルジョンを得た後に添加してもよい。また、セラック単独を分散剤として用いて、エマルジョンを重合してもよいし、セラックと他の分散剤とを併用してもよい。より効果的に皮膜の耐湿摩擦性、常温での成膜性と、紙・繊維製品の耐ブロッキング性を得るためには、セラックと分散剤とを併用して重合を行うのが特に好ましい。
【0044】
本発明においてセラックは、コーティング用組成物の全固形分に対して2〜20質量%、好ましくは5〜15質量%含有される。2質量%を下回ると常温での耐湿摩擦性の観点で不具合が生じ、20質量%を超えると高コスト、高粘度となってしまい実使用が困難になるなどの不具合が生じる。
【0045】
[分散剤について]
本発明における他の分散剤は、上述の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレンモノマーをエマルジョン重合するに際して、これらのモノマーを水中に安定分散するための保護コロイド又は界面活性剤である。上述のようにセラックと分散剤とを併用するのが好ましい。
【0046】
本発明で用いられる分散剤としては、保護コロイドとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース等の従来公知の水溶性高分子が挙げられる。界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのノニオン性界面活性剤、脂肪族炭化水素基を有する第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、第四級アンモニウム塩、この第四級アンモニウム塩のカチオン性界面活性剤としてはラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤が挙げられる。また、重合性のアリル基含有ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アリル基含有ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のいわゆる反応性界面活性剤も用いることができる。他の分散剤の使用量は、使用する重合性モノマー100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0047】
乳化重合に用いられる重合開始剤は、例えば、ラジカル重合触媒、レドックス重合触媒の中から適宜選択して使用できる。重合開始剤の具体例を示すと、水溶性開始剤の例としては過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が挙げられ、レドックス系開始剤としては過酸化水素、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、過硫酸塩等の開始剤とグルコース、デキストロース、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤との組み合わせが挙げられる。油溶性開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイドなどの過硫酸物等が挙げられる。また、重合開始剤の使用量は、使用する重合性モノマー100質量部に対して0.01〜0.5質量部が好ましい。
【0048】
[その他成分について]
また、その他の成分として、増粘剤、中和剤、安定剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、防カビ剤、アルコール類などの添加剤、クレー、タルク、炭酸カルシウム、コロイダルシリカ、シリカのような無機充填剤が目的に応じて適宜配合されていてもよい。
特に、つや消しタイプのコーティング皮膜を得るためには、本発明のコーティング用組成物にシリカを配合する事が好ましい。シリカの種類としては特に限定されないが、未処理のものや表面を無機物や有機物等で処理を施したものを用いることもできる。つや消しに使用されるシリカとしては、平均粒子径が1〜10μmであるものが好ましい。なお、ここでいう平均粒子径とは、コールターカウンター法により測定されるものである。
本発明においてシリカの配合量は、つや消し等のコーティングとしての諸性能が損なわれない範囲内であれば特に限定されないが、例えばシリカを配合したコーティング用組成物の全固形分に対して1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%が望ましい。
また、シリカの沈降防止剤として従来公知の界面活性剤、分散剤等を組み合わせて用いることができる。
【0049】
[コーティング皮膜]
本発明のコーティング皮膜は、上記の紙・繊維製品のコーティング用組成物から得られるコーティング皮膜であって、示差走査熱量測定によって測定されるガラス転移温度が、50℃以上100℃以下及び−70℃以上0℃以下の各領域にそれぞれ1つ以上あることを特徴とする。
【0050】
[示差走査熱量測定(DSC測定)について]
本発明におけるアクリル系エマルジョンは、下記条件で示差走査熱量測定(DSC測定)を行い、ガラス転移温度をJIS K7121に準拠して求めた際に、50℃以上100℃以下及び−70℃以上0℃以下の各領域内に、それぞれ1つ以上の補外ガラス転移開始温度(Tig)が測定される。なお、測定に際しては、コーティング用組成物を成膜してフィルム状にしたものを用いる。
【0051】
装置名 ; (株)島津製作所社製DSC−50
パン ; アルミパン(非気密型)
試料質量 ; 10mg
昇温開始温度 ; −80℃
昇温終了温度 ; 110℃
昇温速度 ; 10℃/min
雰囲気 ; 窒素
【0052】
[本発明のコーティング用組成物による紙・繊維の表面処理について]
本発明のコーティング用組成物を使用して紙・繊維等を表面処理して加工する方法としては公知の方法を使用できる。すなわち、紙・繊維等の被処理物にフレキソ印刷機、グラビア印刷機等一般的な印刷方法によって印刷(塗布・コート)することができ、その後常温乾燥工程又は加熱乾燥工程を経て表面処理される。
【実施例1】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準を表す。
【0054】
[試験方法と評価基準]
コーティング用組成物の耐湿摩擦性、成膜性及びこれを塗工した紙・繊維製品の耐ブロッキング性を下記の要領で評価した。
【0055】
<耐湿摩擦性試験>
樹脂/顔料の固形分比=1/1の水系フレキソインキをバーコーター#3(塗布量:4g/m(固形分換算:1.6g/m))でコート紙に塗工し、23℃50%RHで24時間乾燥した。その後、実施例および比較例で得られたコーティング用組成物をバーコーター#3(塗布量:4g/m(固形分換算:1.6g/m))で塗工し、23℃50%RHで24時間乾燥し、試料を作成した。コーティング用組成物を塗工した試料の表面を水で湿した(75%湿潤度)綿布(カナキン3号)で、荷重500gを乗せて30回往復させ、綿布へのインキの転着を比較した。
【0056】
<評価基準>
◎:インキの転着がない
○:ややインキの転着がある
△:インキの転着がある
×:非常にインキの転着がある
<成膜性試験>
JIS K6828−2に従い、MFFT(最低造膜温度)を測定した。
【0057】
<耐ブロッキング性試験>
耐湿摩擦性試験と同様に試料を作製した。この試料のコーティング用組成物の塗工面同士を重ね合わせ、荷重100g/cmをかけて、50℃95%RH雰囲気下で24時間放置後、塗布面同士を剥がした際のブロッキング性を比較した。
【0058】
<評価基準>
○:ブロッキング無し
△:ややブロッキングしている
×:ブロッキングしている
【0059】
[コーティング用組成物の製造例]
実施例1
撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を143部仕込み、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)3.6部をその中に添加し、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この中にメタクリル酸メチル(ガラス転移温度は105℃)160部、メタクリル酸2−エチルヘキシル(ガラス転移温度は−70℃)20部の混合物(FOXの式より求めたガラス転移温度Tg72℃)を徐々に添加してモノマー乳化物(M−1)を得た。
【0060】
次に、撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を140部仕込み、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)5部をその中に添加し、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この中にメタクリル酸メチル40部、メタクリル酸2−エチルヘキシル170部の混合物(FOXの式より求めたガラス転移温度Tg−50℃)を徐々に添加してモノマー乳化物(M−2)を得た。
【0061】
別のコンデンサー及び撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を250部と、セラック(PEARL N−811:岐阜セラック社製)45部、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)4部を仕込み、撹拌しながら25%アンモニア水7部を添加し、75℃まで昇温、30分間温度を維持しセラックを溶解させた水溶液(C)を得た。
【0062】
その後、水溶液(C)の温度を75℃に設定して、上記モノマー乳化物(M−1)を過硫酸カリウム水溶液(4%溶液)10部とともに撹拌下、窒素ガス気流中で100分、滴下して乳化重合し、60分間温度を維持したまま熟成した。その後、水溶液(C)の温度を75℃に維持したまま、上記モノマー乳化物(M−2)を過硫酸カリウム水溶液(4%溶液)10部とともに撹拌下、窒素ガス気流中で120分、滴下して乳化重合し、60分間温度を維持したまま撹拌した。その後、脱イオン水で固形分40%に調整し水性エマルジョン(C−1)を得た。このエマルジョンについて、FOXの式より求めたモノマー全体の平均ガラス転移温度Tg3は−6.8℃である。
【0063】
以下にFOXの式より、上記のガラス転移温度を算出する方法を示す。
(1)モノマー乳化物(M−1)
1/Tg=160/180×1/(105+273)
+20/180×(−70+273)
Tgは345(K)であり、Tg=72(℃)となる。
(2)モノマー乳化物(M−2)
1/Tg=40/210×1/(105+273)
+170/210×(−70+273)
Tgは223(K)であり、Tg=−50(℃)となる。
(3)エマルジョン(モノマー全体)
1/Tg=200/390×1/(105+273)
+190/390×(−70+273)
Tgは266(K)であり、Tg=−6.8(℃)となる。
【0064】
実施例2
撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を252部仕込み、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)7.8部をその中に添加し、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この中にメタクリル酸メチル320部、メタクリル酸2−エチルヘキシル40部の混合物(FOXの式より求めたガラス転移温度72℃)を徐々に添加してモノマー乳化物(M−3)を得た。
【0065】
別のコンデンサー及び撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を200部と、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)4部を仕込み、75℃まで昇温した。その後水溶液の温度を75℃に設定して、上記モノマー乳化物(M−3)を過硫酸カリウム水溶液(4%溶液)10部とともに撹拌下、窒素ガス気流中で100分、滴下して乳化重合し、60分間温度を維持したまま熟成した。その後、脱イオン水で固形分40%に調整し水性エマルジョン(C−2)を得た。
【0066】
次に撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を260部仕込み、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)9.3部をその中に添加し、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この中にメタクリル酸メチル80部、メタクリル酸2−エチルヘキシル340部の混合物(FOXの式より求めたガラス転移温度−50℃)を徐々に添加してモノマー乳化物(M−4)を得た。
【0067】
別のコンデンサー及び撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を200部と、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)4部を仕込み、75℃まで昇温した。その後水溶液の温度を75℃に設定して、上記モノマー乳化物(M−4)を過硫酸カリウム水溶液(4%溶液)10部とともに撹拌下、窒素ガス気流中で100分、滴下して乳化重合し、60分間温度を維持したまま熟成した。その後、脱イオン水で固形分40%に調整し水性エマルジョン(C−3)を得た。
【0068】
さらに別のコンデンサー及び撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を415部と、セラック(PEARL N−811:岐阜セラック社製)90部、を仕込み、撹拌しながら25%アンモニア水14部を添加し、75℃まで昇温、30分間温度を維持しセラックを溶解させることでセラック水溶液(C−4)を得た。
【0069】
上記で得られた(C−2)を26.4部、(C−3)を22.5部、(C−4)を4.9部それぞれ混合し、脱イオン水で固形分40%に調整し水性エマルジョン(C−5)を得た。
【0070】
比較例1
撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を260部仕込み、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)9.3部をその中に添加し、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この中にメタクリル酸メチル347部、メタクリル酸2−エチルヘキシル43部の混合物(FOXの式より求めたガラス転移温度72℃)を徐々に添加してモノマー乳化物(M−5)を得た。
【0071】
別のコンデンサー及び撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を250部と、セラック(PEARL N−811:岐阜セラック社製)45部、乳化剤(ペレックスSS−H:花王社製)4部を仕込み、撹拌しながら25%アンモニア水7部を添加し、75℃まで昇温、30分間温度を維持しセラックを溶解させた。その後水溶液の温度を75℃に設定して、上記モノマー乳化物(M−5)を過硫酸カリウム水溶液(4%溶液)20部とともに撹拌下、窒素ガス気流中で220分、滴下して乳化重合し、60分間温度を維持したまま撹拌した。その後、脱イオン水で固形分40%に調整し水性エマルジョン(C−6)を得た。このエマルジョンについてFOXの式より求めた平均ガラス転移温度は−50℃である。
【0072】
実施例3〜9、比較例2、比較例3〜5
実施例3〜9、比較例3〜5に関しては、実施例1における(M−1)成分、(M−2)成分及びセラック含有量を各々表1に示す配合量に変えた以外は実施例1と同様にして各コーティング用組成物を得た。
【0073】
比較例2においては、比較例1における(M−5)成分を表1に示す配合量に変えた以外は比較例1と同様にして各コーティング用組成物を得た。
得られたコーティング用組成物を用い、耐湿摩擦性試験、成膜性試験及び耐ブロッキング性試験を行い評価した。その評価結果を表1〜3に示す。
【0074】
また、表にはDSC測定の結果、検出されたガラス転移温度も併せて示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
表の結果から明らかなように本発明に係るコーティング用組成物は、耐湿摩擦性、成膜性及び耐ブロッキング性に優れていることが認められる。
【0079】
実施例10
本発明に係るコーティング用組成物にシリカを配合して、つや消しタイプのコーティング皮膜を得た実施例を示す。
シリカ(AY−460:東ソーシリカ社製、平均粒子径3.5μm)10部と水10部を混合してスラリー(C−7)を得た。実施例1で得られた水性エマルジョン100部に対し、前記スラリー(C−7)6部を混合し、脱イオン水で固形分40%に調整してコーティング用組成物(C−8)を得た。得られたコーティング用組成物(C−8)を用いて、耐湿摩擦性試験、成膜性試験及び耐ブロッキング性試験を行い評価したところ、実施例1と同等の結果が得られた。また、コーティング用組成物(C−8)から得られたコーティング皮膜はつや消しされた製品であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る紙・繊維製品のコーティング用組成物は、耐湿摩擦性、耐ブロッキング性及び常温での成膜性に優れ、袋、バッグ、表紙、化粧箱、壁紙等の紙・不織布等の繊維製品のコーティング用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の重合体(A1)、重合体(A2)およびセラックを含有するアクリル系エマルジョンからなる紙・繊維製品のコーティング用組成物であって、前記重合体(A1)および重合体(A2)の合計の平均ガラス転移温度が20℃以下であることを特徴とする紙・繊維製品のコーティング用組成物。
重合体(A1):(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる、ガラス転移温度が−70℃以上0℃以下の範囲にある重合体。
重合体(A2):(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる、ガラス転移温度が50℃以上100℃以下の範囲にある重合体。
【請求項2】
前記セラックを含有する分散剤中で、(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独、または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーを重合して得られる前記重合体(A1)および重合体(A2)を含有することを特徴とする請求項1に記載の紙・繊維製品のコーティング用組成物。
【請求項3】
前記重合体(A1)、重合体(A2)およびセラックを混合して得られることを特徴とする請求項1に記載の紙・繊維製品のコーティング用組成物。
【請求項4】
前記セラックの含有量が、コーティング用組成物の全固形分に対して2〜20質量%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の紙・繊維製品のコーティング用組成物。
【請求項5】
前記重合体(A1)および重合体(A2)が、(メタ)アクリル酸エステルモノマー単独または(メタ)アクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーに、さらにそれらのモノマーと共重合可能な他のビニル系重合性単量体を重合して得られる重合体である請求項1乃至4のいずれかの項に記載の紙・繊維製品のコーティング用組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの項に記載の紙・繊維製品のコーティング用組成物から得られるコーティング皮膜であって、示差走査熱量測定によって測定されるガラス転移温度が、50℃以上100℃以下及び−70℃以上0℃以下の各領域にそれぞれ1つ以上あることを特徴とするコーティング皮膜。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかの項に記載の紙・繊維製品のコーティング用組成物によって表面処理されていることを特徴とする紙・繊維製品。

【公開番号】特開2009−270247(P2009−270247A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92405(P2009−92405)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】