説明

細胞への遺伝子導入用組成物

【課題】この組成物は遺伝子を効率的に細胞内へ導入させ、かつ発現させることができるため、遺伝子導入用試薬や医薬として有用である。
【解決手段】本発明は、O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンハライド、リン脂質及びコレステロールを含有する遺伝子、細胞内に導入されにくい大きさの分子量の生理活性ペプチド類又は蛋白質類の細胞への導入用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子を細胞内へ導入するための組成物及び該組成物を用いた細胞内への遺伝子の導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より薬物として利用されている化合物の中には、細胞膜透過性が低く、細胞内での薬理効果が十分得られない例がある。細胞膜透過性が低い例としては、薬物の脂溶性が低い場合や薬物の分子量が大きい場合などが挙げられるが、その代表例が遺伝子である。
【0003】
これらの細胞膜透過性が低い薬物、特に遺伝子による治療は、現在も注射剤投与等により行われてはいるが、本来その薬物に期待されている細胞内への到達性が低いために、満足のいく治療効果は得られていない。
【0004】
これらの問題点を解決するため、従来からさまざまな方法、すなわち薬物送達システム(Drug Delivery System;DDS)の技術が提案されている。例えば、主にリン脂質等で構成されるリポソーム、大豆油などの油と界面活性剤で構成されるエマルション、脂質と界面活性剤で構成される混合ミセル、生分解性あるいは非分解性高分子で構成されるマイクロカプセルやマイクロスフェアなどが提案されてはいるが、従来技術では、薬物の細胞膜透過性上昇は得られていない。むしろ、従来の薬物送達システムを用いてイン・ビトロで薬物の細胞内への移行性を評価すると、細胞内移行性はかえって抑制されてしまう場合が多い。理由は、薬物自身が薬物送達システムの中に封入されており、これからの薬物放出が律速となっているからである。にもかかわらず、これら薬物送達システムが注目され、多くの薬物に適用されているのは、薬物を封入することにより、薬物の生体内での分解を抑制したり、薬物の体内動態を制御したりすることにより、結果的にイン・ビボでは標的とする組織や細胞近傍での薬物濃度を上昇させることが可能となるからである。薬物送達システムの代表例であるリポソームの場合でも、薬物を封入することにより、薬物の分解を抑制したり体内動態を制御したりすることは比較的容易であるが、最終的には、標的とする組織あるいは細胞の近傍に高濃度に分布したリポソームが薬物を放出し、あとは薬物自身の細胞膜透過性に依存してしまうのである。つまり、細胞近傍への分布量を増大させているのであり、薬物の細胞膜透過性には何ら影響を与えてはいないわけである。
【0005】
イン・ビトロでも、薬物送達システムを用いることにより、薬物の細胞内移行性が上昇する例もある。細胞としてマクロファージや単球などの貪食細胞を用いた場合である。これら貪食細胞はエンドサイトーシスによりリポソームなどの微粒子を取り込みやすく、そのために、薬物単独の場合よりも薬物送達システムに封入した場合の方が、薬物の細胞内移行性が高まる例がある。この場合には、薬物の細胞膜透過性が上昇したわけではないが、薬物送達システムとともに細胞内小胞であるエンドソームやライソゾームに一時的に取り込まれた薬物が、これら環境の中で運良く安定であった場合には、さらに細胞質内に入り込むことも可能であり、結果的に細胞内移行性が高まることにもなる。
【0006】
また近年は、カチオン性脂質単独やそれを含むリポソームが、遺伝子と複合体を形成することにより、あるいは遺伝子を内封することにより、遺伝子を非貪食系の細胞内に導入することができ、さらにその遺伝子が細胞内で遺伝子発現することができるという研究が盛んに行われている。遺伝子を細胞内に導入するメカニズムはほとんど不明ではあるが、実際にこれらは試薬としても広く販売され(例えば、リポフェクトアミン、リポフェクトエース、リポフェクチン、トランスフェクタム、ジーントランスファー等)、生物系研究者達はウイルス法あるいはマイクロインジェクション法に代わる便利な遺伝子の細胞内導入用手段として日々用いている。しかしながら、これら市販の遺伝子導入用試薬には多くの欠点がある。まずは、a)製剤としての保存安定性が悪いという点が挙げられる。市販品の多くは、脂質が既に水に分散した形で販売されているが、水系溶媒のpHが非常に低く設定されているため(例えば、リポフェクトアミンとリポフェクトエースはpH3.5、リポフェクチンはpH4.3である)、保存中に脂質が分解しやすい。リポソーム等を用いた遺伝子の細胞内導入・発現において再現性の無いことがよく指摘されるが、その一因としてこの製剤としての不安定さが挙げられる。さらにb)細胞培養のため培地中に添加する血清(Fetal Bovine Serum)中で非常に不安定であるという欠点も挙げられる。実際に、市販品では、遺伝子導入する場合には、細胞を培養している血清入り培地をいったん無血清培地に置き換え、導入後また血清入り培地に戻すという手順が用いられている。また最近は、これら市販の遺伝子導入用試薬は血液中あるいは体内においても非常に不安定であることが明らかになりつつある。また更なる欠点としては、c)使い勝手が悪いという点が挙げられる。市販品の多く(例えば、リポフェクトアミン、リポフェクトエース、リポフェクチン)は既に脂質が水に分散した形で提供されており、ここに外から遺伝子水溶液を添加する手順となっているが、これでは、リポソームの外側に遺伝子が結合した複合体は製造することができても、遺伝子を内封したリポソームを製造することは不可能である。またd)細胞毒性が非常に強いという点も欠点として挙げられる。これは衆知の事象であるが、そもそも市販の遺伝子導入用試薬は、生物系研究者が遺伝子の導入・発現された細胞を取得して、それを次の実験に用いることが目的の場合が多く、遺伝子導入の段階で余分の細胞が多少死に至ったとしても問題にならないことが多い。以上、遺伝子のような本来細胞膜透過をしにくい薬物をカチオン性脂質単独あるいはリポソームを用いて細胞内に移行させる試薬はいくつか販売されてはいるが、多くの問題をかかえており、例えばこれを遺伝子治療のようなヒトへの応用を行うことは不可能であるといっても過言ではない(遺伝子治療にも、エクス・ビボ法とイン・ビボ法があり、ヒトの身体から細胞を外に取り出して試験管レベルで治療し、細胞をまた身体に戻す前者の場合でも、細胞毒性の問題が非常なネックとなっている)。
【0007】
上記したように、貪食細胞の場合や市販の遺伝子導入用試薬の場合のような特殊な例を除けば、細胞膜を透過しにくい、細胞内に導入されにくい、あるいは細胞内で活性を発現しにくい遺伝子を効率的に細胞内に送達させ、薬理効果を発現させる方法は従来技術では得られていないといっても過言ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、細胞膜を透過しにくい、細胞内に導入されにくい、あるいは細胞内で活性を発現しにくい遺伝子の細胞膜透過性、細胞内導入性及び細胞内での発現を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、細胞膜を透過しにくい遺伝子の細胞内導入性、ひいては細胞内での発現を改善する解決策について鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩を遺伝子とともに投与又は細胞に供給することにより、イン・ビトロだけでなくイン・ビボにおいても、該遺伝子が効率良く発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩のうち、O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンハライド、リン脂質及びコレステロールを含有する遺伝子、細胞内に導入されにくい大きさの分子量の生理活性ペプチド類又は蛋白質類の細胞への導入用組成物を提供するものである。
また、本発明は、さらに遺伝子、細胞内に導入されにくい大きさの分子量の生理活性ペプチド類又は蛋白質類を含有する組成物を提供するものである。
【0011】
【化1】

【0012】
(ここでR1、R2、R3、R4 及びR5 は同一又は異なって炭素数9〜17の脂肪族基を示す)
1はハロゲン原子を示し;
nは1〜10の整数を示す〕
【発明の効果】
【0013】
本発明組成物を用いれば、従来細胞内への導入効率が低いため、細胞内での発現率の低かった遺伝子を効率的に細胞内へ導入させ、かつ発現させることができるため、遺伝子導入用試薬や医薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の組成物に用いられる第4級アンモニウム塩を示す一般式(1)中、R1、R2、R3、R4及びR5で示される炭素数9〜17の脂肪族基としては、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の脂肪族基が挙げられるが、炭素数9〜17の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素数11〜15の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がより好ましい。また、炭素数9〜17の直鎖アルキル基がより好ましく、炭素数11〜15の直鎖アルキル基が特に好ましく、ウンデシル基、トリデシル基又はペンタデシル基がさらに好ましい。また、R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 は同一の基でも異なる基でもよいが、製造上の観点から同一の基が好ましい。
【0015】
一般式(1)中、X1で示されるハロゲン原子としては、特に制限されないが塩素原子又は臭素原子が好ましい。
一般式(1)中、nは1〜10の整数を示すが、1又は10であることが特に好ましい。nが1である場合、Aは
【0016】
【化2】

【0017】
本発明の遺伝子導入用組成物における第4級アンモニウム塩(1)の配合量は、用いる遺伝子、用途、組成物の形態等により異なるが、基本的には遺伝子を細胞内に導入するのに充分な量であり、例えば遺伝子に対して重量比で1:1〜1:1000が好ましく、特に1:1〜1:100が好ましい。
【0018】
ここで、本発明組成物に適用される遺伝子としては、オリゴヌクレオチド、DNA及びRNAのいずれでもよく、特に形質転換等のイン・ビトロにおける導入用遺伝子、イン・ビボで発現することにより作用する遺伝子、例えば遺伝子治療用遺伝子、実験動物や家畜等の産業用動物の品種改良に用いられる遺伝子が好ましい。ここで、遺伝子治療用遺伝子を配合した場合には、本発明組成物は医薬組成物となる。遺伝子治療用遺伝子としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、酵素、サイトカイン等の生理活性物質をコードする遺伝子等が挙げられる。ここで、ある種の酵素等をコードする遺伝子を用いた場合には、さらに該酵素の作用により薬理作用を発揮する物質を併用することもできる。例えば、本願発明の組成物を用いて、チミジンキナーゼ遺伝子をあらかじめ、生体(腫瘍)内で発現させ、次いでガンアシクロビルを投与することで、腫瘍の治療を行うことができる。
【0019】
本発明組成物には、遺伝子の導入効率を向上させる目的でさらにリン脂質及び/又はコレステロールを配合することができる。ここで、リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、プラスマロゲン、ホスファチジン酸等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合せて用いることができる。このうち、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルコリンを単独で又は2種以上組み合せて用いるのがより好ましく、ホスファチジルエタノールアミンを用いるのが特に好ましい。なお、これらリン脂質の脂肪酸残基としては、特に限定されるものではないが、炭素数12〜18の飽和又は不飽和脂肪酸残基が挙げられ、パルミトイル基、オレオイル基、ステアロイル基、リノレイル基等が特に好ましい。これらリン脂質の本発明組成物への配合量は、モル分率で0〜80%が好ましく、10〜70%がより好ましく、25〜70%が特に好ましい。またコレステロールの配合量は、モル分率で0〜70%が好ましく、10〜60%がより好ましく、20〜50%が特に好ましい。
【0020】
一般式(1)の第4級アンモニウム塩は、これを単独で用いた場合に比べ、リン脂質及び/又はコレステロールと併用することにより、細胞への遺伝子導入効率が向上するが、特に一般式(1)の第4級アンモニウム塩とリン脂質とを併用した場合の遺伝子導入効率の向上は顕著である。また、一般式(1)において、Aが
【0021】
【化3】

【0022】
である第4級アンモニウム塩の場合には、リン脂質との併用による遺伝子導入効率の向上は特に顕著である。
【0023】
第4級アンモニウム塩の本発明組成物への配合量は、モル分率で5〜100%が好ましく、10〜75%がより好ましく、15〜50%が特に好ましい。
【0024】
本発明組成物が第4級アンモニウム塩とリン脂質又はコレステロールとを含んでいる場合、第4級アンモニウム塩:リン脂質又はコレステロールは、モル比で、1:9〜9:1が好ましく、2:8〜8:2がより好ましく、3:7〜7:3が特に好ましい。この場合のリン脂質は、1種類でも、2種類以上の混合物でもよい。
【0025】
本発明組成物が第4級アンモニウム塩とリン脂質とコレステロールとを含んでいる場合、第4級アンモニウム塩とリン脂質との混合物:コレステロールは、モル比で、3:7〜9:1が好ましく、4:6〜9:1がより好ましく、5:5〜8:2が特に好ましい。この場合のリン脂質は、1種類でも、2種類以上の混合物でもよい。
【0026】
さらに、本発明組成物には、ビタミンE等の脂溶性ビタミン類等を配合することができる。
【0027】
本発明組成物の形態としては、第4級アンモニウム塩(1)だけが存在していてもよいし、第4級アンモニウム塩(1)とリン脂質及び/又はコレステロールとが単に混合物として存在していてもよいし、第4級アンモニウム塩(1)単独、又はこれとリン脂質及び/又はコレステロールとの組み合わせで脂質膜構造体を形成した形態でもよい。該脂質膜構造体の存在形態及びその製造方法は特に限定されないが、例えば、存在形態としては、乾燥した脂質混合物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態等が挙げられる。
【0028】
乾燥した脂質混合物の製造は、例えば、使用する脂質成分をいったんクロロホルム等の有機溶媒で溶解させ、次にこれをエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行えばよい。
【0029】
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態としては、多重層リポソーム、一枚膜リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ヒモ状ミセル、又は不定形の層状構造物などが挙げられるが、特に限定はされない。水系溶媒に分散した脂質膜構造体の粒子径も特に限定されないが、通常リポソームやエマルションの場合には50nmから数μm、球状ミセルの場合には5nmから50nmである。粒子径という概念があてはまらないヒモ状ミセルや不定形の層状構造物の場合には、その1層あたりの厚みが5nmから10nmで、これが層を形成していると考えればよい。
この時の水系溶媒の組成も特に限定はされないが、水のほか、グルコース、乳糖、ショ糖などの糖水溶液;グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール水溶液;生理食塩液;リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液;細胞培養用の培地などが挙げられる。この水系溶媒に分散したまま脂質膜構造体を安定に長期間保存させるためには、凝集などの物理的安定性からは水系溶媒中の電解質をなるべくなくすこと、脂質の化学的安定性からは、水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0〜8.0)に設定したり、窒素バブリングにより溶存酸素を無くしたりすることが重要である。さらに凍結乾燥保存や噴霧乾燥保存をする場合には糖水溶液を、凍結保存をする場合には糖水溶液や多価アルコール水溶液をそれぞれ用いると効果的な保存が可能となる。
【0030】
これらの水系溶媒の濃度は特に制限されないが、例えば糖水溶液においては、好ましくは2〜20%(W/V)、さらに好ましくは5〜10%(W/V)であり;多価アルコール水溶液においては、好ましくは1〜5%(W/V)、さらに好ましくは2〜2.5%(W/V)であり;緩衝液においては、好ましくは5〜50mM、さらに好ましくは10〜20mMである。
【0031】
本発明における脂質膜構造体の水系溶媒における濃度も特に限定はされないが、脂質膜構造体として用いる第4級アンモニウム塩(1)、リン脂質、コレステロールを含む全脂質の濃度は0.001mMから100mM、さらに好ましくは 0.01mMから20mMが適している。
【0032】
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の製造は、上記の乾燥した脂質混合物に水系溶媒を添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行えばよい。また、このような乾燥した脂質混合物を用いた方法を経なくても、リポソームを製造する方法としてよく知られる方法、例えば逆相蒸発法などを別途用いてもよく、特に製造方法も限定はされない。粒子径を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行ってもよい。
また、上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体をさらに乾燥させる方法としては、通常の凍結乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。この時の水系溶媒としては、上記したように糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いるとよい。ここで、水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥させるメリットとしては、脂質膜構造体の長期保存が可能となることの他、この乾燥物に遺伝子水溶液を添加すると効率良く脂質混合物が水和されるために遺伝子自身も効率よくリポソーム等の脂質膜構造体に保持されることが挙げられる。
【0033】
上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体をさらに凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられるが、この時の水系溶媒としては、上記したように糖水溶液や多価アルコール水溶液を用いるとよい。ここで、水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに凍結させるメリットとしては、脂質膜構造体の長期保存が可能となることを挙げることができる。
【0034】
次に、本発明における遺伝子を含有する組成物(遺伝子含有組成物)について説明する。
【0035】
遺伝子含有組成物の形態としては、第4級アンモニウム塩(1)と遺伝子の混合物、第4級アンモニウム塩(1)とリン脂質及び/又はコレステロールと遺伝子の混合物でもよいし、第4級アンモニウム塩(1)単独又はこれとリン脂質及び/又はコレステロールとの組み合わせで形成された脂質膜構造体と遺伝子とが混合した形態でもよいし、さらに該脂質膜構造体に遺伝子が保持された形態でもよい。ここで保持とは、遺伝子が脂質膜の中、表面又は内部、脂質層中又は脂質層の表面に存在することを意味する。
【0036】
また、遺伝子含有組成物の存在形態及びその製造方法は、脂質膜構造体と同様特に限定されないが、例えば、存在形態としては、混合乾燥物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態が挙げられる。
【0037】
脂質類と遺伝子との混合乾燥物の製造は、例えば、使用する脂質類成分と遺伝子とをいったんクロロホルム等の有機溶媒で溶解させ、次にこれをエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行えばよい。
【0038】
脂質膜構造体と遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した形態としては、多重層リポソーム、一枚膜リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ヒモ状ミセル、又は不定形の層状構造物などが挙げられるが、特に限定はされない。混合物としての粒子径も、水系溶媒の組成も、特に限定されることはない。混合物としての水系溶媒における濃度も特に限定はされない。
なお、脂質膜構造体と遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した形態の製造方法にはいくつかの種類があり、それぞれに特徴があって、できあがりの脂質膜構造体と遺伝子との混合物の存在様式が異なるので注意を要する。
【0039】
まず第一の製造方法が、上記の脂質類と遺伝子との混合乾燥物に水系溶媒を添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行う方法である。粒子径を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。この方法の場合には、まず脂質類と遺伝子との混合乾燥物を作るために、遺伝子は有機溶媒に溶解せねばならないが、遺伝子と脂質膜構造体との相互作用を最大限に利用できるメリットがある。すなわち、脂質膜構造体が層状構造を有する場合にも、遺伝子は多重層の内部にまで入り込むことが可能であり、一般的にこの製造方法を用いると遺伝子の脂質膜構造体への保持率は高くすることができる。
【0040】
第二の製造方法は、脂質類成分を有機溶媒でいったん溶解後、有機溶媒を留去した乾燥物に、さらに遺伝子を含む水系溶媒を添加して乳化する方法である。粒子径を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。有機溶媒には溶解しにくいが、水系溶媒には溶解する遺伝子に適用できる。メリットとしては、リポソームの場合に内水相部分にも遺伝子を保持できる点が挙げられる。
【0041】
第三の製造方法は、水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション、ミセル、層状構造物などの脂質膜構造体に、さらに遺伝子を含む水系溶媒を添加する方法である。したがって、この場合には水溶性の遺伝子に限定される。既にできあがっている脂質膜構造体に外から遺伝子を添加する方法であるため、遺伝子が高分子の場合には、遺伝子は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとる。脂質膜構造体としてリポソームを用いた場合、この第三の製造方法を用いると、遺伝子がリポソーム粒子同士の間に挟まったサンドイッチ構造(一般的には複合体あるいはコンプレックスと呼ばれている)をとることが知られている。この第三の方法のメリットとしては、一度水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション、ミセル、層状構造物などの脂質膜構造体を製造保管しておくことにより、一種の遺伝子ばかりでなく、共通して他の遺伝子への適用も可能となることが挙げられる。また、脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の薬物の分解を考慮する必要がなく、粒子径制御もたやすいので、第一の製造方法や第二の製造方法に比べて比較的製造が容易であるといえる。
【0042】
第四の製造方法は、水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥させた乾燥物に、さらに遺伝子を含む水系溶媒を添加する方法である。したがって、この場合にも第三の製造方法と同様に水溶性の遺伝子に限定されるが、上記第三の製造方法と大きく違う点は、脂質膜構造体と遺伝子との存在様式にある。すなわち、この第四の製造方法では、水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥させた乾燥物を製造するために、この段階で脂質膜構造体は脂質膜の断片として固体状態で存在する。この脂質膜の断片として固体状態に存在させるために、前に記したように水系溶媒として糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いる必要がある。ここで、遺伝子を含む水系溶媒を添加すると、固体状態で存在していた脂質膜の断片は水の侵入とともに水和を速やかに始め、脂質膜構造体を再構成することができる。この時に、遺伝子が脂質膜構造体内部に保持された組成物が製造できることになる。第三の製造方法では、遺伝子が高分子の場合には、遺伝子は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとるのとこの点で大きく異なっている。この第四の製造方法のメリットとしては、一度製造してしまえば、一つの遺伝子ばかりでなく共通して他の遺伝子への適用も可能となること、並びに脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の薬物の分解を考慮する必要がなく、粒子径制御もたやすいので、第一の製造方法や第二の製造方法に比べて比較的製造が容易であることが挙げられる。また、この他に、凍結乾燥あるいは噴霧乾燥なので製剤としての保存安定性を保証しやすいこと、乾燥製剤を遺伝子水溶液で復水しても粒子径を元にもどせること、高分子遺伝子の場合でも脂質膜構造体内部に遺伝子を保持させやすいことなどが挙げられる。
【0043】
脂質膜構造体と遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した形態のその他の製造方法としては、リポソームを製造する方法としてよく知られる方法、例えば逆相蒸発法などを別途用いてもよい。粒子径を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
【0044】
また、上記の脂質膜構造体と遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに乾燥させる方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。この時の水系溶媒としては、脂質膜構造体単独の場合と同様に糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いるとよい。
上記の脂質膜構造体と遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられるが、この時の水系溶媒としては、脂質膜構造体単独の場合と同様に、糖水溶液や多価アルコール水溶液を用いるとよい。
【0045】
また、本発明組成物は、遺伝子だけでなく、脂溶性の非常に低い薬物、分子量の大きい生理活性ペプチド類、蛋白質類などの細胞内に導入されにくい薬物にも適用できる。
【0046】
本発明組成物を用いれば、イン・ビトロ及びイン・ビボのいずれにおいても細胞内に遺伝子を効率良く導入することができる。すなわち、イン・ビトロの場合には、標的細胞を含む懸濁液に本発明組成物を添加したり、本発明組成物を含有する培地で標的細胞を培養する等の手段により、当該標的細胞に遺伝子を導入できる。また、イン・ビボの場合には、本発明組成物を宿主に投与すればよい。投与手段としては、経口投与でも、非経口投与でもよく、経口投与の剤形としては、通常知られているものでよく、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤等を挙げることができ、非経口投与の剤形としては、通常知られているものでよく、例えば、注射剤、点眼剤、軟膏剤、坐剤等を挙げることができる。好ましくは、非経口投与である。中でも、注射剤が好ましく、投与方法としては、静脈注射、標的とする細胞や臓器に対しての局所注射が好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0048】
実施例1 遺伝子を含まない空のリポソームの製造
1−1.空のリポソーム分散液の製造
所定量の第4級アンモニウム塩、リン脂質、コレステロールをいったんクロロホルムに溶解させ、次にこれをエバポレーターにより減圧乾固させて脂質混合物とした。この脂質混合物に、等張のショ糖又は乳糖水溶液を所定量加え、加温しながらホモミキサーによる乳化を行ってリポソーム粗分散液を得た。次に、リポソームの粒子径をそろえるために、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行い、これを空のリポソーム分散液とした。
1−2.凍結乾燥空リポソームの製造
1−1.で製造した空のリポソーム分散液をバイアルに所定量分注し、凍結乾燥を行って凍結乾燥空リポソームとした。
実施例2 遺伝子を含有するリポソーム分散液の製造
2−1.遺伝子を含有するリポソーム分散液(タイプ1)の製造
1−1.で製造した空のリポソーム分散液(全脂質濃度として2μmol/mL)を、第4級アンモニウム塩として100nmol/mLとなるように、無血清培地(D−MEM)で希釈した。次に、このリポソーム分散液100μL(第4級アンモニウム塩として10nmol含有)とDNA(PGV−C〔ルシフェラーゼ遺伝子〕又はpCAG−lacZ〔βガラクトシダーゼ遺伝子〕)を1μg含む無血清培地(D−MEM)100μLとを混和し、15分間放置した。さらに0.8mLのFBS12.5%添加D−MEM(最終FBS濃度は10%)を加えて1Lとし試料とした。
【0049】
2−2.遺伝子を含有するリポソーム分散液(タイプ2)の製造
1−2.で製造した凍結乾燥空リポソーム(全脂質濃度として2μmol/mL相当)に注射用蒸留水を加えて復水させ元に戻した(全脂質濃度として2μmol/mL)後、さらに、第4級アンモニウム塩として100nmol/mLとなるように、無血清培地(D−MEM)で希釈した。次に、このリポソーム分散液100μL(第4級アンモニウム塩として10nmol含有)とDNA(PGV−C又はpCAG−lacZ)を1μg含む無血清培地(D−MEM)100μLとを混和し、15分間放置した。さらに0.8mLのFBS12.5%添加D−MEM(最終FBS濃度は10%)を加えて1mLとし試料とした。
【0050】
2−3.遺伝子を含有するリポソーム分散液(タイプ3)の製造
1−2.で製造した凍結乾燥空リポソーム(全脂質濃度として2μmol/mL相当)にDNA(PGV−C又はpCAG−lacZ)含有注射用蒸留水(第4級アンモニウム塩10nmol当りDNA量として1μg)を加えて復水させ、15分間放置した。さらに最終DNA濃度が1μg/mLとなるように、このリポソーム分散液をFBS10%添加D−MEMで希釈して試料とした。
【0051】
2−4.遺伝子を含有するリポソーム分散液(タイプ4)の製造
1−1.で製造した空のリポソーム分散液(全脂質濃度として2μmol/mL)を、第4級アンモニウム塩として400nmol/mLとなるように、無血清培地(D−MEM)で希釈した。次に、このリポソーム分散液500μL(第4級アンモニウム塩として200nmol含有)とDNA(pCAG−lacZ)を20μg含む無血清培地(D−MEM)500μLとを混和し、5分間放置し、これを試料とした。
【0052】
2−5.遺伝子を含有するリポソーム分散液(タイプ5)の製造
1−2.で製造した凍結乾燥空リポソーム(全脂質濃度として2μmol/mL相当)に注射用蒸留水を加えて復水させ元に戻した(全脂質濃度として2μmol/mL)後、さらに、第4級アンモニウム塩として400nmol/mLとなるように、無血清培地(D−MEM)で希釈した。次に、このリポソーム分散液500μL(第4級アンモニウム塩として200nmol含有)とDNA(pCAG−lacZ)を20μg含む無血清培地(D−MEM)500μLとを混和し、5分間放置し、これを試料とした。
【0053】
2−6.遺伝子を含有するリポソーム分散液(タイプ6)の製造
1−2.で製造した凍結乾燥空リポソーム(全脂質濃度として2μmol/mL相当)にDNA(pCAG−lacZ)含有注射用蒸留水(第4級アンモニウム塩10nmol当りDNA量として1μg)を加えて復水させ、15分間放置した。さらに最終DNA濃度が20μg/mLとなるように、このリポソーム分散液を無血清培地(D−MEM)で希釈して試料とした。
【0054】
2−7.遺伝子を含有するリポソーム分散液(タイプ7)の製造
2−5.で製造した遺伝子を含有するリポソーム分散液(タイプ5)のDNAをpCAG−lacZからpCAG−TK[チミジンキナーゼ遺伝子]に変更した以外は全て同じように製造した。
【0055】
試験例1 ルシフェラーゼ活性の測定
各種腫瘍細胞を6穴プレートに1×105〜8×105個播種し、FBS10%添加培地で24時間培養後、無血清培地で1回洗浄した。次に実施例2で製造した遺伝子(PGV−C)を含有するリポソーム分散液(2−1.2−2.並びに2−3.:最終DNA濃度として1μg/10nmol第4級アンモニウム塩/mL)を各ウェルに1mL加え、37℃で5時間反応させた。5時間後、ウェルを無血清培地で1回洗浄し、FBS10%添加培地を加えて2日間培養した後、ルシフェラーゼ・アッセイを行った。
【0056】
ルシフェラーゼ・アッセイは以下の通り実施した。すなわち、リン酸緩衝化生理食液(−)〔PBS(−)〕で2回洗浄後、細胞溶解液(LCβ)150μLを添加して室温で15分間放置し、セルスクレーパーにてプレート表面を削り落とした。次に、このライセートを12,000rpmで2分間遠心分離し、その上清20μLと発光試薬100μLを混合した時の発光量をルミフォトメーター(TD−4000、Laboscience)を用いて測定した。また蛋白量はBCA Protein Assay Reagent を用いて測定し、蛋白1mg当りの発光量としてルシフェラーゼ活性を求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
a)Biochem. Biophys. Res. Comm., vol. 179, No.1, 280-285(1991)参照
b)SA:ステアリルアミン(代表的カチオン脂質)
c)DOPE:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン
d)DLPC:ジラウロイルホスファチジルコリン
e)DC−6−12:O,O′−N−ジドデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
DC−6−14:O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
DC−6−16:O,O′−N−ジヘキサデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
DC−6−18:1:O,O′−N−ジオクタデセノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
f)Cho1:コレステロール
1)N−〔α−トリメチルアンモニオアセチル〕−ジドデシル−D−グルタメ ート/DOPE/DLPC=2/4/4(モル比)
2)ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド/DOPE=2.9/7.1(重量比)
3)2,3−ジオレイルオキシ−N−〔2−(スペルミンカルボキサミド)エチル〕−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート/DOPE=3/1(重量比)
4)N−〔1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル〕−n,n,n−トリメチルアンモニウムクロリド/DOPE=5/5(重量比)
5)1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド/コレステロール=1/1(モル比)
6)3−β−〔N−(N′,N′−ジメチルアミノエタン)カルバモイル〕コレステロール/DOPE=6/4(モル比)
7)市販品は、lipid film(リピドフィルム)であり、ここに成分中のカチオン脂質10nmol当たりDNAとして1μgとなるように、遺伝子を含む水溶液(水性溶媒)を添加したのち、ボルテックスミキサーによる攪拌を行って、遺伝子含有リポソーム水分散液を得る。
8)市販品及び文献の方法は、空のリポソーム(あるいは脂質膜構造体)の水分散液であり、ここに成分中のカチオン脂質10nmol当たりDNAとして1μgとなるように、遺伝子を含む水溶液(水性溶媒)を外部から添加して、遺伝子とリポソームとのコンプレックス分散液を得る。
【0059】
【表2】

【0060】
a)〜f)及び1)〜8)は表1と同じ。
g)TC−1−12:O,O′,O″−トリドデカノイル−N−(ω−トリメチルアンモニオデカノイル)−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンブロミド
h)LysoPC:リゾホスファチジルコリン
i)Lyso−LPC:リゾラウロイルホスファチジルコリン
j)Lyso−MPC:リゾミリストイルホスファチジルコリン
【0061】
表1及び表2から明らかなように、本発明の遺伝子導入用組成物は、市販の遺伝子導入用試薬と比べて、高い遺伝子導入性を示した。
【0062】
試験例2 X−gal染色
各種腫瘍細胞を6穴プレートに1×105〜8×105個播種し、FBS10%添加培地で24時間培養後、無血清培地で1回洗浄した。次に、実施例2で製造した遺伝子(pCAG−lacZ)を含有するリポソーム分散液(2−1.2−2.並びに2−3.:DNA濃度として1μg/10nmol第4級アンモニウム塩/mL)を各ウェルに1mL加え、37℃で5時間反応させた。5時間後、ウェルを無血清培地で1回洗浄し、FBS10%添加培地を加えて2日間培養し、X−gal染色を行った。
【0063】
X−gal染色は以下の通り実施した。すなわち、PBS(−)で1回洗浄後、1%ホルムアルデヒド、0.2%グルタールアルデヒド並びに0.02% NP40を含むPBS(−)で3〜4分間固定した後、さらにPBS(−)で10分間ずつ3回洗浄した。最終的に、5mM K4〔Fe(CN)6〕、5mM K3〔Fe(CN)6〕、0.01%デオキシコール酸ナトリウム、0.02%NP40、2mM MgCL2、0.1%X−gal混液にて37℃で5〜8時間染色させた後、顕微鏡下で細胞を最低1000個以上数えて、LacZ陽性細胞の割合を求めた。結果を表3〜5に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
a)DC−6−12:O,O′−N−ジドデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
DC−6−14:O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
DC−6−16:O,O′−N−ジヘキサデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
TC−1−12:O,O′,O″−トリドデカノイル−N−(ω−トリメチルアンモニオデカノイル)−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンブロミド
b)DOPE:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン
c)Cho1:コレステロール
d)DLPC:ジラウロイルホスファチジルコリン
1)N−〔α−トリメチルアンモニオアセチル〕−ジドデシル−D−グルタメート/DOPE/DLPC=2/4/4(モル比)
2)2,3−ジオレイルオキシ−N−〔2−(スペルミンカルボキサミド)エチル〕−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート/DOPE=3/1(重量比)
3)1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド/コレステロール=1/1(モル比)
4)市販品は、lipid film(リピドフィルム)であり、ここに成分中のカチオン脂質10nmol当たりDNAとして1μgとなるように、遺伝子を含む水溶液(水性溶媒)を添加したのち、ボルテックスミキサーによる攪拌を行って、遺伝子含有リポソーム水分散液を得る。
5)市販品及び文献の方法は、空のリポソーム(あるいは脂質膜構造体)の水分散液であり、ここに成分中のカチオン脂質10nmol当たりDNAとして、1μgとなるように、遺伝子を含む水溶液(水性溶媒)を外部から添加して、遺伝子とリポソームとのコンプレックス分散液を得る。
【0068】
表3〜5から明らかなように、本発明の遺伝子導入用組成物は、市販の遺伝子導入用試薬と比べて、高い遺伝子導入性を示した。
【0069】
試験例3 X−gal染色(2)
各種腫瘍細胞をヌードマウス腹腔内に5×106個(mEIIL、ES−2)〜6×107個(HRA)接種し、1日(HRA)、10日前後(ES−2)あるいは3週間前後(mEIIL)経過した後、上に示した遺伝子(pCAG−lacZ)を含有するリポソーム分散液(2−4.2−5.並びに2−6.:最終DNA濃度として20μg/200nmol第4級アンモニウム塩/mL)を1mLマウス腹腔内に投与した。mEIIL、HRA腫瘍細胞の場合には1日後、ES−2腫瘍細胞の場合には2日後にそれぞれ腫瘍細胞を回収し、3×105〜5×105個を6穴プレートに播種し、FBS10%添加培地で24時間培養して細胞が付着したところでX−gal染色を行った。X−gal染色は試験例2と同様に行った。結果を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
a)DC−6−12:O,O′−N−ジドデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
DC−6−14:O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
b)DOPE:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン
c)Cho1:コレステロール
1)N−〔α−トリメチルアンモニオアセチル〕−ジドデシル−D−グルタメート/DOPE/DLPC=2/4/4(モル比)
2)ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド/DOPE=2.9/7.1(重量比)
3)2,3−ジオレイルオキシ−N−〔2−(スペルミンカルボキサミド)エチル〕−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート/DOPE=3/1(重量比)
4)N−〔1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル〕−n,n,n−トリメチルアンモニウムクロリド/DOPE=5/5(重量比)
5)1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド/コレステロール=1/1(モル比)
6)市販品は、lipid film(リピドフィルム)であり、ここに成分中のカチオン脂質10nmol当たりDNAとして1μgとなるように、遺伝子を含む水溶液(水性溶媒)を添加したのち、ボルテックスミキサーによる攪拌を行って、遺伝子含有リポソーム水分散液を得る。
7)市販品及び文献の方法は、空のリポソーム(あるいは脂質膜構造体)の水分散液であり、ここに成分中のカチオン脂質10nmol当たりDNAとして、1μgとなるように、遺伝子を含む水溶液(水性溶媒)を外部から添加して、遺伝子とリポソームとのコンプレックス分散液を得る。
【0072】
表6から明らかなように、本発明の遺伝子導入用組成物は、市販の遺伝子導入用試薬と比べて、高い遺伝子導入性を示した。
【0073】
試験例4 担癌マウスでの延命効果
各種腫瘍細胞をヌードマウス腹腔内に3×105 個(HRA)、1×106 個(mES−2)あるいは5×106 個接種し(Day0)、HRA、ES−2の場合には7日目(Day7)から、mEIILの場合には10日目(Day10)から、1日おきに7回、上に示した遺伝子(pCAG−TK)を含有するリポソーム分散液(2−7.:最終DNA濃度として20μg/200nmol第4級アンモニウム塩/mL)を1mLマウス腹腔内に投与した。またHRA、ES−2の場合には9日目(Day9)から毎日13日間(Day21まで)、mEIILの場合には12日目(Day12)から毎日13日間(Day24まで)、それぞれガンアシクロビルを1日2回、35mg/kgマウス腹腔内に投与した。対照としてはpCAG−TK遺伝子の代わりにpCAG−lacZ遺伝子を投与した群をおいたが、有意差の検定はCox−Mantel法により行った。結果を表7に示す。
【0074】
【表7】

【0075】
a)DC−6−12:O,O′−N−ジドデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
DC−6−14:O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド
b)DOPE:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン
c)Cho1:コレステロール
表7から明らかなように、本発明の遺伝子導入用組成物は良好な延命効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンハライド、リン脂質及びコレステロールを含有する遺伝子、細胞内に導入されにくい大きさの分子量の生理活性ペプチド類又は蛋白質類の細胞への導入用組成物。
【請求項2】
リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、プラスマロゲン及びホスファチジン酸から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルコリンから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の組成物。
【請求項4】
O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンハライドとリン脂質との混合物:コレステロールのモル比が、3:7〜9:1である請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
リポソームを形成しているものである請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
さらに遺伝子、細胞内に導入されにくい大きさの分子量の生理活性ペプチド類又は蛋白質類を含有するものである請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンハライドが、O,O′−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリドである請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。

【公開番号】特開2006−280376(P2006−280376A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148465(P2006−148465)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【分割の表示】特願平10−542577の分割
【原出願日】平成10年2月19日(1998.2.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成9年2月20日 社団法人日本産科婦人科学会発行の「日本産科婦人科学会雑誌 第49巻 臨時増刊」に発表
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】