説明

細胞培養担体、細胞培養担体の製造方法、及び細胞培養方法

【課題】異種細胞間の相互作用を微細な環境下で再現することができるとともに、相互作用後にはそれぞれの細胞を個別に回収して十分な解析を行うことができる培養技術を提供する。
【解決手段】細胞培養担体10は、ハイドロゲルからなる薄膜12を複数層積層し乾燥したハイドロゲル乾燥体からなる。細胞培養担体10の製造方法は、ハイドロゲルからなる薄膜12を複数層積層して積層体とする工程と、積層体を乾燥する工程とを含む。細胞培養方法は、細胞培養担体10を再水和させる工程と、再水和させた細胞培養担体10の両面に第1及び第2の細胞をそれぞれ培養する工程と、その工程の後に、細胞培養担体10を第1及び第2の細胞をそれぞれ含む薄膜に分離する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養担体及びその製造方法、さらにそのような細胞培養担体を用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の増殖、分化、機能発現などの生命活動は、細胞周囲の微小環境にある液性因子、細胞−細胞間相互作用、細胞−細胞外マトリックス間相互作用により影響を受けている。これらの細胞の活動をin vitroで再現する方法として様々な培養技術が構築されている。
【0003】
例えば、異種細胞間の液性因子を介した相互作用を解析する技術として、トランスウェルと称するコーニング社製の容器を用いる培養方法が知られている。この培養方法では異種細胞の共培養後にそれぞれの細胞を回収することができる。しかし、生体内と比較して両細胞間の距離が遠い、液性因子が細胞外マトリックスを介している場合のミミックが困難であるという問題がある。
【0004】
また、異種細胞間の直接的な相互作用、及び細胞−細胞外マトリックス間の相互作用を解析する技術として、プラスチック製培養容器もしくはゲルの同一平面上で2種以上の細胞を培養する共培養法、2種の細胞の一方をゲル上で平面培養後に、他方の細胞をゲルに包埋する共培養法、2種以上の細胞をゲルに包埋する共培養法が知られている。これらの培養方法では、相互作用後の細胞を別々に回収することはできない。
【0005】
一方、細胞外マトリックスを含有する溶液を保持体とともにゲル化させ、乾燥させてガラス化した後、再水和させて保持体と一体化した「ビトリゲル」と称する細胞外マトリックス含有ハイドロゲル薄膜の両面に異なる細胞を共培養する技術が考案されている(例えば、特許文献1参照。)。この培養方法では、異種細胞間の細胞外マトリックスもしくはその代替品を介した相互作用、あるいは液性因子を介した相互作用をより微細な環境下で再現することができる。
【0006】
しかし、この「ビトリゲル」を用いた共培養法では、1枚の薄膜の表裏両面に異種細胞が存在するため、共培養後にトリプシン等を用いて細胞回収する際、それぞれの細胞を個別に回収することが困難であり、異種細胞間の相互作用の解析には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3081130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、異種細胞間の相互作用を微細な環境下で再現することができるとともに、相互作用後にはそれぞれの細胞を個別に回収して十分な解析を行うことができる培養方法、また、そのような培養方法に使用される細胞培養担体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る細胞培養担体は、ハイドロゲルからなる薄膜を複数層積層し乾燥したハイドロゲル乾燥体からなることを特徴としている。
【0010】
本発明の他の態様に係る細胞培養担体の製造方法は、ハイドロゲルからなる薄膜を複数層積層して積層体とする工程と、前記積層体を乾燥する工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
本発明のさらに他の態様に係る細胞培養方法は、上記細胞培養担体を再水和させる工程と、前記再水和させた細胞培養担体の両面に第1及び第2の細胞をそれぞれ培養する工程と、前記細胞培養工程の後に、前記細胞培養担体を前記第1及び第2の細胞をそれぞれ含む薄膜に分離する工程とを含むことを特徴としている。
【0012】
本明細書において、「ハイドロゲル」とは、高分子が化学結合によって網目状構造をとり、その網目内に多量の水を保有したゲル状物質をいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、異種細胞間の相互作用を微細な環境下で再現することができるとともに、相互作用後にはそれぞれの細胞を個別に回収して十分な解析を行うことができる細胞培養が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の細胞培養担体及びその製造方法を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す細胞培養担体の平面図である。
【図3】図1に示す細胞培養担体を用いた細胞培養方法の一例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであって、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態の細胞培養担体とその製造方法を示す概略断面図であり、図2は本実施形態の細胞培養担体を示す平面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の細胞培養担体10は、2枚のハイドロゲルからなる薄膜12を積層し乾燥させて一体化したものである。
【0018】
ハイドロゲルからなる薄膜12を構成する高分子材料は、天然物由来のものであっても合成されたものであってもよい。天然物由来の高分子材料としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、プロテオグリカン、マトリゲル(商品名;マウスEHS腫瘍抽出物より再構成された基底膜成分)等の細胞外マトリックス成分、ゼラチン、寒天、アガロース等が挙げられる。また、合成高分子材料としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)/ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0019】
天然物由来の高分子材料では、それぞれのゲル化に適した塩成分、その濃度、pH等を選択し、ハイドロゲルを作製することができる。例えば、コラーゲンの場合、好適な塩濃度を与える溶媒には、PBS(Phosphate Buffered saline)、HBSS(Hank′s Balanced Salt Solution)、基礎培養液、無血清培養液、血清含有培養液等が用いられる。
【0020】
本発明においては、ハイドロゲルからなる薄膜12として、ハイドロゲルを乾燥してガラス化した後、再水和させたものを使用することができる。ここで、「ガラス化(vitrification)」とは、鶏卵のタンパク質(白身)を熱変性させたもの(ハイドロゲル)を、風乾することで固くて透明な物質に変えるガラス化技術(Takushi E.,Edible eyeballs from fish.Nature345,298,1990)で定義される。この薄膜12には、形状を維持するための、例えばナイロン樹脂等からなる支持体14が設けられていてもよい。支持体14を設けることで、薄膜12、ひいては細胞培養担体10の取り扱いが容易となるとともに、細胞培養後の薄膜12の分離が容易となる。
【0021】
本実施形態では、ハイドロゲルからなる薄膜12として、細胞外マトリックス成分のコラーゲンの溶液を、ナイロン樹脂からなる環状の支持体とともにゲル化させ、乾燥させてガラス化した後、再水和させて支持体と一体化した「コラーゲンゲルからなる薄膜」(以下、「コラーゲンビトリゲル」ともいう)を使用している。
【0022】
以下、本発明で用いられるコラーゲンビトリゲルについて説明する。
コラーゲンは、タイプI、タイプII、タイプIII及びタイプV等、いかなるタイプのコラーゲンもゲル化ができれば使用可能であるが、好ましくはタイプIのコラーゲンが使用される。
【0023】
コラーゲンの溶解に用いる溶媒は、コラーゲンが溶解し、コラーゲンを変質させるものでなければ、特に限定されない。具体的には、例えば、水、塩酸溶液、メチルアルコール、エチルアルコール、リン酸緩衝液、及びこれらを混合したものを用いることができる。
【0024】
コラーゲンのゲル化は、コラーゲンを適切な塩濃度とpH、好ましくはpH6〜10の溶液に調製し、適切な温度、好ましくは37℃に維持することにより行うことができる。
【0025】
コラーゲンゲルの乾燥方法としては、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等の方法を用いることができる。風乾の方法としては、例えば、10℃、40%湿度で無菌に保たれたインキュベータで2日間乾燥させる、もしくは無菌状態のクリーンベンチ内で一昼夜、室温で乾燥する等の方法がある。風乾後は、無菌状態を保ったまま、室温もしくは4℃で無菌的に保管する。この保管時間が1ヶ月以上になると、強度・透明度が有意に上昇することが確認されている。
【0026】
また、コラーゲンゲルを乾燥させる時間は、その含有水分量等によって異なるが、圧縮破壊強度、透明度、質量の変化を検討した結果、乾燥後の質量が、コラーゲンゲル質量の1/50〜1/100に減少するような乾燥時間を設定することにより、強度及び透明性に優れた薄膜(以下、「コラーゲンビトリゲル乾燥体」ともいう)を作製することができる。
【0027】
コラーゲンビトリゲルは、上記「コラーゲンビトリゲル乾燥体」を再水和することにより得られる。コラーゲンビトリゲルは、厚みを1μm〜1mmの範囲とすることが好ましい。厚みが1μmより薄いと強度が不十分となる。一方、1mmを超える厚みのコラーゲンビトリゲルは、乾燥前のコラーゲンゲルの量を増やすことで可能であるが、乾燥に長時間を要するようになる。
【0028】
また、コラーゲンビトリゲルは、単位面積あたりのコラーゲン含有量を100μg/cm〜1mg/cmの範囲とすることが好ましく、150μg/cm〜500μg/cmの範囲とすることがより好ましい。コラーゲン含有量が100μg/cm未満では、コラーゲンの濃度が薄すぎてゲル化が弱く、強度が不十分となる。
【0029】
コラーゲンビトリゲルには、ゲル構成要素であるコラーゲン以外に生理活性物質を含有させることができる。生理活性物質としては、例えば、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子、抗体、酵素、サイトカイン、ホルモン、レクチン、ゲル化しない細胞外マトリックス成分としてファイブロネクチン、ビトロネクチン、エンタクチン、オステオポエチン等が挙げられる。これらは複数種含有させることも可能である。
【0030】
生理活性物質を含有するコラーゲンビトリゲルは、ゲル化する前のゲル構成高分子溶液、つまりコラーゲン溶液に、含有させたい生理活性物質を混合し、その後、ゲル化、ガラス化等のコラーゲンビトリゲルの作製工程を経て作製することができる。生理活性物質を含んだコラーゲンビトリゲルは、細胞増殖・分化・接着等に必要な因子をコラーゲンビトリゲル側から供給することができるので、より良い培養環境を実現することができる。また、含有させた生理活性物質の細胞に対する影響を調べる試験を行う上でも有用である。
【0031】
細胞培養担体10は、上記コラーゲンビトリゲルのようなハイドロゲルからなる薄膜12を積層し乾燥させて一体化することにより作製される。
【0032】
薄膜12を積層後の乾燥方法としては、コラーゲンビトリゲルを作製する際の乾燥方法と同様の方法を用いることができる。すなわち、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等の方法を用いることができる。風乾の方法としては、例えば、10℃、40%湿度で無菌に保たれたインキュベータで2日間乾燥させる、もしくは無菌状態のクリーンベンチ内で一昼夜、室温で乾燥する等の方法がある。風乾後は、無菌状態を保ったまま、室温もしくは4℃で無菌的に保管する。コラーゲンビトリゲル乾燥体を作成したときと同様に、この保管期間を1ヶ月以上にすると、強度・透明度を上昇させることができる。
【0033】
また、乾燥時間は、乾燥後の含水量が、乾燥時の雰囲気と同等になる時間を設定することが好ましい。さらには乾燥後の含水量が30質量%以下になるような乾燥時間・乾燥雰囲気を設定することが好ましい。このように設定することで、薄膜12の界面で剥離することがない十分な強度と透明性を併せ持ち、かつ使用にあたって再水和した後は、必要に応じて、薄膜12の界面で容易に剥離することができる細胞培養担体10を作製することができる。
【0034】
なお、本実施形態の細胞培養担体10では、図2に示すように、各薄膜12に設けた環状の支持体14の内周及び外周に、ノッチ16a、16bが周方向に位置を僅かにずらせて設けられており、これらの内側ノッチ16aと外側ノッチ16bの相対的な位置で、各薄膜12の表裏が識別できるようになっている。このように薄膜12の表裏を識別可能にすることで、薄膜12を分離した際、細胞が培養されている側を容易に知ることができる。表裏の識別は、このようなノッチ16a、16bによらず、例えば、支持体14の表面及び裏面の少なくとも一方に識別マークを印刷等により付すことによっても可能である。しかし、細胞培養への影響や形成の容易さ等の観点からは、本実施形態のようなノッチの形成による識別が好ましい。ノッチの形状は、支持体としての機能を損なわない限り、特に限定されるものではない。
【0035】
本実施形態の細胞培養担体10は、動物細胞を培養する細胞培養担体として用いることができる。培養する動物細胞としては、初代培養細胞、株化細胞、受精卵、及びそれらの細胞に外来遺伝子を導入した細胞が挙げられる。これらは、未分化な幹細胞であっても、分化過程にある細胞であっても、終末分化した細胞であっても、あるいは脱分化した細胞であってもよい。これらの細胞の培養を開始する手段としては、細胞懸濁液、細切組織片、受精卵、または三次元再構築した多細胞性凝集塊の播種が挙げられる。つまり、既存の方法で培養できる接着性の細胞はいずれも本細胞培養担体10上で培養することが可能である。
【0036】
また、上述したような動物細胞を、細胞培養担体10の片面に培養することも、両面に1種類以上の細胞を培養することも可能であるが、各面に異種の細胞を培養する両面培養に、本実施形態の細胞培養担体10は特に有用である。例えば、一方の面に上皮系細胞、他方の面に間充織細胞を培養することで、上皮間充織相互作用を有した経皮吸収モデルや腸管吸収モデルなどの細胞機能アッセイが可能である、また、一方の面に血管内皮細胞、他方の面にガン細胞を培養することで、血管新生モデルやガン浸潤モデルなどの細胞機能アッセイが可能である。
【0037】
さらに、本実施形態の細胞培養担体10を用いて培養した上皮間充織相互作用のある再構築体を、動物実験の代替モデル、培養臓器の開発及び培養臓器の移植に適応することも可能である。細胞培養担体10のみで、臓器癒着防止に応用可能であるが、細胞培養担体10の片面もしくは両面に細胞を培養し、かつその透明性を生かした角膜上皮細胞を播種した後、コラーゲンビトリゲルを角膜欠損患者へ移植する方法、あるいは高齢化社会に伴い、数回に渡る開腹手術により腹膜中皮組織が欠損し、腸管臓器癒着から腸閉塞等の合併症を引き起こす問題が起きているが、これに対し本細胞培養担体10上で腹膜のみならず胸膜、心膜の中皮を培養して、潤滑成分(ヒアルロン酸等)を分泌する優れた培養担体を移植することが可能である。
【0038】
前述したように、本実施形態の細胞培養担体10は各面に異種の細胞を培養する両面培養に特に有用である。以下、細胞培養担体10を用いてその両面に異種の細胞を培養する方法の一例を記載する。
【0039】
(1)まず、シャーレ等の培養容器で乾燥させ、この容器の底面に貼りついた状態の細胞培養担体10に、PBS、HBSS、基礎培養液、無血清培養液、血清含有培養液等を加え、数分間放置することによって、細胞培養担体10を再水和させる。
【0040】
(2)細胞培養担体10が十分に再水和したところで、PBS等を除去し、付着させたい細胞(第1の細胞)を懸濁させた培養液を加え、培養する。培地は、用いる細胞の種類等により適宜選択され、特に限定されないが、例えば、ダルベッコMEM培地、BME培地、MCDB−104培地などが使用される。この培地には、必要に応じて、例えば、血清、アルブミン等の血清タンパク質、各種ビタミン類、アミノ酸、塩類等の添加剤を添加してもよい。培養温度は、培養する細胞の種類等により適宜選択され、特に限定されないが、通常、4〜40℃、好ましくは25〜37℃、より好ましくは25〜37℃である。培地を適宜交換しながら培養を継続する。
【0041】
(3)細胞培養後、培養容器から培地を除去し、ピンセット等を用いて細胞培養担体10を培養した細胞とともに取り出す。培地除去後、細胞培養担体10を取り出す前に、PBSや培地等で細胞の表面を洗浄することが好ましく、また、細胞培養担体10を細胞とともに取り出した後も、同様に、PBSや培地等で細胞の付着した細胞培養担体10を洗浄することが好ましい。
【0042】
(4)次に、中心に培地を入れた培養用ディスクを備えた両面培養用のシャーレの培養用ディスク上に、上記細胞培養担体10を細胞培養面を下に向けて静置した後、細胞培養担体10の上面全体に付着させたい細胞(第2の細胞)を懸濁させた培養液を加え、例えば37℃でインキュベートする。
【0043】
(5)上記第2の細胞が細胞培養担体10の上面に接着したところで、別に用意しておいたシャーレ等の培養容器に入れ、(2)と同様にして培養を継続する。これにより、両面に異種の細胞が培養された細胞培養担体10が得られる。
【0044】
(6)この後、細胞培養担体10の上面から第2の細胞が培養された薄膜12のみを引き剥がすようにして取り出す。この作業はピンセット等を用いて容易に行うことができる。この結果、両面に第1及び第2の細胞が培養された細胞培養担体10は、第1の細胞が培養された薄膜12と第2の細胞が培養された薄膜12に分離でき、顕微鏡等を用いてそれぞれに適した細胞観察を行うことができる。また、分離した薄膜12から第1及び第2の細胞をそれぞれトリプシン、ディスパーゼ、アキュターゼ、EDTA等の剥離液を用いて回収し、各種実験、研究等に供することもできる。なお、図3は、両面に第1の細胞21及び第2の細胞22が培養された細胞培養担体10を2枚の薄膜120に分離する様子を概略的に示した図である。
【0045】
このように本実施形態の細胞培養担体10を用いた両面培養法では、異種の細胞をそれぞれ他方の細胞の影響を受けることなく個別に観察し、また回収することができる。したがって、異種細胞間の相互作用をより深くかつ正確な解析を行うことが可能となる。
【0046】
なお、以上説明した実施形態では、2枚の薄膜を積層した2層構造の細胞培養担体について説明したが、3枚もしくはそれ以上の薄膜を積層した3層もしくはそれ以上の多層構造とすることができることは言うまでもない。例えば、3枚の薄膜を積層した3層構造の細胞培養担体は、まず、両面に第1及び第2の細胞を培養後、第1の細胞が付着した薄膜のみを分離すれば、その後、新たに露出した表面に、第3の細胞を播種し、培養することができ、第1の細胞と第3の細胞の影響を受けた第2の細胞を観察乃至回収することができる。
【0047】
また、積層する薄膜は同種の高分子材料で形成されていてもよく、異種の高分子材料で形成されていてもよく、例えば、コラーゲンゲルからなる薄膜にマトリゲルからなる薄膜を積層するようにしてもよい。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
[実施例1:細胞培養担体]
(コラーゲンビトリゲル乾燥体の作製)
外径33mm、内径24mmの環状(円形中空)の支持体をナイロンメンブレン(Amersham社製 商品名 Amersham#RPN1782B)を切り抜いて作製し、滅菌処理後、疎水性ポリスチレン製培養用シャーレ(φ35mm;旭硝子(株)製 商品名 IWAKI#1000−035)に入れた。氷上で冷却した50ml容量の滅菌コニカルチューブ(旭硝子(株)製 商品名 IWAKI#2342−050)に2.5mlの細胞培養液{10%非動化ウシ胎児血清(FBS)、20mmol/lHEPES(ライフテクノロジーズ社製 商品名 GIBCO#15630−080)}含有ダルベッコ改変イーグル培地(メディアテック社製 商品名 Mediatech#10−017−CV)と2.5mlの0.5%I型コラーゲン水溶液((株)高研製 商品名 高研#IAC50)を加え、均一に混和した。最終濃度0.25%のコラーゲン混合液を、先の支持体を入れた疎水性ポリスチレン製培養用シャーレに1.0ml入れた後、5%CO/95%空気存在下の37℃の保湿インキュベータで2時間維持してゲル化した。この最終濃度0.25%コラーゲンゲルを、クリーンベンチ内で蓋を外した状態で無菌的に2日間完全に乾燥することでガラス化させた。ガラス化させたコラーゲンゲルに3mlのPBSを加えて再水和した。3mlのPBSで2回リンスした後、クリーンベンチ内で蓋を外した状態で無菌的に2日間で乾燥させて、コラーゲンビトリゲル乾燥体Aを得た。
【0050】
(コラーゲンビトリゲル多層体の作製)
上記コラーゲンビトリゲル乾燥体A2枚に各1mlの滅菌水を加え再水和しコラーゲンビトリゲルとした。このうちの1枚のコラーゲンビトリゲルをピンセットを用いてシャーレから剥がし、他方のコラーゲンビトリゲルの上に重ねた。2枚のコラーゲンビトリゲル間に気体が入らないように滅菌水を除去し、さらにクリーンベンチ内で蓋を外した状態で無菌的に2日間で乾燥させて、コラーゲンビトリゲル多層体の乾燥体を得た。
【0051】
(コラーゲンビトリゲル多層体の分離確認試験)
得られたコラーゲンビトリゲル多層体の乾燥体を2mlの培養液に入れ5分間放置して再水和させた。この再水和されたコラーゲンビトリゲル多層体の支持体を2枚重ねたままピンセットで挟むことによって多層体のまま培養容器から剥がすことができた。さらに、このコラーゲンビトリゲル多層体のそれぞれの支持体をピンセットで挟んで引き剥がしたところ、1枚のコラーゲンビトリゲル多層体を2枚のコラーゲンビトリゲルに容易に破損させることなく分離することができた。
【0052】
(コラーゲンビトリゲル多層体のタンパク質透過能試験)
また、ビードレックス社製の膜透過実験装置PERMCELL(製品名)の一方のカラムに30%FBS/PBSを、他方のカラムにPBSをそれぞれ入れ、両カラムの中央部分に上記コラーゲンビトリゲル多層体を挟みこみ、PBS側のカラムから継時的にサンプルを回収した。回収されたサンプルを電気泳動後、銀染色を行い、コラーゲンビトリゲル多層体を介してのタンパク質透過能を調べたところ、1日目から110kDaを超える大きい分子量のタンパク質の透過が確認された。
【0053】
なお、比較のために、前述のコラーゲンビトリゲル乾燥体の作製方法において、疎水性ポリスチレン製培養用シャーレに入れる0.25%のコラーゲン混合液の量を1.0mlから2.0mlに変えた以外は同様にして作製したコラーゲンビトリゲル乾燥体Bを再水和させた1層構造のコラーゲンビトリゲルについて、同様のタンパク質透過能試験を行ったところ、1日目でタンパク質透過が確認され、7日目で110kDaを超えるタンパク質の透過が見られた。
【0054】
これらの結果から、コラーゲンビトリゲル多層体は同等な厚みのコラーゲンビトリゲルと同程度のタンパク質透過能を有していることがわかった。
【0055】
[実施例2:細胞培養担体を用いた細胞培養]
実施例1で作製したコラーゲンビトリゲル多層体の乾燥体に、3mlのPBSを加え5分間放置して再水和させた。余剰のPBSを除去した後、再水和されたコラーゲンビトリゲル多層体の片面に、PKH26で染色された2mlのCACO−2細胞懸濁液(1×10cells/ml)を播種して、5%CO/95%空気存在下の37℃保湿インキュベータ内で培養した。4日間培養した後、シャーレの内壁をピンセットでなぞって、片面にCACO−2が培養されたコラーゲンビトリゲル多層体を剥がし、回収した。回収されたコラーゲンビトリゲル多層体を、中心部分に3mlの培養液({10%非動化ウシ胎児血清(FBS)、20mmol/lHEPES(ライフテクノロジーズ社製 商品名 GIBCO#15630−080)}含有ダルベッコ改変イーグル培地(メディアテック社製 商品名 Mediatech#10−017−CV))を入れた両面培養用Disk(旭硝子(株)製 商品名コラーゲンゲル薄膜 ビトリゲル#VIT−C001付属品)に細胞培養面が下になるように置き、上面にPKH2で染色されたヒト真皮由来繊維芽細胞(4×10cells/350μl)を播種して、5%CO/95%空気存在下の37℃保湿インキュベータ内で2時間培養した。その後、2mlの培養液({10%非動化ウシ胎児血清(FBS)、20mmol/lHEPES(ライフテクノロジーズ社製 商品名 GIBCO#15630−080)}含有ダルベッコ改変イーグル培地(メディアテック社製 商品名 Mediatech#10−017−CV))を加えた細胞培養用の表面処理の施されていないシャーレ(φ35mm:IWAKI#3000−035X)に、両面に細胞を播種したコラーゲンビトリゲル多層体を移し、上記と同様に3日間培養した。その後、両面に細胞を播種したコラーゲンビトリゲル多層体をピンセットと用いて、2枚の薄膜に分離し、それぞれを位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察した結果、一方の薄膜にはヒト真皮由来繊維芽細胞のみが、他方の薄膜にヒト真皮由来繊維芽細胞のみが、それぞれ観察された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により得られる細胞培養担体は、異種細胞間の相互作用を微細な環境下で再現することができるとともに、相互作用後にはそれぞれの細胞を個別に回収することができ、異種細胞間の相互作用の解析等に有用である。
【符号の説明】
【0057】
10…細胞培養担体、12…ハイドロゲルからなる薄膜、14…支持体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲルからなる薄膜を複数層積層し乾燥したハイドロゲル乾燥体からなることを特徴とする細胞培養担体。
【請求項2】
前記ハイドロゲルからなる薄膜は、前記ハイドロゲルを乾燥させてガラス化した後、再水和したものであることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養担体。
【請求項3】
前記各ハイドロゲルからなる薄膜は、支持体により支持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞培養担体。
【請求項4】
前記各ハイドロゲルからなる薄膜は、細胞外マトリックス成分を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項5】
前記各ハイドロゲルからなる薄膜は、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、プロテオグリカン及びフィブリノーゲンから選ばれる少なくとも1種の細胞外マトリックス成分を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項6】
前記ハイドロゲルからなる薄膜は、コラーゲンを主体とする薄膜であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項7】
再水和することにより、複数のハイドロゲルからなる薄膜に分離可能であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項8】
ハイドロゲルからなる薄膜を複数層積層して積層体とする工程と、
前記積層体を乾燥する工程と
を含むことを特徴とする細胞培養担体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の細胞培養担体を再水和させる工程と、
前記再水和させた細胞培養担体の両面に第1及び第2の細胞をそれぞれ培養する工程と、
前記細胞培養工程の後に、前記細胞培養担体を前記第1及び第2の細胞をそれぞれ含む薄膜に分離する工程と
を含むことを特徴とする細胞培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−239444(P2012−239444A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114823(P2011−114823)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】