経口用組成物
【課題】重篤な副作用がなく、長期服用が可能であって、慢性関節炎だけではなく急性関節炎にも抗炎症作用を有する経口用組成物、並びに該経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品の提供。
【解決手段】酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及び酵母の乾燥菌末からなる群より選択される1以上を有効成分とし、関節炎に対する抗炎症作用を有することを特徴とする経口用組成物、酵母由来のマンナンタンパク質を有効成分とすることを特徴とする前記記載の経口用組成物、並びに前記いずれか記載の経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品。
【解決手段】酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及び酵母の乾燥菌末からなる群より選択される1以上を有効成分とし、関節炎に対する抗炎症作用を有することを特徴とする経口用組成物、酵母由来のマンナンタンパク質を有効成分とすることを特徴とする前記記載の経口用組成物、並びに前記いずれか記載の経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節炎に対する抗炎症作用を有する経口用組成物、並びに該経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎は、関節に生じる炎症性疾患であり、浮腫、発赤、強直、疼痛、発熱等の症状があり、重症の場合には運動障害を生ずる場合がある。関節炎には様々な病態があり、また、その発症機序も病態ごとに異なる。例えば、関節炎は、関節リウマチ、痛風、細菌による化膿、外傷、急性炎症のスポーツ障害による捻挫・関節痛等の様々な原因で発症し、発症原因の特定が困難な場合もある。関節炎の患者数は多く、また、高齢化に従い、今後ますます増加すると予想されている。
【0003】
現在、関節炎に対する急性炎症や慢性炎症の治療には、抗炎症薬の服用が一般的である。抗炎症薬は、デキサメタゾン等のステロイド性抗炎症薬と、アスピリン、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬の2種に大別される。ステロイド性抗炎症薬は、他のステロイド剤と同様に長期服用には適しておらず、一方、非ステロイド性抗炎症薬にも、胃粘膜や腎臓等の組織に炎症を引き起こす等の副作用があり、長期服用は困難となる場合が多い。このため、重篤な副作用がなく、長期服用可能な治療剤や予防剤等の開発が強く望まれている。
【0004】
このように、長期服用が可能であって、関節炎に有効である物質の一つにグルコサミンがある。グルコサミンは天然のアミノ糖であり、N−アセチル体として特にキチンやプロテオグリカン中に存在する。高濃度のグルコサミンを経口投与したアジュバント誘発関節炎ラットでは、関節の浮腫が抑制され、関節炎スコアが低くなることが報告されている(例えば非特許文献1参照。)。なお、アジュバント誘発関節炎ラットは、リウマチ等の慢性関節炎のモデル動物の1種である。
【0005】
その他、やはり長期服用が可能であって、関節炎に有効であると考えられているものに、乾燥ビール酵母がある。乾燥ビール酵母を経口投与したコラーゲン誘導関節炎マウスでは、関節炎病変が抑制され、関節炎スコアが低くなることが報告されている(例えば非特許文献2参照。)。なお、コラーゲン誘導関節炎マウスは、アジュバント誘発関節炎と同様、リウマチ等の慢性関節炎のモデル動物の1種である。
【0006】
また、(1)マンノース−6−ホスフェート等の糖燐酸若しくはそのエステル誘導体又はホスホマンノース残基を含有する、前記の燐酸含有オリゴ糖若しくは多糖又はそれらのエステル誘導体を含み、マンノースホスフェートレセプターの天然配位子の拮抗質又は拮抗阻害剤である、動物又は人間の患者の抗炎症治療用及び(又は)細胞媒介過敏症治療用の医療用又は獣医学的組成物も開示されている(例えば、特許文献1参照。)。特に特許文献1には、該組成物が、ヒトの多発性硬化症に似た動物の中枢神経の炎症の一つであるラットの実験的アレルギー性脳髄膜炎や、ラットのアジュバント誘発関節炎に対して抑制効果を有することが記載されている。
【非特許文献1】J.Hua et al. Inflammation Research、2005年、第54巻、第127〜132ページ。
【非特許文献2】細田ら、日本家政学会誌、2000年、第51巻、第6号、第473〜479ページ。
【特許文献1】特許第3009164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グルコサミンは、機能性食品としてサプリメント等の形態で広く使用されているが、関節炎の抗炎症効果としては十分であるとは言い難い。さらに、急性関節炎に対する抗炎症効果はない。
【0008】
同様に、乾燥ビール酵母や上記(1)の組成物も、やはり慢性関節炎に対する効果の報告はあるものの、急性関節炎に対する抗炎症効果は不明である。
特に乾燥ビール酵母では、腸管免疫系に対し何らかの影響を及ぼすために関節炎が抑制されているとの示唆はあるが、酵母の乾燥菌末を投与しているため、酵母中のどの成分が有効成分として機能しているのかは不明である。
【0009】
本発明は、重篤な副作用がなく、長期服用が可能であって、慢性関節炎だけではなく急性関節炎にも抗炎症作用を有する経口用組成物、並びに該経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及びこれらを含有している酵母の乾燥菌末を経口摂取することにより、浮腫等の関節炎の症状が緩和されること、及び、これらのマンナンタンパク質等は、慢性関節炎と急性関節炎の両方に対して有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及び酵母の乾燥菌末からなる群より選択される1以上を有効成分とし、関節炎に対する抗炎症作用を有することを特徴とする経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、酵母由来のマンナンタンパク質を有効成分とすることを特徴とする前記記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記関節炎が急性関節炎であることを特徴とする前記いずれか記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記酵母が糖鎖合成系遺伝子に変異を有し、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母であることを特徴とする前記いずれか記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記変異型糖鎖合成系遺伝子が、α1,2−マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であることを特徴とする前記記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、サッカロマイセス・パラドキサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロマイセス・ミカタエ(Saccharomyces mikatae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ(Saccharomyces kudriavzevii)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)からなる群より選択されることを特徴とする前記いずれか記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエMTY9(gpi10)株(FERM BP−10391)又はサッカロマイセス・セレビシエAB9株(FERM BP−10390)であることを特徴とする前記いずれか記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載の経口用組成物を含有することを特徴とする飲食品又は医薬品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の経口用組成物は、従来の抗炎症剤とは異なり、重篤な副作用を有さないため、安全に長期間服用することができる、抗炎症性物質である。また、発症機序の異なる急性関節炎と慢性関節炎の両方に対して抗炎症作用を奏し得る組成物である。毎日服用することも可能であるため、飲食品としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の経口用組成物は、酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及び酵母の乾燥菌末からなる群より選択される1以上を有効成分とし、関節炎に対する抗炎症作用を有することを特徴とする。本発明において、α―マンナンとは、α1,6―結合、α1,2―結合、又はα1,3―結合からなるD−マンノースの重合体であり、水溶性多糖類である。一方、マンナンタンパク質とは、酵母の細胞壁に局在するタンパク質に、N−グリコシド結合又はO−グリコシド結合により、1又は2以上のα―マンナン鎖が結合した水溶性の糖タンパク質を意味する。ここで、α―マンナン鎖とは、D−マンノースがα1,6―結合、α1,2―結合、又はα1,3―結合により重合した多糖鎖である。マンナンタンパク質及びマンナンタンパク質中に含まれるα―マンナンは、いずれも酵母の細胞壁を構成する主要な成分である。
【0014】
なお、本発明において、酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナンとは、酵母が産生するマンナンタンパク質等であることを意味する。つまり、酵母が産生したものであれば、特に限定されるものではなく、酵母の細胞壁を酵素や化学的処理等により損傷させて分離回収(抽出)したものであってもよく、酵母から培地中に放出されたものを回収したものであってもよい。
【0015】
本発明において用いられるα―マンナンやマンナンタンパク質を産生する酵母は、α―マンナンやマンナンタンパク質を細胞壁の構成成分とする酵母であれば特に限定されるものではない。例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属菌、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)属菌、ピキア(Pichia)属菌、キャンディダ(Candida)属菌、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属菌、ウィリオプシス(Williopsis)属菌、デバリオマイセス(Debaryomyces)属菌、ガラクトマイセス(Galactomyces)属菌、トルラスポラ(Torulaspora)属菌、ロドトルラ(Rhodotorula)属菌、ヤロウィア(Yarrowia)属菌、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属菌等の酵母であってもよい。本発明においては、可食性の酵母であることが好ましく、パン酵母やビール酵母として使用されているものであることがより好ましい。具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、サッカロマイセス・パラドキサス、サッカロマイセス・ミカタエ、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ、クルイベロマイセス・ラクチス、キャンディダ・ユーティリス、キャンディダ・アルビカンス、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lypolitica)、キャンディダ・サケ(Candida sake)等であることが好ましく、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、サッカロマイセス・パラドキサス、サッカロマイセス・ミカタエ、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ、クルイベロマイセス・ラクチス、キャンディダ・ユーティリス、キャンディダ・アルビカンスであることがより好ましく、サッカロマイセス・セレビシエであることがさらに好ましい。
【0016】
酵母からのα―マンナンの抽出は、公知の何れの手法を用いて行ってもよい。酵母からのα―マンナンの抽出方法として、例えば、熱水(希アルカリを含む)抽出法(例えば、特公昭64−3479号公報、特開昭58−109423号公報参照。)、自己消化法(例えば、特公昭58−57153号公報参照。)、細胞壁溶解酵素による酵素消化方法(例えば、特公昭59−40126号公報参照。)等がある。本発明において用いられるα―マンナンは、これらの方法により酵母から得られたα―マンナン粗抽出物であってもよく、該粗抽出物を適宜精製処理したものであってもよい。該精製処理として、例えば、塩酸等による除タンパク、アルコール沈殿、プロテアーゼ処理、クロマトグラフィー法等がある。
【0017】
酵母からのマンナンタンパク質の抽出は、公知の何れの手法を用いて行ってもよい。具体的には、例えば、自発的に、又はヒートショック等により培養上清中に放出されたマンナンタンパク質を回収する方法や、酵母を、例えばSDS等の界面活性剤や、グルカナーゼ等の酵素を用いて処理する方法等により、酵母からマンナンタンパク質を抽出することができる。本発明において用いられるマンナンタンパク質は、α―マンナンと同様に、酵母からの粗抽出物であってもよく、該粗抽出物を、適宜精製処理したものであってもよい。精製処理の方法としては、分子の大きさを指標として精製する方法を用いることが好ましく、ゲルろ過(サイズ排除)クロマトグラフィー法や、限外濾過膜等のフィルターを用いた分画法等を用いることがより好ましい。
【0018】
但し、マンナンタンパク質は、細胞壁に埋め込まれている等により、非常に細胞壁から抽出し難く、熱処理、酸・アルカリ処理、酵素処理等のいずれの処理を行った場合であっても、十分量の収量を得ることは困難であるが、マンナンタンパク質を培地中に放出し得る酵母変異株を用いることにより、十分量のマンナンタンパク質を酵母から回収することができる。具体的には、このような酵母変異株を常法により培養した後、培地からマンナンタンパク質を精製することにより、酵母が本来持っている状態に近いマンナンタンパク質を、簡便に大量に得ることができる。なお、培地中からのマンナンタンパク質の精製は、前述の酵母からの粗精製物からの精製処理と同様に行うことができる。
【0019】
マンナンタンパク質を培地中に放出し得る酵母変異株は、例えば、自然界の酵母から、四分子解析(Tetrad Analysis)を行い、培養時の培地中のマンナンタンパク質量が高い酵母株を選抜することにより得ることができる。また、公知の酵母に対して、変異誘発処理を行った後、培養時の培地中のマンナンタンパク質量が高い酵母株を選抜することによっても得ることができる。変異誘発処理は、酵母等の生物が有する遺伝子の一部を変異させ得る処理であれば、特に限定されるものではなく、酵母等の微生物の変異株を作製する場合に通常用いられるいずれの手法を用いて行ってもよい。例えば、変異原として、紫外線、電離放射線、亜硝酸、ニトロソグアニジン、EMS(Ethylmethane sulufonate)等を用いて酵母を処理することにより、酵母に変異誘発処理を行うことができる。
【0020】
本発明においては、マンナンタンパク質を産生する酵母として、糖鎖合成系遺伝子に変異を有し、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母であることが好ましく、α1,2−マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に変異を有し、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母であることがより好ましい。このような酵母変異株は、例えば、国際公開2006/025295号パンフレット等に開示の方法により得ることができる。
【0021】
本発明においては、特に、サッカロマイセス・セレビシエMTY9(gpi10)株[MATα gpi10 ura3 trp1](受託番号:FERM BP−10391)、サッカロマイセス・セレビシエAB9株[MATa/α gpi10/gpi10 ura3/URA3 leu2/LEU2](受託番号:FERM BP−10390)の培地中から回収されたマンナンタンパク質であることが好ましい。なお、サッカロマイセス・セレビシエMTY9(gpi10)株とサッカロマイセス・セレビシエAB9株は、いずれも独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1)に寄託されている(原寄託の寄託日:2004年7月13日、国際寄託への移管日:2005年8月3日)。
【0022】
本発明の経口用組成物が適用され得る関節炎は、各種スポーツによりもたらされる障害(打撲、捻挫や肘痛、膝痛等)の急性関節炎であってもよく、慢性関節リウマチ、変形性関節症等の慢性関節炎であってもよい。例えば、急性炎症に対しては、事前に服用していることにより、炎症による浮腫の予防・抑制効果が得られる。一方、慢性炎症に対しては、炎症発生時から服用することにより、炎症による浮腫の抑制効果、関節炎スコアの低値化効果(関節炎病変の抑制効果)等が得られる。特に、マンナンタンパク質を有効成分とする本発明の経口用組成物は、慢性関節炎の初期の浮腫を効果的に抑制することができる。
【0023】
本発明の経口用組成物が関節炎に対し抗炎症作用を奏する作用機序は不明であるが、一つには、免疫賦活作用が関与していると推察される。但し、免疫反応とは関係が薄いと考えられているカラゲニン浮腫モデルにおいても、本発明の経口用組成物は抗炎症作用を奏することから、免疫賦活作用とは異なる未知の作用効果も有しており、これらの機能の相乗効果により、急性関節炎と慢性関節炎の双方に有効な抗炎症作用が得られていると推察される。
【0024】
本発明の経口用組成物は、炎症による浮腫や発赤、強直等の症状を抑制・緩解し得るという抗炎症作用を有しているが、重篤な副作用がない。これは、マンナンタンパク質やα―マンナンは、多くの細胞に構成的に存在しているCOX(シクロオキシゲナーゼ)を阻害せず、マンナンタンパク質等を経口摂取しても、胃酸分泌や胃粘膜保護に関与するPGE2等のプロスタグランジン類の産生は抑制されないためである。つまり、本発明の経口用組成物は、イブプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬とは異なり、安全に長期間服用することが可能である。例えば、本発明の経口用組成物は、慢性関節炎の緩解を目的として、副作用等の危険を考慮する必要なく、長期間服用することができる。また、毎日摂取することにより、関節炎を予防し得ること、急性関節炎を発症した場合にも症状を軽くすること等が期待できる。
【0025】
なお、本発明の経口用組成物の有効成分としては、酵母自体の乾燥菌末を用いてもよい。酵母の乾燥菌末中にも、マンナンタンパク質やα―マンナンが含まれているためである。酵母の乾燥菌末は、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライ法等の公知の手法により作製することができる。
【0026】
本発明の経口用組成物としては、特にマンナンタンパク質を有効成分とすることが好ましい。マンナンタンパク質を有効成分とした場合には、α―マンナンや酵母菌末よりも優れた抗炎症効果を有するためである。マンナンタンパク質のほうがα―マンナンよりも抗炎症作用が高い理由は明らかではないが、マンナンタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、抗炎症効果が低下することから、抗炎症作用を奏するためには、タンパク質にα―マンナン鎖が結合している構造を保持している構造が重要であると推察される。その他、分子量の大きなマンナンタンパク質として経口摂取することにより、より有効な分子として体内に吸収されるのではないかとも推察される。
【0027】
本発明の経口用組成物は、マンナンタンパク質等の抗炎症作用を阻害しない限り、マンナンタンパク質等に加えて、経口摂取可能な他の成分を含有していてもよい。例えば、ビタミンE、C、パントテン酸等の抗酸化剤、コラーゲン、コンドロイチン(コンドロイチン硫酸)、グルコサミン、ヒアルロン酸等の、関節炎に有効とされている公知の成分を含むこともできる。
【0028】
本発明の経口用組成物は、その他、乳糖、グルコース、マンニトール、ソルビトール等の糖類、バレイショ、トウモロコシ等のデンプン類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の経口用組成物の形態は、経口に適した形態であれば、特に限定されるものではない。有効成分であるマンナンタンパク質やα―マンナンは、水溶性であるため、加工性、製造時の取り扱い性等に優れている。このため、固形剤と液剤とのいずれにも、簡便に適用することができる。例えば、固形剤としては錠剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、丸剤、顆粒剤、液剤としては溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等の形態が挙げられる。
【0030】
また、本発明の経口用組成物中の、マンナンタンパク質、α―マンナン、又は乾燥酵母菌末等の有効成分の量は、マンナンタンパク質等による抗炎症作用が作用効果を奏し得る量であれば、特に限定されるものではなく、原料とするマンナンタンパク質等の種類や精製度合い、形態等を考慮して、適宜決定することができる。
【0031】
本発明の経口用組成物は、サプリメント等として、単独で経口摂取されるものであってもよく、飲食品に含有させてもよい。本発明の経口用組成物を含有する飲食品は、特に限定されるものではなく、本発明の経口用組成物を有効成分とする機能性食品や食品添加物等であってもよく、一般的な飲食品であってもよい。
【0032】
本発明の経口用組成物を含有する飲食品の形態は、特に限定されるものではなく、種々の形態をとることができる。飲食品の形態として、例えば、飲料、固形食品、半流動食品、ゲル状食品、錠剤、キャプレット、カプセル剤等が挙げられる。本発明の経口用組成物を含有する飲食品は、本発明の経口用組成物を含有させ、必要に応じて保存料、抗酸化剤、安定化剤、調味料、香料等を適宜配合し、常法により製造することができる。
【0033】
また、本発明の経口用組成物は、医薬品に含有させてもよい。本発明の経口用組成物を含有する医薬品は、本発明の経口用組成物が有する抗炎症効果を有する経口医薬であれば、特に限定されるものではなく、本発明の経口用組成物のみを有効成分とするものであってもよく、他の薬効成分を有するものであってもよい。
【0034】
本発明の経口用組成物を含有する医薬品は、経口剤として通常用いられる剤型をとることができる。具体的には経口用組成物の形態で例示した剤型をとることができる。本発明の経口用組成物を含有する医薬品は、本発明の経口用組成物を含有させ、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色料、pH調整剤等を適宜配合し、常法により製造することができる。
【0035】
本発明の経口用組成物、並びに本発明の経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品の、一日当たりの好ましい摂取量は、摂取する対象、摂取の形態等の種類、摂取の間隔等の要因に依存して変動するものであるが、一般的に、ヒト成人一人の一日当たりの摂取量は、本発明の経口用組成物中の有効成分であるマンナンタンパク質、α―マンナン、又は乾燥酵母菌末として、約0.01〜10gであることが好ましく、約0.5〜5gであることがより好ましい。また、この一日量を、一度に摂取してもよく、2〜4回に分割して摂取することもできる。
【0036】
本発明の経口用組成物は、ヒト以外の動物に対しても投与することができ、例えば、家畜用飼料や動物用医薬品等のヒト以外の動物等に摂取される飲食品や医薬等に含有させてもよい。動物に使用する場合の投与量は、特に限定されるものではなく、投与対象の動物の種類、体重、年齢等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、本発明の経口用組成物中の有効成分であるマンナンタンパク質、α―マンナン、又は乾燥酵母菌末として、一日当たり約0.01〜10g/kgを、一度に又は複数回に分割して摂取させることができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例の測定値結果の表中、「NS」は、有意差がなかったことを示す。また、平均分子量は、多角度光散乱検出器(DAWN−EOS;昭光通商(株)製)を用いて測定した。
【0038】
[製造例1] マンナンタンパク質の製造
サッカロマイセス・セレビシエAB9株を用い、以下の通りマンナンタンパク質を製造した。
−80℃でグリセロール中に保存していたAB9株を、YPD寒天培地上に塗沫して30℃にて2日間培養した。その後、YPD寒天培地一枚分全量に生育した酵母を、100mLのYPD添加培地を含む500mL容三角フラスコに接種し、30℃にて、攪拌速度160rpmで24時間、振盪培養した。なお、YPD添加培地とは、YPD培地に、グルコース(和光純薬工業(株)製、最終濃度:20g/L)、酵母エキス(Difco(株)製、10g/L)、ペプトン(Difco(株)製、最終濃度:20g/L)となるように添加した培地である。
振盪培養にて得られた培養液100mLを全量、1.4Lの基礎培地を含む5L醗酵槽に接種し、培養温度30℃、攪拌速度500rpm、通気量1vvm、培養液pHはアンモニア水を用いて4.5以下にならないよう制御を行いながら、1.5Lの流加培地を呼吸商が一定になるよう添加し、流加培地がなくなるまで培養を行った。なお、基礎培地及び流加培地の組成は下記の通りである。
基礎培地:5g/L グルコース(和光純薬工業(株)製)、0.6g/L 酵母エキス(Difco(株)製)、8g/L KH2PO4(和光純薬工業(株)製)、3g/L MgSO4・7H2O(和光純薬工業(株)製)、0.5g/L ZnSO4・7H2O(和光純薬工業(株)製)、及び6.7g/L Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid(Difco(株)製)。
流加培地:400g/L グルコース(和光純薬工業(株)製)、9g/L KH2PO4(和光純薬工業(株)製)、2.5g/L MgSO4・7H2O(和光純薬工業(株)製)、3.5g/L K2SO4(和光純薬工業(株)製)、及び6.7g/L Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid(Difco(株)製)。
得られた培養液を、遠心分離により培養液中の菌体を分離、除去し、得られた培養上清を室温にて、MF膜(ミリポア(株)製、平膜0.45μm、PVDF(Durapore)、 Vスクリーン)を用いた精密濾過にて清澄化した後、分画分子量10,000DaのUF膜(ミリポアペリコン2カセットバイオマックス010K(Vスクリーン))を用いた限外濾過にて濃縮、脱塩を行った。さらに、減圧下にて濃縮後、スプレードライヤーSD−1000(東京理化(株)製)を用いて、入口温度が160℃、熱風空気量が0.75m3/min、噴霧用空気圧が100kPaの条件で噴霧乾燥を行うことにより、精製マンナンタンパク質粉末を得た。
得られた精製マンナンタンパク質粉末は、α結合(主鎖α1,6−結合、側鎖α1,3−、α1,2−結合)のマンノースが約85%、タンパク質約15%であり、平均分子量が520,000であった。
【0039】
[製造例2] ビール酵母マンナン(α−マンナン)の製造
ビール酵母マンナンは、特開2006−169514号公報(酵母水溶性多糖類、その製造方法、食品添加物および飲食品)に記載の方法に則って作製したものを使用した。
得られたビール酵母マンナンは、α結合(主鎖α1,6−結合、側鎖α1,3−、α1,2−結合)のマンノースが約70%、ペプチド類約15%であり、平均分子量が95,000であった。
【0040】
[製造例3] プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質の製造
製造例1で製造したマンナンタンパク質を、リン酸バッファー(pH10)に溶解した後、最終濃度1%になるようにプロテアーゼ(天野エンザイム(株)製)を添加し、60℃で16時間処理した。該処理により得られた溶液を、製造例1と同様に、分画分子量10,000DaのUF膜を用いて分子量分画後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥を行うことにより、プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質粉末を得た。
得られたプロテアーゼ処理済マンナンタンパク質粉末の平均分子量は125,000であった。
【0041】
[実施例1]
製造例1で製造したマンナンタンパク質の急性関節炎に対する抗炎症作用を、カラゲニン浮腫モデルを用いて調べた。具体的には、事前に7日間マンナンタンパク質を摂取させたラットにカラゲニンを投与し、浮腫率を調べた。
まず、0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、純正化学(株)製)溶液にマンナンタンパク質を加えて懸濁後、50、100及び200mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液を作製した。また、陽性対照物質としてイブプロフェン(和光純薬工業(株)製)を用いて、0.5%CMC溶液にイブプロフェンを加えて懸濁後、3mg/mLのイブプロフェン懸濁液を作製した。さらに、ラットに投与する1%カラゲニン溶液は、カラゲニン浮腫誘発日(day7)に、λ―カラゲニン(C3889、Sigma(株)製)を適当量秤り、生理食塩液を加えて加温させながら溶解させて調製した。
日本エスエルシー(株)より3週齢で購入した雄性SD系ラット(SPF)を約1週間予備飼育して実験に供した。ラットは予備飼育期間及び実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%のSPFバリア飼育室(照明時間7時〜19時、換気回数18回/時)で飼育した。ラットは4匹/ケージとし、固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業(株)製)と滅菌蒸留水をそれぞれ自由に与えた。ラットの個体識別にはピクリン酸を被毛に塗布した。なお、ラットの群構成日をday0とした。
マンナンタンパク質は、day0〜6及びday7のカラゲニン注射の1時間前、合計8回、イブプロフェンはday7のカラゲニン注射の30分前のみ1回、ラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。動物数は、8匹/群で、群構成は以下のとおり行った。
【0042】
【表1】
【0043】
浮腫誘発当日にラットを固定し右後肢足蹠をアルコール綿で消毒し、0.1mLの1%カラゲニン溶液を皮下注射した。その後、一般状態と誘発された浮腫の状態を観察した。
一般状態は、毎日1回症状を観察し、体重は体重計にて測定した。体重測定日はday0、4及び7とした。
足容積は、足容積測定装置(TK−105、室町機械(株)製)を使用して、右後肢の容積を浮腫誘発日(day7)に測定した。測定時間は浮腫誘発前、誘発後1、2、3、4及び5時間とした。測定した足容積より、以下の計算式に従って浮腫率(%)を算出した。
浮腫率(%)=[(誘発後容積−誘発前容積)÷誘発前容積]×100
【0044】
得られた体重及び浮腫率(%)は群毎の平均値±標準誤差で示した。陰性対照群(1群)に対する各群の統計的有意を検定するため、解析ソフト(Stat View、 Abacus Inc. USA)を用いて分散分析(ANOVA)を行った後、Fisher‘s PLSD法である多重比較検定を行い、群間の比較を行った。統計的有意差はp<0.05の場合を有意であるとした。
【0045】
対照群(1群)の体重増加に比べて、マンナンタンパク質投与群(2〜4群)は有意な差を示さず、順調な体重増加を示した。
一般症状の変化においても、マンナンタンパク質投与群(2〜4群)は何等特記すべき一般症状の異常を示さなかった。
【0046】
足容積から計算した浮腫率を図1に示した。図中、「○」は対照群(1群)、「△」はマンナンタンパク質低用量投与群(2群)、「▲」はマンナンタンパク質中用量投与群(3群)、「●」はマンナンタンパク質高用量投与群(4群)、「□」はイブプロフェン投与群(5群)の測定結果をそれぞれ示している。
対照群(1群)はカラゲニン注射1時間後から浮腫を示し、4時間後にピークの87.2±2.0%を示した。これに対しマンナンタンパク質投与群(2〜4群)は、4時間後にそれぞれ66.7±1.8%、45.2±3.2%及び50.5±4.0%を示した(いずれもp<0.001)。マンナンタンパク質投与群(2〜4群)はいずれの測定時間においても浮腫抑制効果を示したが、3群と4群の間の浮腫率に大きな差は認められなかった。また、イブプロフェン投与群(5群)は4時間後に38.6±2.5%の浮腫率(p<0.001)を示した。マンナンタンパク質投与群の浮腫抑制効果に比べて、イブプロフェン投与群の抑制効果がやや強かった。
これらの結果から、マンナンタンパク質が、イブプロフェンと同様に急性関節炎に対する抗炎症作用を有すること、また、イブプロフェンと異なり、毎日継続的に摂取しても健康を損なわず、安全に長期投与が可能であることが明らかである。
【0047】
[実施例2]
製造例1で製造したマンナンタンパク質と、製造例2で製造したビール酵母マンナンの急性関節炎に対する抗炎症作用を、カラゲニン浮腫モデルを用いて調べた。具体的には、事前に7日間マンナンタンパク質又はビール酵母マンナンを摂取させたラットにカラゲニンを投与し、浮腫率を調べた。
0.5%CMC溶液に、マンナンタンパク質、ビール酵母マンナン、又はイブプロフェンをそれぞれ加えて懸濁後、200mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液、200mg/mLのビール酵母マンナン懸濁液、及び3mg/mLのイブプロフェン懸濁液をそれぞれ調製した。マンナンタンパク質及びビール酵母マンナンはカラゲニン注射の前7日間と注射日の1時間前、合計8回経口投与し、イブプロフェンはカラゲニン注射の30分前のみ、1回経口投与した。群構成は表2記載のとおり行った。その他の方法は実施例1と同様に行った。
【0048】
【表2】
【0049】
対照群(1群)の体重増加に比べて、マンナンタンパク質投与群(2群)とビール酵母マンナン投与群(3群)は有意な差を示さず、順調な体重増加を示した。
一般症状の変化においても、マンナンタンパク質投与群(2群)とビール酵母マンナン投与群(3群)は何等特記すべき一般症状の異常を示さなかった。
【0050】
足容積から計算した浮腫率を図2に示した。図中、「○」は対照群(1群)、「●」はマンナンタンパク質投与群(2群)、「△」はビール酵母マンナン投与群(3群)、「□」はイブプロフェン投与群(4群)の測定結果をそれぞれ示している。
対照群(1群)はカラゲニン注射1時間後から浮腫を示し、5時間後にピークの71.6±3.3%を示した。これに対しマンナンタンパク質投与群(2群)は、4時間後に46.8±3.0%を示した(p<0.001)。また、ビール酵母マンナン投与群(3群)は、4時間後に50.2±4.3%を示した(p<0.01)。マンナンタンパク質投与群(2群)とビール酵母マンナン投与群(3群)は、いずれの測定時間においても浮腫抑制効果を示した。
また、イブプロフェン投与群は5時間後に42.0±3.6%の浮腫率(p<0.001)を示した。浮腫抑制効果は、イブプロフェン投与群、マンナンタンパク質投与群(2群)、ビール酵母マンナン投与群(3群)の順に強かった。
これらの結果から、ビール酵母マンナンが、マンナンタンパク質やイブプロフェンと同様に急性関節炎に対する抗炎症作用を有すること、また、イブプロフェンと異なり、毎日継続的に摂取しても健康を損なわず、安全に長期投与が可能であることが明らかである。
【0051】
[実施例3]
製造例1で製造したマンナンタンパク質の急性関節炎に対する抗炎症作用を、カラゲニン浮腫モデルを用いて調べた。具体的には、事前に7日間マンナンタンパク質を摂取させたラットの右後肢足蹠にカラゲニンを投与し、浮腫率と、足蹠中の炎症マーカーの量を調べた。
実施例1と同様にして調製した100mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液をカラゲニン注射の前7日間と注射日の1時間前、合計8回経口投与し、実施例1と同様にして調製した3mg/mLのイブプロフェン懸濁液をカラゲニン注射の30分前のみ、1回経口投与した。ラットは3匹/ケージとした。動物数は6匹/群とし、群構成は表3記載のとおり行った。その他の方法は実施例1と同様に行った。なお、表3中「採材」とは、炎症マーカー量測定のために右後肢足蹠を切断することを意味する。
【0052】
【表3】
【0053】
組織中炎症マーカー分析は、足容積を測定直後のラットの右後肢に10μMのインドメタシン(和光純薬工業(株)製)溶液0.1mLを皮下投与した。その後、ラットをエーテル麻酔下で放血致死させ、踝から下の部位を切断した。あらかじめ15mLの遠心管に20mMアスピリン含有生理食塩液100μL、20unit/mLヘパリン含有生理食塩液250μLを加え、その中に2mLのピペットチップの先端を切ったチップを入れた容器を用意し、ラットの足蹠部位の皮膚に大きく縦1箇所、横3〜5箇所の切開を加え、容器の中にこの足組織をつま先が下になるように入れ、3,000rpmで15分間冷却遠心し浸出液を採取した。回収した浸出液に生理食塩液を加えて全量を1.5mLとし、再度3,000rpmで15分間冷却遠心した上清をサンプルとした。
PGE2はProstaglandin E2 EIA Kit−Monoclonal(Cayman Chemical(株)製)を用い、またIL−6及びTNFαは、ラットIL−6及びラットTNFα測定キット(いずれもEndogen(株)製)を用いて 測定した。
【0054】
対照群(1〜2、5群)の体重増加と同様に、マンナンタンパク質投与群(3、6群)は順調な体重増加を示した。
一般症状の変化においても、マンナンタンパク質投与群は何等特記すべき一般症状の異常を示さなかった。
【0055】
容積の測定結果及び容積から計算した浮腫率を図3に示した。図中、左カラムが対照群(2又は5群)であり、中カラムがマンナンタンパク質投与群(3又は6群)であり、右カラムがイブプロフェン投与群(3又は7群)の結果である。
対照群の浮腫率は2時間後に50.0±2.75%(2群)、4時間後(5群)に71.0±1.64%を示した。これに対しマンナンタンパク質投与群は、2時間後に31.4±0.90%(3群)、4時間後に45.0±2.60%(6群)を示した(いずれもp<0.001)。マンナンタンパク質はいずれの測定時間においても浮腫抑制効果を示した。また、イブプロフェン投与群は2時間後に18.6±1.85%(4群)、4時間後に21.2±2.23%(6群)の浮腫率(いずれもp<0.001)を示し、マンナンタンパク質の浮腫抑制効果に比べて、イブプロフェン投与群の抑制効果が強かった。
【0056】
足蹠組織中PGE2の測定結果を図4に示した。図中、左カラムが対照群(1、2又は5群)であり、中カラムがマンナンタンパク質投与群(3又は6群)であり、右カラムがイブプロフェン投与群(3又は7群)の結果である。
対照群のPGE2は、浮腫非誘発群(1群)で2725±247pg/pawを示し、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、3950±499pg/paw(2群)(浮腫非誘発群に対するP<0.05)及び3101±317pg/paw(5群)に上昇した。マンナンタンパク質投与群のPGE2は、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、4107±327pg/paw(3群)及び4019±462pg/paw(6群)を示した。一方、イブプロフェン投与群は、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、459±172pg/paw(4群)及び687±132pg/paw(7群)を示し、浮腫誘発対照群に比べて有意な抑制を示した(p<0.001)。
【0057】
足蹠組織中IL−6の測定結果を図5に示した。図中、左カラムが対照群(1、2又は5群)であり、中カラムがマンナンタンパク質投与群(3又は6群)であり、右カラムがイブプロフェン投与群(3又は7群)の結果である。
対照群のIL−6は、浮腫非誘発群(1群)で1108±97pg/pawを示し、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、942±88pg/paw(2群)及び8257±1779pg/paw(5群)(浮腫非誘発群に対するp<0.001)に上昇した。マンナンタンパク質投与群のIL−6は、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、979±61pg/paw(3群)及び4615±720pg/paw(6群)(浮腫誘発対照群に比べてp<0.01)を示した。一方、イブプロフェン投与群は、腫誘発2時間後及び4時間後に、687±162pg/paw(4群)及び6223±1388pg/paw(7群)を示した。
【0058】
足蹠組織中TNFαの測定結果を図6に示した。図中、左カラムが対照群(1、2又は5群)であり、中カラムがマンナンタンパク質投与群(3又は6群)であり、右カラムがイブプロフェン投与群(3又は7群)の結果である。
対照群のTNFαは、浮腫非誘発群(1群)で1200±299pg/pawを示し、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、1481±257pg/paw(2群)及び2817±846pg/paw(5群)(浮腫非誘発群に対するp<0.05)に上昇した。マンナンタンパク質投与群のTNFαは、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、1278±196pg/paw(3群)及び1916±598pg/paw(6群)を示した。一方、イブプロフェン投与群は、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、1053±144pg/paw(4群)及び3016±953pg/paw(7群)を示した。
【0059】
つまり、マンナンタンパク質投与群では、イブプロフェン投与群と異なり、PGE2量は減少していなかったが、炎症マーカーであるIL−6やTNFαは対照群と比べて有意に低下していた。これらの結果から、マンナンタンパク質投与により、PGE2量に対し影響を与えることなく、安全に抗炎症効果が得られることが明らかである。
【0060】
[実施例4]
製造例2で製造したビール酵母マンナンとビール酵母の急性関節炎に対する抗炎症作用を、カラゲニン浮腫モデルを用いて調べた。具体的には、事前に7日間ビール酵母マンナン又はビール酵母を摂取させたラットの右後肢足蹠にカラゲニンを投与し、浮腫率と、足蹠中のPGE2量を調べた。
ラットに投与するイブプロフェンは、実施例2と同様にして調製したものを用いた。また、ビール酵母は、アサヒフードアンドヘルスケア(株)製の製造専用日本薬局法乾燥酵母を使用した。
ビール酵母マンナン及びビール酵母は100mg/mLの懸濁液を実施例2と同様に調製後、カラゲニン注射の前7日間と注射日の1時間前、合計8回経口投与し、イブプロフェンはカラゲニン注射の30分前のみ、1回経口投与した。ラットは4匹/ケージとした。動物数は8匹/群とし、群構成は表4記載のとおり行った。その他の方法は、体重測定日をday0、2、5及び7とした以外は、実施例3と同様に行った。PGE2量は、浮腫誘発5時間後に採材して測定した。
【0061】
【表4】
【0062】
体重推移において群間による差は認められず、ほぼ同様の推移を示した。
また、浮腫率の結果を図7に示した。図中、「×」は非誘発群(1群)、「○」は対照群(2群)、「●」はビール酵母マンナン投与群(3群)、「▲」はビール酵母投与群(4群)、「□」はイブプロフェン投与群(5群)の測定結果をそれぞれ示している。
非誘発群(1群)では、浮腫が認められず、試験期間を通じてほぼ一定に推移した。対照群(2群)では、カラゲニン誘発3、4及び5時間後の浮腫率は、それぞれ69.5±2.8%、66.6±2.1%及び64.4±1.9%を示し、非誘発群(1群)と比較して統計学的に有意な差が認められた(t検定、p<0.01)。ビール酵母マンナン投与群では、カラゲニン誘発3、4及び5時間後の浮腫率は、それぞれ60.0±2.2%、52.8±1.8%及び47.0±2.0%を示し、対照群と比較して4及び5時間後で有意な抑制作用が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。ビール酵母では、カラゲニン誘発3、4及び5時間後の浮腫率は、それぞれ54.8±3.0%、50.7±3.5%及び49.4±2.5%を示し、対照群と比較して3、4及び5時間後で有意な抑制作用が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。イブプロフェンでは、カラゲニン誘発3、4及び5時間後の浮腫率はそれぞれ39.8±3.2%、39.1±2.5%及び38.1±2.3%を示し、対照と比較して2、3、4、5時間後で有意な抑制作用が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。
【0063】
組織中炎症性マーカーPGE2の分析結果を図8に示した。非誘発群(1群)では、1.74±0.21ng/mL、対照群(2群)では6.85±0.80ng/mLを示し、非誘発群と比較して高値を示した。ビール酵母マンナン投与群では、6.70±0.67ng/mL、ビール酵母投与群では、6.54±0.50ng/mL、イブプロフェン投与群では、1.49±0.21ng/mLを示し、イブプロフェン群は、対照と比較して統計学的に有意な差が認められた(Dunnettの多重比較検定、p<0.01)。
これらの結果から、ビール酵母マンナン及びビール酵母は、マンナンタンパク質と同様に、抗炎症作用を有するが、PGE2量を低下させないことが明らかである。
【0064】
[実施例5]
製造例1で製造したマンナンタンパク質の慢性関節炎に対する抗炎症作用を、アジュバント誘発関節炎モデルを用いて調べた。具体的には、アジュバント投与後のラットに一日一回マンナンタンパク質を投与し、浮腫率等の炎症状態を調べた。
まず、0.5%CMC溶液にマンナンタンパク質を加えて懸濁後、10、50及び100mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液を作製した。また、陽性対照物質としてインドメタシン(和光純薬工業(株)製)を用いて、0.5%CMC溶液にインドメタシンを加えて懸濁後、0.1mg/mLのインドメタシン懸濁液を作製した。なお、ラットに対する投与量は体重100g当り1mLとした。
さらに、ラットに投与するアジュバント溶液は、加熱し死菌としたM. tuberculosis H37Ra(和光純薬工業(株)製)を適当量秤り、メノウ乳鉢で微粉末にした後、流動パラフィン(和光純薬工業(株)製)を少しずつ加えて懸濁し、3mg/mLの懸濁液を作製した。調製はアジュバント感作日に行った。
日本チャールスリバー(株)より8週齢で購入した雌性Lewis系ラット(SPF)を7日間予備飼育して実験に供した。ラットは2〜3匹/ケージとし、固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業(株)製)と滅菌脱イオン水をそれぞれ自由に与えた。ラットの個体識別にはピクリン酸を被毛に塗布した。その他の飼育条件は実施例1と同様にして行った。
浮腫誘発当日に、エーテル麻酔下でラットを固定し、右後肢足蹠をアルコール綿で消毒し、0.1mLのアジュバント溶液を右後肢足蹠皮下注射し関節炎を誘発した。なお、誘発日をday0とした。
day0〜22に、一日一回、マンナンタンパク質、インドメタシン又は0.5%CMCを、ラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。動物数は、8匹/群で、群構成は表5記載のとおり行った。
【0065】
【表5】
【0066】
炎症誘発後、一般状態と誘発された浮腫の状態を観察した。
一般状態は、毎日1回症状を観察し、体重は体重計にて測定した。体重測定日はday0、5、9、14、19及び21とした。
体重測定日に、感作部位の右後肢と非感作部位の左後肢の浮腫率を、実施例1と同様にして測定した。また、感作部位の右後肢を除く右前肢、左前肢及び左後肢の発赤、腫脹及び強直の程度を肉眼的に観察し、0〜4点(0:nil、1:mild、2:moderate、3:moderately−severe、4:severe)のスコアを付けた。さらに、尾の数珠球様硬化、耳介毛細血管の増生、鼻部の汚染についても0(異常なし)又は1点(異常)のスコアを付けた。右前肢、左前肢、左後肢、尾、耳及び鼻のスコアを合計し最高15点で評価した。
試験終了翌日(day22)にエーテル吸入麻酔下で、注射器(ヘパリンNa添加)を用いて腹部大動脈より採血し、遠心処理後の上層(血漿)部分を−80℃に保存した。
血漿中のNOは、NO2/NO3 Assay Kit−CII Colorimetric(同仁化学(株)製)を用いてGriess法で測定した。血漿中のPGE2は、Prostaglandin E2 EIA Kit−Monoclonal(Cayman Chemical(株)製)を用いてEIA法で測定した。
得られた体重、関節炎スコア、足容積測定値は群毎の平均値±標準誤差で示した。対照群(1群)に対する各群の統計的有意を検定するため、実施例1と同様に多重比較検定を行い群間の比較を行った。統計的有意差はp<0.05の場合を有意であるとした。
【0067】
関節炎を誘発させたラットの体重は減少傾向を示したが、対照群(2群)に比べ、マンナンタンパク質投与群(3〜5群)とインドメタシン投与群(6群)のいずれも有意な体重変化を示さなかった。
一般状態の観察結果では、インドメタシン投与群(6群)では、長期投与による副作用として胃炎を発症していた。これに対し、マンナンタンパク質投与群(3〜5群)では、対照群(2群)と同様に、関節炎症状以外の異常症状は示さなかった。
【0068】
一方、関節炎スコアの測定結果を図9に示した。図中、「○」は対照群(2群)、「△」はマンナンタンパク質低用量投与群(3群)、「●」はマンナンタンパク質中用量投与群(4群)、「▲」はマンナンタンパク質高用量投与群(5群)、「□」はイブプロフェン投与群(6群)の測定結果をそれぞれ示している。
Day14、day19及びday21のスコア測定で、マンナンタンパク質高用量投与群(5群)及びインドメタシン投与群(6群)は、スコア増加を有意に抑制した(p<0.05、p<0.01又はp<0.001)。
【0069】
感作後肢である右後肢の容積(mL)の測定結果を図10に示した。図中、「○」は対照群(2群)、「△」はマンナンタンパク質低用量投与群(3群)、「●」はマンナンタンパク質中用量投与群(4群)、「▲」はマンナンタンパク質高用量投与群(5群)、「□」はイブプロフェン投与群(6群)の測定結果をそれぞれ示している。
マンナンタンパク質中用量投与群(4群)は、day5、day9、day19、及びday21の右後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.05、p<0.01又はp<0.001)。また、マンナンタンパク質高用量投与群(5群)は、インドメタシン投与群(6群)と同様に、全ての測定時期において、右後肢の容積増加を有意に抑制した(5群:p<0.05、p<0.01又はp<0.001、6群:p<0.001)。
【0070】
非感作後肢である左後肢の容積(mL)の測定結果を図11に示した。図中、「○」は対照群(2群)、「△」はマンナンタンパク質低用量投与群(3群)、「●」はマンナンタンパク質中用量投与群(4群)、「▲」はマンナンタンパク質高用量投与群(5群)、「□」はイブプロフェン投与群(6群)の測定結果をそれぞれ示している。
マンナンタンパク質低用量投与群(3群)は、day19及びday21の左後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.05)。マンナンタンパク質中用量投与群(4群)は、day21の左後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.001)。また、マンナンタンパク質高用量投与群(5群)は、day14、day19、及びday21の左後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.05、p<0.01又はp<0.001)。一方、インドメタシン投与群(6群)は、day9、day14、day19、及びday21の左後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.05、p<0.01又はp<0.001)。
【0071】
血漿NO2−+NO3の分析結果を図12に、血漿PGE2の分析結果を図13に、それぞれ示した。
関節炎を誘発させた対照群(2群)のNO2−+NO3は、非誘発群(1群)の13.0±0.9(μmol/L)に比べ、65.7±7.1(μmol/L)を示し、顕著な増加を示した(p<0.001)。マンナンタンパク質投与群(3〜5群)では、NO2−+NO3の増加に影響は観察されなかった。インドメタシン投与群(6群)では、有意にNO2−+NO3の増加が抑制された(p<0.001)。
一方、関節炎を誘発させた対照群(2群)のPGE2量は、非誘発群(1群)の180.8±15.4(pg/mL)に比べ、1341.2±63.0(pg/mL)を示し、顕著な増加を示した(p<0.001)。マンナンタンパク質低用量投与群(3群)とマンナンタンパク質中用量投与群(4群)では、PGE2の増加に影響は観察されなかった。マンナンタンパク質高用量投与群(5群)ではPGE2の増加を10%程度抑制したが、有意な抑制ではなかった。これに対し、インドメタシン投与群(6群)では顕著な抑制を示した(p<0.001)。
これらの結果から、マンナンタンパク質が、インドメタシンと同様に慢性関節炎に対する抗炎症作用を有すること、また、インドメタシンと異なり、血漿NO2−+NO3と血漿PGE2に対する影響が小さく、毎日継続的に摂取しても健康を損なわず、安全に長期投与が可能であることが明らかである。
【0072】
[実施例6]
マンナンタンパク質、マンナンタンパク質のプロテアーゼ処理物、ビール酵母マンナン、及びビール酵母の慢性関節炎に対する抗炎症作用を、アジュバント誘発関節炎モデルを用いて調べた。具体的には、アジュバント投与後のラットに一日一回マンナンタンパク質等を投与し、浮腫率を調べた。
実施例5と同様にして、100mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液、100mg/mLのプロテアーゼ処理済マンナンタンパク質懸濁液、3mg/mLのイブプロフェン(和光純薬工業(株)製)懸濁液、100mg/mLのビール酵母マンナン懸濁液、100mg/mLのビール酵母懸濁液を、それぞれ調製した。なお、ビール酵母マンナンとビール酵母は実施例4で使用したものと同様のものを、プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質は製造例3で製造したものを、それぞれ用いた。
また、ラットに投与するアジュバント溶液は、加熱し死菌としたM. tuberculosis H37Ra(DIFCO(株)製)を適当量秤り、メノウ乳鉢で微粉末にした後、流動パラフィン(関東化学(株)製)を少しずつ加えて懸濁し、5mg/mLの懸濁液を作製した。調製はアジュバント感作日に行った。
日本チャールスリバー(株)より8週齢で購入した雌性Lewis系ラット(SPF)を7日間予備飼育して実験に供した。予備飼育及び実験期間を通じ、温度22±3℃、湿度50±20%、換気回数13〜17回/時間、照明12時間(8時〜20時)の環境下で飼育した。その他の飼育条件は実施例5と同様にして行った。
浮腫誘発当日に、エーテル麻酔下でラットを固定し、左後肢足蹠をアルコール綿で消毒し、0.1mLのアジュバント溶液を左後肢足蹠皮下注射し関節炎を誘発した。なお、誘発日をday0とした。
day0〜22に、一日一回、マンナンタンパク質、プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質、ビール酵母マンナン、ビール酵母、イブプロフェン、又は0.5%CMCを、ラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。動物数は、8匹/群で、群構成は表6記載のとおり行った。
【0073】
【表6】
【0074】
炎症誘発後、一般状態と誘発された浮腫の状態を観察した。
一般状態は、毎日1回症状を観察し、体重は体重計にて測定した。体重測定日はday0、5、9、14、19及び21とした。また、体重測定日に、非感作部位の右後肢の浮腫率を、実施例1と同様にして測定した。
【0075】
関節炎を誘発させた群(2〜7群)の体重は、非誘発群(1群)と比べて、day14以降有意な低値を示した(t検定、p<0.01)。また、その他の誘発群(3〜7群)のいずれも投与物質群間による差は認められず、対照群(2群)とほぼ同様な体重推移を示した。
【0076】
浮腫率の測定結果を図14及び図15に示した。図15は、day9の浮腫率をグラフ化したものである。図14中、「×」は非誘発群(1群)、「○」は対照群(2群)、「△」はマンナンタンパク質投与群(3群)、「▽」はプロテアーゼ処理済マンナンタンパク質投与群(4群)、「●」はビール酵母マンナン投与群(5群)、「▲」はビール酵母投与群(6群)、「□」はイブプロフェン投与群(7群)の測定結果をそれぞれ示している。
非誘発群(1群)では、浮腫が認められず、試験期間を通じてほぼ一定に推移したが、対照群(2群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、153.4±12.1%、166.2±8.3%、170.1±8.2%を示し、非誘発群(1群)と比較して統計学的に有意な差が認められた(day9:p<0.05、day14以降:p<0.01)。また、浮腫率の曲線下面積において、1662.0±119.3(%×日)を示し、非誘発群(1群)と比較して統計学的に有意な差が認められた(t検定、p<0.01)。
マンナンタンパク質投与群(3群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、136.6±14.2%、144.3±11.9%、152.7±10.2%を示した。特にday9では、プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質投与群(4群)やビール酵母マンナン群投与群(5群)よりも低く、イブプロフェン投与群(7群)と同程度の浮腫率を示した。また、浮腫率の曲線下面積において、1391.4±99.4(%×日)を示した。
プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質投与群(4群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、130.7±4.0%、163.7±5.8%、154.7±4.2%を示した。また、浮腫率の曲線下面積において、1488.3±58.8(%×日)を示した。
ビール酵母マンナン群投与群(5群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、127.8±16.2%、132.3±12.6%、140.9±11.7%を示した。また、浮腫率の曲線下面積において、1353.3±146.2(%×日)を示した。
ビール酵母投与群(6群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、128.7±8.7%、145.1±10.6%、151.9±9.5%を示した。また、浮腫率の曲線下面積において、1406.1±108.1(%×日)を示した。
一方、イブプロフェン投与群(7群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、82.7±8.0%、93.3±5.0%、95.3±5.1%を示した。また、day14、day19、及びday21において、対照群(2群)と比較して有意な低値が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。また、浮腫率の曲線下面積において、892.3±65.5(%×日)を示し、対照群(2群)と比較して統計学的に有意な差が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。
これらの結果から、ビール酵母マンナン及びビール酵母も、マンナンタンパク質と同様に慢性関節炎に対し抗炎症作用を有することが明らかである。特に、day9においては、ビール酵母マンナンやビール酵母よりも、マンナンタンパク質のほうが優れた抗炎症作用を有していたことから、初期の浮腫に対して、マンナンタンパク質が特に有効であることが示唆された。
一方、マンナンタンパク質をプロテアーゼ処理した場合には、処理前よりも抗炎症作用が低下することから、マンナンタンパク質として経口摂取することが、良好な抗炎症効果を得るためには重要であることも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の経口用組成物は、重篤な副作用がなく、長期服用が可能であって、慢性関節炎だけではなく急性関節炎にも抗炎症作用を有するものであり、特に関節炎の予防又は治療の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図2】実施例2において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図3】実施例3において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図4】実施例3において、足蹠組織中のPGE2量の測定結果を示した図である。
【図5】実施例3において、足蹠組織中のIL−6量の測定結果を示した図である。
【図6】実施例3において、足蹠組織中のTNFα量の測定結果を示した図である。
【図7】実施例4において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図8】実施例4において、足蹠組織中のPGE2量の測定結果を示した図である。
【図9】実施例5において、関節炎スコアの測定結果を示した図である。
【図10】実施例5において、感作後肢である右後肢の容積の測定結果を示した図である。
【図11】実施例5において、非感作後肢である左後肢の容積の測定結果を示した図である。
【図12】実施例5において、血漿NO2−+NO3の分析結果を示した図である。
【図13】実施例5において、血漿PGE2の分析結果を示した図である。
【図14】実施例6において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図15】実施例6において、day9の浮腫率をグラフ化した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節炎に対する抗炎症作用を有する経口用組成物、並びに該経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎は、関節に生じる炎症性疾患であり、浮腫、発赤、強直、疼痛、発熱等の症状があり、重症の場合には運動障害を生ずる場合がある。関節炎には様々な病態があり、また、その発症機序も病態ごとに異なる。例えば、関節炎は、関節リウマチ、痛風、細菌による化膿、外傷、急性炎症のスポーツ障害による捻挫・関節痛等の様々な原因で発症し、発症原因の特定が困難な場合もある。関節炎の患者数は多く、また、高齢化に従い、今後ますます増加すると予想されている。
【0003】
現在、関節炎に対する急性炎症や慢性炎症の治療には、抗炎症薬の服用が一般的である。抗炎症薬は、デキサメタゾン等のステロイド性抗炎症薬と、アスピリン、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬の2種に大別される。ステロイド性抗炎症薬は、他のステロイド剤と同様に長期服用には適しておらず、一方、非ステロイド性抗炎症薬にも、胃粘膜や腎臓等の組織に炎症を引き起こす等の副作用があり、長期服用は困難となる場合が多い。このため、重篤な副作用がなく、長期服用可能な治療剤や予防剤等の開発が強く望まれている。
【0004】
このように、長期服用が可能であって、関節炎に有効である物質の一つにグルコサミンがある。グルコサミンは天然のアミノ糖であり、N−アセチル体として特にキチンやプロテオグリカン中に存在する。高濃度のグルコサミンを経口投与したアジュバント誘発関節炎ラットでは、関節の浮腫が抑制され、関節炎スコアが低くなることが報告されている(例えば非特許文献1参照。)。なお、アジュバント誘発関節炎ラットは、リウマチ等の慢性関節炎のモデル動物の1種である。
【0005】
その他、やはり長期服用が可能であって、関節炎に有効であると考えられているものに、乾燥ビール酵母がある。乾燥ビール酵母を経口投与したコラーゲン誘導関節炎マウスでは、関節炎病変が抑制され、関節炎スコアが低くなることが報告されている(例えば非特許文献2参照。)。なお、コラーゲン誘導関節炎マウスは、アジュバント誘発関節炎と同様、リウマチ等の慢性関節炎のモデル動物の1種である。
【0006】
また、(1)マンノース−6−ホスフェート等の糖燐酸若しくはそのエステル誘導体又はホスホマンノース残基を含有する、前記の燐酸含有オリゴ糖若しくは多糖又はそれらのエステル誘導体を含み、マンノースホスフェートレセプターの天然配位子の拮抗質又は拮抗阻害剤である、動物又は人間の患者の抗炎症治療用及び(又は)細胞媒介過敏症治療用の医療用又は獣医学的組成物も開示されている(例えば、特許文献1参照。)。特に特許文献1には、該組成物が、ヒトの多発性硬化症に似た動物の中枢神経の炎症の一つであるラットの実験的アレルギー性脳髄膜炎や、ラットのアジュバント誘発関節炎に対して抑制効果を有することが記載されている。
【非特許文献1】J.Hua et al. Inflammation Research、2005年、第54巻、第127〜132ページ。
【非特許文献2】細田ら、日本家政学会誌、2000年、第51巻、第6号、第473〜479ページ。
【特許文献1】特許第3009164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グルコサミンは、機能性食品としてサプリメント等の形態で広く使用されているが、関節炎の抗炎症効果としては十分であるとは言い難い。さらに、急性関節炎に対する抗炎症効果はない。
【0008】
同様に、乾燥ビール酵母や上記(1)の組成物も、やはり慢性関節炎に対する効果の報告はあるものの、急性関節炎に対する抗炎症効果は不明である。
特に乾燥ビール酵母では、腸管免疫系に対し何らかの影響を及ぼすために関節炎が抑制されているとの示唆はあるが、酵母の乾燥菌末を投与しているため、酵母中のどの成分が有効成分として機能しているのかは不明である。
【0009】
本発明は、重篤な副作用がなく、長期服用が可能であって、慢性関節炎だけではなく急性関節炎にも抗炎症作用を有する経口用組成物、並びに該経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及びこれらを含有している酵母の乾燥菌末を経口摂取することにより、浮腫等の関節炎の症状が緩和されること、及び、これらのマンナンタンパク質等は、慢性関節炎と急性関節炎の両方に対して有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及び酵母の乾燥菌末からなる群より選択される1以上を有効成分とし、関節炎に対する抗炎症作用を有することを特徴とする経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、酵母由来のマンナンタンパク質を有効成分とすることを特徴とする前記記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記関節炎が急性関節炎であることを特徴とする前記いずれか記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記酵母が糖鎖合成系遺伝子に変異を有し、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母であることを特徴とする前記いずれか記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記変異型糖鎖合成系遺伝子が、α1,2−マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であることを特徴とする前記記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、サッカロマイセス・パラドキサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロマイセス・ミカタエ(Saccharomyces mikatae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ(Saccharomyces kudriavzevii)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)からなる群より選択されることを特徴とする前記いずれか記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエMTY9(gpi10)株(FERM BP−10391)又はサッカロマイセス・セレビシエAB9株(FERM BP−10390)であることを特徴とする前記いずれか記載の経口用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載の経口用組成物を含有することを特徴とする飲食品又は医薬品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の経口用組成物は、従来の抗炎症剤とは異なり、重篤な副作用を有さないため、安全に長期間服用することができる、抗炎症性物質である。また、発症機序の異なる急性関節炎と慢性関節炎の両方に対して抗炎症作用を奏し得る組成物である。毎日服用することも可能であるため、飲食品としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の経口用組成物は、酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及び酵母の乾燥菌末からなる群より選択される1以上を有効成分とし、関節炎に対する抗炎症作用を有することを特徴とする。本発明において、α―マンナンとは、α1,6―結合、α1,2―結合、又はα1,3―結合からなるD−マンノースの重合体であり、水溶性多糖類である。一方、マンナンタンパク質とは、酵母の細胞壁に局在するタンパク質に、N−グリコシド結合又はO−グリコシド結合により、1又は2以上のα―マンナン鎖が結合した水溶性の糖タンパク質を意味する。ここで、α―マンナン鎖とは、D−マンノースがα1,6―結合、α1,2―結合、又はα1,3―結合により重合した多糖鎖である。マンナンタンパク質及びマンナンタンパク質中に含まれるα―マンナンは、いずれも酵母の細胞壁を構成する主要な成分である。
【0014】
なお、本発明において、酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナンとは、酵母が産生するマンナンタンパク質等であることを意味する。つまり、酵母が産生したものであれば、特に限定されるものではなく、酵母の細胞壁を酵素や化学的処理等により損傷させて分離回収(抽出)したものであってもよく、酵母から培地中に放出されたものを回収したものであってもよい。
【0015】
本発明において用いられるα―マンナンやマンナンタンパク質を産生する酵母は、α―マンナンやマンナンタンパク質を細胞壁の構成成分とする酵母であれば特に限定されるものではない。例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属菌、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)属菌、ピキア(Pichia)属菌、キャンディダ(Candida)属菌、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属菌、ウィリオプシス(Williopsis)属菌、デバリオマイセス(Debaryomyces)属菌、ガラクトマイセス(Galactomyces)属菌、トルラスポラ(Torulaspora)属菌、ロドトルラ(Rhodotorula)属菌、ヤロウィア(Yarrowia)属菌、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属菌等の酵母であってもよい。本発明においては、可食性の酵母であることが好ましく、パン酵母やビール酵母として使用されているものであることがより好ましい。具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、サッカロマイセス・パラドキサス、サッカロマイセス・ミカタエ、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ、クルイベロマイセス・ラクチス、キャンディダ・ユーティリス、キャンディダ・アルビカンス、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lypolitica)、キャンディダ・サケ(Candida sake)等であることが好ましく、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、サッカロマイセス・パラドキサス、サッカロマイセス・ミカタエ、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ、クルイベロマイセス・ラクチス、キャンディダ・ユーティリス、キャンディダ・アルビカンスであることがより好ましく、サッカロマイセス・セレビシエであることがさらに好ましい。
【0016】
酵母からのα―マンナンの抽出は、公知の何れの手法を用いて行ってもよい。酵母からのα―マンナンの抽出方法として、例えば、熱水(希アルカリを含む)抽出法(例えば、特公昭64−3479号公報、特開昭58−109423号公報参照。)、自己消化法(例えば、特公昭58−57153号公報参照。)、細胞壁溶解酵素による酵素消化方法(例えば、特公昭59−40126号公報参照。)等がある。本発明において用いられるα―マンナンは、これらの方法により酵母から得られたα―マンナン粗抽出物であってもよく、該粗抽出物を適宜精製処理したものであってもよい。該精製処理として、例えば、塩酸等による除タンパク、アルコール沈殿、プロテアーゼ処理、クロマトグラフィー法等がある。
【0017】
酵母からのマンナンタンパク質の抽出は、公知の何れの手法を用いて行ってもよい。具体的には、例えば、自発的に、又はヒートショック等により培養上清中に放出されたマンナンタンパク質を回収する方法や、酵母を、例えばSDS等の界面活性剤や、グルカナーゼ等の酵素を用いて処理する方法等により、酵母からマンナンタンパク質を抽出することができる。本発明において用いられるマンナンタンパク質は、α―マンナンと同様に、酵母からの粗抽出物であってもよく、該粗抽出物を、適宜精製処理したものであってもよい。精製処理の方法としては、分子の大きさを指標として精製する方法を用いることが好ましく、ゲルろ過(サイズ排除)クロマトグラフィー法や、限外濾過膜等のフィルターを用いた分画法等を用いることがより好ましい。
【0018】
但し、マンナンタンパク質は、細胞壁に埋め込まれている等により、非常に細胞壁から抽出し難く、熱処理、酸・アルカリ処理、酵素処理等のいずれの処理を行った場合であっても、十分量の収量を得ることは困難であるが、マンナンタンパク質を培地中に放出し得る酵母変異株を用いることにより、十分量のマンナンタンパク質を酵母から回収することができる。具体的には、このような酵母変異株を常法により培養した後、培地からマンナンタンパク質を精製することにより、酵母が本来持っている状態に近いマンナンタンパク質を、簡便に大量に得ることができる。なお、培地中からのマンナンタンパク質の精製は、前述の酵母からの粗精製物からの精製処理と同様に行うことができる。
【0019】
マンナンタンパク質を培地中に放出し得る酵母変異株は、例えば、自然界の酵母から、四分子解析(Tetrad Analysis)を行い、培養時の培地中のマンナンタンパク質量が高い酵母株を選抜することにより得ることができる。また、公知の酵母に対して、変異誘発処理を行った後、培養時の培地中のマンナンタンパク質量が高い酵母株を選抜することによっても得ることができる。変異誘発処理は、酵母等の生物が有する遺伝子の一部を変異させ得る処理であれば、特に限定されるものではなく、酵母等の微生物の変異株を作製する場合に通常用いられるいずれの手法を用いて行ってもよい。例えば、変異原として、紫外線、電離放射線、亜硝酸、ニトロソグアニジン、EMS(Ethylmethane sulufonate)等を用いて酵母を処理することにより、酵母に変異誘発処理を行うことができる。
【0020】
本発明においては、マンナンタンパク質を産生する酵母として、糖鎖合成系遺伝子に変異を有し、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母であることが好ましく、α1,2−マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に変異を有し、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母であることがより好ましい。このような酵母変異株は、例えば、国際公開2006/025295号パンフレット等に開示の方法により得ることができる。
【0021】
本発明においては、特に、サッカロマイセス・セレビシエMTY9(gpi10)株[MATα gpi10 ura3 trp1](受託番号:FERM BP−10391)、サッカロマイセス・セレビシエAB9株[MATa/α gpi10/gpi10 ura3/URA3 leu2/LEU2](受託番号:FERM BP−10390)の培地中から回収されたマンナンタンパク質であることが好ましい。なお、サッカロマイセス・セレビシエMTY9(gpi10)株とサッカロマイセス・セレビシエAB9株は、いずれも独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1)に寄託されている(原寄託の寄託日:2004年7月13日、国際寄託への移管日:2005年8月3日)。
【0022】
本発明の経口用組成物が適用され得る関節炎は、各種スポーツによりもたらされる障害(打撲、捻挫や肘痛、膝痛等)の急性関節炎であってもよく、慢性関節リウマチ、変形性関節症等の慢性関節炎であってもよい。例えば、急性炎症に対しては、事前に服用していることにより、炎症による浮腫の予防・抑制効果が得られる。一方、慢性炎症に対しては、炎症発生時から服用することにより、炎症による浮腫の抑制効果、関節炎スコアの低値化効果(関節炎病変の抑制効果)等が得られる。特に、マンナンタンパク質を有効成分とする本発明の経口用組成物は、慢性関節炎の初期の浮腫を効果的に抑制することができる。
【0023】
本発明の経口用組成物が関節炎に対し抗炎症作用を奏する作用機序は不明であるが、一つには、免疫賦活作用が関与していると推察される。但し、免疫反応とは関係が薄いと考えられているカラゲニン浮腫モデルにおいても、本発明の経口用組成物は抗炎症作用を奏することから、免疫賦活作用とは異なる未知の作用効果も有しており、これらの機能の相乗効果により、急性関節炎と慢性関節炎の双方に有効な抗炎症作用が得られていると推察される。
【0024】
本発明の経口用組成物は、炎症による浮腫や発赤、強直等の症状を抑制・緩解し得るという抗炎症作用を有しているが、重篤な副作用がない。これは、マンナンタンパク質やα―マンナンは、多くの細胞に構成的に存在しているCOX(シクロオキシゲナーゼ)を阻害せず、マンナンタンパク質等を経口摂取しても、胃酸分泌や胃粘膜保護に関与するPGE2等のプロスタグランジン類の産生は抑制されないためである。つまり、本発明の経口用組成物は、イブプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬とは異なり、安全に長期間服用することが可能である。例えば、本発明の経口用組成物は、慢性関節炎の緩解を目的として、副作用等の危険を考慮する必要なく、長期間服用することができる。また、毎日摂取することにより、関節炎を予防し得ること、急性関節炎を発症した場合にも症状を軽くすること等が期待できる。
【0025】
なお、本発明の経口用組成物の有効成分としては、酵母自体の乾燥菌末を用いてもよい。酵母の乾燥菌末中にも、マンナンタンパク質やα―マンナンが含まれているためである。酵母の乾燥菌末は、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライ法等の公知の手法により作製することができる。
【0026】
本発明の経口用組成物としては、特にマンナンタンパク質を有効成分とすることが好ましい。マンナンタンパク質を有効成分とした場合には、α―マンナンや酵母菌末よりも優れた抗炎症効果を有するためである。マンナンタンパク質のほうがα―マンナンよりも抗炎症作用が高い理由は明らかではないが、マンナンタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、抗炎症効果が低下することから、抗炎症作用を奏するためには、タンパク質にα―マンナン鎖が結合している構造を保持している構造が重要であると推察される。その他、分子量の大きなマンナンタンパク質として経口摂取することにより、より有効な分子として体内に吸収されるのではないかとも推察される。
【0027】
本発明の経口用組成物は、マンナンタンパク質等の抗炎症作用を阻害しない限り、マンナンタンパク質等に加えて、経口摂取可能な他の成分を含有していてもよい。例えば、ビタミンE、C、パントテン酸等の抗酸化剤、コラーゲン、コンドロイチン(コンドロイチン硫酸)、グルコサミン、ヒアルロン酸等の、関節炎に有効とされている公知の成分を含むこともできる。
【0028】
本発明の経口用組成物は、その他、乳糖、グルコース、マンニトール、ソルビトール等の糖類、バレイショ、トウモロコシ等のデンプン類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の経口用組成物の形態は、経口に適した形態であれば、特に限定されるものではない。有効成分であるマンナンタンパク質やα―マンナンは、水溶性であるため、加工性、製造時の取り扱い性等に優れている。このため、固形剤と液剤とのいずれにも、簡便に適用することができる。例えば、固形剤としては錠剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、丸剤、顆粒剤、液剤としては溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等の形態が挙げられる。
【0030】
また、本発明の経口用組成物中の、マンナンタンパク質、α―マンナン、又は乾燥酵母菌末等の有効成分の量は、マンナンタンパク質等による抗炎症作用が作用効果を奏し得る量であれば、特に限定されるものではなく、原料とするマンナンタンパク質等の種類や精製度合い、形態等を考慮して、適宜決定することができる。
【0031】
本発明の経口用組成物は、サプリメント等として、単独で経口摂取されるものであってもよく、飲食品に含有させてもよい。本発明の経口用組成物を含有する飲食品は、特に限定されるものではなく、本発明の経口用組成物を有効成分とする機能性食品や食品添加物等であってもよく、一般的な飲食品であってもよい。
【0032】
本発明の経口用組成物を含有する飲食品の形態は、特に限定されるものではなく、種々の形態をとることができる。飲食品の形態として、例えば、飲料、固形食品、半流動食品、ゲル状食品、錠剤、キャプレット、カプセル剤等が挙げられる。本発明の経口用組成物を含有する飲食品は、本発明の経口用組成物を含有させ、必要に応じて保存料、抗酸化剤、安定化剤、調味料、香料等を適宜配合し、常法により製造することができる。
【0033】
また、本発明の経口用組成物は、医薬品に含有させてもよい。本発明の経口用組成物を含有する医薬品は、本発明の経口用組成物が有する抗炎症効果を有する経口医薬であれば、特に限定されるものではなく、本発明の経口用組成物のみを有効成分とするものであってもよく、他の薬効成分を有するものであってもよい。
【0034】
本発明の経口用組成物を含有する医薬品は、経口剤として通常用いられる剤型をとることができる。具体的には経口用組成物の形態で例示した剤型をとることができる。本発明の経口用組成物を含有する医薬品は、本発明の経口用組成物を含有させ、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色料、pH調整剤等を適宜配合し、常法により製造することができる。
【0035】
本発明の経口用組成物、並びに本発明の経口用組成物を含有する飲食品及び医薬品の、一日当たりの好ましい摂取量は、摂取する対象、摂取の形態等の種類、摂取の間隔等の要因に依存して変動するものであるが、一般的に、ヒト成人一人の一日当たりの摂取量は、本発明の経口用組成物中の有効成分であるマンナンタンパク質、α―マンナン、又は乾燥酵母菌末として、約0.01〜10gであることが好ましく、約0.5〜5gであることがより好ましい。また、この一日量を、一度に摂取してもよく、2〜4回に分割して摂取することもできる。
【0036】
本発明の経口用組成物は、ヒト以外の動物に対しても投与することができ、例えば、家畜用飼料や動物用医薬品等のヒト以外の動物等に摂取される飲食品や医薬等に含有させてもよい。動物に使用する場合の投与量は、特に限定されるものではなく、投与対象の動物の種類、体重、年齢等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、本発明の経口用組成物中の有効成分であるマンナンタンパク質、α―マンナン、又は乾燥酵母菌末として、一日当たり約0.01〜10g/kgを、一度に又は複数回に分割して摂取させることができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例の測定値結果の表中、「NS」は、有意差がなかったことを示す。また、平均分子量は、多角度光散乱検出器(DAWN−EOS;昭光通商(株)製)を用いて測定した。
【0038】
[製造例1] マンナンタンパク質の製造
サッカロマイセス・セレビシエAB9株を用い、以下の通りマンナンタンパク質を製造した。
−80℃でグリセロール中に保存していたAB9株を、YPD寒天培地上に塗沫して30℃にて2日間培養した。その後、YPD寒天培地一枚分全量に生育した酵母を、100mLのYPD添加培地を含む500mL容三角フラスコに接種し、30℃にて、攪拌速度160rpmで24時間、振盪培養した。なお、YPD添加培地とは、YPD培地に、グルコース(和光純薬工業(株)製、最終濃度:20g/L)、酵母エキス(Difco(株)製、10g/L)、ペプトン(Difco(株)製、最終濃度:20g/L)となるように添加した培地である。
振盪培養にて得られた培養液100mLを全量、1.4Lの基礎培地を含む5L醗酵槽に接種し、培養温度30℃、攪拌速度500rpm、通気量1vvm、培養液pHはアンモニア水を用いて4.5以下にならないよう制御を行いながら、1.5Lの流加培地を呼吸商が一定になるよう添加し、流加培地がなくなるまで培養を行った。なお、基礎培地及び流加培地の組成は下記の通りである。
基礎培地:5g/L グルコース(和光純薬工業(株)製)、0.6g/L 酵母エキス(Difco(株)製)、8g/L KH2PO4(和光純薬工業(株)製)、3g/L MgSO4・7H2O(和光純薬工業(株)製)、0.5g/L ZnSO4・7H2O(和光純薬工業(株)製)、及び6.7g/L Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid(Difco(株)製)。
流加培地:400g/L グルコース(和光純薬工業(株)製)、9g/L KH2PO4(和光純薬工業(株)製)、2.5g/L MgSO4・7H2O(和光純薬工業(株)製)、3.5g/L K2SO4(和光純薬工業(株)製)、及び6.7g/L Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid(Difco(株)製)。
得られた培養液を、遠心分離により培養液中の菌体を分離、除去し、得られた培養上清を室温にて、MF膜(ミリポア(株)製、平膜0.45μm、PVDF(Durapore)、 Vスクリーン)を用いた精密濾過にて清澄化した後、分画分子量10,000DaのUF膜(ミリポアペリコン2カセットバイオマックス010K(Vスクリーン))を用いた限外濾過にて濃縮、脱塩を行った。さらに、減圧下にて濃縮後、スプレードライヤーSD−1000(東京理化(株)製)を用いて、入口温度が160℃、熱風空気量が0.75m3/min、噴霧用空気圧が100kPaの条件で噴霧乾燥を行うことにより、精製マンナンタンパク質粉末を得た。
得られた精製マンナンタンパク質粉末は、α結合(主鎖α1,6−結合、側鎖α1,3−、α1,2−結合)のマンノースが約85%、タンパク質約15%であり、平均分子量が520,000であった。
【0039】
[製造例2] ビール酵母マンナン(α−マンナン)の製造
ビール酵母マンナンは、特開2006−169514号公報(酵母水溶性多糖類、その製造方法、食品添加物および飲食品)に記載の方法に則って作製したものを使用した。
得られたビール酵母マンナンは、α結合(主鎖α1,6−結合、側鎖α1,3−、α1,2−結合)のマンノースが約70%、ペプチド類約15%であり、平均分子量が95,000であった。
【0040】
[製造例3] プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質の製造
製造例1で製造したマンナンタンパク質を、リン酸バッファー(pH10)に溶解した後、最終濃度1%になるようにプロテアーゼ(天野エンザイム(株)製)を添加し、60℃で16時間処理した。該処理により得られた溶液を、製造例1と同様に、分画分子量10,000DaのUF膜を用いて分子量分画後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥を行うことにより、プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質粉末を得た。
得られたプロテアーゼ処理済マンナンタンパク質粉末の平均分子量は125,000であった。
【0041】
[実施例1]
製造例1で製造したマンナンタンパク質の急性関節炎に対する抗炎症作用を、カラゲニン浮腫モデルを用いて調べた。具体的には、事前に7日間マンナンタンパク質を摂取させたラットにカラゲニンを投与し、浮腫率を調べた。
まず、0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、純正化学(株)製)溶液にマンナンタンパク質を加えて懸濁後、50、100及び200mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液を作製した。また、陽性対照物質としてイブプロフェン(和光純薬工業(株)製)を用いて、0.5%CMC溶液にイブプロフェンを加えて懸濁後、3mg/mLのイブプロフェン懸濁液を作製した。さらに、ラットに投与する1%カラゲニン溶液は、カラゲニン浮腫誘発日(day7)に、λ―カラゲニン(C3889、Sigma(株)製)を適当量秤り、生理食塩液を加えて加温させながら溶解させて調製した。
日本エスエルシー(株)より3週齢で購入した雄性SD系ラット(SPF)を約1週間予備飼育して実験に供した。ラットは予備飼育期間及び実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%のSPFバリア飼育室(照明時間7時〜19時、換気回数18回/時)で飼育した。ラットは4匹/ケージとし、固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業(株)製)と滅菌蒸留水をそれぞれ自由に与えた。ラットの個体識別にはピクリン酸を被毛に塗布した。なお、ラットの群構成日をday0とした。
マンナンタンパク質は、day0〜6及びday7のカラゲニン注射の1時間前、合計8回、イブプロフェンはday7のカラゲニン注射の30分前のみ1回、ラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。動物数は、8匹/群で、群構成は以下のとおり行った。
【0042】
【表1】
【0043】
浮腫誘発当日にラットを固定し右後肢足蹠をアルコール綿で消毒し、0.1mLの1%カラゲニン溶液を皮下注射した。その後、一般状態と誘発された浮腫の状態を観察した。
一般状態は、毎日1回症状を観察し、体重は体重計にて測定した。体重測定日はday0、4及び7とした。
足容積は、足容積測定装置(TK−105、室町機械(株)製)を使用して、右後肢の容積を浮腫誘発日(day7)に測定した。測定時間は浮腫誘発前、誘発後1、2、3、4及び5時間とした。測定した足容積より、以下の計算式に従って浮腫率(%)を算出した。
浮腫率(%)=[(誘発後容積−誘発前容積)÷誘発前容積]×100
【0044】
得られた体重及び浮腫率(%)は群毎の平均値±標準誤差で示した。陰性対照群(1群)に対する各群の統計的有意を検定するため、解析ソフト(Stat View、 Abacus Inc. USA)を用いて分散分析(ANOVA)を行った後、Fisher‘s PLSD法である多重比較検定を行い、群間の比較を行った。統計的有意差はp<0.05の場合を有意であるとした。
【0045】
対照群(1群)の体重増加に比べて、マンナンタンパク質投与群(2〜4群)は有意な差を示さず、順調な体重増加を示した。
一般症状の変化においても、マンナンタンパク質投与群(2〜4群)は何等特記すべき一般症状の異常を示さなかった。
【0046】
足容積から計算した浮腫率を図1に示した。図中、「○」は対照群(1群)、「△」はマンナンタンパク質低用量投与群(2群)、「▲」はマンナンタンパク質中用量投与群(3群)、「●」はマンナンタンパク質高用量投与群(4群)、「□」はイブプロフェン投与群(5群)の測定結果をそれぞれ示している。
対照群(1群)はカラゲニン注射1時間後から浮腫を示し、4時間後にピークの87.2±2.0%を示した。これに対しマンナンタンパク質投与群(2〜4群)は、4時間後にそれぞれ66.7±1.8%、45.2±3.2%及び50.5±4.0%を示した(いずれもp<0.001)。マンナンタンパク質投与群(2〜4群)はいずれの測定時間においても浮腫抑制効果を示したが、3群と4群の間の浮腫率に大きな差は認められなかった。また、イブプロフェン投与群(5群)は4時間後に38.6±2.5%の浮腫率(p<0.001)を示した。マンナンタンパク質投与群の浮腫抑制効果に比べて、イブプロフェン投与群の抑制効果がやや強かった。
これらの結果から、マンナンタンパク質が、イブプロフェンと同様に急性関節炎に対する抗炎症作用を有すること、また、イブプロフェンと異なり、毎日継続的に摂取しても健康を損なわず、安全に長期投与が可能であることが明らかである。
【0047】
[実施例2]
製造例1で製造したマンナンタンパク質と、製造例2で製造したビール酵母マンナンの急性関節炎に対する抗炎症作用を、カラゲニン浮腫モデルを用いて調べた。具体的には、事前に7日間マンナンタンパク質又はビール酵母マンナンを摂取させたラットにカラゲニンを投与し、浮腫率を調べた。
0.5%CMC溶液に、マンナンタンパク質、ビール酵母マンナン、又はイブプロフェンをそれぞれ加えて懸濁後、200mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液、200mg/mLのビール酵母マンナン懸濁液、及び3mg/mLのイブプロフェン懸濁液をそれぞれ調製した。マンナンタンパク質及びビール酵母マンナンはカラゲニン注射の前7日間と注射日の1時間前、合計8回経口投与し、イブプロフェンはカラゲニン注射の30分前のみ、1回経口投与した。群構成は表2記載のとおり行った。その他の方法は実施例1と同様に行った。
【0048】
【表2】
【0049】
対照群(1群)の体重増加に比べて、マンナンタンパク質投与群(2群)とビール酵母マンナン投与群(3群)は有意な差を示さず、順調な体重増加を示した。
一般症状の変化においても、マンナンタンパク質投与群(2群)とビール酵母マンナン投与群(3群)は何等特記すべき一般症状の異常を示さなかった。
【0050】
足容積から計算した浮腫率を図2に示した。図中、「○」は対照群(1群)、「●」はマンナンタンパク質投与群(2群)、「△」はビール酵母マンナン投与群(3群)、「□」はイブプロフェン投与群(4群)の測定結果をそれぞれ示している。
対照群(1群)はカラゲニン注射1時間後から浮腫を示し、5時間後にピークの71.6±3.3%を示した。これに対しマンナンタンパク質投与群(2群)は、4時間後に46.8±3.0%を示した(p<0.001)。また、ビール酵母マンナン投与群(3群)は、4時間後に50.2±4.3%を示した(p<0.01)。マンナンタンパク質投与群(2群)とビール酵母マンナン投与群(3群)は、いずれの測定時間においても浮腫抑制効果を示した。
また、イブプロフェン投与群は5時間後に42.0±3.6%の浮腫率(p<0.001)を示した。浮腫抑制効果は、イブプロフェン投与群、マンナンタンパク質投与群(2群)、ビール酵母マンナン投与群(3群)の順に強かった。
これらの結果から、ビール酵母マンナンが、マンナンタンパク質やイブプロフェンと同様に急性関節炎に対する抗炎症作用を有すること、また、イブプロフェンと異なり、毎日継続的に摂取しても健康を損なわず、安全に長期投与が可能であることが明らかである。
【0051】
[実施例3]
製造例1で製造したマンナンタンパク質の急性関節炎に対する抗炎症作用を、カラゲニン浮腫モデルを用いて調べた。具体的には、事前に7日間マンナンタンパク質を摂取させたラットの右後肢足蹠にカラゲニンを投与し、浮腫率と、足蹠中の炎症マーカーの量を調べた。
実施例1と同様にして調製した100mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液をカラゲニン注射の前7日間と注射日の1時間前、合計8回経口投与し、実施例1と同様にして調製した3mg/mLのイブプロフェン懸濁液をカラゲニン注射の30分前のみ、1回経口投与した。ラットは3匹/ケージとした。動物数は6匹/群とし、群構成は表3記載のとおり行った。その他の方法は実施例1と同様に行った。なお、表3中「採材」とは、炎症マーカー量測定のために右後肢足蹠を切断することを意味する。
【0052】
【表3】
【0053】
組織中炎症マーカー分析は、足容積を測定直後のラットの右後肢に10μMのインドメタシン(和光純薬工業(株)製)溶液0.1mLを皮下投与した。その後、ラットをエーテル麻酔下で放血致死させ、踝から下の部位を切断した。あらかじめ15mLの遠心管に20mMアスピリン含有生理食塩液100μL、20unit/mLヘパリン含有生理食塩液250μLを加え、その中に2mLのピペットチップの先端を切ったチップを入れた容器を用意し、ラットの足蹠部位の皮膚に大きく縦1箇所、横3〜5箇所の切開を加え、容器の中にこの足組織をつま先が下になるように入れ、3,000rpmで15分間冷却遠心し浸出液を採取した。回収した浸出液に生理食塩液を加えて全量を1.5mLとし、再度3,000rpmで15分間冷却遠心した上清をサンプルとした。
PGE2はProstaglandin E2 EIA Kit−Monoclonal(Cayman Chemical(株)製)を用い、またIL−6及びTNFαは、ラットIL−6及びラットTNFα測定キット(いずれもEndogen(株)製)を用いて 測定した。
【0054】
対照群(1〜2、5群)の体重増加と同様に、マンナンタンパク質投与群(3、6群)は順調な体重増加を示した。
一般症状の変化においても、マンナンタンパク質投与群は何等特記すべき一般症状の異常を示さなかった。
【0055】
容積の測定結果及び容積から計算した浮腫率を図3に示した。図中、左カラムが対照群(2又は5群)であり、中カラムがマンナンタンパク質投与群(3又は6群)であり、右カラムがイブプロフェン投与群(3又は7群)の結果である。
対照群の浮腫率は2時間後に50.0±2.75%(2群)、4時間後(5群)に71.0±1.64%を示した。これに対しマンナンタンパク質投与群は、2時間後に31.4±0.90%(3群)、4時間後に45.0±2.60%(6群)を示した(いずれもp<0.001)。マンナンタンパク質はいずれの測定時間においても浮腫抑制効果を示した。また、イブプロフェン投与群は2時間後に18.6±1.85%(4群)、4時間後に21.2±2.23%(6群)の浮腫率(いずれもp<0.001)を示し、マンナンタンパク質の浮腫抑制効果に比べて、イブプロフェン投与群の抑制効果が強かった。
【0056】
足蹠組織中PGE2の測定結果を図4に示した。図中、左カラムが対照群(1、2又は5群)であり、中カラムがマンナンタンパク質投与群(3又は6群)であり、右カラムがイブプロフェン投与群(3又は7群)の結果である。
対照群のPGE2は、浮腫非誘発群(1群)で2725±247pg/pawを示し、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、3950±499pg/paw(2群)(浮腫非誘発群に対するP<0.05)及び3101±317pg/paw(5群)に上昇した。マンナンタンパク質投与群のPGE2は、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、4107±327pg/paw(3群)及び4019±462pg/paw(6群)を示した。一方、イブプロフェン投与群は、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、459±172pg/paw(4群)及び687±132pg/paw(7群)を示し、浮腫誘発対照群に比べて有意な抑制を示した(p<0.001)。
【0057】
足蹠組織中IL−6の測定結果を図5に示した。図中、左カラムが対照群(1、2又は5群)であり、中カラムがマンナンタンパク質投与群(3又は6群)であり、右カラムがイブプロフェン投与群(3又は7群)の結果である。
対照群のIL−6は、浮腫非誘発群(1群)で1108±97pg/pawを示し、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、942±88pg/paw(2群)及び8257±1779pg/paw(5群)(浮腫非誘発群に対するp<0.001)に上昇した。マンナンタンパク質投与群のIL−6は、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、979±61pg/paw(3群)及び4615±720pg/paw(6群)(浮腫誘発対照群に比べてp<0.01)を示した。一方、イブプロフェン投与群は、腫誘発2時間後及び4時間後に、687±162pg/paw(4群)及び6223±1388pg/paw(7群)を示した。
【0058】
足蹠組織中TNFαの測定結果を図6に示した。図中、左カラムが対照群(1、2又は5群)であり、中カラムがマンナンタンパク質投与群(3又は6群)であり、右カラムがイブプロフェン投与群(3又は7群)の結果である。
対照群のTNFαは、浮腫非誘発群(1群)で1200±299pg/pawを示し、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、1481±257pg/paw(2群)及び2817±846pg/paw(5群)(浮腫非誘発群に対するp<0.05)に上昇した。マンナンタンパク質投与群のTNFαは、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、1278±196pg/paw(3群)及び1916±598pg/paw(6群)を示した。一方、イブプロフェン投与群は、浮腫誘発2時間後及び4時間後に、1053±144pg/paw(4群)及び3016±953pg/paw(7群)を示した。
【0059】
つまり、マンナンタンパク質投与群では、イブプロフェン投与群と異なり、PGE2量は減少していなかったが、炎症マーカーであるIL−6やTNFαは対照群と比べて有意に低下していた。これらの結果から、マンナンタンパク質投与により、PGE2量に対し影響を与えることなく、安全に抗炎症効果が得られることが明らかである。
【0060】
[実施例4]
製造例2で製造したビール酵母マンナンとビール酵母の急性関節炎に対する抗炎症作用を、カラゲニン浮腫モデルを用いて調べた。具体的には、事前に7日間ビール酵母マンナン又はビール酵母を摂取させたラットの右後肢足蹠にカラゲニンを投与し、浮腫率と、足蹠中のPGE2量を調べた。
ラットに投与するイブプロフェンは、実施例2と同様にして調製したものを用いた。また、ビール酵母は、アサヒフードアンドヘルスケア(株)製の製造専用日本薬局法乾燥酵母を使用した。
ビール酵母マンナン及びビール酵母は100mg/mLの懸濁液を実施例2と同様に調製後、カラゲニン注射の前7日間と注射日の1時間前、合計8回経口投与し、イブプロフェンはカラゲニン注射の30分前のみ、1回経口投与した。ラットは4匹/ケージとした。動物数は8匹/群とし、群構成は表4記載のとおり行った。その他の方法は、体重測定日をday0、2、5及び7とした以外は、実施例3と同様に行った。PGE2量は、浮腫誘発5時間後に採材して測定した。
【0061】
【表4】
【0062】
体重推移において群間による差は認められず、ほぼ同様の推移を示した。
また、浮腫率の結果を図7に示した。図中、「×」は非誘発群(1群)、「○」は対照群(2群)、「●」はビール酵母マンナン投与群(3群)、「▲」はビール酵母投与群(4群)、「□」はイブプロフェン投与群(5群)の測定結果をそれぞれ示している。
非誘発群(1群)では、浮腫が認められず、試験期間を通じてほぼ一定に推移した。対照群(2群)では、カラゲニン誘発3、4及び5時間後の浮腫率は、それぞれ69.5±2.8%、66.6±2.1%及び64.4±1.9%を示し、非誘発群(1群)と比較して統計学的に有意な差が認められた(t検定、p<0.01)。ビール酵母マンナン投与群では、カラゲニン誘発3、4及び5時間後の浮腫率は、それぞれ60.0±2.2%、52.8±1.8%及び47.0±2.0%を示し、対照群と比較して4及び5時間後で有意な抑制作用が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。ビール酵母では、カラゲニン誘発3、4及び5時間後の浮腫率は、それぞれ54.8±3.0%、50.7±3.5%及び49.4±2.5%を示し、対照群と比較して3、4及び5時間後で有意な抑制作用が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。イブプロフェンでは、カラゲニン誘発3、4及び5時間後の浮腫率はそれぞれ39.8±3.2%、39.1±2.5%及び38.1±2.3%を示し、対照と比較して2、3、4、5時間後で有意な抑制作用が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。
【0063】
組織中炎症性マーカーPGE2の分析結果を図8に示した。非誘発群(1群)では、1.74±0.21ng/mL、対照群(2群)では6.85±0.80ng/mLを示し、非誘発群と比較して高値を示した。ビール酵母マンナン投与群では、6.70±0.67ng/mL、ビール酵母投与群では、6.54±0.50ng/mL、イブプロフェン投与群では、1.49±0.21ng/mLを示し、イブプロフェン群は、対照と比較して統計学的に有意な差が認められた(Dunnettの多重比較検定、p<0.01)。
これらの結果から、ビール酵母マンナン及びビール酵母は、マンナンタンパク質と同様に、抗炎症作用を有するが、PGE2量を低下させないことが明らかである。
【0064】
[実施例5]
製造例1で製造したマンナンタンパク質の慢性関節炎に対する抗炎症作用を、アジュバント誘発関節炎モデルを用いて調べた。具体的には、アジュバント投与後のラットに一日一回マンナンタンパク質を投与し、浮腫率等の炎症状態を調べた。
まず、0.5%CMC溶液にマンナンタンパク質を加えて懸濁後、10、50及び100mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液を作製した。また、陽性対照物質としてインドメタシン(和光純薬工業(株)製)を用いて、0.5%CMC溶液にインドメタシンを加えて懸濁後、0.1mg/mLのインドメタシン懸濁液を作製した。なお、ラットに対する投与量は体重100g当り1mLとした。
さらに、ラットに投与するアジュバント溶液は、加熱し死菌としたM. tuberculosis H37Ra(和光純薬工業(株)製)を適当量秤り、メノウ乳鉢で微粉末にした後、流動パラフィン(和光純薬工業(株)製)を少しずつ加えて懸濁し、3mg/mLの懸濁液を作製した。調製はアジュバント感作日に行った。
日本チャールスリバー(株)より8週齢で購入した雌性Lewis系ラット(SPF)を7日間予備飼育して実験に供した。ラットは2〜3匹/ケージとし、固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業(株)製)と滅菌脱イオン水をそれぞれ自由に与えた。ラットの個体識別にはピクリン酸を被毛に塗布した。その他の飼育条件は実施例1と同様にして行った。
浮腫誘発当日に、エーテル麻酔下でラットを固定し、右後肢足蹠をアルコール綿で消毒し、0.1mLのアジュバント溶液を右後肢足蹠皮下注射し関節炎を誘発した。なお、誘発日をday0とした。
day0〜22に、一日一回、マンナンタンパク質、インドメタシン又は0.5%CMCを、ラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。動物数は、8匹/群で、群構成は表5記載のとおり行った。
【0065】
【表5】
【0066】
炎症誘発後、一般状態と誘発された浮腫の状態を観察した。
一般状態は、毎日1回症状を観察し、体重は体重計にて測定した。体重測定日はday0、5、9、14、19及び21とした。
体重測定日に、感作部位の右後肢と非感作部位の左後肢の浮腫率を、実施例1と同様にして測定した。また、感作部位の右後肢を除く右前肢、左前肢及び左後肢の発赤、腫脹及び強直の程度を肉眼的に観察し、0〜4点(0:nil、1:mild、2:moderate、3:moderately−severe、4:severe)のスコアを付けた。さらに、尾の数珠球様硬化、耳介毛細血管の増生、鼻部の汚染についても0(異常なし)又は1点(異常)のスコアを付けた。右前肢、左前肢、左後肢、尾、耳及び鼻のスコアを合計し最高15点で評価した。
試験終了翌日(day22)にエーテル吸入麻酔下で、注射器(ヘパリンNa添加)を用いて腹部大動脈より採血し、遠心処理後の上層(血漿)部分を−80℃に保存した。
血漿中のNOは、NO2/NO3 Assay Kit−CII Colorimetric(同仁化学(株)製)を用いてGriess法で測定した。血漿中のPGE2は、Prostaglandin E2 EIA Kit−Monoclonal(Cayman Chemical(株)製)を用いてEIA法で測定した。
得られた体重、関節炎スコア、足容積測定値は群毎の平均値±標準誤差で示した。対照群(1群)に対する各群の統計的有意を検定するため、実施例1と同様に多重比較検定を行い群間の比較を行った。統計的有意差はp<0.05の場合を有意であるとした。
【0067】
関節炎を誘発させたラットの体重は減少傾向を示したが、対照群(2群)に比べ、マンナンタンパク質投与群(3〜5群)とインドメタシン投与群(6群)のいずれも有意な体重変化を示さなかった。
一般状態の観察結果では、インドメタシン投与群(6群)では、長期投与による副作用として胃炎を発症していた。これに対し、マンナンタンパク質投与群(3〜5群)では、対照群(2群)と同様に、関節炎症状以外の異常症状は示さなかった。
【0068】
一方、関節炎スコアの測定結果を図9に示した。図中、「○」は対照群(2群)、「△」はマンナンタンパク質低用量投与群(3群)、「●」はマンナンタンパク質中用量投与群(4群)、「▲」はマンナンタンパク質高用量投与群(5群)、「□」はイブプロフェン投与群(6群)の測定結果をそれぞれ示している。
Day14、day19及びday21のスコア測定で、マンナンタンパク質高用量投与群(5群)及びインドメタシン投与群(6群)は、スコア増加を有意に抑制した(p<0.05、p<0.01又はp<0.001)。
【0069】
感作後肢である右後肢の容積(mL)の測定結果を図10に示した。図中、「○」は対照群(2群)、「△」はマンナンタンパク質低用量投与群(3群)、「●」はマンナンタンパク質中用量投与群(4群)、「▲」はマンナンタンパク質高用量投与群(5群)、「□」はイブプロフェン投与群(6群)の測定結果をそれぞれ示している。
マンナンタンパク質中用量投与群(4群)は、day5、day9、day19、及びday21の右後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.05、p<0.01又はp<0.001)。また、マンナンタンパク質高用量投与群(5群)は、インドメタシン投与群(6群)と同様に、全ての測定時期において、右後肢の容積増加を有意に抑制した(5群:p<0.05、p<0.01又はp<0.001、6群:p<0.001)。
【0070】
非感作後肢である左後肢の容積(mL)の測定結果を図11に示した。図中、「○」は対照群(2群)、「△」はマンナンタンパク質低用量投与群(3群)、「●」はマンナンタンパク質中用量投与群(4群)、「▲」はマンナンタンパク質高用量投与群(5群)、「□」はイブプロフェン投与群(6群)の測定結果をそれぞれ示している。
マンナンタンパク質低用量投与群(3群)は、day19及びday21の左後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.05)。マンナンタンパク質中用量投与群(4群)は、day21の左後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.001)。また、マンナンタンパク質高用量投与群(5群)は、day14、day19、及びday21の左後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.05、p<0.01又はp<0.001)。一方、インドメタシン投与群(6群)は、day9、day14、day19、及びday21の左後肢の容積増加を有意に抑制した(p<0.05、p<0.01又はp<0.001)。
【0071】
血漿NO2−+NO3の分析結果を図12に、血漿PGE2の分析結果を図13に、それぞれ示した。
関節炎を誘発させた対照群(2群)のNO2−+NO3は、非誘発群(1群)の13.0±0.9(μmol/L)に比べ、65.7±7.1(μmol/L)を示し、顕著な増加を示した(p<0.001)。マンナンタンパク質投与群(3〜5群)では、NO2−+NO3の増加に影響は観察されなかった。インドメタシン投与群(6群)では、有意にNO2−+NO3の増加が抑制された(p<0.001)。
一方、関節炎を誘発させた対照群(2群)のPGE2量は、非誘発群(1群)の180.8±15.4(pg/mL)に比べ、1341.2±63.0(pg/mL)を示し、顕著な増加を示した(p<0.001)。マンナンタンパク質低用量投与群(3群)とマンナンタンパク質中用量投与群(4群)では、PGE2の増加に影響は観察されなかった。マンナンタンパク質高用量投与群(5群)ではPGE2の増加を10%程度抑制したが、有意な抑制ではなかった。これに対し、インドメタシン投与群(6群)では顕著な抑制を示した(p<0.001)。
これらの結果から、マンナンタンパク質が、インドメタシンと同様に慢性関節炎に対する抗炎症作用を有すること、また、インドメタシンと異なり、血漿NO2−+NO3と血漿PGE2に対する影響が小さく、毎日継続的に摂取しても健康を損なわず、安全に長期投与が可能であることが明らかである。
【0072】
[実施例6]
マンナンタンパク質、マンナンタンパク質のプロテアーゼ処理物、ビール酵母マンナン、及びビール酵母の慢性関節炎に対する抗炎症作用を、アジュバント誘発関節炎モデルを用いて調べた。具体的には、アジュバント投与後のラットに一日一回マンナンタンパク質等を投与し、浮腫率を調べた。
実施例5と同様にして、100mg/mLのマンナンタンパク質懸濁液、100mg/mLのプロテアーゼ処理済マンナンタンパク質懸濁液、3mg/mLのイブプロフェン(和光純薬工業(株)製)懸濁液、100mg/mLのビール酵母マンナン懸濁液、100mg/mLのビール酵母懸濁液を、それぞれ調製した。なお、ビール酵母マンナンとビール酵母は実施例4で使用したものと同様のものを、プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質は製造例3で製造したものを、それぞれ用いた。
また、ラットに投与するアジュバント溶液は、加熱し死菌としたM. tuberculosis H37Ra(DIFCO(株)製)を適当量秤り、メノウ乳鉢で微粉末にした後、流動パラフィン(関東化学(株)製)を少しずつ加えて懸濁し、5mg/mLの懸濁液を作製した。調製はアジュバント感作日に行った。
日本チャールスリバー(株)より8週齢で購入した雌性Lewis系ラット(SPF)を7日間予備飼育して実験に供した。予備飼育及び実験期間を通じ、温度22±3℃、湿度50±20%、換気回数13〜17回/時間、照明12時間(8時〜20時)の環境下で飼育した。その他の飼育条件は実施例5と同様にして行った。
浮腫誘発当日に、エーテル麻酔下でラットを固定し、左後肢足蹠をアルコール綿で消毒し、0.1mLのアジュバント溶液を左後肢足蹠皮下注射し関節炎を誘発した。なお、誘発日をday0とした。
day0〜22に、一日一回、マンナンタンパク質、プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質、ビール酵母マンナン、ビール酵母、イブプロフェン、又は0.5%CMCを、ラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。動物数は、8匹/群で、群構成は表6記載のとおり行った。
【0073】
【表6】
【0074】
炎症誘発後、一般状態と誘発された浮腫の状態を観察した。
一般状態は、毎日1回症状を観察し、体重は体重計にて測定した。体重測定日はday0、5、9、14、19及び21とした。また、体重測定日に、非感作部位の右後肢の浮腫率を、実施例1と同様にして測定した。
【0075】
関節炎を誘発させた群(2〜7群)の体重は、非誘発群(1群)と比べて、day14以降有意な低値を示した(t検定、p<0.01)。また、その他の誘発群(3〜7群)のいずれも投与物質群間による差は認められず、対照群(2群)とほぼ同様な体重推移を示した。
【0076】
浮腫率の測定結果を図14及び図15に示した。図15は、day9の浮腫率をグラフ化したものである。図14中、「×」は非誘発群(1群)、「○」は対照群(2群)、「△」はマンナンタンパク質投与群(3群)、「▽」はプロテアーゼ処理済マンナンタンパク質投与群(4群)、「●」はビール酵母マンナン投与群(5群)、「▲」はビール酵母投与群(6群)、「□」はイブプロフェン投与群(7群)の測定結果をそれぞれ示している。
非誘発群(1群)では、浮腫が認められず、試験期間を通じてほぼ一定に推移したが、対照群(2群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、153.4±12.1%、166.2±8.3%、170.1±8.2%を示し、非誘発群(1群)と比較して統計学的に有意な差が認められた(day9:p<0.05、day14以降:p<0.01)。また、浮腫率の曲線下面積において、1662.0±119.3(%×日)を示し、非誘発群(1群)と比較して統計学的に有意な差が認められた(t検定、p<0.01)。
マンナンタンパク質投与群(3群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、136.6±14.2%、144.3±11.9%、152.7±10.2%を示した。特にday9では、プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質投与群(4群)やビール酵母マンナン群投与群(5群)よりも低く、イブプロフェン投与群(7群)と同程度の浮腫率を示した。また、浮腫率の曲線下面積において、1391.4±99.4(%×日)を示した。
プロテアーゼ処理済マンナンタンパク質投与群(4群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、130.7±4.0%、163.7±5.8%、154.7±4.2%を示した。また、浮腫率の曲線下面積において、1488.3±58.8(%×日)を示した。
ビール酵母マンナン群投与群(5群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、127.8±16.2%、132.3±12.6%、140.9±11.7%を示した。また、浮腫率の曲線下面積において、1353.3±146.2(%×日)を示した。
ビール酵母投与群(6群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、128.7±8.7%、145.1±10.6%、151.9±9.5%を示した。また、浮腫率の曲線下面積において、1406.1±108.1(%×日)を示した。
一方、イブプロフェン投与群(7群)では、day9以降にかけて浮腫率の増加が認められ、day14、day19、及びday21において、82.7±8.0%、93.3±5.0%、95.3±5.1%を示した。また、day14、day19、及びday21において、対照群(2群)と比較して有意な低値が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。また、浮腫率の曲線下面積において、892.3±65.5(%×日)を示し、対照群(2群)と比較して統計学的に有意な差が認められた(Tukeyの多重比較検定、p<0.01)。
これらの結果から、ビール酵母マンナン及びビール酵母も、マンナンタンパク質と同様に慢性関節炎に対し抗炎症作用を有することが明らかである。特に、day9においては、ビール酵母マンナンやビール酵母よりも、マンナンタンパク質のほうが優れた抗炎症作用を有していたことから、初期の浮腫に対して、マンナンタンパク質が特に有効であることが示唆された。
一方、マンナンタンパク質をプロテアーゼ処理した場合には、処理前よりも抗炎症作用が低下することから、マンナンタンパク質として経口摂取することが、良好な抗炎症効果を得るためには重要であることも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の経口用組成物は、重篤な副作用がなく、長期服用が可能であって、慢性関節炎だけではなく急性関節炎にも抗炎症作用を有するものであり、特に関節炎の予防又は治療の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図2】実施例2において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図3】実施例3において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図4】実施例3において、足蹠組織中のPGE2量の測定結果を示した図である。
【図5】実施例3において、足蹠組織中のIL−6量の測定結果を示した図である。
【図6】実施例3において、足蹠組織中のTNFα量の測定結果を示した図である。
【図7】実施例4において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図8】実施例4において、足蹠組織中のPGE2量の測定結果を示した図である。
【図9】実施例5において、関節炎スコアの測定結果を示した図である。
【図10】実施例5において、感作後肢である右後肢の容積の測定結果を示した図である。
【図11】実施例5において、非感作後肢である左後肢の容積の測定結果を示した図である。
【図12】実施例5において、血漿NO2−+NO3の分析結果を示した図である。
【図13】実施例5において、血漿PGE2の分析結果を示した図である。
【図14】実施例6において、足容積から計算した浮腫率を示した図である。
【図15】実施例6において、day9の浮腫率をグラフ化した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及び酵母の乾燥菌末からなる群より選択される1以上を有効成分とし、関節炎に対する抗炎症作用を有することを特徴とする経口用組成物。
【請求項2】
酵母由来のマンナンタンパク質を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の経口用組成物。
【請求項3】
前記関節炎が急性関節炎であることを特徴とする請求項1又は2記載の経口用組成物。
【請求項4】
前記酵母が糖鎖合成系遺伝子に変異を有し、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の経口用組成物。
【請求項5】
前記変異型糖鎖合成系遺伝子が、α1,2−マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であることを特徴とする請求項4記載の経口用組成物。
【請求項6】
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、サッカロマイセス・パラドキサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロマイセス・ミカタエ(Saccharomyces mikatae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ(Saccharomyces kudriavzevii)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の経口用組成物。
【請求項7】
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエMTY9(gpi10)株(FERM BP−10391)又はサッカロマイセス・セレビシエAB9株(FERM BP−10390)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の経口用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の経口用組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか記載の経口用組成物を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項1】
酵母由来のマンナンタンパク質、酵母由来のα―マンナン、及び酵母の乾燥菌末からなる群より選択される1以上を有効成分とし、関節炎に対する抗炎症作用を有することを特徴とする経口用組成物。
【請求項2】
酵母由来のマンナンタンパク質を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の経口用組成物。
【請求項3】
前記関節炎が急性関節炎であることを特徴とする請求項1又は2記載の経口用組成物。
【請求項4】
前記酵母が糖鎖合成系遺伝子に変異を有し、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の経口用組成物。
【請求項5】
前記変異型糖鎖合成系遺伝子が、α1,2−マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であることを特徴とする請求項4記載の経口用組成物。
【請求項6】
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、サッカロマイセス・パラドキサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロマイセス・ミカタエ(Saccharomyces mikatae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ(Saccharomyces kudriavzevii)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の経口用組成物。
【請求項7】
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエMTY9(gpi10)株(FERM BP−10391)又はサッカロマイセス・セレビシエAB9株(FERM BP−10390)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の経口用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の経口用組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか記載の経口用組成物を含有することを特徴とする医薬品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−298702(P2009−298702A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151770(P2008−151770)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】
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