経皮的心臓弁置換および類似処置時の塞栓予防
大動脈から左頸動脈および右頸動脈への流動の濾過を提供する各種装置が記載される。フィルタは、1つまたは複数の末梢動脈を通じて所望位置に運搬することができる。単一のフィルタ装置が所望の濾過を提供するか、または複数の装置を使用することができる。詳細には、単一のフィルタ装置が腕頭動脈と左頸動脈の間に渡ることができる。それらのフィルタ装置を効果的に使用して、心臓への処置時に発生する塞栓を捕捉することができ、塞栓が原因で卒中または他の有害事象が生じ得る患者の脳に塞栓が移動しないようにする。詳細には、それらのフィルタは、血管内心臓弁置換等、心臓への経皮的処置時に使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2008年6月23日出願のGaldonik他による同時係属米国仮特許出願第61/132,823号、名称「Embolic Protection During Percutaneous Heart Valve Replacement and Similar Procedures」に対する優先権を主張する。同出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般には、外科的介入時に血管内に設置される塞栓予防装置およびそれに対応する方法に関する。本発明は、さらに、経皮的心臓弁置換時に血管中に設置される塞栓フィルタとそれに対応する方法に関する。これら装置および方法は、頸動脈への塞栓の流入の防止を対象とすることができる。
【背景技術】
【0003】
低侵襲性の処置は、回復に要する時間が短縮され、危険性が低減された、望ましい医療結果を患者にもたらすことができる。そのため、多くの外科的処置は、内視鏡等を使用して経皮的な方式で行なわれる。現在では、血管造影、血管形成処置、およびステント送達処置等、心臓血管系内での多数の低侵襲性の処置が広く行なわれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工心臓弁は、もはや満足のいく形で機能を行なわなくなった、損傷のある自然心臓弁を置換するために使用されて成功している。一般に販売される人工心臓弁には、剛性オクルーダを用いた機械弁と、可撓性の葉状構造を有する組織を利用した心臓弁の両方が含まれる。これらの弁は、患者に心肺バイパスを付けた状態で、胸部を通じて外科的に埋め込まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点において、本発明は、患者の心臓に対する血管内処置時に塞栓予防を提供するための方法に関する。方法は、右総頸動脈や右内頸動脈等の右頸動脈、および、左総頸動脈や左内頸動脈等の左頸動脈への流動を濾過するように1つまたは複数の脈管フィルタ要素を配置する工程を含むことができる。一般に、1つまたは複数の脈管フィルタ要素は各々、右鎖骨下動脈、左鎖骨下動脈、またはそれらの組み合わせを通じて送達される。
【0006】
さらなる観点において、本発明は、カテーテルとフィルタ装置とを備える濾過システムに関する。カテーテルは、一般に、近位端および遠位端を有する管状要素と、管状要素を貫通して延びる管腔と、カテーテルの外面上の遠位端寄りに装着された拡張可能構造とを備える。フィルタ装置は、一般に、ガイド構造と、ガイド構造に装着されたフィルタ要素とを備え、カテーテルの管腔は、ガイド構造に装着されたフィルタ要素の送達に適する。
【0007】
別の観点において、本発明は、カテーテルと、第1のフィルタ装置と、第2のフィルタ装置とを備える濾過システムに関する。カテーテルは、一般に、近位端および遠位端を有する管状要素と、管状要素を貫通して延びる管腔とを備える。第1のフィルタ装置は、一般に、第1のガイド構造、および第1のガイド構造に取り付けられた第1の濾過要素を備え、第2のフィルタ装置は、一般に、第2のガイド構造、および第2のガイド構造に取り付けられた第2の濾過要素を備える。カテーテルは、第1のフィルタ装置および第2のフィルタ装置の送達に適した1つまたは複数の管腔を有することができる。また、カテーテルは、第1のフィルタ装置が第1のポートを通ってカテーテルから出ることができるように構成された第1のポートと、第1のフィルタ装置が第1のポートを出る方向に対して角度の付いた方向で、第2のフィルタ装置が第2のポートを通って出ることができるように構成された第2のポートとを備えることができる。
【0008】
他の観点において、本発明は、オーバーチューブと、第1のコアワイヤと、第2のコアワイヤと、送達形態および配備形態を有する第1のフィルタ要素と、送達形態および配備形態を有する第2のフィルタ要素であって、第1のフィルタ要素が第2のフィルタ要素の遠位側に配置される、第2のフィルタ要素とを備えるフィルタ装置に関する。一般に、第1のコアワイヤの少なくとも一部分および第2のコアワイヤの少なくとも一部分は、オーバーチューブ内にある。第1のフィルタ要素の形態は、第1のコアワイヤとオーバーチューブの相対的位置を通じて制御することができ、第2のフィルタ要素の形態は、第2のコアワイヤとオーバーチューブの相対的位置を通じて制御することができる。
【0009】
さらなる観点において、本発明は、第1の封止部材と、第2の封止部材と、各封止部材の内部を貫通して延びる管腔と、管腔に付随する1つまたは複数の濾過要素とを備える濾過システムに関する。第1の封止部材および第2の封止部材は各々、外側に拡張する形態を有することができる。濾過要素は、第1の封止部材および第2の封止部材を過ぎて延びる管腔中を通る流動が、1つまたは複数の濾過要素を通過するように構成することができる。
【0010】
さらに、本発明は、心臓弁の血管内置換のための方法に関する。方法は、心臓から右頸動脈および左頸動脈に流れる流動を濾過するように1つまたは複数のフィルタ要素を配置する工程と、下行大動脈または鎖骨下動脈を通じて心臓に心臓弁送達カテーテルを送達して、少なくとも心臓弁の除去または人工心臓弁の設置に関連する工程を実行する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】大動脈弓および主要な分岐動脈の断面図である。
【図2A】右鎖骨下動脈を通じてそれぞれ右頸動脈および左頸動脈に設置された2つの独立したフィルタ要素を図示した大動脈弓の断面図である。
【図2B】右鎖骨下動脈を通じて右頸動脈に、および左鎖骨下動脈を通じて左頸動脈内に設置された2つの独立したフィルタ要素を図示した大動脈弓の断面図である。
【図3A】腕頭動脈への流動を濾過するように配備された外部フィルタと、カテーテルを通じて配備され、左頸動脈内に配備されたフィルタ要素を持つフィルタ装置とを有するカテーテルを図示する大動脈弓の断面図である。
【図3B】外部遮蔽要素と、外部遮蔽要素に対して近位にある流動ポートに通じる内部フィルタと、カテーテルを通じて配備され、左頸動脈内に配備されたフィルタ要素を持つフィルタ装置とを有するカテーテルを図示した大動脈弓の断面図である。
【図3C】線C−Cに沿った図3Bのカテーテルの断面図である。
【図3D】隠された構造が想像線で示された、図3Bのカテーテルの近位端の部分側面図である。
【図4】遠位開口部および側部開口部を有するカテーテルを、カテーテルの遠位開口部を通じて配備された第1のフィルタ装置およびカテーテルの側部開口部を通じて配備された第2のフィルタ装置と共に図示した大動脈弓の断面図である。
【図5】右頸動脈内に配備された非係留フィルタおよび左頸動脈内に配備された非係留フィルタを図示する大動脈弓の断面図である。
【図6A】一体化ガイド構造上にフィルタ要素を形成する繊維の束を有するフィルタ装置の側面図であって、フィルタ要素がロープロファイルの送達形態で示された図である。
【図6B】フィルタ要素が配備された拡張形態にある、図6Aのフィルタ装置の側面図である。
【図7】カテーテルの表面から外側に延びるフィルタを有し、改良された搬入を可能にする曲がった先端を有する、迅速交換カテーテルの遠位端の部分側面図である。
【図8A】フィルタ要素の配備および折り畳みを可能にするコアワイヤを有する単一の一体化誘導装置に沿って近位フィルタ要素と遠位フィルタ要素とを有するフィルタ装置の側面図であって、フィルタ要素がロープロファイルの送達形態で表示された図である。
【図8B】フィルタ要素が拡張した配備形態で図示された、図8Aのフィルタ装置の側面図である。
【図8C】図8Aおよび8Bの装置と同様のフィルタ装置に採り入れるための遠位フィルタ要素の代替実施例の側面図である。
【図8D】図8Cの線D−Dに沿った図8Cのフィルタ要素の断面図である。
【図8E】コアワイヤが着脱可能要素から分離された、図8Cのフィルタ要素の部分側面図である。
【図9A】遠位フィルタ要素および近位フィルタ要素の独立した配備および折り畳みを可能にする2つのコアワイヤを有する単一の一体化誘導装置に沿って遠位フィルタと近位フィルタを有するフィルタ装置の側面図であって、フィルタ要素がロープロファイルの送達形態で示された図である。
【図9B】フィルタ要素が拡張した配備形態で示された、図9Aのフィルタ装置の側面図である。
【図9C】線C−Cに沿った図9Aの一体化ガイド構造の断面図である。
【図9D】線D−Dに沿った図9Aの一体化ガイド構造の断面図である。
【図10】単一のフィルタ要素が左頸動脈と腕頭動脈の間に渡るフィルタシステムを示した大動脈弓の断面図である。
【図11A】左頸動脈と腕頭動脈の間に渡る濾過装置を示し、濾過装置が、2つの遮蔽要素と、2つの内部フィルタと、遮蔽要素を通過した濾過後の流動を左頸動脈および腕頭動脈に提供するポートとを備える、大動脈弓の断面図である。
【図11B】図11Aの線B−Bに沿った図11Aの濾過装置の断面図である。
【図12】下行大動脈から上行大動脈中に延びるカテーテルを示し、カテーテルの外面の外部フィルタ要素が上行大動脈内の流動を濾過する、大動脈弓の断面図である。
【図13A】右鎖骨下動脈から左頸動脈中に延びる濾過装置を示し、フィルタ要素がロープロファイルの送達形態にある、大動脈弓の断面図である。
【図13B】遠位フィルタ要素が配備された拡張形態にある図13Aの濾過装置を示す、大動脈弓の断面図である。
【図13C】遠位フィルタ要素が配備され、近位フィルタ要素がシースの撤去によりロープロファイルの形態で露出された図13Aの濾過装置を示す、大動脈弓の断面図である。
【図13D】遠位フィルタ要素が配備され、近位フィルタ要素が拡張形態で配備された図13Aの濾過装置を示す、大動脈弓の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書には、心臓、特に心臓の左心室に関する処置中に生じる塞栓を捕捉して、特定の動脈、例えば頸動脈中への塞栓の放出を低減または解消することができる装置、およびそれに対応する処置が記載される。開心術を必要とせずに済むかもしれないように、血管を通じて心臓に接近する低侵襲性の技術を使用して心臓に処置を行なうことが望ましい場合がある。心臓近傍で生じて大動脈中に流入した細片は、頸動脈に流入する可能性があり、その場合、塞栓が原因となって卒中または他の望ましくない結果を引き起こす可能性がある。一般に、フィルタシステムは、心臓治療用の構造とは別に送達することができ、フィルタは、塞栓を生じさせ得る事象より前等、望ましい時に設置することができる。一部の実施例では、フィルタシステムのいくつかの部分は、鎖骨下動脈の1つまたは両方を通じて送達することができる。さらなる実施例では、フィルタシステムまたはそのいくつかの部分は、大腿動脈を通じて送達することができる。心臓弁置換等の経皮的心臓処置時に、例えば頸動脈を保護するという所望の機能を行なう各種のフィルタ構造が記載される。これらの塞栓予防装置は、心臓処置に伴う危険性をより望ましいレベルまで低減させることができ、そのような処置が、開心処置に代わるより臨床的に許容できる代替法になることができる。さらに、フィルタは、直接心臓にアクセスする処置との関連でも使用することができ、心臓を再始動させた後に循環する可能性のある塞栓が患者の脳に循環しないようにフィルタで捕捉される。
【0013】
本明細書に記載の装置は、頸動脈、例えば、大動脈に対する分岐を基準として間隔を空けて位置する左総頸動脈および右総頸動脈の保護を提供するように設計される。したがって、単一のフィルタ要素が、大動脈に沿って著しい長さに渡るか、または複数のフィルタ要素が配備されることができる。右総頸動脈は、大動脈から腕頭動脈への流動を濾過することを通じて保護することができる。これは、この動脈は大動脈から右頸動脈に、ならびに分岐で右鎖骨下動脈に至るためである。一部の実施例では、複数のフィルタが単一のガイド構造に沿って設置され、左頸動脈への流動を濾過するように遠位フィルタが配備されることができ、近位フィルタで腕頭動脈への流動を濾過できるようにする。さらなる実施例では、濾過システムは、2つの頸動脈への流動を濾過するための個別のフィルタを備え、一方、送達システムは、そのような送達を容易にするように構成することができる。個別のフィルタの設置に関して、それらのフィルタは、脳に血液を供給する内頸動脈を特に保護するために、頸動脈のさらに下流に配備することができ、また、外頸動脈から血液を供給される組織はそれほど重大ではないため、外頸動脈の保護は内頸動脈ほど重要ではない。追加的な実施例では、フィルタシステムは、左総頸動脈と腕頭動脈との間に渡る単一の要素を有するように設計することができ、大動脈から個々の動脈への流動を制限して、個々の流動が濾過されるようにする。このように、大動脈から頸動脈への流動に所望程度の濾過を提供する数個の濾過システム設計が、本明細書に記載される。
【0014】
経皮的処置または血管内処置中に送達し、移植することができる人工心臓弁のための設計が提案されている。さらに、経皮的処置は、心臓弁の修復を行なうためにも使用することができ、それにより、心肺バイパスの使用を低減または排除することができる。心臓へのこれらの処置および他の処置は、塞栓が大動脈中に放出される危険性を生じさせる。大動脈中の塞栓は頸動脈に流入する可能性があり、その場合、塞栓が頸動脈から患者の脳に運ばれる恐れがあり、結果として卒中および/または他の有害事象が発生する可能性がある。一般に、下行大動脈および/または鎖骨下動脈に塞栓が流入すると、重大な問題が発生する。本明細書に記載される塞栓予防装置の実施例は、弁置換処置および他の心臓処置中に頸動脈への流動を濾過および/または遮断するように設計される。一般に、これらの処置は、ヒトの患者に行なわれることを意図するが、これら処置および装置は、家畜、愛玩動物、または他の家畜化動物にも使用することができる。
【0015】
図1を参照すると、心臓の血管内処置のための装置は、一般には脚部の切開部を通じて下行大動脈を通って心臓まで運搬されることができる。図1に示すように、心臓弁送達カテーテル102と共に大動脈100が示される。大動脈弓104から分岐する動脈も図に示される。塞栓予防を提供するための濾過装置は、一部の実施例では、右鎖骨下動脈110、および任意で腕頭動脈108中に搬入するために、患者の腕の動脈を通して送達することができる。濾過装置が腕頭動脈内に送達されると、1つまたは複数の濾過要素が、右総頸動脈112および左総頸動脈114の開口への流動を濾過するように配置される。これに代えて、またはこれに加えて、濾過装置は、左鎖骨下動脈116中に搬入するために患者の腕を通して送達することもできる。さらに、濾過装置は、下行大動脈から送達して、頸動脈の1つまたは両方への流動を濾過することができる。一般に、濾過装置は、脈管系内の所望位置への装置先端の移動を提供するガイド構造で送達することができる。これに代えて、またはこれに加えて、装置はカテーテルで送達することもでき、カテーテルは、適切なガイド構造に載せて送達することができる。
【0016】
総頸動脈等の頸動脈を保護する目的で、数個の濾過システムの種類が本明細書に記載される。第1の部類の濾過システムは、個々の頸動脈を保護する別個のフィルタ要素を有する。そのようなシステムは、フィルタ要素の送達を容易にする固有のカテーテル設計を有する場合も、有さない場合もある。例えば、カテーテルは、右鎖骨下動脈からカテーテルを送達した後に、腕頭動脈から右総頸動脈にフィルタを送達するための側部ポートを有するように設計することができる。フィルタ要素は、ガイド構造等に係留された状態とするか、またはフィルタは、後に回収するために適所に係留されないままにすることができる。一部の実施例では、左総頸動脈のためのフィルタ要素は、左鎖骨下動脈を通じて送達して、2つの別個のフィルタの送達および回収を分離することができる。
【0017】
追加実施例では、単一のガイド構造に複数のフィルタ要素を取り付けることができ、1つのフィルタ要素が別のフィルタ要素に対して遠位にある。ガイド構造が右鎖骨下動脈に沿って送達される場合は、遠位フィルタ要素は、左総頸動脈中に配備するために誘導することができる。そして、装置は、近位フィルタ要素が、右総頸動脈への流動を濾過するように、腕頭動脈中への配備のために配置されるように設計することができる。
【0018】
フィルタ要素に関しては、様々な範囲のフィルタ設計が可能である。詳細には、一般に販売される塞栓予防フィルタには膜フィルタ構造が取り込まれている。一般に、これらの膜を利用した構造は、フィルタを通る適度な流動を維持できるように、大きな表面積を有する。所望の大きな表面積を提供するために、このような膜利用フィルタは、例えば、吹流し形状、円錐形状等を有することができる。代替のフィルタ設計は、3次元の濾過マトリクスに基づいている。そうしたフィルタは、患者体内での血管に沿った横方向の広がりの縮小に関して利点を有することができ、一方で、フィルタを通過する良好な流動が維持される、優れた濾過を提供する。適切な3次元濾過マトリクスは、ポリマ繊維から形成することができ、表面毛細管繊維は、繊維のマットを用いる等の濾過マトリクスの形成のために優れた材料であることが分かっている。
【0019】
さらなる実施例では、フィルタ装置は、腕頭動脈の開口の間から左総頸動脈にまで渡る単一の濾過要素を備えることができ、装置が脈管壁まで拡張されて、大動脈から動脈に入る流動を調整する。拡張部分は、封止要素を使用して脈管の壁に対して封止部を形成することができる。その構造は、右鎖骨下動脈を通じて送達することができる。その後、濾過後の流動は、封止要素の個々の内部を通って封止要素を通過することができる。適切な封止要素は、例えば、バルーン、非多孔質の覆いを有する拡張式足場材等である。一部の実施例では、濾過要素は、封止要素に連結された濾過材を備えることができ、封止要素を通過した流動が濾過材を通って流れるようにする。例えば、濾過材は、封止要素間にまたがって濾過材に大きな表面積を与える、概して円筒形の形状を有することができる。代替または追加実施例では、濾過要素は、2つのフィルタ要素を有することができ、1つのフィルタ要素が各封止要素に付随し、その特定の封止要素を通る流動を濾過する。
【0020】
追加または代替の実施例では、封止要素は、大動脈からの流動を受ける開口を有する管状部材に連結することができる。管状部材はさらに、大動脈流動への開口と、封止要素を通過して個々の腕頭動脈および左総頸動脈へと通じる開口との間で、管状部材内に1つまたは複数のフィルタ要素を備えることができる。濾過要素として、膜を利用した要素、繊維を利用した要素、それらの組み合わせ等がなり得る。このような封止部材を利用した構造は、フィルタ構造の送達および除去に関連して、配備形態と回収形態との間でフィルタ要素を遷移させなくてよいという利点を有することができる。封止部材は、利便に配備し、除去のために折り畳めるように設計することができる。封止部材により、直径を縮小することができ、したがって大動脈からの流動を減少させることができるが、フィルタ要素が管状構造に取り囲まれた装置を使用すると、処置に追加的なステップを加えることなく、装置の除去時に塞栓が放出される危険性を低減することができる。
【0021】
一部の実施例では、特に心臓の処置は、下行大動脈から大動脈弓の周囲を通り、上行大動脈を通って心臓に接近することを要する。詳細には、血管内の心臓弁置換は、開心術を伴う心臓弁置換の代替法として行なうことができる。他の心臓処置には、例えば、心臓弁の修復、心室を分ける中隔の不具合の修復、または結果として卒中の危険性がある他の心臓処置が含まれる。だたし、追加または代替実施例では、心臓には胸部を通じて接して処置を行なうことができる。一般には、塞栓発生の著しい危険性を生じる前に、処置中の適切な段階で適切なフィルタが配備される。処置の中には、処置中に循環を維持するために心肺バイパスを要するものもあり、フィルタを配備して、バイパス処置自体ならびに心臓への処置の結果生じる塞栓を捉えることができる。
【0022】
上記のように、一部の実施例では、フィルタ装置は、下行大動脈を通じて誘導してもよい。例えば、フィルタは、ガイドカテーテルの外面に装着することができ、ガイドカテーテルは、カテーテル先端ならびにフィルタ要素が上行大動脈中の大動脈弁と腕頭動脈への開口との間に位置する状態で配置される。ガイドカテーテルは、装着されたフィルタ要素と共に、例えば心臓処置が開始する前、または処置中の他の適当な早い時間に、配置することができる。フィルタは、ロープロファイル形態でその位置まで送達することができ、フィルタが配備形態で配備されることができ、配備形態は、脈管内のカテーテル周辺の流動がフィルタ要素を通るように誘導し、下流の流動の塞栓がフィルタによって除去されるようにする。
【0023】
フィルタが適位置に配備されると、次いで、フィルタが総頸動脈を含む身体への流動の予防を提供している状態で、心臓処置を行なうことができる。フィルタ要素による干渉は一切受けずに、ガイドカテーテルを通じて、心臓処置を行なうための器具を導入することができる。心臓処置が完了する、または少なくとも塞栓の発生で患者に危険性を生じさせる心臓処置の段階が完了すると、ガイドカテーテルをフィルタと共に除去することができる。フィルタは、除去に備える形態に遷移させることができ、吸引カテーテルやシース等の各種の補助装置を使用して装置の除去を容易にすることができる。これについては、下記で具体的な装置との関連でより詳細に説明する。
【0024】
一部の実施例では、1つまたは複数のフィルタが、1つまたは両方の鎖骨下動脈を通じて送達される。右鎖骨下動脈から送達されるフィルタ要素は、腕頭動脈への流動を濾過するために直接配置するか、または、フィルタは、右総頸動脈中に設置するために分岐点周辺で方向操作することができる。左総頸動脈中に設置するには、フィルタ要素は、右鎖骨下動脈を通り、腕頭動脈を通り、大動脈弓に沿って比較的短い距離を送達された後に左総頸動脈に入ることができる。フィルタは、大動脈弓に沿った比較的短い上流への移動の後、左鎖骨下動脈から左総頸動脈中に送達することもできる。代替実施例では、フィルタは、総頸動脈への代替として内頸動脈中に設置することができる。
【0025】
フィルタが右頸動脈中に設置される場合、そのフィルタは、腕頭動脈および大動脈弓を経由した右鎖骨下動脈からの左頸動脈への到達を妨げないであろう。しかし、未濾過の血液を右頸動脈に到達させることなく第2のフィルタを左頸動脈に送達するための開口部を設けたカテーテルにフィルタが装着されない場合は、腕頭動脈中に設置されたフィルタは、右鎖骨下動脈からの左頸動脈への到達を妨げる可能性がある。したがって、フィルタシステムのいくつかの実施例は、腕頭動脈用のフィルタを備え、このフィルタは、そのカテーテルを通じて左頸動脈用のフィルタを送達する前に患者体内に送達されるカテーテルの外側に装着される。
【0026】
2つのフィルタが共通のガイド構造に装着される場合は、フィルタは、右鎖骨下動脈から左頸動脈への到達を提供しながら、腕頭動脈中に設置されることもできる。そして、ガイド構造は、腕頭動脈用のフィルタの妨げになることなく、または右頸動脈に流れ得る未濾過の流動を生じさせることなく、左頸動脈への到達を可能にする。同様に、上記のように、単一のフィルタ構造が大動脈弓に沿って左頸動脈と腕頭動脈の間に渡ることができ、その場合は、個々の動脈への開口または開口近傍に封止を要する可能性がある。
【0027】
単一の構造が左頸動脈と腕頭動脈の間に広がるそのような実施例では、1つまたは複数のフィルタが装着されたガイド構造、または一般には単独のガイド構造が、右鎖骨下動脈内を起点とした後に左頸動脈中に送達される。先端が左頸動脈内に適切に配置されると、フィルタおよび/または封止要素を配備することができる。左総頸動脈および腕頭動脈のための個々のフィルタおよび/または封止要素は、同時に配備するか、または順次配備することができる。配備の順序は、一部の実施例では、装置の構造に応じて決まることもある。詳細には、装置は、本質的に同時に要素を配備するように設計することができる。
【0028】
それらの実施例では、左頸動脈および腕頭動脈への流動を濾過するために濾過構造が設置されると、塞栓が頸動脈中に流入する危険性が低下または解消された状態で、心臓に関する処置を行なうことができる。心臓処置が完了すると、フィルタ構造を除去することができる。一部の実施例では、個々のフィルタおよび/または封止部材は、収集形態に遷移させることができる。追加または代替の実施例では、吸引カテーテルまたはシースを使用して(1つまたは複数の)フィルタ要素の回収を容易にすることができ、追加的な器具が、フィルタ要素の回収中にフィルタ要素から塞栓が放出されないように何らかの保護を提供することができる。
【0029】
本明細書のフィルタシステムは、心臓に処置を行う際に頸動脈中に塞栓が放出されることからの保護を提供する。一般に、心臓処置は、胸部および/または下行大動脈を通じて心臓に到達することを伴い得る。頸動脈の保護を通じて、卒中の危険性を大幅に下げることができる。装置および処置は、心臓処置を行なうために導入される装置の妨げにならないように設計される。頸動脈への流動を著しく減少させない適切な濾過では、濾過による保護は、長時間を要する心臓処置にわたり機能させておくことができる。したがって、これらの濾過の手法は、心臓への処置から生じる結果を改善するための実際的な手法を提供する。
【0030】
濾過装置
濾過装置は、大動脈から右頸動脈および左頸動脈への流動を濾過する目的を達成するために各種設計を採り込むことができる。一般に、設計は、4グループに系統化することができる。第1のグループでは、右頸動脈および左頸動脈それぞれに個別のフィルタ要素が使用される。第2のグループでは、複数のフィルタ要素が共通のガイド構造に装着され、ガイド構造は、遠位フィルタを左頸動脈に送達できるようにする構造を有し、一方、近位フィルタは、腕頭動脈への流動を濾過するために配置することができる。第3のグループでは、両動脈への流動が濾過されるように、左頸動脈から腕頭動脈に渡る単一の構造が設計される。第4のグループでは、上行大動脈への送達のためにカテーテルの外面にフィルタ要素が設置され、頸動脈への流動を含む大動脈弓周辺の流動が濾過されるようにする。心臓処置を行なうための装置は、フィルタ要素の付いたカテーテルを通じて送達することができる。
【0031】
1.総頸動脈濾過のための個別のフィルタ要素
このグループの濾過システムは、左頸動脈および右頸動脈それぞれを保護する別個の要素を有する。フィルタは、総頸動脈中に設置するか、あるいは、1つまたは両方のフィルタが、総頸動脈を通過したそれぞれの内頸動脈内に設置することができる。一般に、フィルタまたは塞栓予防装置は、フィルタが配備されて流動を濾過している間、係留することができるか、または、それに代えて、もしくはそれに加えて、フィルタの1つまたは両方を、脈管内の所望の流動の濾過を提供する位置に係留されない状態で置いておくこともできる。係留されないフィルタは、心臓処置完了後のいずれかの時点で収集することができる。適切な係留具には、例えばガイド構造が含まれる。ガイドワイヤや一体化された誘導装置等のガイド構造は、一般に、フィルタを所望の位置に設置できるようにする可撓性および操作性を提供する。一部の実施例では、フィルタ装置は、腕頭動脈または総頸動脈内に搬入される単一のガイド構造および単一のフィルタ要素を備える。フィルタが非係留形態で配備される場合、ガイド構造等は、選択された場所にフィルタを放出するためのシース等の配備器具として設計することができる。フィルタを設置する動機となった処置が完了した後、適切な回収器具を使用して、係留されていないフィルタを収集することができる。
【0032】
適切なフィルタ要素は、各種材料から形成することができ、中程度の塞栓負荷下でも十分な血流が維持されるように設計することができる。一部の実施例では、フィルタ要素は、フィルタの表面および/または濾過マトリクス内で塞栓を捕捉できるようにする3次元の濾過マトリクスを備えることができる。濾過マトリクスは、マトリクスを貫通する多数の代替の流動経路を提供することができ、著しい塞栓負荷の場合でもフィルタを通る良好な流動を維持することができる。これに加えて、またはこれに代えて、フィルタ要素は、明確な孔を有するフィルタ膜と一般にその膜を支持する枠とを備える、バスケット型のフィルタ要素を備えることもできる。流動がバスケットの中へ誘導され、そこで塞栓が濾過されるように、バスケットの開口部を脈管を横断するように設置することができる。さらなる実施例では、フィルタ要素は、3次元の濾過マトリクスと、膜を利用したフィルタ要素を組み合わせることができる。
【0033】
図2Aおよび2Bに、独立したフィルタ要素がそれぞれ左総頸動脈および右総頸動脈中に配備される濾過システムを示す。図2Aを参照すると、フィルタシステム128は、カテーテル130、第1のフィルタ装置132、および第2のフィルタ装置134を備える。カテーテル130は、中央管腔136を備え、中央管腔136を通して第1のフィルタ装置132および第2のフィルタ装置134を送達することができる。一部の実施例では、カテーテル130は2つの管腔を備えて、カテーテル130を通してフィルタ装置132、134を別々に搬入できるようにしてよい。フィルタ装置132は、係留具またはガイド構造138、およびフィルタ要素140を備えることができる。同様に、フィルタ装置134は、係留具またはガイド構造142、およびフィルタ要素144を備えることができる。
【0034】
フィルタ要素140、144は、それぞれガイド構造138、142に取り付けることができ、そのため、フィルタ要素140、144は、送達形態と配備形態との間で、別々に、または順次駆動することができる。一部の実施例では、フィルタ要素は、下記のように形状記憶ポリマもしくは合金または他の適切な材料で形成された、自動拡張フィルタからなることができる。そのような実施例では、ガイド構造は、ガイドワイヤを備えることができ、フィルタ要素は、溶接、接着、または他の方法で適切にガイドワイヤに取り付けることができる。他の実施例では、ガイド構造は、コアワイヤおよびオーバーチューブを備えた、一体化された誘導装置であってよく、その場合、コアワイヤとオーバーチューブの相対的な運動により、取り付けられたフィルタ要素を送達形態と配備形態間で遷移させることができる。適切なフィルタ要素については下記でさらに説明する。
【0035】
図2Bを参照すると、濾過システム146は、2つの別個のカテーテル152、156を通じて配備される2つの独立した濾過装置148、150を備える。濾過装置148は、係留具またはガイド構造156と、係留具の遠位端または遠位端近傍で係留具156に取り付けられたフィルタ要素158とを備える。係留具156の遠位端およびフィルタ要素158は、カテーテル152内部の管腔160を通じて搬入することができる。同様に、フィルタ装置150は、係留具またはガイド構造162と、係留具162の遠位端または遠位端近傍で係留具162に取り付けられたフィルタ要素164とを備える。係留具162の遠位端およびフィルタ要素164は、カテーテル154内部の管腔166を通じて搬入することができる。図2Bに示すように、カテーテル152は、右鎖骨下動脈110内に配置され、フィルタ要素158は、係留具156に付けられて、右総頸動脈112中に配置される。さらに、カテーテル154は、左鎖骨下動脈116中に配置され、フィルタ要素164は、係留具162に付けられて左総頸動脈114中に配置される。あるいは、フィルタ158および/またはフィルタ164は、対応する内頸動脈中に設置することができる。
【0036】
図3Aおよび3Bを参照すると、フィルタシステムが示され、これらのシステムでは、送達カテーテルが、フィルタ、および/または、図2Aのフィルタシステム130に関してフィルタ装置の1つに置き換わることができる遮蔽要素を備える。図3Aを参照すると、フィルタシステム186は、フィルタ装置188およびカテーテル190を備える。フィルタ装置188は、係留具またはガイド構造192、およびフィルタ要素194を備える。カテーテル190は、中央管腔198を有する管状要素196と、管状要素196の遠位端または遠位端近傍に取り付けられたフィルタ要素200とを備える。フィルタ要素200は、腕頭動脈108中に配備するための形態およびサイズを基準として設計することができる。フィルタ装置188は、左頸動脈114中にフィルタ要素194を設置するために中央管腔198から延びるように設計することができる。
【0037】
図3Bを参照すると、フィルタシステム202は、フィルタ装置204およびカテーテル206を備える。フィルタ装置204は、係留具またはガイド構造208およびフィルタ要素210を備える。カテーテル206は、管腔214および膨張管腔215を有する管状要素212と、遮蔽要素216と、フィルタ要素218とを備える。管状要素212は、遠位ポート220および濾過後流動ポート222を備える。管状要素212の断面図を図3Cに示す。遮蔽要素216は、例えばバルーンまたは他の拡張可能な非多孔質構造である。膨張管腔215は、膨張ポート224において遮蔽要素216と界接することができる。フィルタ要素218は、遠位ポート220とフィルタ流動ポート222との間の流動がフィルタ要素218で濾過されるように、管腔214内部に置かれる。カテーテル190の近位端を図3Dに示す。この実施例では、管状要素212の近位端は、ルアーフィッティング等のフィッティング226を有する。サイドアーム228は、シリンジ等の膨張源230を膨張管腔215と連結し、膨張源230は、フィッティング232でアーム228と連結される。
【0038】
フィルタ要素218は、任意の適切なフィルタ材料またはその組み合わせから形成することができる。管状要素212内部でのフィルタ要素218の位置のために、フィルタ要素218は、所望の形態で固定的に取り付けることができる。例えば、フィルタ要素は、表面毛細管繊維等の繊維濾過マトリクス、織布もしくは不織マット、多孔質フィルタ膜、またはそれらの組み合わせを備えることができる。適切な多孔膜は、ポリマおよび/または金属を含むシートを備えることから形成することができる。ガイド構造208は、例えばガスケットまたはワッシャーがフィルタ要素218内部に取り付けられているフィルタ要素218を通って摺動することができる。ガスケットまたはワッシャーは、ポリテトラフルオロエチレン等から形成して、ガイド構造208との低摩擦性の界接面を生成することができる。フィルタ要素218は、脈管内への送達および脈管からの撤去時にフィルタ要素210をその中に配置できる遠位部を残して、管状要素212内に配置することができる。フィルタ装置204は、患者体内に設置する前に、カテーテル206に対して事前に装填することができる。フィルタシステム186では、ポート222を通って腕頭動脈108に向かう大動脈血流がフィルタ要素218で濾過され、右鎖骨下動脈173および右総頸動脈112に入る。
【0039】
図4は、図2Aに示すシステムと同様の濾過システムの代替実施例を示す。図4を参照すると、濾過システム242は、カテーテル244、第1のフィルタ装置246、および第2のフィルタ装置248を備える。第1のフィルタ装置246および第2のフィルタ装置248は、図2Aの第1のフィルタ装置132および第2のフィルタ装置134に類似する。第1のフィルタ装置246は、係留具またはガイド構造250およびフィルタ要素252を備え、カテーテル244から右頸動脈112中に延びるように設計される。フィルタ装置248は、係留具またはガイド構造254およびフィルタ要素256を備え、カテーテル244から左頸動脈114中に延びるように設計される。
【0040】
カテーテル244は、遠位ポート258および側部ポート260を備える。遠位ポート258および側部ポート160は、フィルタ要素および係留具が個々のポートから延びて配備位置になるように、カテーテル244内の管腔262からフィルタ要素を送達するために設計される。カテーテル244等の偏向調整カテーテルは、ガイド構造が急な方向転換を行なうための支援を提供することができる。これは、側部ポートが、ガイド構造の先端を所望の方向に誘導するのを助けることができるためである。カテーテル244は、ガイド構造間の干渉なしに2つのガイド構造を送達できるように、適切な直径で形成することができる。偏向カテーテルについては、参照により本明細書に組み込まれる、Webster他による米国特許出願公開第2007/0208302号、名称「Deflection Control Catheters, Support Catheters, and Methods of Use」にさらに記載される。
【0041】
図5を参照すると、濾過システム282は、係留されない形式で動脈内に配備して所望の濾過を提供することができる、着脱可能フィルタ284、286を備える。図5に示すように、フィルタ要素284、286は、それぞれ右頸動脈および左頸動脈中に配備される。下記でさらに説明するように、フィルタ284、286は、適切な送達器具を使用して配備することができ、塞栓生成の危険性を生じさせる心臓処置が完了すると、除去器具を使用してフィルタを撤去することができ、そのためフィルタは動脈内に残らない。
【0042】
図5には、係留されないフィルタを示し、1つのフィルタが右総頸動脈にあり、1つのフィルタが左総頸動脈にあるが。代替実施例では、係留されないフィルタを腕頭動脈中に設置し、および/または、1つまたは両方のフィルタを、対応する内頸動脈中に設置することができる。さらに、フィルタシステムによっては、1つのフィルタは係留することができ、第2のフィルタは係留されない。例えば、係留されないフィルタは、左総頸動脈中に設置し、係留されたフィルタは、右総頸動脈中に設置することができる。係留されないフィルタが左総頸動脈に置かれる実施例では、心臓処置の一部の際には、大動脈には頸動脈の濾過に関係する構造が設置されない可能性がある。
【0043】
図2乃至5の上記実施例では、濾過システムは、ガイド構造との関連における適切な配備、または非係留式の配備のための各種のフィルタ要素を備えることができる。フィルタ要素は、一般に、中程度の塞栓負荷下でも十分な流動が維持されるように、左頸動脈または右頸動脈への大動脈血の流動を濾過するように設計される。一部の実施例では、所望の濾過を行なうために、フィルタは、腕頭動脈、右頸動脈、および/または左頸動脈中に配備されるように設計することができる。フィルタ要素がガイド構造との関連で、または係留されない形式で配備される実施例の場合は、フィルタ要素は、一般に、他の用途向けの設計から転用することができる。一般に、フィルタ要素は、3次元の濾過マトリクス、フィルタ膜、それらの組み合わせ等を備えることができる。
【0044】
バスケット型フィルタは、一般に、2次元の膜を通る孔が穿孔、製織、成型、またはその他の方法で形成された濾過膜を有する。孔のサイズは、有益な血液成分の通過を許す一方で、孔のサイズを超えるサイズの塞栓は通さないように選択することができる。バスケットの形状は、円錐形状、吹流し形状、または同様の形状を有することができる。一般に、濾過膜は、枠、支柱等で支持されて、フィルタ構造に所望の形状を与えることができる。バスケットの表面積が広いことにより、特定の塞栓負荷の場合に膜の目詰まりを低減することができる。適切な孔のサイズは、特定の用途に合わせて決定することができる。一般的な血管内での用途には、50ミクロン乃至250ミクロンの直径の孔が適する可能性がある。多孔膜は、例えば、ポリウレタンもしくはポリエステル等のポリマ、金属、または枠部材に取り付けられる他の適切な材料を備えることができる。
【0045】
一般に、バスケットフィルタの枠部材および/または支柱は、例えば、生体適合性金属、適切なポリマ、またはそれらの組み合わせから作製することができる。適切な生体適合性金属には、例えば、チタン、コバルト、ステンレス鋼、ニッケル、鉄合金、コバルト合金、例として、コバルト−クロム−ニッケル合金であるElgiloy(登録商標)、ニッケル−コバルト−クロム−モリブデン合金であるMP35N(登録商標)、およびニッケル−チタン合金であるNitinolが含まれる。一部の実施例では、枠は、脈管内に放出された時に自然に拡張形態をとるように設計することができ、一方、他の実施例では、枠は、駆動して配備形態をとらせることができる。一般に販売されるバスケットフィルタは、バスケットの直径に対応した各種の枠サイズのものが製造されている。枠のサイズは、バスケットの端部が、血管壁を損傷することなく脈管壁と接触するように選ぶことができる。一般に販売されるバスケットフィルタには、例えば、米国イリノイ州のAbbott Laboratoriesの塞栓予防装置であるRX Accunet(登録商標)、米国マサチューセッツ州のBoston Scientific Inc.のFilterWire(商標)、および、米国ミネソタ州のev3 Inc.のSpiderFX(商標)塞栓予防装置、が含まれる。SpiderFX(商標)は、フィルタ部材として機能する吹流し形状のNitinol製メッシュバスケットを有するバスケットフィルタを備える。自動拡張するバスケットフィルタについては、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Oslund他による米国特許第6,740,061号、名称「Distal Protection Device」にさらに記載される。濾過膜を有する駆動可能なフィルタ要素についてはさらに、Konya他による米国特許第6,146,396号、名称「Declotting Method and Apparatus」、および、Daniel他による米国特許第6,663,652号、名称「Distal Protection Device and Method」に記載され、両特許は参照により本明細書に組み込まれる。フィルタサイズの選択を支援するために、血管造影、定量血管造影、超音波、または他の適切な技術を介して、基準となる脈管直径を得ることができる。
【0046】
マトリクスベースのフィルタは、一般に、材料の3次元の塊体を通る、互いに連結された曲がった流動経路の組織網を備えることができる。代替の流動経路が利用できることにより、そのようなマトリクスベースのフィルタは、中程度の塞栓負荷でも良好な流動を維持することができる。一般には、3次元の濾過マトリクスを有する濾過装置は、装置の配備後、濾過装置全体にわたって低い圧力低下を維持できる。一部の実施例では、3次元の濾過マトリクスを有するフィルタは、バスケット型のフィルタ設計と比べて、血管に沿った横方向の広がりを大幅に小さくすることができる。これは、フィルタマトリクスを通る流動経路により、中程度の塞栓負荷下で流動を維持するための大きな表面積の必要性が低減するからである。
【0047】
一部の実施例では、マトリクスの材料は、ヒドロゲルや形状記憶繊維等の膨潤性ポリマを含むことができる。ヒドロゲルは、架橋結合することで水溶性となることを妨げているポリマを含む親水性材料である。そのような材料が血液や他の体液等の水溶液と接触すると、材料は、材料の構造中に流体/液体が吸収されるために拡張する。そのような種類の濾過材料については、参照により本明細書に組み込まれる、Ogleによる米国特許第7,303,575号、名称「Embolism Protection Devices」にさらに記載される。
【0048】
さらなる実施例では、3次元の濾過マトリクスを有するフィルタは、濾過マトリクス中に配備される繊維の束を備えることができる。適切な繊維には、例えば表面毛細管繊維(SCF)繊維が含まれる。SCF繊維は、繊維の長さまたはその一部に及ぶ溝部/溝(表面毛細管)を有する繊維を備える。溝部の存在により、同一の半径を有する無溝部の繊維(「円形繊維」)に比べて繊維の表面積が増大する。例えば、テネシー州ジョンソンシティのFiber Innovation Technology,Inc.から販売されるSCF繊維である4DG(商標)Fiberは、典型的には、同等の円形繊維の3倍の比表面積を有する。
【0049】
図2乃至図4を参照すると、係留式フィルタに関連するガイド構造は、ガイドワイヤ、一体化された誘導装置等を備えることができる。本明細書に記載されるように、ガイドワイヤは、細長い形状を有し、円形または非円形の断面を有することができる。一部の実施例では、ガイドワイヤは、例えば、中実ワイヤまたは中空の内部を有するコイルであってよく、任意で表面上に覆いを有する。一般に、ガイドワイヤは、患者の血管系または患者体内の他の脈管内における操作のために可撓性があり、先端は屈曲可能にしてガイドワイヤの方向操作を容易にしてもよい。
【0050】
本明細書で使用される場合、一体化ガイド構造は、ガイドワイヤと同様である場合もあるが、一体化ガイド構造は、相互に対して相対的に動く構成部品を有する構造を備えることができる。例えば、一体化ガイド構造は、コアワイヤおよびオーバーチューブを有することができ、コアワイヤおよびオーバーチューブは、相互に相対的に長手方向に動くことができる。一部の実施例では、トルクカプラでコアワイヤとオーバーチューブの回転運動を結合することができ、その場合は、相対的な長手方向の動きの範囲が制限される可能性もある。遠位先端近傍の構造の可撓性を増すために、コイルを構造に加えることもできる。
【0051】
図6Aおよび6Bを参照すると、オーバーチューブ308、オーバーチューブ308内を延びるコアワイヤ310、ハンドル312、およびフィルタ要素314を備えるフィルタ装置306。図6Aの側面図を参照すると、オーバーチューブ308は、遠位端にテーパー部316を有する。この実施例では、近位コイル318がテーパー部316に当接し、テーパー部316に固定される。コアワイヤ310は、遠位端で遠位コイル320に被覆される。遠位コイル320は、はんだおよび溶接322と連結されるが、他の取り付け手法を使用することができる。オーバーチューブ308、コアワイヤ310、近位コイル318、遠位コイル320、および握り312は、すべてステンレス鋼から形成することができるが、必要に応じて他の適切な材料を使用することができる。コアワイヤとオーバーチューブの相対的な動きを制御するための適切な駆動器具については、2008年7月14日出願のGaldonik他による同時係属米国特許出願第12/218,306号、名称「Fiber Based Medical Devices and Aspiration Catheters」にさらに記載され、同出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0052】
この実施例では、フィルタ装置314は、第1の取り付け具326および第2の取り付け具328で取り付けられたSCF繊維の束324を備える。長さ0.1インチの管330は、ポリイミド重合体から形成することができ、管330は、コアワイヤ310が管中に延びた状態で第2の取り付け具328内部に配置される。繊維は、放射線不透過性の帯等で、2つの取り付け具326、328に、かしめ/圧着/接合される。第1の取り付け具326は、コアワイヤ310と共に動くように取り付けられ、第2の取り付け具328は、近位コイル318とオーバーチューブ308と共に動くように取り付けられる。圧着後、繊維の束は、シアノアクリレート等の接着剤で各端部において接合する、および/または熱接合で融着することができる。
【0053】
繊維の長さは、一般に、配備部位における脈管の半径の少なくとも2倍の長さになるように選ばれる。長さは、配備形態において、フィルタ要素227が流動を維持しながら、かつ血管壁に損傷を与えることなく効果的に塞栓予防を提供できるように選ぶことができる。上述のように、基準となる脈管直径は、血管造影または他の適切な方法で推定することができる。また、繊維は、一般に、送達のためのロープロファイル形態で整列され、配備形態では繊維がコアワイヤから外側に広がる。SCF繊維の性質は、フィルタ要素324が配備形態にある時に、著しい塞栓負荷であっても脈管内で流動が十分に維持されるように選ぶことができる。適当な繊維特性の選択ならびにそのような実施例に適した材料についてのさらなる解説は、Galdonik他による米国特許出願公開第2006/0200047(A)号、名称「Steerable Device Having a Corewire Within a Tube and Combination with a Functional Medical Component」に見出すことができ、同出願公開は参照により本明細書に組み込まれる。SCF繊維を用いる図6Aおよび6Bの装置と同様の構造の一般に販売されているフィルタは、FiberNet(登録商標)の商品名で、Lumen Biomedical,Inc.から入手することができる。
【0054】
一部の実施例では、フィルタ要素は、3次元の濾過マトリクスとバスケット型フィルタの組み合わせを備えることができる。例えば、繊維を利用したフィルタをバスケット中に設置して、流動が初めに濾過マトリクスを通り、次いで濾過膜を通るようにする。バスケットは、繊維利用濾過膜を支持する安定性のある枠を形成することができ、これは、高流量の脈管に望ましい可能性がある。バスケットは、特定の配備設置について濾過マトリクスの除去を容易にすることができる。
【0055】
図3Aに記載されるフィルタシステムは、カテーテルの外面にフィルタが装着されたカテーテルを有する。流れ濾過の用途のために適合させることができるカテーテルについては、例えばGaldonik他による米国特許出願公開第2008/0172066号、名称「Embolectomy Procedures With a Device Comprising a Polymer And Devices With Polymer Matrices and Supports」により詳細に記載される。同出願公開は参照により本明細書に組み込まれる。外部フィルタを有するカテーテルの適切な実施例が図7に示され、このカテーテルは、迅速交換構造も有する。図7を参照すると、カテーテル350は、曲がった先端354と遠位開口部356とを有する管状要素352を備える。迅速交換ポート358は、管状要素352の中にガイド構造360を挿入できるようにし、ガイド構造360は、遠位開口部356で管状要素352から出ることができる。
【0056】
オーバーチューブ362は、管状要素352の上に載っている。オーバーチューブ362は、ガイド構造360からの干渉を受けずにオーバーチューブ362と管状要素352の相対的な動きを提供するための切れ目または同様の構造364を有することができる。管状要素352が中央管腔を定義することができるため、オーバーチューブ362は一般には液体を保持する必要はないので、オーバーチューブ362は、管状要素352の上に載り、かつ装置の近位端からオーバーチューブ362の遠位端に長手方向の運動を伝達することができるという意味においてのみ、管状である構造を有することができる。繊維366は、第1の端部において第1の帯368で管状要素352に付着し、繊維366は、第2の端部において第2の帯370でオーバーチューブ362に付着する。オーバーチューブ362と管状要素352の相対的な動きを使用して、配備された広がった形態と、脈管への送達および脈管からの除去のためのよりまっすぐな形態との間で繊維366を遷移させることができる。図7に示すように、繊維366は広がった配備形態にあるが、遠位でオーバーチューブ362に対して管状要素352が移動すると、繊維は、よりまっすぐなロープロファイル形態になる。繊維366は、一般に束として配列され、繊維366は、SCF繊維を備えて、望ましい濾過を提供することができる。
【0057】
一部の実施例では、係留されないフィルタ要素が脈管内に設置されて、所望の濾過を提供する。そのような濾過システムについては図5との関連で上述した。一般に販売されている非係留フィルタは、静脈、特に大静脈中に配備するためのものが入手可能である。そのような大静脈用のフィルタを、頸動脈への流動を濾過するための暫定的な設置向けに適合することができる。濾過膜および/または濾過マトリクスを大静脈用のフィルタ設計に追加して、塞栓移動のより高い抑制を提供することができる。大静脈フィルタについては、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Kim他による米国特許第6,126,673号、名称「Vena Cava Filter」にさらに記載される。3次元濾過マトリクスを有する非係留フィルタについては、参照により本明細書に組み込まれる、Ogleによる米国特許第7,303,575号、名称「Embolic Protection Devices」にさらに記載される。一部の実施例では、自動拡張する非係留フィルタをカテーテルから送達することができ、フィルタは、フィルタを送達形態に拘束するカテーテルから押し出される。自動拡張フィルタが放出されると、フィルタが脈管内で展開する。代替実施例では、専用の送達装置を使用して非係留フィルタを送達することができる。同様に、回収装置を使用して非係留フィルタを収集することができる。回収装置は、フィルタを把持するか、または他の方法でフィルタと係合する。一部の非係留フィルタ設計に適した回収装置が、参照により本明細書に組み込まれる、Suon他による米国特許第6,726,621号、名称「Retrieval Devices for Vena Cava Filter」に記載される。同様に、カテーテルを通じて血管系に送達することができる把持具または微小鉗子を同様に使用して、非係留フィルタを把持し、除去することができる。非係留フィルタは、一部の実施例では、シースまたは吸引カテーテルの遠位端の中に引き込むことができる。
【0058】
一般に、本明細書の上記または下記に記載されるカテーテルはいずれも、ワイヤ被覆設計または迅速交換設計を備えることができる。迅速交換形式では、ガイド構造は、カテーテルの側面を通って、概ねカテーテルの遠位端に向かって管腔から出、ガイド構造は、カテーテルの長さの一部のみにわたりカテーテルと係合する。カテーテルは、1つまたは複数の生体適合性材料から作製することができ、それらの材料には、例えば、金属、例として、ステンレス鋼もしくは例えばNitinol等の合金、または、ポリマ、例としてポリエーテルアミドブロック共重合体(PEBAX(登録商標))、ナイロン(ポリアミド)、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネートもしくは他の適切な生体適合性ポリマが含まれる。一部の実施例では、カテーテルは、ポリマに埋め込まれた編組金属で強化されたポリマ管状構造を備えることができる。また、カテーテルの先端は、湾曲または屈曲させてガイド構造によるカテーテルの搬入を改良してもよい。迅速交換カテーテルについては、Boldenow他による米国特許出願公開第2007/0060944(A)号、名称「Tracking Aspiration Catheter」にさらに記載され、同出願公開は参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
2.共通のガイド構造に付けられた複数のフィルタ要素
一部の実施例では、左頸動脈および右頸動脈への大動脈血流の同時の濾過を提供するのに適した複数のフィルタ要素を使用して、単一のガイド構造を構築することができる。そのようなフィルタ装置は、近位フィルタ要素および遠位フィルタ要素が取り付けられた単一のガイド構造を備えることができる。近位フィルタ要素は、一般に、腕頭動脈内に搬入し、配備することができ、遠位フィルタ要素は、腕頭動脈を通じて配備のために左頸動脈内に搬入することができる。この構成では、遠位フィルタを通る流動は、ガイド構造の向きに対して近位から遠位に向かう方向になり、近位フィルタを通る流動は、ガイド構造の向きに対して遠位から近位に向かう方向になる。一部の実施例では、フィルタは、予想される流動方向に基づいて、適切な向きで設計することができる。
【0060】
フィルタは、一般に、ロープロファイルの送達形態および拡張した配備形態を有する。一部の実施例では、ガイド構造は、オーバーチューブに付随する1つまたは複数のコアワイヤを備えることができ、(1つまたは複数の)コアワイヤとオーバーチューブの相対的な動きを使用して、フィルタを、ロープロファイル形態と拡張形態との間で遷移させることができる。フィルタ装置は、近位フィルタ要素および遠位フィルタ要素が各自のロープロファイルの送達形態と配備形態との間を、別々に駆動されるか、または同時に駆動されるように構築することができる。2つのフィルタ要素を形態間で別々に遷移させることができる場合は、下記でさらに説明するように、近位フィルタ要素と遠位フィルタ要素は、形態間を順次遷移させて、装置の除去を容易にすることができる。一部の実施例では、1つまたは両方のフィルタ要素が、シース等からの放出の後に自動拡張することができる。
【0061】
図8Aおよび8Bに、共通のガイド構造に取り付けられた2つのフィルタ要素を有する実施例を示す。この実施例では、2つのフィルタは、一般に、同時に配備され、後に折り畳まれる。フィルタ装置390は、ガイド構造392、近位フィルタ要素394、および遠位フィルタ要素396を備える。ガイド構造392は、オーバーチューブ398およびコアワイヤ400を備える。オーバーチューブ398およびコアワイヤ400は、オーバーチューブ398とコアワイヤ400の間でトルクの結合を提供する1つまたは複数のトルクカプラの要素を備えることができる。一般に、オーバーチューブ398は、コアワイヤ400に対して長手方向に動くことができるが、トルクカプラまたは他の構造が相対運動の範囲を制限する可能性がある。適切なトルクカプラは、コアワイヤ400の表面に沿った構造と、オーバーチューブ398の内側表面との間に、鍵と鍵穴タイプの界接面を有することができる。オーバーチューブ398は、近位フィルタ394の近傍に収縮部402を備えることができ、それにより、その箇所におけるオーバーチューブ398のわずかな収縮を可能にして、オーバーチューブ398の全長を短縮して近位フィルタ394の形態を変化させる。収縮部402は、アコーディオン型の構造等、中程度の力が加わると折り畳むように設計された、弱く作られた部分から形成することができる。オーバーチューブ398およびコアワイヤ400は、上記のように、ガイド構造に適した材料から形成することができる。
【0062】
一般に、近位フィルタ394および遠位フィルタ396は、一体化ガイド構造への取り付けと整合する構成であれば、どのような妥当な構成を有することもできる。詳細には、フィルタ要素の個別の設置のための上記のフィルタ要素設計は、単一のガイド構造への2つのフィルタのタンデム設置のために適合することができる。単一の一体化ガイド構造への3次元濾過マトリクスベースの2つのフィルタの設置については、Galdonik他による米国特許出願公開第2008/0172066(A)号、名称「Embolectomy Procedures With a Device Comprising a Polymer and Devices with Polymer Matrices and Supports」にさらに記載され、同出願公開は参照により本明細書に組み込まれる。バスケットを有するフィルタは、バスケットの開口部が、流入の方向を向くように配向すべきである。したがって、遠位フィルタ396は、ガイド構造に対して近位方向を向いた開口部を有することができ、近位フィルタ394は、ガイド構造に対して遠位方向を向いた開口部を有することができる。一部の実施例では、フィルタの1つまたは複数が、バスケット型の枠と3次元の濾過マトリクスの両方を有することができる。
【0063】
図8Aおよび8Bに示すように、フィルタ要素394および396は、関連するフィルタマトリクスが付けられた枠を備える。近位フィルタ要素394は、枠404および繊維を利用した濾過マトリクス406を備える。枠404は、支柱408、410、および拡張可能な円筒形部412を備える。支柱408、410は、収縮部402が収縮すると曲がるように構成され、曲がった支柱が円筒形部412を拡張させて拡張形態にする。円筒形部は、配備されると開いて拡張構造になるひだ構造を備えることができる。濾過マトリクス406は、SCF繊維等の繊維のマットを備えることができる。一部の実施例では、繊維の一端がオーバーチューブ400に取り付けられ、他端が、拡張可能な円筒形部412に取り付けられて、円筒形部412が拡張されて円筒形部の開口がフィルタ装置394の遠位端の方を向いた時に、濾過マトリクス406が脈管を横断して拡張するようにする。繊維は、例えば、接着剤、熱接合、機械的締着、またはそれらの組み合わせで取り付けることができる。
【0064】
同様に、遠位フィルタ396は、枠414および繊維ベースの濾過マトリクス416を備える。枠414は、支柱418、420、および拡張可能な円筒形部422を備える。支柱418、420は、一端でオーバーチューブ398に付着し、他端で円筒形部422に付着している。円筒形部の支柱424、426は、円筒形部422の下縁部を、コアワイヤ400の遠位端または遠位端近傍でコアワイヤ400に連結する。コアワイヤ400がオーバーチューブ398に対して遠位方向に引っ張られると、図8Bに示すように、円筒形部422がオーバーチューブ398から外側に拡張して配備形態をとるのに伴って、支柱418、420および円筒形部の支柱424、426が各自の円筒形部422との取り付け部において外側に広がる。配備形態では、繊維ベースのフィルタマトリクス416が脈管の管腔を横断するように拡張して、フィルタを通る流動を濾過する。フィルタマトリクス416は、SCF繊維等の繊維のマットを備えることができ、繊維は、例えば接着剤、熱接合、機械的締着、またはそれらの組み合わせで取り付けることができる。支柱408、410、418、420、424、426は、例えば、金属もしくはステンレス鋼やNitinol(登録商標)等の合金、または他の適切な生体適合性材料から形成することができ、溶接、はんだ付け、締着、それらの組み合わせ、もしくは他の方法で、適切な構造に適宜取り付けることができる。
【0065】
図8Aは、ロープロファイルの送達形態にあるフィルタ404、406を示す。コアワイヤがオーバーチューブ398に対して近位方向に動かされると、フィルタ394、396は、同時に図8Bに示すような配備形態に遷移する。詳細には、円筒形部412、422が拡張形態に遷移すると、収縮部402が圧縮し、支柱408、410、418、420、424、426が屈曲する。配備形態では、円筒形部412、422は、脈管壁と概して接触して、フィルタを通過した流動がそれぞれフィルタマトリクス406、416を通過する。コアワイヤ400がオーバーチューブ398に対して遠位方向に動かされると、フィルタ394、396が少なくとも部分的に折り畳んで、図8Bの配備形態に対してロープロファイル形態となる。配備時の材料の変化が完全に可逆性でない場合もあるため、フィルタ394、396の折り畳まれた形態は図8Aの元の形態に復帰しない場合もある。
【0066】
図8Aおよび8Bに示すように、コアワイヤ400は、円筒形部の支柱424、426に固定的に取り付けられる。代替実施例では、円筒形部の支柱は、コアワイヤを把持する着脱可能な支持部に取り付けることができる。一部の実施例では、係合の解除を提供する構造を非可逆式にすることができ、コアワイヤがオーバーチューブに対して遠位方向に動かされた時にコアワイヤがフィルタ要素と再係合しないようにする。図8Cを参照すると、図8Bのフィルタ要素396がフィルタ要素430に置き換えられる。フィルタ要素430は、メッシュフィルタ431、円筒形部432、下部支柱433、434、上部支柱435、436、および着脱可能支持部437を備える。下部支柱433、434は、円筒形部432をオーバーチューブ438に連結する。着脱可能支持部437は、上部支柱435、436をコアワイヤ439に連結する。着脱可能支持部437は、第1のリング440、第1の蝶番441、第2のリング442、および第2の蝶番443を備える。リング440、442は、中程度の力が加わるとコアワイヤ439を把持するが、より大きい力が加わるとコアワイヤ439を解放する、ゴムまたは他の弾性材料を備えることができる。
【0067】
着脱可能支持部437の設計に基づくと、コアワイヤ439がオーバーチューブ438に対して近位方向に、横方向に動かされると、円筒形部432が脈管壁と接触して支柱435、436がそれ以上屈曲できなくなるまで着脱可能支持部437がコアワイヤ439を把持してフィルタを配備する。コアワイヤ439が取り付けられたフィルタ要素430の拡張形態を図8Cに示す。図8Dの断面図は、リング440、442がコアワイヤ439と係合している状態の拡張した上部支柱435、436を示す。支柱が拘束形態にある時、オーバーチューブに対して近位方向の力がさらにコアワイヤに加わると、リング440、442からコアワイヤの係合を解除することができる。図8Eを参照すると、コアワイヤ439がリング440、442から係合解除されると、蝶番441、443によりリング440、442が支柱435、436に対して動くことができ、それにより、コアワイヤ439が遠位方向に進められた場合にコアワイヤ439がリング440、442と再係合しない。
【0068】
別のフィルタ装置が図9Aおよび9Bに図示され、この装置は、共通の一体化ガイド構造に取り付けられた2つのフィルタ要素を有する。図9Aおよび9Bのフィルタ装置では、2つの別個のコアワイヤにより、2つのフィルタ要素を別々に駆動することができる。具体的には、図9Aおよび9Bを参照すると、フィルタ装置446は、一体化ガイド構造448、近位フィルタ要素450、および遠位フィルタ要素452を備える。一体化ガイド構造448は、オーバーチューブ454、ならびに独立したコアワイヤ458および460を備える。オーバーチューブ454は、図9Cの断面図に示すように管腔462、464と、それぞれ管腔462、464の遠位開口部であるポート466、467とを備える。コアワイヤ456の少なくとも一部分は管腔462内にあり、オーバーチューブ454のポート466から延びる。同様に、コアワイヤ458の少なくとも一部分は管腔464内にあり、オーバーチューブ454のポート467から延びる。一般に、コアワイヤ456、458は、オーバーチューブ454の近位端からも延び、コアワイヤ456、458の近位端を使用してコアワイヤ456、458およびオーバーチューブ454の相対的位置を別々に操作することができる。コアワイヤ456、458およびオーバーチューブ454はそれぞれ、1つまたは複数のトルクカプラを備えて、管腔460、462内のコアワイヤ456、458の角運動を制約する、および/またはオーバーチューブに対するコアワイヤの長手方向の運動を制限することができる。
【0069】
フィルタ要素450は、バスケットフィルタ468と、バスケットフィルタに連結された繊維ベースのマトリクスフィルタ470とを備える。同様に、フィルタ要素452は、バスケットフィルタ472と、バスケットフィルタ468に連結された繊維ベースのマトリクスフィルタ474とを備える。バスケットフィルタ468は、フープ476、フープ476から延びる織物メッシュ478、および支柱480を備える。支柱480は、フープ476を、織物メッシュ478に対して遠位方向にオーバーチューブ454と連結する。フープ476は、支柱480との連結箇所からずらした位置でコアワイヤ456に連結され、フープ476に適切なトルクを加えてフィルタを形態間で遷移させる。図9Aは、ロープロファイル形態のフィルタ要素450を示す。コアワイヤ456がオーバーチューブ454に対して遠位方向に動かされると、フープ476が配備形態に遷移し、支柱480が撓んでフープを配備形態に支持する。織物メッシュ478は、一端でフープ476に連結し、他端でオーバーチューブ454に連結して、フープ476を通るすべての流動が織物メッシュ478を通過するようにする。
【0070】
バスケットフィルタ472は、フープ482、フープ482から延びる織物メッシュ484、および支柱486を備える。支柱486は、フープ482を、織物メッシュ484に対して遠位方向にオーバーチューブ454と連結する。支柱486は、織物メッシュ484に沿って延びる。フープ482は、支柱486との連結箇所からずらした位置でコアワイヤ458に連結され、フープ482に適当なトルクを与えてフィルタを形態間で遷移させる。図9Aは、ロープロファイル形態にあるフィルタ要素452を示す。コアワイヤ458がオーバーチューブ454に対して遠位方向に動かされると、フープ482が配備形態に遷移し、支柱486が撓んでフープを配備形態で支持する。織物メッシュ484は、一端でフープ482に連結し、他端でオーバーチューブ454に連結して、フープ482を通るすべての流動が織物メッシュ484を通過するようにする。フープ482を通る織物メッシュ484への開口は、オーバーチューブ454に対して近位から遠位に向かう方向に配向され、一方、フープ482を通る織物メッシュ484への開口は、オーバーチューブ454に対して遠位から近位に向かう方向に配向される。このようなフィルタ要素450、452の配向は、ガイド構造が右鎖骨下動脈から延びた状態で、それぞれ腕頭動脈および左頸動脈に設置するために整合している。個々の要素に適した材料については、種々の実施例における類似要素との関連で上述した。また、個々の要素は、選択された材料についての上記の説明と同様に取り付けることができる。
【0071】
上記のように、フィルタ要素450、452は、別々に配備および/または折り畳むことができる。図9Aに示すように、フィルタ要素450、452は、ロープロファイルの送達形態で図示される。配備のために必要な際は、コアワイヤ456、458をオーバーチューブ454に対して遠位方向に別々に動かして、それぞれフィルタ要素450、452を配備することができる。同様に、コアワイヤ456、458をオーバーチューブ454に対して近位方向に別々に動かして、患者から除去するためにそれぞれフィルタ要素450、452を折り畳むことができる。
【0072】
3.大動脈弓に沿って複数の動脈に渡る単一のフィルタ構造
大動脈弓に沿って大動脈から分岐する動脈間に渡る単一のフィルタ構造を設計して、左頸動脈および右頸動脈への血流を同時に濾過することができる。そのようなフィルタ構造は、大動脈弓の腕頭動脈と左頸動脈の間に渡る単一のフィルタ要素を備えることができる。あるいは、そのような構造は、配備時に大動脈弓に渡る単一の支持構造に取り付けられた複数個のフィルタ要素を備えることができる。腕頭動脈への流動を濾過すると、結果として、腕頭動脈から分岐する右頸動脈への流動が濾過される。
【0073】
図10に、腕頭動脈と左総頸動脈の間に渡るように設計された、カテーテル508およびフィルタ装置510を備える濾過システム506の一実施例を示す。フィルタ装置510は、フィルタ要素512、および係留具514、516を備える。係留具514、516は、カテーテル508の管腔518を通じて延びることができる。フィルタ要素512は、近位フープ520、遠位フープ522、およびフィルタ膜524を備える。近位フープ520は、一般に係留具514、516に連結される。一般には、2つの係留具の代替として、1つの係留具、3つの係留具、または4つ以上の係留具を使用することができる。フープ522、524は、送達のためにロープロファイル形態にすることができるように弾性材料を備えることができる。フープの材料は、シース、カテーテル等から取り出される等して脈管中に放出された時に拡張して配備形態になるように自動拡張性であってよい。係留具514、516およびフィルタ要素512は、上記のように適当な材料から形成することができる。配備形態では、フィルタ要素512の遠位端および近位端が少なくとも部分的にそれぞれ左総頸動脈114および腕頭動脈108内に延びるように、フィルタ要素512の大きさを調整することができる。
【0074】
図11Aを参照すると、さらなる実施例では、フィルタ装置542は、管状要素544、近位遮蔽要素546、遠位遮蔽要素548、近位フィルタ要素550、および遠位フィルタ要素552を備える。管状要素544は、遠位ポート554、中央ポート556、および近位流動ポート558を備える。この実施例では、遮蔽要素546、548をそれぞれ腕頭動脈108および左総頸動脈114内に配備できるように、遮蔽要素546、548は適切な位置で管状要素544の外面に取り付けることができる。
【0075】
遮蔽要素546、548は、バルーンであってよいが、シース等から放出されることが可能な自動拡張式の金属枠に取り付けた非多孔ポリマ膜等、他の遮蔽要素を使用することができる。遮蔽要素546、548がバルーンの場合は、管状要素544は、一般に、1つまたは複数の膨張管腔を備える。単一の膨張管腔が使用される場合、遮蔽要素546、548は、無菌食塩水等の膨張流体が膨張管腔内に誘導されるのと同時に膨張する。膨張管腔570は、図11Aの想像線および図11Bの断面図に示される。膨張管腔570は、それぞれ膨張ポート572、574を通じて遮蔽要素546、548と流体連通している。複数の膨張管腔が使用される場合は、遮蔽要素546、548は別々に膨張させることができる。
【0076】
近位フィルタ要素550は、中央ポート556に入る流動が近位流動ポート558から出る前に濾過されるように、管状要素544内で近位流動ポート558と中央ポート556の間に配置される。同様に、遠位フィルタ要素552は、管状要素544内で中央ポート556と遠位ポート554との間に配置される。フィルタ要素550、552は、図218のフィルタ要素218と同様であってよい。別個のガイド管腔を使用して、所望箇所にカテーテルを設置することができる。そのような別個のガイド管腔は、例えばカテーテルの管状要素の側面に沿って設置することができる。そのようにすると、ガイド構造を使用して、フィルタ要素と干渉することなく配備を行うことができる。
【0077】
4.大動脈内の流動を濾過する外部フィルタを備えたカテーテル
さらなる実施例では、大動脈内にフィルタを送達して、上行大動脈から大動脈弓への血流を濾過することができる。例えば、フィルタは、大腿動脈を経由して下行大動脈から上行大動脈中に送達することができるが、左鎖骨下動脈から上行大動脈に入れる等、他のアプローチを使用することができる。大動脈を通じた心臓へのアクセスを維持するために、フィルタはカテーテルの外面に装着することができ、カテーテルを通して心臓用の治療用具を導入できるようにする。上行大動脈中にフィルタを設置することにより、頸動脈のみならず末梢動脈についても血液が濾過される。
【0078】
図12を参照すると、濾過カテーテル580は、管状構造582およびフィルタ要素584を備える。管状構造582は、遠位ポート586を有する。心臓治療器具588は、遠位ポート590から延びて上行大動脈を通って心臓に到達するように図示されている。外部にフィルタが装着されたカテーテルについては、上記で図3Aおよび図7との関連で説明した。そのような外部フィルタを有するカテーテルを、カテーテルおよびフィルタのサイズを適切に設計して図12の設置との関連で使用することができる。
【0079】
心臓処置時の塞栓予防のための処置
本明細書に記載の濾過システムは、心臓への処置中および/または処置後に塞栓予防のために効果的に使用することができる。詳細には、本明細書に記載の濾過システムを使用して、心臓の左心房および左心室内またはその周辺で行われる血管内心臓処置中に塞栓を予防できるが、フィルタは、患者の胸部を通じた心臓処置にも有用である可能性がある。処置の中には、処置の特定工程を達成するための心臓への血管内を通じたアプローチと、処置の他の面について、心肺バイパスを設ける等、患者の胸部を通じた低侵襲性のアプローチとを伴うものがある。心臓に対する処置では、大動脈から流れて身体の他の部位に循環する恐れのある塞栓が生じる可能性がある。塞栓はどの脈管内でも望ましくないが、塞栓が頸動脈、特に内頸動脈に循環すると、患者の脳に流れる可能性があり、塞栓が原因となって卒中または他の有害な結果を招く恐れがある。したがって、内頸動脈への流動から塞栓を濾過して除去することが非常に望ましい。
【0080】
そのため、一部の実施例では、例えば上行大動脈内にフィルタ要素を配置することができ、大動脈から身体の他部位に循環する塞栓を減少または解消するようにする。これに加えて、またはこれに代えて、一般には塞栓が重大な問題とならない下行大動脈および/または鎖骨下動脈の1つもしくは両方を通る流動からは塞栓を除去せずに、頸動脈への流動から塞栓が除去されるようにフィルタ要素を設置することもできる。塞栓が形成される危険性が低下または解消されると、フィルタで捕捉された塞栓が頸動脈への血流に入らないように塞栓を制止する形で、患者からフィルタ要素を安全に撤去することができる。
【0081】
塞栓は、各種の心臓処置から血流中に放出される可能性がある。詳細には、心臓弁の置換は、心臓組織の大きな処置を要し、塞栓発生の危険性を伴い得る。他の心臓処置には、例えば心臓弁の修復処置がある。心肺バイパスが使用される場合は、左心室内またはその近傍で生成された塞栓が、心臓のポンプ機能が再開した時に大動脈中に放出される恐れがある。上行大動脈中に放出された塞栓は、下流に流れ、頸動脈内で塞栓の危険性を生じさせる可能性がある。一部の実施例では、対象となる心臓処置には、例えば、用具が大腿動脈や鎖骨下動脈等の動脈を通して経皮的な方式で送達されて心臓に到達する血管内処置が含まれる。
【0082】
本明細書に記載される濾過処置は、各種の心臓処置時の予防として適用可能であるが、それらの処置は、経皮的な心臓弁置換の実施に関連して有利に使用することができる。一般に、大動脈弁を置換する経皮処置は、患者の末梢血管系を通じて、大動脈弁輪や僧帽弁輪等の弁の付け根にあたる領域またはその近傍まで人工心臓弁を送達することを含む。弁置換処置は、自然弁の切除を含む場合があるが、一部の実施例では、自然弁を除去せずに、自然弁の内部に置換弁を設置することができる。患者を、弁の交換中、酸素化された血流を供給する心肺バイパスに置くことができる。人工心臓弁は、単一のユニットとして送達するか、または複数のサブユニットとして送達し、患者の体内で組み立てることができる。処置は、さらに、所望の位置に人工弁を移植することを含む。人工弁が複数のサブユニットを備える場合、人工弁の構成部品は、移植前に組み立てるか、および/または患者体内で組み立てることができる。
【0083】
そのような経皮的な弁置換処置を行うための例示的方法は、圧縮可能な人工大動脈弁の送達を含み、人工大動脈弁は、自然弁の弁輪またはその近傍に人工弁を保持するように設計された、組織と係合する基部と、弁として機能するように設計された葉状構造要素とを備える。人工弁は、送達のために折り曲げられた時に形態を保つように設計された、塑性的に変形可能な構造を備えることができる。人工弁は、送達カテーテルに取り付けることができ、送達カテーテルは、同心円状に、外側シース、オプションのプッシュカテーテル、およびバルーンカテーテルを備え、人工弁は、バルーンが膨らんだ時に拡張形態をとるようにバルーンカテーテルに取り付けることができる。カテーテルは、各種の末梢動脈または静脈、例えば左大腿動脈または右大腿動脈から、弁輪領域に搬入することができる。外側シースは、ガイドワイヤを使用する等の各種の標準的技術を使用して、例えば末梢動脈から上行大動脈中に搬入することができる。人工弁が大動脈弁輪内の所望位置に達すると、外側シースを引き戻して人工弁要素を露出させる。該当する実施例では、次いでバルーンを拡張し、人工弁を拡張形態にする。そしてバルーンをしぼめ、送達構造を除去する。人工弁が自動拡張型の設計を有する代替実施例では、単に人工弁を外側シースから取り出すことによって拡張形態を生じさせることができる。この心臓弁置換処置ならびに代替実施例についてのさらなる解説は、Schreckによる米国特許第6,454,799号、名称「Minimally-Invasive Heart Valves and Methods of Use」で得ることができ、同特許は参照により本明細書に組み込まれる。自然弁を除去して、または除去せずに大動脈弁の位置または僧帽弁の位置に設置できる人工心臓弁については、Seguin他による米国特許第7,329,278号、名称「Prosthetic Valve for Transluminal Delivery」にさらに記載され、同特許は引用により本明細書に組み込まれる。
【0084】
本明細書に記載の濾過システムは、特定の心臓処置時に、選択された脈管に塞栓予防を提供するために使用することができる。フィルタは、一般に、選択された動脈を通じて誘導され、配置される。上記の各種濾過システム設計は、一般に、大腿動脈か、または鎖骨下動脈の1つを通じて送達して、頸動脈への流動を提供する脈管部分に到達するように設計される。フィルタを送達するための特定の動脈の適性は、塞栓予防が提供される脈管、実施される特定の心臓処置、および配備される濾過システムの具体的設計等の考慮事項を基準として評価することができる。1つまたは複数のガイドカテーテルを配置してフィルタの送達および/または除去を容易にすることができ、ガイドカテーテルは、フィルタが患者の脈管内にある時間中、設置状態にしておいても、そうでなくともよい。一般に、フィルタおよびそれに関連する構造は、心臓処置を行うために使用される器具との干渉を回避するように適切に設計すべきである。複数のフィルタの設置を伴う濾過システムの実施例では、フィルタ導入のために選択される1つまたは複数の脈管には、一般に、フィルタの設置に適したタイミングに合わせて、順次または同時に所望箇所に個々のフィルタ要素を搬入することができる。
【0085】
一般に、フィルタは選択された時に配備することができるが、その時は、一般には、塞栓発生の著しい危険性がある時間よりも前である。(1つまたは複数の)フィルタを配備するのに適したタイミングは、一般に、心臓処置の性質に大きく依存する。一部の実施例では、フィルタが心臓処置のどの工程または用具とも干渉しない場合は、フィルタは、心臓処置の重要な部分より前に配備することができる。処置全体にわたってフィルタ間で良好な流動が維持される場合は、フィルタは、弊害を招くことなく、かなりの時間にわたり設置状態にしておくことができる。一部の実施例では、1つまたは複数のフィルタの設置の前に、心臓処置の一部工程を行うことができる。心臓処置の初期の工程で著しい塞栓の危険性が生じない場合、および/または心臓処置の初期の工程で心臓処置の継続に対して禁忌が示されると判断しうる場合は、より後の工程でフィルタを配備することが好都合である場合もある。しかし、フィルタは、一般には大動脈内での塞栓発生の著しい危険性が生じる前に配備される。
【0086】
塞栓発生の著しい危険性がなくなると、濾過システムを患者から除去することができる。一部の実施例では、濾過システムは、心臓処置が完了した後に除去することができる。心肺バイパスが終了され、自然心臓の機能が一定時間にわたり回復した後まで濾過を継続することが望ましい場合がある。心臓処置の一部の工程で著しい塞栓の危険性が生じない場合、またはフィルタが心臓処置の一部工程と干渉する可能性がある場合は、フィルタは、心臓処置の全工程を完了する前に除去してもよい。濾過システムの一部の部分が処置の一部の工程で必要とされず、一方、濾過システムの他の部分が要求される場合は、濾過システムの一部分を除去する一方で、システムの別の部分は配備形態に保つことができる。さらに、フィルタは、処置の一工程で部分的または完全に除去し、処置の後の工程で同一のフィルタおよび/または別のフィルタに置き換えることができる。
【0087】
一般に、患者からの濾過システムの除去を行うには、1つまたは複数のフィルタを折り畳んで収集形態にし、脈管から除去することができる。これらの目的を達成するための工程は、(1つまたは複数の)フィルタの設計に大きく依存する。例えば、フィルタの中には、フィルタをロープロファイルの収集形態に遷移させるために使用できる駆動構成部品を備えるものがある。一部の実施例では、フィルタは、フィルタの近位部分と接触させて機械的にフィルタを折り畳むシース等を用いて折り畳むことができ、その場合は、フィルタをシースの端部中に部分的または完全に引き込むことをも伴う場合もあり、伴わない場合もある。一部の実施例では、フィルタを除去する前に、拡張形態のフィルタを脈管の一部にわたり引っ張って移動することが望ましい場合がある。例えば、左総頸動脈内のフィルタを引っ張って大動脈への開口近傍に移動し、一般にはある程度塞栓が許容される下行大動脈中にフィルタ表面の塞栓を洗い流して、フィルタの除去中に塞栓が頸動脈中に放出される危険性を低下させることができる。
【0088】
一部の実施例では、過程の一部で吸引を適用して脈管からフィルタを除去することができる。吸引が適用される場合は、吸引カテーテルの先端をフィルタ近傍に配置することができ、フィルタがロープロファイル形態に折り畳む時に吸引を適用することができる。フィルタは、吸引カテーテルの先端中に取り込むことができ、吸引は、フィルタが吸引カテーテルの先端中に取り込まれる間継続することができる。吸引の適用は、3次元の濾過マトリクスを用いるフィルタに特に望ましい可能性がある。フィルタ装置収集のための吸引の使用については、Boldenow他による米国特許出願公開第2007/060944(A)号、名称「Tracking Aspiration Catheter」、およびGaldonik他による米国特許出願公開第2005/0277976号、名称「Exboli Filter Export System」にさらに論じられ、両出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0089】
本明細書に記載の処置は、一般に、小さな穴を通じて患者の脈管系に到達することを伴う。一般に、選択された脈管には、例えば挿入器、カニューレ等の従来の器具を用いて到達することができる。止血弁、ルアーフィッティング、他のフィッティング等を使用して、処置中に患者の出血を減らすことができる。フィッティングにより、処置中の適時に各種装置を導入および除去することができる。
【0090】
1.総頸動脈濾過のための個別のフィルタ要素
上記で図1乃至図5との関連で説明したように、このグループの濾過システムは、別個の濾過装置を使用して左頸動脈および右頸動脈への塞栓予防を提供する。濾過装置は、ガイド構造と、非係留状態で配備される単一または複数のフィルタ要素とを備えることができる。そのような予防システムで塞栓予防を提供するための方法は、そのようなシステムの配備および収集を含む。そのようなシステムの配備は、一般に、右頸動脈または腕頭動脈への濾過装置の送達と、拡張形態でのフィルタ要素の配備とを含む。濾過システムの配備は、一般に、左頸動脈への濾過装置の送達と、拡張形態でのフィルタ要素の配備とをさらに含む。そのようなシステムの収集は、一般に、配備されたフィルタ要素を収集形態にし、一般には頸動脈中への著しい塞栓の放出を伴わずに患者の身体から濾過システムを撤去することを含む。
【0091】
図2Aを参照すると、任意でガイドカテーテル130を使用して、その後の濾過装置の送達を容易にすることができる。ガイドカテーテルは、例えば従来の技術を使用して配置することができる。具体的には、図2Aに示すように、濾過装置の配備は、患者体内へのガイドカテーテル130の導入、および、右鎖骨下動脈内へのガイドカテーテルの遠位端の搬入を含む。次いで、フィルタ装置132、134を順次または同時にガイドカテーテルを通じて送達することができる。フィルタ装置132、134の遠位端は、それぞれ右頸動脈および左頸動脈に搬入される。フィルタ要素が所望の位置に置かれると、フィルタ要素を配備することができる。フィルタの配備は、フィルタの設計に依存する。例えば、自動拡張式のフィルタは、フィルタが拡張して配備形態をとることができるように、フィルタを覆っているシースを撤去することにより配備することができる。他の実施例では、フィルタ要素は、駆動して、配備された拡張形態にすることができる。例えば、図6Aおよび6Bのフィルタは、オーバーチューブに対して近位方向にコアワイヤを引くことによって駆動することができる。図2Aに示すように、フィルタ要素140は右総頸動脈内に送達され、フィルタ要素144は左総頸動脈中に送達されるが、これに代えて、どちらかのフィルタを対応する内頸動脈中に送達してもよい。
【0092】
図2Aに示す濾過システムの収集は、フィルタ要素140、144を収集形態にし、カテーテル130を通じてフィルタ装置132および134を患者身体から撤去することを含む。一部の実施例では、フィルタ装置132および/またはフィルタ装置134は、駆動を解除してフィルタを収集形態にすることができる。例えば、図6Aおよび6Bのフィルタ装置は、コアワイヤをオーバーチューブに対して遠位方向に押すことによって駆動解除することができる。どちらかのフィルタ要素140、144に吸引が望ましい場合は、カテーテル130を患者体内から除去することができ、それぞれガイド構造138、142で、吸引カテーテルをどちらかのフィルタ要素140、144の位置まで送達することができる。あるいは、ガイドカテーテル130が十分に大きい直径を有する場合は、ガイドカテーテルを通じて吸引カテーテルを搬入することもできる。自動拡張式のフィルタ要素の場合は、フィルタの位置までカテーテルを運搬して機械的にフィルタを折り畳み、それらの回収用カテーテルは、吸引カテーテルと同様にフィルタの所まで運搬することができる。
【0093】
図2Bに示す濾過システムでは、図2Aの濾過システムについて上述した方法と同様の方法を使用することができる。図2bを参照すると、濾過システムの配備は、ガイドカテーテル152、154をそれぞれ右鎖骨下動脈および左鎖骨下動脈中に送達することを含む。その後、フィルタ装置148、150がそれぞれ右総頸動脈と左総頸動脈に搬入される。フィルタの配備およびフィルタの収集は、図2Aのシステムについて上述したように行うことができる。図2Bの濾過システムは、共通のガイド構造の使用に伴って起こり得る干渉を回避するが、図2Bの濾過システムを配備するための方法は、図2Aの濾過システムに使用される単一の入り口点と異なり、フィルタ送達のために患者体内への入り口点を2つ要する。
【0094】
図3Aおよび3Bの濾過システムに関連する処置については、第1のフィルタ装置132がカテーテル190または206に置き換えられる。フィルタ装置188(図3A)、204(図3B)は、フィルタ装置132(図2A)の送達と同様に左頸動脈中に送達することができ、フィルタ装置188、204の配備および回収もフィルタ装置132の対応する工程と同様である可能性がある。図3Aを参照すると、カテーテル190は、一般に、フィルタ装置188を設置する前または後に設置することができる。同様に、フィルタ装置は、一般に200、フィルタ要素194を配備する前または後に配備することができる。フィルタ要素194が自動拡張式フィルタである場合、カテーテル190は、フィルタ要素194の配備と干渉する可能性があれば、フィルタ要素194の配備の後に設置することができる。フィルタの回収の順序に関して、カテーテル190とフィルタ装置188は、工程でそれら以外の構造が使用されない場合はどちらの順序で回収することもできる。フィルタ要素194の回収で吸引カテーテルまたは他のカテーテルが使用される場合は、最初にフィルタ要素200を折り畳んでカテーテル190を除去できるようにするか、またはカテーテル190を使用できるようにして、カテーテル190をフィルタ194の位置まで進めることによってフィルタ194の回収を容易にすることができる。図3Bの濾過システム202は、フィルタ要素200の配備および折り畳みを遮蔽要素216の適当な配備および折り畳みに置き換えて、図3Aのフィルタシステム186と同様に操作することができる。
【0095】
図4に示す濾過システム242については、カテーテル244およびフィルタ装置248は、一般に、どちらの順序で送達することもできる。しかし、フィルタ装置246の送達はカテーテル244のポートを通じて実施されるので、カテーテル244は、フィルタ装置246を送達する前に、遠位端を腕頭動脈内に置くように送達される。同様に、カテーテル244は、フィルタ装置246が回収される間、配備位置にしておくことができる。カテーテル244およびフィルタ装置248は、一般に、どちらかの順序で、または同時に、患者から除去することができる。
【0096】
図5を参照すると、フィルタ284、286は、一般に、適切な送達器具で配備され、対応する除去器具で除去される。送達器具は、除去器具と同一である場合も、同一でない場合もある。適切な送達器具および除去器具については上記で説明した。一般には、フィルタは、別々に送達および回収することができ、フィルタ284および286の送達および除去は、一般に、どのような順序にもなるように選択してもよい。送達および除去器具は、一般に、鎖骨下動脈や大腿動脈等の末梢動脈を通じて所望箇所まで搬入することができる。
【0097】
2.共通のガイド構造に取り付けられた複数のフィルタ要素
一部の実施例では、濾過システムは、共通のガイド構造に取り付けられた複数のフィルタ要素を有する、頸動脈への流動を濾過するための配備システムである。このようなフィルタ装置の使用を伴う方法は、一般に、装置が左頸動脈と腕頭動脈の間の大動脈弓の一区間を走査する予防システムを配備および収集することを含む。フィルタ装置は、ガイド構造、ガイド構造に取り付けられた近位フィルタ要素、および、ガイド構造に取り付けられた遠位フィルタ要素を備える。ガイド構造は、装置の送達および/または折り畳みを容易にするためにオーバーチューブ内に1つまたは複数のコアワイヤを有する、一体化ガイド装置とすることができる。一般に、フィルタ装置は、近位フィルタ要素が右頸動脈への流動を濾過し、遠位フィルタ要素が左頸動脈への流動を濾過するように、右鎖骨下動脈を通して腕頭動脈および左総頸動脈内に搬入される。その後、フィルタ要素を同時に、または順次、配備形態にすることができる。ガイド構造に2つのフィルタを有する濾過システムの収集は、一般に、フィルタ要素を順次または同時に収集形態にすることを含むが、これはフィルタ設計に応じて異なる可能性がある。その後、予防装置が患者から除去される。この方法のいくつかの実施例では、フィルタ要素のいずれかまたはすべてを収集形態にすること、および/または予防装置を除去することは、吸引によって行うことができる。
【0098】
図13A乃至13Dに、共通のガイド構造に取り付けられた複数のフィルタ要素を備えるフィルタシステムを使用して塞栓予防を提供するための方法を示す。このようなフィルタ装置を使用するための方法は、図8および図9のフィルタ装置に適用できる可能性がある。したがって、一部の実施例では、ガイド構造は、送達形態と配備形態の間で(1つまたは複数の)フィルタ要素を順次または同時に駆動する(1つまたは複数の)内部芯を備えることができる。他の実施例では、フィルタ要素は、拘束部材が除去された時に配備形態をとる自動拡張式の構造を備えることができる。図13Dを参照すると、フィルタ装置608の要素は、近位フィルタ要素610、遠位フィルタ要素613、およびガイド構造614を含む。
【0099】
図13Aを参照すると、フィルタ装置608を使用する方法は、遠位フィルタ要素が左頸動脈内に置かれるように、右鎖骨下動脈を通じて送達カテーテル616を左総頸動脈内に送達することを含む。その後、予防装置608が送達カテーテル616を通じて搬入されて、フィルタ要素612が送達カテーテル616から完全に延び、所望箇所に配置されるようにする。フィルタ要素612が、送達カテーテル616を通じて完全に延ばされた時に自然に配備形態をとらない構造を備える場合は、フィルタ要素612は、図13Bに示すように、駆動して配備形態にする。図13Cを参照すると、次いで、フィルタ要素610が送達カテーテル616から完全に延びるまで、送達カテーテル616がフィルタ要素612を基準に近位方向に動かされる。フィルタ要素610が、送達カテーテル616から完全に延ばされた時に自然に配備形態をとらない構造を備える場合は、フィルタ要素612は、図13Dに示すように、駆動して配備形態にする。そして、カテーテル616は、設置状態にしておくか、さらに引き下げるか、または患者体内から完全に撤去することができる。
【0100】
収集方法の適切な実施例は、配備されるフィルタ要素の種類に応じて異なる。一般に、収集方法は、近位フィルタ要素610および遠位フィルタ要素612を各自の収集形態にすることを含む。フィルタ要素610が自動拡張式の場合は、外部拘束部材を導入して、フィルタ要素610を機械的に収集形態に遷移させることができる。例えば、送達カテーテル616または導入された吸引カテーテルをそのような拘束部材として使用することができる。さらに、フィルタ要素612が自動拡張する構造を備える場合は、送達カテーテル616や別個のカテーテル等の外部拘束部材を導入して、遠位フィルタ要素612を機械的に収集形態に遷移させることができる。さらなる実施例では、コアワイヤ等の駆動要素を使用して、フィルタ要素をロープロファイルの収集形態に遷移させることができる。一般に、近位フィルタ要素610および遠位フィルタ要素612は、順次または同時に収集形態に遷移させることができる。フィルタ装置608は、カテーテル616を通して撤去するか、またはカテーテル616から分離することができる。図8C乃至8Eのフィルタ装置の実施例では、近位フィルタおよび遠位フィルタは、配備を駆動するコアワイヤを使用して配備される。フィルタを折り畳むには、近位フィルタはコアワイヤを使用して折り畳み、一方、遠位フィルタは、例えばカテーテルまたはシースを使用して下部支柱を押すことにより、機械的に折り畳まれる。このようにして、単一のコアワイヤを有する装置を使用して2つのフィルタを順次折り畳むことができる。
【0101】
フィルタ装置608が、配備形態と収集形態間を順次または別々に駆動させることができるフィルタ要素を備える実施例では、近位フィルタ要素610および/または遠位フィルタ要素612は、吸引によって収集形態にすることができる。詳細には、ガイド構造614で吸引カテーテルを近位フィルタ要素610に近接した箇所まで導入することができ、その後、近位フィルタ要素610を収集形態にすることができる。そして、吸引カテーテルを、遠位フィルタ要素612に近接した箇所に設置することができる。その後、遠位フィルタ要素612を収集形態にすることができ、吸引を用いて、または吸引を用いずに、予防装置608を除去することができる。
【0102】
3.大動脈弓に沿って複数の動脈に渡る単一のフィルタ構造
心臓処置時に塞栓予防を提供するための方法は、大動脈弓に沿って渡る単一のフィルタ構造を備えた予防システムの配備および収集を含むことができる。より具体的には、濾過システムのそのような実施例を用いて塞栓予防を提供するための方法は、フィルタ構造の一部分を腕頭動脈内に配備し、フィルタ構造の一部分を左頸動脈内に配備することを含む。一般に、フィルタ構造は、右鎖骨下動脈を通じて左頸動脈に搬入される。フィルタ構造は、フィルタを所望箇所に置いて配備される。フィルタは、自動拡張する要素、または駆動して配備する要素を備えることができる。いずれの場合も、配備されたフィルタ要素は、一般に、少なくとも概ね頸動脈および腕頭動脈に封着する要素を有し、大動脈からの流動が濾過されてそれらの動脈に入るようになる。さらに、このようなフィルタ装置を使用する方法は、さらにフィルタ構造の収集を含む。一般に、フィルタ構造の収集は、フィルタ構造を収集形態にし、患者身体からフィルタ構造を除去することを含む。フィルタ構造の設置および/または患者からのフィルタ構造の除去は、吸引を用いて、または吸引を用いずに行うことができる。
【0103】
図10に示す濾過システムでは、塞栓予防のための方法は、フィルタ構造510の配備および収集を含む。フィルタ構造510を配備するための方法は、右鎖骨下動脈を通じて左頸動脈内にカテーテル508を送達することを含むことができる。配備方法は、さらに、カテーテル508を貫通する中央管腔518を通じてフィルタ構造520を送達することを含む。フィルタ構造520はカテーテル508内に事前に装填するか、または、脈管内にカテーテル508を設置した後にカテーテル508を通じてフィルタ構造520を搬入することができる。一部の実施例では、フィルタ構造520は、送達のためにカテーテル508内に設置することができ、遠位フープ522および近位フープ520がロープロファイル形態でカテーテル522内に設置されるようにする。その後、配備は、カテーテル508をフィルタ構造510に対して近位方向に動かすことを含み、遠位フープ522が完全にカテーテル508から延び、左総頸動脈内に入るようにする。カテーテル508をフィルタ構造510に対して近位方向にさらに動かして、フィルタ要素512がカテーテル508から完全に延び、かつ近位フープ520が腕頭動脈内に位置するようにする。近位フープ520および遠位フープ522は、脈管内で放出されると拡張形態をとって脈管壁との間に封止部を形成するように自動配備式であってよい。その後、カテーテル508は、部分的に撤去するか、完全に撤去するか、または設置状態にしておくことができる。
【0104】
フィルタ構造510の収集は、フィルタ構造510が完全にカテーテル508内に収容されるように、カテーテル508を、係留具514、516に沿ってフィルタ構造510を覆うように遠位方向に動かすことを含むことができる。近位フープ520および遠位フープ522は、カテーテル508中に収集するために機械的な力でフープが変形するように、弾性材料で形成することができる。一部の実施例では、係留具514、516を使用して、配備形態にあるフィルタ要素510を引いて表面上の塞栓を移動させることができ、塞栓が下行大動脈を通って、一般には塞栓が著しい弊害を生じさせないであろう脈管内に入るようにする。そのような塞栓が下行大動脈に流れた場合には、塞栓が原因で重大な有害事象が生じ得る頸動脈中に流入する塞栓は存在しなくなる。フィルタ構造510がカテーテル508中に引き込まれると、カテーテル508を通じてフィルタ構造510を除去するか、またはカテーテル508と同時にフィルタを除去することができる。収集方法の他の実施例では、カテーテル508の代わりに吸引カテーテルを用いることができる。
【0105】
図11Aのフィルタシステムに関して、カテーテル/管状要素544は、遠位先端が左頸動脈内に来るように、右鎖骨下動脈を通じて搬入される。管状要素が配置されると、遮蔽要素546、458が配備されて、脈管壁に対して封止部を形成する。図11Aに示す設計では、遮蔽要素546、548は同時に配備されるが、代替実施例では、別個の膨張管腔がある場合等は、遮蔽要素546、548を順次配備できる場合もある。遮蔽要素546、548が配備されると、大動脈から頸動脈への流動が濾過される。フィルタシステムを患者から除去するには、遮蔽要素546、548をしぼませるか、または他の方法で、脈管壁との封着が解除された収集形態にする。そして、フィルタ装置を脈管から除去することができる。管状要素544内にフィルタ要素を設置することでフィルタを保護して、フィルタ装置の除去中に塞栓が移動する変化を低下させる。
【0106】
4.大動脈内の流動を濾過する外部フィルタを有するカテーテル
カテーテル外面による上行大動脈内へのフィルタの配備に関して、カテーテルは、心臓の処置の開始前に搬入して配置することができる。一般に、カテーテルは、ロープロファイルの送達形態にある、図12のフィルタ584等のフィルタ要素と共に上行大動脈内に送達される。配置されると、フィルタ要素は、拡張形態に配備することができる。心臓処置のために必要な装置は、カテーテルを通じて搬入することができる。塞栓発生の危険性を生じる処置の完了後、フィルタ要素を収集形態に遷移させ、折り畳まれたフィルタ要素と共にカテーテルを除去することができる。カテーテルおよびフィルタ要素の収集は、吸引カテーテルで支援することができる。
【0107】
配布および包装
本明細書に記載の医療装置は、一般に、無菌容器に包装されて使用のために医療専門家に配布される。物品は、電子ビーム照射、ガンマ線照射、紫外線照射、化学的殺菌、ならびに/または、無菌の製造および包装工程の使用等の各種手法を使用して殺菌することができる。物品には、例えば、物品がそれまで完全に機能する状態を保つと予想される適切な日付を表示することができる。構成部品は、個別に、または共に包装することができる。
【0108】
本明細書に記載される各種装置は、利便のためにキットとして共に包装することができる。キットは、さらに、食品医薬品局により包含が指定される情報等、使用上の指示および/または警告の表示を含むことができる。そのような表示は、包装の外側および/または包装内部の別紙につけることができる。
【0109】
上記実施例は、例示的であり、非限定的であることが意図される。さらなる実施例は請求項内にある。また、本発明は特定の実施例を参照して説明したが、当業者は、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細に変更を加えられることを認識されよう。上記の参照による文献の組み込みは限定され、本明細書における明示的な開示と相反する主題は組み込まれない。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2008年6月23日出願のGaldonik他による同時係属米国仮特許出願第61/132,823号、名称「Embolic Protection During Percutaneous Heart Valve Replacement and Similar Procedures」に対する優先権を主張する。同出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般には、外科的介入時に血管内に設置される塞栓予防装置およびそれに対応する方法に関する。本発明は、さらに、経皮的心臓弁置換時に血管中に設置される塞栓フィルタとそれに対応する方法に関する。これら装置および方法は、頸動脈への塞栓の流入の防止を対象とすることができる。
【背景技術】
【0003】
低侵襲性の処置は、回復に要する時間が短縮され、危険性が低減された、望ましい医療結果を患者にもたらすことができる。そのため、多くの外科的処置は、内視鏡等を使用して経皮的な方式で行なわれる。現在では、血管造影、血管形成処置、およびステント送達処置等、心臓血管系内での多数の低侵襲性の処置が広く行なわれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工心臓弁は、もはや満足のいく形で機能を行なわなくなった、損傷のある自然心臓弁を置換するために使用されて成功している。一般に販売される人工心臓弁には、剛性オクルーダを用いた機械弁と、可撓性の葉状構造を有する組織を利用した心臓弁の両方が含まれる。これらの弁は、患者に心肺バイパスを付けた状態で、胸部を通じて外科的に埋め込まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点において、本発明は、患者の心臓に対する血管内処置時に塞栓予防を提供するための方法に関する。方法は、右総頸動脈や右内頸動脈等の右頸動脈、および、左総頸動脈や左内頸動脈等の左頸動脈への流動を濾過するように1つまたは複数の脈管フィルタ要素を配置する工程を含むことができる。一般に、1つまたは複数の脈管フィルタ要素は各々、右鎖骨下動脈、左鎖骨下動脈、またはそれらの組み合わせを通じて送達される。
【0006】
さらなる観点において、本発明は、カテーテルとフィルタ装置とを備える濾過システムに関する。カテーテルは、一般に、近位端および遠位端を有する管状要素と、管状要素を貫通して延びる管腔と、カテーテルの外面上の遠位端寄りに装着された拡張可能構造とを備える。フィルタ装置は、一般に、ガイド構造と、ガイド構造に装着されたフィルタ要素とを備え、カテーテルの管腔は、ガイド構造に装着されたフィルタ要素の送達に適する。
【0007】
別の観点において、本発明は、カテーテルと、第1のフィルタ装置と、第2のフィルタ装置とを備える濾過システムに関する。カテーテルは、一般に、近位端および遠位端を有する管状要素と、管状要素を貫通して延びる管腔とを備える。第1のフィルタ装置は、一般に、第1のガイド構造、および第1のガイド構造に取り付けられた第1の濾過要素を備え、第2のフィルタ装置は、一般に、第2のガイド構造、および第2のガイド構造に取り付けられた第2の濾過要素を備える。カテーテルは、第1のフィルタ装置および第2のフィルタ装置の送達に適した1つまたは複数の管腔を有することができる。また、カテーテルは、第1のフィルタ装置が第1のポートを通ってカテーテルから出ることができるように構成された第1のポートと、第1のフィルタ装置が第1のポートを出る方向に対して角度の付いた方向で、第2のフィルタ装置が第2のポートを通って出ることができるように構成された第2のポートとを備えることができる。
【0008】
他の観点において、本発明は、オーバーチューブと、第1のコアワイヤと、第2のコアワイヤと、送達形態および配備形態を有する第1のフィルタ要素と、送達形態および配備形態を有する第2のフィルタ要素であって、第1のフィルタ要素が第2のフィルタ要素の遠位側に配置される、第2のフィルタ要素とを備えるフィルタ装置に関する。一般に、第1のコアワイヤの少なくとも一部分および第2のコアワイヤの少なくとも一部分は、オーバーチューブ内にある。第1のフィルタ要素の形態は、第1のコアワイヤとオーバーチューブの相対的位置を通じて制御することができ、第2のフィルタ要素の形態は、第2のコアワイヤとオーバーチューブの相対的位置を通じて制御することができる。
【0009】
さらなる観点において、本発明は、第1の封止部材と、第2の封止部材と、各封止部材の内部を貫通して延びる管腔と、管腔に付随する1つまたは複数の濾過要素とを備える濾過システムに関する。第1の封止部材および第2の封止部材は各々、外側に拡張する形態を有することができる。濾過要素は、第1の封止部材および第2の封止部材を過ぎて延びる管腔中を通る流動が、1つまたは複数の濾過要素を通過するように構成することができる。
【0010】
さらに、本発明は、心臓弁の血管内置換のための方法に関する。方法は、心臓から右頸動脈および左頸動脈に流れる流動を濾過するように1つまたは複数のフィルタ要素を配置する工程と、下行大動脈または鎖骨下動脈を通じて心臓に心臓弁送達カテーテルを送達して、少なくとも心臓弁の除去または人工心臓弁の設置に関連する工程を実行する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】大動脈弓および主要な分岐動脈の断面図である。
【図2A】右鎖骨下動脈を通じてそれぞれ右頸動脈および左頸動脈に設置された2つの独立したフィルタ要素を図示した大動脈弓の断面図である。
【図2B】右鎖骨下動脈を通じて右頸動脈に、および左鎖骨下動脈を通じて左頸動脈内に設置された2つの独立したフィルタ要素を図示した大動脈弓の断面図である。
【図3A】腕頭動脈への流動を濾過するように配備された外部フィルタと、カテーテルを通じて配備され、左頸動脈内に配備されたフィルタ要素を持つフィルタ装置とを有するカテーテルを図示する大動脈弓の断面図である。
【図3B】外部遮蔽要素と、外部遮蔽要素に対して近位にある流動ポートに通じる内部フィルタと、カテーテルを通じて配備され、左頸動脈内に配備されたフィルタ要素を持つフィルタ装置とを有するカテーテルを図示した大動脈弓の断面図である。
【図3C】線C−Cに沿った図3Bのカテーテルの断面図である。
【図3D】隠された構造が想像線で示された、図3Bのカテーテルの近位端の部分側面図である。
【図4】遠位開口部および側部開口部を有するカテーテルを、カテーテルの遠位開口部を通じて配備された第1のフィルタ装置およびカテーテルの側部開口部を通じて配備された第2のフィルタ装置と共に図示した大動脈弓の断面図である。
【図5】右頸動脈内に配備された非係留フィルタおよび左頸動脈内に配備された非係留フィルタを図示する大動脈弓の断面図である。
【図6A】一体化ガイド構造上にフィルタ要素を形成する繊維の束を有するフィルタ装置の側面図であって、フィルタ要素がロープロファイルの送達形態で示された図である。
【図6B】フィルタ要素が配備された拡張形態にある、図6Aのフィルタ装置の側面図である。
【図7】カテーテルの表面から外側に延びるフィルタを有し、改良された搬入を可能にする曲がった先端を有する、迅速交換カテーテルの遠位端の部分側面図である。
【図8A】フィルタ要素の配備および折り畳みを可能にするコアワイヤを有する単一の一体化誘導装置に沿って近位フィルタ要素と遠位フィルタ要素とを有するフィルタ装置の側面図であって、フィルタ要素がロープロファイルの送達形態で表示された図である。
【図8B】フィルタ要素が拡張した配備形態で図示された、図8Aのフィルタ装置の側面図である。
【図8C】図8Aおよび8Bの装置と同様のフィルタ装置に採り入れるための遠位フィルタ要素の代替実施例の側面図である。
【図8D】図8Cの線D−Dに沿った図8Cのフィルタ要素の断面図である。
【図8E】コアワイヤが着脱可能要素から分離された、図8Cのフィルタ要素の部分側面図である。
【図9A】遠位フィルタ要素および近位フィルタ要素の独立した配備および折り畳みを可能にする2つのコアワイヤを有する単一の一体化誘導装置に沿って遠位フィルタと近位フィルタを有するフィルタ装置の側面図であって、フィルタ要素がロープロファイルの送達形態で示された図である。
【図9B】フィルタ要素が拡張した配備形態で示された、図9Aのフィルタ装置の側面図である。
【図9C】線C−Cに沿った図9Aの一体化ガイド構造の断面図である。
【図9D】線D−Dに沿った図9Aの一体化ガイド構造の断面図である。
【図10】単一のフィルタ要素が左頸動脈と腕頭動脈の間に渡るフィルタシステムを示した大動脈弓の断面図である。
【図11A】左頸動脈と腕頭動脈の間に渡る濾過装置を示し、濾過装置が、2つの遮蔽要素と、2つの内部フィルタと、遮蔽要素を通過した濾過後の流動を左頸動脈および腕頭動脈に提供するポートとを備える、大動脈弓の断面図である。
【図11B】図11Aの線B−Bに沿った図11Aの濾過装置の断面図である。
【図12】下行大動脈から上行大動脈中に延びるカテーテルを示し、カテーテルの外面の外部フィルタ要素が上行大動脈内の流動を濾過する、大動脈弓の断面図である。
【図13A】右鎖骨下動脈から左頸動脈中に延びる濾過装置を示し、フィルタ要素がロープロファイルの送達形態にある、大動脈弓の断面図である。
【図13B】遠位フィルタ要素が配備された拡張形態にある図13Aの濾過装置を示す、大動脈弓の断面図である。
【図13C】遠位フィルタ要素が配備され、近位フィルタ要素がシースの撤去によりロープロファイルの形態で露出された図13Aの濾過装置を示す、大動脈弓の断面図である。
【図13D】遠位フィルタ要素が配備され、近位フィルタ要素が拡張形態で配備された図13Aの濾過装置を示す、大動脈弓の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書には、心臓、特に心臓の左心室に関する処置中に生じる塞栓を捕捉して、特定の動脈、例えば頸動脈中への塞栓の放出を低減または解消することができる装置、およびそれに対応する処置が記載される。開心術を必要とせずに済むかもしれないように、血管を通じて心臓に接近する低侵襲性の技術を使用して心臓に処置を行なうことが望ましい場合がある。心臓近傍で生じて大動脈中に流入した細片は、頸動脈に流入する可能性があり、その場合、塞栓が原因となって卒中または他の望ましくない結果を引き起こす可能性がある。一般に、フィルタシステムは、心臓治療用の構造とは別に送達することができ、フィルタは、塞栓を生じさせ得る事象より前等、望ましい時に設置することができる。一部の実施例では、フィルタシステムのいくつかの部分は、鎖骨下動脈の1つまたは両方を通じて送達することができる。さらなる実施例では、フィルタシステムまたはそのいくつかの部分は、大腿動脈を通じて送達することができる。心臓弁置換等の経皮的心臓処置時に、例えば頸動脈を保護するという所望の機能を行なう各種のフィルタ構造が記載される。これらの塞栓予防装置は、心臓処置に伴う危険性をより望ましいレベルまで低減させることができ、そのような処置が、開心処置に代わるより臨床的に許容できる代替法になることができる。さらに、フィルタは、直接心臓にアクセスする処置との関連でも使用することができ、心臓を再始動させた後に循環する可能性のある塞栓が患者の脳に循環しないようにフィルタで捕捉される。
【0013】
本明細書に記載の装置は、頸動脈、例えば、大動脈に対する分岐を基準として間隔を空けて位置する左総頸動脈および右総頸動脈の保護を提供するように設計される。したがって、単一のフィルタ要素が、大動脈に沿って著しい長さに渡るか、または複数のフィルタ要素が配備されることができる。右総頸動脈は、大動脈から腕頭動脈への流動を濾過することを通じて保護することができる。これは、この動脈は大動脈から右頸動脈に、ならびに分岐で右鎖骨下動脈に至るためである。一部の実施例では、複数のフィルタが単一のガイド構造に沿って設置され、左頸動脈への流動を濾過するように遠位フィルタが配備されることができ、近位フィルタで腕頭動脈への流動を濾過できるようにする。さらなる実施例では、濾過システムは、2つの頸動脈への流動を濾過するための個別のフィルタを備え、一方、送達システムは、そのような送達を容易にするように構成することができる。個別のフィルタの設置に関して、それらのフィルタは、脳に血液を供給する内頸動脈を特に保護するために、頸動脈のさらに下流に配備することができ、また、外頸動脈から血液を供給される組織はそれほど重大ではないため、外頸動脈の保護は内頸動脈ほど重要ではない。追加的な実施例では、フィルタシステムは、左総頸動脈と腕頭動脈との間に渡る単一の要素を有するように設計することができ、大動脈から個々の動脈への流動を制限して、個々の流動が濾過されるようにする。このように、大動脈から頸動脈への流動に所望程度の濾過を提供する数個の濾過システム設計が、本明細書に記載される。
【0014】
経皮的処置または血管内処置中に送達し、移植することができる人工心臓弁のための設計が提案されている。さらに、経皮的処置は、心臓弁の修復を行なうためにも使用することができ、それにより、心肺バイパスの使用を低減または排除することができる。心臓へのこれらの処置および他の処置は、塞栓が大動脈中に放出される危険性を生じさせる。大動脈中の塞栓は頸動脈に流入する可能性があり、その場合、塞栓が頸動脈から患者の脳に運ばれる恐れがあり、結果として卒中および/または他の有害事象が発生する可能性がある。一般に、下行大動脈および/または鎖骨下動脈に塞栓が流入すると、重大な問題が発生する。本明細書に記載される塞栓予防装置の実施例は、弁置換処置および他の心臓処置中に頸動脈への流動を濾過および/または遮断するように設計される。一般に、これらの処置は、ヒトの患者に行なわれることを意図するが、これら処置および装置は、家畜、愛玩動物、または他の家畜化動物にも使用することができる。
【0015】
図1を参照すると、心臓の血管内処置のための装置は、一般には脚部の切開部を通じて下行大動脈を通って心臓まで運搬されることができる。図1に示すように、心臓弁送達カテーテル102と共に大動脈100が示される。大動脈弓104から分岐する動脈も図に示される。塞栓予防を提供するための濾過装置は、一部の実施例では、右鎖骨下動脈110、および任意で腕頭動脈108中に搬入するために、患者の腕の動脈を通して送達することができる。濾過装置が腕頭動脈内に送達されると、1つまたは複数の濾過要素が、右総頸動脈112および左総頸動脈114の開口への流動を濾過するように配置される。これに代えて、またはこれに加えて、濾過装置は、左鎖骨下動脈116中に搬入するために患者の腕を通して送達することもできる。さらに、濾過装置は、下行大動脈から送達して、頸動脈の1つまたは両方への流動を濾過することができる。一般に、濾過装置は、脈管系内の所望位置への装置先端の移動を提供するガイド構造で送達することができる。これに代えて、またはこれに加えて、装置はカテーテルで送達することもでき、カテーテルは、適切なガイド構造に載せて送達することができる。
【0016】
総頸動脈等の頸動脈を保護する目的で、数個の濾過システムの種類が本明細書に記載される。第1の部類の濾過システムは、個々の頸動脈を保護する別個のフィルタ要素を有する。そのようなシステムは、フィルタ要素の送達を容易にする固有のカテーテル設計を有する場合も、有さない場合もある。例えば、カテーテルは、右鎖骨下動脈からカテーテルを送達した後に、腕頭動脈から右総頸動脈にフィルタを送達するための側部ポートを有するように設計することができる。フィルタ要素は、ガイド構造等に係留された状態とするか、またはフィルタは、後に回収するために適所に係留されないままにすることができる。一部の実施例では、左総頸動脈のためのフィルタ要素は、左鎖骨下動脈を通じて送達して、2つの別個のフィルタの送達および回収を分離することができる。
【0017】
追加実施例では、単一のガイド構造に複数のフィルタ要素を取り付けることができ、1つのフィルタ要素が別のフィルタ要素に対して遠位にある。ガイド構造が右鎖骨下動脈に沿って送達される場合は、遠位フィルタ要素は、左総頸動脈中に配備するために誘導することができる。そして、装置は、近位フィルタ要素が、右総頸動脈への流動を濾過するように、腕頭動脈中への配備のために配置されるように設計することができる。
【0018】
フィルタ要素に関しては、様々な範囲のフィルタ設計が可能である。詳細には、一般に販売される塞栓予防フィルタには膜フィルタ構造が取り込まれている。一般に、これらの膜を利用した構造は、フィルタを通る適度な流動を維持できるように、大きな表面積を有する。所望の大きな表面積を提供するために、このような膜利用フィルタは、例えば、吹流し形状、円錐形状等を有することができる。代替のフィルタ設計は、3次元の濾過マトリクスに基づいている。そうしたフィルタは、患者体内での血管に沿った横方向の広がりの縮小に関して利点を有することができ、一方で、フィルタを通過する良好な流動が維持される、優れた濾過を提供する。適切な3次元濾過マトリクスは、ポリマ繊維から形成することができ、表面毛細管繊維は、繊維のマットを用いる等の濾過マトリクスの形成のために優れた材料であることが分かっている。
【0019】
さらなる実施例では、フィルタ装置は、腕頭動脈の開口の間から左総頸動脈にまで渡る単一の濾過要素を備えることができ、装置が脈管壁まで拡張されて、大動脈から動脈に入る流動を調整する。拡張部分は、封止要素を使用して脈管の壁に対して封止部を形成することができる。その構造は、右鎖骨下動脈を通じて送達することができる。その後、濾過後の流動は、封止要素の個々の内部を通って封止要素を通過することができる。適切な封止要素は、例えば、バルーン、非多孔質の覆いを有する拡張式足場材等である。一部の実施例では、濾過要素は、封止要素に連結された濾過材を備えることができ、封止要素を通過した流動が濾過材を通って流れるようにする。例えば、濾過材は、封止要素間にまたがって濾過材に大きな表面積を与える、概して円筒形の形状を有することができる。代替または追加実施例では、濾過要素は、2つのフィルタ要素を有することができ、1つのフィルタ要素が各封止要素に付随し、その特定の封止要素を通る流動を濾過する。
【0020】
追加または代替の実施例では、封止要素は、大動脈からの流動を受ける開口を有する管状部材に連結することができる。管状部材はさらに、大動脈流動への開口と、封止要素を通過して個々の腕頭動脈および左総頸動脈へと通じる開口との間で、管状部材内に1つまたは複数のフィルタ要素を備えることができる。濾過要素として、膜を利用した要素、繊維を利用した要素、それらの組み合わせ等がなり得る。このような封止部材を利用した構造は、フィルタ構造の送達および除去に関連して、配備形態と回収形態との間でフィルタ要素を遷移させなくてよいという利点を有することができる。封止部材は、利便に配備し、除去のために折り畳めるように設計することができる。封止部材により、直径を縮小することができ、したがって大動脈からの流動を減少させることができるが、フィルタ要素が管状構造に取り囲まれた装置を使用すると、処置に追加的なステップを加えることなく、装置の除去時に塞栓が放出される危険性を低減することができる。
【0021】
一部の実施例では、特に心臓の処置は、下行大動脈から大動脈弓の周囲を通り、上行大動脈を通って心臓に接近することを要する。詳細には、血管内の心臓弁置換は、開心術を伴う心臓弁置換の代替法として行なうことができる。他の心臓処置には、例えば、心臓弁の修復、心室を分ける中隔の不具合の修復、または結果として卒中の危険性がある他の心臓処置が含まれる。だたし、追加または代替実施例では、心臓には胸部を通じて接して処置を行なうことができる。一般には、塞栓発生の著しい危険性を生じる前に、処置中の適切な段階で適切なフィルタが配備される。処置の中には、処置中に循環を維持するために心肺バイパスを要するものもあり、フィルタを配備して、バイパス処置自体ならびに心臓への処置の結果生じる塞栓を捉えることができる。
【0022】
上記のように、一部の実施例では、フィルタ装置は、下行大動脈を通じて誘導してもよい。例えば、フィルタは、ガイドカテーテルの外面に装着することができ、ガイドカテーテルは、カテーテル先端ならびにフィルタ要素が上行大動脈中の大動脈弁と腕頭動脈への開口との間に位置する状態で配置される。ガイドカテーテルは、装着されたフィルタ要素と共に、例えば心臓処置が開始する前、または処置中の他の適当な早い時間に、配置することができる。フィルタは、ロープロファイル形態でその位置まで送達することができ、フィルタが配備形態で配備されることができ、配備形態は、脈管内のカテーテル周辺の流動がフィルタ要素を通るように誘導し、下流の流動の塞栓がフィルタによって除去されるようにする。
【0023】
フィルタが適位置に配備されると、次いで、フィルタが総頸動脈を含む身体への流動の予防を提供している状態で、心臓処置を行なうことができる。フィルタ要素による干渉は一切受けずに、ガイドカテーテルを通じて、心臓処置を行なうための器具を導入することができる。心臓処置が完了する、または少なくとも塞栓の発生で患者に危険性を生じさせる心臓処置の段階が完了すると、ガイドカテーテルをフィルタと共に除去することができる。フィルタは、除去に備える形態に遷移させることができ、吸引カテーテルやシース等の各種の補助装置を使用して装置の除去を容易にすることができる。これについては、下記で具体的な装置との関連でより詳細に説明する。
【0024】
一部の実施例では、1つまたは複数のフィルタが、1つまたは両方の鎖骨下動脈を通じて送達される。右鎖骨下動脈から送達されるフィルタ要素は、腕頭動脈への流動を濾過するために直接配置するか、または、フィルタは、右総頸動脈中に設置するために分岐点周辺で方向操作することができる。左総頸動脈中に設置するには、フィルタ要素は、右鎖骨下動脈を通り、腕頭動脈を通り、大動脈弓に沿って比較的短い距離を送達された後に左総頸動脈に入ることができる。フィルタは、大動脈弓に沿った比較的短い上流への移動の後、左鎖骨下動脈から左総頸動脈中に送達することもできる。代替実施例では、フィルタは、総頸動脈への代替として内頸動脈中に設置することができる。
【0025】
フィルタが右頸動脈中に設置される場合、そのフィルタは、腕頭動脈および大動脈弓を経由した右鎖骨下動脈からの左頸動脈への到達を妨げないであろう。しかし、未濾過の血液を右頸動脈に到達させることなく第2のフィルタを左頸動脈に送達するための開口部を設けたカテーテルにフィルタが装着されない場合は、腕頭動脈中に設置されたフィルタは、右鎖骨下動脈からの左頸動脈への到達を妨げる可能性がある。したがって、フィルタシステムのいくつかの実施例は、腕頭動脈用のフィルタを備え、このフィルタは、そのカテーテルを通じて左頸動脈用のフィルタを送達する前に患者体内に送達されるカテーテルの外側に装着される。
【0026】
2つのフィルタが共通のガイド構造に装着される場合は、フィルタは、右鎖骨下動脈から左頸動脈への到達を提供しながら、腕頭動脈中に設置されることもできる。そして、ガイド構造は、腕頭動脈用のフィルタの妨げになることなく、または右頸動脈に流れ得る未濾過の流動を生じさせることなく、左頸動脈への到達を可能にする。同様に、上記のように、単一のフィルタ構造が大動脈弓に沿って左頸動脈と腕頭動脈の間に渡ることができ、その場合は、個々の動脈への開口または開口近傍に封止を要する可能性がある。
【0027】
単一の構造が左頸動脈と腕頭動脈の間に広がるそのような実施例では、1つまたは複数のフィルタが装着されたガイド構造、または一般には単独のガイド構造が、右鎖骨下動脈内を起点とした後に左頸動脈中に送達される。先端が左頸動脈内に適切に配置されると、フィルタおよび/または封止要素を配備することができる。左総頸動脈および腕頭動脈のための個々のフィルタおよび/または封止要素は、同時に配備するか、または順次配備することができる。配備の順序は、一部の実施例では、装置の構造に応じて決まることもある。詳細には、装置は、本質的に同時に要素を配備するように設計することができる。
【0028】
それらの実施例では、左頸動脈および腕頭動脈への流動を濾過するために濾過構造が設置されると、塞栓が頸動脈中に流入する危険性が低下または解消された状態で、心臓に関する処置を行なうことができる。心臓処置が完了すると、フィルタ構造を除去することができる。一部の実施例では、個々のフィルタおよび/または封止部材は、収集形態に遷移させることができる。追加または代替の実施例では、吸引カテーテルまたはシースを使用して(1つまたは複数の)フィルタ要素の回収を容易にすることができ、追加的な器具が、フィルタ要素の回収中にフィルタ要素から塞栓が放出されないように何らかの保護を提供することができる。
【0029】
本明細書のフィルタシステムは、心臓に処置を行う際に頸動脈中に塞栓が放出されることからの保護を提供する。一般に、心臓処置は、胸部および/または下行大動脈を通じて心臓に到達することを伴い得る。頸動脈の保護を通じて、卒中の危険性を大幅に下げることができる。装置および処置は、心臓処置を行なうために導入される装置の妨げにならないように設計される。頸動脈への流動を著しく減少させない適切な濾過では、濾過による保護は、長時間を要する心臓処置にわたり機能させておくことができる。したがって、これらの濾過の手法は、心臓への処置から生じる結果を改善するための実際的な手法を提供する。
【0030】
濾過装置
濾過装置は、大動脈から右頸動脈および左頸動脈への流動を濾過する目的を達成するために各種設計を採り込むことができる。一般に、設計は、4グループに系統化することができる。第1のグループでは、右頸動脈および左頸動脈それぞれに個別のフィルタ要素が使用される。第2のグループでは、複数のフィルタ要素が共通のガイド構造に装着され、ガイド構造は、遠位フィルタを左頸動脈に送達できるようにする構造を有し、一方、近位フィルタは、腕頭動脈への流動を濾過するために配置することができる。第3のグループでは、両動脈への流動が濾過されるように、左頸動脈から腕頭動脈に渡る単一の構造が設計される。第4のグループでは、上行大動脈への送達のためにカテーテルの外面にフィルタ要素が設置され、頸動脈への流動を含む大動脈弓周辺の流動が濾過されるようにする。心臓処置を行なうための装置は、フィルタ要素の付いたカテーテルを通じて送達することができる。
【0031】
1.総頸動脈濾過のための個別のフィルタ要素
このグループの濾過システムは、左頸動脈および右頸動脈それぞれを保護する別個の要素を有する。フィルタは、総頸動脈中に設置するか、あるいは、1つまたは両方のフィルタが、総頸動脈を通過したそれぞれの内頸動脈内に設置することができる。一般に、フィルタまたは塞栓予防装置は、フィルタが配備されて流動を濾過している間、係留することができるか、または、それに代えて、もしくはそれに加えて、フィルタの1つまたは両方を、脈管内の所望の流動の濾過を提供する位置に係留されない状態で置いておくこともできる。係留されないフィルタは、心臓処置完了後のいずれかの時点で収集することができる。適切な係留具には、例えばガイド構造が含まれる。ガイドワイヤや一体化された誘導装置等のガイド構造は、一般に、フィルタを所望の位置に設置できるようにする可撓性および操作性を提供する。一部の実施例では、フィルタ装置は、腕頭動脈または総頸動脈内に搬入される単一のガイド構造および単一のフィルタ要素を備える。フィルタが非係留形態で配備される場合、ガイド構造等は、選択された場所にフィルタを放出するためのシース等の配備器具として設計することができる。フィルタを設置する動機となった処置が完了した後、適切な回収器具を使用して、係留されていないフィルタを収集することができる。
【0032】
適切なフィルタ要素は、各種材料から形成することができ、中程度の塞栓負荷下でも十分な血流が維持されるように設計することができる。一部の実施例では、フィルタ要素は、フィルタの表面および/または濾過マトリクス内で塞栓を捕捉できるようにする3次元の濾過マトリクスを備えることができる。濾過マトリクスは、マトリクスを貫通する多数の代替の流動経路を提供することができ、著しい塞栓負荷の場合でもフィルタを通る良好な流動を維持することができる。これに加えて、またはこれに代えて、フィルタ要素は、明確な孔を有するフィルタ膜と一般にその膜を支持する枠とを備える、バスケット型のフィルタ要素を備えることもできる。流動がバスケットの中へ誘導され、そこで塞栓が濾過されるように、バスケットの開口部を脈管を横断するように設置することができる。さらなる実施例では、フィルタ要素は、3次元の濾過マトリクスと、膜を利用したフィルタ要素を組み合わせることができる。
【0033】
図2Aおよび2Bに、独立したフィルタ要素がそれぞれ左総頸動脈および右総頸動脈中に配備される濾過システムを示す。図2Aを参照すると、フィルタシステム128は、カテーテル130、第1のフィルタ装置132、および第2のフィルタ装置134を備える。カテーテル130は、中央管腔136を備え、中央管腔136を通して第1のフィルタ装置132および第2のフィルタ装置134を送達することができる。一部の実施例では、カテーテル130は2つの管腔を備えて、カテーテル130を通してフィルタ装置132、134を別々に搬入できるようにしてよい。フィルタ装置132は、係留具またはガイド構造138、およびフィルタ要素140を備えることができる。同様に、フィルタ装置134は、係留具またはガイド構造142、およびフィルタ要素144を備えることができる。
【0034】
フィルタ要素140、144は、それぞれガイド構造138、142に取り付けることができ、そのため、フィルタ要素140、144は、送達形態と配備形態との間で、別々に、または順次駆動することができる。一部の実施例では、フィルタ要素は、下記のように形状記憶ポリマもしくは合金または他の適切な材料で形成された、自動拡張フィルタからなることができる。そのような実施例では、ガイド構造は、ガイドワイヤを備えることができ、フィルタ要素は、溶接、接着、または他の方法で適切にガイドワイヤに取り付けることができる。他の実施例では、ガイド構造は、コアワイヤおよびオーバーチューブを備えた、一体化された誘導装置であってよく、その場合、コアワイヤとオーバーチューブの相対的な運動により、取り付けられたフィルタ要素を送達形態と配備形態間で遷移させることができる。適切なフィルタ要素については下記でさらに説明する。
【0035】
図2Bを参照すると、濾過システム146は、2つの別個のカテーテル152、156を通じて配備される2つの独立した濾過装置148、150を備える。濾過装置148は、係留具またはガイド構造156と、係留具の遠位端または遠位端近傍で係留具156に取り付けられたフィルタ要素158とを備える。係留具156の遠位端およびフィルタ要素158は、カテーテル152内部の管腔160を通じて搬入することができる。同様に、フィルタ装置150は、係留具またはガイド構造162と、係留具162の遠位端または遠位端近傍で係留具162に取り付けられたフィルタ要素164とを備える。係留具162の遠位端およびフィルタ要素164は、カテーテル154内部の管腔166を通じて搬入することができる。図2Bに示すように、カテーテル152は、右鎖骨下動脈110内に配置され、フィルタ要素158は、係留具156に付けられて、右総頸動脈112中に配置される。さらに、カテーテル154は、左鎖骨下動脈116中に配置され、フィルタ要素164は、係留具162に付けられて左総頸動脈114中に配置される。あるいは、フィルタ158および/またはフィルタ164は、対応する内頸動脈中に設置することができる。
【0036】
図3Aおよび3Bを参照すると、フィルタシステムが示され、これらのシステムでは、送達カテーテルが、フィルタ、および/または、図2Aのフィルタシステム130に関してフィルタ装置の1つに置き換わることができる遮蔽要素を備える。図3Aを参照すると、フィルタシステム186は、フィルタ装置188およびカテーテル190を備える。フィルタ装置188は、係留具またはガイド構造192、およびフィルタ要素194を備える。カテーテル190は、中央管腔198を有する管状要素196と、管状要素196の遠位端または遠位端近傍に取り付けられたフィルタ要素200とを備える。フィルタ要素200は、腕頭動脈108中に配備するための形態およびサイズを基準として設計することができる。フィルタ装置188は、左頸動脈114中にフィルタ要素194を設置するために中央管腔198から延びるように設計することができる。
【0037】
図3Bを参照すると、フィルタシステム202は、フィルタ装置204およびカテーテル206を備える。フィルタ装置204は、係留具またはガイド構造208およびフィルタ要素210を備える。カテーテル206は、管腔214および膨張管腔215を有する管状要素212と、遮蔽要素216と、フィルタ要素218とを備える。管状要素212は、遠位ポート220および濾過後流動ポート222を備える。管状要素212の断面図を図3Cに示す。遮蔽要素216は、例えばバルーンまたは他の拡張可能な非多孔質構造である。膨張管腔215は、膨張ポート224において遮蔽要素216と界接することができる。フィルタ要素218は、遠位ポート220とフィルタ流動ポート222との間の流動がフィルタ要素218で濾過されるように、管腔214内部に置かれる。カテーテル190の近位端を図3Dに示す。この実施例では、管状要素212の近位端は、ルアーフィッティング等のフィッティング226を有する。サイドアーム228は、シリンジ等の膨張源230を膨張管腔215と連結し、膨張源230は、フィッティング232でアーム228と連結される。
【0038】
フィルタ要素218は、任意の適切なフィルタ材料またはその組み合わせから形成することができる。管状要素212内部でのフィルタ要素218の位置のために、フィルタ要素218は、所望の形態で固定的に取り付けることができる。例えば、フィルタ要素は、表面毛細管繊維等の繊維濾過マトリクス、織布もしくは不織マット、多孔質フィルタ膜、またはそれらの組み合わせを備えることができる。適切な多孔膜は、ポリマおよび/または金属を含むシートを備えることから形成することができる。ガイド構造208は、例えばガスケットまたはワッシャーがフィルタ要素218内部に取り付けられているフィルタ要素218を通って摺動することができる。ガスケットまたはワッシャーは、ポリテトラフルオロエチレン等から形成して、ガイド構造208との低摩擦性の界接面を生成することができる。フィルタ要素218は、脈管内への送達および脈管からの撤去時にフィルタ要素210をその中に配置できる遠位部を残して、管状要素212内に配置することができる。フィルタ装置204は、患者体内に設置する前に、カテーテル206に対して事前に装填することができる。フィルタシステム186では、ポート222を通って腕頭動脈108に向かう大動脈血流がフィルタ要素218で濾過され、右鎖骨下動脈173および右総頸動脈112に入る。
【0039】
図4は、図2Aに示すシステムと同様の濾過システムの代替実施例を示す。図4を参照すると、濾過システム242は、カテーテル244、第1のフィルタ装置246、および第2のフィルタ装置248を備える。第1のフィルタ装置246および第2のフィルタ装置248は、図2Aの第1のフィルタ装置132および第2のフィルタ装置134に類似する。第1のフィルタ装置246は、係留具またはガイド構造250およびフィルタ要素252を備え、カテーテル244から右頸動脈112中に延びるように設計される。フィルタ装置248は、係留具またはガイド構造254およびフィルタ要素256を備え、カテーテル244から左頸動脈114中に延びるように設計される。
【0040】
カテーテル244は、遠位ポート258および側部ポート260を備える。遠位ポート258および側部ポート160は、フィルタ要素および係留具が個々のポートから延びて配備位置になるように、カテーテル244内の管腔262からフィルタ要素を送達するために設計される。カテーテル244等の偏向調整カテーテルは、ガイド構造が急な方向転換を行なうための支援を提供することができる。これは、側部ポートが、ガイド構造の先端を所望の方向に誘導するのを助けることができるためである。カテーテル244は、ガイド構造間の干渉なしに2つのガイド構造を送達できるように、適切な直径で形成することができる。偏向カテーテルについては、参照により本明細書に組み込まれる、Webster他による米国特許出願公開第2007/0208302号、名称「Deflection Control Catheters, Support Catheters, and Methods of Use」にさらに記載される。
【0041】
図5を参照すると、濾過システム282は、係留されない形式で動脈内に配備して所望の濾過を提供することができる、着脱可能フィルタ284、286を備える。図5に示すように、フィルタ要素284、286は、それぞれ右頸動脈および左頸動脈中に配備される。下記でさらに説明するように、フィルタ284、286は、適切な送達器具を使用して配備することができ、塞栓生成の危険性を生じさせる心臓処置が完了すると、除去器具を使用してフィルタを撤去することができ、そのためフィルタは動脈内に残らない。
【0042】
図5には、係留されないフィルタを示し、1つのフィルタが右総頸動脈にあり、1つのフィルタが左総頸動脈にあるが。代替実施例では、係留されないフィルタを腕頭動脈中に設置し、および/または、1つまたは両方のフィルタを、対応する内頸動脈中に設置することができる。さらに、フィルタシステムによっては、1つのフィルタは係留することができ、第2のフィルタは係留されない。例えば、係留されないフィルタは、左総頸動脈中に設置し、係留されたフィルタは、右総頸動脈中に設置することができる。係留されないフィルタが左総頸動脈に置かれる実施例では、心臓処置の一部の際には、大動脈には頸動脈の濾過に関係する構造が設置されない可能性がある。
【0043】
図2乃至5の上記実施例では、濾過システムは、ガイド構造との関連における適切な配備、または非係留式の配備のための各種のフィルタ要素を備えることができる。フィルタ要素は、一般に、中程度の塞栓負荷下でも十分な流動が維持されるように、左頸動脈または右頸動脈への大動脈血の流動を濾過するように設計される。一部の実施例では、所望の濾過を行なうために、フィルタは、腕頭動脈、右頸動脈、および/または左頸動脈中に配備されるように設計することができる。フィルタ要素がガイド構造との関連で、または係留されない形式で配備される実施例の場合は、フィルタ要素は、一般に、他の用途向けの設計から転用することができる。一般に、フィルタ要素は、3次元の濾過マトリクス、フィルタ膜、それらの組み合わせ等を備えることができる。
【0044】
バスケット型フィルタは、一般に、2次元の膜を通る孔が穿孔、製織、成型、またはその他の方法で形成された濾過膜を有する。孔のサイズは、有益な血液成分の通過を許す一方で、孔のサイズを超えるサイズの塞栓は通さないように選択することができる。バスケットの形状は、円錐形状、吹流し形状、または同様の形状を有することができる。一般に、濾過膜は、枠、支柱等で支持されて、フィルタ構造に所望の形状を与えることができる。バスケットの表面積が広いことにより、特定の塞栓負荷の場合に膜の目詰まりを低減することができる。適切な孔のサイズは、特定の用途に合わせて決定することができる。一般的な血管内での用途には、50ミクロン乃至250ミクロンの直径の孔が適する可能性がある。多孔膜は、例えば、ポリウレタンもしくはポリエステル等のポリマ、金属、または枠部材に取り付けられる他の適切な材料を備えることができる。
【0045】
一般に、バスケットフィルタの枠部材および/または支柱は、例えば、生体適合性金属、適切なポリマ、またはそれらの組み合わせから作製することができる。適切な生体適合性金属には、例えば、チタン、コバルト、ステンレス鋼、ニッケル、鉄合金、コバルト合金、例として、コバルト−クロム−ニッケル合金であるElgiloy(登録商標)、ニッケル−コバルト−クロム−モリブデン合金であるMP35N(登録商標)、およびニッケル−チタン合金であるNitinolが含まれる。一部の実施例では、枠は、脈管内に放出された時に自然に拡張形態をとるように設計することができ、一方、他の実施例では、枠は、駆動して配備形態をとらせることができる。一般に販売されるバスケットフィルタは、バスケットの直径に対応した各種の枠サイズのものが製造されている。枠のサイズは、バスケットの端部が、血管壁を損傷することなく脈管壁と接触するように選ぶことができる。一般に販売されるバスケットフィルタには、例えば、米国イリノイ州のAbbott Laboratoriesの塞栓予防装置であるRX Accunet(登録商標)、米国マサチューセッツ州のBoston Scientific Inc.のFilterWire(商標)、および、米国ミネソタ州のev3 Inc.のSpiderFX(商標)塞栓予防装置、が含まれる。SpiderFX(商標)は、フィルタ部材として機能する吹流し形状のNitinol製メッシュバスケットを有するバスケットフィルタを備える。自動拡張するバスケットフィルタについては、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Oslund他による米国特許第6,740,061号、名称「Distal Protection Device」にさらに記載される。濾過膜を有する駆動可能なフィルタ要素についてはさらに、Konya他による米国特許第6,146,396号、名称「Declotting Method and Apparatus」、および、Daniel他による米国特許第6,663,652号、名称「Distal Protection Device and Method」に記載され、両特許は参照により本明細書に組み込まれる。フィルタサイズの選択を支援するために、血管造影、定量血管造影、超音波、または他の適切な技術を介して、基準となる脈管直径を得ることができる。
【0046】
マトリクスベースのフィルタは、一般に、材料の3次元の塊体を通る、互いに連結された曲がった流動経路の組織網を備えることができる。代替の流動経路が利用できることにより、そのようなマトリクスベースのフィルタは、中程度の塞栓負荷でも良好な流動を維持することができる。一般には、3次元の濾過マトリクスを有する濾過装置は、装置の配備後、濾過装置全体にわたって低い圧力低下を維持できる。一部の実施例では、3次元の濾過マトリクスを有するフィルタは、バスケット型のフィルタ設計と比べて、血管に沿った横方向の広がりを大幅に小さくすることができる。これは、フィルタマトリクスを通る流動経路により、中程度の塞栓負荷下で流動を維持するための大きな表面積の必要性が低減するからである。
【0047】
一部の実施例では、マトリクスの材料は、ヒドロゲルや形状記憶繊維等の膨潤性ポリマを含むことができる。ヒドロゲルは、架橋結合することで水溶性となることを妨げているポリマを含む親水性材料である。そのような材料が血液や他の体液等の水溶液と接触すると、材料は、材料の構造中に流体/液体が吸収されるために拡張する。そのような種類の濾過材料については、参照により本明細書に組み込まれる、Ogleによる米国特許第7,303,575号、名称「Embolism Protection Devices」にさらに記載される。
【0048】
さらなる実施例では、3次元の濾過マトリクスを有するフィルタは、濾過マトリクス中に配備される繊維の束を備えることができる。適切な繊維には、例えば表面毛細管繊維(SCF)繊維が含まれる。SCF繊維は、繊維の長さまたはその一部に及ぶ溝部/溝(表面毛細管)を有する繊維を備える。溝部の存在により、同一の半径を有する無溝部の繊維(「円形繊維」)に比べて繊維の表面積が増大する。例えば、テネシー州ジョンソンシティのFiber Innovation Technology,Inc.から販売されるSCF繊維である4DG(商標)Fiberは、典型的には、同等の円形繊維の3倍の比表面積を有する。
【0049】
図2乃至図4を参照すると、係留式フィルタに関連するガイド構造は、ガイドワイヤ、一体化された誘導装置等を備えることができる。本明細書に記載されるように、ガイドワイヤは、細長い形状を有し、円形または非円形の断面を有することができる。一部の実施例では、ガイドワイヤは、例えば、中実ワイヤまたは中空の内部を有するコイルであってよく、任意で表面上に覆いを有する。一般に、ガイドワイヤは、患者の血管系または患者体内の他の脈管内における操作のために可撓性があり、先端は屈曲可能にしてガイドワイヤの方向操作を容易にしてもよい。
【0050】
本明細書で使用される場合、一体化ガイド構造は、ガイドワイヤと同様である場合もあるが、一体化ガイド構造は、相互に対して相対的に動く構成部品を有する構造を備えることができる。例えば、一体化ガイド構造は、コアワイヤおよびオーバーチューブを有することができ、コアワイヤおよびオーバーチューブは、相互に相対的に長手方向に動くことができる。一部の実施例では、トルクカプラでコアワイヤとオーバーチューブの回転運動を結合することができ、その場合は、相対的な長手方向の動きの範囲が制限される可能性もある。遠位先端近傍の構造の可撓性を増すために、コイルを構造に加えることもできる。
【0051】
図6Aおよび6Bを参照すると、オーバーチューブ308、オーバーチューブ308内を延びるコアワイヤ310、ハンドル312、およびフィルタ要素314を備えるフィルタ装置306。図6Aの側面図を参照すると、オーバーチューブ308は、遠位端にテーパー部316を有する。この実施例では、近位コイル318がテーパー部316に当接し、テーパー部316に固定される。コアワイヤ310は、遠位端で遠位コイル320に被覆される。遠位コイル320は、はんだおよび溶接322と連結されるが、他の取り付け手法を使用することができる。オーバーチューブ308、コアワイヤ310、近位コイル318、遠位コイル320、および握り312は、すべてステンレス鋼から形成することができるが、必要に応じて他の適切な材料を使用することができる。コアワイヤとオーバーチューブの相対的な動きを制御するための適切な駆動器具については、2008年7月14日出願のGaldonik他による同時係属米国特許出願第12/218,306号、名称「Fiber Based Medical Devices and Aspiration Catheters」にさらに記載され、同出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0052】
この実施例では、フィルタ装置314は、第1の取り付け具326および第2の取り付け具328で取り付けられたSCF繊維の束324を備える。長さ0.1インチの管330は、ポリイミド重合体から形成することができ、管330は、コアワイヤ310が管中に延びた状態で第2の取り付け具328内部に配置される。繊維は、放射線不透過性の帯等で、2つの取り付け具326、328に、かしめ/圧着/接合される。第1の取り付け具326は、コアワイヤ310と共に動くように取り付けられ、第2の取り付け具328は、近位コイル318とオーバーチューブ308と共に動くように取り付けられる。圧着後、繊維の束は、シアノアクリレート等の接着剤で各端部において接合する、および/または熱接合で融着することができる。
【0053】
繊維の長さは、一般に、配備部位における脈管の半径の少なくとも2倍の長さになるように選ばれる。長さは、配備形態において、フィルタ要素227が流動を維持しながら、かつ血管壁に損傷を与えることなく効果的に塞栓予防を提供できるように選ぶことができる。上述のように、基準となる脈管直径は、血管造影または他の適切な方法で推定することができる。また、繊維は、一般に、送達のためのロープロファイル形態で整列され、配備形態では繊維がコアワイヤから外側に広がる。SCF繊維の性質は、フィルタ要素324が配備形態にある時に、著しい塞栓負荷であっても脈管内で流動が十分に維持されるように選ぶことができる。適当な繊維特性の選択ならびにそのような実施例に適した材料についてのさらなる解説は、Galdonik他による米国特許出願公開第2006/0200047(A)号、名称「Steerable Device Having a Corewire Within a Tube and Combination with a Functional Medical Component」に見出すことができ、同出願公開は参照により本明細書に組み込まれる。SCF繊維を用いる図6Aおよび6Bの装置と同様の構造の一般に販売されているフィルタは、FiberNet(登録商標)の商品名で、Lumen Biomedical,Inc.から入手することができる。
【0054】
一部の実施例では、フィルタ要素は、3次元の濾過マトリクスとバスケット型フィルタの組み合わせを備えることができる。例えば、繊維を利用したフィルタをバスケット中に設置して、流動が初めに濾過マトリクスを通り、次いで濾過膜を通るようにする。バスケットは、繊維利用濾過膜を支持する安定性のある枠を形成することができ、これは、高流量の脈管に望ましい可能性がある。バスケットは、特定の配備設置について濾過マトリクスの除去を容易にすることができる。
【0055】
図3Aに記載されるフィルタシステムは、カテーテルの外面にフィルタが装着されたカテーテルを有する。流れ濾過の用途のために適合させることができるカテーテルについては、例えばGaldonik他による米国特許出願公開第2008/0172066号、名称「Embolectomy Procedures With a Device Comprising a Polymer And Devices With Polymer Matrices and Supports」により詳細に記載される。同出願公開は参照により本明細書に組み込まれる。外部フィルタを有するカテーテルの適切な実施例が図7に示され、このカテーテルは、迅速交換構造も有する。図7を参照すると、カテーテル350は、曲がった先端354と遠位開口部356とを有する管状要素352を備える。迅速交換ポート358は、管状要素352の中にガイド構造360を挿入できるようにし、ガイド構造360は、遠位開口部356で管状要素352から出ることができる。
【0056】
オーバーチューブ362は、管状要素352の上に載っている。オーバーチューブ362は、ガイド構造360からの干渉を受けずにオーバーチューブ362と管状要素352の相対的な動きを提供するための切れ目または同様の構造364を有することができる。管状要素352が中央管腔を定義することができるため、オーバーチューブ362は一般には液体を保持する必要はないので、オーバーチューブ362は、管状要素352の上に載り、かつ装置の近位端からオーバーチューブ362の遠位端に長手方向の運動を伝達することができるという意味においてのみ、管状である構造を有することができる。繊維366は、第1の端部において第1の帯368で管状要素352に付着し、繊維366は、第2の端部において第2の帯370でオーバーチューブ362に付着する。オーバーチューブ362と管状要素352の相対的な動きを使用して、配備された広がった形態と、脈管への送達および脈管からの除去のためのよりまっすぐな形態との間で繊維366を遷移させることができる。図7に示すように、繊維366は広がった配備形態にあるが、遠位でオーバーチューブ362に対して管状要素352が移動すると、繊維は、よりまっすぐなロープロファイル形態になる。繊維366は、一般に束として配列され、繊維366は、SCF繊維を備えて、望ましい濾過を提供することができる。
【0057】
一部の実施例では、係留されないフィルタ要素が脈管内に設置されて、所望の濾過を提供する。そのような濾過システムについては図5との関連で上述した。一般に販売されている非係留フィルタは、静脈、特に大静脈中に配備するためのものが入手可能である。そのような大静脈用のフィルタを、頸動脈への流動を濾過するための暫定的な設置向けに適合することができる。濾過膜および/または濾過マトリクスを大静脈用のフィルタ設計に追加して、塞栓移動のより高い抑制を提供することができる。大静脈フィルタについては、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Kim他による米国特許第6,126,673号、名称「Vena Cava Filter」にさらに記載される。3次元濾過マトリクスを有する非係留フィルタについては、参照により本明細書に組み込まれる、Ogleによる米国特許第7,303,575号、名称「Embolic Protection Devices」にさらに記載される。一部の実施例では、自動拡張する非係留フィルタをカテーテルから送達することができ、フィルタは、フィルタを送達形態に拘束するカテーテルから押し出される。自動拡張フィルタが放出されると、フィルタが脈管内で展開する。代替実施例では、専用の送達装置を使用して非係留フィルタを送達することができる。同様に、回収装置を使用して非係留フィルタを収集することができる。回収装置は、フィルタを把持するか、または他の方法でフィルタと係合する。一部の非係留フィルタ設計に適した回収装置が、参照により本明細書に組み込まれる、Suon他による米国特許第6,726,621号、名称「Retrieval Devices for Vena Cava Filter」に記載される。同様に、カテーテルを通じて血管系に送達することができる把持具または微小鉗子を同様に使用して、非係留フィルタを把持し、除去することができる。非係留フィルタは、一部の実施例では、シースまたは吸引カテーテルの遠位端の中に引き込むことができる。
【0058】
一般に、本明細書の上記または下記に記載されるカテーテルはいずれも、ワイヤ被覆設計または迅速交換設計を備えることができる。迅速交換形式では、ガイド構造は、カテーテルの側面を通って、概ねカテーテルの遠位端に向かって管腔から出、ガイド構造は、カテーテルの長さの一部のみにわたりカテーテルと係合する。カテーテルは、1つまたは複数の生体適合性材料から作製することができ、それらの材料には、例えば、金属、例として、ステンレス鋼もしくは例えばNitinol等の合金、または、ポリマ、例としてポリエーテルアミドブロック共重合体(PEBAX(登録商標))、ナイロン(ポリアミド)、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネートもしくは他の適切な生体適合性ポリマが含まれる。一部の実施例では、カテーテルは、ポリマに埋め込まれた編組金属で強化されたポリマ管状構造を備えることができる。また、カテーテルの先端は、湾曲または屈曲させてガイド構造によるカテーテルの搬入を改良してもよい。迅速交換カテーテルについては、Boldenow他による米国特許出願公開第2007/0060944(A)号、名称「Tracking Aspiration Catheter」にさらに記載され、同出願公開は参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
2.共通のガイド構造に付けられた複数のフィルタ要素
一部の実施例では、左頸動脈および右頸動脈への大動脈血流の同時の濾過を提供するのに適した複数のフィルタ要素を使用して、単一のガイド構造を構築することができる。そのようなフィルタ装置は、近位フィルタ要素および遠位フィルタ要素が取り付けられた単一のガイド構造を備えることができる。近位フィルタ要素は、一般に、腕頭動脈内に搬入し、配備することができ、遠位フィルタ要素は、腕頭動脈を通じて配備のために左頸動脈内に搬入することができる。この構成では、遠位フィルタを通る流動は、ガイド構造の向きに対して近位から遠位に向かう方向になり、近位フィルタを通る流動は、ガイド構造の向きに対して遠位から近位に向かう方向になる。一部の実施例では、フィルタは、予想される流動方向に基づいて、適切な向きで設計することができる。
【0060】
フィルタは、一般に、ロープロファイルの送達形態および拡張した配備形態を有する。一部の実施例では、ガイド構造は、オーバーチューブに付随する1つまたは複数のコアワイヤを備えることができ、(1つまたは複数の)コアワイヤとオーバーチューブの相対的な動きを使用して、フィルタを、ロープロファイル形態と拡張形態との間で遷移させることができる。フィルタ装置は、近位フィルタ要素および遠位フィルタ要素が各自のロープロファイルの送達形態と配備形態との間を、別々に駆動されるか、または同時に駆動されるように構築することができる。2つのフィルタ要素を形態間で別々に遷移させることができる場合は、下記でさらに説明するように、近位フィルタ要素と遠位フィルタ要素は、形態間を順次遷移させて、装置の除去を容易にすることができる。一部の実施例では、1つまたは両方のフィルタ要素が、シース等からの放出の後に自動拡張することができる。
【0061】
図8Aおよび8Bに、共通のガイド構造に取り付けられた2つのフィルタ要素を有する実施例を示す。この実施例では、2つのフィルタは、一般に、同時に配備され、後に折り畳まれる。フィルタ装置390は、ガイド構造392、近位フィルタ要素394、および遠位フィルタ要素396を備える。ガイド構造392は、オーバーチューブ398およびコアワイヤ400を備える。オーバーチューブ398およびコアワイヤ400は、オーバーチューブ398とコアワイヤ400の間でトルクの結合を提供する1つまたは複数のトルクカプラの要素を備えることができる。一般に、オーバーチューブ398は、コアワイヤ400に対して長手方向に動くことができるが、トルクカプラまたは他の構造が相対運動の範囲を制限する可能性がある。適切なトルクカプラは、コアワイヤ400の表面に沿った構造と、オーバーチューブ398の内側表面との間に、鍵と鍵穴タイプの界接面を有することができる。オーバーチューブ398は、近位フィルタ394の近傍に収縮部402を備えることができ、それにより、その箇所におけるオーバーチューブ398のわずかな収縮を可能にして、オーバーチューブ398の全長を短縮して近位フィルタ394の形態を変化させる。収縮部402は、アコーディオン型の構造等、中程度の力が加わると折り畳むように設計された、弱く作られた部分から形成することができる。オーバーチューブ398およびコアワイヤ400は、上記のように、ガイド構造に適した材料から形成することができる。
【0062】
一般に、近位フィルタ394および遠位フィルタ396は、一体化ガイド構造への取り付けと整合する構成であれば、どのような妥当な構成を有することもできる。詳細には、フィルタ要素の個別の設置のための上記のフィルタ要素設計は、単一のガイド構造への2つのフィルタのタンデム設置のために適合することができる。単一の一体化ガイド構造への3次元濾過マトリクスベースの2つのフィルタの設置については、Galdonik他による米国特許出願公開第2008/0172066(A)号、名称「Embolectomy Procedures With a Device Comprising a Polymer and Devices with Polymer Matrices and Supports」にさらに記載され、同出願公開は参照により本明細書に組み込まれる。バスケットを有するフィルタは、バスケットの開口部が、流入の方向を向くように配向すべきである。したがって、遠位フィルタ396は、ガイド構造に対して近位方向を向いた開口部を有することができ、近位フィルタ394は、ガイド構造に対して遠位方向を向いた開口部を有することができる。一部の実施例では、フィルタの1つまたは複数が、バスケット型の枠と3次元の濾過マトリクスの両方を有することができる。
【0063】
図8Aおよび8Bに示すように、フィルタ要素394および396は、関連するフィルタマトリクスが付けられた枠を備える。近位フィルタ要素394は、枠404および繊維を利用した濾過マトリクス406を備える。枠404は、支柱408、410、および拡張可能な円筒形部412を備える。支柱408、410は、収縮部402が収縮すると曲がるように構成され、曲がった支柱が円筒形部412を拡張させて拡張形態にする。円筒形部は、配備されると開いて拡張構造になるひだ構造を備えることができる。濾過マトリクス406は、SCF繊維等の繊維のマットを備えることができる。一部の実施例では、繊維の一端がオーバーチューブ400に取り付けられ、他端が、拡張可能な円筒形部412に取り付けられて、円筒形部412が拡張されて円筒形部の開口がフィルタ装置394の遠位端の方を向いた時に、濾過マトリクス406が脈管を横断して拡張するようにする。繊維は、例えば、接着剤、熱接合、機械的締着、またはそれらの組み合わせで取り付けることができる。
【0064】
同様に、遠位フィルタ396は、枠414および繊維ベースの濾過マトリクス416を備える。枠414は、支柱418、420、および拡張可能な円筒形部422を備える。支柱418、420は、一端でオーバーチューブ398に付着し、他端で円筒形部422に付着している。円筒形部の支柱424、426は、円筒形部422の下縁部を、コアワイヤ400の遠位端または遠位端近傍でコアワイヤ400に連結する。コアワイヤ400がオーバーチューブ398に対して遠位方向に引っ張られると、図8Bに示すように、円筒形部422がオーバーチューブ398から外側に拡張して配備形態をとるのに伴って、支柱418、420および円筒形部の支柱424、426が各自の円筒形部422との取り付け部において外側に広がる。配備形態では、繊維ベースのフィルタマトリクス416が脈管の管腔を横断するように拡張して、フィルタを通る流動を濾過する。フィルタマトリクス416は、SCF繊維等の繊維のマットを備えることができ、繊維は、例えば接着剤、熱接合、機械的締着、またはそれらの組み合わせで取り付けることができる。支柱408、410、418、420、424、426は、例えば、金属もしくはステンレス鋼やNitinol(登録商標)等の合金、または他の適切な生体適合性材料から形成することができ、溶接、はんだ付け、締着、それらの組み合わせ、もしくは他の方法で、適切な構造に適宜取り付けることができる。
【0065】
図8Aは、ロープロファイルの送達形態にあるフィルタ404、406を示す。コアワイヤがオーバーチューブ398に対して近位方向に動かされると、フィルタ394、396は、同時に図8Bに示すような配備形態に遷移する。詳細には、円筒形部412、422が拡張形態に遷移すると、収縮部402が圧縮し、支柱408、410、418、420、424、426が屈曲する。配備形態では、円筒形部412、422は、脈管壁と概して接触して、フィルタを通過した流動がそれぞれフィルタマトリクス406、416を通過する。コアワイヤ400がオーバーチューブ398に対して遠位方向に動かされると、フィルタ394、396が少なくとも部分的に折り畳んで、図8Bの配備形態に対してロープロファイル形態となる。配備時の材料の変化が完全に可逆性でない場合もあるため、フィルタ394、396の折り畳まれた形態は図8Aの元の形態に復帰しない場合もある。
【0066】
図8Aおよび8Bに示すように、コアワイヤ400は、円筒形部の支柱424、426に固定的に取り付けられる。代替実施例では、円筒形部の支柱は、コアワイヤを把持する着脱可能な支持部に取り付けることができる。一部の実施例では、係合の解除を提供する構造を非可逆式にすることができ、コアワイヤがオーバーチューブに対して遠位方向に動かされた時にコアワイヤがフィルタ要素と再係合しないようにする。図8Cを参照すると、図8Bのフィルタ要素396がフィルタ要素430に置き換えられる。フィルタ要素430は、メッシュフィルタ431、円筒形部432、下部支柱433、434、上部支柱435、436、および着脱可能支持部437を備える。下部支柱433、434は、円筒形部432をオーバーチューブ438に連結する。着脱可能支持部437は、上部支柱435、436をコアワイヤ439に連結する。着脱可能支持部437は、第1のリング440、第1の蝶番441、第2のリング442、および第2の蝶番443を備える。リング440、442は、中程度の力が加わるとコアワイヤ439を把持するが、より大きい力が加わるとコアワイヤ439を解放する、ゴムまたは他の弾性材料を備えることができる。
【0067】
着脱可能支持部437の設計に基づくと、コアワイヤ439がオーバーチューブ438に対して近位方向に、横方向に動かされると、円筒形部432が脈管壁と接触して支柱435、436がそれ以上屈曲できなくなるまで着脱可能支持部437がコアワイヤ439を把持してフィルタを配備する。コアワイヤ439が取り付けられたフィルタ要素430の拡張形態を図8Cに示す。図8Dの断面図は、リング440、442がコアワイヤ439と係合している状態の拡張した上部支柱435、436を示す。支柱が拘束形態にある時、オーバーチューブに対して近位方向の力がさらにコアワイヤに加わると、リング440、442からコアワイヤの係合を解除することができる。図8Eを参照すると、コアワイヤ439がリング440、442から係合解除されると、蝶番441、443によりリング440、442が支柱435、436に対して動くことができ、それにより、コアワイヤ439が遠位方向に進められた場合にコアワイヤ439がリング440、442と再係合しない。
【0068】
別のフィルタ装置が図9Aおよび9Bに図示され、この装置は、共通の一体化ガイド構造に取り付けられた2つのフィルタ要素を有する。図9Aおよび9Bのフィルタ装置では、2つの別個のコアワイヤにより、2つのフィルタ要素を別々に駆動することができる。具体的には、図9Aおよび9Bを参照すると、フィルタ装置446は、一体化ガイド構造448、近位フィルタ要素450、および遠位フィルタ要素452を備える。一体化ガイド構造448は、オーバーチューブ454、ならびに独立したコアワイヤ458および460を備える。オーバーチューブ454は、図9Cの断面図に示すように管腔462、464と、それぞれ管腔462、464の遠位開口部であるポート466、467とを備える。コアワイヤ456の少なくとも一部分は管腔462内にあり、オーバーチューブ454のポート466から延びる。同様に、コアワイヤ458の少なくとも一部分は管腔464内にあり、オーバーチューブ454のポート467から延びる。一般に、コアワイヤ456、458は、オーバーチューブ454の近位端からも延び、コアワイヤ456、458の近位端を使用してコアワイヤ456、458およびオーバーチューブ454の相対的位置を別々に操作することができる。コアワイヤ456、458およびオーバーチューブ454はそれぞれ、1つまたは複数のトルクカプラを備えて、管腔460、462内のコアワイヤ456、458の角運動を制約する、および/またはオーバーチューブに対するコアワイヤの長手方向の運動を制限することができる。
【0069】
フィルタ要素450は、バスケットフィルタ468と、バスケットフィルタに連結された繊維ベースのマトリクスフィルタ470とを備える。同様に、フィルタ要素452は、バスケットフィルタ472と、バスケットフィルタ468に連結された繊維ベースのマトリクスフィルタ474とを備える。バスケットフィルタ468は、フープ476、フープ476から延びる織物メッシュ478、および支柱480を備える。支柱480は、フープ476を、織物メッシュ478に対して遠位方向にオーバーチューブ454と連結する。フープ476は、支柱480との連結箇所からずらした位置でコアワイヤ456に連結され、フープ476に適切なトルクを加えてフィルタを形態間で遷移させる。図9Aは、ロープロファイル形態のフィルタ要素450を示す。コアワイヤ456がオーバーチューブ454に対して遠位方向に動かされると、フープ476が配備形態に遷移し、支柱480が撓んでフープを配備形態に支持する。織物メッシュ478は、一端でフープ476に連結し、他端でオーバーチューブ454に連結して、フープ476を通るすべての流動が織物メッシュ478を通過するようにする。
【0070】
バスケットフィルタ472は、フープ482、フープ482から延びる織物メッシュ484、および支柱486を備える。支柱486は、フープ482を、織物メッシュ484に対して遠位方向にオーバーチューブ454と連結する。支柱486は、織物メッシュ484に沿って延びる。フープ482は、支柱486との連結箇所からずらした位置でコアワイヤ458に連結され、フープ482に適当なトルクを与えてフィルタを形態間で遷移させる。図9Aは、ロープロファイル形態にあるフィルタ要素452を示す。コアワイヤ458がオーバーチューブ454に対して遠位方向に動かされると、フープ482が配備形態に遷移し、支柱486が撓んでフープを配備形態で支持する。織物メッシュ484は、一端でフープ482に連結し、他端でオーバーチューブ454に連結して、フープ482を通るすべての流動が織物メッシュ484を通過するようにする。フープ482を通る織物メッシュ484への開口は、オーバーチューブ454に対して近位から遠位に向かう方向に配向され、一方、フープ482を通る織物メッシュ484への開口は、オーバーチューブ454に対して遠位から近位に向かう方向に配向される。このようなフィルタ要素450、452の配向は、ガイド構造が右鎖骨下動脈から延びた状態で、それぞれ腕頭動脈および左頸動脈に設置するために整合している。個々の要素に適した材料については、種々の実施例における類似要素との関連で上述した。また、個々の要素は、選択された材料についての上記の説明と同様に取り付けることができる。
【0071】
上記のように、フィルタ要素450、452は、別々に配備および/または折り畳むことができる。図9Aに示すように、フィルタ要素450、452は、ロープロファイルの送達形態で図示される。配備のために必要な際は、コアワイヤ456、458をオーバーチューブ454に対して遠位方向に別々に動かして、それぞれフィルタ要素450、452を配備することができる。同様に、コアワイヤ456、458をオーバーチューブ454に対して近位方向に別々に動かして、患者から除去するためにそれぞれフィルタ要素450、452を折り畳むことができる。
【0072】
3.大動脈弓に沿って複数の動脈に渡る単一のフィルタ構造
大動脈弓に沿って大動脈から分岐する動脈間に渡る単一のフィルタ構造を設計して、左頸動脈および右頸動脈への血流を同時に濾過することができる。そのようなフィルタ構造は、大動脈弓の腕頭動脈と左頸動脈の間に渡る単一のフィルタ要素を備えることができる。あるいは、そのような構造は、配備時に大動脈弓に渡る単一の支持構造に取り付けられた複数個のフィルタ要素を備えることができる。腕頭動脈への流動を濾過すると、結果として、腕頭動脈から分岐する右頸動脈への流動が濾過される。
【0073】
図10に、腕頭動脈と左総頸動脈の間に渡るように設計された、カテーテル508およびフィルタ装置510を備える濾過システム506の一実施例を示す。フィルタ装置510は、フィルタ要素512、および係留具514、516を備える。係留具514、516は、カテーテル508の管腔518を通じて延びることができる。フィルタ要素512は、近位フープ520、遠位フープ522、およびフィルタ膜524を備える。近位フープ520は、一般に係留具514、516に連結される。一般には、2つの係留具の代替として、1つの係留具、3つの係留具、または4つ以上の係留具を使用することができる。フープ522、524は、送達のためにロープロファイル形態にすることができるように弾性材料を備えることができる。フープの材料は、シース、カテーテル等から取り出される等して脈管中に放出された時に拡張して配備形態になるように自動拡張性であってよい。係留具514、516およびフィルタ要素512は、上記のように適当な材料から形成することができる。配備形態では、フィルタ要素512の遠位端および近位端が少なくとも部分的にそれぞれ左総頸動脈114および腕頭動脈108内に延びるように、フィルタ要素512の大きさを調整することができる。
【0074】
図11Aを参照すると、さらなる実施例では、フィルタ装置542は、管状要素544、近位遮蔽要素546、遠位遮蔽要素548、近位フィルタ要素550、および遠位フィルタ要素552を備える。管状要素544は、遠位ポート554、中央ポート556、および近位流動ポート558を備える。この実施例では、遮蔽要素546、548をそれぞれ腕頭動脈108および左総頸動脈114内に配備できるように、遮蔽要素546、548は適切な位置で管状要素544の外面に取り付けることができる。
【0075】
遮蔽要素546、548は、バルーンであってよいが、シース等から放出されることが可能な自動拡張式の金属枠に取り付けた非多孔ポリマ膜等、他の遮蔽要素を使用することができる。遮蔽要素546、548がバルーンの場合は、管状要素544は、一般に、1つまたは複数の膨張管腔を備える。単一の膨張管腔が使用される場合、遮蔽要素546、548は、無菌食塩水等の膨張流体が膨張管腔内に誘導されるのと同時に膨張する。膨張管腔570は、図11Aの想像線および図11Bの断面図に示される。膨張管腔570は、それぞれ膨張ポート572、574を通じて遮蔽要素546、548と流体連通している。複数の膨張管腔が使用される場合は、遮蔽要素546、548は別々に膨張させることができる。
【0076】
近位フィルタ要素550は、中央ポート556に入る流動が近位流動ポート558から出る前に濾過されるように、管状要素544内で近位流動ポート558と中央ポート556の間に配置される。同様に、遠位フィルタ要素552は、管状要素544内で中央ポート556と遠位ポート554との間に配置される。フィルタ要素550、552は、図218のフィルタ要素218と同様であってよい。別個のガイド管腔を使用して、所望箇所にカテーテルを設置することができる。そのような別個のガイド管腔は、例えばカテーテルの管状要素の側面に沿って設置することができる。そのようにすると、ガイド構造を使用して、フィルタ要素と干渉することなく配備を行うことができる。
【0077】
4.大動脈内の流動を濾過する外部フィルタを備えたカテーテル
さらなる実施例では、大動脈内にフィルタを送達して、上行大動脈から大動脈弓への血流を濾過することができる。例えば、フィルタは、大腿動脈を経由して下行大動脈から上行大動脈中に送達することができるが、左鎖骨下動脈から上行大動脈に入れる等、他のアプローチを使用することができる。大動脈を通じた心臓へのアクセスを維持するために、フィルタはカテーテルの外面に装着することができ、カテーテルを通して心臓用の治療用具を導入できるようにする。上行大動脈中にフィルタを設置することにより、頸動脈のみならず末梢動脈についても血液が濾過される。
【0078】
図12を参照すると、濾過カテーテル580は、管状構造582およびフィルタ要素584を備える。管状構造582は、遠位ポート586を有する。心臓治療器具588は、遠位ポート590から延びて上行大動脈を通って心臓に到達するように図示されている。外部にフィルタが装着されたカテーテルについては、上記で図3Aおよび図7との関連で説明した。そのような外部フィルタを有するカテーテルを、カテーテルおよびフィルタのサイズを適切に設計して図12の設置との関連で使用することができる。
【0079】
心臓処置時の塞栓予防のための処置
本明細書に記載の濾過システムは、心臓への処置中および/または処置後に塞栓予防のために効果的に使用することができる。詳細には、本明細書に記載の濾過システムを使用して、心臓の左心房および左心室内またはその周辺で行われる血管内心臓処置中に塞栓を予防できるが、フィルタは、患者の胸部を通じた心臓処置にも有用である可能性がある。処置の中には、処置の特定工程を達成するための心臓への血管内を通じたアプローチと、処置の他の面について、心肺バイパスを設ける等、患者の胸部を通じた低侵襲性のアプローチとを伴うものがある。心臓に対する処置では、大動脈から流れて身体の他の部位に循環する恐れのある塞栓が生じる可能性がある。塞栓はどの脈管内でも望ましくないが、塞栓が頸動脈、特に内頸動脈に循環すると、患者の脳に流れる可能性があり、塞栓が原因となって卒中または他の有害な結果を招く恐れがある。したがって、内頸動脈への流動から塞栓を濾過して除去することが非常に望ましい。
【0080】
そのため、一部の実施例では、例えば上行大動脈内にフィルタ要素を配置することができ、大動脈から身体の他部位に循環する塞栓を減少または解消するようにする。これに加えて、またはこれに代えて、一般には塞栓が重大な問題とならない下行大動脈および/または鎖骨下動脈の1つもしくは両方を通る流動からは塞栓を除去せずに、頸動脈への流動から塞栓が除去されるようにフィルタ要素を設置することもできる。塞栓が形成される危険性が低下または解消されると、フィルタで捕捉された塞栓が頸動脈への血流に入らないように塞栓を制止する形で、患者からフィルタ要素を安全に撤去することができる。
【0081】
塞栓は、各種の心臓処置から血流中に放出される可能性がある。詳細には、心臓弁の置換は、心臓組織の大きな処置を要し、塞栓発生の危険性を伴い得る。他の心臓処置には、例えば心臓弁の修復処置がある。心肺バイパスが使用される場合は、左心室内またはその近傍で生成された塞栓が、心臓のポンプ機能が再開した時に大動脈中に放出される恐れがある。上行大動脈中に放出された塞栓は、下流に流れ、頸動脈内で塞栓の危険性を生じさせる可能性がある。一部の実施例では、対象となる心臓処置には、例えば、用具が大腿動脈や鎖骨下動脈等の動脈を通して経皮的な方式で送達されて心臓に到達する血管内処置が含まれる。
【0082】
本明細書に記載される濾過処置は、各種の心臓処置時の予防として適用可能であるが、それらの処置は、経皮的な心臓弁置換の実施に関連して有利に使用することができる。一般に、大動脈弁を置換する経皮処置は、患者の末梢血管系を通じて、大動脈弁輪や僧帽弁輪等の弁の付け根にあたる領域またはその近傍まで人工心臓弁を送達することを含む。弁置換処置は、自然弁の切除を含む場合があるが、一部の実施例では、自然弁を除去せずに、自然弁の内部に置換弁を設置することができる。患者を、弁の交換中、酸素化された血流を供給する心肺バイパスに置くことができる。人工心臓弁は、単一のユニットとして送達するか、または複数のサブユニットとして送達し、患者の体内で組み立てることができる。処置は、さらに、所望の位置に人工弁を移植することを含む。人工弁が複数のサブユニットを備える場合、人工弁の構成部品は、移植前に組み立てるか、および/または患者体内で組み立てることができる。
【0083】
そのような経皮的な弁置換処置を行うための例示的方法は、圧縮可能な人工大動脈弁の送達を含み、人工大動脈弁は、自然弁の弁輪またはその近傍に人工弁を保持するように設計された、組織と係合する基部と、弁として機能するように設計された葉状構造要素とを備える。人工弁は、送達のために折り曲げられた時に形態を保つように設計された、塑性的に変形可能な構造を備えることができる。人工弁は、送達カテーテルに取り付けることができ、送達カテーテルは、同心円状に、外側シース、オプションのプッシュカテーテル、およびバルーンカテーテルを備え、人工弁は、バルーンが膨らんだ時に拡張形態をとるようにバルーンカテーテルに取り付けることができる。カテーテルは、各種の末梢動脈または静脈、例えば左大腿動脈または右大腿動脈から、弁輪領域に搬入することができる。外側シースは、ガイドワイヤを使用する等の各種の標準的技術を使用して、例えば末梢動脈から上行大動脈中に搬入することができる。人工弁が大動脈弁輪内の所望位置に達すると、外側シースを引き戻して人工弁要素を露出させる。該当する実施例では、次いでバルーンを拡張し、人工弁を拡張形態にする。そしてバルーンをしぼめ、送達構造を除去する。人工弁が自動拡張型の設計を有する代替実施例では、単に人工弁を外側シースから取り出すことによって拡張形態を生じさせることができる。この心臓弁置換処置ならびに代替実施例についてのさらなる解説は、Schreckによる米国特許第6,454,799号、名称「Minimally-Invasive Heart Valves and Methods of Use」で得ることができ、同特許は参照により本明細書に組み込まれる。自然弁を除去して、または除去せずに大動脈弁の位置または僧帽弁の位置に設置できる人工心臓弁については、Seguin他による米国特許第7,329,278号、名称「Prosthetic Valve for Transluminal Delivery」にさらに記載され、同特許は引用により本明細書に組み込まれる。
【0084】
本明細書に記載の濾過システムは、特定の心臓処置時に、選択された脈管に塞栓予防を提供するために使用することができる。フィルタは、一般に、選択された動脈を通じて誘導され、配置される。上記の各種濾過システム設計は、一般に、大腿動脈か、または鎖骨下動脈の1つを通じて送達して、頸動脈への流動を提供する脈管部分に到達するように設計される。フィルタを送達するための特定の動脈の適性は、塞栓予防が提供される脈管、実施される特定の心臓処置、および配備される濾過システムの具体的設計等の考慮事項を基準として評価することができる。1つまたは複数のガイドカテーテルを配置してフィルタの送達および/または除去を容易にすることができ、ガイドカテーテルは、フィルタが患者の脈管内にある時間中、設置状態にしておいても、そうでなくともよい。一般に、フィルタおよびそれに関連する構造は、心臓処置を行うために使用される器具との干渉を回避するように適切に設計すべきである。複数のフィルタの設置を伴う濾過システムの実施例では、フィルタ導入のために選択される1つまたは複数の脈管には、一般に、フィルタの設置に適したタイミングに合わせて、順次または同時に所望箇所に個々のフィルタ要素を搬入することができる。
【0085】
一般に、フィルタは選択された時に配備することができるが、その時は、一般には、塞栓発生の著しい危険性がある時間よりも前である。(1つまたは複数の)フィルタを配備するのに適したタイミングは、一般に、心臓処置の性質に大きく依存する。一部の実施例では、フィルタが心臓処置のどの工程または用具とも干渉しない場合は、フィルタは、心臓処置の重要な部分より前に配備することができる。処置全体にわたってフィルタ間で良好な流動が維持される場合は、フィルタは、弊害を招くことなく、かなりの時間にわたり設置状態にしておくことができる。一部の実施例では、1つまたは複数のフィルタの設置の前に、心臓処置の一部工程を行うことができる。心臓処置の初期の工程で著しい塞栓の危険性が生じない場合、および/または心臓処置の初期の工程で心臓処置の継続に対して禁忌が示されると判断しうる場合は、より後の工程でフィルタを配備することが好都合である場合もある。しかし、フィルタは、一般には大動脈内での塞栓発生の著しい危険性が生じる前に配備される。
【0086】
塞栓発生の著しい危険性がなくなると、濾過システムを患者から除去することができる。一部の実施例では、濾過システムは、心臓処置が完了した後に除去することができる。心肺バイパスが終了され、自然心臓の機能が一定時間にわたり回復した後まで濾過を継続することが望ましい場合がある。心臓処置の一部の工程で著しい塞栓の危険性が生じない場合、またはフィルタが心臓処置の一部工程と干渉する可能性がある場合は、フィルタは、心臓処置の全工程を完了する前に除去してもよい。濾過システムの一部の部分が処置の一部の工程で必要とされず、一方、濾過システムの他の部分が要求される場合は、濾過システムの一部分を除去する一方で、システムの別の部分は配備形態に保つことができる。さらに、フィルタは、処置の一工程で部分的または完全に除去し、処置の後の工程で同一のフィルタおよび/または別のフィルタに置き換えることができる。
【0087】
一般に、患者からの濾過システムの除去を行うには、1つまたは複数のフィルタを折り畳んで収集形態にし、脈管から除去することができる。これらの目的を達成するための工程は、(1つまたは複数の)フィルタの設計に大きく依存する。例えば、フィルタの中には、フィルタをロープロファイルの収集形態に遷移させるために使用できる駆動構成部品を備えるものがある。一部の実施例では、フィルタは、フィルタの近位部分と接触させて機械的にフィルタを折り畳むシース等を用いて折り畳むことができ、その場合は、フィルタをシースの端部中に部分的または完全に引き込むことをも伴う場合もあり、伴わない場合もある。一部の実施例では、フィルタを除去する前に、拡張形態のフィルタを脈管の一部にわたり引っ張って移動することが望ましい場合がある。例えば、左総頸動脈内のフィルタを引っ張って大動脈への開口近傍に移動し、一般にはある程度塞栓が許容される下行大動脈中にフィルタ表面の塞栓を洗い流して、フィルタの除去中に塞栓が頸動脈中に放出される危険性を低下させることができる。
【0088】
一部の実施例では、過程の一部で吸引を適用して脈管からフィルタを除去することができる。吸引が適用される場合は、吸引カテーテルの先端をフィルタ近傍に配置することができ、フィルタがロープロファイル形態に折り畳む時に吸引を適用することができる。フィルタは、吸引カテーテルの先端中に取り込むことができ、吸引は、フィルタが吸引カテーテルの先端中に取り込まれる間継続することができる。吸引の適用は、3次元の濾過マトリクスを用いるフィルタに特に望ましい可能性がある。フィルタ装置収集のための吸引の使用については、Boldenow他による米国特許出願公開第2007/060944(A)号、名称「Tracking Aspiration Catheter」、およびGaldonik他による米国特許出願公開第2005/0277976号、名称「Exboli Filter Export System」にさらに論じられ、両出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0089】
本明細書に記載の処置は、一般に、小さな穴を通じて患者の脈管系に到達することを伴う。一般に、選択された脈管には、例えば挿入器、カニューレ等の従来の器具を用いて到達することができる。止血弁、ルアーフィッティング、他のフィッティング等を使用して、処置中に患者の出血を減らすことができる。フィッティングにより、処置中の適時に各種装置を導入および除去することができる。
【0090】
1.総頸動脈濾過のための個別のフィルタ要素
上記で図1乃至図5との関連で説明したように、このグループの濾過システムは、別個の濾過装置を使用して左頸動脈および右頸動脈への塞栓予防を提供する。濾過装置は、ガイド構造と、非係留状態で配備される単一または複数のフィルタ要素とを備えることができる。そのような予防システムで塞栓予防を提供するための方法は、そのようなシステムの配備および収集を含む。そのようなシステムの配備は、一般に、右頸動脈または腕頭動脈への濾過装置の送達と、拡張形態でのフィルタ要素の配備とを含む。濾過システムの配備は、一般に、左頸動脈への濾過装置の送達と、拡張形態でのフィルタ要素の配備とをさらに含む。そのようなシステムの収集は、一般に、配備されたフィルタ要素を収集形態にし、一般には頸動脈中への著しい塞栓の放出を伴わずに患者の身体から濾過システムを撤去することを含む。
【0091】
図2Aを参照すると、任意でガイドカテーテル130を使用して、その後の濾過装置の送達を容易にすることができる。ガイドカテーテルは、例えば従来の技術を使用して配置することができる。具体的には、図2Aに示すように、濾過装置の配備は、患者体内へのガイドカテーテル130の導入、および、右鎖骨下動脈内へのガイドカテーテルの遠位端の搬入を含む。次いで、フィルタ装置132、134を順次または同時にガイドカテーテルを通じて送達することができる。フィルタ装置132、134の遠位端は、それぞれ右頸動脈および左頸動脈に搬入される。フィルタ要素が所望の位置に置かれると、フィルタ要素を配備することができる。フィルタの配備は、フィルタの設計に依存する。例えば、自動拡張式のフィルタは、フィルタが拡張して配備形態をとることができるように、フィルタを覆っているシースを撤去することにより配備することができる。他の実施例では、フィルタ要素は、駆動して、配備された拡張形態にすることができる。例えば、図6Aおよび6Bのフィルタは、オーバーチューブに対して近位方向にコアワイヤを引くことによって駆動することができる。図2Aに示すように、フィルタ要素140は右総頸動脈内に送達され、フィルタ要素144は左総頸動脈中に送達されるが、これに代えて、どちらかのフィルタを対応する内頸動脈中に送達してもよい。
【0092】
図2Aに示す濾過システムの収集は、フィルタ要素140、144を収集形態にし、カテーテル130を通じてフィルタ装置132および134を患者身体から撤去することを含む。一部の実施例では、フィルタ装置132および/またはフィルタ装置134は、駆動を解除してフィルタを収集形態にすることができる。例えば、図6Aおよび6Bのフィルタ装置は、コアワイヤをオーバーチューブに対して遠位方向に押すことによって駆動解除することができる。どちらかのフィルタ要素140、144に吸引が望ましい場合は、カテーテル130を患者体内から除去することができ、それぞれガイド構造138、142で、吸引カテーテルをどちらかのフィルタ要素140、144の位置まで送達することができる。あるいは、ガイドカテーテル130が十分に大きい直径を有する場合は、ガイドカテーテルを通じて吸引カテーテルを搬入することもできる。自動拡張式のフィルタ要素の場合は、フィルタの位置までカテーテルを運搬して機械的にフィルタを折り畳み、それらの回収用カテーテルは、吸引カテーテルと同様にフィルタの所まで運搬することができる。
【0093】
図2Bに示す濾過システムでは、図2Aの濾過システムについて上述した方法と同様の方法を使用することができる。図2bを参照すると、濾過システムの配備は、ガイドカテーテル152、154をそれぞれ右鎖骨下動脈および左鎖骨下動脈中に送達することを含む。その後、フィルタ装置148、150がそれぞれ右総頸動脈と左総頸動脈に搬入される。フィルタの配備およびフィルタの収集は、図2Aのシステムについて上述したように行うことができる。図2Bの濾過システムは、共通のガイド構造の使用に伴って起こり得る干渉を回避するが、図2Bの濾過システムを配備するための方法は、図2Aの濾過システムに使用される単一の入り口点と異なり、フィルタ送達のために患者体内への入り口点を2つ要する。
【0094】
図3Aおよび3Bの濾過システムに関連する処置については、第1のフィルタ装置132がカテーテル190または206に置き換えられる。フィルタ装置188(図3A)、204(図3B)は、フィルタ装置132(図2A)の送達と同様に左頸動脈中に送達することができ、フィルタ装置188、204の配備および回収もフィルタ装置132の対応する工程と同様である可能性がある。図3Aを参照すると、カテーテル190は、一般に、フィルタ装置188を設置する前または後に設置することができる。同様に、フィルタ装置は、一般に200、フィルタ要素194を配備する前または後に配備することができる。フィルタ要素194が自動拡張式フィルタである場合、カテーテル190は、フィルタ要素194の配備と干渉する可能性があれば、フィルタ要素194の配備の後に設置することができる。フィルタの回収の順序に関して、カテーテル190とフィルタ装置188は、工程でそれら以外の構造が使用されない場合はどちらの順序で回収することもできる。フィルタ要素194の回収で吸引カテーテルまたは他のカテーテルが使用される場合は、最初にフィルタ要素200を折り畳んでカテーテル190を除去できるようにするか、またはカテーテル190を使用できるようにして、カテーテル190をフィルタ194の位置まで進めることによってフィルタ194の回収を容易にすることができる。図3Bの濾過システム202は、フィルタ要素200の配備および折り畳みを遮蔽要素216の適当な配備および折り畳みに置き換えて、図3Aのフィルタシステム186と同様に操作することができる。
【0095】
図4に示す濾過システム242については、カテーテル244およびフィルタ装置248は、一般に、どちらの順序で送達することもできる。しかし、フィルタ装置246の送達はカテーテル244のポートを通じて実施されるので、カテーテル244は、フィルタ装置246を送達する前に、遠位端を腕頭動脈内に置くように送達される。同様に、カテーテル244は、フィルタ装置246が回収される間、配備位置にしておくことができる。カテーテル244およびフィルタ装置248は、一般に、どちらかの順序で、または同時に、患者から除去することができる。
【0096】
図5を参照すると、フィルタ284、286は、一般に、適切な送達器具で配備され、対応する除去器具で除去される。送達器具は、除去器具と同一である場合も、同一でない場合もある。適切な送達器具および除去器具については上記で説明した。一般には、フィルタは、別々に送達および回収することができ、フィルタ284および286の送達および除去は、一般に、どのような順序にもなるように選択してもよい。送達および除去器具は、一般に、鎖骨下動脈や大腿動脈等の末梢動脈を通じて所望箇所まで搬入することができる。
【0097】
2.共通のガイド構造に取り付けられた複数のフィルタ要素
一部の実施例では、濾過システムは、共通のガイド構造に取り付けられた複数のフィルタ要素を有する、頸動脈への流動を濾過するための配備システムである。このようなフィルタ装置の使用を伴う方法は、一般に、装置が左頸動脈と腕頭動脈の間の大動脈弓の一区間を走査する予防システムを配備および収集することを含む。フィルタ装置は、ガイド構造、ガイド構造に取り付けられた近位フィルタ要素、および、ガイド構造に取り付けられた遠位フィルタ要素を備える。ガイド構造は、装置の送達および/または折り畳みを容易にするためにオーバーチューブ内に1つまたは複数のコアワイヤを有する、一体化ガイド装置とすることができる。一般に、フィルタ装置は、近位フィルタ要素が右頸動脈への流動を濾過し、遠位フィルタ要素が左頸動脈への流動を濾過するように、右鎖骨下動脈を通して腕頭動脈および左総頸動脈内に搬入される。その後、フィルタ要素を同時に、または順次、配備形態にすることができる。ガイド構造に2つのフィルタを有する濾過システムの収集は、一般に、フィルタ要素を順次または同時に収集形態にすることを含むが、これはフィルタ設計に応じて異なる可能性がある。その後、予防装置が患者から除去される。この方法のいくつかの実施例では、フィルタ要素のいずれかまたはすべてを収集形態にすること、および/または予防装置を除去することは、吸引によって行うことができる。
【0098】
図13A乃至13Dに、共通のガイド構造に取り付けられた複数のフィルタ要素を備えるフィルタシステムを使用して塞栓予防を提供するための方法を示す。このようなフィルタ装置を使用するための方法は、図8および図9のフィルタ装置に適用できる可能性がある。したがって、一部の実施例では、ガイド構造は、送達形態と配備形態の間で(1つまたは複数の)フィルタ要素を順次または同時に駆動する(1つまたは複数の)内部芯を備えることができる。他の実施例では、フィルタ要素は、拘束部材が除去された時に配備形態をとる自動拡張式の構造を備えることができる。図13Dを参照すると、フィルタ装置608の要素は、近位フィルタ要素610、遠位フィルタ要素613、およびガイド構造614を含む。
【0099】
図13Aを参照すると、フィルタ装置608を使用する方法は、遠位フィルタ要素が左頸動脈内に置かれるように、右鎖骨下動脈を通じて送達カテーテル616を左総頸動脈内に送達することを含む。その後、予防装置608が送達カテーテル616を通じて搬入されて、フィルタ要素612が送達カテーテル616から完全に延び、所望箇所に配置されるようにする。フィルタ要素612が、送達カテーテル616を通じて完全に延ばされた時に自然に配備形態をとらない構造を備える場合は、フィルタ要素612は、図13Bに示すように、駆動して配備形態にする。図13Cを参照すると、次いで、フィルタ要素610が送達カテーテル616から完全に延びるまで、送達カテーテル616がフィルタ要素612を基準に近位方向に動かされる。フィルタ要素610が、送達カテーテル616から完全に延ばされた時に自然に配備形態をとらない構造を備える場合は、フィルタ要素612は、図13Dに示すように、駆動して配備形態にする。そして、カテーテル616は、設置状態にしておくか、さらに引き下げるか、または患者体内から完全に撤去することができる。
【0100】
収集方法の適切な実施例は、配備されるフィルタ要素の種類に応じて異なる。一般に、収集方法は、近位フィルタ要素610および遠位フィルタ要素612を各自の収集形態にすることを含む。フィルタ要素610が自動拡張式の場合は、外部拘束部材を導入して、フィルタ要素610を機械的に収集形態に遷移させることができる。例えば、送達カテーテル616または導入された吸引カテーテルをそのような拘束部材として使用することができる。さらに、フィルタ要素612が自動拡張する構造を備える場合は、送達カテーテル616や別個のカテーテル等の外部拘束部材を導入して、遠位フィルタ要素612を機械的に収集形態に遷移させることができる。さらなる実施例では、コアワイヤ等の駆動要素を使用して、フィルタ要素をロープロファイルの収集形態に遷移させることができる。一般に、近位フィルタ要素610および遠位フィルタ要素612は、順次または同時に収集形態に遷移させることができる。フィルタ装置608は、カテーテル616を通して撤去するか、またはカテーテル616から分離することができる。図8C乃至8Eのフィルタ装置の実施例では、近位フィルタおよび遠位フィルタは、配備を駆動するコアワイヤを使用して配備される。フィルタを折り畳むには、近位フィルタはコアワイヤを使用して折り畳み、一方、遠位フィルタは、例えばカテーテルまたはシースを使用して下部支柱を押すことにより、機械的に折り畳まれる。このようにして、単一のコアワイヤを有する装置を使用して2つのフィルタを順次折り畳むことができる。
【0101】
フィルタ装置608が、配備形態と収集形態間を順次または別々に駆動させることができるフィルタ要素を備える実施例では、近位フィルタ要素610および/または遠位フィルタ要素612は、吸引によって収集形態にすることができる。詳細には、ガイド構造614で吸引カテーテルを近位フィルタ要素610に近接した箇所まで導入することができ、その後、近位フィルタ要素610を収集形態にすることができる。そして、吸引カテーテルを、遠位フィルタ要素612に近接した箇所に設置することができる。その後、遠位フィルタ要素612を収集形態にすることができ、吸引を用いて、または吸引を用いずに、予防装置608を除去することができる。
【0102】
3.大動脈弓に沿って複数の動脈に渡る単一のフィルタ構造
心臓処置時に塞栓予防を提供するための方法は、大動脈弓に沿って渡る単一のフィルタ構造を備えた予防システムの配備および収集を含むことができる。より具体的には、濾過システムのそのような実施例を用いて塞栓予防を提供するための方法は、フィルタ構造の一部分を腕頭動脈内に配備し、フィルタ構造の一部分を左頸動脈内に配備することを含む。一般に、フィルタ構造は、右鎖骨下動脈を通じて左頸動脈に搬入される。フィルタ構造は、フィルタを所望箇所に置いて配備される。フィルタは、自動拡張する要素、または駆動して配備する要素を備えることができる。いずれの場合も、配備されたフィルタ要素は、一般に、少なくとも概ね頸動脈および腕頭動脈に封着する要素を有し、大動脈からの流動が濾過されてそれらの動脈に入るようになる。さらに、このようなフィルタ装置を使用する方法は、さらにフィルタ構造の収集を含む。一般に、フィルタ構造の収集は、フィルタ構造を収集形態にし、患者身体からフィルタ構造を除去することを含む。フィルタ構造の設置および/または患者からのフィルタ構造の除去は、吸引を用いて、または吸引を用いずに行うことができる。
【0103】
図10に示す濾過システムでは、塞栓予防のための方法は、フィルタ構造510の配備および収集を含む。フィルタ構造510を配備するための方法は、右鎖骨下動脈を通じて左頸動脈内にカテーテル508を送達することを含むことができる。配備方法は、さらに、カテーテル508を貫通する中央管腔518を通じてフィルタ構造520を送達することを含む。フィルタ構造520はカテーテル508内に事前に装填するか、または、脈管内にカテーテル508を設置した後にカテーテル508を通じてフィルタ構造520を搬入することができる。一部の実施例では、フィルタ構造520は、送達のためにカテーテル508内に設置することができ、遠位フープ522および近位フープ520がロープロファイル形態でカテーテル522内に設置されるようにする。その後、配備は、カテーテル508をフィルタ構造510に対して近位方向に動かすことを含み、遠位フープ522が完全にカテーテル508から延び、左総頸動脈内に入るようにする。カテーテル508をフィルタ構造510に対して近位方向にさらに動かして、フィルタ要素512がカテーテル508から完全に延び、かつ近位フープ520が腕頭動脈内に位置するようにする。近位フープ520および遠位フープ522は、脈管内で放出されると拡張形態をとって脈管壁との間に封止部を形成するように自動配備式であってよい。その後、カテーテル508は、部分的に撤去するか、完全に撤去するか、または設置状態にしておくことができる。
【0104】
フィルタ構造510の収集は、フィルタ構造510が完全にカテーテル508内に収容されるように、カテーテル508を、係留具514、516に沿ってフィルタ構造510を覆うように遠位方向に動かすことを含むことができる。近位フープ520および遠位フープ522は、カテーテル508中に収集するために機械的な力でフープが変形するように、弾性材料で形成することができる。一部の実施例では、係留具514、516を使用して、配備形態にあるフィルタ要素510を引いて表面上の塞栓を移動させることができ、塞栓が下行大動脈を通って、一般には塞栓が著しい弊害を生じさせないであろう脈管内に入るようにする。そのような塞栓が下行大動脈に流れた場合には、塞栓が原因で重大な有害事象が生じ得る頸動脈中に流入する塞栓は存在しなくなる。フィルタ構造510がカテーテル508中に引き込まれると、カテーテル508を通じてフィルタ構造510を除去するか、またはカテーテル508と同時にフィルタを除去することができる。収集方法の他の実施例では、カテーテル508の代わりに吸引カテーテルを用いることができる。
【0105】
図11Aのフィルタシステムに関して、カテーテル/管状要素544は、遠位先端が左頸動脈内に来るように、右鎖骨下動脈を通じて搬入される。管状要素が配置されると、遮蔽要素546、458が配備されて、脈管壁に対して封止部を形成する。図11Aに示す設計では、遮蔽要素546、548は同時に配備されるが、代替実施例では、別個の膨張管腔がある場合等は、遮蔽要素546、548を順次配備できる場合もある。遮蔽要素546、548が配備されると、大動脈から頸動脈への流動が濾過される。フィルタシステムを患者から除去するには、遮蔽要素546、548をしぼませるか、または他の方法で、脈管壁との封着が解除された収集形態にする。そして、フィルタ装置を脈管から除去することができる。管状要素544内にフィルタ要素を設置することでフィルタを保護して、フィルタ装置の除去中に塞栓が移動する変化を低下させる。
【0106】
4.大動脈内の流動を濾過する外部フィルタを有するカテーテル
カテーテル外面による上行大動脈内へのフィルタの配備に関して、カテーテルは、心臓の処置の開始前に搬入して配置することができる。一般に、カテーテルは、ロープロファイルの送達形態にある、図12のフィルタ584等のフィルタ要素と共に上行大動脈内に送達される。配置されると、フィルタ要素は、拡張形態に配備することができる。心臓処置のために必要な装置は、カテーテルを通じて搬入することができる。塞栓発生の危険性を生じる処置の完了後、フィルタ要素を収集形態に遷移させ、折り畳まれたフィルタ要素と共にカテーテルを除去することができる。カテーテルおよびフィルタ要素の収集は、吸引カテーテルで支援することができる。
【0107】
配布および包装
本明細書に記載の医療装置は、一般に、無菌容器に包装されて使用のために医療専門家に配布される。物品は、電子ビーム照射、ガンマ線照射、紫外線照射、化学的殺菌、ならびに/または、無菌の製造および包装工程の使用等の各種手法を使用して殺菌することができる。物品には、例えば、物品がそれまで完全に機能する状態を保つと予想される適切な日付を表示することができる。構成部品は、個別に、または共に包装することができる。
【0108】
本明細書に記載される各種装置は、利便のためにキットとして共に包装することができる。キットは、さらに、食品医薬品局により包含が指定される情報等、使用上の指示および/または警告の表示を含むことができる。そのような表示は、包装の外側および/または包装内部の別紙につけることができる。
【0109】
上記実施例は、例示的であり、非限定的であることが意図される。さらなる実施例は請求項内にある。また、本発明は特定の実施例を参照して説明したが、当業者は、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細に変更を加えられることを認識されよう。上記の参照による文献の組み込みは限定され、本明細書における明示的な開示と相反する主題は組み込まれない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルであって、近位端および遠位端を有する管状要素と、前記管状要素を貫通して延びる管腔と、ならびに前記カテーテルの外面上の前記遠位端寄りに装着された拡張可能構造と、を備えたカテーテルと、
ガイド構造、および前記ガイド構造に装着されたフィルタ要素を備えたフィルタ装置と、
を備える濾過システムであって、
前記カテーテルの前記管腔は、前記ガイド構造に装着されたフィルタ要素の送達に適する、濾過システム。
【請求項2】
前記フィルタ要素は、ロープロファイルの束状の第1の形態と、前記繊維の中心部が前記ガイド構造から外側に広がる拡張形態と、を有する、表面毛細管繊維を備え、
前記ガイド構造がコアワイヤおよびオーバーチューブを備え、前記コアワイヤは、前記オーバーチューブの管腔を貫通して延び、
前記コアワイヤと前記オーバーチューブの相対的な動きにより、前記繊維を前記ロープロファイル形態から前記拡張形態に遷移させる、請求項1に記載の濾過システム。
【請求項3】
前記拡張可能構造が、前記カテーテルの外面に装着されたフィルタ要素を備える、請求項1に記載の濾過システム。
【請求項4】
前記拡張可能構造が遮蔽要素を備え、
前記カテーテルが、さらに、内部フィルタ要素と、前記遮蔽要素に近接したバイパスポートとを備えて、流体を前記内部フィルタ要素を通して前記バイパスポートに流れさせて、濾過後の流動が前記遮蔽要素を通過するようにする、請求項1に記載の濾過システム。
【請求項5】
前記内部フィルタ要素が表面毛細管繊維を備える、請求項4に記載の濾過システム。
【請求項6】
前記遮蔽要素がバルーンを備える、請求項4に記載の濾過システム。
【請求項7】
前記カテーテルが、前記カテーテルの前記近位端または前記近位端近傍で吸引装置に連結される、請求項4に記載の濾過システム。
【請求項8】
近位端および遠位端を有する管状要素、ならびに前記管状要素を貫通して延びる管腔を備えるカテーテルと、
第1のガイド構造、および前記第1のガイド構造に取り付けられた第1の濾過要素を備える第1のフィルタ装置と、
第2のガイド構造、および前記第2のガイド構造に取り付けられた第2の濾過要素を備える第2のフィルタ装置と、
を備える濾過システムであって、
前記カテーテルは、前記第1のフィルタ装置および前記第2のフィルタ装置の送達に適した1つまたは複数の管腔を有し、
前記カテーテルは、前記第1のフィルタ装置が第1のポートを通って前記カテーテルから出ることができるように構成された第1のポートと、前記第1のフィルタ装置が前記第1のポートを出る方向に対して角度の付いた方向で、前記第2のフィルタ装置が第2のポートを通って出ることができるように構成された第2のポートと、を備える、濾過システム。
【請求項9】
前記フィルタ要素が各々、表面毛細管繊維を備え、
前記表面毛細管繊維は、ロープロファイルの束状の第1の形態と、前記繊維の中心部が前記ガイド構造から外側に広がった拡張形態とを有し、
前記ガイド構造は個別に、コアワイヤおよびオーバーチューブを備え、前記コアワイヤは前記オーバーチューブの管腔を貫通して延び、前記コアワイヤと前記オーバーチューブの相対的な動きにより、前記繊維を前記ロープロファイル形態から前記拡張形態に遷移させる、請求項8に記載の濾過システム。
【請求項10】
前記フィルタ要素が着脱可能に前記ガイド構造に装着される、請求項8に記載の濾過システム。
【請求項11】
前記カテーテルが、前記カテーテルの前記近位端または前記近位端近傍で吸引装置に連結される、請求項8に記載の濾過システム。
【請求項12】
オーバーチューブと、
第1のコアワイヤと、
第2のコアワイヤと、
送達形態および配備形態を有する第1のフィルタ要素と、
送達形態および配備形態を有する第2のフィルタ要素であって、前記第1のフィルタ要素が前記第2のフィルタ要素の遠位側に配置される、第2のフィルタ要素と、
を備えるフィルタ装置であって、
前記第1のコアワイヤの少なくとも一部分および前記第2のコアワイヤの少なくとも一部分は、前記オーバーチューブ内にあり、
前記第1のフィルタ要素の形態は、前記第1のコアワイヤと前記オーバーチューブの相対的位置を通じて制御され、
前記第2のフィルタ要素の形態は、前記第2のコアワイヤと前記オーバーチューブの相対的位置を通じて制御される、フィルタ装置。
【請求項13】
前記第1のフィルタ要素および前記第2のフィルタ要素が表面毛細管繊維を備え、
繊維は、前記送達形態ではロープロファイルの束状に拘束され、前記配備形態では前記繊維の中心部が外側に広がる、請求項12に記載の濾過システム。
【請求項14】
前記第1のフィルタ要素および前記第2のフィルタ要素が各々、繊維支持構造に装着された繊維を備える、請求項12に記載の濾過システム。
【請求項15】
前記第1のフィルタ要素の前記繊維支持構造が、操作可能に前記第1のコアワイヤに連結され、前記第2のフィルタ要素の前記繊維支持構造が、操作可能に前記第2のコアワイヤに連結される、請求項14に記載の濾過システム。
【請求項16】
第1の封止部材と、
第2の封止部材と、
各封止部材の内部を貫通して延びる管腔と、
前記管腔に付随する1つまたは複数の濾過要素と、
を備える濾過システムであって、
前記第1の封止部材および前記第2の封止部材は各々、外側に拡張する形態を有し、
前記濾過要素は、前記第1の封止部材および前記第2の封止部材を過ぎて延びる前記管腔中を通る流動が、前記1つまたは複数の濾過要素を通過するように構成される、濾過システム。
【請求項17】
前記1つまたは複数の濾過要素が、前記第1の封止部材と前記第2の封止部材との間に渡る、請求項16に記載の濾過システム。
【請求項18】
1つまたは複数のフィルタ要素が、第1のフィルタ要素および第2のフィルタ要素を備え、前記第1のフィルタ要素は、前記第1の封止要素の内部中を延びる前記管腔に付随し、前記第2のフィルタ要素は、前記第2の封止要素の内部中を延びる前記管腔に付随する、請求項16に記載の濾過システム。
【請求項19】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が表面毛細管繊維を備える、請求項16に記載の濾過システム。
【請求項20】
患者の心臓に対する血管内処置時に塞栓予防を提供するための方法であって、
右頸動脈および左頸動脈への流動を濾過するように1つまたは複数の脈管フィルタ要素を配置する工程を含み、各前記1つまたは複数の脈管フィルタ要素は、右鎖骨下動脈、左鎖骨下動脈、またはそれらの組み合わせを通じて送達される、方法。
【請求項21】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が前記右鎖骨下動脈を通じて送達される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が2つのフィルタ要素を備え、第1のフィルタ要素が、前記左頸動脈への流動を濾過するように配置され、第2のフィルタ要素が、前記右頸動脈への流動を濾過するように配置され、前記第2のフィルタ要素が前記右頸動脈または腕頭動脈内に設置される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、単一のガイド構造に付随する1つまたは複数のフィルタ要素を備え、前記ガイド構造が前記腕頭動脈と前記左頸動脈との間に渡る、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記1つまたは複数の脈管フィルタ要素が第1のフィルタ要素および第2のフィルタ要素を備え、前記第1のフィルタ要素が前記右鎖骨下動脈を通じて送達され、前記第2のフィルタ要素が前記左鎖骨下動脈を通じて送達される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、心臓への血管内処置の実施中に係留されない状態で動脈内部に留置される、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、心臓への血管内処置の実施後に前記動脈から除去される、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
回収過程の少なくとも一部分が吸引を伴う、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記1つまたは複数のフィルタが前記右総頸動脈および前記左総頸動脈への流動を濾過している間に心臓への血管内処置を行う工程をさらに備える、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
心臓弁の血管内置換のための方法であって、
心臓から右頸動脈および左頸動脈に流れる流動を濾過するように1つまたは複数のフィルタ要素を配置する工程と、
下行大動脈または鎖骨下動脈を通じて心臓に心臓弁送達カテーテルを送達して、少なくとも心臓弁の除去または人工心臓弁の設置に関連する工程を実行する工程と、
を含む方法。
【請求項30】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、右鎖骨下動脈、左鎖骨下動脈、下行大動脈、またはそれらの組み合わせを通じて送達される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、心臓弁の血管内置換の実施中に係留されない状態で動脈内部に留置される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、心臓弁の血管内置換の実施後に前記動脈から除去される、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記除去過程の少なくともポートが吸引を伴う、請求項32に記載の方法。
【請求項1】
カテーテルであって、近位端および遠位端を有する管状要素と、前記管状要素を貫通して延びる管腔と、ならびに前記カテーテルの外面上の前記遠位端寄りに装着された拡張可能構造と、を備えたカテーテルと、
ガイド構造、および前記ガイド構造に装着されたフィルタ要素を備えたフィルタ装置と、
を備える濾過システムであって、
前記カテーテルの前記管腔は、前記ガイド構造に装着されたフィルタ要素の送達に適する、濾過システム。
【請求項2】
前記フィルタ要素は、ロープロファイルの束状の第1の形態と、前記繊維の中心部が前記ガイド構造から外側に広がる拡張形態と、を有する、表面毛細管繊維を備え、
前記ガイド構造がコアワイヤおよびオーバーチューブを備え、前記コアワイヤは、前記オーバーチューブの管腔を貫通して延び、
前記コアワイヤと前記オーバーチューブの相対的な動きにより、前記繊維を前記ロープロファイル形態から前記拡張形態に遷移させる、請求項1に記載の濾過システム。
【請求項3】
前記拡張可能構造が、前記カテーテルの外面に装着されたフィルタ要素を備える、請求項1に記載の濾過システム。
【請求項4】
前記拡張可能構造が遮蔽要素を備え、
前記カテーテルが、さらに、内部フィルタ要素と、前記遮蔽要素に近接したバイパスポートとを備えて、流体を前記内部フィルタ要素を通して前記バイパスポートに流れさせて、濾過後の流動が前記遮蔽要素を通過するようにする、請求項1に記載の濾過システム。
【請求項5】
前記内部フィルタ要素が表面毛細管繊維を備える、請求項4に記載の濾過システム。
【請求項6】
前記遮蔽要素がバルーンを備える、請求項4に記載の濾過システム。
【請求項7】
前記カテーテルが、前記カテーテルの前記近位端または前記近位端近傍で吸引装置に連結される、請求項4に記載の濾過システム。
【請求項8】
近位端および遠位端を有する管状要素、ならびに前記管状要素を貫通して延びる管腔を備えるカテーテルと、
第1のガイド構造、および前記第1のガイド構造に取り付けられた第1の濾過要素を備える第1のフィルタ装置と、
第2のガイド構造、および前記第2のガイド構造に取り付けられた第2の濾過要素を備える第2のフィルタ装置と、
を備える濾過システムであって、
前記カテーテルは、前記第1のフィルタ装置および前記第2のフィルタ装置の送達に適した1つまたは複数の管腔を有し、
前記カテーテルは、前記第1のフィルタ装置が第1のポートを通って前記カテーテルから出ることができるように構成された第1のポートと、前記第1のフィルタ装置が前記第1のポートを出る方向に対して角度の付いた方向で、前記第2のフィルタ装置が第2のポートを通って出ることができるように構成された第2のポートと、を備える、濾過システム。
【請求項9】
前記フィルタ要素が各々、表面毛細管繊維を備え、
前記表面毛細管繊維は、ロープロファイルの束状の第1の形態と、前記繊維の中心部が前記ガイド構造から外側に広がった拡張形態とを有し、
前記ガイド構造は個別に、コアワイヤおよびオーバーチューブを備え、前記コアワイヤは前記オーバーチューブの管腔を貫通して延び、前記コアワイヤと前記オーバーチューブの相対的な動きにより、前記繊維を前記ロープロファイル形態から前記拡張形態に遷移させる、請求項8に記載の濾過システム。
【請求項10】
前記フィルタ要素が着脱可能に前記ガイド構造に装着される、請求項8に記載の濾過システム。
【請求項11】
前記カテーテルが、前記カテーテルの前記近位端または前記近位端近傍で吸引装置に連結される、請求項8に記載の濾過システム。
【請求項12】
オーバーチューブと、
第1のコアワイヤと、
第2のコアワイヤと、
送達形態および配備形態を有する第1のフィルタ要素と、
送達形態および配備形態を有する第2のフィルタ要素であって、前記第1のフィルタ要素が前記第2のフィルタ要素の遠位側に配置される、第2のフィルタ要素と、
を備えるフィルタ装置であって、
前記第1のコアワイヤの少なくとも一部分および前記第2のコアワイヤの少なくとも一部分は、前記オーバーチューブ内にあり、
前記第1のフィルタ要素の形態は、前記第1のコアワイヤと前記オーバーチューブの相対的位置を通じて制御され、
前記第2のフィルタ要素の形態は、前記第2のコアワイヤと前記オーバーチューブの相対的位置を通じて制御される、フィルタ装置。
【請求項13】
前記第1のフィルタ要素および前記第2のフィルタ要素が表面毛細管繊維を備え、
繊維は、前記送達形態ではロープロファイルの束状に拘束され、前記配備形態では前記繊維の中心部が外側に広がる、請求項12に記載の濾過システム。
【請求項14】
前記第1のフィルタ要素および前記第2のフィルタ要素が各々、繊維支持構造に装着された繊維を備える、請求項12に記載の濾過システム。
【請求項15】
前記第1のフィルタ要素の前記繊維支持構造が、操作可能に前記第1のコアワイヤに連結され、前記第2のフィルタ要素の前記繊維支持構造が、操作可能に前記第2のコアワイヤに連結される、請求項14に記載の濾過システム。
【請求項16】
第1の封止部材と、
第2の封止部材と、
各封止部材の内部を貫通して延びる管腔と、
前記管腔に付随する1つまたは複数の濾過要素と、
を備える濾過システムであって、
前記第1の封止部材および前記第2の封止部材は各々、外側に拡張する形態を有し、
前記濾過要素は、前記第1の封止部材および前記第2の封止部材を過ぎて延びる前記管腔中を通る流動が、前記1つまたは複数の濾過要素を通過するように構成される、濾過システム。
【請求項17】
前記1つまたは複数の濾過要素が、前記第1の封止部材と前記第2の封止部材との間に渡る、請求項16に記載の濾過システム。
【請求項18】
1つまたは複数のフィルタ要素が、第1のフィルタ要素および第2のフィルタ要素を備え、前記第1のフィルタ要素は、前記第1の封止要素の内部中を延びる前記管腔に付随し、前記第2のフィルタ要素は、前記第2の封止要素の内部中を延びる前記管腔に付随する、請求項16に記載の濾過システム。
【請求項19】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が表面毛細管繊維を備える、請求項16に記載の濾過システム。
【請求項20】
患者の心臓に対する血管内処置時に塞栓予防を提供するための方法であって、
右頸動脈および左頸動脈への流動を濾過するように1つまたは複数の脈管フィルタ要素を配置する工程を含み、各前記1つまたは複数の脈管フィルタ要素は、右鎖骨下動脈、左鎖骨下動脈、またはそれらの組み合わせを通じて送達される、方法。
【請求項21】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が前記右鎖骨下動脈を通じて送達される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が2つのフィルタ要素を備え、第1のフィルタ要素が、前記左頸動脈への流動を濾過するように配置され、第2のフィルタ要素が、前記右頸動脈への流動を濾過するように配置され、前記第2のフィルタ要素が前記右頸動脈または腕頭動脈内に設置される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、単一のガイド構造に付随する1つまたは複数のフィルタ要素を備え、前記ガイド構造が前記腕頭動脈と前記左頸動脈との間に渡る、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記1つまたは複数の脈管フィルタ要素が第1のフィルタ要素および第2のフィルタ要素を備え、前記第1のフィルタ要素が前記右鎖骨下動脈を通じて送達され、前記第2のフィルタ要素が前記左鎖骨下動脈を通じて送達される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、心臓への血管内処置の実施中に係留されない状態で動脈内部に留置される、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、心臓への血管内処置の実施後に前記動脈から除去される、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
回収過程の少なくとも一部分が吸引を伴う、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記1つまたは複数のフィルタが前記右総頸動脈および前記左総頸動脈への流動を濾過している間に心臓への血管内処置を行う工程をさらに備える、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
心臓弁の血管内置換のための方法であって、
心臓から右頸動脈および左頸動脈に流れる流動を濾過するように1つまたは複数のフィルタ要素を配置する工程と、
下行大動脈または鎖骨下動脈を通じて心臓に心臓弁送達カテーテルを送達して、少なくとも心臓弁の除去または人工心臓弁の設置に関連する工程を実行する工程と、
を含む方法。
【請求項30】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、右鎖骨下動脈、左鎖骨下動脈、下行大動脈、またはそれらの組み合わせを通じて送達される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、心臓弁の血管内置換の実施中に係留されない状態で動脈内部に留置される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記1つまたは複数のフィルタ要素が、心臓弁の血管内置換の実施後に前記動脈から除去される、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記除去過程の少なくともポートが吸引を伴う、請求項32に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【公表番号】特表2011−525405(P2011−525405A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516280(P2011−516280)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/003705
【国際公開番号】WO2010/008451
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(510338260)ルーメン・バイオメディカル・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】LUMEN BIOMEDICAL, INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/003705
【国際公開番号】WO2010/008451
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(510338260)ルーメン・バイオメディカル・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】LUMEN BIOMEDICAL, INC.
【Fターム(参考)】
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