説明

結晶性高分子から成る構造体の真応力−対数ひずみ曲線の推定システム

【課題】従来の方法では、結晶性高分子材料自体の真の真応力−対数塑性ひずみ曲線を推定することができないため、汎用有限要素法の解析ソフトを用いて解析しても構造体の実測データと合致しない、という問題があり、構造体の強度予測が精度良く行えなかった。
【解決手段】ボイドが誘発される塑性域の曲線、すなわち真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)の降伏後の曲線に任意の傾きを加えて、ボイド発生の効果を反映させるフィッティングによって、新たに推定された構成方程式を用いて再度弾塑性モデル解析を行い、解析結果から解析真応力−公称ひずみ曲線(A)と解析体積ひずみ−公称ひずみ曲線(B)を求め、解析値と実測値をそれぞれ比較し、一致したデータより真の真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を構成方程式として採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に結晶性高分子から成る構造体の真応力−対数ひずみ曲線の推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、構造体の強度予測の目的で、大ひずみ領域における真応力−対数ひずみ関係の測定は盛んに行われている。例えば、特許文献1においては鉄鋼製品の強度予測の目的で応力−ひずみ曲線が求められている。また、1軸引張試験において均一変形する材料は、体積不変や等方性の仮定を用いて真応力−対数ひずみ曲線を求めている。
【特許文献1】特開2003−35642号公報
【0003】
しかし、結晶性高分子材料から成る構造体においては、特有の現象が存在する。結晶性高分子構造体では、負荷が加わると構造の不均一に依存して多数のボイド(空隙)或いはクレイズが構造体の破壊以前に形成される。そのため、構造体は不連続となり、材料物性における仮定である体積不変や等方性が成立しなくなり、解析に必要な真応力−対数塑性ひずみ曲線を測定することができない。非特許文献1においても、ポリブチレンテレフタレート構造体の数値解析結果と引張試験結果の比較研究がなされているが、すべてを精度良く測定する方法はまだ確立されていない。
【非特許文献1】プラスチック成形品のネック伝ぱ解析(1)―ポリブチレンテレフタレート成形品のネック伝ぱ挙動― 野々村千里他著 成形加工 第13巻 第5号 2001
【0004】
上記のように、結晶性高分子材料の構成方程式に定義される真応力−対数塑性ひずみ曲線はボイドの効果を含んだ構成方程式でなくてはならない。しかし従来の方法では、材料自体の真の応力を表現した望ましい真応力−対数塑性ひずみ曲線を推定することができないため、汎用有限要素法の解析ソフトを用いて解析しても構造体の実測データと合致しない、という問題があり、構造体の強度予測が精度良く行えなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決できる結晶性高分子から成る構造体の真応力−対数ひずみ曲線の推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
請求項1記載の発明の要旨は、結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステムであって、
前記構造体である試験片の試験結果から公称応力−公称ひずみ曲線を算出する公称応力−公称ひずみ曲線算出手段と、
該公称応力−公称ひずみ曲線算出手段により算出された公称応力−公称ひずみ曲線に変換式を適用して、解析真応力−公称ひずみ曲線(A)、及び真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を算出する真応力−ひずみ曲線算出手段と、
前記曲線(C)を見かけ上の構成方程式とし、弾塑性解析を用いて前記試験片による試験をモデル化し解析を行い、解析体積ひずみ−公称ひずみ曲線(B)を算出する解析ひずみ曲線算出手段と、
前記試験結果から得られる応力、縦ひずみ、横ひずみ、及び実測断面積に基づいて、実測算出式より実測真応力−公称ひずみ曲線(A’)、及び実測体積ひずみ−公称ひずみ曲線(B’)を算出する実測ひずみ曲線算出手段と、
前記曲線(A)と前記曲線(A’)、前記曲線(B)と前記曲線(B’)とを比較する比較手段と、
該比較手段による比較における相違が、それぞれ所定の誤差範囲外である場合には前記曲線(C)における降伏後の曲線に任意の傾きを加算して新たな曲線(C)を算出し、該曲線(C)に基づいて再度算出された新たな曲線(A)及び曲線(B)について前記比較手段によって再比較を行いそれぞれが前記誤差範囲内に収まるようにフィッティングを行うフィッティング手段と、
前記相違が前記誤差範囲内である条件を一致条件とし、該一致条件を満たす場合に、解析値である前記曲線(A)及び前記曲線(B)と、実測値である前記曲線(A’)及び曲線(B’)とがそれぞれ一致したとみなし、この際の前記曲線(A)より算出される曲線(C)を前記構造体の推定構成方程式として採用する構成方程式推定手段と
を有することを特徴とする、結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステムに存する。
請求項2記載の発明の要旨は、前記変換式は、以下に示す数式1及び数式2であることを特徴とする請求項1に記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステムに存する。
請求項3記載の発明の要旨は、前記実測算出式は、以下に示す数式3及び数式4であることを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステムに存する。
請求項4記載の発明の要旨は、前記所定の誤差範囲とは、
前記曲線(A)と前記曲線(A’)との比較においては、前記曲線(A)がひずみ量30%以内の範囲において前記曲線(A’)の±5%以内に入ることであり、
前記曲線(B)と前記曲線(B’)との比較においては、ひずみ量30%以内の範囲において前記曲線(B)の7割以上が前記曲線(B’)の±30%以内に入ること
であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステムに存する。
請求項5記載の発明の要旨は、前記一致条件が、さらに
前記曲線(A)と前記曲線(A’)との比較において、(前記曲線(A)−前記曲線(A’))のひずみ量0%〜30%の範囲における積分値の絶対値が最小になるように前記傾きを決定すること
を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステムに存する。
請求項6記載の発明の要旨は、前記試験片を変形させる引張試験を行う試験手段と、
前記引張試験において、前記試験片への荷重及び応力と、前記試験片の縦ひずみ及び横ひずみと、実測断面積とを測定する測定手段と
をさらに有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステムに存する。
請求項7記載の発明の要旨は、請求項1乃至6のいずれかのシステムにより推定された前記推定構成方程式又は該推定構成方程式を近似した近似方程式を、前記構造体の構成方程式とみなし、弾塑性解析を用いて前記構造体の強度予測を行う強度予測システムに存する。
【0007】
【数1】

【0008】
【数2】

【発明の効果】
【0009】
本発明の真応力−対数ひずみ曲線の推定システムにより推定された構成方程式である真応力−対数塑性ひずみ曲線を使用して、弾塑性解析による構造体の強度予測を行うことで、従来の推定方法での構成方程式を用いた場合よりも精度良く構造体の強度予測を行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
結晶性高分子材料を用いた構造体は現在数多くの工業製品に用いられている。これらの構造体に求められる重要な機能の一つに強度がある。必要な強度を持つ構造物の設計は、その材料の破壊条件が解れば、弾性或いは弾塑性解析による構造物の応力解析から実施することが出来る。構造体の強度は破壊条件に達したときの負荷の大きさで決まる。従って、基本的には弾塑性解析により構造体の応力分布が推測できれば強度予測は可能である。結晶性高分子構造体に負荷が加わると、その不均一さに依存して多数のボイド或いはクレイズが破壊以前に形成され構造体は不連続となるので、応力分布の推定にはボイドを含む弾塑性解析が必要であり、そのためには、ボイドの効果を含んだ真応力−対数塑性ひずみ曲線を求めることが必要であり、本発明はこのボイドの効果を含んだ真応力−対数塑性ひずみ曲線即ち構成方程式を提供するものである。
【0011】
以下、図8に示すフローチャートに従って本発明の真応力−対数塑性ひずみ曲線即ち構成方程式の推定方法を説明する。
【0012】
本発明の弾塑性解析において必要な構成は、弾塑性解析を行うための非線形解析ソフトと、弾塑性解析の実施において基となる構成方程式を推測するため、且つボイドの効果を推測するデータとなる実測値を得るための、結晶性高分子構造体からなる試験片で実施される試験との2つである。
【0013】
非線形解析ソフトとしては、ABAQUS(登録商標)のようなソフトウェアが好ましいが、ボイドの形成にGursonモデルを仮定して3次元解析を実施できるものであれば種類を問わない。
【0014】
基となる構成方程式とは、すなわち弾塑性解析ソフトに入力する必要のある真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)である。本発明においては、まず結晶性高分子構造体からなる試験片で実施される試験、例えば1軸引張試験のような引張試験を行い、試験における荷重、縦ひずみ、及び横ひずみを測定し、これらデータから公称応力−公称ひずみ曲線を得る。(公称応力−公称ひずみ曲線算出工程)また、荷重、縦ひずみ、及び横ひずみの測定データから、後で実測真応力及び実測体積ひずみを算出する。(実測ひずみ曲線算出工程)
【0015】
得られたこの公称応力−公称ひずみ曲線を、体積一定則に基づいた変換式である数式1を用いて解析真応力−公称ひずみ曲線(A)に変換する。(ステップ1)この曲線(A)から数式2を用いて、真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を求める。(真応力−ひずみ曲線算出工程、ステップ2)
【0016】
しかし、結晶性高分子構造体の多くは膨張応力が作用する下での塑性変形に伴いボイドの形成を起こす。このボイドの形成は、上記の公称応力−公称ひずみ曲線に大きな影響を与える。試験片で実施される1軸引張試験のような試験においては、ボイドが降伏後に増加するため、降伏後においては体積一定則が成立しない。従って、従来の方法のように試験片での試験結果である公称応力−公称ひずみ曲線をそのまま体積一定則に基づいて真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)に変換しても、この真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)即ち構成方程式は、物性を正しく反映しない。すなわち、見かけ上の真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)である。
【0017】
そこで、本発明の真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)推定方法においては、体積一定則を仮定して得られた真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を見かけ上の構成方程式とし、ボイドが誘発される塑性域の曲線を試行錯誤法で推測する。
【0018】
試行錯誤法での推測においては、信頼性を得るために以下の手順に従ってボイドの効果を含む真の真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を推定する。
【0019】
まず上記のように、試験片にて実施された試験において得られた公称応力−公称ひずみ曲線に、体積一定則を適応して(変換式である数式1を適応)、解析真応力−公称ひずみ曲線(A)を得、さらに見かけ上の真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を求める。(真応力−ひずみ曲線算出工程)
【0020】
この見かけ上の真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を構成方程式として弾塑性解析ソフトウェアに入力する。弾塑性解析ソフトウェアにおいては、ボイド形成にGursonモデルを仮定し、1軸引張試験をモデル化して解析を行い、解析体積ひずみ−公称ひずみ曲線(B)を求める。(解析ひずみ曲線算出工程、ステップ3)
【0021】
次に、試験片での試験結果から得られる荷重、縦ひずみ、及び横ひずみの測定データから実測算出式である数式3及び数式4より、実測真応力−公称ひずみ曲線(A’)、及び実測体積ひずみ−公称ひずみ曲線(B’)を求める。(実測ひずみ曲線算出工程)
【0022】
ここで、解析値である曲線(A)及び曲線(B)と、実測値である曲線(A’)及び曲線(B’)とをそれぞれ比較する。(比較工程、ステップ4)この比較において解析値が実測値に最も近くなるように、見かけ上の構成方程式である真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を変化させフィッティングを行う。(フィッティング工程、ステップ6)
【0023】
上記のフィッティングとは、ボイドが誘発される塑性域の曲線、すなわち真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)の降伏後の曲線に任意の傾きを加えて、ボイド発生の効果を反映させることである。降伏後、とは真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)において曲線の傾きが大きく変化する点から、よりひずみの大きな領域を示す。
【0024】
このフィッティングによって新たに推定された真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を構成方程式として、再度弾塑性解析ソフトウェアに入力して、1軸引張試験をモデル化した解析を行い、解析結果から再び解析真応力−公称ひずみ曲線(A)と解析体積ひずみ−公称ひずみ曲線(B)を求め、上記と同様に解析値である曲線(A)・曲線(B)と、実測値である曲線(A’)・曲線(B’)とをそれぞれ比較する。
【0025】
上記の比較工程において、曲線(A)と曲線(A’)、曲線(B)と曲線(B’)がそれぞれ所定の誤差範囲内である場合を一致条件とし、この一致条件を満たす公称応力−公称ひずみ曲線又は解析真応力−公称ひずみ曲線(A)から導出される真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を、推定された構成方程式として採用する。(ステップ5)
【0026】
所定の誤差範囲とは、好ましくは
前記曲線(A)と前記曲線(A’)との比較においては、前記曲線(A)がひずみ量30%以内の範囲において前記曲線(A’)の±5%以内に入ることであり、
前記曲線(B)と前記曲線(B’)との比較においては、ひずみ量30%以内の範囲において前記曲線(B)の7割以上が前記曲線(B’)の±30%以内に入ること
であるが、それぞれの曲線ができるだけ近似しているという要件を満たす条件であれば、この条件に制限される必要はない。
【0027】
同様に、一致条件とは、より厳しい定義においては、
前記曲線(A)と前記曲線(A’)との比較において、(前記曲線(A)−前記曲線(A’))のひずみ量0%〜30%の範囲における積分値の絶対値が最小になるように前記傾きを決定すること
であるが、本条件も既述のようにそれぞれの曲線ができる限り近似しているという要件を満たすものであれば、この定義に制限される必要はない。
【0028】
このようにして本発明の方法によって推定された構成方程式と、ボイド発生に関するGursonモデルを使用して弾塑性解析を行うことで、3点曲げ試験の解析結果の精度が増し弾塑性解析による結晶性高分子構造体の強度予測を行うことが可能となる。
【実施例1】
【0029】
結晶性高分子材料の一例としてポリオキシメチレンを用い、本発明による推定方法で推定した構成方程式と、従来の推定方法での構成方程式との比較を行った。
【0030】
図1に公称応力−公称ひずみ曲線を得るための装置の一例を示す。ダンベル型試験片を引っ張る万能試験機(図示せず)と縦ひずみを測定するひずみゲージ式伸び計と横ひずみを測定するレーザ測長機から構成されている。
【0031】
図1の装置から得られた公称応力−公称ひずみ曲線(図2実線)と、ひずみゲージ式伸び計及びレーザ測長機により試験片の縦ひずみと幅を評価することにより得られた体積ひずみ(図2点線)を図2に示す。まず公称応力−公称ひずみ曲線について説明すると、初期降伏応力を越えて塑性ひずみが増加すると、図に示すように公称応力で示した降伏応力は56MPa以降単調に低下し、0.44のひずみに到達すると破壊する。一方、体積ひずみ−公称応力曲線はひずみの増加に伴い、体積ひずみの増加が降伏後にその傾きが大きくなることから、ポリオキシメチレンの塑性変形に伴いボイドの形成が誘発されると推測できる。
【0032】
従来の方法によりこの公称応力−公称ひずみ曲線を体積一定則に基づいて真応力−対数塑性ひずみ曲線に変換しても(図3)、体積一定則はボイドの発生を考慮していないため、正しい真応力−対数塑性ひずみ曲線を表していない。
【0033】
そこで、試行錯誤法によって図3の降伏点以降の曲線に傾きを加えて、真応力−公称ひずみ曲線(図4)、及び体積ひずみ−公称ひずみ曲線(図5)のフィッティングを行った。
フィッティングでは、降伏点(対数ひずみ,真応力)=(0.085,59.9MPa)以降に傾き89°を加えた。その結果、真応力−公称ひずみ曲線はひずみ量30%以内の範囲において実測真応力−公称ひずみ曲線の±5%以内に入り、体積ひずみ−公称ひずみ曲線においては、ひずみ量30%以内の範囲において解析体積ひずみ−公称ひずみ曲線の7割以上が実測体積ひずみ−公称ひずみ曲線の±30%以内に入った。
【0034】
上記のフィッティングによって得られた真応力−対数塑性ひずみ曲線を図6に示す。
【0035】
本発明の推定方法により推定された真応力−対数塑性ひずみ曲線を構成方程式として、ABAQUS(登録商標)を用い、ボイド発生に関するGursonモデルを使用して3点曲げ試験の解析を行った(図7)。実測値はU字切り欠き試験片による3点曲げ試験を行い測定を行った。図7で明らかなように、本発明の推定方法で推定された構成方程式の方が、より精度良く構造体の強度を予測することができた。
【0036】
高分子材料の破壊様式には、小さいひずみで壊れるぜい性破壊と大きく塑性変形した後に壊れる延性破壊が良く知られている。U字切り欠き試験片の3点曲げ試験を例にぜい性破壊のプロセスを説明する。構造体に負荷が加わると切り欠き先端に塑性変形が起きる。切り欠き先端に形成された塑性領域の応力分布は塑性領域の先端付近で最大値となる。負荷の増加に伴い、この塑性領域の大きさが拡大し、その先端の膨張応力が材料の限界値を超えると多数のボイドが形成される。材料の弾性率と降伏応力に依存して、膨張応力の大きさが塑性不安定条件を満足すると、ひずみの不安定な集中が起こり、塑性領域の先端にクレイズが形成される。破壊は形成されたクレイズを構成するフィブリルが破断することにより、クラックが形成されて起こる。一方、切り欠き先端半径が大きいときには、切り欠き先端に形成されたボイドを含む塑性領域の応力がフィブリルの強度に到達する以前に全面降伏が起こる。変位の増加により切り欠き先端のひずみが増加し、それが配向したフィブリルの強度を越えると切り欠き先端から延性破壊へと至る。試験片の形状による破壊様式を塑性拘束による試験片の内部からのぜい性破壊と切り欠き先端からの延性破壊に分類することが出来る。従って、基本的には弾塑性解析による構造体の応力分布が推測でき、破壊条件が推測できれば強度予測は可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の方法で推定された構成方程式を使用することにより、結晶性高分子構造体の弾塑性解析は、境界条件により変化するそれぞれの破壊様式、そして破断の負荷及び変異を定量的に予測することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ひずみゲージ式伸び計とレーザ測長機
【図2】公称応力−公称ひずみ曲線(実線)と体積ひずみ−公称ひずみ曲線(点線)
【図3】従来の真応力−対数塑性ひずみ曲線
【図4】解析真応力−公称ひずみ曲線(実線)と実測真応力−公称ひずみ曲線(点線)の比較結果
【図5】解析体積ひずみ−公称ひずみ曲線(実線)と実測体積ひずみ−公称ひずみ曲線(点線)の比較結果
【図6】本発明の推定方法により推定された真応力−対数塑性ひずみ曲線
【図7】従来方法と本発明方法とで予測された強度と、実測値の比較
【図8】本発明における構成方程式の推測方法のフローチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステムであって、
前記構造体である試験片の試験結果から公称応力−公称ひずみ曲線を算出する公称応力−公称ひずみ曲線算出手段と、
該公称応力−公称ひずみ曲線算出手段により算出された公称応力−公称ひずみ曲線に変換式を適用して、解析真応力−公称ひずみ曲線(A)、及び真応力−対数塑性ひずみ曲線(C)を算出する真応力−ひずみ曲線算出手段と、
前記曲線(C)を見かけ上の構成方程式とし、弾塑性解析を用いて前記試験片による試験をモデル化し解析を行い、解析体積ひずみ−公称ひずみ曲線(B)を算出する解析ひずみ曲線算出手段と、
前記試験結果から得られる応力、縦ひずみ、横ひずみ、及び実測断面積に基づいて、実測算出式より実測真応力−公称ひずみ曲線(A’)、及び実測体積ひずみ−公称ひずみ曲線(B’)を算出する実測ひずみ曲線算出手段と、
前記曲線(A)と前記曲線(A’)、前記曲線(B)と前記曲線(B’)とを比較する比較手段と、
該比較手段による比較における相違が、それぞれ所定の誤差範囲外である場合には前記曲線(C)における降伏後の曲線に任意の傾きを加算して新たな曲線(C)を算出し、該曲線(C)に基づいて再度算出された新たな曲線(A)及び曲線(B)について前記比較手段によって再比較を行いそれぞれが前記誤差範囲内に収まるようにフィッティングを行うフィッティング手段と、
前記相違が前記誤差範囲内である条件を一致条件とし、該一致条件を満たす場合に、解析値である前記曲線(A)及び前記曲線(B)と、実測値である前記曲線(A’)及び曲線(B’)とがそれぞれ一致したとみなし、この際の前記曲線(A)より算出される曲線(C)を前記構造体の推定構成方程式として採用する構成方程式推定手段と
を有することを特徴とする、結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステム。
【請求項2】
前記変換式は、以下に示す数式1及び数式2であることを特徴とする請求項1に記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステム。
【数1】

【請求項3】
前記実測算出式は、以下に示す数式3及び数式4であることを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステム。
【数2】

【請求項4】
前記所定の誤差範囲とは、
前記曲線(A)と前記曲線(A’)との比較においては、前記曲線(A)がひずみ量30%以内の範囲において前記曲線(A’)の±5%以内に入ることであり、
前記曲線(B)と前記曲線(B’)との比較においては、ひずみ量30%以内の範囲において前記曲線(B)の7割以上が前記曲線(B’)の±30%以内に入ること
であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステム。
【請求項5】
前記一致条件が、さらに
前記曲線(A)と前記曲線(A’)との比較において、(前記曲線(A)−前記曲線(A’))のひずみ量0%〜30%の範囲における積分値の絶対値が最小になるように前記傾きを決定すること
を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステム。
【請求項6】
前記試験片を変形させる引張試験を行う試験手段と、
前記引張試験において、前記試験片への荷重及び応力と、前記試験片の縦ひずみ及び横ひずみと、実測断面積とを測定する測定手段と
をさらに有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の結晶性高分子材料から成る構造体の応力−ひずみ関係を推定するシステム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかのシステムにより推定された前記推定構成方程式又は該推定構成方程式を近似した近似方程式を、前記構造体の構成方程式とみなし、弾塑性解析を用いて前記構造体の強度予測を行う強度予測システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−337343(P2006−337343A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166063(P2005−166063)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】