説明

網目状ポリマー及びそれを使用したゲル電解質

【課題】ゲル電解質に適したポリマーを提供する。
【解決手段】次式で表される多分岐ポリマーと架橋剤とを反応させて得た網目状ポリマー。X〔B−Y(A)n1n2[式中、Bは式(III)で表される繰り返し単位を含み、XはBと3以上の結合手を有する有機基を表し、Yは活性ハロゲン原子を有することができる構造の官能基を表し、Aは特定式で表されるランダム共重合体を表す。]で表される多分岐ポリマーと架橋剤とを反応して得られる網目状ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3以上の分岐鎖を有するコア部と、該コア部の分岐鎖に結合してなり、重合性不飽和結合から誘導される繰り返し単位を含むアーム部とを有する多分岐ポリマーと架橋剤の反応物である網目状ポリマー及びそれを使用したゲル電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パソコンなどのポータブル電子機器の電源として使用される二次電池、特にリチウム二次電池にはゲル状の高分子電解質使用されている。このゲル状の高分子電解質に用いられる高分子については、ポリエーテル系(たとえば、非特許文献1)の高分子をはじめとして、ポリメチルメタクリレート系(たとえば、非特許文献2、3)、ポリフッ化ビニリデン系(たとえば、非特許文献4、特許文献1)、ポリアクリロニトリル系(たとえば、非特許文献5)、ポリウレタン系(たとえば、非特許文献6、7)、エポキシ系ポリマー、ポリスルホン系(たとえば、特許文献2)などの様々な物質が研究されてきた。
【0003】
これら従来のゲル電解質は、電解液、モノマー、二官能性モノマー及び開始剤を混合し、熱重合によりゲル化させて製造する方法(化学架橋ゲル)、もしくは高分子マトリックス中に電解液を吸収・担持させる方法(物理架橋ゲル)が一般的であった。
【0004】
前者の化学架橋ゲルは、たとえば、特許文献3に記載されているが、優れた電解液保液性が特徴として挙げられるが、重合の際に発生したラジカルが負極の黒鉛で消費され、未反応モノマーが残存する恐れがあった。その未反応部位が正極活物質の酸化還元により反応して電池の長期信頼性を低下させる原因となっていた。また、得られたゲル電解質の機械的強度は低く短絡の危険性もあった。
また、後者の物理架橋ゲルの場合には、たとえば、特許文献4に記載されているが、電池素子を作成後、電解液を注液し加熱することによってゲルを形成するため、従来の液体電解液を用いた電池製造法を適用することができる利点を持つ。しかしながら、高温時にゲルが液状化するために、高温化や異常反応時に液漏れ等の恐れがあった。
【0005】
一方、本発明者らは高分子固体電解質に使用できるスターポリマー(多分岐ポリマー)を開発してきた(特許文献5)が、従来スターポリマーをゲル電解質に使用した例は無かったため、これをゲル電解質として使用することを試みたが、ゲル電解質としては不適であった。
【0006】
一方、本発明者らは高分子固体電解質に使用できるスターポリマー(多分岐ポリマー)を開発してきた(特許文献1)が、従来スターポリマーをゲル電解質に使用した例は無かったため、これをゲル電解質として使用することを試みたが、ゲル電解質としては不適であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−356102号公報
【特許文献2】特開2003−045490号公報
【特許文献3】特開2009−158496号公報
【特許文献4】特表平8−507407号公報
【特許文献5】国際公開WO2006/016665パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. Kono, E Hayashi, M. Nishiura, and M. Watanabe, Journal of The Electrochemical Society, 147 (7) 2517-2524(2000).
【非特許文献2】P.E.Stallworth, S.G.Greenbaum, F.Croce, S.Slane, and M. Salomon, Electrochimica Acta, 40 (13-14) 2137-2141(1995).
【非特許文献3】S. Kuwabata and M. Tomiyori, Journal of The Electrochemical Society, 149(8) A988-A994 (2002)
【非特許文献4】T. Michot, A. Nishimoto, and M. Watanabe, Electrochimica Acta, 451347-1360 (2000).
【非特許文献5】H. Akashi, K. Tanaka, and K. Sekai, Journal of The Electrochemical Society, 145 (3) 881-887(1998)
【非特許文献6】M.L. Digar, S.L. Hung, T.C. Wen, and A. Gopalan, Polymer 431615-1622 (2002).
【非特許文献7】H.L. Wang, H.M. Kao, M. Digar, and T.C. Wen, Macromolecules34 (3) 529-537 (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、未反応モノマーが残存せず、かつ電解液を担持する高分子ゲル電解質として使用可能なポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、国際公開WO2006/016665パンフレットに記載された多分岐ポリマーにPEOを架橋剤として反応させて得た網目状ポリマーが未反応モノマーが残存せず、ゲル電解質として適していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は
(1)次式:X〔B−Y(A)n1n2
(式中、Aは、式(I)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、RとRは結合して環を形成してもよい。R4a及びR4bはそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のアシル基または炭素数3〜20のトリ置換シリル基を表し、mは1〜100のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、R4a同士及びR4b同士は、同一であっても異なっていてもよい。)で表わされる繰り返し単位、及び、式(II)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、RとRは結合して環を形成してもよく、Rは、水素原子;炭素数1〜10の炭化水素基;水酸基;炭素数1〜10の炭化水素オキシ基;カルボキシル基;酸無水物基;アミノ基;エステル基;又は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機基を表し、Rは、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機基を表す。)で表わされる繰り返し単位を含むランダム共重合体を表し、
Bは式(III)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R13はアリール基またはヘテロアリール基を表す。)で表わされる繰り返し単位を含む重合体を表す。
XはBと3以上の結合手を有する有機基を表し、Yは活性ハロゲン原子を有することができる構造の官能基を表す。
n1は1又は2を、n2は2〜16のいずれかの整数を表す。)
で表される多分岐ポリマーと架橋剤とを反応して得られる網目状ポリマー、及び、
(2)次式:X〔B−Y(A)n1n2で表される多分岐ポリマーが、式(VIII)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Zは(CH)q又はp−フェニレン基を表し、qは0〜3の整数を表し、各Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基を表し、各n3は、それぞれ独立して0〜3のいずれかの整数を表し、各n4は、それぞれ独立して1〜3のいずれかの整数を表す。
A、B、Y及びn1は上記(1)における定義と同じであり、各A、B、Y及びn1は、それぞれ、同一でも相異なっていてもよい。)
で表される化合物である上記(1)に記載の網目状ポリマーに関する。
【0020】
また、本発明は、
(3)上記(1)又は(2)に記載の網目状ポリマー及び電解液を含有することを特徴とする高分子ゲル電解質に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の網目状ポリマーには合成で使用したモノマーが存在せず、シート化した場合に自立膜として取り扱うことができた。また、本発明の網目状ポリマーはゲル電解質として好適であり、シート加工後電解液を吸わせて作製したゲル電解質は自立膜として取り扱いができ、実用化の目処が立った。
本発明の網目状ポリマーは、レジスト材料;電池、キャパシター、センサー、コンデンサー、EC素子、光電変換素子等の電気化学用材料;包接材料;電化製品、産業機器等の機能性材料等として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】温度変化によるポリマーゲル電解質膜のイオン導電率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
1網目状ポリマー
本発明の網目状ポリマーは、以下に示す多分岐ポリマーと架橋剤との反応により得られる三次元構造を有するポリマーである。 GPC−MALLS(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー多角度光散乱検出法)による重量平均分子量は、10,000〜2,000,000である。また、その分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.05〜2、好ましくは、1.1〜1.5である。
【0024】
多分岐ポリマーは、1分子あたり約10〜200個の架橋剤と反応することのできる官能基を有しており、多分岐ポリマーと架橋剤との配合割合は、多分岐ポリマー中の反応性官能基に対する架橋剤中の反応性官能基の当量比で、1:0.5〜2、好ましくは、1:0.8〜2である。
【0025】
〔多分岐ポリマー〕
本発明の多分岐ポリマーは、次式で表される構造を有する。
式:X〔B−Y(A)n1n2
以下に、前記式中の各部について説明する。
【0026】
(X)
前記式中、Xは3以上の結合手を有する有機基を表す。
Xの具体例としては、
(i)4個の分岐鎖を有する炭素原子、4個の分岐鎖を有する炭素原子とアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基又はこれらの2種以上の基との組み合わせ、等の炭素原子を中心とする有機基;
(ii)3個の分岐鎖を有する炭素原子、3個の分岐鎖を有する炭素原子とアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基又はこれらの2種以上の基との組み合わせ、等の炭素原子を中心とする有機基;
(iii)3個の分岐鎖を有する窒素原子、3個の分岐鎖を有する窒素原子とアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基又はこれらの2種以上の基との組み合わせ、等の窒素原子を中心とする有機基;
(iv)3個以上の分岐鎖を有するフェニル基、3個以上の分岐鎖を有するフェニル基とアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基又はこれらの2種以上の基との組み合わせ、等のベンゼン環を中心とする有機基;等が挙げられる。
【0027】
また、前記(アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基又はこれらの2種以上の基)は、−O−、−S−、−C(=O)−、−C(=O)O−、−NH−、−NHC(=O)−、−NHC(=S)−、−OC(=O)NH−の1種又は2種以上の基を、任意の位置にさらに有していてもよい。
【0028】
(A)
前記式中、Aは、重合性不飽和結合を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有するランダム共重合体からなるアーム部を表し、複数のA同士は同一でも相異なっていてもよい。
また、各Aは架橋剤と結合することのできる官能基を有する。
【0029】
前記Aのランダム共重合体は、式(I)
【0030】
【化5】

【0031】
で表わされる繰り返し単位、及び、式(II)
【0032】
【化6】

【0033】
で表わされる繰り返し単位を有する。
前記Aは、上述した繰り返し単位以外に、これらと共重合しうる他の繰り返し単位を有していてもよい。
このような他の共重合しうる他の繰り返し単位を与える重合性単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等の共役ジエン類;N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のα,β−不飽和カルボン酸イミド類;(メタ)アクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル類;等が挙げられる。
【0034】
繰り返し単位(I)中におけるR〜R及びmは、以下の通りである。
〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。
ここで、炭素数1〜10の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基等を表し、具体的には、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基などのアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基等のアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−ヘプチニル基、1−オクチニル基、1−デシニル基、等のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等アリールアルキル基等が挙げられる。
また、RとRは結合して環を形成してもよい。
【0035】
4a及びR4bは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表す。
は、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のアシル基又は炭素数3〜20のトリ置換シリル基を表す。
ここで、炭素数1〜10の炭化水素基としては、上記R〜Rと同様の基を例示することができる。
炭素数1〜10のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、へプタノイル基、オクタノイル基等が挙げられ、炭素数3〜20のトリ置換シリル基としては、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基等が挙げられる。
【0036】
また、R〜Rの炭化水素基は、適当な炭素原子上に置換基を有していてもよい。かかる置換基の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;シアノ基;ニトロ基;メトキシ基、フェノキシ基等の炭化水素オキシ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;メチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;メチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;アミノ基、ジメチルアミノ基等の置換されていてもよいアミノ基;アニリノ基等が挙げられる。
【0037】
mは、1〜100のいずれかの整数を表し、2〜50のいずれかの整数であるのが好ましい。また、各繰り返し単位におけるmの値は、同一であっても相異なっていてもよい。
mが2以上のとき、R4a同士、R4b同士は同一であっても相異なっていてもよい。
また、繰り返し単位(I)の重合度は、mの値にもよるが、5以上であるのが好ましく、10以上であるのがより好ましい。
【0038】
繰り返し単位(I)を与える単量体の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0039】
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、「ブレンマーPMEシリーズ」〔式(I)においてR=R=水素原子、R=メチル基、m=2〜90に相当する単量体〕(日本油脂(株)製)、アセチルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンゾイルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−ブチルジメチチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールシクロヘキセン−1−カルボキシレート、メトキシポリエチレングリコール−シンナメート。
これらの化合物は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
繰り返し単位(II)中におけるR〜Rは、以下の通りである。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。
ここで、炭素数1〜10の炭化水素基は上記式(I)のR〜Rと同様の基を例示することができる。
とRは結合して環を形成してもよい。
【0041】
は、水素原子;炭素数1〜10の炭化水素基;水酸基;炭素数1〜10の炭化水素オキシ基;カルボキシル基;酸無水物基;アミノ基;エステル基;又は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機基;を表す。
ここで、炭素数1〜10の炭化水素基は上記式(I)のR〜Rと同様の基を例示することができる。また、炭素数1〜10の炭化水素オキシ基は、炭素数1〜10の炭化水素基と酸素原子が結合した基であり、炭素数1〜10の炭化水素基としては上記式(I)のR〜Rと同様の基を例示することができる。
ここで、有機基とは、炭化水素基;−O−,−CO−又は−COO−と結合した炭化水素基;酸素原複素環基などであり、炭化水素基又は複素環基は、好ましくは、炭素数1〜10である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。これらの基としては、具体的には、上記式(I)のR〜Rと同様の基を例示することができる。
【0042】
は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機基を表す。
及びRにおいて、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基、及びアミノ基は架橋剤と結合するための官能基である。
これらの官能基又はこれらの官能基を有する有機基としては、以下のものが挙げられる。
【0043】
【化7】

【0044】
このような官能基を有する繰り返し単位を生成する原料モノマーとしては、以下の化合物を例示することができる。
【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
上記の化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
また、R〜Rは、適当な炭素原子上に置換基を有していてもよい。かかる置換基の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;シアノ基;ニトロ基;メトキシ基、フェノキシ基等の炭化水素オキシ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;メチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;メチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;アミノ基、ジメチルアミノ基等の置換されてもよいアミノ基;アニリノ基;等が挙げられる。
【0050】
上記ランダム共重合体における繰り返し単位(I)及び(II)の重合度は、いずれも30〜2000であることが好ましく、特に、50〜1000が好ましい。
また、上記ランダム共重合体における繰り返し単位(I)の割合は、30〜60重量%の範囲であることが好ましく、繰り返し単位(II)の割合は、40〜70重量%の範囲であることが好ましい。
繰り返し単位(I)において、以下の式(IV)で表わされる繰り返し単位部分が30〜60重量%であることが好ましい。
【0051】
【化11】

【0052】
(式中、R4a及びR4bはそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表す。)
【0053】
(B)
Bは式(III)
【0054】
【化12】

【0055】
で表わされる繰り返し単位を含む重合体を表す。
式中、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R13はアリール基またはヘテロアリール基を表す。
ここで、R10、R11及びR12における炭素数1〜10の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基等を表し、具体的には、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基などのアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基等のアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−ヘプチニル基、1−オクチニル基、1−デシニル基、等のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等アリールアルキル基等が挙げられる。
また、R13におけるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、炭素数6−10のアリール基である。
また、R13におけるヘテロアリール基としては、例えば、ピリジニル、イミダゾリル、ピリミジニル、ピラゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソキサゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソチアゾリル、ピロリル、キノリニル、イソキノリニル、インドリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、シンノリニル、インダゾリル、インドリジニル、フタラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、イソインドリル、プテリジニル、プリニル、オキサジアゾリル、トリアゾリル、チアジアゾリル、チアジアゾリル、フラザニル、ベンゾフラザニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾチアゾリル、ベンズオキサゾリル、キナゾリニル、キノキサリニル、ナフチリジニル等が挙げられる。
上記重合体における繰り返し単位(III)の重合度は、10〜500であることが好ましく、特に、50〜200が好ましい。
前記Bは、上述した繰り返し単位以外に、他の重合性単量体から誘導される繰り返し単位を有していてもよい。
【0056】
このような共重合しうる他の重合性単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等の共役ジエン類;N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のα,β−不飽和カルボン酸イミド類;(メタ)アクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル類;等が挙げられる。
【0057】
(n1及びn2)
上記A部の1又は2個が、Yを介してB部と結合している。また、B−Y(A)n1の2〜16個、好ましくは4〜8個が、Bを介してXと結合している。
【0058】
(Y)
Yは、A部とB部を連結する基であり、活性ハロゲン原子を有することができる構造の官能基を表す。
ここで、「活性ハロゲン原子を有することができる構造を有する官能基」とは、ハロゲン原子が結合したとするならば、そのハロゲン原子は活性ハロゲン原子となるような構造を有する反応性を有する原子団をいう。
【0059】
本発明の多分岐ポリマーにおいては、前記Yの活性ハロゲン原子を有することができる構造の官能基が、下記の式(V)、(VI)又は(VII)のいずれかであるのが好ましい。
【0060】
【化13】

【0061】
式(V)中、Tは2価の電子吸引性基を表し、R20は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のエステル基又は炭素数1〜10のアシル基を表し、R21は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のエステル基又は炭素数1〜10のアシル基を表す。
式中、*はB部との結合位置を、**はA部との結合位置を示す。式(V)、(VI)及び(VII)において、活性ハロゲン原子を有することができる位置とは**の付された炭素原子であり、言い換えれば、このことは、B部と結合する前のYの**の炭素原子に活性ハロゲン原子が結合していたことを意味する。
【0062】
前記式(VI)中、R22は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のエステル基又は炭素数1〜10のアシル基を表し、R23は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のエステル基又は炭素数1〜10のアシル基を表す。
前記式(VII)中、R24は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のエステル基又は炭素数1〜10のアシル基を表し、R25は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のエステル基又は炭素数1〜10のアシル基を表す。R26は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のエステル基又は炭素数1〜10のアシル基を表す。
20、R21、R22、R23、R24及びR25において、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
炭素数7〜12のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等が挙げられる。
炭素数1〜10のエステル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;シクロプロピルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等のシクロアルキルオキシカルボニル基;フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基等の挙げることができ、
炭素数1〜10のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、へプタノイル基、オクタノイル基、アクリロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0063】
前記式(V)中のTとしては、式(t11)又は(t21)で表される基が好ましく、式(t11)で表される基がさらに好ましい。
【0064】
【化14】

【0065】
上記式(t11)中、Z11は、酸素原子、硫黄原子、又はNr71(r71は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいフェニルカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルスルホニル基もしくは置換基を有していてもよいフェニルスルホニル基を表す。)で表される基を表す。
ここで、炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
炭素数1〜10のアルキルカルボニル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、へプタノイル基、オクタノイル基等が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n−ブチルスルホニル基、s−ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、t−ブチルスルホニル基、n−ヘキシルスルホニル基等が挙げられる。
置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有していてもよいフェニルカルボニル基及び置換基を有していてもよいフェニルスルホニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;メトキシ基、フェノキシ基等の炭化水素オキシ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;メチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;メチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基等が挙げられる。
【0066】
(多分岐ポリマーの例)
本発明の多分岐ポリマーを例示すると以下のものが挙げられる。
【0067】
【化15】

【0068】
【化16】

【0069】
【化17】

【0070】
式中、A、B、Y、n1は前記と同じ定義であり、d1〜d4は、各々独立して任意の自然数を表す。
特に、本発明の多分岐ポリマーとしては、下記式(VIII)で表されるものが好ましい。
【0071】
【化18】

【0072】
式中、Zは(CH)q又はp−フェニレン基を表し、qは0〜3の整数を表し、各Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基を表し、各n3は、それぞれ独立して0〜3のいずれかの整数を表し、各n4は、それぞれ独立して1〜3のいずれかの整数を表す。
ここで、(CH)qとしては、単結合、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基が挙げられる。
炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
炭素数1〜6のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;メトキシ基、フェノキシ基等の炭化水素オキシ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;メチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;メチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基等により置換されていてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0073】
本発明の多分岐ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、10,000〜2,000,000、好ましくは50,000〜1,000,000の範囲であり、本発明の多分岐ポリマーは分子量が制御されたポリマーである。
【0074】
(多分岐ポリマーの製造方法)
本発明の多分岐ポリマーの製造方法は、国際公開WO2006/016665パンフレットに記載された方法と同様に製造することができるが、簡単に記載すると以下の通りである。
式:X[B−Y]n2で表される化合物と、重合性不飽和結合を有する化合物とを、リビングラジカル重合条件下で重合させる。
【0075】
前記式:X’[B’−Y’]n2’中、B’、X’及びn2’は、各々、前記式X〔B−Y(A)n1n2中のX、B及びn2と同様である。
Y’は、下記に示す式(VIII)、式(IX)又は式(X)で表される官能基を表す。
【0076】
【化19】

【0077】
上記式(VIII)中、Tは前記式(V)のTと同様であり、R210、R211は、それぞれ式(V)のR20、R21と同様である。
は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表す。
前記式(IX)中、R212、R213は、前記式(VI)のR22、R23と同様である。
は前記Gと同様のハロゲン原子を表す。
前記式(X)中、R214、R215は、前記式(VII)のR24、R25と同様である。
は前記Gと同様のハロゲン原子を表す。
【0078】
前記式:X’[B’−Y’]n2で表される化合物と、重合性不飽和結合を有する化合物との重合方法としては、前記式(VII)で表される化合物と、重合性不飽和結合を有する化合物、所望により共重合可能な他の単量体及び反応溶媒を含むモノマー液を、一括であるいは反応途中で反応容器に仕込み、窒素やアルゴン等不活性ガス雰囲気下で必要に応じ加熱、市販のラジカル開始剤(アゾ系開始剤、パーオキサイド等)を用いて重合を行うラジカル重合法;前記式:X’[B’−Y’]n2で表される化合物と、重合性不飽和結合を有する化合物、所望により共重合可能な他の単量体及び反応溶媒を含むモノマー液を、一括であるいは反応途中で反応容器に仕込み、窒素やアルゴン等不活性ガス雰囲気で、攪拌しながら、アニオン重合開始剤を滴下して重合を行うアニオン重合法;及びリビングラジカル重合法等が挙げられ、狭分散で、分子量が制御された多分岐ポリマーが効率よく得られる点で、リビングラジカル重合法が好ましい。
【0079】
前記式:X’[B’−Y’]n2で表される化合物と、前記重合性不飽和結合を有する化合物とをリビングラジカル重合条件下で重合させる方法としては、
(A)前記式:X’[B’−Y’]n2で表される化合物を重合開始剤とし、遷移金属錯体を触媒として重合反応を行うリビングラジカル重合法や、(B)安定ラジカル系開始剤を用いるリビングラジカル重合法、等が挙げられる。なかでも、より効率よく目的とする多分岐ポリマーを得ることができる観点から、(A)のリビングラジカル重合法が好ましい。
【0080】
リビングラジカル重合法によりアーム部を形成する方法としては、
(1)一種のリビングラジカル重合性不飽和結合を有する化合物を用いて、単独重合体からなるアーム部を形成する方法、
(2)複数のリビングラジカル重合性不飽和結合を有する化合物を反応系に同時に添加して、ランダム共重合体からなるアーム部を形成する方法、
(3)複数のリビングラジカル重合性不飽和結合を有する化合物を反応系へ逐次的に添加して、ブロック共重合体からなるアーム部を形成する方法、
(4)複数のリビングラジカル重合性不飽和結合を有する化合物の組成比を経時的に変化させて、グラジエント共重合体からなるアーム部を形成する方法、
等が挙げられる。
【0081】
なかでも、より狭分散の多分岐ポリマーを得ることができることから、(3)のブロック単位で結合したブロック共重合体からなるアーム部を形成する方法が好ましい。この方法によれば、分子内に官能基を有する化合物を重合する場合においても、リビングアニオン重合法のように官能基を保護する必要がなく有利である。
【0082】
(架橋剤)
本発明の架橋剤は、多分岐ポリマーのヒドロキシル基と反応性である少なくとも2つの官能基を有する。たとえば、メチロールおよび/またはメチロールエーテル基を含有するアミノプラスト、ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0083】
アミノプラストは、アルデヒドとアミンまたはアミドとの反応から得られるものであり、メラミン、ウレア、ベンゾグアナミンなどが挙げられ、メチロールおよび/またはメチロールエーテル基を含有するアミノプラストは、1〜4個の炭素原子を含むアルコールなどでエーテル化されて得られる。
【0084】
ポリイソシアネートは、脂肪族または芳香族ポリイソシアネート、あるいはそれらの混合物でもよい。
例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどの直鎖脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレン−ビス−シクロヘキシルイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート;p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,4−又は2,6−トルエンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,2,4−ベンゼントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどのより高分子のポリイソシアネートなどが挙げられる。また、ジイソシアネートのビウレットおよびイソシアヌレート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット、およびイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート)(それらの混合物を含む)も使用できる。
【0085】
イソシアネートプレポリマー、例えば、ポリイソシアネートと、ポリオール(例えばネオペンチルグリコールおよびトリメチロールプロパン)またはポリマーポリオール(例えば、ポリカプロラクトンジオールおよびトリオール)との反応生成物もまた使用され得る。
【0086】
(触媒)
多分岐ポリマーのヒドロキシル基とポリイソシアネート架橋剤との反応には、酸、塩基、各種金属化合物などの触媒を用いることができる。
例えば、リン酸ジメチル、リン酸ジ・n−ブチル、o−フェニルソーダ、オレイン酸カリウム、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、N−メチルモルホリン、N−メチルモルホリン、N−メチルピペラジン、N,N’−ジメチルピペラジン、N,N’−ジメチルベンジルアミン、N,N’−ジメチルドデシルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノブタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、オクトエ酸スズ、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズバーサテート、ジブチルスズオキサイト、ジオクチルスズオキサイト、ジオクチルスズジクロライド、塩化トリn−ブチルスズ、テトラn−ブチルスズ、トリメチルスズヒドロキシド、チタン酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキソエート鉄、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト、塩化鉄、塩化スズ、アンチモントリクロリド、硝酸ビスマス、オクチル酸スズ、ビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)。
【0087】
(網目状ポリマーの製造)
多分岐ポリマーと架橋剤とを、溶媒中で、多分岐ポリマー中のヒドロキシル基対架橋剤中の反応性官能基の当量比が、1:0.5〜2、好ましくは、1:0.8〜1.2の範囲で反応させる。
反応の温度は、10〜140℃、好ましくは20〜70℃である。
使用溶媒としては、特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、ビス(2−エトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のエステル類;γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−プロパンスルホン、1,4−ブタンスルホン等のスルホキシド類;アセトニトリル、プロピオンニトリル等のニトリル類が挙げられる。
これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
2.高分子ゲル電解質
本発明の高分子ゲル電解質は、式:X〔B−Y(A)n1n2で表される多分岐ポリマーと架橋剤とを反応して得られる網目状ポリマー、およびそれに担持された電解液を含有することを特徴とする。
【0089】
本発明の網目状ポリマーは高分子ゲル電解質の製造原料として有用である。すなわち、架橋反応によって得られた本発明の網目状ポリマーに電解液を吸収・担持させることにより高分子ゲル電解質組成物が得られる。
【0090】
上記、高分子ゲル電解質組成物は、シート状、膜状、フィルム状等の形状のものが好ましい。高分子ゲル電解質シートを製造する場合には、網目状ポリマーをシート状、膜状、フィルム状等の形状に加工した後、電解液を吸収・担持させて高分子ゲル電解質組成物シートとするのが好ましく、この場合、加工面の自由度が広がり、応用上の大きな利点となる。
【0091】
前記ポリマーシートの作成には、キャリアー上に網目状ポリマーの塗膜を形成させることによってシート状にすることができる。架橋反応によって得られた網目状ポリマー溶液を塗工し有機溶剤を揮発させる工程を経てシート状の網目状ポリマーを得る。
【0092】
用いるキャリアーとしては、網目状ポリマー溶液を塗工できるものであれば、材質、大きさ、形状等は特に制約されない。なかでも、はく離紙、ポリオレフィン、ポリエステル基材等のはく離フィルム、シリコン製フィルム、ポリテトラフルオロエチレン製等の耐薬品性、耐熱性及び剥離性に優れるものが望ましい。
【0093】
網目状ポリマー溶液をキャリアー上に塗布する方法は、特に制限されず、公知の塗布方法が採用できる。例えば、網目状ポリマー溶液をキャリアー上に注ぐ方法、ロールコーター法、グラビアコーター、ナイフコーター、キスコーター、スクリーンコーティング法、ドクターブレード法、バーコーティング法、カーテンコーター法、スピンコート法、ディップ法、キャスト法、スプレー塗工法、押出コーター等の各種コーティング手段が挙げられる。
【0094】
網目状ポリマー溶液の固形分濃度は特に限定はされないが、具体的には、0.5〜30重量%の範囲を好ましく例示することができる。0.5重量%未満では濃度が希薄すぎて、また、30重量%より多い場合にも膜厚を制御することができなくなる。
【0095】
キャスト又は塗布後、溶媒を常圧又は減圧留去、加熱乾燥等の方法で除去するが、少なくとも溶媒を含んだ状態で加熱処理する工程を含むことが好ましい。該工程以外の前処理又は後処理工程として、減圧留去、加熱乾燥等の工程がさらに含まれていてもよい。
加熱する温度は特に制限されないが、使用する溶剤の沸点もしくはポリマーのガラス転移点温度付近又はそれ以上が好ましい。
【0096】
得られるシート状の網目状ポリマーは、正極、負極及びゲル電解質層を有するゲル電解質電池のゲル電解質層として好適に用いることができる。すなわち正極と負極との間に、網目状ポリマーを挟み電解液を注液する。もしくは、あらかじめ網目状ポリマーに電解液を吸収・担持させた高分子ゲル電解質を正極と負極との間に挟むことで、高分子ゲル電解質電池を得ることができる。
【0097】
ゲル電解質電池には高分子ゲル電解質と併用してセパレータを用いることができる。セパレータにはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製微多孔膜やポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維からなる不織布等を用いることができる。
当該ポリマーシートに電解液を吸収・担持させる方法には特に制限なく、正極と負極間に挟んで電池素子を形成させたのちに電解液を注液する方法、もしくはポリマーシート上に電解液をキャストする方法、電解液中への含浸、電解液をポリマーシート上にスプレー塗工する等の方法等が挙げられる。
【0098】
本発明の高分子ゲル電解質に用いる網目状ポリマーとしては、多分岐ポリマー中の前記Aは、前記繰り返し単位(I)と、繰り返し(II)との重量比が、30/70〜60/40の範囲であり、GPC−MALLSによる網目状ポリマーの重量平均分子量は10,0000〜2,000,000のものが好ましい。
網目状ポリマーは、分子量が制御され、狭分散で、分子間架橋構造を有するものであることが好ましい。このような高分子固体電解質は良好な電解液保持性と高いイオン伝導度、そして高いゲル膜強度を有する。
【0099】
網目状ポリマーシートに吸収・担持させる電解液としては、極性有機溶媒に電解質塩を溶解したものが好適に用いられる。
使用する有機溶媒はリチウム二次電池に一般用いられている炭素数10以下の極性有機溶媒であれば特に限定はしない。
例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、ビス(2−エトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホキシド:スルホラン、1,3−プロパンスルホン、1,4−ブタンスルホン、アセトニトリル、プロピオンニトリル等を挙げることができる。
これらの極性有機溶媒は単独で用いても、2種類以上混合してもよい。
【0100】
前記の有機溶媒に溶解させる電解質塩としては、特に制約されず、電荷でキャリアーとしたいイオンを含んだ電解質を用いればよいが、上記極性有機溶媒中での解離定数が大きいことが望ましく、アルカリ金属塩、(CHNBF等の4級アンモニウム塩、(CHPBF等の4級ホスホニウム塩、AgClO等の遷移金属塩あるいは塩酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩又は遷移金属塩の使用がより好ましく、アルカリ金属塩がさらに好ましい。
【0101】
アルカリ金属塩の具体例としては、LiCFSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiC(CH)(SOCF、LiCH(SOCF、LiCH(SOCF)、LiCSO、LiN(SO、LiN(SOCF)、LiB(SOCF、LiBC、LiPF、LiSbF、LiClO、LiCl、LiI、LiBF、LiSCN、LiAsF、NaCFSO、NaPF、NaClO、NaI、NaBF、NaAsF、KCFSO、KPF、KI、LiCFCO、NaClO、NaSCN、KBF、KPF、Mg(ClO、Mg(BF等が挙げられ、これら電解質塩は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、リチウム塩が特に好ましい。
また、これらは混合して用いても構わない。溶解する電解質塩の濃度としては、通常0.1モル/L〜3モル/L、特に0.5モル/L〜1.5モル/Lの範囲が好ましい。
【0102】
また、本発明の高分子ゲル電解質は、自立膜が形成できる程度の優れた機械強度を有し、−20〜60℃の広い温度範囲にわたり優れたイオン伝導度を有する。本発明の高分子ゲル電解質の−20〜60℃でのイオン伝導度は、通常、1.0×10−2(S/cm)〜1.0×10−4(S/cm)である。
【0103】
本発明の高分子ゲル電解質を電池に使用する場合は、例えば、網目状ポリマーシートを電極間に組み込み電解液を注液する方法;電極上に先に網目状ポリマーシートと電解液を、ロールコーター法、カーテンコーター法、スピンコート法、ディップ法、キャスト法等の各種手段により電極上にて前記高分子ゲル電解質を成膜し、さらに、もう一方の電極を配置する方法;網目状ポリマーに電解液を吸収・担持させた高分子ゲル電解質作成した後に電極間に挟むこと等により製造することができる。
【0104】
本発明の高分子固体電解質を使用する電池は、耐電圧が4.2V以上、好ましくは4.5V以上である。室温又は高温において単に4.5V耐電圧性を有するだけでなく、同時に高い導電性を示し、充放電試験において良好な特性が保持される実用性の高い電池である。具体的には、30℃でイオン導電率:10−3S/cm以上、好ましくは10℃で導電率:10−3S/cm以上のイオン導電率を有する。耐電圧は、+5V安定性試験によって測定することができる。
【0105】
本発明の高分子ゲル電解質を使用する電池は、重量エネルギー密度が100Wh/kg以上、好ましくは150Wh/kg以上、又は体積容量エネルギー密度が350Wh/kg以上、好ましくは370Wh/kg以上のエネルギー密度を有し、該エネルギー密度を有する高分子ゲル電解質からなる、高エネルギー密度を有する高分子ゲル電解質電池である。
【0106】
得られる高分子ゲル電解質を使用する電池は、例えば、ノートパソコン、携帯電話、コードレスフォン機、電子手帳、電卓、液晶テレビ、電気シェーバー、電動工具、電子翻訳機、音声入力器、メモリーカード、バックアップ電源、ラジオ、ヘッドホンステレオ、ナビゲーションシステム等の機器用の電源や、冷蔵庫、エアコン、テレビ、温水器、オーブン電子レンジ、食器洗い器、洗濯機、ゲーム機器、照明機器、玩具、センサー機器、アクティブICカード、RF−ICタグ、医療機器、自動車、電動カート、ロボット、衛星用電力システム、電力貯蔵システム等の電力供給源として使用することができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。なお、分子量分布の分析は、GPC−MALLS(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー多角度光散乱検出法)により行った。
【0108】
I 多分岐ポリマーの合成
(合成例1)
1 マクロ開始剤の合成
窒素置換した5000mL四つ口フラスコに、脱水テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)290g、脱水トルエン 2675g、DPE−(m−OTHP)2:(1,1-bis[3-(tetrahydropyran-2-yloxy)methyl phenyl]ethylene)) 28.8g(70mmol)を加えて撹拌下反応系を−40℃に保持した。反応系にn−ブチルリチウム/ヘキサン1.6mol/L溶液 28.7g(70mmol)を加え、30分間撹拌した。その後、反応系にスチレン 483.5g(4642mmol)を加えて重合を行った。滴下が終了して40分後にサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーにより重合完結を確認した。この反応系内に脱水THF 100mLに溶解させた1,1,2,2tetrakis(4-ethoxycarbonylphenyl)ethane 4.1g(6.6mmol)を添加し、30分反応を継続した後、メタノールを112g加えて反応を停止させた。反応液に35%塩酸を37g仕込み、50℃で3時間反応させることにより、脱THP化を行った。NMR分析により、THP基が外れたことを確認後、重合液に対して10%の水と60%の酢酸エチルを加え、分液した。重合液に対して再度10%の水を加えて、水洗した。有機層を約50%ポリマー溶液になるまで濃縮後、トルエンを700g加え、再度濃縮し、約800gまで濃縮した。その中に、脱水THF 1000g、トリエチルアミン 50mlを加えて、撹拌下反応系を10℃に冷却後、ブロモイソブチリルブロミド 43.3g(188mmol)を加え、滴下終了後、室温に戻して一晩撹拌を行った。ろ過によりTEA臭酸塩を除去後、THF 800g、メタノール 1400gを仕込み、一晩静置した。抜き出した下層を大量のメタノール中に投じてポリマーを析出させ、ろ過・洗浄した。真空下50℃で5時間乾燥させることにより、白色粉末状のポリマー462gを得た。
このポリマー溶液をGPCにより分析したところ、分子量Mn=46300、分散度Mw/Mn=1.03の単峰性ポリマーであった。また、GPC−MALLSで測定したところ、重量平均分子量Mw=91300であった。
【0109】
2 スター型ポリマーの合成
5Lフラスコに、先に合成したマクロ開始剤 264g(3mmol)、ブレンマーPME−1000(日油社製) 573g(0.51mol)、ヒドロキシエチルメタクリレート 43g(0.33mol)、トルエン 2640gを仕込み、均一に溶解した。脱気し、窒素置換操作を3回繰り返した後、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム 4.6g(4.8mmol)を加えた。あらかじめ80℃に加温しておいたバスにフラスコを入れた後、トリエチルアミン 3.6g(19mmol)を加え、270分間熟成した。室温に冷却後、反応液をカラムにかけ、金属錯体と未反応モノマーを除去した。溶媒を留去後、50℃で24時間真空乾燥することにより、黄色粘性物550gを得た。このポリマーをGPC−MALLSで測定したところ、重量平均分子量Mw=173400であった。また、NMRより、PEO含有量は44%であった。
【0110】
(合成比較例1) リニアーポリマーの合成
1 マクロ開始剤の合成
1Lフラスコに、ブレンマーPME−1000 90g(81mmol)、ヒドロキシエチルメタクリレート 10g(77mmol)、トルエン 300gを仕込み、均一に溶解した。脱気し、窒素置換操作を3回繰り返した後、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム 0.48g(0.5mmol)、2,2−ジクロロアセトフェノン 0.19g(1mmol)を加えた。あらかじめ80℃に加温しておいたバスにフラスコを入れた後、ジブチルアミン 0.26g(2mmol)を加え、45時間熟成した。室温に冷却後、反応液をカラムにかけ、金属錯体と未反応モノマーを除去した。溶媒を留去後、50℃で24時間真空乾燥することにより、緑色粘性物59gを得た。このポリマーをGPC−MALLSで測定したところ、重量平均分子量Mw=154500であった。
【0111】
2 リニア型ポリマーの合成
500mLフラスコに、先に合成したマクロ開始剤 28g(0.19mmol)、スチレン 84g(806mol)、トルエン 112gを仕込み、均一に溶解した。脱気し、窒素置換操作を3回繰り返した後、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム 0.1g(0.1mmol)を加えた。あらかじめ100℃に加温しておいたバスにフラスコを入れた後、ジブチルアミン 0.05g(0.4mmol)を加え、28時間熟成した。室温に冷却後、反応液をカラムにかけ、金属錯体と未反応モノマーを除去した。溶媒を留去後、THFで希釈し、大量の冷ヘキサンで再沈した。室温で24時間真空乾燥することにより、白色ポリマー41gを得た。このポリマーをGPC−MALLSで測定したところ、重量平均分子量Mw=344900であった。また、NMRより、PEO含有量は54%であった。
【0112】
II 網目状ポリマー膜の作製
(実施例1)
合成例1において得られたPEO含有量42wt%のスター型ポリマーを、固形分濃度が10wt%になるようにDMC(ジメトキシカルボネート)に溶解させ均一な溶液を調製した。次に、この溶液20mlに、3官能脂肪族架橋剤デュラネート(登録商標)(ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体;品名24A100(旭化成ケミカルズ)、NCO:23.4wt%)175mg(スター型ポリマーが有する水酸基に対して当量分)添加し、さらに触媒としてジブチルスズジラウレート0.6mgを添加した。
得られたポリマー架橋溶液をポリテトラフルオロチレン製のシート基材上にキャストし、70℃で1時間、続けて100℃で3時間の加熱真空乾燥により、膜厚100〜200μmのポリマー組成物(1)を調製した。
【0113】
(実施例2)
合成例1で得たPEO含有量42wt%のスター型ポリマー20mlに対し、架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネート(2官能脂肪族架橋剤)81mg、ジブチルスズジラウレート0.6mgを用いて上記と同様の調製を行うことでポリマー組成物(2)を得た。
【0114】
(実施例3)
PEO含有量42wt%のスター型ポリマー20mlに対し、架橋剤としてトリレンジイソシアネート(2官能芳香族架橋剤)85mgを用いて上記と同様の調製を行うことでポリマー組成物(3)を得た。触媒としてジブチルスズジラウレートは使用しなかった。
【0115】
(比較例)
合成比較例1で得たPEO含有量39wt%のリニア型ポリマーについて、上記実施例と同様に固形分濃度が10wt%ポリマーDMC溶液を調製した。この溶液20mlに、架橋剤としてトリレンジイソシアネート66mgを用いて同様の調製を行い、架橋型ポリマーを得た。触媒としてジブチルスズジラウレートは使用しなかった。
得られたポリマー架橋溶液をポリテトラフルオロチレン製のシート基材上にキャストし、70℃で1時間、続けて100℃で3時間の加熱真空乾燥により、膜厚100〜200μmのポリマー電解質組成物(4)を調製した。
【0116】
III ポリマーゲル電解質膜の作製
(実施例4)
アルゴン雰囲気下において、上記ポリマー組成物(1)、(2)、(3)をシート基材よりはがし、それぞれ電解液中に浸漬させることで、ポリマー膜は電解液を担持し目的とするポリマーゲル電解質膜(1)、(2)、(3)を得た。電解液としては、エチレンカーボネート:ジエチレンカーボネート=1:1(容量比)の非水溶媒にLiPFが1mol/L濃度のものを使用した。
ポリマーゲル電解質膜(1)の重量は、電解液浸漬前に対しゲル膜形成時は3.6倍に増え、このときポリマーと担持する電解液の組成比は28:72(重量比)であった。
ポリマーゲル電解質膜(2)の重量は、電解液浸漬前に対しゲル膜形成時は5.0倍に増え、このときポリマーと担持する電解液の組成比は20:80(重量比)であった。
ポリマーゲル電解質膜(3)の重量は、電解液浸漬前に対しゲル膜形成時は3.3倍に増え、このときポリマーと担持する電解液の組成比は31:69(重量比)であった。
【0117】
得られたポリマーゲル電解質は、いずれも自立膜として使用可能であり、以下のポリマーゲル物性評価を行うことができた。
【0118】
(比較例2)
アルゴン雰囲気下において、上記ポリマー電解質組成物(4)をシート基材よりはがし、電解液中に浸漬させたところ、電解液を担持し自立膜として使用可能なゲル膜は得られなかった。
【0119】
(比較例3)
アルゴン雰囲気下、MMA(メタクリル酸メチル):EDMA(エチレングリコールジメタクリレート):AIBN(アゾビスイソブチロニトリル):電解液=25.4:1.3:0.5:72.8(wt%:wt%)の割合で混ぜ、参考文献に従い、均一プレゲルポリマー溶液を調整した。2枚のガラス板の間に、スペーサーとしてシリコン板(500μm)を挟み、その間にプレゲルポリマー液を加えた。密閉瓶中にプレポリマー液を含むガラス板(シャーレ)を入れて栓をし、オーブンにて80℃で1時間加熱を行うことでPMMAゲル電解質膜を得た。
PMMAゲル電解質膜は自立膜として使用可能であり、以下のポリマーゲル物性評価を行うことができた。
(参考文献: S. Kuwabata and M. Tomiyori, Journal of The Electrochemical Society, 149 (8) A988-A994 (2002))
【0120】
(ポリマーゲル電解質の物性評価)
得られたポリマーゲル電解質の体積膨潤率、イオン導電率、膜強度、そして電気的安定性の測定を行った。以下に試験方法を記す。
1)体積膨潤率
試験片としてポリマーゲル電解質組成物を2cm各にくり貫いたものを用いた。電解液に浸漬させる前のポリマーゲル電解質組成物と、電解液に浸漬させ形成したポリマーゲル電解質の縦・横サイズ(X,Y)と面積をデジタルマイクロスコープ(VHX−900,(株)キーエンス製)により読み取り、サイズ変化率、面積変化率を算出した。膜厚方向(Z)のサイズ変化は膜厚計にて計測した。
得られたサイズと面積から体積を算出し、電解液浸漬前後での体積変化から体積膨潤率を算出した。
結果を表1にゲル組成とともに示す。
【0121】
【表1】

【0122】
ポリマーゲル電解質膜(1)は、浸漬前と比べ、サイズとして1.5倍すべての方向に等しく、すなわち等方的に膨潤した。面積として2.2倍、体積として3.3倍膨潤した。
また、ポリマーゲル電解質膜(2)、(3)についても等方的に膨潤し、それぞれ、体積として3.9倍、2.9倍膨潤した。
【0123】
2)イオン導電率
ポリマーゲル電解質を直径1cmφの白金電極で挟み、周波数100〜10MHzの範囲でインピーダンスアナライザー(Solartron−1260型、(株)東陽テクニカ)を用いて複素インピーダンス解析によりイオン導電率を測定した。結果をゲル組成とともに表.2に、イオン導電率のグラフを図1に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
図1の結果からわかるとおり、いずれも比較例のPMMAと比べて良好なイオン導電率を示した。ゲル電解質膜の導電率は担持する電解液量に依存し、特に、電解液担持量の多いポリマーゲル電解質膜(2)が高いイオン導電率を示した。さらに図1からは−20℃の低温においてもポリマーゲル電解質は、イオン導電率10−3S/cmを超える良好な値を示した。
【0126】
3) 膜強度
ポリマーゲルから引張り試験片(10mm×30mm、膜厚200μm)を作成し、25℃における20mm/minの速度にて卓上形精密万能試験機(オートグラフAGS−J、(株)島津製作所)を用いて引張り試験を行った。膜強度測定結果には、試験片が破断した破断応力を用い、表3に示す。
表3の結果からわかるとおり、いずれも比較例のPMMAと比べて優れた膜強度を示した。ゲル電解質膜の導電率は担持する電解液量に依存し、特に、電解液担持量が適当量のポリマーゲル電解質膜(1)が高い膜強度を示した。
【0127】
【表3】

【0128】
4)電気的安定性試験
白金を作用極、リチウム金属を対極・参照極として、ポリマーゲル電解質を挟み試験セルを作成した。
この試験セルの自然電位(開回路電圧)が安定した後、自然電位をスタートとし、25℃にて+4.5V〜+2V(vs.Li/Li+)の範囲でサイクリックボルタンメトリー測定(CV測定)をオートマチック ポラリゼーションシステム(HSV−110、北斗電工(株))を用いて行った。スイープ速度:1.0mV/secで行い、CV曲線を得た。特に、ポリマーゲル電解質膜(1)、(2) については、副反応にともなう電流値の上昇は観察されず、良好な電気的安定性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式:X〔B−Y(A)n1n2
(式中、Aは、式(I)
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、RとRは結合して環を形成してもよい。R4a及びR4bはそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のアシル基または炭素数3〜20のトリ置換シリル基を表し、mは1〜100のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、R4a同士及びR4b同士は、同一であっても異なっていてもよい。)で表わされる繰り返し単位、及び、式(II)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、RとRは結合して環を形成してもよく、Rは、水素原子;炭素数1〜10の炭化水素基;水酸基;炭素数1〜10の炭化水素オキシ基;カルボキシル基;酸無水物基;アミノ基;エステル基;又は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機基を表し、Rは、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機基を表す。)で表わされる繰り返し単位を含むランダム共重合体を表し、
Bは式(III)
【化3】

(式中、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R13はアリール基またはヘテロアリール基を表す。)で表わされる繰り返し単位を含む重合体を表す。
XはBと3以上の結合手を有する有機基を表し、Yは活性ハロゲン原子を有することができる構造の官能基を表す。
n1は1又は2を、n2は2〜16のいずれかの整数を表す。)
で表される多分岐ポリマーと架橋剤とを反応して得られる網目状ポリマー。
【請求項2】
次式:X〔B−Y(A)n1n2で表される多分岐ポリマーが、式(VIII)
【化4】

(式中、Zは(CH)q又はp−フェニレン基を表し、qは0〜3の整数を表し、各Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基を表し、各n3は、それぞれ独立して0〜3のいずれかの整数を表し、各n4は、それぞれ独立して1〜3のいずれかの整数を表す。
A、B、Y及びn1は請求項1における定義と同じであり、各A、B、Y及びn1は、それぞれ、同一でも相異なっていてもよい。)
で表される化合物である請求項1に記載の網目状ポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の網目状ポリマー及び電解液を含有することを特徴とする高分子ゲル電解質。

【図1】
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【公開番号】特開2011−178856(P2011−178856A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43198(P2010−43198)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】