説明

緊急自動車

【課題】消防用機能部品がコンパクト且つ効率的に収容されるボディを有し、処置室の清潔が確保される緊急自動車の提供。
【解決手段】この緊急自動車10は、救急機能部R及び消防機能部Fを備える。救急機能部Rはボディ12の前方部分に集約され、消防機能部Fはボディ12の後方部分に集約されている。ボディ12は、扉85、86を備えている。この扉85、86は、消防機能部Fに設けられている。扉85、86は、消防機能部Fを露出させる開姿勢と消防機能部Fを覆う閉姿勢との間で姿勢変化する。扉85、86の内壁面111に消防用具が着脱自在に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消防用自動車及び救急用自動車の機能を備える緊急自動車の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消火用流体を吐出する消防車としての機能と、救急患者を収容し応急処置が可能な処置室を備えた救急車としての機能とを併せ持つ緊急自動車が従来から提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。消防機能と救急機能とを備えた従来の緊急自動車では、一台の車両が消防活動にも救急活動にも活躍する。
【0003】
【特許文献1】特開2004−50976公報
【特許文献2】特開2004−49572公報
【特許文献3】特開2004−50977公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の緊急自動車では、患者を収容する処置室が車両の中央部に設けられ、消火用流体を吐出するポンプその他の消防用機能部品ないし要素は、車両の後部に集中配置されていた。この配置は、単一の車両が消防機能と救急機能とを具備するうえできわめて効率的なものであるが、清潔が維持されなけらればならない処置室と、そのような要請がない消防用機能部品とが隣り合わせになってしまうという不都合があった。もっとも、かかる不都合は、処置室が不衛生となることを意味するものではないが、救急機能を有する緊急自動車は清潔感のある外観であることが重要であり、そのための改良が要望されていた。
【0005】
緊急自動車の外観の改良は、緊急自動車のボディ構造の改良にほかならない。消防機能が維持されるためには、消防用機能部品がコンパクト且つ効率的にボディに収容配置されなければならない。したがって、処置室の清潔が維持されるために、消防用機能部品がコンパクト且つ効率的に収容されるボディが設計される必要がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、消防用機能部品がコンパクト且つ効率的に収容されるボディを有し、処置室の清潔が確保される緊急自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的が達成されるため、本発明に係る緊急自動車は、救命救急活動を支援する救急機能部がボディの前方部に設けられると共に消火活動を支援する消防機能部がボディの後方部に設けられた緊急自動車であって、上記ボディは、上記消防機能部を露出させる開姿勢と上記消防機能部を覆い且つ当該ボディの表面を形成する閉姿勢との間で姿勢変化自在に設けられたカバー扉を有し、当該開閉式カバー扉の内壁面に消火活動に用いられる道具が着脱自在に保持されていることを特徴とするものである。
【0008】
この構成によれば、カバー扉の内壁面に消火活動に用いられる道具が保持されているので、カバー扉が閉姿勢へと姿勢変化することによって、これら消火活動に用いられる道具は外部から視認されることはない。しかも、カバー扉が閉姿勢へと姿勢変化することによって、消防機能部が当該カバー扉によって覆われ、且つ当該カバー扉がボディの表面を形成する。つまり、カバー扉が閉じられると、消防機能部の内部が外部から視認されることはない。一方、カバー扉が開かれると、消防機能部及び消火活動に用いられる道具が露出するので、消防隊員は、迅速な消火活動を行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カバー扉が閉じられることによって消防機能部及び消火活動に用いられる道具が外部から視認されることがないので、救急機能部、特に救急患者が搬入される処置室の清潔が確保される。また、消火活動に用いられる道具(消防用機能部品)がカバー扉に保持されるから、当該道具がコンパクトに収容され得ると共に、カバー扉が開かれることによって当該道具及び消防機能部が露出するので、円滑な消火活動が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0011】
(1) 本実施形態に係る緊急自動車の全体構成と特徴点
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の正面図である。同図は、この緊急自動車10の左側面を表している。図2は、この緊急自動車の裏面図である。同図は、この緊急自動車10の右側面を表している。
【0013】
この緊急自動車10は、車両本体11と、これに架装されたボディ12とを備えている。この緊急自動車10は消防機能部F及び救急機能部Rを有している。消防機能部Fは、火事現場において消防隊員の消火活動を支援する。この消防機能Fは、ボディ12の後方部に集約されている。一方、救急機能Rは、救急隊員の救命救急活動を支援する。この救急機能Rは、ボディ12の前方部に集約されている。すなわち、ボディ12の後方部には図示されていない消防ポンプ、ホースカー52等が集中して積載されており、また、ボディ12の前方部には、患者用ベッド17その他の救命器具が集中して配備されている。ボディ12は、例えば繊維強化プラスチック(FRP)等から構成され、ボディ12の前方部と後方部との境界に隔壁50が設けられている。この隔壁50も繊維強化プラスチック(FRP)等から構成され得る。
【0014】
車両本体11は、車体フレーム13と、これに設けられたキャビン14とを備える。車両本体11としては、普通小型トラック(いわゆる2トン車級)用のものが採用され得る。キャビン14は、この緊急自動車10の運転室を構成している。車体フレーム13には、図示されていないエンジン、走行用駆動装置、救急用補器駆動装置、消防用補器駆動装置等が取り付けられている。
【0015】
ボディ12は、箱状に形成され、図1及び図2が示すようにキャビン14の上部から後方に延びている。ボディ12の最前部45(キャビン14の上部)には、赤色回転灯等が内装されている。ボディ12の中央部には、救急患者が搬入される処置室16が設けられている。図1が示すように、ボディ12の左側に、この処置室16へ連通する扉15が設けられている。この処置室16及び扉15の構造については後に詳述される。
【0016】
ボディ12の後方部分、具体的には上記隔壁50から後方部分は、上記消防機能部Fの外板部材を構成している。図1及び図2が示すように、ボディ12の後方上部に赤色回転灯55及び表示灯84が設けられている。表示灯84は、当該緊急自動車の識別標識として機能し、例えば当該緊急自動車の所属団体等が表記される。ボディ12の後方部には扉85、86(カバー扉)が設けられている。
【0017】
本実施形態に係る緊急自動車の特徴とするところは、この扉85、86の構造である。すなわち、これら扉85、86はいわゆる観音開き式の扉であり、この扉85、86が開放されることによって上記消防ポンプ等を含む消防機能部Fが露出すると共に、この扉85、86の内側に消防用具(消火活動に用いられる道具)が整理整頓されており、扉85、86が閉じられることによって消防用具を含む消防機能部Fが当該扉85、86に覆われるようになっている。
【0018】
(2) ボディ構造及び消防機能部
【0019】
図3は、図1におけるIII−III断面図である。同図は、上記消防機能部Fを区画するボディ12の形状を詳細に表している。ボディ12は、種々の補強骨87〜93を備えている。これら補強骨87〜93は、同図が示すように左右対称に配置されており、FRPからなるボディ12を確実に支持固定し、構造物としてのボディ12全体の剛性を確保している。補強骨92、93の上に壁94が形成されている。この壁94もFRPからなる。同図では図示されていないが、一対の補強骨92間に床が形成されている。この床もFRPから構成され得る。そして、この床に上記ホースカー52が載置されており、このホースカー52は、紙面に垂直な方向に引出自在となっている。なお、上記壁94に連続して壁95が形成されている。この壁95は、ホースカー52が収容されるホースカー収容室96を区画形成している。
【0020】
図1、図2及び図3が示すように、ボディ12の一部を構成するサイドスカート97は、ステップを兼ねている。具体的には、このサイドスカート97は、その下端部98が上記補強骨93に回動自在に設けられている。サイドスカート97は、例えば鋼板等により構成され得るが、FRPにより構成されていてもよい。このサイドスカート97は、常時は閉じられることによりボディ12の一部を構成するが、図3が示すように展開されることによって、消防隊員は、このサイドスカート97上に乗り、種々の作業を行うことができる。
【0021】
図1及び図2が示すように、上記扉85、86にノブ54が設けられている。消防隊員がこのノブ54を操作することによって左右の扉85、86が開閉するようになっている。図4は、図1における要部拡大図であって、消防機能部Fの左側の扉85、86が開放された状態が示されている。また、図5は、図2における要部拡大図であって、消防機能部Fの右側の扉85、86が開放された状態が示されている。このように、扉85、86は、図1及び図2が示す閉姿勢と、図4及び図5が示す開姿勢との間で自在に姿勢変化が可能である。なお、これら図4及び図5では、上記サイドスカート97の図示が省略されている。
【0022】
図4が示すように、扉85、86が開かれると消防機能部Fが露出する。具体的には、扉85、86の内側に配置された内側パネル99が露出する。この内側パネル99が設けられることにより、当該内側パネル99と扉85、86との間に、後述される吸水管103等が収容される空間116が区画されている。内側パネル99には、吸水口100、吐出口101及び中継口102が設けられている。吸水口100に吸水管103が連結されている。吸水管103は、同図が示すように予め巻回されてコンパクトに収納されている。吸水口100は、図示されていない消防ポンプの吸水口に接続されている。消防ポンプは、通常、内側パネルのさらに内側に配置されており、エンジンを駆動源として駆動される。吐出口101は、消防ポンプの吐出口に接続されている。吐出口101には、通常、放水用ホースが接続される。本実施形態では吐出口101は2つ設けられているが、吐出口101の数は特に限定されるものではない。
【0023】
消防ポンプが駆動されると、吸水管103を介して水源から水が吸水され、吐出口101から高圧の水が吐出される。この高圧の水は上記放水用ホースを介して所定の火事現場まで導かれ、放水される。また、上記内側パネル99には中継口102が設けられているから、他の消防自動車等から送給された水を当該緊急自動車10が中継して所定の火事現場まで導かれる。なお、上記吸水口100、吐出口101及び中継口102には、それぞれ開閉レバー104が設けられている。この開閉レバーは、吸水口100、吐出口101及び中継口102を開閉することができる。
【0024】
上記内側パネル99には圧力表示装置105が設けられている。この圧力表示装置105は、送水圧計106と連成計107とを備えている。さらに内側パネル99には、消防ポンプのメンテナンスの際に使用されるグリスコック108、非常用操作盤109及びバイパスバルブ110が設けられている。なお、図5が示すように、ボディ12の右側にも内側パネル99が設けられており、この内側パネル99に、吸水口100、吐出口101、中継口102、圧力表示装置105、グリスコック108、非常用操作盤109及びバイパスバルブ110が設けられている。
【0025】
図4が示すように、扉85の内壁面111に消防用具が取り付けられている。消防用具は、典型的にはバルブキー112、防火水槽開閉金具113及び消火栓キー114である。ただし、消防用具がこれら道具に限定されるものではないことは勿論である。これら消防用具は、扉85の内側に例えばブラケット等を介して確実に保持されている。ただし、これら消防用具は、使用時には容易に取り外されるように扉85に保持されていることは勿論である。
【0026】
また、扉86の内壁面111には、スタンドパイプ115が取り付けられている。このスタンドパイプ115も消防道具の一つであって、他の消防道具と同様に扉86の内側に例えばブラケット等を介して確実に保持され、使用時には容易に取り外されるようになっっている。
【0027】
図5が示すように、扉85、86の内壁面111にも消防用具が取り付けられている。この消防用具は、本実施形態ではヘルメット117である。ただし、消防用具がヘルメットに限定されるものではないことは勿論である。これらヘルメット117は、扉85、86の内側に例えばブラケット等を介して確実に保持されている。ただし、これらヘルメット117は、使用時には容易に取り外されるように扉85、86に保持されており、使用時には容易に取り外されるようになっっている。
【0028】
図6は、図4におけるVI−矢視図であり、扉85、86の開閉構造を示している。同図では、閉じられた姿勢の扉85、86と開かれた姿勢の扉85、86とが同時に表示されている。同図が示すように、扉85、86は、ボディ12に設けられた補強骨118、119に取り付けられている。扉85、86は、ヒンジ120、121を介して回動自在となっており、前述の開姿勢と閉姿勢との間で姿勢変化する。扉85、86には、各扉85、86の開姿勢と閉姿勢とを規定する開閉リンク122、123が連結されている。開閉リンク122は、2つのロッド124、125を有する。ロッド125の一端部128が扉85に回動自在に連結され、ロッド125の他端がロッド124の他端部129に回動自在に連結されている。そして、このロッド124の一端部130は、ボディ12側に回動自在に連結されている。扉85が閉姿勢となったときは、これらロッド124、125は屈曲状態となり、扉85が開姿勢となったときは、ロッド124に対してロッド125が一直線上に並ぶ。
【0029】
開閉リンク123も2つのロッド124、125を有する。ロッド125の一端部131が扉86に回動自在に連結され、ロッド125の他端がロッド124の他端部132に回動自在に連結されている。そして、このロッド124の一端部133は、ボディ12側に回動自在に連結されている。扉86が閉姿勢となったときは、これらロッド124、125は屈曲状態となり、扉85が開姿勢となったときは、ロッド124に対してロッド125が一直線上に並ぶ。ただし、扉86に連結されているロッド124、125の両端部の相対的位置関係は、扉85に連結されているロッド124、125の両端部の相対的位置関係と同一ではない。すなわち、扉86に連結されたロッド124、125の両端部の相対的位置関係は、扉86が扉85よりもより回動角度が大きくなるように設定されている。これにより、緊急自動車10の後方に位置する扉86がより広く展開されることになるので、吸水管103を緊急自動車10の真後ろに延ばすことができるという利点がある。
【0030】
同図では図示されていないが、各扉85、86の内壁面111には、上記消防用具(バルブキー112、スタンドパイプ115等)を保持するためのブラケット等が取り付けられている。そして、各扉85、86が閉姿勢になると、前述の消防用具(バルブキー112、スタンドパイプ115等)は、図3が示すようにボディ12内に収容されるようになっている。
【0031】
図4及び図5が示すように、ボディ12の後面に後扉134が設けられている。この後扉134は、ボディ12の最後部に設けられた補強骨135にヒンジ136を介して回動自在に取り付けられている。後扉134は、ボディ12の後面の上半分を開閉する大きさに形成されており、把手137が操作されることによって開閉する。また、ボディ12の後面には、カバー136が取り付けられている。このカバー136も例えばFRPから構成され得る。カバー136は、ボディ12の後面に着脱自在に設けられている。カバー136は、ボディ12に対して嵌め合わせられるものであるのが好ましい。このカバー136が取り外され、且つ後扉134が開かれると、図3が示すように、ホースカー52が露出する。消防隊員は、この状態でホースカー52を容易に取り出すことができる。
【0032】
(3) ボディ構造及び救急機能部
【0033】
図7は、図1におけるVII−VII断面図である。同図は、閉じられた姿勢の扉15と開かれた姿勢の扉15とを同時に図示している。同図が示すように、上記扉15は上下方向に展開するウイング式開閉扉であって、救急隊員がノブ48を操作することによって開閉するようになっている。この扉15の構造については、後に詳述される。また、図2が示すように、ボディ12の右側に、スライド式扉19が設けられている。このスライド式扉19が開放されることによって、救急隊員は、ボディ12の右側から上記処置室16に進退することができる。このスライド式扉19もノブ49を備えており、救急隊員がこのノブ49を操作することによってスライド式扉19が開閉するようになっている。なお、上記扉15及びスライド式扉19は、それぞれ窓46、47を有している。
【0034】
図7が示すように、ボディ12の側面に処置室出入口57が設けられている。救急患者及び救急隊員は、この処置室出入口57を通って処置室16に出入りする。なお、通常、救急患者は、患者用ベッド17に載せられて処置室16に搬入される。この患者用ベッド17は、後述されるベッド支持機構18によって支持され、処置室16内に案内されるようになっている。上記扉15は、上記処置室出入口57を開閉するようにボディ12に開閉自在に取り付けられている。
【0035】
扉15は、上部扉58と下部扉59とを備えている。上部扉58と下部扉59とは連動して作動するが、上部扉58は処置室出入口57の上部を開閉し、下部扉59は処理室出入口57の下部を開閉する。ボディ12は、その上面部60(具体的には、ボディ12の天井角部)にフレーム61、62を備えている。すなわち、このフレーム61、62に外板部材としてのFRPが張り付けられている。各フレーム61、62は、例えば構造用炭素鋼等が採用され得る。
【0036】
図8は、図7の要部拡大図であって、上部扉58とボディ12との連結構造を詳細に示している。上部扉58は、フレーム63と、これに設けられた外板部材64とを備えている。このフレーム63も構造用炭素鋼からなり、外板部材64はFRPから構成され得る。同図が示すように、上部扉58は、ヒンジ65(第1ヒンジ機構)を介してボディ12に取り付けられている。具体的には、上部扉58は、その上縁が処置室出入口57の上縁に沿うように配置されており、上記ヒンジ65を中心にして回動自在となっている。
【0037】
図7が示すように、この上部扉58は、ダンパ66を備えている。このダンパ66は、チューブ67及びロッド68を有し、ロッド68は、チューブ67から常時突出するようにチューブ67内に組み付けられている。図8が示すように、チューブ67の端部69は、上記フレーム61に回動自在に連結されている。チューブ67とフレーム61とは、例えばピンにより結合されている。また、上記ロッド68の端部70は、上記フレーム63に対して回動自在に連結されている。このロッド68が連結される部分は、板材等により補強がなされていることが望ましい。チューブ67とフレーム63とは、例えばピンにより結合されている。したがって、上部扉58は、ダンパ66によって開く方向に常時付勢されていることになる。
【0038】
下部扉59は、フレーム72と、これに設けられた外板部材73とを備えている。フレーム72は構造用炭素鋼からなり、外板部材73はFRPから構成され得る。同図が示すように、下部扉59は、ヒンジ74(第2ヒンジ機構)を介して上部扉58に取り付けられている。具体的には、下部扉59は、その上縁75が上部扉58の下縁76に沿うように配置されており、上記ヒンジ74を中心にして回動自在となっている。
【0039】
下部扉59は、平衡ロッド71を備えている。この平衡ロッド71は、下部扉59の所定部と、上記フレーム61とを連結している。平衡ロッド71の両端部は、それぞれ下部扉59のフレーム72及び上記フレーム61に回動自在に連結されている。下部扉59と平衡ロッド71との連結部分には、補強部材81が設けられていることが望ましい。この補強部材81は、図7では明確に図示されていないが、下部扉59のフレーム72に固定されている。平衡ロッド71と下部扉59及びフレーム61との連結構造としては、例えばピン結合が採用され得る。したがって、上部扉58が開閉されると、これに連動して下部扉59も上記ヒンジ74を中心に回動されるが、平衡ロッド71によって下部扉59の姿勢は、常時垂下するように矯正されることになる。
【0040】
換言すれば、上記ダンパ66及び平衡ロッド71は、扉15が開閉される際に扉15の姿勢を変化させるリンク機構77を構成している。すなわち、扉15がボディ12に対して閉じられ、上記処置室出入口57を閉じる閉じ姿勢と、上記処置室出入口57を開く開放姿勢との間で当該扉15は自在に姿勢変化する。
【0041】
さらに詳しくは、開放姿勢となっている扉15において(図7参照)、下部扉59が下方へ引っ張られると、上部扉58がヒンジ65を中心にして左側へ回動する。上部扉58の回動角度に応じて下部扉59が回動するが、上記平衡ロッド71によって下部扉59は垂下した状態が維持される。したがって、上部扉58が回動することによって、上部扉58及び下部扉59が一直線上に並ぶこととなり、これにより、上記処置室出入口57が閉じられる。
【0042】
また、閉じ姿勢となっている扉15において(図7参照)、下部扉59が下方へ持ち上げられると、上部扉58がヒンジ65を中心にして右側へ回動する。上部扉58の回動角度に応じて下部扉59が回動するが、上記平衡ロッド71によって下部扉59は垂下した状態が維持される。したがって、上部扉58が回動することによって、下部扉59が上部扉58に対してL字状に屈曲することとなり、これにより、上記処置室出入口57が開かれる。本実施形態では、上記平衡ロッド71が設けられることにより、扉15が開放姿勢となったときに、下部扉59の高さH(下部扉59の下縁と地面との距離)は、1900mmとなる。この高さHは、上記平衡ロッド71の長さ及び両端の取付位置によって変化する。ただし、平衡ロッド71の長さ及び両端の取付位置は、上記高さHが1900mm以上、特に1950mm以上2100mm以下となるように設定されるのが好ましい。
【0043】
なお、下部扉59は、内側に収納箱82が設けられている。この収納箱82は、FRPや鋼板等により構成され得る。この収納箱82には、種々の救命救急用具が収納される。これにより、処置室16内での救命救急作業が円滑に行われる。
【0044】
また、図7が示すように、ボディ12の一部を構成するサイドスカート78は、ステップを兼ねている。具体的には、このサイドスカート78は、その下端部80が車体フレーム13側に設けられた取付フレーム79に回動自在に設けられている。この取付フレーム79は、上記補強骨93が兼ねる構造であってもよい。サイドスカート78は、例えば鋼板等により構成され得るが、FRPにより構成さえていてもよい。このサイドスカート78は、常時は閉じられることによりボディ12の一部を構成するが、同図が示すように展開されることによって、救急隊員は、このサイドスカート78上に乗り、種々の作業を行うことができる。
【0045】
図9は、上記ボディ12内に区画形成された処置室16の正面図である。図10及び図11は、それぞれ、この処置室16の平面図及び後面図である。なお、これら図9〜図11は、処置室16の構造を詳細に図示するため、ボディ12の隔壁50以後の部分の図示は省略されている。さらに、図12〜図14は、この処置室16の斜視図である。
【0046】
図9及び図11が示すように、この処置室16内の前後方向寸法Aは2640mm、幅方向(左右方向)寸法Bは1730mm、高さ方向(上下方向)寸法Cは1751mmに設定されている。もっとも、各寸法A、B、Cは、かかる寸法に限定されるものではなく、寸法Aについては、2500mm〜2850mm、寸法Bについては、1600mm〜1890mm、寸法Cについては、1600mm〜1900mmの範囲で決定され得る。より好ましくは、寸法Aについては、2600mm〜2850mm、寸法Bについては、1650mm〜1890mm、寸法Cについては、1650mm〜1850mmの範囲で決定され得る。処置室16内の寸法がこのように決定されることによる作用効果については、後述される。
【0047】
処置室16の内部レイアウトは、図12〜図14が示すとおりである。具体的には、上記扉15が設けられた側に患者用ベッド17が設けられている。この患者用ベッド17は、前述のベッド支持機構18(図7、図11参照)に支持されている。ベッド支持機構18は、スライド機構27を備えている。このスライド機構27は、患者用ベッド17を図11及び図7において左右にスライドさせることができる。
【0048】
ベッド支持機構18は、図7が示すように内側支持リンク28と、外側支持リンク29と、これらに連結されたスライドレール30とを備えている。一方、患者用ベッド17は、ベッド本体31と、これを支持するベース32とを備えている。このベース32は、スライドレール30の上に載置されている。本実施形態では、このスライドレール30は、一般に市販されているものが採用されている。
【0049】
内側支持リンク28及び外側支持リンク29はそれぞれ同一形状を呈し、それらの基端部33、34が車体フレーム13側に回動自在に連結されている。なお、本実施形態では、内側支持リンク28及び外側支持リンク29は、直接車体フレーム13に取り付けられておらず、図示されていないブラケット等を介して車体フレーム13側に連結されている。内側支持リンク28及び外側支持リンク29は、図示されていないモータ等によって駆動される。これにより、内側支持リンク28及び外側支持リンク29は、図11における二点鎖線が示す位置から実線が示す位置まで回動する。
【0050】
内側支持リンク28及び外側支持リンク29が、図11において実線によって示される位置まで回動されたときは、これら内側支持リンク28及び外側支持リンク29の先端部35、36は、上記ベース32の下面に当接する(図7参照)。これにより、ベース32が内側支持リンク28及び外側支持リンク29によって安定的に支持され、ベッド本体31は、水平状態が保たれる。
【0051】
図11〜図14が示すように、患者用ベッド17の側方(右側)に救急隊員が待機することができるスペース20(第1隊員スペース)が形成されている。救急隊員は、このスペース20内で患者を待機し、搬入された患者に対して迅速に救命行為を行うことができる。救急隊員は、前述のスライド扉19を開放することによって、このスペース20に容易に出入りすることができる。本実施形態では、このスペース20に、救急隊員用シート21が設置されている。この救急隊員用シート21は、折り畳み式であるのが好ましい。
【0052】
患者用ベッド17の前方にも救急隊員が待機することができるスペース22(第2隊員スペース)が形成されている。救急隊員は、このスペース22内で患者を待機し、搬入された患者に対して迅速に救命行為を行うことができる。本実施形態では、このスペース22に、救急隊員用シート23が設置されている。この救急隊員用シート23は、折り畳み式であるのが好ましい。なお、処置室16には、付添人用シート51が設けられている。この付添人用シート51も折り畳み式であることが望ましい。
【0053】
図10が示すように、患者用ベッド17の前方近傍、具体的には患者用ベッド17に横たわる救急患者の頭部の近くに、蘇生機材が集中配置されている。蘇生機材としては、酸素ボンベ37、心電図モニター38、吸引器その他の蘇生器具である。なお、この処置室16内には、スクープストレッチャー39、サブストレッチャー40、空気呼吸器41等も配置されている。なお、心電図モニター38は、同図が示すように回転可能に設けられているのが好ましい。これにより、救急隊員は、蘇生措置を施しながら心電図を見ることができる。
【0054】
図12〜図14が示すように、処置室16の前方には連通路24が設けられている。この連通路24は、上記キャビン14内に設けられた運転室と処置室16とを連通する。この連通路24に扉やカーテン等が設けられていてもよい。
【0055】
この緊急自動車10は、図示されていないエアコンディショナーを備えている。図12及び図14が示すように、処置室16の前方上部及び前方下部にそれぞれ空気吹出口25、26が設けられている。空気吹出口25は、エアコンディショナーが特にクーラーとして使用されるときの空気吹出口であり、空気吹出口26は、エアコンディショナーが特にヒーターとして使用されるときの空気吹出口である。このように各空気吹出口25、26が処置室16の前部に配置されていることから、エアコンディショナーが作動した場合には、処置室16内の空気は、前方から後方へ流れることになる。
【0056】
(4) 実施形態の作用効果
【0057】
本実施形態に係る緊急自動車10では、扉85、86の内壁面111にバルブキー112等の消防用具が保持されているので、扉85、86が閉姿勢となることによって、これら消防用具は外部から視認されることはない(図3参照)。しかも、扉85、86が閉姿勢へと姿勢変化することによって、消防機能部Fの全体が当該扉85、86によって覆われると共に扉85、86がボディ12の外表面を形成する。つまり、扉85、86が閉じられると、消防機能部Fの内部が外部から視認されることはない。一方、扉85、86が開かれると、消防機能部F及び消防用具が露出するので、消防隊員は、迅速な消火活動を行うことができる。
【0058】
このように、扉85、86が閉じられることによって消防機能部F及び消防用具が外部から視認されることがないので、救急機能部R、特に救急患者が搬入される処置室16の清潔が確保される。また、消防用具(消防用機能部品)が扉85、86に保持されるから、当該消防用具がコンパクトに収容され得ると共に、扉85、86が開かれることによって円滑な消火活動が実現される。
【0059】
また、本実施形態に係る緊急自動車10では、ボディ12の側面に扉15が設けられているから、図11が示すように、この扉15が開かれることによって救急患者Kは処置室16に搬入される。この扉15は二分割されており、上部扉58が上方に回動起立したときは、下部扉59は下方に倒伏するように回動する。すなわち、扉15は、下部扉59が下方に垂下するようにL字状に屈曲され、これにより、処置室出入口57が開放される。このように扉15がヒンジ65、74を介して屈折することにより、上記処置室出入口57が開閉されるので、仮に、処置室出入口57が大きく形成された場合であっても扉15はコンパクトに開かれる。つまり、扉15が大形であっても迅速且つコンパクトに開閉されるので、救急患者の搬入がスムーズに行われる。
【0060】
上記ヒンジ65は、上部扉58の上縁をボディ12の上面部60に支持する構造であるから、上記処置室出入口57がきわめて大きくなり得る。具体的には、処置室出入口57の上縁がボディ12の側面上縁と一致することも可能である。これにより、救急患者の処置室16への搬入が一層容易になる。
【0061】
特に、本実施形態では、上記扉15は、開放姿勢となったときでも下部扉59の下縁の高さHが1900mm以上となる。このため、救急隊員が頭部を扉15に衝突させることがないし、座位の救急患者Kもスムーズに処置室16に搬入される。
【0062】
さらに、この緊急自動車10では、処置室16の室内寸法が前述の範囲に設定されているから、救急隊員にとって救命作業をするために十分なスペースが確保される。すなわち、処置室16の室内寸法が上記範囲に設定されることにより、図11が示すように、救急隊員Mは、救急患者Kへの心臓マッサージや救命器具の設置等の作業を容易に行うことができる。しかも、処置室16の室内寸法が上記範囲に設定されるのであれば、緊急自動車10の車体寸法も大幅に増大することはなく、緊急自動車がコンパクトに設計され得るという利点がある。この利点は、緊急自動車としてはきわめて大きい。なぜなら、緊急自動車は、狭い路地でも進入することができるからである。
【0063】
また、上記処置室16は、緊急自動車10の運転室と連通されていることから、救急隊員Mは、運転室から直接に処置室16に移動することができる。これにより、救急隊員Mは、一層迅速な救命作業が可能である。
【0064】
さらに、上記処置室16内には、前述された位置に空気吹出口25、26が設けられていることから、処置室16の前後方向に空気の流れが発生する。具体的には、処置室16内の空気は、前方から後方へ、すなわち患者の頭部から足部へ流れる。これにより、仮に患者から異臭等が発生している場合であっても、処置室16は快適な状態に保たれる。その結果、救急隊員Mの救命作業に支障を来すことはない。
【0065】
加えて、この緊急自動車10では、患者用ベッド17の側方に上記スペース20が設けられているので、救急隊員Mが常時待機することができ、しかも必要なときに迅速な救命処置を行うことができる。特に処置室16に搬入された救急患者Kに対して心臓マッサージ等が迅速に行われる。また、上記患者用ベッド17の前方にスペース22が設けられているので、救急患者Kの頭部近傍に救急隊員Mが常時待機し且つ救命行為を行うことができる。特に処置室16に搬入された救急患者Kに対して人工呼吸等が迅速に行われる。したがって、救命作業がシステマチックに行われ、迅速で効果的な救命作業が実現される。
【0066】
上記処置室16内には、患者用ベッド17の前方近傍に蘇生機材が集中配置されているので、搬入された救急患者Kに対して蘇生機材が迅速に取り付けられる。したがって、一刻を争う蘇生措置が円滑に行われるという利点がある。
【0067】
上記患者用ベッド17は、上記スライド機構27によって処置室16内で左右方向にスライドされ得る。これにより、当該救急患者Kは、救急隊員Mが作業しやすい位置にベッドごと移動され、救急隊員Mは、一層迅速且つ円滑に救命作業を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、消防機能と救急機能とを備えた緊急自動車に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の正面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の裏面図である。
【図3】図3は、図1におけるIII−III断面図である。
【図4】図4は、図1における要部拡大図である。
【図5】図5は、図2における要部拡大図である。
【図6】図6は、図4におけるVI−矢視図である。
【図7】図7は、図1におけるVII−VII断面図である。
【図8】図8は、図7における要部拡大図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の正面図である。
【図10】図10は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の平面図である。
【図11】図11は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の後面図である。
【図12】図12は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の斜視図である。
【図13】図13は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の斜視図である。
【図14】図14は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
K・・・救急患者
M・・・救急隊員
10・・・緊急自動車
11・・・車両本体
12・・・ボディ
13・・・車体フレーム
14・・・キャビン
15・・・扉
16・・・処置室
17・・・患者用ベッド
18・・・ベッド支持機構
19・・・スライド機構
20・・・スペース
21・・・救急隊員用シート
22・・・スペース
23・・・救急隊員用シート
24・・・連通路
25・・・空気吹出口
26・・・空気吹出口
27・・・スライド機構
28・・・内側支持リンク
29・・・外側支持リンク
30・・・スライドレール
31・・・ベッド本体
32・・・ベース
33・・・基端部
34・・・基端部
35・・・先端部
36・・・先端部
37・・・酸素ボンベ
38・・・心電図モニター
39・・・スクープストレッチャー
40・・・サブストレッチャー
41・・・空気呼吸器
45・・・最前部
46・・・窓
47・・・窓
48・・・ノブ
49・・・ノブ
50・・・過気宇壁
51・・・付添人用シート
52・・・ホースカー
53・・・扉
54・・・ノブ
55・・・赤色回転灯
57・・・処置室出入口
58・・・上部扉
59・・・下部扉
60・・・上面部
61・・・フレーム
62・・・フレーム
63・・・フレーム
64・・・外板部材
65・・・ヒンジ
66・・・ダンパ
67・・・チューブ
68・・・ロッド
69・・・チューブの端部
70・・・ロッドの端部
71・・・平衡ロッド
72・・・フレーム
73・・・外板部材
74・・・ヒンジ
75・・・上縁
76・・・下縁
77・・・リンク機構
78・・・サイドスカート
79・・・取付フレーム
80・・・下端部
81・・・補強部材
82・・・収納箱
84・・・表示灯
85・・・扉
86・・・扉
87・・・補強骨
88・・・補強骨
89・・・補強骨
90・・・補強骨
91・・・補強骨
92・・・補強骨
93・・・補強骨
94・・・壁
95・・・壁
96・・・サイドカー収容室
97・・・サイドスカート
98・・・下端部
99・・・内側パネル
100・・・吸水口
101・・・吐出口
102・・・中継口
103・・・吸水管
104・・・開閉レバー
105・・・圧力表示装置
106・・・送水圧計
107・・・連成計
108・・・グリスコック
109・・・非常用操作盤
110・・・バイパスバルブ
111・・・内壁面
112・・・バルブキー
113・・・防火水槽開閉金具
114・・・消火栓キー
115・・・スタンドパイプ
116・・・空間
117・・・ヘルメット
118・・・補強骨
119・・・補強骨
120・・・ヒンジ
121・・・ヒンジ
122・・・開閉リンク
123・・・開閉リンク
124・・・ロッド
125・・・ロッド
126・・・ロッド
127・・・ロッド
128・・・一端部
129・・・他端部
130・・・一端部
131・・・一端部
132・・・他端部
133・・・一端部
134・・・後扉
135・・・補強骨
136・・・ヒンジ
137・・・把手
138・・・カバー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
救命救急活動を支援する救急機能部がボディの前方部に設けられると共に消火活動を支援する消防機能部がボディの後方部に設けられた緊急自動車であって、
上記ボディは、上記消防機能部を露出させる開姿勢と上記消防機能部を覆い且つ当該ボディの表面を形成する閉姿勢との間で姿勢変化自在に設けられたカバー扉を有し、
当該開閉式カバー扉の内壁面に消火活動に用いられる道具が着脱自在に保持されている緊急自動車。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−174990(P2006−174990A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370664(P2004−370664)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000192073)株式会社モリタ (80)
【Fターム(参考)】