説明

縫い針及びその製造方法

【課題】縫い手の縫い作業の負担を低減した縫い針を提供すること、特に布に刺した縫い針を布から引き抜く際に、抜け易くて縫い手の引き抜き作業の負担を低減することができる縫い針を提供する。
【解決手段】縫い針1には、長い棒状の金属製の針軸本体部2と、針軸本体部2の先端側に位置し、先端になるに従って先細になった針先部3と、針軸本体部2の後側に位置し、糸を通す針穴を備えた糸通し部4が設けられ、糸通し部4には、針軸本体部2の径方向の高さよりも低い偏平状の針穴支持部5が設けられ、針穴支持部5の両表面側には、針穴7に通した糸をガイドするガイド溝6が設けられ、針穴支持部5の両側面には、針穴支持部5から針軸本体部2の径方向に突出した突出壁部8が設けられ、突出壁部8が設けられた糸通し部4の径方向の高さは、針軸本体部5の径方向の高さとほぼ同レベルに形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布、合皮、革等の縫合や刺繍等の手縫い作業に有用な金属製の縫い針及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な縫い針の構成は、長細い棒状の金属製の針軸本体部と、該針軸本体部の先端側に位置し、先端になるに従って先細になった針先部と、該針軸本体部の後端側に位置し、糸を通す針穴を備えた糸通し部とが形成された縫い針となっている。
【0003】
金属製縫い針として、例えば特許文献1では、糸通し部に針穴を複数設けたものが知られている。針穴が複数設けられることで、視力が低下した人であっても、何れかの針穴に糸を通せばよいので、糸通し作業が容易となることを狙いとしている。
【0004】
また、特許文献2には、針穴への糸通しを容易にする縫い針が知られている。針穴の片側に糸通し用のガイド孔が形成され、糸通しを容易にするようにしたものが開示されている。
【0005】
上記のように、針穴への糸通しを容易にする工夫を施した縫い針は、多く知られている。しかし、縫い針を使って手縫いをする作業員(縫い手)の縫い負担を軽減することに関しては、余り配慮されたものが見受けられない。
【0006】
縫い手にかかる負担としては、縫い針の針先部が布等の生地(以下布と表示する)に入り込むときの抵抗、また、縫い針と針穴に通した糸とが布を貫通して抜くときの抵抗が考えられる。とりわけ、引き抜き作業時の抵抗のために、手指の過大な把持力の発揮を要し、腱鞘炎等の手指の筋疲労に起因する疾病の誘因になっており、その解決は大きな課題となっている。
【0007】
2つの抵抗の原因及び引き抜きの際の把持力を過大にする原因を縫い針の構造で分析すると、
1.針先部を布に突き刺す際に、針先部がテーパー状に徐々に太くなっているために、布に突き刺す場合の抵抗になっている。
2.また、縫い糸を針穴に通してから縫い針を布から引き抜く際には、糸は糸通し部の後頭部から針穴に導かれ、針穴を通過してまた後頭部の方向に戻るようになっており、いわゆるU字状なって針穴を通過している。そのために、布を通過するときには、2本の糸が通過することとなる。針の針軸本体部の径方向高さは布を通過する抵抗をできるだけ少なくするために細くなっているので、2本の糸の径と針穴支持部(即ち、U字状の糸の内側に位置する針の後頭部)の高さが、縫い針の径方向高さよりも高くなり、糸のU字状に折れ曲がった部分が、布穴を貫通することを妨げ、無理矢理引き抜くこととなり、縫い手の指に過大な負担をかけている。
【0008】
また、針軸本体部は、針刺しの際の抵抗を軽減するために摩擦抵抗を極力低下させるように鏡面仕上げに研磨されており、縫い手が針軸本体部を母指及び示指で把持して引き抜く際の指と針軸本体部との摩擦抵抗が小さくなるために、引き抜きの際の把持力を高めて引き抜かざるを得ない構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】登録実用新案3058530号公報
【特許文献2】特開2006−102231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1や特許文献2に示された縫い針では、糸通しを容易にするために糸通し部に設けた針穴の部分が大きくなっており、縫い針を布穴に通してから布穴から縫い針の糸通し部と糸とを引き抜くのに大きな力を必要とする。即ち、針穴を設けた糸通し部の高さ(この高さは縫い針の長さ方向と直角な方向の高さのことであって、径方向の高さとも言う)が針軸本体部の高さよりも高く、この針穴に糸を通した状態で布から引き抜く際には、大きな抵抗となり、縫い手に多大な負担を強いる結果となっている。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、縫い手の縫い作業の負担を低減した縫い針を提供すること、特に布に刺した縫い針を布から引き抜く際に、抜け易くて縫い手の引き抜き作業の負担を低減することができる縫い針を提供することにある。
【0012】
更には、本発明の縫い針は、人間工学(エルゴノミックス)に基づいて、縫い手の負担軽減と同時に、安全性・作業効率を高めることを狙いとしている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明では、細長い棒状の金属製の針軸本体部と、該針軸本体部の先端側に位置し、先端になるに従って先細になった針先部と、該針軸本体部の後端側に位置し、糸を通す針穴が設けられた後頭部とを備えた縫い針として、上記後頭部において上記針穴の後側には、上記針軸本体部表面の径方向の高さよりも低い偏平状の針穴支持部が設けられ、この針穴支持部の両表面側には、該針穴に通した糸をガイドするガイド溝が設けられ、上記針穴支持部の両側面には、該針穴支持部から該針軸本体部の径方向に突出した突出壁部が設けられ、上記針軸本体部には、該針軸本体部の他の部分の径方向の高さよりも低い凹部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明では、上記請求項1に記載の縫い針において、上記凹部の表面を粗面に形成してなることを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明では、上記請求項1に記載の縫い針において、上記凹部の表面を滑り面に形成してなることを特徴とする。
【0016】
請求項4の発明では、上記請求項1に記載の縫い針において、上記針軸本体部の凹部の表面に、該針軸本体部の径を超えない厚みで、摩擦係数の高い素材からなる被覆材を装着したことを特徴とする。
【0017】
請求項5の発明では、上記請求項1ないし4のいずれか1つに記載の縫い針において、上記針穴の左右の側面は傾斜面で形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6の発明では、上記請求項1ないし5のいずれか1つに記載の縫い針において、上記突出壁部は、上記針穴の後側をプレス成形して圧縮されて上記針穴支持部が形成されると共に、上記ガイド溝に相当する部分の金属材料が該突出壁部に移動して盛り上って形成されるようになっていることを特徴とする。
【0019】
請求項7の発明では、上記請求項3に記載の縫い針において、上記突出壁部が設けられた後頭部の径方向の高さは、上記針軸本体部の径方向の高さとほぼ同じであることを特徴とする。
【0020】
請求項8の発明は、上記請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の縫い針を製造する方法であり、この発明では、上記後頭部の一部を径方向両側からプレス成形することで、圧縮された上記針穴支持部が形成される共に上記ガイド溝が形成され、それと同時に該ガイド溝に相当する部分の金属材料が上記突出壁部に移動して盛り上ることで、上記針軸本体部の径方向の高さとほぼ同じ高さの該突出壁部が形成され、その後、上記針穴支持部の一部を穴開けして上記針穴を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、一般的な太さの裁縫用糸はもとより太さの異なる様々な糸を針穴に通して使用しても、突出壁部内に糸が収まるので、糸が布穴に引っ掛かることなく軽く抜けるようになり、縫い手の引き抜き作業を容易にでき、縫い手の負担を低減できる。特に、突出壁部が針軸本体部の高さとほぼ同じであるので、糸と共に縫い針を抜き易い。さらに、針軸本体部に設けた凹部に指を掛けて縫い針を引き抜くことができるので、従来の径が一定の円筒状の針軸本体に比して、針軸本体部表面を指が滑り難く、針軸本体部を指の小さな把持力で保持できる。従って、指先で縫い針を確実に保持でき、縫い針と糸とを布穴から引き抜く際の指の筋負担を顕著に低減させ、腱鞘炎等の疾病を予防できる。その結果、糸を布穴から引き抜く際に、縫い針の後頭部を左右に無理矢理振って、布穴を大きくして抜け易くすることが不要になり、縫い針の後頭部の損傷も防止できる。
【0022】
請求項2の発明によれば、針軸本体部に設けた凹部に指を掛けて縫い針を引き抜く際に、従来の径が一定の円筒状の針軸本体に比して、針軸本体部表面を指が滑り難くなり、針軸本体部を指のかなり小さな把持力で保持でき、縫い針を抜き易い。また、凹部の表面が粗面に形成されているので、凹部の摩擦係数を高めて、縫い針と糸とを布穴から引き抜く際の指の筋負担の低減を強めることができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、針軸本体部に設けた凹部に指を掛けて縫い針を引き抜く際に、従来の径が一定の円筒状の針軸本体に比して、針軸本体部表面を指が滑り難く、縫い針を抜き易い。また、指と針軸本体部の凹部との接触感が良く掴んだ感覚を得られやすいとともに、縫い針を布に通す際の抵抗が小さいので、作業者の作業負担が軽減できる。
【0024】
請求項4の発明によれば、針軸本体部に設けた凹部に指を掛けて縫い針を引き抜く際に、従来の径が一定の円筒状の針軸本体に比して、針軸本体部表面を指が更に滑り難く、針軸本体部を指のかなり小さな把持力で保持できる。特に、摩擦係数の高い素材を任意に選択することで、縫う手に合わせたものや布材に合わせたものを用意できるので、個々の縫い手にフィットしたものにすることができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、針穴へ糸を通す場合に、針穴の側面が傾斜面になっているので、針穴へ糸を導き易く、糸通しが容易に行なわれる。
【0026】
請求項6の発明によれば、突出壁部を容易に製造することができ、突出壁部の高さ調整も容易である。特に、上下の金型を合せてプレスして圧縮してガイド溝を形成した際に、このガイド溝に相当する部分の金属材料は圧縮されて針穴支持部に形成される共に、一部は外側に広がって逃げようとする。そのために、上記突出壁部の高さ方向と直角な方向に位置する金型の合せ面から余分に飛び出てバリを生成する傾向になる。本発明では、上記逃げようとする金属材料の一部を上記突出壁部の方向に導くので、合せ面の方向への逃げを低減でき、バリを大幅に削減できるメリットを有する。
【0027】
請求項7の発明によれば、突出壁部の高さを針軸本体部の高さとほぼ同レベルにするのが容易にでき、糸を案内するガイド溝の底に当たる部分、即ち針穴支持部の高さを薄くしなくても突出壁部の高さを確保でき、針穴支持部の剛性を十分に確保できる。
【0028】
請求項8の発明によれば、突出壁部の高さを針軸本体部の高さとほぼ同じ高さで形成することが容易にでき、この高さ調整も容易である。特に、プレスした際にガイド溝に相当する部分の金属材料が金型の合せ面から余分に飛び出ることを防止できるので、合せ面のバリを大幅に削減できるメリットを有する。
【0029】
本発明における針軸本体部は、断面形状が、丸形状、角形状、異形状、その他のこれらに類する断面形状のいずれであってもよく、たとえば布に通す際の抵抗すなわち摩擦抵抗が軽減される形状が望ましい。針軸本体部の材質は、一般的に使用されている金属製であればよく、その材質は問わない。針穴は、丸孔状でも角孔状でも長孔状でもよく、この孔方向は針本体の径方向と平行状であってもよいし、針軸本体部の径方向に対して適宜角度を有する傾斜孔状であってもよい。また、針穴の径は縫い糸を通し易くするのが望ましい。
【0030】
ガイド溝は、針穴の開口部から後頭部の端部まで連続形成してある態様のものであり、その形状は径断面形状が、平坦状あるいは溝状でもよく、望ましくは、糸を嵌め込み可能な溝幅と、糸が嵌め込まれることで圧縮された際の厚み以上の溝深さからなる溝状であるのがよい。さらに、針穴両端の開口部にそれぞれ連続している一対のガイド溝の径断面形状は、対称状でもよいし、非対称状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は本発明の実施形態に係る縫い針の外観を示す正面図である。
【図2】図2は図1の縫い針の一部を切欠して示す正面図である。
【図3】図3は、本発明の縫い針における製造工程を説明するものであって、プレス成形する前の状態の糸通し部を示し、図3(A)は正面図、図3(B)は側面図である。
【図4】図4は、本発明の縫い針における製造工程を説明するものであって、図3の状態から、糸通し部の径方向一部をプレスした状態を示し、図4(A)は正面図、図4(B)は側面図である。
【図5】図5は、本発明の縫い針における製造工程を説明するものであって、図4の状態から針穴を開口した状態を示し、図5(A)は正面図、図5(B)は図5(A)のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0033】
図1及び図2は本発明の実施形態に係る縫い針1を例示している。縫い針1は、細長い棒状の金属製の針軸本体部2を備える。針軸本体部2は、断面丸形状(断面円形状)で、この針軸本体部2の先端側には、先端になるに従って先細になった針先部3が形成されている。
【0034】
また、針軸本体部2の後端側には、針軸端体部2とほぼ同じ大きさの後頭部としての糸通し部4を備えている。糸通し部4には、糸10(図4及び図5参照)を通す針穴7が径方向に開口されて設けられ、この針穴7の後側の後頭部には、針穴7に通した糸10を支持する針穴支持部5が設けられている。この針穴支持部5は、針軸本体部2表面の径方向の高さよりも低い偏平状に形成されている。
【0035】
針穴支持部5の径方向の両表面側(即ち扁平形状の表面部分)には、針穴7に通した糸10をガイドするガイド溝6が設けられ、針穴支持部5の表面がガイド溝6の底面を構成している。ガイド溝6の両側面には、該針穴支持部5の表面から該針軸本体部2の径方向に突出した突出壁部8が設けられている。図5に示すように、この突出壁部8が設けられた後頭部としての糸通し部4の径方向の高さH1(後頭部の先端同士を結んだ直径)は、針軸本体部2の径方向の高さH2(針軸本体部の直径)よりも高くなっている。それによって、糸10をガイド溝6に通したときに、糸10が突出壁部8から露出しないようになっている。このガイド溝6は、糸10を嵌め込み可能な溝幅と、糸10が嵌め込まれることで糸10が圧縮された際の厚み以上の溝深さとからなる溝状に形成されている。なお、ガイド溝6に挿入された糸10が圧縮された状態で突出壁部8から完全に糸が露出しないことが好ましいが、一部露出しても実質的にガイド溝6に糸が収まっているのであれば、差し支えなく、本発明に含まれるものである。
【0036】
なお、ガイド溝6に案内される糸10が突出壁部8から露出しないようにするためには、針穴支持部5の厚さを薄くしてガイド溝6の深さを大きくすればよいが、薄くしすぎると針穴支持部5の強度が不足し、破損する恐れがある。そのために、本発明では、この針穴支持部5の厚さを薄くすることなく、糸10が突出壁部8から露出しないようにするために、突出壁部8が設けられた糸通し部4の径方向の高さH1を、針軸本体部2の径方向の高さH2よりも高くしている。
【0037】
このときに、突出壁部8の高さH1は、布穴を通過しやすいように、針軸本体部2の径方向の高さH2よりも僅かな量(例えば数μ)だけ高くしておくことが好ましい。なお、縫い物たる布の種類や縫い針の種類によっては、必ずしも突出壁部8が設けられた糸通し部4の径方向の高さH1を、針軸本体部2の径方向の高さH2よりも高くする必要はなく、ほぼ同レベルの高さでよい場合もある。この場合には、無理やり高さH1を高さH2よりも高くする必要はなく、同じか僅かに低い場合でも使用できるものであり、本発明ではこの高さのことをほぼ同レベルと称し、本発明に含まれるものである。
【0038】
また、上記実施形態では、突出壁部8は、針穴7と針穴支持部5との全ての両側に設けられているが、糸が通る部分、すなわち針穴7の後側と針穴支持部5とに設けて、針穴7の前側部分は省略してもよい。突出壁部8の形状は、糸通し部4の長さ方向に見て同じ高さでなく、糸通し部4の頭部端4aで所定の高さとし、針軸本体部2に向かうに従って、その高さが徐々に低くなっているようにすると、布穴から縫い針1の糸通し部4を引き抜くときに、突出壁部8が抵抗になり難いので抜き易い。例えば、針穴7の前側部分では、徐々に突出壁部8が高くなり針穴7の後側部分で所定の高さになって、糸が飛び出ないようにすることも可能である。
【0039】
図5に示すように、突出壁部8の側面8a(針穴7の傾斜面7b)は傾斜面に形成することで、針穴7に糸を通すときに針穴7の開口部7aに糸を通し易くなる。
【0040】
また、針軸本体部2には、他の部分よりも小径の凹部9が設けられている。この凹部9は、径が細くなって全周に設けられている。凹部9の位置としては、針先部3のテーパー形状が終わったところに近い位置で、指の1本か2本がその凹部9に収まる長さであることが好ましい。凹部9は、針軸本体部5の適当な位置に設ければよいのであるが、布穴から縫い針1を引き抜く際に縫い針1を持ち易い位置としては、凹部9は針軸本体部2の前側部分が好ましい。更には、縫い針1を布穴から引き抜く際に、縫い針1の針軸本体部2の後側から糸通し部4が布穴に刺された状態であるので、この部分の強度を確保する上でも、凹部9は後側に近くない方が好ましい。
【0041】
また、凹部9は針軸本体部2の全周に設けたが、全周でなく部分的に設けてもよい。なお、この凹部9は、針軸本体部2の先端側に近いほうで滑らかな傾斜面で形成され、続いて所定の深さで1本から数本の指が入る程度の長さで設けられ、また滑らかな傾斜面で針軸本体部2の外周につながって形成されている。従って、縫い作業時に縫い針1を布に通す際に、この凹部9が抵抗にならずに縫い針1を抜くことができる。
【0042】
針軸本体部2に設けた凹部9に指を掛けて縫い針を引き抜くことができるので、従来の径が一定の形状(例えば円筒状)の針軸本体部2に比して、針軸本体部表面を指が滑り難く、針軸本体部2を指の小さな把持力で保持できる。従って、指先で縫い針1を確実に保持でき、縫い針1と糸とを布穴から引き抜く際の指の筋負担を顕著に低減させ、腱鞘炎等の疾病を予防できる。その結果、糸を布穴から引き抜く際に、縫い針1の後頭部を左右に無理矢理振って、布穴を大きくして抜け易くすることが不要になり、縫い針1の後頭部の損傷も防止できる。
【0043】
また、凹部9の表面を粗仕上げにする、又は樹脂等の高摩擦材を装着或いは被覆することによって、凹部9の摩擦係数を高めて、縫い針1と糸とを布穴から引き抜く際の指の筋負担の低減を強め、腱鞘炎等の疾病予防の効果を高めることができる。
【0044】
なお、凹部9の表面の粗仕上げ又は高摩擦材を装着等の工夫を行っても、凹部9の径は針軸本体部2の径よりも細い径にしてあるので、布穴を通るときの抵抗にはなって無く、針軸本体部を布穴から抜くことはスムーズにできるようになっている。
【0045】
また、凹部9の表面は、粗面にするのではなく、滑り面に形成してもよい。この場合には、縫い針1を布に通す際の抵抗が小さく、作業者の負担が大きく軽減されるメリットを有する。
【0046】
次に、上記縫い針1の製造方法を図3〜図5により説明する。
【0047】
まず、針先部3を通常の方法で先細にテーパー形状に形成する。その後、図3に示す糸通し部4の一部を径方向にプレス成形して、図4に示すように、針穴支持部5を形成すると共に針穴7の予備成形を行なう。このときに、同時にガイド溝6及び突出壁部8も成形される。
【0048】
具体的には、プレス形成された部分の金属材料の一部が移動して突出壁部8に盛り上って形成される。これによって、突出壁部8が設けられた糸通し部4の径方向の高さH1が、針軸本体部2の径方向の高さH2よりも高くなった突出壁部8が得られる。なお、突出壁部8の側面8aは傾斜面で形成され、盛り上り易くなっていると共に、針穴7に糸10を通し易くなっている。同時に、針穴7の傾斜面7aも突出壁部8の側面8aと同じ傾斜面で形成される。
【0049】
またプレス成形する際に、半割の上下型(図示省略)を用いるので、上下型の合せ面にバリが出易い。即ち、突出壁部8と成形方向と直角な方向にある合せ面に、プレス成形した際の金属材料が移動する傾向になるが、突出壁部8を高くすることで、この移動を極力少なくすることができるメリットも有する。
【0050】
その後、図5に示すように、針穴支持部5の一部を打ち抜いて開口して、針穴7を形成する。
【0051】
次に、針軸本体部2の外周を少し削って凹部9を形成する。
【0052】
上記のように、上下型を合わせるだけで、高さの高い突出壁部8を形成できるので、簡単に形成できる。また、突出壁部8を形成する金型の内面形状を変更するだけで、突出壁部8の形状や大きさを変更できるので、変更も容易である。
【0053】
なお、上記実施形態では、針穴7の予備成形と針穴7の開口と2工程でプレス成形したが、1工程で一度にプレス成形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、布、合皮、革等の縫合や刺繍等の手縫い作業に有用な金属製の縫い針及びその製造方法に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 縫い針
2 針軸本体部
3 針先部
4 糸通し部(後頭部)
4a 頭部端
5 針穴支持部
6 ガイド溝
7 針穴
7a 開口部
8 突出壁部
9 凹部
10 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い棒状の金属製の針軸本体部と、該針軸本体部の先端側に位置し、先端になるに従って先細になった針先部と、該針軸本体部の後端側に位置し、糸を通す針穴が設けられた後頭部とを備えた縫い針であって、
上記後頭部において上記針穴の後側には、上記針軸本体部表面の径方向の高さよりも低い偏平状の針穴支持部が設けられ、
上記針穴支持部の両表面側には、該針穴に通した糸をガイドするガイド溝が設けられ、
上記針穴支持部の両側面には、該針穴支持部から該針軸本体部の径方向に突出した突出壁部が設けられ、
上記針軸本体部には、該針軸本体部の他の部分の径方向の高さよりも低い凹部が設けられていることを特徴とする縫い針。
【請求項2】
請求項1に記載の縫い針において、
上記凹部の表面を粗面に形成してなることを特徴とする縫い針。
【請求項3】
請求項1に記載の縫い針において、
上記凹部の表面を滑り面に形成してなることを特徴とする縫い針。
【請求項4】
請求項1に記載の縫い針において、
上記針軸本体部の凹部の表面に、該針軸本体部の径を超えない厚みで、摩擦係数の高い素材からなる被覆材を装着したことを特徴とする縫い針。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の縫い針において、
上記針穴の左右の側面は傾斜面で形成されていることを特徴とする縫い針。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の縫い針において、
上記突出壁部は、上記針穴の後側をプレス成形して圧縮されて上記針穴支持部が形成されると共に、上記ガイド溝に相当する部分の金属材料が該突出壁部に移動して盛り上って形成されるようになっていることを特徴とする縫い針。
【請求項7】
請求項3に記載の縫い針において、
上記突出壁部が設けられた後頭部の径方向の高さは、上記針軸本体部の径方向の高さとほぼ同じであることを特徴とする縫い針。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の縫い針を製造する方法であって、
上記後頭部の一部を径方向両側からプレス成形することで、圧縮された上記針穴支持部が形成される共に上記ガイド溝が形成され、それと同時に該ガイド溝に相当する部分の金属材料が上記突出壁部に移動して盛り上ることで、上記針軸本体部の径方向の高さとほぼ同じ高さの該突出壁部が形成され、
その後、上記針穴支持部の一部を穴開けして上記針穴を形成することを特徴とする縫い針の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115609(P2012−115609A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270716(P2010−270716)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(501304423)有限会社ウド・エルゴ研究所 (4)
【出願人】(000253433)萬国製針株式会社 (3)
【Fターム(参考)】