説明

繊維成形体及びその製造方法

【課題】複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、しかも用途に応じた剛性を備えた吸音,遮音材用の繊維成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】短繊維からなり一定の嵩高さに形成されたウェブを、上面からの針打ち深さと下面からの針打ち深さとが異なる深さとなるように上下面から針打ちして得られる繊維成形体である。繊維成形体の嵩密度が厚さ方向に漸次変化したものとなり、嵩密度の高い部分は高い剛性を備え、嵩密度の低い部分は十分な吸音作用を備えたものとなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、短繊維集合物を板状に成形した繊維成形体に関し、特に、吸音や遮音を目的とした自動車用天井材,エンジンカバー材及び住宅用壁材などに好適に用いることができる繊維成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、吸音や遮音を目的とした繊維成形体が数多く提案されている。その中の一つに、特開平10−119665号公報に開示されるものがある。この繊維成形体は、少なくとも低融点の熱可塑性樹脂繊維を含む2種以上の繊維を絡めて形成した繊維質基材と熱可塑性樹脂ウェブとを重ね合わせ、これを十分に高熱の熱風によって加熱して繊維質基材に含まれる低融点熱可塑性樹脂繊維と熱可塑性樹脂ウェブとを軟化させた後、繊維質基材の熱可塑性樹脂ウェブを重ねた側に非通気性の樹脂フィルムを重ね、これを繊維質基材方向に押圧して一体化することにより得られる。尚、前記熱可塑性樹脂ウェブは接着剤として作用するとともに、繊維成形体自体の剛性を高める作用をなしている。
【0003】また、特開平10−143165号公報には、短繊維および/または長繊維で構成された繊維集合体からなる織布または不織布よりなる繊維成形体が開示されている。この繊維成形体は、芯部に高軟化点、表面部に低軟化点の樹脂が配置され、軟化点の差が20〜150℃となった芯鞘構造のバインダー繊維を70〜100重量%含む、繊維径が10〜40μmのポリエステル繊維からなり、平均厚さが3〜30mm、面密度が200〜2000g/mとなるように成形されたものである。この繊維成形体は多量のバインダー繊維を含むことにより、その剛性が高められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上述した吸音や遮音を目的とした従来の繊維成形体にはそれぞれ次のような欠点があった。
【0005】即ち、上記特開平10−119665号公報に開示された繊維成形体においては、繊維質基材とはそれぞれ別の工程で製造された熱可塑性樹脂ウェブと非通気性の樹脂フィルムとを繊維質基材に重ね合わせて製造されるものであるため、その製造工程が複雑でコストが高く、また、剛性も非常に弱いものであった。
【0006】また、特開平10−143165号公報に開示された繊維成形体は、構成繊維中に低融点のバインダー繊維を多量に含んでいるため、高温の環境下で変形し易いという欠点を有していた。例えば、この繊維成形体を自動車の天井材として用いた場合、夏場の直射日光の下でドアを閉め切った状態にすると、車内温度が70〜100℃にまで昇温するため、天井材の中央部分が垂れ下がったりするのである。また、バインダー繊維は他の構成繊維に比べて高価であり、これを多量に用いると最終的に得られる繊維成形体が高価になるという問題もある。また、バインダー繊維を多量に含有させて繊維成形体全体の剛性を高めようとすると、吸音性能が低下するという欠点もある。
【0007】一方、吸音や遮音を目的として用いられる繊維成形体であっても、用途によっては、あまり高い剛性を必要とされないものもある。例えば、住宅用壁材として用いられる繊維成形体は、しっかりと固定された内壁材内に充填されて吸音材や遮音材として機能するものであるため、施工時のハンドリングに耐え得る強度を備えていれば足りる。したがって、高価なバインダー繊維を多量に用いて繊維成形体の剛性を高める必要はない。
【0008】本発明は以上の実情に鑑みなされたものであって、複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、しかも用途に応じて必要とされる適当な剛性を備えた吸音,遮音材用の繊維成形体およびその製造方法の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的は以下の構成を備えた本発明によって達成される。即ち、本発明の請求項1に係る発明は、短繊維集合物を板状に成形してなり、構成繊維の一部が厚さ方向に配向された繊維成形体において、該繊維成形体の嵩密度を厚さ方向に漸次変化させたことを特徴とするものである。
【0010】吸音は音のエネルギを熱エネルギなどに変換することであるから、その性能を向上させるにはエネルギの変換効率を向上させる必要があり、エネルギの変換効率を向上させるには吸音材たる繊維成形体の表面積を大きくする、即ち繊維成形体を嵩高くして繊維と空気との摩擦を大きくするのが効果的である。
【0011】一方、繊維成形体の剛性は構成繊維同士の絡み合いにより得られるものであるから、繊維成形体の剛性を高めるには、その嵩密度が高く、しかも構成繊維同士が緻密に絡み合っていることが必要である。
【0012】この発明によれば、構成繊維の一部が厚さ方向に配向され、構成繊維同士が絡み合った繊維成形体の嵩密度を厚さ方向に漸次変化させている、即ち、例えば繊維成形体の上部(上面側),中央部,下部(下面側)でその嵩密度が漸次異なるようにしているので、嵩密度の高い部分は高い剛性を備え、嵩密度の低い、言い換えれば嵩高い部分は十分な吸音作用を備えたものとなっている。
【0013】したがって、必要な剛性を備え且つ十分な吸音作用を備えた吸音材を一つの繊維成形体で製造することができ、従来のように、複数の成形体を重ね合わせるといった複雑な工程は必要なく、安価にこれを製造することができる。尚、平均嵩密度は0.005〜0.2g/cmの範囲であるのが好ましく、0.01〜0.1g/cmの範囲であれば得られる繊維成形体が軽量且つ剛性,吸音性に優れていて特に好ましい。また、成形体の厚さ方向の嵩密度差は、厚さ10mmに対して0.005〜0.1g/cmであるのが好ましく、より好ましくは0.01〜0.05g/cmである。
【0014】そして、このような繊維成形体は、請求項5に係る発明によりこれを好適に製造することができる。即ち、請求項5に係る発明は、短繊維からなり一定の嵩高さに形成されたるウェブを、該ウェブの上下両面から針打ちして板状の繊維成形体を製造する方法において、前記上面からの針打ち深さと下面からの針打ち深さとが異なる深さとなるように針打ちすることを特徴とするものである。
【0015】短繊維を積層して一定の嵩高さに形成されたウェブは、針打ちを行うことによりその構成繊維の一部が厚さ方向に配向されて構成繊維同士が絡み合い、所定の剛性を発現するようになる。厚さ方向に配向される構成繊維の割合は、針打ち回数が多ければ多いほど高く、また、繊維成形体に打ち込まれる針の深さが深いほど高くなる。したがって、この発明におけるように、上面からの針打ち深さと下面からの針打ち深さとが異なるように、ウェブをその上下両面から針打ちすると、繊維成形体の厚さ方向全域において構成繊維同士を絡み合わせることができ、しかも上部,中央部,下部でその嵩密度が漸次異なるような繊維成形体を製造することができる。尚、針打ち深さとは、ウェブの上面から針打ちする場合には、ウェブ下面を基準にした針先端の到達位置を意味し、下面から針打ちする場合には、ウェブ上面を基準にした針先端の到達位置を意味する。
【0016】そして、このようにして製造される繊維成形体は、構成繊維が低融点のバインダー繊維を含み、このバインダー繊維が他の構成繊維に融着されていることが望ましい(請求項2および請求項6)。バインダー繊維が他の構成繊維に融着されることにより、構成繊維同士の結合を強固なものとすることができ、繊維成形体全体の剛性を高めることができる。
【0017】バインダー繊維を他の繊維に融着させるにあたり、上面側と下面側とで温度が異なるように繊維成形体を加熱して(請求項7)、バインダー繊維の融着度が、厚さ方向において漸次変化するように、即ち、例えば繊維成形体の上部,中央部,下部の各部でその融着度が漸次異なるようしても良い(請求項3)。融着度合いの高い部分は構成繊維同士がより強固に結合しており、繊維成形体全体の剛性を高める働きをする一方、融着度合いの低い部分は構成繊維同士の結合が希薄で各構成繊維の自由度が高く、自体振動して音エネルギを吸収し易く、吸音作用を高める働きをする。したがって、嵩密度の高い部分の融着度を高め、嵩密度の低い部分の融着度を低くすることで、吸音効果が高く、しかも剛性の高い吸音材を、一つの繊維成形体から得ることができる。尚、上記融着度とは、バインダー繊維が他の繊維と融着して形成される交絡部の断面の大きさの程度を意味し、断面積が大きいほど融着度が高く、断面積が小さいほど融着度が低いことを意味する。
【0018】また、本発明の請求項4に係る発明は、短繊維集合物を板状に成形してなり、構成繊維の一部が厚さ方向に配向された繊維成形体において、前記構成繊維が低融点のバインダー繊維を含むとともに、該バインダー繊維を他の構成繊維に融着させてなり、且つその融着度を前記厚さ方向において漸次変化させたことを特徴とするものである。
【0019】上述のように、融着度合いの高い部分は構成繊維同士がより強固に結合して、繊維成形体全体の剛性を高める働きをする一方、融着度合いの低い部分は構成繊維同士の結合が希薄で吸音作用を高める働きをする。したがって、嵩密度が厚さ方向に均一となった繊維成形体であっても、その融着度を変化させることで、吸音効果が高く、しかも剛性の高い吸音材を、一つの繊維成形体から得ることができる。
【0020】このような繊維成形体は請求項8に係る発明により好適にこれを製造することができる。即ち、請求項8に係る発明は、低融点のバインダー繊維を含む短繊維からなり一定の嵩高さに形成されたウェブを上下両面から針打ちした後、該ウェブを加熱して板状の繊維成形体を製造する方法において、加熱される温度を前記ウェブの上面側と下面側とで異なる温度に設定したことを特徴とするものである。
【0021】尚、構成繊維たる上記短繊維は、特に限定されるものではないが、ポリエステル系繊維からなるものであることが好ましい。ポリエステル系繊維はリサイクル性が高く、また比較的融点が高いことから、成形体を高温環境下で使用することができるからである。
【0022】また、その繊維長は25〜100mmのものが好ましく、60〜80mmのものがより好ましい。25mmより短いと成形体の剛性が弱くなり、100mmを超えるとカードの通過性が悪くなって生産性が悪くなるからである。繊維径(繊度)は1〜50dのものが好ましく、6〜20dのものがより好ましい。吸音性能の面からすると繊度の小さいものが好ましいが、剛性の面からすると繊度の大きいものが好ましい。上記範囲はこれらの調和点として見出されるものである。また、壁材のようにさほど剛性の必要とされないものは、細デニールの綿を混綿しても良く、車輌用吸音材のように比較的高温雰囲気にさらされるものは剛性を高めるために6〜20dのものを用いるのが好ましい。更に、中空の繊維を用いれば、同じ重量で剛性を高めることができる。
【0023】また、上記構成繊維中に含まれるバインダー繊維の割合は、5〜70重量%の範囲が好ましい。含まれるバインダー繊維の割合が5重量%未満であると、バインダー繊維を含まない成形体とその剛性においてあまり異なるところが無く、逆に、70重量%を超えると、必要な吸音効果が得られず、更に70〜100℃の高温環境下でこれを使用すると成形体が変形するという問題を生じるからである。また、使用するバインダー繊維はアモルファスタイプ又は結晶性タイプのいずれのものであっても良く、更には両者を併用しても良いが、用途が車輌用のように高温耐久性が必要とされる場合には、結晶性タイプのものが好ましい。これは、アモルファスタイプのものは溶融温度範囲が非常にブロードで加工時の温度よりも低温から軟化し始めるのに対し、結晶性タイプのものは溶融温度範囲が非常にシャープであり、耐熱性に優れているからである。アモルファスタイプのバインダー繊維としてカネボウ合繊(株)製のベルコンビ4080(融点110℃、繊度2d、繊維長51mm)を挙げることができ、結晶性タイプのバインダー繊維として同じくカネボウ合繊(株)製のベルコンビ7080(融点160℃、繊度2d、繊維長51mm)を挙げることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明の具体的な実施形態について実施例に基づき説明する。
【0025】
【実施例】(実施例1)繊度が15デニール、繊維長が51mmであるポリエステル繊維の50重量%と、融点が160℃、繊度が2デニール、繊維長が51mmであるバインダー繊維(カネボウ合繊(株)製ベルコンビ7080)の50重量%とを混綿してカードウェブを製造した。得られたウェブの平均面密度は1000g/mであり、平均厚さは150mmであった。また、前記バインダー繊維は芯鞘型のポリエステル繊維であり、鞘部の融点が160℃のものを用いた。
【0026】次に、ニードルルームを用いて、上記ウェブにその上下両面から針打ちを施した。ニードルには、オルガン針(株)製のクロスバーブ(FPD−1−36C−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を−5mm、下面側のニードルの針深度を−10mm、ストローク数(針打ち回数)を250回/分、ウェブの送りを0.8m/分とした。このようにして針打ち処理を施した後のウェブはその平均の厚さが34mmとなっていた。
【0027】尚、針深度とは上記針深さと同義であり、図1に示すように、ウェブ1が載置,搬送される下側のベッドプレート2aの上面から上面側のニードル3aの先端まで、若しくは上側のベッドプレート2bの下面から下面側のニードル3bの先端までの距離をいい、上側のニードル3aの先端が下側のベッドプレート2aの上面より上方に位置する場合、及び下側のニードル3bの先端が上側のベッドプレート2bの下面より下方に位置する場合をマイナスで表示し、これらの逆の場合をプラスで表示している。下面側のニードル3bにより針打ちする場合には、ニードル3bの抵抗によってウェブ1が上方に持ち上げられ上側のベッドプレート2bに当接するので、当該針深度と上記針深さとは同義となる。このような定義によると、上記の針深度(針深さ)の差は5mmとなる。
【0028】次に、上下にプレートヒータを備えた遠赤外線式熱処理機を用い、上側のプレートヒータの表面温度を380℃とし、下側のプレートヒータの表面温度を280℃とし、熱処理機内の雰囲気温度を220℃として、上記針打ち後のウェブを10分間その上下両面から加熱処理した後、ローラにより加圧して、実施例1の繊維成形体を得た。尚、ローラによる加圧後の繊維成形体の厚みは20mmであった。
【0029】(実施例2)ニードルにオルガン針(株)製のレギュラーバーブ(FPD−1−36−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を10mm、下面側のニードルの針深度を5mmとし、針深度(針深さ)の差を5mmとして針打ち処理を施した他は、上記実施例1と同様にして実施例2の繊維成形体を得た。
【0030】(実施例3)熱処理機に熱風循環式熱処理機を用い、熱風の温度を215℃にするとともに、熱風の循環量を通常の1/10に絞ってウェブの上面側の温度が下面側より10℃高くなるようにし、処理時間を5分としてウェブを加熱処理した他は、上記実施例1と同様にして実施例3の繊維成形体を得た。
【0031】(実施例4)繊度が6デニール、繊維長が51mmのポリエステル繊維の60重量%と、融点が110℃、繊度が2デニール、繊維長が51mmであるバインダー繊維(カネボウ合繊(株)製ベルコンビ4080)の40重量%とを混綿してカードウェブを製造した。得られたウェブの平均面密度は800g/mであり、平均厚さは128mmであった。また、前記バインダー繊維は芯鞘型のポリエステル繊維であり、鞘部の融点が110℃のものを用いた。
【0032】次に、ニードルルームを用いて、上記ウェブにその上下両面から針打ちを施した。ニードルには、オルガン針(株)製のクロスバーブ(FPD−1−36C−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を10mm、下面側のニードルの針深度を5mmとして針深度(針深さ)の差を5mmとし、ストローク数を250回/分、ウェブの送りを0.8m/分とした。このようにして針打ち処理を施した後のウェブはその平均の厚さが27mmとなっていた。
【0033】次に、上下にプレートヒータを備えた遠赤外線式熱処理機を用い、上側のプレートヒータの表面温度を300℃とし、下側のプレートヒータの表面温度を230℃とし、熱処理機内の雰囲気温度を190℃として、上記針打ち後のウェブを10分間その上下両面から加熱処理した後、ローラにより加圧して、実施例4の繊維成形体を得た。尚、ローラによる加圧後の繊維成形体の厚みは15mmであった。
【0034】(実施例5)繊度が6デニール、繊維長が51mmであるポリエステル繊維の70重量%と、繊度が1.5デニール、繊維長が51mmであるポリエステル繊維の30重量%とを混綿してカードウェブを製造した。得られたウェブの平均面密度は1000g/mであり、平均厚さは150mmであった。
【0035】次に、ニードルルームを用い、ニードルにオルガン針(株)製のレギュラーバーブ(FPD−1−36−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を30mm、下面側のニードルの針深度を30mmとして針深度(針深さ)の差を0mmとし、ストローク数を150回/分、ウェブの送りを1.5m/分として、上記ウェブにその上下両面から針打ちを施した後、更に、同じくニードルルームを用い、ニードルにオルガン針(株)製のクロスバーブ(FPD−1−36C−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を−5mm、下面側のニードルの針深度を−10mmとして針深度(針深さ)の差を5mmとし、ストローク数を350回/分、ウェブの送りを0.8m/分として、上記針打ち後のウェブにその上下両面から針打ちを施し実施例5の繊維成形体を得た。尚、最終的に得られた繊維成形体の平均厚さは15mmとなっていた。
【0036】(比較例1)繊度が15デニール、繊維長が51mmであるポリエステル繊維の80重量%と、融点が160℃、繊度が2デニール、繊維長が51mmである芯鞘型のバインダー繊維(カネボウ合繊(株)製ベルコンビ7080)の20重量%とを混綿してカードウェブを製造した。得られたウェブの平均面密度は850g/mであり、平均厚さは300mmであった。
【0037】この後、ニードルルームを用い、ニードルにオルガン針(株)製のレギュラーバーブ(FPD−1−36−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を30mm、下面側のニードルの針深度を30mmとして針深度(針深さ)の差を0mmとし、ストローク数を250回/分、ウェブの送りを1.5m/分として、上記ウェブにその上下両面から針打ちを施し基材を製造した。得られた基材の平均厚さは30mmであった。
【0038】次に、融点が160℃、繊度が2デニール、繊維長が51mmであるバインダー繊維(カネボウ合繊(株)製ベルコンビ7080)を用いてカードウェブを製造し、ついで、ニードルルームを用い、ニードルにオルガン針(株)製のレギュラーバーブ(FPD−1−36−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を40mm、下面側のニードルの針深度を40mmとして針深度(針深さ)の差を0mmとし、ストローク数を250回/分、ウェブの送りを0.8m/分として、上記ウェブにその上下両面から針打ちを施して補強材を得た。得られたウェブの平均面密度は250g/mであり、平均厚さは10mmであった。
【0039】次に、得られた上記基材と補強材とを積層して、これを熱風温度が190℃の熱風循環式熱処理機により10分間均一に加熱処理した後、ローラにより加圧して、比較例1の繊維成形体を得た。尚、ローラによる加圧後の繊維成形体は、その平均面密度が1100g/mであり、平均厚さが20mmであった。
【0040】(比較例2)まず、比較例1と同様にして基材を得た。次に、融点が110℃、繊度が2デニール、繊維長が51mmであるバインダー繊維(カネボウ合繊(株)製ベルコンビ4080)を用いた他は、比較例1と同様にして補強材を得た。そして、得られた基材と補強材とを積層して、これを比較例1と同様の条件で加熱処理して比較例2の繊維成形体を得た。最終的に得られた繊維成形体の平均面密度は1100g/mであり、平均厚さは20mmであった。
【0041】(比較例3)実施例4と同様にして、平均面密度が800g/m、平均厚さが128mmのカードウェブを製造した。ついで、ニードルにオルガン針(株)製のレギュラーバーブ(FPD−1−36−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を15mm、下面側のニードルの針深度を15mmとして針深度(針深さ)の差を0mmとし、ストローク数を150回/分、ウェブの送り0.8m/分として上記ウェブに針打ち処理を施した。得られたウェブの平均厚さは30mmであった。
【0042】ついで、熱風温度が190℃の熱風循環式熱処理機により上記ウェブを10分間均一に加熱処理した後、ローラにより加圧して、比較例3の繊維成形体を得た。尚、ローラによる加圧後の繊維成形体は、その平均面密度が800g/mであり、平均厚さが15mmであった。
【0043】(比較例4)繊度が6デニール、繊維長が51mmであるポリエステル繊維の70重量%と、繊度が1.5デニール、繊維長が51mmであるポリエステル繊維の30重量%とを混綿してカードウェブを製造した。得られたウェブの平均面密度は1000g/mであり、平均厚さは150mmであった。
【0044】次に、ニードルルームを用い、ニードルにオルガン針(株)製のレギュラーバーブ(FPD−1−36−36番)を使用し、上面側のニードルの針深度を30mm、下面側のニードルの針深度を30mmとして針深度(針深さ)の差を0mmとし、ストローク数を350回/分、ウェブの送りを0.8m/分として、上記ウェブにその上下両面から針打ちを施し、比較例4の繊維成形体を得た。尚、最終的に得られた繊維成形体の平均厚さは15mmとなっていた。
【0045】次に、以上のようにして得られた、実施例1乃至5及び比較例1乃至4の繊維成形体の吸音性能と剛性を測定した。その結果を下表表1に示す。
【0046】尚、前記吸音性能は、直径30mmの円柱状の試料を準備し、Bruel&Kjar社製のマルチチャンネル分析システム3550型(ソフトウェアはBZ5087型2チャンネル分析ソフト)を用い、2マイクロフォン法により、各試料について0〜5000Hzまでの吸音率を測定することで評価した。
【0047】また、前記剛性は、タテ300mm、ヨコ50mmの板状の試料を準備し、これを、図2に示した、固定治具10にセットし、乾燥前の試料11の高さ寸法L1から、固定治具10ごと乾燥機に入れて乾燥した後の試料11の高さ寸法L2との差である撓み量L3を測定することで評価した。尚、実施例1乃至3、比較例1及び2の試料については、これを120℃で60分間乾燥し、実施例4及び5、比較例3及び4の試料については、これを60℃で60分間乾燥した。
【0048】
【表1】


【0049】表1から分かるように、実施例1乃至3の繊維成形体は、比較例1及び2の繊維成形体に比べて、高い吸音性能を備え、且つこれらと略同等の剛性を備えている。また、実施例4及び5の繊維成形体は、比較例3及び4の繊維成形体に比べて、極めて高い剛性を備え、且つこれらと略同等の吸音性能を備えている。
【0050】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、従来と同等以上の吸音性能及び剛性を備えた吸音材を、単一の繊維成形体から得ることができるので、これを単純な工程で容易に製造することができ、しかも安価に製造することができる。また、用途に応じて適宜必要とされる剛性を備えた繊維成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における針打ち深さを説明するための説明図である。
【図2】繊維成形体の剛性測定方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
1 ウェブ
2 ベースプレート
3 ニードル
10 固定治具
11 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】 短繊維集合物を板状に成形してなり、構成繊維の一部が厚さ方向に配向された繊維成形体において、該繊維成形体の嵩密度を厚さ方向に漸次変化させたことを特徴とする繊維成形体。
【請求項2】 前記構成繊維が低融点のバインダー繊維を含み、該バインダー繊維が他の構成繊維に融着されてなる請求項1記載の繊維成形体。
【請求項3】 前記バインダー繊維の融着度を、前記厚さ方向において漸次変化させたことを特徴とする請求項2記載の繊維成形体。
【請求項4】 短繊維集合物を板状に成形してなり、構成繊維の一部が厚さ方向に配向された繊維成形体において、前記構成繊維が低融点のバインダー繊維を含むとともに、該バインダー繊維を他の構成繊維に融着させてなり、且つその融着度を前記厚さ方向において漸次変化させたことを特徴とする繊維成形体。
【請求項5】 短繊維からなり一定の嵩高さに形成されたウェブを、該ウェブの上下両面から針打ちして板状の繊維成形体を製造する方法において、前記上面からの針打ち深さと下面からの針打ち深さとが異なる深さとなるように針打ちすることを特徴とする繊維成形体の製造方法。
【請求項6】 前記短繊維に低融点のバインダー繊維が含まれ、針打ち後の繊維成形体を加熱して、前記バインダー繊維を他の短繊維に融着させる工程を含む請求項5記載の繊維成形体の製造方法。
【請求項7】 前記繊維成形体の加熱される温度を、上面側と下面側とで異なる温度に設定した請求項6記載の繊維成形体の製造方法。
【請求項8】 低融点のバインダー繊維を含む短繊維からなり一定の嵩高さに形成されたウェブを上下両面から針打ちした後、該ウェブを加熱して板状の繊維成形体を製造する方法において、加熱される温度を前記ウェブの上面側と下面側とで異なる温度に設定したことを特徴とする繊維成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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