説明

老朽化モルタル吹付法面の再生工法及び補強構造並びに法面安定化工法

【課題】老朽化モルタル吹付法面の再生工法において、産業廃棄物を最小限とし、安価な工法とし、交通規制を最小限とし、かつ法面の安定化を十分に確保する。
【解決手段】老朽化したモルタル吹付法面の再生工法であって、モルタル吹付法面(1)の一部である最下端を含む1又は複数の区画又は中間高さに位置する1又は複数の区画におけるモルタルを除去する工程と、モルタルを除去した区画に対し透水性コンクリート(11)を吹き付けることにより透水性コンクリート補強体(10)を築造する工程とを備える。透水性コンクリート補強体を築造する工程において、透水性コンクリート補強体の内部に第1の鉄筋(12a,12b)を配置すると共に、透水性コンクリート補強体を地山に固定するべく第1の鉄筋と結合されかつ地山(2)へ挿入された第2の鉄筋(13)を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化したモルタル吹付法面の再生工法及び補強構造に関し、さらに法面の安定化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、法面の安定性を確保するためにモルタル吹付工が行われている。モルタル吹付は、法面に対する雨水の浸透と風化を防ぐために有効である。図6(a)は、従来のモルタル吹付法面を模式的に示した断面図である。道路5とその排水溝6に法面が隣接する地形であり、モルタルが吹き付けられている。モルタル吹付工は、設計時には安定している法面、例えば岩盤法面等に対して採用される。
【0003】
しかしながら、長年の間に地下水の影響が蓄積され、空洞3や亀裂4を形成したり、法面最下端1aのせり出しなどの現象が発生する。これらの現象は、図6(b1)〜(b3)に示すメカニズムによると考えられる。図6(b1)は、老朽化前のモルタル吹付法面の断面であり、晴天時の状態を示している。破線は、地山2の内部の地下水位面7を示している。図6(b2)は、降雨時の状態を示している。地下水位面7が上昇しているが、モルタル吹付法面が非透水性であるため、地下水は地表に排出されず、実線矢印のようにモルタル吹付法面の直下を流れることとなる。この状態においては、モルタル吹付法面は、地下水による水圧を受けると同時に、直下を流れる地下水流により背面の地山の細粒分が流出する。これらの現象が長期間くり返されることにより、図6(6c)のように背面に空洞3が生じ、亀裂やせり出しが生じることになる。通常、モルタル吹付工を行う場合には、このような地下水を排水するための水抜きパイプが設置される。しかしながら、このような水抜きパイプは、湧水箇所いわゆるミズミチに合致していなければほとんど役に立たず、湧水箇所を見極めて水抜きパイプを設置することは困難である。従って、長年、このような地下水の上下変動にさらされることで、モルタル吹付法面は、老朽化していく。
【0004】
モルタル吹付法面の老朽化が進むと、モルタルの落下や背後地山を伴った崩落が発生し、非常に危険であるので、対策が必要となる。
【0005】
もっとも、老朽化したモルタル吹付法面は、長期間薄いモルタル吹付だけで法面の安定を保ってきた実績をもつという見方もできる。また、前述のように、モルタル吹付工は、元々基本的に地山の安定性の高い法面に行われるものでもある。従って、このような比較的安定性のある法面に対し、全面的に吹付法枠工(法面上に法枠を設置して吹付施工する工法)や鉄筋挿入工(吹付法枠工と併用し、地山に鉄筋を挿入して法枠を固定する工法)のように大きな強度を確保する工法を適用することは、過大な安全性を見込んだものであり、コスト的にも無駄なものと云わざるを得ない。
従って、モルタル吹付工の対象となる法面においては、そのモルタル吹付が老朽化した場合にも、それに適した対策が採られることが望ましいといえる。
【0006】
ところで、モルタルは非透水性材料であるが、特許文献1に開示された緑化工法では、透水性コンクリートが利用されている。この緑化工法は、コンクリート面の補修を兼ねており、コンクリート面上にセメントペースト、モルタル及び透水性コンクリートを吹付け、透水性コンクリートに生育基盤材を注入し、その上に植生基材を吹き付けるものである。この場合、透水性コンクリートは、主として植生の保水のために設けられている。
【特許文献1】特開2002−146798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の老朽化モルタル吹付法面の補修方法としては、次の2つがある。
(1)老朽化モルタルを全て取り壊して再びモルタル吹付工を再施工する方法
(2)老朽化モルタルを残し、空洞にセメントペーストを注入する空洞充填工法と、吹付法枠工(又はさらに鉄筋挿入工を併用)とを併用する方法
【0008】
しかしながら、老朽化モルタルを除去する場合には、次のような問題点がある。
・高所での作業となるため危険を伴う。
・周辺における飛来事故を防止するために大掛かりな防護柵が必要となる。
・除去したモルタルにより大量の産業廃棄物が発生する。
【0009】
一方、産業廃棄物を発生させないために老朽化モルタルを残す場合には、鉄筋挿入工を採用すると掘削足場が必要となり、また、足場を使用しないならば、削孔機を空中に保持するためのクレーンが必要となる、という問題点がある。
【0010】
いずれにしても、対策工を法面全面に実施するため、不経済となる欠点がある。また、交通規制期間が長期間となるため、地域経済に与える影響も大きなものとなる。今後、耐用年数を超える老朽化モルタル吹付法面が、多数発生することが予想されており、安価で効果的な工法が求められている。
【0011】
以上の現状に鑑み、本発明は、老朽化したモルタル吹付法面の再生工法において、産業廃棄物を最小限とすること、より安価な工法とすること、及び交通規制を最小限として夜間等は解放できることを実現し、かつ法面の安定化を十分に確保することを目的とする。さらに、同じ基本原理に基づいて、老朽化モルタル吹付法面のみではなく、新規に行うモルタル吹付工又は植生基材吹付工とも併用できる法面安定化工法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を提供する。
本発明による、老朽化したモルタル吹付法面の再生工法は、モルタル吹付法面の一部である最下端を含む1又は複数の区画又は中間高さに位置する1又は複数の区画におけるモルタルを除去する工程と、モルタルを除去した区画に対し透水性コンクリートを吹き付けることにより透水性コンクリート補強体を築造する工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
さらに上記の再生工法における透水性コンクリート補強体を築造する工程において、透水性コンクリート補強体の内部に第1の鉄筋を配置すると共に、透水性コンクリート補強体を地山に固定するべく第1の鉄筋と結合されかつ地山へ挿入された第2の鉄筋を配置することを特徴とする。
【0014】
本発明による、老朽化したモルタル吹付法面の補強構造は、モルタル吹付法面の一部である最下端を含む1又は複数の区画又は中間高さに位置する1又は複数の区画に対し吹き付けられた透水性コンクリートにより形成された透水性コンクリート補強体と、透水性コンクリート補強体の内部に配置された第1の鉄筋と、透水性コンクリート補強体を地山に固定するべく第1の鉄筋と結合されかつ地山へ挿入された第2の鉄筋とを備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明による、モルタル吹付工又は植生基材吹付工を行う法面の安定化工法は、法面の一部である最下端を含む1又は複数の区画又は中間高さに位置する1又は複数の区画に対し透水性コンクリートを吹き付けることにより透水性コンクリート補強体を築造する工程と、透水性コンクリート補強体を築造した区画以外の部分に対しモルタル吹付工又は植生基材吹付工を行う工程とを備えたことを特徴とする。
【0016】
さらに上記の法面安定化工法における透水性コンクリート補強体を築造する工程において、透水性コンクリート補強体の内部に第1の鉄筋を配置すると共に、透水性コンクリート補強体を地山に固定するべく第1の鉄筋と結合されかつ地山へ挿入された第2の鉄筋を配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による老朽化したモルタル吹付法面の再生工法及び補強構造においては、老朽化したモルタルの一部のみを除去するため、除去量を最小限にして産業廃棄物の発生を抑制することができる。また、法面全面の施工ではないので、工期を短縮でき、かつ交通規制期間も短い。また、飛来防止柵も簡易なものですむ。
【0018】
また、法面の一部である最下端を含む区画又は中間高さ位置の区画に対し透水性コンクリートを吹付けることにより透水性コンクリート補強体を造築する。透水性コンクリートは、水を透過させることができるので、降雨時に地山の地下水面が上昇した場合に、地山から表面へ地下水を排水させることができる。本発明では、従来非透水性であったモルタル吹付法面の一部に排水機能を付加することにより、地山から積極的に排水させるようにしたことが特徴的である。これにより、地下水面の上昇を抑制し、モルタル背面の細粒分流出による空洞化を防止できる。また、モルタルに作用する地下水圧を解消できるので、モルタルの亀裂の発生及び増加を抑制できる。この結果、残存させたモルタルの寿命を延ばすことができる。また、地下水面の上昇を抑制することにより、豪雨時の地山の安定性が向上する。
【0019】
透水性コンクリート補強体は、地下水面の上昇抑制という観点からすると、法面の最下端に近い位置に設ける方が好適である。法面の最下端に近い位置に設ける場合には、道路から比較的小型の重機を使用して作業することが可能であることから、高所作業の必要がなく、交通規制を簡略化できる点でも好ましい。さらに、透水性コンクリートは、吹付工法が可能であり、板型枠を用いる必要がないため、急勾配でも作業が容易である。
【0020】
また、透水性コンクリート補強体は、内部に第1の鉄筋を設け、さらに第1の鉄筋と結合して地山に挿入される第2の鉄筋を設けることにより、鉄筋コンクリート構造物と同等の基礎としての機能をもつ構造体なる。つまり、上方からの荷重又は滑り荷重などの外力に対抗できる。この結果、透水性コンクリート補強体の上方の残存したモルタルを安定化させ、落下を防止することができる。
【0021】
このことは、特に、老朽化モルタル吹付法面の最下端のせり出し部分を除去し、透水性コンクリート補強体を設けた場合に効果的である。最下端を含む区画に透水性コンクリート補強体を設けた場合、法面の下端に集中する応力を吸収することで法面全体の安定度を向上させることができる。つまり、透水性コンクリート補強体が、残存したモルタルの荷重を受けて地山に伝達する機能をもつ。このように、本発明の透水性コンクリート補強体は、急崖や急傾斜崩壊防止地区などにおける斜面下部の擁壁と同等の効果を奏することができる。
【0022】
また、透水性コンクリート補強体は、老朽化モルタル表面の湧水痕などにより水が湧き出ることが判明している中間高さ位置に設けることも効果的である。これにより、水圧の発生を防止し、安定度が向上する。
【0023】
なお、上記の老朽化モルタル吹付法面の再生工法の基本原理は、新規にモルタル吹付工又は植生基材吹付工を行う法面に対しても適用しても、同様の効果が得られる。この場合、透水性コンクリート補強体の上方に施工された新規のモルタル吹付工や植生基材吹付工を支持し安定化させる。
【0024】
本発明において築造される透水性コンクリート補強体は、法面を支持するための従来工法である擁壁構造又はフトンカゴ工と比べて利点がある。擁壁構造は、通常1m程度の厚さがあり、対象法面よりも道路側に大きく張り出して設置されるか、又は、地山を大きく掘削して設置する必要があり、道路の維持管理工としては採用されない。また、フトンカゴ工も、砕石等を充填したカゴを階段状に積み上げるので、相当の設置厚さが必要となる。これに対し、本発明の透水性コンクリート補強体は、透水性コンクリートの吹付施工によるので、厚さ5〜20cm程度で実施可能である。従って、道路側に張り出したり地山を掘削する必要はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明による老朽化モルタル吹付法面の再生工法の一実施例を模式的に示す法面の断面図である。図2は、図1の法面の正面図である。
本来のモルタル吹付は、前述の図6(a)に示したように法面の最下端(法尻)まで行われていたものである。この法面は、道路5及びその排水溝6に隣接している。この老朽化したモルタル吹付法面1においては、随所においてモルタル背面に空洞3が生じたり、モルタルに亀裂4が生じている。このモルタル吹付法面1の最下端を含む近傍の区画を除去し、その区画に透水性コンクリート補強体10が築造されている。
【0026】
透水性コンクリート補強体10を築造する区画は、老朽化したモルタル吹付法面1の一部である。図示の例では、図2に示すように最下端を含む帯状の区画であり、モルタル吹付法面1の水平方向の両端間に延在している。透水性コンクリート補強体10を築造する区画の形状は、図示の例に限られない。法面の水平方向の両端間に断続的に複数箇所設けてもよい。また、最下端を含む区画でなくともよく、中間高さの適宜の箇所に1又は複数箇所設けてもよい。
【0027】
図2の例では、特に、亀裂4が集中している部分の直下に透水性コンクリート補強体10が位置するように、透水性コンクリート補強体10の高さを一部において変化させている。このように、老朽化により水が湧き出すことが判明している箇所に重点的にコンクリート補強体10を設けてもよい。
【0028】
透水性コンクリートは、例えば、水とセメントの比を約4:6から3:7として配合し、粒径2.5〜5.0mm程度の砕石を主要な骨材として混合したものである。さらに、好適には、ビニロン短繊維を混入させて曲げや引張り靱性を高めることにより、収縮によるひび割れの発生を低減している。固化後の透水性コンクリートは、空隙径1mm程度で15%以上の連続空隙による細孔構造を備えている。この細孔構造により、礫層相当の透水係数(1×10−1cm/秒以上)を有する。この透水性コンクリートの透水係数は、地山の透水係数(10−2〜10−3cm/秒)よりも格段に大きい。従って、晴天時には、毛細管現象により背面水を吸い上げ、雨天時には背面地山からの浸透水を表面へ透過させて、又は内部の連続空隙を通して、法尻方向へと誘導することができる。
【0029】
図3は、図1に示した透水性コンクリート補強体10の好適な実施例を示す拡大断面図である。透水性コンクリート11を吹き付けて造築した透水性コンクリート補強体10の厚さは、例えば5〜20cmであり、モルタル吹付厚さ(標準的には約8cm程度)よりも厚くすることが好ましい。透水性コンクリート補強体10の高さは、モルタルの老朽化の程度、排水量、支持強度等を考慮して適宜設定する。
【0030】
透水性コンクリート補強体10の内部には、縦筋12a及び横筋12bからなる複数の第1の鉄筋が配置されている。さらに、第2の鉄筋13が配置されている。第2の鉄筋13は、例えば、鉄筋挿入工に用いられる鉄筋でもよく、ロックボルト工に用いられるロックボルトが強度の点で好適である。第2の鉄筋13の頭部は、第1の鉄筋12a又は12bと結合され、その本体部分は地山2に挿入される。本体部分の長さは、必要な引張り強度に応じて適宜設定する。
【0031】
ロックボルトの頭部近傍に受圧板14を具備する場合、受圧板14を法面上に設置してロックボルトに緊張力を導入するとさらに強固に固定される。これにより、透水性コンクリート補強体10は、鉄筋コンクリートと同等の構造体となり、堅固な基礎としての機能を備えることになる。
【0032】
第1の鉄筋12a、12b及び第2の鉄筋13の配置密度は、必要な強度に応じて適宜設定する。また、これらの鉄筋は、エポキシ塗装鉄筋等の防錆処理を施したものが好ましい。
【0033】
なお、透水性コンクリート補強体10の表面に対して薄く防水性材料を吹付処理することで、雨水の浸透を防止することができる。この表面の防水性材料の厚さは、地山側からの排水を妨げない程度とする。また、透水性コンクリート補強体10は、その内部の細孔構造を通しても十分に排水は可能である。表面に吹き付ける防水性材料を着色することで、修景的な効果を奏することもできる。
【0034】
老朽化したモルタル吹付法面に対し、図3に示した透水性コンクリート補強体10を設置する工程は、次の通りである。
先ず、老朽化したモルタルの一部を除去し、法面を露出させる。次に、第1の鉄筋12a、12bを設置し、第2の鉄筋13を第1の鉄筋12a、12bと結合すると共に、地山2に固定する。その後、透水性コンクリートを所定の厚さだけ吹き付けて透水性コンクリート補強体10を造築する。
【0035】
図4(a1)〜(a3)は、透水性コンクリート補強体10による補強構造の効果のメカニズムを模式的に示した断面図である。図4(a1)は、透水性コンクリート補強体10を設けたモルタル吹付法面の断面であり、晴天時の状態を示している。破線は、地山2の内部の地下水位面7を示している。
【0036】
図4(a2)は、降雨時の状態を示している。降雨時には地下水位面7が上昇するが、実線矢印で示すように、透水性コンクリート補強体10を介して排水されるため、前述の図6(b2)で示した従来例よりも地下水位面7の上昇は少ない。透水性コンクリート補強体10を介した排水の経路は、透水性コンクリート補強体10の表面に透過して流下する経路と、透水性コンクリート補強体10の内部を流下する経路がある。いずれにしても、老朽化したモルタル背面を流れる水流が低減され、また地表からの降水の流入量よりも透水性コンクリートからの排水量が大きいため、水圧は発生せず、老朽化モルタルが地下水圧をうけることはない。このように、本発明による透水性コンクリート補強体10は、全面的に非透水性であった従来のモルタル吹付法面の一部に対し、効果的な排水機能を付与するものである。
【0037】
従って、図4(a3)のように再び地下水位面7が低下したとき、残存した老朽化モルタルの状態は、降雨前と変化せず維持されている。つまり、既存の空洞や亀裂の拡大、並びに新たな空洞や亀裂の発生を防止できる。
【0038】
図5(a)(b)は、本発明の別の実施例を模式的に示す法面の断面図である。この実施例では、図5(a)に示すように、本来のモルタル吹付法面1A、1B及び1Cが階段状に設けられている。階段部分には、小段排水溝8がそれぞれ埋設されている。そして、モルタル吹付法面1Bの背面には、空洞3が生じ、モルタル吹付法面1Cには亀裂4が生じて、老朽化している。
【0039】
この場合、図5(b)に示すように、モルタル吹付法面1B及び1Cのそれぞれの下端近傍部分のモルタルを除去し、透水性コンクリート補強体10A及び10Bをそれぞれ造築する。モルタル吹付法面1Aについては、特に異常が生じていないためそのままである。このように、法面の一部であって中間高さの位置に透水性コンクリート補強体10を設けてもよい。「中間高さ」については、特に限定しないが、図4に示したような地下水面の上昇抑制及び地下水圧の低減の効果をある程度確保するためには、対象法面全体の高さHの80%よりも低い位置に透水性コンクリート補強体10を設けることが好ましい。
【0040】
以上に述べた通り、本発明は老朽化モルタル吹付法面の再生工法及びその補強構造を主眼とするものである。しかしながら、同じ基本原理を新規のモルタル吹付工又は植生基材吹付工に適用することも可能である。
例えば、法面安定化工を初めて適用する法面に対し、あるいは、既存の任意の法面安定化工を全面撤去した法面に対し、法面の最下端を含む区画には透水性コンクリート補強体を築造し、それ以外の部分の法面にはモルタル吹付工又は植生基材吹付工を行う。この場合、モルタル吹付工又は植生基材吹付工が安定に支持されると同時に、降雨時の地下水面上昇による地山の不安定化を抑制できる。この結果、透水性コンクリート補強体のない場合に比べて、モルタル吹付工においては寿命が長くなり、植生基材吹付工においては、法面の安定度が向上し、かつ植物の成長によって道路通行の障害となることはない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による老朽化モルタル吹付法面の再生工法を適用した法面を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の法面の正面図である。
【図3】図1に示した透水性コンクリート補強体の好適な実施例を示す拡大断面図である。
【図4】(a1)〜(a3)は、透水性コンクリート補強体による補強構造の効果のメカニズムを模式的に示した法面の断面図である。
【図5】(a)(b)は、本発明の別の実施例を模式的に示す法面の断面図である。
【図6】(b1)〜(b3)は、従来のモルタル吹付法面の老朽化のメカニズムを模式的に示した法面の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1、1A、1B、1C 老朽化モルタル吹付法面
2 地山
3 空洞
4 亀裂
5 道路
6 道路排水溝
7 地下水面
8 法面小段排水溝
10、10A、10b 透水性コンクリート補強体
11 透水性コンクリート
12a、12b 鉄筋
13 鉄筋(ロックボルト)
14 受圧板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
老朽化したモルタル吹付法面の再生工法であって、
前記モルタル吹付法面(1)の一部である最下端を含む1又は複数の区画又は中間高さに位置する1又は複数の区画におけるモルタルを除去する工程と、
前記モルタルを除去した区画に対し透水性コンクリート(11)を吹き付けることにより透水性コンクリート補強体(10)を築造する工程とを備えたことを特徴とする老朽化モルタル吹付法面の再生工法。
【請求項2】
前記透水性コンクリート補強体を築造する工程において、前記透水性コンクリート補強体の内部に第1の鉄筋(12a,12b)を配置すると共に、前記透水性コンクリート補強体を地山に固定するべく前記第1の鉄筋と結合されかつ地山(2)へ挿入された第2の鉄筋(13)を配置することを特徴とする請求項1に記載の老朽化モルタル吹付法面の再生工法。
【請求項3】
老朽化したモルタル吹付法面の補強構造であって、
前記モルタル吹付法面の一部である最下端を含む1又は複数の区画又は中間高さに位置する1又は複数の区画に対し吹き付けられた透水性コンクリートにより形成された透水性コンクリート補強体と、
前記透水性コンクリート補強体の内部に配置された第1の鉄筋と、
前記透水性コンクリート補強体を地山に固定するべく前記第1の鉄筋と結合されかつ地山へ挿入された第2の鉄筋とを備えたことを特徴とする老朽化モルタル吹付法面の補強構造。
【請求項4】
モルタル吹付工又は植生基材吹付工を行う法面の安定化工法であって、
前記法面の一部である最下端を含む1又は複数の区画又は中間高さに位置する1又は複数の区画に対し透水性コンクリートを吹き付けることにより透水性コンクリート補強体を築造する工程と、
前記透水性コンクリート補強体を築造した区画以外の部分に対しモルタル吹付工又は植生基材吹付工を行う工程とを備えたことを特徴とする法面安定化工法。
【請求項5】
前記透水性コンクリート補強体を築造する工程において、前記透水性コンクリート補強体の内部に第1の鉄筋を配置すると共に、前記透水性コンクリート補強体を地山に固定するべく前記第1の鉄筋と結合されかつ地山へ挿入された第2の鉄筋を配置することを特徴とする請求項4に記載の法面安定化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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