説明

耐火物煉瓦間の空隙検査方法

【課題】煉瓦間の空隙の厚さを非破壊にて検査可能な耐火物煉瓦間の空隙検査方法を提供する。
【解決手段】検量線スペクトル群取得工程にて、空隙厚さが異なる複数種のモデル構造物の各空隙に対応する検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)を重ね合わせて、検量線スペクトル群FBを取得する。対象スペクトル取得工程にて、検査対象となる空隙に対応する対象スペクトルFB(f)を取得する。比較工程にて、検量線スペクトル群FBと対象スペクトルFB(f)とを比較することにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測することができる。非破壊にて耐火物煉瓦間の空隙の厚さを検査できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の耐火物煉瓦を組み合わせて構成された煉瓦層にて内面が覆われた高炉などの耐熱容器において、所定の耐火物煉瓦間の空隙を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉は、煉瓦積みで構成された縦型の炉である。この高炉では、上部から50〜60%の鉄分を含む鉄鉱石やペレット、燃焼鉱などの単独またはこれらを組み合わせたものと、不純物除去のための溶剤となる石灰石及びコークス等の原料とが投入される。そして、炉の下部円周上に配置された羽口から高温の熱風が吹き込まれ、これにより炉頂から下降する原料が加熱、還元、溶融して銑鉄となり、炉床に溜まる。当該炉床に溜まった銑鉄は、定期的に炉下部に設けられた出銑口を介して炉外に取り出される。
【0003】
ここで、図1に、一般的な高炉炉体の炉床部近傍の構造を模式的に示す。図1において、高炉100は、ベース110と、このベース110上に立設された略円筒状の鉄皮120と、このベース110および鉄皮120の炉内側を被覆する状態に設けられた冷却層130と、この冷却層130上に積層されたスタンプ材層140と、このスタンプ材層140上および鉄皮120における側面中央部より上側の内面を被覆する状態に積層された煉瓦層150とを備えて構成されている。また、図1では、160は炉床を示し、170は羽口を示し、180は出銑口を示している。
冷却層130は、例えば金属製のパネル内部に冷却水を循環させるための水冷パイプが埋設された構造となっている。スタンプ材層140は、高熱伝導率の耐火物紛体、例えばカーボン粉体を高密度で圧縮して形成された層である。
【0004】
煉瓦層150は、複数の耐火物煉瓦が高精度で組み合わされて構成されたものである。具体的には、炉床部160における当該耐火物煉瓦は、円盤状の炉底面部を構成する複数枚の炉敷煉瓦151と、この炉敷煉瓦151上に積層された複数の縦長状の縦積煉瓦152と、この縦積煉瓦152上に積層された複数枚の中埋煉瓦153と、炉敷煉瓦151上に積層されかつ縦積煉瓦152および中埋煉瓦153の外周側を囲む複数のリング煉瓦154とを含んで構成されている。これら各種煉瓦は、高熱伝導率、高耐食性、低気孔率かつ均質なカーボン煉瓦にて形成され、さらに表面が高度に研磨されている。そして、隣接する煉瓦間にモルタルが塗布された状態で隙間無く密に組み合わされている。
なお、リング煉瓦154よりも上側に積層される朝顔煉瓦155は、低気孔率の粘土や高アルミナ煉瓦、カーボン質煉瓦などで構成されている。
【0005】
このような高炉100の稼動時には、炉床部160は1500℃以上にも達するので、炉床部160における煉瓦層150は内面から溶損する。そして、ある程度溶損が進行したところで高炉100は寿命に至り、高炉100全体の補修が行われる。このため、高炉100を高寿命とするためにも、冷却層130にてスタンプ材層140を介して煉瓦層150を高効率で冷却し、煉瓦層150の溶損速度を可能な限り低減する必要がある。
【0006】
この場合、煉瓦層150を高効率で冷却するためには、煉瓦層150を構成する各煉瓦間に空隙が形成されないようにして、各煉瓦間で効率良く熱伝導が行われる必要がある。特に、炉敷煉瓦151および縦積煉瓦152の間に1mm以上の厚さの空隙が形成された場合、当該空隙のために炉底部での冷却効率が著しく低下するおそれがある。これにより、縦積煉瓦152や中埋煉瓦153の熱を冷却できず、これら煉瓦の溶損が劇的に進行し、結果として、炉敷煉瓦151、炉底部におけるスタンプ材層140や冷却層130、およびベース110にも銑鉄が侵食して各部を破壊する問題を引き起こすおそれがある。
【0007】
この点を踏まえ、高炉100の改修において溶損した耐火物煉瓦を新たなものに取り替える際に、煉瓦層150を構築した段階で、炉敷煉瓦151および縦積煉瓦152の間などの各煉瓦間に空隙が形成されていないか否かを検査し、適宜補修する必要がある。このような検査は、構築した煉瓦層150を損傷させることなく、非破壊にて行われることが好ましい。
【0008】
ここで、従来、金属製水冷冷却パネルの鉄皮側外面部に超音波探触子を接触させ超音波を入射し、内面からの反射信号を検出して信号の伝播時間からパネル残存厚を計測する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の計測法では、金属製水冷冷却パネルの露出面に超音波探触子を直接接触させる。超音波探触子は接続ケーブルにより探傷器に接続され、探傷器からの電気信号により超音波を発生して金属製水冷冷却パネル内に超音波信号を送出する。超音波信号は金属製水冷冷却パネル内を伝播し、金属製水冷冷却パネルの炉内面側で反射する。反射信号は超音波探触子で検出され、電気信号に変換されて探傷器に送られる。探傷器では、超音波の送出から反射した超音波の検出までに経過した時間を測定し、これから金属製水冷冷却パネルの厚みを計測する、という構成が採用されている。
【0009】
このような上記特許文献1に記載の計測法を、図1に示す煉瓦層150における各煉瓦間の空隙検査に応用した場合、各煉瓦間の空隙の有無を非破壊にて検査することが可能となるものと考えられる。
すなわち、超音波探触子を所定の煉瓦(煉瓦Aと称す)の露出面に接触させて超音波を発信し、この煉瓦Aに当接する煉瓦(煉瓦Bと称す)との界面にて反射した超音波を超音波探触子で検出する。これにより、煉瓦A,B間に空隙が形成されていない場合は、煉瓦Aにおける煉瓦Bと当接する端面からの反射波と、煉瓦Bにおける煉瓦A,B界面と反対側の端面からの反射波との双方が超音波探触子にて検出される。一方、煉瓦A,B間に空隙が形成されている場合は、煉瓦Aにおける煉瓦Bと当接する端面からの反射波のみが超音波探触子にて検出可能であると考えられる。したがって、上記特許文献1に記載の計測法によれば、各煉瓦間の空隙の有無を非破壊にて検査することが可能と考えられる。
【0010】
【特許文献1】特開平11−37744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載の計測法では、各煉瓦間の空隙の有無を非破壊にて検査できるものの、該空隙の量までをも検出することはできない。すなわち、上記探傷器では、超音波の発信時から反射波の検出時までの時間に基づいて煉瓦Aの厚みを計測できるものの、煉瓦A,B間に空隙が形成されている場合は、該空隙のために煉瓦Bからの反射波を検出できないため、煉瓦A,B間における空隙の厚さまでは計測できない。
このため、煉瓦間の空隙厚さが例えば1mm未満であれば補修の必要がない場合でもこれを判断できず、空隙厚さの大小に関わらずに、空隙が形成されている全ての煉瓦を取り外して再度接着剤を塗布して組み込むなど、無駄な作業が増えてしまうおそれがある。結果として、高炉100の補修に長時間を費やしてしまい、高炉100の稼動停止期間が長期化されてしまうおそれがある。
【0012】
本発明は、上述したような問題点に鑑みて、煉瓦間の空隙の厚さを非破壊にて検査可能な耐火物煉瓦間の空隙検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、複数の耐火物煉瓦を組み合わせて構成された煉瓦層にて内面が覆われた耐熱容器において、所定の耐火物煉瓦間の空隙を超音波にて検査する方法であって、予め、検査対象となる空隙を間に挟んで隣接する一対の耐火物煉瓦と同材質かつ同形状の一対のモデル煉瓦を用い、これらモデル煉瓦を当該一対の耐火物煉瓦と同様に配列させ、さらに当該モデル煉瓦間の空隙の厚さが異なる複数種のモデル構造物を準備しておくモデル構造物準備工程、このモデル構造物準備工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物における前記一対のモデル煉瓦のうち一方のモデル煉瓦の露出面に、広帯域の超音波を発信可能な発信部、および、広帯域の受信波を受信可能な受信部を設置する受発信部設置工程、この受発信部設置工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物において、前記発信部より前記露出面から前記空隙へ向けて前記超音波を発信し、この超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信する受発信工程、この受発信工程後に実施され、当該受信波より、それぞれの前記モデル構造物における前記一方のモデル煉瓦の前記空隙との対向面からの反射波成分を抽出する反射波抽出工程、この反射波抽出工程後に実施され、当該反射波成分に基づいて反射波スペクトルを取得し、この反射波スペクトルよりそれぞれの前記モデル構造物における前記空隙に対応した検量線スペクトルを取得する検量線スペクトル取得工程、および、この検量線スペクトル取得工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物における前記空隙に対応した前記検量線スペクトルをそれぞれ重ね合わせた検量線スペクトル群を取得する検量線スペクトル群取得工程、を含んだ前工程と、前記一対の耐火物煉瓦のうち一方の耐火物煉瓦の露出面に、前記発信部および前記受信部を、前記前工程における前記受発信部設置工程と同様の配置で設置する受発信部設置工程、この受発信部設置工程後に実施され、前記発信部より前記露出面から前記検査対象となる空隙へ向けて超音波を発信し、この超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信する受発信工程、この受発信工程後に実施され、当該受信波より、前記一方の耐火物煉瓦における前記検査対象となる空隙との対向面からの反射波成分を抽出する反射波抽出工程、この反射波抽出工程後に実施され、当該反射波成分に基づいて反射波スペクトルを取得し、この反射波スペクトルより前記検査対象となる空隙に対応した対象スペクトルを取得する対象スペクトル取得工程、および、この対象スペクトル取得工程後に実施され、前記検量線スペクトル群と前記対象スペクトルとを比較することにより、前記検査対象となる空隙の厚さを計測する比較工程、を含んだ実測工程と、を備えて構成されることを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記前工程および前記実測工程のそれぞれにおける前記反射波抽出工程では、前記受信部にて受信した受信波である広帯域受信波関数G(t)を取得し、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分の起生時刻thjを取得し、0≦時間t≦2thjにおいて、時間t=0,2thjで0かつ時間t=thjで1となる三角関数と、時間t>2thjにおいて0となる関数とからなる時系列波抽出関数TGC(t)を取得し、下記式(1)に基づいて、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分に対応する反射波関数GA(t)を取得することを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0015】
【数1】

(n:自然数)
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記前工程および前記実測工程のそれぞれにおける前記反射波抽出工程では、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分の起生時刻thjは、下記式(2)に基づいて算出することを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0017】
【数2】

h:前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記露出面から前記対向面までの距離
d:前記受信部と前記発信部との中心間距離
v:前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦中における超音波の速度
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記前工程における前記検量線スペクトル取得工程、および、前記実測工程における前記対象スペクトル取得工程では、前記反射波抽出工程にて抽出した前記反射波成分に基づいて反射波スペクトルFA(f)を取得し、この反射波スペクトルFA(f)より、スペクトル値が最大となる周波数であるf値を取得し、0≦周波数f≦2fにおいて、周波数f=0で0かつ周波数f=2fで1となる三角関数、および、周波数f>2fにおいて0となる関数からなる第1周波数フィルター関数X(f)と、0≦周波数f≦2fにおいて、周波数f=0で1、周波数f=fで第1周波数フィルター関数X(f)と交わり、かつ周波数f=2fで0となる三角関数、および、周波数f>2fにおいて0となる関数からなる第2周波数フィルター関数X(f)とを取得し、下記式(3)に基づいて、検量線スペクトルFB(f)あるいは対象スペクトルFB(f)を取得することを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0019】
【数3】

(n1、n2:自然数)
【0020】
請求項5に記載の発明は、複数の耐火物煉瓦を組み合わせて構成された煉瓦層にて内面が覆われた耐熱容器において、所定の耐火物煉瓦間の空隙を超音波にて検査する方法であって、予め、検査対象となる空隙を間に挟んで隣接する一対の耐火物煉瓦と同材質かつ同形状の一対のモデル煉瓦を用い、これらモデル煉瓦を当該一対の耐火物煉瓦と同様に配列させ、さらに当該モデル煉瓦間の空隙の厚さが異なる複数種のモデル構造物を準備しておくモデル構造物準備工程、このモデル構造物準備工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物における前記一対のモデル煉瓦のうち一方のモデル煉瓦の露出面に、広帯域の超音波を発信可能な発信部、および、広帯域の受信波を受信可能な受信部を設置する受発信部設置工程、この受発信部設置工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物において、前記発信部より前記露出面から前記空隙へ向けて前記超音波を発信し、この超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信する受発信工程、この受発信工程後に実施され、当該受信波より、それぞれの前記モデル構造物における前記一方のモデル煉瓦の前記空隙との対向面からの反射波成分を抽出する反射波抽出工程、この反射波抽出工程後に実施され、当該反射波成分に基づいて反射波スペクトルを取得し、それぞれの前記モデル構造物における前記空隙に対応した、当該反射波スペクトルにおける周波数0から所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積を取得するスペクトル面積取得工程、および、このスペクトル面積取得工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物における前記空隙の厚さと、これに対応する前記スペクトル面積との関係を示す検量線を取得する検量線取得工程、を含んだ前工程と、前記一対の耐火物煉瓦のうち一方の耐火物煉瓦の露出面に、前記発信部および前記受信部を、前記検量線スペクトル群取得工程と同様の配置で設置する受発信部設置工程、この受発信部設置工程後に実施され、前記発信部より前記露出面から前記検査対象となる空隙へ向けて前記超音波を発信し、この超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信する受発信工程、この受発信工程後に実施され、当該受信波より、前記一方の耐火物煉瓦における前記検査対象となる空隙との対向面からの反射波成分を抽出する反射波抽出工程、この反射波抽出工程後に実施され、当該反射波成分に基づいて反射波スペクトルを取得し、前記検査対象となる空隙に対応した、当該反射波スペクトルにおける周波数0から前記所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積を取得するスペクトル面積取得工程、および、このスペクトル面積取得工程後に実施され、前記検量線と、前記検査対象となる空隙に対応する前記スペクトル面積とを比較することにより、前記検査対象となる空隙の厚さを計測する比較工程、を含んだ実測工程と、を備えて構成されることを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記前工程および前記実測工程におけるそれぞれの前記反射波抽出工程では、前記受信部にて受信した受信波である広帯域受信波関数G(t)をフーリエ変換して広帯域受信波スペクトルF(f)を取得し、この広帯域受信波スペクトルF(f)より、下記式(4)に基づいて変換広帯域受信波関数G’(t)を取得し、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分の起生時刻thjを取得し、0≦時間t≦2thjにおいて、時間t=0,2thjで0かつ時間t=thjで1となる三角関数と、時間t>2thjにおいて0となる関数とからなる時系列波抽出関数TGC(t)を取得し、下記式(5)に基づいて、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分に対応する反射波関数GA’(t)を取得し、前記前工程および前記実測工程におけるそれぞれの前記スペクトル面積取得工程では、前記反射波関数GA’(t)より、下記式(6)に基づいて反射波スペクトルFA’(f)を取得し、それぞれの前記モデル構造物における前記空隙、あるいは、前記検査対象となる空隙に対応した、当該反射波スペクトルFA’(f)における周波数0から前記所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積を取得することを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0022】
【数4】

【数5】

(n:自然数)
【数6】

【0023】
請求項7に記載の発明は請求項6に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記前工程および前記実測工程におけるそれぞれの前記反射波抽出工程では、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分の起生時刻thjは、下記式(7)に基づいて算出することを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0024】
【数7】

h:前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記露出面から前記対向面までの距離
d:前記受信部と前記発信部との中心間距離
v:前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦中における超音波の速度
【0025】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記前工程および前記実測工程のそれぞれにおける前記受発信工程では、前記発信部にて任意の時間差で複数回超音波を発信し、各発信毎に前記超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信し、前記前工程および前記実測工程のそれぞれにおける前記反射波抽出工程では、前記受信部にて受信した複数回分の受信波を加算平均して、この加算平均した受信波より、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面から反射波成分を抽出することを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0026】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記発信部より発信される超音波は縦波であることを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0027】
請求項10に記載の発明は、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記耐熱容器は高炉であり、前記耐火物煉瓦はカーボン煉瓦であり、当該カーボン煉瓦にて構成された前記煉瓦層の外側は、冷却層にて覆われていることを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【0028】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、前記検査対象となる空隙は、高炉の炉床部における炉敷煉瓦と縦積煉瓦との間の空隙であることを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法である。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、耐火物煉瓦の露出面に発信部および受信部を設置して、検査対象となる空隙に対応する対象スペクトルあるいはスペクトル面積を取得するので、非破壊にて耐火物煉瓦間の空隙検査を実施することができる。
そして、各検量線スペクトルの形状は、煉瓦間の空隙厚さ変化に対応して様々に変化するので、煉瓦間の空隙厚さとスペクトル形状との関係を表す検量線スペクトル群を得ることができる。また、反射波スペクトルのスペクトル面積は、煉瓦間の空隙厚さ変化に対応して変化するので、煉瓦間の空隙厚さと反射波スペクトルのスペクトル面積との関係を表す検量線を得ることができる。したがって、予め前工程にて取得した検量線スペクトル群と、実測工程にて取得した対象スペクトルとを比較する、あるいは、予め前工程にて取得した検量線と、実測工程にて取得した検査対象となる空隙に対応するスペクトル面積とを比較することにより、検査対象となる空隙の厚さを計測することができる。
これにより、例えば、高炉の補修に際して、縦積煉瓦下空隙の厚さを非破壊で計測できるので、補修作業が効率化され、高炉の補修時間を短縮化できる。結果として、高炉の稼動停止期間を短縮できるという効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、煉瓦間の空隙厚さが大きくなるにつれて、煉瓦における当該空隙との対向面からの反射波成分の強度が大きくなるという、本発明者により新規に見出された現象を利用するものである。なお、一般的には、煉瓦間の空隙厚さが変化しても、当該反射波成分の強度は同一であると認識されている。
【0031】
(1)第1実施形態
以下に、本発明の第1実施形態について図面に基づいて説明する。図2は、本発明の第1実施形態における空隙検査システムを示す模式図である。
なお、図2には、図1に示す高炉100における炉敷煉瓦151および縦積煉瓦152が示されており、これら煉瓦間には接着剤としてのモルタル156が介在している。そして、図中Aは、炉敷煉瓦151および縦積煉瓦152の間に形成された空隙の一例を示すものであり、モルタルが充填されていない空間となっている。
【0032】
(1-1)空隙検査装置1の構成
図2において、1は空隙検査装置であり、この空隙検査装置1は、図1に示すような高炉100における炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間の空隙A(検査対象となる空隙)を検査する。このような空隙検査装置1は、発信部2と、受信部3と、制御装置4とを備えて構成されている。
【0033】
発信部2は、縦積煉瓦152の露出面(図2中上面)上に設置され、炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間の空隙Aへ向けて広帯域(例えば、0〜625kHz)の超音波W1を発信する。この発信部2は、ケーブル21を介して、各種信号が送受信可能な状態で制御装置4に接続されている。
【0034】
受信部3は、縦積煉瓦152の露出面(図2中上面)上における発信部2の近傍に設置され、広帯域(例えば、0〜625kHz)の受信波W2を経時的に受信する。この受信部3は、ケーブル31を介して、各種信号が送受信可能な状態で制御装置4に接続されている。
【0035】
制御装置4は、空隙検査装置1全体の動作を制御する装置である。
すなわち、制御装置4は、後述する前工程における、受発信工程と、反射波抽出工程と、検量線スペクトル取得工程と、検量線スペクトル群取得工程とを実施する。また、制御装置4は、後述する実測工程における、受発信工程と、反射波抽出工程と、対象スペクトル取得工程と、比較工程とを実施する。
なお、制御装置4は、表示装置41を備えており、当該比較工程にて、検量線スペクトル群および対象スペクトルを表示装置41に比較可能に表示する。
【0036】
(1-2)空隙検査装置1を使用する場合の高炉の状態
ここで、空隙検査装置1を使用する場合の高炉100の状態について説明する。
図1に示す高炉100の改修は、主として、鉄皮120と、冷却層130と、スタンプ材層140と、煉瓦層150とを取り除き、新たに、鉄皮120と、冷却層130と、スタンプ材層140と、煉瓦層150とを構築することにより行う。なお、鉄皮120は流用し、解体しない場合もある。
例えば、高炉100を基礎上に設置した状態で改修作業を行う場合、高炉100近傍に据え付けた大型クレーン(図示せず)を用い、炉体の上部から炉底部まで順次解体しながら、炉頂から解体した部材を外部に取り出す。そして、全く逆の手順で炉頂から炉内部に新たな部材を搬入して新たなスタンプ材層140および煉瓦層150を構築する。
また、例えば、高炉100そのものを複数のブロックに解体して基礎上から搬出し、該基礎以外の場所にて予め構築した新たな複数のブロックを現場に搬入して組み合わせる、いわゆるブロック工法により改修作業を行う場合もある。
【0037】
そして、本実施形態における空隙検査装置1を使用する高炉100の状態としては、図2に示すものが例示できる。この状態は、上記炉頂クレーンを用いた工法または上記ブロック工法のいずれかにて高炉の補修作業が行われた後で、縦積煉瓦152上に中埋煉瓦153(図1参照)が積層されていないものである。このような状態の高炉100では、煉瓦層150における各煉瓦間にモルタルなどが塗布された状態で、隙間無く密に組み合わされているものの、補修作業中に何らかの原因で、図2に示すような空隙Aが形成されている可能性がある。
【0038】
(1-3)耐火物煉瓦間の空隙検査方法
次に、本実施形態に係る耐火物煉瓦間の空隙検査方法、すなわち、上記した空隙検査装置1を用いて、高炉100における炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間の空隙Aを検査する方法について説明する。
本実施形態に係る耐火物煉瓦間の空隙検査方法は、大きく分けて、予め炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152とを模したモデル構造物を用いて検量線スペクトル群を取得しておく前工程と、実際の高炉100における炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間の空隙Aを検査する実測工程とを備えて構成される。
【0039】
(1-4)前工程
前工程では、モデル構造物準備工程と、受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、検量線スペクトル取得工程と、検量線スペクトル群取得工程とを順に実施する。
なお、上述したように、この前工程における受発信工程、反射波抽出工程、検量線スペクトル取得工程および検量線スペクトル群取得工程については、制御装置4にて実施される。
【0040】
モデル構造物準備工程では、図2に示すような検査対象となる空隙Aを間に挟んで隣接する一対の炉敷煉瓦151および縦積煉瓦152と同材質かつ同形状の一対のモデル煉瓦を用いる。そして、これらモデル煉瓦を、炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152と同様に配列させる。さらに当該モデル煉瓦間の空隙の厚さΔwが異なる複数種のモデル構造物を準備しておく。
すなわち、本実施形態におけるモデル構造物とは、図1に示す高炉100にて実際に使用される複数の炉敷煉瓦151および縦積煉瓦152をモデル煉瓦とし、これを実際に使用される状態で組み合わせた構造物である。さらに、特定位置の縦積煉瓦152(モデル煉瓦)およびこれに当接する炉敷煉瓦151(モデル煉瓦)間に、任意の厚さΔwの空隙を形成したものである。このような空隙の厚さΔwは、例えば0〜4.0mmの範囲で調整され、本実施形態では、例えばΔw=0、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0の6種類のモデル構造物を準備する。
【0041】
受発信部設置工程では、それぞれのモデル構造物における一対のモデル煉瓦のうち一方のモデル煉瓦の露出面、すなわち、縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦の上面(図2中上面)に、発信部2および受信部3を設置する。このような発信部2および受信部3は、当該露出面上に、互いに近接する位置に対をなして設けられる。なお、発信部2および受信部3は、当該露出面上に一対で設けられるのに限らず、2対以上設けられてもよい。
【0042】
次に、受発信工程について、図面に基づいて説明する。
図3は、発信部から発信される超音波を示す図であり、(A)は周波数とスペクトル値との関係を示し、(B)は時間と信号強度との関係を示す。
受発信工程では、それぞれのモデル構造物において、発信部2より露出面から空隙Aへ向けて超音波W1を発信し、この超音波W1に対応する受信波W2を受信部にて受信する。
【0043】
具体的には、受発信工程では、制御装置4は、発信部2にて任意の時間差で複数回(例えば発信回数は300回)、超音波W1を高速で発信させる。このような超音波W1は、図3(B)に示すような広帯域入力波関数G(t)で表され、この広帯域入力波関数G(t)をフーリエ変換すると、図3(A)に示す広帯域入力波スペクトルF(f)で表される。
【0044】
そして、制御装置4は、発信部2にて複数回の超音波W1が発信されると、各発信毎に超音波W1に対応する受信波W2を、受信部3にて経時的に受信させる。このような受信波W2には、縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦における空隙Aとの対向面(図中下面)からの反射波成分が含まれている。また、煉瓦間空隙が存在しない場合は、受信波W2には、炉敷煉瓦151に対応するモデル煉瓦における空隙Aとの対向面(図中上面)からの反射波成分も含まれる。
【0045】
なお、発信部2より発信される超音波W1は縦波であることが好ましい。これにより、超音波W1は煉瓦中にて良好に伝播し、受信部3が受信する受信波W2の質を高めることが可能となる。また、縦積煉瓦152等に使用されるカーボン煉瓦は、内部空孔や不純物が極めて少なく、均質かつ緻密であるので、超音波が内部空孔などにて分散されずに煉瓦中にて良好に伝播するため、受信部3が受信する受信波W2の質が高いものとなる。
【0046】
次に、反射波抽出工程について、図面に基づいて説明する。
図4は、各モデル構造物において受信部にて受信された受信波を示す図であり、図中左側は周波数とスペクトル値との関係を示し、図中右側は時間と信号強度との関係を示す。図5は、各モデル構造物における一方の煉瓦の空隙との対向面からの反射波成分を示す図であり、図中左側は周波数とスペクトル値との関係を示し、図中右側は時間と信号強度との関係を示す。
反射波抽出工程では、受発信工程にて受信部3が受信した受信波W2より、それぞれのモデル構造物における一方のモデル煉瓦の空隙との対向面、すなわち、それぞれのモデル構造物における縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦の下面(図2中下面)からの反射波成分を抽出する。
以下、このような縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦の下面からの反射波成分、および、縦積煉瓦152における検査対象となる空隙Aとの対向面(図2下面)からの反射波成分をAと定義して説明する。なお、jは空隙の厚さΔwに対応する数字であり、例えば空隙の厚さΔwが0の場合はj=1とし、Δwが0.5の場合はj=2、Δwが1.0の場合はj=3、、、などとする。
【0047】
具体的には、反射波抽出工程では、制御装置4は、受発信工程にて受信部3より得られた複数回分(例えば300回分)の受信波W2を超高速に加算平均して、図4に示すような加算平均された受信波を取得する。このような加算平均された受信波は、例えば、図4右側に示す広帯域受信波関数G(t)で表され、この広帯域受信波関数G(t)をフーリエ変換すると、例えば、図4左側に示すような広帯域受信波スペクトルF(f)で表される。これにより、探知目標からの反射波を明確化することが可能となる。すなわち、縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦における空隙Aとの対向面(図中下面)からの反射波成分や、炉敷煉瓦151に対応するモデル煉瓦における空隙Aとの対向面(図中上面)からの反射波成分などが明確に顕れ、受信波W2におけるその他のノイズ成分は平準化される。
なお、このような加算平均法としては、例えば、「超音波によるコンクリートの内部探知1〜4、日本工業出版、検査技術1999年5〜8月号」に開示された従来の技術を採用することができる。
【0048】
そして、制御装置4は、縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦の下面(図2中下面)からの反射波成分Aの起生時刻thjを取得する。ここで、起生時刻thjは、発信部2からの超音波W1の発信時刻を0として、受信部3にて反射波成分Aを受信した時刻のことであり、上記式(2)に基づいて算出できる。例えば、縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦の上面(露出面)から下面(対向面)までの距離hが1600mmで、受信部3と発信部2との中心間距離dが500mmで、モデル煉瓦中における超音波の速度vが3100m/秒である場合、上記式(2)より起生時刻thjは1020μ秒と計算される。
【0049】
また、制御装置4は、起生時刻thjに基づいて時系列波抽出関数TGC(t)を取得する。この時系列波抽出関数TGC(t)は、0≦時間t≦2thjにおいて、時間t=0,2thjで0かつ時間t=thjで1となる三角関数と、時間t>2thjにおいて0となる関数とからなる。
そして、制御装置4は、広帯域受信波関数G(t)および時系列波抽出関数TGC(t)を上記式(1)に代入することにより、例えば図5右側に示すように反射波成分Aに対応する反射波関数GA(t)を取得する。つまり、広帯域受信波関数G(t)〜G(t)に対して時系列波抽出関数TGC(t)をn回積算することにより、広帯域受信波関数G(t)〜G(t)のうち起生時刻thj近傍の成分のみが残り、反射波成分Aである反射波関数GA(t)〜GA(t)が抽出されたことになる。なお、図5右側に示す反射波関数GA(t)〜GA(t)は、上記式(1)中のnの値を420として得たものである。
【0050】
次に、検量線スペクトル取得工程について、図面に基づいて説明する。
図6は、第1周波数フィルター関数X(f)および第2周波数フィルター関数X(f)を示す図である。図7は、検量線スペクトル群および対象スペクトルを比較可能な状態で示した図である。
検量線スペクトル取得工程では、反射波抽出工程にて取得した反射波関数GA(t)に基づいて反射波スペクトルFA(f)を取得し、この反射波スペクトルFA(f)からそれぞれのモデル構造物における空隙に対応した検量線スペクトルFB(f)を取得する。
【0051】
具体的には、検量線スペクトル取得工程では、制御装置4は、反射波抽出工程にて抽出した反射波関数GA(t)をフーリエ変換して、例えば図5左側に示すような反射波スペクトルFA(f)を取得する。そして、制御装置4は、反射波スペクトルFA(f)におけるスペクトル値が最大となる特定の振動数(f値(fDj))を自動特定する。
【0052】
そして、制御装置4は、上記f値に基づいて、図6に示すような第1周波数フィルター関数X(f)および第2周波数フィルター関数X(f)を取得する。
第1周波数フィルター関数X(f)は、0≦周波数f≦fmaxにおいてsin((π/2)×(f/fmax))で表される三角関数と、周波数f>fmaxにおいて0となる関数とからなる(fmax=2fDj)。
第2周波数フィルター関数X(f)は、0≦周波数f≦fmaxにおいてcos((π/2)×(f/fmax))で表される三角関数と、周波数f>fmaxにおいて0となる関数からなる(fmax=2fDj)。
【0053】
さらに、制御装置4は、反射波スペクトルFA(f)と、第1周波数フィルター関数X(f)と、第2周波数フィルター関数X(f)とを、上記式(3)に代入することにより、図7に示す検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)を取得する。つまり、反射波スペクトルFA(f)〜FA(f)に対して、第1周波数フィルター関数X(f)をn1回積算し、かつ、第2周波数フィルター関数X(f)をn2回積算することにより、反射波スペクトルFA(f)〜FA(f)のうちf値を中心とする狭帯域成分波である検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)のみが抽出される。なお、図5左側に示す検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)は、上記式(3)中のn1、n2の値を2として得たものである。
このようなf値は、発信部2および受信部3の位置、煉瓦材質、煉瓦形状、煉瓦サイズ、検査対象の耐火物煉瓦の全体の煉瓦層における位置などの諸条件の組み合わせに応じて異なってくる。そして、このf値を中心にして上記式(3)に基づいて検量線スペクトルFB(f)を抽出することにより、探知目標からの反射波を特定することが可能となる。
【0054】
次に、検量線スペクトル群取得工程について説明する。
検量線スペクトル群取得工程では、制御装置4は、それぞれのモデル構造物における空隙に対応した検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)をそれぞれ重ね合わせた検量線スペクトル群FBを取得する。
【0055】
ここで、本実施形態では、煉瓦間の空隙厚さΔwが大きくなるにつれて、煉瓦における当該空隙との対向面からの反射波成分の強度が大きくなるという現象を利用している。これにより、各検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)は煉瓦間の空隙厚さΔwが大きくなるにつれて、徐々に大きくなる状態に形状変化する。
このため、検量線スペクトル群FBは、煉瓦間の空隙厚さΔwとスペクトル形状との関係を表すものとなり、検査対象となる空隙Aの後述する対象スペクトルFB(f)との比較により、当該空隙Aの厚さΔwが測定可能となる。
特に、空隙の厚さΔwが0〜3.0mmの範囲で、検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)の形状に明確な差が生じているので、検査対象となる空隙Aの厚さΔwがこの範囲にある場合、高い精度で当該空隙Aの厚さΔwが測定可能となる。したがって、空隙の厚さΔwが0〜3.0mmの範囲で多数種のモデル構造物を準備しておけば、より精密に煉瓦間空隙の厚さΔwを測定することが可能となる。なお、空隙の厚さΔwが3.0mmよりも大きくなると、スペクトル形状に大差がなくなり、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを測定し得ない。
以上にて前工程が完了する。
【0056】
(1-5)実測工程
実測工程では、受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、対象スペクトル取得工程と、比較工程とを順に実施する。
なお、上述したように、この実測工程における受発信工程、反射波抽出工程、対象スペクトル取得工程および比較工程については、制御装置4にて実施される。また、この実測工程における受発信部設置工程、受発信工程、反射波抽出工程および対象スペクトル取得工程は、上述した前工程における受発信部設置工程、受発信工程、反射波抽出工程および検量線スペクトル取得工程のそれぞれと同様の構成であるため、説明を簡略化する。
【0057】
受発信部設置工程では、図2に示すように、縦積煉瓦152の露出面すなわち上面に、発信部2および受信部3を、前工程における受発信部設置工程と同様の配置で設置する。
受発信工程では、制御装置4は、発信部2より縦積煉瓦152の上面から検査対象となる空隙Aへ向けて超音波W1(図2参照)を発信させ、この超音波W1に対応する受信波W2(図2参照)を受信部3にて受信させる。
反射波抽出工程では、当該受信波W2より、縦積煉瓦152における検査対象となる空隙Aとの対向面(図2下面)からの反射波成分Aを抽出する。
対象スペクトル取得工程では、当該反射波成分Aである反射波関数GA(t)に基づいて反射波スペクトルFA(f)を取得し、この反射波スペクトルFA(f)より、検査対象となる空隙Aに対応した図7に示すような対象スペクトルFB(f)を取得する。
【0058】
次に、比較工程について説明する。
比較工程では、検量線スペクトル群FBと対象スペクトルFB(f)とを比較することにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測する。
具体的には、制御装置4は、図7に示すように、対象スペクトルFB(f)を検量線スペクトル群FB上に重ね合わせて表示装置41に表示させ、検量線スペクトル群FBと対象スペクトルFB(f)とを比較可能な状態にする。そして、利用者は、表示装置41に表示された検量線スペクトル群FBと対象スペクトルFB(f)とを比較して、複数の検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)のうち、対象スペクトルFB(f)と波形が最も近似する検量線スペクトルに基づいて、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測する。
【0059】
例えば、図7では、対象スペクトルFB(f)は検量線スペクトルFB(f)とFB(f)との間に存在するので、検査対象となる空隙Aの厚さΔwは1.0mm〜2.0mmであると探知できる。特に、検量線スペクトル群FBでは厚さΔwの増加に伴ってスペクトル形状が図面上方に向かって大きく伸びていく傾向にあるため、対象スペクトルFB(f)が検量線スペクトルFB(f)とFB(f)との中間位置にあることから、Δwは1.5mmであると探知できる。
これにより、高炉100における複数の縦積煉瓦152のそれぞれの下面に存在する空隙Aの有無を確認するだけでなく、さらに当該空隙Aの厚さΔwを測定することが可能となる。
【0060】
(1-6)実施例
次に、第1実施形態の効果を確認するための実施例について、図面に基づいて説明する。図8は、本実施例にて使用したモデル構造物を模式的に示したもので、(A)は側面図であり、(B)は平面図である。なお、図8では、空隙検査装置1のうち発信部2および受信部3のみを示し、その他の構成要素は図示省略している。
【0061】
(1-6-1)実験装置
本実施例において使用した空隙検査装置およびモデル構造物について説明する。
空隙検査装置には、株式会社エッチアンドビーシステム社製のUCM2000を使用する。当該装置は図2に示す空隙検査装置1と同様の構成となっている。この装置における発信部2および受信部3(図8参照)は、それぞれ直径70mmの略円柱状に形成された探触子であり、それぞれ2.5〜625kHzの広帯域の超音波を発信・受信可能である。
【0062】
モデル構造物150Aには、図8に示すように、モデル煉瓦としての4枚の炉敷煉瓦151Aと、モデル煉瓦としての3つの縦積煉瓦152A〜152Cとを備えたものを使用した。
各炉敷煉瓦151Aは、熱伝導率が30kW/mのカーボン煉瓦であり、厚さ140mm、縦寸法600mm、横寸法1200mmの長方形板状に形成されている。これら4枚の炉敷煉瓦151Aは、図8(B)に示す状態で並列させて、それぞれの対向する端部同士にて十字状の目地151Bが形成されている。
縦積煉瓦152A〜152Cは、熱伝導率が30kW/mのカーボン煉瓦であり、それぞれ高さ1600mm、縦幅寸法600mm、横幅寸法750mmの四角柱状に形成されている。これら縦積煉瓦152A〜152Cは、複数の炉敷煉瓦151Aの上に縦置きされ、それぞれの下端面の中心が目地151Bの長手部分に沿っている。それぞれの縦積煉瓦152A〜152Cの下端面と、炉敷煉瓦151Aの上面との間にはモルタル156が塗布されている。
【0063】
このモルタル156により、煉瓦間の空隙厚さΔwを調整している。すなわち、図8(A)右に位置する縦積煉瓦152Aの下端面にはモルタルを一様に塗布して、対向する炉敷煉瓦151Aの上面との隙間を無くしている(Δw=0mm)。また、図8(A)中央に位置する縦積煉瓦152Bの下端面には、外周部のみにモルタルを塗布して、対向する炉敷煉瓦151Aの上面との間に厚さΔw=0.5mmの空隙Aを形成している。これと同様にして、図8(A)左に位置する縦積煉瓦152Cの下端面には、厚さΔw=1.0mmの空隙Aを形成している。また、図8に示すモデル構造物150Aと同様のモデル構造物(図示しない)を更に設けて、このモデル構造物において、各煉瓦間の空隙Aの厚さをΔw=2.0、3.0、4.0mmに調整した。
【0064】
(1-6-2)炉敷煉瓦目地の測定結果に及ぼす影響の検討
図8に示すモデル構造物150Aにおいて、縦積煉瓦152A〜152Cおよび炉敷煉瓦151A間の空隙厚さΔwの探知を行う上で、炉敷煉瓦151Aの目地151Bによる測定結果への影響の有無を検討した。
測定は、空隙厚さΔw=0mmの縦積煉瓦152Aおよび炉敷煉瓦151A間界面と、空隙厚さΔw=0.5mmの縦積煉瓦152Bおよび炉敷煉瓦151A間の空隙Aに対して行った。発信部2および受信部3は、縦積煉瓦152A,152Bのそれぞれの上面に4対ずつ配置し、図8(B)に示すように該上面の中心から放射状に広がる状態に設けている。そして、測定は、縦積煉瓦152A,152B上面の中心点を間に挟んで対向する発信部2および受信部3間にて、すなわち、図8(B)中破線I〜IVに示す4つの測定位置における発信部2および受信部3間にて行った。なお、当該対向する発信部2および受信部3の中心間距離dは、それぞれ150mmとした。図9に、空隙厚さΔw=0mmの場合(j=1)における受信部が検知した各受信波を示し、図10に、空隙厚さΔw=0.5mmの場合(j=2)における受信部が検知した各受信波を示す。
【0065】
図9において、図中二点鎖線で示す枠線L1にて囲まれた部位は、縦積煉瓦152Aの下端面からの反射波であり、枠線L2にて囲まれた部位は、炉敷煉瓦151Aの上面からの反射波である。空隙厚さΔw=0mmの場合、縦積煉瓦152A−炉敷煉瓦151A間はモルタルで密着しているため、超音波がモルタル間を伝播し、各受信部3が受信する受信波には、縦積煉瓦152Aの下端面からの反射波だけでなく炉敷煉瓦151A上面からの反射波も含まれたものと考えられる。
また、図9では、測定位置I〜IVにおいて、それぞれの受信波の波形には殆ど差異が見受けられない。これより、縦積煉瓦−炉敷煉瓦間の空隙厚さΔw=0mmの場合、目地151Bからの影響は受けないことが分かった。
【0066】
図10において、図中二点鎖線で示す枠線L1にて囲まれた部位は、縦積煉瓦152Bの下端面からの反射波である。空隙厚さΔw=0.5mmの場合、当該空隙により発信部2からの超音波は炉敷煉瓦151A上面まで届かず、したがって、受信部3は炉敷煉瓦151A下面からの反射波を受信しなかったものと考えられる。
また、図10では、測定位置I〜IVにおいて、それぞれの受信波の波形には殆ど差異が見受けられない。したがって、縦積煉瓦−炉敷煉瓦間の空隙厚さΔw=0.5mmの場合も、目地151Bからの影響は受けないことが分かった。
【0067】
以上より、実際の高炉において空隙検査を行う場合にも、縦積煉瓦の下面側に設置された炉敷煉瓦の目地が空隙検査に影響を及ぼすことがないことが分かった。
【0068】
(1-6-3)縦積煉瓦下空隙の有無の検知に及ぼす、発信部2および受信部3の中心間距離dの影響
次に、縦積煉瓦下空隙の有無の検知に及ぼす、発信部2および受信部3の中心間距離dの影響について、図11に示すモデル構造物150Aを用いて検討した。図11は、本実施例にて使用したモデル構造物を模式的に示した平面図であり、(A)は発信部および受信部を縦積煉瓦上面の長手辺と平行する状態に設置した場合を示し、(B)は発信部および受信部を縦積煉瓦上面の対角線上に設置した場合を示す。なお、図11に示すモデル構造物150Aは、図8に示すモデル構造物150Aと同様であり、発信部および受信部の配置のみが異なるものである。
【0069】
ここで、縦積煉瓦下空隙の有無の探知は、受信部にて検知された受信波において、炉敷煉瓦151Aの上面からの反射波が確認できるか否かで判断可能である。このため、上記(1-6-2)における図9および図10に示した結果のように、縦積煉瓦−炉敷煉瓦間に隙間がない場合は炉敷煉瓦151A上面からの反射波が観測され、隙間がある場合は炉敷煉瓦151A上面からの反射波は観測されない。
【0070】
実験は、厚さΔwが0mm(j=1)、0.5mm(j=2)、1.0mm(j=3)、2.0mm(j=4)、3.0mm(j=5)、4.0mm(j=6)の6通りの各煉瓦間空隙を測定対象とした。そして、図11(A)に示すように、発信部2および受信部3を縦積煉瓦上面の長手辺と平行する状態に設置して、発信部2および受信部3の中心間距離dを125mm(実施例1−1)、150mm(実施例1−2)、250mm(実施例1−3)、375mm(実施例1−4)、500mm(実施例1−5)、600mm(実施例1−6)に変化させたものをそれぞれ用意した。また、図11(B)に示すように、発信部2および受信部3を縦積煉瓦上面の対角線上に設置して、発信部2および受信部3の中心間距離dを700mm(実施例1−7)、800mm(実施例1−8)に変化させたものをそれぞれ用意した。そして、それぞれについて、受信部3にて検知された受信波において、炉敷煉瓦151Aの上面からの反射波が確認できたか否かを確認した。表1には、発信部2および受信部3の中心間距離d毎に、発信部2および受信部3の配置の適否、すなわち、空隙厚さΔwを変化させて炉敷煉瓦151Aの上面からの反射波が明確に確認できたか否かを示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、発信部2および受信部3の中心間距離dが125〜250mmである場合(実施例1−1〜1−3)、空隙の有無を良好に確認できたことが分かる。特に、距離dが125mmの場合(実施例1−1)、空隙の有無を最も良好に確認できた。また、当該距離dが375〜600mmである場合(実施例1−4〜1−6)も、空隙の有無を確認可能であることが分かる。一方、当該距離dが700〜800mmである場合(実施例1−7,1−8)は、空隙の有無を明確に確認できなかったことが分かる。
つまり、縦積煉瓦下空隙の有無の探知では、発信部2および受信部3の中心間距離dを小さくしていくにしたがって良好な結果が得られ、特に発信部2および受信部3の中心間距離dを125mm程度とすることが好ましいことが分かった。
【0073】
(1-6-4)縦積煉瓦下の空隙厚さの探知に及ぼす、発信部2および受信部3の中心間距離dの影響
次に、縦積煉瓦下の空隙厚さΔwの探知に及ぼす、発信部2および受信部3の中心間距離dの影響について検討した。
【0074】
実験は、上記(1-6-3)と同様の実験設備および実験試料を使用し、上記第1実施形態における受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、検量線スペクトル取得工程とを順に実施した。これにより、厚さΔwが0mm(j=1)、0.5mm(j=2)、1.0mm(j=3)、2.0mm(j=4)、3.0mm(j=5)、4.0mm(j=6)の6通りの各煉瓦間空隙に対応する検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)を得た。表2には、発信部2および受信部3の中心間距離d毎に、発信部2および受信部3の配置の適否、すなわち、生成した検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)において、空隙厚さΔwの変化に伴って反射波スペクトル形状が明確に変化したか否かを示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2より、発信部2および受信部3の中心間距離dが500mmである場合(実施例2−5)、良好な検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)が得られたことが分かる。また、距離dが375mmである場合(実施例2−4)にも、検量可能なレベルの検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)が得られたことが分かる。
一方、距離dが375mmよりも小さい場合(実施例2−1〜2−3)、および、距離dが500mmよりも大きい場合(実施例2−6〜2−8)は、生成した検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)において、空隙厚さΔwの変化に伴ってスペクトル形状が明確に変化しておらず、検量可能なレベルに達していなかった。特に、距離d=700,800mmの場合(実施例2−7,2−8)は、発信部2および受信部3の双方ともに縦積煉瓦側面に近くなるため、側面からの妨害波が大きくなり良好な結果を得ることができなかったものと考えられる。
これより、発信部2および受信部3の中心間距離dが375〜500mmであれば、縦積煉瓦下空隙の厚さΔwを良好に計測でき、特に距離dが500mm前後であれば、より好適に縦積煉瓦下空隙の厚さΔwを計測できることが分かった。
【0077】
ここで、表2において最も良好な結果が得られた実施例2−5(距離d=500mm)について、図12左側に実施例2−5の検量線スペクトル群FBを示し、図12右側に検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)のそれぞれに対応する受信波を併記した。
【0078】
図12左側の検量線スペクトル群FBより、検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)の形状に明確な差が生じるため、空隙の厚さΔwが0〜3.0mmの範囲で検査対象となる空隙Aの厚さΔwを良好に測定可能であることが分かる。さらに、検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)ではより明確に形状が異なるため、空隙の厚さΔwが0〜1.0mmの範囲ではより厳密に検査対象となる空隙の厚さΔwを測定可能であることが分かる。一方、空隙の厚さΔwが3.0mmよりも大きくなると(検量線スペクトルFB(f)およびFB(f))、スペクトル形状に大差がなくなり、検査対象となる空隙の厚さΔwを測定し得ないことが分かる。
【0079】
また、図12右の検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)のそれぞれに対応する受信波より、各スペクトを取得する際に使用する反射波成分A〜Aの起生時刻th1〜th6がそれぞれ異なっていることが分かる。これは縦積煉瓦152Aのそれぞれによって超音波の速度vが異なっているためと考えられる。
【0080】
(1-7)第1実施形態の効果
上述したように、第1実施形態に係る耐火物煉瓦間の空隙検査方法では、以下の効果を奏することができる。
【0081】
(1-7-1)本実施形態に係る耐火物煉瓦間の空隙検査方法は、前工程と、実測工程とを備えて構成される。前工程では、モデル構造物準備工程と、受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、検量線スペクトル取得工程と、検量線スペクトル群取得工程とを順に実施する。実測工程では、受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、対象スペクトル取得工程と、比較工程とを順に実施する。
これにより、縦積煉瓦152の上面に発信部2および受信部3を設置して、検査対象となる空隙Aに対応する対象スペクトルFB(f)を取得するので、非破壊にて耐火物煉瓦間の空隙検査を実施することができる。
そして、各検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)の形状は煉瓦間の空隙厚さΔwの変化に対応して様々に変化するので、煉瓦間の空隙厚さΔwとスペクトル形状との関係を表す検量線スペクトル群FBを得ることができる。したがって、予め前工程にて取得した検量線スペクトル群FBと、実測工程にて取得した対象スペクトルFB(f)とを比較することにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測することができる。
これにより、例えば、高炉100の補修に際して、縦積煉瓦152下の空隙の厚さを非破壊で計測できるので、補修作業が効率化され、高炉100の補修時間を短縮化できる。結果として、高炉100の稼動停止期間を短縮できるという効果を得ることができる。
【0082】
(1-7-2)前工程および実測工程のそれぞれにおける反射波抽出工程では、受信部3にて受信した受信波W2である広帯域受信波関数G(t)を取得する。そして、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における空隙との対向面からの反射波成分Aの起生時刻thjを取得し、時系列波抽出関数TGC(t)を取得する。さらに、上記式(1)に基づいて、反射波成分Aに対応する反射波関数GA(t)を取得する
このように、広帯域受信波関数G(t)に対して時系列波抽出関数TGC(t)をn回積算することにより、広帯域受信波関数G(t)のうち起生時刻thj近傍の成分のみを残すことができる。したがって、制御装置4による演算処理にて、反射波成分Aである反射波関数GA(t)を簡易に取得できる。このため、演算処理速度を高速化できるので、一連の実測工程を短時間で実施でき、結果として、高炉100の補修時間を短縮化できる。
【0083】
(1-7-3)前工程および実測工程のそれぞれにおける反射波抽出工程では、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における空隙との対向面からの反射波成分Aの起生時刻thjは、上記式(2)に基づいて算出する。
このため、制御装置4は、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における上面から下面までの距離hと、発信部2および受信部3の中心間距離dと、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152中における超音波の速度vとを上記式(2)に代入するだけで、反射波成分Aの起生時刻thjを簡易に取得できる。このため、演算処理速度を高速化できるので、一連の実測工程を短時間で実施でき、結果として、高炉100の補修時間を短縮化できる。
【0084】
(1-7-4)前工程における検量線スペクトル取得工程、および、実測工程における対象スペクトル取得工程では、反射波抽出工程にて抽出した反射波成分Aである反射波関数GA(t)に基づいて、反射波スペクトルFA(f)を取得する。そして、この反射波スペクトルFA(f)より、スペクトル値が最大となる周波数であるf値を取得する。また、f値に基づいて、第1周波数フィルター関数X(f)と第2周波数フィルター関数X(f)とを取得し、上記式(3)に基づいて、検量線スペクトルFB(f)(FB(f)〜FB(f))あるいは対象スペクトルFB(f)を取得する。
このように、制御装置4は、反射波スペクトルFAに対して、第1周波数フィルター関数X(f)をn1回積算し、かつ、第2周波数フィルター関数X(f)をn2回積算するだけで、f値を中心とする狭帯域成分波である検量線スペクトルFB(f)を容易に抽出することできる。このため、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における空隙との対向面からの反射波成分Aや、他方のモデル煉瓦あるいは炉敷煉瓦151における空隙との対向面からの反射波成分を容易に特定することができる。したがって、演算処理速度を高速化できるので、一連の実測工程を短時間で実施でき、結果として、高炉100の補修時間を短縮化できる。
【0085】
(1-7-5)前工程および実測工程のそれぞれにおける受発信工程では、発信部2にて任意の時間差で複数回超音波W1を発信し、各発信毎に超音波W1に対応する受信波W2を受信部3にて受信する。前工程および実測工程のそれぞれにおける反射波抽出工程では、受信部3にて受信した複数回分の受信波W2を加算平均して広帯域受信波関数G(t)を取得する。そして、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における空隙との対向面からの反射波成分Aとしての反射波関数GA(t)を取得する。
これにより、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における空隙との対向面からの反射波成分Aや、他方のモデル煉瓦あるいは炉敷煉瓦151における空隙との対向面からの反射波成分などを明確化することができる。また、受信波W2におけるその他のノイズ成分を平準化することができる。したがって、煉瓦間空隙の厚さ測定を高精度で実施することができる。
【0086】
(1-7-6)発信部2より発信される超音波W1は縦波である。これにより、超音波W1は煉瓦中にて良好に伝播し、受信部3が受信する受信波W2の質を高めることができる。このため、煉瓦間空隙の厚さ測定を高精度で実施することができる。
【0087】
(1-7-7)耐熱容器は高炉100であり、煉瓦層150を構成する耐火物煉瓦はカーボン煉瓦であり、煉瓦層150の外側は冷却層130にて覆われている。
高熱伝導率のカーボン煉瓦を冷却層130にて高効率で冷却するには、煉瓦間の空隙を1mm以下に抑える必要がある。この点、検量線スペクトル群FBでは、空隙の厚さΔwが0〜3.0mmの範囲にて各スペクトル形状が明確に異なるため、空隙の厚さΔwが0〜1.0mmの範囲で厳密に検査対象となる空隙Aの厚さΔwを測定できる。これにより、高炉100の補修に際して、確実に計測したい煉瓦間空隙の厚さを高精度で計測できる。また、カーボン煉瓦は低気孔率かつ均質な煉瓦であるので、受信部3にて検知された受信波に煉瓦内部の気孔などにより発生するノイズが少なく、測定を良好に実施できる。
したがって、本実施形態によれば、高炉100の補修に際して、煉瓦間空隙の検査を効率良く実施でき、補修作業が効率化され、高炉100の補修時間を短縮化できる。結果として、高炉100の稼動停止期間を短縮できるという効果を得ることができる。
【0088】
(1-7-8)検査対象となる空隙Aは、高炉100の炉床部160における炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間の空隙である。
ここで、リフトアップ工法により高炉100の補修作業を行う場合など、炉床部160が含まれたブロックを移動する際に炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間に空隙が形成され、当該空隙の検査を要する場合がある。
この点、本実施形態によれば、炉敷煉瓦151および縦積煉瓦152間の空隙Aを、非破壊にて高精度で検査できるので、設置した煉瓦を傷つけることなく、補修する必要のある煉瓦のみを選別できる。また、縦積煉瓦152の下面側に設置された炉敷煉瓦151の目地が検査結果に影響を及ぼすこともないので、炉敷煉瓦151の目地位置を考慮することなく、縦積煉瓦152上の任意の位置に発信部2および受信部3を設置して空隙検査を行うことができる。
したがって、上記のようにして空隙検査を実施して、この検査結果を踏まえて煉瓦間空隙を補修すれば、効率良く補修作業を行うことができ。結果として、冷却層130にて炉敷煉瓦151、縦積煉瓦152、中埋煉瓦153を効率良く冷却できるようになるので、高炉100の高寿命化を図ることができる。
【0089】
(2)第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態は、スペクトル面積と空隙の厚さとの関係を表す検量線を利用して煉瓦間空隙の厚さを計測するものであり、この点において、検量線スペクトル群FBを利用して煉瓦間空隙の厚さを計測する第1実施形態と異なる。このため、以下において、前記第1実施形態と同様の構成については説明を適宜省略する。
【0090】
(2-1)空隙検査装置1の構成
第2実施形態における空隙検査装置1は、図2に示す第1実施形態における空隙検査装置1と、制御装置4を除いて、同様の構成となっている。
制御装置4は、後述する前工程における、受発信工程と、反射波抽出工程と、スペクトル面積取得工程と、検量線取得工程とを実施する。また、制御装置4は、後述する実測工程における、受発信工程と、反射波抽出工程と、スペクトル面積取得工程と、比較工程とを実施する。
なお、本実施形態における空隙検査装置1を使用する高炉100の状態としては、上記した第1実施形態と同様に、図2に示すものが例示できる。
【0091】
(2-2)耐火物煉瓦間の空隙検査方法
次に、本実施形態に係る耐火物煉瓦間の空隙検査方法、すなわち、上記した空隙検査装置1を用いて、高炉100における炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間の空隙Aを検査する方法について、図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る耐火物煉瓦間の空隙検査方法は、大きく分けて、予め炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152とを模したモデル構造物を用いて検量線Sを取得しておく前工程と、高炉100における炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間の空隙Aを検査する実測工程とを備えて構成される。
【0092】
(2-3)前工程
前工程では、モデル構造物準備工程と、受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、スペクトル面積取得工程と、検量線取得工程とを順に実施する。
なお、上述したように、この前工程における受発信工程、反射波抽出工程、スペクトル面積取得工程および検量線取得工程については、制御装置4にて実施される。また、この前工程におけるモデル構造物準備工程、受発信部設置工程および受発信工程については、上記した第1実施形態と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0093】
反射波抽出工程について図面に基づいて説明する。図13は、本発明の第2実施形態における各モデル構造物の一方の煉瓦における空隙との対向面からの反射波成分を示す図であり、図中左側は周波数とスペクトル値との関係を示し、図中右側は時間と信号強度との関係を示す。
反射波抽出工程では、受発信工程にて受信部3が受信した受信波W2より、それぞれのモデル構造物における一方のモデル煉瓦の空隙との対向面、すなわち、それぞれのモデル構造物における縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦の下面(図2中下面)からの反射波成分Aを抽出する。
【0094】
具体的には、反射波抽出工程では、制御装置4は、上記した第1実施形態と同様に、受発信工程にて受信部3より得られた複数回分(例えば300回分)の受信波W2を超高速に加算平均して、図4に示すような加算平均された受信波を取得する。このような加算平均された受信波は、例えば、図4右側に示す広帯域受信波関数G(t)で表され、この広帯域受信波関数G(t)をフーリエ変換すると、例えば、図4左側に示すような広帯域受信波スペクトルF(f)で表される。
そして、制御装置4は、広帯域受信波スペクトルF(f)を上記式(4)に基づいて変換して、変換広帯域受信波関数G’(t)を取得する。この変換広帯域受信波関数G’(t)は、広帯域受信波スペクトルF(f)におけるスペクトル値を、全周波数帯域に亘って1.0の一定値に置き換えたものである。このようにすることで、厚さΔwが異なる複数種のモデル構造物において、後工程であるスペクトル面積取得工程にて取得される反射波スペクトルFA’(f)のスペクトル値の最大値を1.0に統一することが可能となる。これにより、反射波スペクトルFA’(f)に基づいて得られたスペクトル面積Sを比較可能な状態とすることが可能となる。
【0095】
さらに、制御装置4は、上記した第1実施形態と同様に、縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦の下面(図2中下面)からの反射波成分Aの起生時刻thjを取得する。ここで、起生時刻thjは、発信部2からの超音波W1の発信時刻を0として、受信部3にて反射波成分Aを受信した時刻のことであり、上記式(7)に基づいて算出できる。
また、制御装置4は、上記した第1実施形態と同様に、起生時刻thjに基づいて、時系列波抽出関数TGC(t)を取得する。この時系列波抽出関数TGC(t)は、0≦時間t≦2thjにおいて、時間t=0,2thjで0かつ時間t=thjで1となる三角関数と、時間t>2thjにおいて0となる関数とからなる。
【0096】
そして、制御装置4は、上記した第1実施形態と同様に、変換広帯域受信波関数G’(t)および時系列波抽出関数TGC(t)を上記式(5)に代入することにより、例えば図13右側に示すように、各縦積煉瓦152に対応するモデル煉瓦の下面(図2中下面)からの反射波成分Aに対応する反射波関数GA’(t)を取得する。なお、図13右側に示す反射波関数GA’(t)〜GA’(t)は、上記式(5)中のnの値を420として得たものである。
【0097】
次に、スペクトル面積取得工程について説明する。
スペクトル面積取得工程では、反射波抽出工程にて取得した反射波成分Aである反射波関数GA’(t)より、上記式(6)に基づいて反射波スペクトルFA’(f)を取得する。そして、それぞれのモデル構造物における空隙に対応した、当該反射波スペクトルFA’(f)における周波数0から所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積Sを取得する。
【0098】
具体的には、制御装置4は、反射波抽出工程にて抽出した反射波成分Aである反射波関数GA’(t)を上記式(6)に基づいてフーリエ変換して、例えば図13左側に示すような反射波スペクトルFA’(f)を取得する。この反射波スペクトルFA’(f)のスペクトル値の最大値は、上述したように、広帯域受信波スペクトルF(f)を上記式(4)に基づいて変換して変換広帯域受信波関数G’(t)を取得していることにより、厚さΔwが異なる複数種のモデル構造物の全てにおいて、1.0に統一された状態となっている。
【0099】
そして、制御装置4は、それぞれのモデル構造物における空隙に対応した反射波スペクトルFA’(f)〜FA’(f)について、周波数0から所定の周波数fまでの範囲に亘って積分し、当該周波数範囲におけるスペクトル値の総和であるスペクトル面積S〜Sを取得する。なお、この周波数fは、利用者により任意に設定される値であり、例えば625kHzなどに設定される(図13参照)。つまり、この周波数fを適宜調整することで、測定条件に応じて最適なスペクトル面積Sを取得することが可能となる。
【0100】
次に、検量線取得工程について図面に基づいて説明する。図14は、スペクトル面積と空隙の厚さとの関係を表す検量線を示す図である。
検量線取得工程では、それぞれのモデル構造物における空隙の厚さΔwと、これに対応するスペクトル面積S〜Sとの関係を示す図14のような検量線Sを取得する。
【0101】
具体的には、制御装置4は、スペクトル面積取得工程にてスペクトル面積S〜Sを取得すると、一方の軸を空隙の厚さΔwに対応する軸とし、他方の軸をスペクトル面積Sに対応する軸として、それぞれのモデル構造物における空隙の厚さΔwと、これに対応するスペクトル面積S〜Sとをプロットする。そして、これらのプロットをそれぞれ結び付けて検量線Sが完成する。なお、図14に示す検量線Sは、上記した第1実施形態の実施例のうち、上記(1-6-3)に示した実験設備および実験試料と同様のものを使用して、受発信工程と、反射波抽出工程と、スペクトル面積取得工程と、検量線取得工程とを順に実施して得たものである。また、この図14では、空隙の厚さΔw=5.0mmの場合(j=7)のスペクトル面積Sについてもプロットされている。
【0102】
ここで、本実施形態では、煉瓦間の空隙厚さΔwが大きくなるにつれて、煉瓦における当該空隙との対向面からの反射波成分の強度が大きくなるという現象を利用している。これにより、各スペクトル面積S〜Sは煉瓦間の空隙厚さΔwが大きくなるにつれて、徐々に大きくなる状態に変化する。
このため、図14に示す検量線Sは、煉瓦間の空隙厚さΔwとスペクトル面積との関係を表すものとなり、後述する検査対象となる空隙Aのスペクトル面積Sとの比較により、当該空隙Aの厚さΔwが測定可能となる。
特に、図14に示すように、スペクトル面積S〜Sはそれぞれの値が明確に異なるため、空隙の厚さΔwが0〜3.0mmの範囲で検査対象となる空隙Aの厚さΔwを良好に測定可能であることが分かる。さらに、スペクトル面積S〜Sではそれぞれの値がより明確に異なるため、空隙の厚さΔwが0〜1.0mmの範囲ではより厳密に検査対象となる空隙の厚さΔwを測定可能であることが分かる。一方、空隙の厚さΔwが3.0mmよりも大きくなると(スペクトル面積S〜S)、それぞれの値が同程度となり、検査対象となる空隙の厚さΔwを測定し得ないことが分かる。
【0103】
(2-4)実測工程
実測工程では、受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、スペクトル面積取得工程と、比較工程とを順に実施する。
なお、上述したように、この実測工程における受発信工程、反射波抽出工程、スペクトル面積取得工程および比較工程については、制御装置4にて実施される。また、この実測工程における受発信部設置工程、受発信工程、反射波抽出工程およびスペクトル面積取得工程は、上述した前工程における受発信部設置工程、受発信工程、反射波抽出工程およびスペクトル面積取得工程のそれぞれと同様の構成であるため、説明を簡略化する。
【0104】
受発信部設置工程では、図2に示すように、縦積煉瓦152の露出面すなわち上面に、発信部2および受信部3を、前工程における受発信部設置工程と同様の配置で設置する。
受発信工程では、制御装置4は、発信部2より縦積煉瓦152の上面から検査対象となる空隙Aへ向けて超音波W1(図2参照)を発信させ、この超音波W1に対応する受信波W2(図2参照)を受信部3にて受信させる。
反射波抽出工程では、受発信工程にて受信した受信波W2より、縦積煉瓦152における検査対象となる空隙Aとの対向面(図2下面)からの反射波成分Aを抽出する。
スペクトル面積取得工程では、当該反射波成分Aに基づいて反射波スペクトルFA’(f)を取得し、検査対象となる空隙Aに対応した、当該反射波スペクトルFA’(f)における周波数0から所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積Sを取得する。
【0105】
次に、比較工程について説明する。
比較工程では、検量線Sと、検査対象となる空隙Aに対応するスペクトル面積Sとを比較することにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測する。
具体的には、制御装置4は、図14に示すように、検査対象となる空隙Aに対応するスペクトル面積Sを取得すると、当該スペクトル面積Sと同値となるスペクトル面積値を検量線Sより検出し、当該スペクトル面積Sに対応する空隙の厚さΔwを検量線Sより検出する。これにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwが制御装置4にて自動的に計測される。
【0106】
例えば、図14では、検査対象となる空隙Aに対応するスペクトル面積Sが図中破線L3で示す値で検出されており、この破線L3と検量線Sとの交点に対応する空隙の厚さΔwは0.8mmであることが分かる。つまり、検量線Sに基づいて、検査対象となる空隙Aの厚さΔwが0.8mmであると計測できることが分かる。
【0107】
(2-5)第2実施形態の効果
上述したように、第2実施形態に係る耐火物煉瓦間の空隙検査方法では、上記第1実施形態の奏する上記(1-7-5)〜(1-7-8)の効果に加え、以下の効果を奏することができる。
【0108】
(2-5-1)本実施形態に係る耐火物煉瓦間の空隙検査方法は、前工程と、実測工程とを備えて構成される。前工程では、モデル構造物準備工程と、受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、スペクトル面積取得工程と、検量線取得工程とを順に実施する。実測工程では、受発信部設置工程と、受発信工程と、反射波抽出工程と、スペクトル面積取得工程と、比較工程とを順に実施する。
これにより、縦積煉瓦152の上面に発信部2および受信部3を設置して、検査対象となる空隙Aに対応するスペクトル面積Sを取得するので、非破壊にて耐火物煉瓦間の空隙検査を実施することができる。
そして、各スペクトル面積S〜Sの値は、煉瓦間の空隙厚さΔwの増加に伴って徐々に増加するので、煉瓦間の空隙厚さΔwとスペクトル面積との関係を表す検量線Sを得ることができる。したがって、予め前工程にて取得した検量線Sと、実測工程にて取得したスペクトル面積Sとを比較することにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測することができる。また、このような検量線Sを利用することで、制御装置4による演算処理にて自動的に検査対象となる空隙Aの厚さΔwを検出可能となるので、作業者の作業負担を軽減できると共に作業効率を向上できる。さらに、周波数fを適宜調整することで、測定条件に応じて最適なスペクトル面積Sを取得することができる。
これにより、例えば、高炉100の補修に際して、縦積煉瓦152下の空隙の厚さを非破壊で計測できるので、補修作業が効率化され、高炉100の補修時間を短縮化できる。結果として、高炉100の稼動停止期間を短縮できるという効果を得ることができる。
【0109】
(2-5-2)前工程および実測工程のそれぞれにおける反射波抽出工程では、受信部3にて受信した受信波W2である広帯域受信波関数G(t)をフーリエ変換して広帯域受信波スペクトルF(f)を取得する。また、この広帯域受信波スペクトルF(f)より、上記式(4)に基づいて変換広帯域受信波関数G’(t)を取得する。そして、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における空隙との対向面からの反射波成分Aの起生時刻thjを取得し、時系列波抽出関数TGC(t)を取得する。さらに、上記式(5)に基づいて、反射波成分Aに対応する反射波関数GA’(t)を取得する。そして、前工程および実測工程のそれぞれにおけるスペクトル面積取得工程では、反射波抽出工程にて取得した反射波成分Aより上記式(6)に基づいて反射波スペクトルFA’(f)を取得し、それぞれのモデル構造物における空隙あるいは検査対象となる空隙Aに対応した、当該反射波スペクトルFA’(f)における周波数0から所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積Sを取得する。
このように、広帯域受信波スペクトルF’(f)を上記式(4)に基づいて変換して変換広帯域受信波関数G’(t)を取得することにより、反射波スペクトルFA’(f)のスペクトル値の最大値は、厚さΔwが異なる複数種のモデル構造物、および、検査対象となる空隙Aと対向する縦積煉瓦152の全てにおいて、1.0に統一された状態とすることができる。これにより、反射波スペクトルFA’(f)に基づいて得られたスペクトル面積Sを比較可能な状態とすることができる。すなわち、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを相対的に評価することができる。
また、上記式(5)に基づいて、変換広帯域受信波関数G’(t)に対して時系列波抽出関数TGC(t)をn回積算することにより、変換広帯域受信波関数G’(t)のうち起生時刻thj近傍の成分のみを残すことができる。したがって、制御装置4による演算処理にて、反射波成分Aである反射波関数GA’(t)を簡易に取得できる。このため、演算処理速度を高速化できるので、一連の実測工程を短時間で実施でき、結果として、高炉100の補修時間を短縮化できる。
【0110】
(2-5-3)前工程および実測工程のそれぞれにおける反射波抽出工程では、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における空隙との対向面からの反射波成分Aの起生時刻thjは、上記式(7)に基づいて算出する。
このため、制御装置4は、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152における上面から下面までの距離hと、発信部2および受信部3の中心間距離dと、一方のモデル煉瓦あるいは縦積煉瓦152中における超音波の速度vとを上記式(7)に代入するだけで、反射波成分Aの起生時刻thjを簡易に取得できる。このため、演算処理速度を高速化できるので、一連の実測工程を短時間で実施でき、結果として、高炉100の補修時間を短縮化できる。
【0111】
(3)実施形態の変形
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0112】
例えば、前記第1および第2実施形態では、本発明の耐火物煉瓦間の空隙検査方法により、高炉100の炉床部160における炉敷煉瓦151と縦積煉瓦152との間の空隙Aを検査する場合を例示したが、これに限定されない。すなわち、本発明は、高炉100における煉瓦層150のうちいずれの煉瓦間における空隙に対しても適用できる。さらには、高炉以外の加熱炉など、複数の耐火物煉瓦を組み合わせて構成された煉瓦層にて内面が覆われたいずれの耐熱容器に対しても適用できる。また、耐火物煉瓦はカーボン煉瓦であるとしたが、カーボン煉瓦以外の耐火物煉瓦としてもよい。
【0113】
前記第1実施形態における比較工程では、対象スペクトルFB(f)を検量線スペクトル群FB上に重ね合わせて表示装置41に表示させ、複数の検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)のうち、対象スペクトルFB(f)と波形が最も近似する検量線スペクトルに基づいて、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測するとしたが、これに限らない。
【0114】
すなわち、例えば、前記第1実施形態の一変形例として、複数の検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)のそれぞれのピーク値(f値に対応するスペクトル値)を取得して、当該ピーク値と空隙の厚さΔwとの関係を示す検量線を取得する。そして、当該検量線と対象スペクトルFB(f)のピーク値とを比較することにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測する構成としてもよい。この場合でも、上記第1実施形態と同様に、煉瓦間の空隙の厚さΔwを非破壊にて検査できる。
【0115】
また、例えば、前記第1実施形態の一変形例として、複数の検量線スペクトルFB(f)〜FB(f)のそれぞれのスペクトル値を、周波数f=0〜f(fは任意の値)の範囲で積分して、それぞれの空隙の厚さΔwに対応するスペクトル面積を取得して、スペクトル面積と空隙の厚さΔwとの関係を示す検量線を取得する。そして、当該検量線と対象スペクトルFB(f)のスペクトル面積とを比較することにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測する構成としてもよい。この場合でも、上記第1実施形態と同様に、煉瓦間の空隙の厚さΔwを非破壊にて検査できる。
【0116】
前記第2実施形態では、広帯域受信波スペクトルF(f)を上記式(4)に基づいて変換して変換広帯域受信波関数G’(t)を取得し、この変換広帯域受信波関数G’(t)に基づいて図13に示す反射波スペクトルFA’(f)を取得するとしたが、これに限らない。
すなわち、例えば、前記第2実施形態の一変形例として、変換広帯域受信波関数G’(t)を取得せずに、広帯域受信波関数G(t)のまま図5に示す反射波スペクトルFA(f)を取得し、反射波スペクトルFA(f)よりスペクトル面積を取得する構成としてもよい。
この場合でも、上記第2実施形態と同様に、煉瓦間の空隙の厚さΔwを非破壊にて検査できる。すなわち、図5に示す反射波スペクトルFA(f)〜FA(f)のそれぞれのスペクトル値を、周波数f=0〜f(fは任意の値)の範囲で積分して、それぞれの空隙の厚さΔwに対応するスペクトル面積を取得して、スペクトル面積と空隙の厚さΔwとの関係を示す検量線を取得することができる。そして、当該検量線と対象スペクトルFB(f)のスペクトル面積とを比較することにより、検査対象となる空隙Aの厚さΔwを計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】一般的な高炉の炉床近傍の構造を模式的に示した側断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態における空隙検査システムを示す模式図である。
【図3】前記第1実施形態における発信部から発信される超音波を示す図であり、(A)は周波数とスペクトル値との関係を示し、(B)は時間と信号強度との関係を示す。
【図4】前記第1実施形態における各モデル構造物において受信部にて受信された受信波を示す図であり、図中左側は周波数とスペクトル値との関係を示し、図中右側は時間と信号強度との関係を示す。
【図5】前記第1実施形態における各モデル構造物における一方の煉瓦の空隙との対向面からの反射波成分を示す図であり、図中左側は周波数とスペクトル値との関係を示し、図中右側は時間と信号強度との関係を示す。
【図6】前記第1実施形態における第1周波数フィルター関数X(f)および第2周波数フィルター関数X(f)を示す図である。
【図7】前記第1実施形態における検量線スペクトル群および対象スペクトルを比較可能な状態で示した図である。
【図8】前記第1実施形態の一実施例にて使用したモデル構造物を模式的に示したもので、(A)は側面図であり、(B)は平面図である。
【図9】前記実施例における空隙厚さΔw=0mmの場合の受信部が検知した各受信波を示す図である。
【図10】前記実施例における空隙厚さΔw=0.5mmの場合の受信部が検知した各受信波を示す図である。
【図11】前記第1実施形態の一実施例にて使用したモデル構造物を模式的に示した平面図であり、(A)は発信部および受信部を縦積煉瓦上面の長手辺と平行する状態に設置した場合を示し、(B)は発信部および受信部を縦積煉瓦上面の対角線上に設置した場合を示す。
【図12】前記実施例における実施例2−5の検量線スペクトル群を示し、さらに検量線スペクトル群の右側に各検量線スペクトルに対応する受信波を併記している。
【図13】本発明の第2実施形態における各モデル構造物の一方の煉瓦における空隙との対向面からの反射波成分を示す図であり、図中左側は周波数とスペクトル値との関係を示し、図中右側は時間と信号強度との関係を示す。
【図14】前記第2実施形態におけるスペクトル面積と空隙の厚さとの関係を表す検量線を示す図である。
【符号の説明】
【0118】
2…発信部
3…受信部
100…高炉
130…冷却層
150…煉瓦層
151…炉敷煉瓦
152…縦積煉瓦
150A…モデル構造物
151A…炉敷煉瓦(モデル煉瓦)
152A−152C…縦積煉瓦(モデル煉瓦)
160…炉床部
A…煉瓦間空隙
W1…超音波
W2…受信波
Δw…煉瓦間空隙の厚さ
(t)…広帯域入力波関数
(f)…広帯域入力波スペクトル
(t)、G(t)−G(t)…広帯域受信波関数
(f)、F(f)−F(f)…広帯域受信波スペクトル
GA(t)、GA(t)−GA(t)…反射波関数
FA(f)、FA(f)−FA(f)…反射波スペクトル
(f)…第1周波数フィルター関数
(f)…第2周波数フィルター関数
FB(f)、FB(f)−FB(f)…検量線スペクトル、対象スペクトル
FB…検量線スペクトル群
GA’(t)、GA’(t)−GA’(t)…反射波関数
FA’(f)、FA’(f)−FA’(f)…反射波スペクトル
、S-S…スペクトル面積
S…検量線
d…発信部と受信部との間の距離
hj、th1-th6…反射波成分の起生時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の耐火物煉瓦を組み合わせて構成された煉瓦層にて内面が覆われた耐熱容器において、所定の耐火物煉瓦間の空隙を超音波にて検査する方法であって、
予め、検査対象となる空隙を間に挟んで隣接する一対の耐火物煉瓦と同材質かつ同形状の一対のモデル煉瓦を用い、これらモデル煉瓦を当該一対の耐火物煉瓦と同様に配列させ、さらに当該モデル煉瓦間の空隙の厚さが異なる複数種のモデル構造物を準備しておくモデル構造物準備工程、
このモデル構造物準備工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物における前記一対のモデル煉瓦のうち一方のモデル煉瓦の露出面に、広帯域の超音波を発信可能な発信部、および、広帯域の受信波を受信可能な受信部を設置する受発信部設置工程、
この受発信部設置工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物において、前記発信部より前記露出面から前記空隙へ向けて前記超音波を発信し、この超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信する受発信工程、
この受発信工程後に実施され、当該受信波より、それぞれの前記モデル構造物における前記一方のモデル煉瓦の前記空隙との対向面からの反射波成分を抽出する反射波抽出工程、
この反射波抽出工程後に実施され、当該反射波成分に基づいて反射波スペクトルを取得し、この反射波スペクトルよりそれぞれの前記モデル構造物における前記空隙に対応した検量線スペクトルを取得する検量線スペクトル取得工程、および、
この検量線スペクトル取得工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物における前記空隙に対応した前記検量線スペクトルをそれぞれ重ね合わせた検量線スペクトル群を取得する検量線スペクトル群取得工程、を含んだ前工程と、
前記一対の耐火物煉瓦のうち一方の耐火物煉瓦の露出面に、前記発信部および前記受信部を、前記前工程における前記受発信部設置工程と同様の配置で設置する受発信部設置工程、
この受発信部設置工程後に実施され、前記発信部より前記露出面から前記検査対象となる空隙へ向けて超音波を発信し、この超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信する受発信工程、
この受発信工程後に実施され、当該受信波より、前記一方の耐火物煉瓦における前記検査対象となる空隙との対向面からの反射波成分を抽出する反射波抽出工程、
この反射波抽出工程後に実施され、当該反射波成分に基づいて反射波スペクトルを取得し、この反射波スペクトルより前記検査対象となる空隙に対応した対象スペクトルを取得する対象スペクトル取得工程、および、
この対象スペクトル取得工程後に実施され、前記検量線スペクトル群と前記対象スペクトルとを比較することにより、前記検査対象となる空隙の厚さを計測する比較工程、を含んだ実測工程と、を備えて構成される
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記前工程および前記実測工程のそれぞれにおける前記反射波抽出工程では、
前記受信部にて受信した受信波である広帯域受信波関数G(t)を取得し、
前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分の起生時刻thjを取得し、
0≦時間t≦2thjにおいて、時間t=0,2thjで0かつ時間t=thjで1となる三角関数と、時間t>2thjにおいて0となる関数とからなる時系列波抽出関数TGC(t)を取得し、
下記式(1)に基づいて、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分に対応する反射波関数GA(t)を取得する
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【数1】

(n:自然数)
【請求項3】
請求項2に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記前工程および前記実測工程のそれぞれにおける前記反射波抽出工程では、
前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分の起生時刻thjは、下記式(2)に基づいて算出する
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【数2】

h:前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記露出面から前記対向面までの距離
d:前記受信部と前記発信部との中心間距離
v:前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦中における超音波の速度
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記前工程における前記検量線スペクトル取得工程、および、前記実測工程における前記対象スペクトル取得工程では、
前記反射波抽出工程にて抽出した前記反射波成分に基づいて反射波スペクトルFA(f)を取得し、
この反射波スペクトルFA(f)より、スペクトル値が最大となる周波数であるf値を取得し、
0≦周波数f≦2fにおいて、周波数f=0で0かつ周波数f=2fで1となる三角関数、および、周波数f>2fにおいて0となる関数からなる第1周波数フィルター関数X(f)と、0≦周波数f≦2fにおいて、周波数f=0で1、周波数f=fで第1周波数フィルター関数X(f)と交わり、かつ周波数f=2fで0となる三角関数、および、周波数f>2fにおいて0となる関数からなる第2周波数フィルター関数X(f)とを取得し、
下記式(3)に基づいて、検量線スペクトルFB(f)あるいは対象スペクトルFB(f)を取得する
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【数3】

(n1、n2:自然数)
【請求項5】
複数の耐火物煉瓦を組み合わせて構成された煉瓦層にて内面が覆われた耐熱容器において、所定の耐火物煉瓦間の空隙を超音波にて検査する方法であって、
予め、検査対象となる空隙を間に挟んで隣接する一対の耐火物煉瓦と同材質かつ同形状の一対のモデル煉瓦を用い、これらモデル煉瓦を当該一対の耐火物煉瓦と同様に配列させ、さらに当該モデル煉瓦間の空隙の厚さが異なる複数種のモデル構造物を準備しておくモデル構造物準備工程、
このモデル構造物準備工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物における前記一対のモデル煉瓦のうち一方のモデル煉瓦の露出面に、広帯域の超音波を発信可能な発信部、および、広帯域の受信波を受信可能な受信部を設置する受発信部設置工程、
この受発信部設置工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物において、前記発信部より前記露出面から前記空隙へ向けて前記超音波を発信し、この超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信する受発信工程、
この受発信工程後に実施され、当該受信波より、それぞれの前記モデル構造物における前記一方のモデル煉瓦の前記空隙との対向面からの反射波成分を抽出する反射波抽出工程、
この反射波抽出工程後に実施され、当該反射波成分に基づいて反射波スペクトルを取得し、それぞれの前記モデル構造物における前記空隙に対応した、当該反射波スペクトルにおける周波数0から所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積を取得するスペクトル面積取得工程、および、
このスペクトル面積取得工程後に実施され、それぞれの前記モデル構造物における前記空隙の厚さと、これに対応する前記スペクトル面積との関係を示す検量線を取得する検量線取得工程、を含んだ前工程と、
前記一対の耐火物煉瓦のうち一方の耐火物煉瓦の露出面に、前記発信部および前記受信部を、前記検量線スペクトル群取得工程と同様の配置で設置する受発信部設置工程、
この受発信部設置工程後に実施され、前記発信部より前記露出面から前記検査対象となる空隙へ向けて前記超音波を発信し、この超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信する受発信工程、
この受発信工程後に実施され、当該受信波より、前記一方の耐火物煉瓦における前記検査対象となる空隙との対向面からの反射波成分を抽出する反射波抽出工程、
この反射波抽出工程後に実施され、当該反射波成分に基づいて反射波スペクトルを取得し、前記検査対象となる空隙に対応した、当該反射波スペクトルにおける周波数0から前記所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積を取得するスペクトル面積取得工程、および、
このスペクトル面積取得工程後に実施され、前記検量線と、前記検査対象となる空隙に対応する前記スペクトル面積とを比較することにより、前記検査対象となる空隙の厚さを計測する比較工程、を含んだ実測工程と、を備えて構成される
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【請求項6】
請求項5に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記前工程および前記実測工程におけるそれぞれの前記反射波抽出工程では、
前記受信部にて受信した受信波である広帯域受信波関数G(t)をフーリエ変換して広帯域受信波スペクトルF(f)を取得し、
この広帯域受信波スペクトルF(f)より、下記式(4)に基づいて変換広帯域受信波関数G’(t)を取得し、
前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分の起生時刻thjを取得し、
0≦時間t≦2thjにおいて、時間t=0,2thjで0かつ時間t=thjで1となる三角関数と、時間t>2thjにおいて0となる関数とからなる時系列波抽出関数TGC(t)を取得し、
下記式(5)に基づいて、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分に対応する反射波関数GA’(t)を取得し、
前記前工程および前記実測工程におけるそれぞれの前記スペクトル面積取得工程では、
前記反射波関数GA’(t)より、下記式(6)に基づいて反射波スペクトルFA’(f)を取得し、
それぞれの前記モデル構造物における前記空隙、あるいは、前記検査対象となる空隙に対応した、当該反射波スペクトルFA’(f)における周波数0から前記所定の周波数fまでのスペクトル値の総和であるスペクトル面積を取得する
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【数4】

【数5】

(n:自然数)
【数6】

【請求項7】
請求項6に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記前工程および前記実測工程におけるそれぞれの前記反射波抽出工程では、
前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面からの反射波成分の起生時刻thjは、下記式(7)に基づいて算出する
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【数7】

h:前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記露出面から前記対向面までの距離
d:前記受信部と前記発信部との中心間距離
v:前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦中における超音波の速度
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記前工程および前記実測工程のそれぞれにおける前記受発信工程では、
前記発信部にて任意の時間差で複数回超音波を発信し、各発信毎に前記超音波に対応する受信波を前記受信部にて受信し、
前記前工程および前記実測工程のそれぞれにおける前記反射波抽出工程では、
前記受信部にて受信した複数回分の受信波を加算平均して、この加算平均した受信波より、前記一方のモデル煉瓦あるいは前記一方の耐火物煉瓦における前記空隙との対向面から反射波成分を抽出する
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記発信部より発信される超音波は縦波である
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記耐熱容器は高炉であり、
前記耐火物煉瓦はカーボン煉瓦であり、
当該カーボン煉瓦にて構成された前記煉瓦層の外側は、冷却層にて覆われている
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。
【請求項11】
請求項10に記載の耐火物煉瓦間の空隙検査方法において、
前記検査対象となる空隙は、高炉の炉床部における炉敷煉瓦と縦積煉瓦との間の空隙である
ことを特徴とする耐火物煉瓦間の空隙検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−192546(P2007−192546A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8077(P2006−8077)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(594179177)株式会社エッチアンドビーシステム (5)
【Fターム(参考)】