説明

耐熱性及び貼り付け性に優れた粘着フィルム

【課題】耐熱性及び貼り付け性に優れ、高温環境に晒された場合であっても被着体からの浮き剥がれが発生したり、熱収縮によって、被着体に反りを発生させたりする問題点を解決した金属板、樹脂板等の表面に貼着する表面保護フィルム、特にオレフィン系の表面保護フィルムを提供すること。
【解決手段】少なくとも基材層及び粘着剤層からなり、基材層がオレフィン系樹脂であり、粘着剤層が、線状のエチレンマルチブロックコポリマーからなり、その融点が115℃以上、且つ動的粘弾性のtanδピーク温度が−10℃以下であるオレフィン系エラストマーであることを特徴とする表面保護フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板、樹脂板等の表面に貼着する表面保護フィルムに係わり、特に耐熱性及び貼り付け性に優れたオレフィン系の表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
表面保護フィルムは、金属板、樹脂板、液晶パネル等の運搬時、貯蔵時或いは加工時にその表面が汚染されたり、傷が付いたりするのを防止する目的で、それら物品の表面に貼着され使用される表面保護フィルムである。
この表面保護フィルムの構成としては、少なくとも基材層と粘着剤層からなっており、基材層に関しては、特に限定されないが、強度等の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂が好ましく使用されている
一方、粘着剤層に関しては、表面への貼着性と使用後の剥脱性の面から、アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、スチレン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体樹脂(EMMA)、オレフィン系樹脂等の種々のものが検討されている。
【0003】
この表面保護フィルムの製造方法としては、(1)予め基材層を製膜しておき、その後粘着剤層をコーティングする方法、或いは(2)共押出により基材層と粘着剤層を同時に製膜する方法等がある。
(1)の方法にあっては、基材層となるフィルムの製膜工程と、粘着剤の塗工工程という最低2工程を必要とするため、製造コストが高くなる傾向にある。また、粘着剤層の塗工工程で大量の溶剤を除去する必要があり、環境負荷が高くなる問題等があり、したがって、(2)の共押出により、基材のフィルム層と粘着剤層を同時に押出、積層した自己粘着型の表面保護フィルムの製造方法が一般的に用いられている。
【0004】
この共押出成形方法による表面保護フィルムとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性樹脂からなる基材層の片面に、スチレン系エラストマー、粘着付与剤及びスチレン相溶樹脂からなる粘着剤層を設けた共押出積層フィルム(特許文献1)や、融点が115〜125℃、密度が0.915〜0.932g/cmであるエチレン−α−オレフィン共重合体からなる粘着剤層を設けた共押出積層フィルム(特許文献2)等が挙げられる。
【0005】
ところで、表面保護フィルムは、用途によっては各種樹脂板、ガラス板、金属板等に粘着された後、乾燥、加熱成形等の後加工に供される工程があり、130〜140℃の高温環境に晒された場合には、特許文献1に記載の共押出積層フィルムからなる表面保護フィルムでは、被着体からの浮き剥がれが発生したりして、熱収縮によって、被着体に反りを発生させたりする問題点があった。
また、上記の特許文献2に記載の表面保護フィルムにおいては、耐熱性に優れるものの、被着体に貼り合わせ難く、作業性に問題点があった。
【特許文献1】特開平8−253744号公報
【特許文献2】特開平8−323942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み、耐熱性及び貼り付け性に優れ、上記の問題点を解決した、金属板、樹脂板等の表面に貼着する表面保護フィルム、特にオレフィン系の表面保護フィルムを提供することを課題とする。
【0007】
かかる課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、オレフィン系樹脂を用いた基材層に積層させる粘着剤層として、耐熱性及び貼り付け性に優れたオレフィン系エラストマーを使用し、そのオレフィン系エラストマーのなかでも、特異的な線状のエチレンマルチブロックコポリマーであってその融点が115℃以上であり、且つ動的粘弾性のtanδピーク温度が−10℃以下であるオレフィン系エラストマーを粘着性樹脂として粘着剤層に使用したときに、耐熱性に優れ、また貼り付け性に優れた表面保護フィルムとなることを新規に見出し、その結果、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
而して本発明は、少なくとも基材層及び粘着剤層からなり、基材層がオレフィン系樹脂であり、粘着剤層が、線状のエチレンマルチブロックコポリマーからなり、その融点が115℃以上であり、且つ動的粘弾性のtanδピーク温度が−10℃以下であるオレフィン系エラストマーであることを特徴とする表面保護フィルムである。
【0009】
より好ましくは、本発明は共押出成形により製造された表面保護フィルムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐熱性及び貼り付け性に優れたオレフィン系の表面保護フィルムが提供される。
本発明により提供される表面保護フィルムは、耐熱性に優れているため、過酷な加熱環境下で使用される場合であっても、被着体からの浮き剥がれが発生することがなく、また熱収縮によって、被着体に反りを発生させたりすることがない。
さらに、表面保護フィルムとして、金属板、塗装板、自動車用保護フィルム、樹脂板、化粧鋼板、ガラス、各種液晶部材、液晶パネル等の運搬、加工などの工程において、これらの部材の表面を保護し、その表面保護機能を終えた段階では容易に剥脱できる粘着性と密着力を有しているものであり、その応用性は極めて広いものである利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、上記したようにその基本的態様は、少なくとも基材層及び粘着剤層からなり、基材層がオレフィン系樹脂であり、粘着剤層が、線状のエチレンマルチブロックコポリマーからなり、その融点が115℃以上であり、且つ動的粘弾性のtanδピーク温度が−10℃以下であるオレフィン系エラストマーであることを特徴とする表面保護フィルムである。
【0012】
本発明において、基材層として使用されるオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LDPE)等のエチレン単独重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン系の熱可塑性樹脂を挙げることができ、これらのポリオレフィン系樹脂は、それぞれ単独で使用してもよく、また2以上を組み合わせで使用してもよい。
【0013】
これらの基材層を構成する樹脂成分中には、本発明の効果を損なわない範囲内で、種々の添加剤を添加することができる。そのような添加剤としては、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、無機充填剤、顔料、滑剤等である。
【0014】
一方、この基材層に対する粘着剤層として使用される樹脂としては、基材層との密着性の良いオレフィン系エラストマー樹脂が使用され、本発明にあっては、線状のエチレンマルチブロックコポリマーであって、その融点が115℃以上であり、且つ動的粘弾性のtanδピーク温度が−10℃以下であるオレフィン系エラストマー使用される。
【0015】
この線状のエチレンマルチブロックコポリマーは、エチレンと、エチレン若しくは炭素数3〜20程度のα−オレフィンの共重合体樹脂であり、2以上のブロックまたはセグメントを含有する線状のエチレンマルチブロックコポリマーである。
線状のエチレンマルチブロックコポリマーを構成するために、2種の触媒と、いわゆるシャトリング剤を用いてエチレンと、エチレン若しくは炭素数3〜20程度のα−オレフィンが線状のマルチブロック状に共重合され、そのエチレンの含有率は65〜100%の範囲内にあることが好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn)が3.0未満であることが好ましい。分子量分布が3.0未満であると、低分子量の線状のマルチブロックコポリマーがブリードすることがないため、被着体への汚染を防止することができる。
【0016】
本発明にあっては、かかる特異的なオレフィン系エラストマー樹脂を使用することにより、目的とする表面保護フィルムの耐熱性並びに貼り付け性を良好なものとならしめるのである。
すなわち、粘着剤層として使用する上記したエチレンマルチブロックコポリマーであるオレフィン系エラストマー樹脂は、その融点が115℃以上を有することから表面保護フィルムの耐熱性を良好ならしめ、且つ動的粘弾性のtanδのピーク値が−10℃以下であることから表面保護フィルムの貼り付け性を良好ならしめるのである。
【0017】
本発明の表面保護フィルムにあっては、少なくとも基材層及び粘着剤層からなる表面保護フィルムであるが、その層構造は2層構造のみならす、それ以上の層構造を有するものであっても良いが、好ましくは基材層及び粘着剤層からなる2種2層構造である。
その場合における層厚みとしては、使用用途により適宜選択され、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の基材層としての厚みは20〜120μm程度であり、また粘着剤層の厚みを2〜30μm程度の範囲とするのが好ましく、より好ましくは、表面保護フィルムの厚みとして50〜120μmであって、基材層:粘着剤層の層厚比が7:3程度であるのが好ましい。
なお、保護フィルム厚としてのフィルムの厚さが薄すぎると、フィルム物性が低下して破れやすくなる傾向になり、厚すぎると柔軟性が低下して使用し難いものとなる傾向になる。
【0018】
本発明が提供する表面保護フィルムの製造は、一般的な樹脂組成物を用いた製膜形成に使用される製造方法により製造することができる。具体的には、一般的な溶融押出成形法(インフレーション法、Tダイ法)の手段によって成形することができる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を、実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実験例に限定されるものではない。
【0020】
実験例1〜4/比較例1〜3
下記表1に記載の処方(重量部)により、Tダイで2種2層の70μm厚の表面保護フィルムを作成した(2種2層の層厚比率は、基材層:粘着剤層=7:3)。
得られた表面保護フィルムについて、耐熱性、貼り付け性及び粘着力について評価を行い、それらの結果を併せて表中に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
また、表中の注は以下のものである。
*1:ポリプロピレン WINTEC WFX6(日本ポリプロ(株)社製)
*2:オレフィン系エラストマー1 INFUSE D9107(ダウケミカル日本(株)社製) 融点121℃、tanδピーク温度−46℃
*3:オレフィン系エラストマー2 INFUSE D9500(ダウケミカル日本(株)社製) 融点122℃、tanδピーク温度−46℃
*4:オレフィン系エラストマー3 INFUSE D9507(ダウケミカル日本(株)社製) 融点119℃、tanδピーク温度−44℃
*5:オレフィン系エラストマー4 INFUSE D9807(ダウケミカル日本(株)社製) 融点118℃、tanδピーク温度−45℃
*6:オレフィン系エラストマー5 融点84℃、tanδピーク温度−15℃(三井デュポンポリケミカル(株)社製)
*7:オレフィン系エラストマー6 融点103℃、tanδピーク温度−18℃(日本ポリエチレン(株)社製)
*8:オレフィン系エラストマー7 融点135℃、tanδピーク温度2℃(住友化学(株)社製)
【0023】
*9:耐熱性試験
耐熱性試験は以下のようして行った。
[方法]
5cm×5cmのガラス板に上記で作製した表面保護フィルムを、圧着装置を用いて貼り付けた。圧着ローラは、その表面をJIS K6301(加硫ゴム物理性試験方法)に規定するスプリング硬さ80±5Hs、厚さ約6mmのゴム層で被覆された、幅約45mm、直径約83mm、質量2000±50gのものを用いた。
貼り付け後、120℃のオーブンに試験片を投入し、45分後の保護フィルムの様子を目視にて観察した。
【0024】
[評価基準]
○:フィルムの外観もよく、フィルム浮きが全く確認されない。フィルムの剥離時にガラス板への粘着剤層の付着も全くない。
×:フィルムの外観に一部収縮が確認される、又はフィルムの浮きが一部確認される。フィルムの剥離時にガラス板に粘着剤層の糊残りが確認される。
【0025】
*10:貼り付け性
貼り付け性試験は以下のようにして行った。
低温条件(5℃)下、において、試験片のアクリル板への貼り付け性を確認した。
○:問題なくアクリル板への貼り付けがスムーズに行われる。
×:アクリル板への貼り付けが困難である。
【0026】
*11:粘着力
粘着力試験は以下のようにして行った。
SUS304板を用い、試験を行った。試験板は、表面の汚れ(油、ホコリ、粉等)を取るために乾布で充分に清掃した後使用した。
試験片として、フィルムの軸方向に幅25mm、長さ100mmのものを用いた。試験片の貼り付けは、手動式圧着ロールを用い、圧着ローラは、その表面をJIS K6301(加硫ゴム物理性試験方法)に規定するスプリング硬さ80±5Hs、厚さ約6mmのゴム層で被覆された、幅約45mm、直径約83mm、質量2000±50gのものを用いた。
貼り付けた試験片を30分放置した後、試験片と水平方向(180度剥離)に300mm/分の速度で剥離したときの剥離力を6回測定し、その平均値を粘着力とした。
【0027】
表中に示した結果からも判明するように、本発明の表面保護フィルムは耐熱性に優れており、また低温での貼り付け性も良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上記載のように、本発明により、耐熱性及び貼り付け性に優れ、金属板、樹脂板等の表面に貼着する表面保護フィルム、特にオレフィン系の表面保護フィルムが提供される。
本発明が提供する表面保護フィルムは、耐熱性に優れているため、過酷な加熱環境下で使用される場合であっても、被着体からの浮き剥がれが発生することがなく、また熱収縮によって、被着体に反りを発生させたりすることがなく、金属板、塗装板、自動車用保護フィルム、樹脂板、化粧鋼板、ガラス、各種液晶部材、液晶パネル等の運搬、加工などの工程において、これらの部材の表面を保護できることから、その応用性は極めて広いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層及び粘着剤層からなり、基材層がオレフィン系樹脂であり、粘着剤層が、線状のエチレンマルチブロックコポリマーからなり、その融点が115℃以上、且つ動的粘弾性のtanδピーク温度が−10℃以下であるオレフィン系エラストマーであることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項2】
共押出成形により製造されることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。

【公開番号】特開2009−269374(P2009−269374A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124364(P2008−124364)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】