説明

耐爆裂性セメント硬化体およびその製造方法

【課題】耐爆裂性に優れるセメント硬化体を提供する。
【解決手段】廃キップを含有する耐爆裂性セメント硬化体。前記耐爆裂性セメント硬化体は、炭酸化処理することが好ましく、水/セメント比が35〜60%であることが好ましく、圧縮強度が30N/mm以上であることが好ましい。また、廃キップとセメントを含有するセメント組成物と水を配合してセメント混練物を調製し、これを型枠に流し込んで養生し、硬化後に脱型して得た成形体を養生する耐爆裂性セメント硬化体の製造方法であり、セメント混練物が細骨材、粗骨材および有機繊維の中から選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築業界などにおいて使用される耐爆裂性セメント硬化体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや建築物などで火災の影響を受ける構造物では、火災時のセメント硬化体の爆裂が問題視されている。これは、セメント硬化体が爆裂によって飛散し、人間が受傷や死亡するなど、大きな被害を受ける可能性があるためである。セメント硬化体が火災時に爆裂する原因は、セメント硬化体中に存在する水分が、温度上昇に伴い水蒸気爆発を起こすためである。したがって、セメント硬化体の爆裂を抑制するためには、セメント硬化体中の水分を効率よく硬化体の外へ逃がすことが重要と考えられている。
セメント硬化体の爆裂を抑制する方法としては、空隙率が多く強度の低いセメント硬化体を用いて被覆する方法がある(特許文献1)。これは、ポーラスなセメント硬化体では、内在する水分が硬化体の外へ迅速に逸脱するために、爆裂が生じにくいことを利用したものである。また、有機繊維を配合する方法も提案されている(特許文献2〜特許文献6)。これは、配合した有機繊維が温度上昇とともに燃焼して、空隙を形成し、これが内在する水分のパスとなって、爆裂を抑制するというものである。
【0003】
【特許文献1】特開平09−13531号公報
【特許文献2】特公昭57―20126号公報
【特許文献3】特公昭62−12197号公報
【特許文献4】特開平11−79807号公報
【特許文献5】特開平11−303245号公報
【特許文献6】特開2000−143322号公報
【0004】
一方、廃キップの有効利用方法についても種々の検討がなされているが、未だにその有益な方法は見いだされていない現状にある。鉄道産業から発生する廃キップを、鉄道トンネルの耐火技術に役立てることができれば、非常に有益である。もちろん、鉄道トンネルに限定されるものではない。道路トンネルや建築構造物への展開も可能であり、各方面で有用な技術となり得るものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、空隙率が多く強度の低いセメント硬化体を用いて被覆する方法では、強度設計の観点からは有用ではなく、構造物の大型化や利用可能な空間が小さくなるなどの問題があった。また、有機繊維を利用する方法は、セメント硬化体の含水量によって爆裂抑制効果が大きく変動するという課題があった。つまり、セメント硬化体の含水率が高い場合には十分な爆裂抑制効果が得られない場合があった。
そこで、本発明者は、前記課題を解決すべく、特定の材料を使用することにより耐爆裂性に富むセメント硬化体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(1)廃キップを含有する耐爆裂性セメント硬化体、(2)炭酸化処理した(1)の耐爆裂性セメント硬化体、(3)水/セメント比が35〜60%である(1)または(2)の耐爆裂性セメント硬化体、(4)圧縮強度が30N/mm以上である(1)〜(3)のいずれかの耐爆裂性セメント硬化体、(5)廃キップとセメントを含有するセメント組成物と水を配合してセメント混練物を調製し、これを型枠に流し込んで養生し、硬化後に脱型して得た成形体を炭酸化処理する耐爆裂性セメント硬化体の製造方法、(6)セメント混練物が細骨材、粗骨材および有機繊維の中から選ばれた少なくとも1種を含有する(5)の耐爆裂性セメント硬化体の製造方法、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐爆裂性セメント硬化体は、耐爆裂性に優れ、さらに、強度が高いなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における%は特に規定しない限り質量基準で示す。
また、セメント硬化体とは、ペースト硬化体、モルタル硬化体およびコンクリート硬化体を総称するものである。
【0009】
本発明で使用する廃キップとは、特に限定されるものではないが、鉄道各社で使用済みのキップ(切符)をシュレッダーなどで処理したものを総称するものである。廃キップのアスペクト比は3〜50が好ましく、5〜25がより好ましい。廃キップのアスペクト比が3未満では、パス形成能力が充分でなく、その結果、耐爆裂性が充分に発揮されない場合がある。逆に、アスペクト比が50を超えると、分散性が悪くなり、取り扱いが困難になるばかりか、ファイバーボールになりやすく、その結果、耐爆裂性が低下する傾向にある。
【0010】
廃キップの使用量は、特に限定されるものではないが、通常、セメント硬化体1mあたり、1〜30kgの範囲で使用することが好ましく、3〜15kgがより好ましい。1kg未満では、耐爆裂性が充分に得られない場合があり、30kgを超えると、セメント硬化体の調製や型枠への充填性や成形性が悪くなる場合があり、また、強度を確保し難くなる。
【0011】
本発明で使用するセメントは、特に限定されるものではないが、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、また、石灰石粉末などや高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント、いわゆるエコセメントなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上である。中でも、高炉セメントを選定することが、耐爆裂性の向上の観点から好ましい。
【0012】
本発明で使用するセメントと混練りする水の量は、その目的・用途や各材料の配合割合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、水/セメント比で35〜60%の範囲が好ましく、40〜55%がより好ましい。水/セメント比が35%未満では十分な耐爆裂性を得ることが困難な場合があり、60%を超えると強度設計を容易にする十分な強度を得ることが困難な場合がある。
【0013】
本発明では、強度、耐爆裂性などを向上させるために、必要に応じて、セメント、水の他に、細骨材、粗骨材や繊維などを配合することができる。細骨材や粗骨材は、特に限定されるものではなく、通常のモルタル、コンクリートに使用されるものが用いられるが、耐火性の骨材であればより好ましい。また、有機繊維は、ポリプロピレンファイバー、ビニロンファイバー、セルロースファイバー、アクリルファイバー、パルプ繊維などが挙げられる。
【0014】
本発明のセメント硬化体の強度は、30N/mm以上であることが好ましい。30N/mm未満であると構造物の強度設計が難しい場合がある。
【0015】
本発明では、セメント硬化体の一部あるいは全部を炭酸化処理することが好ましい。炭酸化処理の方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸成分と接触させる方法が挙げられる。本発明で言う炭酸成分とは、CO成分、CO2−やHCOなどを供給可能な物質を総称するものであり、特に限定されるものではない。例えば、炭酸ガス、超臨界二酸化炭素、ドライアイス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸鉄などの炭酸塩、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸鉄などの重炭酸塩、および炭酸水などが挙げられる。なお、炭酸化処理の際には適度な湿分が必要であり、温度も20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。
【0016】
さらに、炭酸化処理のタイミングは、充分に硬化した後に行うのが好ましい。例えば、セメント硬化体の圧縮強度が5〜40N/mm程度の範囲にある時に炭酸化処理を行うことがより好ましい。セメント硬化体の圧縮強度が5N/mm以上に達しない時点で炭酸化処理を行うと、ひび割れが発生しやすい。また、強度設計を容易にする十分な強度が得られにくい。逆に、40N/mmを超えると、炭酸化処理に多くの時間を必要とし、生産性の観点から好ましくない場合がある。
【0017】
本発明では、セメント硬化体の一部あるいは全部を炭酸化する。セメント硬化体が鉄筋を含む場合には、鉄筋までの厚さ、すなわち、かぶり厚の範囲で炭酸化処理を行う。これは、鉄筋の防食の観点から重要である。
【0018】
炭酸化処理するまでの養生の条件は、特に限定されるものではない。水中養生、気乾養生、蒸気養生、オートクレーブ養生などが挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせても差し支えない。二次製品を効率良く生産する観点からは、蒸気養生を選定することが好ましい。
【0019】
本発明では、膨張材、急硬材、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末などの混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、凝結調整剤、ベントナイトなどの粘土鉱物、ならびにハイドロタルサイトなどのアニオン交換体などのうちの1種または2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0020】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0021】
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、およびナウタミキサなどの使用が可能である。
【0022】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
単位セメント量400kg/m、水/セメント比(W/C)40%、細骨材率(S/a)46%、空気量3±1.0(体積)%のコンクリートを調製した。このコンクリート1mあたり、表1に示すような種類の廃キップを配合した。このコンクリートを型枠に詰め、φ15cm×高さ30cmの円筒形供試体を作製した。材齢24時間で脱型し、材齢7日までの6日間、20℃の水中養生を行い、さらに、屋外に取り出して材齢28日まで暴露養生を行った。得られたセメント硬化体の圧縮強度を測定するとともに、爆裂試験を実施した。結果を表1に併記する。
【0024】
<使用材料>
セメントイ:市販の普通セメント、比重3.16、ブレーン比表面積3300cm/g
廃キップA:アスペクト比2、繊維長6mm、繊維径2mm
廃キップB:アスペクト比3、繊維長10mm、繊維径2mm
廃キップC:アスペクト比10、繊維長20mm、繊維径2mm
廃キップD:アスペクト比25、繊維長50mm、繊維径2mm
廃キップE:アスペクト比25、繊維長50mm、繊維径2mm
水:水道水
細骨材:新潟県姫川産、比重2.64
粗骨材:新潟県姫川産、比重2.62
【0025】
<測定方法>
圧縮強度:JIS A 1108に準じて材齢91日に測定。
爆裂試験:セメント硬化体を炉に入れて、1200℃まで1時間で昇温加熱し、爆裂の有無を観察した。12本の試験体のうち、9本以上に爆裂が認められた場合は×、6本以上で8本以下の場合は*、3本以上で5本以下の場合は△、1〜2本の場合は○、全く爆裂が認められない場合は◎とした。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から、本発明のセメント硬化体は、耐爆裂性に優れ、圧縮強度が高いことが分かる。
【実施例2】
【0028】
廃キップCを使用し、セメントの種類を表2に示すように変化してコンクリートを調製したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0029】
<使用材料>
セメントロ:市販の早強セメント、比重3.14、ブレーン比表面積4500cm/g
セメントハ:市販の高炉セメントB種、比重3.06、ブレーン比表面積3500cm/g
セメントニ:市販の高炉セメントC種、比重2.98、ブレーン比表面積4000cm/g
セメントホ:市販の低熱セメント、比重3.23、ブレーン比表面積3500cm/g
【0030】
【表2】

【0031】
表2から、本発明のセメント硬化体は、耐爆裂性に優れ、圧縮強度が高いことが分かる。特に高炉セメントを使用した場合に耐爆裂性が良好である。
【実施例3】
【0032】
廃キップCを使用し、セメントとして実施例2の高炉セメントB種を使用し、水/セメント比を表3に示すように変化してコンクリートを調製したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0033】
【表3】

【0034】
表3から、本発明のセメント硬化体は、耐爆裂性に優れ、圧縮強度が高いことが分かる。特に水/セメント比が50%以上で耐爆裂性は良好であるが、圧縮強度が低下する傾向にある。
【実施例4】
【0035】
廃キップCを使用し、セメントとして実施例2の高炉セメントB種を使用し、炭酸化処理期間を調整して炭酸化深さを表4に示すように変化したこと以外は実施例1と同様に行った。強制炭酸化の条件は、炭酸ガス濃度20(体積)%、相対湿度60%、温度40℃とした。炭酸化処理を開始するまでの養生は実施例1と同様に行い、炭酸化処理は材齢14日から開始した。結果を表4に併記する。
【0036】
【表4】

【0037】
表4から、本発明のセメント硬化体は、耐爆裂性に優れ、圧縮強度が高いことが分かる。特に炭酸化深さ10mm以上で耐爆裂性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の耐爆裂性セメント硬化体は、耐爆裂性に優れ、さらに、強度が高いため、土木・建築構造物に広範に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃キップを含有する耐爆裂性セメント硬化体。
【請求項2】
炭酸化処理した請求項1に記載の耐爆裂性セメント硬化体。
【請求項3】
水/セメント比が35〜60%である請求項1または2に記載の耐爆裂性セメント硬化体。
【請求項4】
圧縮強度が30N/mm以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐爆裂性セメント硬化体。
【請求項5】
廃キップとセメントを含有するセメント組成物と水を配合してセメント混練物を調製し、これを型枠に流し込んで養生し、硬化後に脱型して得た成形体を炭酸化処理する耐爆裂性セメント硬化体の製造方法。
【請求項6】
セメント混練物が細骨材、粗骨材および有機繊維の中から選ばれた少なくとも1種を含有する請求項5記載の耐爆裂性セメント硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2007−223871(P2007−223871A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49796(P2006−49796)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】