説明

耐突刺し性手袋

【課題】突刺し抵抗性に優れ、しかもごわごわ感がなく柔らかな装着感が得られて作業性に優れた手袋にする。
【解決手段】最外層(2)と最内層(3)との間に複数枚の積層シート(4)を備える。積層シート(4)には、ポリウレタン樹脂などの、伸縮性を備える高分子ポリマーでコーティングされた布帛(6)と、極細繊維で構成された織物(7)とを含む。高分子ポリマーコーティング布帛(6)の基材はナイロン繊維で構成された織物からなる。上記の極細繊維は、単繊維繊度が0.001デシテックス以上1.5デシテックス以下である。積層シート(4)には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維からなる高強度繊維布帛(8)をさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋭利な突起による突刺しに対して手指を保護する耐突刺し性手袋に関し、さらに詳しくは、突刺し抵抗性に優れ、しかもごわごわ感がなく柔らかな装着感が得られて作業性に優れた、耐突刺し性手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
鋭利な突起による突刺しに対し手指を保護する耐突刺し性手袋としては、金属板やチェーン状金属糸状などを用いた手袋が古くから用いられている。しかし、金属板を用いたものは硬く運動性に劣り、チェーン状金属糸状を用いたものは加工性が悪く非常に高価である問題があった。これらの問題点を改良するため、近年はアラミド繊維など高強度の合成繊維を用いた耐突刺し性手袋が開発されている。
【0003】
即ち、アラミド繊維など高強度繊維からなる布帛の表面の繊維をマイクロフィラメント化して絡み合わせた耐突刺し性手袋(例えば、特許文献1参照。)や、高強度繊維からなる布帛と極細繊維製織編物とを含む多層積層体からなる耐突刺し性手袋(例えば、特許文献2参照。)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−107139号公報
【特許文献2】特開2007−321262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の高強度合成繊維を用いた従来技術は、いずれも突刺し抵抗性を高めようとすると布帛や織編物を厚くしたり、積層数を多くしなければならず、ごわごわして柔らかな装着感が得られず、作業性に劣る問題がある。これに対し、布帛や織編物を薄くして柔らかさを高めたり、積層数を少なくするなどしてごわごわ感をなくそうとすると、突刺し抵抗性が劣ることとなり、鋭利な突起による突刺しに対して手指を十分に保護できなくなる問題があった。
【0006】
本発明の技術的課題は、上記の問題点を解消し、突刺し抵抗性に優れ、しかもごわごわ感がなく柔らかな装着感が得られて作業性に優れた、耐突刺し性手袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば、本発明の実施の形態を示す図1から図3に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち、本発明は耐突刺し性手袋に関し、最外層(2)と最内層(3)との間に複数枚の積層シート(4)を備えた耐突刺し性手袋であって、上記の積層シート(4)に少なくとも、伸縮性を備える高分子ポリマーでコーティングされた布帛(6)と、極細繊維で構成された織物(7)と、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記の積層シートに含まれる上記の高分子ポリマーでコーティングされた布帛は、その高分子ポリマーが伸縮性を備えるので、布帛の柔らかさが十分に発揮され、手袋全体に柔らかな装着感が得られる。そしてこの手袋に鋭利な突起が突き刺さると、その突刺し力が積層シートを構成する上記の高分子ポリマーコーティング布帛と上記の極細繊維織物とで受け止められる。このとき、上記の高分子ポリマーが伸縮性を備えているので、これをコーティングした布帛が弾性変形し、その突刺し力が分散される。
【0009】
上記の伸縮性を備えた高分子ポリマーとは、布帛の伸縮性を十分に発揮できるものであればよく、特定の材質のものに限定されない。具体的には、例えばポリウレタン樹脂、天然ゴム、二トリルゴム、ポリエチレン樹脂などを挙げることができるが、なかでも、ポリウレタン樹脂を用いると、軽量で柔らかくて好ましい。
またこの高分子ポリマーは、例えばポリウレタン樹脂のように摩擦力の大きなものを用いた場合、この布帛を積層シートの中間部分に配置することで、縫製の際に隣接する生地との間で滑ることが防止され、安全に且つ効率的に作業できて好ましい。
【0010】
上記の高分子ポリマーのコーティングとは、基材の片面または両面に高分子ポリマーの薄層を、この基材と一体に形成することをいい、薄膜のラミネートや、塗布、浸漬など、既知の方法で形成することができる。なおこのコーティングは、上記の基材の両面にコーティングしてもよいが、片面にのみコーティングしてもよく、この場合は安価に実施できて好ましい。この高分子ポリマーのコーティング量は、必要とする突刺し抵抗性や柔らかさ、高分子ポリマーの種類等によっても異なるが、例えば20〜40g/m程度の範囲内が好ましく、さらに好ましくは25〜35g/m程度の範囲内に設定される。
【0011】
上記の高分子ポリマーコーティング布帛の基材は、高分子ポリマーとの一体化が容易であり、所望の柔らかさを備えておればよく、特定の材質のものに限定されない。具体的には、例えば綿などの天然繊維や、ポリエステル繊維、ナイロン繊維などの合成繊維を挙げることができる。特に、この基材がナイロン繊維で構成された織物であると、高分子ポリマーを良好にコーティングできるうえ、柔らかさと強度を備えているので好ましい。またこの基材は、上記の高分子ポリマーコーティング布帛が所望の突刺し抵抗性を備えておればよく、このため、例えばこの基材が織物である場合は、高密度織物が好ましい。
【0012】
上記の極細繊維織物は、組織が緻密で必要な突刺し抵抗性と柔らかさを備えておればよく、特定の単繊維繊度のものや織密度のものに限定されず、素材も特定のものに限定されない。
例えばこの極細繊維は、単繊維繊度が0.001デシテックス以上1.5デシテックス以下であると、この極細繊維織物の柔らかさを良好にできるうえ、緻密な織物に形成して優れた突刺し抵抗性を発揮できるので好ましく、単繊維繊度が0.001デシテックス以上1.0デシテックス以下であるとより好ましく、0.005 デシテックス以上0.9デシテックス以下であるとさらに好ましく、0.01デシテックス以上0.8デシテックス以下であると特に好ましい。
【0013】
また上記の極細繊維織物は、緻密な織物とすることができるが、具体的には、インチ当たり100本以上の織密度を有する高密度織物であると、突刺し抵抗性を良好に発揮できて好ましい。
【0014】
上記の極細繊維を構成する素材としては、例えばポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維等が用いられる。極細化可能な繊維であればいかなる繊維でも良いが、中でも容易に極細繊維とすることができ、布帛にした時に洗濯前後で寸法変化が小さい点で、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維が好ましく用いられる。ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維はそれぞれ単独で用いても良いが、両方を組み合わせて使用しても良い。ポリエステル系繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びこれらの共重合体などからなる繊維が挙げられる。ポリアミド系繊維としては、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン66及びこれらの共重合体などからなる繊維が挙げられる。
【0015】
また上記の積層シートに、高強度繊維からなる布帛を含むと、突刺し抵抗性を容易に高めることができて好ましい。但し、この高強度繊維布帛は、通常、柔らかさに劣るので、できるだけ薄い布帛を用いるとともに使用枚数を少なく抑えることが好ましい。
【0016】
上記の高強度繊維布帛は、織物であってもよいが、不織布であると織目や編目がないので、緻密な組織の布帛にできて好ましい。またこれらの織物や不織布は、高圧流体噴射処理、いわゆるウォータージェットパンチ処理により、布帛表面の繊維が毛羽立ちささくれるようにマイクロフィブリル化しておくと、組織を一層緻密化できて好ましい。
【0017】
例えば上記の布帛が不織布である場合、好ましくは0.5〜10デシテックスの繊維が用いられ、より好ましくは1.5〜7デシテックスの繊維が用いられる。そしてこの繊維は上記の高圧流体噴射処理により単繊維繊度が1/100以下にフィブリル化される。
また上記の布帛が織物である場合、経糸や緯糸の繊度は100〜4000デシテックスが好ましく、より好ましくは215〜3300デシテックスの範囲である。その単糸繊度は0.1〜10デシテックスが好ましく、より好ましくは0.4〜5デシテックスの範囲である。そしてこの繊維も上記の高圧流体噴射処理によりフィブリル化されると好ましい。
【0018】
上記の高強度繊維としては、上記の高引張特性と、JIS L 1013に基づいて測定される引張り弾性率が400cN/デシテックス以上という高弾性率とを満足する繊維が好ましく使用される。引張強度が10cN/デシテックス以上、かつ、引張り弾性率が400cN/デシテックス以上の高強度繊維を用いることにより、布帛に高度の耐摩耗性、耐鉤裂き性を付与することができるからである。
【0019】
かかる高強度繊維を構成する素材としては、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(例えば東洋紡績株式会社製、商品名「ザイロン」)、超高分子量ポリエチレン繊維(例えば東洋紡績株式会社製、商品名「ダイニーマ」)、LCP(液晶ポリマー)繊維などが挙げられる。本発明の布帛は、上記高強度繊維の1種類からなっていても良いし、任意の2種以上からなっていても良い。
【0020】
これらの繊維のなかでも、耐切創性に優れている点から、アラミド繊維が好ましい。このアラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維があり、メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えば、デュポン社製、商品名「ノーメックス」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。また、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)およびコポリパラフェニレン−3,4'−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。これらのアラミド繊維のなかでも、特にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が好ましい。なお、これらのアラミド繊維は、公知またはそれに準ずる方法で製造でき、また、上記のような市販品を用いても良い。
【0021】
上記の積層シートは、手袋を装着した手指を保護できればよく、従って、その手袋を用いる作業に応じて、手袋の全体に配設してもよく、或いは、手の平部と手の甲部との少なくとも一方に配設したものであってもよく、さらには、手袋の任意の部分にのみ設けたものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
【0023】
(1)手袋に鋭利な突起が突き刺さると、伸縮性を備える高分子ポリマーでコーティングされた布帛により、突刺し力を分散して受け止めることができる。この結果、上記の積層シートを薄く形成しても、優れた突刺し抵抗性を発揮することができる。
【0024】
(2)しかも、上記の高分子ポリマーが伸縮性を備えているので、これをコーティングした布帛は柔らかさを十分に発揮できるうえ、この高分子ポリマーコーティング布帛と極細繊維織物との組み合わせにより優れた突刺し抵抗性を発揮できるので、積層シートを薄く形成でき、この結果、手袋全体を柔軟に形成できるのでごわごわ感がなく柔らかな装着感を得ることができ、優れた作業性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態を示す、耐突刺し性手袋の一部を破断した概略図である。
【図2】本発明の実施形態の、積層シートの概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態の、突刺し抵抗性等の測定結果を示す対比表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、この耐突刺し性手袋(1)は、皮革又は編織物あるいは不織布などの生地からなる最外層(2)と最内層(3)との間に、複数枚の積層シート(4)を備える。この積層シート(4)は、複数の高分子ポリマーコーティング布帛(6)と極細繊維で構成された織物(7)とを含み、さらに、高強度繊維からなる布帛(8)とを含む。なおこの実施形態では、手袋(1)の手の平部(1a)と手の甲部(1b)との両方に上記の積層シート(4)が配設してある。但し本発明では、例えば手の平部(1a)と手の甲部(1b)との少なくとも一方など、所望の部位に上記の積層シート(4)が配設してあればよい。
【0027】
図1と図2に示すように、上記の極細繊維織物(7)は、上記の高分子ポリマーコーティング布帛(6)よりも内側に配置してある。この極細繊維は、単繊維繊度が0.001デシテックス以上1.5デシテックス以下のものが用いられ、例えば0.021デシテックスのものが用いられる。またこの極細繊維織物(7)は、インチ当たり100本以上の織密度、例えばインチ当たり約128本の織密度を有する高密度織物となっている。
【0028】
一方、上記の高強度繊維布帛(8)は、上記の高分子ポリマーコーティング布帛(6)よりも外側に配置してある。この高強度繊維布帛(8)には、例えばアラミド繊維(例えば、東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)などの、高強度繊維からなる織物または不織布が用いられる。
【0029】
上記の高分子ポリマーコーティング布帛(6)の基材は、例えば、ナイロン6繊維の織糸(例えば200デシテックスの経糸と320デシテックスの緯糸)で平織りされており、その織密度は、例えばインチ当たり経糸70本×緯糸52本である。そしてこの基材の片面には、ポリウレタン樹脂からなる高分子ポリマーがコーティングしてある。なおこの実施形態では、上記の基材の片面に高分子ポリマーをコーティングしたが、本発明では基材の両面に高分子ポリマーをコーティングしてもよい。
【0030】
なお、本発明においては、上記の高分子ポリマーコーティング布帛(6)と極細繊維織物(7)とは、それぞれ1枚以上の適宜枚数が上記の積層シート(4)に含まれておればよい。また上記の高強度繊維布帛(8)は、1枚以上の適宜枚数が上記の積層シート(4)に含まれていてもよく、あるいはこれを省略していてもよい。これらの高分子ポリマーコーティング布帛(6)や極細繊維織物(7)、あるいは高強度繊維布帛(8)の枚数は、手袋(1)が必要とする突刺し抵抗性と柔らかさに応じて適宜設定される。
【0031】
次に、上記の耐突刺し性手袋(1)の突刺し抵抗性と柔らかさについて、上記の高分子ポリマーコーティング布帛を有しない場合と比較して測定した。この測定に用いた検体を構成する布帛等は、次の通りである。
【0032】
(1)高分子ポリマーコーティング布帛
200デシテックスのナイロン6製マルチフィラメントを経糸に、320デシテックスのナイロン6製マルチフィラメントを緯糸に用い、経糸織密度70本/2.54cm、緯糸織密度52本/2.54cmの平組織に織成して基材を得た。この基材の片面に、ポリウレタン樹脂を塗布によりコーティングして、目付175g/mの高分子ポリマーコーティング布帛を得た。
【0033】
(2)極細繊維織物
島成分がポリエチレンテレフタレートであり、海成分がポリエステルの酸成分としてテレフタル酸と5−ナトリウムイソフタル酸の共重合体である、アルカリ熱水可溶性ポリエステルからなる海島型ポリエステル複合繊維を用いた。この海島型ポリエステル複合繊維は、海/島比が20/80であり、単繊維1本の島数が70である。このポリエステル複合繊維の、トータル66デシテックス(9フィラメント)のフィラメントヤーンを経糸と緯糸に用いて、織密度110本/2.54cmの平組織の織物(目付62g/m)にしたのち脱海処理を施した。次いで、この織物の片面にウォータージェットパンチ(WJP)処理を施し、目付68g/mの極細繊維織物を得た。
なお、上記のウォータージェットパンチ処理は、高圧流体噴射装置(PERFOJET社製「JETLACE(登録商標)」、ノズル孔径0.1mm、ノズル列1列、ノズルピッチ0.6mm)を用い、ノズル噴射孔と織物の距離を1.5cmとし、織物の移動速度を5m/分とし、最大処理水圧を10MPaとし、処理回数を1回として処理した。
【0034】
(3)高強度繊維布帛の織物
東レ・デュポン株式会社製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条(「KEVLAR(登録商標)29」、引張強度20.3cN/デシテックス、引張弾性率490cN/デシテックス、単糸繊度1.65デシテックス)のカットステープル(繊維長51mm)100%から得た紡績糸20番双糸(綿番手)を用いた。この紡績糸を経糸と緯糸に用い、タテ密度58本/2.54cm、ヨコ密度47本/2.54cm、目付230g/mの2/1ツイル組織のアラミド繊維100%織物を得た。次いで、この織物の両面に、前記の高圧流体噴射装置を用いてウォータージェットパンチ処理を施し、248g/mの高強度繊維織物を得た。なお、このときのウォータージェットパンチ処理は、ノズル噴射孔と織物の距離を1.5cmとし、織物の移動速度を1m/分とし、最大処理水圧を20MPaとし、処理回数を片面3回ずつ、両面合計で6回処理した。
【0035】
(4)高強度繊維布帛の不織布
東レ・デュポン株式会社製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(「KEVLAR(登録商標)29」、引張強度20.3cN/デシテックス、引張弾性率490cN/デシテックス、単糸繊度1.65デシテックス)のカットステープル(繊維長51mm)を用いた。このカットステープルを公知の方法により開綿、開繊して短繊維ウエブを作製し、その短繊維ウエブを複数積層した後、ニードルパンチングして、目付290g/m、密度0.209g/cmを有する不織布を作製した。次いで、この不織布の両面に、前記の高圧流体噴射装置を用いてウォータージェットパンチ処理を施し、目付305g/m、密度0.565g/cmを有する不織布を得た。なお、このときのウォータージェットパンチ処理は、ノズル噴射孔と不織布の距離を1.5cmとし、不織布の移動速度を1m/分とし、最大処理水圧を20MPaとし、処理回数を片面3回ずつ、両面合計で6回処理した。
【0036】
上記の布帛等を用いて製作した検体は、次の通りである。
実施例1:上面から順に、ポリウレタン樹脂コーティング布帛3枚と、極細繊維織物4枚とを重ねて検体とした。
実施例2:上面から順に、ポリウレタン樹脂コーティング布帛4枚と、極細繊維織物3枚とを重ねて検体とした。
実施例3:上面から順に、高強度繊維織物1枚と、ポリウレタン樹脂コーティング布帛3枚と、極細繊維織物4枚とを重ねて検体とした。
実施例4:上面から順に、高強度繊維織物1枚と、ポリウレタン樹脂コーティング布帛4枚と、極細繊維で構成された織物3枚とを重ねて検体とした。
実施例5:上面から順に、ポリウレタン樹脂コーティング布帛5枚と、極細繊維織物4枚とを重ねて検体とした。
実施例6:上面から順に、高強度繊維不織布1枚と、ポリウレタン樹脂コーティング布帛3枚と、極細繊維織物4枚とを重ねて検体とした。
実施例7:上面から順に、高強度繊維不織布1枚と、ポリウレタン樹脂コーティング布帛4枚と、極細繊維織物3枚とを重ねて検体とした。
【0037】
また、比較のために用いた検体は、次の通りである。
比較例1:上面から順に、極細繊維織物7枚を重ねて検体とした。
比較例2:上面から順に、高強度繊維織物1枚と、極細繊維織物7枚とを重ねて検体とした。
比較例3:上面から順に、高強度繊維不織布1枚と、極細繊維織物7枚とを重ねて検体とした。
【0038】
上記の各検体を用いて行った突刺し抵抗性の測定は、圧縮試験装置(株式会社島津製作所製、オートグラフ)を用いて所定の針を降下させ、その針が検体に突き刺さるときの抵抗力(N)を測定した。ミシン針(オルガン針株式会社製、型式DP17、太さ1.25mm×1.15mm)を用いた場合、及び注射針(テルモ株式会社製、型式21G、太さ0.6mm)を用いた場合は、針の下降速度を50mm/分に設定した。またCE(ヨーロッパ規格)試験用鉄針(太さ4.5mm、先端角30度)を用いた場合は、針の下降速度を100mm/分に設定した。
また、手袋の柔らかさは、手触りでの官能検査により行い、上記の比較例1を基準として、これと同等の場合を「柔らかい」とし、柔らかさがこれよりもやや劣るものを「やや柔らかい」とした。
【0039】
上記の測定結果を図3の比較表に示す。なお、表中の突刺し力の値は、ミシン針および注射針の場合は検体数5の平均値であり、CE用鉄針の場合は検体数4の平均値である。また検体の厚さの値は、各検体の10箇所で測定した平均値である。
【0040】
上記の測定結果から、以下のことが明らかとなった。
(1) 高分子ポリマーコーティング布帛と極細繊維織物とを組み合わせた本発明の実施例1、2では、同じ枚数の極細繊維織物のみからなる比較例1に比べて、同じ程度の柔らかさを有しながら、この比較例1よりも高い突刺し抵抗性が得られた。
(2) 高強度繊維織物を1枚増やした実施例3、4では、実施例1、2よりもさらに優れた突刺し抵抗性を発揮でき、しかも、柔らかさはこれらに比べてやや劣るものの、作業性に支障がない程度の、十分に柔らかな装着感が得られた。
(3) また上記の実施例3、4では、比較例1に高強度繊維織物を1枚増やし同じ枚数とした比較例2よりも高い突刺し抵抗性が得られ、特にCE用鉄針に対し優れた突刺し抵抗性が得られた。即ち、高強度繊維織物を組み合わせることにより、先端が鈍器のような棒状のものに対し優れた突刺し抵抗性が発揮された。
【0041】
(4) 実施例1に高分子ポリマーコーティング布帛を2枚増やした実施例5では、高強度繊維を用いていないにもかかわらず、高強度繊維織物を用いた比較例2よりも高い突刺し抵抗性が得られ、また、上記の高強度繊維織物を用いた実施例3、4と比較して、ミシン針や注射針に対し優れた突刺し抵抗性が得られ、且つ、同程度に柔らかな装着感が得られた。
(5) 高強度繊維不織布を1枚増やした実施例6、7では、比較例1に高強度繊維不織布を1枚増やし同じ枚数とした比較例3に比べて、優れた突刺し抵抗性が得られた。
(6) しかもこの実施例6、7では、上記の不織布が織物よりも柔らかいことから、上記の高強度繊維織物を用いた実施例3、4よりも、優れた柔らかさと装着感が得られた。
【0042】
上記の実施形態で説明した耐突刺し性手袋は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、高分子ポリマーコーティング布帛や、極細繊維織物、高強度繊維布帛などの、材質や厚さ、繊維の繊度、織密度、使用枚数、配置、高分子ポリマーの種類、コーティング厚さ等は、この実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0043】
例えば、上記の実施形態では、上記の高分子ポリマーコーティング布帛の内側に極細繊維織物を配置し、外側に高強度繊維布帛を配置したが、例えば高分子ポリマーコーティング布帛と極細繊維織物とを交互に配置するなど、任意の位置に配置することができる。但し、高強度繊維布帛を用いる場合は、この高強度繊維布帛を積層シートのうちの最も外側に配置すると、鋭利な突起による突刺しを効果的に受け止めることができて好ましい。なお、本発明の耐突刺し性手袋は、袖口が長いものなど、用途に応じて任意の形状を採用できることは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の耐突刺し性手袋は、突刺し抵抗性に優れ、しかもごわごわ感がなく柔らかな装着感が得られて作業性に優れることから、鋭利な突起を有する処理物や工具などを取り扱う作業用手袋として特に好適である。
【符号の説明】
【0045】
1…耐突刺し性手袋
1a…手の平部
1b…手の甲部
2…最外層
3…最内層
4…積層シート
6…高分子ポリマーコーティング布帛
7…極細繊維織物
8…高強度繊維布帛(高強度繊維織物、高強度繊維不織布)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層(2)と最内層(3)との間に複数枚の積層シート(4)を備えた耐突刺し性手袋であって、
上記の積層シート(4)に少なくとも、伸縮性を備える高分子ポリマーでコーティングされた布帛(6)と、極細繊維で構成された織物(7)と、を含むことを特徴とする、耐突刺し性手袋。
【請求項2】
上記の高分子ポリマーがポリウレタン樹脂である、請求項1に記載の耐突刺し性手袋。
【請求項3】
上記の高分子ポリマーコーティング布帛(6)の基材が、ナイロン繊維で構成された織物である、請求項1または請求項2に記載の耐突刺し性手袋。
【請求項4】
上記の極細繊維が、0.001デシテックス以上1.5デシテックス以下の単繊維繊度である、請求項1から3のいずれか1項に記載の耐突刺し性手袋。
【請求項5】
上記の積層シート(4)に、高強度繊維からなる布帛(8)を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の耐突刺し性手袋。
【請求項6】
上記の高強度繊維が、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維である、請求項5に記載の耐突刺し性手袋。
【請求項7】
上記の積層シート(4)は、手の平部(1a)と手の甲部(1b)との少なくとも一方に配設してある、請求項1から6のいずれか1項に記載の耐突刺し性手袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−157656(P2011−157656A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20373(P2010−20373)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000101499)アトム株式会社 (8)
【出願人】(504203413)有限会社ジェイショップスドットコム (9)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】