説明

腫瘍形成抑制剤

1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸などのキサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物は腫瘍形成抑制剤として大腸癌などの癌の予防薬となりうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な腫瘍形成抑制剤に関するものである。
【背景技術】
痛風や高尿酸血症の治療薬としてキサンチンオキシダーゼ阻害作用を有するアロプリノール(allopurinol)が古くから使用されている。また、キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物として、2−フェニルチアゾール誘導体(WO92/09279号公報)、1−フェニルピラゾール化合物(WO98/18765号公報)、3−フェニルピラゾール化合物(特開平10−310578号公報)なども報告されている。
活性酸素は、炎症、虚血−再還流障害、発癌や老化などの病理的症状に関与することが示唆されている(大柳善彦 著:O/NO薬理学(日本医学館,1997))。一方、キサンチンオキシダーゼ(Xanthine oxidase(XO))は、プリン代謝において尿酸合成に関わる酵素であるとともに、スーパーオキシドアニオン産生にも関わることから、生体内における活性酸素の発生源として考えられてきた(McCord JM:Oxygen−derived free radicals in postischemic tissue injury,N.Engl.J.Med.,312,159−163(1985))。XO阻害剤としてアロプリノールが知られており、従来より上記疾病に対するXOの関与が本化合物を用いて研究されてきた。しかし、アロプリノールは、それ自身がラジカル除去(スカベンジ)作用を示す(Moorhouse PC,Grootveld M,Halliwell B,Quinlan JG,Gutteridge JM:Allopurinol and oxipurinol are hydroxyl radical acavengers,FEBS Lett.,213,23−28(1987))ので、XOと活性酸素の関連を研究することは困難であった。
最近、アロプリノールよりもはるかに強力で且つラジカルスカベンジ作用を示さないXO阻害剤として、1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸(開発コード:Y−700)等が報告され、現在、痛風および高尿酸血症治療薬として開発中である。
しかし、実際にXO阻害剤、またはそのXO阻害剤の一つである1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸(以下、Y−700と称する)の投与により、腫瘍形成抑制作用、すなわち、大腸発癌がどのように影響を受けるのかは明らかにされていない。
【発明の開示】
本発明者は、XO阻害作用によってXO由来の活性酸素の産生増加が抑制され、腫瘍の形成が抑制されるのではないかと作業仮説を設け、鋭意研究を行なった結果、XO阻害作用を有する化合物が腫瘍形成を抑制し、すなわち、大腸癌の形成を抑制することを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、腫瘍形成、特に大腸癌の発現を抑制する医薬を提供するものである。
本発明は以下の通りである。
(1)キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物を含む腫瘍形成抑制剤。
(2)キサンチンオキシダーゼ阻害活性がIC50値で1μM以下である化合物を含む腫瘍形成抑制剤。
(3)キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物が一般式(I)

(式中、Rは水素、ハロゲンまたはアミノを示す。
はカルボキシまたはC1−4アルコキシカルボニルを示す。
はハロゲン、ヒドロキシ、C1−4アルコキシ、カルボキシ、C1−4アルコキシカルボニルおよびアシルオキシから選ばれる1〜2個の置換基で置換されていてもよいC3−6アルキル、C3−6シクロアルキルまたはC3−6シクロアルキル−C1−4アルキルを示す。)
により表される1−フェニルピラゾール化合物、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩である前記(1)記載の腫瘍形成抑制剤。
(4)キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物が一般式(II)

(式中、Rは水素、ハロゲンまたはアミノを示す。
はカルボキシまたはC1−4アルコキシカルボニルを示す。
は水素、C1−4アルキルまたはハロアルキルを示す。
はシアノまたはニトロを示す。
はハロゲン、ヒドロキシ、C1−4アルコキシ、カルボキシ、C1−4アルコキシカルボニルおよびアシルオキシから選ばれる1〜2個の置換基で置換されていてもよいC3−6アルキル、C3−6シクロアルキルまたはC3−6シクロアルキル−C1−4アルキルを示す。)
により表される3−フェニルピラゾール化合物、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩である前記(1)記載の腫瘍形成抑制剤。
(5)1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩を有効成分とする腫瘍形成抑制剤。
(6)キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物が、2−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸またはアロプリノールである前記(1)記載の腫瘍形成抑制剤。
(7)腫瘍が大腸癌である前記(1)〜(6)記載の腫瘍形成抑制剤。
(8)1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩を有効成分とする大腸癌予防・治療剤。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
上記一般式(I)および(II)につき、各記号の定義は以下のとおりである。
におけるハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を示す。
におけるC1−4アルコキシカルボニルとは、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、第3級ブトキシカルボニルなどのアルコキシ部が炭素数1〜4であるアルコキシカルボニルを示す。
におけるC3−6アルキルは直鎖状または分枝状の炭素数3〜6のアルキルを表し、たとえば、プロピル、イソプロピル、2−エチルプロピル、ブチル、イソブチル、第2級ブチル、第3級ブチル、ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ネオペンチル、ヘキシル、2−エチルブチルなどが挙げられる。C3−6シクロアルキルは炭素数3〜6のシクロアルキルを意味し、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。またC3−6シクロアルキル−C1−4アルキルのC3−6シクロアルキル部は上記したのと同じ基が例示でき、C1−4アルキル部は直鎖状でも分枝状でもよく、たとえば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、第2級ブチル、第3級ブチルなどの炭素数1〜4のアルキルが例示される。C3−6シクロアルキル−C1−4アルキルの具体例として、シクロプロピルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル、3−シクロヘキシルプロピル、4−シクロヘキシルブチルなどが挙げられる。
に置換してもよい置換基であるハロゲンとして、フツ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。C1−4アルコキシとしては炭素数1〜4のアルコキシを意味し、たとえば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、第2級ブトキシ、第3級ブトキシなどが挙げられる。C1−4アルコキシカルボニルとは、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、第3級ブトキシカルボニルなどのアルコキシ部が炭素数1〜4のアルコキシカルボニルを示す。アシルオキシとは、アセトキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、バレリルオキシ、イソバレリルオキシ、ヘキサノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。
ハロゲン、ヒドロキシ、C1−4アルコキシ、カルボキシ、C1−4アルコキシカルボニルおよびアシルオキシから選ばれる1〜2個の置換基で置換されていてもよいC4−6アルキルとしては、たとえば、3−フルオロ−3−フルオロメチルプロピル、3−フルオロ−2,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル、2,2−ジメチル−3−メトキシプロピル、2−カルボキシ−2−メチルプロピル、3−アセチルオキシ−2,2−ジメチルプロピル、3−ベンゾイルオキシ−2,2−ジメチルプロピルなどが挙げられる。
上記一般式(II)につき、RにおけるC1−4アルキルとは炭素数1〜4個のアルキルであって、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第3級ブチルなどを示し、ハロアルキルとは炭素数1〜4のハロアルキルであって、トリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、2−フルオロエチル、3−フルオロプロピル、1,3−ジフルオロ−2−プロピル、4−フルオロブチルなどを示す。R、R,Rにおける記号は前記と同義である。
として特に水素が好ましい。Rとして特にカルボキシが好ましい。Rとして特にC4−6アルキルが好ましい。
一般式(I)に含まれるXO阻害作用を有する化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
(1)5−アミノ−1−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(2)1−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸エチル、
(3)1−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(4)1−(4−ブトキシ−3−シアノフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(5)1−(3−シアノ−4−シクロプロピルメトキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(6)1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(7)1−(3−シアノ−4−(2−エチルブトキシ)フェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(8)1−(3−シアノ−4−(1−エチルプロポキシ)フェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(9)1−(3−シアノ−4−(3−メチルブトキシ)フェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(10)1−(3−シアノ−4−((S)−2−メチルブトキシ)フェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、
(11)5−アミノ−1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、および
(12)5−クロロ−1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸
から選ばれる1−フェニルピラゾール化合物、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩。
一般式(II)に含まれるXO阻害作用を有する化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
(13)3−(4−イソブトキシ−3−ニトロフェニル)ピラゾール−5−カルボン酸、
(14)3−(4−イソブトキシ−3−ニトロフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸メチル、
(15)3−(4−イソブトキシ−3−ニトロフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(16)4−クロロ−3−(4−イソブトキシ−3−ニトロフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(17)3−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(18)3−(3−シアノ−4−(2−メトキシエトキシ)フェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(19)3−(3−シアノ−4−シクロプロピルメトキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(20)3−(4−ブトキシ−3−シアノフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(21)3−(3−シアノ−4−イソプロポキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(22)3−(3−シアノ−4−シクロヘキシルメトキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(23)3−(3−シアノ−4−プロポキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(24)3−(3−シアノ−4−(3−メチルブトキシ)フェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(25)3−(4−ブトキシ−3−ニトロフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(26)3−(4−イソプロポキシ−3−ニトロフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(27)3−(4−(3−メチルブトキシ)−3−ニトロフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(28)3−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(29)4−クロロ−3−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(30)4−クロロ−3−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、
(31)4−アミノ−3−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸、および
(32)4−アミノ−3−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)−1−メチルピラゾール−5−カルボン酸から選ばれる3−フェニルピラゾール化合物、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩。
また、本発明は以下の化合物も包含する。
(33)2−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸、
(34)アロプリノール
一般式(I)または(II)の化合物の医薬上許容しうる塩としては、カルボキシ基における金属(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛など)、有機塩基(ジエタノールアミン、エチレンジアミンなど)との塩が挙げられる。
一般式(I)または(II)の化合物およびその医薬上許容しうる塩は水和物あるいは溶媒和物の形で存在することもあるので、これらの水和物(1/2水和物、1水和物、2水和物など)、溶媒和物も本発明に包含される。また、一般式(I)または(II)の化合物が不斉原子を有する場合には少なくとも2種類の光学異性体が存在する。これらの光学異性体およびそのラセミ体は本発明に包含される。
上記(1)〜(12)の化合物はWO98/18765号公報に記載の方法、(13)〜(32)の化合物は特開平10−310578号公報に記載の方法、また(33)の化合物はWO92/09279号公報に記載の方法によって合成することができる。(34)のアロプリノールは市販されており、容易に入手することができる。
1μM以下(IC50値)のキサンチンオキシダーゼ阻害活性を有する化合物は腫瘍抑制作用、すなわち、腫瘍形成を抑制し、癌、特に大腸癌の予防・治療に用いることができる。好ましくは、1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸は大腸癌の予防・治療剤として使用することができる。
本発明に含まれるXO阻害作用を有する化合物は、経口でも、非経口でも投与することができる。投与剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤等が挙げられる。これらは汎用されている技術を用いて製剤化することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤であれば、乳糖、結晶セルロース、デンプン、植物油等の増量剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース カルシウム、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコン樹脂等のコーティング剤、ゼラチン皮膜等の皮膜剤などを必要に応じて用いて調製することができる。
投与量は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、経口剤であれば通常成人1日当り0.01〜150mg、好ましくは0.1〜100mgを1回または数回に分けて投与することができる。
【実施例】
以下に、実験例および製剤例を示すが、これらの実施例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
以下の試験は、XO阻害作用を有する化合物は腫瘍形成抑制作用を有し、癌の予防・治療に有用であることを示している。XO阻害作用を有する化合物としてY−700(化学名:1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸)を用いた。本化合物はWO98/18765号公報に記載の方法によって合成することができる。
実験例1:アゾキシメタン誘発大腸前癌病変の形成に対する抑制作用の検討
(実験方法)
1群6〜8匹の雄性ICR系雄マウス(5週齢)に、Y−700を5週間混餌投与した。また、大腸発癌剤であるアゾキシメタン(azoxymethane)5mg/kgを、Y−700投与開始時から毎週1回3週間皮下注射した。Y−700投与終了後に、体重、飼料摂取量、大腸aberrant crypt foci(ACF;前癌病変)数および血清尿酸濃度を測定した。
群構成は以下のとおりである。
Y−700 無添加群(対照群)n=7
Y−700, 5mg/kg混餌群 n=6
Y−700,10mg/kg混餌群 n=8
Y−700,15mg/kg混餌群 n=6
Y−700,20mg/kg混餌群 n=6
混餌条件:通常飼料1kgあたり、Y−700を5,10,15および20mg含有するように添加。
(結果および考察)
表1に実験例1の結果を示す。

(ダンカン検定)
血清尿酸濃度の有意差検定は行なっていない。
飼料摂取量に変化は認められず、Y−700投与群によると考えられる体重の変動も認められなかった。Y−700の混餌投与により投与量依存的な血清尿酸濃度及び大腸ACF数の低下がみられた。なお、血清尿酸濃度と大腸ACFとの間には、非常に高い正の相関(r=0.97,P<0.01)が得られた。
以上の結果から、Y−700はアゾキシメタンで誘発される大腸ACF数の増加に対して抑制作用を示すことが明らかとなった。
実験例2:抗酸化作用の検討
(実験方法)
7週齢の雄性Wistar系ラットから採取した脳ホモジネートに、Y−700(0.5〜20μg/ml)およびチオバルビツール酸7mg/mlを添加し、37℃でインキュベーションした。インキュベーション1時間後に生成したチオバルビツール酸反応物(脂質過酸化物)の吸光度を測定した。
(結果および考察)
表2に、Y−700添加群における脂質過酸化物生成量を示す。脂質過酸化物生成量は、Y−700無添加試料の吸光度を100とした場合の相対的な割合(%)で表している。Y−700添加によると考えられる脂質過酸化物生成量の変化は認められなかった。したがって、Y−700は抗酸化作用を有さないと考えられた。

実験例1および2の結果から、大腸癌の発現には少なくとも部分的にキサンチンオキシダーゼが関与するとともに、それを阻害することにより大腸癌発現の予防が可能であることが示唆された。キサンチンオキシダーゼは活性酸素の発生源となることから、Y−700の大腸ACF数増加抑制作用の機序として、Y−700のキサンチンオキシダーゼ阻害活性に基く酸化ストレスの抑制が考えられる。
XO阻害薬として知られるアロプルノールは、それ自身が抗酸化作用(ラジカルスカベンジャー作用)を示すことから、酸化ストレス抑制作用がキサンチンオキシダーゼを介するのか、ラジカルスカベンジャー作用に基づくのかを判別することは困難であった。今回の実験により、Y−700は、抗酸化作用を示すことなく、大腸の発癌を抑制する可能性が示された。すなわち、Y−700は、キサンチンオキシダーゼに対する特異的な阻害活性により、大腸ACF数の増加を抑制したと推論できる。
実験例3:ジメチルヒドラジン誘発大腸前癌病変の形成および癌細胞の増殖に対する抑制作用の検討
(実験方法)
1群12〜15匹の雄性ICR系雄マウス(5週齢)に、Y−700を10週間混餌投与した。また、大腸発癌剤であるジメチルヒドラジン(1,2−dimethyl−hydrazine)10mg/kgを、Y−700投与開始時から毎週1回3週間皮下注射した。Y−700投与終了後に、体重、飼料摂取量、血清尿酸濃度、大腸aberrant crypt foci(ACF;前癌病変)数および大腸粘膜細胞増殖率を測定した。
群構成は以下のとおりである。
Y−700 無添加群(対照群) n=12
Y−700,10mg/kg混餌群 n=13
Y−700,20mg/kg混餌群 n=15
混餌条件:通常飼料1kgあたり、Y−700を10および20mg含有するように添加。
(結果および考察)
表3に実験例3の結果を示す。


飼料摂取量に変化は認められず、Y−700投与群によると考えられる体重の変動も認められなかった。Y−700の混餌投与により、血清尿酸濃度、大腸ACF数および周辺領域における細胞増殖率の有意な低下が認められた。なお、血清尿酸濃度と大腸ACFとの間には、非常に高い正の相関(r=0.87,P<0.01)が得られた。
以上の結果から、Y−700はジメチルヒドラジンで誘発される大腸前癌病変の発生を抑制するのみならず、大腸粘膜細胞に対する増殖抑制作用を有することが明らかとなり、大腸癌の発現を抑制する可能性が強く示唆された。
製剤処方例1:錠剤
化合物(Y−700) 50.0mg
乳糖 98.0mg
トウモロコシデンプン 45.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース 3.0mg
タルク 3.0mg
ステアリン酸マグネシウム 1.0mg
200.0mg
上記組成の割合に従って、Y−700を乳糖とトウモロコシデンプン、ヒドロキシプロピルセルロースと練合機中で十分に練合する。練合物を200メッシュの篩を通し、50℃で乾燥し、さらに24メッシュの篩を通す。タルクおよびステアリン酸マグネシウムと混合し、直径9mmの杵を用いて、1錠200mgの錠剤を得る。この錠剤は必要に応じ、糖衣またはフィルムコート処理することができる。
【産業上の利用可能性】
キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物は抗腫瘍作用、すなわち、腫瘍の形成を抑制し、更に、大腸粘膜細胞の増殖を抑制することから、腫瘍の形成を抑制するため、本発明の医薬は抗腫瘍剤、癌、特に大腸癌の予防・治療剤薬として使用することができる。
なお、本出願は、特願2003−067919号を優先権主張して出願されたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物を含む腫瘍形成抑制剤。
【請求項2】
キサンチンオキシダーゼ阻害活性がIC50値で1μM以下である化合物を含む腫瘍形成抑制剤。
【請求項3】
キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物が一般式(I)

(式中、Rは水素、ハロゲンまたはアミノを示す。
はカルボキシまたはC1−4アルコキシカルボニルを示す。
はハロゲン、ヒドロキシ、C1−4アルコキシ、カルボキシ、C1−4アルコキシカルボニルおよびアシルオキシから選ばれる1〜2個の置換基で置換されていてもよいC3−6アルキル、C3−6シクロアルキルまたはC3−6シクロアルキル−C1−4アルキルを示す。)
により表される1−フェニルピラゾール化合物、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩である請求項1記載の腫瘍形成抑制剤。
【請求項4】
キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物が一般式(II)

(式中、Rは水素、ハロゲンまたはアミノを示す。
はカルボキシまたはC1−4アルコキシカルボニルを示す。
は水素、C1−4アルキルまたはハロアルキルを示す。
はシアノまたはニトロを示す。
はハロゲン、ヒドロキシ、C1−4アルコキシ、カルボキシ、C1−4アルコキシカルボニルおよびアシルオキシから選ばれる1〜2個の置換基で置換されていてもよいC3−6アルキル、C3−6シクロアルキルまたはC3−6シクロアルキル−C1−4アルキルを示す。)
により表される3−フェニルピラゾール化合物、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩である請求項1記載の腫瘍形成抑制剤。
【請求項5】
1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩を有効成分とする腫瘍形成抑制剤。
【請求項6】
キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物が、2−(3−シアノ−4−イソブトキシフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸またはアロプリノールである請求項1記載の腫瘍形成抑制剤。
【請求項7】
腫瘍が大腸癌である請求項1〜6記載の腫瘍形成抑制剤。
【請求項8】
1−(3−シアノ−4−ネオペンチルオキシフェニル)ピラゾール−4−カルボン酸、その光学異性体もしくはその医薬上許容しうる塩を有効成分とする大腸癌予防・治療剤。

【国際公開番号】WO2004/080486
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503606(P2005−503606)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003315
【国際出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】