説明

膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープの凍結乾燥組成物

【課題】
外来物質の導入能を保持したまま、より高温で保存ができる膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープ凍結乾燥組成物を提供すること、また、より外来物質導入活性が高い、細胞内への外来物質導入方法を提供することが本発明の課題である。
【解決手段】
膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープと、蛋白質水解物、ロイシン、L-アルギニン酸および多糖類からなる群より選択される一つ以上の安定化剤と、を含有する外来物質導入のための凍結乾燥組成物が提供される。また、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープを含有する凍結乾燥組成物を用いる外来物質導入方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞及び生体組織へ、核酸、蛋白質又は薬物等を導入するための凍結乾燥組成物及びその製造方法、その使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞または生体組織へ遺伝子などの外来物質を導入のために多くのウイルスベクター法及び非ウイルス(合成)ベクター法が開発されている。一般に、細胞への遺伝子送達のための外来物質導入能において、ウイルスベクター法は、非ウイルスベクター法より効果的である。しかし、ウイルスベクターは、親ウイルスからの必須遺伝子要素の同時導入、ウイルス遺伝子のリーキーな発現、免疫原性、及び宿主ゲノム構造の改変のため安全性での問題を生じ得る。これに対して、非ウイルスベクターは、細胞傷害性及び免疫原性がより少ない。しかし、非ウイルスベクター法では、一般的にエンドサイトーシス経路により細胞内に外来物質が取り込まれるため、ウイルスベクター法のいくつかに比べ、遺伝子等の導入能が低いという課題を抱えていた。
【0003】
この欠点を克服するため、センダイウイルス(sendai virus;hemagglutinating virus of Japan:HVJ)の膜融合活性をリポソームに付与したハイブリッドベクター、すなわちセンダイウイルスとリポソームの融合体(HVJ−liposome)が提案された。該ウイルスの膜融合活性により、細胞や生体組織の細胞の細胞内への遺伝子等の導入を可能とし、世界的にもこの手法が動物実験レベルでは頻用されるようになった(特許文献1、非特許文献1、2)。このHVJ−リポソーム法では、蛋白質、化学物質、遺伝子等をリポソーム内に充填しておき、このリポソームと予めUV照射により不活性化されたHVJ(不活性化HVJエンベロープ)とを融合することにより構築される。しかしながら、不活性化HVJエンベロープの調製に加え、リポソームの調製、融合後のHVJ-リポソームの精製等、煩雑な工程が必要であった。
【0004】
そこで、不活性化HVJエンベロープに直接、遺伝子等を封入する方法が提案された(特許文献2)。細胞内に導入すべき遺伝子等の存在下、不活性化HVJエンベロープに、凍結融解または界面活性剤による処理を施すことにより、エンベロープ内に該遺伝子等を封入し、次にこのエンベロープを導入の対象となる細胞と接触させることにより、膜融合活性を介して、遺伝子等を細胞内へ導入する方法である。不活性化HVJエンベロープは量産可能であり、比較的簡便な方法で遺伝子等の導入が可能なため、多くの細胞内への外来物質導入試験に使用されている。
【0005】
一方、この不活性化HVJエンベロープは、遺伝子等の導入能を保持したまま、その懸濁液を凍結保存(−70℃)することができるが、凍結乾燥による保存については報告がない。凍結乾燥により膜融合活性のある不活性化HVJエンベロープの機能或いは構造が損なわれるためと推察されるが、輸送及び保存の観点から、より高温で保存できる凍結乾燥による不活性HVJエンベロープ凍結乾燥組成物が求められていた。
【特許文献1】米国特許5,631,237
【特許文献2】WO01/57204
【非特許文献1】Dzau,V.J.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93,11421〜11425(1996)
【非特許文献2】Kaneda,Y.et al.Molecular Medicine Today,5,298〜303(1999)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、外来物質の導入能を保持したまま、より高温で保存ができる膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープ凍結乾燥組成物を提供すること、また、より外来物質導入能が高い、細胞内への外来物質導入方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープを凍結乾燥する方法を鋭意検討した結果、蛋白質水解物またはある種のアミノ酸の添加が、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープの外来物質導入能の保持に有効であることを見出した。また、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープの外来物質導入能の保持に塩類の低減も有効であることを見出し、本発明を完成した。これらの処理により該ウイルスエンベロープの膜融合活性が有効に維持されることを見出した。また、得られた膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープの凍結乾燥組成物を用いた、外来物質導入のための新規な方法を完成した。
【0008】
即ち本発明は、以下を特徴とする要旨を有する。
(1)膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープと、蛋白質水解物、ロイシン、L-アルギニン酸および多糖類からなる群より選択される一つ以上の安定化剤と、を含有する凍結乾燥組成物。
(2)膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープが、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ヘルペスウイルス科、ヘパドナウイルス科、またはフラビウイルス科のウイルスの不活性化ウイルスエンベロープである上記(1)に記載の凍結乾燥組成物。
(3)安定化剤が、蛋白質水解物及び多糖類である、上記(1)又は(2)に記載の凍結乾燥組成物。
(4)(1)膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープ懸濁液と安定化剤とを混合する工程、および(2)(1)の工程により得られた混合物を凍結乾燥する工程、を含む工程により調製される上記(1)〜(3)のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
(5)(1)の工程により得られた混合物における不活性化ウイルスエンベロープの濃度がOD0.1〜7.0である上記(4)に記載の凍結乾燥組成物。
(6)(1)の工程により得られた混合物における蛋白質水解物、ロイシン又はL-アルギニン酸の濃度が0.1〜2.5%である上記(4)または(5)に記載の凍結乾燥組成物。
(7)(1)の工程により得られた混合物における多糖類の濃度が0.05〜0.5%である上記(4)〜(6)のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
(8)(1)の工程により得られた混合物の塩濃度が3mM以下である上記(4)〜(7)のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
(9)細胞または生体組織へ外来物質を導入する方法であって、
1)外来物質と水とを含有する混合物を用いて、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープを含有する凍結乾燥組成物を再水和する工程と、
2)前記1)の工程により得られる組成物を細胞または生体組織と接触させる工程と、を含む外来物質導入方法。
(10)凍結乾燥組成物が、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の凍結乾燥組成物である、上記(9)に記載の外来物質導入方法。
(11)細胞融合の方法であって、
a)膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープを含有する凍結乾燥組成物を再水和する工程と、
b)前記a)の工程により得られる組成物を融合の対象となる細胞の懸濁液と混合する工程と、を含む細胞融合方法。
(12)凍結乾燥組成物が上記(1)〜(8)のいずれかに記載の凍結乾燥組成物である、上記(11)に記載の細胞融合方法。
【発明の効果】
【0009】
これまで報告された膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープは冷凍(−20℃)、より望ましくは超冷凍(−70℃以下)での保存が必須であり、たとえば不活性化HVJエンベロープの場合、冷蔵下では2週間程度で外来物質導入活性が著しく低下する場合があった。したがって、冷凍または超冷凍設備のない場所での保存が困難であり、長時間を要する輸送も困難であった。本発明の膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープの凍結乾燥組成物は、室温(25℃以下)での保存ができ、使い勝手が良く、使用する場所や輸送に関する制限が解消された。さらに、本発明の外来物質導入方法は、導入効率が著しく向上し、より簡便であり、ハイスループット解析などの応用範囲が増大している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明おいて「不活性化」とは、ウイルスについて言及されるとき、遺伝子が不活性化されることをさし、不活性化ウイルスとは、遺伝子の複製がおこなわれず、増殖・感染能を失ったものをさす。ウイルスの不活性化の方法としては、UV照射、放射線照射、アルキル化剤による処理などが挙げられるが、UV照射、アルキル化剤による処理が望ましく、具体的にはWO01/57204に記載の方法に準じて行うことができる。より望ましくはアルキル化剤による処理である。また、ウイルスエンベロープは、概してウイルス遺伝子によりコードされたスパイク蛋白質からなる小突起構造物と宿主由来の2重脂質膜で構成されており、それ自体は増殖能力を有していない。この小突起物であるスパイク蛋白質にある種の膜融合蛋白質を含んでおり、その機能により膜融合作用を示す。本発明において「不活性化ウイルスエンベロープ」とは、不活性化されたウイルス及び/又はそのエンベロープを包含するものである。本発明において「膜融合活性がある不活性化ウイルスエンベロープ」とは、不活性化したウイルスエンベロープに膜融合活性のある膜融合蛋白質が機能している不活性化ウイルスエンベロープをさす。
【0011】
エンベロープに膜融合蛋白質を含むウイルスとして、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ヘルペスウイルス科、ヘパドナウイルス科、フラビウイルス科等のある種の高等なウイルスが挙げられる。この膜融合活性により細胞の細胞膜を融合し、各種細胞に感染する。本発明においては、このような性質を示すウイルスであればどのようなウイルスでも使用できる。従って、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ヘルペスウイルス科、ヘパドナウイルス科、フラビウイルス科のウイルスが望ましく、より望ましくはパラミクソウイルス科のウイルスであり、さらにより望ましくはHVJ(センダイウイルス)である。
【0012】
上記記載のウイルスの培養方法は、「ウイルス実験プロトコール:1995年 メジカルビュー社発行」に記載されている。例えば、パラミクソウイルス科のセンダイウイルスでは、ニワトリなどの受精卵で増殖させたもののほか、哺乳類の培養細胞、培養組織への持続感染系(培養液にトリプシンなどの加水分解酵素を添加する)を利用して培養増殖させる。
【0013】
膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープの調製方法は、例えば、超遠心法、カラムクロマトグラフィー法により精製、再構成法等が可能である。より望ましい精製法としてはイオンクロマトグラフィーを含む精製法であり、具体的には、WO03/014338の実施例1の(1)、及び実施例7の(1)〜(5)に記載の方法が挙げられる。
【0014】
イオンクロマトグラフィーを含む精製法で調製する場合には、不活性化ウイルスエンベロープは、イオンクロマトグラフィーから高濃度の緩衝液類で遊離する。例えば、これを透析原理に基づくタンジェンシャルフローフィルター(TFF)モジュールで濃縮する。この透析濃縮を繰返し、次の安定化剤と混合する工程において、不活性化ウイルスエンベロープ懸濁液の濃度がOD(濁度558nm、以下特に言及しない場合は同様)で0.1〜7.0、好ましくはODが0.25〜5.0、より好ましくは0.3〜2.5に調製することができるように濃縮する。安定化剤と混合した後の最終の不活性化ウイルスエンベロープ懸濁液中に含まれる緩衝剤やNaCl等の塩の濃度は、3mM(ミリモル)以下、好ましくは1mM以下、より好ましくは0.3mM以下の塩濃度に調製する。
【0015】
超遠心法、再構成法などで、不活性化ウイルスエンベロープを調製する場合でも、最終の塩濃度は、3mM以下、好ましくは1mM以下、より好ましくは0.3mM以下の塩濃度に調製する。
【0016】
本発明において、安定化剤として使用される蛋白質水解物としては、例えば、ポリペプトン、バクトペプトン、バクトトリプトン、カゼイン酸加水分解物等が挙げられ、好ましくはポリペプトン、バクトペプトン、カゼイン酸加水分解物であり、より好ましくはポリペプトン、バクトペプトンである。また、安定化剤として使用されるアミノ酸としては、例えば、L−ロイシン、L−アルギニン一塩酸塩が挙げられ、好ましくは、L−アルギニン一塩酸塩である。 蛋白質水解物或いはロイシン、L-アルギニン酸を溶解する溶媒として、蒸留水、UF水、緩衝液が例示される。好ましくは、蒸留水、UF水である。上記蛋白質水解物或いはロイシン、L-アルギニン酸は、凍結乾燥前の不活性化ウイルスエンベロープの懸濁液中の濃度が、0.1%〜2.5%、好ましくは、0.2%〜1.5%になるように添加すればよい。
【0017】
本発明において、安定化剤として使用される多糖類としては、例えば、メチルセルロース、β-グルカン、ペクチン、アガロース、デキストラン、デキストリンが挙げられる。好ましくは、メチルセルロースである。多糖類を溶解する溶媒として、蒸留水、UF水、緩衝液が例示される。好ましくは、蒸留水、UF水である。多糖類は、凍結乾燥前の不活性化ウイルスエンベロープの懸濁液中の濃度が、0.05%〜0.5%、好ましくは、0.1%〜0.2%になるように添加すればよい。また、多糖類を添加すると、凍結乾燥組成物の粉立ちが少なく、製造される凍結乾燥組成物を取扱やすくなる。同様な粉立ち抑制の効果は、トレハロースなどの添加によっても得られる。
【0018】
また、安定化剤は、これらの蛋白質水解物、アミノ酸及び多糖類からなる群より選択される一つ以上のものを使用することができ、単独又は2種以上を併用してもよい。
望ましくは、前記蛋白質水解物及び前記多糖類の併用、前記アミノ酸及び前記多糖類の併用であり、より望ましくは前記蛋白質水解物及び前記多糖類の併用であり、具体的には、ポリペプトンまたはバクトペプトンにさらにメチルセルロースを併用するものである。
【0019】
本発明の凍結乾燥組成物を製造するには、例えば、上記の調製法で入手した膜融合活性のあるウイルスエンベロープに、蛋白質水解物またはアミノ酸類、或いは多糖類を所定濃度になるように添加するが、必要に応じて適宜公知のpH調製剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤を混合しても良い。蛋白質水解物またはアミノ酸類、或いは多糖類をそれぞれ上記の水性媒体に溶解し、調製した膜融合活性のあるウイルスエンベロープに所定濃度になるように添加し混合しても良い。この混合液を定法に基づいて凍結乾燥すればよい。この凍結乾燥には、通常用いられている条件下で、トレー凍結乾燥、スプレー凍結乾燥、バイアル凍結乾燥など公知の方法が採用できる。
【0020】
本発明の膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープの凍結乾燥組成物には以下のようなものも含まれる。
(A)膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープ及び安定化剤として、蛋白質水解物、ロイシン、L-アルギニン酸および多糖類からなる群より選択される一つ以上のものを含有する外来物質導入のための凍結乾燥組成物であって、
(1)該不活性化ウイルスエンベロープ懸濁液と該安定化剤とを混合する工程、および
(2)得られた混合物を凍結乾燥する工程、を含む工程により調製される凍結乾燥組成物。
(B)前記(A)(1)の工程において調製される不活性化ウイルスエンベロープと安定化剤の混合物を、不活性化ウイルスエンベロープの濃度がOD0.1〜7.0であり、蛋白質水解物の濃度が0.1%〜2.5%となるように調製する(A)に記載の凍結乾燥組成物。
(C)前記(A)(1)の工程において調製される不活性化ウイルスエンベロープと安定化剤の混合物を、不活性化ウイルスエンベロープの濃度がOD0.1〜7.0であり、多糖類の濃度が0.05%〜0.5%となるように調製される前記(A)に記載の凍結乾燥組成物。
(D)前記(A)(1)の工程において調製される不活性化ウイルスエンベロープと安定化剤の混合物を、不活性化ウイルスエンベロープの濃度がOD0.1〜7.0であり、蛋白質水解物の濃度が0.1%〜2.5%であり、多糖類の濃度が0.05%〜0.5%となるように調製される前記(A)に記載の凍結乾燥組成物。
(E)前記(1)の工程の不活性化ウイルスエンベロープ懸濁液の塩濃度が3mM以下である前記(A)〜(D)のいずれか一つに記載の凍結乾燥組成物。
【0021】
本発明の凍結乾燥組成物を使用して、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープに外来物質を保持させ、導入のためのベクターを作製することができる。この外来物質導入ベクターを細胞若しくは生体組織に、添加若しくは投与して、外来物質を導入する。この外来物質導入ベクターを作成する新規な方法として、再水和化法を見出した。
【0022】
再水和化法では、従来必要とされてきた、界面活性剤を使用せず、例えば、外来物質の水溶液または水性懸濁液と、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープを含む凍結乾燥組成物とを混合し、再水和化する。再水和化後、直ちに、細胞若しくは生体組織に添加または投与することで外来物質を導入することができる。また、0℃〜25℃の条件下であれば、直後〜10分間熟成させることが好ましく、サンプル数が多数である場合には、さらに数時間以上熟成させてもよい。 その濃度および混合比は、特に限定されず、適宜選択することができる。膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープの濃度はOD:0.05〜5.0であり、より望ましくはOD:0.05〜2.0であり、さらに望ましくはOD:1.0〜2.0である。例えば外来物質がDNAの場合、その濃度は0.02〜40μg/μlであり、望ましくは0.2〜10μg/μlである。熟成後、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープは、該外来物質を保持し、外来物質導入ベクターとなる。凍結と融解を繰り返す凍結融解法とも全く異なる方法である。
【0023】
また本発明の凍結乾燥組成物を用いて、界面活性剤を利用した従来の方法によっても、外来物質導入ベクターを作成することが可能である。界面活性剤を用いる方法では、目的の外来物質を含まないPBS(-)(リン酸緩衝生理食塩水)もしくは遺伝子導入用の培地などで該凍結乾燥組成物を再水和化し、不活性化ウイルスエンベロープのOD0.1〜1.0の濃度になるように懸濁液を調製し、次に導入すべき外来物質の水溶液または水性懸濁液を混合する。得られた混合物に、例えばトライトンX−100などの界面活性剤を0.001%から0.5%、より好ましくは0.05%から0.3%になるように添加し、低温度下で数秒〜数時間、好ましくは3〜10分間放置する。放置時の温度としては、望ましくは0℃〜25℃であり、さらに望ましくは0〜4℃の条件で、実施する。更に、遠心操作等により、界面活性剤を取り除き、外来物質導入ベクターを調製する。
【0024】
本発明において細胞又は生体組織へ導入される外来物質として、特に制限はないが、薬物、遺伝子等の使用が普通である。その具体例としては、抗生物質、化学療法剤、抗アレルギー薬、循環器官用薬、抗炎症薬、抗リウマチ薬、ホルモン、ビタミン、抗悪性腫瘍薬、リボ造影剤、磁気共鳴造影剤、生理活性を有する蛋白質、核酸等があり、使用する核酸として更に具体的には、細胞内に導入されて目的の蛋白質を発現させることのできる目的蛋白質をコードした核酸、リボザイム、アンチセンス核酸、RNAiを起すRNAを発現するDNA、siRNA,自殺遺伝子、アポトーシス誘導遺伝子等から選択することができる。これらの外来物質を単独で保持する、またはこれらから選択される2つ以上のものを保持する外来物質ベクターを作成することが可能である。外来物質としては、核酸が望ましく、細胞内に導入されて目的の蛋白質を発現させることのできる目的蛋白質をコードした核酸がより望ましい。
【0025】
細胞や生体組織への核酸などの外来物質の導入において硫酸プロタミンを使用する場合は、核酸と不活性化ウイルスエンベロープとの混合物の熟成後、核酸濃度が0.1μg/μl以下になるようにPBS(-)もしくは遺伝子導入用培地で希釈する。これは、以後に添加する硫酸プロタミンにより核酸が共沈することを防ぐためである。この調製液を、そのまま、若しくは硫酸プロタミンを加え培養細胞に添加する。硫酸プロタミンは1μg/ml〜100μg/ml、好ましくは10μg/ml〜50μg/mlになるように添加する。硫酸プロタミンを使用しない場合は、特に、上記操作を必要としない。
【0026】
本発明において、外来物質を導入すべき細胞としては、真核細胞、特に動物細胞系を挙げることが出来、接着細胞系と浮遊細胞系のいずれであってもよい。また、一般には導入の困難な細胞系である初期細胞系、幹細胞系、線維芽細胞系、マクロファージ細胞系等を含め、広範囲な細胞系に適用できる。これらの細胞の培養条件下、上述の外来物質導入ベクターを添加し、細胞と接触させる。また、本発明の外来物質導入ベクターはin vivo法で投与するか、または全身的な投与を行うことも可能である。すなわち、治療目的の疾患、標的臓器等に応じた適当な投与経路により投与することが出来、例えば、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与するか、又は腎臓、肝臓、肺、脳、神経等の疾患の対象部位に直接投与することができる。疾患部位に直接投与すれば、臓器選択的に治療することができる。上述の添加後、若しくは投与後、常法の細胞培養の条件、若しくは通常の飼育条件等で、一定時間経過させれば、外来物質が細胞へ導入される。なお、ex vivo法で投与することも可能であり、この場合には、常法に準じ、哺乳類の細胞(例えば、リンパ球、造血幹細胞等)を採取し、それに本発明の外来物質導入ベクターで処理、感作を行い、その後に当該細胞を哺乳類の体へ戻せばよい。
【0027】
本発明の細胞融合法の対象となる細胞としては、動物細胞、好ましくは哺乳類の細胞が挙げられる。それらの細胞としては、免疫細胞、骨髄細胞、樹状細胞などの血球系細胞、胚性幹細胞、組織幹細胞、神経系細胞、グリア細胞、下垂体細胞、肝臓細胞、膵臓細胞、腎臓細胞、心筋細胞、筋肉細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞などやミエローマ細胞、HeLa細胞、CHO細胞、COS細胞などの癌細胞が挙げられる。これらの細胞融合は、例えば免疫細胞と癌細胞というように異なる細胞の融合を行うことができる。さらに、本発明の凍結乾燥組成物を用いて核置換や微小核と標的細胞の融合にも利用できる。
本発明において細胞融合の際の対象細胞の濃度は、1×10個/ml〜1×1010個/mlであり、好ましくは1×106個/ml〜1×10個/mlである。また、Ca濃度は、0.1〜10mMであり、好ましくは1〜5mMである。
【0028】
以下に実施例を揚げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のため提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であると理解されるべきである。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
不活性化HVJエンベロープとして、GenomOne(登録商標、石原産業社製)120μl(OD:0.25 総量:6000HAU)を取り、バイアルに移し、10,000rpm、30分間遠心し、上清を除去した。洗浄のため、得られた沈殿物を蒸留水40μlで懸濁した後、再度10,000rpm、30分間遠心し、上清を除去した。洗浄された該沈殿物に、60μlの0.2%ポリペプトン/蒸留水溶液(これを添加し、沈殿物を懸濁させたものを試料1とする。以下同様)、0.2%マンニトール/蒸留水溶液(試料2)、0.2%メチルセルロース/蒸留水溶液(試料3)、または0.2%トレハロース/蒸留水溶液(試料4)をそれぞれ添加し、懸濁した後、液体窒素中で急速凍結した。
これらの試料1から4の凍結物を、真空度0.1mmHg以下、トラップ温度−70℃以下の条件下、−15℃に設定したクールバスに浸して温度調整した真空デシケーター内で5時間凍結乾燥を行なった。クールバスの設定温度を4℃に昇温し、更に1時間二次乾燥を行った後、真空チャンバー内に乾燥窒素を導入して真空破壊し、密栓し、試料の凍結乾燥組成物を得た。
メチルセルロース或いはトレハロースを添加せず、凍結乾燥を実施すると、おそらく静電気を帯びたと思われる粉立ちが発生し、バイアルでの密栓時或いは開封時に凍結乾燥物が飛散するため、取扱操作を慎重に行う必要があった。メチルセルロース或いはトレハロースを添加すると、この粉立ちが抑制された。
【0030】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、GenomOne(登録商標、石原産業社製)120μl(OD:0.25 総量:6000HAU)の沈殿物を得た。この沈殿物に、以下それぞれに60μlの、0.5%ポリペプトン蒸留水溶液(これを添加し、懸濁したものを試料5とする。以下同様)、0.1%のメチルセルロースを含む0.5%ポリペプトン蒸留水溶液(試料6)、1.0%ポリペプトン蒸留水溶液(試料7)、1.5%ポリペプトン蒸留水溶液(試料8)、2.5%ポリペプトン蒸留水溶液(試料9)を添加し、懸濁した後、液体窒素中で急速凍結した。以後は実施例1と同様の方法で試料5から9の凍結乾燥組成物を得た。
【0031】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、GenomOne(登録商標、石原産業(株)製)120μl(OD:0.25 総量:6000HAU)の沈殿物を得た。 この沈殿物に、以下それぞれに60μlの、0.1%のメチルセルロースを含む1.0%ポリペプトン蒸留水溶液(これを添加し、懸濁したものを試料10とする。以下同様)、1.0%バクトペプトン蒸留水溶液(試料11)、1.0%バクトトリプトン蒸留水溶液(試料12)、1.0%カゼイン酸加水分解物蒸留水溶液(試料13)、0.3%L−ロイシン蒸留水溶液(試料14)、1.0%β−アラニン蒸留水溶液(試料15)、0.3%L−アルギニン一塩酸塩蒸留水溶液(試料16)、1.0%L−アスパラギン酸蒸留水溶液(試料17)を添加し、懸濁した後、液体窒素中で急速凍結した。以後は実施例1と同様の方法で試料10から17の凍結乾燥組成物を得た。
【0032】
(実施例4)(pCMV−GL3の調製)
改良型ホタルルシフェラーゼ蛋白質をコードするpGL3−CONTROL VECTOR(Promega社)プラスミドDNAをHindIII,XbaIで切断し、電気泳動(1%アガロース)し、ルシフェラーゼを含む断片をGel−M Gel Extraction System(VIOGENE社)で精製した。CMVプロモーターを含むpcDNA3.1(+)ベクター(Invitrogene社)も同じ手順で切断、精製しCMVプロモーター領域を含む断片を得た。両断片をDNA Ligation Kit(TaKaRa社)でライゲーション、大腸菌(DH5α)に形質転換(45℃、45分)し、CMVプロモーター制御でルシフェラーゼを発現できるpCMV−GL3プラスミドDNAを含むアンピシリン耐性菌を選抜した。
得られた選抜菌をLB培地(アンピシリン含)で培養し、培養液をEndoFree Plasmid Giga Kit(QIAGEN社)で精製、TE緩衝液に溶解しpCMV−GL3/TE溶液とした。
【0033】
(実施例5)(従来方法による遺伝子の導入方法)
前記実施例1〜3で得られた試料1〜試料17の各凍結乾燥組成物に緩衝液(PBS(−))120μlを加えて分散した。これらの液20μlをそれぞれエッペンドルフチューブに取り、10,000rpm、5分遠心した。上清を除去し、沈殿物をPBS(−)5μlで懸濁した後、4μg/μl濃度のpGL3/TE溶液5μlを加えた。2%トライトンX−100/PBS(−)溶液1μlを加え、10,000rpm、5分間遠心した。上清を除去し、沈殿物をPBS(−)15μlで懸濁した後、10mg/ml濃度の硫酸プロタミン/PBS(−)溶液2.5μlを加え混合した。この溶液8μlをHeLa S3細胞(24ウェルディッシュ、6×10細胞/ディッシュ、0.5ml DMEM、10%FCS)の培地に添加し、37℃、5%COにて24時間培養した。
培養後に、培地を除去し、PBS(−)100μlを加え、ルシフェラーゼアッセイキットLuclite(Perkin Elmer社)のLyophilized Substrate Solution 100μlを加えて細胞を溶解し、蛍光/発光/吸光マルチファンクションリーダーGENios(TECAN社)でルシフェラーゼ活性(発光強度)を測定した。 試験結果は、表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
(実施例6)(膜融合活性のある不活性化HVJエンベロープの凍結乾燥組成物の調製)
不活性化HVJウイルスエンベロープは、WO03/014338の実施例1の(1)、及び実施例7の(1)〜(4)に準ずる方法で得られた緩衝液交換後の不活性化HVJエンベロープ懸濁液を使用した。手短には、受精鶏卵を用いて増殖させたHVJをβ−プロピオラクトンで処理することにより不活性化したのち、前処理工程(フィルター濾過)、濃縮工程を経て、次いでカラムクロマトグラフィー(Q Sepharose FF)で得られた不活性化HVJエンベロープのカラム分画10Lをタンジェンシャルフローフィルター(TFF)モジュールを用いて100mlまで濃縮した。濃縮液100mlに緩衝液(20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1mM MgCl2)100mlを添加し、更に100mlまで濃縮した。更にこの操作(緩衝液交換)を2回行った。
緩衝液交換後の不活性化HVJエンベロープ液に滅菌水を加えて500mlに希釈した後、更にTFFモジュールで100mlまで濃縮した。滅菌水で希釈〜TFF濃縮を5回繰り返した後、60mlまで濃縮した。この濃縮液に、別途調製し滅菌した4.0%のポリペプトンと0.4%のメチルセルロースを含む水溶液25mlを加えた。この安定化剤を含む不活性化HVJエンベロープ懸濁液の濃度は、OD 0.6であった。 また、この濃縮により、緩衝液濃度は、0.03mM以下になる。1.5ml容スクリューキャップチューブに65μlずつ分注し、液体窒素で急速凍結した。凍結した不活性化HVJエンベロープ懸濁液を、真空度0.1mmHg以下、トラップ温度−70℃以下の条件下、−15℃に設定した真空チャンバー内で15時間凍結乾燥を行なった。真空チャンバーの設定温度を4℃に昇温し、更に1時間二次乾燥を行った後、真空チャンバー内に乾燥窒素を導入して真空破壊し、密栓した。
【0036】
(実施例7)(再水和化による遺伝子導入)
実施例6で得られた不活性化HVJエンベロープの凍結乾燥組成物(凍結乾燥品)に、実施例4に記載の方法で調製した4μg/μl濃度のpCMV−GL3/TE溶液30μl、1μg/μl濃度のpGL3/TE溶液120μl、あるいは0.25μg/μl濃度のpGL3/TE溶液480μlで分散し、5分間氷上に静置した。緩衝液(PBS(−))450μl、あるいは360μlを加えて総量を480μlとし、10mg/ml濃度の硫酸プロタミン/PBS(−)溶液15μlを加え混合した。この溶液40μlをCHO−K1細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞、ATCC NO.CCL−61、大日本製薬より購入)を培養した24ウェルプレート(2.5×10細胞/ウェル、Ham's F12+10%FCS 0.5ml/ウェル、37℃、5%COで一夜培養)の培地に添加し、37℃、5%COにて24時間培養した。
培地を除去し、PBS(+)125μlを加え、ルシフェラーゼアッセイキットLuclite(Perkin Elmer社)のSubstrate Solution 125μlを加えて細胞を溶解し、溶解液50μlのルシフェラーゼ活性(発光強度)をMICROPLATE SCINTILLATION & LUMINESCENCE COUNTERトップカウント(PACKARD社)で測定した。
比較として従来技術により製造、界面活性剤を用いる従来方法で調製した不活性化HVJエンベロープベクターを用いた実験を実施した。WO03/013348の実施例1の(1)及び実施例7の(1)〜(5)に記載の方法で得られた凍結された不活性化HVJエンベロープ懸濁液40μl(実施例6で得られた凍結乾燥品の1/3の不活性化HVJエンベロープ量に相当)を1.5mL容マイクロチューブに取り(従来品とよぶ)、10,000G、5分遠心した。上清を除去し、沈殿物をPBS(−)10μlで懸濁した後、4μg/μl濃度のpCMV−GL3/TE溶液10μlを加えた。2%トライトンX−100/PBS(−)溶液2μlを加え、10,000G、5分遠心した。上清を除去し、沈殿物をPBS(−)30μlで懸濁した後、10mg/ml濃度の硫酸プロタミン/PBS(−)溶液5μlを加え混合した。この溶液8μlをCHO−K1細胞の培地に添加し、24時間培養後、同じ手順でルシフェラーゼ活性を測定した。
結果を表2に示した(全て3ウェルの測定値の平均である)。本発明の凍結乾燥組成物(表2で凍結乾燥品とした)は外来遺伝子の溶液で分散するだけで、従来技術により製造した不活性化HVJエンベロープに界面活性剤を用いて外来遺伝子を封入したとき(表2では従来品とした)の凡そ10倍の導入活性を示した。
【0037】
【表2】

【0038】
(実施例8)(膜融合活性のある不活性化HVJエンベロープの凍結乾燥組成物の調製)
不活性化ウイルスエンベロープは、WO03/014338の実施例1の(1)、及び実施例7の(1)〜(4)に準ずる方法で得られた緩衝液交換後の不活性化HVJエンベロープ懸濁液を使用した。手短には、受精鶏卵を用いて増殖させたHVJをβ−プロピオラクトンで処理することにより不活性化したのち、前処理工程(フィルター濾過)、濃縮工程を経て、次いでカラムクロマトグラフィー(Q Sepharose FF)で得られた不活性化HVJエンベロープのカラム分画5Lをタンジェンシャルフローフィルター(TFF)モジュールを用いて200mlまで濃縮した。濃縮液200mlに緩衝液(20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1mM MgCl2)200mlを添加し、更に200mlまで濃縮した。更にこの操作(緩衝液交換)を2回行い、フィルター(Millipore MILLIPAK 200、0.45μm)で濾過した。
緩衝液交換後の不活性化HVJエンベロープ液に滅菌水を加えて600mlに希釈した後、更にTFFモジュールで200mlまで濃縮した。滅菌水で希釈〜TFF濃縮を8回回繰り返した後、100mlまで濃縮した。この濃縮液に、別途調製し滅菌した5.0%のポリペプトンと0.5%のメチルセルロースを含む水溶液26mlを加えた。この不活性化HVJエンベロープ懸濁液の濃度は、OD 0.6であった。 また、この濃縮により、緩衝液濃度は、0.03mM以下になる。1.5ml容スクリューキャップチューブに210μlずつ分注し、液体窒素で急速凍結した。凍結不活性化HVJエンベロープ懸濁液を、真空度0.1mmHg以下、トラップ温度−70℃以下の条件下、−5℃に設定した真空チャンバー内で15時間凍結乾燥を行なった。真空チャンバーの設定温度を5℃に昇温し、更に1時間二次乾燥を行った後、真空チャンバー内に乾燥窒素を導入して真空破壊し、密栓した。
【0039】
(実施例9)(細胞融合活性の測定)
不活性化HVJエンベロープ懸濁液として、前記実施例8と同様にして得られた本発明の凍結乾燥組成物と、比較例として前記WO03/013348の実施例1に記載の方法と同様にして得られた凍結された不活性化HVJエンベロープとを用いて両者の細胞融合活性を測定した。細胞融合活性の測定は、K.Hiraokaらの方法(The Journal of Immunology、173巻、4297〜4307頁)を参考に行った。即ち、蛍光染色用キットPKH26(SIGMA、No.PKH−26−GL、赤色蛍光)又はPKH67(SIGMA、No.PKH−67−GL、緑色蛍光)にて、それぞれ染色したシリアンハムスター仔腎由来細胞株BHK−21(大日本製薬より購入)を細胞融合用緩衝液[10mM Tris−HCL(pH7.5)、137mM NaCl、5.5mM KCl、2mM CaCl]用いて8×10個/mlに調製した。それぞれの色素で染色された細胞懸濁液を25μLずつ取り、2mL用マイクロチューブ内で混合した。この混合液中に、緩衝液(PBS(−))にて所定の濃度(OD560nm)に調製した不活性化HVJエンベロープ懸濁液3μLを添加し、氷上で5分間静置した後、37℃恒温槽内で15分間(途中、5分間隔でタッピング)融合処理を行った。引続き、氷冷した1%BSA含有PBS(+)緩衝液300μLを添加し、フローサイトメーター(ベクトンディッキンソン製FACSCaliburTM)にて、赤色および緑色蛍光の両陽性を示す細胞の割合を測定した。バックグランドを測定するため、不活性エンベロープ懸濁液に替えて緩衝液(PBS(−))のみを添加すること以外は処理区と同様に操作した対照区について、同様に測定し、各処理区の測定値を補正した。尚、融合効率は、以下の式により算出した。
融合効率(%)=
(処理区の赤色および緑色蛍光の両陽性の細胞数)/(処理区の全細胞数)×100−(対照区の赤色および緑色蛍光の両陽性の細胞数)/(対照区の全細胞数)×100
結果を表3に示した(本発明の凍結乾燥組成物、比較例とも異なる2ロットの測定値の平均である)。比較例に比し、本発明の凍結乾燥組成物による処理区では、高い融合効率が見られた。
【0040】
【表3】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープと、蛋白質水解物、ロイシン、L-アルギニン酸および多糖類からなる群より選択される一つ以上の安定化剤と、を含有する凍結乾燥組成物。
【請求項2】
膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープが、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ヘルペスウイルス科、ヘパドナウイルス科、またはフラビウイルス科のウイルスの不活性化ウイルスエンベロープである、請求項1に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項3】
安定化剤が、蛋白質水解物及び多糖類である、請求項1又は2に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項4】
(1)膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープ懸濁液と安定化剤とを混合する工程、および(2)(1)の工程により得られた混合物を凍結乾燥する工程、を含む工程により調製される請求項1〜3のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
【請求項5】
(1)の工程により得られた混合物における不活性化ウイルスエンベロープの濃度がOD0.1〜7.0である請求項4に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項6】
(1)の工程により得られた混合物における蛋白質水解物、ロイシン又はL-アルギニン酸の濃度が0.1〜2.5%である請求項4または5に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項7】
(1)の工程により得られた混合物における多糖類の濃度が0.05〜0.5%である請求項4〜6のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
【請求項8】
(1)の工程により得られた混合物の塩濃度が3mM以下である請求項4〜7のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
【請求項9】
細胞または生体組織へ外来物質を導入する方法であって、
(1)外来物質と水とを含有する混合物を用いて、膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープを含有する凍結乾燥組成物を再水和する工程と、
(2)前記(1)の工程により得られる組成物を細胞または生体組織と接触させる工程と、を含む外来物質導入方法。
【請求項10】
凍結乾燥組成物が、請求項1〜8のいずれかに記載の凍結乾燥組成物である、請求項9に記載の外来物質導入方法。
【請求項11】
細胞融合の方法であって、
a)膜融合活性のある不活性化ウイルスエンベロープを含有する凍結乾燥組成物を再水和する工程と、
b)前記a)の工程により得られる組成物を融合の対象となる細胞の懸濁液と混合する工程と、を含む細胞融合方法。
【請求項12】
凍結乾燥組成物が請求項1〜8のいずれかに記載の凍結乾燥組成物である、請求項11に記載の細胞融合方法。


【公開番号】特開2007−1866(P2007−1866A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169069(P2005−169069)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】