説明

膵臓β細胞機能不全の治療のための組織カリクレイン

本発明は、治療に効果的な量の組織カリクレイン、そのバリアントまたは活性なフラグメントの投与を含む、膵島β細胞機能不全、および、膵島β細胞機能不全に関連する状態の治療の方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
この出願は、「膵臓β細胞機能不全の治療のための組織カリクレイン」と題する2009年3月25日に出願されたアメリカ合衆国特許出願第61/163,173号の権利及び優先権を主張する。
【0002】
前記特許出願の内容は、ここで明白に、本願明細書の詳細な説明に参照して組み入れられる。
【0003】
本発明は、膵臓β細胞の機能不全の治療、ならびに、膵臓疾患および、その関連した状態のβ細胞調節による治療のための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
1型および2型糖尿病は今日大きな関心事である。
アメリカ合衆国において約2400万人の人々がこの疾患に冒されており(Mueller, Phys Ther, 2008, 88(11):1250-3)、発症率は世界中で上昇傾向にある。1型糖尿病はインスリン注射のみによって治療することができ、2型糖尿病は、症例によっては、食事と運動を介して治療されうる。食事と運動は2型糖尿病の進行を防ぐことさえできる。しかし、世界の多くの地域における座りがちなライフスタイルの増加は、肥満の大流行をもたらしている。治療を必要とする人にとって治療は高価で不便になりうる、かつ、現在利用できる薬でいくつかの望ましくない副作用がもたらされうる。
【0005】
膵臓で発見されたβ細胞は、インスリンの産生、血流への放出に関与する。それらは、内分泌細胞の大部分を占め、膵島のコアを形成する。膵臓β細胞は、増加するグルコースレベルに応答して、インスリンを分泌する。インスリンは筋肉および脂肪細胞へのグルコースの取り込みを助ける(Ellingsgaard et al, PNAS, 2008, 105(35): 13162-7)。1型糖尿病の患者において、β細胞は自己免疫反応によって攻撃される。残されるβ細胞は、血液からグルコースを除去するために十分なインスリンを産生するためには不十分である。それらは、β細胞破壊のレベルの増加を示す。2型糖尿病の患者において、筋肉および肝臓細胞が、もはや正常な血液インスリンレベルに応答できない。従って、彼らは結局高いグルコースレベルとなる。このことは、健康な人と比較して、β細胞の死およびβ細胞の機能の喪失をもたらしうる。1型糖尿病の長期にわたる症例は膵臓におけるβ細胞量の〜99%欠損を示すのに対し、2型糖尿病の症例は、膵臓におけるβ細胞量の〜65%欠損を示す(Meier, Diabetologia, 2008, 51:703-13)。従って、健康なβ細胞のレベルの調節、特に、このような細胞のレベルまたは活性の増加は、糖尿病を回復し、かつ、予防する可能性のある、効果的な治療法として役立ちうる。
【0006】
β細胞レベルの調節は、幹細胞の利用および臓器移植を介して試みられてきた。これらの方法は、いくつかの欠点を有しているように考えられている(Meier, Diabetologia, 2008, 51:703-13)。幹細胞供給および倫理に関する論点は、この治療法の能力を限定しうる。移植は、いずれかの臓器の移植に関連する、拒絶、感染および/またはそれに続く死亡のリスクを呈する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 61/163,173
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mueller, Phys Ther, 2008, 88(11):1250-3
【非特許文献2】Ellingsgaard et al, PNAS, 2008, 105(35): 13162-7
【非特許文献3】Meier, Diabetologia, 2008, 51:703-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、β細胞の産生を刺激することができ、それによってβ細胞量を増加する治療法が望ましい。この戦略はグルカゴン分泌の抑制 (Ellingsgaard et al, PNAS, 2008, 105(35): 13162-7) 、インスリン産生及び分泌の正常なレベルへの回復に効果的に役立ち得、さらなるグルカゴン分泌および肝臓のグルコース産生の抑制をもたらし、全般的な末梢のインスリン作用の改善を導く (Meier, Diabetologia, 2008, 51:703-13)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者の最近の仕事まで、膵島のβ細胞機能不全の治療、ならびに、それに関連した疾患および状態のβ細胞量調節による治療のための組織カリクレイン(kallikrein, KLK1)の使用を検討した人はいなかった。KLK1は、低分子量キニノゲンを切断し、カリジン(リシル―ブラジキニン(lysl-bradykinin))の放出をもたらすセリンプロテアーゼである。KLK1は、代替的に提案される治療(幹細胞利用および膵臓臓器移植)に関連したいずれの問題も無く、β細胞量を調節するよう送達されることができる産物を産生するために、処方されうる。
【0011】
本発明は、膵島β細胞機能不全の治療、ならびに、β細胞量調節による、それに関連した疾患および状態の治療の方法であり、治療に効果的な量のKLK1、KLK1のバリアント、またはその活性なフラグメントを投与する工程を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】処理群に関する膵臓β細胞領域を示す。膵臓β細胞領域は、STZなし群と比較して、STZ+PBS群において減少し、予想通り、ストレプトゾトシンが膵島の萎縮を首尾よく誘導することを示した。化合物1(KLK1)の3つ全ての投与群は、STZ+PBS群と比較して、著しく膵臓β細胞領域が増加する。
【図2】処理群に関する膵島の数のデータを示す。膵島の数は、STZなし群と比較してSTZ+PBS群において著しく減少し、予想通り、ストレプトゾトシンが膵島の萎縮を首尾よく誘導することを示した。化合物1(KLK1)の3つの全ての投与群は、STZ+PBS群と比較して、著しく膵島の数が増加した。
【図3】膵島におけるβ細胞複製に関するデータを示す。β細胞の複製は、STZなし群と比較して、STZ+PBS群において著しく減少し、予想通り、ストレプトゾトシンが膵島におけるβ細胞複製を首尾よく妨げることを示した。化合物1の3つの全ての投与群は、STZ+PBS群と比較して、このパラメーターが著しく増加し、かつ、0.2U用量において統計的に有意な様式であった(図3において示した通り、**=p<0.01)。
【図4】全ての処理群に関する膵臓におけるインスリン陽性膵管細胞の数を示す。インスリン陽性膵管細胞の数は、STZなし群と比較してSTZ+PBS群においてわずかに減少した。化合物1(KLK1)の3つの全ての投与群は、インスリン陽性膵管細胞の数が、STZ+PBS群およびSTZなし群と比較して、著しく増加した。
【図5】5つの処理群(STZなし、STZ+PBS、STZ+0.2Uの化合物1(KLK1)、STZ+1.0Uの化合物1(KLK1)、STZ+5.0Uの化合物1(KLK1))に関する膵島の各イメージを示す。膵島をインスリンIHCにより鮮赤色に染色した。イメージを、40×の倍率で撮影した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一つの態様において、KLK1は、精製した/単離した天然形態、合成形態、または組換え技術による形態であることができる。
【0014】
本発明のもうひとつの態様において、単離したKLK1がヒトKLK1(配列番号1)であることができる。
【0015】
本発明のもう一つの態様において、単離したKLK1が、マントヒヒ(hamadryas baboon)KLK1(配列番号2)であることができる。
【0016】
本発明のもう一つの態様において、単離したKLK1が、カニクイザル(crab eating macaque)KLK1(配列番号3)であることができる。
【0017】
本発明のもう一つの態様において、単離したKLK1が、ワタボウシタマリン(cotton top tamarin)KLK1(配列番号4)であることができる。
【0018】
本発明のもう一つの態様において、単離したKLK1が、イヌKLK1(配列番号5)であることができる。
【0019】
本発明のもう一つの態様において、単離したKLK1が、ヒツジKLK1(配列番号6)であることができる。
【0020】
本発明のもう一つの態様において、単離したKLK1が、ウサギKLK1(配列番号7)であることができる。
【0021】
本発明のもう一つの態様において、単離したKLK1が、ウシKLK1(配列番号8)であることができる。
【0022】
本発明のもう一つの態様において、単離したKLK1が、ウマKLK1(配列番号9)であることができる。
【0023】
本発明の好ましい態様において、単離したKLK1が、ブタKLK1(配列番号10)であることができる。
【0024】
加えて、本発明は、医薬組成物、ならびに、膵島β細胞の機能の低下および/または膵島β細胞量の減少に関連した疾患の治療の方法を、さらに提供する。
【0025】
好ましい実施態様において、膵島β細胞の機能の低下および/または膵島β細胞量の減少に関連した疾患または症状が、1型または2型糖尿病である。
【0026】
本発明のさらなる態様において、β細胞量の調節は、疾患状態と比較してβ細胞量の増加であることができる。
【0027】
本発明のさらなる態様において、β細胞量の調節は、β細胞の再生であることができる。
【0028】
本発明においてβ細胞の再生は、機能的なβ細胞の数の増加による、または正常な機能の回復による障害を受けたβ細胞の修復による、正常なβ細胞の機能の回復を意味する。
【0029】
本発明のさらなる態様において、β細胞量の調節はβ細胞の増殖の増加であることができる。
【0030】
本発明のもう一つの態様において、KLK1、または、そのバリアントもしくは活性なフラグメントを、経口投与することができる。経口投与は、飲み込まれる液剤、錠剤、またはカプセル剤のような、腸内投与であることができる。
【0031】
本発明のさらなる態様において、経口治療用量は最大用量の範囲が約1〜約1000国際単位(IU)/日であることができる。
【0032】
本発明のもう一つの態様は、β細胞量の調節または、それに関連する疾患もしくは状態の治療に有益な、付加的な治療方法の使用をさらに含む、本願明細書において記載された方法を含む。付加的な治療方法は、幹細胞移植および膵臓臓器移植を含むが、それに限定はされない。
【0033】
本発明のもう一つの態様は、前記で記載したような、KLK1または、そのバリアントもしくは活性なフラグメントの約1〜約1000IUを含み、任意選択でさらに医薬的に許容可能な賦形剤を含み、かつ、任意選択で付加的な治療化合物を含む、経口投与のために処方した組成物を含む。
【0034】
定義
組織カリクレインはセリンプロテアーゼのファミリーであり、キニノゲンのリシル―ブラジキニン(カリジン)への切断を介する、高血圧のコントロールにおける役割で主に有名である(Yousef et al., Endocrine Rev. 2001, 22: 184-204)。多くの数の既知のヒトおよび動物の組織カリクレインが存在しているところ、ただ一つが、キニノゲナーゼ活性、即ち、キニンを放出する能力を持つ。ヒトにおいて、この酵素はKLK1、または、膵臓/腎臓のカリクレインとして知られる。発明者は、KLK1が、高血圧の制御におけるKLK1の認識された役割に加えて、ユビキタスな、または複数の標的に作用する酵素であるらしく、従って、膵島細胞機能不全の治療ならびにそれに関連した疾患および状態の、β細胞量の調節による治療に、特に重要な役割を果たしうると考える。本願明細書において、用語「ヒト組織カリクレイン」またはKLK1は、以下の用語と同義である:カリクレイン(callicrein)、グルモリン(glumorin)、パドレアチン(padreatin)、パズチン(padutin)、カリジノゲナーゼ(kallidinogenase)、ブラジキノゲナーゼ(bradykinogenase)、膵臓カリクレイン(pancreatic kallikrein)、オノクレイン P(onokrein P)、ジリミナール D(dilminal D)、デポー―パズチン(depot-Padutin)、ウロカリクレイン(urokallikrein)、または、尿カリクレイン(urinary kallikrein)。同様のキニノゲナーゼ活性を伴う組織カリクレインもまた、様々な動物において見つけることができ、従って、膵島細胞機能不全の治療に使用することができる。
【0035】
本発明の好ましい実施態様は、ヒト組織カリクレイン前駆体ポリペプチド(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(KLK1)であることができ、および、以下の配列(配列番号1)を有する:
NP_002248 GI:4504875 ヒト(ホモ サピエンス(Homo sapiens)) KLK1_human
1-18 シグナルペプチド
19-24 プロペプチド
25-262 成熟ペプチド
>gi|4504875|ref|NP_002248.1| kallikrein 1 preproprotein [Homo sapiens]
MWFLVLCLALSLGGTGAAPPIQSRIVGGWECEQHSQPWQAALYHFSTFQCGGILVHRQWVLTAAHCISDNYQLWLGRHNLFDDENTAQFVHVSESFPHPGFNMSLLENHTRQADEDYSHDLMLLRLTEPADTITDAVKVVELPTEEPEVGSTCLASGWGSIEPENFSFPDDLQCVDLKILPNDECKKAHVQKVTDFMLCVGHLEGGKDTCVGDSGGPLMCDGVLQGVTSWGYVPCGTPNKPSVAVRVLSYVKWIEDTIAENS (配列番号1)
【0036】
本発明のさらなる実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と90%の配列同一性を有する、マントヒヒ組織カリクレイン(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(配列番号2)を含む。
Q2877 KLK1_PAPHA
MWFLVLCLALSLGGTGAAPPIQSRIVGGWECSQPWQAALYHFSTFQCGGILVHPQWVLTAAHCIGDNYQLWLGRHNLFDDEDTAQFVHVSESFPHPCFNMSLLKNHTRQADEDYSHDLMLLRLTQPAEITDAVQVVELPTQEPEVGSTCLASGWGSIEPENFSYPDDLQCVDLKILPNDKCAKAHTQKVTEFMLCAGHLEGGKDTCVGDSGGPLTCDGVLQGVTSWGYIPCGSPNKPAVFVRVLSYVKWIEDTIAENS (配列番号2)
【0037】
本発明のさらなる実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と90%配列同一性を有する、カニクイザル組織カリクレイン(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(配列番号3)を含む。
Q07276-1 KLK1_MACFA
MWFLVLCLALSLGGTGRAPPIQSRIVGGWECSQPWQAALYHFSTFQCGGILVHPQWVLTAAHCISDNYQLWLGRHNLFDDEDTAQFVHVSESFPHPGFNMSLLKNHTRQADDYSHDLMLLRLTQPAEITDAVQVVELPTQEPEVGSTCLASGWGSIEPENFSFPDDLQCVDLEILPNDECAKAHTQKVTEFMLCAGHLEGGKDTCVGDSGGPLTCDGVLQGVTSWGYIPCGSPNKPAVFVKVLSYVKWIEDTIAENS (配列番号3)
【0038】
本発明のさらなる実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と82%配列同一性を有する、ワタボウシタマリン組織カリクレイン(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(配列番号4)を含む。
Q9N1Q1_SAGOE
MWFLVLCLALSLGGTGAVPPIQSRIVGGWDCKQHSQPWQAALYHYSTFQCGGVLVHPQWVLTAAHCISDHYQLWLGRHDLFENEDTAQFVFVSKSFPHPDFNMSLLKNHTRLPGEDYSHDLMLLQLKQPVQITDAVKVVELPTEGIEVGSTCLASGWGSIKPEKFSFPDILQCVDLKILPNDECDKAHAQKVTEFMLCAGPLKDGQDTCVGDSGGPLTCDGVLQGIISWGYIPCGSPNKPSVFVRVLSYVKWIKDTIADNS (配列番号4)
【0039】
本発明のさらなる実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と74%配列同一性を有する、イヌ組織カリクレイン(腎臓/膵臓、唾液腺カリクレイン)(配列番号5)を含む。
Q29474_CANFA
MWFLVLCLALSLAGTGAAPPVQSRIIGGWDCTKNSQPWQAALYHYSKFQCGGVLVHPEWVVTAAHCINDNYQLWLGRYNLFEHEDTAQFVQVRESFPHPEFNLSLLKNHTRLPEEDYSHDIMLLRLAEPAQITDAVRVLDLPTQEPQVGSTCYASGWGSIEPDKFIYPDDLQCVDLELLSNDICANAHSQKVTEFMLCAGHLEGGKDTCVGDSGGPLICDGVLQGITSWGHVPCGSPNMPAVYTKVISHLEWIKETMTANP (配列番号5)
【0040】
本発明のさらなる実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と72%配列同一性を有する、ヒツジ組織カリクレイン-1(配列番号6)を含む。
A5A2L9_SHEEP
MWFPVLCLALSLAGTGAVPPVQSRIVGGQECEKHSQPWQVAIYHFSTFQCGGVLVAPQWVLTAAHCKSENYQVWLGRHNLFEDEDTAQFAGVSEDFPNPGFNLSLLENHTRQPGEDYSHDLMLLRLQEPVQLTQDVQVLGLPTKEPQLGTTCYASGWGSVKPDEFSYPDDLQCVDLTLLPNEKCATAHPQEVTDCMLCAGHLEGGKDTCVGDSGGPLICEGMLQGITSWGHIPCGTPNKPSVYTKVIVYLDWINKTMTDNP (配列番号6)
【0041】
本発明のさらなる実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と73%配列同一性を有する、ウサギ組織カリクレイン-1(配列番号7)を含む。
A5A2M0_RABIT
MWLPVLCLALSLGGTGAAPPLQSRIIGGWVCGKNSQPWQAALYHYSNFQCGGVLVHPQWVLTAAHCFSDNYQLWLGRHNLFEDEAEAQFIQVSGSFPHPRFNLSLLENQTRGPGEDYSHDLMLLKLARPVQLTNAVRVLELPTQEPQVGTSCLASGWGSITPIKFTYPDELQCVDLSILANSECDKAHAQMVTECMLCAGHLEGGRDTCVGDSGGPLVCNNELQGITSWGHVPCGSPNKPAVFTKVLSYVEWIRNTIANNP (配列番号7)
【0042】
本発明のさらなる実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と72%配列同一性を有する、ウシ腺カリクレイン-1前駆体(配列番号8)を含む。
Q6H320_BOVIN
MWFPVLCLALSLAGTGAVFPIQSRIVGGQECEKHSQPWQVAIYHFSTFQCGGVLVAPQWVLTAAHCKSDNYQVWLGRHNLFEDEDTAQFAGVSEDFPNPGFNLSLLENHTRHPGEDYSHDLMLLRLQEPVQLTQNVQVLGLPTKEPQLGTTCYASGWGSVKPDEFSYPDDLQCVDLTLLPNEKCATAHPQEVTEWMLCAGHLEGGKDTCVGDSGGPLICEGMLQGITSWGHIPCGTPNKPSVYTKVILYLDWINKTMTDNP (配列番号8)
【0043】
本発明のさらなる実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と70%配列同一性を有する、ウマ腺カリクレイン-1前駆体(KLKE1)(配列番号9)を含む。
Q6H322_HORSE
MWLPVLCLALSLVGTGAAPPIQSRIIGGWECKNHSKPWQAAVYHYSSFQCGGVLVDPQWVLTAAHCKGDYYQIWLGRHNLFEDEDTAQFFLVAKSFPHPDFNMSLLENNNRLPGEDYSHDLMLLQVEQPDQITVAVQVLALPTQEPVLGSTCYASGWGSIEPDKFTYPDELRCVDLTLLSNDVCDNAHSQNVTEYMLCAGHLEGGKDTCVGDSGGPLICDGVFQGVTSWGHIPCGRPNKPAVYTKLIPHVQWIQDTIAANP (配列番号9)
【0044】
本発明の好ましい実施態様は、ヒトKLK1(配列番号1)と67%配列同一性を有する、ブタ腺カリクレイン-1前駆体(配列番号10)を含む。
NP_001001911 GI:50054435 イノシシ(スース スクロファ(Sus scrofa))
1-17 シグナルペプチド
18-24 プロペプチド
25-263 成熟ペプチド
>gi|50054435|ref|NP_001001911.1| kallikrein 1 [Sus scrofa]
MWSLVMRLALSLAGTGAAPPIQSRIIGGRECEKDSHPWQVAIYHYSSFQCGGVLVDPKWVLTAAHCKNDNYQVWLGRHNLFENEVTAQFFGVTADFPHPGFNLSLLKNHTKADGKDYSHDLMLLRLQSPAKITDAVKVLELPTQEPELGSTCQASGWGSIEPGPDDFEFPDEIQCVELTLLQNTFCADAHPDKVTESMLCAGYLPGGKDTCMGDSGGPLICNGMWQGITSWGHTPCGSANKPSIYTKLIFYLDWINDTITENP (配列番号10)
【0045】
用語「活性なフラグメント」は、全長KLK1ポリペプチドの活性を維持した、KLK1ポリペプチドの小さな部分、例えば、シグナルペプチド領域のないKLK1、シグナルペプチドのない、および、プロペプチド領域のないKLK1、低分子量キニノゲンのカリジンへの切断が可能なセリンプロテアーゼ活性を有することが判明したKLK1のフラグメントを意味する。
【0046】
出発または参考ポリペプチドの「バリアント(variant)」または「変異体(mutant)」は、1)出発または参考ポリペプチドの配列と異なるアミノ酸配列を有しており、2)天然であるか人工的(人間が作り出した)突然変異生成を介して、出発または参考ポリペプチドに由来する、ポリペプチドである。このようなバリアントは、例えば関心のあるポリペプチドのアミノ酸配列内の残基の欠失、および/または、関心のあるポリペプチドのアミノ酸配列内の残基への挿入、および/または、関心のあるポリペプチドのアミノ酸配列の内の残基の置換を含む。バリアントアミノ酸は、この文脈において、(ソースの抗体または抗体結合フラグメントの配列のような)出発または参考ポリペプチド配列の対応する位置のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を意味する。欠失、挿入、および置換の任意の組み合わせは、最終コンストラクトが望ましい機能的特徴を持つという条件で、最終バリアントまたは変異体コンストラクトを達成しうる。また、アミノ酸の変化は、グリコシル化部位の数または位置の変化のように、ポリペプチドの翻訳後工程を変えうる。ポリペプチドのアミノ酸配列バリアント作製の方法はU.S.特許第5,534,615号に記載され、参照によって明白に本願明細書に組み入れられる。参考ポリペプチドのバリアントまたは変異体は、例えば、前記参考ポリペプチドに、95、90、85、82、80、75、74、72、または60%同一性を有することができ、かつ、さらに、参考ポリペプチドに対してより大きな、より小さな、または同一の活性を有しうる。また、バリアントは、参考ポリペプチドに加えた、精製を容易にするための、代謝半減期を改善するための、ポリペプチドを簡単に同定するための、例えば、Hisタグまたはペグ化配列のような配列を含みうる。
【0047】
「野生型」もしくは「参考」配列、または、「野生型」もしくは「参考」タンパク質/ポリペプチドの配列は、変異の導入を介して得られる変異体ポリペプチド由来の参考配列でありうる。一般的に、所与のタンパク質に関して、「野生型」配列は、自然において最も共通な配列である。同様に、「野生型」遺伝子配列は、自然において最も共通して見られる遺伝子の配列である。変異を、「野生型」遺伝子(および、従ってコードするタンパク質)へ、天然の工程を介して、あるいは、ヒトが誘導する方法を介して導入しうる。このような工程の生成物は、オリジナルの「野生型」タンパク質または遺伝子の、「バリアント(variant)」または「変異体(mutant)」である。
【0048】
本願明細書で特定されるポリペプチドに関する「アミノ酸配列同一性百分率(%)」は、配列をアラインし、必要であればギャップを導入して、配列同一性最大百分率を達成し、配列同一性の一環として任意の保存された置換を考慮しないとした後、参考配列におけるアミノ酸残基と同一である候補配列におけるアミノ酸残基の百分率として定義される。アミノ酸配列同一性百分率の決定の目的のためのアライメントを、当分野における様々な方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、または、Megalign(DNASTAR)ソフトェアのような、公開されて利用可能なコンピューターソフトウェアを用いて達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大アライメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメーターを決定することができる。ALIGN-2プログラムは、Genetech, Inc、サンフランシスコ、カルフォルニアにより公開されて利用可能である。
【0049】
本願明細書における目的のために、所与のアミノ酸配列Bへの、所与のアミノ酸配列Bに伴う、または所与のアミノ酸配列Bに対する、所与のアミノ酸配列Aの配列同一性%(あるいは、あるアミノ酸配列同一性%を、所与のアミノ酸配列Bへ、所与のアミノ酸配列Bに伴い、または所与のアミノ酸配列Bに対して、有するまたは含む、所与のアミノ酸配列Aとして表現される)は、以下のように計算される:
100×分数X/Y、
式中、Xは、プログラムの、AとBとのアライメントにおいて、配列アライメントプログラムによって同一的に一致したとして計測したアミノ酸残基の数であり、Yは、Bにおけるアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さが等しくない場合、AのBに対するアミノ酸配列同一性%が、BのAに対するアミノ酸配列同一性%と等しくならないことは、正しく理解されるであろう。
【0050】
「核酸配列同一性百分率(%)」は、配列同一性最大百分率を達成するために、配列をアラインし、必要であれば、ギャップを導入した後の、参考ポリペプチドをコードする核酸配列におけるヌクレオチドと同一な、候補配列におけるヌクレオチドの百分率として定義される。核酸配列同一性百分率を決定する目的のためのアライメントを、当分野における様々な方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2またはMegaligh(DNASTAR)ソフトウェアのような、公開されて利用可能なコンピューターソフトウェアを用いて達成することができる。比較される配列の全長にわたる最大アライメントを達成するために必要とした任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメーターを、既知の方法によって決定することができる。
【0051】
本願明細書における目的のために、所与の核酸配列Dへの、所与の核酸配列Dを伴う、または所与の核酸配列Dに対する、所与の核酸配列Cの核酸配列同一性(%)(あるいは、所与の核酸配列Dへ、所与の核酸配列Dを伴い、または、所与の核酸配列Dに対して、ある核酸配列同一性%を有するか、含む、所与の核酸配列Cとして表現される)は、以下のように計算される:
100×分数W/Z
式中、Wは、プログラムのCとDのアライメントにおいて、配列アライメントプログラムによって同一的に一致したとして計算されたヌクレオチドの数であり、Zは、Dにおけるヌクレオチドの総数である。当業者は、核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと等しくない場合、CのDに対する核酸配列同一性%が、DのCに対する核酸配列同一性%と等しくならないことを正しく理解するだろう。
【0052】
用語「アミノ酸」は、その最も広い意味で使用され、天然に生じるL-α-アミノ酸または残基を含むことが意味される。天然に生じるアミノ酸に関して、一般的に使用される1個または3個の文字の略号が、本願明細書において使用される(Lehninger, A.L., Biochemistry, 2d ed., pp. 71-92, (1975), Worth Publishers, New York)。前記用語はまた、全てのD-アミノ酸、ならびにアミノ酸アナログのような化学的に改変されたアミノ酸、ノルロイシン(Norleucine)のような通常はタンパク質に組み込まれない天然に生じるアミノ酸、および、当該業界に既知の、アミノ酸の特徴である性質を有する化学的に合成した化合物を含む。例えば、フェニルアラニンまたはプロリンの、アナログまたはミメティックス(mimetics)(天然のフェニルアラニン(Phe)またはプロリン(Pro)のような同一の立体配座的制約を可能にする)は、アミノ酸の定義に含まれる。このようなアナログおよびミメティックスは、本願明細書において、アミノ酸の「機能的等価物(functional equivalents)」とみなされる。他のアミノ酸の例は、Roberts and Vellaccio,The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, Gross and Meiehofer, Eds., Vol. 5 p 341, Academic Press, Inc, N.Y. 1983によって列挙され、これを参照によって本願明細書に組み入れる。
【0053】
用語「タンパク質」は、ペプチドよりも長いアミノ酸配列を有する。「ペプチド」は、2〜約50アミノ酸残基を含む。用語「ポリペプチド」は、タンパク質およびペプチドを含む。タンパク質の例は、抗体、酵素、レクチン、および、レセプター、ならびに、リポタンパク質およびリポポリペプチド、ならびに、糖タンパク質およびグリコポリペプチドを含むが、それに限定はされない。
【0054】
「融合タンパク質」および「融合ポリペプチド」は、互いに共有結合で連結した2個の部分を有するポリペプチドを意味し、ここで前記部分のそれぞれは、異なる性質を有するポリペプチドである。前記性質は、in vitroまたはin vivoにおける活性のような、生物的性質でありうる。前記性質は、標的抗原への結合、反応の触媒などのように、単に化学的または物理的性質でもありうる。前記2個の部分は、直接的に一個のペプチド結合により、または、一つまたは複数のアミノ酸残基を含むペプチドリンカーを介して連結しうる。一般的に、前記2個の部分およびリンカーは、互いにリーディングフレーム内にあるであろう。好ましくは、ポリペプチドの前記2個の部分は、異種性または異なるポリペプチドから得られる。
【0055】
用語「治療に有効な量」は、対象または哺乳類における疾患または障害を「軽減する」または「治療する」のに効果的な本発明の組成物の量を意味する。一般的に、疾患または障害の軽減または治療は、疾患または障害に関連する一つもしくは複数の症状、または、医学的問題の減少を含む。いくつかの実施態様において、「治療に有効な量」は、疾患状態と比較してβ細胞量を増加させることができる量である。
【0056】
用語「治療(treatment)」および「治療する(treating)」は、疾患、その状態または症状の抑制、軽減、および治癒を意味する。「治療する(treating)」および「治療(treatment)」は、治療的処置および予防的(prophylactic or preventative)方法の両方を意味し、その目的は、標的とした病的状態または疾患を予防する、または、低下させる(軽減する)ことである。治療を、治療に効果的な量の、少なくとも1種の本発明の化合物の投与によって、実行することができる。成功した治療および疾患の改善を評価するためのパラメーターは医師によく知られている通常の手順によって簡単に測定可能である。
【0057】
用語「β細胞再生」または「β細胞量の増加」は、当業界の専門医師によってイメージング手法および代謝評価の方法を介して決定される、すい臓におけるβ細胞量の増進を意味する。
【0058】
イメージング手法は、陽電子放出断層撮影法(positron emission spectroscopy)、MRI、および/または単光子放射型コンピュータ断層撮影法(single photon emission computed tomography)を含むが、それに限定はされない。代謝的評価は、経口グルコース耐性試験、静脈内アルギニン刺激試験、および、グルコース相乗作用のアルギニンに誘導されたインスリン分泌(glucose potentiation of arginine-induced insulin secretion)を含むが、それに限定はされない。β細胞の機能の評価に関する既知の数学的モデルは、恒常性モデル評価(homeostatic model assessment)(HOMA)、および、評価モデルでの継続的なグルコースの点滴(continuous infusion of glucose with model assessment)(CIGMA)を含むが、それに限定はされない。HOMAは、グルコース-インスリン相互作用の構造的モデルを使用し、患者における基礎グルコース濃度およびインスリンまたはC-ペプチド濃度からβ細胞の機能およびインスリン耐性を評価する(Wallace, 2004)。CIGMAは、血漿グルコースレベルを食後のレベルと同様にする継続的なグルコース点滴の約1-2時間後の、定常状態付近のグルコース/インスリン濃度を評価する(Hermans, 1999)。
【0059】
<膵島β細胞量の調節方法>
本発明は、膵島β細胞機能不全、ならびに、それに関連した疾患および状態の治療に関する方法を提供する。一つの実施態様は、膵島細胞機能不全の治療、ならびに、治療に効果的な量のKLK1の哺乳類への投与による哺乳類におけるβ細胞量の調節による、それに関連した疾患および状態の治療の方法を含む。
【0060】
医薬組成物は経口投与されうる。
【0061】
経口投与は、液剤、錠剤、徐放性カプセル剤、腸溶カプセル剤、および、シロップ剤の腸内投与を含む。
【0062】
「効果的量(effective amount)」または「治療に効果的な量(therapeutically effective amount)」は、非毒性であるが、望ましい効果を提供するのに十分な量の薬または剤を意味する。多剤併用療法において、併用したうちの一種の成分の「効果的な量」は、併用する他の成分と併用して使用した場合に、望ましい効果を提供するのに効果的である化合物の量である。「効果的」である量は、個体の年齢および一般的な状態、特定の活性剤、およびそれに類するものに依存して、対象によって変化するであろう。任意の個々の場合における適切な「効果的な」量は、通常の実験を用いて決定されうる。
【0063】
前記の疾患またはその症状の治療に関して、本発明の化合物の治療に効果的な量を、疾患または症状の発病の前に、同時に、あるいは後に投与することができる。本発明の化合物を、疾患または症状の発病と同時に投与することができる。本願明細書において使用される「同時投与(concurrent administration)」および「同時に投与する(concurrently administrating)」は、混合物中の、例えば、医薬組成物中の、または液剤中の、または別々に、例えば、別々の医薬組成物または液剤における、継続的な、同時の、または異なる時の(しかし、本発明の化合物および他の治療剤が相互作用できず、かつ、より低い用量の活性成分を投与することができない程度の時間、離れてはいない)、本発明のポリペプチドおよびもう一つの治療剤の投与を含む。
【0064】
本発明のもう一つの態様は、膵島細胞機能不全の治療、および、それに関連した疾患および症状の治療において、付加的な治療法の同時に使用する工程をさらに含む、本願明細書で記載した方法を含む。付加的な治療方法は、幹細胞移植および膵臓臓器移植を含むがそれに限定はされない。
【0065】
「治療(treatment)」および「治療する(treating)」は、膵島細胞機能不全に関連した疾患または症状の予防、抑制、および/または、軽減、ならびに、哺乳類の臓器および組織に影響する、膵島細胞機能不全に関連した疾患または症状の治癒を意味する。本発明の組成物を、任意の前記の状態が生じる前に、最中に、および、後に、治療に効果的な量で患者に投与することができる。
【0066】
本発明は、様々な特定の、および、好ましい、実施態様および技術に関連して記載される。しかし、それは、多くの変化および改変が、本発明の精神および範囲内で維持されながら行われうることが、理解されるべきである。
【実施例】
【0067】
本願明細書において採用した方法は、Ellingsgaardの研究(Ellingsgaard et al, PNAS, 2008, 105(35): 13162-7)において用いられた方法と同様である。
【0068】
(実施例1:膵島細胞量の調節)
8週齢の20匹のC57BL/6Jのオスのマウスに、8週間、脂肪由来58%のカロリーを含む、高カロリー食を与えた。水は自由に与えた。前記マウスは、遺伝的に2型糖尿病に進行しやすく、たびたび糖尿病および肥満の研究のために使用される。処理群の10匹のマウスに、PBS中に0.375mg/mlの用量で、配列番号10の配列を持つ単離されたブタKLK1を筋肉内注射し(2ml/kg)、そして、毎日、コントロール群はPBSのプラセボ注射を受けた。最後の14日目に、マウスは、飲み水中の1mg/mlのブロモデオキシウリジン(BrdU)(β細胞の増殖を検出するために用いられる)に暴露された。
【0069】
動物を解剖した。各動物の膵臓を摘出し、パラホルムアルデヒドで固定した。組織化学的分析を行った。20個の膵臓サンプルを、細胞の増殖を検出するために抗BrdUで、β細胞を検出するために抗インスリンで、染色した。
【0070】
<結果>
データを、専門家によって手作業で解釈した。染色を、弱い(1)、中間(2)、または、強い(3)のいずれかに等級分けした。染色されたβ細胞の百分率もまた記録した。KLK1で処理された細胞は、コントロール細胞と比較して、平均すると、より高いβ細胞強度(40%超の強度)、および、β細胞内のより高いBrdUの百分率(45%超の増殖)を示した。従って、KLK1はβ-幹細胞増殖を引き起こすことができる(表1および表2)。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
(実施例2: ストレプトゾトシン処理ラットのKLK1処理)
7-9週齢のオスのウィスター(Wistar)ラット(225-275g)を使用した。動物に標準Purina chow dietを与えた。実験の持続は28日だったが、3週間の処理であった。ラットを5つの処理群に分けた:(a) ストレプトゾトシン(STZ)なし(n=8)、(b)PBSビヒクル(vehicle)(n=8)、(c)KLK1 0.2U(n=8)、(d)KLK1 1U(n=8)、および、(e)KLK1 5U(n=8)。動物を、一度50mg/kgのストレプトゾトシン(STZ)で注射し、(STZはβ細胞特異的な毒であるため)β細胞の死をひきおこした。KLK1処理した動物は1日2回腹腔内注射を7〜28日に受けた。全ての動物は毎日、ブロモデオキシウリジン(BrdU)(50mg/ml)の腹腔内注射を7〜15日に受けた。BrdUはβ細胞の検出に使用した。
【0074】
動物を解剖した。ホルマリン固定した膵臓サンプルをパラフィン包埋し、約5マイクロンに切片化した。一つの一連の切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、もう一つの一連の切片を免疫組織化学(IHC)プロトコルに供した。これはDABをクロマゲン(chromagen)(茶色)として共役した抗-BRDU抗体、および、ファストレッド(fast red)をクロマゲンとして共役した抗インスリン抗体を含む。全てのスライドを、有資格の獣医病理学者によって分析した。以下のパラメーターを評価した:
【0075】
膵臓β細胞領域:
各IHCサンプルについて、2つの典型的な4×対物フィールド(objective field)が、全てまたはほぼ全ての、各膵島の代表的領域を有する膵臓が含まれた、固定されたピクセル密度で撮影された。Nikon Elements 3.0 softwareを用いて、これらのイメージはインスリン陽性組織(赤い組織)に関して閾値を決定し、インスリン陽性ピクセルの数を記録した。その後、前記イメージを、存在する全ての膵臓の組織に関して(白いスペースおよび、小腸またはリンパ節のような膵臓の組織でない組織を除いて)閾値を決定し、ピクセルの数を記録した。
【0076】
その後、インスリン陽性組織領域を、イメージ内の、インスリン陽性組織の面積/全ての膵臓組織の面積、として記録した。各サンプルに対して2種のこのようなデータ点を、合計し、このデータを示した。
【0077】
膵島の数:
サンプルにつき、これら同一の2個の4×対物フィールド(objective field)において、膵島の数をカウントし、記録した。
【0078】
膵臓のβ細胞複製:
膵島のインスリン陽性細胞内にある、茶色のBrdU陽性の核をカウントした。大きさがそろえられた5個の大きな膵島における、このような細胞の数をカウントし、記録した。
【0079】
インスリン陽性膵管細胞の数:
大きな膵管で、5個の20×対物フィールド(objective field)を解析した。これら5個のフィールドにおける任意のインスリン陽性膵管細胞をカウントし、記録した。
【0080】
結果:
図1は、処理群に関する膵臓β細胞領域を示す。膵臓β細胞領域は、STZなし群と比較して、STZ+PBS群において減少し、予想通り、ストレプトゾトシンが膵島の萎縮を首尾よく誘導することを示した。
化合物1(KLK1)の3つ全ての投与群は、STZ+PBS群と比較して、著しく膵臓β細胞領域が増加する。
【0081】
図2は、処理群に関する膵島の数のデータを示す。膵島の数は、STZなし群と比較してSTZ+PBS群において著しく減少し、予想通り、ストレプトゾトシンが膵島の萎縮を首尾よく誘導することを示した。
化合物1(KLK1)の3つの全ての投与群は、STZ+PBS群と比較して、著しく膵島の数が増加した。
【0082】
図3は、膵島におけるβ細胞複製に関するデータを示す。β細胞の複製は、STZなし群と比較して、STZ+PBS群において著しく減少し、予想通り、ストレプトゾトシンが膵島におけるβ細胞複製を首尾よく妨げることを示した。
化合物1の3つの全ての投与群は、STZ+PBS群と比較して、このパラメータが著しく増加し、かつ、0.2U用量において統計的に有意な様式であった(図3において示した通り、**=p<0.01)。
【0083】
図4は、全ての処理群に関する膵臓におけるインスリン陽性膵管細胞の数を示す。インスリン陽性膵管細胞の数は、STZなし群と比較してSTZ+PBS群においてわずかに減少した。
化合物1(KLK1)の3つの全ての投与群は、インスリン陽性膵管細胞の数が、STZ+PBS群およびSTZなし群と比較して、著しく増加した。
【0084】
図5は、5つの処理群(STZなし、STZ+PBS、STZ+0.2Uの化合物1(KLK1)、STZ+1.0Uの化合物1(KLK1)、および、STZ+5.0Uの化合物1(KLK1))に関する膵島の各イメージを示す。膵島をインスリンIHCにより鮮赤色に染色した。イメージを、40×の倍率で撮影した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療に効果的な量の、精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントを投与する工程を含む、膵島β細胞機能不全の治療方法。
【請求項2】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、精製したまたは単離した天然KLK1である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、組換え技術によって製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、および、配列番号10からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する90%の配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有するポリペプチドを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する82%の配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有するポリペプチドを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する74%の配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有するポリペプチドを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する72%配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有するポリペプチドを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する60%配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有するポリペプチドを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、ペグ化配列を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
膵島β細胞機能不全が、異常なβ細胞量を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、経口投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、膵島細胞機能不全の治療に有用な第2の治療法と同時に投与される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第2の治療法が、幹細胞移植、および、膵臓臓器移植からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
治療によりβ細胞量を調節する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
β細胞量の調節が、β細胞量の増加、β細胞再生、機能的なβ細胞の数の増加による正常なβ細胞の機能の回復、β細胞増殖の増加、ならびに障害を受けたβ細胞における機能の修復または改善からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
膵島β細胞機能不全の治療のための、精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントの使用。
【請求項19】
膵島β細胞機能不全の治療のための医薬の調製における、精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントの使用。
【請求項20】
膵島β細胞機能不全の治療のための医薬の調製における、精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントの使用。
【請求項21】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、精製したまたは単離した天然KLK1である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、組換え技術によって製造される、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項24】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、および、配列番号10からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項25】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する90%配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有する、ポリペプチドを含む、請求項20に記載の使用。
【請求項26】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する82%配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有する、ポリペプチドを含む、請求項20に記載の使用。
【請求項27】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する74%配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有する、ポリペプチドを含む、請求項20に記載の使用。
【請求項28】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する72%配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有する、ポリペプチドを含む、請求項20に記載の使用。
【請求項29】
精製したまたは単離したKLK1が、配列番号1に対する60%配列同一性を有し、かつ、低分子量キニノゲンをカリジンへ切断することが可能であるセリンプロテアーゼ活性を有する、ポリペプチドを含む、請求項20に記載の使用。
【請求項30】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、ペグ化配列を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項31】
膵島β細胞機能不全が、異常なβ細胞量を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項32】
精製したまたは単離した、KLK1またはそのバリアントもしくは活性なフラグメントが、経口投与される、請求項20に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−521366(P2012−521366A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501089(P2012−501089)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000413
【国際公開番号】WO2010/108262
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(509024352)デイアメデイカ・インコーポレイテツド (2)
【Fターム(参考)】