説明

自動二輪車の車体フレーム構造

【課題】車体フレームの剛性を向上できること。
【解決手段】自動二輪車の車体フレーム構造において、一対の懸架プレート8には、これらの懸架プレートを貫通してピボットパイプ15が固定されると共に、このピボットパイプの上方にエンジンユニット22の後部を支持するエンジン支持部20、21が設けられ、更に一対の懸架プレート8内には、車両側面視で、エンジン支持部20の後方を、メインフレーム4の下面4Bからピボットパイプ15まで略垂直に延びる垂直延出部42と、この垂直延出部の上端からメインフレーム4に沿って懸架プレート8の前端縁46まで延びる前方延出部43とを有する補強プレート45が配置され、垂直延出部42が、メインフレーム4の下面4B、ピボットパイプ15の上部外周面15A及び懸架プレートの内側面8Aに接合され、前方延出部43が、メインフレーム4の側面4C、4D及び懸架プレートの内側面8Aに接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の車体フレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動二輪車の操縦安定性に大きく寄与する車体フレームのねじり剛性は、ヘッドパイプからピボットパイプまでの剛性により決定される。
【0003】
前端部がヘッドパイプに結合されたメインフレームを直接ピボットパイプに連結または結合すれば、車体フレームのねじり剛性は向上する。ところが、アンダーボーン型の車体フレームを有する自動二輪車にあっては、エンジンのクランクケースなどの形状により制約があるため、メインフレームをピボットパイプに直接連結または結合することは困難である。
【0004】
そのため、特許文献1に記載された自動二輪車の車体フレーム構造のように、メインフレームの後端部が別部品(シートピラー及び板部材)を介して、ピボットパイプに連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−296832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述の特許文献1に記載の車体フレーム構造では、ピボットパイプを架設する懸架プレート(ピボットプレート)におけるピボットパイプの前側が開放された構造になっている。このため、懸架プレートの剛性が低く、従って、車体フレームの剛性(ねじり剛性を含む)を向上させることができない恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、車体フレームの剛性を確実に向上できる自動二輪車の車体フレーム構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヘッドパイプから後下方に延びるメインフレームと、このメインフレームの後部に接合されて下方に延び、後輪を軸支するスイングアームを揺動自在に支持すると共に、エンジンを懸架する左右一対の懸架プレートと、を有する自動二輪車の車体フレーム構造において、一対の前記懸架プレートには、これらの懸架プレートを貫通してピボットパイプが固定されると共に、このピボットパイプの上方に前記エンジンの後部を支持するエンジン支持部が設けられ、更に、一対の前記懸架プレート内には、車両側面視で、前記エンジン支持部の後方を前記メインフレームの下面から前記ピボットパイプまで略垂直に延びる垂直延出部と、この垂直延出部の上端から前記メインフレームに沿って前記懸架プレートの前端縁まで前方へ延びる前方延出部とを有する補強プレートが配設され、この補強プレートの前記垂直延出部が、少なくとも前記メインフレームの下面、前記ピボットパイプの上部外周面及び一対の前記懸架プレートの内側面に接合され、また、前記前方延出部が、少なくとも前記メインフレームの側面及び一対の前記懸架プレートの内側面に接合されて構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、補強プレートの垂直延出部によって一対の懸架プレートを車両幅方向に補強すると共に、前方延出部によって一対の懸架プレートを車両前後方向及び車両幅方向に補強するので、これら一対の懸架プレートの強度を高めることができる。この結果、一対の懸架プレートの剛性を向上させることができ、ひいては車体フレームの剛性を確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る自動二輪車の車体フレーム構造における一実施形態が適用された自動二輪車を示す左側面図。
【図2】図1の車体フレームを示す左側面図。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図。
【図4】図1の車体フレームを前斜め上方から目視して示す斜視図。
【図5】図2の車体フレームを斜め後方から目視して示す斜視図。
【図6】図2の車体フレームを斜め前方から目視して示す斜視図。
【図7】図2の車体フレームにおける左右一対の懸架プレートの左側懸架プレートを外し、エンジンユニットの一部と共に示す左側面図。
【図8】図7の補強プレートを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る自動二輪車の車体フレーム構造における一実施形態が適用された自動二輪車を示す左側面図である。図2は、図1の車体フレームを示す左側面図である。本実施形態において、前後、左右、上下の表現は、自動二輪車乗車時の運転者を基準にしたものである。
【0012】
自動二輪車1の車体フレーム2はアンダーボーン型であり、前頭部に位置するヘッドパイプ3からメインフレーム4が後斜め下方へ延び、このメインフレーム4の後端部付近から左右一対のリアフレーム(シートレール5)が後斜め上方へ延び、このシートレール5を支持するリアフレーム(シートピラー6)がシートレール5の後方に配置されて構成される。更に、メインフレーム4には、シートレール5との連結部付近に懸架ブラケット7が取り付けられると共に、メインフレーム4の後端部に、左右一対の懸架プレート8が接合されて下方へ延出されている。
【0013】
ヘッドパイプ3には前輪9を軸支するフロントフォーク10が、ハンドルバー11やヘッドランプ12、フロントフェンダ13等とともに左右回動自在に枢支される。一方、懸架プレート8に架設された後述のピボットパイプ15には後輪16を軸支するスイングアーム17が上下方向に揺動自在に支持される。このスイングアーム17の後部とシートレール5との間にリヤクッションユニット18が連結されている。
【0014】
左右一対の前記懸架プレート8には、図2及び図3に示すように、ピボットパイプ15が貫通して固定されると共に、このピボットパイプ15の前上方に上側エンジン支持部20、ピボットパイプ15の前下方に下側エンジン支持部21がそれぞれ形成されている。これらのエンジン支持部20及び21にエンジンユニット22(図1)の後部が支持され、前記懸架ブラケット7にエンジンユニット22の前上部が支持されて、エンジンユニット22が車体フレーム2に懸架される。
【0015】
エンジンユニット22は、クランクケース23からシリンダアッセンブリ24(シリンダ25及びシリンダヘッド26)が略水平方向に延設されたエンジン27と、このエンジン27からの回転力を変速する変速機28等が一体化されて構成されたものである。変速機28等からの出力が、チェーンケース29内の図示しないドライブチェーンを経て後輪16に伝達され、この後輪16が駆動される。
【0016】
メインフレーム4とシートレール5との連結部付近の上部には合成樹脂製で上面が開口する有底箱状の収納ボックス30が配置されている。この収納ボックス30の後方に燃料タンク31が、シートレール5間に支持されて設けられている。収納ボックス30はヘルメット等を収容可能な容量を持つ。
【0017】
これらの収納ボックス30と燃料タンク31の上部を覆うように着座シート32が設けられる。この着座シート32の前端部は、収納ボックス30の前上部に設けられたシートヒンジ33に軸支される。着座シート32は、シートヒンジ33を軸に後端が上方に持ち上げられることで開閉され、これにより、収納ボックス30への物品の出し入れや燃料タンク31への給油等が行われる。
【0018】
車体フレーム2の前部は、フロントカバー34及びレッグシールド35で覆われる。また、着座シート32の下方且つ収納ボックス30及び燃料タンク31の左右両側は、左右一対のフレームカバー36によって覆われる。これらのフロントカバー34、レッグシールド35及びフレームカバー36は合成樹脂製である。更に、燃料タンク31の下方に、後輪16を上方から覆うリアフェンダ37が配置されている。このリアフェンダ37も、前記フロントフェンダ13と共に合成樹脂製である。また、フレームカバー36の後端部にテールランプ38が設置されている。
【0019】
ところで、前記メインフレーム4は、図3及び図4に示すように、断面四角形状の角型パイプで形成される。また、前記シートレール5及びシートピラー6も、図4〜図6に示すように、断面四角形状の角型パイプにて形成されている。メインフレーム4の下面4Bに懸架ブラケット7が固着され、メインフレーム4の両側面4C、4Dに左右一対のシートレール5がそれぞれ接合(溶接)されている。
【0020】
また、左右一対のシートピラー6は、それらの下部が内側に曲げられて車両幅方向中央に寄せられ、互いに対向する側面が接触した状態で、図4及び図7に示すように、メインフレーム4の後端部40に接合(溶接)される。このとき、一対のシートピラー6における互いに対向する側面が接触した部分の車両幅方向の幅寸法W1(図5)は、メインフレーム4の幅寸法W2(図3)よりも広く設定されて、メインフレーム4の後端部40の全周が一対のシートピラー6に接合(溶接)可能に構成されている。
【0021】
更に、図7に示すように、これら一対のシートピラー6は、下端が、左右一対の懸架プレート8に架設されたピボットパイプ15の上部外周面15Aに接合(溶接)されている。図2に示すように、このように一対のシートピラー6がメインフレーム4の後端部40に接合され、且つピボットパイプ15に接合されることで、前端部がヘッドパイプ3に接合されたメインフレーム4が、シートピラー6を介してピボットパイプ15に結合されることになり、車体フレーム2の捩り剛性が向上する。これにより、自動二輪車1の操縦安定性が確保される。
【0022】
図2及び図3に示すように、左右一対の前記懸架プレート8は、それらの上端縁部39がメインフレーム4の表面4A、または側面4C、4Dにおける表面4A近傍(本実施形態では上面4A)に接合(溶接)される。更に、これら一対の懸架プレート8は、車両幅方向に漸次拡開して下方に延出される。
【0023】
また、左右一対の懸架プレート8は、図5に示すように、後側部分が車両幅方向中央側へ屈曲されて互いに接合(溶接)される。これら一対の懸架プレート8の互いに接合された後側部分が懸架プレート8の後壁41を構成し、これにより、一対の懸架プレート8が前方を開口した箱形状に構成される。
【0024】
さて、左右一対の懸架プレート8の内側には、図6、図7及び図8に示すように、垂直延出部42と前方延出部43と先端延出部44とが一体化されると共に、エンジンユニット22の後部との干渉を回避するためにクランク形状に形成された補強プレート45が配設されている。
【0025】
この補強プレート45の垂直延出部42は、図7に示す車両側面視で、懸架プレート8における上側エンジン支持部20の後方を、メインフレーム4の下面4Bからピボットパイプ15の上部外周面15Aまで略垂直に延びて構成される。この垂直延出部42は、図3及び図7に示すように、メインフレーム4の下面4B、ピボットパイプ15の上部外周面15A、及び一対の懸架プレート8の内側面8Aに接合(溶接)される。これにより、一対の懸架プレート8は、ピボットパイプ15の上方部分における車両幅方向の強度が、上記垂直延出部42により補強される。
【0026】
補強プレート45の前方延出部43は、図3、図7及び図8に示すように、垂直延出部42の上端の両側部分から、メインフレーム4に沿って懸架プレート8の前端縁46まで前方へ延びて左右一対形成される。この前方延出部43は、内側縁43Aがメインフレーム4の側面4C、4Dにおける下面4B側近傍に、外側縁43Bが懸架プレート8の内側面8Aに、それぞれ接合(溶接)される。これにより、一対の懸架プレート8は、ピボットパイプ15の前上方部分における車両前後方向及び車両幅方向の強度が、上記前方延出部43により補強される。
【0027】
特に、図3に示すように、補強プレート45の前方延出部43とメインフレーム4と懸架プレート8とで形成される横断面は三角形状、または台形状(本実施形態では三角形状)に構成されている。これにより、一対の懸架プレート8におけるピボットパイプ15の前上方部分の車両前後方向及び車両幅方向の強度が更に補強される。
【0028】
更に、補強プレート45の先端延出部44は、図7及び図8に示すように、前方延出部43の先端(前端)から上方へ屈曲して延出される。この先端延出部44は、前述の補強プレート45の前方延出部43とメインフレーム4と懸架プレート8とにより形成される横断面三角形状の開口47(図3)を略閉塞する。これにより、一対の懸架プレート8における前端縁46近傍部分の車両幅方向の強度が、上記先端延出部44により補強される。
【0029】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(4)を奏する。
【0030】
(1)一対の懸架プレート8内に配設された補強プレート45の垂直延出部42が、メインフレーム4の下面4B、ピボットパイプ15の上部外周面15A及び懸架プレート8の内側面8Aに接合され、補強プレート45の前方延出部43がメインフレーム4の側面4C、4D、及び懸架プレート8の内側面8Aに接合されている。
【0031】
このため、垂直延出部42によって、一対の懸架プレート8におけるピボットパイプ15の上方部分を車両幅方向に補強できると共に、前方延出部43によって、一対の懸架プレート8におけるピボットパイプ15の前上方部分を車両前後方向及び車両幅方向に補強できるので、これら一対の補強プレート8の強度を高めることができる。この結果、一対の懸架プレート8の剛性を向上させることができ、ひいては車体フレーム2の剛性を確実に向上させることができる。
【0032】
(2)補強プレート45の前方延出部43とメインフレーム4と懸架プレート8とで横断面が三角形状に構成されたので、一対の懸架プレート8におけるピボットパイプ15の前上方部分の車両前後方向及び車両幅方向の強度を更に補強することができる。この結果、一対の懸架プレート8の剛性を更に向上させることができる。
【0033】
(3)補強プレート45には、前方延出部43の先端(前端)に先端延出部44が上方へ屈曲して延出され、この先端延出部44が、補強プレート45の前方延出部43とメインフレーム4と懸架プレート8とで形成される三角形状の横断面の開口47を略閉塞する。このため、一対のメインフレーム8における前端縁46近傍部分の車両幅方向の強度を補強でき、一対の懸架プレート8の剛性をより一層向上させることができる。
【0034】
(4)ヘッドパイプ3から延びるメインフレーム4が、シートピラー6を介してピボットパイプ15に結合されたので、車体フレーム2のねじり剛性を高めることができ、これにより、自動二輪車1の操縦安定性を確保できる。
【0035】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。例えば、メインフレーム4の後端部40はシートピラー6に直接接合されるものを述べたが、ブラケットなどを介してシートピラー6に結合されてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 自動二輪車
2 車体フレーム
3 ヘッドパイプ
4 メインフレーム
4A 上面
4B 下面
4C、4D 側面
8 懸架プレート
8A 内側面
15 ピボットパイプ
15A 上部外周面
16 後輪
17 スイングアーム
20 上側エンジン支持部
22 エンジンユニット
27 エンジン
39 上端縁部
42 垂直延出部
43 前方延出部
44 先端延出部
45 補強プレート
46 前端縁
47 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドパイプから後下方に延びるメインフレームと、
このメインフレームの後部に接合されて下方に延び、後輪を軸支するスイングアームを揺動自在に支持すると共に、エンジンを懸架する左右一対の懸架プレートと、を有する自動二輪車の車体フレーム構造において、
一対の前記懸架プレートには、これらの懸架プレートを貫通してピボットパイプが固定されると共に、このピボットパイプの上方に前記エンジンの後部を支持するエンジン支持部が設けられ、
更に、一対の前記懸架プレート内には、車両側面視で、前記エンジン支持部の後方を前記メインフレームの下面から前記ピボットパイプまで略垂直に延びる垂直延出部と、この垂直延出部の上端から前記メインフレームに沿って前記懸架プレートの前端縁まで前方へ延びる前方延出部とを有する補強プレートが配設され、
この補強プレートの前記垂直延出部が、少なくとも前記メインフレームの下面、前記ピボットパイプの上部外周面及び一対の前記懸架プレートの内側面に接合され、また、前記前方延出部が、少なくとも前記メインフレームの側面及び一対の前記懸架プレートの内側面に接合されて構成されたことを特徴とする自動二輪車の車体フレーム構造。
【請求項2】
前記懸架プレートは、上端縁部がメインフレームの上面または側面における前記上面近傍に接合されると共に、車両幅方向に拡開して下方に延び、
この懸架プレートと前記メインフレームと補強プレートの前方延出部とで形成される横断面が、三角形状または台形状に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の車体フレーム構造。
【請求項3】
前記補強プレートは、前方延出部の先端に、上方へ屈曲して延出された先端延出部が一体に形成され、この先端延出部が、三角形状または台形状の横断面の開口を略閉塞するよう構成されたことを特徴とする請求項2に記載の自動二輪車の車体フレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91399(P2013−91399A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234257(P2011−234257)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】