説明

自動変速機のサーボ油圧制御装置

【目的】 自動変速機のシフトダウン時のブレーキの掴み替えによる変速ショックを防ぐ。
【構成】 変速時に一方が解放され、他方が係合する関係にあるブレーキB−2,B−3の摩擦係合手段を係合させるサーボ油圧を、入力回転と入力トルクを検出して段階的に制御する調圧手段3を設けた。調圧手段3は、電子制御装置7により制御され、係合側サーボ圧を一定の低圧に維持する低圧待機と、所定の増加率で緩徐に昇圧させる調圧を行い、急激な回転変化とブレーキのタイアップを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動変速機の制御装置に関し、特に自動変速機の変速のために摩擦係合手段を係合解放させるサーボ油圧の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】車両に搭載される自動変速機は、通常複数の遊星歯車機構を備えており、変速に際して、これら遊星歯車機構の変速要素(サンギヤ、キャリヤ、リングギヤ)を摩擦係合手段の係合解放によりつなぎ変えて複数の速度段を達成する構成とされているが、このような変速機において、特定の速度段からより低速の速度段、例えば3速から2速への変速時にそれぞれの摩擦係合手段の摩擦材の掴み替え操作を必要とする。
【0003】従来、上記のような変速操作時には、オリフィスキックダウン弁を用い、該弁のスプールにガバナ圧とスプリング荷重を対向印加させて所定車速以下では係合側のサーボ圧供給を大径オリフィスを介して行い、所定車速以上では小径オリフィスを介して行うようにして、入力回転数が意図する速度段の回転数に同期するポイント付近で係合側の摩擦材を一気に係合させる動作が行われるようにしている(特公昭52−18344号公報参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の技術では、係合側摩擦係合手段へのサーボ圧の供給がスロットル開度や解放側摩擦係合手段のサーボ圧のドレーン状況に関わりなくオリフィスの切換による2段階制御で成されるため、車速やエンジン特性による同期ポイントのずれが大きく、このポイントのずれによるエンジンの吹き上がりや過大なタイアップによる大きな変速ショックを生じる問題点がある。また、摩擦係合手段のピストンストロークのばらつき、油温による作動油の流動性の変化、摩擦材のμ特性のばらつきや経時変化等による係合速度及び解放速度の変化に対する係合ポイントの補正を行うこともできない。また、回転変化中に係合側摩擦係合手段が大きなトルク容量をもつと、解放側摩擦係合要素とのタイアップによる急激な速度変化と変速ショックを生じる問題点もある。
【0005】このような事情に鑑み、本発明は、係合圧を同期ポイント前から入力回転に応じて調圧することにより、係合側摩擦係合手段の係合タイミング及び解放側摩擦係合手段から係合側摩擦係合手段へのトルク伝達容量の移管の適正化を図り、シフトダウン時の変速ショックの発生を抑えることのできるサーボ油圧制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明は、入力軸と出力軸との間に遊星歯車機構を備え、該遊星歯車機構の変速要素をサーボ油圧の制御による摩擦係合要素の係合解放によりつなぎ変えて複数の速度段を達成する自動変速機において、前記速度段中の特定の速度段からそれより低速の速度段への変速時に一方が解放され、他方が係合する関係にあるそれぞれの摩擦係合手段と、該摩擦係合手段を係合解放させるサーボ油圧の給排を選択する切換手段と、前記サーボ油圧を調圧する調圧手段と、該調圧手段を制御する電子制御装置と、入力回転を検出して前記電子制御装置に出力する入力回転検出手段と、入力トルクを検出して前記電子制御装置に出力する入力トルク検出手段とを備え、前記調圧手段は、前記切換手段と前記係合する側の摩擦係合手段との間に介装され、前記入力回転検出手段による入力回転の検出で所定の入力回転に達するまで前記電子制御装置による信号制御でサーボ油圧を所定の値に保ち、その後前記入力トルク検出手段による入力トルクの検出値に基づく前記電子制御装置の信号制御でサーボ油圧を緩徐に昇圧させるべく制御されることを構成とする。
【0007】
【発明の作用及び効果】このような構成を採った本発明に係るサーボ油圧制御装置では、切換手段と係合する側の摩擦係合手段との間に介装された調圧手段が、入力回転検出手段による入力回転の検出で所定の入力回転に達するまで電子制御装置による信号制御で係合側のサーボ油圧を所定の値に保つため、解放側のサーボ油圧の降下が係合側のサーボ油圧の影響を受けることなく円滑に行われ、急激な入力回転変化と両摩擦係合手段のタイアップが防止される。その後、入力トルク検出手段による入力トルクの検出値に基づく電子制御装置の信号制御でサーボ油圧を所定の増加率で緩徐に昇圧させる制御により、両摩擦係合手段間で円滑な伝達トルクの分担と解放側から係合側の摩擦係合手段へのトルク分担の移行が滑らかに行われて、シフトダウン時の変速ショックが低減される。
【0008】
【実施例】以下、図面に沿い、本発明のサーボ油圧制御装置の実施例について説明する。図1は本発明を適用した自動変速機の油圧制御装置におけるサーボ油圧制御関連部の部分回路図、図2はその制御フローを示すフローチャート、図3、図4は自動変速機のギヤトレインの3速及び2速状態のスケルトン図、図5はその変速特性図である。この例では、自動変速機は、図3に示すように単純連結3プラネタリギヤトレインからなる前進4速後進1速の主変速装置Mと、前置式オーバドライブプラネタリギヤODとを組合わせた5速自動変速機とされており、変速時に相互に掴み替え動作される摩擦係合手段は、3速時のみ係合するブレーキB−2と2速時のみ係合するブレーキB−3となる。
【0009】先ず、この例の自動変速機の概略構成を説明すると、図3に示すように、自動変速機は、従来のものと同様にロックアップクラッチ付のトルクコンバータTを備える他、前置式オーバドライブプラネタリギヤODと主変速装置Mとを備え、主変速装置の入力軸Iと出力軸Oとの間に遊星歯車機構Pを備えている。遊星歯車機構Pは、各変速要素(サンギヤ、キャリヤ、リングギヤ)を適宜直結した単純連結の3組のプラネタリギヤP1,P2,P3を備え、各ギヤの変速要素に関連してクラッチC−1,C−2、ブレーキB−1〜B−4及びワンウェイクラッチF−1,F−2が配設され、図示されていないが、摩擦係合手段である各クラッチ及びブレーキは、従来のものと同様、サーボ油圧の制御でそれらの摩擦材を係合解放操作するピストンを持ったサーボ手段を備えている。
【0010】この自動変速機において、前置式オーバドライブプラネタリギヤODの出力軸を兼ねる入力軸Iの回転は、クラッチC−1及びブレーキB−2が係合し、他が解放されている図3に示す状態のときに、プラネタリギヤP2のリングギヤR2を入力要素とし、サンギヤS2を反力要素とし、キャリヤC2を出力要素とする3速回転として出力軸Oに取出される。また、クラッチC−1が係合のままで、ブレーキB−2が係合し、他が解放の図4に示す状態の場合には、プラネタリギヤP2のリングギヤR2を入力要素とし、プラネタリギヤP1のキャリヤC1を反力要素としてプラネタリギヤP2のキャリヤC2及びそれに直結するプラネタリギヤP1のリングギヤR1を出力要素とする2速回転で出力軸Oに取出される。
【0011】図1に示すように、この自動変速機の油圧制御装置において、変速時に一方が解放され、他方が係合する関係にあるブレーキB−2及びブレーキB−3それぞれの摩擦材を係合解放させるサーボ圧を調圧する関連部分は、2−3シフト弁1、B−3コントロール弁2、SLUリニアソレノイド弁3、B−2アキュムレータ4、B−3アキュムレータ5及びそれらの背圧を制御するアキュムレータ背圧制御装置6から成り、その他にSLUリニアソレノイド弁3に入力軸回転に応じた制御信号を出力する電子制御装置(ECU)7、それが制御信号を出力するための入力回転を検出する入・出力回転数検出手段8及び入力トルクの検出する入力トルク検出手段9を備えている。
【0012】さらに、各部の構成について詳述すると、調圧手段を構成するB−3コントロール弁2は、2−3シフト弁1からブレーキB−3のサーボ手段に至る給排油路L1,L2中にチェックボール付オリフィス14と並行して介装されており、その弁孔2aには、大径オリフィス2bを介して給排油路L1に連通する給排ポート21と、給排油路L2に連通する給排ポート22と、同じく給排油路に連通する供給圧入力ポート23と、入・出力回転数検出装置8で検出された信号によりECU7からの制御信号で制御されるSLUリニアソレノド弁3により調圧された信号油圧を供給される入力回転信号ポート24が設けられている。なお、符号25は3速信号圧の入力ポート、26はドレーン連絡ポートを示す。
【0013】この弁孔2a内に挿入されたスプール2cには、ポート22のポート21への連通とポート26への連通を制御する一対のランド27,28と、ランド27の端部から延びる小径のランド29を備えており、ランド28の一端側はスプリング2dを介して受圧ピストン2eに当接している。そして、ランド27の外端はポート23からの供給圧の受圧面を構成し、受圧ピストン2eの外端面は、入力回転信号ポート24からの信号圧の受圧面を構成し、内端面は入力ポート25からの信号圧の受圧面を構成している。
【0014】B−2アキュムレータ4は、B−2サーボ手段に通じる油路L3にオリフィス4aを介して接続されており、B−3サーボ手段用のB−3アキュムレータ5と同様、アキュムレータ背圧制御装置6の背圧制御により排圧中にも供給油路L3のドレーン圧の調圧が可能とされている。なお、図において、符号10はB−2サーボ手段への油圧供給をその初期において迅速化するファーストフィル手段を構成するB−2オリフィスコントール弁を示し、11は2速から3速への変速に関与し、B−2サーボ手段からの排圧をSLUリニアソレノイド弁3からの信号で調圧する2−3タイミング弁を示すが、これらについては、本発明の主題とするB−3サーボ油圧の制御には直接関与しないので、詳細な構成の説明は省略する。
【0015】上記のように構成されたサーボ油圧制御装置において、3速の状態では、図示しないマニュアル弁を経たドライブレンジ圧Dが1−2シフト弁12、2−3シフト弁1、給排油路L3を経てB−2サーボ手段に供給されて、ブレーキB−2は係合状態にある。ここで、車両の走行条件に応じてECU7の制御信号で図示しない変速用のソレノイド弁が動作し、2−3シフト弁1が2速位置(その弁内油路を実線で示す)に切換えられると、B−2サーボ手段の油圧は、給排油路L3から2−3シフト弁1を経てドレーンされ始める。このドレーン圧の降下は、この実施例では、図5の区間dで示すように、アキュムレータ背圧制御装置6による背圧制御で入力回転数が所定の割合になるよう制御されるが、この制御は必須のものではない。
【0016】一方、ドライブレンジ圧Dは、2−3シフト弁1から給排油路L1,L2を経てB−3サーボ手段に供給される。このB−3サーボ手段への圧力供給は、図2に示すフローチャートの手順を辿る。以下、この手順を図2に従い他の図を参照しつつ説明すると、ステップS1では、図示しない変速用ソレノイド弁による制御で、2−3シフト弁1が図1に実線で示す連通状態(B−2サーボ手段をドレーン回路に連通し、B−3サーボ手段を供給回路に連通する)となり、このときステップS2に示すように、入力回転数が目標とする回転数変化となるよう前記のとおりB−2アキュムレータ4の背圧がフィードバック制御される。そして、この制御は、セカンド同期が達成されるまで(図5の区間d)持続される。
【0017】この回転数変化中、セカンド同期が達成されるまでの間、図5に示す区間aでは、B−3コントロール弁2のスプリングによりスプール2cが図1の上半部位置を取るため、ポート21がポート22に連通し、大オリフィス2bを通る急速な油圧供給によりB−3サーボ手段のピストンストロークが生じ、ピストンは直ちに摩擦材を係合させ得る位置まで変位するファーストフィル動作が行われる。
【0018】ステップS3では、B−3コントロール弁2のポート24に供給されるSLUリニアソレノイド弁3による信号圧は低圧に制御され、B−3ブレーキが僅かにトルク伝達をするようにB−3サーボ手段への供給圧(以下、B−3圧という)を低圧に維持した待機状態(図5の区間b)にされる。これは、上記回転数変化に影響を与えないようにする処置であり、これを行わないと、B−3圧の上昇により急激な回転数変化と両ブレーキのタイアップが生じる。この区間でのB−3圧の過剰分は、ポート23からのフィードバック圧の印加でポート26が解放し、B−2オリフィスコントロール弁10を介してドレーンされる。この動作により低圧待機状態が達成される。
【0019】次のステップS4では、ECU7内で入力回転数の変化率からセカンド同期までの時間tの算出が行われ、この値が設定値t0 と比較される。この比較の結果tがt0 を越えない間はステップS5からステップS2にリターンされ、ステップS2〜S4のフローが繰返される。
【0020】時間tの値が設定値t0 以上となると、今度は、ステップS6で、入力トルク検出手段9による入力トルクの検出値に応じた増加率でB−2圧を上昇させる操作(図5の区間d)が行われる。この緩徐な昇圧で両ブレーキB−2,B−3は協働してトルクを分担する状態となり、トルク分担率の変移による滑らかな同期点への移行が可能となる。この状態は、次のステップS7でセカンドギヤに同期したことが確認されるまで継続される。
【0021】やがて同期が確認されると、今度はステップS8でSLUリニアソレノイド弁が高出力とされ、B−3コントロール弁2のポート21が完全にポート22と連通した解放状態となり、B−3ブレーキの急係合が行われる一方、ソレノイド弁13からの信号圧の供給によりB−2オリフィスコントロール弁10が開き、B−2圧の急速ドレーンが行われる(図5の区間e)。上記の一連のステップにより3−2変速が終了する。このようにして、上記実施例の装置では、セカンドギヤに同期するまで段階的に係合圧が調圧される。
【0022】以上、本発明を5速自動変速機に適用した一実施例に基づき詳説したが、本発明の適用対象はこれに限るものではなく、また、各部の具体的構成についても上記のものに限らず、例えば、B−3コントロール弁をリニアソレノイド作動の調圧弁として電気信号で係合圧を直接制御する構成を採ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のサーボ油圧制御装置を適用した自動変速機の油圧制御装置の部分回路図である。
【図2】上記油圧制御装置のサーボ圧制御のフローチャートである。
【図3】上記自動変速機のギヤトレインの3速状態を示すスケルトン図である。
【図4】上記自動変速機のギヤトレインの2速状態を示すスケルトン図である。
【図5】上記自動変速機の3−2速変速時の変速特性図である。
【符号の説明】
1 2−3シフト弁
2 B−3コントロール
3 SLUリニアソレノド弁
4 B−2アキュムレータ
5 B−3アキュムレータ
6 アキュムレータ背圧制御装置
7 電子制御装置(ECU)
8 入・出力回転数検出手段(入力回転検出手段)
9 入力トルク検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 入力軸と出力軸との間に遊星歯車機構を備え、該遊星歯車機構の変速要素をサーボ油圧の制御による摩擦係合要素の係合解放によりつなぎ変えて複数の速度段を達成する自動変速機において、前記速度段中の特定の速度段からそれより低速の速度段への変速時に一方が解放され、他方が係合する関係にあるそれぞれの摩擦係合手段と、該摩擦係合手段を係合解放させるサーボ油圧の給排を選択する切換手段と、前記サーボ油圧を調圧する調圧手段と、該調圧手段を制御する電子制御装置と、入力回転を検出して前記電子制御装置に出力する入力回転検出手段と、入力トルクを検出して前記電子制御装置に出力する入力トルク検出手段とを備え、前記調圧手段は、前記切換手段と前記係合する側の摩擦係合手段との間に介装され、前記入力回転検出手段による入力回転の検出で所定の入力回転に達するまで前記電子制御装置による信号制御でサーボ油圧を所定の値に保ち、その後前記入力トルク検出手段による入力トルクの検出値に基づく前記電子制御装置の信号制御でサーボ油圧を緩徐に昇圧させるべく制御されることを特徴とする自動変速機のサーボ油圧制御装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−157167
【公開日】平成5年(1993)6月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−344123
【出願日】平成3年(1991)12月3日
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)