説明

自動車用シールリング、産業ガス圧縮機用シールリング及び摺動部品

【課題】高い圧力に耐えられる高い機械強度(例えば、曲げ強度(30MPa以上))と、シール機能を満足させる柔軟性(例えば、曲げ弾性率が1000MPa以上、2000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が4%以上、または、曲げ弾性率が2000MPa以上、4000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が2%以上)を持ち合わせた樹脂組成物からなる、自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品を提供すること。
【解決手段】接着性フルオロカーボン系樹脂(A)、または、前記樹脂(A)と前記樹脂(A)とは異なるフルオロカーボン系樹脂(B)との容積比(A/B)が5/95〜99/1である樹脂混合物を、第2成分として、熱可塑性ポリイミド(C)1〜99容積%を含む樹脂組成物からなる、自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用として使用されるシールリングや、産業ガス圧縮機用として使用されるシールリングや摺動部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールリングや摺動部品は、自動車などの輸送機、事務機器、ガス圧縮機、その他の産業用機械などにおいて、液体や気体を封止する必要がある部位や摺動する部位に使用されている。例えば、産業ガス圧縮機用や自動車用の各種ピストンなどにおいて使用されるシールリングは、摺動部品でもあることから、シールリング自体の低摩耗性、シールリングの相手部材に対する低攻撃性が必要とされる。さらに、このシールリングには、ガス漏れの少ない十分なシール性も要求されるため、適度の柔軟性を有することが必要となる。
【0003】
しかし、例えば産業ガス圧縮機では、近年の圧縮ガスの高圧化・機械の高性能化により、これに使用するシールリングには、高い機械強度も求められるようになってきている。そのため、現在の充填材入りポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂材料では機械強度(例えば、引張強度や曲げ強度)に限界があり、対応出来ない場合が生じている。
【0004】
そこで、このような高圧化の要請に対応するため、熱可塑性ポリイミド(TPI)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などの機械強度の高いスーパーエンジニアリングプラスチックに(以下、スーパーエンプラと称する場合がある。)カーボン繊維やPTFEなどを充填した材料を使用したピストンリングなどが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、このような材料を用いても、得られるシールリングは柔軟性に乏しく、シール性能が安定せず、気体などの漏れが多く発生し、必要な特性が得られていない。
【0005】
これらに対応する為には、高い圧力に耐えられる高い機械強度(例えば、曲げ強度(30MPa以上))と、シール機能を満足させる柔軟性(例えば、曲げ弾性率が1000MPa以上、2000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が4%以上、または、曲げ弾性率が2000MPa以上、4000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が2%以上)を持ち合わせた材料が必要になると言われている。
【0006】
ところで、高強度と柔軟性を両立させる手段として、TPIなどの機械強度の高いスーパーエンプラに、より柔軟性の高いプラスチック材料を混ぜ合わせアロイ化する方法があるが、必ずしも、上記の適度な機械強度と柔軟性を有する材料が得られていないのが現状である。例えば、前記の柔軟性の高いプラスチック材料として、摺動部材の材料として用いられるフッ素樹脂を採用したとしても、両者に相互作用はなく、単に混ぜ合わせただけで(いわゆるアロイとは異なる)、通常、脆いだけの材料となってしまい、実用には向かない。また、樹脂種や添加量によっては、機械強度が大きく低下する場合もある。
【0007】
また、その他の方法として、特定構造のピストンに、PTFE、PI、PEEKなどの低摩擦材で構成される外周面部分を有する機能部分を設け、前記外周面部分に対抗するシリンダー内周面部分との片隙間が0.03mm以下になるように設定したピストンシール構造が提案されている(特許文献2)。しかし、このピストンシール構造では、前記の高圧化に十分対応できないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−192242号公報
【特許文献2】特開2003−3960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の問題点に鑑みて、本発明の目的とするところは、高い圧力に耐えられる高い機械強度(例えば、曲げ強度(30MPa以上))と、シール機能を満足させる柔軟性(例えば、曲げ弾性率が1000MPa以上、2000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が4%以上、または、曲げ弾性率が2000MPa以上、4000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が2%以上)を持ち合わせた樹脂組成物からなる、自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題解決のため、鋭意検討した結果、接着性フルオロカーボン系樹脂または、接着性フルオロカーボン系樹脂と該接着性フルオロカーボン系樹脂以外のフルオロカーボン系樹脂との特定の樹脂混合物、および、熱可塑性ポリイミドを用いることで、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
本発明は、
第1成分として、
接着性フルオロカーボン系樹脂(A)、または、
前記樹脂(A)と前記樹脂(A)とは異なるフルオロカーボン系樹脂(B)との容積比(A/B)が5/95〜99/1である樹脂混合物を、
第2成分として、熱可塑性ポリイミド(C)1〜99容積%を含む樹脂組成物からなる、自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品。
【0012】
本発明では、前記樹脂組成物が、充填剤を50容積%以下含んでいても良い。
【0013】
また本発明では、前記樹脂組成物において、前記樹脂(A)または前記樹脂混合物、前記熱可塑性ポリイミド(C)および前記充填剤の各容積比率の合計が100容積%であるのが好ましい。この場合、前記充填剤の容積比率は、0であってもよい。
【0014】
本発明では、前記接着性フルオロカーボン系樹脂(A)が、酸無水物基、カルボキシ基、酸ハライド基およびカーボネート基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有するものであっても良い。
【0015】
本発明では、前記接着性フルオロカーボン系樹脂(A)が、テトラフルオロエチレンに基づく第一繰返し単位、ジカルボン酸無水物基を有し、且つ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマーに基づく第二繰返し単位、および、その他のモノマーに基づく第三繰返し単位を含有し、第一繰返し単位、第二繰返し単位および第三繰返し単位の合計モル量に対して、第一繰返し単位が50〜99.89モル%、第二繰返し単位が0.01〜5モル%、第三繰返し単位が0.1〜49.99モル%である含フッ素共重合体であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い圧力に耐えられる高い機械強度(例えば、曲げ強度(30MPa以上))と、シール機能を満足させる柔軟性(例えば、曲げ弾性率が1000MPa以上、2000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が4%以上、または、曲げ弾性率が2000MPa以上、4000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が2%以上)を持ち合わせた樹脂組成物からなる自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品は、第1成分として、
接着性フルオロカーボン系樹脂(A)、または、
前記樹脂(A)と前記樹脂(A)とは異なるフルオロカーボン系樹脂(B)との容積比(A/B)が5/95〜99/1である樹脂混合物を、
第2成分として、熱可塑性ポリイミド(C)1〜99容積%を含む樹脂組成物からなる。即ち、当該樹脂組成物は、前記樹脂(A)と熱可塑性ポリイミド(C)とを必須成分として含むもの、または、前記樹脂混合物と熱可塑性ポリイミド(C)とを必須成分として含むものである。
【0018】
このように、接着性フルオロカーボン系樹脂(A)または前記樹脂混合物と、熱可塑性ポリイミド(C)を用いることで、適度の機械強度と柔軟性を有する樹脂組成物が得られ、該樹脂組成物は所定用途のシールリング又は摺動部品の構成材料として好適である。
【0019】
前記接着性フルオロカーボン系樹脂(A)(以下、接着性フッ素樹脂と称する場合がある。)としては、特に限定は無いが、後述する熱可塑性ポリイミド(C)と相容性があるものであるのが好ましい。ここで「接着性」には、熱可塑性ポリイミド(C)をはじめとする、樹脂(A)以外の他の樹脂、その他の材料との相容性ないし親和性があることを含む。
【0020】
このような接着性フルオロカーボン系樹脂は、適度の柔軟性、機械強度を有するとともに、フルオロカーボン系樹脂の有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐候性、ガスバリア性等の特性を有しつつ、表面の自由エネルギーが適度に高くなっている。このため、他の材料と組合せた場合には、アロイ化した樹脂組成物を構成することも可能となる。従って、後述する熱可塑性ポリイミドと接着性フルオロカーボン系樹脂を混ぜ合わせて得られるアロイ化された樹脂組成物は、熱可塑性ポリイミドの有する耐熱性や機械的強度などの優れた特性と、フルオロカーボン系樹脂の前記の優れた特性とを併せ持つ樹脂組成物が得られる。
【0021】
前記の接着性フッ素樹脂を構成するベースフッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく繰り返し単位を含むフッ素樹脂を好ましく用いることができる。具体的に、このベースフッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)−TFE共重合体等からなる群より選ばれる1つを単独で、又は2つ以上をブレンドして好ましく用いることができ、特に、耐熱性が高く、溶融成形が可能なため、PFAを好ましく用いることができる。
【0022】
前記の接着性フッ素樹脂としては、例えば、酸無水物基、カルボキシル基、酸ハライド基およびカーボネート基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有するフッ素樹脂などが挙げられる。これにより、例えば後述する熱可塑性ポリイミドとの相容性をより向上することができる。従って、熱可塑性ポリイミドなどの樹脂とアロイ化した場合は、相分離が生じにくくなり、全体として柔軟性を保持しつつ、機械強度を更に向上させることができる。
【0023】
また、接着性フッ素樹脂に含有される酸無水物基としては、不飽和カルボン酸無水物基を好ましく用いることができ、特に、ジカルボン酸無水物基を好ましく用いることができ、中でも環状炭化水素と結合したジカルボン酸無水物基を好ましく用いることができる。
【0024】
また、前記の酸無水物基としては、重合性不飽和基及びジカルボン酸無水物基を環に有する環状炭化水素モノマー(以下、「環状モノマー」という)に基づく繰り返し単位を好ましく用いることができる。この場合、接着性フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレンに基づく第一繰り返し単位、ジカルボン酸無水物基を有し且つ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマーに基づく第二繰り返し単位、及びテトラフルオロエチレン及び当該環状炭化水素モノマーを除くその他のモノマー(以下、「追加モノマー」という)に基づく第三繰り返し単位を有するものを好ましく用いることができる。
【0025】
また、前記の接着性フッ素樹脂としては、前記の、第一繰り返し単位、第二繰り返し単位、及び第三繰り返し単位の合計モル量に対して、当該第一繰り返し単位が50〜99.89モル%であり、当該第二繰り返し単位が0.01〜5モル%であり、当該第三繰り返し単位が0.1〜49.99モル%であるものを好ましく用いることができる。第一繰り返し単位、第二繰り返し単位、及び第三繰り返し単位のモル%が、それぞれ上記の範囲内にある場合には、接着性フッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、接着性、成形性、機械物性に優れたものとなる。さらに、この接着性フッ素樹脂としては、第一繰り返し単位が60〜99.45モル%であり、第二繰り返し単位が0.05〜3モル%であり、第三繰り返し単位が0.5〜45モル%であるものがより好ましく、当該第一繰り返し単位が80〜98.9モル%であり、当該第二繰り返し単位が0.1〜1モル%であり、当該第三繰り返し単位が1〜40モル%であるものが最も好ましい。
【0026】
前記の接着性フッ素樹脂を構成する環状モノマーは、1つ以上の5員環又は6員環からなる環状炭化水素と、ジカルボン酸無水物基と、環内重合性不飽和基と、を有する重合性化合物が好ましい。この環状モノマーとしては、1つ以上の有橋多環炭化水素を有する環状炭化水素を有するものを好ましく用いることができ、特に、1つの有橋多環炭化水素からなる環状炭化水素、2つ以上の有橋多環炭化水素が縮合した環状炭化水素、又は有橋多環炭化水素と他の環状炭化水素とが縮合した環状炭化水素を有するものを好ましく用いることができる。また、この環状モノマーとしては、炭化水素環を構成する炭素原子間に存在する重合性不飽和基を1つ以上含む環内重合性不飽和基を有するものを好ましく用いることができる。また、この環状モノマーとしては、炭化水素環を構成する2つの炭素原子に結合し、又は環外の2つの炭素原子に結合しているジカルボン酸無水物基(−CO−O−CO−)を有するものを好ましく用いることができる。
【0027】
具体的に、前記の環状モノマーとしては、例えば、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」という)や、下式(1)〜(3)で表される酸無水物等を好ましく用いることができ、特に、NAHを好ましく用いることができる。なお、上述の環状モノマーを用いることにより、特殊な重合方法を用いることなく、当該環状モノマーからなる繰り返し単位を含む接着性フッ素樹脂を容易に製造することができる。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
接着性フッ素樹脂を構成する前記の追加モノマーとしては、例えば、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」という)、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」という)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」という)、ペルフルオロアルキルビニルエーテルであるCF2=CFORf1(ここで、Rf1は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキル基)、CF2=CFORf2SO21(Rf2は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基、X1はハロゲン原子又は水酸基)、CF2=CFORf2CO22(ここで、Rf2は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基、X2は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基)、CF2=CF(CF2pOCF=CF2(ここで、pは1又は2)、CH2=CX3(CF2q4(ここで、X3及びX4は、互いに独立に水素原子又はフッ素原子、qは2〜10の整数)、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、エチレン、プロピレン、イソブテン等の炭素数2〜4のオレフィンからなる群より選ばれる1つを単独で、又は2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
具体的に、前記の追加モノマーとしては、例えば、VdF、HFP、CTFE、CF2=CFORf1、CH2=CX3(CF2q4、及びエチレンからなる群より選ばれる1つ以上を含むものを用いることができ、好ましくは、HFP、CTFE、CF2=CFORf1、エチレン及びCH2=CX3(CF2q4からなる群より選ばれる1つ以上を含むものを用いることができ、特に好ましくは、HFP、CTFE及びCF2=CFORf1である。そして、追加モノマーとしては、最も好ましくは、CF2=CFORf1である。この場合、Rf1としては、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数2〜4のペルフルオロアルキル基がより好ましく、ペルフルオロプロピル基が最も好ましい。
【0033】
また、接着性フッ素樹脂としては、その融点が、150〜320℃の範囲内にあるものを好ましく用いることができ、特に、200〜310℃の範囲内にあるものを好ましく用いることができる。融点この範囲内にある接着性フッ素樹脂は、特にポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶性ポリマー(LCP)、セミ芳香族系ポリアミドのような耐熱性が150℃以上あるスーパーエンジニアリングプラスチックとのポリマーアロイを高温下に溶融混練する際に適したものであり、溶融成形性に優れたものである。なお、接着性フッ素樹脂の融点は、当該接着性フッ素樹脂に含まれる各繰り返し単位の含有比率によって適宜調節することができる。
【0034】
また、接着性フッ素樹脂として、TFEに基づく第一繰り返し単位が50〜99.89モル%であり、第二繰り返し単位が0.01〜5モル%であり、CTFEに基づく第三繰り返し単位が0.1〜49.99モル%であるフッ素樹脂を用いることも可能である。
【0035】
前記の接着性フッ素樹脂の製造方法は特に制限はなく、ラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合法が用いられる。重合方法としては、塊状重合、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合、水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合、水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合が挙げられ、特に溶液重合が好ましい。
【0036】
ラジカル重合開始剤としては、半減期が10時間である温度が0℃〜100℃であるラジカル重合開始剤が好ましい。より好ましくは20〜90℃である。その具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカ−ボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル、(Z(CF2rCOO)2(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、rは1〜10の整数である。)で表される化合物等の含フッ素ジアシルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0037】
本発明において、含フッ素共重合体の溶融流れ速度(MFR)を制御するために、連鎖移動剤を使用することも好ましい。連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボンが挙げられる。含フッ素共重合体の高分子末端に接着性官能基を導入するための連鎖移動剤としては、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0038】
本発明において重合条件は特に限定されず、重合温度は0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。重合圧力は0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。重合時間は1〜30時間が好ましい。
【0039】
上記のような製造方法で得られた接着性フッ素樹脂は、定法に従って、ペレット状、粉体状、その他の形態として得ることができる。
【0040】
本発明において用いる、前記のフルオロカーボン系樹脂(B)としては、前記の接着性フルオロカーボン系樹脂(A)以外のフルオロカーボン系樹脂であれば、特に限定はない。公知のフルオロカーボン系樹脂、例えば、PFA、FEP、ETFE、CTFE−TFE共重合体等からなる群より選ばれる1つを単独で、又は2つ以上をブレンドしたものを、用いることができる。
【0041】
前記樹脂混合物は、前記樹脂(A)と、前記樹脂(A)とは異なるフルオロカーボン系樹脂(B)との容積比(A/B)が5/95〜99/1である。また、容積比(A/B)の下限としては、より好ましくは10/90であり、さらに好ましくは50/50である。これにより、適度の柔軟性と機械強度が得られるとともに、後述する熱可塑性ポリイミド(C)との相容性が得られる。容積比(A/B)が5/95より小さいと、適度の柔軟性などや所望の相容性が得られない傾向にある。
【0042】
尚、樹脂混合物の容積比は、各成分の質量比と比重から算出される。
【0043】
前記樹脂混合物の製造方法としては、特に限定はなく、一般的な樹脂の混合に用いられる方法、例えば、2軸混練、粉体のドライブレンドなどを採用することができる。
【0044】
前記熱可塑性ポリイミド(C)としては、特に限定はなく、公知のものや、市販のものを用いることができる。市販のものとしては、例えば、三井化学社製のオーラムPD−500などが挙げられる。
【0045】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリイミド(C)を1〜99容積%含む。尚、より柔軟性を保持する観点からは、その含有率の上限値としては90容積%が好ましく、80容積%がより好ましい。また、機械的強度を向上する観点からは、その含有率の下限値としては20容積%がより好ましく、40容積%がさらに好ましく、60容積%が最も好ましい。
【0046】
本発明では、前記樹脂組成物が、充填剤を50容積%以下含んでも良い。これにより、柔軟性、機械的強度をより好適なものにすることが可能となる。このような充填剤としては、特に限定はなく、一般的に使用される樹脂の充填剤を用いることができる。例えば、炭素繊維、ガラス繊維、グラファイト繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、アラミド繊維などの合成繊維、各種のウィスカ、グラファイト、二硫化モリブデンなどが挙げられる。
【0047】
また、本発明では、前記樹脂組成物に、本発明の効果を妨げない範囲で、上記の充填剤以外の添加剤を用いても良い。このような添加剤としては、離型剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤、染料・顔料などの着色剤、帯電防止剤などの一種以上のものが挙げられる。
【0048】
本発明では、前記樹脂組成物に前記添加剤などが適宜含まれていても良いが、前記樹脂組成物において、前記樹脂(A)または前記樹脂混合物、前記熱可塑性ポリイミド(C)および前記の充填剤の各容積比率の合計が100容積%であるように構成しても良い。即ち、前記樹脂組成物中に、必須成分として、前記樹脂(A)または前記樹脂混合物、及び前記熱可塑性ポリイミド(C)を含み、任意成分である前記充填剤を含み(当該充填剤の容積比率は、0の場合がある。)、他の成分を含まない構成としても良い。このように構成することで、前記樹脂(A)の有する適度の柔軟性、低摩擦性を失うことなく、耐摩耗性を向上させたり、機械強度を向上させたりでき、例えば、自動車用や産業ガス圧縮機用のシールリングや摺動部品としてより好ましい態様とすることができる。
【0049】
本発明に用いる前記樹脂組成物の製造方法としては、前記樹脂(A)または前記樹脂混合物と、前記熱可塑性ポリイミド(C)や前記充填剤とを混合する場合には、これらを均一に混合可能なものであれば、特に限定はなく、一般的な樹脂の混合に用いられる方法、例えば、2軸混練、粉体のドライブレンドなどを採用することができる。また、樹脂組成物の最終形態としては、定法に従って、ペレット、ストランド、粉体、ペーストなど、樹脂の一般的な形態とすることができる。
【0050】
また、本発明に係るシールリングや摺動部品は、上記の樹脂組成物を用いて、射出成形、トランスファー成形、圧縮成形(ホットモールディング法、フリーベーキング法など)、その他の一般的な成形方法により、成形して得ることができる。
尚、本発明では、「シールリング」とは、自動車(例えばカーエアコンのコンプレサーなど)や産業ガス圧縮機に用いられるピストンリングなどの気体、液体、固体、粉体などを封止する部品を意味し、「摺動部品」とは、産業ガス圧縮機のピストンリングの近傍で、ピストンやピストンロッドなどの荷重を受けつつ低摩擦で移動(摺動)する部品を意味する。また、シールリングが摺動部品として使用される場合、摺動部品がシールリングとして使用される場合も本発明の範疇である。
【0051】
上記のようにして成形されたシールリングや摺動部品は、高い機械強度と適度の柔軟性を有する。即ち、機械強度の指標として、曲げ強度が30MPa以上、柔軟性の指標として、曲げ弾性率が1000MPa以上、2000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が4%以上、または、曲げ弾性率が2000MPa以上、4000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が2%以上である。
【0052】
このように高い機械強度と適度の柔軟性を有することから、本発明の自動車用シールリングや、産業ガス圧縮機用のシールリングや摺動部品は、気体及び液体などの媒体を封止する部品や摺動する部位に用いる部品として好適に使用することが可能であり、摺動部分のシールリングとして、より好適である。
本発明に係るシールリングの具体例としては、ピストンリング、ロッドパッキン、グランドパッキンなどが挙げられ、また、摺動部品の具体例としては、ライダリング、軸受などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
本発明では、より気密性が要求される産業ガス圧縮機用の摺動部品としての機能も有するシールリングとして特に好適である。
【実施例】
【0053】
(製造例)接着性フルオロカーボン系樹脂(A)の製造
酸無水物基を有するモノマーとしてNAH(無水ハイミックス酸、日立化成工業株式会社製)を、追加モノマーとしてCF2=CFO(CF23F(ペルフルオロプロピルビニルエーテル、旭硝子株式会社製)(以下、PPVEという)を用いて、接着性フルオロカーボン系樹脂(A)(接着性フッ素樹脂)を製造した。
【0054】
まず、369kgの1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(AK225cb、旭硝子社製)(以下、「AK225cb」という)と、30kgのPPVEと、を予め脱気された、内容積が430Lの撹拌機付き重合槽に仕込んだ。次いで、この重合槽内を加熟して50℃に昇温し、さらに50kgのTFEを仕込んだ後、当該重合槽内の圧力を0.89MPa/Gまで昇圧した。
【0055】
さらに、重合開始剤溶液として、(ペルフルオロブチリル)ペルオキシドを0.36質量%の濃度でAK225cbに溶解した溶液を調製し、重合槽中に当該溶液の3Lを1分間に6.25mLの速度にて連続的に添加しながら重合を行った。また、重合反応中における重合槽内の圧力が0.89MPa/Gを保持するようにTFEを連続的に仕込んだ。また、NAHを0.3質量%の濃度でAK225cbに溶解した溶液を、重合中に仕込むTFEこのモル数に対して0.1モル%に相当する量ずつ連続的に仕込んだ。
【0056】
重合開始8時間後、32kgのTFEを仕込んだ時点で、重合槽内の温度を室温まで降温するとともに、圧力を常圧までパージした。得られたスラリをAK225cbと固液分離した後、150℃で15時間乾燥することにより、33kgの接着性フッ素樹脂を得た。また、得られた接着性フッ素樹脂の比重は2.15であった。
【0057】
溶融NMR分析及び赤外吸収スペクトル分析の結果から、この接着性フッ素樹脂(m−PFAと略称する場合がある。)の共重合組成は、TFEに基づく繰り返し単位(第一繰り返し単位)/NAHに基づく繰り近し単位(第二繰り返し単位)/PPVEに基づく繰り返し単位(第三繰り返し単位)=97.9/0.1/2.0(モル%)であった。また、この接着性フッ素樹脂(m−PFA)の融点は300℃であり、溶融流れ速度(Melt Flow Rate:MFR)は0.39mm3/秒であった。
【0058】
(評価)
後述する実施例および比較例において作製した各評価用サンプルを用いて、平均分散粒子径測定および物性測定(曲げ試験)を行った。評価結果は、表3および表6に示す。
【0059】
<平均分散粒子径の測定>
各分散粒子径測定用サンプルを、液体窒素に浸漬して冷凍したサンプルを冷凍割断し、断面をSEM(日立ハイテクノロジーズ社製、S−3400N)にて観察して、ドメインの粒子径を、SEM付属の測長機能を用いて測定した。平均分散粒子径は樹脂組成物に含まれる各成分の相容性を判断する指針となるものである。平均分散粒子径が、m−PFAを含まない場合に比べて小さくなっており、さらにそのサイズが小さくなっているほど、相容性が良好と判断することができる。
【0060】
<曲げ試験>
各物性測定用の評価サンプルを用いて、JIS K7203に準拠して曲げ試験を行い、曲げ弾性率、曲げ最大強度、曲げ破断歪を測定した。
【0061】
<シールリング又は摺動部品としての適合性>
上記の評価のうち、曲げ試験の結果をもとに、シールリング又は摺動部品としての適合性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。尚、高い機械強度の指標である曲げ強度としては、曲げ最大強度を採用した。
下記(i)および、(ii)または(iii)を満たすものを○とし、(i)および、(ii)または(iii)のいずれかを満たさないものを×とした。
(i)曲げ最大強度が30MPa以上である。
(ii)曲げ弾性率が1000MPa以上、2000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が4%以上である。
(iii)曲げ弾性率が2000MPa以上、4000MPa未満、かつ、曲げ破断歪が2%以上である。
【0062】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
接着性フルオロカーボン系樹脂(A)として、製造例で作製したm−PFA、フルオロカーボン系樹脂(B)として、旭硝子株式会社製PFA(製品名「Fluon(登録商標)PFA P63」、比重2.15)、熱可塑性ポリイミド(C)として、三井化学株式会社製TPI(製品名「AURUM(登録商標) PD−500」、比重1.33)、を用い、表1に示す容積基準の組成(表2には、質量基準の組成を示した)の樹脂組成物を、定法に従って、2軸混練押出機(テクノベル社製、KZW15TW−45MG−NH)により調製し、ペレットとして得た。得られた樹脂組成物を用い、定法に従って圧縮成形により、前記の平均分散粒子径測定用の評価用サンプル(厚さ1mmシート)を成形した。また、定法に従ってトランスファー成形により、前記の物性測定用の評価サンプル(外径φ60mm×内径φ30mm×長さ100mmの略円筒形)を成形した。
【0063】
(実施例4、5)
表1に示す容積基準の組成(表2には、質量基準の組成を示した)の樹脂組成物を、実施例1と同様にして調製し、定法に従って圧縮成形により、物性測定用評価サンプル(外径φ60mm×内径φ30mm×長さ100mmの略円筒形)を成形した。
【0064】
(比較例4)
前記の三井化学株式会社製TPIを用いて、定法に従ってホットモールディング法にて圧縮成形して、後述する物性測定用評価サンプル(外径φ60mm×内径φ30mm×長さ100mmの略円筒形)を成形した。
【0065】
(比較例5)
PTFEとして、旭硝子株式会社製PTFE(製品名「Fluon(登録商標)PTFE G165」、比重2.17)を使用して、定法に従ってフリーベーキング法にて圧縮成形して、後述する物性測定用評価サンプル(外径φ60mm×内径φ30mm×長さ100mmの略円筒形)を成形した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
(実施例6〜8、比較例6)
表4に示す容積基準の組成(表5には、質量基準の組成を示した)となるように各成分の粉末を、定法に従って、ミキサーにより撹拌混合した。得られた混合物をホットモールディング法にて圧縮成形して、表4(表5)に示す組成の樹脂組成物からなる物性測定用評価サンプル(外径φ60mm×内径φ30mm×長さ100mmの略円筒形)を成形した。なお、炭素繊維(CF)は、PAN系のミドル繊維(比重1.76)を使用した。
【0070】
(比較例7)
表4に示す容積基準の組成(表5には、質量基準の組成を示した)となるように各成分の粉末を、定法に従って、ミキサーにより撹拌混合した。得られた混合物をフリーベーキング法にて圧縮成形して、表4(表5)に示す組成の樹脂組成物からなる物性測定用評価サンプル(外径φ50mm×長さ50mmの略円柱)を成形した。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分として、
接着性フルオロカーボン系樹脂(A)、または、
前記樹脂(A)と前記樹脂(A)とは異なるフルオロカーボン系樹脂(B)との容積比(A/B)が5/95〜99/1である樹脂混合物を、
第2成分として、熱可塑性ポリイミド(C)1〜99容積%を含む樹脂組成物からなる、自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、充填剤を50容積%以下含む請求項1記載の自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品。
【請求項3】
前記樹脂組成物において、前記樹脂(A)または前記樹脂混合物、前記熱可塑性ポリイミド(C)および前記充填剤の各容積比率の合計が100容積%である請求項1または2記載の自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品。
【請求項4】
前記接着性フルオロカーボン系樹脂(A)が、酸無水物基、カルボキシ基、酸ハライド基およびカーボネート基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品。
【請求項5】
前記接着性フルオロカーボン系樹脂(A)が、テトラフルオロエチレンに基づく第一繰返し単位、ジカルボン酸無水物基を有し、且つ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマーに基づく第二繰返し単位、および、その他のモノマーに基づく第三繰返し単位を含有し、第一繰返し単位、第二繰返し単位および第三繰返し単位の合計モル量に対して、第一繰返し単位が50〜99.89モル%、第二繰返し単位が0.01〜5モル%、第三繰返し単位が0.1〜49.99モル%である含フッ素共重合体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車用シールリング又は産業ガス圧縮機用シールリング若しくは摺動部品。




【公開番号】特開2012−112448(P2012−112448A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261696(P2010−261696)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】