説明

自動車運搬船の姿勢制御装置

【課題】自動車運搬船の船内に配置される各種の清水タンクからの清水を姿勢制御に用い、効率的かつ経済的に行うことが可能な自動車運搬船の姿勢制御装置を提供する。
【解決手段】船首トリム調整タンク2、船尾中央トリム調整タンク3、船尾右舷トリム調整タンク4、船尾左舷トリム調整タンク5、右舷ヒール調整タンク6、左舷ヒール調整タンク7に加えて、左舷消火用水タンク12及び右舷消火用水タンク13を配置し、これらの左舷消火用水タンク及び右舷消火用水タンクからも、その貯蔵する清水を制御ポンプ1によって、前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク及び/又は前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクに移動させてトリム調整・ヒール調整を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車運搬船の姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車運搬船については、輸送貨物の性質上、多層の甲板を持ち、他の船種には見られない、背の高い船型となっており、このため、復原性の確保と貨物やイニシャル状態の前・後・左・右のアンバランスモーメントによる傾斜を解消するために、大量の海水を船内タンクに注水し、重心降下や姿勢制御を行っているのが一般的である。
また、貨物を積載しない状態においては、推進器(プロペラ)を十分に海水中に入れる深さまで船を沈降させるためにも、海水バラストが用いられている。
【0003】
ところで、昨今では、環境意識の高まりから、前述の海水バラストが地球規模で移動することにより海中の生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。この悪影響を防止するための国際条約が制定され発効待ちの状態となっている。該国際条約により、今後、建造される船舶には、海水バラスト水を使用する際に、微生物等を無害化(殺菌)するためのバラスト水処理装置を搭載することが義務づけられている。
【0004】
しかし、船舶内にバラスト水処理装置を設置する場合、バラスト水処理装置の配置スペースの確保やバラスト水処理装置へ電力供給に対応する必要があり、限られたスペースの船舶内にバラスト水処理装置の配置スペースを確保することは困難という問題があった。また、主発電機の容量の増加に伴う主発電機関のサイズアップに対するスペースの確保についても考慮する必要があるという問題があった。
【0005】
また、2010年7月以降に建造される船舶には、腐食性の特性を持つ海水バラスト水を貯留するタンク内の塗装を行う際に、塗装検査員によって塗装性能基準の要件に沿って塗装が行われているかの確認および検査を行う必要があるという強化規則(国際条約(「すべてのタイプの船舶の専用海水バラストタンク及びばら積み貨物船の二重船側部に対する塗装性能基準」(Performance Standard for Protective Coatings for dedicated seawater ballast tanks on all new ships and double-side skin spaces of bulk carriers)))が発効されており、これにより、建造船のコストアップおよび建造工程の延長という問題があった。
【0006】
このような諸問題点を解決する手段としては、海水バラストを用いることなく、重心降下や姿勢制御を行うことが考えられる。すなわち、重心に関しては、船の幅を広くすることで復原性能が向上するため、船型的な対応で解決可能である。
また、イニシャルのアンバランスモーメントについても、燃料タンクその他の配置の工夫により、ある程度の更正が可能である。このため、貨物により発生するアンバランスモーメントを調整することが、可能であれば海水バラストを用いることのない自動車運搬船が成立することとなる。
また、次世代の船は、燃料の高騰と二酸化炭素(CO2)排出低減の目的から燃料消費量を抑えた船型が求められている。これを達成するためには、運航状態の排水量を最小にして、抵抗が減じたコンディションでの運航が求められる。つまり、船舶が余分な重量を持たずに船舶の軽量化が求められる。
【0007】
このような要請から、本願出願人は、既に、自動車運搬船の姿勢制御装置について、特開2010-76490号公報に記載のものを提案している。図3(A)(B)(C)は、同公報に図1(A)(B)(C)として開示される自動車運搬船の姿勢制御装置の配置概略を示す側面図であり(図3(A))、同A−A断面図(図3(B))、同B−B断面図(図3(C))である。
【0008】
図3(A)(B)(C)において、符号101は、船首清水タンク、102は、船尾清水タンク、103は、右舷清水タンク、104は、左舷清水タンク、105は、船底清水タンク、106は、姿勢制御装置、107は、右舷後部空所、108は、左舷後部空所、109は、右舷前部空所、110は、左舷前部空所、111は、右舷前部空所、112は、左舷前部空所、200は、自動車運搬船、205は、プロペラ、206は、燃料タンク、207は、船舶機関室である(同公報に記載の符号のうち、1〜12を101〜112に100〜106を200〜206に替えて付した。)。
【0009】
当該特開2010-76490号公報に記載の「自動車運搬船の姿勢制御装置」は、図3(A)(B)(C)からも明らかなように、「・・船舶の姿勢安定制御、軽荷時にプロペラが没水する喫水の確保および船舶の復原性を保持せしめ、運航効率の良い、環境に優しく、安全な航海をすること」の課題において(同公報明細書段落番号0011参照)、「船舶の一番遠い区画の前後および船舶幅の最大の区画の二重底の左右両舷側に一対の清水タンクを備え、前後の清水タンクおよび左右両舷側のタンク間で清水を移動させ」ることにより(同公報明細書段落番号0011参照)、「バラスト水の投廃棄が必要なくなり、投棄海域の海洋生態系を損なうことがない環境に優しい」等の効果を奏するようにしたものである(同公報明細書段落番号0013〜0014参照)。
【0010】
このように、当該特開2010-76490号公報に記載の「自動車運搬船の姿勢制御装置」は、船内のバラストタンクとは別途独立に清水タンクを配置して、必要に応じて、それらの清水タンク内の清水を移動させることにより、姿勢制御を行おうとするものであるが、上記のように設置される清水タンクにはタンク数やタンク容量・配置位置等に関しても限界があり、清水を利用する自動車運搬船の姿勢制御は充分とは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010-76490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本願発明者らは、この種の自動車運搬船の船内には、上記の姿勢制御に利用する清水の外に、各種の清水タンクが配置されていることに着目し、これらの清水タンクの清水も姿勢制御に用いれば効率的かつ経済的に行うことが可能な自動車運搬船の姿勢制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本願請求項1に係る発明は、制御ポンプにより、船首域に配置される船首トリム調整タンクと、船尾域に配置される船尾中央トリム調整タンク、船尾右舷トリム調整タンク、船尾左舷トリム調整タンクの間及び/又は右舷ヒール調整タンク、左舷ヒール調整タンクの間を清水移動させてトリム調整・ヒール調整を可能とする自動車運搬船の姿勢制御装置において、前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク、前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクに加えて、左舷消火用水タンク及び右舷消火用水タンクを配置し、これらの左舷消火用水タンク及び右舷消火用水タンクからも、その貯蔵する清水を前記制御ポンプによって、前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク及び/又は前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクに移動させてトリム調整・ヒール調整を可能とすることを特徴とする。
又、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置において、前記左舷消火用水タンクは、自動車運搬船の左舷前部空所に、前記右舷消火用水タンクは、自動車運搬船の右舷前部空所に設けたことを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は。前記請求項1に記載の自動車運搬船の姿勢制御装置において、前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク及び/又は前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクの間を移動させてトリム調整・ヒール調整の後に不要となる清水を船外に排出することを特徴とする。
また、本願請求項4に係る発明は。前記請求項1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置において、前記左舷消火用水タンク及び前記右舷消火用水タンクはバッファタンクを兼用することを特徴とする。
そして、本願請求項5に係る発明は、前記請求項1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置において、前記自動車運搬船の姿勢制御装置は、自動車運搬船の各甲板に装備されるホールド消火用高膨張式泡消火システム用の発泡消火用清水タンクに貯蔵される清水を前記制御ポンプによって、前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク及び/又は前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクに移動させてトリム調整・ヒール調整を可能とすることを特徴とする。
また、本願請求項6に係る発明は、前記請求項1ないし請求項5のいずれかに係る自動車運搬船の姿勢制御装置において、前記自動車運搬船の姿勢制御装置は、造水装置及びこの造水装置によって生成される蒸溜水を貯蔵する蒸溜水貯蔵タンクを備え、前記蒸溜水貯蔵タンクに貯蔵された蒸溜水からなる清水を前記左舷消火用水タンク及び前記右舷消火用水タンク又は前記発泡消火用清水タンクに補給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願発明は、上述のとおり構成されているので、次の効果を奏する。
(1)完全に海水から分離したシステムであり、海水の出し入れが行われないので、前述の海水バラストの処理装置や塗装強化規則が適用外となるという効果を有する。
(2)海水バラストの処理装置や塗装強化規則が適用外となるため、建造船のコストアップおよび建造工程の延長という問題が解決するという効果を有する。
(3)さらに、自動車運搬船に装備のホールド消火用高膨張式泡消火システム用の清水をバッファ水として用いることにより、余分な重量を本船に蓄える必要がなくなるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(A)は、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置のタンク配置概略を示す側面図であり、図1(B)は、同A−A断面図、図1(C)は、同B−B断面図、
【図2】図2は、本実施例2、3に係る自動車運搬船の姿勢制御装置の清水の移動概略を示す図、
【図3】図3(A)(B)(C)は、特開2010-76490号公報に図1(A)(B)(C)として開示される従来の自動車運搬船の姿勢制御装置の配置概略を示す側面図(図3(A))、同A−A断面図(図3(B))、同B−B断面図(図3(C))である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る自動車運搬船の姿勢制御装置を実施するための最良の形態の一実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明に係る自動車運搬船の姿勢制御装置を実施するための形態の一実施例である実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置の概略を示す図であり、前記特開2010-76490号公報に記載のものに相当する。したがって、図1(A)は、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置のタンク配置概略を示す側面図であり、図1(B)は、同A−A断面図、図1(C)は、同B−B断面図である。
【0018】
図1において、1は、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置に用いる制御ポンプ、2は、船首トリム調整タンク、3は、船尾中央トリム調整タンク、4は、船尾右舷トリム調整タンク、5は、船尾左舷トリム調整タンク、6は、右舷ヒール調整タンク、7は、左舷ヒール調整タンク、8は、造水装置、9は、ポンプ、10は、蒸溜水貯蔵タンク、12は、左舷消火用水タンク、13は、右舷消火用水タンク、14は、発泡消火用清水タンク、15は、機関室である。
【0019】
すなわち、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においては、図3(A)(B)(C)に示される前記特開2010-76490号公報に記載の各タンクについて、バラストタンクを廃止し、独立に前記船首清水タンク101を前記船首トリム調整タンク2と、前記船尾清水タンク102を3つのタンクに分け、それぞれ船尾中央トリム調整タンク3、船尾右舷トリム調整タンク4、船尾左舷トリム調整タンク5とし、さらに、前記右舷清水タンク103を右舷ヒール調整タンク6、前記左舷清水タンク104を左舷ヒール調整タンク7としたものである(前記右舷後部空所107、前記左舷後部空所108、右舷前部空所109、左舷前部空所110は、そのまま空所部として使用している。)。
【0020】
このようなタンク配置構成において、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置は、前記制御ポンプ1により、前記船首トリム調整タンク2、前記船尾中央トリム調整タンク3、前記船尾右舷トリム調整タンク4、前記船尾左舷トリム調整タンク5、前記右舷ヒール調整タンク6、前記左舷ヒール調整タンク7の各タンク間を清水移動させてトリム調整、ヒール調整を可能としている。
【0021】
そして、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置は、このようなタンク配置構成に加え、図1(C)に示されるように、前記左舷前部空所112を前記左舷消火用水タンク12、前記右舷前部空所111を前記右舷消火用水タンク13とした消火用水タンク12、13を配置して船内消火に備えており、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置は、これらの各左舷消火用水タンク12、右舷消火用水タンク13からも、その貯蔵する清水を前記制御ポンプ1を介して、前記船首トリム調整タンク2、前記船尾中央トリム調整タンク3、前記船尾右舷トリム調整タンク4、前記船尾左舷トリム調整タンク5、前記右舷ヒール調整タンク6、前記左舷ヒール調整タンク7の間を移動させ、前述同様、トリム調整、ヒール調整を可能とする。
【0022】
例えば、全長200メートル程度、約12層甲板からなる自動車運搬船を想定し、標準車満載状態で、清水を前記船首トリム調整タンク2から前記船尾トリム調整タンク3、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク5へ約500tの清水を移動するとすれば、バラストタンクを廃止するにも拘わらず、約0.5°のトリム調整が可能となる。
【0023】
すなわち、効率的かつ経済的に船を運航させるため、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置に使用する清水は、標準車満載状態で姿勢制御に必要な最小量を常に船舶内に保有しておき、前後傾斜(トリム)や左右傾斜(ヒール)の調整用に設けられた上記船内各タンク間を移水させ、姿勢制御を行うものである。つまり、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置は、船内に常時貯留している清水を船内移動することでカウンターモーメントを発生させ、アンバランスモーメントを解消することにより行うものである。
【0024】
さらに、重車両積載または特殊な積載ケースで通常よりも大きなアンバランスモーメントが発生する場合には、バッファ水として駐留する消火用の清水等を保水することにより、このような特殊なアンバランスモーメントに必要なトリム調整、ヒール調整を行うこととする。そして、重車両積載または特殊な積載ケースが終了した場合には、保水した清水を船外へ排出し、最小の運航排水量とするものである。
【0025】
なお、本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においては、従来の前記右舷前部空所111及び前記左舷前部空所112に前記左舷消火用水タンク12及び右舷消火用水タンク13を配置するようにしたが、これは、消火用水タンクとして独立のタンクとすることに限るものではなく、例えば、他の用途に用いるバッファタンク等であっても良く、また、図3(C)に示されるように、従来の前記左舷前部空所112及び前記右舷前部空所111を左右の消火用水タンク12、13とすることに限るものではなく、他の空所、例えば、前記右舷後部空所107、前記左舷後部空所108、前記右舷前部空所109、前記左舷前部空所110の各タンクのうち、左右の舷側に配置される各対応するタンクを使用するようにしても良いものである。
【実施例2】
【0026】
上述してきた本実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においては、消火用水タンク12、13に貯留する清水を使用してトリム調整、ヒール調整を行う姿勢制御装置について説明してきたが、当該実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においては、消火用水タンク12、13に貯留する清水をトリム調整、ヒール調整に使用した後は、消火用タンク12、13に還流させることなく船外に排水するようにしている。これは、船の運航を効率的かつ経済的に行うため、船内に常に保有する姿勢制御装置用の清水は、標準車満載状態で姿勢制御に必要な最小量とするという理由からである。
【0027】
しかしながら、船外排水を行うと、こんどは消火の場合に必要とする消火用水が不足することとなる、このため、本実施例2に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においては、図1(C)に示されるように、前記機関室15の近傍に、前記造水装置8及び蒸溜水貯蔵タンク10を備え、造水された清水を前記ポンプ9を介して前記蒸溜水貯蔵タンク10に貯蔵する。そして、トリム調整、ヒール調整のために各タンクに移動の際に、不要となる清水は、各タンクに還元するのではなく、図示外排水口から船外に排出するようにしている。したがって、消火用清水が航海の途中で不足する事態は回避され、船外に排水したとしても、清水であるので港湾内外の環境に汚染を起こすことはない。
【0028】
なお、本実施例1に係る自動車運搬船の精製制御装置に使用される前記造水装置は、例えば、真空蒸発室内に導いた海水を加熱器で加熱し、沸騰蒸発した蒸気を海水を用いて冷却する多管式の凝縮器で凝縮して淡水を製造する真空蒸発式造水装置であっても良く、造水能力としては、25t/dayの造水能力程度のもので充分である。この程度の造水装置8を用い、約300m3程度の容量の前記蒸溜水貯蔵タンク10を前記機関室15近傍に配置し、この造水装置8にて作られ、前記蒸溜水貯蔵タンク10に貯留される蒸留水を前記左舷消火用水タンク12及び右舷消火用水タンク13へ補給することにより、清水の船外排水の後の万が一の消火に備えることができる。
【実施例3】
【0029】
次に、本実施例3に係る自動車運搬船の姿勢制御装置について説明する。上述してきたように、実施例1に係る自動車運搬船の姿勢制御装置や実施例2に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においては、清水消火に使用する前記左舷消火用水タンク12及び前記右舷消火用水タンク13から、その貯蔵する清水を前記制御ポンプ1を介して、前記船首トリム調整タンク2、前記船尾中央トリム調整タンク3、前記船尾右舷トリム調整タンク4、前記船尾左舷トリム調整タンク5、前記右舷ヒール調整タンク6、前記左舷ヒール調整タンク7の間を移動させ、前述同様、トリム調整、ヒール調整を可能としたが、この場合に使用される消火用水タンク12、13は、清水消火用に貯留する消火用水タンクに貯留される清水に限られるものではなく、例えば、この種の自動車運搬船の各甲板に標準的に装備されるホールド消火用高膨張式泡消火システム用の清水タンクからの清水を用いるようにしても良いものである。
【0030】
すなわち、この種の自動車運搬船においては、各甲板にホールド消火用高膨張式泡消火システムが装備され、この高膨張式泡消火システムは、例えば、高発泡する消火液が予め貯蔵され、火災時には当該消火液を予め貯留された清水を得て、これと前記消火液とを混合させ、この混合液を火災の発生している消火対象箇所に送り込み、この送り込まれてきた混合液を消火対象箇所で送風により発泡させ、消火対象箇所に供給するというものである。この高膨張式泡消火システムにおいても、図1(C)に示すように、前記機関室15の下側位置に配置される前記発泡消火用清水タンク14には、上述するように清水が貯留されており、本実施例3に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においては、当該高膨張式泡消火システムの前記発泡消火用清水タンク14に貯留される清水を前記制御ポンプ1を介して、前記船首トリム調整タンク2、前記船尾中央トリム調整タンク3、前記船尾右舷トリム調整タンク4、前記船尾左舷トリム調整タンク5、前記右舷ヒール調整タンク6、前記左舷ヒール調整タンク7の間を移動させ、前述同様、トリム調整、ヒール調整を可能とするものである。
【0031】
本実施例3に係る自動車運搬船の姿勢制御装置は、前述の清水消火のための消火用水タンク12、13からの清水補給と合わせて、あるいは、前述の清水消火のための消火用水タンク12、13からの清水補給とは別途独立に装備されても良く、また、トリム調整、ヒール調整に使用後に船外排水することも上記実施例1、2に係る自動車運搬船の姿勢制御装置と同様である。
【0032】
ただ、当該高膨張式泡消火システムは、清水に限らず、海水を用いて消火用発泡を生成することができるので、万が一、上述したように、前記発泡消火用清水タンク14からの清水を自動車運搬船のトリム調整、ヒール調整に使用して、消火用水タンクが空になった場合であっても、火災が起きた際には、本実施例3に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においては、当該高膨張式泡消火システムは清水に限らず、海水を用いて発泡を得ることができるので、火災に対する防護に支障をきたすことはなく、清水使用の消火と合わせて、または、高膨張式泡消火システムを単独に使用する本実施例3に係る自動車運搬船の姿勢制御装置は優位である。
【0033】
なお、本実施例3に係る自動車運搬船の姿勢制御装置においても、自動車運搬船のトリム調整、ヒール調整の後は、使用した清水は船外排水されるので、上記実施例2に係る自動車運搬船の姿勢制御装置と同様に、前記造水装置8及び蒸溜水貯蔵タンク10を備え、当該造水装置8にて作られた蒸留水を前記発泡消火用清水タンク14に補給することにより、同システムにおける消火用の清水を復旧することが可能である。
【0034】
図2は、本実施例2、3に係る自動車運搬船の姿勢制御装置の清水の移動概略を示す図であり、図2において、符号9は、前記造水装置8で生成された蒸溜水を前記蒸溜水貯蔵タンク10に送り込むポンプであり、また、11は、当該蒸溜水貯蔵タンク10からの蒸溜水である清水を前記左舷消火用水タンク12及び前記右舷消火用水タンク13に送り込むポンプである。なお、その余の符号は、先の図1(C)に示す部材と同一の部材は同一の符号で示した。
【0035】
図2から明らかなように、従来の清水を使用した前記船首トリム調整タンク2、前記船尾中央トリム調整タンク3、前記船尾右舷トリム調整タンク4、前記船尾左舷トリム調整タンク5、前記右舷ヒール調整タンク6、前記左舷ヒール調整タンク7の各タンク間の清水移動によるトリム調整、ヒール調整のための双方向移水は、波線で示し、本実施例2に係る自動車運搬船の姿勢制御装置における、造水装置8において、蒸溜水を生成し、これにより各左舷消火用水タンク12及び右舷消火用水タンク13への補給の一方向移水は実線で示す。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、自動車運搬船の姿勢制御装置に利用する。
【符号の説明】
【0037】
1 制御ポンプ
2 船首トリム調整タンク
3 船尾中央トリム調整タンク
4 船尾右舷トリム調整タンク
5 船尾左舷トリム調整タンク
6 右舷ヒール調整タンク
7 左舷ヒール調整タンク
8 造水装置
9 ポンプ
10 蒸溜水貯蔵タンク
12 左舷消火用水タンク
13 右舷消火用水タンク
14 発泡消火用清水タンク
15 機関室
101 船首清水タンク
102 船尾清水タンク
103 右舷清水タンク
104 左舷清水タンク
107 右舷後部空所
108 左舷後部空所
109 右舷前部空所
110 左舷前部空所
111 右舷前部空所
112 左舷前部空所


【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御ポンプにより、船首域に配置される船首トリム調整タンクと、船尾域に配置される船尾中央トリム調整タンク、船尾右舷トリム調整タンク、船尾左舷トリム調整タンクの間及び/又は右舷ヒール調整タンク、左舷ヒール調整タンクの間を清水移動させてトリム調整・ヒール調整を可能とする自動車運搬船の姿勢制御装置において、
前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク、前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクに加えて、左舷消火用水タンク及び右舷消火用水タンクを配置し、これらの左舷消火用水タンク及び右舷消火用水タンクからも、その貯蔵する清水を前記制御ポンプによって、前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク及び/又は前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクに移動させてトリム調整・ヒール調整を可能とすることを特徴とする自動車運搬船の姿勢制御装置。
【請求項2】
前記左舷消火用水タンクは、自動車運搬船の左舷前部空所に、前記右舷消火用水タンクは、自動車運搬船の右舷前部空所に設けたことを特徴とする請求項1に記載の自動車運搬船の姿勢制御装置。
【請求項3】
前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク及び/又は前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクの間を移動させてトリム調整・ヒール調整の後に不要となる清水を船外に排出することを特徴とする請求項1に記載の自動車運搬船の姿勢制御装置。
【請求項4】
前記左舷消火用水タンク及び前記右舷消火用水タンクはバッファタンクを兼用することを特徴とする請求項1に記載の自動車運搬船の姿勢制御装置。
【請求項5】
前記自動車運搬船の姿勢制御装置は、自動車運搬船の各甲板に装備されるホールド消火用高膨張式泡消火システム用の発泡消火用清水タンクに貯蔵される清水を前記制御ポンプによって、前記船首トリム調整タンク、前記船尾中央トリム調整タンク、前記船尾右舷トリム調整タンク、前記船尾左舷トリム調整タンク及び/又は前記右舷ヒール調整タンク、前記左舷ヒール調整タンクに移動させてトリム調整・ヒール調整を可能とすることを特徴とする請求項1に記載の自動車運搬船の姿勢制御装置。
【請求項6】
前記自動車運搬船の姿勢制御装置は、造水装置及びこの造水装置によって生成される蒸溜水を貯蔵する蒸溜水貯蔵タンクを備え、前記蒸溜水貯蔵タンクに貯蔵された蒸溜水からなる清水を前記左舷消火用水タンク及び前記右舷消火用水タンク又は前記発泡消火用清水タンクに補給することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の自動車運搬船の姿勢制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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