説明

自発巻縮性複合繊維

【課題】自然環境下で分解可能で、目的用途に応じて、色々な強さの巻縮を発現させることが可能で、且つ高能率で容易に製造可能な、自発巻縮性複合繊維。
【構成】融点140℃以上、溶融吸熱量20J/g以上の結晶性脂肪族ポリエステル重合体(A)と、融点が20℃以上異なる少なくとも種の脂肪族ポリエステルのブロック共重合体又は/及び混合体であり、且つ融点130℃以上、溶融吸熱量3J/g以上の高融点成分(X)と、融点40〜120℃、溶融吸熱量3J/g以上の低融点成分(Y)とをそれぞれ10〜90重量%含む組成物(B)とが、単繊維内で偏心的に複合されている、自発巻縮性複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自然分解性で、且つ加熱などによって優れた巻縮を発現する自発巻縮性複合繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】合成樹脂からなる従来の合成繊維は、自然環境下での分解速度が遅く、また焼却時の発熱量が多いため、自然環境保護の見地からの見直しが必要である。このため、脂肪族ポリエステルからなる自然分解性繊維が開発されつつあり、環境保護への貢献が期待されている。しかし、これらの自然分解性繊維は、いまだ柔軟性、嵩高性、伸縮性などに劣り、衣料用その他高度な目的には不満足なものであり、より優れたものが求められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、自然分解性であり、加熱などによって優れた巻縮を発現し、柔軟性、嵩高性、伸縮性などに優れる製品を得ることができ、しかも高能率で容易に製造することが出来る、新規な自発巻縮性複合繊維を得ることにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記本発明の目的は、融点140℃以上且つ溶融時の吸熱量が20ジュール/グラム以上の結晶性脂肪族ポリエステル重合体(A)と、融点が20℃以上異なる少なくとも2種の結晶性脂肪族ポリエステルのブロック共重合体または/及び混合体であり、且つ融点130℃以上、溶融吸熱量3ジュール/グラム以上の高融点成分(X)を90〜10重量%、および融点40〜120℃、溶融吸熱量3ジュール/グラム以上の低融点成分(Y)を10〜90重量%含む組成物(B)とが、単一繊維内で偏心的に接合されていることを特徴とする、本発明複合繊維により達成される。
【0005】ここで脂肪族ポリエステルとは、(a)グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチルカルボン酸などのようなヒドロキシアルキルカルボン酸、(b)グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、(c)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのような脂肪族ジオール、(d)ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレン/プロピレングリコール、ジヒドロキシエチルブタンなどのようなポリアルキレンエーテルのオリゴマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレンリコール、ポリブチレンエーテルなどのポリアルキレングリコール、(e)ポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート、ポリヘキサンカーボネート、ポリオクタンカーボネート、ポリデカンカーボネートなどのポリアルキレンカーボネートグリコールおよびそれらのオリゴマー、(f)コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸など、脂肪族ポリエステル重合原料に由来する成分を主成分すなわち50重量%以上(特に60%以上)とするものであって、脂肪族ポリエステルのホモポリマー、脂肪族ポリエステルのブロック又は/及びランダム共重合ポリマー、および脂肪族ポリエステルに他の成分、例えば芳香族ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン、ポリオルガノシロキサンなどを50重量%以下(ブロック又は/及びランダム)共重合したもの及び/又は混合したものをすべて包含する。
【0006】脂肪族ポリエステルを共重合や混合によって変性する目的は、結晶性の低下、融点の低下(重合温度や成型温度の低下)、摩擦係数、柔軟性や弾性回復性の改良、耐熱性、ガラス転移温度や熱収縮性の低下または上昇、接着性の改良、染色性、親水性や撥水性の改良、分解性の向上または抑制などが挙げられる。
【0007】本発明複合繊維は、融点140℃以上、溶融時の吸熱量20J/g以上で結晶性が高い脂肪族ポリエステル重合体(A)と、融点130℃以上の高融点成分(X)および融点40〜120℃の低融点成分(Y)の両成分を含む脂肪族ポリエステル組成物(B)とが複合されたもので、重合体(A)は低収縮成分であり、組成物(B)は高収縮成分で、加熱や膨潤によって(A)(B)両成分に長さの差を生じ、巻縮が発現する。
【0008】本発明繊維の大きな特徴は、高収縮成分である組成物(B)が、融点が20℃以上、好ましくは30℃以上異なる少なくとも2種の結晶性脂肪族ポリエステルのブロック共重合体又は/及び混合体であることである。その結果、本発明繊維は、組成物(B)を構成する低融点成分(Y)は溶融または軟化によって強く収縮するが、高融点成分(X)は溶融または軟化しない温度に加熱すれば、組成物(B)全体としては溶融することなく収縮し、繊維は巻縮する。従って、高融点成分(X)の融点は、高いほど好ましく、130℃以上の必要があり、140℃以上が好ましく、150℃以上が最も好ましく、160℃以上が最も広く用いられる。低融点成分(Y)は、常温では結晶化しており、適度の(例えば50〜120℃の)加熱によって溶融するもので、融点は40〜120℃の範囲である。一般に低融点のポリマーは、溶融紡糸時の固化速度が遅く、巻き取った糸が相互に接着(膠着)し易く紡糸困難となる傾向があるが、組成物(B)は高融点成分(X)の導入により、膠着性が大幅に改善され、製造が容易となる。
【0009】複合繊維の巻縮性は、組成物(B)を構成する高融点成分(X)と低融点成分(Y)との比率、低融点成分(Y)の融点、重合体(A)と組成物(B)との複合比率、複合形態、加熱温度などを変えることにより、非常に広範囲に制御することが出来、目的、用途に応じて適切な巻縮を選ぶことが出来る。すなわち本発明複合繊維は、溶融紡糸法により高能率で製造可能であり、非常に広範囲に巻縮性を制御、調節可能という大きな特長を持っている。
【0010】ここで溶融時の融点及び吸熱量は、走査型示差熱量計(以下DSCと記す)を用い、十分に延伸又は/及び熱処理し、乾燥した試料について、試料重量10mg、窒素中、昇温速度10℃/minの条件で測定したものである。図2に、本発明に用いる融点が20℃以上異なる複数の脂肪族ポリエステルが混合又は/及びブロック共重合している組成物(B)の、DSC曲線を模式的に示す。図において、4は低融点成分(Y)の溶融吸熱ピークを示し、6は高融点成分(X)の溶融吸熱ピークを示す。ピーク5(点線)は、高融点成分(X)が十分結晶化していない時に観測される結晶化の発熱ピークである。この発熱ピーク5と低融点成分(Y)の溶融吸熱ピーク4とが重なると、溶融吸熱ピーク4を正確に把握できないから、高融点成分(X)は十分結晶化させておくことが必要である。
【0011】本発明において、融点は結晶の溶融によるそれぞれの吸熱ピーク(図では4および6)の極小値の温度とし、吸熱ピークのそれぞれの全吸熱量(積分値、図の斜線部の面積に比例する)を溶融時の吸熱量とする。吸熱量の単位は、ジュール/グラム(以下J/gと記す)とする。融点(ピーク)が複数存在する場合、融点の代表値は、最も高温のものとするが、最高温のピークが例えば吸熱量3J/g以下と無視出来るほど小さいときは、吸熱量の大きい主要なピークの中の最も高い融点を代表値とする。
【0012】一般に、複数種の結晶性脂肪族ポリエステルの混合物やブロック共重合物のDSC曲線では、それぞれの成分の融点に対応する吸熱ピークがかなり明瞭に観測されることが多い。しかし、複数種ポリマーのブロック共重合体の場合は、それぞれの融点(温度)が変化したり、吸熱ピークの幅が広がったり、肩が生じたりダブルピークが観測されるなど複雑な現象が見られることがある。それらが明瞭に複数のピークと分離して認められないときは、単一のピークとみなし、融点はピーク値を用いる。
【0013】低収縮成分である重合体(A)の融点は、140℃以上の必要があり、160℃以上が好ましく、170℃以上が最も好ましい。またその溶融時の吸熱量は、20J/g以上の必要があり、30J/g以上が好ましく、40J/g以上が最も好ましい。この様な高結晶性、高融点の脂肪族ポリエステルの例としては、ポリL−乳酸(融点約175℃)、ポリD−乳酸(同175℃)、ポリ3−ヒドロキシブチレート(同180℃)、ポリグリコール酸(同230℃)などのホモポリマー、およびそれらに少量(50%以下、とくに30%以下)の他成分を共重合又は/及び混合したものが挙げられる。重合体(A)の分子量は、特に限定されないが、実用性の見地から、5万以上が好ましく、8〜30万が特に好ましく、10〜20万の範囲が最も広く用いられる。
【0014】一般に、ブロック共重合では結晶性や融点の変化は緩やかであり、重合体(A)の中の共重合成分の比率は1〜50%、特に1〜40%、多くの場合1〜30%とすることが出来るが、ランダム共重合では結晶性や融点の変化が顕著で、共重合成分の比率は0.5〜10%、特に1〜5%が好ましいことが多い。勿論、共重合による融点や結晶性の変化は、共重合成分によって大きく変るので、DSCによる結晶の溶融吸熱量及び融点に注意する必要がある。他成分の混合による融点や結晶性の変化も、混合成分や混合率により相当変わるが、ランダム共重合ほど顕著でないことが多い。
【0015】低収縮成分である重合体(A)を単独で繊維としたときの、100℃の水中での収縮率は、20%以下が好ましく、15%以下、特に10%以下がさらに好ましく、8%以下が最も好ましい。このためには、重合体(A)は、共重合や混合による変性度の低いものが特に好ましく、ホモポリマーおよびそれに近いもの、例えば共重合成分や混合成分の比率は10%以下のものが好ましく、6%以下が特に好ましく、3%以下のものが最も好ましい。
【0016】組成物(B)は、融点が20℃以上異なる少なくとも2種の結晶性脂肪族ポリエステルのブロック共重合体又は/及び混合体であり、融点が130℃以上の高融点成分(X)と、融点が40〜120℃の低融点成分(Y)とをそれぞれ90〜10%および10〜90%含むものである。低融点成分(Y)は、加熱により収縮性を発現するもので、融点は40〜120℃の範囲の必要があり、50〜120℃が好ましく、60〜120℃の範囲が最も広く用いられる。組成物(B)中の高融点成分(X)と、低融点成分(Y)の重量比率は、9/1〜1/9の範囲の必要があり、8/2〜2/8の範囲、特に7/3〜3/7の範囲が好ましいことが多い。組成物(B)中の高融点成分(X)と、低融点成分(Y)の溶融吸熱量は、それぞれ3J/g以上が必要であり、5J/g以上が特に好ましく、10J/g以上が最も好ましく、10〜30J/g程度の範囲が広く用いられる。組成物(B)は、結晶性であることが、溶融紡糸時の膠着防止の観点から好ましいからである。
【0017】組成物(B)中の高融点成分(X)と、低融点成分(Y)の融点差は、20℃以上の必要があり、30℃以上が特に好ましく、40℃以上が最も好ましい。例えば融点160℃の成分(X)と、融点80℃の成分(Y)の組み合わせによるブロック共重合体または混合物は、例えば100℃で処理されると成分(Y)が溶融するため強く収縮するが、結晶化した高融点成分(X)が存在するため組成物全体は溶融せず形を保つ。
【0018】組成物(B)を単独で繊維とした場合の、100℃水中の収縮率は、20%以上が好ましく、30〜60%の範囲が広く用いられる。組成物(B)よりなる繊維の収縮率と、前述の重合体(A)よりなる繊維の収縮率との差は、5%以上が好ましく、10%以上が特に好ましく、20〜50%の範囲が最も広く用いられる。
【0019】組成物(B)は、構成する成分(X)、(Y)の混合物または/及びブロック共重合体である。混合方法は任意であり、通常の溶融混合でもよく、溶剤中で混合しても良い。混合装置は、機械的攪拌装置や流体の流れの分割と合流を多段的に繰り返す静止混合器を用いても良く、両者を併用してもよい。溶融混合中に、両成分が部分的に反応して、ブロック共重合体化してもよい。但し過度に反応して完全にランダム共重合体化(融点が消失、非晶化)させてはならない。すなわち、溶融混合物をDSC分析し、両成分の融点や溶融吸熱量を調査し、それらを好ましい範囲に保つことが望まれる。一方、両成分のブロック共重合体は、例えば分子末端に水酸基を持つ低融点脂肪族ポリエステル(Y)に対し、ラクチドやグリコリドなどの高融点成分(X)の原料環状ラクトンを溶融状態で付加反応(重合)させる方法でも、得られる。また分子末端に水酸基を持つ成分(X)、(Y)の混合物に、例えばヘキサンジイソシアネートなどのジイソシアネート、無水フタル酸などのジカルボン酸無水物、テレフタル酸クロリドなどのジカルボン酸ハロゲン化物などの多官能化合物(鎖延長剤)を反応させ、それらを結合しブロック共重合物を得ることも出来る。組成物(B)を構成する重合体は、熱収縮性や収縮後の弾性回復性を改善するために、分岐や架橋構造を持たせることも好ましい。たとえばトリメリット酸、グリセリンゃトリイソシアネートなど3以上の官能基を持つ化合物を応用することが出来る。
【0020】成分(X)と(Y)との混合を安定に行うためには、両者の親和性が高いことが望ましい。両者の親和性改善の方法としては、(1)成分(X)の中に成分(Y)をブロック共重合などの方法で部分的に導入すること、(2)成分(Y)の中に成分(X)を導入すること、(3)親和性改善剤(界面活性剤)として、両成分のブロック共重合物を混合することなどが挙げられる。
【0021】重合体(A)と組成物(B)とは、相互接着性が高いことが好ましい。このため、両者が共通の成分を持つことが好ましい。たとえば組成物(B)の高融点成分(X)と重合体(A)とが同じ成分(例えばポリ乳酸)であることが特に好ましい。同様に両者が近似の成分である(例えばポリ乳酸と、ポリ乳酸を主成分とする共重合体)ことも、好ましい。
【0022】組成物(B)は、主として、脂肪族ポリエステル成分(X)及び(Y)とからなるが、副次的成分(50重量%以下、特に30%以下)として他の成分例えば芳香族成分、ポリエーテル成分、ポリカーボネート成分、ポリウレタン成分、ポリアミド成分、ポリ有機シロキサン成分その他を含んでいてもよい。組成物(B)の分子量は、特に限定されないが、5万以上が好ましく、8〜30万が特に好ましく、10〜20万の範囲が広く用いられる。
【0023】低融点成分(Y)に好適なポリエステルの具体例としては、ポリカプロラクトン(融点約59℃)、ポリプロピオラクトン(同95℃)などの脂肪族ポリラクトンの他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族グリコール類の一種以上と、サクシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、オクタンジカルボン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸の一種以上を組合わせて得られるポリエステル、例えばポリエチレンサクシネート(融点約102℃)、ポリエチレンアジペート(同49℃)、ポリエチレンスベレート(同65℃)、ポリエチレンアゼレート(同52℃)、ポリエチレンセバケート(同75℃)、ポリブチレンサクシネート(同116℃)、ポリブチレンアジペート(同72℃)、ポリブチレンセバケート(同66℃)、ポリヘキサンセバケート(同74℃)その他のホモポリマー、及びそれらを成分とするブロックまたはランダム共重合体で且つ結晶性のものが挙げられる。溶融複合紡糸においては、重合体(A)と組成物(B)とは、通常の方法に従い、それぞれ別々に溶融、計量され、複合紡糸口金内で複合され、オリィスより紡出し、冷却、オイリング、必要に応じて延伸、熱処理などにより分子配向、結晶化され、本発明複合繊維が製造される。同様に、重合体(A)と組成物(B)とを、溶剤を用い別々に溶解し、湿式、乾式、乾湿式などの方法で複合紡糸しても、本発明複合繊維が得られる。しかし、溶融複合紡糸法は、高能率なので特に好ましい。溶融紡糸は、巻取速度2000m/分以下の低速紡糸、2000〜5000m/分の高速紡糸、5000m/分以上の超高速紡糸などが応用可能である。低速紡糸および高速紡糸では、紡糸と延伸工程を別々に行う方法、紡糸と延伸を連続して同時に行う方法などが可能である。一般に低速紡糸では3〜8倍程度、高速紡糸では1.5〜3倍程度の延伸を行い、超高速紡糸では延伸不要または2倍程度以下の延伸を行うことが多い。
【0024】本発明繊維は、連続マルチフィラメント、連続モノフィラメント、切断されたステープルなど任意の形態とすることが出来、他の繊維と適宜、色々な手段で混合され、糸、編物、織物、不織布、フェルト、紙、フィルムなどとの複合体、その他類似の繊維構造物として用いられる。
【0025】本発明繊維は、加熱により巻縮を発現する。加熱は乾熱、湿熱、赤外線その他の方法が応用可能である。加熱温度、加熱時間、緊張の度合い(張力など)を変えることにより、巻縮を調節、制御可能である。巻縮発現は、フィラメント、トウ、ステープル、綿、糸、編物、織物、不織布、ウェブ、その他任意の形態で行うことが出来る。多くの場合、糸、トウ、綿、ウェブ、編物、織物、不織布などを無緊張または低緊張下で加熱して巻縮を発現させる。染色などの仕上げ加工工程の前、仕上げ工程中で巻縮を発現させることも多い。巻縮は、膨潤による収縮によっても発現する。例えば、アセトン、メチルエチルケトン又はそれらと水との混合物を膨潤剤とすることが出来る。この他の公知の溶剤を、水などで希釈したり、水分散液としたものを膨潤剤としてて使用することも出来る。
【0026】
【発明実施の形態】図1に、本発明繊維の実施例である繊維横断面を例示する。図1において、1は低収縮成分である重合体(A)を示し、2は高収縮成分である組成物(B)を示す。図1の(a)は並列型の複合を示し、(b)は3角状断面の並列型複合をを示し、(c)は偏心芯鞘型を示し、(d)は3層並列型を示し、(e)は中空並列型を示す。図において、1と2は入れ替えても良く、3は中空部であるが、第3のポリマーに置き換えてもよい。本発明において、重合体(A)と組成物(B)とは、偏心的に複合されなければならない。偏心的とは、両成分のそれぞれの重心の位置が異なることを示し、偏心性が高いほど、複合繊維の巻縮性が強められる。図1の(a)は最も偏心性の高い例であり、(c)は偏心性の低い例である。
【0027】重合体(A)と組成物(B)との複合比率(断面積比)は、特に限定されないが、10/1〜1/10の範囲が好ましく、5/1〜1/5、特に2/〜1/2の範囲が最も広く用いられる。複合比率が1/1から偏るほど、巻縮性が弱められる。
【0028】本発明繊維の断面形状は、特に限定されず、円形、非円形、多角形状、多葉状、中空状などとすることが出来る。本発明繊維の繊度も、同様に使用目的に応じて任意に選ばれるが、通常の衣料用には、単糸繊度0.1〜50デニール(d)程度の範囲、特に0.5〜30dの範囲が好ましく、1〜20dの範囲が広く用いられる。不織布、皮革、資材用などにはもっと細いものや太いものも用いられる。本発明繊維は、必要に応じ仮撚法や押込法などで、機械的に巻縮を付与することが出来る。これらの巻縮工程での加熱では、繊維が膠着しないことが好ましく、この観点からは、組成物(B)の最も融点の低い成分の融点は60℃以上が好ましく、80℃以上が特に好ましく、90℃以上が最も好ましい。
【0029】本発明繊維には、各種顔料、染料、着色剤、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、無機化合物粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、香料その他の添加剤を、必要に応じ混合することが出来る。
【0030】本発明複合糸は単独で、又は他の繊維と混用して糸、紐、ロープ、編物、織物、不織布、紙、複合材料その他の構造物の製造に用いることが出来る。他の繊維と混用する場合、綿、羊毛、絹などの天然有機繊維、脂肪族ポリエステル繊維などの自然分解性繊維と混合使用すれば、完全に自然分解性の製品が得られるので特に好ましい。
【0031】
【実施例】以下の実施例において、%、部は特に断らない限り重量比である。脂肪族ポリエステルの分子量は、試料の0.1%クロロホルム溶液のGPC分析において、分子量1000以下の成分を除く高分子成分の分散の重量平均値である。
【0032】繊維の熱収縮率は、試料を約1000デニール、長さ約50cmの束とし、無荷重で100℃の水中で10分間処理し、22℃、湿度65%の室内で24時間自然乾燥した後の長さL2と、熱処理前の長さL1とから、[(L1−L2)/L1]×100(%)の式で計算する。繊維の長さは、1デニール当たり荷重10mgを加えて1分後に測定する。
【0033】繊維の巻縮伸張率は、約1000デニール、長さ約50cmの束を無荷重で100℃の水中で10分間処理し、22℃、湿度65%の室内で24時間自然乾燥した後、荷重0.5gを加えて1分後の長さL3と、荷重500gを加えて1分後の長さL4から、[(L4−L3)/L3]×100(%)の式で求める。
実施例1分子量8000で両末端が水酸基のポリエチレングリコール(PEG)3部、L−ラクチド98部、オクチル酸錫100ppm、チバガイギー社の酸化防止剤イルガノックス1010の0.1部を混合し、窒素雰囲気中188℃で12分間、2軸押出機中で溶融攪拌重合し、冷却チップ化後、140℃窒素雰囲気中で4時間処理(固相重合)して、ポリ乳酸とPEGのブロック共重合ポリマーP1を得た。ポリマーP1は、分子量15.5万、PEG成分の含有率約3%、融点175℃、十分に配向結晶化した繊維の溶融吸熱量は55J/gであった。
【0034】ポリブチレンサクシネート(PBS)で、分子量12.5万、融点114℃、溶融吸熱量68J/gのもの30部、L−ラクチド71部、上記イルガノックス0.1部、オクチル酸錫100ppmを混合し、以下ポリマーP1と同様に重合して、ブロックコポリマーBP1を得た。BP1の分子量は13.7万、融点は主要なものが165℃と103℃の2つあり、その吸熱量は28J/gと27J/gで、それぞれポリL−乳酸セグメント(ブロック)およびPBSセグメントの結晶に対応すると推定される。
【0035】ポリマーP1とコポリマーBP1を、それぞれ別々に220℃のスクリュー押出し機で溶融し、ギアポンプで計量しながら複合紡糸口金に送り込み、両者を複合比1/1(体積比)で図1のような並列型に複合し、225℃、直径0.2mmのオリフィスより紡出し空気中で冷却、オイリングしながら1500m/minの速度で巻取り、70℃で4.1倍延伸し、150デニール/48フィラメントの延伸糸Y1を得た。延伸糸Y1の強度は4.1g/デニール、伸度27%、100℃の水中で巻縮発現させた時の、巻縮伸張率は、231%と優れていた。参考のため、ポリマーP1を溶融し、単独で225℃、直径0.2mmのオリフィスより紡出し、以下延伸糸Y1と同様にして延伸糸R1を得た。同じくコポリマーBP1から得た延伸糸をR2とする。R1およびR2の熱収縮率は、それぞれ11.4%、および37.4%であった。
【0036】実施例2実施例1のPBSとポリマーP1のペレットを2/3で混合し、220℃のスクリュー押出機で溶融し、素子30個を持つケニックス型静止混合器を通した後複合紡糸口金に供給し、別に溶融したポリマーP1と図1のような並列型に複合し、以下実施例1の延伸糸Y1と同様にして、延伸糸Y2を得た。延伸糸Y2の強度は4.1g/d、伸度27%、100℃の水中で巻縮発現させた時の、巻縮伸張率は、202%と優れていた。参考のため、上記PBS/P1混合ポリマーから得た延伸糸R3の収縮率は29.6%、DSC分析による融点は174℃と110℃で、溶融吸熱量はそれぞれ26.3J/gおよび25.5J/gであった。
【0037】
【発明の効果】本発明によって、自然分解性であり環境汚染することが少なく、しかも柔軟性、嵩高性、弾力性、耐熱性などにすぐれた編物、織物、不織布などを製造することが出来る新規な自発巻縮性複合繊維が提供され、各種衣料、工業資材、産業資材、家庭用品などに好適に利用可能となった。本発明繊維は、溶融紡糸が容易であるため、製造能率が高く低コストであり、色々な強さの巻縮を容易に発現させることが出来るため、使い易く、応用範囲が極めて広い。一般に、脂肪族ポリエステル繊維は、自然環境下で分解するだけでなく、従来使われた合成繊維よりも燃焼時の発熱量が少なく、焼却も容易である。なかでもポリ乳酸は、原料の乳酸は農産物から発酵法などで得られ、自然の物質循環系の中に組み込まれるので、空気中の炭酸ガスを増加させることがなく、ポリ乳酸を主成分とする脂肪族ポリエステルは、環境保護の見地から最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明複合繊維の横断面を例示するもので、(a)は円形断面の並列型複合、(b)は非円形断面の並列型複合、(c)は偏心芯鞘型複合、(d)は、3層並列型複合、(e)は中空並列型複合の例である。
【図2】融点が20℃以上異なる2つの結晶性脂肪族ポリエステルがブロック共重合または混合された組成物の、走査型示差熱量計(DSC)による、結晶の溶融による吸熱ピークを示す曲線(DSC曲線)である。
【符号の説明】
1重合体(A) 2組成物(B) 3中空部
4低融点成分の溶融による吸熱ピーク
5高融点成分の結晶化による発熱ピーク
6高融点成分の溶融による吸熱ピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】融点140℃以上且つ溶融時の吸熱量が20ジュール/グラム以上の結晶性脂肪族ポリエステル重合体(A)と、融点が20℃以上異なる少なくとも2種の結晶性脂肪族ポリエステルのブロック共重合体または/及び混合体であり、且つ融点130℃以上、溶融吸熱量3ジュール/グラム以上の高融点成分(X)を90〜10重量%、および融点40〜120℃、溶融吸熱量3ジュール/グラム以上の低融点成分(Y)を10〜90重量%含む組成物(B)とが、単一繊維内で偏心的に接合されていることを特徴とする自発巻縮性複合繊維。
【請求項2】重合体(A)が、融点が160℃以上、溶融時の吸熱量が40ジュール/グラム以上であり、組成物(B)が、融点が30℃以上異なる複数の脂肪族ポリエステルを成分とするブロック共重合体または/及び混合体であり、且つ重合体(A)と組成物(B)の高融点成分(X)とが同一または類似のポリマーである、請求項1記載の複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平10−88425
【公開日】平成10年(1998)4月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−238115
【出願日】平成8年(1996)9月9日
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(000000952)鐘紡株式会社 (120)