説明

自走収穫装置およびその改造キット

【課題】 ほうれん草等の収穫作業に好適な自走収穫装置を提供する。
【解決手段】 管理機(11)および、それに装着可能な換装器具(20)で構成され、畝の作付け幅(W)を超えるように軌間(G)を定め、畝の両側に形成された通路(5)を管理機(11)の駆動輪(12),(12)がトレース可能な長さの車軸(13)と、通路(5),(5)の片方に沿った辺(X)およびこの辺(X)に直角で前記車軸(13)に平行な辺(Y)そして前記各辺(X),(Y)の端部を結び前記作付け幅(W)を含む斜辺(Z)により形成される直角三角形を含むフレームと、このフレームの一部により換装器具(20)を管理機(11)に固定する連結部(17),(18)と、斜辺(Z)に平行な刃渡りを有し畝(4)の地表(A)直下の土中に潜らせて前に切り込み可能な刃物(7)と、を備えた葉菜類(1)の自走収穫装置(10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の耕運機または田植え機等の自走農機具に、交換装着可能な目的別の換装器具を装着した自走収穫装置に関し、特にほうれん草、小松菜および青梗菜(ちんげんさい)等を含む柔らかな葉菜(ようさい)類の収穫に好適な自走収穫装置およびその改造キットに関する。
【背景技術】
【0002】
簡易小型の耕運機または田植え機等の自走農機具に、交換装着可能な目的別の換装器具を装着した自走収穫装置として、左右の畝に土を耕耘して覆土しながら畝間に種子を播く播種機。すなわち、圃場を走行する機体に、播種溝を形成する溝切り器と、溝切り器の直前で圃場を耕運すると共に耕耘した土を溝切り器の前面側に送り出しながら両外側に払い上げる左右一対の回転耕耘爪と、前記溝切り器の溝切り深さ及び前記一対の回転耕耘爪の耕耘深さを調節する尾輪と、該尾輪の回転力により駆動され前記溝切り器の後方で前記播種溝に種子を落下させる播種機構とを取り付けた播種機がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−272208号公報(段落0004、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、種まき以上の重労働として収穫作業がある。この収穫作業の全てを人手に委ねた場合、地表直近の地下に根付いた作物の根を、手に持った鎌で引き寄せながら切断する作業の繰り返しであるため、腰をかがめる無理な姿勢の継続を余儀なくされ腰を痛める等、不健康極まりない。
一方、大規模農場用の大型コンバインは周知のとおり、米、麦、ジャガイモ等の主食用作物に適用されていたが、国内の小規模畑作または狭隘なビニールハウス内の収穫作業には不適であり、小回りのきく手軽な自走収穫装置はなかった。
また、小規模畑作農家にとって過度の経済的負担なく購入可能な価格設定も必須の要件である。
【0005】
このような課題のもと、葉菜類の収穫作業を機械化して支援することにより重労働を軽作業程度に軽減することが可能であり、老人または女性であっても手軽に取り扱える簡便な農機具が望まれていた。
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、ビニールハウス内の限られた広さ、比較的狭隘な圃場で栽培される作物として、例えば、ほうれん草、小松菜および青梗菜(ちんげんさい)等を含む柔らかな葉菜類の収穫作業に好適な自走収穫装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、収穫前の葉菜類(1)を無傷で跨ぎ越せる車輪構成による駆動輪(12),(12)を具備し後方に延設されたハンドルバー(2)の運転操作により自走可能な管理機(11)と、前記管理機(11)に交換装着可能な目的別の換装器具(20)と、を備えた葉菜類(1)の自走収穫装置(10)であって、圃場の畝(4)の作付け幅(W)を超えるように軌間(G)を定め前記畝(4)の両側に形成された通路(5)を前記駆動輪(12),(12)がトレース可能な長さの車軸(13)と、前記通路(5),(5)の片方に沿った辺(X)、および前記辺(X)に直角で前記車軸(13)に平行な辺(Y)、そして前記各辺(X),(Y)の端部を結び前記作付け幅(W)に対応する斜辺(Z)により形成される直角三角形を含むフレームと、
前記フレームの一部により前記換装器具(20)を前記管理機(11)に固定する連結部(17),(18)と、前記斜辺(Z)に平行な刃渡りを有し前記畝(4)の地表(A)の直下を進行方向に切り込み可能な刃物(7)と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項1の発明によれば、自走収穫装置(10)は、圃場において、例えば、細長く4条植えされた畝(4)の作付け幅(W)を跨いで余るような車幅を形成するように、車軸(13)の両端に軸支された駆動輪(12),(12)が軌間(G)を設定し、ハンドルバー(2)の運転操作により、畝(4)を跨ぎながら、その両側に形成された通路(5),(5)を、駆動輪(12),(12)がトレースするように自走させる。
【0008】
このとき、畝(4)の作付け幅(W)を含む斜めの刃渡りを有する刃物(7)が、自走収穫装置(10)の前進にともなって、畝(4)に栽培された葉菜類(1)の根を、地表(A)の直下で作付け幅(W)ごとに一括切断する。
【0009】
そして、自走収穫装置(10)の車幅は、細長い列に栽培するようにした畝(4)の作付け幅(W)と同程度の小型であるため、ビニールハウス内の限られた広さ、比較的狭隘な圃場での使用に好適であり、そこで栽培される、ほうれん草または小松菜および青梗菜等を含む柔らかな葉菜類(1)の収穫作業を機械化して支援することにより重労働を軽減することが可能である。しかも、簡素な構成であるため、老人または女性であっても手軽に取り扱える簡便・安価な自走収穫装置(10)を提供することができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の自走収穫装置(10)に加えて、前記駆動輪(12),(12)の各1輪づつを回転自在に収納するタイヤハウス(6e)の後部に作業者(3)が歩行可能なスペースを確保し進行方向に沿って前記換装器具(20)の両側に一対をなして配設された舟形のフェンダ(6)を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明によれば、前記駆動輪(12),(12)がトレースして通行する通路(5),(5)上に被さるように繁り、または倒れた葉菜類(1)を、舟形のフェンダ(6)が、すくい起こして掻き分けるので、踏みつける損害を減少することが可能になる。また、フェンダ(6)は通路(5)にほぼ一致するので、作業者(3)は視点を前方に見据えたまま、足元に注意力をはらわずに、葉菜類(1)を踏みつける損害を避けられる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2に記載の自走収穫装置(10)に加えて、前記フェンダ(6)の先端部の仰角を上下に調整して任意に固定する仰角調整手段(6a)と、前記仰角調整手段(6a)により仰角調整自在の舳先を形成するようにヒンジ(6b)を介して配設された可動舳先部(6c)と、前記フェンダ(6)の後部で下向きに突き出す長さを適宜に調整可能にして固定されるキャスタ尾輪(8L),(8R)と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明によれば、フェンダ(6)の先端部の仰角を上下に調整自在な可動舳先部(6c)が形成されたので、通路(5)上に被さるように繁り、または倒れた葉菜類(1)がない時、あるい路上歩行時には可動舳先部(6c)の仰角を上向きにすることで、可動舳先部(6c)が不必要に地表(A)に接触したり、路上の突起(AS)に衝突したりする害を避けることができる。
【0014】
逆に、可動舳先部(6c)の仰角を下向きにすることで、可動舳先部(6c)を地表(A)または、その直下へ適宜に潜り込ませながら前進するので、通路5上に被さるように繁り、または倒れた葉菜類(1)がある時に、それらをすくい起こす効果を一層高めることが可能となる。
すなわち、自走収穫装置(10)の使用状況、土の柔軟性、作物の直立度(傾き具合)等の状況に応じて可動舳先部(6c)の仰角を最適に加減調整することができる。
【0015】
また、キャスタ尾輪(8L),(8R)を下向きに多く突き出せば、フェンダ(6)の後部が地表(A)から高く持ち上がり、いわゆる車高が高くなって、フェンダ(6)および刃物(7)を地表(A)にこすらなくなるので、路上歩行時には好都合である。逆にキャスタ尾輪(8L),(8R)がフェンダ(6)から少ししか突き出さず、あるいは完全に引っ込めれば、フェンダ(6)の後部を「そり」のように地表(A)に接触させて滑らせるような設定にすることも可能である。
すなわち、自走収穫装置(10)の使用状況、作物別の切断高さ、土の柔軟性、畝(4)と通路(5)の高低差等の状況に応じてキャスタ尾輪(8L),(8R)の下向き突き出し長さを最適に加減調整することができる。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自走収穫装置(10)に加えて、前記刃物(7)は前進することにより土中に沈むような角度設定であり、前記辺(X)の一部と前記ハンドルバー(2)の一部との間を張架するステー(19)を備え、前記換装器具(20)のうち前記辺(X)側が沈んで傾くローリング力に対抗するようにしたことを特徴とする。
【0017】
請求項4の発明によれば、斜辺(Z)に平行な前記刃物(7)は、前進することにより土中に沈むような角度設定であるが、刃物(7)のうち辺(X)に近い方は、斜め前方から斜め後方にかけてより多くの土に押されるため沈下力が大きく、刃物(7)の左右で沈下力の差がモーメント力を生じ、換装器具(20)のうち辺(X)側を大きく沈めて傾けるローリング力となる。
【0018】
前進することにより土に押されて刃物(7)の斜め後方が沈下し前記換装器具(20)にローリング(7)力が生じても、前記管理機(11)は前記駆動輪(12),(12)が前記通路(5),(5)にそれぞれ接地して水平を維持しており、この水平状態の前記管理機(11)の本体から後方に延設されたハンドルバー(2)の一部と前記辺(X)の一部との間に張架されたステー(19)の張力により前記辺(X)に作用する沈下力に対抗して換装器具(20)の水平を維持できる。したがって、刃物(7)は葉菜類(1)を地表(A)の直下に設定された正しい深さで安定して切り込むことが可能となる。
【0019】
請求項5の発明は、前記管理機(11)をベースに請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の自走収穫装置(10)へと改造するための改造キットであって、前記管理機(11)は収穫前の葉菜類(1)を無傷で跨ぎ越せる車輪構成の本体から後方に延設されたハンドルバー(2)を実際の進行方向に対してわざと偏向させる角度設定が可能なものであり、前記駆動輪(12),(12)は収穫前の葉菜類(1)の地上高(H)を概ね超える半径で幅(U)が前記通路(5)より細いタイヤであり、前記車軸(13)は前記作付け幅(W)を跨ぐ長さに前記軌間(G)を設定可能あり、前記換装器具(20)を構成する前記フレームは前記通路(5),(5)の片方に沿う辺(X)、および前記辺(X)に直角で前記車軸(13)と平行に固定される辺(Y)、そして前記各辺(X),(Y)の端部を結び前記作付け幅(W)を含む斜辺(Z)により形成される直角三角形を含み、前記フレームの一部を前記管理機(11)に固定するための連結部(18)を具備しており、前記刃物(7)は前記フレームの前記斜辺(Z)に平行な刃渡りを有し前記畝(4)の地表(A)の直下を前進速度で連続して切り込み可能であることを特徴とする。
【0020】
請求項5の発明によれば、請求項1の発明と同等の作用効果がある。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、細長い列に栽培するようにした葉菜類の収穫作業を機械化して支援することにより、重労働を軽減することが可能であり、老人または女性であっても手軽に取り扱える簡便・安価な自走収穫装置を提供できる。
【0022】
請求項2の発明によれば、通路上に被さるように繁り、または倒れた葉菜類を、管理機の駆動輪が踏みつける損害を減少することが可能になる。
【0023】
請求項3の発明によれば、通路上に被さるように繁り、または倒れた葉菜類がない時、あるいは路上歩行時には可動舳先部、フェンダおよび刃物が不必要に地表と接触したり、路上の突起に衝突したりする害を避けることができる。逆に、通路上に被さるように繁り、または倒れた葉菜類がある時に、それらをすくい起こす効果を一層高めることが可能となる。
【0024】
請求項4の発明によれば、地表の直下で正しい深さに設定された刃物により葉菜類を安定して切り込むことが可能となる。
【0025】
請求項5の発明によれば、請求項1の発明と同等の作用効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図にわたり、同一効果の部分には同一符号を付して説明の重複を避ける。図1(a)は本実施形態の自走収穫装置全体の外観斜視図であり、図1(b)は通路上に被さるように繁ったほうれん草をフェンダで掻き分ける説明図である。
【0027】
図1(a)に示す自走収穫装置10は、例えば、ビニールハウス内の限られた広さ、比較的狭隘な圃場で栽培される、ほうれん草、小松菜および青梗菜等を含む柔らかな葉菜類(以下、代表して「ほうれん草」という)を収穫する作業の負担を軽減することを目的としている。ただし、コンバインのような大型の農機具の用途とは異なり、小規模・零細農家の需要に好適なものである。
【0028】
自走収穫装置10は、収穫前の葉菜類を概ね無傷で跨ぎ越せる車高を維持する車輪構成、すなわち1本の車軸13の両端に軸支した駆動輪12,12を、出力1.8kw(2.4ps)程度のエンジンで駆動することにより自走可能な農機具であり、その後方に延設されたハンドルバー2まで含めて重量40kg前後という簡便な本体(以下、「管理機」という)11の後部に、専用の換装器具20を接続して用いる。接続は管理機11の後部にある連結部17と、換装器具20の前部にある連結部18をボルト・ナット14(図4、図5参照)で締結して固定する。
【0029】
なお、本発明の自走収穫装置10は、管理機11と換装器具20がトレーラのように牽引車と被牽引車の連結部のように屈曲可能な柔軟結合ではなく、連結部が一体的に剛性結合することにより2軸4輪車となる。また、自走収穫装置10の後ろから歩行する運転手(以下、「作業者」という)3がハンドルバー2を把持して操作する。
換装器具20は後記説明する辺X、辺Yおよび斜辺Zでなる直角三角形を含む概ね三角柱のフレームで構成され、斜辺Zと平行な刃物7が斜辺Zの下方に配設されている。
【0030】
刃物7の高さにより、ほうれん草1の切断位置が決まるので、高さ調整手段9,9により、キャスタ尾輪8L,8Rの突き出し量を加減できるようになっている。高さ調整手段9は固定ネジを緩めて粗調整し、高さ微調整ハンドル9a,9aを回して微調整する。高さ微調整ハンドル9aは螺旋式の上下微動機構に連動している。
【0031】
図1(a),(b)に示すように、後方が僅かに末広がりのフェンダ6,6,により、通路5に被さるように繁り、または倒れたほうれん草1を、掻き分けながら、自走収穫装置10が前進する。しかも、フェンダ6,6は通路5,5にほぼ一致するので、作業者3は視点を前方に見据えたまま、足元に注意力をはらわずに、歩行に際して足の踏み場の目印となる左側のフェンダ6の末広がりになったタイヤハウス6eの後ろを歩くだけで、通路5にまで被さったほうれん草1を踏まずに安心して前進することができる。
【0032】
図2は収穫作業中の自走収穫装置を示す平面図であり、図3はその正面図である。ただし、通路5を歩く作業者3の姿は図3から省略している。本実施形態の自走収穫装置10では図2および図3に示すように、作付け幅W=約90cmの畝4に、4条植えのほうれん草1が栽培され、その両側に形成された通路5を、駆動輪12,12および後方に配設されたキャスタ尾輪8L,8Rがトレースするように作業者3が操作する。
【0033】
管理機11の具体的な操作方法は、周知につき説明を省略するが、概ね以下のとおりである。自走収穫装置10は、管理機11に軸支されたエンジン駆動の駆動輪12,12により自走可能であり、ハンドルバー2を作業者3が把持した状態で後押しするように歩行しながら運転操作することができる構造であるため、駆動力を用いて路上歩行し、収穫前の圃場に乗り入れて、畝4を跨ぐ要領で進行することにより数条の列をなして栽培(以下、代表して「4条植え」という)された葉菜類(以下、代表して「ほうれん草」という)1を収穫する作業に用いることができる。
【0034】
畝4に4条植えされたほうれん草1と、その両側に形成された通路5は、収穫作業中の自走収穫装置10の駆動輪12,12および後方に配設されたキャスタ尾輪8L,8Rが、踏みつけて傷物にしないため、収穫の便宜その他の目的により形成された栽培管理の方法によるものである。
【0035】
このように、ほうれん草1を踏みつけないために、作業者3は片(進行方向の左)側の通路5のみを歩行するので、管理機11のハンドルバー2は、わざと片(左)側に偏向させ、見かけ上は(右に)舵取りしたような状態で直進するように偏向(サイドスラスト)設定している。ただし、このことは、周知であり、管理機11には予め具備された汎用機能の一つであり、偏向設定の角度調整およびその変更は任意である。
【0036】
また、例えば、ビニールハウス単位または一区画の収穫作業が完了すると、その場で自走収穫装置10にシート等を被せて次の収穫作業が発生するまで一次保管し、順次区画を移動して同様の作業を行うが、移動の際には路上歩行もできる構造であることを後記説明する。
【0037】
市販されている汎用仕様の管理機11の後部には、用途別に交換装着可能な専用の換装器具を装着して用いるのが普通であり、例えば、「耕運機」「田植え機」「播種(種蒔)機」等に仕立てて用いられる。本実施形態における自走収穫装置10の場合は、汎用仕様の管理機11に対し、適切な専用の換装器具20、駆動輪12,12および車軸13までを一式取り揃えた改造キットに含めてセット販売、または、改造を済ませた新品あるいは整備済の中古品を販売できるように商品企画されている。
【0038】
また、車軸13の両端に軸支された駆動輪12,12は、ほうれん草1を4条植えした畝(うね)4の作付け幅である約90cmを跨いで余りあるような軌間Gに設定され、畝4の両側に形成された通路5のみを軌道と定めて鉄道のようにトレースするので、収穫前のほうれん草1を踏みつけて傷めることがない。このように、駆動輪12,12およびキャスタ尾輪8L,8Rが、通路5をトレースするので、説明の便宜上、鉄道でいう「軌道」および「軌間(ゲージ)」の概念を準用している。
【0039】
なお、ここでいう畝4は、収穫の便宜その他の目的で、両側に通路を形成し、作物を細長く列状に植え付けて栽培する一定の作付け幅のところと定義し、特に溝や盛り土がなく平坦な畑であっても、「通路」の間に「一定の作付け幅で栽培された作物の列」があれば畝4とする。
【0040】
換装器具20を平面視すると、各辺の比率が辺X:辺Y:斜辺Z=約3:4:5の略直角三角形を含む台形(以下、略して「直角三角形」という)であり、その直角三角形により天面と底面を構成するような短い柱状にフレーム構成されている。なお、直角三角形の三辺を他の比率にした場合、斜辺Zの長さおよび内角を整合して概ね直角三角形にすればよいが、斜辺Zに従属する刃物7と進行方向との設定角度が変ることにより切れ味に関係するので、これらの具体的数値説明は実施に際して適宜に決定すべき設計事項につき省略する。
【0041】
また、辺Yは換装器具20の横幅を形成するフレームであり、この横幅は、畝4の作付け幅W、通路5の間隔および駆動輪12,12を軸支する車軸13の長さにほぼ等しい。
その辺Yの中央付近にボルト穴を有する連結部17が配設され、管理機11の連結部18にボルト・ナット14でネジ止めされる(図4参照)。
辺Xは自走収穫装置10の進行方向に沿った右側フレームを構成し、斜辺Zは換装器具20の後部を斜めにフレーム構成している。
【0042】
換装器具20の幅は、畝4の作付け幅W=約90cmに揃え、タイヤの幅Uに対して十分な余裕をもって各1輪づつの駆動輪12を回転自在の状態で収納する舟形のフェンダ6が、それぞれ進行方向に沿って、換装器具20の両側に一対をなして配設されている。そして、ほぼ水平に設定されたフェンダ6の可動舳先部6cは水平前方に対する仰角を上下に調整自在である。
【0043】
この舟形のフェンダ6は、ほうれん草1が4条植えされた栽培列である畝4の両外側にある通路5を、駆動輪12,12に伴って前進する洋に構成されている。そして、地表Aに先端が接触する下向きの角度に設定された可動舳先部6cが、通路5上に被さるように繁り、または倒れかかった収穫前のほうれん草1を、舟の舳先のように掻き分けながらすくい起こすので、ほうれん草1は駆動輪12,12、キャスタ尾輪8L,8Rおよび作業者3に踏みつけられず、良好な状態を維持して収穫することが可能である。
【0044】
なお、キャスタ尾輪8L,8Rは、フェンダ6の後部に、それぞれが配設され、駆動輪12,12と共に、自走収穫装置10全体として平面視点で台形の配置による合計4輪を具備した車両を形成している。つまり、キャスタ尾輪8Lは前寄りに、キャスタ尾輪8Rは後寄りに不均等な配置である。この、不均等な配置であるために、前寄りに配設されたキャスタ尾輪8Lの直後に作業者3が付いて歩くためのスペースが存在するのである。
【0045】
図4は収穫作業中の自走収穫装置を示す側面図であり、図5は路上歩行中の自走収穫装置を示す側面図である。図4に示すように、フェンダ6が圃場の地表Aから所定間隔だけ浮いた状態が維持されるように、下向きに突き出すキャスタ尾輪8L,8Rの長さを適宜に調整可能にして固定されている。
【0046】
つまり、キャスタ尾輪8L,8Rを下向きに多く突き出せば、フェンダ6の後部が地表Aから高く持ち上がり、車高が高くなって、フェンダ6および刃物7を地表Aにこすらなくなるので、路上歩行時には好都合である。逆にキャスタ尾輪8L,8Rがフェンダ6から少ししか突き出さず、あるいは完全に引っ込められると、フェンダ6の後部を「そり」のように地表Aに接触させて滑らせるような設定にすることも可能である。
【0047】
実際の運用上、通路5上に被さるように繁り、または倒れた葉菜類1がない時、あるいは路上歩行時には、図5に示すように可動舳先部6cの仰角を上向きにすることで、可動舳先部6cが不必要に地表Aと接触し、路上の突起ASに衝突する害を避けることができる。そして、適宜にフェンダ6を地表Aと平行で接触寸前に接近して前進させた場合、通路5上に被さるように繁ったり倒れたりしたほうれん草1があれば、それをすくい起こすことが可能となる。したがって、通路5にまではみ出したほうれん草1があっても踏み潰すことなく収穫できる。
【0048】
換装器具20は、水平に畝4に跨りながら、4状植えの栽培列に沿ってほうれん草1に切り込む刃物7の位置および角度を設定する基準を安定保持するための台車である。換装器具20の斜辺Zに対して垂直に平行移動する高さ調整を自在にした片刃物の直刀のような形状の刃物7が配設され、この刃物7をほうれん草1の収穫に際し、地表Aの直下に潜らせながら進行方向に切り込んで株を切断する。詳しくは、換装器具20における斜辺Zは作付け幅W方向から約37度傾けているので、ほうれん草1の株を刃物7が切断する際に、刃物7の刃物渡り(長手)方向に相対移動する速度を高くするように斜めに株を切るので切れ味がよい。
【0049】
また、地表Aの直下に潜らせた刃物7を所定の深さに設定するためのキャスタ尾輪8L,8Rが斜辺Zの両端近くに一対配設され、換装器具20の後部を支持している。また、管理機11のターンに応じてキャスタ尾輪8L,8Rの向きを自由に変えることができる。なお、キャスタ尾輪8L,8Rが接触する地表Aからの高さは高さ設定手段9の調節加減により適宜に設定可能である。
【0050】
なお、前記直角三角形の辺X:辺Y:斜辺Z=約3:4:5としているのは、試作の結果が良好であったことに加えて、説明の便宜上、各辺を特定したに過ぎず、これに限定する必要はなく概ね直角三角形または直角三角形を含む台形等であれば良い。ただし、斜辺Zの角度は、刃物7の切れ味に関係するだけでなく、斜辺Zの後の通路5に沿って作業者3がついて歩くのに都合良いスペースを与えるようになっている。
【0051】
ここで図3に戻って刃物7に関して説明をする。換装器具20が畝4に跨って前進移動する際に、4条植えされたほうれん草1の作付け幅W=約90cmをカバーする有効刃物渡りの刃物7を、地表Aの直下に差し入れて水平を保持し、自走収穫装置10の前進により刃物を進行させるように斜辺Zの下方に配設したものである。
【0052】
なお、刃のつけ方および構え方は、かんなの刃と類似であるが、刃物7は横長の一枚刃である点が異なる。すなわち研ぎの種類は片面研ぎで、研ぎ角度は約30度前後とし、研がれたテーパ面を下側にした刃が、地中の進行方向に対して斜め下向きで浅く埋まるように設定されている。そうすると、地表Aの直下で、ほうれん草1の根元を切断するのに都合がよい。
【0053】
刃物7は、土中を潜らせる使用に伴って切れ味が悪くなるが、適宜に目の細かいサンダー等により軽く研ぎ直せば十分である。このようにメンテナンスを容易にするためにも、刃物7の材料はごく一般的な鋼材の種類から、いく分か固めのものを採用すれば良い。
【0054】
なお、路上歩行時にはキャスタ尾輪8L,8Rを下向きいっぱいに突き出してフェンダ6の後部を地表Aから高く持ち上げて車高を高くすることにより、自走収穫装置10における刃物7の位置を高くするように高さ設定手段9により調節する。
【0055】
このようにして、換装器具20の尾部、および刃物7を持ち上げるとともに、フェンダ6の可動舳先部6cを上向きにすれば、それらが地表Aを擦らなくなるので、路上歩行時には好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は本実施形態の自走収穫装置全体の外観斜視図である。(b)は通路上に被さるように繁ったほうれん草をフェンダで掻き分ける説明図である。
【図2】収穫作業中の自走収穫装置を示す平面図である。
【図3】収穫作業中の自走収穫装置を示す正面図である。
【図4】収穫作業中の自走収穫装置を示す側面図である。
【図5】路上歩行中の自走収穫装置を示す側面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 葉菜類(ほうれん草)
2 ハンドルバー
3 作業者(運転手)
4 畝(うね)
5 通路
6a 仰角調整手段
6b ヒンジ
6c 可動舳先部
6d フェンダハンガ
6e タイヤハウス
6 フェンダ
7 刃物
8L,8R キャスタ尾輪
9 高さ設定手段
9a 高さ微調整ハンドル
10 自走収穫装置
11 管理機
12 駆動輪
13 車軸
14 ボルト・ナット
17,18 連結部
19 ステー
19a ターンバックル
20 換装器具
A 地表
G 軌間
H 収穫前の葉菜類(ほうれん草)の地上高
U タイヤの幅
W 作付け幅
X,Y 辺
Z 斜辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫前の葉菜類(1)を無傷で跨ぎ越せる車輪構成による駆動輪(12),(12)を具備し後方に延設されたハンドルバー(2)の運転操作により自走可能な管理機(11)と、
前記管理機(11)に交換装着可能な目的別の換装器具(20)と、を備えた葉菜類(1)の自走収穫装置(10)であって、
圃場の畝(4)の作付け幅(W)を超えるように軌間(G)を定め前記畝(4)の両側に形成された通路(5)を前記駆動輪(12),(12)がトレース可能な長さの車軸(13)と、
前記通路(5),(5)の片方に沿った辺(X)、および前記辺(X)に直角で前記車軸(13)に平行な辺(Y)、そして前記各辺(X),(Y)の端部を結び前記作付け幅(W)に対応する斜辺(Z)により形成される直角三角形を含むフレームと、
前記フレームの一部により前記換装器具(20)を前記管理機(11)に固定する連結部(17),(18)と、
前記斜辺(Z)に平行な刃渡りを有し前記畝(4)の地表(A)の直下を進行方向に切り込み可能な刃物(7)と、を備えたことを特徴とする自走収穫装置(10)。
【請求項2】
前記駆動輪(12),(12)の各1輪づつを回転自在に収納するタイヤハウス(6e)の後部に作業者(3)が歩行可能なスペースを確保し進行方向に沿って前記換装器具(20)の両側に一対をなして配設された舟形のフェンダ(6)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の自走収穫装置(10)。
【請求項3】
前記フェンダ(6)の先端部の仰角を上下に調整して任意に固定する仰角調整手段(6a)と、
前記仰角調整手段(6a)により仰角調整自在の舳先を形成するようにヒンジ(6b)を介して配設された可動舳先部(6c)と、
前記フェンダ(6)の後部で下向きに突き出す長さを適宜に調整可能にして固定されるキャスタ尾輪(8L),(8R)と、を備えたことを特徴とする請求項2に記載の自走収穫装置(10)。
【請求項4】
前記刃物(7)は前進することにより土中に沈むような角度設定であり、
前記辺(X)の一部と前記ハンドルバー(2)の一部との間を張架するステー(19)を備え、
前記換装器具(20)のうち前記辺(X)側が沈んで傾くローリング力に対抗するようにしたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自走収穫装置(10)。
【請求項5】
前記管理機(11)をベースに請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の自走収穫装置(10)へと改造するための改造キットであって、
前記管理機(11)は収穫前の葉菜類(1)を無傷で跨ぎ越せる車輪構成の本体から後方に延設されたハンドルバー(2)を実際の進行方向に対してわざと偏向させる角度設定が可能なものであり、
前記駆動輪(12),(12)は収穫前の葉菜類(1)の地上高(H)を概ね超える半径で幅(U)が前記通路(5)より細いタイヤであり、
前記車軸(13)は前記作付け幅(W)を跨ぐ長さに前記軌間(G)を設定可能あり、
前記換装器具(20)を構成する前記フレームは前記通路(5),(5)の片方に沿う辺(X)、および前記辺(X)に直角で前記車軸(13)と平行に固定される辺(Y)、そして前記各辺(X),(Y)の端部を結び前記作付け幅(W)を含む斜辺(Z)により形成される直角三角形を含み、前記フレームの一部を前記管理機(11)に固定するための連結部(18)を具備しており、
前記刃物(7)は前記フレームの前記斜辺(Z)に平行な刃渡りを有し前記畝(4)の地表(A)の直下を前進速度で連続して切り込み可能であることを特徴とする自走収穫装置の改造キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−166881(P2006−166881A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368001(P2004−368001)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000188940)株式会社マツモト (11)
【Fターム(参考)】