説明

臭素化化合物を分析する方法及び装置

【課題】可燃性材料中に含まれるPBB、PBDE等の有害な臭素化化合物を分析するためのものであって、測定用試料を作成するための前処理が不要であるばかりでなく、低価格な装置と簡単な分析技術を使用して高精度及び高感度な分析を実施できる分析方法を提供すること。
【解決手段】可燃性材料の試料を耐熱性の材料からなる支持体上に載置することと、その試料を燃焼させることと、その試料の燃焼過程の初期の段階において、試料から蒸発し、飛散せしめられた初期蒸発成分を含む燃焼ガスを被検基板上に堆積させることと、被検基板上の堆積物を検査して臭素化化合物を検出し、分析することとでもって分析を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外分光法、ラマン分光法等の分光測定による臭素系難燃剤、特にそれに含まれる揮発性の有害化合物の分析技術に関し、さらに詳しく述べると、プラスチック材料、ゴム材料などに配合された臭素系難燃剤に含まれる残留性有機汚染物質、とりわけポリブロモビフェニル(PBB)、ポリブロモジフェニルエーテル(PBDE)、例えばデカブロモジフェニルエーテル(DBDE)等あるいはその他の揮発性臭素化化合物を低価格な装置と簡単な分析技術を使用して高精度及び高感度で分析する方法及び装置に関する。本発明の分析方法及び分析装置は、例えば、電子機器、家電製品などのプラスチック部材中で用いられている臭素系難燃剤の臭素化化合物を分析するのにとりわけ有用である。
【背景技術】
【0002】
電子機器、家電製品、医療機器などにおいて、高温にさらされる部材や高電圧にさらされる部材を例えばプラスチック材料や合成ゴムなどから製造する場合、それらの材料中に難燃剤を配合することがしばしば行われている。また、いろいろなタイプの難燃剤が知られているが、最近着目されているものに、例えばPBB、PBDE等の臭素系難燃剤がある。なぜなら、これらの難燃剤は、例えば300〜600℃の高温で燃焼したときにダイオキシン並みの有毒物質(例えば、臭素化ダイオキシン類)を発生するばかりでなく、環境ホルモン(ホルモンかく乱物質)として人体等に作用するおそれがある。
【0003】
このような重大な問題にかんがみて、臭素系難燃剤の使用を規制する動きが主要国において進んでいる。特に典型的な例は、欧州(EU)で、2006年7月1日付けで施行される「特定有害物質使用制限に関する指令」(RoHS指令;Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment)によれば、PBB、PBDEなどを電子機器、家庭用電化製品などで使用することが禁止されている。実際、これらの製品中に含まれるPBB、PBDEなどの有害物質は、1,000ppm以下の低濃度にする必要がある。また、これらの製品を製造する業者は、使用するプラスチック材料やゴム材料にPBB、PBDEなどの有害物質が含まれているか否か、製造の製造に先駆けて正確に分析しなければならない。
【0004】
電子機器や家電製品において、それらの製造に使用されているプラスチック材料中の難燃剤やそれに係わる元素を分析したり検出したりする技法は、従前より行われている。例えば、特許文献1は、一端に開口部を有する小室と、前記開口部に当接する樹脂検体を熱分解する手段と、樹脂検体から発生する分解ガスを小室内に導入し赤外線分光手段に搬送する手段と、前記赤外線分光手段で得られたスペクトルを予め作成されている樹脂のスペクトルと比較照合する手段とを具備してなる樹脂の識別装置を記載している。なお、この特許文献は、PBB、PBDEなどの有害物質の検出については記載していない。
【0005】
また、特許文献2は、分光分析対象である樹脂等の材料をレーザー光の照射によって熱分解させ、その熱分解ガスから赤外吸収スペクトルを得る熱分解赤外分光法を用いた分光分析システムを記載している。なお、この特許文献も、PBB、PBDEなどの有害物質の検出については記載していない。
【0006】
特許文献3は、PBB、PBDEなどの有害物質の検出については記載している。すなわち、この特許文献は、未知のプラスチックを母材とする測定対象物に所定の物質(PBDE又はPBB)が含まれているか否かを判定するプログラムであって、測定対象物をそのままフーリエ変換赤外分光光度法(FTIR)に供することより得られるスペクトルを利用することを特徴とする添加物質含有判定プログラムを記載している。しかし、この特許文献では、測定対象物として未知のプラスチックをそのまま使用することしか記載していない。
【0007】
上記の事実から理解されるように、プラスチック材料中の難燃剤やそれに係わる元素を分析したり検出したりする従来の技法は、用いられる分析装置や分析システムの構造が複雑であり、分析操作も非常に煩雑である。また、一般的に、低価格の装置と簡便な分析技術を使用したのでは、低感度な分析しか行うことができず、反対に高価格の装置を使用した場合には、高感度な分析が可能となるが、専門的な分析技術が必要となる。
【0008】
さらに具体的に説明すると、低価格の装置とは、赤外分光装置やラマン分光装置などであり、1,000万円以下で商業的に入手できる。しかし、これらの分光装置では、PBDE、PBB等の測定対象化合物が1重量%以上の量でプラスチック中に含まれる場合に限って検出可能であり、高感度の分析を望むことができない。また、プラスチックに特有の赤外ピークと測定対象化合物に特有のピークが近接する場合には同定不可能となる。
【0009】
一方、高価格の装置には、ガスクロマトグラフィ質量分析装置が該当し、2,000万円以上の高価格である。しかし、この質量分析装置で分析する場合であっても、測定用試料を作成するための前処理(溶媒抽出操作)が必須であり、分析作業が煩雑である。また、この質量分析装置の場合には、測定用試料の材質により、溶媒抽出のための適切な溶媒を見出せない場合も存在する。さらに、このような場合には、たとえ測定装置の感度が高い場合であっても、測定対象化合物は極めて微量でしか存在していないので、その化合物を検出できないこととなる。
【0010】
【特許文献1】特開2000−292350号公報(特許請求の範囲、段落0007〜0013、図1)
【特許文献2】特開2000−241321号公報(特許請求の範囲、図1)
【特許文献3】特開2005−283336号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来の分析技術の問題点を解決することを目的とする。
【0012】
本発明の目的は、プラスチック材料や合成ゴムなどに難燃剤として配合されている例えばポリブロモビフェニル(PBB)、ポリブロモジフェニルエーテル(PBDE)等の有害な臭素化化合物を分析するためのものであって、測定用試料を作成するための前処理が不要であるばかりでなく、低価格な装置と簡単な分析技術を使用して高精度及び高感度な分析を実施できる分析方法及び分析装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、測定対象の臭素化化合物が微量でしか存在しなくともその検出が可能であり、かつ例えばプラスチック材料や合成ゴムなどに特有の赤外ピークと臭素化化合物の赤外ピークが近接する場合であっても臭素化化合物の同定が可能な分析方法及び分析装置を提供することにある。
【0014】
さらに、本発明の目的は、電子機器、家電製品、医療機器やその他の製品においてプラスチック部材や合成ゴム部材などで用いられている臭素系難燃剤のPBB、PBDE等の臭素化化合物を分析するのにとりわけ有用な分析方法及び分析装置を提供することにある。
【0015】
さらにまた、本発明の目的は、EUのRoHS指令をクリアして、PBB、PBDEなどを含まないかもしくは、たとえ含んだとしても、1,000ppm以下の量でしか含まない電子機器、家庭製品等を提供するのに有用な分析方法及び分析装置を提供することにある。
【0016】
本発明の上記した目的やその他の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記した目的を達成するために鋭意研究した結果、臭素系難燃剤として使用されるPBB、PBDE等の臭素化化合物は比較的に低温で蒸発可能であることに着目し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、プラスチック部材や合成ゴム部材などの被検試料をそのままフーリエ変換赤外分光光度法で分析したり、被検試料の燃焼により発生した燃焼ガスを回収して赤外線分光手段で分析するのではなくて、被検試料を加熱して、その加熱過程の初期に蒸発した臭素化化合物を被検基板上に堆積させ、その臭素化化合物が堆積した基板を試験片として、分光分析を行うものである。分光分析法としては、例えば、反射法あるいは透過法による赤外分光分析を挙げることができる。
【0018】
本発明は、その1つの面において、燃焼時に有害な臭素化化合物を発生し得る可燃性材料中に含まれる臭素化化合物を分析する方法であって、
前記可燃性材料の試料を耐熱性の材料からなる支持体上に載置することと、
前記可燃性材料の試料を加熱することと、
前記試料の加熱過程において、前記試料から蒸発し、飛散せしめられた気化成分を被検基板上に堆積させることと、
前記被検基板上の堆積物を検査して前記臭素化化合物を検出し、分析することと
を含んでなることを特徴とする臭素化化合物を分析する方法にある。
【0019】
また、本発明は、そのもう1つの面において、燃焼時に有害な臭素化化合物を発生し得る可燃性材料中に含まれる臭素化化合物を分析する装置であって、
前記可燃性材料の試料を載置するためのものであって、耐熱性の材料からなる支持体と、
前記支持体の近傍に配置されたものであって、前記可燃性材料の試料を加熱するための加熱手段と、
前記支持体の上方に配置されたものであって、前記試料の加熱により前記試料から蒸発し、飛散せしめられた気化成分を堆積させるための被検基板と、
前記被検基板上の堆積物を検査して前記臭素化化合物を検出し、分析するための分析機器と
を含んでなることを特徴とする臭素化化合物を分析する装置にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、プラスチック材料や合成ゴムなどに難燃剤として配合されている例えばPBB、PBDE等の有害な臭素化化合物を分析するのに有用な分析方法及び分析装置を提供することができる。また、本発明の方法及び装置の場合、従来の分析技術とは対照的に、測定用試料を作成するための前処理が不要であるばかりでなく、低価格な装置と簡単な分析技術を使用して高精度及び高感度な分析を実施できる。さらに、本発明の方法及び装置は、PBB、PBDE等の分析に有利に利用できることはもちろんのこと、加熱時、プラスチック材料や合成ゴムなどの燃焼に先がけて蒸発し、気化可能な任意の揮発性化合物の分析にも有利に使用することができる。
【0021】
また、本発明によれば、測定対象の臭素化化合物はプラスチック材料や合成ゴムなどに多量に存在している必要はなく、臭素化化合物が微量でしか存在しなくともその検出が正確に可能である。また、例えばプラスチック材料や合成ゴムなどに特有の赤外ピークと臭素化化合物の赤外ピークが近接する場合であっても、本発明によれば臭素化化合物の同定が正確に可能である。
【0022】
さらに、本発明によれば、電子機器、家電製品、医療機器やその他の製品においてプラスチック部材や合成ゴム部材などで用いられている臭素系難燃剤のPBB、PBDE等の臭素化化合物を分析するのにとりわけ有利に使用することができる。
【0023】
さらにまた、本発明によれば、EUのRoHS指令やその他の国の関連の規制又は指令をクリアして、PBB、PBDEなどを含まないかもしくは、たとえ含んだとしても、1,000ppm以下の量でしか含まない電子機器、家庭製品等を提供に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明による臭素系難燃剤の分析方法及び分析装置は、それぞれ、いろいろな形態で有利に実施することができる。以下、添付の図面を参照して、本発明をその好ましい実施の形態について説明するが、本発明は、これらの形態に限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明による臭素系難燃剤の分析方法を実施するための装置の好ましい一形態を模式的に示したものである。なお、図示の分析装置10は、ABS樹脂に臭素系難燃剤(DBDE;デカブロモジフェニルエーテル)を配合して作製したプラスチック成形品を試料1として使用して、プラスチック成形品中のDBDEを赤外分光測定装置で定性分析し、同定するためのものである。もちろん、DBDEに代えて、その他の臭素化化合物や揮発性化合物を含むプラスチック成形品やその他の成形品についても、本発明の方法及び装置は実施可能である。
【0026】
図1を参照すると、DBDE分析装置10において用いられる試料2は、上記したように、ABS樹脂にDBDEを配合して作製したプラスチック成形品、すなわち、燃焼時に有害な臭素化化合物を発生し得る可燃性材料である。ここで、可燃性材料は、特に限定されるものではなく、プラスチック材料、合成ゴム材料又はその他の材料を包含する。適当なプラスチック材料は、以下に列挙するものに限定されないが、電子機器や家電製品などで部品の作製に常用されている樹脂、例えばスチレン樹脂、エチレン樹脂など、あるいは強化プラスチック材料を包含する。なお、これらの可燃性材料は、揮発性臭素化化合物の蒸発を目的として加熱するときに燃焼を開始してしまわないこと、換言すると、可燃性材料の燃焼温度は、揮発性臭素化化合物の揮発温度を上回ることが望ましい。
【0027】
可燃性材料中に含まれる有害な臭素化化合物(なお、分析の意図によっては、臭素化化合物が有害成分でなくともよい)は、典型的には、臭素化化合物として従来一般的に用いられているポリブロモビフェニル(PBP)、ポリブロモジフェニルエーテル(PBDE)などである。もちろん、その他の揮発性化合物も分析目的に応じて使用可能である。
【0028】
DBDE分析装置10は、可燃性材料の試料2を載置するための支持体1を備える。支持体1は、試料2の加熱に耐えうる耐熱性の材料から形成されていることが好ましい。一般的には、セラミック材料や耐熱ガラスなどから支持体1を形成することが好ましい。また、支持体1の形状は、特に限定されるものではないが、試料2を安定に載置することの必要性から、平板やシャーレの形態が好適である。
【0029】
可燃性材料の試料2を支持体1の上に載置するとき、いろいろな方法を採用することができる。例えば試料を1回加熱するだけで分析に必要かつ十分な量の臭素化化合物の堆積物を被検基板上に堆積できるのであれば、それに必要な試料を支持体の上に載置すればよい。しかし、試料中に含まれる臭素化化合物の量が微量である場合には、試料を支持体の上に載置し、加熱する工程を繰り返し実施することで、分析に必要かつ十分な量の臭素化化合物の堆積物を被検基板上に堆積させてもよい。この場合には、得られた結果を試料の使用数で割ることによって、求めている臭素化化合物の量を正確に算出することができる。もちろん、試料の載置及び加熱する工程を反復することに代えて、一度に多量の試料2を支持体上に載置し、1回で分析を完了してもよい。
【0030】
DBDE分析装置10は、試料2の加熱のための加熱手段(図示せず)を装備する。加熱手段は、通常、支持体1の近傍、例えば支持体1の下方に配置することが好ましいが、加熱手段の種類(例えば、ニクロム線など)によっては、支持体1の内部に内蔵されていてもよい。
【0031】
加熱手段としては、構造が単純であり、取扱いが容易であるので、例えばホットプレートを有利に使用することができる。ホットプレートは、支持体1に兼用で使用してもよく、ホットプレートの上に別に用意した支持体1を載せて使用してもよい。ホットプレート以外の加熱手段としては、例えば、電熱器、赤外線ヒーター、マイクロ波加熱などを挙げることができる。
【0032】
本発明では、図示のように支持体1の上に試料2を載置して一回ごとに分析を実施してよく、さもなければ、支持体1を可動式にして、断続的あるいは連続的に分析を実施してもよい。例えば、図示していないが、複数個の支持体を例えばベルトコンベヤのような搬送手段の上に載置して分析装置内を水平方向に移動可能に配置した後、それぞれの支持体の上に試料を載置すると、支持体の移動に連動させて、それぞれの支持体上の試料を順次加熱し、分析することができる。ここで、搬送手段は、分析目的や条件などに応じて、断続的に案内してもよく、連続的に案内してもよい。
【0033】
DBDE分析装置10は、試料2を載置した支持体1に組み合わせて、その支持体1の上方に被検基板3を備える。被検基板3は、試料2の加熱によりその試料から蒸発し、飛散せしめられた気化成分(図中、矢印で示す)を堆積させるためのものであり、図示される通り、被検基板3の下方の表面にDBDEを主として含む堆積物4が形成される。
【0034】
被検基板3は、いろいろな材料から任意の形状で形成することができるけれども、得られる堆積物4の形態(測定の面から、薄膜の形態が好ましい)や、引き続く分析工程における取扱い性などを考慮した場合、図示されるように平板上であることが好ましい。また、平板状の被検基板3は、気化成分の堆積を効果的に行うため、表面粗さ1μm以下の平滑面を備えていることが好ましい。本発明の実施に特に好適な被検基板は、このような表面粗さを備えたガラス基板である。また、必要に応じてシリコン基板を被検基板として使用することもできるが、この場合、シリコン基板の表面に酸化膜形成した後か、さもなければ酸素プラズマ処理等により親水性化処理した後に使用することが好ましい。さらに、表面に金の薄膜をコーティングした基板などを被検基板として有利に使用することができる。金皮膜が存在することで、被検基板と気化成分の堆積物との反応を抑制し、より高度の分析を実施できるからである。
【0035】
被検基板3は、その近傍にさらに冷却手段(図示せず)を備えていることが好ましい。冷却手段は、被検基板3に内蔵されていてもよく、さもなければ、その背面、すなわち、堆積物の形成面とは反対側の面に配置されていてもよい。適当な冷却手段として、例えば、水冷装置、ドライアイスなどを挙げることができる。被検基板3に冷却手段を取り付けることで、被検基板3の表面における気化成分の堆積をより効率的に行うことができ、分析時間の短縮も図ることができる。
【0036】
DBDE分析装置10において、支持体1と被検基板3の間の距離は、分析装置の形状及び寸法、加熱条件などに応じて広く変更することができる。両者の間隔は、例えば、約1〜10cmの範囲であるが、通常、5cm前後で十分であり、装置の小型化にも寄与することができる。
【0037】
DBDE分析装置10はまた、試料2の加熱を効果的に行い、かつ試料からに気化成分の飛散を防止するため、ケーシングあるいはダクト5をさらに有することが好ましい。ケーシング5は、通常、支持体1及び被検基板3を、図示のように、支持体1上の可燃性材料の試料2からの気化ガスがもっぱら被検基板3の堆積面に向かって流動するように相対して配置した後、支持体1及び被検基板3の間を取り囲むようにして構成される。すなわち、ケーシング5は、通常、円筒形もしくは円錐形の加熱室を規定する。また、ケーシング5は、それによって規定される加熱室の上端に、排気のための開口部6を有している。すなわち、ケーシング5は、ダクトのような形態とすることが好ましい。また、ケーシング5の開口部6には、気化ガスを系外に吸引するため、気化ガス吸引装置(図示せず)をさらに配備することが好ましい。
【0038】
図示していないが、DBDE分析装置10は、被検基板上の堆積物を検査してその堆積物中に含まれる臭素化化合物を検出し、分析するための分析機器をさらに有している。ここで使用しうる分析機器は、特に限定されるものではないが、分析出対象が臭素化化合物であることを考慮して、赤外分光分析装置を有利に使用することができる。赤外分光分析装置は、例えば、被検基板上の堆積物を現場で分析するための赤外分光分析装置であり、フーリエ変換赤外分光装置、遠赤外分光装置、近赤外分光装置などを含む。また、ラマンスペクトル分光装置を赤外分光分析装置の代りに有利に使用することができる。必要ならば、赤外分光分析装置以外の分析装置も臭素化化合物の検出及び分析に使用することができる。
【0039】
本発明は、また、燃焼時に有害な臭素化化合物を発生し得る可燃性材料中に含まれる臭素化化合物を分析する方法にある。本発明の分析方法は、例えば上述のようなDBDE分析装置を使用して、好ましくは、下記の工程:
前記可燃性材料の試料を耐熱性の材料からなる支持体上に載置する工程、
前記可燃性材料の試料を加熱する工程、
前記試料の加熱過程において、前記試料から蒸発し、飛散せしめられた気化成分を被検基板上に堆積させる工程、及び
前記被検基板上の堆積物を検査して前記臭素化化合物を検出し、分析する工程
で実施することができる。
【0040】
本発明方法の実施において、それぞれの工程は、DBDE分析装置についての先の説明から容易に理解することができるであろう。
【0041】
補足して説明すると、可燃性材料の試料を加熱する工程において、加熱温度は、試料中に含まれる臭素化化合物やその他の揮発性化合物の揮発温度や可燃性材料の燃焼開始温度に応じて広い範囲で変更することができる。加熱温度は、通常、約200〜300℃の範囲であり、好ましくは、約240〜270℃の範囲である。もちろん、分析対象の化合物の揮発温度が比較的に低い場合には、200℃を下回る温度で加熱工程を実施してもよい。
【0042】
堆積工程では、加熱により蒸発せしめられた気化成分が被検基板上に堆積せしめられる。この場合、堆積物の厚さは、引き続く赤外分光分析に差し障りのない厚さであれば特に制限されないが、通常、約0.01〜10μmの範囲であり、好ましくは、1μm以上である。なお、1回の堆積工程で分析に好適な厚さが得られない場合には、上記したように、試料を多量に使用したり、堆積及び加熱の工程を反復したりすることが推奨される。
【実施例】
【0043】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0044】
実施例1
〔被検試料の調製〕
本例では、図1を参照して先に説明したようなDBDE分析装置を使用して、ABS樹脂中に微量で含まれるデカブロモジフェニルエーテル(DBDE)の分析を実施した。
【0045】
10,000ppm(1.0重量%)の量でDBDEをABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂)に練り込んで、概略で幅5mm×長さ5mm×厚さ1mmのシートを成形した。次いで、得られたシートを液体窒素を冷却材とした凍結粉砕機にかけ、約0.5mm以下の粒径をもったABS微粉末を調製した。約5gのABS微粉末をガラス製のシャーレに入れた後、270℃に設定したホットプレート上に載置した。
【0046】
ABS微粉末を270℃で加熱しながら、付属のエアーポンプで吸引を継続した。ABS微粉末の加熱によって気化したガスが、ホットプレート上に配置したガラス基板の表面に堆積していった。10分間にわたって加熱を継続した後、加熱済みのABS微粉末を廃棄し、再び約5gのABS微粉末(新品)をガラス製のシャーレに入れ、270℃の温度で10分間にわたって加熱を継続した。なお、このABS微粉末の交換と加熱は、合計5回にわたって実施した。この作業により、ガラス基板の表面に白色の物質が堆積していることが肉眼で観察された。
【0047】
〔被検試料の分析〕
上記の工程で得られた白色の物質(被検試料)を同定するため、ZnSe結晶を用いた全反射法によるFT−IR(フーリエ変換赤外吸光分光分析)を実施した。使用した測定装置は、パーキンエルマー社製の「Spectrum One B」(商品名)であった。この測定の結果、図2にプロットしたような分析チャートが得られた。図から理解されるように、揮発性化合物の特性ピークが波数1,350cm−1で明瞭に出現しており、DBDEであることが確認できた。
【0048】
比較例1
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、比較のため、実施例1で作製した概略で幅5mm×長さ5mm×厚さ1mmのシートをそのまま測定用試料として使用した。FT−IRにより分析したところ、図3にプロットしたような分析チャートが得られた。図から理解されるように、波数1,350cm−1においてピークを判別することはできず、DBDEの含有の有無を判断することはできなかった。
【0049】
以上、本発明を特にその最良の形態について説明した。最後のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記として列挙する。
【0050】
(付記1)燃焼時に有害な臭素化化合物を発生し得る可燃性材料中に含まれる臭素化化合物を分析する方法であって、
前記可燃性材料の試料を耐熱性の材料からなる支持体上に載置することと、
前記可燃性材料の試料を加熱することと、
前記試料の加熱過程において、前記試料から蒸発し、飛散せしめられた気化成分を被検基板上に堆積させることと、
前記被検基板上の堆積物を検査して前記臭素化化合物を検出し、分析することと
を含んでなることを特徴とする臭素化化合物を分析する方法。
【0051】
(付記2)前記被検基板上の堆積物を、その堆積工程の現場で分析するかもしくは別の場所に移送して分析することを特徴とする付記1に記載の分析方法。
【0052】
(付記3)前記可燃性材料は、プラスチック材料又は合成ゴム材料であることを特徴とする付記1又は2に記載の分析方法。
【0053】
(付記4)前記プラスチック材料は、電子機器を構成する部材の作製に用いられるものであることを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の分析方法。
【0054】
(付記5)前記臭素化化合物は、臭素系難燃剤に含まれるポリブロモビフェニル又はポリブロモジフェニルエーテルであることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の分析方法。
【0055】
(付記6)前記被検基板は、ガラス基板、表面に酸化膜を有するシリコン基板又は表面に金皮膜を有する基板であるであることを特徴とする付記1〜5のいずれか1項に記載の分析方法。
【0056】
(付記7)前記被検基板は、その近傍にさらに冷却手段を備えていることを特徴とする付記1〜6のいずれか1項に記載の分析方法。
【0057】
(付記8)前記支持体は、その近傍に加熱手段を備えていることを特徴とする付記1〜7のいずれか1項に記載の分析方法。
【0058】
(付記9)前記支持体は、ホットプレートであるかもしくはその上に配置された試料保持部材であることを特徴とする付記1〜8のいずれか1項に記載の分析方法。
【0059】
(付記10)前記支持体は、それぞれ前記可燃性材料の試料を載置した2個もしくはそれ以上の支持体の集合体からなり、前記試料の燃焼部位の下方に配置された加熱手段の上を断続的もしくは連続的に案内されることを特徴とする付記1〜7のいずれか1項に記載の分析方法。
【0060】
(付記11)前記被検基板上の堆積物を200〜300℃の温度で加熱することを特徴とする付記1〜10のいずれか1項に記載の分析方法。
【0061】
(付記12)前記被検基板上の堆積物を、現場で赤外分光分析法によって分析し、前記臭素化化合物を同定することを特徴とする付記1〜11のいずれか1項に記載の分析方法。
【0062】
(付記13)前記被検基板上の堆積物を、フーリエ変換赤外分光装置、遠赤外分光装置、近赤外分光装置又はラマンスペクトル分光装置によって分析し、前記臭素化化合物を同定することを特徴とする付記1〜11のいずれか1項に記載の分析方法。
【0063】
(付記14)前記支持体及び前記被検基板を、前記支持体上の可燃性材料の試料からの気化ガスがもっぱら前記被検基板の堆積面に向かって流動するように配置し、両者をケーシングで囲みかつ前記ケーシングの上方に開口を設けるとともに、気化ガス吸引装置をさらに配備することを特徴とする付記1〜13のいずれか1項に記載の分析方法。
【0064】
(付記15)前記可燃性材料の試料を耐熱性の材料からなる支持体上に載置し、前記可燃性材料の試料を加熱する工程を反復し、分析を行うのに十分な量の堆積物を前記被検基板上に形成することを特徴とする付記1〜14のいずれか1項に記載の分析方法。
【0065】
(付記16)燃焼時に有害な臭素化化合物を発生し得る可燃性材料中に含まれる臭素化化合物を分析する装置であって、
前記可燃性材料の試料を載置するためのものであって、耐熱性の材料からなる支持体と、
前記支持体の近傍に配置されたものであって、前記可燃性材料の試料を加熱するための加熱手段と、
前記支持体の上方に配置されたものであって、前記試料の加熱により前記試料から蒸発し、飛散せしめられた気化成分を堆積させるための被検基板と、
前記被検基板上の堆積物を検査して前記臭素化化合物を検出し、分析するための分析機器と
を含んでなることを特徴とする臭素化化合物を分析する装置。
【0066】
(付記17)前記可燃性材料は、プラスチック材料又は合成ゴム材料であることを特徴とする付記16に記載の分析装置。
【0067】
(付記18)前記プラスチック材料は、電子機器を構成する部材の作製に用いられるものであることを特徴とする付記16又は17に記載の分析装置。
【0068】
(付記19)前記臭素化化合物は、臭素系難燃剤に含まれるポリブロモビフェニル又はポリブロモジフェニルエーテルであることを特徴とする付記16〜18のいずれか1項に記載の分析装置。
【0069】
(付記20)前記被検基板は、ガラス基板、表面に酸化膜を有するシリコン基板又は表面に金皮膜を有する基板であるであることを特徴とする付記16〜19のいずれか1項に記載の分析装置。
【0070】
(付記21)前記被検基板は、その近傍にさらに冷却手段を備えていることを特徴とする付記16〜20のいずれか1項に記載の分析装置。
【0071】
(付記22)前記支持体は、その近傍に加熱手段を備えていることを特徴とする付記16〜21のいずれか1項に記載の分析装置。
【0072】
(付記23)前記支持体は、ホットプレートであるかもしくはその上に配置された試料保持部材であることを特徴とする付記16〜22のいずれか1項に記載の分析装置。
【0073】
(付記24)前記支持体は、それぞれ前記可燃性材料の試料を載置した2個もしくはそれ以上の支持体の集合体からなり、前記試料の燃焼部位の下方に配置された加熱手段の上を断続的もしくは連続的に案内するための移送手段をさらに備えていることを特徴とする付記16〜23のいずれか1項に記載の分析装置。
【0074】
(付記25)前記分析機器は、前記被検基板上の堆積物を現場で分析するための赤外分光分析装置であることを特徴とする付記16〜24のいずれか1項に記載の分析方法。
【0075】
(付記26)前記分析機器は、フーリエ変換赤外分光装置、遠赤外分光装置、近赤外分光装置又はラマンスペクトル分光装置であることを特徴とする付記16〜24のいずれか1項に記載の分析装置。
【0076】
(付記27)前記支持体及び前記被検基板は、前記支持体上の可燃性材料の試料からの気化ガスがもっぱら前記被検基板の堆積面に向かって流動するように相対して配置されており、前記支持体及び前記被検基板の間は、円筒形もしくは円錐形の燃焼室を規定するケーシングで取り囲まれており、前記ケーシングの上端は、気化ガス吸引装置を配備した排気のための開口部を備えていることを特徴とする付記16〜26のいずれか1項に記載の分析装置。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明による臭素系難燃剤の分析装置の好ましい一形態を模式的に示した断面図である。
【図2】実施例1において、ガラス板上に堆積したDBDEの分析結果をプロットした赤外スペクトル図である。
【図3】比較例1において、DBDEを1重量%含有するABSシートの分析結果をプロットした赤外スペクトル図である。
【符号の説明】
【0078】
1 支持体
2 試料
3 被検基板
4 堆積物
5 ケーシング
6 開口部
10 DBDE分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼時に有害な臭素化化合物を発生し得る可燃性材料中に含まれる臭素化化合物を分析する方法であって、
前記可燃性材料の試料を耐熱性の材料からなる支持体上に載置することと、
前記可燃性材料の試料を加熱することと、
前記試料の加熱過程において、前記試料から蒸発し、飛散せしめられた気化成分を被検基板上に堆積させることと、
前記被検基板上の堆積物を検査して前記臭素化化合物を検出し、分析することと
を含んでなることを特徴とする臭素化化合物を分析する方法。
【請求項2】
前記可燃性材料は、プラスチック材料又は合成ゴム材料であることを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記臭素化化合物は、臭素系難燃剤に含まれるポリブロモビフェニル又はポリブロモジフェニルエーテルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記被検基板は、ガラス基板、表面に酸化膜を有するシリコン基板又は表面に金皮膜を有する基板であるであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項5】
前記支持体は、ホットプレートであるかもしくはその上に配置された試料保持部材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項6】
燃焼時に有害な臭素化化合物を発生し得る可燃性材料中に含まれる臭素化化合物を分析する装置であって、
前記可燃性材料の試料を載置するためのものであって、耐熱性の材料からなる支持体と、
前記支持体の近傍に配置されたものであって、前記可燃性材料の試料を加熱するための加熱手段と、
前記支持体の上方に配置されたものであって、前記試料の加熱により前記試料から蒸発し、飛散せしめられた気化成分を堆積させるための被検基板と、
前記被検基板上の堆積物を検査して前記臭素化化合物を検出し、分析するための分析機器と
を含んでなることを特徴とする臭素化化合物を分析する装置。
【請求項7】
前記被検基板は、その近傍にさらに冷却手段を備えていることを特徴とする請求項6に記載の分析装置。
【請求項8】
前記支持体は、その近傍に加熱手段を備えていることを特徴とする請求項6又は7に記載の分析装置。
【請求項9】
前記分析機器は、前記被検基板上の堆積物を現場で分析するための赤外分光分析装置、近赤外分光分析装置、遠赤外分光分析装置又はラマンスペクトル分光分析装置であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−271352(P2007−271352A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95032(P2006−95032)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】