説明

色素増感太陽電池およびその製造方法

【課題】ヨウ素の揮発性を好適に軽減し、太陽電池の安定性を向上することができる色素増感太陽電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】電池10は、透明基板12aと、透明基板12aの表面に形成される透明導電膜14aと、透明導電膜14aと対向して設けられる導電性基板を備え、透明導電膜14aと導電性基板の間に色素を吸着した多孔質半導体層16と電解質18を有する。電解質18は、アミロースのヨウ素錯体を含む。アミロースのヨウ素錯体を構成するアミロースは、例えば数百個程度のα−D−グルコピラノース分子が1,4−縮合した直鎖分子であり、分子式(C10で表されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、湿式太陽電池あるいはグレッツェル電池等と呼ばれ、シリコン半導体を用いることなくヨウ素溶液に代表される電気化学的なセル構造を持つ点に特徴がある。色素増感太陽電池は、具体的には、透明な導電性ガラス板(透明導電膜を積層した透明基板)に二酸化チタン粉末等を焼付け、これに色素を吸着させて形成したチタニア層等の多孔質半導体層と導電性ガラス板(導電性基板)からなる対極の間に電解液としてヨウ素溶液等を配置した、簡易な構造を有する。
色素増感太陽電池は、材料が安価であり、作製に大掛かりな設備を必要としないことから、低コストの太陽電池として注目されている。
【0003】
しかし、従来の色素増感太陽電池は、電解質の成分である有機溶剤やヨウ素が時間の経過とともに揮発して太陽電池の性能が低下するなどの問題があった。
【0004】
上記の問題を改善するために、電解質にヨウ素を用いることなく、有機ホール移動材料や高分子電解質等を用いて電解質を固体化あるいは擬固体化する技術が種々検討されている。
ところが、これらの技術によれば、ヨウ素の揮発性は低下するが、必ずしも十分ではない。
【0005】
これに対して、除放性を有するβ−シクロデキストリンヨウ素包接体を含む電解質溶液を分散させた電子線硬化樹脂を電子線の照射により架橋・硬化させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
この技術によれば、β−シクロデキストリンヨウ素包接体の除放性により電解質溶液の特性を保持しつつ、その電解質溶液を容易に硬化して封止しうるとされている。
【特許文献1】特開2006−19072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の技術においても、従来の他の技術と同様に、ヨウ素の揮発性を必ずしも十分に低下することができないように思われる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ヨウ素の揮発性を好適に軽減し、太陽電池の安定性を向上することができる色素増感太陽電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る色素増感太陽電池は、透明基板と、該透明基板の表面に形成される透明導電膜と、該透明導電膜と対向して設けられる導電性基板を備え、該透明導電膜と該導電性基板の間に色素を吸着した多孔質半導体層と電解質を有する色素増感太陽電池において、 該電解質にアミロースのヨウ素錯体を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、好ましくは、前記アミロースのヨウ素錯体を構成するアミロースがグルカンホスホリラーゼにより酵素合成された完全直鎖状のアミロースであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、好ましくは、 前記アミロースのヨウ素錯体を構成するアミロースの分子量が1,000〜2,000,000であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、上記の色素増感太陽電池の製造方法であって、ポーラスアルミナポア界面にアミロースのヨウ素錯体を表面修飾して用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、上記の色素増感太陽電池の製造方法であって、アミロースのヨウ素錯体を他の成分に配合して電解質を調製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る色素増感太陽電池は、電解質にアミロースのヨウ素錯体を含むため、ヨウ素の揮発性を好適に軽減し、太陽電池の安定性を向上することができる。
また、本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、ポーラスアルミナポア界面にアミロースのヨウ素錯体を表面修飾して用いるので、電解質がゲル化し、液漏れを確実に減少することができる。
また、本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、アミロースのヨウ素錯体を他の成分に配合して電解質を調製するので、上記本発明に係る色素増感太陽電池の効果をより好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0015】
本実施の形態に係る色素増感太陽電池(以下、単に電池ということがある。)は、例えば図1に模式的に示すように、透明基板12aと、透明基板12aの表面に形成される透明導電膜14aと、透明導電膜14aと対向して設けられる導電性基板(対極。図1では、導電性基板は、導電膜14bおよび基板12bで構成される。)を備え、透明導電膜14aと導電性基板の間に色素(図1では図示せず。)を吸着した多孔質半導体層16と電解質18を有する。電解質18は、アミロースのヨウ素錯体を含む。なお、図1中、参照符号20は電池内に電解質18を密閉するために設けられるセパレータを示す。
【0016】
電池10の電解質層20を除く他の構成要素については、それらの種類を特に限定するものではなく、通常使用されるものの中から適宜選定して用いることができる。また、膜厚等も適宜選択することができる。
【0017】
透明基板12a、12bは、例えば、ガラス板であってもよくあるいはプラスチック板であってもよい。
透明導電膜14a、14bは、例えば、ITOであってもよくあるいはSnO等であってもよい。また、透明導電膜(対極)14bは、タングステン、チタンもしくはニッケルまたはこれらの混合物、あるいはこれらの金属化合物を好適に用いることができるが、これら以外にも、例えば表面を不動態化した金属を用いることができる。
【0018】
多孔質半導体層16は、半導体材料として、例えば、チタン、スズ、ジルコニウム、亜鉛、インジウム、タングステン、鉄、ニッケルあるいは銀等の金属の酸化物を用いることができるが、このうち、チタン酸化物(チタニア)がより好ましい。
【0019】
増感色素層18の色素は、例えば、ルテニウム等の遷移金属錯体やフタロシアニン、ポルフィン等の金属あるいは非金属を用いることができる。
【0020】
スパッタ蒸着される良導電性金属として、例えば、白金、導電性高分子、カーボン等のヨウ素で腐食されない物質や金を用いることができる。
【0021】
電解液18は、上記のように、アミロースのヨウ素錯体を含む。アミロースのヨウ素錯体を構成するアミロースは、例えば数百個程度のα−D−グルコピラノース分子が1,4−縮合した直鎖分子であり、分子式(C10で表されるものである。アミロースは、分子量が1,000以上であることが好ましい。分子量の上限は特にないが、入手可能性を考慮し、2,000,000以下程度とする。ここで、分子量は、重量(質量)平均分子量である。
本発明で用いられるアミロースは、本技術分野で公知の方法によって作製され得る。アミロースを作製する例としては、澱粉からの分画による方法が挙げられる。しかし、澱粉から分画されたアミロースは分子量分布が広く、微量の分岐構造を含むことから、厳密な物性の制御が難しい。
アミロースを作製する別の例としては、酵素反応により糖を結合させアミロースを得るという方法が挙げられる。酵素反応によるアミロースの作製方法の中で代表的なものは、グルカンホスホリラーゼを利用する方法がある。グルカンホスホリラーゼによって作製されたアミロースは、完全直鎖状構造であり、分子量分布が狭く、さらに任意の分子量のものを作製できるため、物性の制御が容易であり、本発明の材料として好ましい。
グルカンホスホリラーゼによりアミロースを酵素合成する方法について、例えば分子量1,000,000のアミロースポーラス膜を作製する方法を例にとって説明する。
重量平均分子量1,000,000の酵素合成アミロース4gを蒸留水100gに加熱溶解し、これをポリエステル基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約80μmの乾燥フィルムを得る。この乾燥フィルムを蒸留水に浸漬して給水させた後、凍結乾燥して分子量1,000,000のアミロースポーラスフィルム(アミロースポーラス膜)を作製する。また、このとき、例えばLiIを含有したアミロースポーラスフィルムを得るには、乾燥したアミロースポーラスフィルムをヨウ化リチウム水溶液に浸漬、水洗したのち凍結乾燥することにより作製することができる。
本発明のアミロースのヨウ素錯体は、図2に構造を模式的に示すように、アミロースのらせん構造の内部にヨウ素を直鎖状に包接・配位した構造を有するものと推定され、かかるヨウ素も包接、配位により、複合体(電解質)全体にわたって均一かつ安定したヨウ素機能の発現を得ることができる。
これにより、電解質18の遊離ヨウ素を減少することができる。
なお、一般に、ヨウ素との錯体形成定数は特許文献1のシクロデキストリンに比較してアミロースの方が大きいことが知られている。
【0022】
アミロースは、はじめからヨウ素錯体となっているものを電解質に添加することが好ましいが、これに限らず、アミロースを溶かした電解質に、後でヨウ素を単独で添加して錯体化しても良い。また、ポーラスアルミナポア界面にアミロースのヨウ素錯体を表面修飾して用いることも好ましく、この場合、アミロースのヨウ素錯体は、はじめからヨウ素錯体となっているものであってもよく、また、アミロースを溶かした電解質に、後でヨウ素を単独で添加して錯体化したものであってもよい。
アルミナポーラス膜のアミロースによる修飾は、次のように行われる。アミロースの水溶液、DMSO(Dimethylsulfoxide)溶液、イオン液体溶液をアルミナポーラス膜に滴下し、乾燥すること、または不溶性溶剤に浸漬することにより得られる。アミロース錯体を含む電解液は、液体状態、擬固体状態、固体状態で用いられる。
このようにして調製したアミロースのヨウ素錯体を含む電解質を対極間に注入、配置することで電池10が得られる。
また、電解液18は必要に応じてゲル化剤を用いて固体化されていてもよく、また、アミロースのヨウ素錯体自身がゲル化剤として作用するものであってもよい。アミロースが高分子量体である場合には、溶剤、イオン液体に添加することにより、溶剤、イオン液体をゲル化させることができる。一方、アミロースが低分子量体である場合には、電解質へのアミロースの添加量を多くすることでゲル化させることが可能である。
【0023】
また、電解液18は、アミロースのヨウ素錯体の他に、LiIなどのヨウ素イオン、電圧を上げるためのピリジン誘導体、イオン液体等を含んでいても良い。
【0024】
以上説明した本実施の形態に係る色素増感太陽電池10およびその製造方法によれば、ヨウ素の揮発性が大きく低下し、太陽電池の安定性を向上させることができる。
【実施例】
【0025】
実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0026】
大きさが20mm×30mm、厚さ4mmの透明導電膜付きホウケイ酸ガラスに酸化チタンナノ粒子ペーストを塗布し、500℃で焼成することにより酸化チタンポーラス膜(多孔質半導体層)を作製した。
この膜をスパッタ法により製膜した白金を持つFTO(フッ素ドープ酸化スズ膜)を対極として、50μmのスペーサにより封止した。得られたセルの中に、調整した電解質を注入して、電池(電池セル)を作製した。
【0027】
各実施例および比較例の電池の調製条件および評価結果を表1にまとめて示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1中の各成分や記号等の意味は以下のとおりである。
(チタニア)
酸化チタンナノ粒子ペーストに使用した各チタニア中、D1はDペースト(ソラロニクス製)であり、H1はHペースト(ソラロニクス製)である。膜厚は、D1については、15μmとし、H1については13μmとした。なお、実施例10〜実施例16については、D1およびH1を基板に塗布し、450℃で加熱した。
(色素)
使用した各色素中、N3、N719およびBD(ブラックダイ)は、いずれもソラロニクス製である。
(電解質組成)
調製した電解質の組成は以下のとおりである。各成分の単位はいずれもmM(mMol)である。なお、表1中、数値でなくsolventと表示しているものは、これを主成分とすることを示す。つまり、表のmMolはsolventを基準にして添加した量である。
A:LiI
B:t-butylpyridine
C:Methylethylimidazoliumu tetracyanometanido
D:Methylpropylimidazolium iodide
E:acetonitrile
F:DMSO
G:I2
(アミロース分子量)
amylose(アミロース単独:アミロース分子量)は、アミロースを溶かした電解質に、後でヨウ素を単独で添加して錯体化したときに用いたアミロースの分子量であり、amyloseヨウ素錯体(アミロース分子量)は、はじめからヨウ素錯体となっているものを電解質に添加して用いたときのアミロースヨウ素錯体中のアミロースの分子量である。なお、アミロースは、全て、所定の分子量のアミロースをグルカンホスホリラーゼにより酵素合成したものを用いた。
例えば、実施例1でアミロースヨウ素錯体が50(40K:40,000)とは、分子量が40,000のアミロースを電解質の外数として50質量部(重量部)添加したことを示す。また、実施例9〜実施例11でwt%表示しているものは、電解液(電解質)の内数としての重量%(質量%)であることを示す。
なお、表1中、*2は、ポーラスアルミナポア界面(200nmポア系)に分子量1,000,000のアミロースまたはアミロースヨウ素錯体を表面修飾したものであり、*3は、分子量1,000,000のアミロースポーラス膜であり、*4は、分子量1,000,000のアミロース(ヨウ素、LiI)ポーラス膜である。
(効率)
太陽電池の特性(効率)は、ソーラーシミュレータを用いAM1.5、100mW/cmの擬似太陽光を色素増感太陽電池に照射し、測定した。単位は%である。
(セル作製一ヶ月後の性能:80℃)
セル作製一ヶ月後の性能は、ソーラーシミュレータを用いAM1.5、100mW/cmの擬似太陽光を色素増感太陽電池に照射した条件で測定した効率(セル作製時の効率に対するセル作製一ヶ月後の効率の比:単位%)を示す。
なお、表1中、*1は、イオン液体を含む電解質がアミロースによりゲル固体化したものであることを示す。
【0030】
表1より、電解質にアミロースまたはアミロースヨウ素錯体を用いたものは、いずれも、電解質にアミロースまたはアミロースヨウ素錯体を用いないものに比べて電池の安定性(耐久性)が著しく高いことがわかる。なお、アミロースヨウ素錯体を直接用いたものは、アミロースを用いてヨウ素と錯体化したものに比べてより高い電池の安定性と効率が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施の形態に係る色素増感太陽電池を模式的に例示した断面図である。
【図2】本実施の形態に係る色素増感太陽電池のアミロースのヨウ素錯体の構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 色素増感太陽電池
12a、12b 透明基板
14a、14b 透明導電膜
16 多孔質半導体層
18 電解質
20 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、該透明基板の表面に形成される透明導電膜と、該透明導電膜と対向して設けられる導電性基板を備え、該透明導電膜と該導電性基板の間に色素を吸着した多孔質半導体層と電解質を有する色素増感太陽電池において、
該電解質にアミロースのヨウ素錯体を含むことを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記アミロースのヨウ素錯体を構成するアミロースがグルカンホスホリラーゼにより酵素合成された完全直鎖状のアミロースであることを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記アミロースのヨウ素錯体を構成するアミロースの分子量が1,000〜2,000,000であることを特徴とする請求項1または2記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池の製造方法であって、
ポーラスアルミナポア界面にアミロースのヨウ素錯体を表面修飾して用いることを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池の製造方法であって、
アミロースのヨウ素錯体を他の成分に配合して電解質を調製することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−192520(P2008−192520A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27460(P2007−27460)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(000157108)関東天然瓦斯開発株式会社 (11)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】