説明

芳香族ポリアミドを含む多孔質フィルムおよび蓄電デバイス

【課題】 シャットダウン機能を発現するコート層との密着性を向上させた、芳香族ポリアミドを構成成分とする多孔質フィルムを提供すること。
【解決手段】 芳香族ポリアミドと水溶性ポリマーとを含み、水溶性ポリマーの含有量が、0.1〜10質量%である多孔質フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミドを含む多孔質フィルムに関するものであり、特に蓄電デバイスのセパレータとして好適に使用できる多孔質フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高容量、高電圧、高エネルギー密度の達成が可能な電池として、種々の有機電解液二次電池が知られている。この有機電解液二次電池、例えば、リチウムイオン電池においては、対向配置される正極および負極間に、電解液とともに、両極間にイオンの流通が可能な多孔性高分子フィルムがセパレータとして設けられている。
【0003】
このセパレータには、特にリチウムイオン電池の場合、安全性の面から高耐熱化を、軽量化及び小スペース化の点からは薄膜化が求められている。しかし、現在、一般に使用されているポリエチレンフィルムあるいはポリプロピレンフィルムは、耐熱性に劣るだけでなく、必要とされる強度を保って薄膜化することに限界がある。すなわち、このようなフィルムを単に薄膜化すると、局部的に強度が不十分な箇所や、高温時にセパレータとしての形態保持性が不十分になる箇所が生じることがあり、電池中で引火等の不都合が生じるおそれがあるとともに、所望のイオン透過性を備えたセパレータが形成されなくなるおそれがある。これに対して、芳香族ポリアミドの多孔質フィルムは、剛性が高く薄膜化が可能で、かつ、実質的に融点を持たず耐熱性の高いことから、このような用途に好適である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ただし、リチウムイオン二次電池用のセパレータは、特に携帯電話やノートパソコン等のモバイル用途では、安全対策として130℃付近で透過性が喪失する、所謂シャットダウン性が要求されることがある。芳香族ポリアミドの多孔質フィルムは、実質的に融点を持たないため、シャットダウン機能を発現しないという課題があった。
【0005】
このようなシャットダウン性を有しない多孔性フィルムについては、低融点の樹脂と複合化する様々な方法が提案されている(例えば、特許文献2〜12参照)。これらの中で、特に、低融点の粒子をフィルム表面に塗布することでシャットダウン性を付与する方法が、フィルムの厚みを薄く保てるために好ましい。このような粒子として多くの場合、ポリエチレン製の粒子が使用されるが、ポリエチレンと芳香族ポリアミドでは分子構造が大きく異なり、密着性が低いことが問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−250890号公報
【特許文献2】特開平10−6453号公報
【特許文献3】特開2000−100408号公報
【特許文献4】特開2000−223107号公報
【特許文献5】特開2006−164761号公報
【特許文献6】特開2006−164873号公報
【特許文献7】特開2006−289657号公報
【特許文献8】特開2007−149507号公報
【特許文献9】特開2007−275580号公報
【特許文献10】特開2007−299612号公報
【特許文献11】特開2007−324073号公報
【特許文献12】特開2008−41606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、シャットダウン機能を発現するコート層との密着性を向上させた、芳香族ポリアミドを構成成分とする多孔質フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、芳香族ポリアミドと水溶性ポリマーとを含み、水溶性ポリマーの含有量が0.1〜10質量%である多孔質フィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔質フィルムは、水溶性ポリマーを含有することで、フィルム上にコート層を形成する場合、コート層との密着性が向上する。このため、芳香族ポリアミドの特徴である耐熱性を保持し、かつ、コート層により高温で透過性を喪失する、所謂シャットダウン性を両立でき、蓄電デバイスのセパレータ用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における芳香族ポリアミドとしては、例えば、次の式(1)及び/又は式(2)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
ここで、Ar、Ar、Arの基としては、例えば、
【0015】
【化3】

【0016】
等が挙げられ、X、Yの基は、−O−、−CH−、−CO−、−CO−、−S−、−SO−、−C(CH−等から選ばれるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
更に、これら芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素等のハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチルやエチル、プロピル等のアルキル基(特にメチル基)、メトキシやエトキシ、プロポキシ等のアルコキシ基等の置換基で置換されているものが、吸湿率を低下させ、湿度変化による寸法変化が小さくなるため好ましい。また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。
【0018】
本発明に用いられる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有しているものが、全芳香環の80モル%以上、より好ましくは90モル%以上を占めていることが好ましい。ここでいうパラ配向性とは、芳香環上主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が80モル%未満の場合、フィルムのヤング率、破断強度および熱収縮率が悪化する場合がある。更に、芳香族ポリアミドが式(3)で表される繰り返し単位を60モル%以上含有する場合、延伸性及びフィルム物性が特に優れることから好ましい。
式(3):
【0019】
【化4】

【0020】
本発明の多孔質フィルムは、芳香族ポリアミドと水溶性ポリマーとを含むフィルムであって、水溶性ポリマーの含有量が、0.1〜10質量%である。本発明の多孔質フィルムをリチウムイオン電池用セパレータにとして使用する場合、モバイル用途では、シャットダウン機能を発現するコート層を形成することが好ましいが、このようなコート層は水の懸濁液としてコートされることが多く、水溶性ポリマーを含有することで、コート液のはじきが少なく、より均一にコートすることが可能となる。0.1質量%未満では、コート液のはじきが多くなり、部分的にコート層が形成されなかったり、コート層の厚みが薄い部分の密着性が低下したりすることがある。一方、10質量%を超えると多孔質フィルムの吸湿性が高くなり、電池特性が悪化することがある。電池特性に悪影響を与えることなく、コート層の均一性を上げることが可能になることから、1〜6質量%であることがより好ましく、2〜5質量%であることが更に好ましい。
【0021】
なお、コート層がある場合は、コート層を除き、芳香族ポリアミドフィルム部分のみを100質量%として水溶性ポリマーの含有量を算出する。
【0022】
更に、水溶性ポリマーは、極性の置換基、特に、水酸基、アシル基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を含有するポリマーであると、コート層のバインダーとの相互作用が強くなり、密着性がより向上するため好ましい。
【0023】
このような水溶性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられるが、芳香族ポリアミドとの相溶性が良いポリビニルピロリドンが、セパレータとして使用した時に電解液への溶出をより抑制できることから、特に好ましい。
【0024】
なお、芳香族ポリアミドと水溶性ポリマーの含有量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)に、低角度レーザー光散乱光度計を組み入れ、GPCでサイズ分別された溶液の光散乱強度を測定し、それぞれのポリマーの強度を積算した値で求めることができる。
【0025】
本発明の多孔質フィルムは、少なくとも片面に、融点が100〜150℃であるコート層を有することが好ましい。これにより、多孔質フィルムにシャットダウン性と芳香族ポリアミドの持つ耐熱性の両方の特性を具備させることができる。コート層の融点が100℃未満であると、リチウムイオン二次電池用セパレータとして用いた際に、使用環境が電池の他の素材には問題のない、100℃程度の低温でフィルムの貫通孔を遮蔽してしまい、電池として使用できなくなることがある。一方、融点が150℃を超えるとセパレータとした場合にシャットダウンする前に電池内で自己発熱反応が開始してしまうことがある。セパレータとして用いる場合、シャットダウンが110〜150℃で機能することが好ましいことから、コート層の融点は110〜150℃であることがより好ましく、115〜145℃であることが、更に好ましい。なお、コート層が複数の融点を有する場合には、全ての融点が上記範囲内にあることがより好ましい。
【0026】
多孔質フィルム上に形成されるコート層は、融点が100〜150℃の粒子および融点が100〜150℃のバインダーを含んでいることが好ましい。コート層が粒子だけの場合、粒子の脱落が起こり、製造工程を汚染する場合があり、逆にコート層がバインダーだけの場合、孔を塞いで十分な透気性を保持できないことがある。なお、粒子、バインダー共に融点を複数示す場合には、全ての融点が上記範囲内にあることがより好ましい。
【0027】
コート層に用いる粒子としては、融点が100〜150℃の範囲内であれば特に限定されないが、ポリオレフィン類を構成成分とする粒子を好ましく用いることができ、特に高密度ポリエチレン、低分子量ポリエチレンなどからなる粒子を好ましく用いることができる。
【0028】
コート層に用いるバインダーとしては、融点が100〜150℃の範囲内であり、なおかつフィルム表面と粒子を接着し、粒子の脱落が容易に発生しないものであれば特に限定されないが、粒子と同様に、ポリオレフィン類を構成成分とするものを用いることが好ましい。
【0029】
上記のコート層を構成する粒子とバインダーは、その質量組成比が95:5〜60:40であることが好ましい。バインダーの質量組成比が5未満であると、フィルムと粒子の密着が悪く、粒子が容易に脱落してしまう場合がある。一方、バインダーの質量組成比が40を超えると、多孔性フィルムの孔内にバインダーが侵入してしまい、透過性を阻害してしまう場合がある。粒子とバインダー質量組成比は、より好ましくは90:10〜65:35であり、90:10〜70:30であれば特に好ましい。
【0030】
上記のコート層の厚みは、0.5〜5μmであることが好ましい。バインダーの厚みが0.5μm未満であると、シャットダウン機能が十分に発現しないことがあり、コート層の厚みが5μmを超えると、多孔性フィルムの孔内にバインダーが侵入してしまい、透過性を阻害してしまうことがある。コート層の厚みは、より好ましくは1〜3μmである。
【0031】
上記のコート層を有する多孔質フィルムは、電池のセパレータなどに用いるために、透気性を有していることが好ましく、ガーレ透気度が10〜400秒/100mlの範囲内にあることが、電池の内部抵抗低減、さらには出力密度向上の観点から好ましい。ガーレ透気度が10秒/100ml未満であるとリチウムイオン二次電池内で負極に析出した金属リチウムが多孔質フィルムを突き抜け短絡することがある。一方、ガーレ透気度が400秒/100mlを超えると透気性が悪いために電池の内部抵抗が高く、高い出力密度を得られないことがある。
【0032】
本発明の多孔質フィルムはリチウムイオン二次電池のセパレータとして用いた際に、シャットダウン性を有することが好ましいことから、130℃、30秒間の熱処理後のガーレ透気度が120分/100ml以上であることが好ましい。シャットダウン性とは、透気性が喪失されることを意味し、ガーレ透気度が120分以上ということは実質的に透気性を喪失し、透気度が無限大になっていることを示している。
【0033】
なお、ガーレ透気度の測定は、JIS−P8117(1998年)に規定された方法に従って空気100ccが通過する時間を測定した。測定は、一方向に5cm以上の間隔で3カ所、その直角方向に5cm以上の間隔で3カ所、合計6カ所について行い、その平均値を求めた。また、上記方法で測定を行えない場合は、多孔性フィルムの一方向に5cm以上の間隔で10カ所測定を行い、平均値を求めた。
【0034】
本発明の多孔質フィルムはコート層を含めて、全体の厚みが4〜35μmであることが好ましい。全体の厚みが4μm未満ではフィルムの強度不足により、電池内で短絡が発生しやすくなる場合がある。一方、フィルム全体の厚みが35μmを超えると電池内に組み込める電極、電解液の容量がその分少なくなり、結果として電池の容量が小さくなってしまう。フィルム全体の厚みは10〜30μmであればより好ましい。
【0035】
本発明の多孔質フィルムは、少なくとも一方向の200℃における熱収縮率が2%以下であることが好ましい。2%を超える場合、電池を高温で使用する場合や長時間使用して蓄熱した場合、セパレータの収縮によって短絡が起こることがある。下限は0%である。耐熱性がより高くなり、安全性も向上することから、200℃における熱収縮率が1.5%以下であることがより好ましくは、1.0%以下であることが更に好ましい。
【0036】
なお、熱収縮率の測定は以下のように行うことができる。多孔質フィルムを、幅1cm、長さ22cmの短冊状に、長辺が測定方向になるように切り取る。長辺の両端から1cmの部分に印をつけ、200℃の熱風オーブン中で30分間、実質的に張力を掛けない状態で熱処理を行った後、印の間隔を測定し、下記の式で計算する。
【0037】
熱収縮率(%)=((熱処理前の間隔−熱処理し冷却後の間隔)/熱処理前の間隔)×100
本発明の多孔質フィルムは、少なくとも一方向の破断強度が50MPa以上であることが好ましい。強度が50MPa未満の場合、加工時の高張力、張力変動に対抗することができず、フィルム破れが発生し、生産性が低下することがある。生産性がより良くなることから、強度は100MPa以上であることがより好ましく、150MPa以上であることが更に好ましい。
【0038】
本発明の多孔質フィルムは少なくとも一方向のヤング率が3GPa以上であることが好ましい。ヤング率が高いことにより、薄膜化しても、加工時のハンドリング性を良好に保つことができる。より薄膜化しやすくなることから、ヤング率は4.5GPa以上であることがより好ましく、6.0GPa以上であることが更に好ましい。
【0039】
本発明の多孔質フィルムは少なくとも一方向の破断伸度が5%以上であることが好ましい。伸度が高いことにより、スリット時のフィルム破れを低減することができ、高速で加工することも可能となり、生産性が良好となる。スリットがより向上することから、伸度は10%以上であることがより好ましく、15%以上であることが更に好ましい
次に、本発明の多孔質フィルムの製造方法について、以下説明するが、これに限定されるものではない。
【0040】
まず、芳香族ポリアミドであるが、例えば、酸クロライドとジアミンから得る場合には、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合により合成する方法や、水系媒体を使用する界面重合等で合成する方法をとることができる。ただし、ポリマーの分子量を制御しやすいことから、非プロトン性有機極性溶媒中での溶液重合が好ましい。
【0041】
溶液重合の場合、フィルムの自己支持性が発現するのに必要な分子量のポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。使用するジアミン及び酸クロライドは、純度の高いものを用いることは言うまでもないが、両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成する傾向にあるため、モル比を、一方が他方の97〜99.5%、より好ましくは98〜99%になるように調整することが好ましい。
【0042】
また、芳香族ポリアミドの重合反応は発熱を伴うが、重合中の溶液の温度を40℃以下にすることが好ましい。40℃を超えると、副反応が起きて、重合度が十分に上がらないことがある。重合中の溶液の温度は30℃以下にすることがより好ましい。
【0043】
更に、重合反応に伴って塩化水素が副生するが、これを中和する場合には水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機の中和剤を使用するとよい。
【0044】
本発明の多孔質フィルムを得るためにはポリマーの固有粘度ηinh(ポリマー0.5gを98質量%硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5(dl/g)以上であることが多孔質フィルムとした時に伸度が高くなり、ハンドリング性が良くなるので好ましい。
【0045】
製膜原液は、中和後の芳香族ポリアミドポリマー溶液に、水溶性ポリマーを混合して用いるか、芳香族ポリアミドポリマーを単離後、非プロトン性有機極性溶媒に再溶解し、水溶性ポリマーを混合して用いてもよい。水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0046】
また、多孔質フィルムへの残存量を本発明の範囲内とするには、製膜原液における添加量(含有量)が2質量%〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%、更に好ましくは10〜25質量%である。
【0047】
製膜原液中の芳香族ポリアミドポリマー濃度は2〜30質量%程度が好ましい。ポリマー濃度が2質量%未満の場合、フィルムがもろくなることがあり、30質量%を超える場合、溶液の粘度が高すぎて、多孔質フィルムが得られないことがある。より安定して、多孔質フィルムを効率良く得られることから、より好ましくは5〜25質量%、さらに好ましくは8〜20質量%である。
【0048】
本発明の多孔質フィルムは、無機粒子または有機粒子を添加することで表面に突起を形成すると、静摩擦係数をより制御しやすくなることから好ましい。無機粒子、有機粒子としては以下のような物質が挙げられる。
【0049】
無機粒子は、例えば、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、珪酸アルミ、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化ランタン、酸化マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸鉛(鉛白)、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸鉛、硫化亜鉛、マイカ、雲母チタン、タルク、クレー、カオリン、フッ化リチウム及びフッ化カルシウム等が挙げられる。
【0050】
有機粒子は、例えば、高分子化合物を架橋剤を用いて架橋した粒子が挙げられる。このような架橋粒子として、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッソ系化合物の架橋粒子、もしくはこれらの混合物が挙げられる。
【0051】
上記粒子の中でも、特に、電池用セパレータとして使用した場合、電解液に対する耐久性が高いことからシリカ粒子が好ましい。
【0052】
上記の無機粒子および有機粒子は球状で、その平均粒径は15nm〜2μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が15nm未満では突起が十分形成されず、静摩擦係数が大きくなり、フィルムの滑り性が低下することがあり、2μmを超えると粒子の脱落や静摩擦係数が小さくなりすぎて滑りやすくなり、巻きずれやしわが発生することがある。
【0053】
上記の無機粒子および有機粒子の製膜原液における含有量(添加量)は、0.2〜15質量%であることが好ましい。含有量が0.2質量%未満では突起が十分形成されず、静摩擦係数が大きくなり、フィルムの滑り性が低下することがあり、15質量%を超えると粒子の脱落やフィルムの伸度が低下することがある。
【0054】
上記のようにして調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法により、多孔質フィルムとすることができる。
【0055】
まず、製膜原液は、口金やダイコーターを用いて、エンドレスベルト、ドラム、フィルム等の支持体上に吐出させて、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリイミドの薄膜を形成する。この時、吐出量と支持体の走行速度で薄膜の厚みを制御できる。
【0056】
次に、多孔質化を行うが、多孔質化の方法としては、湿式浴への導入、高湿度雰囲気下での吸湿、冷却等により、ポリマーの溶解性を低下させて、相分離または析出させる方法が挙げられる。これらの中で、溶解性の制御が難しい芳香族ポリアミドでは、水溶性ポリマーを本発明の範囲内に残存させつつ、均一な多孔質構造を短時間で形成できることから、高湿度雰囲気下で吸湿させる方法が好ましい。湿式浴への導入や冷却による多孔化では、水溶性ポリマーが、芳香族ポリアミドポリマーに取り込まれて水洗工程で除去できなくなり、本発明の範囲より多くなることがある。
【0057】
高湿度雰囲気下で吸湿させて多孔質化する方法では、雰囲気の温度を5〜50℃、相対湿度を50〜95%RHとすることが好ましい。温度が5℃未満では、絶対湿度が低いため吸湿が十分でなく、ポリマーの溶解性が低下しないことから、多孔質構造が形成されないことがあり、50℃を超えると表面に緻密な層ができて、ガーレ透気度が本発明の範囲より大きくなることや、貫通孔が形成されないことがある。また、相対湿度が50%RH未満では、吸湿が十分でなくポリマーの溶解性が低下しないことから、多孔質構造が形成されないことがあり、95%RHを超えると表面に緻密な層ができて、ガーレ透気度が本発明の範囲より大きくなることや、貫通孔が形成されないことがある。
【0058】
また、調温・調湿された空気は風速0.5〜3m/秒で薄膜化した製膜原液の表面に吹き付けることが好ましい。風速が0.5m/秒未満の場合、多孔質構造の形成が遅いために、孔径等にムラができることがあり、風速が3m/秒を超えると塗布層の表面のみが固まり、貫通孔を形成しないことがある。調温・調湿された空気に接する時間は、3〜20分にすることが好ましい。接する時間が長くなるほど孔径が大きくなるが、20分程度で一定の値となる。3分未満の場合、ガーレ透気度が本発明の範囲外になることがあり、20分を超えると製膜速度が遅く、生産性が悪化する場合がある。
【0059】
多孔質化された芳香族ポリアミドの薄膜は、支持体ごとあるいは支持体から剥離して水浴に導入され、残存溶媒および中和塩等の不要な添加物の除去が行われる。水浴は、残存溶媒等を効率的に除去できることから、4〜20℃であることが好ましい。4℃未満では、水溶性ポリマーの残存量が本発明の範囲より多くなったり、製膜速度を遅くする必要が生じ、生産性が悪化することがある。一方、20℃を超える温度では水溶性ポリマーの残存量が本発明の範囲より少なくなることがある。水溶性ポリマーを多孔質フィルム中に残存させつつ、溶媒などの不要物を効率よく除去できることから、水温は4〜10℃にすることがより好ましい。導入時間は、1〜20分にすることが好ましい。
【0060】
次に、水浴から引き出された多孔質フィルムは、テンター等で熱処理及び延伸が行われる。
【0061】
熱処理の初期温度は、80〜100℃とし、水を十分に蒸発させた後、より高温で加熱することが好ましい。初期から100℃を超えた温度で加熱すると、急激に水分が蒸発することによってポリマー構造が破壊され、フィルム破れが発生したり、破断伸度が低下することがある。
【0062】
次に、高温での熱処理は、水溶性ポリマーの劣化温度以下の範囲で、できるだけ高い温度で行うことが、熱収縮等の高温時の寸法安定性が向上するため好ましく、200〜350℃とすることが好ましい。熱処理温度が200℃未満では、熱収縮が大きくなり、本発明の範囲外となることがある。
【0063】
このようにして得られた多孔質フィルムの少なくとも片面に、コート層を設ける方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、多孔質フィルムの片面にコロナ放電処理などの表面処理を施し、表面濡れ性を向上させたのちマイヤーバー法やグラビアコート法、ダイコート法等により、溶媒に分散させた塗剤をフィルム表面に塗布し、その後乾燥させることによりコート層を造膜する方法を採ることができる。その後、好ましくは60〜120℃の温度で塗膜を乾燥固化させることで、コート層付き多孔質フィルムを得ることができる。ここで、塗剤は所定の組成比となるように粒子とバインダーとを計量して混合する。また、溶媒としては安全性、環境への揮発溶媒の飛散防止の観点から水系液体を用いることが好ましい。
【0064】
本発明の多孔質フィルムは、優れた耐熱性、機械特性を有するだけでなく、シャットダウン性を有していることから、特にリチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池のセパレータとして好ましく用いることができる。リチウムイオン二次電池以外の蓄電デバイスとしては、リチウムイオンキャパシタ等の電気二重層キャパシタを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源装置として使用することができる。
【実施例】
【0065】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
実施例における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0066】
(1)水溶性ポリマーの含有量
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)に、低角度レーザー光散乱光度計(LALLS)および示差屈折率計(RI)を組み入れ、GPC装置でサイズ分別された溶液の光散乱強度を、溶出時間を追って測定することにより、溶質の分子量とその含有率を順次計算した。測定条件を以下に示す。
【0067】
A.GPC
装置 :244型ゲル浸透クロマトグラフ(WATERS社製)
カラム :TRC−GM(2本)(東レリサーチセンター社製),Shodex KD−802(1本)(昭和電工社製)
溶媒 :NMP(0.01N塩化リチウム添加)
流速 :0.6ml/min
温度 :23℃
試料
濃度 :溶媒1mlに対し試料0.101gを溶解
溶解性 :完全溶解
ろ過 :Shodex DT ED−13CR(0.45μ)(昭和電工社製)
注入量 :0.2ml
濃度検出器:示差屈折率検出器、R−401(WATERS社製)
B.LALLS
装置 :CMX−100型低角度レーザー光散乱光度計(Chromatix社製)
波長 :633nm(He−Ne)
第2ビリアル係数(A) :0ml・mole/g
屈折率濃度変化(dn/dc) :0.215ml/g(実測値)
ゲイン :P0=200mV
温度 :23℃
フィルタ− :0.45μ−Fluoro Pore FP−045(住友電工社製)
C.データ処理:GPC−LALLSデ−タ処理システム(東レリサーチセンタ社製)
(2)コート層およびコート層を構成する粒子、バインダーの融点
コート層が粒子およびバインダーを含む場合は、粒子およびバインダーを次の方法で個別に測定し、最も高温の融点をコート層の融点とした。
【0068】
粒子またはバインダーが分散した塗剤を適量採取し、熱風オーブンにて70℃で乾燥させ、固形分のみを採取する。固形分5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。窒素雰囲気下で室温から200℃まで20℃/分で昇温したときに観察される融解ピークについて、最も高温側のピーク温度をその粒子またはバインダーの融点とし、中でも、最も高温の融点をコート層の融点とした。
【0069】
また、コート層が混合物でない場合や、粒子、バインダー以外の第3成分を含む場合、さらには、粒子とバインダーを所定の組成比で混合した後であっても、上記方法と同様に塗剤を乾燥させて固形分のみを採取し、示差走査熱量計で測定を行い、最も高温側のピーク温度をコート層の融点とした。なお、コート層を有するフィルムの表面からコート層のみを削り取ることで試料を採取し、同様の条件で測定することででもコート層の融点を決定することができる。
【0070】
(3)コート層の密着性
コート層面にセロハンテープ(ニチバン製18mm幅)を貼り,その後勢いよくテープをはがし,テープはく離時の破壊モードでコート層とフィルムの密着性を以下の基準で評価した。
【0071】
○:コート層、多孔質フィルムともに変化なし。
【0072】
△:多孔質フィルム内での材料破壊であった。
【0073】
×:コート層とフィルムの界面はく離であった。
【0074】
(4)ガーレ透気度
JIS−P8117(1998)に規定された方法に従って、多孔性フィルムの一方向に5cm以上の間隔で3カ所、その直角方向に5cm以上の間隔で3カ所、合計6カ所測定を行い、平均値を求めた。測定装置として、B型ガーレーデンソメーター(安田精機製作所製)を使用した。測定手順は、各測定個所において、試料の多孔性フィルムを直径28.6mm、面積645mmの円孔に締め付け、内筒により(内筒重量567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させ、空気100ccが通過する時間を測定した。
【0075】
(5)熱処理後のガーレ透気度
内辺100mm四方のステンレス製金属枠にフィルムを固定し、130℃、30秒間の熱処理を熱風オーブンの中で行った。熱処理後、金属枠からフィルムを採取し、上記(4)と同様に測定することで、熱処理後のガーレ透気度を求めた。
【0076】
(6)シャットダウン作動温度
フィルムを一辺の長さ25mmの正方形に切り取り、LiBF4の1Nプロピレンカーボネート溶液の電解液を含浸させる。これを厚み0.5mm、直径18mmの2枚の白金製円盤の電極の間にはさみ、この電極間に1KHzで1ボルトの電圧をかけて、平板電池の内部電気抵抗を測定し、25℃での内部電気抵抗をセパレータの電気抵抗とした。本平板電池を熱板上に置き、25℃から260℃まで、10℃/分で昇温した。この過程で内部電気抵抗が増大する温度をシャットダウン作動温度とした。
【0077】
また、260℃から25℃まで10℃/分で降温した。降温後の25℃での内部電気抵抗を加熱前の内部電気抵抗で割ることで、シャットダウン後の内部電気抵抗の増加率を求めた。
【0078】
(7)熱収縮率
多孔性フィルムを、幅1cm、長さ22cmの短冊状に、長辺が測定方向になるように切り取った。長辺の両端から1cmの部分に印をつけ、200℃の熱風オーブン中で30分間、実質的に張力を掛けない状態で熱処理を行った後、印の間隔を測定し、下記の式で計算した。フィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ5回測定し、平均値を求めた。
【0079】
熱収縮率(%)=((熱処理前の間隔−熱処理し冷却後の間隔)/熱処理前の間隔)×100
(8)高温保存試験
上記(6)で作成した電池に(a)〜(f)の操作を行った後、各電池を100℃の槽に設置し、30日間保存した。
【0080】
(a)定電流放電:400mA(終止電圧3V)
(b)定電流充電:1,400mA(終止電圧4.2V)
(c)定電圧充電:4.2V(終止電流100mA)
(d)定電流放電:2,000mA(終止電圧3V)
(e)定電流充電:1,400mA(終止電圧4.2V)
(f)定電圧充電:4.2V(終止電流100mA)
その後、2,000mAにて定電流放電を行い、その放電容量を、保存前の容量と比較し、以下の基準で評価した。
【0081】
○:85%以上
△:70%以上〜85%未満
×:70%未満
(実施例1)
脱水したN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す)に、ジアミン全量に対して80モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、ジアミン全量に対して20モル%に相当する4、4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これにジアミン全量に対して98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリド(以下、CTPCと表記する)を添加し、2時間撹拌により重合し、芳香族ポリアミドの溶液を得た。重合開始時の溶液温度は4℃で、CTPCを10等分し、10分間隔で添加することにより、重合中の温度上昇を28℃までに抑えた。この溶液を水とともにミキサーに投入し、攪拌しながらポリマーを沈殿させて、取り出した。
【0082】
このポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後、平均分子量が10,000のポリビニルピロリドン(以下、PVPと記す)を加え、均一に完全相溶した製膜原液を得た。それぞれの添加量(含有量)は、ポリマー10質量%、NMP70質量%、PVP20質量%となるように調製した。
【0083】
この製膜原液を、ダイコーターで100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚み約120μmの膜状に塗布し、温度30℃、相対湿度85%RHの調湿空気中で5分間処理した。調湿空気は風速1.5m/秒で膜表面に吹き付けた。次に、失透した多孔質層を剥離後、18℃の水浴に2分間導入し、溶媒の抽出を行った。続いて、テンター中で最初は90℃で1分、幅方向に5%収縮させながら熱処理を行った。最後に、幅方向はそのままで、250℃で2分間の熱処理を行い、多孔質フィルムを得た。
【0084】
ついで、塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“W100”(融点128℃)を80質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を20質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部を混合した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてポリエチレンテレフタレートフィルムと接していない面にコーティングし、その後70℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み25μm、コート層厚み3μmの多孔質フィルムを得た。
【0085】
主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示した。表1において、延伸倍率が1倍未満のものは、収縮させたことを表し、延伸倍率0.95倍は5%収縮させることを表す。特性はすべて優れたものであった。
【0086】
(実施例2)
実施例1で得られた芳香族ポリアミドポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後、平均分子量が300のポリエチレングリコール(以下、PEGと記す)を加え、均一に完全相溶した製膜原液を得た。それぞれの添加量(含有量)は、ポリマー10質量%、NMP70質量%、PEG20質量%となるように調製した。
【0087】
この製膜原液を、ダイコーターで100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚み約120μmの膜状に塗布し、温度10℃、相対湿度80%RHの調湿空気中で20分間処理した。調湿空気は風速1.5m/秒で膜表面に吹き付けた。次に、失透した多孔質層を剥離後、5℃の水浴に10分間導入し、溶媒の抽出を行った。続いて、テンター中で最初は90℃で1分、幅方向に5%収縮させながら熱処理を行った。最後に、幅方向はそのままで、250℃で2分間の熱処理を行い、多孔質フィルムを得た。
【0088】
以下、実施例1と同様にコート層を形成した。
【0089】
コート層の密着性が実施例1と比較して若干悪化した。
【0090】
(実施例3)
実施例2において、コート層を形成前に、以下の条件でコロナ処理を行った以外は実施例2と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0091】
高周波電源装置として春日電機社製装置を使用し、発振周波数は45KHz±3KHz、処理電極はアルミニウム製のバー型電極、処理電極とフィルム間のギャップは0.5mm、処理ロールは表面材質がシリコーンゴム製のものを使用し、処理ロール表面温度は40℃であった。
【0092】
コート層の密着性が実施例2と比較して改善した。
【0093】
(実施例4)
実施例1において、水浴温度を18℃のまま、導入時間を10分にした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0094】
実施例1と比較して密着性が若干悪化した。
【0095】
(実施例5)
実施例1において、水浴温度を10℃、導入時間を1分にした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0096】
実施例1と比較して、高温保存性が若干悪化した。
【0097】
(実施例6)
実施例1において、塗剤の含有成分を、三井化学(株)製ケミパール“W100”(融点128℃)を50質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を50質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部にした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0098】
実施例1と比較してガーレ値が若干大きくなり、高温保存性が若干悪化した。
【0099】
(実施例7)
実施例1において、塗剤の含有成分を、三井化学(株)製ケミパール “EP150H”(融点115℃)を100質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部にした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0100】
実施例6から更にガーレ値が若干大きくなり、高温保存性が若干悪化した。
【0101】
(実施例8)
実施例1において、塗剤の含有成分を、融点100℃のPE粒子(粒径3μm)を80質量部と融点95℃のPEバインダーを20質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部にした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0102】
実施例1と比較して、高温保存性が若干悪化した。
【0103】
(実施例9)
実施例1において、塗剤の含有成分を、三井化学(株)製ケミパール “EP150H”(融点115℃)を80質量部と融点100℃のPEバインダーを20質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部にした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0104】
実施例1と比較して、高温保存性が若干悪化した。
【0105】
(実施例10)
実施例1において、塗剤の含有成分を、融点145℃のPE粒子(粒径3μm)を70質量部と三井化学(株)製ケミパール “EP150H”(融点115℃)30質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部にした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0106】
実施例1と比較して、高温保存性が若干良化した。
【0107】
(実施例11)
実施例1において、塗剤の含有成分を、融点160℃のPE粒子(粒径3μm)を80質量部と三井化学(株)製ケミパール“W100”(融点128℃)20質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部にした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0108】
実施例1と比較して、高温保存性が若干悪化した。
【0109】
(実施例12)
実施例1において、マイヤーバーを調整して、コート層厚みを0.3μmとした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0110】
実施例1と比較してコート層の密着性が若干悪化した。
【0111】
(実施例13)
実施例1において、マイヤーバーを調整して、コート層厚みを7μmとした以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0112】
実施例1と比較してガーレ値が若干大きくなり、高温保存性が若干悪化した。
【0113】
(比較例1)
実施例1において、溶媒の抽出条件を30℃の水浴に2分間導入することに変更した以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0114】
実施例1と比較して、PVP含有量が低下し、コート層の密着性が悪化した。
【0115】
(比較例2)
実施例1において、溶媒の抽出条件を2℃の水浴に1分間導入することに変更した以外は、実施例1と同様の条件で多孔質フィルムを得た。
【0116】
実施例1と比較して、PVP含有量が増加し、高温保存性が悪化した。
【0117】
(比較例3)
脱水したN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す)に、ジアミン全量に対して80モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、ジアミン全量に対して20モル%に相当する4、4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これにジアミン全量に対して98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、2時間撹拌により重合し、芳香族ポリアミドの溶液を得た。重合開始時の溶液温度は4℃で、CTPCを10等分し、10分間隔で添加することにより、重合中の温度上昇を28℃までに抑えた。この溶液を水とともにミキサーに投入し、攪拌しながらポリマーを沈殿させて、取り出した。
【0118】
このポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後、平均分子量が10,000のポリビニルピロリドン(以下、PVPと記す)を加え、均一に完全相溶した製膜原液を得た。それぞれの添加量(含有量)は、ポリマー10質量%、NMP70質量%、PVP20質量%となるように調製した。
【0119】
このポリマー溶液を、口金に供給し、ステンレス製ベルト上に約150μmの膜状に流延した。口金及び口金までの配管を5℃に、ベルト及びベルト周りの雰囲気温度を−5℃に設定した。ベルト上で5分間冷却し、析出を行い多孔性フィルムとした。この多孔性フィルムをベルトから剥離し、50℃の水槽にて3分間、溶媒や不純物の抽出を行った。続いて、テンター中で最初は90℃で1分、幅方向に5%収縮させながら熱処理を行った。最後に、幅方向はそのままで、250℃で2分間の熱処理を行い、多孔質フィルムを得た。
【0120】
ついで、塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“W100”(融点128℃)を80質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を20質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部を混合した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてポリエチレンテレフタレートフィルムと接していない面にコーティングし、その後70℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み30μm、コート層厚み3μmの多性質フィルムを得た。
【0121】
実施例1と比較して、PVP含有量が増加し、高温保存性が悪化した。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の多孔質フィルムは、水溶性ポリマーを含有することでフィルム上にコート層を形成する場合、コート層との密着性が向上する。このため、芳香族ポリアミドの特徴である耐熱性を保持し、かつ、コート層により高温で透過性を喪失する、所謂シャットダウン性を両立でき、蓄電デバイスのセパレータ用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドと水溶性ポリマーとを含み、水溶性ポリマーの含有量が0.1〜10質量%である多孔質フィルム。
【請求項2】
水溶性ポリマーが、水酸基、アシル基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を含有するポリマーである、請求項1に記載の多孔質フィルム。
【請求項3】
水溶性ポリマーがポリビニルピロリドンである、請求項2に記載の多孔質フィルム。
【請求項4】
少なくとも片面に、100〜150℃の融点を持つコート層を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質フィルム。
【請求項5】
コート層が、100〜150℃の融点を持つ粒子と100〜150℃の融点を持つバインダーとを含んでいる、請求項4に記載の多孔質フィルム。
【請求項6】
コート層を構成する粒子とバインダーの質量組成比が95:5〜60:40である、請求項5に記載の多孔質フィルム。
【請求項7】
ガーレ透気度が10〜400秒/100mlである、請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質フィルム。
【請求項8】
130℃、30秒間の熱処理後のガーレ透気度が120分/100ml以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の多孔質フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の多孔質フィルムを、セパレータとして用いてなる蓄電デバイス。

【公開番号】特開2011−6668(P2011−6668A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120145(P2010−120145)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】